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特許7166336統計的共重合体ラテックス及びその用途、並びに、重合体ラテックスの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-27
(45)【発行日】2022-11-07
(54)【発明の名称】統計的共重合体ラテックス及びその用途、並びに、重合体ラテックスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 11/02 20060101AFI20221028BHJP
   C08K 5/18 20060101ALI20221028BHJP
   C08F 36/18 20060101ALI20221028BHJP
   C08F 20/42 20060101ALI20221028BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20221028BHJP
   C09J 109/04 20060101ALI20221028BHJP
   C09J 111/02 20060101ALI20221028BHJP
【FI】
C08L11/02
C08K5/18
C08F36/18
C08F20/42
C09J11/06
C09J109/04
C09J111/02
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020517043
(86)(22)【出願日】2019-04-16
(86)【国際出願番号】 JP2019016241
(87)【国際公開番号】W WO2019211974
(87)【国際公開日】2019-11-07
【審査請求日】2021-12-27
(31)【優先権主張番号】P 2018088896
(32)【優先日】2018-05-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【弁理士】
【氏名又は名称】中塚 岳
(74)【代理人】
【識別番号】100160897
【弁理士】
【氏名又は名称】古下 智也
(72)【発明者】
【氏名】小野塚 正雄
(72)【発明者】
【氏名】西野 渉
(72)【発明者】
【氏名】大貫 俊
(72)【発明者】
【氏名】山岸 宇一郎
(72)【発明者】
【氏名】萩原 尚吾
【審査官】岡部 佐知子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/008509(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/133193(WO,A1)
【文献】特開平11-021317(JP,A)
【文献】特開2006-265302(JP,A)
【文献】特開平03-059043(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/16
C08F 36/18
C08F 20/42
C09J 11/06
C09J 109/04
C09J 111/02
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不飽和ニトリル単量体単位含有量が5~20質量%である、クロロプレン単量体単位と不飽和ニトリル単量体単位とを含む統計的共重合体ラテックスであって、
前記統計的共重合体ラテックスをテトラヒドロフラン溶液で希釈し、ガスクロマトグラフにより測定された老化防止剤の含有量が、前記統計的共重合体ラテックス100質量%に対して1.0~6.0質量%であり、前記統計的共重合体ラテックスを14000回転/分で20分間遠心分離処理した後の液面サンプリング液と底面サンプリング液中の老化防止剤濃度の比(液面サンプリング液/底面サンプリング液)が0.6~1.2であり、
前記老化防止剤が、N-フェニル-1-ナフチルアミン、アルキル化ジフェニルアミン、オクチル化ジフェニルアミン、4,4’-ビス(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、p-(p-トルエンスルホニルアミド)ジフェニルアミン、N,N’-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジフェニル-p-フェニレンジアミン、N-フェニル-N’-イソプロピル-p-フェニレンジアミン、N-フェニル-N’-(1,3-ジメチルブチル)-p-フェニレンジアミン、及び、N-フェニル-N’-(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロピル)-p-フェニレンジアミンからなる群より選ばれる少なくとも一種を含む、統計的共重合体ラテックス。
【請求項2】
前記統計的共重合体ラテックスを室温乾燥させて得た重合体を、JISK6251に準拠して測定した140℃、24時間熱処理後の破断伸びが、500%以上である、請求項1に記載の統計的共重合体ラテックス。
【請求項3】
前記統計的共重合体ラテックスを用いたレゾルシン(R)/ホルマリン(F)/ラテックス(L)=10/5/85(質量比)のRFL接着剤を室温乾燥させて得たRFLフィルムをJISK6251に準拠して測定した140℃で24時間熱処理後の破断伸びが、150%以上である、請求項1又は2に記載の統計的共重合体ラテックス。
【請求項4】
揮発性有機溶媒の含有量が200ppm以下である、請求項1からのいずれか一項に記載の統計的共重合体ラテックス。
【請求項5】
前記統計的共重合体ラテックスを室温乾燥させて得た重合体を、JISK6258に準拠して測定した、140℃、72時間エンジンオイルに浸漬後の体積変化率(ΔV)および重量変化率(ΔW)の値が-10~+10%の範囲内である、請求項1からのいずれか一項に記載の統計的共重合体ラテックス。
【請求項6】
前記統計的共重合体ラテックスを用いたレゾルシン(R)/ホルマリン(F)/ラテックス(L)=10/5/85(質量比)のRFL接着剤を室温乾燥させて得たRFLフィルムをJIS K6258に準拠して測定した、140℃で72時間エンジンオイルに浸漬後の体積変化率(ΔV)および重量変化率(ΔW)の値が-10~+10%の範囲内である、請求項1からのいずれか一項に記載の統計的共重合体ラテックス。
【請求項7】
RFL接着剤、浸漬製品、接着剤、又はフィルムに用いられる、請求項1からのいずれか一項に記載の統計的共重合体ラテックス。
【請求項8】
請求項1からのいずれか一項に記載の統計的共重合体ラテックスを用いた、RFL接着剤、浸漬製品、接着剤、又はフィルム。
【請求項9】
少なくともクロロプレン単量体を用いて乳化重合を行う重合工程と、
老化防止剤を含む有機溶媒溶液の水乳化液を添加する老化防止剤添加工程と、
を含む重合体ラテックスの製造方法であって、
前記老化防止剤は実質的に水乳化液により添加されると共に、N-フェニル-1-ナフチルアミン、アルキル化ジフェニルアミン、オクチル化ジフェニルアミン、4,4’-ビス(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、p-(p-トルエンスルホニルアミド)ジフェニルアミン、N,N’-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジフェニル-p-フェニレンジアミン、N-フェニル-N’-イソプロピル-p-フェニレンジアミン、N-フェニル-N’-(1,3-ジメチルブチル)-p-フェニレンジアミン、及び、N-フェニル-N’-(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロピル)-p-フェニレンジアミンからなる群より選ばれる少なくとも一種を含み、
前記重合体ラテックスをテトラヒドロフラン溶液に希釈し、ガスクロマトグラフにより測定された老化防止剤の含有量が、前記重合体ラテックス100質量%に対して1.0~6.0質量%であり、前記重合体ラテックスを14000回転/分で20分間遠心分離した後の液面サンプリング液と底面サンプリング液中の老化防止剤濃度の比(液面サンプリング液/底面サンプリング液)が0.6~1.2である、重合体ラテックスの製造方法。
【請求項10】
乳化重合反応停止時に、老化防止剤を含む有機溶媒溶液と重合禁止剤と界面活性剤水溶液とを混合した水乳化液を添加し、
前記重合禁止剤が、チオジフェニルアミン、4-tert-ブチルカテコール、2,2-メチレンビス-4-メチル-6-ターシャリーブチルフェノール、及び、ジエチルヒドロキシルアミンからなる群より選ばれる少なくとも一種を含む、請求項に記載の重合体ラテックスの製造方法。
【請求項11】
前記老化防止剤添加工程後に、前記有機溶媒を除去する有機溶媒除去工程と、を含む、請求項又は10に記載の重合体ラテックスの製造方法。
【請求項12】
前記重合工程では、クロロプレン単量体と不飽和ニトリル単量体とを用いた乳化重合が行われる、請求項から11のいずれか一項に記載の重合体ラテックスの製造方法。
【請求項13】
前記重合工程では、重合反応開始後にクロロプレン単量体を連続添加又は10回以上間欠分添する、請求項12記載の重合体ラテックスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、統計的共重合体ラテックス及びその用途、並びに、重合体ラテックスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クロロプレン重合体ラテックスの耐熱性を改良するために、老化防止剤を添加する方法は古くから一般的な手法として使われている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
老化防止剤の多くは室温で固体であり、添加方法に工夫を要す。具体的な添加方法としては、(1)直接添加する方法、(2)界面活性剤を用いて水分散液として添加する方法、(3)有機溶媒に溶解してから添加する方法、の3つの方法が従来技術として知られている(特許文献2参照)。
【0004】
例えば、前記特許文献1や特許文献3では、前記(2)界面活性剤を用いて水分散液として添加する方法を用いて、老化防止剤を添加している。この方法は、簡便性等の観点から、クロロプレン重合体ラテックスの製造方法における老化防止剤と添加方法としては、最も一般的な添加方法である。
【0005】
また、特許文献4では、ゴムラテックスの製造において、前記(2)界面活性剤を用いて水分散液として添加する方法と、前記(3)有機溶媒に溶解してから添加する方法を、組み合わせて、老化防止剤を添加する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭48-178号公報
【文献】特開2000-256512号公報
【文献】特開2007-270057号公報
【文献】WO2008/117620
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述の通り、ゴムラテックスの製造において、老化防止剤の添加方法としては、概ね3つの方法が用いられているが、クロロプレン重合体ラテックスの製造においては、一般的に、前記(1)直接添加する方法、又は、(2)界面活性剤を用いて水分散液として添加する方法が用いられている。
【0008】
しかし、(1)直接添加する方法では、老化防止剤が非水溶性の場合、ラテックス中に分散、溶解できず、凝集物として析出、沈降してしまうという問題があった。
【0009】
また、(2)界面活性剤を用いて水分散液として添加する方法では、前記(1)の課題である非水溶性の老化防止剤もラテックスに添加することができるが、老化防止剤の水分散液の粒子径とラテックスの粒子径の差が大きいと、ラテックス中の老化防止剤の水分散安定性が悪くなり、ラテックスと老化防止剤が分離するという問題があった。また、ラテックス中の粒子の沈降速度は、ストークスの法則に従い、粒子径の二乗に比例し、粘度に反比例するため、粘度が低いラテックスで、老化防止剤の水分散液の粒子径が特に大きい場合、老化防止剤が多く沈降してしまうという問題があった。
【0010】
このように、ラテックス中で老化防止剤が沈降してしまうと、得られる皮膜等の耐熱試験時における破断伸び等の物性が低下するという問題がある。
【0011】
そこで、本発明は、クロロプレン重合体ラテックス中での老化防止剤の分散安定性を向上させ、該クロロプレン重合体ラテックスを乾燥させた際の耐熱性を向上させる技術を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)不飽和ニトリル単量体単位含有量が5~20質量%である、クロロプレン単量体単位と不飽和ニトリル単量体単位とを含む統計的共重合体ラテックスであって、
前記統計的共重合体ラテックスをテトラヒドロフラン溶液で希釈し、ガスクロマトグラフにより測定された老化防止剤の含有量が、前記統計的共重合体ラテックス100質量%に対して1.0~6.0質量%であり、前記統計的共重合体ラテックスを14000回転/分で20分間遠心分離処理した後の液面サンプリング液と底面サンプリング液中の老化防止剤濃度の比(液面サンプリング液/底面サンプリング液)が0.6~1.2である、統計的共重合体ラテックス。
(2)前記統計的共重合体ラテックスを室温乾燥させて得た重合体を、JIS K6251に準拠して測定した140℃、24時間熱処理後の破断伸びが、500%以上である、(1)に記載の統計的共重合体ラテックス。
(3)前記統計的共重合体ラテックスを用いたレゾルシン(R)/ホルマリン(F)/ラテックス(L)=10/5/85(質量比)のRFL接着剤を室温乾燥させて得たRFLフィルムをJIS K6251に準拠して測定した140℃で24時間熱処理後の破断伸びが、150%以上である、(1)又は(2)に記載の統計的共重合体ラテックス。
(4)前記老化防止剤が芳香族二級アミン系の老化防止剤である、(1)から(3)のいずれか一項に記載の統計的共重合体ラテックス。
(5)揮発性有機溶媒の含有量が200ppm以下である、(1)から(4)のいずれか一項に記載の統計的共重合体ラテックス。
(6)前記統計的共重合体ラテックスを室温乾燥させて得た重合体を、JIS K6258に準拠して測定した、140℃、72時間エンジンオイルに浸漬後の体積変化率(ΔV)および重量変化率(ΔW)の値が-10~+10%の範囲内である、(1)から(5)のいずれか一項に記載の統計的共重合体ラテックス。
(7)前記統計的共重合体ラテックスを用いたレゾルシン(R)/ホルマリン(F)/ラテックス(L)=10/5/85(質量比)のRFL接着剤を室温乾燥させて得たRFLフィルムをJIS K6258に準拠して測定した、140℃で72時間エンジンオイルに浸漬後の体積変化率(ΔV)および重量変化率(ΔW)の値が-10~+10%の範囲内である、(1)から(6)のいずれか一項に記載の統計的共重合体ラテックス。
(8)RFL接着剤、浸漬製品、接着剤、又はフィルムに用いられる、(1)から(7)のいずれか一項に記載の統計的共重合体ラテックス。
(9)(1)から(7)のいずれか一項に記載の統計的共重合体ラテックスを用いた、RFL接着剤、浸漬製品、接着剤、又はフィルム。
(10)少なくともクロロプレン単量体単位を用いて乳化重合を行う重合工程と、
老化防止剤を含む有機溶媒溶液の水乳化液を添加する老化防止剤添加工程と、
を含む重合体ラテックスの製造方法であって、
前記老化防止剤は実質的に水乳化液により添加され、
前記重合体ラテックスをテトラヒドロフラン溶液に希釈し、ガスクロマトグラフにより測定された老化防止剤の含有量が、前記重合体ラテックス100質量%に対して1.0~6.0質量%であり、前記重合体ラテックスを14000回転/分で20分間遠心分離した後の液面サンプリング液と底面サンプリング液中の老化防止剤濃度の比(液面サンプリング液/底面サンプリング液)が0.6~1.2である、重合体ラテックスの製造方法。(11)乳化重合反応停止時に、老化防止剤を含む有機溶媒溶液と重合禁止剤と界面活性剤水溶液とを混合した水乳化液を添加する、(10)に記載の重合体ラテックスの製造方法。
(12)前記老化防止剤添加工程後に、前記有機溶媒を除去する有機溶媒除去工程と、を含む、(10)又は(11)に記載の重合体ラテックスの製造方法。
(13)前記重合工程では、クロロプレン単量体単位と不飽和ニトリル単量体単位とを用いた乳化重合が行われる、(10)から(12)のいずれか一項に記載の重合体ラテックスの製造方法。
(14)前記重合工程では、重合反応開始後にクロロプレン単量体を連続添加又は10回以上間欠分添する、(13)記載の重合体ラテックスの製造方法。
(15)クロロプレン単量体単位と不飽和ニトリル単量体単位とを用いて乳化重合を行う重合工程と、重合反応開始後にクロロプレン単量体を連続添加又は10回以上間欠分添する工程と、
重合反応停止時に、芳香族二級アミン系老化防止剤を含む有機溶媒溶液と重合禁止剤と界面活性剤水溶液とを混合した水乳化液を添加する工程と、
前記有機溶媒を除去する工程と、を含み、
前記老化防止剤は実質的に水乳化液により添加される方法で得られ、
不飽和ニトリル単量体単位含有量が5~20質量%である統計的共重合体ラテックス。
なお、本明細書で室温とは、特に断りがある場合を除いて23℃のことを示す。
【0013】
すなわち、本発明は、まず、不飽和ニトリル単量体単位の含有量が5~20質量%、好ましくは6~17質量%である、クロロプレン単量体単位と不飽和ニトリル単量体単位とを含む統計的共重合体ラテックスであって、
前記統計的共重合体ラテックスをテトロヒドロフラン溶液で希釈し、ガスクロマトグラフにより測定された老化防止剤の含有量が、前記統計的共重合体ラテックス100質量%に対して1.0~6.0質量%、好ましくは1.0~4.5質量%であり、前記統計的共重合体ラテックスを14000回転/分で20分間遠心分離した後の液面サンプリング液と底面サンプリング液中の老化防止剤濃度の比(液面サンプリング液/底面サンプリング液)が0.6~1.2である、統計的共重合体ラテックスを提供する。
本発明に係る統計的共重合体ラテックスは、前記統計的共重合体ラテックスを室温乾燥させて得た重合体を、JIS K6251に準拠して測定した140℃、24時間熱処理後の破断伸びを、500%以上とすることができる。
本発明に係る統計的共重合体ラテックスは、前記統計的共重合体ラテックスを用いたレゾルシン(R)/ホルマリン(F)/ラテックス(L)=10/5/85(質量比)のRFL接着剤を室温乾燥させて得たRFLフィルムをJIS K6251に準拠して測定した140℃で24時間熱処理後の破断伸びを、150%以上とすることができる。
本発明では、前記老化防止剤として、芳香族二級アミン系の老化防止剤を用いることができる。
本発明に係る統計的共重合体ラテックスは、揮発性有機溶媒の含有量を200ppm以下とすることができる。
本発明に係る統計的共重合体ラテックスは、前記統計的共重合体ラテックスを室温乾燥させて得た重合体を、JIS K6258に準拠して測定した、140℃、72時間エンジンオイルに浸漬後の体積変化率(ΔV)および重量変化率(ΔW)の値を、-10~+10%の範囲内、好ましくは-5~+5%の範囲内とすることができる。
本発明に係る統計的共重合体ラテックスは、前記統計的共重合体ラテックスを用いたレゾルシン(R)/ホルマリン(F)/ラテックス(L)=10/5/85(質量比)のRFL接着剤を室温乾燥させて得たRFLフィルムをJIS K6258に準拠して測定した、140℃で72時間エンジンオイルに浸漬後の体積変化率(ΔV)および重量変化率(ΔW)の値を、-10~+10%の範囲内、好ましくは-5~+5%の範囲内とすることができる。
【0014】
本発明に係る統計的共重合体ラテックスは、RFL接着剤、浸漬製品、接着剤、又はフィルムに用いることができる。
【0015】
本発明では、次に、少なくともクロロプレン単量体単位を用いて乳化重合を行う重合工程と、
老化防止剤を含む有機溶媒溶液の水乳化液を添加する老化防止剤添加工程と、
を含む重合体ラテックスの製造方法であって、
前記老化防止剤は実質的に水乳化液により添加され、
前記重合体ラテックスをテトラヒドロフラン溶液で希釈し、ガスクロマトグラフにより測定された老化防止剤の含有量が、前記重合体ラテックス100質量%に対して1.0~6.0質量%であり、前記重合体ラテックスを14000回転/分で20分間遠心分離した後の液面サンプリング液と底面サンプリング液中の老化防止剤濃度の比(液面サンプリング液/底面サンプリング液)が0.6~1.2である、重合体ラテックスの製造方法を提供する。
本発明に係る重合体ラテックスの製造方法では、乳化重合反応停止時に、老化防止剤を含む有機溶媒溶液と重合禁止剤と界面活性剤水溶液とを混合した水乳化液を添加することができる。
本発明に係る重合体ラテックスの製造方法では、前記老化防止剤添加工程後に、前記有機溶媒を除去する有機溶媒除去工程と、を行うことができる。
本発明に係る重合体ラテックスの製造方法では、前記重合工程において、クロロプレン単量体単位と不飽和ニトリル単量体単位とを用いた乳化重合が行うことができる。
この場合、前記重合工程では、重合反応開始後にクロロプレン単量体を連続添加又は10回以上間欠分添することができる。
【0016】
本発明では、更に、クロロプレン単量体単位と不飽和ニトリル単量体単位とを用いて乳化重合を行う重合工程と、重合反応開始後にクロロプレン単量体を連続添加又は10回以上間欠分添する工程と、
重合反応停止時に、芳香族二級アミン系老化防止剤を含む有機溶媒溶液と重合禁止剤と界面活性剤水溶液とを混合した水乳化液を添加する工程と、
前記有機溶媒を除去する工程と、を含み、
前記老化防止剤は実質的に水乳化液により添加される方法で得られ、
不飽和ニトリル単量体単位含有量が5~20質量%である統計的共重合体ラテックスを提供する。
【0017】
なお、本発明において「JIS」とは、日本工業規格(Japanese Industrial Standards)を意味する。
【0018】
本発明において「統計的共重合体」は、J.C.Randall「POLYMER SEQUENCE DETERMINATION,Carbon-13 NMR Method」Academic Press,New York,1977,71-78ページに記述されているように、ベルヌーイの統計モデルにより、又は一次又は二次のマルコフの統計モデルにより、単量体連鎖分布が記述できる共重合体であることを意味する。また本実施形態のクロロプレン単量体単位と不飽和ニトリル単量体単位とを含む統計的共重合体は、特に限定されるものではないが、2元系の単量体から構成される場合、下記Mayo-Lewis式(I)において、クロロプレン単量体をM1とした時の反応性比r、rについて、rは0.3~3000の範囲、rは1×10-5~3.0の範囲をとることができる。さらに別な観点からは、本発明において「統計的共重合体」とは、複数種の単量体を用いラジカル重合により得られる共重合体である。本「統計的共重合体」は、実質的にランダムな共重合体を包含する概念である。
【0019】
【数1】
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、クロロプレン重合体ラテックス中での老化防止剤の分散安定性を向上させ、該クロロプレン重合体ラテックスを乾燥させた際の耐熱性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0022】
<統計的共重合体ラテックス>
本実施形態の統計的共重合体ラテックスは、クロロプレン単量体単位と不飽和ニトリル単量体単位とを含む統計的共重合体ラテックスである。
【0023】
統計的共重合体ラテックスの不飽和ニトリル含有量は、5~20質量%であり、好ましくは6~17質量%である。このような範囲とすることで、実用上有用な耐油性とゴムとしての機械的強度や低温特性を有するゴムを得るために好適な統計的共重合体が得られる。本範囲より不飽和ニトリル含有量が低いと耐油性が不足し、本範囲より高いとゴムとしての機械強度が低下し、あるいは低温圧縮永久ひずみ等の低温特性が低下する場合がある。
【0024】
統計的共重合体の分子構造には特に制限はないが、好ましくはトルエン不溶分が50~100質量%の範囲である。50質量%以上とすることにより、ラテックスを乾燥させた際の機械的強度の低下を防止することができる。
【0025】
本実施形態の統計的共重合体ラテックスとしては、例えば、クロロプレン-アクリロニトリル統計的共重合体ラテックス、クロロプレン-メタクリロニトリル統計的共重合体ラテックス、クロロプレン-エタクリロニトリル統計的共重合体ラテックス、クロロプレン-フェニルアクリロニトリル統計的共重合体ラテックスなどが挙げられる。これらの中でも、製造容易性や耐油性、機械的強度の観点からクロロプレン-アクリロニトリル統計的共重合体ラテックスが好ましい。
【0026】
本実施形態に係る統計的共重合体ラテックスは、テトラヒドロフラン溶液で希釈し、ガスクロマトグラフにより測定された老化防止剤の含有量が、前記統計的共重合体ラテックス100質量%に対して1.0~6.0質量%、好ましくは1.0~4.5質量%であり、前記統計的共重合体ラテックスを14000回転/分で20分間遠心分離した後の液面サンプリング液と底面サンプリング液中の老化防止剤濃度の比(液面サンプリング液/底面サンプリング液)が0.6~1.2である。
【0027】
本実施形態に係る統計的共重合体ラテックスは、液面サンプリング液と底面サンプリング液中の老化防止剤濃度の比がこの範囲内であるため、統計的共重合体ラテックス中の老化防止剤の分散性が良好である。その結果、統計的共重合体ラテックスを乾燥させた際の耐熱性を向上させることができる。
【0028】
具体的には、本実施形態に係る統計的共重合体ラテックスは、これを室温乾燥させて得た重合体を、JIS K6251に準拠して測定した140℃、24時間熱処理後の破断伸びが、500%以上であり、フィルムとした際の耐熱性が非常に高い。
【0029】
また、本実施形態に係る統計的共重合体ラテックスは、これを用いたレゾルシン(R)/ホルマリン(F)/ラテックス(L)=10/5/85(質量比)のRFL接着剤を室温乾燥させて得たRFLフィルムをJIS K6251に準拠して測定した140℃で24時間熱処理後の破断伸びが、150%以上であり、RFLフィルムとした際の耐熱性も非常に高い。
【0030】
更に、本実施形態に係る統計的共重合体ラテックスは、これを室温乾燥させて得た重合体を、JIS K6258に準拠して測定した、140℃、72時間エンジンオイルに浸漬後の体積変化率(ΔV)および重量変化率(ΔW)の値が、-10~+10%の範囲内、好ましくは-5~+5%の範囲内であり、フィルムとした際の耐油性も非常に高い。
【0031】
加えて、本実施形態に係る統計的共重合体ラテックスは、これを用いたレゾルシン(R)/ホルマリン(F)/ラテックス(L)=10/5/85(質量比)のRFL接着剤を室温乾燥させて得たRFLフィルムをJIS K6258に準拠して測定した、140℃で72時間エンジンオイルに浸漬後の体積変化率(ΔV)および重量変化率(ΔW)の値が、-10~+10%の範囲内、好ましくは-5~+5%の範囲内であり、RFLフィルムとした際の耐油性も非常に高い。
【0032】
本実施形態に用いることができる老化防止剤は、本技術の効果を損なわない限り、公知の老化防止剤を1種又は2種以上、自由に選択して用いることができる。例えば、フェノール系、イミダゾール系の老化防止剤を挙げることができる。この中でも、特に、本実施形態では、芳香族二級アミン系の老化防止剤を用いることが好ましい。本実施形態に用いることができる芳香族二級アミン系の老化防止剤も、本技術の効果を損なわない限り、公知の芳香族二級アミン系の老化防止剤を1種又は2種以上、自由に選択して用いることができ、例えば、N-フェニル-1-ナフチルアミン、アルキル化ジフェニルアミン、オクチル化ジフェニルアミン、4,4’-ビス(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、p-(p-トルエンスルホニルアミド)ジフェニルアミン、N,N’-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジフェニル-p-フェニレンジアミン、N-フェニル-N’-イソプロピル-p-フェニレンジアミン、N-フェニル-N’-(1,3-ジメチルブチル)-p-フェニレンジアミン、N-フェニル-N’-(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロピル)-p-フェニレンジアミン、などが挙げられる。
【0033】
本実施形態に係る統計的共重合体ラテックスは、揮発性有機溶媒の含有量を200ppm以下に設定することが好ましい。揮発性有機溶媒の含有量をこの範囲に抑えることで、人体への悪影響を防止し、また、環境負荷も低下させることができる。
【0034】
<統計的共重合体ラテックスの用途>
本実施形態の係る統計的共重合体ラテックスは、その高い耐熱性等を利用して、RFL接着剤、浸漬製品、接着剤、又はフィルムに好適に用いることができる。また、本実施形態の係る統計的共重合体ラテックスは、pHを調整し、常法の凍結凝固、水洗、熱風乾燥などの工程を経て統計的共重合体とした後、得られた統計的共重合体を、伝動ベルトやコンベアベルト、空気バネ、シール、パッキン、防振材、ホース、ゴムロール、ワイパー、ブーツ、ゴム引布、スポンジ製品、ゴムライニング等に用いられるゴム製品の材料として好適に使用することができる。
【0035】
(RFL接着剤、接着剤)
クロロプレン重合体ラテックスは、ゴムとの接着性を高めるために、補強用繊維を浸漬させて表面処理するRFL接着剤として用いられる。補強用繊維の用途先であるベルト用途では、接着性に加え、特に優れた耐久性が要求され、機械的強度や耐油性、耐熱性に対する需要が高い。したがって、更に優れた機械的強度や耐油性、耐熱性を示すクロロプレン重合体ラテックスの開発が切望されている。また、クロロプレン重合体ラテックスはコンタクト性を有し初期接着強度に優れるという特徴から、土木建築、合板、家具、靴、ウェットスーツ、自動車内装材など幅広い材料の接着剤として利用されている。これらの中でも、家具や自動車内装材の素材として汎用されるポリウレタンフォーム用の一液型接着剤としての需要が大幅に拡大している。特に自動車内装材用途では、自動車室内の温度上昇に耐えうる優れた耐熱性を有するクロロプレン重合体ラテックスの開発が望まれている。
【0036】
本実施形態の統計的共重合体ラテックスは、接着剤の耐熱性を高めることが可能である。これにより、従来のクロロプレン重合体ラテックスよりも優れたRFL接着剤や接着剤を製造することが可能である。
【0037】
(浸漬製品)
天然ゴムや、クロロプレン重合体、イソプレンゴム、ニトリルブタジエンゴムなどの合成ゴムを含むゴムラテックスは、医療用手術手袋、検査手袋、工業用手袋、風船、カテーテル、ゴム長靴、補強用繊維などの浸漬成形製品の原料として用いられる。特に医療用手術手袋や検査用手袋、工業用手袋、家庭用手袋用のゴムラテックスは、天然ゴムのアレルギーによるショック症状(アナフィラキシー)の問題を避けるために、クロロプレン重合体、イソプレンゴム、ニトリルブタジエンゴム、などの合成ゴムが好まれる。中でも、クロロプレン重合体は柔軟性や機械的強度のバランスに優れると共に、高い耐薬品性を示すことから、様々な薬品に耐性を持った工業用手袋用途として採用されている。近年では、高温環境下や低温環境下での使用に耐えうる耐薬品性手袋の需要が拡大しており、従来よりも優れた耐熱性を有するクロロプレン重合体ラテックスの開発が望まれている。
【0038】
本実施形態の統計的共重合体ラテックスは、浸漬製品の耐熱性を高めることが可能である。これにより従来のCRでは困難であった高温環境下での使用に耐えうる工業用手袋を製造することが可能である。
【0039】
(伝動ベルト及びコンベアベルト)
伝動ベルト及びコンベアベルトは、具体的には、平ベルト、コンベアベルト、タイミングベルト、Vベルト、リブベルト、丸ベルトなどがある。本実施形態の統計的共重合体は、伝動ベルト及びコンベアベルトの機械的強度、耐油性、耐屈曲疲労性、及び耐熱性を高めることが可能である。これにより、従来の材料では困難であった飛散した油にさらされる環境や、高温環境下での使用にも耐えうるベルトを製造することができる。
【0040】
(空気バネ)
空気バネは、圧縮空気の弾力性を利用したバネ装置であり、自動車やバス、トラックなどのエアサスペンションなどに利用されている。本実施形態の統計的共重合体は、空気バネの機械的強度、耐油性、耐久疲労性、耐へたり性(低い圧縮永久ひずみ性)、及び耐熱性を高めることが可能である。これにより、従来の材料では困難であった油汚れが多い環境下や、高温環境下での使用にも耐えうる空気バネを製造することができる。
【0041】
(シール及びパッキン)
シールは、機械や装置において、液体や気体の漏れや雨水や埃などのごみや異物が内部に侵入するのを防ぐ部品であり、具体的には、固定用途に使われるガスケットと、運動部分・可動部分に使用されるパッキンがある。シール部分がボルトなどで固定されているガスケットでは、Oリングやゴムシートなどのソフトガスケットに対して、目的に応じた各種材料が使用されている。また、パッキンは、ポンプやモーターの軸、バルブの可動部のような回転部分、ピストンのような往復運動部分、カプラーの接続部、水道蛇口の止水部などに使われる。本実施形態の統計的共重合体は、シールの機械的強度、及び耐油性を高めることができる。これにより、従来の材料では困難であったエンジンオイルやギアーオイルのような非極性の流体のシールを製造することが可能である。本実施形態の統計的共重合体は、上記に加えて良好な耐へたり性(低い圧縮永久ひずみ性)、及び耐熱性も得られるため、長期にわたる使用や、高温環境下での使用でもシールの形状が変わりにくく良好なシール性能が得られる。特に低温及び高温における耐へたり性(低い圧縮永久ひずみ性)は本用途にとって重要である。
【0042】
(防振材)
防振材は、振動の伝達波及を防止するゴムのことであり、具体的には、自動車や各種車両用のエンジン駆動時の振動を吸収して騒音を防止するためのトーショナルダンパー、エンジンマウント、マフラーハンガーなどがある。本実施形態の統計的共重合体は、防振材の機械的強度、耐油性、耐屈曲疲労性、及び耐熱性を高めることが可能である。これにより、従来の材料では困難であった油の飛散する環境や、高温環境下での使用にも耐えうる防振ゴムを製造することができる。
【0043】
(ホース)
ホースは、屈曲可能な管であり、具体的には、送水用、送油用、送気用、蒸気用、油圧用高・低圧ホースなどがある。本実施形態の統計的共重合体は、ホースの機械的強度、耐油性、耐へたり性(低い圧縮永久ひずみ性)、及び耐熱性を高めることが可能である。これにより、従来の材料では困難であった直接非極性流体と接するホースや、高温環境下での使用にも耐えうるホースを製造することができる。
【0044】
(ゴムロール)
ゴムロールは、鉄芯などの金属製の芯をゴムで接着被覆することによって製造されるロールであり、具体的には、製紙用、各種金属製造用、印刷用、一般産業用、籾摺りなどの農機具用、食品加工用などの種々の用途の要求特性に応じたゴムロールがある。製鉄用、製紙用の工業用材料や製品の製造時などは、油が付着する環境下で用いられ、また、金、銀、ニッケル、クロム及び亜鉛など、製品にメッキ処理を施す際に酸やアルカリに晒される場合もある。本実施形態の統計的共重合体は、ゴムロールの機械的強度、耐油性、耐へたり性(低い圧縮永久ひずみ性)、及び耐熱性を高めることが可能である。これにより、従来のCRでは困難であった油が付着する環境下や、高温環境下での使用にも耐えうるゴムロールを製造することが可能である。
【0045】
(ワイパー)
ワイパーは、具体的には、自動車、電車、航空機、船舶、建設機械などのフロントガラス、リアガラスなどに用いられる。本実施形態の統計的共重合体は、ワイパーの機械的強度、耐油性、耐久疲労性、耐へたり性(低い圧縮永久ひずみ性)、及び耐熱性を高めることができる。これにより、従来の材料では困難であった油汚れが多い環境下や、高温環境下での使用にも耐えうるワイパーを製造することが可能である。
【0046】
(ブーツ)
ブーツとは、一端から他端に向けて外径が次第に大きくなる蛇腹状をなす部材であり、具体的には、自動車駆動系などの駆動部を保護するための等速ジョイントカバー用ブーツ、ボールジョイントカバー用ブーツ(ダストカバーブーツ)、ラックアンドピニオンギア用ブーツなどがある。本実施形態の統計的共重合体は、ブーツの機械的強度、耐油性、及び耐久疲労性を高めることが可能である。これにより、従来の材料よりも内部に含有する油やグリースなどの非極性の液体に対する信頼性に優れたブーツを製造することが可能である。また、本実施形態の統計的共重合体は、耐へたり性(低い圧縮永久ひずみ性)、及び耐熱性にも優れるため、金属バンドなど、内部に含有する油の漏洩を防ぐためのかしめ部分の変形が起こりにくい。
【0047】
(ゴム引布)
ゴム引布は、ゴムを布に貼り合わせたゴムと布織物(繊維)の複合材料であり、具体的には、ゴムボートやテント材料、雨合羽などの衣類、建築防水用シート、緩衝材などに広く用いられている。本実施形態の統計的共重合体は、ゴム引布の機械的強度、耐油性、及び耐熱性を高めることができる。これにより、従来の材料では困難であった油が飛散する環境下や、高温環境下での使用にも耐えうるゴム引布を製造することが可能である。
【0048】
(スポンジ製品)
スポンジは、内部に細かい孔が無数に空いた多孔質の物質であり、具体的には、防振部材、スポンジシール部品、ウェットスーツ、靴などがある。本実施形態の統計的共重合体は、スポンジ製品の機械的強度、耐油性、及び耐熱性を高めることが可能である。これにより、従来の材料では困難であった油による膨潤変形、変色を起こしにくく、高温環境下での使用にも耐えうるスポンジ製品を製造することができる。
【0049】
(ゴムライニング)
ゴムライニングは、配管やタンク等の金属面にゴムシートを接着させて金属の防食目的で使われるものである。また、耐電気、耐摩耗、耐熱を必要とされる箇所にもゴムライニングが使われる。本実施形態の統計的共重合体は、ゴムライニングとしての耐油性、及び耐熱性を高めることができる。これにより、従来の材料では困難であった油による配管やタンクの防食が可能である。
【0050】
<重合体ラテックスの製造方法>
本実施形態に係る重合体ラテックスの製造方法は、(1)重合工程と、(2)老化防止剤添加工程と、を少なくとも行う方法である。また、(3)有機溶媒除去工程や、重合体ラテックスの製造方法で一般的に用いられる他の工程を、行うこともできる。以下、それぞれの工程について、詳細に説明する。
【0051】
(1)重合工程
重合工程では、少なくとも2-クロロ-1,3-ブタジエン(以下、「クロロプレン」と略す)単量体単位を用いた乳化重合が行われる。より詳しくは、この重合工程では、クロロプレンの単独重合又はクロロプレンと共重合可能な単量体1種以上とを共重合が行われる。
【0052】
本実施形態におけるクロロプレンと共重合可能な単量体としては、例えば、2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン、1-クロロ-1,3-ブタジエン、ブタジエン、イソプレン、スチレン、メチルメタクル酸塩、エチルメタクリル酸塩、プロピルメタクリル酸塩(全異性体)、ブチルメタクリル酸塩(全異性体)、2-エチルヘキシルメタクリル酸塩、イソボルニルメタクリル酸塩、メタクリル酸、ベンジルメタクリル酸塩、フアクリル酸塩、エチルアクリル酸塩、プロピルアクリル酸塩(全異性体)、ブチルアクリル酸塩(全異性体)、2-エチルヘキシルアクリル酸塩、イソボルニルアクリル酸塩、アクリル酸、ベンジルアクリル酸塩、フェニルアクリル酸塩、スチレン、およびグリシジルメタクリル酸塩、2-ヒドロキシエチルメタクリル酸塩、ヒドロキシプロピルメタクリル酸塩(全異性体)、ヒドロキシブチルメタクリル酸塩(全異性体)、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリル酸塩、N,N-ジエチルアミノエチルメタクリル酸塩、トリエチレングリコールメタクリル酸塩、無水イタコン酸、イタコン酸、グリシジルアクリル酸塩、2-ヒドロキシエチルアクリル酸塩、ヒドロキシプロピルアクリル酸塩(全異性体)、ヒドロキシブチルアクリル酸塩(全異性体)、N,N-ジメチルアミノエチルアクリル酸塩、N,N-路エチルアミノエチルアクリル酸塩、トリエチレングリコールアクリル酸塩、メタクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクアリルアミド、N-第三ブチルメタクリルアミド、N-n-ブチルメタクリルアミド、N-メチロールメタクリルアミド、N-エチロールメタクリアルアミド、N-第三ブチルアクリルアミド、N-n-ブチルアクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、N-エチロールアクリルアミド、ビニル安息香酸(全異性体)、ジエチルアミノシチレン(全異性体)、アルファ-エチルビニル安息香酸(全異性体)、ジエチルアミノアルファ-メチルスチレン(全異性体)、p-ビニルベンゼンスルホン酸、p-ビニルベンゼンスルホンナトリウム塩、トリメトキシシリルプロピルメタクリル酸塩、トリエトキシシリルプロピルメタクリル酸塩、トリブトキシシリルプロピルメタクリル酸塩、ジメトキシメチルシリルプロピルメタクリル酸塩、ジエトキシメチルシリルプロピルメタクリル酸塩、ジブトキシメチルシリルプロピルメタクリル酸塩、ジイソプロポキシメチルシリルプロピルメタクリル酸塩、ジメトキシシリルプロピルメタクリル酸塩、ジエトキシシリルプロピルメタクリル酸塩、ジブトキシシリルプロピルメタクリル酸塩、ジイソプロポキシシリルプロピルメタクリル酸塩、トリメトキシシリルプロピルアクリル酸塩、トリエトキシシリルプロピルアクリル酸塩、トリブトキシシリルプロピルアクリル酸塩、ジメトキシメチルシリルプロピルアクリル酸塩、ジエトキシメチルシリルプロピルアクリル酸塩、ジブトキシメチルシリルプロピルアクリル酸塩、ジイソプロポキシメチルシリルプロピルアクリル酸塩、ジメトキシシリルプロピルアクリル酸塩、ジエトキシシリルプロピルアクリル酸塩、ジブトキシシリルプロピルアクリル酸塩、ジイソプロポキシシリルプロピルアクリル酸塩、酢酸ビニル、酪酸ビニル、安息香酸ビニル、塩化ビニル、フッ化ビニル、臭化ビニル、無水マレイン酸、N-フェニルマレイミド、N-ブチルマレイミド、N-ビニルピロリドン、N-ビニルカルバゾール、エチレン、プロピレン、不飽和ニトリル単量体(アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル、フェニルアクリロニトリル等)等を挙げることができる。
【0053】
重合方法は、特に限定するものではないが、原料単量体を界面活性剤、重合開始剤及び分子量調整剤などの存在下で、一般に用いられる乳化重合法により重合させればよい。
【0054】
本実施形態で用いることができる界面活性剤(乳化/分散剤)は、本技術の効果を損なわない限り、特に限定されず、通常のクロロプレンの乳化重合に使用されているアニオン型、ノニオン型、カチオン型など各種のものを使用できる。得られるラテックスの安定性から、アニオン型の界面活性剤が好ましく、例えば、ロジン酸塩、炭素数が8~20個のアルキルスルホネート塩、アルキルサルフェート塩、アルキルアリールサルフェート塩、ナフタレンスルホン酸ナトリウムとホルムアルデヒドの縮合物、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム等が挙げられる。アニオン型の界面活性剤の中でも特にラテックスの安定性が優れるという理由から、ロジン酸アルカリ金属塩を使用することが特に好ましい。ロジン酸は、樹脂酸、脂肪酸などの混合物である。樹脂酸としては、アビエチン酸、ネオアビエチン酸、パラストリン酸、ピマル酸、イソピマル酸、デヒドロアビエチン酸、ジヒドロピマル酸、ジヒドロイソピマル酸、セコデヒドロアビエチン酸、ジヒドロアビエチン酸などが含まれ、脂肪酸としては、オレイン酸、リノール酸などが含まれている。これらの成分組成は、ガムロジン、ウッドロジン、トールロジンに分類されるロジン採取方法の違い、松の産地及び樹種、蒸留精製、不均化(不均斉化)反応によって変化するものであり、本発明では限定されない。乳化安定性や取り扱いやすさを考慮するとナトリウム塩またはカリウム塩の使用が好ましい。
【0055】
界面活性剤の添加量は、クロロプレン単量体及び他の単量体の合計100質量部に対して、0.2~20質量部が好ましく、より好ましくは2~10質量部である。0.2質量部以上とすることで、単量体を十分に乳化することができ、20質量部以下とすることで、得られるフィルムの表面に界面活性剤がブルームするのを防ぐことができる
【0056】
本実施形態で用いることができる重合開始剤は、本技術の効果を損なわない限り、公知の重合開始剤を1種又は2種以上、自由に用いることができる。例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化ベンゾイル、過硫酸ナトリウム、過酸化水素、t-ブチルペルオキシアセテート、t-ブチルペルオキシベンゾエート、t-ブチルペルオキシオクトエート、t-ブチルペルオキシネオデカノエート、t-ブチルペルオキシイソブチレート、t-アミルペルオキシピバレート、t-ブチルペルオキシピバレート、ジ-イソプロピルペルオキシジカルボネート、ジシクロヘキシルペルオキシジカルボネート、ジクミルペルオキシド、ジベンゾイルペルオキシド、ジラウロイルペルオキシド、ペルオキシ二硫酸カリウム、ペルオキシ二硫酸アンモニウム、ジ-t-次亜硝酸ブチル、次亜硝酸ジクミルなどの有機過酸化物、2,2-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-シアノ-2-ブタン)、ジメチル2,2’-アゾビスジメチルイソブチレート、4,4’-アゾビス(4-シアノペンタン酸)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、2-(t-ブチルアゾ)-2-シアノプロパン、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(1,1)-ビス(ヒドロキシメチル)-2-ヒドロキシエチル]プロピオンアミド、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-ヒドロキシエチル)]-プロピオンアミド、2,2’-アゾビス(N,N’-ジメチレンイソブチルアミジン)ジヒドロクロリド、2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)ジヒドロクロリド、2,2’-アゾビス(N,N’-ジメチレンイソブチルアミン)、2,2’-アゾビス(2-メチル-N-[1,1-ビス(ヒドロキシメチル)-2-ヒドロキシエチル]プロピオンアミド)、2,2’-アゾビス(2-メチル-N-[1,1-ビス(ヒドロキシメチル)エチル]プロピオンアミド、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2-アゾビス(イソブチルアミド)ジヒドラート)、2,2’-アゾビス(2,2,4-トリメチルペンタン)、2,2’-アゾビス(2-メチルプロパン)などのアゾ系開始剤などが挙げられる。
【0057】
乳化重合の際には、重合助触媒を用いることも可能である。本実施形態で用いることができる重合助触媒は、本発明の効果を損なわない限り特に限定されず、公知の重合助触媒を1種又は2種以上、自由に用いることができる。例えば、L-アスコルビン酸、酒石酸、亜硫酸水素ナトリウム、亜鉛-またはナトリウム-ホルムアルデヒド-スルホキシレートロンガリット、ホルムジアミンスルフィン酸、グルコース、ホルマリン、アントラキノンβ-スルホン酸ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸銅、重亜硫酸ナトリウム、チオ尿素等が挙げられる。
【0058】
本実施形態の製造方法では、分子量を制御するために連鎖移動剤を用いることができる。本実施形態で用いることができる連鎖移動剤は、本発明の効果を損なわない限り特に限定されず、公知の連鎖移動剤を1種又は2種以上、自由に用いることができる。例えば、n-ドデシルメルカプタン、tert-ドデシルメルカプタン、n-オクチルメルカプタン等の長鎖アルキルメルカプタン類、ジイソプロピルキサントゲンジスルフィドやジエチルキサントゲンジスルフィドなどのキサントゲン化合物、ヨードホルム、ベンジル1-ピロールジチオカルバメート(別名ベンジル1-ピロールカルボジチオエート)、1-ベンジル-N,Nジメチル-4-アミノジチオベンゾエート、1-ベンジル-4-メトキシジチオベンゾエート、1-フェニルエチルイミダゾールジチオカルバメート(別名1-フェニルエチルイミダゾールカルボジチオエート)、ベンジル-1-(2-ピロリジノン)ジチオカルバメート(別名ベンジル-1-(2-ピロリジノン)カルボジチオエート)、ベンジルフタルイミジルジチオカルバメート(別名ベンジルフタルイミジルカルボジチオエート)、2-シアノプロプ-2-イル-1-ピロールジチオカルバメート(別名2-シアノプロプ-2-イル-1-ピロールカルボジチオエート)、2-シアノブト-2-イル-1-ピロールジチオカルバメート(別名2-シアノブト-2-イル-1-ピロールカルボジチオエート)、ベンジル-1-イミダゾールジチオカルバメート(別名ベンジル-1-イミダゾールカルボジチオエート)、2-シアノプロプ-2-イル-N,N-ジメチルジチオカルバメート、ベンジル-N,N-ジエチルジチオカルバメート、シアノメチル-1-(2-ピロリドン)ジチオカルバメート、2-(エトキシカルボニルベンジル)プロプ-2-イル-N,N-ジエチルジチオカルバメート、ベンジルジチオエート、1-フェニルエチルジチオベンゾエート、2-フェニルプロプ-2-イルジチオベンゾエート、1-酢酸-1-イル-エチルジチオベンゾエート、1-(4-メトキシフェニル)エチルジチオベンゾエート、ベンジルジチオアセテート、エトキシカルボニルメチルジチオアセタート、2-(エトキシカルボニル)プロプ-2-イルジチオベンゾエート、2-シアノプロプ-2-イルジチオベンゾエート、ジチオベンゾエート、tert-ブチルジチオベンゾエート、2,4,4-トリメチルペンタ-2-イルジチオベンゾエート、2-(4-クロロフェニル)-プロプ-2-イルジチオベンゾエート、3-ビニルベンジルジチオベンゾエート、4-ビニルベンジルジチオベンゾエート、ベンジルジエトキシホスフィニルジチオフォルマート、tert-ブチルトリチオペルベンゾエート、2-フェニルプロプ-2-イル-4-クロロジチオベンゾエート、ナフタレン-1-カルボン酸-1-メチル-1-フェニル-エチルエステル、4-シアノ-4-メチル-4-チオベンジルスルファニル酪酸、ジベンジルテトラチオテレフタラート、カルボキシメチルジチオベンゾエート、ジチオベンゾエート末端基を持つポリ(酸化エチレン)、4-シアノ-4-メチル-4-チオベンジルスルファニル酪酸末端基を持つポリ(酸化エチレン)、2-[(2-フェニルエタンチオイル)スルファニル]プロパン酸、2-[(2-フェニルエタンチオイル)スルファニル]コハク酸、3,5-ジメチル-1H-ピラゾール-1-カルボジチオエートカリウム、シアノメチル-3,5-ジメチル-1Hピラゾール-1-カルボジチオエート、シアノメチルメチル-(フェニル)ジチオカルバメート、ベンジル-4-クロロジチオベンゾエート、フェニルメチル-4-クロロジチオベンゾエート、4-ニトロベンジル-4-クロロジチオベンゾエート、フェニルプロプ-2-イル-4-クロロジチオベンゾエート、1-シアノ-1-メチルエチル-4-クロロジチオベンゾエート、3-クロロ-2-ブテニル-4-クロロジチオベンゾエート、2-クロロ-2-ブテニルジチオベンゾエート、ベンジルジチオアセテート、3-クロロ-2-ブテニル-1Hピロール-1-ジチオカルボン酸、2-シアノブタン-2-イル4-クロロ-3,5-ジメチル-1H-ピラゾール-1-カルボジチオエート、シアノメチルメチル(フェニル)カルバモジチオエート、2-シアノ-2-プロピルドデシルトリチオカルボナート、ジベンジルトリチオカルボナート、ブチルベンジルトリチオカルボナート、2-[[(ブチルチオ)チオキソメチル]チオ]プロピオン酸、2-[[(ドデシルチオ)チオキソメチル]チオ]プロピオン酸、2-[[(ブチルチオ)チオキソメチル]チオ]コハク酸、2-[[(ドデシルチオ)チオキソメチル]チオ]コハク酸、2-[[(ドデシルチオ)チオキソメチル]チオ]-2-メチルプロピオン酸、2,2’-[カルボノチオイルビス(チオ)]ビス[2-メチルプロピオン酸]、2-アミノ-1-メチル-2-オキソエチルブチルトリチオカルボナート、ベンジル2-[(2-ヒドロキシエチル)アミノ]-1-メチル-2-オキソエチルトリチオカルボナート、3-[[[(tert-ブチル)チオ]チオキソメチル]チオ]プロピオン酸、シアノメチルドデシルトリチオカルボナート、ジエチルアミノベンジルトリチオカルボナート、ジブチルアミノベンジルトリチオカルボナートなどのチオカルボニル化合物、などの公知の連鎖移動剤を使用することができる。
【0059】
乳化重合における重合温度は、特に限定されないが、0~59℃が好ましく、5~55℃である事が特に好ましい。重合温度を5℃以上とすることで、乳化液の増粘や開始剤の効率をより向上させることができる。また、常圧でクロロプレンの沸点は約59℃であることから、重合温度を55℃以下とすることで、異常重合などにより発熱した場合であっても除熱が追いつかずに反応液が突沸する事態を回避することができる。更に好ましくは、重合温度を30~45℃に保つ事で、機械特性に優れた重合体を得る事が出来る。
【0060】
重合工程において、クロロプレン単量体単位と、不飽和ニトリル単量体単位と、を用いた乳化重合を行う場合、重合反応開始後にクロロプレン単量体を連続添加又は10回以上間欠分添することが好ましい。クロロプレンは不飽和ニトリルよりも反応速度が速い。このため、重合系内において、クロロプレン単量体の方が不飽和ニトリル単量体よりも早く消費される。クロロプレン単量体と不飽和ニトリル単量体との比率に大きな偏りが生じると、生成される統計的共重合体の耐油性が低下する場合がある。本実施形態の製造方法では、重合反応により減少した、主にクロロプレン単量体を連続添加又は10回以上の間欠分添によって添加することで、重合系内におけるクロロプレン単量体と不飽和ニトリル単量体の比を一定に保つことができる。本実施形態の製造方法により製造される統計的共重合体は、機械的強度にも優れている。
【0061】
本実施形態の製造方法は、10回以上の間欠分添の場合、重合反応開始後に添加するクロロプレン単量体は、1回あたりの添加量をクロロプレン単量体及び不飽和ニトリル単量体の合計100質量部に対して10質量部以下とすることが好ましい。間欠分添の場合、添加速度を2質量部/分以下とすることが好ましい。このような範囲とすることで、耐油性及び機械的強度に優れた統計的共重合体が得られる。ここで、重合中、重合液中の未反応のクロロプレン単量体と不飽和ニトリル単量体との比を一定に保つということは、クロロプレン単量体と不飽和ニトリル単量体の合計に対する不飽和ニトリル単量体の質量比が、目標値の好ましくは±10%以内であるということである。例えば、重合中、重合液中の未反応のクロロプレン単量体と不飽和ニトリル単量体の合計に対する不飽和ニトリル単量体の質量比を0.50に保つ場合、好ましくは0.45~0.55の範囲に保つことを意味する。
【0062】
本実施形態の製造方法において、重合率(重合転化率)は60~100%の範囲とすることが好ましい。重合反応は、重合禁止剤を加えることにより停止させる。重合率を60%以上とすることで、得られる皮膜等の強度を向上させることができる。
【0063】
本実施形態で用いることができる重合禁止剤は、本発明の効果を損なわない限り特に限定されず、公知の重合禁止剤を1種又は2種以上、自由に用いることができる。例えば、チオジフェニルアミン、4-tert-ブチルカテコール、2,2-メチレンビス-4-メチル-6-ターシャリーブチルフェノールや、ジエチルヒドロキシルアミン等が挙げられる。
【0064】
本実施形態の製造方法において、未反応単量体の除去及び濃縮は、減圧加熱などの公知の方法により行えばよい。
【0065】
また、本実施形態の製造方法により得られる重合体ラテックスには、本発明の効果を阻害しない範囲で、重合後に凍結安定剤、乳化安定剤、粘度調整剤、酸化防止剤、防腐剤などを任意に添加することができる。
【0066】
(2)老化防止剤添加工程
老化防止剤添加工程は、老化防止剤を含む有機溶媒溶液の水乳化液を添加する工程である。本発明の製造方法においては、老化防止剤は実質的に水乳化液により添加される。ここで、実質的にとは、全老化防止剤のうち70質量%以上、好ましくは95質量%以上、最も好ましくは100質量%が水乳化液として添加されることを示す。
【0067】
老化防止剤添加工程において用いることができる有機溶媒としては、本技術の効果を損なわない限り特に限定されず、公知の有機溶媒を1種又は2種以上、自由に用いることができる。例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒;シクロペンタン、シクロペンテン、シクロヘキサン等の脂環族炭化水素溶媒;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素溶媒;クロロプレン、塩化メチレン、クロロホルム、二塩化エチレン等のハロゲン化炭化水素溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン等のエーテル溶媒;等を挙げることができる。
【0068】
老化防止剤添加工程において用いる有機溶媒の量も、本技術の効果を損なわない限り特に限定されず、用いる老化防止剤を完全に溶解することができる範囲で自由に設定することができる。
【0069】
老化防止剤添加工程において用いることができる老化防止剤も本技術の効果を損なわない限り特に限定されず、公知の老化防止剤を1種又は2種以上、自由に用いることができる。具体的な種類は、前述した統計的共重合体ラテックスに用いることができる老化防止剤と同様であるため、ここでは説明を割愛する。
【0070】
老化防止剤添加工程において添加する老化防止剤の量は、クロロプレン単量体及び他の単量体の合計100質量部に対して2.0~9.0質量部が好ましい。2.0質量部以上とすることで、得られる皮膜の耐熱性を向上させることができる。9.0質量部以下とすることで、得られる皮膜の表面に老化防止剤がブルームし、破断伸び等の物性が低下するのを防ぐことができる。
【0071】
老化防止剤を含む有機溶媒溶液を乳化するために用いる界面活性剤も、本技術の効果を損なわない限り特に限定されず、公知の界面活性剤を1種又は2種以上、自由に用いることができる。具体的な種類は、前述した統計的共重合体ラテックスに用いる界面活性剤と同様であるため、ここでは説明を割愛する。
【0072】
老化防止剤添加工程は、前述した重合工程後に行うことも可能であるが、重合工程における乳化重合反応停止時に、老化防止剤を含む有機溶媒溶液と重合禁止剤と界面活性剤水溶液とを混合した水乳化液を添加することがより好ましい。重合停止時に老化防止剤を含む有機溶媒溶液を添加することで、重合停止とラテックス中への老化防止剤の分散を同時に行うことができ、製造工程の短縮化や使用する有機溶剤の量を減らすことができる。
【0073】
(3)有機溶媒除去工程
有機溶媒除去工程は、前記老化防止添加工程にて老化防止剤の添加に用いた有機溶媒を除去する工程である。乳化重合反応停止と老化防止剤を含む有機溶媒溶液の水乳化液の添加を同時に行っている場合には、この工程にて未反応単量体と有機溶媒を同時に除去することができる。有機溶媒除去工程を行うことで、製造された重合体ラテックスによる人体への悪影響を防止し、また、環境負荷も低下させることができる。
【0074】
有機溶媒を除去する方法は、本技術の効果を損なわない限り特に限定されず、公知の除去方法を1種又は2種以上、自由に用いることができる。例えば、減圧蒸留、常圧蒸留、水蒸気蒸留等の方法を採用することができる。有機溶媒の含有量はラテックス中200ppm以下であることが好ましい。
【0075】
本実施形態の製造方法で製造された重合体ラテックスは、テトラヒドロフラン溶液で希釈し、ガスクロマトグラフにより測定された老化防止剤の含有量が、前記重合体ラテックス100質量%に対して1.0~6.0質量%、好ましくは1.0~4.5質量%であり、前記重合体ラテックスを14000回転/分で20分間遠心分離した後の液面サンプリング液と底面サンプリング液中の老化防止剤濃度の比(液面サンプリング液/底面サンプリング液)が0.6~1.2である。ここで液面サンプリング液とは、遠心分離後の遠心分離用チューブの液面表面から慎重にシリンジで採取したラテックス液であり、底面サンプリング液とは、遠心分離後のチューブの底面から慎重にシリンジで採取したラテックス液である。
【0076】
液面サンプリング液と底面サンプリング液中の老化防止剤濃度の比がこの範囲であるため、本実施形態の製造方法で製造された重合体ラテックス中の老化防止剤の分散性は良好である。その結果、該重合体ラテックスを乾燥させた際の耐熱性を向上させることができる。
【0077】
具体的には、本実施形態の製造方法で製造された重合体ラテックスは、これを室温乾燥させて得た重合体を、JIS K6251に準拠して測定した140℃、24時間熱処理後の破断伸びが、500%以上であり、フィルムとした際の耐熱性が非常に高い。
【0078】
また、本実施形態の製造方法で製造された重合体ラテックスは、これを用いたレゾルシン(R)/ホルマリン(F)/ラテックス(L)=10/5/85(質量比)のRFL接着剤を室温乾燥させて得たRFLフィルムをJIS K6251に準拠して測定した140℃で24時間熱処理後の破断伸びが、150%以上であり、RFLフィルムとした際の耐熱性も非常に高い。
【実施例
【0079】
以下に、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。なお、以下に説明する実施例は、本発明の代表的な実施例の一例を示したものであり、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0080】
<重合体ラテックスの製造>
[実施例1]
加熱冷却ジャケットと攪拌機を備えた内容積3リットルの重合缶に、クロロプレン単量体20質量部、アクリロニトリル単量体20質量部、純水150質量部、不均化ロジン酸カリウム(ハリマ化成株式会社製)5.0質量部、水酸化カリウム0.4質量部、βナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩(花王株式会社製)1.0質量部を添加した。重合開始剤として過硫酸カリウム0.1質量部を添加し、重合温度40℃にて窒素気流下で乳化重合を行った。クロロプレン単量体の分添は、比重が0.989、0.993、1.000、1.007、1.013、1.020、1.026、1.032、1.038、1.042、1.046、1.050に達した時、それぞれ5.0質量部ずつ、合計12回加えて行った。クロロプレン及びアクリロニトリルの合計量に対する重合率が82%となった時点で、老化防止剤を含む有機溶媒溶液の水乳化液(重合停止液)を加えて重合を停止させた。有機溶媒溶液の水乳化液(重合停止液)は、重合停止剤であるチオジフェニルアミン0.1質量部、ジエチルヒドロキシルアミン0.1質量部及び老化防止剤である4,4'-ビス(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン4.8質量部を有機溶媒であるクロロプレン9.6質量部に完全に溶解し、界面活性剤であるラウリル硫酸ナトリウム0.2質量部、βナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩0.2質量部及び純水4.0質量部を用いて乳化することで作製した。
次いで、減圧蒸留による未反応単量体及び有機溶媒等の除去及び濃縮を行い重合体ラテックスの固形分を50質量%に調整した。
【0081】
なお、重合中は定期的に10回以上重合液をサンプリングして、重合液に含まれる未反応のクロロプレン単量体とアクリロニトリル単量体の測定を行ったが、クロロプレン単量体とアクリロニトリル単量体の合計に対するアクリロニトリル単量体の質量比は常に目標値の±10%以内であった。
【0082】
<凍結乾燥による共重合体の回収>
前記で製造した重合体ラテックス12gを-30℃で3時間以上凍結させた後、真空乾燥機を用い室温23℃で16時間以上乾燥させ、固体状の共重合体を得た。
【0083】
<重合液中の単量体量の測定>
25mlメスフラスコにサンプリングした重合液1.0gを秤量し、これをテトラヒドロフランで25mlに希釈し攪拌することで得られた試料を用い、ガスクロマトグラフと検量線を用いた通常の定量分析法により測定した(以下、同様)。
(ガスクロマトグラフの測定条件)
ガスクロマトグラフは、以下の測定条件で実施した。
・装置:GC-2010(島津製作所製)
・使用カラム:DB-1、0.25mm×60m
・キャリアガス:ヘリウム
・カラム温度:50℃から5℃/分で100℃まで昇温
・注入口温度:270℃
・検出器:FID
・検出器温度:300℃
・注入量:1μL
【0084】
なお、クロロプレン-アクリロニトリル統計的共重合体の重合開始からある時刻までの重合率は、クロロプレン-アクリロニトリル統計的共重合体ラテックスを加熱風乾することで乾燥重量(固形分濃度、以下同じ)から算出した。具体的には、以下の一般式(II)より計算した。重合途中の乾燥重量は、ラテックスに対して乾燥重量に影響を与えない少量の重合禁止剤を添加して求めた。式中、固形分濃度は、サンプリングした乳化重合液2gを130℃中で加熱し溶媒(水)、揮発性薬品や原料を除いた後、加熱前後の重量変化から揮発分を除いて求めた固形分の濃度(質量%)である。総仕込み量及び蒸発残分は重合処方より計算した。総仕込み量とは、重合開始からある時刻までに重合缶に仕込んだ原料、試薬、溶媒(水)の総量である。蒸発残分とは、重合開始からある時刻までに仕込んだ薬品や原料のうち、130℃の条件下で揮発せずにポリマーと共に固形分として残留する薬品の重量を表す。単量体仕込み量は、重合缶に初期に仕込んだ単量体及び重合開始からある時刻までに分添した単量体の量の合計である。なお、ここでいう単量体とはクロロプレン単量体とアクリロニトリル単量体の合計量である。
【0085】
重合率[%]={(総仕込み量[g]×固形分濃度[質量%]/100)-(蒸発残分[g])}/単量体仕込み量[g]×100 ・・・(II)
【0086】
[実施例2]
加熱冷却ジャケットと攪拌機を備えた内容積3リットルの重合缶に、クロロプレン単量体15質量部、アクリロニトリル単量体35質量部、純水200質量部、不均化ロジン酸カリウム(ハリマ化成株式会社製)5.0質量部、水酸化カリウム0.4質量部、βナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩(花王株式会社製)1.0質量部を添加した。重合開始剤として過硫酸カリウム0.1質量部を添加し、重合温度40℃にて窒素気流下で乳化重合を行った。クロロプレン単量体の分添は、比重が0.981、0.987、0.992、0.997、1.002、1.007、1.012、1.017、1.022、1.027、1.032、1.037に達した時、それぞれ5.0質量部ずつ、合計12回加えて行った。クロロプレン及びアクリロニトリルの合計量に対する重合率が77%となった時点で、老化防止剤を含む有機溶媒溶液の水乳化液(重合停止液)を加えて重合を停止させた。有機溶媒溶液の水乳化液(重合停止液)は、重合停止剤であるチオジフェニルアミン0.1質量部、ジエチルヒドロキシルアミン0.1質量部及び老化防止剤である4,4'-ビス(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン4.8質量部を有機溶媒であるクロロプレン9.6質量部に完全に溶解し、界面活性剤であるラウリル硫酸ナトリウム0.2質量部、βナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩0.2質量部及び純水4.0質量部を用いて乳化することで作製した。
次いで、減圧蒸留による未反応単量体及び有機溶媒等の除去及び濃縮を行い重合体ラテックスの固形分を50質量%に調整した。
【0087】
なお、重合中は定期的に10回以上重合液をサンプリングして、重合液に含まれる未反応のクロロプレン単量体とアクリロニトリル単量体の測定を行ったが、クロロプレン単量体とアクリロニトリル単量体の合計に対するアクリロニトリル単量体の質量比は常に目標値の±10%以内であった。
【0088】
[実施例3~5]
下記表1に示すそれぞれの処方に変更した以外は、実施例1と同様の方法にて、クロロプレン-アクリロニトリル統計的共重合体ラテックスを得た。なお、重合中は定期的に10回以上重合液をサンプリングして、重合液に含まれる未反応のクロロプレン単量体とアクリロニトリル単量体の測定を行ったが、クロロプレン単量体とアクリロニトリル単量体の合計に対するアクリロニトリル単量体の質量比は常に目標値の±10%以内であった。
【0089】
[実施例6]
加熱冷却ジャケットと攪拌機を備えた内容積3リットルの重合缶に、クロロプレン単量体20質量部、アクリロニトリル単量体20質量部、純水150質量部、不均化ロジン酸カリウム(ハリマ化成株式会社製)5.0質量部、水酸化カリウム0.4質量部、βナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩(花王株式会社製)1.0質量部を添加した。重合開始剤として過硫酸カリウム0.1質量部を添加し、重合温度40℃にて窒素気流下で乳化重合を行った。クロロプレン単量体の分添は、比重が0.989、0.993、1.000、1.007、1.013、1.020、1.026、1.032、1.038、1.042、1.046、1.050に達した時、それぞれ5質量部ずつ、合計12回加えて行った。クロロプレン及びアクリロニトリルの合計量に対する重合率が82%となった時点で、有機溶媒溶液の水乳化液を加えて重合を停止させた。有機溶媒溶液の水乳化液は、重合停止剤であるチオジフェニルアミン0.1質量部、ジエチルヒドロキシルアミン0.1質量部を有機溶媒であるクロロプレン0.8質量部に完全に溶解させ、界面活性剤であるラウリル硫酸ナトリウム0.01質量部、βナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩0.01質量部及び純水0.4質量部を用いて乳化することで作製した。
次いで、減圧蒸留による未反応単量体等及び有機溶媒の除去及び濃縮を行い重合体ラテックスの固形分を50質量%に調整した後、老化防止剤である4,4'-ビス(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン4.8質量部を有機溶媒であるクロロプレン9.6質量部に完全に溶解させ、界面活性剤であるラウリル硫酸ナトリウム0.2質量部、βナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩0.2質量部及び純水4.0質量部を用いて乳化させた、老化防止剤を含む有機溶媒溶液の水乳化液を加えた。なお、重合中は定期的に10回以上重合液をサンプリングして、重合液に含まれる未反応のクロロプレン単量体とアクリロニトリル単量体の測定を行ったが、クロロプレン単量体とアクリロニトリル単量体の合計に対するアクリロニトリル単量体の質量比は常に目標値の±10%以内であった。
【0090】
[実施例7]
加熱冷却ジャケットと攪拌機を備えた内容積3リットルの重合缶に、クロロプレン単量体100質量部、純水150質量部、不均化ロジン酸カリウム(ハリマ化成株式会社製)5.0質量部、水酸化カリウム0.4質量部、βナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩(花王株式会社製)1.0質量部を添加した。重合開始剤として過硫酸カリウム0.1質量部を添加し、重合温度40℃にて窒素気流下で乳化重合を行った。クロロプレンに対する重合率が82%となった時点で、老化防止剤を含む有機溶媒溶液の水乳化液(重合停止液)を加えて重合を停止させた。有機溶媒溶液の水乳化液(重合停止液)は、重合停止剤であるチオジフェニルアミン0.1質量部、ジエチルヒドロキシルアミン0.1質量部及び老化防止剤である4,4'-ビス(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン4.8質量部を有機溶媒であるクロロプレン9.6質量部に完全に溶解し、界面活性剤であるラウリル硫酸ナトリウム0.2質量部、βナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩0.2質量部及び純水4.0質量部を用いて乳化することで作製した。
次いで、減圧蒸留による未反応単量体及び有機溶媒等の除去及び濃縮を行い重合体ラテックスの固形分を50質量%に調整した。
【0091】
[比較例1]
下記表2に示す処方に変更した以外は、実施例7と同様の方法にて、クロロプレンホモポリマーラテックスを得た。
【0092】
[比較例2]
下記表2に示す処方に変更した以外は、実施例1と同様の方法にて、クロロプレン-アクリロニトリル統計的共重合体ラテックスを得た。
【0093】
[比較例3]
加熱冷却ジャケットと攪拌機を備えた内容積3リットルの重合缶に、クロロプレン単量体20質量部、アクリロニトリル単量体20質量部、純水150質量部、不均化ロジン酸カリウム(ハリマ化成株式会社製)5.0質量部、水酸化カリウム0.4質量部、βナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩(花王株式会社製)1.0質量部を添加した。重合開始剤として過硫酸カリウム0.1質量部を添加し、重合温度40℃にて窒素気流下で乳化重合を行った。クロロプレン単量体の分添は、比重が0.989、0.993、1.000、1.007、1.013、1.020、1.026、1.032、1.038、1.042、1.046、1.050に達した時、それぞれ5質量部ずつ、合計12回加えて行った。クロロプレン及びアクリロニトリルの合計量に対する重合率が81%となった時点で、有機溶媒溶液の水乳化液を加えて重合を停止させた。有機溶媒溶液の水乳化液は、重合停止剤であるチオジフェニルアミン0.1質量部、ジエチルヒドロキシルアミン0.1質量部を有機溶媒であるクロロプレン0.8質量部に完全に溶解させ、界面活性剤であるラウリル硫酸ナトリウム0.01質量部、βナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩0.01質量部及び純水0.4質量部を用いて乳化することで作製した。
次いで、減圧蒸留による未反応単量体及び有機溶媒等の除去及び濃縮を行い重合体ラテックスの固形分を50質量%に調整した後、4,4'-ビス(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン4.8質量部を、ラウリル硫酸ナトリウム0.2質量部、βナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩0.1質量部及び純水11.2質量部を用いて分散させた、老化防止剤の水分散液を加えた。
なお、重合中は、定期的に10回以上重合液をサンプリングして、重合液に含まれる未反応のクロロプレン単量体とアクリロニトリル単量体の測定を行ったが、クロロプレン単量体とアクリロニトリル単量体の合計に対するアクリロニトリル単量体の質量比は常に目標値の±10%以内であった。
【0094】
[比較例4及び5]
実施例1と同様の方法にて、下記表2に示す処方でクロロプレン-アクリロニトリル統計的共重合体ラテックスを得て、さらに比較例3と同様の方法にて、老化防止剤の水分散液を加えた。
【0095】
<不飽和ニトリル(アクリロニトリル)含有量の測定>
前記で製造した重合体ラテックスを凍結乾燥させた重合体100mgを用いて、元素分析装置(スミグラフ220F:株式会社住化分析センター製)により測定した窒素原子の含有量より決定した。この際、重合禁止剤や老化防止剤中の窒素原子による微小な誤差は無視した。電気炉温度は反応炉900℃、還元炉600℃、カラム温度70℃、検出器温度100℃に設定し、燃焼用ガスとして酸素を0.2ml/min、キャリアガスとしてヘリウムを80ml/minフローした。検量線は窒素含有量が既知のアスパラギン酸(10.52%)を標準物質に用いて作成した。
【0096】
<トルエン不溶分の測定>
前記で製造した重合体ラテックスを凍結乾燥させ得られた固体状の重合体0.75gを2mm角に裁断し、123gのトルエンと共にコニカルビーカーに入れ、マグネティックスターラーで約1回/秒で攪拌させながら室温23℃で16時間溶解した。その後、200メッシュ金網を用いてゲル分を分離し110℃で60分間乾燥させた重量を測定することによりトルエン不溶分を算出した。
【0097】
<クロロプレン単量体量の測定>
前記で製造した重合体ラテックス約0.02gをガラスバイアル瓶にとり、密栓した後、ヘッドスペースサンプラー内にて加温し、気相部をガスクロマトグラフに注入し測定した。
(ガスクロマトグラフの測定条件)
ガスクロマトグラフは、以下の測定条件で実施した。
・装置:GC-1700(島津製作所製)
TurboMatrixHS-40(Perkin Elmer製)
・使用カラム:Pora Plot-U 0.53mmφ×25m(膜厚20μm)
ガスクロマトグラフ
・気化室温度:180℃
・カラム初期温度:130℃
・ファイナル温度:190℃
・カラム昇温レート:2.0℃/min
・検出器:FID
・検出器温度:190℃
ヘッドスペースサンプラー
・注入時間:0.04min
・オーブン温度:80℃
・ニードル温度:120℃
・トランスファー温度:150℃
・保温時間:30min
・加圧時間:3.0min
・注入量 :全量注入
【0098】
<重合体ラテックス中の老化防止剤の含有量の測定>
前記で製造した重合体ラテックスを約1g秤量し、25mLメスフラスコに入れてテトラヒドロフラン溶液でメスアップした後に、下記ガスクロマトグラフ法により測定した。
【0099】
<液面サンプリング液と底面サンプリング液中の老化防止剤濃度の比>
前記で製造した重合体ラテックス約40gを遠心分離装置(H-200NR:株式会社コクサン製)の遠心分離用50mlチューブ(ステンレス製、直径35mm、長さ100mm)に入れ、14000回転/分で20分間15℃で遠心分離処理し、液面サンプリング液として遠心分離後のチューブの液面表面から慎重にシリンジでラテックス液を2g採取した。さらに、底面サンプリング液として遠心分離後のチューブの底面から慎重にシリンジでラテックス液を2g採取した。この液面サンプリング液と底面サンプリング液を約1g秤量し、25mLメスフラスコに入れてテトラヒドロフラン溶液でメスアップした後に、下記ガスクロマトグラフ法により測定した。
【0100】
(ガスクロマトグラフ法の測定条件)
ガスクロマトグラフは、以下の測定条件で実施した。
・装置:GC-2025(島津製作所製)
・使用カラム:DB-5 0.25mmφ×30m(膜厚1μm)
・カラム温度:325℃一定
・注入口温度:325℃
・検出器温度:325℃
・カラム流量:He 1mL/min(Split 1:50)
・注入量:1μL(オートサンプラー使用)
【0101】
<フィルムの作製>
水平なステンレスバットに重合体ラテックスを、乾燥後の厚さが約1.1mmになるようにろ過しながら注ぎ入れ、室温で3日間乾燥させた。その後、厚さが約1.0mmになるように140℃で15分間加熱プレスすることで作製した。
【0102】
<RFLフィルムの作製>
レゾルシン(和光純薬株式会社製)11g、ホルムアルデヒド37質量%水溶液(和光純薬株式会社製)16g、10%NaOH水溶液3.0g、純水250gを混合し室温で20時間静置した後、そこへ純水100g、重合ラテックス200g、10%NaOH水溶液5.0gの混合液を添加し、さらに室温で24時間静置した。これを水平なガラス板に、乾燥後の厚さが約0.2mmになるように注ぎ入れ、室温で3日間乾燥させることで作製した。
【0103】
<耐熱性評価>
前記で作製したフィルム及びRFLフィルムについて、JIS K6251に準拠して、140℃、24時間熱処理後の破断強度及び破断伸びを測定した。
【0104】
<耐油性評価>
前記で作製したフィルム及びRFLフィルムについて、JIS K6258に準拠して、140℃、72時間エンジンオイル(10W-30)に浸漬後の体積変化率(ΔV)及び重量変化率(ΔW)を測定した。
【0105】
<結果>
実施例1~7の結果を下記の表1に、比較例1~5の結果を下記の表2に、それぞれ示す。
【0106】
【表1】
【0107】
【表2】
【0108】
<考察>
老化防止剤を含有しないクロロプレン重合体ラテックスを用いた比較例1に対し、老化防止剤を含有するクロロプレン重合体ラテックスを用いた実施例7の方が、耐熱性(特に、破断伸び)が良好であることが確認できた。また、老化防止剤を含有しないクロロプレン-アクリロニトリル統計的共重合体ラテックスを用いた比較例2に対し、老化防止剤を含有するクロロプレン-アクリロニトリル統計的共重合体ラテックスを用いた実施例1の方が、耐熱性(特に、破断伸び)が良好であることが確認できた。
【0109】
老化防止剤を水分散液として添加したクロロプレン-アクリロニトリル統計的共重合体ラテックスを用いた比較例3~5は、遠心分離後の老化防止剤濃度の比(液面サンプリング液/底面サンプリング液)が、0.6未満であった。これは、老化防止剤が沈殿していることを意味している。これに対して、老化防止剤を有機溶媒溶液の水乳化液として添加したクロロプレン-アクリロニトリル統計的共重合体ラテックスを用いた実施例6は、遠心分離後の老化防止剤濃度の比(液面サンプリング液/底面サンプリング液)が、0.6~1.2の範囲内であった。これは、老化防止剤がラテックス中に均一に分散していることを意味している。そして、比較例3~5に比べて、実施例6の方が、耐熱性(特に、破断伸び)が良好であることが確認できた。
【0110】
実施例の中で比較すると、不飽和ニトリルを含有しないクロロプレン重合体ラテックスを用いた実施例7に対し、不飽和ニトリルを含有するクロロプレン-アクリロニトリル統計的共重合体ラテックスを用いた実施例1の方が、耐油性が良好であることが確認できた。この結果から、不飽和ニトリルを用いることで、更に耐油性が向上することが分かった。なお、実施例1や実施例2のフィルムの耐油性がマイナスの体積変化率(ΔV)や重量変化率(ΔW)であったのは、フィルム中の界面活性剤が抽出されたことを意味していると考えられる。
【0111】
更に、ビスフェノール系老化防止剤を用いた実施例5に比べて、芳香族二級アミン系の老化防止剤を用いた実施例1の方が、耐熱性である破断伸びが良好であることが確認できた。この結果から、芳香族二級アミン系の老化防止剤を用いることで、耐熱性が更に向上することが分かった。
【0112】
なお、重合停止時に、老化防止剤を含む有機溶媒溶液と重合禁止剤と界面活性剤水溶液とを混合した乳化液を添加した場合であっても、重合工程後に、更に、老化防止剤を含む水分散液を添加した比較例4及び5は、前述の通り、老化防止剤の沈殿が見られた。この結果から、老化防止剤を含む水分散液を添加する工程を行うと、老化防止剤の分散安定性が低下し、その結果、クロロプレン重合体ラテックスを乾燥させた際の耐熱性が低下することが分かった。