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特許7167936蒸着マスクを製造するための金属板及び金属板の製造方法並びに蒸着マスク、蒸着マスクの製造方法及び蒸着マスクを備える蒸着マスク装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】蒸着マスクを製造するための金属板及び金属板の製造方法並びに蒸着マスク、蒸着マスクの製造方法及び蒸着マスクを備える蒸着マスク装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/04 20060101AFI20221101BHJP
   C23C 14/24 20060101ALI20221101BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20221101BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20221101BHJP
【FI】
C23C14/04 A
C23C14/24 G
H05B33/14 A
H05B33/10
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019554213
(86)(22)【出願日】2018-11-13
(86)【国際出願番号】 JP2018041918
(87)【国際公開番号】W WO2019098167
(87)【国際公開日】2019-05-23
【審査請求日】2021-11-09
(31)【優先権主張番号】P 2017219369
(32)【優先日】2017-11-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017249744
(32)【優先日】2017-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018002932
(32)【優先日】2018-01-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(74)【代理人】
【識別番号】100158964
【弁理士】
【氏名又は名称】岡村 和郎
(72)【発明者】
【氏名】池永 知加雄
(72)【発明者】
【氏名】初田 千秋
(72)【発明者】
【氏名】岡 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】松浦 幸代
(72)【発明者】
【氏名】岡本 英介
(72)【発明者】
【氏名】牛草 昌人
【審査官】有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-088914(JP,A)
【文献】特開2015-098650(JP,A)
【文献】国際公開第2015/174269(WO,A1)
【文献】特開2014-148743(JP,A)
【文献】特開2017-066530(JP,A)
【文献】特開2017-141500(JP,A)
【文献】特開2017-101302(JP,A)
【文献】特開昭63-016525(JP,A)
【文献】特開2018-040055(JP,A)
【文献】特開2017-125253(JP,A)
【文献】特開2004-185890(JP,A)
【文献】特開2004-183023(JP,A)
【文献】特開平05-144384(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00-14/58
H01L 51/50
H05B 33/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
着マスクと、
前記蒸着マスクが溶接されたフレームと、を備え
前記蒸着マスクは、
金属板と、
金属板に形成された貫通孔と、を備え、
前記金属板は、少なくともニッケルを含む鉄合金の圧延材からなり、且つ30μm以下の厚みを有し、
前記金属板の断面のうち前記金属板の圧延方向に直交する平面に対して-10°以上+10°以下の角度を成す断面に現れる結晶粒をEBSD法で測定し、測定結果を解析することにより算出される、前記結晶粒の平均断面積が、0.5μm 以上且つ50μm 以下であり、
前記平均断面積は、EBSD法によって得られた測定結果を、結晶方位の差が5度以上の部分を結晶粒界と認定する条件下でエリア法により解析することによって算出され、
前記蒸着マスクと前記フレームとの間の溶接強度が、200mN以上である、蒸着マスク装置。
【請求項2】
前記圧延材におけるニッケル及びコバルトの含有量が合計で30質量%以上且つ38質量%以下である、請求項1に記載の蒸着マスク装置。
【請求項3】
前記結晶粒の平均断面積が、2.0μm 以上である、請求項1又は2に記載の蒸着マスク装置。
【請求項4】
前記金属板は、13μm以上の厚みを有する、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の蒸着マスク装置。
【請求項5】
蒸着マスク装置の製造方法であって、
蒸着マスクをフレームに固定する工程を備え、
前記蒸着マスクは、
金属板と、
金属板に形成された貫通孔と、を備え、
前記金属板は、少なくともニッケルを含む鉄合金の圧延材からなり、且つ30μm以下の厚みを有し、
前記金属板の断面のうち前記金属板の圧延方向に直交する平面に対して-10°以上+10°以下の角度を成す断面に現れる結晶粒をEBSD法で測定し、測定結果を解析することにより算出される、前記結晶粒の平均断面積が、0.5μm 以上且つ50μm 以下であり、
前記平均断面積は、EBSD法によって得られた測定結果を、結晶方位の差が5度以上の部分を結晶粒界と認定する条件下でエリア法により解析することによって算出され、
前記蒸着マスクは、前記フレームに対する前記蒸着マスクの溶接強度が200mN以上になるように前記フレームに溶接される、蒸着マスク装置の製造方法。
【請求項6】
前記蒸着マスクは、前記蒸着マスクにレーザー光を照射することによって前記フレームに溶接される、請求項5に記載の蒸着マスク装置の製造方法。
【請求項7】
前記圧延材におけるニッケル及びコバルトの含有量が合計で30質量%以上且つ38質量%以下である、請求項5又は6に記載の蒸着マスク装置の製造方法。
【請求項8】
前記結晶粒の平均断面積が、2.0μm 以上である、請求項5乃至7のいずれか一項に記載の蒸着マスク装置の製造方法。
【請求項9】
前記金属板は、13μm以上の厚みを有する、請求項5乃至8のいずれか一項に記載の蒸着マスク装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の実施形態は、蒸着マスクを製造するための金属板及び金属板の製造方法に関する。また、本開示の実施形態は、蒸着マスク、蒸着マスクの製造方法及び蒸着マスクを備える蒸着マスク装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォンやタブレットPC等の持ち運び可能なデバイスで用いられる表示装置に対して、高精細であること、例えば画素密度が500ppi以上であることが求められている。また、持ち運び可能なデバイスにおいても、ウルトラハイディフィニション(UHD)に対応することへの需要が高まっており、この場合、表示装置の画素密度が例えば800ppi以上であることが好ましい。
【0003】
表示装置の中でも、応答性の良さ、消費電力の低さやコントラストの高さのため、有機EL表示装置が注目されている。有機EL表示装置の画素を形成する方法として、所望のパターンで配列された貫通孔が形成された蒸着マスクを用い、所望のパターンで画素を形成する方法が知られている。具体的には、はじめに、有機EL表示装置用の基板に対して蒸着マスクを密着させ、次に、密着させた蒸着マスクおよび基板を共に蒸着装置に投入し、有機材料を基板に蒸着させる蒸着工程を行う。これによって、蒸着マスクの貫通孔のパターンに対応したパターンで、基板上に、有機材料を含む画素を形成することができる。
【0004】
蒸着マスクの製造方法としては、フォトリソグラフィー技術を用いたエッチングによって金属板に貫通孔を形成する方法が知られている。例えば、はじめに、金属板の第1面上に露光・現像処理によって第1レジストパターンを形成し、また金属板の第2面上に露光・現像処理によって第2レジストパターンを形成する。次に、金属板の第1面のうち第1レジストパターンによって覆われていない領域をエッチングして、金属板の第1面に第1凹部を形成する。その後、金属板の第2面のうち第2レジストパターンによって覆われていない領域をエッチングして、金属板の第2面に第2凹部を形成する。この際、第1凹部と第2凹部とが通じ合うようにエッチングを行うことにより、金属板を貫通する貫通孔を形成することができる。蒸着マスクを作製するための金属板は、例えば、ニッケルを含む鉄合金などの金属からなる母材を圧延することによって作製される。
【0005】
その他にも、蒸着マスクの製造方法として、めっき処理を利用して蒸着マスクを製造する方法が知られている。例えばはじめに、導電性を有する基材を準備する。次に、基材の上に、所定の隙間を空けてレジストパターンを形成する。このレジストパターンは、蒸着マスクの貫通孔が形成されるべき位置に設けられている。その後、レジストパターンの隙間にめっき液を供給して、電解めっき処理によって基材の上に金属層を析出させる。その後、金属層を基材から分離させることにより、複数の貫通孔が形成された蒸着マスクを得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5382259号公報
【文献】特開2001-234385号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
蒸着材料を所望のパターンで精度良く基板に蒸着させるためには、蒸着マスクの厚みが小さいことが好ましい。一方、蒸着マスクの厚みが小さいと、蒸着マスクを構成する金属板の強度が低下し、蒸着マスクの製造工程や蒸着マスクの使用の際に金属板に塑性変形が生じやすくなってしまう。
【0008】
本開示の実施形態は、このような課題を効果的に解決し得る金属板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一実施形態は、蒸着マスクを製造するために用いられる金属板であって、前記金属板は、少なくともニッケルを含む鉄合金の圧延材からなり、且つ30μm以下の厚みを有し、前記金属板の断面のうち前記金属板の圧延方向に直交する平面に対して-10°以上+10°以下の角度を成す断面に現れる結晶粒をEBSD法で測定し、測定結果を解析することにより算出される、前記結晶粒の平均断面積が、0.5μm以上且つ50μm以下であり、前記平均断面積は、EBSD法によって得られた測定結果を、結晶方位の差が5度以上の部分を結晶粒界と認定する条件下でエリア法により解析することによって算出される、金属板である。前記圧延材におけるニッケル及びコバルトの含有量が合計で30質量%以上且つ38質量%以下であってもよい。
【0010】
本開示の一実施形態は、蒸着マスクを製造するために用いられる金属板であって、前記金属板は、少なくともニッケルを含む鉄合金のめっき膜からなり、且つ30μm以下の厚みを有し、前記金属板の断面のうち前記めっき膜の長手方向に直交する平面に対して-10°以上+10°以下の角度を成す断面に現れる結晶粒をEBSD法で測定し、測定結果を解析することにより算出される、前記結晶粒の平均断面積が、0.5μm以上且つ50μm以下であり、前記平均断面積は、EBSD法によって得られた測定結果を、結晶方位の差が5度以上の部分を結晶粒界と認定する条件下でエリア法により解析することによって算出される、金属板である。前記めっき膜におけるニッケル及びコバルトの含有量が合計で38質量%以上且つ54質量%以下であってもよい。
【0011】
本開示の一実施形態による金属板において、前記結晶粒の平均断面積が、2.0μm以上であってもよい。
【0012】
本開示の一実施形態による金属板は、13μm以上の厚みを有していてもよい。
【0013】
本開示の一実施形態は、蒸着マスクであって、金属板と、金属板に形成された貫通孔と、を備え、前記金属板は、少なくともニッケルを含む鉄合金の圧延材からなり、且つ30μm以下の厚みを有し、前記金属板の断面のうち前記金属板の圧延方向に直交する平面に対して-10°以上+10°以下の角度を成す断面に現れる結晶粒をEBSD法で測定し、測定結果を解析することにより算出される、前記結晶粒の平均断面積が、0.5μm以上且つ50μm以下であり、前記平均断面積は、EBSD法によって得られた測定結果を、結晶方位の差が5度以上の部分を結晶粒界と認定する条件下でエリア法により解析することによって算出される、蒸着マスクである。前記圧延材におけるニッケル及びコバルトの含有量が合計で30質量%以上且つ38質量%以下であってもよい。
【0014】
本開示の一実施形態は、蒸着マスクであって、金属板と、金属板に形成された貫通孔と、を備え、前記金属板は、少なくともニッケルを含む鉄合金のめっき膜からなり、且つ30μm以下の厚みを有し、前記金属板の断面のうち前記めっき膜の長手方向に直交する平面に対して-10°以上+10°以下の角度を成す断面に現れる結晶粒をEBSD法で測定し、測定結果を解析することにより算出される、前記結晶粒の平均断面積が、0.5μm以上且つ50μm以下であり、前記平均断面積は、EBSD法によって得られた測定結果を、結晶方位の差が5度以上の部分を結晶粒界と認定する条件下でエリア法により解析することによって算出される、蒸着マスクである。前記めっき膜におけるニッケル及びコバルトの含有量が合計で38質量%以上且つ54質量%以下であってもよい。
【0015】
本開示の一実施形態による蒸着マスクにおいて、前記結晶粒の平均断面積が、2.0μm以上であってもよい。
【0016】
本開示の一実施形態による蒸着マスクにおいて、前記金属板は、10μm以上の厚みを有していてもよい。
【0017】
本開示の一実施形態は、上記記載の蒸着マスクと、前記蒸着マスクが溶接されたフレームと、を備える、蒸着マスク装置である。
【0018】
本開示の一実施形態は、上記記載の金属板を準備する工程と、前記金属板を長手方向に沿って搬送する工程と、前記金属板に貫通孔を形成する加工工程と、を備える、蒸着マスクの製造方法である。
【0019】
本開示の一実施形態は、蒸着マスクを製造するために用いられる金属板の製造方法であって、ニッケルを含む鉄合金からなり、且つ30μm以下の厚みを有する前記金属板を、圧延法によって圧延材として得る作製工程を備え、前記金属板の断面のうち圧延材の圧延方向に直交する平面に対して-10°以上+10°以下の角度を成す断面に現れる結晶粒をEBSD法で測定し、測定結果を解析することにより算出される、前記結晶粒の平均断面積が、0.5μm以上且つ50μm以下であり、前記平均断面積は、EBSD法によって得られた測定結果を、結晶方位の差が5度以上の部分を結晶粒界と認定する条件下でエリア法により解析することによって算出される、金属板の製造方法である。前記作製工程は、母材を圧延する圧延工程と、圧延された前記母材を搬送しながら500℃~600℃の範囲内で30秒~90秒にわたってアニールするアニール工程と、を有していてもよい。
【0020】
本開示の一実施形態は、蒸着マスクを製造するために用いられる金属板の製造方法であって、少なくともニッケルを含む鉄合金からなり、且つ30μm以下の厚みを有する前記金属板を、めっき法によってめっき膜として得る作製工程を備え、前記金属板の断面のうちめっき膜の長手方向に直交する平面に対して-10°以上+10°以下の角度を成す断面に現れる結晶粒をEBSD法で測定し、測定結果を解析することにより算出される、前記結晶粒の平均断面積が、0.5μm以上且つ50μm以下であり、
前記平均断面積は、EBSD法によって得られた測定結果を、結晶方位の差が5度以上の部分を結晶粒界と認定する条件下でエリア法により解析することによって算出される、金属板の製造方法である。前記作製工程は、めっき液の中に部分的に浸漬されたドラムを回転させながら、ドラムの表面にめっき膜を形成する工程と、前記めっき膜を前記ドラムから剥がすことによって長尺状の前記めっき膜からなる前記金属板を得る工程と、を有していてもよい。
【発明の効果】
【0021】
本開示の実施形態によれば、30μm以下の厚みを有する金属板の強度及び溶接性が良好になる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本開示の一実施形態による蒸着マスク装置を備えた蒸着装置を示す図である。
図2図1に示す蒸着マスク装置を用いて製造した有機EL表示装置を示す断面図である。
図3】本開示の一実施形態による蒸着マスク装置を示す平面図である。
図4図3に示された蒸着マスクの有効領域を示す部分平面図である。
図5図4のV-V線に沿った断面図である。
図6】母材を圧延して所望の厚みを有する金属板を得る工程を示す図である。
図7】圧延によって得られた金属板をアニールする工程を示す図である。
図8】金属板から抽出した試験片を含む試料を示す図である。
図9】試験片を含む試料の傾斜角度を調整する工程の一例を示す図である。
図10】EBSD法の測定結果に基づいて解析された、試験片の断面に現れる結晶粒の一例を示す図である。
図11】蒸着マスクの製造方法の一例を全体的に説明するための模式図である。
図12】金属板上にレジストパターンを形成する工程を示す図である。
図13】第1面エッチング工程を示す図である。
図14】第2面エッチング工程を示す図である。
図15】金属板から樹脂及びレジストパターンを除去する工程を示す図である。
図16】金属板に局所的に生じる変形部の一例を示す図である。
図17図16の金属板の変形部の断面形状の一例を示す図である。
図18】蒸着マスクに張力を加えた状態でフレームに対する蒸着マスクの位置を調整する架張工程の一例を示す図である。
図19A】蒸着マスクをフレームに溶接する溶接工程を示す図である。
図19B】溶接工程によって形成された溶接部を示す図である。
図20】好ましくない溶接部の一例を示す図である。
図21図20の溶接部を拡大して示す図である。
図22】好ましい溶接部の一例を示す図である。
図23図22の溶接部を拡大して示す図である。
図24】溶接部の溶接強度を測定する方法の一例を示す図である。
図25】例1~例16に係る金属板の評価結果を示す図である。
図26】例1~例16に係る金属板の厚み及び結晶粒の平均断面積を示す散布図である。
図27】選別された複数の金属板が有する結晶粒の平均断面積の分布の一例を示す図である。
図28】選別された複数の金属板が有する結晶粒の平均断面積の分布の一例を示す図である。
図29】選別された複数の金属板が有する結晶粒の平均断面積の分布の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して本開示の一実施の形態について説明する。なお、本件明細書に添付する図面においては、図示と理解のしやすさの便宜上、適宜縮尺および縦横の寸法比等を、実物のそれらから変更し誇張してある。
【0024】
なお、本開示の実施形態は、矛盾の生じない範囲で、その他の実施形態や変形例と組み合わせられ得る。また、その他の実施形態同士や、その他の実施形態と変形例も、矛盾の生じない範囲で組み合わせられ得る。また、変形例同士も、矛盾の生じない範囲で組み合わせられ得る。
【0025】
また、本開示の実施形態において、製造方法などの方法に関して複数の工程を開示する場合に、開示されている工程の間に、開示されていないその他の工程が実施されてもよい。また、開示されている工程の順序は、矛盾の生じない範囲で任意である。
【0026】
図1図22は、本開示の一実施の形態を説明するための図である。以下の実施の形態およびその変形例では、有機EL表示装置を製造する際に有機材料を所望のパターンで基板上にパターニングするために用いられる蒸着マスクの製造方法を例にあげて説明する。ただし、このような適用に限定されることなく、種々の用途に用いられる蒸着マスクに対し、本開示の実施の形態を適用することができる。
【0027】
なお、本明細書において、「板」、「シート」、「フィルム」の用語は、呼称の違いのみに基づいて、互いから区別されるものではない。例えば、「板」はシートやフィルムと呼ばれ得るような部材も含む概念である。
【0028】
また、「板面(シート面、フィルム面)」とは、対象となる板状(シート状、フィルム状)の部材を全体的かつ大局的に見た場合において対象となる板状部材(シート状部材、フィルム状部材)の平面方向と一致する面のことを指す。また、板状(シート状、フィルム状)の部材に対して用いる法線方向とは、当該部材の板面(シート面、フィルム面)に対する法線方向のことを指す。
【0029】
さらに、本明細書において用いる、形状や幾何学的条件および物理的特性並びにそれらの程度を特定する、例えば、「平行」、「直交」、「同一」、「同等」等の用語や長さや角度並びに物理的特性の値等については、厳密な意味に縛られることなく、同様の機能を期待し得る程度の範囲を含めて解釈することとする。
【0030】
まず、対象物に蒸着材料を蒸着させる蒸着処理を実施する蒸着装置90について、図1を参照して説明する。図1に示すように、蒸着装置90は、その内部に、蒸着源(例えばるつぼ94)、ヒータ96、及び蒸着マスク装置10を備えていてもよい。また、蒸着装置90は、蒸着装置90の内部を真空雰囲気にするための排気手段を更に備えていてもよい。るつぼ94は、有機発光材料などの蒸着材料98を収容する。ヒータ96は、るつぼ94を加熱して、真空雰囲気の下で蒸着材料98を蒸発させる。蒸着マスク装置10は、るつぼ94と対向するよう配置されている。
【0031】
以下、蒸着マスク装置10について説明する。図1に示すように、蒸着マスク装置10は、蒸着マスク20と、蒸着マスク20を支持するフレーム15と、を備えていてもよい。フレーム15は、蒸着マスク20が撓んでしまうことがないように、蒸着マスク20をその面方向に引っ張った状態で支持する。蒸着マスク装置10は、図1に示すように、蒸着マスク20が、蒸着材料98を付着させる対象物である基板、例えば有機EL基板92に対面するよう、蒸着装置90内に配置される。以下の説明において、蒸着マスク20の面のうち、有機EL基板92側の面を第1面20aと称し、第1面20aの反対側に位置する面を第2面20bと称する。
【0032】
蒸着装置90は、図1に示すように、有機EL基板92の、蒸着マスク20と反対の側の面に配置された磁石93を備えていてもよい。磁石93を設けることにより、磁力によって蒸着マスク20を磁石93側に引き寄せて、蒸着マスク20を有機EL基板92に密着させることができる。
【0033】
図3は、蒸着マスク装置10を蒸着マスク20の第1面20a側から見た場合を示す平面図である。図3に示すように、蒸着マスク装置10は、複数の蒸着マスク20を備えていてもよい。各蒸着マスク20は、一対の長辺26及び一対の短辺27を含んでいてもよい。例えば、各蒸着マスク20は、矩形状の形状を有していてもよい。各蒸着マスク20は、一対の短辺27又はその近傍の部分において、例えば溶接によってフレーム15に固定されていてもよい。
【0034】
蒸着マスク20は、蒸着マスク20を貫通する複数の貫通孔25が形成された、金属製の板状の基材を含んでいてもよい。るつぼ94から蒸発して蒸着マスク装置10に到達した蒸着材料98は、蒸着マスク20の貫通孔25を通って有機EL基板92に付着する。これによって、蒸着マスク20の貫通孔25の位置に対応した所望のパターンで、蒸着材料98を有機EL基板92の表面に成膜することができる。
【0035】
図2は、図1の蒸着装置90を用いて製造した有機EL表示装置100を示す断面図である。有機EL表示装置100は、有機EL基板92と、パターン状に設けられた蒸着材料98を含む画素と、を備える。
【0036】
なお、複数の色によるカラー表示を行いたい場合には、各色に対応する蒸着マスク20が搭載された蒸着装置90をそれぞれ準備し、有機EL基板92を各蒸着装置90に順に投入する。これによって、例えば、赤色用の有機発光材料、緑色用の有機発光材料および青色用の有機発光材料を順に有機EL基板92に蒸着させることができる。
【0037】
ところで、蒸着処理は、高温雰囲気となる蒸着装置90の内部で実施される場合がある。この場合、蒸着処理の間、蒸着装置90の内部に保持される蒸着マスク20、フレーム15および有機EL基板92も加熱される。この際、蒸着マスク20、フレーム15および有機EL基板92は、各々の熱膨張係数に基づいた寸法変化の挙動を示すことになる。この場合、蒸着マスク20やフレーム15と有機EL基板92の熱膨張係数が大きく異なっていると、それらの寸法変化の差異に起因した位置ずれが生じ、この結果、有機EL基板92上に付着する蒸着材料の寸法精度や位置精度が低下してしまう。
【0038】
このような課題を解決するため、蒸着マスク20およびフレーム15の熱膨張係数が、有機EL基板92の熱膨張係数と同等の値であることが好ましい。例えば、有機EL基板92としてガラス基板が用いられる場合、蒸着マスク20およびフレーム15の主要な材料として、ニッケルを含む鉄合金を用いることができる。鉄合金は、ニッケルに加えてコバルトを更に含んでいてもよい。例えば、蒸着マスク20を構成する基材の材料として、ニッケル及びコバルトの含有量が合計で30質量%以上且つ54質量%以下であり、且つコバルトの含有量が0質量%以上且つ6質量%以下である鉄合金を用いることができる。ニッケル若しくはニッケル及びコバルトを含む鉄合金の具体例としては、34質量%以上且つ38質量%以下のニッケルを含むインバー材、30質量%以上且つ34質量%以下のニッケルに加えてさらにコバルトを含むスーパーインバー材、38質量%以上且つ54質量%以下のニッケルを含む低熱膨張Fe-Ni系めっき合金などを挙げることができる。
【0039】
なお蒸着処理の際に、蒸着マスク20、フレーム15および有機EL基板92の温度が高温には達しない場合は、蒸着マスク20およびフレーム15の熱膨張係数を、有機EL基板92の熱膨張係数と同等の値にする必要は特にない。この場合、蒸着マスク20を構成する材料として、上述の鉄合金以外の材料を用いてもよい。例えば、クロムを含む鉄合金など、上述のニッケルを含む鉄合金以外の鉄合金を用いてもよい。クロムを含む鉄合金としては、例えば、いわゆるステンレスと称される鉄合金を用いることができる。また、ニッケルやニッケル-コバルト合金など、鉄合金以外の合金を用いてもよい。
【0040】
次に、蒸着マスク20について詳細に説明する。図3に示すように、蒸着マスク20は、蒸着マスク20の一対の短辺27を含む一対の耳部(第1耳部17a及び第2耳部17b)と、一対の耳部17a,17bの間に位置する中間部18と、を備えていてもよい。
【0041】
まず、耳部17a,17bについて詳細に説明する。耳部17a,17bは、蒸着マスク20のうちフレーム15に固定される部分である。本実施の形態において、耳部17a,17bは、中間部18と一体的に構成されている。なお、耳部17a,17bは、中間部18とは別の部材によって構成されていてもよい。この場合、耳部17a,17bは、例えば溶接によって中間部18に接合される。
【0042】
(中間部)
次に、中間部18について説明する。中間部18は、第1面20aから第2面20bに至る貫通孔25が形成された、少なくとも1つの有効領域22と、有効領域22を取り囲む周囲領域23と、を含んでいてもよい。有効領域22は、蒸着マスク20のうち、有機EL基板92の表示領域に対面する領域である。
【0043】
図3に示す例において、中間部18は、蒸着マスク20の長辺26に沿って所定の間隔を空けて配列された複数の有効領域22を含む。一つの有効領域22は、一つの有機EL表示装置100の表示領域に対応する。このため、図1に示す蒸着マスク装置10によれば、有機EL表示装置100の多面付蒸着が可能である。なお、一つの有効領域22が複数の表示領域に対応する場合もある。
【0044】
図3に示すように、有効領域22は、例えば、平面視において略四角形形状、さらに正確には平面視において略矩形状の輪郭を有していてもよい。なお図示はしないが、各有効領域22は、有機EL基板92の表示領域の形状に応じて、様々な形状の輪郭を有することができる。例えば各有効領域22は、円形状の輪郭を有していてもよい。
【0045】
以下、有効領域22について詳細に説明する。図4は、蒸着マスク20の第2面20b側から有効領域22を拡大して示す平面図である。図4に示すように、図示された例において、各有効領域22に形成された複数の貫通孔25は、当該有効領域22において、互いに直交する二方向に沿ってそれぞれ所定のピッチで配列されている。
【0046】
図5は、図4の有効領域22のV-V方向に沿った断面図である。図5に示すように、複数の貫通孔25は、蒸着マスク20の法線方向Nに沿った一方の側となる第1面20aから、蒸着マスク20の法線方向Nに沿った他方の側となる第2面20bへ貫通している。図示された例では、後に詳述するように、蒸着マスク20の法線方向Nにおける一方の側となる金属板64の第1面64aに第1凹部30がエッチングによって形成され、蒸着マスク20の法線方向Nにおける他方の側となる金属板64の第2面64bに第2凹部35が形成される。第1凹部30は、第2凹部35に接続され、これによって第2凹部35と第1凹部30とが互いに通じ合うように形成される。貫通孔25は、第2凹部35と、第2凹部35に接続された第1凹部30とによって構成されている。図4及び図5に示すように、第1凹部30の壁面31と、第2凹部35の壁面36とは、周状の接続部41を介して接続されている。接続部41は、蒸着マスク20の平面視において貫通孔25の開口面積が最小になる貫通部42を画成する。
【0047】
図5に示すように、蒸着マスク20の第1面20a側において、隣り合う二つの貫通孔25は、金属板64の第1面64aに沿って互いから離間している。蒸着マスク20の第2面20b側においても、隣り合う二つの第2凹部35が、金属板64の第2面64bに沿って互いから離間していてもよい。すなわち、隣り合う二つの第2凹部35の間に金属板64の第2面64bが残存していてもよい。以下の説明において、金属板64の第2面64bの有効領域22のうちエッチングされずに残っている部分のことを、トップ部43とも称する。このようなトップ部43が残るように蒸着マスク20を作製することにより、蒸着マスク20に十分な強度を持たせることができる。このことにより、例えば搬送中などに蒸着マスク20が破損してしまうことを抑制することができる。なおトップ部43の幅βが大きすぎると、蒸着工程においてシャドーが発生し、これによって蒸着材料98の利用効率が低下することがある。従って、トップ部43の幅βが過剰に大きくならないように蒸着マスク20が作製されることが好ましい。シャドーとは、有機EL基板92などの蒸着対象物のうち蒸着マスク20の貫通孔と重なっている領域への蒸着材料の付着が、蒸着マスク20の第2面20bや壁面によって阻害される現象のことである。
【0048】
図1に示すようにして蒸着マスク装置10が蒸着装置90に収容された場合、図5に二点鎖線で示すように、蒸着マスク20の第1面20aが、有機EL基板92に対面し、蒸着マスク20の第2面20bが、蒸着材料98を保持したるつぼ94側に位置する。したがって、蒸着材料98は、次第に開口面積が小さくなっていく第2凹部35を通過して有機EL基板92に付着する。図5において第2面20b側から第1面20aへ向かう矢印で示すように、蒸着材料98は、るつぼ94から有機EL基板92に向けて有機EL基板92の法線方向Nに沿って移動するだけでなく、有機EL基板92の法線方向Nに対して大きく傾斜した方向に移動することもある。このとき、蒸着マスク20の厚みが大きいと、斜めに移動する蒸着材料98が、トップ部43、第2凹部35の壁面36や第1凹部30の壁面31に引っ掛かり易くなり、この結果、貫通孔25を通過できない蒸着材料98の比率が多くなる。従って、蒸着材料98の利用効率を高めるためには、蒸着マスク20の厚みtを小さくし、これによって、第2凹部35の壁面36や第1凹部30の壁面31の高さを小さくすることが好ましいと考えられる。すなわち、蒸着マスク20を構成するための金属板64として、蒸着マスク20の強度を確保できる範囲内で可能な限り厚みtの小さな金属板64を用いることが好ましいと言える。この点を考慮し、本実施の形態において、蒸着マスク20の厚みtは、例えば30μm以下、好ましくは25μm以下、更に好ましくは20μm以下になっている。蒸着マスク20の厚みtは、18μm以下であってもよく、15μm以下であってもよい。一方、蒸着マスク20の厚みが小さくなり過ぎると、蒸着マスク20の強度が低下し、蒸着マスク20に損傷や変形が生じやすくなる。この点を考慮し、蒸着マスク20の厚みtは、5μm以上であってもよく、7μm以上であってもよく、10μm以上であってもよく、13μm以上であってもよく、15μm以上であってもよい。なお厚みtは、周囲領域23の厚み、すなわち蒸着マスク20のうち第1凹部30および第2凹部35が形成されていない部分の厚みである。従って厚みtは、金属板64の厚みであると言うこともできる。
【0049】
蒸着マスク20の厚みtの範囲は、上述の複数の上限の候補値のうちの任意の1つと、上述の複数の下限の候補値のうちの任意の1つの組み合わせによって定められてもよい。例えば、蒸着マスク20の厚みtは、5μm以上30μm以下であってもよく、7μm以上25μm以下であってもよく、10μm以上20μm以下であってもよく、13μm以上18μm以下であってもよい。また、蒸着マスク20の厚みtの範囲は、上述の複数の上限の候補値のうちの任意の2つの組み合わせによって定められてもよい。例えば、蒸着マスク20の厚みtは、25μm以上300μm以下であってもよい。また、蒸着マスク20の厚みtの範囲は、上述の複数の下限の候補値のうちの任意の2つの組み合わせによって定められてもよい。例えば、蒸着マスク20の厚みtは、5μm以上7μm以下であってもよい。
【0050】
図5において、貫通孔25の最小開口面積を持つ部分となる接続部41と、第2凹部35の壁面36の他の任意の位置と、を通過する直線L1が、蒸着マスク20の法線方向Nに対してなす最小角度が、符号θ1で表されている。斜めに移動する蒸着材料98を、壁面36に到達させることなく可能な限り有機EL基板92に到達させるためには、角度θ1を大きくすることが有利となる。角度θ1を大きくする上では、蒸着マスク20の厚みtを小さくすることの他にも、上述のトップ部43の幅βを小さくすることも有効である。
【0051】
図5において、符号αは、金属板64の第1面64aの有効領域22のうちエッチングされずに残っている部分(以下、リブ部とも称する)の幅を表している。リブ部の幅αおよび貫通部42の寸法rは、有機EL表示装置の寸法および表示画素数に応じて適宜定められる。例えば、リブ部の幅αは5μm以上且つ40μm以下であり、貫通部42の寸法rは10μm以上且つ60μm以下である。
【0052】
リブ部の幅αは、10μm以上であってもよく、15μm以上であってもよく、20μm以上であってもよい。また、リブ部の幅αは、35μm以下であってもよく、30μm以下であってもよく、25μm以下であってもよい。リブ部の幅αの範囲は、上述の複数の上限の候補値のうちの任意の1つと、上述の複数の下限の候補値のうちの任意の1つの組み合わせによって定められてもよい。例えば、リブ部の幅αは、10μm以上35μm以下であってもよく、15μm以上30μm以下であってもよく、20μm以上25μm以下であってもよい。また、リブ部の幅αの範囲は、上述の複数の上限の候補値のうちの任意の2つの組み合わせによって定められてもよい。例えば、リブ部の幅αは、35μm以上40μm以下であってもよい。また、リブ部の幅αの範囲は、上述の複数の下限の候補値のうちの任意の2つの組み合わせによって定められてもよい。例えば、リブ部の幅αは、5μm以上10μm以下であってもよい。
【0053】
貫通部42の寸法rは、15μm以上であってもよく、20μm以上であってもよく、25μm以上であってもよく、30μm以上であってもよい。また、貫通部42の寸法rの下限は、上述の10μmよりも小さくてもよい。例えば、貫通部42の寸法rは、5μm以上であってもよい。また、貫通部42の寸法rは、55μm以下であってもよく、50μm以下であってもよく、45μm以下であってもよく、40μm以下であってもよく、35μm以下であってもよい。貫通部42の寸法rの範囲は、上述の複数の上限の候補値のうちの任意の1つと、上述の複数の下限の候補値のうちの任意の1つの組み合わせによって定められてもよい。例えば、貫通部42の寸法rは、15μm以上55μm以下であってもよく、20μm以上50μm以下であってもよく、25μm以上45μm以下であってもよく、30μm以上40μm以下であってもよく、30μm以上35μm以下であってもよい。また、貫通部42の寸法rの範囲は、上述の複数の上限の候補値のうちの任意の2つの組み合わせによって定められてもよい。例えば、貫通部42の寸法rは、55μm以上60μm以下であってもよい。また、貫通部42の寸法rの範囲は、上述の複数の下限の候補値のうちの任意の2つの組み合わせによって定められてもよい。例えば、貫通部42の寸法rは、5μm以上10μm以下であってもよい。
【0054】
なお、図4及び図5においては、隣り合う二つの第2凹部35の間に金属板64の第2面64bが残存している例を示したが、これに限られることはない。図示はしないが、隣り合う二つの第2凹部35が接続されるようにエッチングが実施されてもよい。すなわち、隣り合う二つの第2凹部35の間に、金属板64の第2面64bが残存していない場所が存在していてもよい。
【0055】
次に、蒸着マスク20を製造する方法について説明する。
【0056】
はじめに、蒸着マスクを製造するために用いられる金属板の製造方法について説明する。本実施の形態においては、金属板が、ニッケルを含む鉄合金の圧延材からなる例について説明する。圧延材は、30μm以下の厚みを有していてもよい。また、圧延材は、30質量%以上且つ38質量%以下のニッケルと、0質量%以上6質量%以下のコバルトと、残部の鉄と、不可避の不純物と、を含んでいてもよい。
【0057】
まず、鉄及びニッケル並びにその他の原材料を準備する。例えば、原材料全体に対する鉄の比率及びニッケルの比率がそれぞれ約64重量%及び約36重量%となるよう、各原材料を準備する。続いて、各原材料を必要に応じて粉砕した後、各原材料を溶解炉にて溶解する溶解工程を実施する。例えば、アーク放電などの気体放電を利用して各原材料を溶解して混合する。これによって、金属板のための母材を得ることができる。
【0058】
溶解時の温度は、原材料に応じて設定するが、例えば1500℃以上である。溶解工程は、脱酸、脱水、脱窒素などのためにアルミニウム、マンガン、シリコンなどを溶解炉に投入する工程を含んでいてもよい。また、溶解工程は、大気圧よりも低い低圧状態で、アルゴンガスなどの不活性ガスの雰囲気下で実施してもよい。
【0059】
母材を溶解炉から取り出した後、母材の表面を削り取る研削工程を実施してもよい。これによって、スケールなどの酸化物の被膜を除去することができる。具体的な研削方法は特には限られないが、砥石車を回転させて母材の表面を削る、いわゆるグラインディング法や、母材を切削具に押し込んで母材の表面を削る、いわゆる押し込み法などを採用することができる。研削工程は、母材の厚みが均一になるように実施されてもよい。
【0060】
続いて、図6に示すように、ニッケルを含む鉄合金から構成された母材60を圧延する圧延工程を実施する。例えば、一対の圧延ロール(ワークロール)66a,66bを含む圧延装置66に向けて、矢印D1で示す方向に引張張力を加えながら搬送する。一対の圧延ロール66a,66bの間に到達した母材60は、一対の圧延ロール66a,66bによって圧延され、この結果、母材60は、その厚みが低減されるとともに、搬送方向に沿って伸ばされる。これによって、所定の厚みを有する金属板64を得ることができる。図6に示すように、金属板64をコア61に巻き取ることによって巻き体62を形成してもよい。
【0061】
なお図6は、圧延工程の概略を示すものに過ぎず、圧延工程を実施するための具体的な構成や手順が特に限られることはない。例えば圧延工程は、母材60を構成する鉄合金の結晶配列を変化させる温度以上の温度で母材を加工する熱間圧延工程や、鉄合金の結晶配列を変化させる温度以下の温度で母材を加工する冷間圧延工程を含んでいてもよい。また、一対の圧延ロール66a,66bの間に母材60や金属板64を通過させる際の向きが一方向に限られることはない。例えば、図6及び図7において、紙面左側から右側への向き、および紙面右側から左側への向きで繰り返し母材60や金属板64を一対の圧延ロール66a,66bの間に通過させることにより、母材60や金属板64を徐々に圧延してもよい。
【0062】
圧延工程においては、圧下率を調整することにより、金属板64に含まれる結晶粒の寸法を調整することができる。例えば、圧下率を高くすることにより、金属板64に含まれる結晶粒の寸法を小さくすることができる。結晶粒の寸法を小さくする上では、圧下率を最大値に設定することが好ましい。また、圧下率を低くすることにより、金属板64に含まれる結晶粒の寸法を大きくすることができる。
【0063】
圧下率は、下記の式により算出される。
圧下率(%)=((T1-T2)/T1)×100
T1は、圧延工程が施される前の金属板64の厚みであり、T2は、圧延工程が施された後の金属板64の厚みである。
【0064】
圧延工程における金属板64の圧下率は、好ましくは70%以上である。これにより、後述するように、金属板64の結晶粒の平均断面積を50μm以下にすることができる。圧延工程における金属板64の圧下率は、75%以上であってもよく、80%以上であってもよく、85%以上であってもよい。また、圧延工程における金属板64の圧下率は、好ましくは95%以下である。これにより、後述するように、金属板64の結晶粒の平均断面積を50μm以下にすることができる。圧延工程における金属板64の圧下率は、90%以下であってもよく、85%以下であってもよい。
【0065】
圧延工程における金属板64の圧下率の範囲は、複数の上限の候補値のうちの任意の1つと、複数の下限の候補値のうちの任意の1つの組み合わせによって定められてもよい。例えば、圧下率は、70%以上95%以下であってもよく、75%以上90%以下であってもよく、80%以上85%以下であってもよい。また、圧延工程における金属板64の圧下率の範囲は、複数の上限の候補値のうちの任意の2つの組み合わせによって定められてもよい。例えば、圧下率は、90%以上95%以下であってもよい。また、圧延工程における金属板64の圧下率の範囲は、複数の下限の候補値のうちの任意の2つの組み合わせによって定められてもよい。例えば、圧下率は、70%以上75%以下であってもよい。
【0066】
圧延工程においては、圧延速度、すなわち金属板64の搬送速度を調整してもよい。例えば、圧延速度を増加させると、金属板64と圧延ロール66a,66bとの間に巻き込まれる圧延オイルの量が増加する。これにより、金属板64の表面にオイルピットが形成されることを抑制することができる。このように、金属板64の搬送速度を調整することにより、金属板64の表面のオイルピットの密度などを制御することができる。圧延速度は、50m/分以上であってもよく、70m/分以上であってもよく、100m/分以上であってもよい。また、圧延速度は、好ましくは200m/分以下である。圧延速度は、150m/分以下であってもよく、100m/分以下であってもよく、80m/分以下であってもよい。
【0067】
圧延速度は、複数の上限の候補値のうちの任意の1つと、複数の下限の候補値のうちの任意の1つの組み合わせによって定められてもよい。例えば、圧延速度は、30m/分以上200m/分以下であってもよく、50m/分以上150m/分以下であってもよい。また、圧延速度の範囲は、複数の上限の候補値のうちの任意の2つの組み合わせによって定められてもよい。例えば、圧延速度は、150m/分以上200m/分以下であってもよく、100m/分以上150m/分以下であってもよい。また、圧延速度の範囲は、複数の下限の候補値のうちの任意の2つの組み合わせによって定められてもよい。例えば、圧延速度の範囲は、30m/分以上50m/分以下であってもよく、50m/分以上70m/分以下であってもよい。圧延速度は、好ましくは30m/分以上200m/分以下であり、より好ましくは30m/分以上150m/分以下であり、より好ましくは30m/分以上100m/分以下であり、より好ましくは30m/分以上80m/分以下である。
【0068】
また、圧延ロールの直径を調整してもよい。例えば、圧延ロールの直径を増加させると、金属板64の表面に形成されるオイルピットが増加する。このように、圧延ロールの直径を調整することにより、金属板64の表面のオイルピットの密度などを制御することができる。圧延ロールの直径は、好ましくは28mm以上である。圧延ロールの直径は、40mm以上であってもよく、50mm以上であってもよい。また、圧延ロールの直径は、好ましくは150mm以下である。圧延ロールの直径は、120mm以下であってもよく、100mmであってもよく、80mm以下であってもよい。
【0069】
圧延ロールの直径の範囲は、複数の上限の候補値のうちの任意の1つと、複数の下限の候補値のうちの任意の1つの組み合わせによって定められてもよい。例えば、圧延ロールの直径は、28mm以上150mm以下であってもよく、40mm以上120mm以下であってもよい。また、圧延ロールの直径の範囲は、複数の上限の候補値のうちの任意の2つの組み合わせによって定められてもよい。例えば、圧延ロールの直径は、120mm以上150mm以下であってもよい。また、圧延ロールの直径の範囲は、複数の下限の候補値のうちの任意の2つの組み合わせによって定められてもよい。例えば、圧延ロールの直径は、28mm以上40mm以下であってもよい。圧延ロールの直径は、好ましくは28mm以上150mm以下であり、より好ましくは40mm以上120mm以下であり、より好ましくは50mm以上100mm以下であり、より好ましくは50mm以上80mm以下である。
【0070】
また、圧延工程においては、金属板64の形状を調整するために圧延アクチュエータの圧力を調整してもよい。また、圧延ロール(ワークロール)66a,66bに加えてバックアップロールの形状を適宜調整してもよく、バックアップロールの位置を板幅方向に適宜調整してもよい。
【0071】
また、冷間圧延工程においては、母材60と圧延ロール66a,66bとの間に灯油やニート油などのクーラントを供給してもよい。これにより、母材の温度を制御することができる。
【0072】
また、クーラントを適切に選択することによって、金属板64の表面に形成されるオイルピットや圧延筋の数、面積などを調整することができる。例えば、クーラントとしてニート油を用いることができる。ニート油は、圧延時の粘度の上昇が生じにくいという特性を有する。このため、クーラントとしてニート油を用いることにより、金属板64と圧延ロール66a,66bとの間に巻き込まれるクーラントの量を低減することができる。これにより、金属板64の表面にオイルピットが形成されることを抑制することができる。
【0073】
また、圧延ロールの表面粗さを適切に選択することによっても、金属板64の表面に形成されるオイルピットや圧延筋の数、面積などを調整することができる。例えば、圧延ロールの表面粗度Raを小さくすることにより、金属板64の表面に圧延筋が形成されることを抑制することができる。圧延ロールの表面粗度Raは、好ましくは0.2μm以下である。圧延ロールの表面粗度Raは、0.15μm以下であってもよく、0.1μm以下であってもよく、0.05μm以下であってもよい。圧延ロールの表面粗度Rzは、好ましくは2.0μm以下である。圧延ロールの表面粗度Rxは、1.5μm以下であってもよく、1.0μm以下であってもよく、0.5μm以下であってもよい。また、圧延ロールの表面粗度Rzは、好ましくは2.0μm以下である。圧延ロールの表面粗度Rzは、1.5μm以下であってもよく、1.0μm以下であってもよく、0.5μm以下であってもよい。表面粗度Ra、Rzは、JIS B 0601:2013に基づいて測定される。
【0074】
また、圧延工程の前後、又は圧延工程の間に母材60又は金属板64の品質や特性を分析する分析工程を実施してもよい。例えば、蛍光X線を母材60又は金属板64に照射して組成を分析してもよい。また、熱機械分析(TMA:Thermomechanical Analysis)によって母材60又は金属板64の熱膨張量を測定してもよい。
【0075】
(アニール工程)
その後、圧延によって金属板64内に蓄積された残留応力を取り除くため、図7に示すように、アニール装置67を用いて金属板64をアニールするアニール工程を実施してもよい。アニール工程は、図7に示すように、金属板64を搬送方向(長手方向)に引っ張りながら実施されてもよい。すなわち、アニール工程は、いわゆるバッチ式の焼鈍ではなく、搬送しながらの連続焼鈍として実施されてもよい。この場合、金属板64に座屈折れなどの変形が生じることを抑制するように温度や搬送速度を設定することが好ましい。アニール工程を実施することにより、残留歪がある程度除去された金属板64を得ることができる。なお、図7においては、アニール工程の際に金属板64を水平方向に搬送する例を示しているが、これに限られることはなく、アニール工程の際に金属板64を、垂直方向などのその他の方向に搬送してもよい。
【0076】
アニール工程の条件は、金属板64の厚みや圧下率などに応じて適切に設定されるが、例えば、500℃以上600℃以下の範囲内で30秒以上90秒以下にわたってアニール工程が実施される。なお上記の秒数は、アニール装置67中で所定の温度に調整された空間を金属板64が通過することに要する時間を表している。アニール工程の温度は、金属板64の軟化が生じないように設定されてもよい。
【0077】
アニール工程の温度の下限は、上述の500℃よりも低くてもよい。例えば、アニール工程の温度は、400℃以上であってもよく、450℃以上であってもよい。また、アニール工程の温度の上限は、上述の600℃よりも高くてもよい。例えば、アニール工程の温度は、700℃以下であってもよく、650℃以下であってもよい。また、アニール工程の温度の範囲は、上述の複数の上限の候補値のうちの任意の1つと、上述の複数の下限の候補値のうちの任意の1つの組み合わせによって定められてもよい。例えば、アニール工程の温度は、400℃以上700℃以下であってもよく、450℃以上650℃以下であってもよい。また、アニール工程の温度の範囲は、上述の複数の上限の候補値のうちの任意の2つの組み合わせによって定められてもよい。例えば、アニール工程の温度は、650℃以上700℃以下であってもよい。また、アニール工程の温度の範囲は、上述の複数の下限の候補値のうちの任意の2つの組み合わせによって定められてもよい。例えば、アニール工程の温度は、400℃以上450℃以下であってもよい。
【0078】
アニール工程の時間は、40秒以上であってもよく、50秒以上であってもよい。また、アニール工程の時間の下限は、上述の30秒よりも短くてもよい。例えば、アニール工程の時間は、10秒以上であってもよく、20秒以上であってもよい。また、アニール工程の時間は、80秒以下であってもよく、70秒以下であってもよく、60秒以下であってもよい。また、アニール工程の時間の上限は、上述の90秒よりも長くてもよい。例えば、アニール工程の時間は、100秒以下であってもよい。また、アニール工程の時間の範囲は、上述の複数の上限の候補値のうちの任意の1つと、上述の複数の下限の候補値のうちの任意の1つの組み合わせによって定められてもよい。例えば、アニール工程の時間は、10秒以上100秒以下であってもよく、20秒以上90秒以下であってもよく、30秒以上80秒以下であってもよく、40秒以上70秒以下であってもよく、50秒以上60秒以下であってもよい。また、アニール工程の時間の範囲は、上述の複数の上限の候補値のうちの任意の2つの組み合わせによって定められてもよい。例えば、アニール工程の時間は、90秒以上100秒以下であってもよい。また、アニール工程の時間の範囲は、上述の複数の下限の候補値のうちの任意の2つの組み合わせによって定められてもよい。例えば、アニール工程の時間は、10秒以上20秒以下であってもよい。
【0079】
好ましくは上述のアニール工程は、非還元雰囲気や不活性ガス雰囲気で実施される。ここで非還元雰囲気とは、水素などの還元性ガスを含まない雰囲気のことである。「還元性ガスを含まない」とは、水素などの還元性ガスの濃度が10%以下であることを意味している。アニール工程において、還元性ガスの濃度は、8%以下であってもよく、6%以下であってもよく、4%以下であってもよく、2%以下であってもよく、1%以下であってもよい。また不活性ガス雰囲気とは、アルゴンガス、ヘリウムガス、窒素ガスなどの不活性ガスの濃度が90%以上である雰囲気のことである。アニール工程において、不活性ガスの濃度は、92%以上であってもよく、94%以上であってもよく、96%以上であってもよく、98%以上であってもよく、99%以上であってもよい。非還元雰囲気や不活性ガス雰囲気でアニール工程を実施することにより、ニッケル水酸化物などのニッケル化合物が金属板64の表面層に生成されることを抑制することができる。アニール装置67は、不活性ガスの濃度をモニタする機構や、不活性ガスの濃度を調整する機構を有していてもよい。
【0080】
アニール工程の前に、金属板64を洗浄する洗浄工程を実施してもよい。これにより、アニール工程の際に金属板64の表面に異物が付着することを抑制することができる。洗浄のための洗浄液としては、例えば、炭化水素系の液を用いることができる。
【0081】
また図7においては、アニール工程が、金属板64を長手方向に引っ張りながら実施される例を示したが、これに限られることはなく、アニール工程を、金属板64がコア61に巻き取られた状態で実施してもよい。すなわちバッチ式の焼鈍が実施されてもよい。なお、金属板64がコア61に巻き取られた状態でアニール工程を実施する場合、金属板64に、巻き体62の巻き取り径に応じた反りの癖がついてしまうことがある。従って、巻き体62の巻き径や母材60を構成する材料によっては、金属板64を長手方向に引っ張りながらアニール工程を実施することが有利である。
【0082】
その後、金属板64の幅が所定の範囲内になるよう、圧延工程によって得られた金属板64の幅方向における両端をそれぞれ所定の範囲にわたって切り落とすスリット工程を実施してもよい。このスリット工程は、圧延に起因して金属板64の両端に生じ得るクラックを除去するために実施される。このようなスリット工程を実施することにより、金属板64が破断してしまう現象、いわゆる板切れが、クラックを起点として生じてしまうことを防ぐことができる。
【0083】
スリット工程において切り落とされる部分の幅は、スリット工程後の金属板64の形状が、幅方向において左右対称になるように調整されてもよい。また、スリット工程を、上述のアニール工程の前に実施してもよい。
【0084】
なお、上述の圧延工程、アニール工程及びスリット工程のうちの少なくとも2つの工程を複数回繰り返すことによって、所定の厚みの長尺状の金属板64を作製してもよい。
【0085】
アニール工程の後、金属板64の断面に現れる結晶粒の寸法を検査する結晶粒検査工程を実施する。具体的には、結晶粒の平均断面積が第1閾値以上且つ第2閾値以下であるか否かを検査する。以下、このような検査を実施することの背景について説明する。
【0086】
本件発明者らが鋭意研究を行ったところ、金属板64の厚みが小さくなると、金属板64や金属板64から製造された蒸着マスク20に特定の変形部が形成され易くなることを見出した。変形部は、例えば、局所的な突起や凹みなどである。変形部は、例えば、蒸着マスク20の製造工程において金属板64を搬送する際や、金属板64から製造された蒸着マスク20を取り扱う際に生じる。変形部は、金属板64の厚みが小さくなるほど生じやすくなる。例えば、金属板64の厚みが30μm以下の場合に生じやすく、25μm以下の場合に更に生じやすく、20μm以下の場合に更に生じやすい。
【0087】
金属板64の厚みが小さい場合に変形が生じやすくなる原因としては、金属板64の強度の低下が考えられる。一方、金属板64の厚みが小さい場合にも金属板64の強度を確保する方法としては、金属板64の結晶粒の寸法を小さくすることが考えられる。
【0088】
結晶粒の寸法の指標としては、結晶粒の粒径、結晶粒の断面積、結晶粒の体積などが考えられる。ここで、本件発明者らが鋭意研究を行ったところ、30μm以下の厚みを有する金属板64の結晶粒の寸法を定量的に把握する手法として、電子線後方散乱回折法(以下、EBSD(Electron Backscatter Diffraction Patterns)法とも称する)に基づいて結晶粒の平均断面積を算出する方法が、精度などの点で優れていることを見出した。従って、本実施の形態においては、金属板64の結晶粒の平均断面積が第2閾値以下であるか否かを検査することを提案する。第2閾値は、金属板64に求められる強度に応じて決定されるが、例えば50μmである。第2閾値は、45μmであってもよく、40μmであってもよく、35μmであってもよく、30μmであってもよく、25μmであってもよい。EBSD法による測定方法の詳細については後述する。
【0089】
一方、本件発明者らが鋭意研究を行ったところ、金属板64の結晶粒の寸法が小さくなり過ぎると、金属板64の溶接性が低下することを見出した。例えば、金属板64から製造された蒸着マスク20をフレーム15に溶接する際に、金属板64の表面にクラックが生じやすくなることを見出した。この点を考慮し、本実施の形態においては、金属板64の結晶粒の平均断面積が第1閾値以上であるか否かを検査することを提案する。第1閾値は、金属板64に求められる溶接性に応じて決定されるが、例えば0.5μmである。第1閾値は、2μmであってもよく、5μmであってもよく、10μmであってもよく、15μmであってもよく、20μmであってもよい。
【0090】
検査工程においては、例えば、結晶粒の平均断面積が0.5μm以上且つ50μm以下である金属板64を、合格と判定する。また、結晶粒の平均断面積が0.5μm未満である、又は50μmを超える金属板64を、不合格と判定する。
【0091】
検査工程において合格と判定される金属板64の結晶粒の平均断面積の範囲は、上限を規定する上述の複数の第2閾値の候補のうちの任意の1つと、下限を規定する上述の複数の下限の第1閾値の候補のうちの任意の1つの組み合わせによって定められてもよい。例えば、合格と判定される金属板64、すなわち選別された金属板64の結晶粒の平均断面積は、2μm以上45μm以下であってもよく、5μm以上40μm以下であってもよく、10μm以上35μm以下であってもよく、15μm以上30μm以下であってもよく、20μm以上25μm以下であってもよい。また、選別された金属板64の結晶粒の平均断面積の範囲は、上限を規定する上述の複数の第2閾値の候補のうちの任意の2つの組み合わせによって定められてもよい。例えば、選別された金属板64の結晶粒の平均断面積は、45μm以上50μm以下であってもよい。また、選別された金属板64の結晶粒の平均断面積の範囲は、下限を規定する上述の複数の第1閾値の候補のうちの任意の2つの組み合わせによって定められてもよい。例えば、選別された金属板64の結晶粒の平均断面積は、0.5μm以上2μm以下であってもよい。
【0092】
以下、EBSD法による測定方法について、図8乃至図10を参照して説明する。EBSD法とは、走査型電子顕微鏡(以下、SEMとも称する)などを用いて試料の表面に対して大きく傾斜した方向から試料に電子線を照射した場合に得られる電子線の回折パターン(以下、EBSDパターンとも称する)に基づいて、結晶粒を解析する方法である。測定装置としては、例えば、ショットキー電界放出走査型電子顕微鏡と、EBSD検出器とを組み合わせたものを用いることができる。EBSD検出器としては、例えば、株式会社TSLソリューションズ製のOIM(Orientation Imaging Microscopy)検出器を用いることができる。
【0093】
EBSD法による測定においては、まず、金属板64を、圧延工程の際の金属板64の搬送方向D1(以下、圧延方向とも称する)とは垂直な方向に切断して試験片50を準備する。圧延方向D1は、金属板64の光沢面を金属顕微鏡で観察した場合に確認される線状の圧延痕が延びる方向である。切断具としては、例えばトリミング用のカミソリを用いることができる。試験片50の厚みは、金属板64の厚みに等しい。続いて、試験片50を樹脂で封止する。樹脂としては、例えばエポキシ樹脂を用いる。樹脂の厚みは、例えば1mmである。続いて、トリミング用のカミソリを用い、圧延方向D1とは垂直な方向であって、試験片の面方向にも垂直な方向に沿って、試験片を樹脂とともに切断する。これによって、金属板64の試験片の断面50cを樹脂から露出させる。これにより、図8に示すように、測定用の断面50cが樹脂55から露出された試験片50を含む試料56を得ることができる。試料56は、金属板64の圧延方向D1に直交する平面に対して断面50cが-10°以上+10°以下の角度を成すよう構成される。
【0094】
測定用の断面50cを樹脂55から露出させた後、ミクロトームを用いて、試験片50の断面50cをトリミングしてもよい。このトリミングにおいては、例えば、試験片50の断面50cの機械的歪みを低減させるため、試験片50を封止する樹脂55とともに、試験片50の断面50cに対して垂直な方向に1mm程度、ミクロトームで切り進める。続いて、イオンミリング装置を用いて、試験片50の断面50cに対して垂直な方向にブロードアルゴンイオンビームを照射する。具体的には、試験片50の上に遮蔽板を載置し、遮蔽板から試験片50をわずかに突出させた状態で、加速されたアルゴンイオンを遮蔽板側から試験片50に照射して試験片50を加工し、観察対象の断面50cを生成する。この場合、アルゴンイオンの照射方向と平行な面方向を有する断面50cが得られる。これらの作業は、前工程で発生している機械的な結晶構造への破壊が最小限になるよう、精密に試験片50の断面50cを露出させるための作業である。なお、「垂直な方向」は、対象の面や方向に対して厳密に90度を成す方向でなくてもよく、10度程度の誤差を含んでいてもよい。例えば、圧延方向D1に垂直な方向とは、圧延方向D1に対して80度以上100度以下を成す方向である。また、表面に垂直な方向とは、表面に対して80度以上100度以下を成す方向である。
【0095】
続いて、ショットキー電界放出走査型電子顕微鏡の対物レンズ57から試料56の試験片50の断面50cに電子線Eを照射する。また、試験片50から生じるEBSDパターンを、EBSD検出器58を用いて検出する。
【0096】
EBSD法に用いる走査型電子顕微鏡の条件の一例は、以下の通りである。
・観察倍率:2000倍(撮影時の観察倍率基準は、Polaroid545とする)
・加速電圧:15kV
・ワーキングディスタンス:15mm
・試料傾斜角度:70度
【0097】
図9は、試験片50を含む試料56の傾斜角度を調整する工程の一例を示す図である。まず、試験片50を含む試料56を、試料56の面のうち試験片50が露出している面(観察面または測定面)を上に向けて試料台に固定し試料56を走査型電子顕微鏡に挿入し、対物レンズ57の直下まで移動させる。続いて、対物レンズ57から照射される電子線EとEBSD検出器58の法線N1の交点を中心として、EBSD検出器58に向けて試料56を角度φ1だけ回転させる。角度φ1が、上述の試料傾斜角度に相当し、例えば70度である。この場合、対物レンズ57から試料56に入射する電子線Eが試料56の面に対して成す角度φ2は、20度になる。
【0098】
続いて、EBSD法によって得られた測定結果を、すなわちEBSDパターンを解析して、試験片50の断面50cに現れる結晶粒51の平均断面積を算出する。EBSD法による結晶解析の条件の一例は、以下の通りである。
・ステップサイズ:70nm
解析条件:
株式会社TSLソリューションズ製の結晶方位解析ソフト OIM(Ver7.3)を使用して、以下の解析を実施する。
【0099】
結晶粒の平均断面積が大きい場合は、SEMでの観察倍率を第1倍率とする。例えば、結晶粒の平均断面積が2μm以上の場合は、SEMでの観察倍率を第1倍率とする。第1倍率は、例えば2000倍である。また、解析の対象になる測定領域に現れる結晶粒の数が1000個未満である場合、測定対象領域をずらしながら金属板64の断面の複数の位置で画像を取得し、得られた複数の画像を連結することにより、1000個以上の結晶粒が現れる画像を生成してもよい。このとき、金属板64の試験片50の厚み方向の中心から両端までを測定領域とし、断面50cに樹脂が付着している部分や、耐酸性皮膜が存在している部分は、測定領域から除外する。
【0100】
結晶粒の平均断面積が小さい場合は、SEMでの観察倍率を、第1倍率よりも高い第2倍率とする。例えば、結晶粒の平均断面積が2μm未満の場合は、SEMでの観察倍率を第2倍率とする。第2倍率は、例えば5000倍である。この場合も、必要であれば、得られた複数の画像を連結することにより、1000個以上の結晶粒が現れる画像を生成してもよい。
【0101】
株式会社TSLソリューションズ製の結晶方位解析ソフト OIM(Ver7.3)にて定義される信頼性指数(Confidence Index:CI値)が所定値以下のデータは排除して、解析を実施する。例えば、CI値が0.15以下のデータを排除する。これにより、試料56の表裏に存在する、前処理に使用した樹脂や、試料56の断面に存在している粒界や、アモルファスの影響を排除することができる。
【0102】
本実施の形態によれば、EBSD法を採用することにより、金属板64の結晶粒の寸法に関する情報を精度良く得ることができる。このため、金属板64の検査工程を高い精度で実施することができる。
【0103】
図27は、結晶粒の平均断面積が0.5μm以上50μm以下である金属板を合格と判定する判定条件に基づいて選別された複数の金属板64の、結晶粒の平均断面積の分布の一例を示す図である。図27において、横軸は、各金属板64において算出された結晶粒の平均断面積の値を表す。また、縦軸は、横軸に示された範囲の結晶粒の平均断面積を有する金属板64の個数を示す。例えば、選別された複数の金属板64のうち、20μm以上30μm未満の結晶粒の平均断面積を有する金属板64の個数は15である。なお、図27に示すように、測定誤差などに起因して、選別された金属板64の一部が、0.5μm未満又は50μmを超える結晶粒の平均断面積を有する場合もある。
【0104】
図28は、結晶粒の平均断面積が10μm以上40μm以下である金属板を合格と判定する判定条件に基づいて選別された複数の金属板64の、結晶粒の平均断面積の分布の一例を示す図である。図28に示す横軸及び縦軸の意味は、図27の場合と同一である。図28の例では、図27の例に比べて、合格と判定されて選別される金属板64の範囲が狭い。この場合、図28に示す選別を実施すると、図27に示す選別を実施することにもなる。
【0105】
上述の説明においては、結晶粒の平均断面積に基づいて金属板64を検査する検査工程を、金属板64の合否を判定するために、すなわち金属板64の選別のために実施する例を示した。すなわち、検査工程が、金属板64の製造方法において金属板64を選別する選別工程として機能する例を示した。しかしながら、検査工程は、金属板64の製造方法における金属板64の選別以外の目的で用いられてもよい。
【0106】
なお、選別工程における選別条件は任意である。例えば、選別工程は、上限を規定する上述の複数の第2閾値の候補のうちの任意の1つと、下限を規定する上述の複数の第1閾値の候補のうちの任意の1つの組み合わせによって定められる範囲に属する結晶粒の平均断面積を有する金属板64を選別してもよい。また、選別工程は、上限を規定する上述の複数の第2閾値の候補のうちの任意の2つの組み合わせによって定められる範囲に属する結晶粒の平均断面積を有する金属板64を選別してもよい。また、選別工程は、下限を規定する上述の複数の第1閾値の候補のうちの任意の2つの組み合わせによって定められる範囲に属する結晶粒の平均断面積を有する金属板64を選別してもよい。
【0107】
検査工程を金属板64の製造方法における金属板64の選別以外の目的で用いる例について説明する。例えば、結晶粒の平均断面積に基づく金属板64の検査は、圧延工程の条件やアニール工程の条件などの、金属板64を製造するための条件を最適化するために利用されてもよい。具体的には、まず、様々な圧延条件やアニール条件で金属板64を製造し、得られた金属板64の結晶粒の平均断面積を算出する。また、圧延条件及びアニール条件と、得られた金属板64の結晶粒の平均断面積とを照らし合わせる。これによって、結晶粒の平均断面積が0.5μm以上且つ50μm以下である金属板64を高い確率で製造するための圧延条件及びアニール条件などを見出すことができる。このように、結晶粒の平均断面積に基づく金属板64の検査は、適切な圧延条件及びアニール条件を見出すために利用されてもよい。この場合、実際の製造工程において得られた金属板64の全てに対して、結晶粒の平均断面積を算出する検査工程を実施する必要はない。例えば、一部の金属板64に対してのみ検査工程を実施してもよい。若しくは、圧延条件及びアニール条件などの製造条件がいったん設定された後は、結晶粒の平均断面積を算出する検査工程が全く実施されなくてもよい。
【0108】
図29は、結晶粒の平均断面積が0.5μm以上50μm以下である金属板64を合格とする判定条件を利用して見出された製造条件に基づいて製造された複数の金属板64の、結晶粒の平均断面積の分布の一例を示す図である。図29に示す横軸及び縦軸の意味は、図27の場合と同一である。図29の例においては、選別工程を実施しない場合であっても、製造された複数の金属板64が0.5μm以上50μm以下の結晶粒の平均断面積を有している。
【0109】
また、圧延工程の後、若しくはアニール工程の後、金属板64の外観を検査する外観検査工程を実施してもよい。外観検査工程は、自動検査機を用いて金属板64の外観を検査する工程を含んでいてもよい。また、外観検査工程は、目視で金属板64の外観を検査する工程を含んでいてもよい。
【0110】
また、圧延工程の後、若しくはアニール工程の後、金属板64の形状を検査する形状検査工程を実施してもよい。例えば、3次元測定器を用いて、厚み方向における金属板64の表面の位置を金属板64の所定の領域内で測定してもよい。
【0111】
本実施の形態による金属板の製造方法によれば、上述の判定条件を満たす結晶粒の平均断面積を有する金属板64を得ることができる。例えば、結晶粒の平均断面積が0.5μm以上50μm以下である金属板64を得ることができる。
【0112】
なお、上述の形態においては、検査工程における金属板64の合否判定や金属板64の選別において、結晶粒の平均断面積の下限を規定する第1閾値、及び結晶粒の平均断面積の上限を規定する第2閾値の両方が用いられる例を示した。しかしながら、これに限られることはなく、検査工程における金属板64の合否判定や金属板64の選別において、第1閾値又は第2閾値のいずれか一方のみが用いられてもよい。
例えば、結晶粒の平均断面積が第1閾値以上である金属板64を、合格と判定したり選別したりしてもよい。金属板64の結晶粒の平均断面積が第1閾値以上であることにより、金属板64に溶接性を持たせることができる。
若しくは、結晶粒の平均断面積が第2閾値以下である金属板64を、合格と判定したり選別したりしてもよい。金属板64の結晶粒の平均断面積が第2閾値以下であることにより、金属板64に強度を持たせることができる。
【0113】
また、上述の形態においては、金属板64の厚みを低減させる方法として圧延が採用される例を示したが、これには限られない。例えば、金属板64を、第1面64a側から、第2面64b側から、又は、第1面64a側及び第2面64b側の両方からエッチングすることによって、金属板64の厚みを低減してもよい。このようなエッチングは、圧延工程に替えて実施されてもよく、圧延工程に加えて実施されてもよい。
【0114】
エッチングによって金属板64の厚みを低減する場合であっても、エッチング後の金属板64の結晶粒の平均断面積が第1閾値以上であることにより、金属板64に溶接性を持たせることができる。また、エッチング後の金属板64の結晶粒の平均断面積が第2閾値以下であることにより、金属板64に強度を持たせることができる。なお、金属板64の結晶粒の断面積などは、エッチングによっては変化しない。
【0115】
次に、結晶粒の平均断面積が第1閾値以上第2閾値以下である金属板64を用いて、例えば結晶粒の平均断面積が0.5μm以上且つ50μm以下である金属板64を用いて蒸着マスク20を製造する方法について、主に図11図15を参照して説明する。図11は、金属板64を用いて蒸着マスク20を製造する製造装置59を示す図である。まず、金属板64をコア61に巻き取った巻き体62を準備する。そして、このコア61を回転させて巻き体62を巻き出すことにより、図11に示すように、帯状に延びる金属板64を供給する。
【0116】
供給された金属板64は、搬送ローラー72によって、加工装置70、分離装置73へ順に搬送される。加工装置70は、金属板64を加工して金属板64に貫通孔25を形成する加工工程を実施する。なお本実施の形態においては、複数枚の蒸着マスク20に対応する多数の貫通孔25を金属板64に形成する。言い換えると、金属板64に複数枚の蒸着マスク20を割り付ける。分離装置73は、金属板64のうち1枚分の蒸着マスク20に対応する複数の貫通孔25が形成された部分を金属板64から分離する分離工程を実施する。このようにして、枚葉状の蒸着マスク20を得ることができる。
【0117】
図12乃至図15を参照して、加工工程について説明する。まず、金属板64の第1面64a上および第2面64b上に感光性レジスト材料を含むレジスト膜を形成する。例えば、カゼインなどの感光性レジスト材料を含む塗布液を金属板64に塗布し、その後、塗布液を乾燥させることにより、レジスト膜を形成する。若しくは、金属板64にドライフィルムを貼り付けることにより、レジスト膜を形成してもよい。続いて、レジスト膜を露光及び現像する。これにより、図12に示すように、金属板64の第1面64a上に第1レジストパターン65aを形成し、金属板64の第2面64b上に第2レジストパターン65bを形成することができる。
【0118】
次に、図13に示すように、金属板64の第1面64aのうち第1レジストパターン65aによって覆われていない領域を、第1エッチング液を用いてエッチングする第1面エッチング工程を実施する。例えば、第1エッチング液を、搬送される金属板64の第1面64aに対面する側に配置されたノズルから、第1レジストパターン65a越しに金属板64の第1面64aに向けて噴射する。この結果、図13に示すように、金属板64のうちの第1レジストパターン65aによって覆われていない領域で、第1エッチング液による浸食が進む。これによって、金属板64の第1面64aに多数の第1凹部30が形成される。第1エッチング液としては、例えば塩化第2鉄溶液及び塩酸を含むものを用いる。
【0119】
次に、図14に示すように、金属板64の第2面64bのうち第2レジストパターン65bによって覆われていない領域をエッチングし、第2面64bに第2凹部35を形成する第2面エッチング工程を実施する。第2面エッチング工程は、第1凹部30と第2凹部35とが互いに通じ合い、これによって貫通孔25が形成されるようになるまで実施される。第2エッチング液としては、上述の第1エッチング液と同様に、例えば塩化第2鉄溶液及び塩酸を含むものを用いる。なお、第2面エッチング工程の際、図14に示すように、第2エッチング液に対する耐性を有した樹脂69によって第1凹部30が被覆されていてもよい。
【0120】
その後、図15に示すように、金属板64から樹脂69を除去する。樹脂69は、例えばアルカリ系剥離液を用いることによって、除去することができる。アルカリ系剥離液が用いられる場合、図15に示すように、樹脂69と同時にレジストパターン65a,65bも除去される。なお、樹脂69を除去した後、樹脂69を剥離させるための剥離液とは異なる剥離液を用いて、樹脂69とは別途にレジストパターン65a,65bを除去してもよい。
【0121】
その後、金属板64に割り付けられた複数の蒸着マスク20を1つ1つ取り出す。例えば、金属板64のうち1枚分の蒸着マスク20に対応する複数の貫通孔25が形成された部分を金属板64のその他の部分から分離する。これにより、蒸着マスク20を得ることができる。
【0122】
続いて、蒸着マスク20を検査する蒸着マスク検査工程を実施してもよい。蒸着マスク検査工程においては、例えば、蒸着マスク20を構成する金属板64の表面に局所的な突起や凹みなどの変形部が存在するか否かを検査する。図16は、金属板64に形成され得る変形部28の一例を示す図である。図16に示す例において、変形部28は、金属板64の第2面64bに形成された局所的な凹みである。
【0123】
図17は、図16の金属板64の変形部28の断面形状の一例を示す図である。図17に示すように、第2面64bに局所的な凹みとして形成された変形部28は、第1面64a側においては局所的な凸部として現れていてもよい。金属板64の面方向における変形部28の寸法K1は、例えば0.5μm~数mmである。また、変形部28が局所的な凹みである場合、凹みの深さK2は、例えば0.5μm~10μmである。
【0124】
蒸着マスク検査工程においては、例えば、図17に示すように、蒸着マスク20を構成する金属板64の第1面64a又は第2面64bに光L1を照射して、金属板64に変形部28が存在するか否かを目視で確認する。蒸着マスク20の金属板64の第1面64a又は第2面64bに変形部28が存在しない場合、蒸着マスク20を合格とし、1つでも変形部28が存在する場合、蒸着マスク20を不合格としてもよい。
【0125】
本実施の形態においては、上述のように、結晶粒の平均断面積が50μm以下である金属板64を用いて蒸着マスク20を製造する。このため、金属板64の厚みが30μm以下である場合であっても、金属板64の強度を確保することができる。従って、蒸着マスク20の製造工程の間に金属板64に変形部28が形成されることを抑制することができる。このため、蒸着マスク検査工程において不合格と判定される蒸着マスク20の比率を低くすることができる。
【0126】
次に、上述のようにして得られた蒸着マスク20をフレーム15に固定する固定工程を実施した。これによって、蒸着マスク20及びフレーム15を備える蒸着マスク装置10を得ることができる。
【0127】
固定工程においては、まず、蒸着マスク20に張力を加えた状態でフレーム15に対する蒸着マスク20の位置を調整する架張工程を実施した。架張工程においては、まず、図18に示すように、蒸着マスク20の耳部17a,17bを、クランプ部15aにより挟み込んで把持する。図18に示す例においては、1つの耳部17aが2つのクランプ部15aによって把持されている。なお、クランプ部15aの数や配置は任意である。続いて、クランプ部15aに連結された引張部15bを介して蒸着マスク20に張力を加えながら、蒸着マスク20の全ての貫通孔25の位置と有機EL基板92(若しくは有機EL基板92を模擬した基板)上の電極の位置との差が所定の基準値以下になるよう、蒸着マスク20の位置や張力を調整する。基準値は、例えば5μmである。
【0128】
溶接工程においては、まず、図19Aに示すように、蒸着マスク20の耳部17を、第2面20bがフレーム15に面するようにフレーム15上に配置する。続いて、蒸着マスク20の耳部17を加熱して耳部17をフレーム15に溶接する。耳部17を加熱する方法としては、例えば、耳部17にレーザー光L2を照射する方法を採用することができる。レーザー光L2としては、例えば、YAGレーザー装置によって生成されるYAGレーザー光を用いることができる。レーザー光L2のスポット径Sは、例えば0.1mm以上且つ0.3mm以下である。
【0129】
YAGレーザー装置としては、例えば、YAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)にNd(ネオジム)を添加した結晶を発振用媒質として備えたものを用いることができる。この場合、基本波として、波長が約1064nmのレーザー光が生成される。また、基本波を非線形光学結晶に通すことによって、波長が約532nmの第2高調波が生成される。また、基本波および第2高調波を非線形光学結晶に通すことによって、波長が約355nmの第3高調波が生成される。YAGレーザー光の第3高調波は、ニッケルを含む鉄合金に吸収され易い。従って耳部17を構成する金属板64がニッケルを含む鉄合金を有する場合、耳部17に照射されるレーザー光L2がYAGレーザー光の第3高調波を含むことが好ましい。
【0130】
耳部17にレーザー光L2を照射すると、蒸着マスク20の耳部17の一部及びフレーム15の一部が溶融して、図19Bに示すように、耳部17及びフレーム15に跨る溶接部19が形成される。
【0131】
ところで、本実施の形態においては、上述のように、金属板64の結晶粒が微細化されている。具体的には、金属板64の結晶粒の平均断面積が50μm以下になっている。一方、加熱されて溶融した後に固化する溶接部19においては、再結晶化によって新たな結晶粒が生成される。溶接部19に新たに生成される結晶粒の寸法は、元々存在していた結晶粒の寸法よりも一般に大きい。このため、溶接後の金属板64においては、溶接部19の結晶粒の寸法が、溶接部19の周囲部分の結晶粒の寸法よりも大きくなることが考えられる。結晶粒の寸法の差が大きいと、クラックなどの欠陥が金属板64に形成され易くなってしまう。図20は、金属板64から作製された蒸着マスク20の耳部17を部材16に溶接した場合に形成された溶接部19を示す断面写真である。部材16としては、耳部17よりも大きな厚みを有するインバー材を用いた。図21は、図20の溶接部19を拡大して示す図である。図20及び図21に示す例においては、耳部17のうち溶接部19とその周囲部分との間の境界や、部材16の表面にクラック54が形成されている。
【0132】
図20及び図21における断面観察方法は以下のとおりである。まず、耳部17を部材16に溶接する。その後、溶接部19を含む部分を、金属鋏を用いて切り出して、観察対象物を作製する。続いて、イオンミリング装置を用いて観察対象物を加工して、観察対象の断面を生成する。
【0133】
イオンミリング装置としては、日本電子株式会社製のクロスセクションポリッシャ IB-09010CPを用いることができる。加工条件の一例は以下の通りである。
加工条件:6kV、1.5時間、突出幅100μm
【0134】
なお、通常の加工においては、観察対象物を樹脂で包埋した後にアルゴンイオンの照射を行う。しかしながら、本件においては、観察対象物を樹脂で包埋した場合には、観察対象の断面の位置を溶接部19の中央部に調整することが困難であったので、観察対象物を樹脂で包埋することなくアルゴンイオンの照射を行った。このため、図21及び後述する図23において符号W1が付された点線で囲った領域に現れているように、観察対象物の耳部17側の表面に、アルゴンイオンから受けたダメージに起因する筋状の加工痕が存在している。また、図21において符号W2が付された点線で囲った領域に現れているように、耳部17と部材16との間の隙間には、加工によって除去された材料が堆積した堆積層が形成されることがある。なお、本願発明者は、これらの加工痕及び堆積層は、溶接部19及びその周囲部分における結晶状態の観察やクラックの有無の確認には特に悪影響を及ぼさないと考えている。
【0135】
続いて、SEMを用いて断面を観察する。SEMとしては、例えば、カールツァイス社製のULTRA55を用いることができる。SEMでの観察条件の一例は以下の通りである。
・加速電圧:5kV
・ワーキングディスタンス:4.5mm
・検出器:Inlens
・Aperture:60μm High Current
・観察倍率:200倍及び1000倍(撮影時の観察倍率基準は、Polaroid545とする)
【0136】
図20及び図21に示すクラック54は、溶接部19の結晶粒の寸法と、溶接部19の周囲部分の結晶粒の寸法との差が大きいことに起因して生じていると考えられる。ここで本実施の形態においては、上述のように、結晶粒の平均断面積が0.5μm以上である金属板64を用いて蒸着マスク20を製造する。このため、溶接部19の結晶粒の寸法と、溶接部19の周囲部分の結晶粒の寸法との間の差が大きくなることを抑制することができる。従って、溶接部19が形成された後の金属板64の表面にクラックが形成されることを抑制することができる。図22は、クラックが形成されなかった金属板64及びフレーム15の断面写真である。また、図23は、図22の溶接部19を拡大して示す図である。
【0137】
なお、上述した実施の形態に対して様々な変更を加えることが可能である。以下、必要に応じて図面を参照しながら、変形例について説明する。以下の説明および以下の説明で用いる図面では、上述した実施の形態と同様に構成され得る部分について、上述の実施の形態における対応する部分に対して用いた符号と同一の符号を用いることとし、重複する説明を省略する。また、上述した実施の形態において得られる作用効果が変形例においても得られることが明らかである場合、その説明を省略することもある。
【0138】
上述の本実施の形態においては、耳部17にレーザー光L2を照射することによって耳部17をフレーム15に溶接する例を示した。しかしながら、耳部17を加熱する方法が、レーザー光L2を照射する方法に限られることはない。例えば耳部17及びフレーム15に電流を流すことにより、耳部17を加熱してもよい。
【0139】
上述の本実施の形態においては、金属板64が、母材を圧延することによって得られる例を示した。しかしながら、これに限られることはなく、めっき処理を利用した製箔工程によって、所望の厚さを有する金属板64を作製してもよい。製箔工程においては、例えば、めっき液の中に部分的に浸漬されたステンレス製などのドラムを回転させながら、ドラムの表面にめっき膜を形成し、このめっき膜を剥がしていくことにより、長尺状の金属板をロールトゥーロールで作製することができる。ニッケルを含む鉄合金からなる金属板を作製する場合、めっき液としては、ニッケル化合物を含む溶液と、鉄化合物を含む溶液との混合溶液を用いることができる。例えば、スルファミン酸ニッケルを含む溶液と、スルファミン酸鉄を含む溶液との混合溶液を用いることができる。めっき液には、マロン酸やサッカリンなどの添加剤が含まれていてもよい。
【0140】
このようにして得られた金属板に対して、次に、上述のアニール工程を実施してもよい。また、アニール工程の前又は後に、金属板の幅を所望の幅に調整するために金属板の両端を切り落とす上述のスリット工程を実施してもよい。
【0141】
めっき処理を利用して金属板を作製した場合も、上述の本実施の形態の場合と同様に、金属板64(めっき膜)の長手方向に直交する平面に対して-10°以上+10°以下の角度を成す断面に現れる結晶粒の平均断面積が0.5μm以上且つ50μm以下となるように金属板64を製造する。例えば、めっき液の組成や、製箔工程における温度や時間などの条件を調整する。また、アニール工程の条件を調整してもよい。結晶粒の平均断面積を0.5μm以上且つ50μm以下とすることにより、上述の実施の形態の場合と同様に、金属板の厚みが30μm以下の場合であっても、金属板に強度及び溶接性を持たせることができる。これによって、蒸着マスク20の製造工程や蒸着マスク20の取り扱いの際に金属板に凹みなどの局所的な変形部が形成されることを抑制することができる。また、蒸着マスク20をフレーム15に溶接する際に蒸着マスク20又はフレーム15にクラックなどの欠陥が形成されることを抑制することができる。なお、めっき膜の長手方向とは、ドラムを回転させながらドラムの表面に金属をめっき処理によって成膜することにより形成される長尺状の金属板が延びる方向である。
【0142】
上述の本実施の形態においては、蒸着マスク20が、金属板64をエッチングして金属板64に貫通孔25を形成することによって製造される例を示した。しかしながら、これに限られることはなく、貫通孔25に対応する所定のパターンで基板上にめっき層を形成し、めっき層を基板から剥離することにより、蒸着マスク20を製造してもよい。このような蒸着マスク20の製造方法については、例えば特開2016-148112号公報に開示されているので、ここでは詳細な説明を省略する。
【0143】
めっき法によって蒸着マスク20を製造する場合も、蒸着マスク20を構成するめっき層からなる金属板64の結晶粒の平均断面積が0.5μm以上且つ50μm以下となるように蒸着マスク20を製造する。例えば、めっき液の組成や、めっき工程における温度や時間などの条件を調整する。また、めっき工程後に実施するアニール工程の条件を調整してもよい。結晶粒の平均断面積を0.5μm以上且つ50μm以下とすることにより、上述の実施の形態の場合と同様に、金属板の厚みが30μm以下の場合であっても、金属板に強度及び溶接性を持たせることができる。これによって、蒸着マスク20の製造工程や蒸着マスク20の取り扱いの際に金属板に凹みなどの局所的な変形部が形成されることを抑制することができる。また、蒸着マスク20をフレーム15に溶接する際に蒸着マスク20又はフレーム15にクラックなどの欠陥が形成されることを抑制することができる。
【実施例
【0144】
次に、本開示の実施の形態を実施例により更に具体的に説明するが、本開示の実施の形態はその要旨を超えない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
【0145】
(第1例)
はじめに、36質量%のニッケルと、残部の鉄および不可避の不純物と、を含む鉄合金から構成された、40μmの厚みを有する金属板64を、圧延法により作製した。圧延前の金属板の厚みは100μmであった。従って、圧下率は60%である。
【0146】
続いて、上述のEBSD法を用いて、EBSDパターンを測定した。また、EBSDパターンを解析して、金属板64の断面に現れる結晶粒の平均断面積を算出した。結果、平均断面積は113.4μmであった。
【0147】
EBSD法による測定の条件は下記の通りである。
・SEMでの観察倍率:2000倍又は5000倍(撮影時の観察倍率基準は、Polaroid545とする)
・SEMでの加速電圧:15kV
・SEMでのワーキングディスタンス:15mm
・試料傾斜角度φ1:70度
・EBSDのステップサイズ(SEMでの観察倍率が2000倍の場合):70nm
・EBSDのステップサイズ(SEMでの観察倍率が5000倍の場合):50nm
【0148】
SEMでの観察倍率について詳細に説明する。結晶粒の平均断面積が大きい場合は、SEMでの観察倍率を2000倍とした。具体的には、結晶粒の平均断面積が2μm以上の場合(後述する第1例~第8例及び第10例~第14例の場合)は、SEMでの観察倍率を2000倍とした。
なお、SEMでの観察倍率が2000倍である場合(撮影時の観察倍率基準は、Polaroid545とする)、画像のサイズは、約60μm×約45μmである。この場合、約45μmの寸法の方向が金属板64の厚み方向に一致するよう、金属板64の断面を測定する。このため、1枚の画像に現れる金属板64の断面の面積(以下、測定有効面積と称する)は、「金属板64の厚さ(13~40μm)×約60μm」になる。
測定有効面積に現れる結晶粒の数が1000個未満である場合、測定対象領域を約50μmずつずらしながら金属板64の断面の複数の位置で画像を取得し、得られた複数の画像を連結することにより、1000個以上の結晶粒が現れる画像を生成した。
【0149】
結晶粒の平均断面積が小さい場合は、SEMでの観察倍率を5000倍とした。具体的には、結晶粒の平均断面積が2μm未満の場合(後述する第9例、第15例、第16例の場合)は、SEMでの観察倍率を5000倍とした。
なお、SEMでの観察倍率が5000倍である場合(撮影時の観察倍率基準は、Polaroid545とする)、画像のサイズは、約24μm×約18μmである。この場合、約18μmの寸法の方向が金属板64の厚み方向に一致するよう、金属板64の断面を測定する。
結晶粒の平均断面積が2μm未満の場合、1回の測定(1枚の画像)で1000個以上の結晶粒を観察することができたので、複数の画像を連結する必要がなかった。
【0150】
EBSDパターンを解析するソフトとしては、株式会社TSLソリューションズ製の結晶方位解析ソフト OIM(Ver7.3)を用いた。
EBSDパターンの解析工程においては、結晶方位の差が5度以上の部分を結晶粒界52と認定する条件下でエリア法による解析を行った。また、解析工程においては、結晶方位解析ソフト OIM(Ver7.3)にて定義されるCI値が0.15以下のデータを排除して解析を実施した。これにより、試料56の表裏に存在する、前処理に使用した樹脂や、試料56の断面に存在している粒界や、アモルファスの影響を排除することができる。エリア法による解析においては、CI値が0.15を超える結晶粒の断面積の平均値をArea Function法で算出し、結晶粒の平均断面積とする。Area Function法では、a, b, c, dという断面積の結晶を含む測定対象領域の面積の合計が100である場合、以下の式(1)のように面積による重みづけを考慮して、平均断面積が算出される。
平均断面積=(a×a/100)+(b×b/100)+(c×c/100)+(d×d/100)・・・(1)
【0151】
続いて、金属板64を用いて蒸着マスク20を製造した。その後、蒸着マスク20を構成する金属板64の強度を評価した。具体的には、得られた蒸着マスク20の表面に凹みなどの変形部28が存在しているか否かを、図17に示すように蒸着マスク20に光L1を照射して観察した。結果、変形部28は存在していなかった。
【0152】
蒸着マスク20の表面の観察条件は下記のとおりである。
・光L1の輝度:500lux~2000lux、例えば1000lux
・光L1の光源:三波長蛍光灯
・光L1の入射角度:15度~45度
・光源から蒸着マスクの表面までの距離:30cm~100cm、例えば50cm
・視点から蒸着マスクの表面までの距離:15cm
【0153】
続いて、蒸着マスク20の溶接性を評価した。具体的には、蒸着マスク20の耳部17にレーザー光L2を照射して耳部17をフレーム15に溶接し、耳部17とフレーム15との間の溶接強度を測定した。耳部17をフレーム15に溶接する際の条件は下記のとおりである。
・レーザー光L2の波長:355nm
・レーザー光L2のスポット径:200μm
・レーザー光L2の出力:0.3kW
・レーザー光L2の照射時間:0.3ms
【0154】
溶接強度とは、溶接部19によってフレーム15に溶接された蒸着マスク20の耳部17をフレーム15から剥がすために要する力の大きさである。図24に、溶接部19の溶接強度を測定する方法の一例を示す。溶接強度の測定工程においては、まず、蒸着マスク20の耳部17の一部を切り出すことによって得られたサンプル17Sを、フレーム15に溶接する。次に、図24に示すように、サンプル17Sの長手方向における端部に、フレーム15の法線方向に沿う方向における引っ張り力Eを加える。この場合、サンプル17Sが破断する、又はサンプル17Sがフレーム15から剥がれるときの引っ張り力Eが、溶接部19の溶接強度である。なお、サンプル17Sの長手方向は、金属板64の圧延方向D1に平行である。蒸着マスク20は一般に、その長手方向が金属板64の圧延方向D1に平行になるよう、金属板64から製造される。従って、圧延方向D1は、蒸着マスク20の長手方向に基づいて認識され得る。
【0155】
なお、蒸着マスク20の長手方向が金属板64の圧延方向D1とは非平行であるよう、金属板64から蒸着マスク20を製造してもよい。この場合、金属板64の結晶粒が延びる方向に基づいて圧延方向D1を認定してもよい。なぜなら、圧延によって製造された金属板64において、結晶粒は、圧延方向D1に平行に延びているからである。
【0156】
1つの蒸着マスク20から7つのサンプル17Sを作製し、各サンプル17Sについて溶接強度を測定した。結果、溶接強度の平均値は157mNであった。また、溶接部19と周囲部分との境界にクラックが形成されていた。
【0157】
(第2例~第16例)
金属板の厚み、組成又は製造条件のうちの少なくとも1つを、上述の第1例の場合から変更して、第2例~第16例に係る金属板64を作製した。各例の金属板64の厚みは下記のとおりである。なお、第1例~第8例及び第10例~第14例においては、鉄合金の母材を圧延することにより金属板64を作製した。一方、第9例、第15例及び第16例においては、めっき処理を利用した製箔工程によって金属板64を作製した。圧延によって金属板64を作製した例については、圧延後の金属板の厚みT2と併せて、圧延前の金属板の厚みT1及び圧下率を下記に示す。
・第2例:T1=100μm、T2=35μm、圧下率=65%
・第3例:T1=100μm、T2=30μm、圧下率=70%
・第4例:T1=75μm、T2=30μm、圧下率=60%
・第5例:T1=100μm、T2=25μm、圧下率=75%
・第6例:T1=50μm、T2=20μm、圧下率=60%
・第7例:T1=80μm、T2=20μm、圧下率=75%
・第8例:T1=100μm、T2=20μm、圧下率=80%
・第9例:20μm
・第10例:T1=37.5μm、T2=15μm、圧下率=60%
・第11例:T1=50μm、T2=15μm、圧下率=70%
・第12例:T1=100μm、T2=15μm、圧下率=85%
・第13例:T1=300μm、T2=15μm、圧下率=95%
・第14例:T1=100μm、T2=13μm、圧下率=87%
・第15例~第16例:10μm
【0158】
また、第1例の場合と同様にして、第2例~第16例に係る金属板64の断面に現れる結晶粒の平均断面積を算出した。結果を図25にまとめて示す。図25の「判定」の欄において、「OK」は、結晶粒の平均断面積が0.5μm以上且つ50μm以下であったことを意味する。また、「NG」は結晶粒の平均断面積が0.5μm未満である、又は50μmを超えていたことを意味する。
【0159】
また、第1例の場合と同様にして、第2例~第16例に係る金属板64を用いて蒸着マスク20を作製した。続いて、第1例の場合と同様にして、得られた蒸着マスク20の表面に凹みなどの変形部28が存在しているか否かを観察した。また、第1例の場合と同様にして、蒸着マスク20の耳部17をフレーム15に溶接して、溶接強度を測定した。結果をまとめて図25に示す。
【0160】
第9例、第15例及び第16例においては、金属板64の結晶粒の平均断面積が0.5μm未満であった。この結果、溶接強度が200mN未満になっていた。また、溶接部19と周囲部分との境界にクラックが形成されていた。
【0161】
第4例、第6例及び第10例においては、金属板64の結晶粒の平均断面積が50μmを超えていた。この結果、蒸着マスク20の表面に凹みなどの変形部28が存在していた。
【0162】
これに対して、第3例、第5例、第7例、第8例、第11例~第14例に係る、厚みが10μm~30μmの金属板64においては、結晶粒の平均断面積が0.5μm以上且つ50μm以下であった。この結果、溶接強度を200mN以上に、より具体的には220mN以上にすることができた。また、蒸着マスク20の表面に凹みなどの変形部28が形成されることを抑制することができた。すなわち、金属板64における強度及び溶接性を両立させることができた。
【0163】
なお、第1例及び第2例に係る、厚みが35μm以上の金属板64においては、結晶粒の平均断面積が50μmを超えていたが、蒸着マスク20の表面に凹みなどの変形部28は形成されなかった。蒸着マスク20の厚みが大きく、このため蒸着マスク20が十分に高い強度を有していたため、結晶粒の平均断面積に依らず凹みなどの変形部28が形成されなかったと考えられる。従って、本実施の形態における、結晶粒の平均断面積を50μm以上にするという基準は、金属板64の厚みが30μm以下の場合に特に有効であると言える。なお、第1例、第2例に示すような、厚みが35μm以上の金属板64は、金属板64から作製された蒸着マスク20における蒸着材料98の利用効率が低くなる点で、厚みが30μm以下の金属板64に比べて不利である。
【0164】
図26は、横軸を金属板64の厚みとし、縦軸を金属板64の結晶粒の平均断面積として、各例に係る金属板64のデータをプロットした散布図である。図26において、「○」のマーカーは、溶接強度が200mN以上であり、且つ変形部28が形成されなかった例を示す。「△」のマーカーは、溶接強度が200mN未満であった例を示す。「□」のマーカーは、変形部28が形成された例を示す。また、図26において、点線で囲んだ領域は、金属板64の厚みが30μm以下であり、且つ結晶粒の平均断面積が0.5μm以上且つ50μm以下である領域である。図26から明らかなように、点線で囲んだ領域においては、金属板64に強度及び溶接性を持たせることができた。
【符号の説明】
【0165】
10 蒸着マスク装置
15 フレーム
19 溶接部
20 蒸着マスク
22 有効領域
23 周囲領域
25 貫通孔
28 変形部
30 第1凹部
31 壁面
35 第2凹部
36 壁面
41 接続部
41a 欠け部
43 トップ部
50 試験片
50c 断面
51 結晶粒
52 結晶粒界
54 クラック
55 樹脂
56 試料
57 対物レンズ
58 EBSD検出器
59 製造装置
64 金属板
65a 第1レジストパターン
65b 第2レジストパターン
70 加工装置
72 搬送ローラー
73 分離装置
90 蒸着装置
92 有機EL基板
98 蒸着材料
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19A
図19B
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29