(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-24
(45)【発行日】2022-11-01
(54)【発明の名称】重合性組成物及び立体造形物の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 64/124 20170101AFI20221025BHJP
B29C 64/264 20170101ALI20221025BHJP
B29C 64/314 20170101ALI20221025BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20221025BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20221025BHJP
C08F 2/44 20060101ALI20221025BHJP
【FI】
B29C64/124
B29C64/264
B29C64/314
B33Y10/00
B33Y70/00
C08F2/44 B
(21)【出願番号】P 2020514124
(86)(22)【出願日】2019-04-12
(86)【国際出願番号】 JP2019015887
(87)【国際公開番号】W WO2019203134
(87)【国際公開日】2019-10-24
【審査請求日】2021-12-24
(31)【優先権主張番号】P 2018078793
(32)【優先日】2018-04-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】特許業務法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 健
【審査官】北澤 健一
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-509962(JP,A)
【文献】特開2015-043793(JP,A)
【文献】特開2001-201500(JP,A)
【文献】特開平10-006404(JP,A)
【文献】国際公開第2017/179139(WO,A1)
【文献】特開2015-229271(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/00-64/40
B33Y 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
立体造形物の製造に用いられる重合性組成物であって、
液体状の光重合性化合物と、難燃剤と、難燃剤保護剤とを含有し、
前記難燃剤が、ハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤及び窒素系難燃剤から選択される少なくとも一つであり、
前記難燃剤保護剤が、アミン系光安定剤であり、
前記難燃剤の含有量が、前記重合性組成物中の樹脂成分100質量部に対して、2~20質量部の範囲内であり、
前記難燃剤保護剤の含有量が、前記重合性組成物中の樹脂成分100質量部に対して、0.1~5質量部の範囲内であり、かつ、
前記立体造形物の製造方法が、下記工程(a)~(c)を含むことを特徴とする重合性組成物。
(a)酸素及び活性エネルギー線を透過する基材を介して、前記重合性組成物を含む造形槽中に酸素を供給する工程
(b)前記酸素により前記重合性組成物の効果が阻害されるバッファ領域を透過した活性エネルギー線を、前記酸素の濃度がより低く前記重合性組成物が硬化可能な硬化領域に選択的に照射して、前記重合性組成物を硬化する工程
(c)前記硬化した重合性組成物を移動させながら前記活性エネルギー線を連続的に照射して、前記重合性組成物が硬化してなる造形物を立体的かつ連続的に形成する工程
【請求項2】
立体造形物の製造に用いられる重合性組成物であって、
液体状の光重合性化合物と、難燃剤と、難燃剤保護剤とを含有し、
前記難燃剤が、金属水酸化物系難燃剤であり、
前記難燃剤保護剤が、フェノール系酸化防止剤、ホスファイト系酸化防止剤及びチオール系酸化防止剤から選択される少なくとも一つであり、
前記難燃剤の含有量が、前記重合性組成物中の樹脂成分100質量部に対して、5~50質量部の範囲内であり、
前記難燃剤保護剤の含有量が、前記重合性組成物中の樹脂成分100質量部に対して、0.1~5質量部の範囲内であり、かつ、
前記立体造形物の製造方法が、下記工程(a)~(c)を含むことを特徴とする重合性組成物。
(a)酸素及び活性エネルギー線を透過する基材を介して、前記重合性組成物を含む造
形槽中に酸素を供給する工程
(b)前記酸素により前記重合性組成物の効果が阻害されるバッファ領域を透過した活性エネルギー線を、前記酸素の濃度がより低く前記重合性組成物が硬化可能な硬化領域に選択的に照射して、前記重合性組成物を硬化する工程
(c)前記硬化した重合性組成物を移動させながら前記活性エネルギー線を連続的に照射して、前記重合性組成物が硬化してなる造形物を立体的かつ連続的に形成する工程
【請求項3】
前記光重合性化合物が、(メタ)アクリロイル基を有する化合物であることを特徴とする請求項1
又は請求項2に記載の重合性組成物。
【請求項4】
さらに、液体状の熱重合性化合物を含有することを特徴とする請求項1から請求項
3までのいずれか一項に記載の重合性組成物。
【請求項5】
さらに、フィラーを含有することを特徴とする請求項1から請求項
4までのいずれか一項に記載の重合性組成物。
【請求項6】
重合性組成物を用いる立体造形物の製造方法であって、
前記重合性組成物が、請求項1から請求項
5までのいずれか一項に記載の重合性組成物であり、
下記工程(a)~(c)を含み、かつ、
前記工程(b)では、1~200mW/cm
2の範囲内の活性エネルギー線を照射することを特徴とする立体造形物の製造方法。
(a)酸素及び活性エネルギー線を透過する基材を介して、前記重合性組成物を含む造形槽中に酸素を供給する工程
(b)前記酸素により前記重合性組成物の効果が阻害されるバッファ領域を透過した活性エネルギー線を、前記酸素の濃度がより低く前記重合性組成物が硬化可能な硬化領域に選択的に照射して、前記重合性組成物を硬化する工程
(c)前記硬化した重合性組成物を移動させながら前記活性エネルギー線を連続的に照射して、前記重合性組成物が硬化してなる造形物を立体的かつ連続的に形成する工程
【請求項7】
前記工程(a)では、前記造形槽中への酸素の透過流束を3.4×10
3~170×10
3kmol/(s・m
2)の範囲内とすることを特徴とする請求項
6に記載の立体造形物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合性組成物及び立体造形物の製造方法に関し、より詳しくは、難燃性に優れる立体造形物を製造可能とする重合性組成物及び立体造形物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金型を必要とせず、安価かつ短期間で試作品を作製する方法として光造形が用いられてきたが、近年、材料や造形技術の進歩にともない、最終製品への応用が求められるようになってきた。
光造形の中でも、酸素による硬化阻害層を形成させながら光照射を行う連続的液体界面製造法(Continuous Liquid Interface Production(CLIP)法)が、造形速度が速いことや積層構造を形成せず造形方向への強度が高いことから、近年注目されている(例えば、特許文献1及び2参照。)。しかしながら、電気電子部品や自動車部品等において難燃性を求められる部品が多いのに対し、当該特許文献に開示の方法では、十分な難燃性を有する立体造形物を得られるに至っていない。
【0003】
光造形において、材料に難燃剤を添加することは知られているが(例えば、特許文献3参照。)、CLIP法では比較的強度の高い活性エネルギー線(紫外線)が酸素の存在下で照射されるため、ハロゲン系やリン系難燃剤が分解し、また、金属水酸化物系難燃剤は酸化されるため、難燃剤としての十分な機能を果たせないという問題があることが分かった。
【0004】
また、フィラーを加えることによって、立体造形物の強度を大幅に向上させることが可能であるが、フィラーを加えることによって重合性組成物の粘度が高くなるため、造形ステージ下に形成されつつある造形物の最下層と基材との間に未硬化の重合性液体を充填するには多大な時間を要するようになる。このことは、造形時間が長くなってしまう点で好ましくない。この問題を解決する手段として、酸素供給量を増やすことによって、重合阻害層を厚くし、十分な厚さの流動層を確保することが考えられる。しかしながら、より厚い重合阻害層を介して最下層で重合性液体を硬化させるためには、より強いパワーの紫外線を照射する必要がある。このとき、重合性液体は、より高い酸素濃度下でより高いエネルギーの紫外線を照射されることから、難燃剤はより過酷な環境にさらされ、分解又は酸化劣化することによって機能を発現できなくなりやすいといった問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2016-509962号公報
【文献】特表2016-509964号公報
【文献】特開2007-262401号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、難燃性に優れる立体造形物を製造可能とする重合性組成物及び立体造形物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく、上記問題の原因等について検討する過程において、液体状の光重合性化合物と、難燃剤と、難燃剤保護剤とを含有することにより、難燃性に優れる立体造形物を製造可能とする重合性組成物及び立体造形物の製造方法を提供できることを見出し、本発明に至った。
【0008】
すなわち、本発明に係る上記課題は、以下の手段により解決される。
【0009】
1.立体造形物の製造に用いられる重合性組成物であって、
液体状の光重合性化合物と、難燃剤と、難燃剤保護剤とを含有し、
前記難燃剤が、ハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤及び窒素系難燃剤から選択される少なくとも一つであり、
前記難燃剤保護剤が、アミン系光安定剤であり、
前記難燃剤の含有量が、前記重合性組成物中の樹脂成分100質量部に対して、2~20質量部の範囲内であり、
前記難燃剤保護剤の含有量が、前記重合性組成物中の樹脂成分100質量部に対して、0.1~5質量部の範囲内であり、かつ、前記立体造形物の製造方法が、下記工程(a)~(c)を含むことを特徴とする重合性組成物。
(a)酸素及び活性エネルギー線を透過する基材を介して、前記重合性組成物を含む造
形槽中に酸素を供給する工程
(b)前記酸素により前記重合性組成物の効果が阻害されるバッファ領域を透過した活性エネルギー線を、前記酸素の濃度がより低く前記重合性組成物が硬化可能な硬化領域に選択的に照射して、前記重合性組成物を硬化する工程
(c)前記硬化した重合性組成物を移動させながら前記活性エネルギー線を連続的に照射して、前記重合性組成物が硬化してなる造形物を立体的かつ連続的に形成する工程
【0010】
2.立体造形物の製造に用いられる重合性組成物であって、
液体状の光重合性化合物と、難燃剤と、難燃剤保護剤とを含有し、
前記難燃剤が、金属水酸化物系難燃剤であり、
前記難燃剤保護剤が、フェノール系酸化防止剤、ホスファイト系酸化防止剤及びチオール系酸化防止剤から選択される少なくとも一つであり、
前記難燃剤の含有量が、前記重合性組成物中の樹脂成分100質量部に対して、5~50質量部の範囲内であり、
前記難燃剤保護剤の含有量が、前記重合性組成物中の樹脂成分100質量部に対して、0.1~5質量部の範囲内であり、かつ、
前記立体造形物の製造方法が、下記工程(a)~(c)を含むことを特徴とする重合性組成物。
(a)酸素及び活性エネルギー線を透過する基材を介して、前記重合性組成物を含む造形槽中に酸素を供給する工程
(b)前記酸素により前記重合性組成物の効果が阻害されるバッファ領域を透過した活性エネルギー線を、前記酸素の濃度がより低く前記重合性組成物が硬化可能な硬化領域に選択的に照射して、前記重合性組成物を硬化する工程
(c)前記硬化した重合性組成物を移動させながら前記活性エネルギー線を連続的に照射して、前記重合性組成物が硬化してなる造形物を立体的かつ連続的に形成する工程
3.前記光重合性化合物が、(メタ)アクリロイル基を有する化合物であることを特徴とする第1項又は第2項に記載の重合性組成物。
【0013】
4.さらに、液体状の熱重合性化合物を含有することを特徴とする第1項から第3項までのいずれか一項に記載の重合性組成物。
【0018】
5.さらに、フィラーを含有することを特徴とする第1項から第4項までのいずれか一項に記載の重合性組成物。
【0019】
6.重合性組成物を用いる立体造形物の製造方法であって、
前記重合性組成物が、第1項から第5項までのいずれか一項に記載の重合性組成物であり、
下記工程(a)~(c)を含み、かつ、
前記工程(b)では、1~200mW/cm2の範囲内の活性エネルギー線を照射することを特徴とする立体造形物の製造方法。
(a)酸素及び活性エネルギー線を透過する基材を介して、前記重合性組成物を含む造形槽中に酸素を供給する工程
(b)前記酸素により前記重合性組成物の効果が阻害されるバッファ領域を透過した活性エネルギー線を、前記酸素の濃度がより低く前記重合性組成物が硬化可能な硬化領域に選択的に照射して、前記重合性組成物を硬化する工程
(c)前記硬化した重合性組成物を移動させながら前記活性エネルギー線を連続的に照射して、前記重合性組成物が硬化してなる造形物を立体的かつ連続的に形成する工程
【0020】
7.前記酸素を供給する工程では、前記造形槽中への酸素の透過流束を3.4×103~170×103kmol/(s・m2)の範囲内とすることを特徴とする第6項に記載の立体造形物の製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明の上記手段により、難燃性に優れる立体造形物を製造可能とする重合性組成物及び立体造形物の製造方法を提供することができる。
【0022】
本発明の効果の発現機構・作用機構については、以下のように推察している。
【0023】
本発明の重合性組成物は、液体状の光重合性化合物と、難燃剤と、難燃剤保護剤とを含有することを特徴とする。
上述したように、CLIP法では、比較的強度の高い活性エネルギー線(紫外線)が酸素の存在下で照射される。このような場合に、難燃性を付与するために材料中に難燃剤を添加していると、難燃剤が紫外線により分解又は酸化劣化し、難燃剤としての機能を十分に発揮することができない。
そこで、本発明では、難燃剤に加えて難燃剤保護剤を添加することにより、酸素供給下で比較的強い紫外線を照射された場合でも難燃剤が分解又は酸化劣化することを防止し、これにより形成された立体造形物に十分な難燃性を付与することができるものと考えている。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の立体造形物の製造方法に適用可能な製造装置の一例としての概略図
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の重合性組成物は、立体造形物の製造に用いられる重合性組成物であって、液体状の光重合性化合物と、難燃剤と、難燃剤保護剤とを含有し、前記難燃剤が、ハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤及び窒素系難燃剤から選択される少なくとも一つであり、前記難燃剤保護剤が、アミン系光安定剤であり、前記難燃剤の含有量が、前記重合性組成物中の樹脂成分100質量部に対して、2~20質量部の範囲内であり、前記難燃剤保護剤の含有量が、前記重合性組成物中の樹脂成分100質量部に対して、0.1~5質量部の範囲内であり、かつ、立体造形物の製造方法が、下記工程(a)~(c)を含むことを特徴とする。
(a)酸素及び活性エネルギー線を透過する基材を介して、前記重合性組成物を含む造形槽中に酸素を供給する工程
(b)前記酸素により前記重合性組成物の効果が阻害されるバッファ領域を透過した活性エネルギー線を、前記酸素の濃度がより低く前記重合性組成物が硬化可能な硬化領域に選択的に照射して、前記重合性組成物を硬化する工程
(c)前記硬化した重合性組成物を移動させながら前記活性エネルギー線を連続的に照射して、前記重合性組成物が硬化してなる造形物を立体的かつ連続的に形成する工程
又は、立体造形物の製造に用いられる重合性組成物であって、液体状の光重合性化合物と、難燃剤と、難燃剤保護剤とを含有し、前記難燃剤が、金属水酸化物系難燃剤であり、前記難燃剤保護剤が、フェノール系酸化防止剤、ホスファイト系酸化防止剤及びチオール系酸化防止剤から選択される少なくとも一つであり、前記難燃剤の含有量が、前記重合性組成物中の樹脂成分100質量部に対して、5~50質量部の範囲内であり、前記難燃剤保護剤の含有量が、前記重合性組成物中の樹脂成分100質量部に対して、0.1~5質量部の範囲内であり、かつ、前記立体造形物の製造方法が、上記工程(a)~(c)を含むことを特徴とする。
これらの特徴は、下記各実施形態に係る発明に共通する技術的特徴である。
【0026】
本発明の実施態様としては、少ない光量又は短い時間での硬化を可能とする観点から、光重合性化合物が、(メタ)アクリロイル基を有する化合物であることが好ましい。
【0027】
また、難燃剤が、ハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤、窒素系難燃剤及び金属水酸化物系難燃剤から選択される少なくとも一つであることが好ましい。
【0028】
また、難燃剤保護剤が、フェノール系酸化防止剤、ホスファイト系酸化防止剤、チオール系酸化防止剤及びアミン系光安定剤から選択される少なくとも一つであることが好ましい。
【0029】
また、立体造形物に耐熱性を付与する(荷重たわみ温度を向上させる)観点から、更に、液体状の熱重合性化合物を含有することが好ましい。
【0030】
また、難燃剤が、ハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤及び窒素系難燃剤から選択される少なくとも一つであり、難燃剤保護剤が、アミン系光安定剤であることが好ましい。有機系の難燃剤は、主に光により分解するため、光安定剤と組み合わせることにより、有機系の難燃剤の分解を抑制することができる。
この場合、難燃性の発現と機械特性低下抑制の観点から、難燃剤の含有量が、重合性組成物中の樹脂成分100質量部に対して、2~20質量部の範囲内であり、難燃剤保護剤の含有量が、重合性組成物中の樹脂成分100質量部に対して、0.1~5質量部の範囲内であることが好ましい。
【0031】
また、難燃剤が、金属水酸化物系難燃剤であり、難燃剤保護剤が、フェノール系酸化防止剤、ホスファイト系酸化防止剤及びチオール系酸化防止剤から選択される少なくとも一つであることが好ましい。無機系(水酸化物系)の難燃剤は、主に酸素により酸化劣化するため、酸化防止剤と組み合わせることにより、無機系の難燃剤の酸化劣化を抑制することができる。
この場合、難燃性の発現と機械特性低下抑制との観点から、難燃剤の含有量が、前記重合性組成物中の樹脂成分100質量部に対して、5~50質量部の範囲内であり、難燃剤保護剤の含有量が、重合性組成物中の樹脂成分100質量部に対して、0.1~5質量部の範囲内であることが好ましい。
【0032】
また、立体造形物の強度を向上させる観点から、更に、フィラーを含有することが好ましい。
【0033】
本発明は、重合性組成物を用いる立体造形物の製造方法であって、重合性組成物が、本発明の重合性組成物であり、下記工程(a)~(c)を含み、かつ、工程(b)では、1~200mW/cm2の範囲内の活性エネルギー線を照射することを特徴とする立体造形物の製造方法を提供することができる。
(a)酸素及び活性エネルギー線を透過する基材を介して、前記重合性組成物を含む造形槽中に酸素を供給する工程
(b)前記酸素により前記重合性組成物の効果が阻害されるバッファ領域を透過した活性エネルギー線を、前記酸素の濃度がより低く前記重合性組成物が硬化可能な硬化領域に選択的に照射して、前記重合性組成物を硬化する工程
(c)前記硬化した重合性組成物を移動させながら前記活性エネルギー線を連続的に照射して、前記重合性組成物が硬化してなる造形物を立体的かつ連続的に形成する工程
【0034】
本発明の実施態様としては、適切な重合阻害層の厚さを確保することにより十分な厚さの樹脂流動層を得るという観点から、酸素を供給する工程では、造形槽中への酸素の透過流束を3.4×103~170×103kmol/(s・m2)の範囲内とすることが好ましい。
【0035】
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための形態・態様について詳細な説明をする。なお、本願において、数値範囲を表す「~」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用している。
【0036】
《重合性組成物》
本発明の重合性組成物は、立体造形物の製造に用いられる重合性組成物であって、液体状の光重合性化合物と、難燃剤と、難燃剤保護剤とを含有し、前記難燃剤が、ハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤及び窒素系難燃剤から選択される少なくとも一つであり、前記難燃剤保護剤が、アミン系光安定剤であり、前記難燃剤の含有量が、前記重合性組成物中の樹脂成分100質量部に対して、2~20質量部の範囲内であり、前記難燃剤保護剤の含有量が、前記重合性組成物中の樹脂成分100質量部に対して、0.1~5質量部の範囲内であり、かつ、立体造形物の製造方法が、下記工程(a)~(c)を含むことを特徴とする。
【0037】
(a)酸素及び活性エネルギー線を透過する基材を介して、前記重合性組成物を含む造形槽中に酸素を供給する工程
(b)前記酸素により前記重合性組成物の効果が阻害されるバッファ領域を透過した活性エネルギー線を、前記酸素の濃度がより低く前記重合性組成物が硬化可能な硬化領域に選択的に照射して、前記重合性組成物を硬化する工程
(c)前記硬化した重合性組成物を移動させながら前記活性エネルギー線を連続的に照射して、前記重合性組成物が硬化してなる造形物を立体的かつ連続的に形成する工程
又は、立体造形物の製造に用いられる重合性組成物であって、液体状の光重合性化合物と、難燃剤と、難燃剤保護剤とを含有し、前記難燃剤が、金属水酸化物系難燃剤であり、前記難燃剤保護剤が、フェノール系酸化防止剤、ホスファイト系酸化防止剤及びチオール系酸化防止剤から選択される少なくとも一つであり、前記難燃剤の含有量が、前記重合性組成物中の樹脂成分100質量部に対して、5~50質量部の範囲内であり、前記難燃剤保護剤の含有量が、前記重合性組成物中の樹脂成分100質量部に対して、0.1~5質量部の範囲内であり、かつ、前記立体造形物の製造方法が、上記工程(a)~(c)を含むことを特徴とする。
【0038】
以下、本発明の重合性組成物に含まれる各種材料について、説明する。
【0039】
〈光重合性化合物〉
本発明に係る光重合性化合物は、常温(25℃)で液体状であり、活性エネルギー線の照射によってラジカル重合し、硬化する化合物であれば特に制限されない。光重合性化合物は、モノマーであってもよく、オリゴマーであってもよく、プレポリマーであってもよく、また、これらの混合物であってもよい。重合性組成物には、光重合性化合物が1種のみ含まれていてもよく、2種以上含まれていてもよい。
【0040】
光重合性化合物としては、活性エネルギー線の照射によってラジカル重合可能な基を有していればその種類は特に制限されず、例えば、エチレン基、プロペニル基、ブテニル基、ビニルフェニル基、アリルエーテル基、ビニルエーテル基、マレイル基、マレイミド基、(メタ)アクリルアミド基、アセチルビニル基、ビニルアミド基、(メタ)アクリロイル基等を分子内に一つ以上有する化合物が挙げられる。これらの中でも、分子内に不飽和カルボン酸エステル構造を一つ以上含む不飽和カルボン酸エステルであることが好ましく、(メタ)アクリロイル基を含む(メタ)アクリレート系化合物であることが特に好ましい。
なお、「(メタ)アクリル」との記載は、メタクリル及び/又はアクリルを表し、「(メタ)アクリロイル」との記載は、メタクリロイル及び/又はアクリロイルを表し、「(メタ)アクリレート」との記載は、メタクリレート及び/又はアクリレートを表す。
【0041】
アリルエーテル基を有する化合物としては、フェニルアリルエーテル、o-,m-,p-クレゾールモノアリルエーテル、ビフェニル-2-オールモノアリルエーテル、ビフェニル-4-オールモノアリルエーテル、ブチルアリルエーテル、シクロヘキシルアリルエーテル、シクロヘキサンメタノールモノアリルエーテル、フタル酸ジアリルエーテル、イソフタル酸ジアリルエーテル、ジメタノールトリシクロデカンジアリルエーテル、1,4-シクロヘキサンジメタノールジアリルエーテル、アルキレン(炭素数2~5)グリコールジアリルエーテル、ポリエチレングリコールジアリルエーテル、グリセリンジアリルエーテル、トリメチロールプロパンジアリルエーテル、ペンタエリスリトールジアリルエーテル、ポリグリセリン(重合度2~5)ジアリルエーテル、トリメチロールプロパントリアリルエーテル、グリセリントリアリルエーテル、ペンタエリスリトールテトラアリルエーテル及びテトラアリルオキシエタン、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル、ジグリセリントリアリルエーテル、ソルビトールトリアリルエーテル、ポリグリセリン(重合度3~13)ポリアリルエーテル等が挙げられる。
【0042】
ビニルエーテル基を有する化合物としては、ブチルビニルエーテル、ブチルプロペニルエーテル、ブチルブテニルエーテル、ヘキシルビニルエーテル、1,4-ブタンジオールジビニルエーテル、エチルヘキシルビニルエーテル、フェニルビニルエーテル、ベンジルビニルエーテル、エチルエトキシビニルエーテル、アセチルエトキシエトキシビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、トリシクロデカンビニルエーテル、アダマンチルビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、トリシクロデカンジメタノールジビニルエーテル、ビスフェノールAのEO付加物ジビニルエーテル、シクロヘキサンジオールジビニルエーテル、シクロペンタジエンビニルエーテル、ノルボルニルジメタノールジビニルエーテル、ジビニルレゾルシン、ジビニルハイドロキノン、エチレングリコールジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、プロピレングリコールジビニルエーテル、ジプロピレングリコールビニルエーテル、ブチレンジビニルエーテル、ジブチレングリコールジビニルエーテル、4-シクロヘキサンジビニルエーテル、オキサノルボナンジビニルエーテル、ネオペンチルグリコールジビニルエーテル、グリセリントリビニルエーテル、オキセタンジビニルエーテル、グリセリンエチレンオキシド付加物トリビニルエーテル(エチレンオキシドの付加モル数6)、トリメチロールプロパントリビニルエーテル、トリビニルエーテルエチレンオキシド付加物トリビニルエーテル(エチレンオキシドの付加モル数3)、ペンタエリスリトールトリビニルエーテル、ジトリメチロールプロパンヘキサビニルエーテル及びそれらのオキシエチレン付加物等が挙げられる。
【0043】
マレイミド基を有する化合物としては、フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミド、n-ヘキシルマレイミド等が挙げられる。
【0044】
(メタ)アクリルアミド基を有する化合物としては、(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N-ブチル(メタ)アクリルアミド、イソブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、ビスメチレンアクリルアミド、ジ(エチレンオキシ)ビスプロピルアクリルアミド、トリ(エチレンオキシ)ビスプロピルアクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリン等が挙げられる。
【0045】
(メタ)アクリレート系化合物としては、イソアミル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、イソミルスチル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル-ジグリコール(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、メトキシエトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシプロピレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ペンタクロロフェニル(メタ)アクリレート、ペンタブロモフェニル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、グリセリン(メタ)アクリレート、7-アミノ-3,7-ジメチルオクチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2-(2-エトキシエトキシ)エチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシルカルビトール(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイロキシエチルコハク酸、2-(メタ)アクリロイロキシエチルフタル酸、2-(メタ)アクリロイロキシエチル-2-ヒドロキシエチル-フタル酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸、t-ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート等を含む単官能の(メタ)アクリレートモノマー、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジ(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジイルジメチレンジ(メタ)アクリレート、ジメチロール-トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ポリエステルジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのPO付加物ジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート等を含む2官能の(メタ)アクリレートモノマー、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタ(メタ)アクリレート、グリセリンプロポキシトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールエトキシテトラ(メタ)アクリレート等を含む3官能以上の(メタ)アクリレートモノマー、及びこれらのオリゴマーやプレポリマー等が挙げられる。
【0046】
また、(メタ)アクリレート系化合物は、各種(メタ)アクリレートモノマーやそのオリゴマーを更に変性したもの(変性物)であってもよい。変性物としては、トリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ペンタエリスリトールテトラアクリレート、エチレンオキサイド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ノニルフェノール(メタ)アクリレート等のエチレンオキサイド変性(メタ)アクリレートモノマー、トリプロピレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、プロピレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド変性ペンタエリスリトールテトラアクリレート、プロピレンオキサイド変性グリセリントリ(メタ)アクリレート等のプロピレンオキサイド変性(メタ)アクリレートモノマー、カプロラクトン変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等のカプロラクトン変性(メタ)アクリレートモノマー、カプロラクタム変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等のカプロラクタム変性(メタ)アクリレートモノマー等が挙げられる。
【0047】
(メタ)アクリレート系化合物は、更に、各種オリゴマーを(メタ)アクリレート化した化合物(以下、変性(メタ)アクリレート系化合物ともいう。)であってもよい。このような変性(メタ)アクリレート系化合物としては、ポリブタジエン(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリイソプレン(メタ)アクリレートオリゴマー、エポキシ(メタ)アクリレートオリゴマー、ウレタン(メタ)アクリレート系化合物、シリコーン(メタ)アクリレート系化合物、ポリエステル(メタ)アクリレートオリゴマー、直鎖(メタ)アクリルオリゴマー等が挙げられる。これらの中でも特に、エポキシ(メタ)アクリレート系化合物、ウレタン(メタ)アクリレート系化合物、及びシリコーン(メタ)アクリレート系化合物を好適に用いることができる。
【0048】
エポキシ(メタ)アクリレート系化合物は、1分子内にエポキシ基と(メタ)アクリレート基とをそれぞれ一つ以上含む化合物であればよく、例えば、ビスフェノールA型エポキシ(メタ)アクリレート、ビスフェノールF型エポキシ(メタ)アクリレート、ビスフェニル型エポキシ(メタ)アクリレート、トリフェノールメタン型エポキシ(メタ)アクリレートや、クレゾールノボラック型エポキシ(メタ)アクリレート、フェノールノボラック型エポキシ(メタ)アクリレート等のノボラック型エポキシ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0049】
ウレタン(メタ)アクリレート系化合物は、二つ以上のイソシアネート基を有する脂肪族ポリイソシアネート化合物又は二つ以上のイソシアネート基を有する芳香族ポリイソシアネート化合物と、ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリル酸誘導体等とを反応させて得られる、ウレタン結合及び(メタ)アクリロイル基を有する化合物とすることができる。
【0050】
ウレタン(メタ)アクリレート系化合物の原料となるイソシアネート化合物としては、イソホロンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ジフェニルメタン-4,4′-ジイソシアネート(MDI)、水添MDI、ポリメリックMDI、1,5-ナフタレンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート(XDI)、水添XDI、リジンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、トリス(イソシアネートフェニル)チオフォスフェート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、1,6,11-ウンデカントリイソシアネート等が挙げられる。
また、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ソルビトール、トリメチロールプロパン、カーボネートジオール、ポリエーテルジオール、ポリエステルジオール、ポリカプロラクトンジオール等のポリオールと過剰のイソシアネート化合物との反応により得られる鎖延長されたイソシアネート化合物を挙げることができる。
【0051】
ウレタン(メタ)アクリレート系化合物の原料となるヒドロキシ基を有する(メタ)アクリル酸誘導体としては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ポリエチレングリコール等の2価のアルコールのモノ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセリン等の3価のアルコールのモノ(メタ)アクリレートやジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールA型エポキシアクリレート等のエポキシ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0052】
ウレタン(メタ)アクリレート系化合物は、市販されているものであってもよく、例えば、M-1100、M-1200、M-1210、M-1600(いずれも東亞合成社製)、EBECRYL210、EBECRYL220、EBECRYL230、EBECRYL270、EBECRYL1290、EBECRYL2220、EBECRYL4827、EBECRYL4842、EBECRYL4858、EBECRYL5129、EBECRYL6700、EBECRYL8402、EBECRYL8803、EBECRYL8804、EBECRYL8807、EBECRYL9260(いずれもダイセル・オルネクス社製)、アートレジンUN-330、アートレジンSH-500B、アートレジンUN-1200TPK、アートレジンUN-1255、アートレジンUN-3320HB、アートレジンUN-7100、アートレジンUN-9000A、アートレジンUN-9000H(いずれも根上工業社製)、U-2HA、U-2PHA、U-3HA、U-4HA、U-6H、U-6HA、U-6LPA、U-10H、U-15HA、U-108、U-108A、U-122A、U-122P、U-324A、U-340A、U-340P、U-1084A、U-2061BA、UA-340P、UA-4000、UA-4100、UA-4200、UA-4400、UA-5201P、UA-7100、UA-7200、UA-W2A(いずれも新中村化学工業社製)、AH-600、AI-600、AT-600、UA-101I、UA-101T、UA-306H、UA-306I、UA-306T(いずれも共栄社化学社製)等が挙げられる。
【0053】
ウレタン(メタ)アクリレート系化合物は、ポリイソシアネートのイソシアネート基を(メタ)アクリレート基を有するブロック剤によりブロック化して得られるブロックイソシアネートであってもよい。
【0054】
ブロックイソシアネートを得るために用いられるポリイソシアネートは、前述の「ウレタン(メタ)アクリレート系化合物の原料となるイソシアネート化合物であってもよく、これらの化合物とポリオールやポリアミンとを反応させた化合物であってもよい。
ポリオールとしては、従来公知のポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリマーポリオール、植物油ポリオール、更にはリン含有ポリオールやハロゲン含有ポリオール等の難燃ポリオール等が挙げられる。これらのポリオールは、ブロックイソシアネート中に1種のみ含まれていてもよく、2種以上が含まれていてもよい。
【0055】
イソシアネート等と反応させるポリエーテルポリオールとしては、少なくとも2個以上の活性水素基を有する化合物(具体的には、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の多価アルコール類、エチレンジアミン等のアミン類、エタノールアミン、ジエタノールアミン等のアルカノールアミン類等)とアルキレンオキサイド(具体的には、エチレンオキシド、プロピレンオキシド等)との付加反応により合成される化合物が挙げられる。
ポリエーテルポリオールの合成方法は、例えば、Gunter Oertel,“Polyurethane Handbook”(1985) Hanser Publishers社(ドイツ),p.42-53に記載の方法を参照することができる。
【0056】
ポリエステルポリオールとしては、アジピン酸、フタル酸等の多価カルボン酸と、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール等の多価アルコールとの縮合反応物や、ナイロン製造時の廃物、トリメチロールプロパン、ペンタエリストールの廃物、フタル酸系ポリエステルの廃物、廃品を処理し誘導したポリエステルポリオール等が挙げられる(例えば、岩田敬治「ポリウレタン樹脂ハンドブック」(1987)日刊工業新聞社、p.117の記載参照。)。
【0057】
ポリマーポリオールとしては、ポリエーテルポリオールとエチレン性不飽和単量体(例えば、ブタジエン、アクリロニトリル、スチレン等)とをラジカル重合触媒の存在下に反応させた重合体ポリオールが挙げられる。ポリマーポリオールとしては、分子量が5000~12000程度のものが特に好ましい。
【0058】
植物油ポリオールとしては、ひまし油、やし油等のヒドロキシ基含有植物油等が挙げられる。また、ひまし油又は水添ひまし油を原料として得られるひまし油誘導体ポリオールも好適に用いることができる。ひまし油誘導体ポリオールとしては、ひまし油、多価カルボン酸及び短鎖ジオールの反応で得られるひまし油ポリエステル、ひまし油やひまし油ポリエステルのアルキレンオキシド付加物等が挙げられる。
【0059】
難燃ポリオールとしては、リン酸化合物にアルキレンオキシドを付加して得られるリン含有ポリオールや、エピクロルヒドリンやトリクロロブチレンオキシドを開環重合して得られるハロゲン含有ポリオール、芳香環を有する活性水素化合物にアルキレンオキシドを付加して得られる芳香族系エーテルポリオール、芳香環を有する多価カルボン酸と多価アルコールとの縮合反応で得られる芳香族系エステルポリオール等が挙げられる。
【0060】
イソシアネート等と反応させるポリオールのヒドロキシ価(水酸基価)としては、5~300mgKOH/gの範囲内であることが好ましく、10~250mgKOH/gの範囲内であることがより好ましい。ヒドロキシ価は、JIS K 0070:1992に規定された方法で測定することができる。
【0061】
また、イソシアネート等と反応させるポリアミンとしては、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラアミン、ヘキサメチレンペンタアミン、ビスアミノプロピルピペラジン、トリス(2-アミノエチル)アミン、イソホロンジアミン、ポリオキシアルキレンポリアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等が挙げられる。
【0062】
ポリイソシアネートのイソシアネート基をブロックするためのブロック剤としては、(メタ)アクリロイル基を有し、かつ、イソシアネート基と反応し、加熱により脱離できるものであればよい。
このようなブロック剤としては、t-ブチルアミノエチルメタクリレート(TBAEMA)、t-ペンチルアミノエチルメタクリレート(TPAEMA)、t-ヘキシルアミノエチルメタクリレート(THAEMA)、t-ブチルアミノプロピルメタクリレート(TBAPMA)等が挙げられる。
【0063】
ポリイソシアネートのブロック化反応は、一般に-20~150℃で行うことができるが、好ましくは0~100℃である。150℃以下であれば副反応を防止することができ、他方、-20℃以上であれば反応速度を適度な範囲とすることができる。
【0064】
ポリイソシアネートとブロック剤とのブロック化反応は、溶剤の存在の有無に関わらず、行うことができる。溶剤を用いる場合は、イソシアネート基に対して不活性な溶剤を用いることが好ましい。
また、ブロック化反応においては、反応触媒を使用することができる。具体的な反応触媒としては、スズ、亜鉛、鉛等の有機金属塩、金属アルコキシド、第3級アミン等が挙げられる。
【0065】
上述のように調製されるブロックイソシアネートを光重合性化合物として用いる場合、まず、光照射によりアクリロイル基部分を重合させる。その後、加熱することによってブロック剤を外し、生成したイソシアネートを新たにポリオールやポリアミン等と重合させることによって、ポリウレタンやポリウレア又はこれらの混合物を含む立体造形物を得ることができる。
【0066】
シリコーン(メタ)アクリレート系化合物は、主鎖にポリシロキサン結合を有し、その末端及び/又は側鎖に(メタ)アクリル酸を付加した化合物とすることができる。シリコーン(メタ)アクリレート系化合物の原料となるシリコーンは、公知の1官能、2官能、3官能又は4可能のシラン化合物(例えば、アルコキシシラン等)が任意の組み合わせで重合したオルガノポリシロキサンとすることができる。
【0067】
シリコーンアクリレートの具体例としては、市販のTEGORad2500(商品名、テゴケミーサービスGmbH社製)の他、X-22-4015(商品名、信越化学工業株式会社製)のようなヒドロキシ基を有する有機変性シリコーンとアクリル酸とを酸触媒下でエステル化させたもの、KBM402、KBM403(商品名、いずれも信越化学工業株式会社製)のようなエポキシシラン等の有機変性シラン化合物とアクリル酸とを反応させたもの等が挙げられる。
【0068】
(光重合開始剤)
本発明の重合性組成物には、光重合開始剤が含まれていることが好ましい。光重合開始剤は、活性エネルギー線の照射によってラジカルを発生させることが可能であり、光重合性化合物を重合させることが可能な化合物であれば特に制限されず、公知のラジカル重合開始剤とすることができる。
【0069】
ラジカル重合開始剤としては、2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン(BASF社製、IRGACURE 907(「IRGACURE」は同社の登録商標)等)、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン(BASF社製、IRGACURE 1173(「IRGACURE」は同社の登録商標)等)、2-ヒドロキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチループロピオニル)-ベンジル]フェニル}-2-メチル-プロパン-1-オン(BASF社製、IRGACURE 127等)、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン(BASF社製、IRGACURE 2959等)、2,2-ジメトキシー1,2-ジフェニルエタンー1-オン(BASF社製、IRGACURE 651等)、ベンジルジメチルケタール、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル-(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ケトン、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン、2-メチル-2-モルホリノ(4-チオメチルフェニル)プロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-ブタノン、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド、ベンジル、メチルフェニルグリオキシエステル、ベンゾフェノン、o-ベンゾイル安息香酸メチル-4-フェニルベンゾフェノン、4,4′-ジクロロベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、4-ベンゾイル-4′-メチル-ジフェニルサルファイド、アクリル化ベンゾフェノン、3,3′,4,4′-テトラ(t-ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3′-ジメチル-4-メトキシベンゾフェノン、2-イソプロピルチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2,4-ジクロロチオキサントン、ミヒラ-ケトン、4,4′-ジエチルアミノベンゾフェノン、10-ブチル-2-クロロアクリドン、2-エチルアンスラキノン、9,10-フェナンスレンキノン、カンファーキノン、2,4-ジエチルオキサンテン-9-オン等が挙げられる。
【0070】
ラジカル重合開始剤は、重合性組成物の総質量(100質量%)に対して、0.01~10質量%の範囲内で含まれることが好ましく、0.1~5質量%の範囲内で含まれることがより好ましく、0.3~3質量%の範囲内で含まれることが更に好ましい。ラジカル重合開始剤が当該範囲内で含まれると、光重合性化合物を効率よく重合させることが可能となる。
【0071】
〈難燃剤〉
本発明の重合性組成物は、難燃剤を含むことを特徴とする。
難燃剤としては、形成される立体造形物に難燃性を付与することができれば特に制限されないが、例えば、ハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤、窒素系難燃剤、金属水酸化物系難燃剤等が挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよいし、又は2種以上を併用してもよい。
【0072】
ハロゲン系難燃剤としては、臭素化合物や塩素化合物が挙げられるが、毒性問題から塩素化合物は好ましくない。臭素化合物としては、例えば、p-ジブロモベンゼン、ペンタブロモジフェニルエーテル、オクタブロモジフェニルエーテル、テトラデカブロモ-p-ジフェノキシベンゼン、デカブロモジフェニルエーテル、テトラブロモビスフェノールA、ヘキサブロモシクロドデカン、ヘキサブロモベンゼン、2,2′-エチレンビス(4,5,6,7-テトラブロモイソインドリン-1,3-ジオン(例えば、SAYTEX BT-93(アルべマール社製)等)、エタン-1,2-ビス(ペンタブロモフェニル)(例えば、SAYTEX 8010(アルベマール社製)等)や、臭素化エポキシオリゴマー(例えば、SR-T1000、SR-T2000(以上、阪本薬品工業製)等)や、市販品として、ファイアカットP-801(鈴裕化学社製)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0073】
ハロゲン系難燃剤の含有量は、ハロゲン系難燃剤の種類、重合性組成物中の他の成分、所望の難燃性の程度によって適宜選択されるものであるが、例えば、重合性組成物の全固形分(不揮発分)100質量%に対して、ハロゲン含有率が5~15質量%の範囲内となるように含有されていることが好ましい。
【0074】
また、ハロゲン系難燃剤を難燃剤として使用する場合、難燃助剤として、例えば、三酸化アンチモン、四酸化アンチモン、五酸化アンチモン等のアンチモン系化合物、酸化スズ、水酸化スズ等のスズ系化合物、酸化モリブテン、モリブテン酸アンモニウム等のモリブテン系化合物、酸化ジルコニウム、水酸化ジルコニウム等のジルコニウム系化合物、ホウ酸亜鉛、メタホウ酸バリウム等のホウ素系化合物、シリコーンオイル、シランカップリング剤、高分子量シリコーン等のケイ素系化合物、塩素化ポリエチレン等を併用してもよい。
【0075】
リン系難燃剤としては、ポリリン酸メラミン等のポリリン酸化合物、芳香族リン酸エステル、芳香族縮合リン酸エステル等が挙げられる。具体的には、リン酸メラミン、ポリリン酸メラミン、リン酸グアニジン、ポリリン酸グアニジン、リン酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウム、リン酸アミドアンモニウム、ポリリン酸アミドアンモニウム、リン酸カルバメート、ポリリン酸カルバメート等のリン酸塩系化合物やポリリン酸塩系化合物、赤リン、有機リン酸エステル、ホスファゼン、ホスホン酸、ホスフィン酸、ホスフィンオキシド、ホスホラン、ホスホルアミドや、市販品として、ヒシガードセレクトN-6ME(日本化学工業社製)等を使用することができる。
【0076】
窒素系難燃剤としては、メラミンシアヌレート等のメラミン系化合物、トリアジン、グアニジン等が挙げられる。具体的には、メラミン、メラム、メレム、メロン、メラミンシアヌレート(例えば、メラミンシアヌレートMC-4000(日産化学工業社製)等)等のメラミン系化合物、シアヌル酸、イソシアヌル酸、トリアゾール系化合物、テトラゾール、ジアゾ化合物、尿素等を使用することができる。
【0077】
金属水酸化物系難燃剤としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム(例えば、キスマ5E(協和化学工業社製)等)、塩基性炭酸マグネシウム、水酸化カルシウム、ハイドロタルサイト類等が挙げられる。
【0078】
〈難燃剤保護剤〉
本発明の重合性組成物は、難燃剤を保護することを目的として、難燃剤保護剤が含有されている。
難燃剤保護剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤、ホスファイト系酸化防止剤、チオール系酸化防止剤、アミン系光安定剤等が挙げられる。特に、難燃剤として、ハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤又は窒素系難燃剤を用いた場合には、難燃剤保護剤はアミン系光安定剤であることが好ましく、難燃剤として、金属水酸化物系難燃剤を用いた場合には、難燃剤保護剤はフェノール系酸化防止剤、ホスファイト系酸化防止剤又はチオール系酸化防止剤であることが好ましい。
難燃剤保護剤は、1種単独で用いてもよいし、又は2種以上を併用してもよい。
【0079】
難燃剤としてハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤又は窒素系難燃剤、難燃剤保護剤としてアミン系光安定剤を用いた場合、難燃剤の含有量は、重合性組成物中の樹脂成分100質量部に対して、2~20質量部の範囲内であり、難燃剤保護剤の含有量は、重合性組成物中の樹脂成分100質量部に対して、0.1~5質量部の範囲内である。
難燃剤の含有量が2質量部以上であれば、十分な難燃性が発現し、20質量部以下であれば、難燃剤の添加による機械強度の低下が十分に抑制できる。また、難燃剤保護剤の含有量が0.1質量部以上であれば、難燃剤を保護する機能が発現し、5質量部以下であれば、難燃剤保護剤添加による機械強度の低下が十分に抑制できる。
【0080】
一方で、難燃剤として金属水酸化物系難燃剤、難燃剤保護剤としてフェノール系酸化防止剤、ホスファイト系酸化防止剤又はチオール系酸化防止剤を用いた場合、難燃剤の含有量は、重合性組成物中の樹脂成分100質量部に対して、5~50質量部の範囲内であり、難燃剤保護剤の含有量は、重合性組成物中の樹脂成分100質量部に対して、0.1~5質量部の範囲内である。
難燃剤の含有量が5質量部以上であれば、十分な難燃性が発現し、50質量部以下であれば、難燃剤の添加による機械強度の低下が十分に抑制できる。また、難燃剤保護剤の含有量が0.1質量部以上であれば、難燃剤を保護する機能が発現し、5質量部以下であれば、難燃剤保護剤添加による機械強度の低下が十分に抑制できる。
【0081】
フェノール系酸化防止剤としては、例えば、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール、2,6-ジフェニル-4-オクタデシロキシフェノール、ジステアリル(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ホスホネート、1,6-ヘキサメチレンビス〔(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸アミド〕、4,4′-チオビス(6-t-ブチル-m-クレゾール)、2,2′-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2,2′-メチレンビス(4-エチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4′-ブチリデンビス(6-t-ブチル-m-クレゾール)、2,2′-エチリデンビス(4,6―ジ-t-ブチルフェノール)、2,2′-エチリデンビス(4-sec-ブチル-6-t-ブチルフェノール)、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)ブタン、1,3,5-トリス(2,6-ジメチル-3-ヒドロキシ-4-t-ブチルベンジル)イソシアヌレート、1,3,5-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、1,3,5-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-2,4,6-トリメチルベンゼン、2-t-ブチル-4-メチル-6-(2-アクリロイルオキシ-3-t-ブチル-5-メチルベンジル)フェノール、ステアリル(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、テトラキス〔3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸メチル〕メタン、チオジエチレングリコールビス〔(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,6-ヘキサメチレンビス〔(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、ビス〔3,3-ビス(4-ヒドロキシ-3-t-ブチルフェニル)ブチリックアシッド〕グリコールエステル、ビス〔2-t-ブチル-4-メチル-6-(2-ヒドロキシ-3-t-ブチル-5-メチルベンジル)フェニル〕テレフタレート、1,3,5-トリス〔(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシエチル〕イソシアヌレート、3,9-ビス〔1,1-ジメチル-2-{(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ}エチル〕-2,4,8,10-テトラオキサスピロ〔5,5〕ウンデカン、トリエチレングリコールビス〔(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオネート〕や、市販品として、アデカスタブAO-20(ADEKA社製)等が挙げられる。
【0082】
ホスファイト系酸化防止剤としては、トリスノニルフェニルホスファイト、トリス〔2-t-ブチル-4-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニルチオ)-5-メチルフェニル〕ホスファイト、トリデシルホスファイト、オクチルジフェニルホスファイト、ジ(デシル)モノフェニルホスファイト、ジ(トリデシル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジ(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4,6-トリ-t-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4-ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、テトラ(トリデシル)イソプロピリデンジフェノールジホスファイト、テトラ(トリデシル)-4,4′-n-ブチリデンビス(2-t-ブチル-5-メチルフェノール)ジホスファイト、ヘキサ(トリデシル)-1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)ブタントリホスファイト、テトラキス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ビフェニレンジホスホナイト、9,10-ジハイドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナンスレン-10-オキサイド、2,2′-メチレンビス(4,6-t-ブチルフェニル)-2-エチルヘキシルホスファイト、2,2′-メチレンビス(4,6-t-ブチルフェニル)-オクタデシルホスファイト、2,2′-エチリデンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)フルオロホスファイト、トリス(2-〔(2,4,8,10-テトラキス-t-ブチルジベンゾ〔d,f〕〔1,3,2〕ジオキサホスフェピン-6-イル)オキシ〕エチル)アミン、2,4,6-トリ-t-ブチルフェノールのホスファイト、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイトや、市販品として、アデカスタブPEP-36(ADEKA社製)等が挙げられる。
【0083】
チオール系酸化防止剤としては、チオジプロピオン酸ジラウリル、チオジプロピオン酸ジミリスチル、チオジプロピオン酸ジステアリル等のジアルキルチオジプロピオネート類、ペンタエリスリトールテトラ(β-アルキルチオプロピオン酸エステル)類や、市販品として、スミライザーTPM(ジミリスチル-3,3’-チオジプロピオナート)(住友化学社製)等が挙げられる。
【0084】
アミン系光安定剤としては、ヒンダードアミン系光安定剤が挙げられる。ヒンダードアミン系光安定剤としては、2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルステアレート、1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジルステアレート、2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルベンゾエート、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケート、ビス(1-オクトキシ-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、テトラキス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、テトラキス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)・ジ(トリデシル)-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)・ジ(トリデシル)-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、ビス(1,2,2,4,4-ペンタメチル-4-ピペリジル)-2-ブチル-2-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)マロネート、1-(2-ヒドロキシエチル)-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジノ-ル/コハク酸ジエチル重縮合物、1,6-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルアミノ)ヘキサン/2,4-ジクロロ-6-モルホリノ-s-トリアジン重縮合物、1,6-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルアミノ)ヘキサン/2,4-ジクロロ-6-t-オクチルアミノ-s-トリアジン重縮合物、1,5,8,12-テトラキス〔2,4-ビス(N-ブチル-N-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)アミノ)-sec-トリアジン-6-イル〕-1,5,8,12-テトラアザドデカン、1,5,8,12-テトラキス〔2,4-ビス(N-ブチル-N-(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)アミノ)-sec-トリアジン-6-イル〕-1,5,8-12-テトラアザドデカン、1,6,11-トリス〔2,4-ビス(N-ブチル-N-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)アミノ)-sec-トリアジン-6-イル〕アミノウンデカン、1,6,11-トリス〔2,4-ビス(N-ブチル-N-(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)アミノ)-sec-トリアジン-6-イル〕アミノウンデカンや、市販品として、アデカスタブLA-52(ADEKA社製)等が挙げられる。
【0085】
〈熱重合性化合物〉
本発明に係る重合性組成物は、熱重合性化合物を含有することが好ましい。
熱重合性化合物は、常温(25℃)で液体状であり、熱によって重合する化合物であれば特に制限されない。
このような熱重合性化合物としては、環状エーテル基、シアネート基、イソシアネート基及びヒドロシリル基からなる群から選ばれる少なくとも一種の基を含む化合物が挙げられる。
【0086】
環状エーテル基を有する化合物としては、エポキシドやオキセタン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン等を含む化合物が挙げられる。これらの中でも、重合性等の観点から、エポキシ基を有する化合物(以下、エポキシ系化合物ともいう。)が好ましい。
エポキシ系化合物としては、分子内に一つ又は二つ以上のエポキシ基を有するエポキシ系化合物が挙げられる。例えば、ビフェニル型エポキシ化合物、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、スチルベン型エポキシ化合物、ハイドロキノン型エポキシ化合物等の結晶性エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物、フェノールノボラック型エポキシ化合物、ナフトールノボラック型エポキシ化合物等のノボラック型エポキシ化合物、フェニレン骨格含有フェノールアラルキル型エポキシ化合物、ビフェニレン骨格含有フェノールアラルキル型エポキシ化合物、フェニレン骨格含有ナフトールアラルキル型エポキシ化合物等のフェノールアラルキル型エポキシ化合物、トリフェノールメタン型エポキシ化合物、アルキル変性トリフェノールメタン型エポキシ化合物、グリシジルアミン、4官能ナフタレン型エポキシ化合物等の多官能型エポキシ化合物、ジシクロペンタジエン変性フェノール型エポキシ化合物、テルペン変性フェノール型エポキシ化合物、シリコーン変性エポキシ化合物等の変性フェノール型エポキシ化合物、トリアジン核含有エポキシ化合物等の複素環含有エポキシ化合物、ナフチレンエーテル型エポキシ等が挙げられる。
【0087】
シアネート基を有する化合物は、分子内に一つ又は二つ以上のシアネート基を有する化合物であればよい。例えば、1,3-又は1,4-ジシアナトベンゼン、1,3,5-トリシアナトベンゼン、1,3-、1,4-、1,6-、1,8-、2,6-又は2,7-ジシアナトナフタレン、1,3,6-トリシアナトナフタレン、2,2′-又は4,4′-ジシアナトビフェニル、ビス(4-シアナトフェニル)メタン、2,2-ビス(4-シアナトフェニル)プロパン、2,2-ビス(3,5-ジクロロ-4-シアナトフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-ジブロモ-4-ジシアナトフェニル)プロパン、ビス(4-シアナトフェニル)エーテル、ビス(4-シアナトフェニル)チオエーテル、ビス(4-シアナトフェニル)スルホン、トリス(4-シアナトフェニル)フォスファイト、トリス(4-シアナトフェニル)フォスフェート、ビス(3-クロロ-4-シアナトフェニル)メタン、4-シアナトビフェニル、4-クミルシアナトベンゼン、2-t-ブチル-1,4-ジシアナトベンゼン、2,4-ジメチル-1,3-ジシアナトベンゼン、2,5-ジ-t-ブチル-1,4-ジシアナトベンゼン、テトラメチル-1,4-ジシアナトベンゼン、4-クロロ-1,3-ジシアナトベンゼン、3,3′,5,5′-テトラメチル-4,4′-ジシアナトジフェニルビス(3-クロロ-4-シアナトフェニル)メタン、1,1,1-トリス(4-シアナトフェニル)エタン、1,1-ビス(4-シアナトフェニル)エタン、2,2-ビス(3,5-ジクロロ-4-シアナトフェニル)プロパン、2,2-ビス(3,5-ジブロモ-4-シアナトフェニル)プロパン、ビス(p-シアノフェノキシフェノキシ)ベンゼン、ジ(4-シアナトフェニル)ケトン、シアン酸化ノボラック、シアン酸化ビスフェノールポリカーボネートオリゴマー等が挙げられる。
【0088】
イソシアネート基を有する化合物は、分子内に一つ又は二つ以上のイソシアネート基を有する化合物であれば特に制限されず、例えば、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ナフチレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、シクロヘキシレンジイソシアネート、ジイソシアネートメチルシクロヘキサン等の脂環族ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、トリス(イソシアネートフェニル)チオフォスフェート、トリメチロールプロパンとヘキサメチレンジイソシアネートの1対3付加物、ヘキサメチレンジイソシアネートの環状3量体等の3官能以上のポリイソシアネート、これらの化合物のイソシアネート基をブロック剤(例えば、アルコール類、フェノール類、ラクタム類、オキシム類、アセト酢酸アルキルエステル類、マロン酸アルキルエステル類、フタルイミド類、イミダゾール類、塩化水素、シアン化水素、亜硫酸水素ナトリウム等)で保護したブロックイソシアネート基を有するブロックイソシアネート等が挙げられる。
【0089】
ヒドロシリル基を有する化合物は、分子内に一つ又は二つ以上のヒドロシリル基を有する化合物であればよく、例えば、メチルヒドロシロキサン-ジメチルシロキサンコポリマー等が挙げられる。
ヒドロシリル基を有する化合物は、末端又は側鎖にビニル基を有するポリオルガノシロキサンと付加反応することにより得られる。ビニル基を有するポリシロキサンとしては、各末端ケイ素原子にビニル基が置換されたポリジメチルシロキサン、各末端ケイ素原子にビニル基が置換されたジメチルシロキサン-ジフェニルシロキサンコポリマー、各末端ケイ素原子にビニル基が置換されたポリフェニルメチルシロキサン、各末端にトリメチルシリル基を有するビニルメチルシロキサン-ジメチルシロキサンコポリマー等が挙げられる。
【0090】
(硬化剤、硬化促進剤)
重合性組成物に熱重合性化合物が含まれている場合、当該熱重合性化合物を硬化させるための硬化剤や硬化促進剤が更に含まれていることが好ましい。硬化剤や硬化促進剤の種類は、熱重合性化合物の種類等に応じて適宜選択される。
【0091】
硬化剤や硬化促進剤としては、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等の炭素数2~20の直鎖脂肪族ジアミン、メタフェニレンジアミン、パラフェニレンジアミン、パラキシレンジアミン、4,4′-ジアミノジフェニルメタン、4,4′-ジアミノジフェニルプロパン、4,4′-ジアミノジフェニルエーテル、4,4′-ジアミノジフェニルスルホン、4,4′-ジアミノジシクロヘキサン、ビス(4-アミノフェニル)フェニルメタン、1,5-ジアミノナフタレン、メタキシレンジアミン、パラキシレンジアミン、1,1-ビス(4-アミノフェニル)シクロヘキサン、N,N-ジメチル-n-オクチルアミン、ジシアノジアミド等のアミノ類、アニリン変性レゾール樹脂やジメチルエーテルレゾール樹脂等のレゾール型フェノール樹脂、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、t-ブチルフェノールノボラック樹脂、ノニルフェノールノボラック樹脂等のノボラック型フェノール樹脂、フェニレン骨格含有フェノールアラルキル樹脂、ビフェニレン骨格含有フェノールアラルキル樹脂等のフェノールアラルキル樹脂、ナフタレン骨格やアントラセン骨格のような縮合多環構造を有するフェノール樹脂、ポリパラオキシスチレン等のポリオキシスチレン、ヘキサヒドロ無水フタル酸(HHPA)、メチルテトラヒドロ無水フタル酸(MTHPA)等の脂環族酸無水物、無水トリメリット酸(TMA)、無水ピロメリット酸(PMDA)、ベンゾフェノンテトラカルボン酸(BTDA)等の芳香族酸無水物を含む酸無水物等、ポリサルファイド、チオエステル、チオエーテル等のポリメルカプタン化合物、イソシアネートプレポリマー、ブロック化イソシアネート等のイソシアネート化合物、カルボン酸含有ポリエステル樹脂等の有機酸類等、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸コバルト、オクチル酸スズ、オクチル酸コバルト、ビスアセチルアセトナートコバルト(II)、トリスアセチルアセトナートコバルト(III)、アセチルアセトナート亜鉛等の有機金属塩が挙げられる。
重合性組成物には、これら硬化剤や硬化促進剤が1種のみ含まれていてもよく、2種以上含まれていてもよい。
硬化剤や硬化促進剤の量は、熱重合性化合物の種類や量に合わせて適宜選択される。
【0092】
〈フィラー〉
本発明の重合性組成物は、フィラーを含有することが好ましい。重合性組成物に含まれるフィラーは特に制限されず、有機フィラーでも無機フィラーであってもよい。
フィラーは、1種のみ含まれていてもよく、2種以上が含まれていてもよい。
【0093】
フィラーとしては、ソーダ石灰ガラス、ケイ酸ガラス、ホウケイ酸ガラス、アルミノケイ酸ガラス、石英ガラス等からなるガラスフィラー、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化チタン、チタン酸ジルコン酸鉛、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、酸化スズ等からなるセラミックフィラー、鉄、チタン、金、銀、銅、スズ、鉛、ビスマス、コバルト、アンチモン、カドミウム等の金属単体、又はこれらの合金等からなる金属フィラー、グラファイト、グラフェン、カーボンナノチューブ等からなるカーボンフィラー、ポリエステル、ポリアミド、ポリアラミド、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール、多糖類等からなる有機高分子繊維、チタン酸カリウムウィスカー、シリコーンカーバイトウィスカー、シリコンナイトライドウィスカー、α-アルミナウィスカー、酸化亜鉛ウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー、炭酸カルシウムウィスカー、水酸化マグネシウムウィスカー、塩基性硫酸マグネシウムウィスカー、ケイ酸カルシウムウィスカー等からなるウィスカー状無機化合物(上記セラミックフィラーの針状の単結晶も含む。)、タルク、マイカ、クレイ、ワラストナイト、ヘクトライト、サポナイト、スチブンサイト、ハイデライト、モンモリロナイト、ノントライト、ベントナイト、Na型テトラシリシックフッ素雲母、Li型テトラシリシックフッ素雲母、Na型フッ素テニオライト、Li型フッ素テニオライト等の膨潤性雲母、バーミキュラライト等からなる粘土鉱物等が挙げられる。また、フィラーとしては、ポリエチレンやポリプロピレン等からなるポリオレフィンフィラー、FEP(四フッ化エチレン-六フッ化プロピレン共重合体)、PFA(四フッ化エチレン-パーフルオロアルコキシエチレン共重合体)、ETFE(四フッ化エチレン-エチレン共重合体)等からなるフッ素樹脂フィラー等が挙げられる。
【0094】
上記の中でも、有機高分子繊維が好ましく、特に多糖類からなるナノファイバーであることが好ましい。多糖類としては、セルロース、ヘミセルロース、リグノセルロース、キチン、キトサン等が挙げられる。これらのうち、得られる立体造形物の強度をより高める観点から、セルロース及びキチンが好ましく、セルロースがより好ましい。
【0095】
セルロースからなる繊維状のフィラー、すなわち、セルロースナノファイバー(以下、単にナノセルロースともいう。)は、植物由来の繊維質又は植物の細胞壁の機械的な解繊、酢酸菌による生合成、2,2,6,6-tetramethylpiperidine-1-oxyl radical(TEMPO)等のN-オキシル化合物による酸化又は電解紡糸法等によって得られる、繊維状のナノフィブリルを主成分とするセルロースナノファイバーであってもよい。また、ナノセルロースは、植物由来の繊維質又は植物の細胞壁を機械的に解繊した後に酸処理等をして得られる、ウィスカー状(針状)に結晶化したナノフィブリルを主成分とするセルロースナノクリスタルであってもよく、その他の形状であってもよい。ナノセルロースは、セルロースを主成分とすればよく、リグニン及びヘミセルロース等を含んでいてもよい。
【0096】
フィラーの形状は特に制限されず、例えば繊維状(ウィスカー状を含む)であってもよく、粒子状であってもよいが、立体造形物の強度向上の観点から、繊維状であることが好ましい。
フィラーが粒子状である場合、その平均粒径は0.005~200μmの範囲内であることが好ましく、0.01~100μmの範囲内であることがより好ましく、0.1~50μmの範囲内であることが更に好ましい。粒子状のフィラーの平均粒径が0.1μm以上であると、立体造形物の強度が高まりやすくなる。一方、平均粒径が50μm以下であると、立体造形物を高精細に形成しやすくなる。なお、平均粒径は、重合性組成物を透過型電子顕微鏡(TEM)で撮像して得られた画像を解析して、測定することができる。
【0097】
一方、フィラーが繊維状である場合、その平均繊維径は、0.002~20μmの範囲内であることが好ましい。平均繊維径が0.002μm以上であると、立体造形物の強度が高まりやすくなる。平均繊維径が20μm以下であると、フィラーが重合性組成物の粘度を高めすぎず、立体造形物の精度が良好になりやすい。フィラーの平均繊維径は、0.005~10μmの範囲内であることがより好ましく、0.01~8μmの範囲内であることが更に好ましく、0.02~5μmの範囲内であることが特に好ましい。
【0098】
フィラーの平均繊維長は、0.2~200μmの範囲内であることが好ましい。平均繊維長が0.2μm以上であると、立体造形物の強度が高まりやすくなる。平均繊維長が200μm以下であると、フィラー同士が絡み合うことによって生じるフィラーの沈降が生じにくい。フィラーの平均繊維長は、0.5~100μmの範囲内であることがより好ましく、1~60μmの範囲内であることが更に好ましく、1~40μmの範囲内であることが特に好ましい。
【0099】
フィラーのアスペクト比は、10~10000の範囲内であることが好ましい。アスペクト比が10以上であると、立体造形物の強度がより高くなりやすい。アスペクト比が10000以下であると、フィラー同士が絡み合って生じるフィラーの沈降が生じにくい。フィラーのアスペクト比は、12~8000の範囲内であることがより好ましく、15~2000の範囲内であることが更に好ましく、18~800の範囲内であることが特に好ましい。
【0100】
フィラーの平均繊維径、平均繊維長及びアスペクト比は、重合性組成物を透過型電子顕微鏡(TEM)で撮像して得られた画像を解析して、測定することができる。
【0101】
重合性組成物に含まれるフィラーの量は、重合性組成物の全質量(100質量%)に対して、1~50質量%の範囲内であることが好ましく、5~40質量%の範囲内であることがより好ましい。フィラーの量が当該範囲であると、強度の高い立体造形物が得られやすくなる。
【0102】
フィラーは、光重合性化合物や熱重合性化合物と反応可能な官能基を有する表面修飾剤によって表面修飾されていてもよい。フィラーが表面修飾されていると、フィラーと光重合性化合物、又はフィラーと熱重合性化合物との密着性が高まり、より強度の高い立体造形物が得られやすくなる。表面修飾剤は、光重合性化合物や熱重合性化合物と反応可能な基、及びフィラーに結合可能又はフィラーに吸着可能な基を有するものであればよく、その種類は特に制限されない。
【0103】
表面修飾剤に含まれる、フィラーに結合可能又はフィラーに吸着可能な基や構造としては、Si原子、Ti原子、Zr原子、カルボキシ基、アミノ基、イミノ基、シアノ基、アゾ基、アジ基、チオール基、スルホ基、(メタ)アクリロイル基、エポキシ基、イソシアネート基等が挙げられる。これらの中でも、フィラーに対する反応性等の観点から、Si原子、Ti原子、Zr原子が好ましく、特にSi原子が好ましい。
また、表面修飾剤に含まれる、光重合性化合物又は熱重合性化合物と反応可能な基としては、(メタ)アクリロイル基、アミノ基、イミノ基、エポキシ基、グリシジル基、オキセタニル基、イソシアネート基、シアネート基、ビニル基、スチリル基、ヒドロシリル基、メルカプト基、ウレイド基等が挙げられる。
【0104】
以上のことから、表面修飾剤は、シランカップリング剤、チタンカップリング剤又はジルコニウム系カップリング剤であることが好ましく、シランカップリング剤であることが特に好ましい。
【0105】
シランカップリング剤としては、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、トリス-(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、3-ウレイドプロピルトリアルコキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等の反応性官能基を有する化合物、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、n-プロピルトリブトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジヘキシルジメトキシシラン、トリヘキシルメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、ヘキサデシルトリメトキシシラン、n-プロピルトリアセトキシシラン、n-プロピルトリクロロシラン、1-プロピン-3-イルトリメトキシシラン、1-プロピン-3-イルトリエトキシシラン、1-プロピン-3-イルトリブトキシシラン、2-シクロヘキセン-1-イルトリエトキシシラン、1,3-ヘキサジイン-5-イルトリエトキシシラン等の脂肪族炭化水素基を有する化合物、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ナフチルトリメトキシシラン、ナフチルトリエトキシシラン、アンスリルトリメトキシシラン、フェナンスリルトリメトキシシラン、ビフェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、トリフェニルメトキシシラン、メチルフェニルジメトキシシラン、2-メチルベンジルトリメトキシシラン、3-メチルベンジルトリメトキシシラン、4-メチルベンジルトリメトキシシラン等の芳香族炭化水素基を有する化合物、ヘキサメチルジシラザン等のシラザン系化合物等が挙げられる。
【0106】
チタンカップリング剤としては、メチルトリメトキシチタン、エチルトリエトキシチタン、n-プロピルトリメトキシチタン、i-プロピルトリエトキシチタン、n-ヘキシルトリメトキシチタン、シクロヘキシルトリエトキシチタン、フェニルトリメトキシチタン、3-クロロプロピルトリエトキシチタン、3-アミノプロピルトリメトキシチタン、3-アミノプロピルトリエトキシチタン、3-(2-アミノエチル)-アミノプロピルトリメトキシチタン、3-(2-アミノエチル)-アミノプロピルトリエトキシチタン、3-(2-アミノエチル)-アミノプロピルメチルジメトキシチタン、3-アニリノプロピルトリメトキシチタン、3-メルカプトプロピルトリエトキシチタン、3-イソシアネートプロピルトリメトキシチタン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシチタン、3-ウレイドプロピルトリメトキシチタンなどのトリアルコキシチタン類、ジメチルジエトキシチタン、ジエチルジエトキシチタン、ジ-n-プロピルジメトキシチタン、ジ-i-プロピルジエトキシチタン、ジ-n-ペンチルジメトキシチタン、ジ-n-オクチルジエトキシチタン、ジ-n-シクロヘキシルジメトキシチタン、ジフェニルジメトキシチタン等が挙げられる。
【0107】
ジルコニウム系カップリング剤としては、トリ-n-ブトキシ・エチルアセトアセテートジルコニウム、ジ-n-ブトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、n-ブトキシ・トリス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、テトラキス(n-プロピルアセトアセテート)ジルコニウム、テトラキス(アセチルアセトアセテート)ジルコニウム、テトラキス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、ジ-n-ブトキシ・ビス(アセチルアセトナート)ジルコニウム等が挙げられる。
【0108】
上記の中でも、特に反応性の官能基を有するシランカップリング剤が好ましい。なお、フィラーを表面修飾剤で表面修飾する方法は特に制限されず、例えば任意の溶媒にフィラーを分散させ、当該分散液内に表面修飾剤を添加して、撹拌した後に濾過等で溶媒を除去し、加熱乾燥する方法等とすることができる。フィラーを表面修飾剤で表面修飾する際には、フィラー100質量部に対して、表面修飾剤を0.1~5質量部程度添加して処理することが好ましい。
【0109】
〈その他の成分〉
重合性組成物には、活性エネルギー線の照射による立体造形物の形成を可能にし、かつ得られる立体造形物に強度のムラを顕著に生じさせない限りにおいて、光増感剤、重合阻害剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、染料や顔料等の色材、消泡剤、界面活性剤等の任意の添加剤が更に含まれていてもよい。
【0110】
〈重合性組成物の調製方法〉
重合性組成物は、光重合性化合物、難燃剤及び難燃剤保護剤と、必要に応じて、熱重合性化合物、フィラー、光重合開始剤、硬化剤、硬化促進剤等を任意の順で混合することで調製できる。
【0111】
重合性組成物の混合に用いられる装置としては公知のものを使用できる。例えば、ウルトラタラックス(IKAジャパン社製)、TKホモミクサー(プライミクス社製)、TKパイプラインホモミクサー(プライミクス社製)、TKフィルミックス(プライミクス社製)、クレアミックス(エム・テクニック社製)、クレアSS5(エム・テクニック社製)、キャビトロン(ユーロテック社製)、ファインフローミル(太平洋機工社製)のようなメディアレス撹拌機、ビスコミル(アイメックス製)、アペックスミル(寿工業社製)、スターミル(アシザワ、ファインテック社製)、DCPスーパーフロー(日本アイリッヒ社製)、エムピーミル(井上製作所社製)、スパイクミル(井上製作所社製)、マイティーミル(井上製作所社製)、SCミル(三井鉱山社製)などのメディア攪拌機等やアルティマイザー(スギノマシン社製)、スターバースト(スギノマシン社製)、ナノマイザー(吉田機械社製)、NANO 3000(美粒社製)などの高圧衝撃式分散装置が挙げられる。
また、あわとり練太郎(シンキー社製)やカクハンター(写真化学社製)等の自転公転ミキサーや、ハイビスミックス(プライミクス社製)、ハイビスディスパー(プライミクス社製)等の遊星式混合機、Nanoruptor(ソニック・バイオ社製)等の超音波分散装置も好適に用いることが可能である。
【0112】
〈立体造形物の製造方法〉
本発明の立体造形物の製造方法としては、少なくとも下記工程を有する方法が挙げられる。
【0113】
工程(a):酸素及び活性エネルギー線を透過する基材を介して、重合性組成物を含む造形槽中に酸素を供給する工程
工程(b):酸素により重合性組成物の効果が阻害されるバッファ領域を透過した活性エネルギー線を、酸素の濃度がより低く重合性組成物が硬化可能な硬化領域に選択的に照射して、重合性組成物を硬化する工程
工程(c):硬化した重合性組成物を移動させながら活性エネルギー線を連続的に照射して、重合性組成物が硬化してなる造形物を立体的かつ連続的に形成する工程
【0114】
なお、工程(c)に続けて、更に活性エネルギー線を照射する工程を有していてもよい。また、重合性組成物中に熱重合性化合物が含まれている場合には、工程(c)に続けて、不要な樹脂等を洗浄等により取り除いた後、加熱し、熱重合性化合物を熱硬化させる工程を有していてもよい。
【0115】
以下、本発明の立体造形物の製造方法に用いることのできる立体造形物の製造装置について説明する。
【0116】
(製造装置)
図1に示すとおり、立体造形物の製造装置1は、液体状の重合性組成物10を貯留可能な造形槽20と、上下方向(深さ方向)に往復移動可能な造形ステージ30と、活性エネルギー線を照射するための光源40とを備えて構成されている。
【0117】
造形槽20の底部には、重合性組成物10を透過させず、活性エネルギー線及び酸素を透過させる基材21が設けられている。
基材21としては、上記のように重合性組成物10を透過させず、活性エネルギー線及び酸素を透過させる性質を有するものであれば特に限定はされないが、例えば、TEFLON(登録商標) AF 1600フルオロポリマーフィルム、TEFLON(登録商標) AF 2400フルオロポリマーフィルムのような非晶質の熱可塑性フルオロポリマー等のフルオロポリマーフィルム、パーフルオロポリエーテル(PFPE)、特に架橋PFPEフィルム、架橋シリコーンポリマーフィルム等が挙げられる。
造形槽20は、製造しようとする立体造形物よりも広い幅を有し、収容可能かつ重合性組成物と相互作用しないものであれば、その材質等は特に制限されない。
【0118】
光源40としては、公知のものを使用することができる。光源40から照射される、光重合性化合物を重合させる活性エネルギー線としては、紫外線、X線、電子線、γ線、可視光線等が挙げられる。
光源40から照射される活性エネルギー線の照射強度は、1~200mW/cm2の範囲内であることが、光重合性成分の硬化、重合阻害層の厚さ及び樹脂の流動性等の観点から好ましい。
また、光源40に液晶パネルやデジタルミラーデバイス(DMD)等の空間光変調器(Spatial Light Modulator:SLM)41を有するSLM投影光学系を用いてもよい。これにより、活性エネルギー線を所望の領域に面照射することができる。
【0119】
上述した立体造形物の製造装置1においては、以下のようにして立体造形物が製造される。
まず、造形槽20に重合性組成物10を充填する。そして、造形槽20の底部に設けられた基材21を介して、造形槽20中の重合性組成物10側に酸素を導入する。これにより、導入された酸素が、上向きの矢印14の方向に酸素の濃度が低下していくとともに、酸素の濃度が所定の濃度以上となる領域がバッファ領域11となり、酸素の濃度が所定の濃度未満の領域は硬化領域12となる。
【0120】
酸素の導入方法は、重合性組成物10を収容した造形槽20において上述したような酸素の濃度勾配を形成することができれば、特に制限されない。例えば、
図2に示すように、基材21の下側にある酸素の流路13に酸素を供給し基材21の外側(流路13側)を酸素濃度が高い雰囲気とし、当該雰囲気に圧力をかける方法とすることができる。これにより、基材21の下側にある酸素の流路13に供給された酸素が、流路13から基材21を介して重合性組成物10側に拡散していくことから、重合性組成物10を収容した造形槽20にいては、
図2に示したように酸素の濃度勾配が形成される。
この際、造形槽20中への酸素の透過流束を3.4×10
3~170×10
3kmol/(s・m
2)の範囲内とすることが好ましい。酸素の透過流束が3.4×10
3kmol/(s・m
2)以上であれば、樹脂の流動層となる硬化阻害層を得ることができ、170×10
3kmol/(s・m
2)以下であれば、硬化阻害層を介して十分に樹脂を硬化させることができる。
なお、造形槽20中への酸素の透過流束は、下式により求めることができる。
【0121】
透過流束(kmol/(s・m2))
=透過係数(kmol・m/(s・m2・kPa))×圧力差(kPa)/厚さ(m)
【0122】
このように基材21を介して造形槽20内に酸素が供給されることにより、重合性組成物10の基材21側の領域は、酸素濃度が上昇し、活性エネルギー線が照射されても光重合性化合物が硬化しないバッファ領域11となる。一方で、バッファ領域11より上側の領域は、酸素が重合性組成物10中に拡散することにより、酸素濃度がバッファ領域11より十分に低くなり、活性エネルギー線の照射によって光重合性化合物が硬化可能な硬化領域12となる。
【0123】
続いて、光源40から照射される活性エネルギー線を、造形槽20の下方から硬化領域12に選択的に照射して、重合性組成物10(光重合性化合物)を硬化させる。より具体的には、造形ステージ30を、硬化領域12とバッファ領域11との界面近傍に配置し、バッファ領域11側に配置された光源40から造形ステージ30の底面側に向かって、選択的に活性エネルギー線を照射する。これにより、造形ステージ30の底面近傍(硬化領域12)の光重合性化合物が硬化して、立体造形物の最上部が形成される。
【0124】
その後、造形ステージ30を上昇(バッファ領域11から離れる方向に移動)させる。これにより、造形槽20底部側の硬化領域12に、未硬化の重合性組成物10が新たに供給される。そして、造形ステージ30及び硬化物50を連続的に上昇させながら、光源40から活性エネルギー線を連続的かつ選択的(硬化させる領域)に照射する。これにより、造形ステージ30底面から造形槽20の底部側にかけて硬化物が連続して形成され、継ぎ目がなく、強度の高い立体造形物が製造される。
【0125】
その後、立体造形物に対し、必要に応じて、更に活性エネルギー線を照射してもよい。活性エネルギー線の照射は、所望の範囲のみに行ってもよく、立体造形物全体に対して行ってもよい。このように、活性エネルギー線の照射を行うと、立体造形物内部の光重合性化合物の重合性が高まり、得られる立体造形物の反りが抑制されやすくなる。
なお、造形中に造形ステージ30を上下方向(深さ方向)以外の方向に移動させると、造形槽20内の重合性組成物に浸漬している立体造形物の下方部が、液の抵抗を受けて本来あるべき位置からずれる可能性が生じることから、造形ステージ30を上下方向(深さ方向)方向においてのみ移動させることが好ましい。ただし、立体造形物の精度の低下が許容され、又は他の手段と併用することによって立体造形物の精度を担保することが可能な場合は、上下方向(深さ)以外の方向において造形ステージ30を移動させながら立体造形を行うことも可能である。例えば、造形ステージ30を、上下方向(深さ)方向に加えて、上下方向(深さ)に垂直な面(基材21に平行な面)においても移動させることも可能である。
【0126】
また、重合性組成物中に熱重合性化合物が含まれる場合には、立体造形物を公知の方法で加熱し、硬化させる。加熱する際には、立体造形物が変形しない温度とすることが好ましく、例えば、光重合性化合物のガラス転移温度(Tg)より低い温度とすることが好ましい。
【実施例】
【0127】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0128】
《重合性組成物の調製》
光重合性化合物を含む光重合性液体、難燃剤、難燃剤保護剤、熱重合性化合物を含む熱重合性液体及びフィラーを表Iに記載の組成となるように混合し、その混合物を遊星方式混練機(プライミクス社製ハイビスミックス2P-1)により、公転速度60rpm、自転速度180rpmで5分間混練することにより、重合性組成物1~19を調製した。
なお、表I中における光重合性液体A~C、難燃剤A~D、難燃剤保護剤A~D、熱重合性液体A~D及びフィラーは、以下に示すとおりである。
【0129】
(光重合性液体)
A:光重合性化合物としてのウレタンジアクリレート(Sartomer社製、CN983)100質量部と、重合開始剤としての1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン(BASF社製、IRGACURE184)1質量部との混合物
B:光重合性化合物としてのトリメチルプロパントリアクリレート100質量部と、重合開始剤としての1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン(BASF社製、IRGACURE184)1質量部との混合物
C:光重合性化合物としてのシリコーンアクリレート(Bluestar Silicones社製、UV RCA170)100質量部と、重合開始剤としての2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン(BASF社製、IRGACURE907)1質量部との混合物
【0130】
(難燃剤)
A:ハロゲン系難燃剤であるファイアカットP-801(鈴裕化学社製)
B:リン系難燃剤であるヒシガードセレクトN-6ME(日本化学工業社製)
C:窒素系難燃剤であるメラミンシアヌレートMC-4000(日産化学工業社製)
D:金属水酸化物系難燃剤として水酸化マグネシウム キスマ5E(協和化学工業社製)
【0131】
(難燃剤保護剤)
A:フェノール系酸化防止剤であるアデカスタブAO-20(ADEKA社製)
B:ホスファイト系酸化防止剤であるアデカスタブPEP-36(ADEKA社製)
C:チオール系酸化防止剤であるスミライザーTPM(住友化学社製)
D:アミン系光安定剤であるアデカスタブLA-52(ADEKA社製)
【0132】
(熱重合性液体)
A(エポキシ):熱重合性化合物としてのポリ[2-(クロロメチル)オキシラン-alt-4,4′-(プロパン-2,2-ジイル)ジフェノール](Huntsman社製、Araldite 506)55質量部と、硬化剤としての4,4′-メチレンビス(2,6-ジメチルアニリン)45質量部との混合物
B(ウレタン):熱重合性化合物としてのポリ(プロピレングリコール)ビス(2-アミノプロピルエーテル)50質量部と、硬化剤としての2,2′-ジメチル-4,4′-メチレンビス(シクロヘキサン-1-イルアミン)50質量部との混合物
C(シリコーン):付加硬化型シリコーンKE-1056(信越化学工業社製)
D(シアネートエステル):熱重合性化合物としての1,1-ビス(4-シアナトフェニル)エタン100質量部と、硬化剤としての亜鉛(II)アセチルアセトナート一水和物を1500ppm含有するイソボルニルアクリレート溶液5質量部との混合物
【0133】
(フィラー)
フィラーとして、以下の多糖類ナノファイバーを用いた。
スギノマシン社製のセルロースナノファイバー2質量%分散液であるBiNFi-s 1000gをスターラーで撹拌しながら、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業社製、KBE-9007)を0.3g添加した。その後、20分間撹拌を続け、エタノールで溶媒置換を行い、多糖類ナノファイバーを得た。
【0134】
《テストピースの作製》
調製した重合性組成物1~19を用いて、テストピース(立体造形物)1~19を作製した。
【0135】
テストピースの作製には、
図1に示す製造装置1を用いた。造形槽20の底部には、基材21として、重合阻害剤である酸素の透過が可能なBiogeneral社製の64μm厚のTeflon(登録商標)AF2400フィルムを配置した。
この64μm厚のAF2400フィルムの酸素透過率を日立分光社製Gasperm-100で測定し、酸素透過係数を算出したところ、0.005kmol・m/(s・m
2・kPa)であった。
【0136】
そして、造形槽20の底部から44kPaの加圧下で酸素を供給することにより、基材21上に、重合性組成物10及び酸素を含むバッファ領域11が形成され、バッファ領域11より上部に、バッファ領域11より酸素濃度が低い硬化領域12が形成された。
なお、酸素の透過流束は、3.4×103kmol/(s・m2)である。
【0137】
そして、光源40として紫外線源:LEDプロジェクタ(Texas Instruments社製のDLP(VISITECH LE4910H UV-388))から光を面状に照射しながら造形ステージ30を上昇させることにより、燃焼試験用テストピース、引張試験用テストピース及び荷重たわみ温度測定用テストピースを作製した。このとき、紫外線の照射強度は、1mW/cm2とした。また、造形ステージ30の引き上げ速度は、50mm/hrとした。
【0138】
なお、テストピース16の作製においては、加圧条件を2150kPaとし、紫外線の照射強度を200mWcm2とした。このときの酸素の透過流束は、168×103kmol/(s・m2)である。
【0139】
また、テストピース9~16の作製では、得られたテストピースをイソプロピルアルコールで洗浄した後、オーブン中で120℃で4時間加熱を行った後、更に150℃で4時間、更に180℃で4時間の加熱処理を行った。
テストピース17及び18の作製では、得られたテストピースをイソプロピルアルコールで洗浄した後、オーブン中で120℃で8時間加熱処理を行った。
テストピース19の作製では、得られたテストピースをイソプロピルアルコールで洗浄した後、オーブン中で、120℃で4時間加熱を行った後、更に150℃で4時間、更に180℃で4時間、更に220℃で4時間の加熱処理を行った。
【0140】
また、燃焼試験用テストピースは、125mm×13mm×1.5mmの短冊状のテストピースを長手方向が造形方向(造形ステージ30の引き上げ方向)となるように光造形を行った。
引張試験用テストピースは、JIS K 7161-2(ISO 527-2) 1A型の引張試験用テストピースを長手方向が造形方向となるように光造形を行った。
荷重たわみ温度測定用テストピースは、80mm×10mm×4mmのテストピースを長手方向が造形方向となるように光造形を行った。
【0141】
《評価》
得られたテストピース1~19について、下記各評価を行った。
評価結果を表Iに示す。
【0142】
〈燃焼性の評価〉
燃焼試験用テストピースを用い、UL-94の試験方法により燃焼試験を実施し、下記評価基準に従って燃焼性を評価した。
【0143】
○:V-0を達成した
△:HBを達成したが、V-0を達成できなかった
×:HBを達成できなかった
【0144】
〈引張強度の評価〉
引張試験用テストピースについて、JIS K 7161-1に準拠し、下記評価基準に従って引張強度を評価した。このとき、掴み具間の距離は115mm、試験速度は5mm/分とした。そして、破断時の応力を試験片の断面積で割った値を引張強度として算出した。
【0145】
◎:150MPa≦引張強度
○:40MPa≦引張強度<150MPa
△:10MPa≦引張強度<40MPa
【0146】
〈荷重たわみ温度の測定〉
荷重たわみ温度測定用テストピースについて、ISO75-1及び2に準拠し、東洋精機製作所製熱ひずみ測定装置を使用して、フラットワイズ方式にて支点間距離64mm、曲げ応力0.45MPaで荷重たわみ温度を測定し、下記評価基準に従って評価した。
【0147】
◎:150℃以上
○:50℃以上、150℃未満
【0148】
【0149】
表Iから明らかなように、本発明の重合性組成物を用いたテストピースは、比較例のテストピースと比べて、優れた引張強度及び荷重たわみ温度を有しつつ、燃焼性に優れていることが分かる。
具体的には、難燃剤保護材を含まない重合性組成物1を用いて作製したテストピース1と、難燃剤を含まない重合性組成物2を用いて作製したテストピース2とに比べて、難燃剤と難燃剤保護材との両方を含む重合性組成物3~19を用いて作製したテストピース3~19は、難燃性が向上した。難燃剤保護材が存在すると、重合性組成物が、酸素の存在下で比較的強度の高い活性エネルギー線(紫外線)に照射されたとしても、難燃剤の分解又は酸化が抑制され、難燃剤はその機能を十分に果たすことが可能となる。
【0150】
特に、テストピース3~8からも分かるように、難燃剤がハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤、又は窒素系難燃剤であり、難燃剤保護剤がアミン系光安定剤である場合、重合性組成物中の樹脂成分(光重合性化合物、熱重合性化合物)100質量部に対して、難燃剤を2~20質量部含有し、難燃剤保護剤を0.1~5質量部含有するもの(テストピース4、5、7及び8)は、難燃剤の分解又は酸化を防止することと、難燃剤又は難燃剤保護材の添加による機械強度の低下を防止することを同時に実現することができる。なお、テストピース17についても同様である。
【0151】
また、熱重合性化合物を更に含有する重合性組成物9~19を用いて作製したテストピース9~19は、熱重合性化合物の熱重合により、より高い耐熱性を有する重合体が形成されるため、立体造形物の耐熱性が更に向上した。
特に、テストピース9~14からも分かるように、難燃剤が金属水酸化物系難燃剤であり、難燃剤保護剤がフェノール系酸化防止剤、ホスファイト系酸化防止剤又はチオール系酸化防止剤である場合、重合性組成物中の樹脂成分(光重合性化合物、熱重合性化合物)100質量部に対して、難燃剤を5~50質量部含有し、難燃剤保護剤を0.1~5質量部含有するもの(テストピース10、11、13及び14)は、難燃剤の分解又は酸化を防止することと、難燃剤又は難燃剤保護材の添加による機械強度の低下を防止することを同時に実現することができる。なお、テストピース18及び19についても同様である。
また、テストピース15及び16からも分かるように、フィラーを更に含有する重合性組成物16を用いて作製したテストピース16は、フィラーの補強効果により立体造形物の機械強度が更に向上した。
【0152】
以上から、液体状の光重合性化合物と、難燃剤と、難燃剤保護剤とを含有することが、難燃性に優れた立体造形物を製造可能とする重合性組成物及び立体造形物の製造方法を提供することに有用であることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0153】
本発明の重合性組成物は、難燃性に優れる立体造形物を製造可能とする重合性組成物であり、継ぎ目がなく強度の高い立体造形物を製造することができる。
【符号の説明】
【0154】
1 製造装置
10 重合性組成物
11 バッファ領域
12 硬化領域
13 酸素の流路
14 重合性組成物を収容した造形槽における酸素の濃度変化方向を示す矢印
15 酸素の流路内における酸素の移動方向を示す矢印
20 造形槽
21 基材
30 造形ステージ
40 光源
41 空間光変調器
50 硬化物