(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】コイル対、送電装置及び受電装置並びに電力伝送システム
(51)【国際特許分類】
H01F 38/14 20060101AFI20221101BHJP
H02J 50/10 20160101ALI20221101BHJP
H01F 5/00 20060101ALI20221101BHJP
【FI】
H01F38/14
H02J50/10
H01F5/00 F
H01F5/00 M
H01F5/00 J
(21)【出願番号】P 2018229773
(22)【出願日】2018-12-07
【審査請求日】2021-10-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000958
【氏名又は名称】特許業務法人 インテクト国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100120189
【氏名又は名称】奥 和幸
(72)【発明者】
【氏名】岡部 将人
【審査官】秋山 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-200045(JP,A)
【文献】国際公開第2011/125328(WO,A1)
【文献】実開平5-66936(JP,U)
【文献】特開2015-95656(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 38/14
H02J 50/10
H01F 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非接触型電力伝送用のコイル対において、
送電又は受電用の第1コイルと、
送電時には当該送電すべき電力が供給され、受電時には当該受電された電力が出力される第2コイルであって、前記第1コイルに対して同心に積層される第2コイルと、
を備え、
前記第1コイルは、
同心に複数回巻回された第1巻回線と、
同心に巻回され且つ前記第1巻回線より巻回数が多い第2巻回線と、
を備え、
前記第1巻回線の巻回の中心と、前記第2巻回線の巻回の中心と、が一致するように、当該第1巻回線と当該第2巻回線とが絶縁部を挟んで積層されており、
前記第1巻回線に対向する位置に積層されている前記第2巻回線である対向第2巻回線以外の当該第2巻回線の断面積が、当該対向第2巻回線の断面積よりも大きいことを特徴とするコイル対。
【請求項2】
請求項1に記載のコイル対において、
前記対向第2巻回線以外の前記第2巻回線の幅が、当該対向第2巻回線の幅よりも広く形成されることにより、当該対向第2巻回線以外の前記第2巻回線の断面積が、当該対向第2巻回線の断面積よりも大きく形成されていることを特徴とするコイル対。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のコイル対において、
前記対向第2巻回線以外の前記第2巻回線が当該対向第2巻回線よりも厚く形成されることにより、当該対向第2巻回線以外の前記第2巻回線の断面積が、当該対向第2巻回線の断面積よりも大きく形成されていることを特徴とするコイル対。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のコイル対において、
前記第1巻回線と前記第2巻回線とが前記第1コイルの内周部で接続されており、
前記第1巻回線及び前記第2巻回線それぞれの外周端部が開放されていることを特徴とするコイル対。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のコイル対において、
前記第1巻回線及び前記第2巻回線のそれぞれが、前記第1コイルの径方向に平たい薄膜線であることを特徴とするコイル対。
【請求項6】
送電装置と、当該送電装置から離隔した受電装置と、により構成され、前記送電装置から非接触で前記受電装置に電力を伝送する電力伝送システムに含まれる前記送電装置において、
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の前記コイル対である送電コイル対と、
伝送すべき電力を前記送電コイル対の前記第2コイルに出力する出力手段と、
を備えることを特徴とする送電装置。
【請求項7】
送電装置と、当該送電装置から離隔した受電装置と、により構成され、前記送電装置から非接触で前記受電装置に電力を伝送する電力伝送システムに含まれる前記受電装置において、
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の前記コイル対であって、前記送電装置に対向して配置される受電コイル対と、
当該受電コイル対の前記第2コイルに接続された入力手段と、
を備えることを特徴とする受電装置。
【請求項8】
請求項6に記載の送電装置と、
当該送電装置から離隔し、且つ前記送電コイル対に対向して配置される受電装置であって、前記送電装置から送信された電力を受電する受電装置と、
を備えることを特徴とする非接触型の電力伝送システム。
【請求項9】
送電装置と、
請求項7に記載の受電装置であって、前記送電装置から離隔し且つ前記受電コイル対が当該送電装置に対向して配置され、前記送電装置から送信された電力を受電する受電装置と、
を備えることを特徴とする非接触型の電力伝送システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイル対、送電装置及び受電装置並びに電力伝送システムの技術分野に属し、より詳細には、非接触型電力伝送用のコイル対並びに当該コイル対を用いた非接触型の送電装置及び受電装置並びに電力伝送システムの技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
近年、例えばリチウムイオン電池等からなる蓄電池を搭載した電気自動車が普及しつつある。このような電気自動車では、蓄電池に蓄えた電力を使ってモータを駆動して移動することとなるため、蓄電池への効率のよい充電が求められる。そこで、電気自動車に対して充電用プラグ等を物理的に接続することなくそれに搭載されている蓄電池を充電する方法として、互いに離隔して対向された受電コイルと送電コイルを用いる、いわゆるワイヤレス電力伝送に関する研究が行われている。ワイヤレス電力伝送の方式としては、一般には、電界結合方式、電磁誘導方式及び磁界共鳴方式等がある。これらの方式を、例えば使用周波数、水平及び垂直それぞれの方向の位置自由度並びに伝送効率等の観点から比較した場合、電気自動車に搭載されている蓄電池を充電するためのワイヤレス電力伝送の方式としては、コンデンサを使った電界結合方式又はコイルを使った磁界共鳴方式が有望視されており、これらに対する研究開発も活発に行われている。このような背景技術を開示した先行技術文献としては、例えば下記特許文献1が挙げられる。この特許文献1には、1回巻き(1ターン)のループコイルと、5.5回巻き(5.5ターン)のオープンコイルと、を用いて磁界共鳴方式により電力伝送を行うコイルが開示されている。
【0003】
一方、上記ワイヤレス電力伝送により送受電される電力の周波数は、それを担う機器ごとに例えば法律により予め定められており、上記電気自動車に対する電力伝送の場合には85キロヘルツとされている。ここで一般に、上記電力伝送システムにおいて電力伝送に用いられる周波数は、上記受電コイル及び上記送電コイルを用いる場合はそれぞれの共振周波数に対応する。そして当該共振周波数は、各コイルの大きさ(平面的な大きさ)とそれぞれの巻回数、又は、共振させるコンデンサの容量等によって決定されるのであり、このような共振周波数は、通常は85キロヘルツよりも高い周波数となる。よってこの場合には、当該共振周波数の低減が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、上記特許文献1に開示されているようなコイルを車両に搭載したり、又は上記蓄電池への充電が行われる領域又は位置に例えば埋設したりすることを考慮した場合には、当該各コイルの大きさや、上記共振させるコンデンサの容量の範囲が制約を受ける。そこで、このような制約がある場合でも上記共振周波数の低減を図るべく、例えば各コイルの巻回数を増やすとすると、必然的にコイルを構成する巻回線の幅が狭くなり、それに伴う発熱による温度上昇を考慮すると、結果的に送電コイルから受電コイルに伝送できる電力が制限される。よって、コイルの形状等を工夫することで、上記発熱の原因の一つとなる電流密度のコイル内での偏りを平準化することが求められるが、上記特許文献1では、このような要請に関する検討は一切されていない。
【0006】
そこで本発明は、上記の各問題点に鑑みて為されたもので、その課題の一例は、非接触型の電力伝送システムに用いられるコイル対における電流密度を平準化して当該コイル対としての配置の自由度及び巻回線材料の利用効率を向上させることができると共に、コイル対としての発熱も抑制することが可能なコイル対及び当該コイル対を用いた非接触型の送電装置及び受電装置並びに電力伝送システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、非接触型電力伝送用のコイル対において、送電又は受電用の第1コイルと、送電時には当該送電すべき電力が供給され、受電時には当該受電された電力が出力される第2コイルであって、前記第1コイルに対して同心に積層される第2コイルと、を備え、前記第1コイルは、同心に複数回巻回された第1巻回線と、同心に巻回され且つ前記第1巻回線より巻回数が多い第2巻回線と、を備え、前記第1巻回線の巻回の中心と、前記第2巻回線の巻回の中心と、が一致するように、当該第1巻回線と当該第2巻回線とが絶縁部を挟んで積層されており、前記第1巻回線に対向する位置に積層されている前記第2巻回線である対向第2巻回線以外の当該第2巻回線の断面積が、当該対向第2巻回線の断面積よりも大きいように構成される。
【0008】
請求項1に記載の発明によれば、第1巻回線に対向して積層された対向第2巻回線以外の第2巻回線の断面積が、対向第2巻回線の断面積よりも大きいので、流れる電流の密度が高くなる第2巻回線の部分、即ち対向第2巻回線以外の第2巻回線の断面積を増大させることで、当該密度を平準化してコイル対としての配置の自由度及び巻回線材料の利用効率を向上させることができると共に、コイル対としての発熱も抑制することができる。また、第1巻回線の巻回数と第2巻回線の巻回数とが異なっているので、コイル対としての共振周波数を低減することができる。
【0009】
上記の課題を解決するために、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のコイル対において、前記対向第2巻回線以外の前記第2巻回線の幅が、当該対向第2巻回線の幅よりも広く形成されることにより、前記対向第2巻回線以外の前記第2巻回線の断面積が、当該対向第2巻回線の断面積よりも大きく形成されている。
【0010】
請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明の作用に加えて、対向第2巻回線以外の第2巻回線の幅が、当該対向第2巻回線の幅よりも広く形成されることにより、対向第2巻回線以外の第2巻回線の断面積が、当該対向第2巻回線の断面積よりも大きく形成されているので、簡易な製造工程により、電流の密度を平準化することができる。
【0011】
上記の課題を解決するために、請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載のコイル対において、前記対向第2巻回線以外の前記第2巻回線が当該対向第2巻回線よりも厚く形成されることにより、前記対向第2巻回線以外の前記第2巻回線の断面積が、当該対向第2巻回線の断面積よりも大きく形成されている。
【0012】
請求項3に記載の発明によれば、請求項1又は請求項2に記載の発明の作用に加えて、対向第2巻回線以外の第2巻回線が当該対向第2巻回線よりも厚く形成されることにより、対向第2巻回線以外の第2巻回線の断面積が当該対向第2巻回線の断面積よりも大きく形成されているので、簡易な製造工程により、電流の密度を平準化することができる。
【0013】
上記の課題を解決するために、請求項4に記載の発明は、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のコイル対において、前記第1巻回線と前記第2巻回線とが前記第1コイルの内周部で接続されており、前記第1巻回線及び前記第2巻回線それぞれの外周端部が開放されている。
【0014】
請求項4に記載の発明によれば、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の発明の作用に加えて、第1巻回線と第2巻回線とが第1コイルの内周部で接続されており、第1巻回線及び第2巻回線それぞれの外周端部が開放されているので、非接触型電力伝送としての伝送効率を向上させることができる。
【0015】
上記の課題を解決するために、請求項5に記載の発明は、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のコイル対において、前記第1巻回線及び前記第2巻回線のそれぞれが、前記第1コイルの径方向に平たい薄膜線であるように構成される。
【0016】
請求項5に記載の発明によれば、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の発明の作用に加えて、第1巻回線及び第2巻回線のそれぞれが、第1コイルの径方向に平たい薄膜線であるので、第1巻回線と第2巻回線との間の寄生容量を有効に活用してコイル対全体としての共振周波数を調整することができる。
【0017】
上記の課題を解決するために、請求項6に記載の発明は、送電装置と、当該送電装置から離隔した受電装置と、により構成され、前記送電装置から非接触で前記受電装置に電力を伝送する電力伝送システムに含まれる前記送電装置において、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の前記コイル対である送電コイル対と、伝送すべき電力を前記送電コイル対の前記第2コイルに出力する出力手段と、を備える。
【0018】
上記の課題を解決するために、請求項7に記載の発明は、送電装置と、当該送電装置から離隔した受電装置と、により構成され、前記送電装置から非接触で前記受電装置に電力を伝送する電力伝送システムに含まれる前記受電装置において、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の前記コイル対であって、前記送電装置に対向して配置される受電コイル対と、当該受電コイル対の前記第2コイルに接続された入力手段と、を備える。
【0019】
上記の課題を解決するために、請求項8に記載の発明は、請求項6に記載の送電装置と、当該送電装置から離隔し、且つ前記送電コイル対に対向して配置される受電装置であって、前記送電装置から送信された電力を受電する受電装置と、を備える。
【0020】
上記の課題を解決するために、請求項9に記載の発明は、送電装置と、請求項7に記載の受電装置であって、前記送電装置から離隔し且つ前記受電コイル対が当該送電装置に対向して配置され、前記送電装置から送信された電力を受電する受電装置と、を備える。
【0021】
請求項6から請求項9のいずれか一項に記載の発明によれば、電力伝送システムを構成する送電装置に備えられた送電コイル対又は受電装置に備えられた受電コイル対の少なくともいずれか一方が請求項1から5のいずれか一項に記載のコイル対であるので、当該コイル対を送電用又は受電用として用いる非接触型の電力伝送システムにおいて、電流密度の平準化を有効に行うことができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、第1巻回線に対向して積層された対向第2巻回線以外の第2巻回線の断面積が、対向第2巻回線の断面積よりも大きいので、流れる電流の密度が高くなる第2巻回線の部分、即ち対向第2巻回線以外の第2巻回線の断面積を増大させることで、当該密度を平準化してコイル対としての配置の自由度及び巻回線材料の利用効率を向上させることができると共に、コイル対としての発熱も抑制することができる。
【0023】
従って、第1巻回線の巻回数と第2巻回線の巻回数とが異なっているので、コイル対としての共振周波数を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】実施形態の電力伝送システムの概要構成を示すブロック図である。
【
図2】実施形態のコイルの構造を示す平面図(i)である。
【
図3】実施形態のコイルの構造を示す平面図(ii)である。
【
図4】実施形態及び比較例それぞれのコイルにおける銅薄膜線の幅の一例を示すグラフ図である。
【
図5】実施形態のコイルの構造を示す平面図(iii)である。
【
図6】実施形態のコイルの構造を示す平面図(iv)である。
【
図7】実施形態のコイルの構造を示す平面図(v)である。
【
図8】実施形態のコイルの構造を示す部分断面図である。
【
図9】実施形態のコイルの構造による効果としての巻回線番号と電流密度との関係を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
次に、本発明を実施するための形態について、図面に基づいて説明する。なお、以下に説明する実施形態及び変形形態は、電気自動車に搭載されている充電池を充電するための電力を、当該充電池を備えた電気自動車に対して磁界共鳴方式により非接触で電送する電力伝送システムに対して、本発明を適用した場合の実施形態及び変形形態である。
【0026】
ここで、実施形態及び変形形態の磁界共鳴方式による電力伝送システムは、電力を送る送電コイルと、当該送電コイルから離隔して向き合うように(即ち対向するように)配置され且つ送電コイルから送られた電力を受電する受電コイルと、を備える。そして上記送電コイルは、後述する送電ループコイルと、後述する送電オープンコイルと、が、積層されて構成されている。また上記受電コイルは、後述する受電オープンコイルと、後述する受電ループコイルと、が、積層されて構成されている。
【0027】
(I)
実施形態の電力伝送システムの全体構成及び動作について
初めに、実施形態の電力伝送システムの全体構成及び動作について、
図1を用いて説明する。なお
図1は、実施形態の電力伝送システムの概要構成を示すブロック図である。
【0028】
図1に示すように、実施形態の電力伝送システムSは、受電部RV及び上記受電コイルRCを備えた受電装置Rと、送電部TR及び上記送電コイルTCを備えた送電装置Tと、により構成されている。このとき受電装置Rは上記電気自動車に搭載され、且つ当該電気自動車に搭載されている図示しない蓄電池に接続されている。一方送電装置Tは、当該電気自動車が移動又は停車する位置の地面に設置されている。そして、当該蓄電池を充電する場合、受電装置Rの受電コイルRCと送電装置Tの送電コイルTCとが対向するように電気自動車が運転又は停車される。なお、実施形態の電力伝送システムSによる上記蓄電池の充電に際しては、停車している電気自動車に搭載されている受電装置Rに対して、その停車位置の下方の地面に設置された送電装置Tの送電コイルTCを介して、当該送電装置Tから電力を伝送するように構成することができる。またこの他、移動中の電気自動車に搭載されている受電装置Rに対して、その電気自動車が移動している道路の一定距離の区間に設置された複数の送電装置Tの送電コイルTCを介して、当該送電装置Tから連続的に電力を伝送するように構成してもよい。このとき、送電部TRが本発明の「出力手段」の一例に相当し、受電部RVが本発明の「入力手段」の一例に相当する。
【0029】
一方上記送電コイルTCは、送電ループコイルTLと、送電オープンコイルTOと、を備えている。また上記受電コイルRCは、受電オープンコイルROと、受電ループコイルRLと、を備えている。このとき送電ループコイルTLには、送電すべき電力が送電部TRから入力される。そして送電オープンコイルTOは、送電ループコイルTLに対して同心に積層され且つその両端が開放されている。他方受電オープンコイルROは、送電オープンコイルTOに対向するように配置され且つその両端が開放されている。そして受電ループコイルRLは、受電オープンコイルROに対して同心に積層され、且つ受電オープンコイルROを介して磁界共鳴方式により送電コイルTCから受電した電力を受電部RVに出力する。このとき、送電コイルTC又は受電コイルRCが本発明の「コイル対」の一例にそれぞれ相当し、送電ループコイルTL又は受電ループコイルRLが本発明の「第2コイル」の一例にそれぞれ相当し、送電オープンコイルTO又は受電オープンコイルROが本発明の「第1コイル」の一例にそれぞれ相当する。
【0030】
以上の構成において、送電装置Tの送電部TRは、例えば電力伝送システムSが用いられる国における電波法等の法規等に対応しつつ、受電装置Rに伝送すべき電力を送電コイルTCに出力する。このとき上記法規等は、例えば人体への影響を考慮して漏洩磁界が予め決められた所定のレベル以下になるように規制している。また、全ての送電装置Tと上記受電装置Rとの間における相互接続利用が可能となるためには、結果的に、両者が予め決められた所定範囲の周波数を利用する必要があり、このため上記所定範囲の周波数又は周波数帯域は、上記法規等としてのISO(International Organization for Standardization)又はIEC(International Electrotechnical Commission)等の国際機関の推奨に従う必要がある。また、送電コイルTCと受電コイルRCとの間の所定の位置ずれも考慮した伝送効率の下限値も上記国際機関により規定されているため、高い電力伝送効率が要求される。
【0031】
一方、上記磁界共鳴方式により送電コイルTCからの電力を受電した受電装置Rの受電コイルRCは、当該受電した電力を受電部RVに出力する。これにより受電部RVは、当該電力に対応した出力(例えば、上記85キロヘルツの高周波電力となる)を、例えば図示しない電力変換ユニットによりDC(直流)電流に変換し、電気自動車の蓄電池に出力する。これにより当該蓄電池には、必要量の電力が充電される。
【0032】
(II)
送電コイルTC(受電コイルRC)の構成について
次に、上述した実施形態の電力伝送システムSに用いられる、実施形態の送電コイルTC及び受電コイルRCの構成について、
図2乃至
図8を用いて説明する。なお、実施形態の送電コイルTCと受電コイルRCとは、基本的に同じ構成を備える。即ち、上記送電ループコイルTLの構成と上記受電ループコイルRLの構成とは基本的に同一である。また、上記送電オープンコイルTOの構成と上記受電オープンコイルROの構成とは基本的に同一である。更に、上記送電ループコイルTLと上記送電オープンコイルTOとの送電コイルTC内における位置関係と、上記受電ループコイルRLと上記受電オープンコイルROとの受電コイルRC内における位置関係と、は基本的に同一である。よって以下の説明では、送電コイルTCについて、その構造を説明する。
【0033】
また、
図2及び
図3並びに
図5乃至
図7は実施形態の送電コイルTCの構造を示す平面図であり、
図4は実施形態及び比較例それぞれの送電コイルにおける銅薄膜線の幅の一例を示すグラフ図であり、
図8は実施形態の送電コイルTCの構造を示す部分断面図である。なお
図2及び
図3並びに
図5乃至
図7は、送電装置Tにおいて、送電部TR側から送電コイルTCを見た場合の平面図である。また
図3では、図面の明確化のため、コイルCL1を構成する銅薄膜線の巻回の一部の記載を省略している。
【0034】
図2にその平面図を示すように、実施形態の送電コイルTCは、送電ループコイルTLと、
図2において図示されない送電オープンコイルTOと、が、絶縁性のフィルムBF1(詳細は後述する)を介して
図2の紙面方向に積層されて構成される。また送電オープンコイルTOは、後述する二つのコイルCL1及びコイルCL2が、それぞれに絶縁性のフィルムBF2(
図2において図示を省略し、詳細は後述する。)を介して
図2の紙面方向に積層されて構成される。なお実施形態では、送電ループコイルTLと送電オープンコイルTOとの間の絶縁のためにフィルムBF1を用い、コイルCL1とコイルCL2との間の絶縁のためにフィルムBF2を用いているが、これらの他に、ガラスエポキシ材料等の絶縁性の材料を用いることもできる。また、送電コイルTCとして発生した熱を効率良く放熱するため、例えばセラミック粒子等を分散した薄膜化材料を用いることもできる。更に適切な空隙保持材を用いて、必要な空隙を介して積層するように構成してもよい。更にまた、送電ループコイルTL、コイルCL1及びコイルCL2をそれぞれ構成する後述の銅薄膜線の巻回の中心は、相互に同一又は略同一とされている。なお、コイルCL1が本発明の「第2巻回線」の一例に相当し、コイルCL2が本発明の「第1巻回線」の一例に相当する。
【0035】
そして
図2に示すように、送電ループコイルTLは、その最外周部の一辺に、送電部TRに接続される接続用端子O1及び接続用端子O2を有している。そして送電ループコイルTLは、例えば銅薄膜線が三回転(3ターン)巻回されて構成されており、その両端部(
図2に示す場合は右辺部の中央)が上記接続用端子O1及び上記接続用端子O2とされている。なお送電ループコイルTLを構成する上記銅薄膜線は、送電ループコイルTLの全周に渡って同一幅及び同一厚さとされている。更に送電ループコイルTLでは、
図2におけるその上辺部、下辺部、左辺部及び右辺部それぞれに直線部が設けられており、それぞれの直線部が曲線部により接続されている。なお、
図2において重なっている送電ループコイルTLの部分では、例えばジャンパ線等を用いることで、送電ループコイルTLを構成する上記銅薄膜線同士の絶縁が維持されている。
【0036】
次に、上記フィルムBF1を介して上記送電ループコイルTLの直下に積層されている、送電オープンコイルTOを構成する上記コイルCL1の構成について、
図3及び
図4を用いて説明する。なお
図3は、当該コイルCL1のみを取り出して示す平面図である。
【0037】
図3に示すように、送電オープンコイルTOを構成するコイルCL1は、その最外周部が開放端T1とされている。そしてコイルCL1は、当該開放端T1から始まる反時計回りに、その最外周部から最内周部に向けて、例えば銅薄膜線が渦巻き状に十回転半(10.5ターン)巻回されて構成されている。またその最内周部には、
図3の紙面方向においてその直下に積層されているコイルCL2との間の電気的接続を構成するためのビアVが接続されている。
【0038】
また、コイルCL1を構成する上記銅薄膜線は、コイルCL1の全周に渡って同一の厚さとされている。一方当該銅薄膜線の幅は、コイルCL1を全体的に見た場合には、
図3に示すように、コイルCL1の最外周端部にある開放端T1から最内周端部においてビアVが接続されている部分にかけて広くなっている。このとき、上記コイルCL2を構成する銅薄膜線に対向する位置に積層され且つコイルCL1を構成する銅薄膜線を「対向銅薄膜線」という場合、対向銅薄膜線以外のコイルCL1を構成する銅薄膜線の幅は、対向銅薄膜線の幅よりも広くなっている。換言すれば、コイルCL1を構成する銅薄膜線においては、コイルCL1に流れる電流の方向において対向銅薄膜線の前後にある銅薄膜線の幅が、対向銅薄膜線の幅よりも広くなっている。このようなコイルCL1を構成する銅薄膜線の幅の変化は、コイルCL1における電流密度が、コイルCL1の外周から内周に向かって高くなる傾向にあると共に、対向銅薄膜線以外のコイルCL1構成する銅薄膜線における電流密度の方が対向銅薄膜線における電流密度よりも高い傾向にあることが、本願の発明者による実験結果(シミュレーション結果。以下、同様)により判明したことによる。なお、実施形態のコイルCL1を構成する銅薄膜線とコイルCL2を構成する銅薄膜線との関係では、後述するように、コイルCL1における中心から第2巻回目、第4巻回目及び第6巻回目の銅薄膜線が対向銅薄膜線となる。よってこの場合に、コイルCL1を構成する銅薄膜線の幅のより具体的な変化としては、
図4に例示するような変化となるのが好ましい。
【0039】
またコイルCL1では、
図3におけるその上辺部、下辺部、左辺部及び右辺部それぞれに、互いに平行な直線部が設けられており、各直線部が、略同心円弧状の曲線部によりそれぞれ接続されている。そして、コイルCL1を構成する銅薄膜線の幅としては、各直線部では一定となっている一方、それらを接続する各曲線部において、上述したような変化となるように調整されている。このとき、コイルCL1を構成する銅薄膜線の幅は、コイルCL1を全体的に見た場合にその最外周端部から最内周端部に向けて広くなっていると共に、上記対向銅薄膜線以外のコイルCL1を構成する銅薄膜線の幅が対向銅薄膜線の幅よりも広くなっていればよく、当該最外周端部から当該最内周端部にかけて例えば一時的に(部分的に)狭くなっていても、実施形態の電力伝送システムSを用いた電力伝送による効果に対する影響はない。
【0040】
次に、上記フィルムBF2を介して上記コイルCL1の直下に積層されているコイルCL2の構成について、
図5を用いて説明する。なお
図5は、当該コイルCL2のみを取り出して示す平面図である。
【0041】
図5に示すように、上記コイルCL1と共に送電オープンコイルTOを構成するコイルCL2は、その最内周部に、上記コイルCL1との電気的接続を構成するための上記ビアVが接続されている。この場合にコイルCL1とコイルCL2との接続は、直列接続とされている。そしてコイルCL2は、当該ビアVから始まる時計回りに(即ち、コイルCL1に対して反対方向に)、その最内周部から最外周部に向けて、例えば銅薄膜線が渦巻き状に二回転半(2.5ターン)巻回されて構成されている。またその最外周部が開放端T2とされている。なおコイルCL2を構成する上記銅薄膜線は、コイルCL2の全周に渡って同一の厚さとされている。一方当該銅薄膜線の幅は、
図5に示すように、コイルCL2の最外周端部にある開放端T2から最内周端部においてビアVが接続されている部分にかけて広くなっている。このようなコイルCL2を構成する銅薄膜線の幅の変化は、コイルCL2における電流密度についても、コイルCL2の外周から内周に向かって高くなる傾向にあることが、本願の発明者による実験結果により判明したことによる。
【0042】
またコイルCL2では、コイルCL1と同様に、
図5におけるその上辺部、下辺部、左辺部及び右辺部それぞれに互いに平行な直線部が設けられており、各直線部が、略同心円弧状の曲線部によりそれぞれ接続されている。そして、コイルCL2を構成する銅薄膜線の幅は、各直線部では一定となっている一方、それらを接続する各曲線部において、その最内周端部に向けて広くなっている。このとき、コイルCL2を構成する銅薄膜線の幅も、上記コイルCL1を構成する銅薄膜線の幅と同様に、コイルCL2を全体的に見た場合にその最外周端部から最内周端部に向けて広くなっていればよく、当該最外周端部から当該最内周端部にかけて例えば一時的に(部分的に)狭くなっていてもよい。
【0043】
ここで、上記コイルCL1及び上記コイルCL2をそれぞれ構成する銅薄膜線同士の位置関係としては、上記反時計方向に巻回されているコイルCL1及び上記時計方向に巻回されているコイルCL2それぞれの銅薄膜線の位置が、コイルCL1及びコイルCL2それぞれの巻回の中心から見て略一致するように、それぞれの銅薄膜線が巻回されている。そして、それぞれの最内周部に接続されているビアVにより、コイルCL1とコイルCL2とが直列に接続されている。これにより、コイルCL1の最外周部から最内周部への巻回に対して、反対の巻回方向となるように当該最内周部でコイルCL2が接続され、その巻回方向を維持したまま、コイルCL2が最内周部から最外周部へ巻回されていることになる。この構造により、実施形態の送電オープンコイルTOとしては、コイルCL1において最外周部から最内周部に向けて反時計方向に電流が流れ、その電流が、コイルCL2において最内周部から最外周部に向けて反対の時計方向に流れることになる。
【0044】
次に、上記送電ループコイルTL並びに上記送電オープンコイルTO(即ち上記コイルCL1及び上記コイルCL2)をそれぞれ構成する銅薄膜線同士の位置関係について、
図6及び
図7を用いて説明する。なお
図6は、送電ループコイルTLと、コイルCL1と、の重なり状況を示す平面図であり、送電ループコイルTLを実線で、その直下にフィルムBF1(
図6において図示を省略している)を介して積層されている送電オープンコイルTOのコイルCL1を破線で、それぞれ示している。また
図7は、送電オープンコイルTOのコイルCL1と、コイルCL2と、の重なり状況を示す平面図であり、コイルCL1を実線で、その直下にフィルムBF2(
図7において図示を省略している)を介して積層されているコイルCL2を破線で、それぞれ示している。
【0045】
図6に破線で示すように、外周から内周に向けて巻回され、且つその最内周部でビアVによりコイルCL2と接続されるコイルCL1では、その四分の一周ごとに、銅薄膜線の巻回におけるピッチ(即ち、各辺において隣り合う銅薄膜線の中心線の、巻回における径方向の距離。以下、同様。)の四分の一ずつその直線部の位置が内周側にずれるように、各曲線部が形成されて銅薄膜線が巻回されている。一方
図6に実線で示すように、送電ループコイルTLはコイルCL1と略同じ位置となるように積層されており、接続用端子O1及び接続用端子O2がそれぞれ巻回の外側に突出する形状とされている。更にコイルCL1とは、それぞれの最内周部にあるビアVにより、フィルムBF2を貫通するように接続されている。
【0046】
次に
図7に破線で示すように、内周から外周に向けて巻回され、且つその最内周部でビアVによりコイルCL1と接続されるコイルCL2では、その四分の一周ごとに、銅薄膜線の巻回におけるピッチの四分の一ずつその直線部の位置が外周側にずれるように、各曲線部が形成されて銅薄膜線が巻回されている。一方
図7に実線で示すように、コイルCL1はコイルCL2と略同じ位置となるように積層されており、開放端T1及び開放端T2がそれぞれ巻回の外側に形成され、更に、それぞれの最内周部にあるビアVにより、フィルムBF2を貫通するようにコイルCL2に接続されている。
【0047】
以上の
図6及び
図7に示した通り、送電ループコイルTLと送電オープンコイルTOのコイルCL1及びコイルCL2とが積層されている送電コイルTCでは、上下左右それぞれの辺では、送電ループコイルTLと送電オープンコイルTO(コイルCL1及びコイルCL2)を構成する各銅薄膜線がそれぞれ略重なるように積層されている。これに加えて、コイルCL1における上記対向銅薄膜線は、コイルCL2を構成する銅薄膜線に対向して積層されている、コイルCL1における中心から第2巻回目、第4巻回目及び第6巻回目の銅薄膜線である。
【0048】
次に、上記送電ループコイルTLとコイルCL1及びコイルCL2との積層状態、及びコイルCL1とコイルCL2との接続状態について、
図6及び
図7に示すa-a’部分の断面図として、
図8を用いて説明する。
【0049】
図8に示すように、
図2及び
図3並びに
図5乃至
図7における左辺部では、送電ループコイルTLとコイルCL1とがフィルムBF1(
図2参照)を挟んで積層されており、更にコイルCL1とコイルCL2とがフィルムBF2を挟んで積層されており、コイルCL1及びコイルCL2が、ビアVにより電気的に接続されている。このビアVの位置から、コイルCL1の上記反時計方向の巻回に対して反対の巻回方向となるようにコイルCL2の上記時計方向の巻回が形成されている。
【0050】
(III)送電コイルTC及び受電コイルRCの製造方法について
次に、実施形態の送電コイルTC及び受電コイルRCの製造方法について説明する。
【0051】
当該製造方法としては、基本的には従来と同様の、下記(a)-1乃至(a)-11の各工程を含む第1製造方法、又は下記(b)-1乃至(b)-12の各工程を含む第2製造方法等を用いることができる。
【0052】
(a)
第1製造方法
(a)-1:フィルムBF2の両面全体に銅薄膜を形成
(a)-2:上記(a)-1で形成された銅薄膜(両面)の上にそれぞれレジストを塗布
(a)-3:上記(a)-2で塗布したレジストを、それぞれの面についてコイルCL1及びコイルCL2の銅薄膜線にパターニング(このとき、実施形態のコイルCL1(コイルCL2)を構成する銅薄膜線の幅が、上述したように、コイルCL1(コイルCL2)の最外周端部にある開放端T1(開放端T2)から最内周端部においてビアVが接続されている部分にかけて広くなるように、且つ対向銅薄膜線以外のコイルCL1を構成する銅薄膜線の幅が対向銅薄膜線の幅よりも広くなるようにパターニングする(
図4参照))
(a)-4:上記(a)-3のパターニング後にエッチング処理を施し、コイルCL1及びコイルCL2としての銅薄膜線を形成
(a)-5:コイルCL1とコイルCL2とを接続するビアVを形成して送電オープンコイルTOとする。
(a)-6:フィルムBF1の片面全体に銅薄膜を形成
(a)-7:上記(a)-6で形成された銅薄膜の上にレジストを塗布
(a)-8:上記(a)-7で塗布したレジストを送電ループコイルTLの銅薄膜線にパターニング
(a)-9:上記(a)-8のパターニング後にエッチング処理を施し、送電ループコイルTLとしての銅薄膜線を形成(上記ジャンパ線等による絶縁の維持を含む)
(a)-10:上記(a)-5の送電オープンコイルTOと、上記(a)-9の送電ループコイルTLと、を貼り合わせて、送電コイルTCを形成
(a)-11:接続用端子O1及び接続用端子O2と、送電部TR(送電装置Tの場合)又は受電部RV(受電装置Rの場合)とを接続
【0053】
(b)第2製造方法
(b)-1:フィルムBF2の両面全体に銅薄膜を形成
(b)-2:コイルCL1とコイルCL2とを接続するビアVに相当する位置にレーザ等により貫通穴形成
(b)-3:貫通穴を含む全体に対して無電解銅めっき法及び電解銅めっき法による銅めっき処理を施し上記ビアVを形成
(b)-4:上記(b)-3で形成された銅めっき(両面)の上にそれぞれレジストを塗布
(b)-5:上記(b)-4で塗布したレジストをコイルCL1及びコイルCL2の銅薄膜線にパターニング(このとき、実施形態のコイルCL1(コイルCL2)を構成する銅薄膜線の幅が、上述したように、コイルCL1(コイルCL2)の最外周端部にある開放端T1(開放端T2)から最内周端部においてビアVが接続されている部分にかけて広くなるように、且つ対向銅薄膜線以外のコイルCL1を構成する銅薄膜線の幅が対向銅薄膜線の幅よりも広くなるようにパターニングする)
(b)-6:上記(b)-5のパターニング後にエッチング処理を施し、コイルCL1及びコイルCL2としての銅薄膜線を形成して送電オープンコイルTOとする。
(b)-7:フィルムBF1の片面全体に銅薄膜を形成
(b)-8:上記(b)-7で形成された銅薄膜の上にレジストを塗布
(b)-9:上記(b)-8で塗布したレジストを送電ループコイルTLの銅薄膜線にパターニング
(b)-10:上記(b)-9のパターニング後にエッチング処理を施し、送電ループコイルTLとしての銅薄膜線を形成(上記ジャンパ線等による絶縁の維持を含む)
(b)-11:上記(b)-5の送電オープンコイルTOと、上記(b)-10の送電ループコイルTLと、を貼り合わせて、送電コイルTCを形成
(b)-12:接続用端子O1及び接続用端子O2と送電部TR(送電装置Tの場合)又は受電部RV(受電装置Rの場合)とを接続
【実施例】
【0054】
次に、実施形態の送電コイルTC及び受電コイルRCを含む実施形態の電力伝送システムSを用いて電力伝送を行った場合の効果について、本願の発明者による実験結果を踏まえて、
図9を用いて説明する。なお、
図9は実施形態のコイルの構造による効果としての巻回線番号と電流密度との関係を示すグラフ図である。また以下の説明では、実施形態の電力伝送システムSを用いて電力伝送を行った場合の効果のシミュレーション結果を、従来例の電力伝送システムを用いて電力伝送を行った場合の効果のシミュレーション結果に対比させつつ、説明する。
【0055】
ここで、
図9に示す効果を得た送電オープンコイルTO又は受電オープンコイルROそれぞれにおけるコイルCL1の巻回数は上記十回転半(10.5ターン)であり、コイルCL2の巻回数は上記二回転半(2.5ターン)であり、その構造に対応した
図9の「銅薄膜線番号」とは、当該送電オープンコイルTO又は受電オープンコイルROの開放端T1(開放端T2)付近とビアV付近とを直線(
図3一点鎖線参照)で結んだ場合に当該直線上に並ぶこととなる銅薄膜線(上記巻回数が十回転半であることから、当該銅薄膜線の数は21本となる)について、ビアV側の最外周部に並ぶ銅薄膜線の番号を「1」とし、開放端T1(開放端T2)側の最外周部に並ぶ銅薄膜線の番号を「21」として、この順で番号付けをしたものである。ここで、上記従来例の電力伝送システムに含まれる送電オープンコイル又は受電オープンコイルを構成する銅薄膜線は、その幅が、その最外周端部から最内周端部にかけて単純増加により広くなっている(
図4□マーク参照)。この点を除いて、上記従来例の電力伝送システムに含まれる送電オープンコイル又は受電オープンコイルは、実施形態の送電オープンコイルTO又は受電オープンコイルROと同一の構造とされている。
【0056】
一方
図9では、実施形態のコイルCL1において上記開放端T1(開放端T2)付近とビアV付近とを結ぶ直線(
図3一点鎖線参照)上に並ぶ銅薄膜線における電流密度の変化を「●」で示しており、従来例のコイルにおける開放端付近とビア付近とを結ぶ直線上に並ぶ銅薄膜線における電流密度の変化を「□」で示している。このとき
図9に示す実施例では、コイルCL1及び従来例のコイルそれぞれにおける銅薄膜線の巻回一回につき、近接した二カ所での電流密度を検出しているため、「●」の総数及び「□」の総数は、それぞれ銅薄膜線番号の最大数(「20」)の二倍となっている。
【0057】
そして
図9に示すように、上記開放端T1(開放端T2)とビアVとを結ぶ直線上に並ぶ銅薄膜線における電流密度(
図9●マーク参照)は、従来例のコイルにおける電流密度(
図9□マーク参照)に対して、コイルCL1の全体に渡って電流密度の平準化が概ね実現されている。
【0058】
以上説明したように、実施形態の送電コイルTC及び受電コイルRCを含む実施形態の電力伝送システムSを用いた電力伝送によれば、コイルCL2に対向して積層された対向銅薄膜線以外のコイルCL1を構成する銅薄膜線の幅が、対向銅薄膜線の幅よりも広いので、流れる電流の密度が高くなるコイルCL1の部分(対向銅薄膜線以外の銅薄膜線の部分)の断面積を増大させることで、当該密度を平準化して送電オープンコイルTO(又は受電オープンコイルRO)としての配置の自由度及び銅薄膜線の材料(即ち銅)の利用効率を向上させることができると共に、送電オープンコイルTO(又は受電オープンコイルRO)としての発熱も抑制することができる。また、コイルCL2の巻回数とコイルCL1の巻回数とが異なっているので、送電オープンコイルTO(又は受電オープンコイルRO)としての共振周波数を低減することができる。
【0059】
更に、対向銅薄膜線以外のコイルCL1の銅薄膜線の幅が、当該対向銅薄膜線よりも広く形成されることにより、対向銅薄膜線以外のコイルCL1の銅薄膜線の断面積が、当該対向銅薄膜線の断面積よりも大きく形成されているので、簡易な製造工程により、電流の密度を平準化することができる。
【0060】
更にまた、コイルCL1とコイルCL2とが送電オープンコイルTO(又は受電オープンコイルRO)の内周部で接続されており、コイルCL1及びコイルCL2それぞれの外周端部が開放端T1及び開放端T2とされているので、非接触型電力伝送としての伝送効率を向上させることができる。
【0061】
また、コイルCL1及びコイルCL2のそれぞれが、送電オープンコイルTO(又は受電オープンコイルRO)の径方向に平たい銅薄膜線の巻回により構成されているので、コイルCL1とコイルCL2との間の寄生容量を有効に活用して送電オープンコイルTO(又は受電オープンコイルRO)全体としての共振周波数を調整することができる。
【0062】
[変形形態]
次に、本発明の変形形態について説明する。上述した実施形態の電力伝送システムSの構成については、以下の(A)乃至(K)に示すような変形を加えてもよい。本発明の発明者は、当該各変形を加えても、上記電力伝送システムSと同等の効果を奏し得ることを確認している。なお以下の説明では、上述した実施形態の電力伝送システムSの構成部材に相当する構成部材については、当該実施形態の電力伝送システムSと同一の部材番号を用いて説明する。
【0063】
(A)第1変形形態
先ず第1変形形態について、上述した実施形態及び実施例においては、コイルCL1及びコイルCL2それぞれを構成する銅薄膜線の厚さを一定としつつその幅を変化させることにより当該銅薄膜線としての断面積を変化(増大)させる構成としたが、これ以外に、当該銅薄膜線の厚さを第1変形形態のコイルの最外周端部から最内周端部にかけて漸増させて当該銅薄膜線としての断面積を漸増させると共に、対向銅薄膜線以外のコイルCL1を構成する銅薄膜線の厚さを更に増大させるように構成してもよい。この場合には、例えば電気めっき法により、銅薄膜線の膜厚を変化させる製造方法を用いることができる。
【0064】
この第1変形形態によれば、第1変形形態のコイルCL1における対向銅薄膜線以外の銅薄膜線が当該対向銅薄膜線よりも厚く形成されることにより、対向銅薄膜線以外のコイルCL1を構成する銅薄膜線の断面積が当該対向銅薄膜線の断面積よりも大きく形成されているので、簡易な製造工程により、電流の密度を平準化することができる。
【0065】
更に、銅薄膜線の厚さが厚い部分ほど、コイルCL1の巻回において隣り合う銅薄膜線の間隔も狭くなるので、寄生容量の増大による共振周波数の低周波数化も可能となる。
【0066】
なお第1変形形態の構成と実施形態及び実施例の構成を合わせて、各コイルの厚さ及び幅の双方を変化させることで、当該コイルとしての断面積を変化させるように構成することもできる。
【0067】
(B)第2変形形態
次に第2変形形態として、実施形態の送電オープンコイルTO(又は受電オープンコイルRO)では、コイルCL1とコイルCL2とをビアVにより接続する構成としたが、これ以外に、コイルCL1及びコイルCL2を送電ループコイルTL(又は受電ループコイルRL)と接続し且つコイルCL1とコイルCL2とを相互に絶縁するように構成してもよいし、コイルCL1又はコイルCL2のいずれか一方のみを送電ループコイルTL(又は受電ループコイルRL)に接続し且つコイルCL1とコイルCL2とを相互に絶縁するように構成してもよい。
【0068】
(C)第3変形形態
次に第3変形形態として、例えば実施形態の送電オープンコイルTO(又は受電オープンコイルRO)では、それぞれを構成するコイルCL1及びコイルCL2それぞれの巻回数を十回転半(10.5ターン)及び二回転半(2.5ターン)としたが、これら以外に、コイルCL1とコイルCL2が上記と異なる巻回数であってもよいし、コイルCL1の巻回数とコイルCL2の巻回数とが同じであってもよい。
【0069】
(D)第4変形形態
次に第4変形形態として、実施形態の送電オープンコイルTO(又は受電オープンコイルRO)では、例えば送電ループコイルTL(又は受電ループコイルRL)とコイルCL1とを異なる層内に形成したが、これらを同じ層内に形成して送電ループコイルTL(又は受電ループコイルRL)と接続し、且つ送電ループコイルTL(又は受電ループコイルRL)とコイルCL1とを同心に積層してもよい。
【0070】
(E)第5変形形態
次に第5変形形態として、実施形態の送電ループコイルTL(又は受電ループコイルRL)の側から見た実施形態のコイルCL1及びコイルCL2の順番を入れ換えてもよい。
【0071】
(F)第6変形形態
次に第6変形形態として、実施形態の送電コイルTCにおける送電ループコイルTLの位置と送電オープンコイルTOの位置とを入れ換え、また、実施形態の受電コイルRCにおける受電ループコイルRLの位置と受電オープンコイルROの位置とを入れ換えてもよい。この第6変形形態の場合、第6変形形態の電力伝送システム全体としては、送電コイルの送電ループコイルTLと受電コイルの受電ループコイルRLとが相互に対向して配置されることになる。
【0072】
(G)第7変形形態
次に第7変形形態として、実施形態のコイルCL1及びコイルCL2では、それらを構成する銅薄膜線の幅を、全体的に見てその外周から内周にかけて広くする構成としたが、これら以外に、対向銅薄膜線以外のコイルCL1を構成する銅薄膜線の幅が同じであり、対向銅薄膜線間でその幅が同じであり、対向銅薄膜線以外のコイルCL1を構成する銅薄膜線の幅が対向銅薄膜線の幅より広く、更にコイルCL2の幅が全周に渡って同じであってもよい。
【0073】
(H)第8変形形態
次に第8変形形態として、実施形態の送電オープンコイルTO(受電オープンコイルRO)がコイルCL1及びコイルCL2の二層積層構造とされていたところ、巻回方向が同じ四つのコイルを積層することにより送電オープンコイル(受電オープンコイル)を構成してもよい。この場合、第1のコイルについては最外周部から最内周部に反時計方向に銅薄膜線を巻回させ、当該最内周部で第2のコイルに接続し、第2のコイルについては第1のコイルと接続された最内周部から最外周部に時計方向に銅薄膜線を巻回させ、当該最外周部で第3のコイルに接続する。更に、第3のコイルについては最外周部から最内周部に反時計方向に銅薄膜線を巻回させ、当該最内周部で第4のコイルに接続し、第4のコイルについては第3のコイルと接続された最内周部から最外周部に時計方向に銅薄膜線を巻回させる。また、第1のコイルの最外周端部と第4のコイルの最外周端部はそれぞれ開放端として構成するのが好ましい。そして、例えば第2のコイルよりも巻回数の多い第1のコイルを構成する銅薄膜線のうち第2のコイルを構成する銅薄膜線に対向して積層されている銅薄膜線以外の銅薄膜線の幅を広くし、更に、第4のコイルよりも巻回数の多い第3のコイルを構成する銅薄膜線のうち第4のコイルを構成する銅薄膜線に対向して積層されている銅薄膜線以外の銅薄膜線の幅を広くするのが好ましい。
【0074】
(I)第9変形形態
次に第9変形形態として、実施形態の送電オープンコイルTO(受電オープンコイルRO)においては、コイルCL1の巻回方向(反時計方向)とコイルCL2の巻回方向(時計方向)とを反対としたが、これらが同じ方向であってもよい。この点は、上記第8変形形態の四層構造においても同様である。
【0075】
(J)
第10変形形態
次に第10変形形態として、上述した実施形態では、送電オープンコイルTO(受電オープンコイルRO)において、コイルCL1の各巻回の径方向の位置と、コイルCL2の各巻回の径方向の位置と、が、一致するように構成したが(
図7参照)、これに限らず、当該各巻回の径方向の位置が異なっていても、コイルCL1とコイルCL2とが積層されていれば、所望される寄生容量の調整が可能となり、上記電力伝送システムSと同等の効果を奏し得る。
【0076】
(K)第11変形形態
最後に第11変形形態として、実施形態において、開放端とされている送電オープンコイルTO又は受電オープンコイルTOの端部に対して直列又は並列に、或いは送電ループコイルTL又は受電ループコイルRLに対して並列に、それぞれコンデンサを更に接続して、送電ループコイルTO又は受電ループコイルRO、或いは送電オープンコイルTL又は受電オープンコイルRLとしての寄生容量を調整することで、共振周波数の低周波数化を図るように構成してもよい。このとき、送電オープンコイルTO又は受電オープンコイルROにおけるいずれかの開放端に対して直列にコンデンサを接続する場合は、当該開放端のいずれかに接続されていないコンデンサの端子を開放端とすればよい。
【産業上の利用可能性】
【0077】
以上それぞれ説明したように、本発明は非接触の電力伝送の分野に利用することが可能であり、特に電気自動車に搭載された蓄電池を充電するための電力伝送の分野に適用すれば特に顕著な効果が得られる。
【符号の説明】
【0078】
S 電力伝送システム
R 受電装置
T 送電装置
V ビア
RV 受電部
RC 受電コイル
TR 送電部
TC 送電コイル
TO 送電オープンコイル
TL 送電ループコイル
RO 受電オープンコイル
RL 受電ループコイル
CL1、CL2 コイル
BF1、BF2 フィルム
O1、O2 接続用端子
T1、T2 開放端