(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】防振装置およびブラケット
(51)【国際特許分類】
B60K 5/12 20060101AFI20221018BHJP
F16F 13/10 20060101ALI20221018BHJP
【FI】
B60K5/12 F
B60K5/12 Z
F16F13/10 F
F16F13/10 L
(21)【出願番号】P 2021526044
(86)(22)【出願日】2020-06-03
(86)【国際出願番号】 JP2020022010
(87)【国際公開番号】W WO2020250785
(87)【国際公開日】2020-12-17
【審査請求日】2021-09-21
(31)【優先権主張番号】P 2019109009
(32)【優先日】2019-06-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000177900
【氏名又は名称】山下ゴム株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】門脇 宏和
(72)【発明者】
【氏名】平野 正隆
(72)【発明者】
【氏名】新井 祐介
【審査官】中川 隆司
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-219180(JP,A)
【文献】特開2016-138613(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 5/12
F16F 13/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部空間を有するブラケットと、
前記内部空間に挿入された防振部材と、を備え、
前記ブラケットの外面に前記内部空間が開口しており、
前記ブラケットの内面には、前記防振部材が圧接する少なくとも一対の対向面が形成されており、
前記一対の対向面の間の距離は、少なくとも一部の領域において、前記防振部材の挿入方向の奥側と手前側とで同一であり、
前記ブラケットの内面の水平方向において対向する位置に、前記防振部材に形成された一対の取付部がそれぞれ圧入される一対の圧入溝が前記内部空間の開口縁部から奥側に延びて形成されており、
前記ブラケットの内面の水平方向において対向する位置に、前記防振部材に形成された一対の当接部がそれぞれ圧入される一対の圧入面が前記内部空間の開口縁部から奥側に延びて形成されており、
前記圧入溝は、前記圧入面の下縁部に沿って形成されて、前記圧入面よりも外側に窪んでおり、
前記少なくとも一対の対向面は、前記一対の圧入溝の水平方向において互いに対向する一対の溝底面と、前記圧入溝の上下方向において互いに対向する一対の溝側面と、前記一対の圧入面とを含むことを特徴とする防振装置。
【請求項2】
請求項1に記載の防振装置であって、
前記少なくとも一対の対向面は、水平方向において互いに対向する一対の水平方向対向面を含むことを特徴とする防振装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の防振装置であって、
前記少なくとも一対の対向面は、上下方向において互いに対向する一対の上下方向対向面を含むことを特徴とする防振装置。
【請求項4】
請求項1に記載の防振装置であって、
前記取付部は、前記圧入溝の内面に対峙する面が弾性部材に覆われていることを特徴とする防振装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の防振装置であって、
前記ブラケットは、
頂部と、前記頂部から下方に向けて延びている二つの脚部と、を備え、
前記二つの脚部の間に前記内部空間が形成されており、
前記脚部の内面に前記少なくとも一対の対向面が形成されていることを特徴とする防振装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の防振装置であって、
前記防振部材は、第一取付部材および第二取付部材と、前記第一取付部材と前記第二取付部材との間に介設されたインシュレータと、を備え、
前記第二取付部材の外側面に、前記当接部および前記取付部が形成されており、
前記当接部は、上側周壁部と、前記上側周壁部の外側面を覆っている弾性部材とによって形成されており、
前記取付部は、前記上側周壁部の下端部から外方に向けて突出している突出部と、前記突出部を覆っている弾性部材とによって形成されており、
前記上側周壁部を覆っている弾性部材、および前記突出部を覆っている弾性部材は、前記インシュレータの一部によって形成されていることを特徴とする防振装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の防振装置であって、
前記取付部は、前記圧入溝内の溝底面および上側の溝側面に対峙する面が弾性部材に覆われ、前記圧入溝内の下側の溝側面に対峙する面が弾性部材に覆われないように構成されていることを特徴とする防振装置。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の防振装置であって、
前記防振部材は、筒状の上側周壁部と、前記上側周壁部の下端部から外方に向けて突出している突出部と、を備え、
前記取付部は、前記突出部によって形成されており、
前記当接部は、前記上側周壁部によって形成されていることを特徴とする防振装置。
【請求項9】
防振部材が挿入可能な内部空間を有するブラケットであって、
前記ブラケットの外面に前記内部空間が開口しており、
前記ブラケットの内面には、前記防振部材が圧接する少なくとも一対の対向面が形成されており、
前記一対の対向面の間の距離は、少なくとも一部の領域において、前記防振部材の挿入方向の奥側と手前側とで同一であり、
前記ブラケットの内面の水平方向において対向する位置に、前記防振部材に形成された一対の取付部がそれぞれ圧入される一対の圧入溝が前記内部空間の開口縁部から奥側に延びて形成されており、
前記ブラケットの内面の水平方向において対向する位置に、前記防振部材に形成された一対の当接部がそれぞれ圧入される一対の圧入面が前記内部空間の開口縁部から奥側に延びて形成されており、
前記圧入溝は、前記圧入面の下縁部に沿って形成されて、前記圧入面よりも外側に窪んでおり、
前記少なくとも一対の対向面は、前記一対の圧入溝の水平方向において互いに対向する一対の溝底面と、前記圧入溝の上下方向において互いに対向する一対の溝側面と、前記一対の圧入面とを含むことを特徴とするブラケット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防振装置およびブラケットに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のエンジンやモータなどの原動機を車体に支持させるための防振装置は、原動機と車体との間に介設される。防振装置は、内部空間を有する車体側のブラケットと、その内部空間に挿入されて配置された防振部材と、を備えている。車体側のブラケットは、車体に取り付けられる部材である。防振部材には、原動機に取り付けられた原動機側のブラケットが取り付けられる。
【0003】
防振部材は、車体側のブラケット内に圧入されている。車体側のブラケットの内面には、防振部材の側面が圧接する圧入面が形成されている。従来の防振装置では、車体側のブラケットの圧入面の高さを大きくして、ブラケットと防振部材とが圧接する面積を大きくすることで、ブラケットと防振部材との間の保持力を確保している(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記した従来の防振装置のように、車体側のブラケットの圧入面の高さを大きくした場合には、防振部材およびブラケットの高さが大きくなり、装置全体の高さが大きくなるという問題がある。
【0006】
本発明は、前記した問題を解決し、ブラケットと防振部材との間の保持力を十分に確保しつつ、装置全体をコンパクトに構成することができる防振装置およびブラケットを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明は、防振装置であって、内部空間を有するブラケットと、前記内部空間に挿入された防振部材と、を備えている。前記ブラケットの外面に前記内部空間が開口している。前記ブラケットの内面には、前記防振部材が圧接する少なくとも一対の対向面が形成されている。前記一対の対向面の間の距離は、少なくとも一部の領域において、前記防振部材の挿入方向の奥側と手前側とで同一である。前記ブラケットの内面の水平方向において対向する位置に、前記防振部材に形成された一対の取付部がそれぞれ圧入される一対の圧入溝が前記内部空間の開口縁部から奥側に延びて形成されている。前記ブラケットの内面の水平方向において対向する位置に、前記防振部材に形成された一対の当接部がそれぞれ圧入される一対の圧入面が前記内部空間の開口縁部から奥側に延びて形成されている。前記圧入溝は、前記圧入面の下縁部に沿って形成されて、前記圧入面よりも外側に窪んでいる。前記少なくとも一対の対向面は、前記一対の圧入溝の水平方向において互いに対向する一対の溝底面と、前記圧入溝の上下方向において互いに対向する一対の溝側面と、前記一対の圧入面とを含む。
【0008】
本発明の防振装置では、防振部材がブラケットの内部空間に挿入された状態において、防振部材は、ブラケットの内面に形成された一対の対向面の間に挟まれた状態で、一対の対向面に圧接する。このため、防振部材は、ブラケットの一対の対向面から弾性反力を受ける。防振部材は、このような両側から作用する弾性反力で挟持されて保持される。しかし、従来の技術では、ブラケットの内面には、ブラケットの成形時に離型をスムーズに行うために奥側から手前側に向けて広がる勾配が付いている。このため、防振部材に作用する弾性反力は、防振部材の挿入方向と反対方向(抜け方向)の成分を有している。したがって、従来の技術では、防振部材には弾性反力によって常時抜け方向の力が作用しており、ブラケットの内部に防振部材を安定的に保持できないおそれがある。これに対して、本発明では、一対の対向面の間の距離が奥側と手前側とで同一であるため、防振部材に作用する弾性反力は、防振部材の挿入方向に対して直交する方向の力のみとなる。これにより、防振部材には抜け方向の力は作用せず、ブラケットの内部に防振部材を安定的に保持できる。したがって、ブラケットと防振部材とが圧接する面積を従来よりも小さくしたとしても、ブラケットと防振部材との間の保持力を確保できる。
すなわち、本発明によれば、ブラケットと防振部材との間の保持力を十分に確保しつつ、装置全体をコンパクトに構成することができる防振装置を提供できる。
また、防振部材の一対の取付部が、一対の溝底面によって水平方向の両側から作用する弾性反力で挟持されるとともに、一対の溝側面によって上下方向の両側から作用する弾性反力で挟持される。このように、圧入溝の内面によってブラケットと防振部材とが圧接する面積を少ないスペースで確保できる。このため、ブラケットと防振部材との間の保持力を十分に確保しつつ、防振装置全体をよりコンパクトに構成できる。
また、防振部材の一対の当接部が、一対の圧入面によって水平方向の両側から作用する弾性反力で挟持される。
【0009】
前記した防振装置において、前記少なくとも一対の対向面は、水平方向において互いに対向する一対の水平方向対向面を含むことが好ましい。
この構成では、防振部材は、水平方向の両側から作用する弾性反力で挟持されて、ブラケットの内部で安定的に保持される。
【0010】
前記した防振装置において、前記少なくとも一対の対向面は、上下方向において互いに対向する一対の上下方向対向面を含むことが好ましい。
この構成では、防振部材は、上下方向の両側から作用する弾性反力で挟持されて、ブラケットの内部で安定的に保持される。
【0012】
前記した防振装置において、前記取付部は、前記圧入溝の内面に対峙する面が弾性部材に覆われていることが好ましい。
この構成では、圧入溝の内面と取付部の外面との間に弾性部材が挟み込まれるため、圧入溝に対して取付部を確実に圧入することができる。
【0014】
前記した防振装置において、前記ブラケットは、頂部と、前記頂部から下方に向けて延びている二つの脚部と、を備え、前記二つの脚部の間に前記内部空間が形成されている。そして、前記脚部の内面に前記少なくとも一対の対向面が形成されていることが好ましい。
この構成では、対向面の高さを抑えつつ、ブラケットと防振部材との間の保持力を十分に確保することができるため、ブラケットおよび防振部材の高さを小さくすることができる。
【0015】
前記防振部材は、第一取付部材および第二取付部材と、前記第一取付部材と前記第二取付部材との間に介設されたインシュレータと、を備え、前記第二取付部材の外側面に、前記当接部および前記取付部が形成されており、前記当接部は、上側周壁部と、前記上側周壁部の外側面を覆っている弾性部材とによって形成されており、前記取付部は、前記上側周壁部の下端部から外方に向けて突出している突出部と、前記突出部を覆っている弾性部材とによって形成されており、前記上側周壁部を覆っている弾性部材、および前記突出部を覆っている弾性部材は、前記インシュレータの一部によって形成されていることが好ましい。
前記取付部は、前記圧入溝内の溝底面および上側の溝側面に対峙する面が弾性部材に覆われ、前記圧入溝内の下側の溝側面に対峙する面が弾性部材に覆われないように構成されていることが好ましい。
前記防振部材は、筒状の上側周壁部と、前記上側周壁部の下端部から外方に向けて突出している突出部と、を備え、前記取付部は、前記突出部によって形成されており、前記当接部は、前記上側周壁部によって形成されていることが好ましい。
また、前記課題を解決するため、本発明は、防振部材が挿入可能な内部空間を有するブラケットである。前記ブラケットの外面に前記内部空間が開口している。前記ブラケットの内面には、前記防振部材が圧接する少なくとも一対の対向面が形成されている。前記一対の対向面の間の距離は、少なくとも一部の領域において、前記防振部材の挿入方向の奥側と手前側とで同一である。前記ブラケットの内面の水平方向において対向する位置に、前記防振部材に形成された一対の取付部がそれぞれ圧入される一対の圧入溝が前記内部空間の開口縁部から奥側に延びて形成されている。前記ブラケットの内面の水平方向において対向する位置に、前記防振部材に形成された一対の当接部がそれぞれ圧入される一対の圧入面が前記内部空間の開口縁部から奥側に延びて形成されている。前記圧入溝は、前記圧入面の下縁部に沿って形成されて、前記圧入面よりも外側に窪んでいる。前記少なくとも一対の対向面は、前記一対の圧入溝の水平方向において互いに対向する一対の溝底面と、前記圧入溝の上下方向において互いに対向する一対の溝側面と、前記一対の圧入面とを含む。
この発明によれば、ブラケットと防振部材との間の保持力を十分に確保しつつ、装置全体をコンパクトに構成することができるブラケットを提供できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ブラケットと防振部材との間の保持力を十分に確保しつつ、装置全体をコンパクトに構成することができる防振装置およびブラケットを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態に係る防振装置を示した斜視図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る防振装置を示した
図1のII-II断面図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る防振装置の組み付け構造を示した拡大断面図である。
【
図6】本発明の実施形態に係る防振装置の車体側のブラケットを示した斜視図である。
【
図7】本発明の実施形態に係る防振装置の防振部材を示した斜視図である。
【
図8】本発明の実施形態に係る防振装置の組み付け構造の変形例を示した拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
なお、以下の説明において、上下方向、前後方向および左右方向とは、本実施形態の防振装置を説明する上で便宜上設定したものであり、本発明の防振装置の構成や設置状態を限定するものではない。
本実施形態では、
図2の紙面上側が上方向であり、
図2の紙面下側が下方向である。また、
図2の紙面左側が前方向であり、
図2の紙面右側が後方向である。さらに、
図2の紙面奥側が右方向であり、
図2の紙面手前側が左方向である。
また、本実施形態の各図では、本発明の特徴を明確にするために、防振装置1の各部を適宜に誇張および簡略化して示している。
【0019】
本実施形態の防振装置1は、
図1に示すように、自動車等の車両の例えばエンジンと車体との間に介設されるものである。以後、エンジンを防振の対象として説明する。
防振装置1は、車体側のブラケット(以下、単に「ブラケット」ともいう)10と、ブラケット10に取り付けられた防振部材20と、を備えている。
【0020】
ブラケット10は、車体に取り付けられる樹脂製または金属製の部材である。本実施形態のブラケット10は樹脂製の部材である。
ブラケット10は、
図6に示すように、頂部11と、頂部11から下方に向けて延びている前後の脚部12,12と、両脚部12,12の下端部の間に形成された底部13と、底部13の右縁部から立ち上げられた右壁部14と、を備えている。底部13の中央部には、開口部13aが上下方向に貫通している。頂部11の左端部および脚部12の下端部は、車体に取り付けられる部位である。
【0021】
ブラケット10では、両脚部12,12の間に内部空間15が形成されている。内部空間15は、頂部11、両脚部12,12および底部13に囲まれた空間である。内部空間15は、ブラケット10の右面および左面に開口している。
【0022】
防振部材20は、
図2に示すように、第一取付部材30および第二取付部材40と、第一取付部材30と第二取付部材40との間に介設されたインシュレータ50と、インシュレータ50の下側に設けられた仕切部材60およびダイヤフラム70と、を備えている。本実施形態の防振部材20は、液封式の防振部材である。
【0023】
第一取付部材30は、インシュレータ50の上端部にインサート成形によって埋設されている金属製の角筒状の部材である。第一取付部材30には、取付穴35が左右方向に貫通している。
第一取付部材30の取付穴35には、エンジンに取り付けられた図示しないエンジン側のブラケットが挿入される。このようにして、第一取付部材30はエンジンに取り付けられる。
【0024】
第二取付部材40は、インシュレータ50の下端部にインサート成形によって埋設されている上側部材41と、上側部材41の下側に配置された下側部材42と、を備えている。
なお、本実施形態の上側部材41および下側部材42は、樹脂製の部材であるが、金属製の部材を用いてもよい。
【0025】
上側部材41には、
図3に示すように、筒状の上側周壁部41aと、上側周壁部41aの前後の外側面の下端部から外方に向けて突出している突出部41fと、が形成されている。
下側部材42には、筒状の下側周壁部42aと、下側周壁部42aの下端部に設けられた底板42bと、が形成されている。底板42bの中央部は開口している。
【0026】
インシュレータ50は、
図2に示すように、ゴム製の弾性部材である。なお、本実施形態のインシュレータ50には、各種のゴム材料を用いることができる。
インシュレータ50の上部には、第一取付部材30がインサート成形によって埋設されており、インシュレータ50の上端部は角筒状に形成されている。
インシュレータ50の下端部は、上側部材41の周壁部に沿って角筒状に形成されている。インシュレータ50の下部には、下面が開口した空間が形成されている。
【0027】
仕切部材60は、
図3に示すように、下側部材42の下側周壁部42a内に嵌め込まれており、下側部材42の底板42bの上面に載置されている。
仕切部材60は、インシュレータ50の下面と、下側部材42の底板42bの上面との間に介設されている。仕切部材60によってインシュレータ50の下部の開口部が塞がれている。
仕切部材60の上方には、
図2に示すように、主液室1aが形成されている。主液室1aは、インシュレータ50の下部の内面と、仕切部材60の上面とによって囲まれた空間であり、非圧縮性の作動液が封入されている。
【0028】
仕切部材60の下側には、ダイヤフラム70が設けられている。ダイヤフラム70は、ゴム製の膜であり、
図3に示すように、ダイヤフラム70の外周縁部は、仕切部材60の下面と、下側部材42の底板42bの上面との間に挟み込まれている。
仕切部材60とダイヤフラム70との間には、
図2に示すように、副液室1bが形成されている。副液室1bは、仕切部材60の下面およびダイヤフラム70の上面によって囲まれた空間であり、非圧縮性の作動液が封入されている。
【0029】
仕切部材60には、主液室1aと副液室1bとを連通させるオリフィス通路61が形成されている。第一取付部材30に振動が入力されたときに、作動液がオリフィス通路61を通過することで、主液室1aと副液室1bとの間に液柱共振が生じて、振動が効果的に減衰される。
また、仕切部材60の中央部には、弾性可動膜62が設けられている。主液室1aの内圧変化に応じて弾性可動膜62が弾性変形することにより、主液室1aの内圧変動が吸収される。
【0030】
次に、本実施形態のブラケット10と防振部材20との取付構造について説明する。
防振部材20は、
図1に示すように、ブラケット10の内部空間15に配置される。防振部材20は、両脚部12,12の間に圧入されることで、ブラケット10に固定されている。
【0031】
ブラケット10の脚部12の内面には、
図6に示すように、左右方向に延びている圧入面17および圧入溝18が形成されている。
本実施形態では、
図3に示すように、前後の両脚部12,12の内面にそれぞれ圧入面17および圧入溝18が形成されている。前後の圧入面17,17および圧入溝18,18は前後対称な形状である。
【0032】
圧入面17は、脚部12の内面において上下方向の略中央部に形成されている。圧入面17は、法線が水平方向の平面である。圧入面17は、
図6に示すように、内部空間15の左側の開口縁部から奥側(
図6においては右方)に向けて帯状に延びている。圧入面17は、脚部12の右縁部から左縁部に亘って形成されている。
【0033】
前後一対の圧入面17,17は、防振部材20が圧接する少なくとも一対の対向面16,16を構成している。そして、一対の圧入面17,17は、水平方向において互いに対向する一対の水平方向対向面に該当する。
【0034】
圧入溝18は、圧入面17の下縁部に沿って形成された軸断面が矩形の溝である。圧入溝18は、圧入面17よりも外側に窪んでいる。
圧入溝18は、内部空間15の左側の開口縁部から奥側(右方)に向けて直線状に延びている。圧入溝18は、脚部12の右縁部から左縁部に亘って形成されている。圧入溝18の左端部は、ブラケット10の左面に開口している。
【0035】
図3に示すように、前後一対の圧入溝18の水平方向において互いに対向する一対の溝底面18a,18aは、防振部材20が圧接する少なくとも一対の対向面16,16を構成している。そして、一対の溝底面18a,18aは、一対の水平方向対向面に該当する。また、一つの圧入溝18の上下方向において互いに対向する一対の溝側面18b,18bは、防振部材20が圧接する少なくとも一対の対向面16,16を構成している。そして、一対の溝側面18b,18bは、一対の上下方向対向面に該当する。
【0036】
図4に示すように、一対の溝底面18a,18aの間の距離(幅)は、少なくとも一部の領域において、防振部材20の挿入方向(ここでは左から右に向かう方向)の奥側(距離W2)と手前側(距離W1)とで同一である。少なくとも一部の領域とは、本実施形態では、防振部材20が圧接する領域である(以降の説明において同様)。ここで、距離が奥側と手前側とで「同一」とは、「厳密な同一」はもちろん、技術常識から同一と見られる略同一をも含む概念である(以降の説明において同様)。
【0037】
換言すれば、一対の溝底面18a,18aと、一対の溝底面18a,18aを通る水平面との交わりの線である一対の直線は、平行である。ここで、平行とは、「厳密な平行」はもちろん、技術常識から平行と見られる「略平行」(例えば一方の直線の他方の直線に対する傾斜角が0.5度以下)をも含む概念である(以降の説明において同様)。
なお、
図4では、下側部材42等の図示は省略されている。
【0038】
また、
図5に示すように、一対の溝側面18b,18bの間の距離(高さ)は、少なくとも一部の領域において、防振部材20の挿入方向の奥側(距離H2)と手前側(距離H1)とで同一である。換言すれば、一対の溝側面18b,18bと、一対の溝側面18b,18bを通り、圧入溝18の延在方向に沿う鉛直面との交わりの線である一対の直線は、平行である。
【0039】
また、
図3に示すように、一対の圧入面17,17の間の距離(幅)は、少なくとも一部の領域において、防振部材20の挿入方向の奥側と手前側とで同一である。換言すれば、一対の圧入面17,17と、一対の圧入面17,17を通る水平面との交わりの線である一対の直線は、平行である。
【0040】
このように、ブラケット10の内面には、防振部材20が圧接する少なくとも一対の対向面16,16が形成されている。そして、本実施形態では、少なくとも一対の対向面16,16は、一対の圧入面17,17、一対の溝底面18a,18a、および一対の溝側面18b,18bを含んでいる。一対の対向面16,16は、例えば、ブラケット10の内面から内部空間15の中央に向けて前後方向に移動可能なスライドコアを使用することによって形成され得るが、これに限定されるものではない。
【0041】
防振部材20には、
図7に示すように、当接部41cおよび取付部41bが形成されている。当接部41cおよび取付部41bは、第二取付部材40の上側部材41の外側面に形成されており、左右方向に延びている。
本実施形態では、
図3に示すように、上側部材41の前後の側部にそれぞれ当接部41cおよび取付部41bが形成されている。なお、前後の当接部41c,41cおよび取付部41b,41bは前後対称な形状である。
【0042】
当接部41cは、上側部材41の上側周壁部41aと、上側周壁部41aの外側面を覆っている弾性部材41eとによって形成されている。本実施形態では、上側周壁部41aを覆っている弾性部材41eがインシュレータ50の一部によって形成されている。
当接部41cは、防振部材20をブラケット10に組み付けたときに、圧入面17に圧接する部位である。当接部41cの側面は、圧入面17と同じ形状である。当接部41cは、
図7に示すように、上側部材41の右縁部から左縁部に亘って帯状に形成されている。
【0043】
取付部41bは、当接部41cの下縁部に沿って形成されている。取付部41bは、上側部材41の右縁部から左縁部に亘って形成されている。
取付部41bは、突出部41fと、突出部41fを覆っている弾性部材41gとによって形成されている。取付部41bは、圧入溝18の内面に対峙する全ての面が弾性部材41gに覆われている。本実施形態では、突出部41fを覆っている弾性部材41gがインシュレータ50の一部によって形成されている。
【0044】
取付部41bは、防振部材20をブラケット10に組み付けたときに、圧入溝18に圧入される部位である。取付部41bの側面、上面および下面が、圧入溝18内の溝底面18a、上側の溝側面18bおよび下側の溝側面18bに、それぞれ圧接する。このように、取付部41bと圧入溝18とは密着した状態で嵌め合わされる。
【0045】
なお、本実施形態の防振部材20では、
図7に示すように、取付部41bの左端部に爪部41dが形成されている。爪部41dは、
図4に示すように、取付部41bを圧入溝18に圧入したときに、圧入溝18の溝底面18aの左端側に形成された凹部18cに入り込む。このように本実施形態では、ブラケット10と防振部材20との間の圧入による保持力が仮に低下した場合でも、爪部41dが凹部18cに係止されてブラケット10から防振部材20が抜けない構成となっている。
【0046】
防振部材20をブラケット10に組み込むときには、
図2に示すように、ブラケット10の内部空間15に対して、左方から防振部材20を挿入する。このとき、ブラケット10の圧入面17に防振部材20の当接部41cを左方から重ねるとともに、ブラケット10の圧入溝18に防振部材20の取付部41bを左方から挿入する。また、第二取付部材40の下側部材42は、ブラケット10の底部13の上面に重ねる。
【0047】
このようにして、ブラケット10の内部空間15に防振部材20を配置すると、ブラケット10の圧入面17に防振部材20の当接部41cが圧接するとともに、ブラケット10の圧入溝18に防振部材20の取付部41bが圧入される。これにより、ブラケット10に防振部材20が固定される。
【0048】
以上のような防振装置1は、
図1に示すように、内部空間15を有するブラケット10と、内部空間15に挿入された防振部材20と、を備えている。ブラケット10の外面に内部空間15が開口している。
図3に示すように、ブラケット10の内面には、防振部材20が圧接する少なくとも一対の対向面16,16が形成されている。そして、一対の対向面16,16の間の距離は、少なくとも一部の領域において、防振部材20の挿入方向の奥側と手前側とで同一である。
【0049】
本実施形態では、防振部材20がブラケット10の内部空間15に挿入された状態において、防振部材20は、一対の対向面16,16の間に挟まれた状態で、一対の対向面16,16に圧接する。このため、防振部材20は、ブラケット10の一対の対向面16,16から弾性反力を受ける。防振部材20は、このような両側から作用する弾性反力で挟持されて保持される。しかし、従来の技術では、ブラケット10の内面には、ブラケット10の成形時に離型をスムーズに行うために奥側から手前側に向けて広がる勾配が付いている。このため、防振部材20に作用する弾性反力は、防振部材20の挿入方向と反対方向(抜け方向)の成分を有している。したがって、従来の技術では、防振部材20には弾性反力によって常時抜け方向の力が作用しており、ブラケット10の内部に防振部材20を安定的に保持できないおそれがある。これに対して、本実施形態では、一対の対向面16,16の間の距離が奥側と手前側とで同一であるため、防振部材20に作用する弾性反力は、防振部材20の挿入方向に対して直交する方向の力のみとなる。これにより、防振部材20には抜け方向の力は作用せず、ブラケット10の内部に防振部材20を安定的に保持できる。したがって、ブラケット10と防振部材20とが圧接する面積を従来よりも小さくしたとしても、ブラケット10と防振部材20との間の保持力を確保できる。
すなわち、本実施形態によれば、ブラケット10と防振部材20との間の保持力を十分に確保しつつ、装置全体をコンパクトに構成することができる防振装置1を提供できる。
【0050】
また、本実施形態では、少なくとも一対の対向面16,16は、水平方向において互いに対向する一対の水平方向対向面である、一対の圧入面17,17、および一対の溝底面18a,18aを含む。この構成では、防振部材20は、水平方向の両側から作用する弾性反力で挟持されて、ブラケット10の内部で安定的に保持される。
【0051】
また、本実施形態では、少なくとも一対の対向面16,16は、上下方向において互いに対向する一対の上下方向対向面である、一対の溝側面18b,18bを含む。この構成では、防振部材20は、上下方向の両側から作用する弾性反力で挟持されて、ブラケット10の内部で安定的に保持される。
【0052】
また、本実施形態では、ブラケット10の内面の水平方向において対向する位置に、防振部材20に形成された一対の取付部41b,41bがそれぞれ圧入される一対の圧入溝18,18が形成されている。一対の圧入溝18,18は、内部空間15の開口縁部から奥側に延びている。少なくとも一対の対向面16,16は、一対の圧入溝18,18の水平方向において互いに対向する一対の溝底面18a,18aと、圧入溝18の上下方向において互いに対向する一対の溝側面18b,18bとを含む。
この構成では、防振部材20の一対の取付部41b,41bが、一対の溝底面18a,18aによって水平方向の両側から作用する弾性反力で挟持される。また、一対の取付部41b,41bは、一対の溝側面18b,18bによって上下方向の両側から作用する弾性反力で挟持される。このように、圧入溝18の内面によってブラケット10と防振部材20とが圧接する面積を少ないスペースで確保できる。このため、ブラケット10と防振部材20との間の保持力を十分に確保しつつ、防振装置1全体をよりコンパクトに構成できる。
【0053】
また、本実施形態では、取付部41bは、圧入溝18の内面に対峙する面が弾性部材41gに覆われている。この構成では、圧入溝18の内面と取付部41bの外面との間に弾性部材41gが挟み込まれるため、圧入溝18に対して取付部41bを確実に圧入することができる。
【0054】
また、本実施形態では、ブラケット10の内面の水平方向において対向する位置に、防振部材20に形成された一対の当接部41c,41cがそれぞれ圧入される一対の圧入面17,17が形成されている。一対の圧入面17,17は、内部空間15の開口縁部から奥側に延びている。少なくとも一対の対向面16,16は、一対の圧入面17,17を含む。この構成では、防振部材20の一対の当接部41c,41cが、一対の圧入面17,17によって水平方向の両側から作用する弾性反力で挟持される。
【0055】
また、本実施形態では、ブラケット10は、頂部11と、頂部11から下方に向けて延びている二つの脚部12,12と、を備え、二つの脚部12,12の間に内部空間15が形成されている。そして、脚部12の内面に少なくとも一対の対向面16,16が形成されている。この構成では、対向面16,16の高さを抑えつつ、ブラケット10と防振部材20との間の保持力を十分に確保することができるため、ブラケット10および防振部材20の高さを小さくすることができる。
【0056】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜に変更が可能である。
本実施形態では、
図2に示すように、液封式の防振部材20を用いているが、防振部材20の構成は液封式に限定されるものではなく、例えば、防振部材20に主液室1aおよび副液室1bを設けなくても良い。
【0057】
本実施形態の防振装置1では、第二取付部材40が上側部材41と下側部材42とによって構成されているが、上側部材41と下側部材42とを一体化してもよい。
【0058】
本実施形態の防振装置1において、上側部材41の当接部41cおよび取付部41bを覆っている弾性部材41e,41gにスリットや窪みを形成してもよい。
この構成では、防振部材20をブラケット10内に圧入するときに、当接部41cおよび取付部41bを覆っているインシュレータ50の一部が撓むことで、防振部材20をブラケット10内に圧入し易くなる。
【0059】
なお、当接部41cおよび取付部41bの各面の全体が、圧入面17および圧入溝18の内面に接していなくてもよく、当接部41cおよび取付部41bの各面の一部が圧入面17および圧入溝18の内面から離れていてもよい。
また、取付部41bは、前記した実施形態では
図3に示すように圧入溝18の内面に対峙する全ての面が弾性部材41gに覆われているが、これに限定されるものではない。取付部41bは、圧入溝18の内面に対峙する全ての面のうちの一部が弾性部材41gに覆われるように構成されてもよい。例えば
図8に示すように、取付部41bは、圧入溝18内の溝底面18a、上側の溝側面18bに対峙する面が弾性部材41gに覆われ、圧入溝18内の下側の溝側面18bに対峙する面が弾性部材41gに覆われないように構成され得る。この場合、取付部41bの下面と圧入溝18内の下側の溝側面18bとの接触は、樹脂と樹脂の接触となる。
さらに、当接部41cおよび取付部41bの各面が弾性部材41e,41gに覆われていなくてもよい。
【0060】
本実施形態の防振装置1では、第一取付部材30の取付穴35にエンジン側のブラケットが挿入されているが、エンジン側のブラケットと第一取付部材30との固定方法は限定されるものではない。例えば、エンジン側のブラケットに対して第一取付部材30をボルトによって固定してもよい。
【0061】
本実施形態の防振装置1は、エンジンと車体との間に介設されているが、本発明の防振装置を適用可能な防振の対象は限定されるものではない。例えば、防振の対象をエンジンやモータ等の原動機の他に、インバータ、電池等としてもよい。
また、エンジン側のブラケットおよび車体側のブラケットの形状は、防振の対象となる装置の形状に応じて適宜に設定される。
【符号の説明】
【0062】
1 防振装置
10 ブラケット
11 頂部
12 脚部
15 内部空間
16 対向面
17 圧入面(対向面)
18 圧入溝
18a 溝底面(対向面)
18b 溝側面(対向面)
20 防振部材
30 第一取付部材
40 第二取付部材
41 上側部材
41a 上側周壁部
41b 取付部
41c 当接部
41e 弾性部材
41f 突出部
41g 弾性部材
42 下側部材
50 インシュレータ