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特許7169468改良された網膜オルガノイドおよびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-01
(45)【発行日】2022-11-10
(54)【発明の名称】改良された網膜オルガノイドおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20221102BHJP
   C12N 5/02 20060101ALI20221102BHJP
   C12N 5/10 20060101ALN20221102BHJP
【FI】
C12N5/071
C12N5/02
C12N5/10
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2021573323
(86)(22)【出願日】2020-06-08
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-02
(86)【国際出願番号】 GB2020051387
(87)【国際公開番号】W WO2020249935
(87)【国際公開日】2020-12-17
【審査請求日】2022-01-31
(31)【優先権主張番号】1908224.7
(32)【優先日】2019-06-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】521539395
【氏名又は名称】ニューセルス バイオテック リミテッド
【氏名又は名称原語表記】NEWCELLS BIOTECH LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100181847
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 かおり
(72)【発明者】
【氏名】ヴァレリア チチャゴバ
(72)【発明者】
【氏名】ライル アームストロング
(72)【発明者】
【氏名】マジリンダ ラコ
【審査官】林 康子
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-502407(JP,A)
【文献】IOVS, 2018, Vol. 59, No.6, pp.2586-2603
【文献】Neuron, 2017, VOl. 94, pp.278-293
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミクログリア細胞またはミクログリア前駆細胞と網膜オルガノイドとを、ミクログリア細胞がオルガノイドに組み込まれる条件下で共培養する工程を含む、網膜組織または網膜オルガノイドを得るための方法。
【請求項2】
ミクログリア細胞および/またはミクログリア前駆細胞の集団を得る工程と、
多能性幹細胞由来網膜オルガノイドを得る工程と、
前記ミクログリア細胞と前記網膜オルガノイドを、前記ミクログリア細胞が前記オルガノイドに組み込まれる条件下で共培養する工程と、
を含む、請求項に記載の網膜組織または網膜オルガノイドを得るための方法。
【請求項3】
得られたミクログリアまたはミクログリア前駆細胞の集団が、CD14および/またはCX3CR1に対して陽性である>40%の細胞を有する、請求項に記載の網膜組織または網膜オルガノイドを得るための方法。
【請求項4】
前記ミクログリア細胞の集団を得る工程が、多能性幹細胞を造血前駆細胞に分化させ、次いでミクログリア前駆細胞またはミクログリア様細胞に分化させることを含む、請求項のいずれかに記載の網膜組織または網膜オルガノイドを得るための方法。
【請求項5】
ミクログリア細胞またはミクログリア前駆細胞の集団を得るとき、それらが人工多能性幹細胞由来ミクログリア細胞である、請求項のいずれかに記載の網膜組織または網膜オルガノイドを得るための方法。
【請求項6】
前記多能性幹細胞由来網膜オルガノイドが、天然に存在する網膜に類似する層状構造を有し、ミクログリア細胞、任意の網膜色素上皮(RPE)層、並びに、光受容体細胞(PRC)、アマクリン細胞、ミュラーグリア細胞、水平細胞、双極細胞および網膜神経節細胞から選択される複数の細胞タイプを含む、請求項のいずれかに記載の網膜組織または網膜オルガノイドを得るための方法。
【請求項7】
多能性幹細胞由来網膜オルガノイドがAP-2α、HuC/D、Prox1、リカバリンおよび/またはCRXに対して陽性である、請求項のいずれかに記載の網膜組織または網膜オルガノイドを得るための方法。
【請求項8】
前記ミクログリア細胞と前記網膜オルガノイドとを共培養する前に、前記ミクログリア細胞を3日以上成熟させたままにする、請求項のいずれかに記載の網膜組織または網膜オルガノイドを得るための方法。
【請求項9】
前記ミクログリア細胞と前記網膜オルガノイドとを共培養する前に、前記ミクログリア細胞を5日以上成熟させたままにする、請求項1~7のいずれかに記載の網膜組織または網膜オルガノイドを得るための方法。
【請求項10】
前記ミクログリア細胞と前記網膜オルガノイドとを共培養する前に、前記ミクログリア細胞を7日間成熟させたままにする、請求項1~7のいずれかに記載の網膜組織または網膜オルガノイドを得るための方法。
【請求項11】
前記ミクログリア細胞と前記網膜オルガノイドとを共培養するとき、オルガノイドが250日齢未満である、請求項10のいずれかに記載の網膜組織または網膜オルガノイドを得るための方法。
【請求項12】
前記ミクログリア細胞と前記網膜オルガノイドとを共培養するとき、オルガノイドが200日齢未満である、請求項1~10のいずれかに記載の網膜組織または網膜オルガノイドを得るための方法。
【請求項13】
前記ミクログリア細胞と前記網膜オルガノイドとを共培養するとき、オルガノイドが150日齢未満である、請求項1~10のいずれかに記載の網膜組織または網膜オルガノイドを得るための方法。
【請求項14】
前記ミクログリア細胞と前記網膜オルガノイドとを共培養するとき、オルガノイドが100日齢である、請求項1~10のいずれかに記載の網膜組織または網膜オルガノイドを得るための方法。
【請求項15】
前記ミクログリア細胞と前記網膜オルガノイドとを共培養するとき、前記ミクログリア細胞を、オルガノイドあたり<10000細胞の密度で平板培養する、請求項14のいずれかに記載の網膜組織または網膜オルガノイドを得るための方法。
【請求項16】
前記ミクログリア細胞と前記網膜オルガノイドとを共培養するとき、前記ミクログリア細胞を、オルガノイドあたり<8000細胞の密度で平板培養する、請求項1~14のいずれかに記載の網膜組織または網膜オルガノイドを得るための方法。
【請求項17】
前記ミクログリア細胞と前記網膜オルガノイドとを共培養するとき、前記ミクログリア細胞を、オルガノイドあたり5000細胞の密度で平板培養する、請求項1~14のいずれかに記載の網膜組織または網膜オルガノイドを得るための方法。
【請求項18】
前記ミクログリア細胞と前記網膜オルガノイドとを共培養するとき、7日を超えて共培養する、前記17のいずれかに記載の網膜組織または網膜オルガノイドを得るための方法。
【請求項19】
前記ミクログリア細胞と前記網膜オルガノイドとを共培養するとき、10日を超えて共培養する、前記1~17のいずれかに記載の網膜組織または網膜オルガノイドを得るための方法。
【請求項20】
前記ミクログリア細胞と前記網膜オルガノイドとを共培養するとき、14日以上共培養する、前記1~17のいずれかに記載の網膜組織または網膜オルガノイドを得るための方法。
【請求項21】
前記ミクログリア細胞と前記網膜オルガノイドとを共培養するとき、14日共培養する、前記1~17のいずれかに記載の網膜組織または網膜オルガノイドを得るための方法。
【請求項22】
前記ミクログリア細胞と前記網膜オルガノイドとを共培養するとき、55日を超えて共培養する、前記1~17のいずれかに記載の網膜組織または網膜オルガノイドを得るための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多能性細胞ならびに改良された合成網膜組織および網膜オルガノイド自体から、インビトロで網膜培養物、組織または網膜オルガノイドを作製する方法に関する。また、網膜の多くの特徴(例えば、ヒトまたは哺乳動物)をインビトロで複製する網膜オルガノイド、およびこの網膜オルガノイドを用いて疾患を検討し、網膜疾患および障害の治療のための治療薬を同定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
NHSイングランドによれば、完全または部分的な視力喪失は、イギリスだけで約200万人に影響を及ぼし、これは医療システムと経済に大きな負担となっている。失明の最も一般的な原因のいくつかは、光受容体の死滅の結果である。現在、光受容体細胞を置換することができる治療はない。網膜変性は、網膜細胞の進行性かつ最終的な死滅によって引き起こされる網膜の破壊または悪化と表現される。網膜は、眼球の背面の内側の表面を覆っている官能膜や組織である。感光体と呼ばれる特殊な細胞を含む複数の層から構成されている。網膜疾患は多種多様であるが、そのほとんどが視覚症状を引き起こす。
【0003】
網膜変性に関連する疾患は、網膜変性疾患と総称され、糖尿病性網膜症、未熟児網膜症、黄斑変性症、アッシャー症候群、スターガルト病および網膜色素変性症などの一般的な網膜変性疾患を含む。
【0004】
効率的な治療法を開発するためには、研究者が開発中の化合物を試験し、加齢黄斑変性(AMD)や遺伝性網膜ジストロフィー(IRD)などの異なる疾患を研究するための適切なモデルシステムへのアクセスを有することが肝要である。
【0005】
オルガノイドは自己組織化、3D細胞培養であり、薬物スクリーニング、毒性、疾患モデリング、再生医療などの多くの応用において有用である。オルガノイド培養物は、網膜、脳および腎臓などの異なる器官および組織をモデル化すると記載されている。
【0006】
オルガノイドは、所望の細胞タイプを得るための分化経路に向けられた単離された一次前駆細胞または多能性幹細胞から誘導され得る。モデル化するように設計されたin vivo臓器および組織へのそれらの類似性を改善するために、更なるオルガノイドの開発に多くの関心が寄せられている。オルガノイドモデルがin vivo臓器または組織に近いほど、例えば、治療薬の毒性および生存性を評価する際により効果的である。
【0007】
網膜オルガノイドがヒトPSCから誘導され、得られたオルガノイドは高度に組織化された3D構造であるが、インビボ網膜を完全に代表するわけではない、Nakano et al.(2012)に記載されたプロトコルのような多能性幹細胞(PSC)から誘導される網膜オルガノイドモデルが開発されている。
【0008】
インビボ網膜は、網膜神経節細胞、光受容体細胞、双極細胞、水平細胞およびアマクリン細胞のような多くの神経細胞タイプ、ならびに免疫細胞および上皮細胞のような他の細胞タイプを含む複雑な器官である。天然に存在する網膜を最良に再現するために、インビトロモデルは異なる細胞タイプを含むべきである。
【発明の概要】
【0009】
本発明の第1の態様によれば、網膜細胞およびミクログリア細胞を含む改良された多能性幹細胞由来の、インビトロで生成された網膜組織が提供される。
【0010】
有利には、ミクログリアおよび/またはミクログリア前駆細胞を、網膜様オルガノイド組織と共に共培養して、改良された網膜オルガノイドを形成することにより、得られる生成物は、天然の網膜組織のそれをより正確に反映する方法で外的因子に反応する合成網膜オルガノイドであり、療法またはスクリーニングに特に有用である。
【0011】
最も好ましくは、網膜組織は、三次元網膜様オルガノイドである。
【0012】
有利には、合成網膜組織は、天然に存在する網膜に類似する層状構造を有する三次元網膜オルガノイドに組織化される。
【0013】
好ましくは、改良された三次元網膜様オルガノイドは、ミクログリア細胞、ならびに光受容体細胞(PRC)、アマクリン細胞、ミュラーグリア、水平細胞、双極細胞および網膜神経節細胞から選択される複数の細胞を含む。
【0014】
好ましくは、改良された三次元網膜様オルガノイドは、網膜色素上皮(RPE)層を含む。
【0015】
網膜色素上皮(RPE)層、光受容体細胞(PRC)、ミュラーグリア、水平細胞、双極細胞、網膜神経節細胞およびミクログリア細胞は、それらが、例えば、それらの発現パターンおよび外部薬剤に対する反応において、視覚的、機能的および生理学的に同じタイプの天然に存在する細胞に類似するため、同定される。
【0016】
好ましくは、多能性幹細胞は、人工多能性幹細胞である。
【0017】
最も好ましくは、組織またはオルガノイド由来の人工多能性幹細胞(iPSC)は、哺乳動物人工多能性幹細胞、より好ましくはヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)である。
【0018】
任意に、人工多能性幹細胞(iPSC)は、いかなる既知の遺伝的障害をもたない患者、すなわち「健康である」患者に由来する。
【0019】
任意に、人工多能性幹細胞(iPSC)は、既知の遺伝的障害を有する患者に由来する。
【0020】
有利には、既知の遺伝的障害を有する患者由来の人工多能性幹細胞を使用することにより、疾患モデルオルガノイドを作製することができる。
【0021】
好ましくは、オルガノイドは、1つ以上の網膜細胞マーカーを発現する細胞と、1つ以上のミクログリアマーカーを発現する細胞とを含む。
【0022】
必要に応じて、網膜細胞マーカーは、AP-2α、HuC/D、Prox1、リカバリンおよび/またはCRXである。
【0023】
必要に応じて発現されるミクログリア細胞マーカーは、CX3Cケモカインレセプター1(CX3CR1)および/またはイオン化カルシウム結合アダプター分子1(IBA1)である。CD14マーカーはまた、上記と併せて発現されてもよい。
【0024】
CX3CR1はフラクタルキンレセプターまたはG蛋白質共役レセプター13(GPR13)としても知られている。
【0025】
本発明の別の態様によれば、以下の工程、
ミクログリア細胞またはミクログリア前駆細胞と網膜オルガノイドを、ミクログリア細胞がオルガノイドに組み込まれる条件下で共培養する工程、
を含む、網膜組織または網膜オルガノイドを得るための方法が提供される。
【0026】
好ましくは、方法は、
ミクログリア細胞および/またはミクログリア前駆細胞の集団を得る工程と、
多能性幹細胞由来の網膜オルガノイドを得る工程と、
ミクログリア細胞と網膜オルガノイドを、ミクログリア細胞がオルガノイドに組み込まれる条件下で共培養する工程と、
を含む。
【0027】
好ましくは、得られたミクログリアまたはミクログリア前駆細胞の集団は、CD14および/またはCX3CR1に対して陽性である>40%の細胞を有する。
【0028】
好ましくは、ミクログリア細胞集団を得る工程は、多能性幹細胞を造血前駆細胞に、次いでミクログリア前駆細胞またはミクログリア様細胞に分化することを含む。
【0029】
好ましくは、ミクログリア細胞またはミクログリア前駆細胞の集団を得る場合、それらは人工多能性幹細胞由来ミクログリア細胞である。
【0030】
好ましくは、多能性幹細胞由来網膜オルガノイドは、天然に存在する網膜に類似する層状構造を有する。
【0031】
好ましくは、多能性幹細胞由来網膜オルガノイドは、光受容体細胞(PRC)、アマクリン細胞、ミュラーグリア、水平細胞、双極細胞、網膜神経節細胞およびミクログリア細胞から選択される複数の細胞を含む。また、網膜色素上皮(RPE)層を含んでもよい。
【0032】
好ましくは、多能性幹細胞由来網膜オルガノイドは、AP-2α、HuC/D、Prox1、リカバリンおよび/またはCRXに対して陽性である。
【0033】
好ましくは、ミクログリア細胞および網膜オルガノイドを共培養する前に、ミクログリア細胞を3日以上、好ましくは5日以上、最も好ましくは7日間成熟させたままにする。
【0034】
好ましくは、ミクログリア細胞と網膜オルガノイドを共培養する場合、オルガノイドは250日齢未満、より好ましくは200日齢未満、さらに好ましくは150日齢未満である。最も好ましくは、オルガノイドは約90~100日齢である。
【0035】
好ましくは、ミクログリア細胞および網膜オルガノイドを共培養する場合、ミクログリア細胞は、オルガノイドあたり<10000細胞の密度で平板培養され、好ましくは、ミクログリア細胞は、オルガノイドあたり<8000細胞の密度で平板培養され、最も好ましくは、ミクログリア細胞は、オルガノイドあたり約5000細胞の密度で平板培養される。
【0036】
好ましくは、ミクログリア細胞および網膜オルガノイドが7日を超えて、好ましくは10日を超えて、場合によっては14日以上、好ましくは14日間共培養される。
【0037】
さらにより好ましくは、ミクログリア細胞および網膜オルガノイドは55日以上共培養される。
【0038】
本発明の別の態様によれば、目的の化合物を、上記の幹細胞由来の、インビトロで生成された、網膜オルガノイドと接触させる工程を含む、化合物をスクリーニングする方法が提供される。
【0039】
任意に、本方法は、オルガノイド生存性(バイアビリティ)をアッセイする工程、またはオルガノイド内の各種網膜細胞タイプの生存性をアッセイする工程を含み、ここで、オルガノイド測定内における網膜細胞タイプの機能的出力の障害またはオルガノイド機能出力の障害は、目的の化合物が重篤な有害事象を誘発する可能性が高いことを示す。
【0040】
任意に、本方法は、オルガノイド生存率をアッセイする工程、またはオルガノイド内の各種網膜細胞タイプの生存率をアッセイする工程を含み、ここで、オルガノイド測定内における網膜細胞タイプの改良されたオルガノイド生存率または改良されたオルガノイド生存率は、目的の化合物が網膜疾患の治療において価値を有する可能性が高いことを示す。
【0041】
有利には、機能的出力のアッセイもまた、細胞が生存しているが、通常の方法では機能していないので、実施することができる。
【0042】
任意に、本方法は、オルガノイド機能出力をアッセイする工程、またはオルガノイド内の各種網膜細胞タイプの機能出力をアッセイする工程を含み、ここで、オルガノイド測定内における網膜細胞タイプのオルガノイド機能出力の障害またはオルガノイド機能出力の障害は、目的の化合物が重篤な有害事象を誘発する可能性が高いことを示す。
【0043】
任意に、本方法は、オルガノイド機能出力をアッセイする工程、またはオルガノイド内の各種網膜細胞タイプの機能出力をアッセイする工程を含み、ここで、オルガノイド測定内における網膜細胞タイプの改良された機能出力または改良されたオルガノイド機能出力は、目的の化合物が網膜疾患の治療において価値を有する可能性が高いことを示す。
【0044】
本発明の別の態様によれば、網膜傷害または網膜障害を有する個体を治療する方法であって、幹細胞由来の、インビトロで生成された、上記のような網膜オルガノイドを移植することを含む方法がある。
【0045】
任意に、網膜障害は、遺伝性網膜ジストロフィー、糖尿病性網膜症、未熟児網膜症、黄斑変性、加齢黄斑変性、アッシャー症候群、スターガルト病または網膜色素変性症である。
【0046】
本発明の別の態様は、医学における上記の組織またはオルガノイドの使用に関し、より詳細には、網膜障害の治療のための、さらに詳細には、遺伝性網膜ジストロフィー、糖尿病性網膜症、未熟性網膜症、黄斑変性症、加齢黄斑変性症、アッシャー症候群、スターガルト病または網膜色素変性症から選択される1つ以上の治療のための、使用に関する。
【0047】
本発明の別の態様は、創薬スクリーニングにおける上記の組織またはオルガノイドの使用;毒性アッセイ;組織胚学、細胞系統および分化経路の研究;組換え遺伝子発現を含む遺伝子発現研究;組織傷害および修復に関与する機構の研究;炎症性疾患および感染性疾患の研究;病理遺伝学的機構の研究;または網膜疾患の細胞形質転換および病因の機構の研究に関する。
【0048】
本発明の各種さらなる特徴および態様は、特許請求の範囲において定義される。
【0049】
他に定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解される意味を有する。
【0050】
読者を支援するために、以下の用語は、特に明記されていない限り、以下に示す意味を有する。
【0051】
用語「オルガノイド」は、天然に存在する器官の構造、マーカー発現、または機能を少なくともある程度模倣する、インビトロで生成された、組織化された細胞タイプの塊を意味する。
【0052】
「網膜オルガノイド」という用語は、典型的な網膜細胞タイプのマーカーを示す組織化された層状網膜構造の形成を介してヒト網膜形成を模倣するオルガノイドを指す。
【0053】
「検出する」という用語は、検出される分析物の存在、不存在または量を同定することを指す。
【0054】
「疾患」という用語は、細胞、組織、または器官の正常な機能を損傷または妨害するあらゆる状態または障害を意味する。例えば、網膜色素変性症および加齢黄斑変性症(AMD)などの網膜変性疾患は、細胞死または光受容体細胞(PRC)および/または網膜色素上皮(RPE)の機能喪失による視力喪失の主要な原因である。
【0055】
「マーカー」という用語は、特定の細胞タイプに関連する発現レベルまたは活性を有する任意のタンパク質またはポリヌクレオチド分析物を指す。一実施形態では、トランスクリプトミクスを用いて、細胞運命、細胞分化、および細胞特異的構造または機能に関連するマーカーのレベルを測定することができる。
【0056】
用語「治療する」、「治療すること」、「治療」などは、それに関連する障害および/または症状を低減または改善することを指す。除外されるものではないが、障害または状態を治療することは、それに関連する障害、状態または症状を完全に排除することを必要としないことが理解されるであろう。
【0057】
「多能性幹細胞(PSC)」という用語は、PS細胞としても一般的に知られており、ほぼ全ての細胞、すなわち、内胚葉(胃内側、胃腸管、肺)、中胚葉(筋肉、骨、血液、泌尿生殖器)、および外胚葉(表皮組織および神経系)を含む3つの胚葉(胚上皮)のいずれかに由来する細胞に分化しうる任意の細胞を包含する。PSCは、胚(胚性生殖細胞を含む)に由来する、またはある種の遺伝子の発現を強制することによって、成体体細胞のような非多能性細胞の誘導を通して得られる、全能性細胞の子孫であり得る。
【0058】
用語「人工多能性幹細胞(iPSC)」は、一般的にiPS細胞と略称されるが、ある種の遺伝子の「強制的」発現を誘導することにより、成体体細胞のような通常は多能性でない細胞から人工的に誘導された一種の多能性幹細胞を意味する。
【0059】
「薬剤」という用語は、小分子、核酸、ポリペプチド、ペプチド、薬物、イオンなどの任意の化合物または物質を意味し、「薬剤」は、合成および天然に存在するタンパク質性および非タンパク質性のエンティティ(実体)を含むがこれらに限定されない任意の化学的、エンティティまたは部分であり得る。いくつかの実施形態において、薬剤は、核酸、核酸類似体、タンパク質、抗体、ペプチド、アプタマー、核酸のオリゴマー、アミノ酸、または炭水化物であり、これらに限定されないが、タンパク質、オリゴヌクレオチド、リボザイム、DNAザイム、糖タンパク質、siRNA、リポタンパク質、アプタマー、およびそれらの修飾および組合せなどが含まれる。
【0060】
「培地」(「培養培地」または「細胞培養培地」とも呼ばれる)という用語は、細胞生存性を維持し、増殖を支持する栄養素を含有する細胞を培養するための培地を意味する。
【0061】
用語「発現」は、RNAおよびタンパク質を産生すること、および適宜、タンパク質を分泌することに関与する細胞過程を指し、これには、転写、翻訳、折り畳み、修飾および処理が含まれるが、これらに限定されない。発現マーカーには、遺伝子から転写されたRNAおよび遺伝子から転写されたmRNAの翻訳によって得られたポリペプチドが含まれる。
【0062】
本発明の実施は、特に明記しない限り、分子生物学(組換え技術を含む)、微生物学、細胞生物学、生物化学および免疫学の従来の技術を使用し、これらは当業者の範囲内にある。このような技術については、"Molecular Cloning: A Laboratory Manual", second edition (Sambrook, 1989); "Oligonucleotide Synthesis" (Gait, 1984)、"Animal Cell Culture" (Freshney, 1987)、"Methods in Enzymology" "Handbook of Experimental Immunology" (Weir, 1996)、"Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells" (Miller and Calos, 1987)、"Current Protocols in Molecular Biology" (Ausubel, 1987)、"PCR: The Polymerase Chain Reaction", (Mullis, 1994)、"Current Protocols in Immunology" (Coligan, 1991)などの文献で十分に説明されている。
【0063】
本発明の実施形態は、次に、同様の部分に対応する参照番号が付されている添付図面を参照して、単に例として説明される。
【図面の簡単な説明】
【0064】
図1図1Bは、ミクログリア細胞がiPSCから得られた本発明の方法を用いて得られたミクログリア細胞を組み込んだ改良された網膜オルガノイドの画像を提供し、図1Aは、ミクログリア細胞が一次ミクログリア細胞である本発明の方法を用いて得られたミクログリア細胞を組み込んだ改良された網膜オルガノイドの画像を提供する。
図2図2は、本発明の方法工程を示す図である。図2Aは、本発明の別の実施形態の方法ステップを示す図である。
図3A図3Aは、18日間のミクログリア細胞との共培養後の網膜様オルガノイドを示し、ここで、RLOD方法を用いて得られたオルガノイドは、ミクログリア細胞が添加された278日齢であった。染色はHoechst染色とIBA1染色を示し、ミクログリア細胞は組込まれるよりもむしろ主に表面上にあることを示している。
図3B図3Bは、本発明による網膜様オルガノイドを示し、RLOD方法を用いて得られたオルガノイドは、93日目にミクログリアを添加し、画像化前に14日間共培養した。染色は、網膜オルガノイドに組み込まれたミクログリア細胞を示す。
図4図4は、約55日間のhiPSC由来ミクログリア細胞との共培養後の網膜様オルガノイドを示す。
【発明を実施するための形態】
【0065】
発明者らは、ミクログリアは中枢神経系(CNS)における一次常在免疫細胞タイプであるが、現在の網膜様オルガノイドモデルには存在しないことを確認した。ミクログリアは、網膜の発達および網膜ニューロンの生存において役割を果たすと考えられているので、改良された網膜オルガノイドは、自然に生じる網膜で見出されるものと同様の様式でミクログリア細胞を含むであろう。さらに、ミクログリアが、緑内障、網膜色素変性症および加齢黄斑変性症などの各種網膜病理において役割を果たすことが実証されている。
【0066】
しかし、インビトロでのミクログリアの培養と研究は困難である。一次(プライマリ)ミクログリア細胞を獲得し維持することはまれであり、困難であることが知られている。さらに、単離された一次ミクログリアは、しばしば限られた増殖能を有する。これを克服するために、人工多能性幹細胞(iPSC)からミクログリアを誘導する方法が開発された(Abud et al., 2017)。
【0067】
本発明者らは、インビトロで網膜オルガノイドとミクログリアの間の関係を調べる能力が、臓器の発達および機能の理解をさらに深め、薬物スクリーニングおよび毒物学アッセイをより典型的かつ正確にすることを明らかにし、ミクログリア細胞の網膜オルガノイドモデルへの組み込みを可能にする方法論を発展させた。
【0068】
完全なミクログリア細胞を有する改良された網膜オルガノイドを製造する方法
いくつかの実施形態において、重要な工程は、多能性であるか、または多能性になるように誘導され得る幹細胞を得ることである。いくつかの実施形態において、例示的なiPS細胞株は、iPS-SB-Ad4;iPS-SB-Ad3;iPS-DF19-9;iPS-DF4-3;iPS-DF6-9;iPS(Foreskin);およびiPS(IMR90)を含むが、これらに限定されない。
【0069】
ヒト人工多能性幹細胞(iPSC)由来網膜オルガノイドを、ミクログリア細胞を網膜オルガノイド型構造と共培養することにより、以下のように生成した。以下の方法は、ミクログリア細胞および網膜器官様構造が、共培養前にどのようにして得られ得るかの例を含むが、これらの材料を得るための他の方法が使用され得ることは、当業者によって理解される。例えば、一次ミクログリア細胞も得られ、使用され得ることが想定される。
【0070】
例示的ミクログリア分化プロトコル(MDP)
1.SB-Ad3細胞株由来のもののような人工多能性幹細胞(iPSC)を、カスタムmTeSR1媒体における密度15x10細胞/cmのマトリゲル被覆プレート(カスタムmTeSR1は、増殖因子:塩化リチウム、GABA、パイコリン酸、bFGF、TGFβ1、BMP4を含まないTeSR1である;ステムセルテクノロジーから入手可能)+10μM Rockインヒビターに24時間平板培養
2.カスタムmTeSR1を毎日供給
3.個々のコロニーがみえたら(2~4日)、分化誘導:
a.BMP4を80ng/ml含むmTeSRカスタム培地
4.毎日培地を交換
5.4日目に、培地を以下に変える:
a.StemPro-34無血清培地(SFM)(2mM GutaMAX-I、Life Technologiesを含む)
b.25ng/ml bFGF(塩基性線維芽細胞増殖因子)
c.100ng/ml SCF(幹細胞因子)
d.80ng/ml VEGF(血管内皮増殖因子)
6.6日目に、培地を以下に変える:
a.StemPro-34SFM無血清培地(2mM GlutaMAX-I、Life Technologiesを含む)
b.50ng/ml SCF(幹細胞因子)
c.50ng/ml IL-3(インターロイキン3)
d.5ng/ml トロンボポイエチン(TPO)
e.50ng/ml マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)
f.50ng/ml fms様チロシンキナーゼ3(Flt3)リガンド
7.10日目に、上清画分をペレット化し、新しい培地に再懸濁し、ディッシュに戻す。
8.14日目に、ペレット浮遊細胞を以下に再懸濁する:
a.StemPro-34
b.50ng/ml M-CSF
c.50ng/ml Flt3リガンド
d.25ng/ml 顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)
e.細胞をディッシュに戻して再度平板培養する。
9.CD14および/またはCX3CR1陽性細胞が40%を超えるまで4日ごとにステップ#8を繰り返し、この時点で、それらは、ポイント8に従って増殖させ続けるか、または組織培養処理プレート上でミクログリア成熟のために再度平板培養することができる。
10.CD14+および/またはCX3CR1+細胞を再度平板培養した後、培地をミクログリア培地に変更する:
a.2mMのGlutaMAX-Iを添加したRPMI-1640増殖培地
b.10ng/mlのGM-CSF
c.100ng/mlインターロイキン34(IL-34)
11.その後3~4日ごとに培地を交換する
注:ペニシリン-ストレプトマイシン(pen/strep)は、細胞培養のすべての段階で添加され、mTeSR1培地はヒトESおよびiPS細胞のためのフィーダーフリーの維持培地である。
【0071】
網膜様オルガノイド分化(RLOD)のための例示的プロトコル
1.-2日目:
a.iPSC細胞をPBSで洗浄する。これらは、SB-Ad4細胞株、すなわち、ミクログリア様細胞を得るために使用されるものとは異なる細胞株からの細胞であり得るが、同じiPSC株を使用することもできる。
b.accutase(商標)(室温)を3分間加える。Accutase(商標)は、タンパク質分解酵素およびコラーゲン分解酵素の細胞分離溶液である。
c.mTeSR1+10uM Rho関連、コイルドコイル含有プロテインキナーゼ(ROCK)阻害剤で希釈する
d.1000rpmで3分間遠心分離
e.10ml mTeSR1+10uM ROCKiで再懸濁し、カウント
f.100ul mTeSR1+10uM ROCKi中でリピジュア(lipidure)でプレコートした96ウェルプレートのウェル当たり7000細胞をプレートする
g.48時間触れない
2.0日目:
a.200ulの分化培地を加え、その後培地を100ulに半交換することにより2日ごとに供給する
b.培地組成物
i.41%イスコブ改変ダルベッコ培地(IMDM)
ii.41% HAMのF12栄養混合物
iii.15% KnockOut(商標)Serum replacement(KOSR)、すなわち、多能性幹細胞の成長を支持する、より明確なFBSを含まない培地サプリメント
iv.1%グルタマックス(Glutamax)
v.1%化学的に定義された脂質濃縮物
vi.1%ペン(Pen)/ストレップ(Strep)
vii.225uM 1-チオグリセロール
3.6日目:
a.2.25nM BMP4を添加
b.1/2を3日毎に新しい培地に交換
4.18日目:
a.培地を反転(reversal)培地に変更し、2日ごとにフィード(栄養を供給)(feed)する
b.DMEM/F12(グルタマックス含有)
c.1% N2
d.4uM CHIR99021(GSK-3酵素の阻害剤)
e.2.5uM SU5402(MEK/ERK経路阻害薬、VEGFR2、FGFR1およびPDGFRBを阻害)
f.1%ペン/ストレップ
5.24日目:
a.培地を維持培地に変更する
b.DMEM/F12(グルタマックス含有)
c.5% FBS
d.1% N2
e.0.25uMレチノイン酸
f.0.1mMタウリン
g.1%ペン/ストレップ
h.0.25ug/ml Fungizone(商標)(アムホテリシンB)
i.週3回、2ヶ月間、培地の色が変わらない範囲でフィードし、その後、週2回
【0072】
ミクログリア細胞を組み込んだ改良された網膜オルガノイドを得るための方法
1.上澄み由来のCD14+/CX3XR1+ミクログリア前駆体(MDPの工程10)を、ミクログリア培地中の組織培養プレート上に平板培養し、7日間成熟させる
2.8日目に、細胞を解離させ、次の増殖培地中でオルガノイド当たり5000細胞の密度で網膜様オルガノイド(RLOD法を介して得られる)でウェル中で再平板培養する:
a.DMEM/F12(グルタマックス含有)
b.5% FBS
c.1% N2
d.0.25uMレチノイン酸
e.0.1mMタウリン
f.1%ペン/ストレップ
g.10ng/mlのGM-CSF
h.100ng/ml IL-34
これを共培養と呼ぶ。
3.共培養された細胞は、オルガノイド内に組み込まれたまま14日間放置され、週に2回フィードされる。
4.14日後、ミクログリア細胞を層状3D網膜様構造に取り込む改良された網膜オルガノイドが存在する。改良されたオルガノイドの形成を示す画像を図1に示す。
【0073】
さらに改良された網膜オルガノイドを製造するための代替的な方法において、工程3および4は、方法工程が以下であるように、より長い共培養期間を可能にする:
1.上澄み由来のCD14+/CX3XR1+ミクログリア前駆体(MDPの工程10)を、ミクログリア培地中の組織培養プレート上に平板培養し、7日間成熟させる
2.8日目に、細胞を解離させ、次の増殖培地中でオルガノイド当たり5000細胞の密度で網膜様オルガノイド(RLOD法を介して得られる)でウェル中で再平板培養する:
a.DMEM/F12(グルタマックス含有)
b.5% FBS
c.1% N2
d.0.25uMレチノイン酸
e.0.1mMタウリン
f.1%ペン/ストレップ
g.10ng/ml GM-CSF
h.100ng/ml IL-34
これを共培養と呼ぶ。
3.共培養細胞を55日間オルガノイド内に集積させ、週に2回フィードする。
5.55日後に、ミクログリア細胞を層状3D網膜様構造に取り込む改良された網膜オルガノイドが存在する。改良されたオルガノイドの形成を示す画像を図4に示す。
【0074】
上清(9日目のMDP)から直接単球を採取するよりも、7日間成熟させたままのミクログリア細胞を用いて共培養を開始することが好ましいことが見出された。前駆細胞集団は、それらを成熟培地中に余分に7日間放置することにより、濃縮されると推測される。
【0075】
また、好ましくは250日齢未満、より好ましくは200日齢未満、さらに好ましくは150日齢未満のオルガノイドと共培養することが好ましい。例えば、網膜分化の202および267におけるオルガノイドを用いた試験の例は、あまり望ましくない生成物を生じた。しかしながら、約90~100日齢のオルガノイドで良好な結果が得られた。図3は、RLODを用いて得られたオルガノイドが、ミクログリア細胞を添加したときに、278日齢であった網膜様オルガノイドを示す。明視野像は、ミクログリアがオルガノイドの上に座していることを示し、HoeとIBA1を用いたIHC像は、統合された細胞がないことを確認した。
【0076】
好ましくは、ミクログリア細胞は、オルガノイドあたり<10000細胞の密度で平板培養される。最も好ましくは、ミクログリア細胞は、オルガノイドあたり<8000細胞の密度で平板培養される。好ましくは、ミクログリア細胞は、オルガノイド当たり約5000細胞の密度で平板培養される。
【0077】
好ましい実施形態は、iPSCから得られたミクログリア細胞を利用するが、プライマリ(一次)ミクログリア細胞も利用することが可能である。困難ではあるが、周知技術を用いて、例えば成人のCNS組織からプライマリ細胞を得ることが可能である。
【0078】
開始iPSCは、健康な個人からオルガノイドを提供するように選択することができる。もちろん、所与の突然変異を有する患者の細胞を使用し、多能性幹細胞状態を誘導し、特定の病態または状態のためのモデルオルガノイドを提供するために、上記のように組織発生を誘導する本発明の方法を実施することも可能である。
【0079】
オルガノイドまたは構成組織内の細胞のポリペプチドまたはポリヌクレオチ発現は、ウェスタンブロッティング、フローサイトメトリー、免疫細胞化学、in situハイブリダイゼーション、蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)、ELISA、マイクロアレイ分析、RT-PCR、ノーザンブロッティング、またはブラッドフォード(Bradford)アッセイおよびローリー(Lowry)アッセイのような比色アッセイのような、当技術分野で周知の手順によって決定および/または比較することができる。
【0080】
例えば、上記のMDP法工程において、CD14/CX3CR1をフローサイトメトリーによって試験することができ、IBA1がチェックされるバリエーションにおいて、これを免疫蛍光法によって行うこともできる。
【0081】
本発明はさらに、本発明による方法を用いて得られた本発明のオルガノイド(すなわち、三次元網膜細胞および統合ミクログリア細胞の両方を有するオルガノイド)に候補薬剤を投与し、オルガノイドに対する効果を決定することを含む、対象となる網膜組織欠損を治療するための適否を決定するための候補薬剤をスクリーニングする方法を提供する。候補薬剤がオルガノイドに投与されることが想定されるが、オルガノイドの製造中に当該薬剤を取り込んで、当該オルガノイドの発生に対する効果を理解することも考えられる。この態様によれば、候補薬剤、例えば、候補治療薬は、既知の突然変異を有するオルガノイドに効果を有するかどうかについてスクリーニングすることができ、これは、上記のように導入することができる。特に、本発明は、小頭症における突然変異の研究を提供し、突然変異に影響を及ぼし得る薬剤のスクリーニングを可能にし、例えば、突然変異遺伝子の不足または過剰発現を補う。陽性候補薬物は、例えば、健康な多能性幹細胞を使用することによって、比較のための突然変異なしに本発明の組織生成方法を実施することによって観察され得るように、正常な細胞発生を回復する化合物であり得る。
【0082】
もちろん、候補薬剤、例えば、候補治療薬を、異常な発生をもたらす突然変異を伴わずに、正常組織にも何らかの効果を有するかどうかをスクリーニングすることも可能である。したがって、さらに別の態様では、本発明は、生理学的効果のための候補薬物を試験する方法に関し、候補薬物を人工培養物に投与し、前記培養物の細胞の関心対象の活性を測定し、該活性と前記候補薬物を投与しない培養物に対する細胞の活性とを比較することを含み、示差活性が効果を示す。
【0083】
本発明はまた、オルガノイド、または前記オルガノイドに由来する細胞が、創薬スクリーニング;毒性アッセイ;組織胚学、細胞系譜、および分化経路の研究;組換え遺伝子発現を含む遺伝子発現研究;組織傷害および修復に関与するメカニズムの研究;炎症性および感染性疾患の研究;病因メカニズムの研究;または細胞形質転換のメカニズムおよび網膜疾患の病因の研究において使用され得ることを想定する。
【0084】
本発明のオルガノイド、または該オルガノイドに由来する細胞もまた、医学における使用について想定される。例えば、前記オルガノイド、または前記オルガノイドに由来する細胞は、網膜障害、糖尿病性網膜症、未熟児網膜症、黄斑変性、アッシャー症候群、スターガルト病、網膜色素変性、加齢黄斑変性(AMD)および遺伝性網膜ジストロフィー(HRD)などの状態または疾患の治療に使用することができる。1つの選択肢は、該オルガノイド、または該オルガノイド由来の細胞を再生医療において使用することができ、例えば、該使用は、患者へのオルガノイドまたは細胞の移植を含む。
【0085】
本明細書に開示されたすべての特徴(添付の特許請求の範囲、要約および図面を含む)、および/またはそのように開示された任意の方法またはプロセスのすべての工程は、そのような特徴および/または工程の少なくとも一部が相互に排他的である場合の組み合わせを除き、任意の組み合わせで組み合わせることができる。本明細書に開示される各特徴(添付の特許請求の範囲、要約および図面を含む)は、明示的に別段の記載がない限り、同一の、同等の、または類似の目的を果たす代替的特徴に置き換えることができる。したがって、明示的に別段の記載がない限り、開示される各特徴は、等価または類似の特徴の包括的一連の1つの実施例に過ぎない。本発明は、前述の実施形態の詳細に限定されない。本発明は、本明細書に開示された特徴(任意の添付の特許請求の範囲、要約および図面を含む)の任意の新規な1つまたは任意の新規な組み合わせ、またはそのように開示された任意の方法またはプロセスの工程の任意の新規な1つまたは任意の新規な組み合わせに及ぶ。
【0086】
本明細書における実質的に任意の複数および/または単数の用語の使用に関して、当業者は、文脈および/または用途に適切なように、複数から単数へ、および/または単数から複数へと翻訳することができる。明瞭にするために、各種単数/複数の前突然変異を本明細書に明示的に記載することができる。
【0087】
概して、一般に、本明細書で、特に添付の特許請求の範囲で使用される用語は、一般に「オープン」タームとして意図されていることが当業者によって理解されるであろう(例えば、「含む」という用語は、「含むがこれに限定されない」と解釈されるべきであり、「有する」という用語は、「少なくとも有する」と解釈されるべきであり、「含む」という用語は、「含むがこれに限定されない」と解釈されるべきであり、「備えている/備える」という用語は、「備えている/備えるが、これに限定されない」と解釈されるべきである。導入された請求項の特定の数が意図されている場合、そのような意図は請求項に明示的に記載され、そのような説明がない場合、そのような意図は存在しないことが当業者によってさらに理解される。例えば、理解を助けるために、以下の添付の特許請求の範囲には、請求項の列挙を紹介するための導入句「少なくとも1つ」および「1つまたは複数」の使用が含まれ得る。しかしながら、そのような句の使用は、同じクレームに「1つ以上」または「少なくとも1つ」という導入句と「a」または「an」などの不定冠詞が含まれている場合でも、不定冠詞「a」または「an」によるクレームの列挙の導入が、そのように導入されたクレームの列挙を含む特定のクレームを、そのような列挙を1つだけ含む実施形態に限定することを意味すると解釈されるべきではなく(例えば、「a」および/または「an」は、「少なくとも1つ」または「1つ以上」を意味すると解釈する必要がある)、同じことが、クレームの列挙を導入するために使用される定冠詞の使用にも当てはまる。さらに、導入された請求項の特定の数が明示的に記載されている場合でも、当業者は、そのような記載が少なくとも記載された数を意味すると解釈されるべきであることを認識するであろう(例えば、他の修飾語なしの「2つの列挙」の裸の列挙は、少なくとも2つの列挙、または2つ以上の列挙を意味する)。
【0088】
本開示の様々な実施形態が、説明のために本明細書に記載されており、本開示の範囲から逸脱することなく、種々の変形が可能であることが理解されるであろう。したがって、本明細書に開示される様々な実施形態は、以下の特許請求の範囲によって示される真の範囲で、限定することを意図するものではない。
図1
図2
図2A
図3A
図3B
図4