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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】電池用包装材料及び電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/129 20210101AFI20221101BHJP
   H01M 50/133 20210101ALI20221101BHJP
   H01M 50/134 20210101ALI20221101BHJP
   B32B 27/34 20060101ALI20221101BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20221101BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20221101BHJP
【FI】
H01M50/129
H01M50/133
H01M50/134
B32B27/34
B32B27/36
B32B27/00 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019549330
(86)(22)【出願日】2018-10-18
(86)【国際出願番号】 JP2018038763
(87)【国際公開番号】W WO2019078284
(87)【国際公開日】2019-04-25
【審査請求日】2021-10-04
(31)【優先権主張番号】P 2017201478
(32)【優先日】2017-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(72)【発明者】
【氏名】横田 一彦
(72)【発明者】
【氏名】津森 かおる
(72)【発明者】
【氏名】山下 孝典
(72)【発明者】
【氏名】山下 力也
【審査官】増山 淳子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/050542(WO,A1)
【文献】特開2012-33394(JP,A)
【文献】特開2016-62805(JP,A)
【文献】特開2012-124067(JP,A)
【文献】特開2015-26617(JP,A)
【文献】特開2017-69203(JP,A)
【文献】国際公開第2017/170333(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/131155(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/129
H01M 50/133
H01M 50/134
B32B 27/34
B32B 27/36
B32B 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、基材層、バリア層、及び熱融着性樹脂層をこの順に備える積層体から構成されており、
前記基材層が、前記バリア層側から順に、少なくとも、ポリアミド樹脂層、接着樹脂層、及びポリエステル樹脂層を備えており、
前記ポリエステル樹脂層の厚さが6μm以下であり、
ASTM D3420の規定に準拠して、前記積層体の前記基材層側から測定されるインパクト強度を、前記積層体の厚さで除して得られる値が、0.015J/μm以上である、電池用包装材料。
【請求項2】
前記基材層と前記バリア層との間に接着剤層を備えており、
前記接着樹脂層及び前記接着剤層は、それぞれ、ナノインデンテーション法により測定される硬さが、50MPa以下である、請求項1に記載の電池用包装材料。
【請求項3】
前記接着樹脂層が、酸変性ポリオレフィン系樹脂、酸変性スチレン系エラストマー樹脂、及び酸変性ポリエステル系エラストマー樹脂からなる群より選ばれる少なくも1種により形成されている、請求項1又は2に記載の電池用包装材料。
【請求項4】
前記熱融着性樹脂層が、未延伸ポリプロピレンにより構成されている、請求項1~3のいずれかに記載の電池用包装材料。
【請求項5】
前記ポリアミド樹脂層の厚さに対する、前記ポリエステル樹脂層の厚さの比が、0.5以下である、請求項1~4のいずれかに記載の電池用包装材料。
【請求項6】
前記積層体の厚さが、180μm以下である、請求項1~5のいずれかに記載の電池用包装材料。
【請求項7】
前記ポリアミド樹脂層が、ナイロンにより構成されている、請求項1~6のいずれかに記載の電池用包装材料。
【請求項8】
前記ポリエステル樹脂層が、ポリエチレンテレフタレートにより構成されている、請求項1~7のいずれかに記載の電池用包装材料。
【請求項9】
少なくとも正極、負極、及び電解質を備えた電池素子が、請求項1~8のいずれかに記載の電池用包装材料により形成された包装体中に収容されている、電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池用包装材料及び電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、様々なタイプの電池が開発されているが、あらゆる電池において、電極や電解質などの電池素子を封止するために包装材料が不可欠な部材になっている。従来、電池用包装として金属製の包装材料が多用されていた。
【0003】
一方、近年、電気自動車、ハイブリッド電気自動車、パソコン、カメラ、携帯電話などの高性能化に伴い、電池には、多様な形状が要求されると共に、薄型化や軽量化が求められている。しかしながら、従来多用されていた金属製の電池用包装材料では、形状の多様化に追従することが困難であり、しかも軽量化にも限界があるという欠点がある。
【0004】
そこで、近年、多様な形状に加工が容易で、薄型化や軽量化を実現し得る電池用包装材料として、基材/バリア層/熱融着性樹脂層が順次積層されたフィルム状の積層体が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0005】
このような電池用包装材料においては、一般的に、成形により凹部が形成され、当該凹部によって形成された空間に電極や電解液などの電池素子を配し、熱融着性樹脂層同士を熱融着させることにより、電池用包装材料の内部に電池素子が収容された電池が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2008-287971号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
車両やモバイル機器には、製品の輸送時や使用時に強い衝撃が加わることがあり、これらの製品に使用されている電池に対しても強い衝撃が加わることになる。電池に強い衝撃が加わり、電池用包装材料が破損すると、電解液などが外部に漏れ出てしまう虞があるため、電池用包装材料には高い耐衝撃性が求められる。
【0008】
一方、近年、電池には高容量化、薄型化が求められており、これに伴い、電池用包装材料に対しても、より一層の薄型化が求められている。しかしながら、電池用包装材料の厚さが薄くなると、耐衝撃性が低下するという問題がある。
【0009】
また、電池の製造工程においては、電解液を電池用包装材料によって形成された包装体中に収容する際に、電池用包装材料の外側表面に電解液が付着し、該表面が変色して製品不良となる場合がある。
【0010】
このように、電池用包装材料や電池の製造工程、さらに電池の使用態様に起因する上記の課題が存在しており、これらの課題を全て解決し得る手法が求められている。
【0011】
このような状況下、本発明は、高い耐衝撃性及び耐電解液性を備えた電池用包装材料を提供することを主な目的とする。さらに、本発明は、当該電池用包装材料を用いた電池を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、少なくとも、基材層、バリア層、及び熱融着性樹脂層をこの順に備える積層体から構成されており、基材層が、バリア層側から順に、少なくとも、ポリアミド樹脂層、接着樹脂層、及びポリエステル樹脂層を備えており、ポリエステル樹脂層の厚さが6μm以下であり、ASTM D3420の規定に準拠して、積層体の基材層側から測定されるインパクト強度(J)を、積層体の厚さ(μm)で除して得られる値が、0.015J/μm以上である電池用包装材料は、高い耐衝撃性及び耐電解液性を備えることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて、更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0013】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 少なくとも、基材層、バリア層、及び熱融着性樹脂層をこの順に備える積層体から構成されており、
前記基材層が、前記バリア層側から順に、少なくとも、ポリアミド樹脂層、接着樹脂層、及びポリエステル樹脂層を備えており、
前記ポリエステル樹脂層の厚さが6μm以下であり、
ASTM D3420の規定に準拠して、前記積層体の前記基材層側から測定されるインパクト強度(J)を、前記積層体の厚さ(μm)で除して得られる値が、0.015J/μm以上である、電池用包装材料。
項2. 前記基材層と前記バリア層との間に接着剤層を備えており、
前記接着樹脂層及び前記接着剤層は、それぞれ、ナノインデンテーション法により測定される硬さが、50MPa以下である、項1に記載の電池用包装材料。
項3. 前記接着樹脂層が、酸変性ポリオレフィン系樹脂、酸変性スチレン系エラストマー樹脂、及び酸変性ポリエステル系エラストマー樹脂からなる群より選ばれる少なくも1種により形成されている、項1又は2に記載の電池用包装材料。
項4. 前記熱融着性樹脂層が、未延伸ポリプロピレンにより構成されている、項1~3のいずれかに記載の電池用包装材料。
項5. 前記ポリアミド樹脂層の厚さに対する、前記ポリエステル樹脂層の厚さの比が、0.5以下である、項1~4のいずれかに記載の電池用包装材料。
項6. 前記積層体の厚さが、180μm以下である、項1~5のいずれかに記載の電池用包装材料。
項7. 前記ポリアミド樹脂層が、ナイロンにより構成されている、項1~6のいずれかに記載の電池用包装材料。
項8. 前記ポリエステル樹脂層が、ポリエチレンテレフタレートにより構成されている、項1~7のいずれかに記載の電池用包装材料。
項9. 少なくとも正極、負極、及び電解質を備えた電池素子が、項1~8のいずれかに記載の電池用包装材料により形成された包装体中に収容されている、電池。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高い耐衝撃性及び耐電解液性を備えた電池用包装材料を提供することができる。さらに、本発明によれば、当該電池用包装材料を用いた電池を提供することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の電池用包装材料の断面構造の一例を示す模式図である。
図2】本発明の電池用包装材料の断面構造の一例を示す模式図である。
図3】本発明の電池用包装材料の断面構造の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の電池用包装材料は、少なくとも、基材層、バリア層、及び熱融着性樹脂層をこの順に備える積層体から構成されている。基材層は、バリア層側から順に、少なくとも、ポリアミド樹脂層、接着樹脂層、及びポリエステル樹脂層を備えている。また、ポリエステル樹脂層の厚さが6μm以下である。さらに、ASTM D3420の規定に準拠して、積層体の基材層側から測定されるインパクト強度(J)を、積層体の厚さ(μm)で除して得られる値が、0.015J/μm以上である。本発明の電池用包装材料は、このような構成を備えていることにより、高い耐衝撃性及び耐電解液性を備える。以下、本発明の電池用包装材料について詳述する。
【0017】
なお、本明細書において、「~」で示される数値範囲は「以上」、「以下」を意味する。例えば、2~15mmとの表記は、2mm以上15mm以下を意味する。
【0018】
1.電池用包装材料の積層構造及び物性
本発明の電池用包装材料10は、図1に示すように、少なくとも、基材層1、バリア層3、及び熱融着性樹脂層4をこの順に備える積層体からなる。また、基材層1は、バリア層3側から順に、少なくとも、ポリアミド樹脂層1a、接着樹脂層1b、及びポリエステル樹脂層1cを備えている。
【0019】
本発明の電池用包装材料において、基材層1のポリエステル樹脂層1cが最外層になり、熱融着性樹脂層4は最内層になる。即ち、電池の組み立て時に、電池素子の周縁に位置する熱融着性樹脂層4同士が熱融着して電池素子を密封することにより、電池素子が封止される。
【0020】
本発明の電池用包装材料10には、図2、3に示すように、基材層1とバリア層3との間に、これらの接着性を高める目的で、必要に応じて接着剤層2が設けられていてもよい。また、図3に示すように、バリア層3と熱融着性樹脂層4との間に、これらの接着性を高める目的で、必要に応じて接着層5が設けられていてもよい。
【0021】
本発明の電池用包装材料においては、ASTM D3420の規定に準拠して、電池用包装材料を構成している積層体の基材層1側から測定されるインパクト強度(J)を、当該積層体の厚さ(μm)で除して得られる値Pが、0.015J/μm以上であることを特徴としている。本発明の電池用包装材料は、基材層1が、少なくとも、バリア層3側から順に、ポリアミド樹脂層1a、接着樹脂層1b、及びポリエステル樹脂層1cを備えており、かつ、このような特性を備えているため、ポリエステル樹脂層の厚さが6μm以下に設定されているにも拘わらず、高い耐衝撃性と高い耐電解液性を発揮することができる。なお、測定装置のインパクトヘッドとしては、サイズが半径12.7mmであり、滑らかな表面を有する先端半球状のものを使用する。インパクト強度の測定には、直径100mmにカットしたものを試料として使用する。試料は、中央に直径89±0.5mmの円形開口部を有する2枚のプレートの間に固定する。
【0022】
耐衝撃性をさらに向上させる観点から、電池用包装材料を構成している積層体の基材層1側から測定されるインパクト強度(J)を、当該積層体の厚さ(μm)で除して得られる値Pは、下限としては、好ましくは約0.015J/μm以上、より好ましくは約0.016J/μm以上が挙げられ、上限としては、好ましくは約0.020J/μm以下、より好ましくは約0.019J/μm以下が挙げられる。また、当該値Pの好ましい範囲としては、0.015~0.020J/μm程度、0.015~0.019J/μm程度、0.016~0.020J/μm程度、0.016~0.019J/μm程度が挙げられる。
【0023】
当該値Pを上記の値に設定する方法としては、基材層1として、少なくとも、バリア層3側から順に、ポリアミド樹脂層1a、接着樹脂層1b、及びポリエステル樹脂層1cを備えるものを用い、さらにポリエステル樹脂層1cの厚さを6μm以下とした上で、後述する各層の材質、厚さを調整する方法を採用することができる。
【0024】
また、本発明の電池用包装材料において、インパクト強度(J)としては、電池用包装材料を構成する積層体の厚みとの関係で、前記値Pを充足すればよいが、好ましくは1.4J以上、より好ましくは1.6J以上、さらに好ましくは1.7J以上が挙げられる。また、インパクト強度(J)の上限としては、例えば3.0J、2.8Jが挙げられる。
【0025】
本発明の電池用包装材料10を構成する積層体の厚さとしては、特に制限されないが、電池用包装材料の厚さの増大を抑制しつつ、高い耐衝撃性を付与する観点から、例えば約180μm以下、好ましくは約160μm以下、より好ましくは60~180μm程度、さらに好ましくは60~160μm程度、さらに好ましくは80~160μm程度、特に好ましくは100~160μm程度が挙げられる。
【0026】
2.電池用包装材料を形成する各層
[基材層1]
本発明の電池用包装材料10において、基材層1は、最外層側に位置する層である。基材層1は、バリア層3側から順に、少なくとも、ポリアミド樹脂層1a、接着樹脂層1b、及びポリエステル樹脂層1cを備えている。
【0027】
ポリアミド樹脂層1aは、ポリアミドにより構成された層であり、ポリアミドにより構成することで、靭性を付与し、電池用包装材料10の成形性を向上させる役割を果たし、さらに柔軟性、耐突き刺し性、耐寒性も付与することができる。本発明において、ポリアミド樹脂層1aは、基材層1のバリア層3側に位置しており、ポリエステル樹脂層1cと共に、本発明の高い耐衝撃性を担保している。
【0028】
ポリアミドとしては、具体的には、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン12、ナイロン46、ナイロン6とナイロン66との共重合体等の脂肪族系ポリアミド;テレフタル酸及び/又はイソフタル酸に由来する構成単位を含むナイロン6I、ナイロン6T、ナイロン6IT、ナイロン6I6T(Iはイソフタル酸、Tはテレフタル酸を表す)等のヘキサメチレンジアミン-イソフタル酸-テレフタル酸共重合ポリアミド、ポリメタキシリレンアジパミド(MXD6)等の芳香族を含むポリアミド;ポリアミノメチルシクロヘキシルアジパミド(PACM6)等の脂環系ポリアミド;さらにラクタム成分や、4,4’-ジフェニルメタン-ジイソシアネート等のイソシアネート成分を共重合させたポリアミド、共重合ポリアミドとポリエステルやポリアルキレンエーテルグリコールとの共重合体であるポリエステルアミド共重合体やポリエーテルエステルアミド共重合体;これらの共重合体等が挙げられる。これらのポリアミドは、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。延伸ポリアミドフィルムは延伸性に優れており、成形時の基材層1の樹脂割れによる白化の発生を防ぐことができ、ポリアミド樹脂層1aの形成素材として好適に使用される。
【0029】
ポリアミド樹脂層1aは、ポリアミドの中でも、ナイロンにより構成されていることが好ましい。
【0030】
電池用包装材料の厚さの増大を抑制しつつ、高い耐衝撃性を付与する観点から、ポリアミド樹脂層1aの厚さとしては、好ましくは12~25μm程度、より好ましくは15~24μm程度が挙げられる。
【0031】
また、ポリエステル樹脂層1cは、ポリエステルにより構成された層である。ポリエステル樹脂層1cは、基材層1の最外層を構成している。すなわち、ポリエステル樹脂層1cは、本発明の電池用包装材料の最外層を構成しており、優れた耐電解液性を発揮する。また、前述の通り、ポリエステル樹脂層1cは、ポリアミド樹脂層1aと共に、本発明の高い耐衝撃性を担保している。
【0032】
ポリエステルとしては、具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリエチレンイソフタレート、エチレンテレフタレートを繰り返し単位の主体とした共重合ポリエステル、ブチレンテレフタレートを繰り返し単位の主体とした共重合ポリエステル等が挙げられる。また、エチレンテレフタレートを繰り返し単位の主体とした共重合ポリエステルとしては、具体的には、エチレンテレフタレートを繰り返し単位の主体としてエチレンイソフタレートと重合する共重合体ポリエステル(以下、ポリエチレン(テレフタレート/イソフタレート)にならって略す)、ポリエチレン(テレフタレート/イソフタレート)、ポリエチレン(テレフタレート/アジペート)、ポリエチレン(テレフタレート/ナトリウムスルホイソフタレート)、ポリエチレン(テレフタレート/ナトリウムイソフタレート)、ポリエチレン(テレフタレート/フェニル-ジカルボキシレート)、ポリエチレン(テレフタレート/デカンジカルボキシレート)等が挙げられる。また、ブチレンテレフタレートを繰り返し単位の主体とした共重合ポリエステルとしては、具体的には、ブチレンテレフタレートを繰り返し単位の主体としてブチレンイソフタレートと重合する共重合体ポリエステル(以下、ポリブチレン(テレフタレート/イソフタレート)にならって略す)、ポリブチレン(テレフタレート/アジペート)、ポリブチレン(テレフタレート/セバケート)、ポリブチレン(テレフタレート/デカンジカルボキシレート)、ポリブチレンナフタレート等が挙げられる。これらのポリエステルは、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。ポリエステルは、耐電解液性に優れ、電解液の付着に対して白化等が発生し難いという利点を有している。
【0033】
ポリエステル樹脂層1cは、ポリエステルの中でも、ポリエチレンテレフタレートにより構成されていることが好ましく、延伸ポリエチレンテレフタレートにより構成されていることがより好ましい。
【0034】
ポリエステル樹脂層1cの厚さは6μm以下であればよいが、電池用包装材料の厚さの増大を抑制しつつ、高い耐衝撃性と耐電解液性を付与する観点から、ポリエステル樹脂層1cの厚さとしては、好ましくは1~6μm程度、より好ましくは1~5μm程度が挙げられる。
【0035】
電池用包装材料の厚さの増大を抑制しつつ、高い耐衝撃性と耐電解液性を付与する観点から、ポリアミド樹脂層1aの厚さに対する、ポリエステル樹脂層1cの厚さの比(ポリエステル樹脂層1cの厚さ/ポリアミド樹脂層1aの厚さ)は、上限としては、好ましくは約0.5以下、より好ましくは約0.3以下、さらに好ましくは約0.25以下が挙げられ、下限としては、好ましくは約0.01以上、より好ましくは約0.03以上、さらに好ましくは0.04以上が挙げられる。当該比の範囲としては、好ましくは、0.01~0.5程度、0.01~0.3程度、0.01~0.25程度、0.03~0.5程度、0.03~0.3程度、0.03~0.25程度、0.04~0.5程度、0.04~0.3程度、0.04~0.25程度が挙げられる。
【0036】
接着樹脂層1bは、ポリアミド樹脂層1aとポリエステル樹脂層1cを接着する樹脂により構成された層である。接着剤の接着機構については、特に制限されず、化学反応型、溶剤揮発型、熱溶融型、熱圧型、電子線硬化型や紫外線硬化型等のいずれであってもよい。
【0037】
本発明においては、接着樹脂層1bのナノインデンテーション法により測定される硬さが、50MPa以下であることが好ましい。本発明の電池用包装材料においては、接着樹脂層1bの前記硬さが50MPa以下であり、かつ、基材層1とバリア層3との間に位置している後述の接着剤層2についても、ナノインデンテーション法により測定される硬さが50MPa以下である場合に、優れた成形性を発揮することが可能となる。この機序としては、例えば、次のように考えることができる。すなわち、これらの層の硬さが、通常の接着剤よりも小さいものに設計されているため、基材層1がポリエステル樹脂層1cを有するにも拘わらず(ポリエステル樹脂は、一般に、ナイロンなどのポリアミド樹脂よりも硬く、成形性に劣る)、成形時における基材層1の変形によってバリア層3が急激に変形されることを、接着樹脂層1b及び接着剤層2が好適に抑制し、結果として、バリア層3にクラックやピンホールが発生することが効果的に抑制されていると考えられる。
【0038】
電池用包装材料の成形性をより高める観点から、ポリエステル樹脂層1cの当該硬さとしては、好ましくは10~50MPa程度、より好ましくは15~40MPa程度が挙げられる。
【0039】
本発明において、接着樹脂層1b及び接着剤層2のナノインデンテーション法により測定される硬さは、それぞれ、次のようにして測定された値である。装置として、ナノインデンター((HYSITRON(ハイジトロン)社製の「TriboIndenter TI950」)を用いる。ナノインデンターの圧子としては、Berkovich圧子(三角錐)を用いる。接着剤層2の硬さについては、相対湿度50%、23℃環境において、当該圧子を、電池用包装材料の接着剤層2の表面(接着剤層2が露出している面であり、各層の積層方向とは垂直方向)に当て、10秒間かけて、当該表面から荷重40μNまで圧子を接着剤層に押し込み、その状態で5秒間保持し、次に、10秒間かけて除荷する。最大荷重Pmax(μN)と最大深さ時の接触投影面積A(μm2)を用い、Pmax/Aにより、当該インデンテーション硬さ(MPa)を算出する。また、接着樹脂層1bの硬さについては、荷重を10μNとすること以外は、接着剤層2と同様にして測定できる。
【0040】
接着樹脂層1bの形成に使用する接着剤としては、好ましくは、不飽和カルボン酸または不飽和カルボン酸誘導体成分でグラフト変性された、変性熱可塑性樹脂を含有する樹脂組成物が挙げられる。当該変性熱可塑性樹脂としては、好ましくは、ポリオレフィン系樹脂、スチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマーなどを不飽和カルボン酸誘導体成分で変性した樹脂が挙げられる。当該樹脂は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。また、不飽和カルボン酸誘導体成分としては、不飽和カルボン酸の酸無水物、不飽和カルボン酸のエステルなどが挙げられる。不飽和カルボン酸誘導体成分としては、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0041】
変性熱可塑性樹脂におけるポリオレフィン系樹脂としては、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン;エチレン-αオレフィン共重合体;ホモ、ブロックまたはランダムポリプロピレン;プロピレン-αオレフィン共重合体;前記の材料にアクリル酸、メタクリル酸などの極性分子を共重合した共重合体;架橋ポリオレフィンなどのポリマーなどが挙げられる。ポリオレフィン系樹脂は、1種類単独であってもよいし、2種類以上の組み合わせであってもよい。
【0042】
変性熱可塑性樹脂におけるスチレン系エラストマーとしては、スチレン(ハードセグメント)と、ブタジエンまたはイソプレンまたはこれらの水添物(ソフトセグメント)の共重合体などが挙げられる。ポリオレフィン系樹脂は、1種類単独であってもよいし、2種類以上の組み合わせであってもよい。
【0043】
変性熱可塑性樹脂におけるポリエステル系エラストマーとしては、結晶性ポリエステル(ハードセグメント)と、ポリアルキレンエーテルグリコール(ソフトセグメント)の共重合体などが挙げられる。ポリオレフィン系樹脂は、1種類単独であってもよいし、2種類以上の組み合わせであってもよい。
【0044】
変性熱可塑性樹脂における不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマール酸、イタコン酸、シトラコン酸、テトラヒドロフタル酸、ビシクロ[2,2,1]ヘプト-2-エン-5,6-ジカルボン酸などが挙げられる。また、不飽和カルボン酸の酸無水物としては、例えば、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ビシクロ[2,2,1]ヘプト-2-エン-5,6-ジカルボン酸無水物などが挙げられる。また、不飽和カルボン酸のエステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸モノメチル、フマール酸ジエチル、イタコン酸ジメチル、シトラコン酸ジエチル、テトラヒドロ無水フタル酸ジメチル、ビシクロ[2,2,1]ヘプト-2-エン-5,6-ジカルボン酸ジメチルなどの不飽和カルボン酸のエステルなどが挙げられる。
【0045】
前記変性熱可塑性樹脂としては、ベースとなる熱可塑性樹脂100質量部に対して、前記不飽和カルボン酸誘導体成分0.2~100質量部を、ラジカル開始剤の存在下に加熱して反応させることで得られる。
【0046】
反応温度は、50~250℃が好ましく、60~200℃がより好ましい。反応時間は製造方法にも左右されるが、二軸押出機による溶融グラフト反応の場合、押出機の滞留時間内である2~30分が好ましく、5~10分がより好ましい。また変性反応は、常圧、加圧いずれの条件下においても実施できる。
【0047】
前記変性反応において使用されるラジカル開始剤としては、有機過酸化物が挙げられる。有機過酸化物としては、温度条件と反応時間によって種々の材料を選択することができ、例えば、アルキルパーオキサイド、アリールパーオキサイド、アシルパーオキサイド、ケトンパーオキサイド、パーオキシケタール、パーオキシカーボネート、パーオキシエステル、ハイドロパーオキサイドなどが挙げられる。上述した二軸押出機による溶融グラフト反応の場合は、アルキルパーオキサイド、パーオキシケタール、パーオキシエステルが好ましく、ジ-t-ブチルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ-t-ブチルペルオキシ-ヘキシン-3、ジクミルペルオキシドを用いることがより好ましい。
【0048】
なお、接着樹脂層1bの前記硬さは、接着剤に含まれる樹脂の種類だけでなく、樹脂の分子量や架橋点の数、変性率、延伸率、延伸温度などを調整することにより、上記の値となるように調整することができる。
【0049】
また、電池用包装材料の成形性をより高める観点から、ポリエステル樹脂層1cのナノインデンテーション法により測定される硬さとしては、好ましくは300~400MPa程度、より好ましくは300~350MPa程度が挙げられる。さらに、ポリアミド樹脂層1aのナノインデンテーション法により測定される硬さとしては、好ましくは200~400MPa程度、より好ましくは200~350MPa程度が挙げられる。
【0050】
なお、本発明において、ポリエステル樹脂層1c及びポリアミド樹脂層1aのナノインデンテーション法により測定される硬さは、それぞれ、前述の接着樹脂層1bにおける硬さの測定方法において、硬さの測定対象をポリエステル樹脂層1cまたはポリアミド樹脂層1aとし、押し込み荷重を100μNとすること以外は、接着樹脂層1bと同様にして測定できる。
【0051】
電池用包装材料の厚さの増大を抑制しつつ、高い耐衝撃性を付与する観点から、接着樹脂層1bの厚さとしては、好ましくは0.5~2μm程度、より好ましくは0.8~1.2μm程度が挙げられる。
【0052】
基材層1には、前述のポリアミド樹脂層1a、接着樹脂層1b、及びポリエステル樹脂層1cに加えて、さらに他の層を備えていてもよい。他の層を構成する素材としては、例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ポリウレタン、珪素樹脂、フェノール樹脂、ポリエーテルイミド、ポリイミド、及びこれらの混合物や共重合物等が挙げられる。また、ポリアミド樹脂層1a、接着樹脂層1b、及びポリエステル樹脂層1cは、それぞれ、単層であってもよいし、複層であってもよい。
【0053】
本発明において、電池用包装材料の成形性を高める観点からは、基材層1側の表面には、滑剤が付着していることが好ましい。滑剤としては、特に制限されないが、好ましくはアミド系滑剤が挙げられる。アミド系滑剤の具体例としては、例えば、飽和脂肪酸アミド、不飽和脂肪酸アミド、置換アミド、メチロールアミド、飽和脂肪酸ビスアミド、不飽和脂肪酸ビスアミドなどが挙げられる。飽和脂肪酸アミドの具体例としては、ラウリン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、ベヘン酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アミドなどが挙げられる。不飽和脂肪酸アミドの具体例としては、オレイン酸アミド、エルカ酸アミドなどが挙げられる。置換アミドの具体例としては、N-オレイルパルミチン酸アミド、N-ステアリルステアリン酸アミド、N-ステアリルオレイン酸アミド、N-オレイルステアリン酸アミド、N-ステアリルエルカ酸アミドなどが挙げられる。また、メチロールアミドの具体例としては、メチロールステアリン酸アミドなどが挙げられる。飽和脂肪酸ビスアミドの具体例としては、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、エチレンビスベヘン酸アミド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスベヘン酸アミド、ヘキサメチレンヒドロキシステアリン酸アミド、N,N’-ジステアリルアジピン酸アミド、N,N’-ジステアリルセバシン酸アミドなどが挙げられる。不飽和脂肪酸ビスアミドの具体例としては、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド、N,N’-ジオレイルアジピン酸アミド、N,N’-ジオレイルセバシン酸アミドなどが挙げられる。脂肪酸エステルアミドの具体例としては、ステアロアミドエチルステアレートなどが挙げられる。また、芳香族系ビスアミドの具体例としては、m-キシリレンビスステアリン酸アミド、m-キシリレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、N,N’-ジステアリルイソフタル酸アミドなどが挙げられる。滑剤は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0054】
基材層1側の表面に滑剤が存在する場合、その存在量としては、特に制限されないが、温度24℃、相対湿度60%の環境において、好ましくは約3mg/m2以上、より好ましくは4~15mg/m2程度、さらに好ましくは5~14mg/m2程度が挙げられる。
【0055】
基材層1の厚さとしては、電池用包装材料の厚さの増大を抑制しつつ、高い耐衝撃性と耐電解液性を付与する観点から、好ましくは約15μm以上、より好ましくは15~30μm程度、さらに好ましくは20~30μm程度が挙げられる。
【0056】
[接着剤層2]
本発明の電池用包装材料10において、接着剤層2は、基材層1とバリア層3を強固に接着させるために、必要に応じて、これらの間に設けられる層である。
【0057】
接着剤層2は、基材層1とバリア層3とを接着可能である接着剤によって形成される。接着剤層2の形成に使用される接着剤は、2液硬化型接着剤であってもよく、また1液硬化型接着剤であってもよい。更に、接着剤層2の形成に使用される接着剤の接着機構についても、特に制限されず、化学反応型、溶剤揮発型、熱溶融型、熱圧型等のいずれであってもよい。
【0058】
本発明においては、接着剤層2のナノインデンテーション法により測定される硬さが、50MPa以下であることが好ましい。前述の通り、本発明の電池用包装材料においては、接着樹脂層1b及び接着剤層2のナノインデンテーション法により測定される硬さが、共に50MPa以下である場合、優れた成形性を発揮することが可能となる。接着剤層2の当該硬さの測定方法は、前述の通りである。
【0059】
電池用包装材料の成形性をより高める観点から、接着剤層2の当該硬さとしては、好ましくは10~50MPa程度、より好ましくは20~40MPa程度が挙げられる。
【0060】
なお、接着剤層2の硬さは、接着剤に含まれる樹脂の種類だけでなく、樹脂の分子量や架橋点の数、主剤と硬化剤の割合、主剤と硬化剤の希釈倍率、乾燥温度、エージング温度、エージング時間などを調整することにより、上記の値となるように調整することができる。
【0061】
接着剤層2の形成に使用できる接着成分としては、具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリエチレンイソフタレート、共重合ポリエステル等のポリエステル系樹脂;ポリエーテル系接着剤;ポリウレタン系接着剤;エポキシ系樹脂;フェノール樹脂系樹脂;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12、共重合ポリアミド等のポリアミド系樹脂;ポリオレフィン、カルボン酸変性ポリオレフィン、金属変性ポリオレフィン等のポリオレフィン系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂;セルロース系接着剤;(メタ)アクリル系樹脂;ポリイミド系樹脂;ポリカーボネート;尿素樹脂、メラミン樹脂等のアミノ樹脂;クロロプレンゴム、ニトリルゴム、スチレン-ブタジエンゴム等のゴム;シリコーン系樹脂等が挙げられる。これらの接着成分は1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの接着成分の中でも、好ましくはポリウレタン系接着剤が挙げられる。
【0062】
接着剤層2の厚さについては、接着層としての機能を発揮すれば特に制限されないが、例えば、1~10μm程度、好ましくは2~5μm程度が挙げられる。
【0063】
[バリア層3]
本発明の電池用包装材料において、バリア層3は、電池用包装材料の強度向上の他、電池内部に水蒸気、酸素、光などが侵入することを防止する機能を有する層である。バリア層3は、金属箔、金属蒸着膜、無機酸化物蒸着膜、炭素含有無機酸化物蒸着膜、これらの蒸着層を設けたフィルムなどにより形成することができ、金属箔で形成されている層であることが好ましい。バリア層を構成する金属としては、具体的には、アルミニウム、ステンレス、チタンなどが挙げられ、好ましくはアルミニウムが挙げられる。電池用包装材料の製造時に、バリア層3にしわやピンホールが発生することを防止する観点からは、バリア層は、例えば、焼きなまし処理済みのアルミニウム(JIS H4160:1994 A8021H-O、JIS H4160:1994 A8079H-O、JIS H4000:2014 A8021P-O、JIS H4000:2014 A8079P-O)など軟質アルミニウム箔により形成することがより好ましい。
【0064】
バリア層3の厚さは、水蒸気などのバリア層としての機能を発揮すれば特に制限されないが、例えば、好ましくは約100μm以下、より好ましくは10~100μm程度、さらに好ましくは10~80μm程度が挙げられる。
【0065】
また、バリア層3は、接着の安定化、溶解や腐食の防止などのために、少なくとも一方の面、好ましくは両面が化成処理されていることが好ましい。ここで、化成処理とは、バリア層の表面に耐酸性皮膜を形成する処理をいう。化成処理としては、例えば、硝酸クロム、フッ化クロム、硫酸クロム、酢酸クロム、蓚酸クロム、重リン酸クロム、クロム酸アセチルアセテート、塩化クロム、硫酸カリウムクロムなどのクロム化合物を用いたクロメート処理;リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸アンモニウム、ポリリン酸などのリン酸化合物を用いたリン酸処理;下記一般式(1)~(4)で表される繰り返し単位を有するアミノ化フェノール重合体を用いた化成処理などが挙げられる。なお、当該アミノ化フェノール重合体において、下記一般式(1)~(4)で表される繰り返し単位は、1種類単独で含まれていてもよいし、2種類以上の任意の組み合わせであってもよい。
【0066】
【化1】
【0067】
【化2】
【0068】
【化3】
【0069】
【化4】
【0070】
一般式(1)~(4)中、Xは、水素原子、ヒドロキシ基、アルキル基、ヒドロキシアルキル基、アリル基またはベンジル基を示す。また、R1及びR2は、それぞれ同一または異なって、ヒドロキシ基、アルキル基、またはヒドロキシアルキル基を示す。一般式(1)~(4)において、X、R1及びR2で示されるアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基などの炭素数1以上4以下の直鎖または分枝鎖状アルキル基が挙げられる。また、X、R1及びR2で示されるヒドロキシアルキル基としては、例えば、ヒドロキシメチル基、1-ヒドロキシエチル基、2-ヒドロキシエチル基、1-ヒドロキシプロピル基、2-ヒドロキシプロピル基、3-ヒドロキシプロピル基、1-ヒドロキシブチル基、2-ヒドロキシブチル基、3-ヒドロキシブチル基、4-ヒドロキシブチル基などのヒドロキシ基が1個置換された炭素数1以上4以下の直鎖または分枝鎖状アルキル基が挙げられる。一般式(1)~(4)において、X、R1及びR2で示されるアルキル基及びヒドロキシアルキル基は、それぞれ同一であってもよいし、異なっていてもよい。一般式(1)~(4)において、Xは、水素原子、ヒドロキシ基またはヒドロキシアルキル基であることが好ましい。一般式(1)~(4)で表される繰り返し単位を有するアミノ化フェノール重合体の数平均分子量は、例えば、500~100万程度であることが好ましく、1000~2万程度であることがより好ましい。
【0071】
また、バリア層3に耐食性を付与する化成処理方法として、リン酸中に、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化セリウム、酸化スズなどの金属酸化物や硫酸バリウムの微粒子を分散させたものをコーティングし、150℃以上で焼付け処理を行うことにより、バリア層3の表面に耐酸性皮膜を形成する方法が挙げられる。また、耐酸性皮膜の上には、カチオン性ポリマーを架橋剤で架橋させた樹脂層をさらに形成してもよい。ここで、カチオン性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレンイミン、ポリエチレンイミンとカルボン酸を有するポリマーからなるイオン高分子錯体、アクリル主骨格に1級アミンをグラフト重合させた1級アミングラフトアクリル樹脂、ポリアリルアミン又はその誘導体、アミノフェノールなどが挙げられる。これらのカチオン性ポリマーとしては、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。また、架橋剤としては、例えば、イソシアネート基、グリシジル基、カルボキシル基、及びオキサゾリン基よりなる群から選ばれた少なくとも1種の官能基を有する化合物、シランカップリング剤などが挙げられる。これらの架橋剤としては、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0072】
また、耐酸性皮膜を具体的に設ける方法としては、たとえば、一つの例として、少なくともアルミニウム箔の内層側の面を、まず、アルカリ浸漬法、電解洗浄法、酸洗浄法、電解酸洗浄法、酸活性化法などの周知の処理方法で脱脂処理を行い、その後脱脂処理面にリン酸クロム塩、リン酸チタン塩、リン酸ジルコニウム塩、リン酸亜鉛塩などのリン酸金属塩及びこれらの金属塩の混合体を主成分とする処理液(水溶液)、あるいは、リン酸非金属塩及びこれらの非金属塩の混合体を主成分とする処理液(水溶液)、あるいは、これらとアクリル系樹脂ないしフェノール系樹脂ないしウレタン系樹脂などの水系合成樹脂との混合物からなる処理液(水溶液)をロールコート法、グラビア印刷法、浸漬法などの周知の塗工法で塗工することにより、耐酸性皮膜を形成することができる。たとえば、リン酸クロム塩系処理液で処理した場合は、リン酸クロム、リン酸アルミニウム、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、フッ化アルミニウムなどからなる耐酸性皮膜となり、リン酸亜鉛塩系処理液で処理した場合は、リン酸亜鉛水和物、リン酸アルミニウム、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、フッ化アルミニウムなどからなる耐酸性皮膜となる。
【0073】
また、耐酸性皮膜を設ける具体的方法の他の例としては、たとえば、少なくともアルミニウム箔の内層側の面を、まず、アルカリ浸漬法、電解洗浄法、酸洗浄法、電解酸洗浄法、酸活性化法などの周知の処理方法で脱脂処理を行い、その後脱脂処理面に周知の陽極酸化処理を施すことにより、耐酸性皮膜を形成することができる。
【0074】
また、耐酸性皮膜の他の一例としては、リン酸塩系、クロム酸系の皮膜が挙げられる。リン酸塩系としては、リン酸亜鉛、リン酸鉄、リン酸マンガン、リン酸カルシウム、リン酸クロムなどが挙げられ、クロム酸系としては、クロム酸クロムなどが挙げられる。
【0075】
また、耐酸性皮膜の他の一例としては、リン酸塩、クロム酸塩、フッ化物、トリアジンチオール化合物などの耐酸性皮膜を形成することによって、エンボス成形時のアルミニウムと基材層との間のデラミネーション防止、電解質と水分とによる反応で生成するフッ化水素により、アルミニウム表面の溶解、腐食、特にアルミニウムの表面に存在する酸化アルミニウムが溶解、腐食することを防止し、かつ、アルミニウム表面の接着性(濡れ性)を向上させ、ヒートシール時の基材層とアルミニウムとのデラミネーション防止、エンボスタイプにおいてはプレス成形時の基材層とアルミニウムとのデラミネーション防止の効果を示す。耐酸性皮膜を形成する物質のなかでも、フェノール樹脂、フッ化クロム(III)化合物、リン酸の3成分から構成された水溶液をアルミニウム表面に塗布し、乾燥焼付けの処理が良好である。
【0076】
また、耐酸性皮膜は、酸化セリウムと、リン酸又はリン酸塩と、アニオン性ポリマーと、該アニオン性ポリマーを架橋させる架橋剤とを有する層を含み、前記リン酸又はリン酸塩が、前記酸化セリウム100質量部に対して、1~100質量部程度配合されていてもよい。耐酸性皮膜が、カチオン性ポリマー及び該カチオン性ポリマーを架橋させる架橋剤を有する層をさらに含む多層構造であることが好ましい。
【0077】
さらに、前記アニオン性ポリマーが、ポリ(メタ)アクリル酸又はその塩、あるいは(メタ)アクリル酸又はその塩を主成分とする共重合体であることが好ましい。また、前記架橋剤が、イソシアネート基、グリシジル基、カルボキシル基、オキサゾリン基のいずれかの官能基を有する化合物とシランカップリング剤よりなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0078】
また、前記リン酸又はリン酸塩が、縮合リン酸又は縮合リン酸塩であることが好ましい。
【0079】
化成処理は、1種類の化成処理のみを行ってもよいし、2種類以上の化成処理を組み合わせて行ってもよい。さらに、これらの化成処理は、1種の化合物を単独で使用して行ってもよく、また2種以上の化合物を組み合わせて使用して行ってもよい。化成処理の中でも、クロメート処理や、クロム化合物、リン酸化合物、及びアミノ化フェノール重合体を組み合わせた化成処理などが好ましい。クロム化合物の中でも、クロム酸化合物が好ましい。
【0080】
耐酸性皮膜の具体例としては、リン酸塩、クロム酸塩、フッ化物、及びトリアジンチオールのうち少なくとも1種を含むものが挙げられる。また、セリウム化合物を含む耐酸性皮膜も好ましい。セリウム化合物としては、酸化セリウムが好ましい。
【0081】
また、耐酸性皮膜の具体例としては、リン酸塩系皮膜、クロム酸塩系皮膜、フッ化物系皮膜、トリアジンチオール化合物皮膜なども挙げられる。耐酸性皮膜としては、これらのうち1種類であってもよいし、複数種類の組み合わせであってもよい。さらに、耐酸性皮膜としては、アルミニウム箔の化成処理面を脱脂処理した後に、リン酸金属塩と水系合成樹脂との混合物からなる処理液、又はリン酸非金属塩と水系合成樹脂との混合物からなる処理液で形成されたものであってもよい。
【0082】
なお、耐酸性皮膜の組成の分析は、例えば、飛行時間型2次イオン質量分析法を用いて行うことができる。飛行時間型2次イオン質量分析法を用いた耐酸性皮膜の組成の分析により、例えば、Ce+及びCr+の少なくとも一方に由来するピークが検出される。
【0083】
アルミニウム箔の表面に、リン、クロム及びセリウムからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含む耐酸性皮膜を備えていることが好ましい。なお、電池用包装材料のアルミニウム箔の表面の耐酸性被膜中に、リン、クロム及びセリウムからなる群より選択される少なくとも1種の元素が含まれることは、X線光電子分光を用いて確認することができる。具体的には、まず、電池用包装材料において、アルミニウム箔に積層されている熱融着性樹脂層、接着剤層などを物理的に剥離する。次に、アルミニウム箔を電気炉に入れ、約300℃、約30分間で、アルミニウム箔の表面に存在している有機成分を除去する。その後、アルミニウム箔の表面のX線光電子分光を用いて、これら元素が含まれることを確認する。
【0084】
化成処理においてバリア層3の表面に形成させる耐酸性皮膜の量については、特に制限されないが、例えば、上記のクロメート処理を行う場合であれば、バリア層3の表面1m2当たり、クロム化合物がクロム換算で0.5~50mg程度、好ましくは1.0~40mg程度、リン化合物がリン換算で0.5~50mg程度、好ましくは1.0~40mg程度、及びアミノ化フェノール重合体が1.0~200mg程度、好ましくは5.0~150mg程度の割合で含有されていることが望ましい。
【0085】
耐酸性皮膜の厚さとしては、特に制限されないが、皮膜の凝集力や、アルミニウム箔や熱融着性樹脂層との密着力の観点から、好ましくは1nm~10μm程度、より好ましくは1~100nm程度、さらに好ましくは1~50nm程度が挙げられる。なお、耐酸性皮膜の厚さは、透過電子顕微鏡による観察、又は、透過電子顕微鏡による観察と、エネルギー分散型X線分光法もしくは電子線エネルギー損失分光法との組み合わせによって測定することができる。
【0086】
化成処理は、耐酸性皮膜の形成に使用する化合物を含む溶液を、バーコート法、ロールコート法、グラビアコート法、浸漬法などによって、バリア層の表面に塗布した後に、バリア層の温度が70~200℃程度になるように加熱することにより行われる。また、バリア層に化成処理を施す前に、予めバリア層を、アルカリ浸漬法、電解洗浄法、酸洗浄法、電解酸洗浄法などによる脱脂処理に供してもよい。このように脱脂処理を行うことにより、バリア層の表面の化成処理をより効率的に行うことが可能となる。
【0087】
[熱融着性樹脂層4]
本発明の電池用包装材料において、熱融着性樹脂層4は、最内層に該当し、電池の組み立て時に熱融着性樹脂層同士が熱融着して電池素子を密封する層である。
【0088】
熱融着性樹脂層4に使用される樹脂成分については、熱融着可能であることを限度として特に制限されないが、例えば、ポリオレフィン、環状ポリオレフィン、酸変性ポリオレフィン、酸変性環状ポリオレフィンが挙げられる。すなわち、熱融着性樹脂層4を構成する樹脂は、ポリオレフィン骨格を含んでいても含んでいなくてもよく、ポリオレフィン骨格を含んでいることが好ましい。熱融着性樹脂層4を構成する樹脂がポリオレフィン骨格を含むことは、例えば、赤外分光法、ガスクロマトグラフィー質量分析法などにより分析可能であり、分析方法は特に問わない。例えば、赤外分光法にて無水マレイン酸変性ポリオレフィンを測定すると、波数1760cm-1付近と波数1780cm-1付近に無水マレイン酸由来のピークが検出される。ただし、酸変性度が低いとピークが小さくなり検出されない場合がある。その場合は核磁気共鳴分光法にて分析可能である。
【0089】
前記ポリオレフィンとしては、具体的には、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン等のポリエチレン;ホモポリプロピレン、ポリプロピレンのブロックコポリマー(例えば、プロピレンとエチレンのブロックコポリマー)、ポリプロピレンのランダムコポリマー(例えば、プロピレンとエチレンのランダムコポリマー)等のポリプロピレン;エチレン-ブテン-プロピレンのターポリマー等が挙げられる。これらのポリオレフィンの中でも、好ましくはポリエチレン及びポリプロピレンが挙げられる。
【0090】
前記環状ポリオレフィンは、オレフィンと環状モノマーとの共重合体であり、前記環状ポリオレフィンの構成モノマーであるオレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、4-メチル-1-ペンテン、ブタジエン、イソプレン、等が挙げられる。また、前記環状ポリオレフィンの構成モノマーである環状モノマーとしては、例えば、ノルボルネン等の環状アルケン;具体的には、シクロペンタジエン、ジシクロペンタジエン、シクロヘキサジエン、ノルボルナジエン等の環状ジエン等が挙げられる。これらのポリオレフィンの中でも、好ましくは環状アルケン、更に好ましくはノルボルネンが挙げられる。
【0091】
前記酸変性ポリオレフィンとは、前記ポリオレフィンをカルボン酸等の酸成分でブロック重合又はグラフト重合することにより変性したポリマーである。変性に使用される酸成分としては、例えば、マレイン酸、アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸等のカルボン酸又はその無水物が挙げられる。
【0092】
前記酸変性環状ポリオレフィンとは、環状ポリオレフィンを構成するモノマーの一部を、α,β-不飽和カルボン酸又はその無水物に代えて共重合することにより、或いは環状ポリオレフィンに対してα,β-不飽和カルボン酸又はその無水物をブロック重合又はグラフト重合することにより得られるポリマーである。カルボン酸変性される環状ポリオレフィンについては、前記と同様である。また、変性に使用されるカルボン酸としては、前記カルボン酸変性ポリオレフィンの変性に使用されるものと同様である。
【0093】
これらの樹脂成分の中でも、好ましくはポリプロピレンなどのポリオレフィン、カルボン酸変性ポリオレフィン;更に好ましくはポリプロピレン、酸変性ポリプロピレンが挙げられる。
【0094】
熱融着性樹脂層4は、1種の樹脂成分単独で形成してもよく、また2種以上の樹脂成分を組み合わせたブレンドポリマーにより形成してもよい。更に、熱融着性樹脂層4は、1層のみで成されていてもよいが、同一又は異なる樹脂成分によって2層以上で形成されていてもよい。
【0095】
電池用包装材料の厚さの増大を抑制しつつ、高い耐衝撃性を付与する観点から、熱融着性樹脂層4は、未延伸ポリプロピレンにより構成されていることが好ましい。同様の観点から、特に、後述の接着層5が厚さ1~5μm程度のポリウレタン系接着剤の硬化物により構成されており、かつ、熱融着性樹脂層4が厚さ20~80μm程度の未延伸ポリプロピレンにより構成されていることが好ましい。
【0096】
本発明において、電池用包装材料の成形性を高める観点からは、熱融着性樹脂層4の表面には、滑剤が付着していることが好ましい。滑剤としては、特に制限されないが、好ましくはアミド系滑剤が挙げられる。アミド系滑剤の具体例としては、前述のものが挙げられる。
【0097】
熱融着性樹脂層4の表面に滑剤が存在する場合、その存在量としては、特に制限されないが、温度24℃、相対湿度60%の環境において、好ましくは約3mg/m2以上、より好ましくは4~15mg/m2程度、さらに好ましくは5~14mg/m2程度が挙げられる。
【0098】
また、熱融着性樹脂層4の厚さとしては、熱融着性樹脂層としての機能を発揮すれば特に制限されないが、好ましくは約100μm以下、より好ましくは15~100μm程度、さらに好ましくは15~80μm程度が挙げられる。
【0099】
[接着層5]
本発明の電池用包装材料において、接着層5は、バリア層3と熱融着性樹脂層4を強固に接着させるために、これらの間に必要に応じて設けられる層である。
【0100】
接着層5は、バリア層3と熱融着性樹脂層4とを接着可能である樹脂によって形成される。接着層5の形成に使用される樹脂としては、その接着機構、接着剤成分の種類等は、接着剤層2で例示した接着剤と同様のものが使用できる。また、接着層5の形成に使用される樹脂としては、前述の熱融着性樹脂層4で例示したポリオレフィン、環状ポリオレフィン、カルボン酸変性ポリオレフィン、カルボン酸変性環状ポリオレフィンなどのポリオレフィン系樹脂も使用できる。バリア層3と熱融着性樹脂層4との密着性に優れる観点から、ポリオレフィンとしては、カルボン酸変性ポリオレフィンが好ましく、カルボン酸変性ポリプロピレンが特に好ましい。すなわち、接着層5を構成する樹脂は、ポリオレフィン骨格を含んでいても含んでいなくてもよく、ポリオレフィン骨格を含んでいることが好ましい。接着層5を構成する樹脂がポリオレフィン骨格を含むことは、例えば、赤外分光法、ガスクロマトグラフィー質量分析法などにより分析可能であり、分析方法は特に問わない。例えば、赤外分光法にて無水マレイン酸変性ポリオレフィンを測定すると、波数1760cm-1付近と波数1780cm-1付近に無水マレイン酸由来のピークが検出される。ただし、酸変性度が低いとピークが小さくなり検出されない場合がある。その場合は核磁気共鳴分光法にて分析可能である。
【0101】
さらに、電池用包装材料の厚さを薄くしつつ、成形後の形状安定性に優れた電池用包装材料とする観点からは、接着層5は、酸変性ポリオレフィンと硬化剤を含む樹脂組成物の硬化物であってもよい。酸変性ポリオレフィンとしては、好ましくは、熱融着性樹脂層4で例示したカルボン酸変性ポリオレフィン、カルボン酸変性環状ポリオレフィンと同じものが例示できる。
【0102】
また、硬化剤としては、酸変性ポリオレフィンを硬化させるものであれば、特に限定されない。硬化剤としては、例えば、エポキシ系硬化剤、多官能イソシアネート系硬化剤、カルボジイミド系硬化剤、オキサゾリン系硬化剤などが挙げられる。
【0103】
エポキシ系硬化剤は、少なくとも1つのエポキシ基を有する化合物であれば、特に限定されない。エポキシ系硬化剤としては、例えば、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、変性ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ノボラックグリシジルエーテル、グリセリンポリグリシジルエーテル、ポリグリセリンポリグリシジルエーテルなどのエポキシ樹脂が挙げられる。
【0104】
多官能イソシアネート系硬化剤は、2つ以上のイソシアネート基を有する化合物であれば、特に限定されない。多官能イソシアネート系硬化剤の具体例としては、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、これらをポリマー化やヌレート化したもの、これらの混合物や他ポリマーとの共重合物などが挙げられる。
【0105】
カルボジイミド系硬化剤は、カルボジイミド基(-N=C=N-)を少なくとも1つ有する化合物であれば、特に限定されない。カルボジイミド系硬化剤としては、カルボジイミド基を少なくとも2つ以上有するポリカルボジイミド化合物が好ましい。
【0106】
オキサゾリン系硬化剤は、オキサゾリン骨格を有する化合物であれば、特に限定されない。オキサゾリン系硬化剤としては、具体的には、日本触媒社製のエポクロスシリーズなどが挙げられる。
【0107】
接着層5によるバリア層3と熱融着性樹脂層4との密着性を高めるなどの観点から、硬化剤は、2種類以上の化合物により構成されていてもよい。
【0108】
接着層5を形成する樹脂組成物における硬化剤の含有量は、0.1~50質量%程度の範囲にあることが好ましく、0.1~30質量%程度の範囲にあることがより好ましく、0.1~10質量%程度の範囲にあることがさらに好ましい。
【0109】
接着層5の厚さについては、接着層としての機能を発揮すれば特に制限されないが、接着剤層2で例示した接着剤を用いる場合であれば、好ましくは1~10μm程度、より好ましくは1~5μm程度が挙げられる。また、熱融着性樹脂層4で例示した樹脂を用いる場合であれば、好ましくは2~50μm程度、より好ましくは10~40μm程度が挙げられる。また、酸変性ポリオレフィンと硬化剤との硬化物である場合であれば、好ましくは30μm以下、より好ましくは0.1~20μm程度、さらに好ましくは0.5~5μm程度が挙げられる。なお、接着層5が酸変性ポリオレフィンと硬化剤を含む樹脂組成物の硬化物である場合、当該樹脂組成物を塗布し、加熱等により硬化させることにより、接着層5を形成することができる。
【0110】
3.電池用包装材料の製造方法
本発明の電池用包装材料の製造方法については、所定の組成の各層を積層させた積層体が得られる限り、特に制限されない。すなわち、基材層1として、少なくとも、ポリアミド樹脂層1a、接着樹脂層1b、及びポリエステル樹脂層1cを順に備えているものを準備し、これと、バリア層3と熱融着性樹脂層4とを積層することにより、本発明の電池用包装材料が得られる。
【0111】
本発明の電池用包装材料の製造方法の一例としては、以下の通りである。まず、基材層1、必要に応じて設けられる接着剤層2、バリア層3が順に積層された積層体(以下、「積層体A」と表記することもある)を形成する。積層体Aの形成は、具体的には、基材層1上又は必要に応じて表面が化成処理されたバリア層3に接着剤層2の形成に使用される接着剤を、グラビアコート法、ロールコート法などの塗布方法で塗布・乾燥した後に、当該バリア層3又は基材層1を積層させて接着剤層2を硬化させるドライラミネート法によって行うことができる。
【0112】
次いで、積層体Aのバリア層3上に、熱融着性樹脂層4を積層させる。バリア層3上に熱融着性樹脂層4を直接積層させる場合には、積層体Aのバリア層3上に、熱融着性樹脂層4を構成する樹脂成分をグラビアコート法、ロールコート法等の方法により塗布すればよい。また、バリア層3と熱融着性樹脂層4の間に接着層5を設ける場合には、例えば、(1)積層体Aのバリア層3上に、接着層5及び熱融着性樹脂層4を共押出しすることにより積層する方法(共押出しラミネート法)、(2)別途、接着層5と熱融着性樹脂層4が積層した積層体を形成し、これを積層体Aのバリア層3上にサーマルラミネート法により積層する方法、(3)積層体Aのバリア層3上に、接着層5を形成させるための接着剤を押出し法や溶液コーティングし、高温で乾燥さらには焼き付ける方法等により積層させ、この接着層5上に予めシート状に製膜した熱融着性樹脂層4をサーマルラミネート法により積層する方法、(4)積層体Aのバリア層3と、予めシート状に製膜した熱融着性樹脂層4との間に、溶融させた接着層5を流し込みながら、接着層5を介して積層体Aと熱融着性樹脂層4を貼り合せる方法(サンドイッチラミネート法)等が挙げられる。
【0113】
上記のようにして、基材層1/必要に応じて設けられる接着剤層2/必要に応じて表面が化成処理されたバリア層3/必要に応じて設けられる接着層5/熱融着性樹脂層4からなる積層体が形成されるが、必要に応じて設けられる接着剤層2及び接着層5の接着性を強固にするために、更に、熱ロール接触式、熱風式、近赤外線式又は遠赤外線式などの加熱処理に供してもよい。このような加熱処理の条件としては、例えば150℃~250℃で1分間~5分間が挙げられる。
【0114】
本発明の電池用包装材料において、積層体を構成する各層は、必要に応じて、製膜性、積層化加工、最終製品2次加工(パウチ化、エンボス成形)適性などを向上又は安定化するために、コロナ処理、ブラスト処理、酸化処理、オゾン処理などの表面活性化処理を施していてもよい。
【0115】
4.電池用包装材料の用途
本発明の電池用包装材料は、正極、負極、電解質などの電池素子を密封して収容するための包装体に使用される。すなわち、本発明の電池用包装材料によって形成された包装体中に、少なくとも正極、負極、及び電解質を備えた電池素子を収容して、電池とすることができる。
【0116】
具体的には、少なくとも正極、負極、及び電解質を備えた電池素子を、本発明の電池用包装材料で、前記正極及び負極の各々に接続された金属端子が外側に突出させた状態で、電池素子の周縁にフランジ部(熱融着性樹脂層同士が接触する領域)が形成できるようにして被覆し、前記フランジ部の熱融着性樹脂層同士をヒートシールして密封させることによって、電池用包装材料を使用した電池が提供される。なお、本発明の電池用包装材料により形成された包装体中に電池素子を収容する場合、本発明の電池用包装材料の熱融着性樹脂部分が内側(電池素子と接する面)になるようにして、包装体を形成する。
【0117】
本発明の電池用包装材料は、一次電池、二次電池のいずれに使用してもよいが、好ましくは二次電池である。本発明の電池用包装材料が適用される二次電池の種類については、特に制限されず、例えば、リチウムイオン電池、リチウムイオンポリマー電池、鉛蓄電池、ニッケル・水素蓄電池、ニッケル・カドミウム蓄電池、ニッケル・鉄蓄電池、ニッケル・亜鉛蓄電池、酸化銀・亜鉛蓄電池、金属空気電池、多価カチオン電池、コンデンサー、キャパシターなどが挙げられる。これらの二次電池の中でも、本発明の電池用包装材料の好適な適用対象として、リチウムイオン電池及びリチウムイオンポリマー電池が挙げられる。
【実施例
【0118】
以下に実施例及び比較例を示して本発明を詳細に説明する。但し本発明は実施例に限定されるものではない。
【0119】
(実施例1-8及び比較例1-10)
<電池用包装材料の製造>
表1に記載の積層構成となるようにして、基材層とバリア層と接着層と熱融着性樹脂層とを積層して、電池用包装材料を製造した。なお、表1に示した積層構成において、数値は各層の厚さ(μm)を意味しており、例えば「PET5」は、厚さ5μmのポリエチレンテレフタレートを意味する。表1において、PETはポリエチレンテレフタレート、ADは接着樹脂層、ONYは延伸ナイロン、積層工程において、DLはドライラミネート法で形成された接着剤層または接着層、ALMはアルミニウム箔、PPはポリプロピレン、CPPは未延伸ポリプロピレン、PPaは無水マレイン酸変性ポリプロピレン、PENはポリエチレンナフタレートを意味する。
【0120】
まず、基材層の上に、バリア層としてのアルミニウム箔(厚さ40μm)をドライラミネート法により積層させた。具体的には、耐酸性皮膜が表面に形成されたバリア層の一方面に、2液型ウレタン接着剤(ポリオール化合物と芳香族イソシアネート系化合物)を塗布し、アルミニウム箔上に接着剤層(厚さ3μm)を形成した。次いで、バリア層上の接着剤層と、基材層のポリアミド樹脂層側とをドライラミネート法で積層した後、エージング処理を実施することにより、基材層/接着剤層/バリア層の積層体を作製した。
【0121】
次に、実施例1,3,5,7及び比較例1,3,5,7,9においては、得られた各積層体のバリア層(耐酸性皮膜)の上に、接着層としての無水マレイン酸変性ポリプロピレン及び熱融着性樹脂層としてのポリプロピレンを溶融共押し出しすることにより、バリア層の表面に接着層と熱融着性樹脂層を積層させ、基材層/接着剤層/バリア層/接着層/熱融着性樹脂層が順に積層された電池用包装材料を得た。
【0122】
一方、実施例2,4,6,8及び比較例2,4,6,8,10においては、上記で得られた基材層/接着剤層/バリア層の各積層体のバリア層(耐酸性皮膜)の上に、2液型ウレタン接着剤(ポリオール化合物と芳香族イソシアネート系化合物)を塗布し、アルミニウム箔上に接着剤層(厚さ3μm)を形成した。次いで、バリア層上の接着剤層と未延伸ポリプロピレンをドライラミネート法で積層した後、エージング処理を実施することにより、基材層/接着剤層/バリア層/接着層/熱融着性樹脂層が順に積層された電池用包装材料を得た。
【0123】
<耐電解液性の評価>
上記で得られた各電池用包装材料を裁断して100mm×100mmの試験片を作製し、これを試験サンプルとした。試験サンプルの基材層側の表面に、室温(25℃)の環境で、電解液(エチレンカーボネート:ジエチルカーボネート:ジメチルカーボネート=1:1:1(体積比)に1molの6フッ化リン酸リチウムを添加したもの)を0.1g滴下し、そのまま1時間放置した。その後、電解液をウェスで拭き取り、基材層の表面が白化しているか否かを目視により観察した。白化が生じていなかった場合をA、白化が生じていた場合をCとして判定した。結果を表1に示す。
【0124】
<積層回数>
上記の電池用包装材料の製造において、各層を積層した回数を表1に示す。実施例1,3,5,7及び比較例1,3,5,7,9においては、基材層とバリア層との間のドライラミネート法による積層工程とバリア層への接着層及び熱融着性樹脂層の溶融共押し出し法による積層工程の2回の積層工程を行っている。また、実施例2,4,6,8及び比較例2,4,6,8においては、基材層とバリア層との間のドライラミネート法による積層工程とバリア層と未延伸ポリプロピレンフィルムと間のドライラミネート法による積層工程の2回の積層工程を行っている。
【0125】
<インパクト強度(J)の測定>
ASTM D3420の規定に準拠して、上記で得られた各電池用包装材料のインパクト強度(J)を基材層側から測定した。なお、測定機器としては、東洋精機製のフィルムインパクトテスタを用い、半径12.7mmの滑らかな表面を有する先端半球状のインパクトヘッドを使用した。なお、インパクト強度の測定には、直径100mmにカットした試料として使用した。試料は、中央に直径89±0.5mmの円形開口部を有する2枚のプレートの間に固定した。各試料について3回測定し、その平均値を各試料のインパクト強度とした。測定は、温度23±2℃、相対湿度50±5%の環境下で行った。その結果を表1に示す。
【0126】
<積層体の層厚の測定>
上記で得られた各電池用包装材料を構成している積層体の総厚を、ミツトヨ製のマイクロゲージを用いて測定した。結果を表1に示す。なお、実施例、比較例の各積層体の厚さが異なるために、上記の方法で測定したインパクト強度を各積層体の厚さ(μm)で除した値(J/μm)を表1に示した。
【0127】
【表1】
【0128】
表1に示される結果から明らかな通り、基材層が、バリア層側から順に、ポリアミド樹脂層、接着樹脂層、及びポリエステル樹脂層を備えており、ポリエステル樹脂層の厚さが6μm以下であり、さらに、ASTM D3420の規定に準拠して、積層体の基材層側から測定されるインパクト強度(J)を、積層体の厚さ(μm)で除して得られる値が、0.015J/μm以上である、実施例1~8の電池用包装材料は、高い耐衝撃性及び耐電解液性を備えていることが分かる。
【0129】
また、厚みが比較的大きい比較例6,8では、インパクト強度も大きな値となっているが、同程度の厚みを有する実施例3,4,7,8では、比較例6,8よりもさらに大きなインパクト強度を備えていた。
【0130】
<実施例4の各層の硬さの測定>
装置として、ナノインデンター((HYSITRON(ハイジトロン)社製の「TriboIndenter TI950」)を用いる。ナノインデンターの圧子としては、Berkovich圧子(三角錐)を用いた。まず、相対湿度50%、23℃環境において、当該圧子を、電池用包装材料の接着剤層の表面(接着剤層が露出している面であり、各層の積層方向とは垂直方向)に当て、10秒間かけて、当該表面から荷重40μNまで圧子を接着剤層に押し込み、その状態で5秒間保持し、次に、10秒間かけて除荷した。最大荷重Pmax(μN)と最大深さ時の接触投影面積A(μm2)を用い、Pmax/Aにより、当該インデンテーション硬さ(MPa)を算出した。測定箇所を変え5か所を測定し平均値を用いた。接着樹脂層の硬さは、荷重を10μNとすること以外は接着剤層と同様にして測定した。また、基材層としてのポリエチレンテレフタレートフィルム及び延伸ナイロンフィルムについても、それぞれ、上記測定条件において、荷重を100μNとしたこと以外は、同様にして、これらの硬さを測定した。それぞれの硬さを表2に示す。なお、圧子を押し込む表面は、電池用包装材料の中心部を通るように厚み方向に切断して得られた、測定対象(接着剤層など)の断面が露出した部分である。切断は、市販品の回転式ミクロトームなどを用いて行った。
【0131】
<成形性の評価>
上記実施例4の電池用包装材料を長さ(x方向)90mm×幅(y方向)150mmの長方形に裁断して試験サンプルとした。このサンプルを31.6mm(x方向)×54.5mm(y方向)の口径を有する矩形状の成形金型(雌型、表面は、JIS B 0659-1:2002附属書1(参考) 比較用表面粗さ標準片の表2に規定される、最大高さ粗さ(Rzの呼び値)が3.2μmである。コーナーR2.0mm、稜線R1.0mm)と、これに対応した成形金型(雄型、表面は、JIS B 0659-1:2002附属書1(参考) 比較用表面粗さ標準片の表2に規定される、最大高さ粗さ(Rzの呼び値)が1.6μmである。コーナーR2.0mm、稜線R1.0mm)を用いて、押さえ圧(面圧)0.25MPaで0.5mmの成形深さから0.5mm単位で成形深さを変えて、それぞれ10個のサンプルについて冷間成形(引き込み1段成形)を行った。このとき、雄型側に熱融着性樹脂層側が位置するよう、雌型上に上記試験サンプルを載置して成形を行った。また、雄型及び雌型のクリアランスは、0.3mmとした。冷間成形後のサンプルについて、暗室の中にてペンライトで光を当てて、光の透過によって、アルミニウム箔にピンホールやクラックが生じているか否かを確認した。アルミニウム箔にピンホール、クラックが10個のサンプル全てにおいて発生しない最も深い成形深さをAmm、アルミニウム箔にピンホール等が発生した最も浅い成形深さにおいてピンホール等が発生したサンプルの数をB個とし、以下の式により算出される値を電池用包装材料の限界成形深さとした。結果を表2に示す。
限界成形深さ=Amm+(0.5mm/10個)×(10個-B個)
【0132】
【表2】
【符号の説明】
【0133】
1 基材層
1a ポリアミド樹脂層
1b 接着樹脂層
1c ポリエステル樹脂層
2 接着剤層
3 バリア層
4 熱融着性樹脂層
5 接着層
10 電池用包装材料
図1
図2
図3