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特許7167601ベーパーチャンバーおよびベーパーチャンバーの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】ベーパーチャンバーおよびベーパーチャンバーの製造方法
(51)【国際特許分類】
   F28D 15/02 20060101AFI20221101BHJP
【FI】
F28D15/02 106Z
F28D15/02 101H
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018182070
(22)【出願日】2018-09-27
(65)【公開番号】P2020051689
(43)【公開日】2020-04-02
【審査請求日】2021-07-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122529
【弁理士】
【氏名又は名称】藤枡 裕実
(74)【代理人】
【識別番号】100135954
【弁理士】
【氏名又は名称】深町 圭子
(74)【代理人】
【識別番号】100119057
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英生
(74)【代理人】
【識別番号】100131369
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100171859
【弁理士】
【氏名又は名称】立石 英之
(72)【発明者】
【氏名】高橋 伸一郎
(72)【発明者】
【氏名】太田 貴之
(72)【発明者】
【氏名】小田 和範
(72)【発明者】
【氏名】武田 利彦
(72)【発明者】
【氏名】竹松 清隆
(72)【発明者】
【氏名】百瀬 輝寿
(72)【発明者】
【氏名】中村 陽子
【審査官】豊島 ひろみ
(56)【参考文献】
【文献】実開昭56-046298(JP,U)
【文献】特開2017-172871(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28D 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱輸送を担う流体の流路を内部に有する平板状のベーパーチャンバーであって、
平面視上、前記流路が形成されている流路領域と、該流路領域を囲む周縁領域と、を有し、
IDとして作用する光学的識別構造体が、前記周縁領域に形成されているベーパーチャンバー。
【請求項2】
前記IDとして作用する光学的識別構造体が、下地層を介して形成されている、請求項1に記載のベーパーチャンバー。
【請求項3】
熱輸送を担う流体の流路を内部に有する平板状のベーパーチャンバーであって、
IDとして作用する光学的識別構造体が、下地層を介して形成されているベーパーチャンバー。
【請求項4】
熱輸送を担う流体の流路を内部に有する平板状のベーパーチャンバーであって、
IDとして作用する光学的識別構造体が、前記流路とは独立に形成され、最大高さ粗さRzが1μm以下の平滑面上に形成されているベーパーチャンバー。
【請求項5】
熱輸送を担う流体の流路を内部に有する平板状のベーパーチャンバーであって、
IDとして作用する光学的識別構造体が、内部空間がある部分と、内部空間がない部分の高低差が30μm以下の平滑面上に形成されているベーパーチャンバー。
【請求項6】
熱輸送を担う流体の流路を内部に有し、IDとして作用する光学的識別構造体が形成されている平板状のベーパーチャンバーの製造方法であって、
前記IDとして作用する光学的識別構造体を形成する部位を研磨する工程と、
研磨した前記部位に前記IDとして作用する光学的識別構造体を形成する工程と、を順に備える、ベーパーチャンバーの製造方法。
【請求項7】
前記IDとして作用する光学的識別構造体を形成する部位を研磨する工程が、最大高さ粗さRzが1μm以下となるように研磨する工程である、請求項6に記載のベーパーチャンバーの製造方法。
【請求項8】
前記IDとして作用する光学的識別構造体を形成する部位を研磨する工程が、内部空間がある部分と、内部空間がない部分の高低差が30μm以下となるように研磨する工程である、請求項6または請求項7に記載のベーパーチャンバーの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱輸送を担う流体の流路を内部に有するベーパーチャンバーおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯端末やタブレット端末といったモバイル端末等で使用される中央演算処理装置(CPU)等の発熱を伴うデバイスは、ヒートパイプ等の放熱用部材によって冷却されている(例えば、特許文献1参照)。近年では、モバイル端末等の薄型化のために、放熱用部材の薄型化も求められており、ヒートパイプよりも薄型化を図ることができるベーパーチャンバーの開発が進められている。
【0003】
ベーパーチャンバーはヒートパイプによる熱輸送の機構を平板状の部材(金属シート)に適用した機器である。すなわち、ベーパーチャンバーには、対向して配置されて接合された平板状の部材の間に熱輸送を担う流体が封入されており、この流体が相変化を伴いつつ還流することで熱源における熱を輸送及び拡散して熱源を冷却する。
【0004】
例えば、ベーパーチャンバーの対向する平板状の部材間に蒸気用流路と凝縮液用流路とが設けられ、ここに熱輸送を担う流体が封入された形態がある。ベーパーチャンバーを熱源に配置すると、熱源の近くにおいて熱輸送を担う流体は熱源からの熱を受けて蒸発し、気体(蒸気)となって蒸気用流路を移動する。これにより熱源からの熱が熱源から離れた位置に円滑に輸送され、その結果熱源が冷却される。
熱源からの熱を輸送した気体状態の流体は熱源から離れた位置にまで移動し、周囲に熱を吸収されることで冷却されて凝縮し、液体状態に相変化する。相変化した液体状態の流体は凝縮液用流路を通り、熱源の位置にまで戻ってまた熱源からの熱を受けて蒸発して気体状態に変化する。
以上のような循環により熱源から発生した熱が熱源から離れた位置に輸送され熱源が冷却される。
【0005】
上記対向する平板状の部材間の接合は、拡散接合(例えば、特許文献1参照)、ろう付け(例えば、特許文献2参照)、あるいは溶接(例えば、特許文献3参照)により行われることが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-205693号公報
【文献】特開2007-212028号公報
【文献】特開2012-132582号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、平板状の部材間を接合した後で、平板状をなす形成途中の各ベーパーチャンバーの表面あるいは裏面にIDとして作用する光学的識別構造体を形成する場合がある。形成途中のベーパーチャンバー各々に対し、形成された上記光学的識別構造体が有するID情報は個別に異なっている。ロット管理や、熱輸送を担う流体を注入する際の気圧条件や、該流体の注入量に対する検査結果と関連付けるために、形成途中のベーパーチャンバーの各々を明確に区別する必要があるためである。
【0008】
光学的識別構造体は、形成途中のベーパーチャンバーの表面や裏面にインクジェットによる印字やレーザーによる印字や刻印により形成され、そのように形成された光学的識別構造体は、目視、カメラ、スキャナー、あるいはリーダーなどの光学的な手段で読み取られる場合が多い。
【0009】
図12(a)に上側金属シート920の上面920bに、IDとして作用する光学的識別構造体901がQRコード(登録商標)として形成された例の上面図を示す。各ベーパーチャンバー900に対し、光学的識別構造体901であるQRコードが形成され、各光学的識別構造体901(QRコード)が有するID情報は個別に異なっている。このため各ベーパーチャンバー900を個別に識別することが可能となっている。
【0010】
光学的識別構造体901は、それがQRコードである場合には、通常一辺の長さが1mm以上であることが好ましい。QRコード内部の各セルが一定の大きさ以上であった方が、QRコードを形成する光学的識別構造体901の形成具合の変動や、それが形成される上側金属シート920の上面920b、あるいは下側金属シート910の下面910bの表面状態の影響を受けにくく、より安定した読み取りが可能となるからである。
【0011】
光学的識別構造体901を目視、カメラ、スキャナー、あるいはリーダーなどの光学的な手段で正確に読み取ることができれば、光学的識別構造体901が有するID情報により、熱輸送を担う流体を注入する際の気圧条件や、該流体の注入量に対する検査結果、あるいは密封封止後の機能検査結果と各ベーパーチャンバー900との関連付け、あるいはロット管理が確実かつ容易となる。これにより不良品の流出を抑制することで、安定した品質管理が可能となり、良好な品質のベーパーチャンバー900を提供することができる。そのようなベーパーチャンバー900が搭載された電子機器においても、放熱不良が抑制されるため、電子機器の不良を抑制することもできる。また光学的識別構造体901の位置により、ベーパーチャンバー900の表裏や上下の区別が容易となり、工程上の管理が容易となる。
【0012】
ところで、上述の通り、光学的識別構造体901を目視、カメラ、スキャナー、あるいはリーダーなどの光学的な手段で読み取る場合、光学的識別構造体901と、その背景となる部材の表面との関係で、光学的識別構造体901の読み取りが困難になるという問題が生ずる場合がある。そしてその主な原因は、光学的識別構造体901が形成される上側金属シート920の上面920b、あるいは下側金属シート910の下面910bにおいて、内部の密封空間の形状が模様となって、上記光学的な手段での読み取りを阻害することである。
【0013】
上記の通り、光学的識別構造体901がQRコードである場合は、通常一辺の長さが1mm以上である。そのため図12(a)のように、光学的識別構造体901は、平面視上上側蒸気流路凹部922内のみ、あるいは上側流路壁部923内のみには収まらず、上側蒸気流路凹部922と上側流路壁部923の境界、あるいは上側蒸気流路凹部922と上側周縁壁924の境界、すなわち上側蒸気流路凹部922の輪郭を跨ぐか、該輪郭が光学的識別構造体901のすぐ近傍に存在することとなる。図12(b)に、上側金属シート920の、IDとして作用する光学的識別構造体901が形成された部分における、ベーパーチャンバー900(上側金属シート920)を短手方向に切断した場合の部分断面概念図を示す。図12(b)は、概念的に断面を示した図であるため、図12(a)の上面図とは光学的識別構造体901や上側蒸気流路凹部922が存在する位置などが異なっている。図12(b)に概念的に示す通り、上側蒸気流路凹部922が形成されているか否かの影響が上側金属シート920の上面920bにまで及んでいる。光学的識別構造体901を読み取る際に、読み取り領域内に上側蒸気流路凹部922の輪郭が存在し、その輪郭が上記光学的な手段での読み取りを阻害することとなる。
【0014】
すなわち、上記の通りベーパーチャンバー900は、対向する平板状の部材間を接合することで形成されるが、その接合には拡散接合が用いられることがある。拡散接合は、上記平板状の部材間を密着させ加圧および加熱するものであるが、拡散接合後の形成途中のベーパーチャンバーにおいては、その表面や裏面において、内部の密封空間の形状が模様となって上記光学的な手段での読み取りを阻害する場合がある。上記平板状の部材には、密封空間すなわち熱輸送を担う流体の流路となる溝が形成されているが、平板状の部材の内側(接合面側、形成途中のベーパーチャンバーにおける表面や裏面とは反対面側)に形成される溝の形状(溝の有無)が、その反対面すなわち形成途中のベーパーチャンバーにおける表面や裏面においても模様となって上記光学的な手段での読み取りを阻害する場合がある。平板状の部材における溝の形状(溝の有無)の影響がその反対面にまで及ぶのは、平板状の部材の板厚が特に溝が形成された部分において非常に薄いため、拡散接合時の加圧による平板状の部材の微細な変形の程度が、溝が形成された部分と形成されていない部分とでわずかに異なるためと推測される。また、接合にはろう付けが使用されることもあるが、温度、圧力は異なるものの同様の問題が発生することがある。
【0015】
上記を鑑み、本発明の目的は、表面や裏面にIDとして作用する光学的識別構造体が形成されたベーパーチャンバーにおいて、光学的識別構造体を目視、カメラ、スキャナー、あるいはリーダーなどの光学的な手段で読み取る場合の読み取り性を高めることにより、安定した品質管理を可能とし、もって良好な品質のベーパーチャンバーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、熱輸送を担う流体の流路を内部に有する平板状のベーパーチャンバーであって、平面視上、流路が形成されている流路領域と、該流路領域を囲む周縁領域と、を有し、IDとして作用する光学的識別構造体が、周縁領域に形成されているベーパーチャンバーである。
【0017】
上記発明において、IDとして作用する光学的識別構造体が、下地層を介して形成されていてもよい。
【0018】
本発明は、熱輸送を担う流体の流路を内部に有する平板状のベーパーチャンバーであって、IDとして作用する光学的識別構造体が、下地層を介して形成されているベーパーチャンバーである。
【0019】
本発明は、熱輸送を担う流体の流路を内部に有する平板状のベーパーチャンバーであって、IDとして作用する光学的識別構造体が、最大高さ粗さRzが1μm以下の平滑面上に形成されているベーパーチャンバーである。
【0020】
本発明は、熱輸送を担う流体の流路を内部に有する平板状のベーパーチャンバーであって、IDとして作用する光学的識別構造体が、内部空間がある部分と、内部空間がない部分の高低差が30μm以下の平滑面上に形成されているベーパーチャンバーである。
【0021】
本発明は、熱輸送を担う流体の流路を内部に有し、IDとして作用する光学的識別構造体が形成されている平板状のベーパーチャンバーの製造方法であって、IDとして作用する光学的識別構造体を形成する部位を研磨する工程と、研磨した前記部位に前記IDとして作用する光学的識別構造体を形成する工程と、を順に備える、ベーパーチャンバーの製造方法である。
【0022】
上記発明において、IDとして作用する光学的識別構造体を形成する部位を研磨する工程が、最大高さ粗さRzが1μm以下となるように研磨する工程である、ベーパーチャンバーの製造方法であることがより好ましい。
【0023】
上記発明において、IDとして作用する光学的識別構造体を形成する部位を研磨する工程が、内部空間がある部分と、内部空間がない部分の高低差が30μm以下となるように研磨する工程である、ベーパーチャンバーの製造方法であることがより好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、表面や裏面にIDとして作用する光学的識別構造体が形成されたベーパーチャンバーにおいて、光学的識別構造体を目視、カメラ、スキャナー、あるいはリーダーなどの光学的な手段で読み取る場合の読み取り性を高めることにより、安定した管理を可能とし、もって良好な品質のベーパーチャンバーを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の第1実施形態によるベーパーチャンバーを示す(a)上面図、および(b)部分断面概念図。
図2図1に示すベーパーチャンバーの内部構造を説明するための上面図。
図3図2のベーパーチャンバーのA-A線断面図。
図4図2の下側金属シートの上面図。
図5図2の上側金属シートの下面図。
図6】本発明の第2実施形態によるベーパーチャンバーを示す(a)上面図、および(b)部分断面概念図。
図7】本発明の第2実施形態の別の例によるベーパーチャンバーを示す上面図。
図8】本発明の第3実施形態によるベーパーチャンバーを示す(a)上面図、および(b)部分断面概念図。
図9】本発明の第4実施形態によるベーパーチャンバーを示す(a)上面図、および(b)部分断面概念図。
図10】本発明の第4実施形態の別の例によるベーパーチャンバーを示す上面図。
図11】本発明の第4実施形態によるベーパーチャンバーの製造方法を示す部分断面概念図。
図12】従来のベーパーチャンバーを示す(a)上面図、および(b)部分断面概念図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。なお、図面においては、図示と理解のしやすさの便宜上、適宜縮尺及び縦横の寸法比等を、実物のそれらから変更し誇張してある。
【0027】
(第1実施形態)
図1(a)に本発明の第1実施形態におけるベーパーチャンバー100の上側(表面)から見た平面図(上面図)を示す。図1(a)のベーパーチャンバー100においては、上側金属シート120の上面120bにIDとして作用する光学的識別構造体101が形成されている。ベーパーチャンバー100は平面視上、流路すなわち上側蒸気流路凹部122(下側蒸気流路凹部112)が形成されている流路領域と、その流路領域を囲む周縁領域すなわち上側周縁壁124(下側周縁壁114)が存在する領域と、を有し、第1実施形態においては、光学的識別構造体101が、周縁領域(上側周縁壁124が存在する領域)に形成されている。
【0028】
図1(a)に示す第1実施形態のおける光学的識別構造体101の形成位置であれば、光学的識別構造体101のすべてが上側周縁壁124の存在する領域(周縁領域)内に収まっている。図1(b)に、上側金属シート120の、IDとして作用する光学的識別構造体101が形成された部分における、ベーパーチャンバー100(上側金属シート120)を短手方向に切断した場合の部分断面概念図を示す。図1(b)は、概念的に断面を示した図であるため、図1(a)の上面図とは光学的識別構造体101や上側蒸気流路凹部122が存在する位置などが異なっている。光学的識別構造体101のすべてが上側周縁壁124の存在する領域(周縁領域、すなわち上側蒸気流路凹部122が形成されていない領域)内に収まっているため、図1(b)に概念的に示す通り、上側蒸気流路凹部122が形成されている影響が上側金属シート120の上面120bにまで及ぶことによる影響をほとんど受けることがない。
【0029】
すなわち、上側蒸気流路凹部122の輪郭形状が背景の模様として光学的識別構造体101の読み取りに悪影響を及ぼすという従来の上記問題を大幅に抑制することができる。そのため、光学的識別構造体101の読み取り性が向上し、確実に不良品のベーパーチャンバー100を特定することができる。これにより不良品の流出を抑制することで、安定した品質管理が可能となり、良好な品質のベーパーチャンバー100を提供することができる。そのため本発明のベーパーチャンバー100が搭載された電子機器においても、放熱不良が抑制されるため、電子機器の不良を抑制することもできる。また光学的識別構造体101の位置により、ベーパーチャンバー100の表裏や上下の区別が容易となり、工程上の管理が容易となる。
【0030】
[ベーパーチャンバーの構成]
ここで図2乃至図5を用いて、図1(a)に示すベーパーチャンバーの内部構造および、ベーパーチャンバーを構成するベーパーチャンバー用金属シートの内部構造ついて説明する。簡単のため、構造の説明においては、本発明に係るIDとして作用する光学的識別構造体は省略している。ベーパーチャンバー800は、作動液807が封入された密封空間808を流路として有しており、密封空間808内の作動液807が相変化を繰り返すことにより、携帯端末やタブレット端末といったモバイル端末等で使用される中央演算処理装置(CPU)等の発熱を伴うデバイスD(被冷却装置)を冷却するための機器である。ベーパーチャンバー800は、概略的に薄い平板状の形態を有する。
【0031】
図2および図3に示すように、ベーパーチャンバー800は平板状の形態を有しており、上面810aを有する平板状の形態を有する下側金属シート810と、下側金属シート810上に設けられた平板状の形態を有する上側金属シート820と、を備えている。下側金属シート810および上側金属シート820は、いずれもベーパーチャンバー用金属シートに相当する。上側金属シート820は、下側金属シート810の上面810a(上側金属シート820の側の面)に重ね合わされた下面820a(下側金属シート810の側の面)を有している。下側金属シート810の下面810b(とりわけ、後述する蒸発部811の下面)に、図2に示す例においては冷却対象物であるデバイスDが取り付けられる。
【0032】
下側金属シート810と上側金属シート820との間には、作動液807が封入された密封空間808が形成されている。作動液807の例としては、純水、エタノール、メタノール、アセトン等が挙げられる。
【0033】
下側金属シート810と上側金属シート820とは、後述する拡散接合あるいはろう付けによって接合されている。図2および図3に示す形態では、下側金属シート810および上側金属シート820は、平面視でいずれも矩形状に形成されている例が示されているが、これに限られることはない。
【0034】
ここで平面視とは、ベーパーチャンバー800がデバイスDから熱を受ける面(下側金属シート810の下面810b)、および受けた熱を放出する面(上側金属シート820の上面820b)に直交する方向から見た状態であって、例えば、ベーパーチャンバー800を上方から見た状態(図2参照)、または下方から見た状態に相当している。
【0035】
なお、ベーパーチャンバー800がモバイル端末内に設置される場合、モバイル端末の姿勢によっては、下側金属シート810と上側金属シート820との上下関係が崩れる場合もある。しかしながら、本発明においては、デバイスDから熱を受ける金属シートを下側金属シート810と称し、受けた熱を放出する金属シートを上側金属シート820と称して、下側金属シート810が下側に配置され、上側金属シート820が上側に配置された状態で説明する。また、表面、裏面については、平板状であるベーパーチャンバー800の表裏面のうち、上側金属シート820の上面820bあるいは下側金属シート810の下面810bのいずれか一方を表面と称し、他方を裏面と称する。
【0036】
図4に示すように、下側金属シート810は、作動液807が蒸発して蒸気を生成する蒸発部811と、上面810aに設けられ、平面視で矩形状に形成された下側蒸気流路凹部812と、を有している。このうち下側蒸気流路凹部812は、上述した密封空間808の一部を構成しており、主として、蒸発部811で生成された蒸気が通るように構成されている。
【0037】
蒸発部811は、この下側蒸気流路凹部812内に配置されており、下側蒸気流路凹部812内の蒸気は、蒸発部811から離れる方向に拡散して、蒸気の多くは、比較的温度の低い周縁部に輸送される。なお、蒸発部811は、下側金属シート810の下面810bに取り付けられるデバイスDから熱を受けて、密封空間808内の作動液807が蒸発する部分である。このため、蒸発部811という用語は、デバイスDに重なっている部分に限られる概念ではなく、デバイスDに重なっていなくても作動液807が蒸発可能な部分をも含む概念として用いている。
【0038】
図3および図4に示すように、下側金属シート810の下側蒸気流路凹部812内に、下側蒸気流路凹部812の底面812a(後述)から上方(底面812aに垂直な方向)に突出する複数の下側流路壁部813が設けられている。本例においては、下側流路壁部813は、ベーパーチャンバー800の長手方向(図4における左右方向)に沿って細長状に延びている例が示されており、後述する上側流路壁部823の下面823aに当接する上面813aを含んでいる。また、各下側流路壁部813は等間隔に離間して、互いに平行に配置されている。このようにして、各下側流路壁部813の周囲を作動液807の蒸気が流れて、下側蒸気流路凹部812の周縁部に蒸気が輸送されるように構成されており、蒸気の流れが妨げられることを抑制している。また、下側流路壁部813は、上側金属シート820の対応する上側流路壁部823(後述)に平面視で重なるように配置されており、ベーパーチャンバー800の機械的強度の向上を図っている。下側流路壁部813の幅は、例えば、100μm~1500μmであり、互いに隣り合う下側流路壁部813同士の間隔は、100μm~2000μmであることが好適である。ここで、下側流路壁部813の幅とは、下側流路壁部813の長手方向に直交する方向における下側流路壁部813の寸法を意味しており、例えば、図4における上下方向の寸法に相当する。また、下側流路壁部813の高さ(言い換えると、下側蒸気流路凹部812の深さ)h0(図3参照)は、100μm~300μmであることが好適である。
【0039】
図3および図4に示すように、下側金属シート810の周縁部には、下側周縁壁814が設けられている。下側周縁壁814は、密封空間808、とりわけ下側蒸気流路凹部812を囲むように形成されており、密封空間808を画定している。また、平面視で下側周縁壁814の四隅に、下側金属シート810と上側金属シート820との位置合わせをするための下側アライメント孔815がそれぞれ設けられている。
【0040】
上側金属シート820は、後述する下側液流路凹部818が設けられていない点を除けば、下側金属シート810と略同一の構造を有している。以下に、上側金属シート820の構成についてより詳細に説明する。
【0041】
図3および図5に示すように、上側金属シート820は、下面820aに設けられた上側蒸気流路凹部822を有している。この上側蒸気流路凹部822は、密封空間808の一部を構成しており、主として、蒸発部811で生成された蒸気が通り、当該蒸気を冷却するように構成されている。より具体的には、上側蒸気流路凹部822内の蒸気は、蒸発部811から離れる方向に拡散して、蒸気の多くは、比較的温度の低い周縁部に輸送される。また、図3に示すように、上側金属シート820の上面820bには、モバイル端末等のハウジングの一部を構成するハウジング部材Hが配置される。このことにより、上側蒸気流路凹部822内の蒸気は、上側金属シート820およびハウジング部材Hを介して外気によって冷却される。
【0042】
図2および図5に示すように、上側金属シート820の上側流路壁部823、上側周縁壁824、および上側アライメント孔825は、下側金属シート810の対応する下側流路壁部813、下側周縁壁814、および下側アライメント孔815にそれぞれ平面視で重なるように配置されており、ベーパーチャンバー800の機械的強度の向上を図っている。なお、上側流路壁部823の幅、高さは、上述した下側流路壁部813の幅、高さh0と同一であることが好適である。
【0043】
このような下側金属シート810と上側金属シート820とは、好適には拡散接合で、互いに恒久的に接合されている。より具体的には、下側周縁壁814と上側周縁壁824とが互いに接合されている。このことにより、下側金属シート810と上側金属シート820との間に、作動液807を密封した密封空間808が形成されている。また、各下側流路壁部813と対応する上側流路壁部823とが互いに接合されている。このことにより、ベーパーチャンバー800の機械的強度を向上させている。
【0044】
また、図2に示すように、ベーパーチャンバー800は、長手方向における一対の端部のうちの一方の端部に、密封空間808に作動液807を注入する注入部809を更に備えている。この注入部809は、下側金属シート810の端面から突出する下側注入突出部816と、上側金属シート820の端面から突出する上側注入突出部826と、を有している。このうち下側注入突出部816の上面に下側注入流路凹部817が形成され、上側注入突出部826の下面に上側注入流路凹部827が形成されている。下側注入流路凹部817は、下側蒸気流路凹部812に連通しており、上側注入流路凹部827は、上側蒸気流路凹部822に連通している。下側注入流路凹部817および上側注入流路凹部827は、下側金属シート810と上側金属シート820とが接合された際、作動液807の注入流路を形成する。
【0045】
図4に示すように、各下側流路壁部813の上面813aに、液状の作動液807が通る下側液流路凹部818が設けられている。下側液流路凹部818は、上述した密封空間808の一部を構成しており、上述した下側蒸気流路凹部812および上側蒸気流路凹部822に連通している。下側液流路凹部818は、主として、蒸発部811で生成された蒸気から凝縮した作動液807を蒸発部811に輸送するように構成されている。本例においては、下側液流路凹部818は、下側流路壁部813の長手方向(図3における左右方向)に沿って、細長状に延びている例が示されており、下側流路壁部813の長手方向における一端から他端まで延びている。このようにして、下側蒸気流路凹部812の周縁部および上側蒸気流路凹部822の周縁部において凝縮した液状の作動液807を、毛細管作用によって蒸発部811に輸送するようになっている。1つの下側流路壁部813の上面813aには、複数の下側液流路凹部818が形成されており、各下側液流路凹部818は、等間隔に離間して、互いに平行に配置されている。なお、図示しないが、各下側液流路凹部818は、蒸発部811においても、下側蒸気流路凹部812に連通している。
【0046】
下側金属シート810および上側金属シート820に用いる材料は、熱伝導率が良好な材料であれば特に限られることはないが、例えば、下側金属シート810および上側金属シート820は、銅または銅合金により形成されていることが好適である。このことにより、下側金属シート810および上側金属シート820の熱伝導率を高めることができる。このため、ベーパーチャンバー800の熱輸送効率を高めることができる。しかし上記に限らず、例えばクラッド材(SUS/Cu圧延積層材)やめっき材(SUS/Cuめっき、Niめっき/圧延銅)などのように、異なる金属が積層された金属材料であっても良い。これらの場合には、銅または銅合金から形成される場合に比べ、強度が高いものとすることができる。また、下側金属シート810と上側金属シート820の材質が異なっていても良い。さらにベーパーチャンバー800の厚さT0は、0.1mm~1.0mmである。下側金属シート810の厚さT1および上側金属シート820の厚さT2が等しい場合を示しているが、これに限られることはなく、下側金属シート810の厚さT1と上側金属シート820の厚さT2は、等しくなくてもよい。
【0047】
(第2実施形態)
ところで、光学的識別構造体101が、周縁領域(上側周縁壁124が存在する領域)に形成されている第1実施形態においても、光学的識別構造体101の読み取りが困難な場合がある。その原因は、ベーパーチャンバー100の表面(上側金属シート120の上面120b、あるいは下側金属シート110の下面110b)を構成する金属材料の結晶粒の境界(結晶粒界)が、光学的識別構造体101の読み取りを阻害するためと考えられる。拡散接合時の加熱により結晶粒が大きくなることに伴い、結晶粒界も明確となり、表層では粒界による微細な凹凸が読み取りを阻害するものと考えられる。
【0048】
上記、結晶粒界を原因とする、IDとして作用する光学的識別構造体201の読み取りが困難になる問題に対応するものが第2実施形態である。図6および図7を用いて、本発明の第2実施形態について説明する。第2実施形態においては、光学的識別構造体201が下地層204を介して上側金属シート220の上面220b(あるいは下側金属シート210の下面210b)に形成されている。図6(a)の上面図および図7に示す通り、下地層204は下地層形成領域203に形成されている。下地層形成領域203は平面視上、光学的識別構造体201が存在する領域と一致する領域、あるいは該一致する領域にその周囲の領域を加えた領域である。下地層形成領域203は、最小の場合は光学的識別構造体201が存在する領域と一致し、最大の場合は図7に示すようにベーパーチャンバー200の表面(上側金属シート220の上面220b、あるいは下側金属シート210の下面210b)全体である。すなわち下地層形成領域203は平面視上、光学的識別構造体201が存在する領域と一致する領域を含んでいればよく、光学的識別構造体201の読み取り性や、下地層204を形成する負荷(工程時間、材料費用)等を鑑み適宜定めればよい。
【0049】
図6(b)に、上側金属シート220の、IDとして作用する光学的識別構造体201が形成された部分における、ベーパーチャンバー200(上側金属シート220)を短手方向に切断した場合の部分断面概念図を示す。図6(b)は、概念的に断面を示した図であるため、図6(a)の上面図とは光学的識別構造体201や上側蒸気流路凹部222が存在する位置などが異なっている。図6(b)に概念的に示される通り、上側金属シート220の上面220bを構成する金属材料の結晶粒の境界(結晶粒界)に起因する微細な凹凸を覆うように下地層204が形成されているため、光学的識別構造体201が形成される下地層204の表面(図6(b)における下地層204の上面)においては、上記微細な凹凸の影響はほとんどなくなっている。
【0050】
上記下地層204としては、光学的識別構造体201の読み取りの際に、上記結晶粒界が読み取りを阻害する問題を軽減する機能を有するものであれば特に限定されるものではないが、読み取りにおいて光学的識別構造体201との差異が大きい方が好ましい。換言すれば読み取りの際に、結晶粒界を認識しにくくなる機能を有するものであればよく、光学的識別構造体201との差異が大きいことが好ましい。下地層204の一例としては、光学的識別構造体201に対し明暗差の大きな単色の印刷インキを下地層形成領域203に一様に形成したものを挙げることができる。この場合、印刷インキによりベーパーチャンバー200の表面が覆われるため、結晶粒界が読み取りにくくなり、すなわち結晶粒界による読み取りの阻害要因が軽減され、また印刷インキと光学的識別構造体201との明暗差が大きいことから、印刷インキ上に形成された光学的識別構造体201の読み取り性が向上する。また印刷インキは絵柄模様なく一様に(いわゆるベタ状に)形成されていることで、印刷インキが光学的識別構造体201の読み取り性を阻害することを防止できる。
【0051】
上記印刷インキによる下地層204の形成方法は、上側金属シート220の表面(上面220b)あるいは下側金属シート210の表面(下面210b)に形成可能な方法であれば特に限定されないが、例えばインクジェット法による印刷である。インクジェット法であれば、上側金属シート220あるいは下側金属シート210が個片化された後においても容易に印刷することができる。個片化される前のロール状態やシート状態であれば、オフセット印刷やグラビア印刷、スクリーン印刷なども可能である。上記では下地層204が印刷インキの場合について説明したが、これに限らない。下地層204として何が適切かは、光学的識別構造体201の読み取り方法に大きく依存する。下地層204を昇華転写や蒸着による方法、あるいはスパッタ法などで形成しても良く、またそれ以外の方法で形成しても良い。
【0052】
本実施例においては、光学的識別構造体201が下地層204を介してベーパーチャンバー200の表面に形成されている。そのため光学的識別構造体201を読み取る際に、上記結晶粒界が読み取りを阻害する問題を軽減することができ、読み取り性が向上する。そのため、より確実に不良品のベーパーチャンバー200を特定することができる。これにより不良品の流出を抑制することで、安定した品質管理が可能となり、良好な品質のベーパーチャンバー200を提供することができる。そのため本発明のベーパーチャンバー200が搭載された電子機器においても、放熱不良が抑制されるため、電子機器の不良を抑制することもできる。また光学的識別構造体201の位置により、ベーパーチャンバー200の表裏や上下の区別が容易となり、工程上の管理が容易となる。
【0053】
(第3実施形態)
次に第3実施形態について説明する。上記第2実施形態で説明した下地層204を形成した形態においては、光学的識別構造体201が前記周縁領域(上側周縁壁224が存在する領域)に形成されることを要しない場合も多い。これは、下地層204により、上側蒸気流路凹部222の輪郭形状が背景の模様として光学的識別構造体201の読み取りに悪影響を及ぼすという従来の上記問題も同時に改善する場合も多いからと考えられる。
【0054】
図8(a)および(b)に示す通り、第3実施形態においては、IDとして作用する光学的識別構造体301が下地層304を介して形成されていれば、周縁領域に形成されていなくても構わない。図8(a)は上面図であり、図8(b)は上側金属シート320の、IDとして作用する光学的識別構造体301が形成された部分における、ベーパーチャンバー300(上側金属シート320)を短手方向に切断した場合の部分断面概念図である。図8(b)は、概念的に断面を示した図であるため、図8(a)の上面図とは光学的識別構造体301や上側蒸気流路凹部322が存在する位置などが異なっている。図8(b)に概念的に示される通り、特に下地層304の層厚が厚い場合には、ベーパーチャンバー300の表面(上側金属シート320の上面320b、あるいは下側金属シート310の下面310b)において上側蒸気流路凹部322(下側蒸気流路凹部312)の輪郭形状の凹凸がある場合であっても、下地層304の表面(下地層304がベーパーチャンバー300の表面(上側金属シート320の上面320b)と接する面とは反対側の面)においては上記上側蒸気流路凹部322(下側蒸気流路凹部312)の輪郭形状の凹凸がほとんど現れなくなる。すなわち第3実施形態においては、下地層304が、光学的識別構造体301が形成される対象表面を平坦化する作用も有している。
【0055】
第3実施形態においても第2実施形態と同様に、下地層形成領域303は平面視上、光学的識別構造体301が存在する領域と一致する領域を含んでいればよく、図7に示すようにベーパーチャンバー300の表面(上側金属シート320の上面320b、あるいは下側金属シート310の下面310b)全体に形成しても構わない。また下地層304の形成方法についても第2実施形態において例示したものと同様である。
【0056】
第3実施形態においても第2実施形態で説明した上記各効果を有するものである。加えて第3実施形態においては、光学的識別構造体301が周縁領域に形成されることを要しないため、光学的識別構造体301の形成位置の自由度が向上する。そのため、光学的識別構造体301を形成する装置や、それを読み取る装置について、設置位置等の制約を少なくすることができ、すなわちそれらの装置の選定や設置が容易となるという効果も奏する。
【0057】
(第4実施形態)
図9および図10を用いて、本発明の第4実施形態について説明する。第4実施形態においては、IDとして作用する光学的識別構造体401がベーパーチャンバー400の表面(上側金属シート420の上面420b、あるいは下側金属シート410の下面410b)における内部空間がある部分と、内部空間がない部分の高低差が30μm以下の平滑面上に形成されている。図9(a)の上面図および図10に示す通り、平滑面は平滑面形成領域405に形成されている。平滑面形成領域405は平面視上、光学的識別構造体401が存在する領域と一致する領域、あるいは該一致する領域にその周囲の領域を加えた領域である。平滑面形成領域405は、最小の場合は光学的識別構造体401が存在する領域と一致し、また最大の場合は図10に示すようにベーパーチャンバー400の表面(上側金属シート420の上面420b、あるいは下側金属シート410の下面410b)全体である。すなわち平滑面形成領域405は平面視上、光学的識別構造体401が存在する領域と一致する領域を含んでいればよく、光学的識別構造体401の読み取り性や、平滑面を形成する負荷(工程時間)等を鑑み適宜定めればよい。このとき、最大高さ粗さRzが1μm以下であることが望ましい。
【0058】
図9(b)に、上側金属シート420の、IDとして作用する光学的識別構造体401が形成された部分における、ベーパーチャンバー400(上側金属シート420)を短手方向に切断した場合の部分断面概念図を示す。図9(b)は、概念的に断面を示した図であるため、図9(a)の上面図とは光学的識別構造体401や上側蒸気流路凹部422が存在する位置などが異なっている。図9(b)に概念的に示される通り、上側金属シート420の上面420bを構成する金属材料の結晶粒の境界(結晶粒界)に起因する微細な凹凸、および上側蒸気流路凹部422が形成されている影響が上側金属シート420の上面420bにまで及ぶことによる影響、は平滑面の形成により大幅に軽減されている。すなわち平滑面が形成されることにより、最大高さ粗さRzが1μm以下となっており、また内部空間がある部分と、内部空間がない部分の高低差が30μm以下となっている。
【0059】
平滑面形成領域405に形成された上記のような平滑面は例えば、上側金属シート420の表面(上面420b)あるいは下側金属シート410の表面(下面410b)を研磨することにより形成することができる。研磨の方法としては、化学研磨、電解研磨、機械研磨のいずれも適用することができる。研磨しない領域をレジストなどでマスクし、化学研磨あるいは電解研磨を適用することで平滑面形成領域405のみを研磨することが可能である。また機械研磨においては、エミリーペーパーで研磨後、アルミナ砥粒等によるバフ研磨で砥粒の粒径を変化させて仕上げていってもよい。各研磨の方法において、最大高さ粗さRzが1μm以下となり、また内部空間がある部分と、内部空間がない部分の高低差が30μm以下となるように研磨条件を適宜定めれば良い。
【0060】
内部空間がある部分と、内部空間がない部分の高低差については、次のようにして確認することができる。レーザー顕微鏡(株式会社キーエンス、VK-X250)を用い、対物レンズ20倍としてプロファイルを得て、内部空間のない前記周縁領域等と内部空間がある部分との高低差を計測する。
【0061】
また、平滑面形成領域405の最大高さ粗さRzは「JIS B 0601:2001」に基づき測定することができる。上側金属シート420の表面(上面420b)に平滑面形成領域405を形成した場合における測定の一例を以下に示す。レーザー顕微鏡(株式会社キーエンス、VK-X250)を用い、測定方向は、平面視上ベーパーチャンバー400の長手方向(図9における左右方向)に沿って細長状に延びている上側蒸気流路凹部422および上側流路壁部423と直交する方向(平面視上ベーパーチャンバー400の短手方向(図9における上下方向))とすることが好ましい。レーザー波長408nm、対物レンズ100倍あるいは150倍とし、その他のパラメーターについても適切に設定し、平滑面形成領域405の最大高さ粗さRzを測定することができる。
【0062】
第4実施形態においては、光学的識別構造体401がベーパーチャンバー400の表面(上側金属シート420の上面420b、あるいは下側金属シート410の下面410b)における内部空間がある部分と、内部空間がない部分の高低差が30μm以下の平滑面上に形成されているため、上側蒸気流路凹部422の輪郭形状が背景の模様として光学的識別構造体401の読み取りに悪影響を及ぼすという上記問題を大幅に抑制することができる。そのため第1実施形態のように光学的識別構造体401を、周縁領域(上側周縁壁424が存在する領域)に形成する必要はなく、第3実施形態と同様に任意の位置に形成することができる。
【0063】
またレーザー印字方式で印字領域の一辺が1mm以上3mm以下の場合は、最大高さ粗さRzが1μm以下の平滑面にすることができる。この研磨により、研磨前の表面に比べ結晶粒界による微細な凹みを小さくすることができ、結晶粒界が背景の模様として光学的識別構造体401の読み取りに悪影響を及ぼすという上記問題を大幅に抑制することができる。
【0064】
上記効果により、第4実施形態においても、確実に不良品のベーパーチャンバー400を特定することができる。これにより不良品の流出を抑制することで、安定した品質管理が可能となり、良好な品質のベーパーチャンバー400を提供することができる。そのため本発明のベーパーチャンバー400が搭載された電子機器においても、放熱不良が抑制されるため、電子機器の不良を抑制することもできる。また光学的識別構造体401の位置により、ベーパーチャンバー400の表裏や上下の区別が容易となり、工程上の管理が容易となる。
【0065】
第4実施形態における平滑面においては、内部空間がある部分と、内部空間がない部分の高低差が30μm以下であることと、最大高さ粗さRzが1μm以下であることが、共に満たされることが好ましい。しかし、いずれか一方のみを満たすだけでも構わない。すなわち、内部空間がある部分と、内部空間がない部分の高低差が30μm以下であれば、上側蒸気流路凹部422の輪郭形状による悪影響を大幅に抑制できるという上記効果を得ることができ、また最大高さ粗さRzが1μm以下であれば、結晶粒界による悪影響を大幅に抑制できるという上記効果を得ることができる。
【0066】
次に、第4実施形態におけるベーパーチャンバー400の製造方法の一例について概略を説明する。第4実施形態におけるベーパーチャンバー400の製造方法は、IDとして作用する光学的識別構造体401を形成する部位を研磨する工程と、研磨した部位にIDとして作用する光学的識別構造体401を形成する工程とを少なくともこの順に備えるものである。図11に、第4実施形態におけるベーパーチャンバー400の製造方法の一例のうち、第4実施形態において特徴的な工程について部分断面概念図を示す。図11は、上側金属シート420の、IDとして作用する光学的識別構造体401が形成された部分における、ベーパーチャンバー400(上側金属シート420)を短手方向に切断した場合の部分断面概念図であり、実際には下側金属シート410と接合されているが、上側金属シート420のみを示している。
【0067】
一例として、まず下側蒸気流路凹部412および下側液流路凹部418が形成された下側金属シート410、および上側蒸気流路凹部422が形成された上側金属シート420を準備する。
【0068】
この場合、まず、金属材料シートMの上面に、レジスト膜Rが形成される。レジスト膜Rには、電界によって付着可能な電着レジスト材料を好適に使用することができるが、金属材料シートMにレジスト膜Rを形成することができれば、液状のレジスト材料など他の材料を用いてもよい。
【0069】
続いて、レジスト膜Rがパターン化される。下側金属シート410の場合には、レジスト膜Rに、フォトリソグラフィー技術によって、下側蒸気流路凹部412に対応するレジスト開口と、下側液流路凹部418に対応するレジスト開口とが形成される。
【0070】
続いてハーフエッチング工程として、レジスト膜Rの開口部分がハーフエッチングされて、下側蒸気流路凹部412、下側流路壁部413および下側周縁壁414が形成される。この際、下側流路壁部413の上面413aに下側液流路凹部418が形成される。また、図2および図4に示す下側注入流路凹部417も同時に形成され、また、図2に示すような外形輪郭形状を有するように金属材料シートMが上面および下面からエッチングされて、所定の外形輪郭形状が得られる。なお、ハーフエッチングとは、材料を貫通しないような凹部を形成するためのエッチングを意味している。このため、ハーフエッチングにより形成される凹部の深さは、下側金属シート410の厚さの半分であることには限られない。エッチング液には、例えば、塩化第二鉄水溶液等の塩化鉄系エッチング液、または塩化銅水溶液等の塩化銅系エッチング液を用いることができる。
【0071】
その後、レジスト膜Rが除去され、下側蒸気流路凹部412、下側流路壁部413、下側周縁壁414および下側液流路凹部418が形成された下側金属シート410が得られる。
【0072】
一方、下側金属シート410と同様にして、上側金属シート420が下面420aからハーフエッチングされて、上側蒸気流路凹部422、上側流路壁部423および上側周縁壁424が形成される。このようにして、上述した上側金属シート420が得られる。
【0073】
次に下側金属シート410と上側金属シート420を接合する。この際、下側アライメント孔415と上側アライメント孔425とを位置合わせを行った上で仮止めし、その状態で加圧および加熱することで拡散接合によって恒久的に接合される。
【0074】
この場合、まず、下側金属シート410の下側アライメント孔415(図2および図4参照)と上側金属シート420の上側アライメント孔425(図2および図5参照)とを利用して、下側金属シート410と上側金属シート420とが位置合わせされる。続いて、下側金属シート410と上側金属シート420とが仮止めされる。仮止めの方法としては、特に限られることはないが、例えば、下側金属シート410と上側金属シート420とに対して抵抗溶接を行うことによって下側金属シート410と上側金属シート420とを仮止めしてもよい。このようにして、下側金属シート410と上側金属シート420とが、位置合わせされた状態で仮止めされる。
【0075】
仮止めの後、下側金属シート410と上側金属シート420とが、拡散接合によって恒久的に接合される(図11(a))。拡散接合とは、接合する下側金属シート410と上側金属シート420とを密着させ、真空や不活性ガス中などの制御された雰囲気中で、各金属シート410、420を密着させる方向に加圧するとともに加熱して、接合面に生じる原子の拡散を利用して接合する方法である。拡散接合は、下側金属シート410および上側金属シート420の材料を融点に近い温度まで加熱するが、融点よりは低いため、各金属シート410、420が溶融して変形することを回避できる。
【0076】
次に、光学的識別構造体401を形成する部位を研磨する。すなわち、上側金属シート420の上面420b、下側金属シート410の下面410bのいずれか一面あるいは両面の全面について、その内部空間がある部分と、内部空間がない部分の高低差が30μm以下、最大高さ粗さRzが1μm以下となるように化学研磨を行う。全面について化学研磨を行った例を図11(b)に示すが、平滑面形成領域405が全面ではない場合には、平滑面形成領域405ではない領域をレジストなどでマスクした上で化学研磨を行えばよい。化学研磨液は、硝酸-硫酸-塩酸系研磨液(通称キリンス液)、過酸化水素-硫酸系研磨液、およびリン酸系研磨液などから適宜選択すれば良い。また内部空間がある部分と、内部空間がない部分の高低差が30μm以下、最大高さ粗さRzが1μm以下となるように処理時間や液温を適切に設定する。
【0077】
次に、研磨した上記部位に光学的識別構造体401を形成する。すなわち、光学的識別構造体401を平滑面形成領域405の一部に形成する(図11(c))。本発明における光学的識別構造体401は、数字、文字、記号、QRコードのような二次元コード、あるいはバーコードを、光学的に読み取ることができる構造体として形成したものであって、カメラ、スキャナー、あるいはリーダーなどの機器や、目視により光学的に読み取られるものである。光学的識別構造体401はインクジェット方式などによる印字やレーザー印字、刻印などにより形成されていることが多いが、光学的に読み取り可能に形成されていれば形成方法はこれらに限らない。一例として、QRコードをインクジェットプリンタで印刷したものである。形成された上記光学的識別構造体401が有するID情報は個別に異なっている。ID情報は、ロット管理や、熱輸送を担う流体を注入する際の気圧条件や、該流体の注入量に対する検査結果と、形成途中のベーパーチャンバーの各々を関連付けることにより明確に区別するために用いられる。
【0078】
次に密封空間408が減圧され、その後に、下側注入流路凹部417と上側注入流路凹部427とにより形成された注入流路から作動液407が密封空間408に注入される。作動液407は一例として純水である。その後、例えば、注入部409にレーザーを照射し、注入部409を部分的に溶融させて注入流路を封止する。これによりベーパーチャンバー400が完成する。
【0079】
上記工程において光学的識別構造体401を活用する一例として、上記作動液407を注入し、封止する工程において、光学的識別構造体401(QRコード)をスキャナーで読み取り、各ベーパーチャンバー400において変動する恐れのある作動液407の注入量や封止時の密封空間408の圧力の実測値を、各ベーパーチャンバー400と関連付けている。上記、スキャナーで光学的識別構造体401(QRコード)を読み取る場合において、光学的識別構造体401が形成された面は、その全面が研磨され、平滑面となっている。
【0080】
そして平滑面においては、内部空間がある部分と、内部空間がない部分の高低差が30μm以下となっている。そのため上側蒸気流路凹部422の輪郭形状が背景の模様として光学的識別構造体401の読み取りに悪影響を及ぼすという上記問題を大幅に抑制することができるという効果を奏する。
【0081】
また、平滑面においては、最大高さ粗さRzが1μm以下となっている。そのため結晶粒界が背景の模様として光学的識別構造体401の読み取りに悪影響を及ぼすという上記問題についても大幅に抑制することができるという効果を奏する。
【0082】
上記工程例においても、上記各効果により、確実に不良品のベーパーチャンバー400を特定することができる。これにより不良品の流出を抑制することで、安定した品質管理が可能となり、良好な品質のベーパーチャンバー400を提供することができる。そのため本発明のベーパーチャンバー400が搭載された電子機器においても、放熱不良が抑制されるため、電子機器の不良を抑制することもできる。また光学的識別構造体401の位置により、ベーパーチャンバー400の表裏や上下の区別が容易となり、工程上の管理が容易となる。
【0083】
以上各実施形態を説明してきたが、本発明は上記各実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0084】
100、200、300、400、800、900 ベーパーチャンバー
101、201、301、401、901 光学的識別構造体
203、303 下地層形成領域
204、304 下地層
405 平滑面形成領域
407、807 作動液
408、808 密封空間
409、809 注入部
110、210、310、410、810、910 下側金属シート
810a 上面
110b、210b、310b、410b、810b、910b 下面
811 蒸発部
112、312、412、812 下側蒸気流路凹部
812a 底面
413、813 下側流路壁部
413a、813a 上面
114、414、814 下側周縁壁
415、815 下側アライメント孔
816 下側注入突出部
417、817 下側注入流路凹部
418、818 下側液流路凹部
120、220、320、420、820、920 上側金属シート
420a、820a 下面
120b、220b、320b、420b、820b、920b 上面
122、222、322、422、822、922 上側蒸気流路凹部
423、823、923 上側流路壁部
823a 下面
124、224、424、824、924 上側周縁壁
425、825 上側アライメント孔
826 上側注入突出部
427、827 上側注入流路凹部
D デバイス
H ハウジング部材
M 金属材料シート
R レジスト膜
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