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  • 特許-重合性組成物及びコンタクトレンズ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-28
(45)【発行日】2022-11-08
(54)【発明の名称】重合性組成物及びコンタクトレンズ
(51)【国際特許分類】
   C08F 2/44 20060101AFI20221031BHJP
   C08F 20/28 20060101ALI20221031BHJP
   G02C 7/04 20060101ALI20221031BHJP
【FI】
C08F2/44 B
C08F20/28
G02C7/04
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2020557813
(86)(22)【出願日】2019-11-28
(86)【国際出願番号】 JP2019046522
(87)【国際公開番号】W WO2020111170
(87)【国際公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-03-22
(31)【優先権主張番号】P 2018225809
(32)【優先日】2018-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大元 誠
【審査官】藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/119042(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/123267(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/169370(WO,A1)
【文献】特開2017-119700(JP,A)
【文献】特開2009-067973(JP,A)
【文献】特開2013-254047(JP,A)
【文献】国際公開第2018/207843(WO,A1)
【文献】特開2015-206011(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/00-2/60、6/00-246/00、301/00
G02B 1/00-1/08、3/00-3/14
G02C 1/00-13/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表される紫外線吸収剤と、最大吸収波長が400nm以上450nm未満の着色剤と、重合性化合物と、を含有し、
重合性組成物の全量に対する前記紫外線吸収剤の含有量が0.05質量%~0.4質量%であり、重合性組成物の全量に対する前記着色剤の含有量が0.005質量%~0.02質量%である、
重合性組成物。
【化1】


一般式(I)中、R11は、脂肪族基、芳香族基、又は炭素原子で隣接する酸素原子と結合する複素環基を表し、R12、R13、R14、R15及びR16は、各々独立に、水素原子、脂肪族基、芳香族基、又は炭素原子で隣接する酸素原子と結合する複素環基を表し、Y11は電子吸引性基を表す。R12とR13、R13とR15、R15とY11、Y11とR11、R11とR14、R14とR16、及びR16とR12は、互いに結合して環を形成してもよい。
【請求項2】
前記重合性組成物における前記紫外線吸収剤と前記着色剤との含有比率は質量比で60:1~5:1である、請求項1に記載の重合性組成物。
【請求項3】
下記一般式(I)で表される紫外線吸収剤と、最大吸収波長が400nm以上450nm未満の着色剤と、重合性化合物と、を含有し、
前記紫外線吸収剤と前記着色剤との含有比率は質量比で60:1~5:1である、
重合性組成物。
【化2】


一般式(I)中、R 11 は、脂肪族基、芳香族基、又は炭素原子で隣接する酸素原子と結合する複素環基を表し、R 12 、R 13 、R 14 、R 15 及びR 16 は、各々独立に、水素原子、脂肪族基、芳香族基、又は炭素原子で隣接する酸素原子と結合する複素環基を表し、Y 11 は電子吸引性基を表す。R 12 とR 13 、R 13 とR 15 、R 15 とY 11 、Y 11 とR 11 、R 11 とR 14 、R 14 とR 16 、及びR 16 とR 12 は、互いに結合して環を形成してもよい。
【請求項4】
重合性組成物の全量に対する前記紫外線吸収剤の含有量が0.05質量%~0.4質量%である請求項に記載の重合性組成物。
【請求項5】
重合性組成物の全量に対する前記着色剤の含有量が0.005質量%~0.02質量%である請求項3又は請求項4に記載の重合性組成物。
【請求項6】
前記重合性化合物は、分子内にカルボニル基を有する化合物を含む請求項1~請求項のいずれか1項に記載の重合性組成物。
【請求項7】
前記重合性化合物は、分子内にカルボニル基とヒドロキシ基とを有する化合物を含む請求項1~請求項のいずれか1項に記載の重合性組成物。
【請求項8】
前記分子内にカルボニル基とヒドロキシ基とを有する化合物が2-ヒドロキシエチルメタクリレートである請求項に記載の重合性組成物。
【請求項9】
下記一般式(I)で表される紫外線吸収剤と、最大吸収波長が400nm以上450nm未満の着色剤と、重合性化合物としての2-ヒドロキシエチルメタクリレートと、を含有する重合性組成物。
【化3】


一般式(I)中、R 11 は、脂肪族基、芳香族基、又は炭素原子で隣接する酸素原子と結合する複素環基を表し、R 12 、R 13 、R 14 、R 15 及びR 16 は、各々独立に、水素原子、脂肪族基、芳香族基、又は炭素原子で隣接する酸素原子と結合する複素環基を表し、Y 11 は電子吸引性基を表す。R 12 とR 13 、R 13 とR 15 、R 15 とY 11 、Y 11 とR 11 、R 11 とR 14 、R 14 とR 16 、及びR 16 とR 12 は、互いに結合して環を形成してもよい。
【請求項10】
重合性組成物の全量に対する前記紫外線吸収剤の含有量が0.05質量%~0.4質量%である請求項9に記載の重合性組成物。
【請求項11】
重合性組成物の全量に対する前記着色剤の含有量が0.005質量%~0.02質量%である請求項9又は請求項10に記載の重合性組成物。
【請求項12】
前記着色剤は、油溶性染料を含む請求項1~請求項11のいずれか1項に記載の重合性組成物。
【請求項13】
前記油溶性染料は、分子内に、アミノ基、アゾ基及び含窒素複素環基から選ばれる少なくとも1つを有する含窒素油溶性染料である請求項2に記載の重合性組成物。
【請求項14】
重合性組成物の全量に対する前記重合性化合物の含有量が90質量%以上100質量%未満である請求項1~請求項13のいずれか1項に記載の重合性組成物。
【請求項15】
さらに、熱重合開始剤を含有する請求項1~請求項14のいずれか1項に記載の重合性組成物。
【請求項16】
請求項1~請求項15のいずれか1項に記載の重合性組成物の硬化物であるコンタクトレンズ。
【請求項17】
波長400nm~440nmの範囲における光透過率が80%以下である請求項16に記載のコンタクトレンズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、重合性組成物及びコンタクトレンズに関する。
【背景技術】
【0002】
さまざまな波長の光が人間の目に直接入射すると目への悪影響を及ぼすことが知られている。
近年、自然光、オフィス機器の液晶ディスプレイ、スマートフォン等のモバイルのディスプレイ等からの発光に含まれるブルーライトの眼への影響が注目され、ブルーライトによる眼精疲労などの眼への影響が問題となっている。また、長期間に亘り、ブルーライトに曝露されることは、眼精疲労、ストレス、さらには加齢黄斑変性等を引き起こす要因になる場合がある。このため、紫外光のみならず、波長380nm~500nmのブルーライトの透過を抑制することが望まれている。
【0003】
例えば、特定構造のメロシアニン染料を含み、紫外光のみならず、可視光域のブルーライト遮断性に優れる保護シートが提案されている(国際公開第2017/169370号参照)。
また、分子内に1個以上のトリチオカーボネート基を有する特定構造のブルーライト吸収化合物が提案され、380nm~500nmのブルーライト遮断性に優れ、ベンゾトリアゾール系などの紫外線吸収剤、染料などと併用して、種々の用途に適用しうることが開示されている(特開2018-168140号公報参照)。
眼科用材料として、低粘着性、低含水率でコンタクトレンズに好適な眼用レンズ材料が開示され、青視症矯正用として、コンタクトレンズに黄色染料を含有することが好ましいことが記載されている(特開平8-173522号公報参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者の検討によれば、国際公開第2017/169370号及び特開2018-168140号公報に記載の紫外線吸収剤は単独では十分なブルーライト遮断性を得られず、また、紫外線吸収剤を単独でブルーライトカットに充分な量で重合性組成物に含有させた場合、重合性組成物により得られた硬化物において、紫外線吸収剤の凝集によりヘイズが低下する場合があることが分かった。
他方、特開平8-173522号公報に記載の如き黄色染料は、紫外線吸収剤よりも少量でブルーライト遮断性を得られるが、黄色染料を単独でブルーライトカットに充分な量で重合性組成物に含有させた場合、硬化物が着色してしまい、例えば、コンタクトレンズなどの光学系の用途には適さないという問題がある。
【0005】
本発明の一実施形態が解決しようとする課題は、少なくとも380nm~500nmの波長領域のブルーライトの遮断性が良好であり、且つ、得られる硬化物の着色が抑制された重合性組成物を提供することである。
本発明の別の実施形態が解決しようとする課題は、少なくとも380nm~500nmの波長領域のブルーライトの遮断性が良好であり、且つ、着色が抑制されたコンタクトレンズを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための手段には、以下の態様が含まれる。
<1> 下記一般式(I)で表される紫外線吸収剤と、最大吸収波長が400nm以上450nm未満の着色剤と、重合性化合物と、を含有する重合性組成物。
【0007】
【化1】
【0008】
一般式(I)中、R11は、脂肪族基、芳香族基、又は炭素原子で隣接する酸素原子と結合する複素環基を表し、R12、R13、R14、R15及びR16は、各々独立に、水素原子、脂肪族基、芳香族基、又は炭素原子で隣接する酸素原子と結合する複素環基を表し、Y11は電子吸引性基を表す。R12とR13、R13とR15、R15とY11、Y11とR11、R11とR14、R14とR16、及びR16とR12は、互いに結合して環を形成してもよい。
<2> 上記着色剤は、油溶性染料を含む<1>に記載の重合性組成物。
<3> 上記油溶性染料は、分子内に、アミノ基、アゾ基及び含窒素複素環基から選ばれる少なくとも1つを有する含窒素油溶性染料である<2>に記載の重合性組成物。
【0009】
<4> 上記重合性化合物は、分子内にカルボニル基を有する化合物を含む<1>~<3>のいずれか1つに記載の重合性組成物。
<5> 上記重合性化合物は、分子内にカルボニル基とヒドロキシ基とを有する化合物を含む<1>~<4>のいずれか1つに記載の重合性組成物。
<6> 上記分子内にカルボニル基とヒドロキシ基とを有する化合物が2-ヒドロキシエチルメタクリレートである<5>に記載の重合性組成物。
【0010】
<7> 重合性組成物の全量に対する上記重合性化合物の含有量が90質量%以上100質量%未満である<1>~<6>のいずれか1つに記載の重合性組成物。
<8> 重合性組成物の全量に対する上記紫外線吸収剤の含有量が0.05質量%~0.4質量%である<1>~<7>のいずれか1つに記載の重合性組成物。
<9> 重合性組成物の全量に対する上記着色剤の含有量が0.005質量%~0.02質量%である<1>~<8>のいずれか1つに記載の重合性組成物。
<10> さらに、熱重合開始剤を含有する<1>~<9>のいずれか1つに記載の重合性組成物。
【0011】
<11> <1>~<10>のいずれか1つに記載の重合性組成物の硬化物であるコンタクトレンズ。
<12> 波長400nm~440nmの範囲における光透過率が80%以下である<11>に記載のコンタクトレンズ。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一実施形態によれば、少なくとも380nm~500nmの波長領域のブルーライトの遮断性が良好であり、且つ、得られる硬化物の着色が抑制された重合性組成物を提供することができる。
本発明の別の実施形態によれば、少なくとも380nm~500nmの波長領域のブルーライトの遮断性が良好であり、且つ、着色が抑制されたコンタクトレンズを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、実施例3の重合性組成物、比較例3の重合性組成物及び比較例4の重合性組成物のそれぞれを用いて作製した疑似コンタクトレンズの、波長300nm~700nmにおける光透過率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の重合性組成物及びコンタクトレンズについて説明する。
但し、本開示は、以下に記載の実施形態に何ら限定されるものではなく、目的の範囲内において、適宜、変更を加えて実施することができる。
【0015】
本開示において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を意味する。
本開示に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
また、本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
本開示において、各成分の含有量又は配合量は、各成分に該当する物質が複数種存在する場合には、特に断らない限り、複数種の物質の合計の含有率又は配合率を意味する。
【0016】
本開示において、「(メタ)アクリル」は、アクリル及びメタクリルの少なくとも一方を意味し、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート及びメタクリレートの少なくとも一方を意味する。
「置換基」の表記は、特に断りのない限り、無置換のもの、置換基をさらに有するものを包含する意味で用いられ、例えば「アルキル基」と表記した場合、無置換のアルキル基と置換基をさらに有するアルキル基の双方を包含する意味で用いられる。その他の置換基についても同様である。
本開示において、「工程」との語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
本開示において、「ブルーライト」とは、380nm~500nmの波長域の光を指す。380nm~500nmの波長域の光を吸収し、遮蔽し得ることが目の健康を守る目的で有効であると考えられる。本開示においては、ブルーライトのなかでも、眼の健康にとって特に重要と考えられる400nm~440nmの波長域のブルーライト遮断性に着目して評価を行なっている。
また、本開示における「ブルーライトの遮断」とは、重合性組成物の硬化物を介することで、少なくとも380nm~500nmの波長領域のブルーライトを完全に遮断する場合のみならず、ブルーライトの少なくとも一部を遮断し、ブルーライトの透過率を減少させることを包含する。
【0017】
[重合性組成物]
本開示の重合性組成物は、下記一般式(I)で表される紫外線吸収剤と、最大吸収波長が400nm以上450nm未満の着色剤と、重合性化合物と、を含有する。
なお、以下、下記一般式(I)で表される紫外線吸収剤を、「特定紫外線吸収剤」と称することがある。また、最大吸収波長が400nm以上450nm未満の着色剤を、「特定着色剤」と称することがある。
【0018】
〔特定紫外線吸収剤〕
本開示の重合性組成物が含む特定紫外線吸収剤は、下記一般式(I)で表されるδ-アミノペンタジエン酸エステル誘導体である。
特定紫外線吸収剤は、最大吸収波長を360nm~400nmの波長域に有することが好ましい。
本開示の重合性組成物によれば、特定紫外線吸収剤と特定着色剤とを併用することで、良好なブルーライト遮断性を得ることができると考えている。即ち、重合性組成物に含まれる特定紫外線吸収剤の吸収裾帯を利用して、特定紫外線吸収剤にブルーライト波長の短波側を主に吸収させて、遮断することができる。且つ、ブルーライト波長のより長波側については、以下に詳述する特定着色剤の主吸収帯によって、特定着色料に吸収させることにより遮断することができる。従って、本開示の重合性組成物はブルーライトを広い波長域でカットできると考えている。
特定紫外線吸収剤の最大吸収波長が360nmより大きいことで、より良好なブルーライト遮断性が得られ、且つ、400nmより小さいことで、重合性組成物の硬化物における着色の発生がより効果的に抑制される。
【0019】
紫外線吸収剤の最大吸収波長の測定は、例えば、分光光度計を用いて行なうことができる。最大吸収波長の測定に用いうる装置としては、(株)島津製作所、分光光度計 UV3600、紫外可視近赤外分光光度計 UV 3150等が挙げられ、本開示では、分光光度計 UV3600を用いて測定している。
測定は室温(25℃)にて行い、測定条件として、空気をコントロールとして参照し、吸光度を測定して吸収スペクトルを得る。
所定の波長範囲の波長の吸光度を測定することで、最大吸収波長、透過率などを算出することができる。
【0020】
【化2】
【0021】
一般式(I)中、R11は、脂肪族基、芳香族基、又は炭素原子で隣接する酸素原子と結合する複素環基を表し、R12、R13、R14、R15及びR16は、各々独立に、水素原子、脂肪族基、芳香族基、又は炭素原子で隣接する酸素原子と結合する複素環基を表し、Y11は電子吸引性基を表す。R12とR13、R13とR15、R15とY11、Y11とR11、R11とR14、R14とR16、及びR16とR12は、互いに結合して環を形成してもよい。
【0022】
上記一般式(I)における各置換基について説明する。
脂肪族基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、及びアラルキル基から選ばれる基が好ましく挙げられる。アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、及びアラルキル基は、それぞれさらに置換基を有していてもよい。
【0023】
アルキル基は、直鎖であっても、分岐を有していてもよく、環を形成していてもよい。アルキル基の炭素数は1~20であることが好ましく、1~18であることがさらに好ましい。
ここで、アルキル基の炭素数とは、アルキル基を構成する炭素原子の数を意味し、アルキル基がさらに置換基を有する場合の置換基の炭素数は含まない。以下に示す他の官能基の炭素数も同様の意味で用いられる。
アルキル基としては、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、t-ブチル、n-オクチル、エイコシル、2-クロロエチル、2-シアノエチル、2-エチルヘキシ、シクロヘキシル、シクロペンチル、及び4-n-ドデシルシクロヘキシルから選ばれる基が挙げられる。
【0024】
アルケニル基は、直鎖であっても、分岐を有していてもよく、また環を形成していてもよい。アルケニル基の炭素数は2~20であることが好ましく、2~18であることがより好ましい。
アルケニル基としては、例えば、ビニル、アリル、プレニル、ゲラニル、オレイル、2-シクロペンテン-1-イル、及び2-シクロヘキセン-1-イルから選ばれる基が挙げられる。
【0025】
アルキニル基は、直鎖であっても、分岐を有していてもよく、また環を形成していてもよい。アルキニル基の炭素数は2~20であることが好ましく、2~18であることがより好ましい。
アルキニル基としては、例えば、エチニル、プロパルギル、及びトリメチルシリルエチニルから選ばれる基が挙げられる
【0026】
アラルキル基のアルキル部分は、既述のアルキル基と同様である。
また、アラルキル基のアリール部分は、例えば、フェニル、p-トリル、ナフチル、m-クロロフェニル、及びo-ヘキサデカノイルアミノフェニルから選ばれる基が挙げられる。
【0027】
アルキル基、アルケニル基、アルキニル基及びアラルキル基はさらに置換基を有していてもよい。
【0028】
芳香族基は、アリール基を意味する。芳香族基は、アリール基に、さらに脂肪族環、他の芳香族環又は複素環が縮合した多環構造の芳香族基であってもよい。芳香族基の炭素数は6~40が好ましく、6~30がより好ましく、6~20がさらに好ましい。なかでも、芳香族基としてはフェニル基又はナフチル基であることが好ましく、フェニル基が特に好ましい。
【0029】
複素環基は、5員又は6員の飽和又は不飽和複素環を含むことが好ましい。複素環基は、複素環に脂肪族環、芳香族環又は他の複素環が縮合した多環構造の複素環基であってもよい。複素環基が含むヘテロ原子の例としては、B、N、O、S、Se及びTeから選ばれる原子が挙げられる。複素環基におけるヘテロ原子としては、N、O及びSから選ばれる原子が好ましい。複素環は炭素原子が遊離の原子価(一価)を有し、複素環基は炭素原子において、隣接する炭素原子、酸素原子、又は窒素原子と結合する。
【0030】
脂肪族基、芳香族基、及び炭素原子で結合する複素環基はさらに置換基を有していてもよく、導入しうる置換基の例としては、特開2008-81445号公報の段落〔0020〕~〔0039〕に記載の置換基を挙げることができる。
【0031】
好ましい複素環基の炭素数は1~40であり、より好ましくは1~30であり、さらに好ましくは1~20である。
飽和複素環の例としては、ピロリジン環、モルホリン環、2-ボラ-1,3-ジオキソラン環及び1,3-チアゾリジン環から選ばれる環が挙げられる。不飽和複素環の例としては、イミダゾール環、チアゾール環、ベンゾチアゾール環、ベンゾオキサゾール環、ベンゾトリアゾール環、ベンゾセレナゾール環、ピリジン環、ピリミジン環及びキノリン環から選ばれる環が挙げられる。
【0032】
一般式(I)におけるR11は、好ましくは脂肪族基、及び芳香族基から選ばれる基であり、より好ましくは炭素数4~30のアルキル基、炭素数4~30のアルケニル基、炭素数4~30のアルキニル基、炭素数7~30のアラルキル基及び炭素数6~30のアリール基から選ばれる基であり、さらに好ましくは炭素数6~20のアルキル基、炭素数6~20のアルケニル基、炭素数7~20のアラルキル基及び炭素数6~20のアリール基から選ばれる基であり、特に好ましくは炭素数6~20のアルキル基、又は炭素数6~20のアルケニル基であり、最も好ましくは炭素数8~20の1級アルキル基である。
【0033】
一般式(I)におけるR12及びR13は、好ましくは、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基及びアリール基から選ばれ、より好ましくは水素原子、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基、炭素数2~20のアルキニル基及び炭素数6~20のアリール基から選ばれ、さらに好ましくは炭素数1~10のアルキル基、炭素数2~10のアルケニル基及び炭素数6~10のアリール基から選ばれ、特に好ましくは炭素数1~8のアルキル基又は炭素数6~8のアリール基であり、最も好ましくは炭素数1~5のアルキル基である。炭素数1~5のアルキル基としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、t-ブチルから選ばれる基が挙げられる。
また、R12とR13とは同一の基であることも好ましい。
【0034】
一般式(I)におけるR14、R15及びR16は、好ましくは、水素原子、炭素数1~10のアルキル基又は炭素数6~10のアリール基であり、さらに好ましくは水素原子、及び炭素数1~5のアルキル基であり、最も好ましくは水素原子である。
【0035】
一般式(I)においてY11が示す電子吸引性基とは、その置換基のハメットの置換基定数σ値が正の数値となる基であることを意味している。
ここでハメット則はベンゼン誘導体の反応又は平衡に及ぼす置換基の影響を定量的に論ずるために1935年L.P.Hammettにより提唱された経験則であり、これは今日広く妥当性が認められている。ハメット則により求められた置換基定数にはσ値とσ値があり、これらの値は多くの一般的な成書に記載がある。ハメット則については、例えば、J.A.Dean編「Lange’s Handbook of Chemistry」第12版、1979年(Mc Graw-Hill)、「化学の領域増刊」、122号、96~103頁、1979年(南江堂)等の成書があり、ハメット則について詳しく記載されている。本開示においてY11が示す電子吸引性基は、ハメットの置換基定数σ値により規定される。本開示における電子吸引性基は、上記の成書に記載の文献既知の値がある置換基にのみ限定されるという意味ではなく、置換基定数σ値が文献未知であっても、ハメット則に基づいて測定した場合に、当該置換基の置換基定数σ値が正の数値となる限り、本開示における電子吸引性基に包含されることはいうまでもない。
【0036】
一般式(I)におけるY11としては、好ましくは、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、アシル基、アリールカルボニル基、シアノ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基などが挙げられる。
11が表す基は、好ましくは炭素数6~20、より好ましくは6~15のアリールスルホニル基(例えば、ベンゼンスルホニル基、p-トルエンスルホニル基、p-クロロベンゼンスルホニル基、及びナフタレンスルホニル基)、好ましくは炭素数1~20、より好ましくは炭素数1~5のアシル基(例えば、ホルミル基、アセチル基、及びプロピオニル基)、好ましくは炭素数7~20、より好ましくは炭素数7~15のアリールカルボニル基、ニトリル基、好ましくは炭素数2~20、より好ましくは炭素数2~9のアルコキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、t-ブトキシカルボニル基、及びベンジルオキシカルボニル基)、好ましくは炭素数7~20、より好ましくは炭素数7~15のアリールオキシカルボニル基(例えば、フェノキシカルボニル基、及びp-ニトロフェノキシカルボニル基)から選ばれる基が好適に挙げられる。なかでも、好ましくは炭素数6~15のアリールスルホニル基であり、最も好ましくはベンゼンスルホニル基である。
【0037】
以下に、一般式(I)で表される化合物の具体例として、例示化合物:(I-1)~(I-20)、(II-1)~(II-10)を示すが、本開示における特定紫外線吸収剤は以下の例示化合物に限定されない。なお、以下の例示化合物において、「Ph」はフェニル基を示し、「(i)C」又は「C(i)」はイソプロピル基を示し、「C11(t)」はターシャリペンチル基を示す。
【0038】
【化3】
【0039】
【化4】
【0040】
【化5】
【0041】
特定紫外線吸収剤は、紫外線の遮断性が良好であり、且つ、重合性組成物に含まれる他の成分、例えば、特定着色剤、重合性化合物などとの親和性が良好であることが好ましい。特定紫外線吸収剤が、重合性組成物に含まれる他の成分との親和性が良好であることにより、重合性組成物を硬化物とした場合、硬化物からの特定紫外線吸収剤の溶出、及び特定紫外線吸収剤の凝集に起因するヘイズの発生が抑制されると考えられる。
重合性組成物の硬化物からの特定紫外線吸収剤の溶出、及び特定紫外線吸収剤の凝集に起因するヘイズの発生がより効果的に抑制されるという観点から、上記例示化合物のなかでも、具体的には、(I-1)、(I-2)、(I-3)、(I-4)、(I-6)、(I-11)、(I-12)、(I-15)、(I-16)、(I-20)、(II-1)、(II-2)、(II-3)、及び(II-4)から選ばれる少なくとも1種の化合物が好ましく挙げられ、より好ましくは(I-1)、(I-2)、(I-11)、(I-12)、及び(II-1)から選ばれる少なくとも1種の化合物が挙げられ、特に好ましくは(I-2)が挙げられる。
【0042】
コンタクトレンズなどの常に水分が接触した環境で、且つ、消毒のための高熱処理が必要な用途に重合性組成物を用いた場合に、硬化物からの特定紫外線吸収剤の溶出抑制及び特定紫外線吸収剤の凝集に起因するヘイズの発生の抑制が重要となる。従って、このような過酷な用途において、本開示の重合性組成物の効果が著しいといえる。
【0043】
重合性組成物は、特定紫外線吸収剤を1種のみ含んでもよく、2種以上を併用してもよい。
重合開始剤の全量に対する特定紫外線吸収剤の含有量は、0.02質量%~0.5質量%であることが好ましく、0.05質量%~0.4質量%であることがより好ましい。
特定紫外線吸収剤の含有量が0.02質量%以上であることでブルーライト遮断性がより良好となり、0.5質量%以下であることで、重合性組成物の硬化物からの溶出又は凝集によるヘイズの発生がより効果的に抑制される。
【0044】
〔特定着色剤〕
本開示の重合性組成物は、最大吸収波長が400nm以上450nm未満の着色剤(特定着色剤)を含む。
本開示の重合性組成物の硬化物は、380nm~500nmのブルーライト遮断性が良好であり、ブルーライトの眼に対する影響を著しく低減できる。
他方、人間の眼は、波長550nmを最大として、450nm~700nm領域に視感度を有する。このため、特定着色剤として最大吸収波長が450nm未満の着色剤を選択することで、重合性組成物の硬化物が人の眼の視感度に与える影響を低減できる。
また、特定着色剤の最大吸収波長が400nm以上であることで、特定紫外線吸収剤の吸収曲線のスソ、即ち、最大吸収波長に比較して遮断性がやや低い長波長側に相当する波長領域におけるブルーライト遮断性をより向上させている。
【0045】
特定着色剤の最大吸収波長は、既述の特定紫外線吸収剤の最大吸収波長の測定と同様にして行なうことができる。
【0046】
特定着色剤は、最大吸収波長が400nm以上450nm未満であること以外に特に制限はなく、上記最大吸収波長を有する着色剤から適宜選択して用いることができる。
なかでも、重合性組成物の硬化物からの着色剤の溶出及び経時後の着色剤の凝集に起因するヘイズ発生を効果的に抑制するという観点から、重合性組成物における他の成分、例えば、重合性化合物との相溶性が良好な着色剤を選択することが好ましい。特定着色剤としては、油溶性染料、分散染料、及び昇華染料が好ましく、なかでも、効果の観点から、油溶性染料がより好ましい。
本開示における油溶性染料は、イオン性基を含まない中性の構造を有し、分散染料及び昇華染料に比較して、共存する重合性化合物、有機溶剤等との相溶性がより良好な染料である。
本開示における油溶性染料とは、水に実質的に不溶な染料を意味する。具体的には、25℃での水への溶解度(水100gに溶解できる染料の質量)が1g以下の染料を指す。本開示における油溶性染料の水への溶解度は、好ましくは0.5g以下であり、より好ましくは0.1g以下である。
【0047】
油溶性染料としては、共存する特定紫外線吸収剤、重合性化合物等との親和性の観点から、分子内に、アミノ基、アゾ基及び含窒素複素環基から選ばれる少なくとも1つを有する含窒素油溶性染料が好ましい。
含窒素油溶性染料の作用は明らかではないが、油溶性染料が分子内に窒素原子を有することで、共存する特定紫外線吸収剤及び重合性化合物の少なくともいずれかと、水素結合性の相互作用及び双極子―双極子の相互作用の少なくともいずれかを形成しやすくなるためと考えている。従って、特定着色料として含窒素油溶性染料を用いることで、重合性組成物、延いては、重合性組成物の硬化物中において特定着色剤が安定して存在することになり、所望されない溶出及び凝集を抑制しうると考えている。なお、上記作用は推定であり、本開示の重合性組成物は、この推定機構に何ら制限されない。
特定着色剤の具体例としては、ソルベントイエロー33、及びソルベントイエロー4が挙げられ、より好ましくは、ソルベントイエロー33が挙げられる。
【0048】
重合性組成物にける特定着色剤の含有量には特に制限はなく、目的に応じて適宜選択される。
なかでも、ブルーライト遮断性と着色抑制とのバランスが良好であるという観点から、特定着色剤の含有量は、重合性組成物の全量に対し、0.002質量%~0.03質量%であることが好ましく、0.005質量%~0.02質量%であることがより好ましく、0.01質量%~0.02質量%であることがさらに好ましい。
【0049】
(特定紫外線吸収剤と特定着色剤との含有比率)
特定紫外線吸収剤及び特定着色剤の重合性組成物に対する好ましい含有量は、既述の通りである。
さらに、ブルーライト遮断性と着色抑制とのバランスが良好であるという観点から、集合性組成物における特定紫外線吸収剤と特定着色剤との含有比率は、質量比で100:1~1:1とすることができ、60:1~5:1であることが好ましく、40:1~5:1であることがより好ましい。
【0050】
〔重合性化合物〕
本開示の重合性組成物は、重合性化合物を含む。
重合性組成物が重合性化合物を含むことで、重合性組成物にエネルギーを付与して、硬化させて硬化物とすることができる。本開示の重合性組成物を用いて得られた硬化物はブルーライト遮断性を必要とする種々の用途に適用することができる。
【0051】
重合性化合物は、共存する特定紫外線吸収剤及び着色剤との親和性向上の観点から、分子内にカルボニル基を有する化合物を含むことが好ましく、分子内にカルボニル基とヒドロキシ基とを有する化合物を含むことがより好ましい。
【0052】
本開示の重合性組成物の好適な用途の一つとして、後述のコンタクトレンズが挙げられる。コンタクトレンズは、眼球表面に直接装用されるため、常に生理食塩水に近い組成の液体と接触して用いられることになる。
従って、本開示の重合性組成物を後述のコンタクトレンズに適用する場合には、水分、特に生理食塩水と類似の組成を持つ水溶液に長時間接触させても効果が持続されるという観点から、分子内にカルボニル基とヒドロキシ基とを有する重合性化合物が好適である。
カルボニル基を有する重合性化合物としては、(メタ)アクリレート、アルキル(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、フェノキシアルキル(メタ)アクリレート、アルキレングリコール(メタ)アクリル酸等が挙げられ、より具体的には、メタクリル酸(MAA)、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、エチレングリコールジメタクリレート(ED)、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレート(HPPA)、フェノキシエチルアクリレート(POEA)、フェノキシエチルメタクリレート(POEMA)、ベンジルアクリレート(BA)、ラウリルメタクリレート(LMA)等が挙げられる。なかでも、重合性化合物としては、分子内にカルボニル基とヒドロキシ基とを有する重合性化合物であるヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、エチレングリコールジメタクリレート(ED)等が好ましく、2-ヒドロキシエチルメタクリレートであることがより好ましい。
【0053】
重合性化合物は、重合に寄与するエチレン不飽和結合などの重合性基を1つのみ有する単官能重合性化合物であってもよく、複数の重合性基を有する多官能重合性化合物であってもよい。
得られる硬化物の強度、柔軟性、汚れの付着しにくさなどを向上させるため、重合性化合物として、多官能(メタ)アクリレート(多官能重合性化合物の一態様)、環状又は分岐を有するアルキル基を含むアルキル(メタ)アクリレート、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルアクリレート(6FA)等のフッ素含有(メタ)アクリレート、シリコン含有(メタ)アクリレート、スチレンなどを含んでもよい。
【0054】
重合性組成物は、重合性化合物を1種のみ含んでもよく、2種以上を併用してもよい。
重合性組成物の全量に対する重合性化合物の含有量は90質量%以上100質量%未満であることが好ましく、95質量%以上100質量%未満であることがより好ましく97質量%以上100質量%未満であることがさらに好ましい。
なかでも、好適な重合性化合物である2-ヒドロキシエチルメタクリレートの含有量が、重合性組成物に含まれる重合性化合物の全量に対し、90質量%以上であることが最も好ましい。
【0055】
〔その他の成分〕
本開示の重合性組成物は、特定紫外線吸収剤、特定着色剤及び重合性化合物に加え、目的に応じてその他の成分を含むことができる。
その他の成分としては、特定紫外線吸収剤以外の他の紫外線吸収剤、重合開始剤、増感剤、重合禁止剤、架橋剤、可塑剤、劣化防止剤(例えば、酸化防止剤、過酸化物分解剤、ラジカル禁止剤、金属不活性化剤、酸捕獲剤、アミン等)などが挙げられる。
【0056】
本開示の重合性組成物は、既述の特定紫外線吸収剤と、特定紫外線吸収剤以外の他の紫外線吸収剤とを併用することもできる。特定紫外線吸収剤以外の他の紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、トリアゾール系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤、及び特許第5236297号公報に記載の一般式(4)で表される化合物(下記の化合物)、等を挙げることができる。
【0057】
【化6】
【0058】
一般式(4)において、Hetは、2価の5あるいは6員環の芳香族ヘテロ環残基を表す。また、該芳香族ヘテロ環残基は置換基を有していてもよい。R4a、R4b、R4c、R4d、R4e、R4f、R4g及びR4hは、各々独立して、水素原子又は1価の置換基を表す。
式中の各基の詳細については、特許第5236297号公報の記載を参照できる。
【0059】
(重合開始剤)
重合性組成物は、熱重合開始剤を含むことが好ましい。
重合開始剤としては、光重合開始剤及び熱重合開始剤が知られているが、本開示の重合性組成物は、紫外線吸収剤を含むために、重合の進行をより効率よく行なうという観点から、熱重合開始剤を含むことが好ましい。なお、光重合開始剤を用いる場合には、光重合開始剤の含有量を上げたり、増感剤を併用したりすることが好ましい。
【0060】
熱重合開始剤としては、公知のものを適宜使用することができる。
熱重合開始剤としては、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスジメチルバレロニトリル、ベンゾイルパーオキサイド、tert-ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイドなどが挙げられ、アゾビスイソブチロニトリルがより好ましい。
【0061】
重合性組成物が熱重合開始剤を含む場合の、熱重合開始剤の含有量は特に制限はないが、一般的には、熱重合開始剤の含有量は、重合性組成物に含まれる重合性化合物の全量に対し、0.01質量%~3質量%であることが好ましく、0.1質量%~2質量%がより好ましく、0.5質量%~1.5質量%であることがさらに好ましい。
【0062】
〔重合性組成物の用途〕
本開示の重合性組成物は、エネルギーを付与して重合させることで硬化物を形成しうる。従って、ブルーライト遮断性を必要とする種々の用途に好適に使用される。
例えば、コンタクトレンズの製造、ブルーライト遮断用の膜を形成しうる膜形成性組成物、ディスプレイ用フィルムの製造、眼鏡用レンズの製造などに好適に使用しうる。
本開示の重合性組成物を、ガラス板などの硬質部材に塗布し、加熱することで、硬質部材の表面にブルーライト遮断性に優れ、着色が抑制された硬化膜を形成することができる。硬質部材の表面にブルーライト遮断性に優れた硬化膜を有する積層体は、ブルーライト遮断性を必要とする種々の部材に応用することができる。
コンタクトレンズについては、後述する。
【0063】
本開示の重合性組成物におけるブルーライト遮断性及びへイズは、重合性組成物の硬化物を用いて評価される。
評価用膜(硬化物)は、以下のようにして得ることができる。
ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(テトロン(登録商標)フィルム、帝人(株))をホットプレート上に配置し、ホットプレートを120℃に加熱し、ホットプレートの表面温度を120℃に維持して、PETフィルム上に重合性組成物をスポイトで2滴滴下し(約0.4mL)、1分間加熱を継続して、重合させ、その後、120℃のオーブン中で2時間熱重合を継続させて評価用硬化膜を得る。
ブルーライト遮断性は、既述の特定紫外線吸収剤の最大吸収波長の測定方法に記載したものと同様の装置を用いて行なうことができる。
ヘイズは、ヘイズメーター(装置名:HGM-2DP、スガ試験機(株)製)にて測定することができる。
なお、本開示では、ヘイズは、重合性組成物により形成された硬化物(具体的には、硬化膜)を目視にて観察した場合の硬化物の濁りの程度で評価する。即ち、目視による硬化物の観察において、目視で透明なものをヘイズが良好とし、濁りの発生したもの、さらに、濁りの程度が増加したものをヘイズが低下したと評価する。
【0064】
[コンタクトレンズ]
本開示のコンタクトレンズは、既述の本開示の重合性組成物の硬化物である。
本開示のコンタクトレンズは、下記方法で製造することができる。
まず、重合性組成物に、特定紫外線吸収剤、特定着色剤、及び所望により用いられる熱重合開始剤、その他の成分を十分に撹拌、混合して重合性組成物を得る。次に、得られた重合性組成物を成形型に注入し、加熱硬化させることで、コンタクトレンズを製造することができる。
本開示のコンタクトレンズは、波長400nm~440nmの範囲における光透過率が80%以下であることが好ましい。
【0065】
コンタクトレンズの波長400nm~440nmの範囲における光透過率は、既述の特定紫外線吸収剤の最大吸収波長の測定方法に記載したものと同様の装置を用いて行なうことができる。
また、コンタクトレンズのヘイズは、既述のように、重合性組成物の硬化物である疑似コンタクトレンズを目視にて観察することで評価している
【0066】
得られたコンタクトレンズは、生理食塩水に24時間以上浸漬され、その後、生理食塩水中で、100℃にて1時間以上煮沸消毒され、滅菌フィルムにより包装されて市販品としてのコンタクトレンズとすることができる。煮沸消毒は包装後に行なってもよい。
コンタクトレンズは医療器具であり、市販される前に煮沸消毒による十分な殺菌処理が行なわれる。
【0067】
コンタクトレンズは、成形後に透明性が良好であっても、煮沸消毒により高温に曝されると、重合性組成物の硬化物における分子の運動が活発となり、公知の重合性組成物の硬化物を用いた場合、硬化物に含まれる紫外線吸収剤、着色剤等が生理食塩水に溶出する所謂「泣き出し」が生じたり、硬化物中で紫外線吸収剤、着色剤等が互いに凝集して透明性が低下したりすることがある。
本開示の重合性組成物を用いて得られたコンタクトレンズは、硬化物の形成に際して、重合性化合物と特定紫外線吸収剤、及び重合性化合物と特定着色剤が、互いに水素結合性の相互作用を形成し、硬化物中に、特定紫外線吸収剤及び特定着色剤が安定に固体化されて存在すると考えられる。
従って、本開示のコンタクトレンズは、ブルーライト遮断性に優れ、着色が抑制されるという本来の効果に加え、生理食塩水に長時間浸漬された場合の特定紫外線吸収剤及び特定着色剤の溶出、煮沸消毒された場合の特定紫外線吸収剤及び特定着色剤の凝集に起因するヘイズの低下が抑制されるという副次的な効果を奏する。
【実施例
【0068】
以下、本開示について実施例を挙げて、さらに具体的に説明するが、本開示はその主旨を超えない限り、以下の実施例に限定されない。
なお、特に断らない限り、以下の実施例における「%」及び「部」は質量基準である。
【0069】
<実施例1>
[重合性組成物の調整]
2-ヒドロキシエチルメタクリレート(重合性化合物)100部に対し、下記成分を添加し、30分マグネチックスターラーで撹拌し、得られた混合物を0.45μmフィルター(アドバンテック社製、PTFE)でろ過して、重合性組成物を調製した。
・特定紫外線吸収剤〔例示化合物(I-2)〕0.02部
・ソルベントイエロー33(シグマアルドリッチ社製:特定着色剤)0.01部
・アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)(富士フイルム和光純薬(株):熱重合開始剤)1部
【0070】
[模擬コンタクトレンズの作製]
PETフィルム(テトロン(登録商標)、帝人(株))をホットプレート上配置し、ホットプレートを120℃で加熱しながら、PETフィルム上に、上記で得た実施例1の重合性組成物を、スポイトで2滴(0.4mL)滴下し、重合性組成物を1分間熱重合させて、PETフィルム上に重合性組成物の硬化膜を有する積層体を得た。その後、得られた積層体を120℃オーブン中に配置して、2時間、重合性組成物の熱重合を継続させた。
得られた硬化膜(硬化物)を有する積層体を、生理食塩水に24時間浸漬させ、硬化膜(模擬コンタクトレンズ)を得た。
以下の硬化膜の評価は、いずれも、PETフィルム上に形成された硬化膜に対して実施した。PETフィルムは、目視にて透明であり、硬化膜の光学的な評価には影響を与えないことを確認した。
【0071】
[性能評価]
(1.ブルーライト遮断性)
得られた模擬コンタクトレンズについて、分光光度計((株)島津製作所社、UV3600)を用いて、透過スペクトルを測定し、以下の評価基準にて評価した。A及びBが実用上問題のないレベルである。
-評価基準-
A:波長400nmの光透過率が80%以下であり、且つ、440nmの光透過率が90%以下である。
B:波長400nmの光透過率が80%以下であること、及び、440nmの光透過率が90%以下であることのうち一方のみを満たす。
C:波長400nmの光透過率が80%を超え、且つ、440nmの光透過率が90%を超える。
【0072】
(2.着色)
得られた硬化膜1Bについて、目視で着色について、以下の評価基準にて評価した。A及びBが実用上問題のないレベルである。
-評価基準-
A: 着色がないか、着色があっても極めて僅かで、実用上好ましい。
B: 着色は認められるが、実用上問題ない。
C: 着色が著しく、実用上問題がある。
【0073】
(3.初期ヘイズ)
得られた硬化膜1Bについて、目視でヘイズについて、以下の評価基準にて評価した。A及びBが実用上問題のないレベルである。
-評価基準-
A: 白濁がないか、白濁があっても極めて僅かで、実用上好ましい。
B: 白濁は認められるが、実用上問題ない。
C: 白濁が著しく、実用上問題がある。
【0074】
(4.煮沸後ヘイズ)
得られた硬化膜1Bについて、生理食塩水に浸漬させながら、100℃で1時間加熱し、目視でヘイズについて以下の評価基準にて評価した。A及びBが実用上問題のないレベルである。
-評価基準-
A: 白濁がないか、白濁があっても極めて僅かで、実用上好ましい。
B: 白濁は認められるが、実用上問題ない。
C: 白濁が著しく、実用上問題がある。
【0075】
[実施例2~実施例12、比較例1~比較例5]
実施例1において、紫外線吸収剤(I-2)の種類及び含有量を下記表1及び表2に示す種類と量に変更した以外は、実施例1と同様にして、重合性組成物を得た。
得られた重合性組成物を用いて硬化膜(疑似コンタクトレンズ)を作製し、実施例1と同様にして評価した。結果を、下記表1~表2に示す。なお、下記表において「-」は、当該成分を含まないことを意味する。
【0076】
各実施例及び比較例において用いた成分を以下に示す。
<紫外線吸収剤>
特定紫外線吸収剤は、既述の例示化合物の符号にて表記した。
比較紫外線吸収剤:チヌビン326、東京化成(株)
<着色剤>
・特定着色剤:SY33(ソルベントイエロー33、シグマアルドリッチ社製)
・特定着色剤:SY4(ソルベントイエロー4、シグマアルドリッチ社製)
・比較着色剤:SY14(ソルベントイエロー14、シグマアルドリッチ社製)
なお、表1~表2に記載された各着色剤の最大吸収波長は、カタログ値を記載している。
<重合開始剤>
・熱重合開始剤:AIBN(富士フイルム和光純薬(株)製)
【0077】
【表1】
【0078】
【表2】
【0079】
表1~表2に記載の結果より、本開示の重合性組成物の硬化物である実施例1~実施例12の疑似コンタクトレンズは、いずれも、ブルーライト遮断性に優れ、着色が抑制されていた。さらに、初期ヘイズが良好であるのみならず、煮沸消毒後のヘイズの著しい低下も見られず、ヘイズはいずれも実用上問題のないレベルであった。
【0080】
他方、特定紫外線吸収剤に代えて比較紫外線吸収剤を用いた比較例1の重合性組成物の硬化物は、ブルーライト遮断性に劣っていた。特定着色剤に代えて、より長波長に最大吸収を有する油溶性染料を含む比較例2の重合性組成物の硬化物は、着色が著しく、比較例1及び比較例2の疑似コンタクトレンズは、いずれも実用上問題のあるレベルであった。また、特定紫外線吸収剤のみを含む比較例3、特定着色剤のみを含む比較例4のいずれも、実用上十分なブルーライト遮断性は得られなかった。特定着色剤の含有量を多くした比較例5では、ブルーライト遮断性は向上するが、着色が発生し、煮沸消毒後のヘイズの低下も著しかった。
【0081】
疑似コンタクトレンズの光透過率を、既述の方法で測定した。結果を図1に示す。図 1では、実施例3の疑似コンタクトレンズの光透過率のグラフを実線で示し、比較例3の疑似コンタクトレンズの光透過率のグラフを破線で示し、及び比較例4の疑似コンタクトレンズの光透過率のグラフを一点破線で示す。
図1により、実施例3の疑似コンタクトレンズの透過率曲線から、特定紫外線吸収剤と特定着色剤との併用により、それぞれ単独での使用に比較し、ブルーライト遮断性と、着色の抑制のバランスがより良好となることが、光透過率の測定結果からも裏付けられた。
【0082】
2018年11月30日に出願された日本国特許出願2018-225809の開示は参照により本開示に取り込まれる。
本開示に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本開示中に参照により取り込まれる。
図1