(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】鉄芯、巻鉄芯の製造方法、積鉄芯の製造方法及び鉄芯用電磁鋼板の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 27/245 20060101AFI20221101BHJP
H01F 41/02 20060101ALI20221101BHJP
B21B 3/02 20060101ALI20221101BHJP
【FI】
H01F27/245
H01F41/02 A
H01F41/02 B
B21B3/02
(21)【出願番号】P 2019045264
(22)【出願日】2019-03-12
【審査請求日】2021-11-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002675
【氏名又は名称】弁理士法人ドライト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂井 辰彦
(72)【発明者】
【氏名】濱村 秀行
【審査官】秋山 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-340619(JP,A)
【文献】特開平6-120044(JP,A)
【文献】特開2018-123377(JP,A)
【文献】特開2018-37572(JP,A)
【文献】特開平7-320922(JP,A)
【文献】特開昭61-15309(JP,A)
【文献】特開2013-108149(JP,A)
【文献】特開平11-124629(JP,A)
【文献】特開2012-57218(JP,A)
【文献】特開2007-43040(JP,A)
【文献】特開2007-180135(JP,A)
【文献】特開平9-219321(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 27/245
H01F 41/02
B21B 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の鋼板片が積層された積層体からなるトランス用の鉄芯において、
前記鋼板片は、表面に圧延方向と交差する溝を有しており、
前記鋼板片は、前記溝の深さ、前記溝の幅、及び前記溝のピッチの少なくともいずれか一つを変化させることで、前記鉄芯がトランスに用いられた場合に形成される閉磁路の内側から外側に向かって、式(1)で表される溝断面積比率ηが連続的又は段階的に変化する、鉄芯。
η=(π・d・W)/(2・P・t) ・・・(1)
ここで、πは円周率、dは前記溝の深さ、Wは前記溝の幅、Pは前記溝のピッチ、tは前記鋼板片の厚みである。
【請求項2】
前記鉄芯がトランスに用いられた場合に形成される任意の前記閉磁路のそれぞれにおいて、前記閉磁路に沿った磁気抵抗が略同一である、請求項1に記載の鉄芯。
【請求項3】
複数の鋼板片が積層された積層体からなるトランス用の巻鉄芯の製造方法において、
方向性電磁鋼板のフープから複数の前記鋼板片を切断する切断工程と、
切断された前記鋼板片に、前記鋼板片の圧延方向と交差する溝を形成する溝形成工程と、
前記鋼板片を積層し、積層された積層体を巻回した後に加圧成型して前記巻鉄芯とする成型工程と、
を有し、
前記溝形成工程は、前記溝の深さ、前記溝の幅、及び前記溝のピッチの少なくともいずれか一つを変化させることで、前記巻鉄芯がトランスに用いられた場合に形成される閉磁路の内側から外側に向かって、式(1)で表される溝断面積比率ηを連続的又は段階的に変化させる、巻鉄芯の製造方法。
η=(π・d・W)/(2・P・t) ・・・(1)
ここで、πは円周率、dは前記溝の深さ、Wは前記溝の幅、Pは前記溝のピッチ、tは前記鋼板片の厚みである。
【請求項4】
複数の鋼板片が積層された積層体からなるトランス用の積鉄芯の製造方法において、
方向性電磁鋼板のフープから複数の前記鋼板片を切断する切断工程と、
切断された前記鋼板片に、前記鋼板片の圧延方向と交差する溝を形成する溝形成工程と、
前記鋼板片を積層して前記積鉄芯とする成型工程と、
を有し、
前記溝形成工程は、前記溝の深さ、前記溝の幅、及び前記溝のピッチの少なくともいずれか一つを変化させることで、前記積鉄芯がトランスに用いられた場合に形成される閉磁路の内側から外側に向かって、式(1)で表される溝断面積比率ηを連続的又は段階的に変化させる、積鉄芯の製造方法。
η=(π・d・W)/(2・P・t) ・・・(1)
ここで、πは円周率、dは前記溝の深さ、Wは前記溝の幅、Pは前記溝のピッチ、tは前記鋼板片の厚みである。
【請求項5】
複数の鋼板片が積層された積層体からなるトランス用の鉄芯のための鉄芯用電磁鋼板の製造方法において、
前記複数の鋼板片となる複数の鋼板片領域にそれぞれ複数の溝を形成する溝形成工程を有し、
前記溝形成工程は、前記溝の深さ、前記溝の幅、及び前記溝のピッチの少なくともいずれか一つを変化させることで、前記鉄芯がトランスに用いられた場合に形成される閉磁路の内側から外側に向かって、式(1)で表される溝断面積比率ηを連続的又は段階的に変化させる、鉄芯用電磁鋼板の製造方法。
η=(π・d・W)/(2・P・t) ・・・(1)
ここで、πは円周率、dは前記溝の深さ、Wは前記溝の幅、Pは前記溝のピッチ、tは前記鋼板片の厚みである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄芯、巻鉄芯の製造方法、積鉄芯の製造方法及び鉄芯用電磁鋼板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トランス用の鉄芯の材料として、磁化容易軸が一方向に揃った方向性電磁鋼板(以下、鋼板という)が利用されている。鉄芯では、鉄損の低減が求められており、鉄損を低減する技術として、鋼板の磁区の幅を小さくする磁区細分化の技術が知られている。この磁区細分化の技術では、例えば方向性電磁鋼板の表面にレーザ照射して歪みを導入する手法や鋼板の表面に所定の間隔で複数の溝を形成する手法が知られている。
【0003】
巻鉄芯は、鋼板を積層したものを巻回した後に、所定の形状に加圧成型する。このときに鋼板に生じる不要な歪みを除去するために、加圧成型後の巻鉄芯に対して焼鈍を行う。この焼鈍によって、磁区細分化のための歪みも除去されてしまうことから、巻鉄芯では、一般的に溝を形成することにより磁区細分化を行っている。
【0004】
一方、巻鉄芯の内周部と外周部とで、異なる磁気特性の鋼板を使用することにより、巻鉄芯全体における鉄損を改善する技術が知られている(特許文献1~3を参照)。特許文献1、2では、鉄芯の内周部の鋼板として、外周部の鋼板よりも透磁率が低いものを用いることで、鉄芯内の磁束密度の分布を均一化している。また、特許文献3では、鉄芯の内周部の鋼板の0-peak法による磁気歪みが外周部の鋼板の磁気歪み以下となるように構成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平6-120044号公報
【文献】特開2006-185999号公報
【文献】特開平8-203746号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1~3のような鉄芯を作製する場合には、磁気特性の異なる複数の鋼板が必要であり、またこれら複数種類の鋼板を積層して巻鉄芯を作製する必要がある。このため、巻鉄芯の製造工程が煩雑化するという問題があった。また、磁気特性を細かく調整した複数の鋼板を製造することは容易ではなく、鉄損の低減効果を十分に得られないという問題もあった。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、容易に鉄損を低減することができる鉄芯、巻鉄芯の製造方法、積鉄芯の製造方法及び鉄芯用電磁鋼板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の鉄芯は複数の鋼板片が積層された積層体からなるトランス用の鉄芯において、前記鋼板片は、表面に圧延方向と交差する溝を有しており、前記鋼板片は、前記溝の深さ、前記溝の幅、及び前記溝のピッチの少なくともいずれか一つを変化させることで、前記鉄芯がトランスに用いられた場合に形成される閉磁路の内側から外側に向かって、式(1)で表される溝断面積比率ηが連続的又は段階的に変化するものである。
η=(π・d・W)/(2・P・t) ・・・(1)
ここで、πは円周率、dは前記溝の深さ、Wは前記溝の幅、Pは前記溝のピッチ、tは前記鋼板片の厚みである。
【0009】
本発明の巻鉄芯の製造方法は、複数の鋼板片が積層された積層体からなるトランス用の巻鉄芯の製造方法において、方向性電磁鋼板のフープから複数の前記鋼板片を切断する切断工程と、切断された前記鋼板片に、前記鋼板片の圧延方向と交差する溝を形成する溝形成工程と、前記鋼板片を積層し、積層された積層体を巻回した後に加圧成型して前記巻鉄芯とする成型工程と、を有し、前記溝形成工程は、前記溝の深さ、前記溝の幅、及び前記溝のピッチの少なくともいずれか一つを変化させることで、前記巻鉄芯がトランスに用いられた場合に形成される閉磁路の内側から外側に向かって、式(1)で表される溝断面積比率ηを連続的又は段階的に変化させるものである。
η=(π・d・W)/(2・P・t) ・・・(1)
ここで、πは円周率、dは前記溝の深さ、Wは前記溝の幅、Pは前記溝のピッチ、tは前記鋼板片の厚みである。
【0010】
本発明の積鉄芯の製造方法は、複数の鋼板片が積層された積層体からなるトランス用の積鉄芯の製造方法において、方向性電磁鋼板のフープから複数の前記鋼板片を切断する切断工程と、切断された前記鋼板片に、前記鋼板片の圧延方向と交差する溝を形成する溝形成工程と、前記鋼板片を積層して前記積鉄芯とする成型工程と、を有し、前記溝形成工程は、前記溝の深さ、前記溝の幅、及び前記溝のピッチの少なくともいずれか一つを変化させることで、前記積鉄芯がトランスに用いられた場合に形成される閉磁路の内側から外側に向かって、式(1)で表される溝断面積比率ηを連続的又は段階的に変化させるものである。
η=(π・d・W)/(2・P・t) ・・・(1)
ここで、πは円周率、dは前記溝の深さ、Wは前記溝の幅、Pは前記溝のピッチ、tは前記鋼板片の厚みである。
【0011】
本発明の鉄芯用電磁鋼板の製造方法は、複数の鋼板片が積層された積層体からなるトランス用の鉄芯のための鉄芯用電磁鋼板の製造方法において、前記複数の鋼板片となる複数の鋼板片領域にそれぞれ複数の溝を形成する溝形成工程を有し、前記溝形成工程は、前記溝の深さ、前記溝の幅、及び前記溝のピッチの少なくともいずれか一つを変化させることで、前記鉄芯がトランスに用いられた場合に形成される閉磁路の内側から外側に向かって、式(1)で表される溝断面積比率ηを連続的又は段階的に変化させるものである。
η=(π・d・W)/(2・P・t) ・・・(1)
ここで、πは円周率、dは前記溝の深さ、Wは前記溝の幅、Pは前記溝のピッチ、tは前記鋼板片の厚みである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、鋼板片に形成される溝の深さ、溝の幅、及び溝のピッチの少なくともいずれか一つを変化させることで、鋼板片の溝断面積比率を、鉄芯がトランスに用いられた場合に形成される閉磁路と交差する方向の内側から外側に向かって、連続的または段階的に小さくするので、容易に、鉄芯の内部で発生する磁束密度の分布を改善して鉄損を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】第1実施形態に係る巻鉄芯の外観を示す斜視図である。
【
図2】巻鉄芯を構成する鋼板片の長手方向に沿って溝が複数形成された鋼板片を示す説明図である。
【
図3】巻鉄芯の各鋼板片に形成された各溝を示す巻鉄芯の断面図である。
【
図4】溝の深さ、幅、及びピッチを説明する鋼板片の断面図である。
【
図5】巻鉄芯を製造する工程の一例を示す説明図である。
【
図6】方向性電磁鋼板の連続処理設備に設けた溝形成装置の一例を示す斜視図である。
【
図7】第2実施形態に係る積鉄芯の外観を示す斜視図である。
【
図8】積鉄芯の各鋼板片に形成された溝を示す説明図である。
【
図9】内周から外周に向って溝の深さを漸減する例を示す説明図である。
【
図10】鋼板片を幅方向に区分した各部を異なる溝断面積比率とした例を示す説明図である。
【
図11】積鉄芯を製造する工程の一例を示す説明図である。
【
図12】実施例で測定された溝断面積比率と実効透磁率と鉄損との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[第1実施形態]
図1において、巻鉄芯10は、内周から外周に向って順にM(Mは2以上)層の鋼板片14
1~14
M(
図3参照)を積層したものである。鋼板片14
1~14
Mの圧延方向の長さは互いに異なり、巻鉄芯10の内周側となる鋼板片から外周側となる鋼板片に向って漸増しており、最内周の鋼板片14
1の長さが最も短く、最外周の鋼板片14
Mの長さが最も長い。iを1、2・・・Mとして、鋼板片14
iには、その表面に複数の溝16
i(
図3参照)が形成されている。なお、以下の説明では、鋼板片14
1~14
Mを区別しない場合には、これらを鋼板片14と総称する。同様に、溝16
1~16
Mを区別しない場合には、溝16と総称する。
【0015】
巻鉄芯10は、中空部を有する略四角筒状に成型されている。巻鉄芯10の四隅は、所定の曲率で曲げられたR形状になっている。巻鉄芯10は、例えば一次巻線Pと二次巻線Sとが巻かれることによりトランスとされ、鋼板片141~14Mのそれぞれが、一次巻線Pまたは二次巻線Sに電流を流したときに中空部の周りを環流する磁束の磁気回路すなわち閉磁路を形成する。
【0016】
鋼板片141~14Mとしては、方向性電磁鋼板が用いられる。方向性電磁鋼板は、製造時の圧延方向に結晶粒の磁化容易軸(体心立方晶の<100>方向)の方向がほぼ揃っている電磁鋼板であって、圧延方向に磁化が向いた複数の磁区が磁壁を挟んで配列した構造を有する。このような方向性電磁鋼板は、磁力線が一定な方向を向くトランス用の鉄芯材料として適している。なお、鋼板片141~14Mの磁化容易軸は、巻鉄芯10の周方向(中空部の周りを環流する方向)である。
【0017】
図2に示すように、鋼板片14
iは、圧延方向(矢印A方向)に長い矩形状である。鋼板片14
iには、表面に複数の溝16
iが形成されている。各溝16
iは、鋼板片14
iの圧延方向と直交する板幅方向(矢印B方向)に延在する。複数の溝16
iは、鋼板片14
iの圧延方向に所定のピッチで形成されている。ここで、溝16の形成方向は、溝16と圧延方向とがなす角θが、直角すなわち90°であることが好ましい。しかしながら、巻鉄芯を作製する場合には、曲げ加工を行う箇所において、溝16を起点に割れが発生する可能性があるため、そうした場合には、溝16と圧延方向とがなす角θを、90°未満としてもよい。また、溝16と圧延方向とのなす角θが、45°より大きければ、鉄損改善特性の大きな劣化を抑制できる。したがって、溝16と圧延方向とがなす角θは、45°より大きく90°以下とするのが好ましい。
【0018】
溝16iは、例えばレーザ光の照射によって形成される。ただし、溝16iの形成手法は、レーザ光の照射によるものに限定されず、エッチング法、機械加工法等を用いることもできる。レーザ光の照射による溝16iの形成手法は、レーザの出力、集光径、走査速度等の変更によって、容易に溝形状、ピッチを制御可能であり、好ましい手法である。
【0019】
なお、この例では、溝16iを鋼板片14iの圧延方向の全領域に所定のピッチで形成しているが、巻鉄芯10の四隅に対応した領域に溝16iを形成しない構成とすることもできる。このような構成は、巻鉄芯10の形状に鋼板片141~14Mを曲げ加工する際に、鋼板片141~14Mの割れを防止する上で有利である。なお、例えば浅い溝や、幅方向に対して傾斜した方向に延在する溝を鋼板片141~14Mに形成することも、鋼板片141~14Mの割れを抑制する上で有効である。
【0020】
図3において、上述のように、巻鉄芯10は、当該巻鉄芯10がトランスに用いられた場合に形成される閉磁路の内側から外側に向って、鋼板片14
1、14
2、・・・14
Mが層設された積層体になっている。この例では、鋼板片14
1~14
Mとしては、その厚み及び幅が同じものを用いている。溝16
iは、各鋼板片14
iの少なくとも一方の面に形成すればよく、この例では、巻鉄芯10の内周側となる面に形成されているが、外周側となる面に形成してもよい。また、巻鉄芯10に層設される各鋼板片14
iで、溝16
iが形成された面を内周側又は外周側に揃えずに、内周側に溝16
iを形成した鋼板片14
iと外周側に溝16
iを形成した鋼板片14
iとを組み合わせるようにしても良い。鋼板片14
iは、それらの表面に絶縁膜(図示省略)が形成されているが、溝16
iは、鋼板片14
iそのものに形成されている。溝16
iは、絶縁膜で覆われていることが好ましい。
【0021】
巻鉄芯10は、その鉄損を低減するために、巻鉄芯10がトランスに用いられた場合に形成される閉磁路の方向(以下、単に磁路の方向とも称する)と交差する方向に形成される各閉磁路について、閉磁路に沿った磁気抵抗を互いに概ね等しく(略同一に)している。すなわち、巻鉄芯10では、内周と外周との間で鋼板片141~14Mを積層しているので、鋼板片141~14Mの各磁気抵抗を略同一にしている。磁気抵抗を略同一にするために、鋼板片141~14Mの実効透磁率を内周から外周に向って連続的ないし段階的に小さくしている。
【0022】
鋼板片14iにおける、閉磁路に沿った磁気抵抗Riは、鋼板片14iの実効透磁率をμei、磁路長をLi(鋼板片14iの長さ)、鋼板片14iの断面積をsiとすると、「Ri=Li/(μei×si)」で表すことができる。
【0023】
上述のように鋼板片141~14Mの圧延方向の長さは、内周から外周に向って漸増しているので、鋼板片141~14Mによってそれぞれ形成される閉磁路の長さである磁路長は、巻鉄芯10の内周から外周に向って漸増しており、最内周の磁路長が最も短く、最外周の磁路長が最も長い。このため、磁路長Liが短い内周側の鋼板片14iほど実効透磁率μeiを大きくし、磁路長Liが長い外周側の鋼板片14iほど実効透磁率μeiを小さくすることで、鋼板片141~14Mの磁気抵抗を互いに略同一とすることができる。
【0024】
このため、鋼板片141~14Mの磁気抵抗を略同一とすることにより、鋼板片141~14Mの発生する磁束密度が均一化されるため、磁束密度の二乗に比例する鉄損を低減することができる。
【0025】
鋼板片14の実効透磁率μeiは、鋼板片14iに形成する溝16iの深さ、幅、ピッチの少なくともいずれか1つを変化させることによって増減できる。発明者らは、溝16の溝断面積比率(詳細後述)を規定し、この溝断面積比率を変化させたときに、鉄損がほぼ変化しない範囲であっても、実効透磁率は変化し得ることを見出した。このことから、溝断面積比率、すなわち溝16iの深さ、幅、ピッチを調整することで実効透磁率μeiを増減させた鋼板片141~14Mを用いて、実効透磁率μeiの順に積層して巻鉄芯10を構成することにより、その巻鉄芯10の内部の磁路に沿った磁気抵抗を均一化(各磁路に沿った磁気抵抗を同一化)することで、鉄損をより低くできることを見出した。
【0026】
溝16の溝断面積比率ηは、例えば式(1)により求めることができる。
η=(π・d・W)/(2・P・t) ・・・(1)
すなわち、1枚の鋼板片14iに注目すると、溝16iの溝断面積比率ηiは、式(1a)により求めることができる。
ηi=(π・di・Wi)/(2・Pi・t) ・・・(1a)
【0027】
図4に示すように、式(1a)中の、値W
iは、溝16
iの幅であり、鋼板片14
iの表面における閉磁路に沿った方向の開口の長さである。また、値P
iは、閉磁路に沿った方向の溝16
iのピッチであり、閉磁路に沿った方向の隣接する溝16
iの対応する部分同士の間隔の長さである。値d
iは、溝16
iの深さであり、鋼板片14
iの表面から溝16
iの底部までの長さである。値tは鋼板片14
iの厚み(板厚)である。より正確には、製造ばらつきに起因して、鋼板片14
i上にある複数の溝16
iのそれぞれで、幅W
i、ピッチP
i、深さd
iの値が異なる(不均一となる)ことが考えられるが、そうした場合には、鋼板片14
i上の複数の溝16
iについて各値の平均値を求めることで、その平均値を、式(1a)に用いる、幅W
i、ピッチP
i、深さd
iの値であるとすることもできる。巻鉄芯10の四隅に対応した領域に溝16
iを形成しない場合のように、鋼板片14
i上の部分ごとの幅W
i、ピッチP
i、深さd
iの値を意図的に異なるものとした場合についても、それら平均値を、式(1a)に用いる幅W
i、ピッチP
i、深さd
iの値とすることができる。
【0028】
深さdiを大きくするほど、幅Wiを大きくするほど、またピッチPiを小さくするほど、溝断面積比率ηiが大きくなり、鋼板片14iの実効透磁率を小さくできる。これは、溝16iの形成によって、鋼板片14iの表面に透磁率の低い空隙ができることにより実効的な透磁率が低下するからである。
【0029】
所要とする各実効透磁率に対して、鋼板片14
1~14
Mに形成すべき溝16
1~16
Mの深さ、幅、ピッチは、例えば実験的に決めることができる。
図4に示す例では、同一の鋼板片14
iに形成された各溝16
iの深さd
i及び幅W
iは同じであり、複数の溝16
i間のピッチP
iは一定である。
【0030】
なお、
図4に示す例では、上述のように1枚の鋼板片14
iにおける各溝16
iの深さd
i、幅W
i、ピッチP
iはそれぞれ一定であるが、1枚の鋼板片14
iにおいて、各溝16
iの深さd
i、幅W
iが異なってもよく、ピッチP
iが変化してもよく、実効透磁率が所要の値となるように設定すればよい。
【0031】
鋼板片141~14Mにおける磁束密度の変動幅を抑制するためには、磁気抵抗の変動幅が小さいことが好ましく、磁気抵抗の変動率が、例えば5%以下であることが好ましく、1%以下であることがより好ましい。
【0032】
上記のように本実施形態では、溝16iの深さdi、溝16iの幅Wi、及び溝16iのピッチPiの少なくともいずれか一つを変化させ、鋼板片141~14Mの実効透磁率を制御することで、巻鉄芯10における各鋼板片14間の圧延方向と交差する方向の磁気抵抗を略同一にしている。これにより、巻鉄芯10の各層の鋼板片141~14Mの磁束密度が均一となり鉄損が低くなる。そして、鋼板片141~14Mの実効透磁率は、溝断面積比率、すなわち溝161~16Mの深さ、幅、ピッチによって調整されるから、容易に、所要とする実効透磁率を得ることができ、巻鉄芯10の鉄損を低減できる。
【0033】
この例では、鋼板片14ごとに実効透磁率を変えているが、巻鉄芯10の内周から外周に向う方向で、巻鉄芯10を構成する鋼板片14を複数のグループに分け、グループごとに実効透磁率を設定し、変えるようにしてもよい。この場合には、グループ内の各鋼板片14の実効透磁率を同じにするが、内周から外周に向ってグループごとの実効透磁率が小さくなるようにする。グループは、1枚または複数枚の鋼板片14で構成される。
【0034】
次に巻鉄芯10の製造方法について、
図5を参照して説明する。なお、以下に説明する製造方法は、一例であり、巻鉄芯10の製造方法を限定するものではない。まず、
図5(A)に示されるように、フープ31を用意する。フープ31は、溝16を形成していない長尺の方向性電磁鋼板32をロール状にしたものである。フープ31の方向性電磁鋼板32の幅は、例えば鋼板片14の幅と同じにされており、方向性電磁鋼板32は、その長手方向が圧延方向である。次にフープ31から方向性電磁鋼板32を巻き出して、方向性電磁鋼板32を、鋼板片14
1~14
Mの各長さで順次に切断して、鋼板片14
1~14
Mを得る(切断工程)。例えば、切断する長を順次に短くしていくことで、最外周の鋼板片14
Mから順番に最内周の鋼板片14
1までが順番に得られる。
【0035】
方向性電磁鋼板32から切断された鋼板片14は、レーザ装置33からのレーザ光が幅方向に走査されることで、幅方向に延在した圧延方向と交差する溝16が形成される(溝形成工程)。例えば、鋼板片14iを連続的に圧延方向に移動しながら、溝16iのピッチPiに応じた走査周波数でレーザ光を板幅方向に走査する。これにより、鋼板片14i毎に、対応するピッチPiで複数の溝16iが形成される。また、鋼板片14i毎に決められたレーザ出力及び集光径に調節されたレーザ光を照射することで、鋼板片14i毎に、対応する深さdi及び幅Wiで溝16iが形成される。走査周波数は、例えばレーザ光走査機構である回転ポリゴンミラーやガルバノモータミラーの回転、振動周波数で調整できる。レーザ光の集光径は、例えば集光レンズあるいは集光ミラーの移動によるフォーカス調整で実現できる。なお、調整装置、調整方法はこれらに限られない。
【0036】
このように切断工程の直後に溝16iを形成することにより、確実かつ容易に、鋼板片141~14Mのそれぞれに対して決められた溝断面積比率とする溝161~16Mを形成することができる。なお、フープ31から巻き出されている方向性電磁鋼板32に対して溝16を形成し、その後に方向性電磁鋼板32を切断して鋼板片14とすることも好ましい。なお、鋼板片14には積層鋼板間の絶縁性を高めるために絶縁コーティングを行ってもよい。その場合には、溝16を形成した後次の積層工程までの間に、絶縁コーティングを形成すればよい。
【0037】
図5(B)に示されるように、溝16
1~16
Mが形成された鋼板片14
1~14
Mを順次に積層して積層体35とする(積層工程)。積層体35は、
図5(C)に示されるように、ロール状に巻回される(巻回し工程)。この後、
図5(D)に示されるように、ロール状の積層体35は、加圧成型されて、中空部を有する略四角筒状の巻鉄芯10とされる(成型工程)。なお、成型工程では、加圧成型した後に、変形部の歪みを取るために巻鉄芯10が焼鈍される。
【0038】
このように、個々の巻鉄芯10の製造段階における過程で、鋼板片141~14Mに、それに応じた溝161~16Mを形成することで、巻鉄芯10を製造できる。
【0039】
上記の例では、フープ31から巻き出した方向性電磁鋼板32を切断した鋼板片14に対して、溝16を形成しているが、フープ31あるいはその元の方向性電磁鋼板のコイルの製造過程で溝16を形成してもよい。
【0040】
図6は、幅広な方向性電磁鋼板41に溝16を形成する例を示している。方向性電磁鋼板41は、例えば巻鉄芯10を構成する鋼板片14の数倍の幅(例えば1m~1.5m)を有している。溝形成装置42は、この方向性電磁鋼板41を連続的に通板して処理し、例えば最終的にコイル状にする連続処理設備に設けられている。方向性電磁鋼板41は、それを通板する方向が圧延方向である。
【0041】
溝形成装置42は、複数のレーザ装置33、マーカ装置43、プロセスコンピュータ44、トラッキング装置45等で構成されている。複数のレーザ装置33は、方向性電磁鋼板41の幅方向に並べて配置されており、それらで方向性電磁鋼板41を幅方向に分割して溝16を形成する。プロセスコンピュータ44には、巻鉄芯10の各鋼板片14の長さと幅、各鋼板片14の溝16の深さ、幅、ピッチ等とからなる制御データが予め入力されている。
【0042】
トラッキング装置45は、例えば方向性電磁鋼板41の搬送に従動回転する搬送ロール46に取り付けられたエンコーダ等で構成されており、搬送ロール46の回転数を検出信号として出力する。プロセスコンピュータ44は、トラッキング装置45からの検出信号と各レーザ装置33のレーザ光の照射位置に基づいて、各照射位置上にある方向性電磁鋼板41の通板方向の通板位置をそれぞれ特定する。同様に、プロセスコンピュータ44は、トラッキング装置45からの検出信号と、マーカ装置43によるマーキング位置に基づいて、マーキング位置上にある方向性電磁鋼板41の通板位置を特定する。
【0043】
プロセスコンピュータ44は、上記のように特定するレーザ光の照射位置上の方向性電磁鋼板41の通板位置に基づいて、方向性電磁鋼板41の各鋼板片14に対応する各鋼板片領域に溝16を形成するように各レーザ装置33をそれぞれ制御する。これにより、各々のレーザ装置33によって、鋼板片141に対応する鋼板片領域、鋼板片142に対応する鋼板片領域・・・鋼板片14Mに対応する鋼板片領域が通板方向に順番に並んで形成される。各鋼板片領域には、レーザ装置33によって、対応する鋼板片14iの溝16iがそれぞれ形成される。各々のレーザ装置33は、1セット分の鋼板片141~14Mに対応した各鋼板片領域を形成した後、次の1セット分の鋼板片141~14Mに対応した各鋼板片領域を形成する。このようにして溝16が方向性電磁鋼板41に形成される。
【0044】
また、プロセスコンピュータ44は、特定される通板位置に基づいて、マーカ装置43を駆動することで、例えば各鋼板片領域の境界にマークを記録する(マーキング工程)。このマーカには、例えばスプレーされたペイントのように目視やカメラで確認できるものが用いられる。また、個々の鋼板片領域を自動識別できるようなパターンでマーカを記録してもよい。さらに、各鋼板片領域の境界とする一定区間でレーザ装置33によるレーザ光の照射を停止することで溝16の非形成区間を形成し、この非形成区間を各鋼板片領域の境界としてマーカとしてもよい。
【0045】
巻鉄芯10の作製の際には、上記のように製造されたマーカに基づいて鉄芯用電磁鋼板としての方向性電磁鋼板41がその長手方向(通板方向)に切断され、さらに鋼板片14の幅に切断されて幅方向に分割される。これにより、複数の巻鉄芯10を作製するための複数組の鋼板片141~14Mが得られる。このように、方向性電磁鋼板41のコイルの製造段階で、巻鉄芯10の鋼板片14に合わせて溝16を形成するので、鉄損が低減された特性の優れる巻鉄芯を容易に製造できる。
【0046】
上記では巻鉄芯の鋼板片に溝を形成する場合について説明したが、同様な手法により、連続処理設備において、後述する積鉄芯の鋼板片に溝を形成することができる。
【0047】
[第2実施形態]
第2実施形態は、積鉄芯の鉄損の低減を図るものである。
図7において、積鉄芯50は、鉄芯脚である中央脚51及び一対の側脚52と、中央脚51と各側脚52とをそれぞれ連絡する4つのヨーク(継鉄)53とから構成される。中央脚51と各側脚52とは、一対の側脚52がそれらの間に中央脚51を挟むように一方向に並んで配置されている。中央脚51は、N(Nは2以上)枚の鋼板片51aを積層したものである。同様に各側脚52、各ヨーク53は、それぞれN枚の鋼板片52a、53aを積層したものである。
【0048】
図8に示すように、鋼板片51a~53aは、磁化容易軸すなわち圧延方向が積鉄芯50内に内部を環流する閉磁路と平行となるように、方向性電磁鋼板から切り出されて作製される。なお、この場合の閉磁路は、積鉄芯50がトランスに用いられた場合に、積層された鋼板片のうちの鋼板片51a、52a、53aからなる1層の中において形成される(閉)磁力線を意味し、当該1層の中に、複数本の閉磁路が生じることを想定している。
【0049】
中央脚51及び側脚52における閉磁路の方向は、一対のヨーク53が挟む方向(矢印X方向)であり、各ヨーク53における閉磁路の方向は、中央脚51と各側脚52が並ぶ方向(矢印Y方向)である。
【0050】
積層されている各鋼板片51aには、複数の溝56がそれぞれ形成されている。各溝56は、鋼板片51aの板幅方向(圧延方向と直交する方向)、すなわち閉磁路と直交する方向に延在し、圧延方向に所定の間隔で設けられている。同様に、各鋼板片52aには、その幅方向に延在する複数の溝57がそれぞれ形成され、各鋼板片53aには、その幅方向に延在する複数の溝58がそれぞれ形成されており、いずれも圧延方向に所定の間隔で設けられている。なお、溝56は磁路を横切る方向に延設すればよい。
【0051】
積鉄芯50では、中央脚51、側脚52及びヨーク53で囲まれた各中空部の周りにそれぞれ閉磁路CMがそれぞれ形成される。
図8では、便宜的に各中空部の周りそれぞれ1つの閉磁路CMのみを描いてあるが、実際には、各鋼板片51a~53aの板幅方向に、それに直交する方向の複数の磁路が並ぶように多くの閉磁路が形成される。また、積鉄芯50の各層において、そのようになっている。
【0052】
一般に閉磁路の内周側にいく程、閉磁路の周長が短く、磁気抵抗も小さくなるため、内周側程、磁束密度が集中しやすい。そのため、内周側の閉磁路の方が、鉄損が増加することになるが、本実施形態の積鉄芯50では、鋼板片51a~53aには、板幅方向で各閉磁路に沿った磁気抵抗が略同一になるように、溝56~58がそれぞれ形成されている。この例では、
図9に示すように、各鋼板片52aに形成されている溝57は、その深さが、鉄芯がトランスに用いられた場合に形成される閉磁路の内側から外側に向って漸減する形状にしている。これにより、鋼板片52aは、板幅方向における溝57の幅及びピッチを一定にしながら、磁路の方向の溝断面積比率ηが、内周側から外周側に向って漸減する。同様に、各鋼板片53aに形成されている溝58は、その深さが内周側から外周側に向って漸減する形状である。これにより、鋼板片53aは、幅方向における溝57の溝幅及びピッチを一定にしながら、磁路の方向の溝断面積比率ηを、内周側から外周側に向って連続的に小さくしている。
【0053】
中央脚51の各鋼板片51aに形成されている溝56については、その溝56の深さが中央から外側に向かって漸減する形状となっている。すなわち、磁路の方向の溝断面積比率ηを、内周側から外周側に向かって連続的に小さくしている。
【0054】
各鋼板片51a~53aに、上記のように溝56~58を形成することによって、板幅方向の実効透磁率を制御し、板幅方向の各閉磁路の磁気抵抗を略同一にしている。これにより、各鋼板片51a~53aにおける板幅方向における各部の磁束密度が均一化され、鉄損が低くなる。そして、鋼板片51a~53aの実効透磁率は、溝断面積比率、すなわち溝56~58の深さ、幅、ピッチによって調整されるから、容易に、所要とする実効透磁率を得ることができ積鉄芯50の鉄損を低減できる。溝断面積比率は、例えば第1実施形態と同様に式(1)によって求めることができる。
【0055】
上記の例では、各鋼板片の溝の深さを内周側から外周側に向って(すなわち、閉磁路と交差する方向に向かって)漸減する形状にして、各閉磁路における磁気抵抗を略同一にしているが、磁気抵抗を略同一にする際には、第1実施形態の場合と同様に、鋼板片に形成する溝の深さ、幅、ピッチを調整することができる。また、磁路の方向の溝断面積比率を段階的に小さくしてもよい。また、上記積鉄芯は、3脚構造であるが、2脚構造のものでもよい。
【0056】
図10は、鋼板片52aを、内周側から順に内周部61、中間部62、外周部63に区分し、内周部61、中間部62、外周部63のそれぞれで、磁路の方向の溝断面積比率を調整している。内周部61は、鋼板片52a内で溝断面積比率が最も大きく、すなわち中間部62及び外周部63よりも溝断面積比率ηが大きくなるように決められた深さ、幅、ピッチで複数の溝61aが形成されている。外周部63は、鋼板片52a内で溝断面積比率が最も小さく、すなわち内周部61及び中間部62よりも溝断面積比率ηが小さくなるように決められた深さ、幅、ピッチで複数の溝63aが形成されている。中間部62は、内周部61と外周部63との間の溝断面積比率ηとなるように決められた深さ、幅、ピッチで複数の溝62aが形成されている。このように、内周部61、中間部62、外周部63にそれぞれ溝61a~63aを形成することで、外周部63、中間部62、内周部61の順番で磁気抵抗が高くなるようにして、磁束密度の均一化を図り、鉄損を低減している。
【0057】
積鉄芯50を作製する際には、
図11(A)に示すように、例えばフープ31から巻出された方向性電磁鋼板32から、順次に鋼板片51a~53aを切断して、それらの鋼板片51a~53aにレーザ装置33からのレーザ光をそれぞれ照射して、溝56~58を形成する。このときに、所要とする溝断面積比率ηが得られるように溝56~58の深さ、幅、ピッチ等を制御する。一般的に、積鉄芯は大型トランスに用いられるため各鋼板片のサイズは大きい。このため、鋼板片の部位毎にレーザの照射条件を変更して溝を形成することは比較的容易である。この後に、
図11(B)に示すように、溝56~58が形成された鋼板片51a~53aを積層して積鉄芯50とする。また、溝形成工程と積層工程の間で層間の絶縁性を高めるための絶縁コーティングを行ってもよい。
【実施例】
【0058】
最初に、板厚tが0.230mmの方向性電磁鋼板の鋼板片を用意し、鋼板片に、溝の深さ、幅、ピッチを変えた複数のサンプルを作成し、溝断面積比率と実効透磁率及び鉄損W17/50(W/kg)の関係を調べた。鉄損W17/50は、最大磁束密度1.7T、周波数50Hzの交流磁界で発生する鉄損である。
【0059】
溝の形成には、レーザ装置を用いた。レーザ装置としては、波長1.1μmのファイバレーザを用い、出力を1000W~2000W、レーザ光の集光径を0.005mm~0.150mm、走査速度を5~50m/sの各範囲内で変更した。この結果、形成された溝の深さは0.005mm~0.05mm、幅は0.01mm~0.200mm、ピッチは2mm~10mmの範囲となり、溝断面積比率はおおよそ0.01~0.400の範囲となった。溝断面積比率は、式(1)により求めた。これら範囲の溝の深さ、幅、ピッチの範囲での組み合わせによる溝断面積比率ηと、実効透磁率μeと、鉄損W
17/50の関係は、
図12に示すようになった。実効透磁率μeは磁界の強さH
8(=800(A/m))において発生する磁束密度B
8(T)を測定し「μe=B
8/H
8」として求めた。
【0060】
上記結果より、溝断面積比率ηと実効透磁率μeとの関係を式(A)で近似した。また、鉄損W17/50に関しては、溝断面積比率ηの上記範囲内でほぼ一定であった。
μe=0.568η2-0.4621η+2.4005 ・・・(A)
但し、0.02<η<0.400
η=(π・d・W)/(2・P・t)
【0061】
次に、実施例1として、巻鉄芯10を用いたトランスを作製して鉄損W17/50を測定した。磁気抵抗Riと実効透磁率μeiとの関係を示す上述の式「Ri=Li/(μei×si)」に基づき、鋼板片141~14Mの磁気抵抗Rがほぼ一致するような実効透磁率μeiを鋼板片141~14Mのそれぞれについて求めた。各実効透磁率μeiに対応する溝断面積比率ηiを式(A)の関係より求め、式(1)に基づいて、求めた溝断面積比率ηiとなるように深さ、幅、ピッチを調整して溝16をそれぞれ形成した。各々の鋼板片14内における溝断面積比率は一定として。鋼板片141~14Mの磁気抵抗Rの変動範囲は、平均値±5%以内となるように調整した。
【0062】
また、比較例1として、各鋼板片の相互間で溝断面積比率が一定、すなわち各鋼板片の相互間で深さ、幅、ピッチを同じにした巻鉄芯を用いたトランスを作製して鉄損を比較した。比較例1における各鋼板片の溝の深さは0.02mm、幅は0.05mm、ピッチは5mmとした。その他の比較例1のトランスの条件は、実施例1のトランスのものと同じにした。
【0063】
また、実施例2として、積鉄芯50を用いたトランスを作製して鉄損を測定した。積鉄芯50は、
図10に示されるように、各鋼板片52a、53aをその幅方向に内周部61、中間部62、外周部63に区分し、内周部61、中間部62、外周部63の順番で溝断面積比率が小さくなるように、各部の溝61a~63aの深さ、幅、ピッチを調整したものを用いた。また、比較例2として、溝断面積比率ηが各鋼板片の幅方向で一定な積鉄芯を用いたトランスを作製して鉄損を測定した。その他の比較例2のトランスの条件は、実施例2のトランスのものと同じにした。
【0064】
巻鉄芯10を用いた実施例1のトランスは、比較例1のトランスに比べ約10%低い鉄損となった。また、積鉄芯50を用いた実施例2のトランスは、比較例2のトランスに比べ約8%低い鉄損となった。
【符号の説明】
【0065】
10 巻鉄芯
14、51a~53a 鋼板片
16、56~57 溝
31 フープ
32、41 方向性電磁鋼板
50 積鉄芯
56~57 溝