(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-07
(45)【発行日】2022-11-15
(54)【発明の名称】セラミック電子部品及びセラミック電子部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01G 4/30 20060101AFI20221108BHJP
【FI】
H01G4/30 516
H01G4/30 513
H01G4/30 517
(21)【出願番号】P 2017143224
(22)【出願日】2017-07-25
【審査請求日】2020-07-07
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 智彰
(72)【発明者】
【氏名】田原 幹夫
【審査官】木下 直哉
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/099772(WO,A1)
【文献】特開2001-345231(JP,A)
【文献】特開2014-170875(JP,A)
【文献】特開2010-109133(JP,A)
【文献】特開2013-131459(JP,A)
【文献】国際公開第2013/128957(WO,A1)
【文献】特開2015-216339(JP,A)
【文献】特開平04-094106(JP,A)
【文献】特開2005-085495(JP,A)
【文献】特開2006-253094(JP,A)
【文献】特開2008-218022(JP,A)
【文献】特開2012-079864(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0018359(US,A1)
【文献】米国特許第7074349(US,B2)
【文献】中国特許出願公開第102385989(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 4/232
H01G 4/12
H01G 4/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部電極を有するセラミック素体と、
Ba、Zn、及びSiを主成分とするガラス成分を含有するとともに、Ba、Zn、Si及びOを主成分として含み、かつB
を含まない複数の棒状結晶粒子を有し、前記複数の結晶粒子の少なくとも一部が表面に析出し、前記内部電極と接続され前記セラミック素体の表面に形成された焼結金属膜である外部電極と
を具備するセラミック電子部品。
【請求項2】
請求項1に記載のセラミック電子部品であって、
前記外部電極を、前記外部電極の表面から前記外部電極の厚みの半分の深さ以内の表面領域と、前記表面領域と前記セラミック素体に隣接する内部領域とに区分したときに、前記複数の結晶粒子は、前記内部領域よりも前記表面領域に多く分布する
セラミック電子部品。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のセラミック電子部品であって、
前記複数の結晶粒子は、それぞれ、長手方向に20μm以下の長さを有する
セラミック電子部品。
【請求項4】
請求項1から3のうちいずれか一項に記載のセラミック電子部品であって、
前記外部電極は、銅を含む
セラミック電子部品。
【請求項5】
請求項1から4のうちいずれか一項に記載のセラミック電子部品であって、
前記外部電極の表面にメッキ膜をさらに具備する
セラミック電子部品。
【請求項6】
内部電極を有するセラミック素体を形成し、
前記セラミック素体の表面に、Ba、Zn及びSiを主成分とするガラス成分を含む電極材料を塗布し、
前記電極材料を加湿された雰囲気下で焼き付けることで、Ba、Zn、Si及びOを主成分として含み、かつB
を含まない棒状結晶粒子が表面に析出され、前記内部電極と接続された焼結金属膜である外部電極を形成する
セラミック電子部品の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載のセラミック電子部品の製造方法であって、
前記電極材料は、フレーク状の金属粉末を含む
セラミック電子部品の製造方法。
【請求項8】
請求項6又は7に記載のセラミック電子部品の製造方法であって、
前記電極材料は、銅を含む
セラミック電子部品の製造方法。
【請求項9】
請求項6から8のうちいずれか一項に記載のセラミック電子部品の製造方法であって、
前記外部電極の表面にメッキ膜を形成する
セラミック電子部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層セラミックコンデンサ等のセラミック電子部品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
積層セラミックコンデンサは、複数の内部電極が配置されたセラミック素体と、当該素体の表面に形成され内部電極に接続された外部電極とを備える。外部電極は、例えば、金属粉末とガラスフリット等を含む導電性ペーストをセラミック素体の表面に塗布し、焼き付けすることで形成される。ガラス成分は、外部電極とセラミック素体との接合性等の観点から含有される。
【0003】
導電性ペーストを焼き付けし外部電極を形成する際、導電性ペーストに含まれるガラス成分が溶融し、隣接して配置される外部電極同士が融着してしまうことがある。また、融着を抑制するためには、焼き付け温度を下げることも考えられるが、外部電極の緻密度低下による信頼性の低下といった問題が懸念される。
このような現象を防止するため、以下のような技術が知られている。
例えば特許文献1には、導電性ペーストに主成分となり得る金属粉末よりも高い融点の金属添加物を加えて焼き付けするセラミック電子部品の製造方法が記載されている。
特許文献2には、外部電極用のペーストを塗布した後、金属粉を付着させた状態で焼き付けを行うセラミック電子部品の製造方法が記載されている。
特許文献3には、外部電極の焼き付け時に融着を防止しながら各チップを配置するチップ状電子部品用トレーを用いたセラミック電子部品の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平10-12481号公報
【文献】特開2006-344820号公報
【文献】特開2006-310761号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1及び2に記載の製造方法は、導電性ペーストに金属添加物や金属粉を加える必要があった。
また、特許文献3に記載の製造方法は、各チップを配置するためのチップ状電子部品用トレーが必要であった。
このように、特許文献1~3に記載の解決方法は、いずれもコストや工数が増加するという問題があった。
【0006】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、外部電極の焼き付け時における部品間の融着を容易に防止することができるセラミック電子部品及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係るセラミック電子部品は、セラミック素体と、外部電極とを具備する。
上記セラミック素体は、内部電極を有する。
上記外部電極は、Ba、Zn、Si及びOを含む複数の結晶粒子を有し、上記内部電極と接続され上記セラミック素体の表面に形成される。
上記複数の結晶粒子は、棒状結晶粒子であってもよい。
【0008】
上記構成では、外部電極にBa、Zn、Si及びOを含む複数の結晶粒子が析出し、外部電極におけるガラスの析出を抑制することができる。これにより、当該ガラスが溶融することによる部品間の融着を容易に防止することができる。
【0009】
上記外部電極を、上記外部電極の表面から上記外部電極の厚みの半分の深さ以内の表面領域と、上記表面領域と上記セラミック素体に隣接する内部領域とに区分したときに、上記複数の結晶粒子は、上記内部領域よりも上記表面領域に多く分布してもよい。
これにより、結晶粒子が外部電極表面側に多く析出し、当該表面からのガラスの析出を抑制することができる。したがって、ガラスが溶融することによる部品間の融着をより効果的に防止することができる。
【0010】
例えば、上記複数の結晶粒子は、それぞれ、長手方向に20μm以下の長さを有していてもよい。
【0011】
例えば、上記外部電極は、銅を含んでいてもよい。
【0012】
本発明の他の実施形態に係るセラミック電子部品の製造方法は、内部電極を有するセラミック素体を形成するステップを含む。
上記セラミック素体の表面に、バリウム(Ba)、亜鉛(Zn)及びケイ素(Si)を含む電極材料が塗布される。
上記電極材料を加湿された雰囲気下で焼き付けることで、Ba、Zn、Si及びOを含む結晶粒子が析出され、上記内部電極と接続された外部電極が形成される。
【0013】
上記構成では、加湿された雰囲気下でバリウム(Ba)、亜鉛(Zn)及びケイ素(Si)を含む電極材料を焼き付けるため、焼き付け時に、Ba、Zn、Si及びOを含む結晶粒子が析出される。これにより、電極材料のガラス成分の一部が結晶粒子に取り込まれるため、焼き付け時の外部電極におけるガラスの析出を抑制することができる。したがって、ガラスの溶融による部品間の融着を容易に防止することができる。
【0014】
上記電極材料は、フレーク状の金属粉末を含んでもよい。これにより、結晶粒子をより多く析出させることができる。
【0015】
また、上記電極材料は、例えば銅を含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明によれば、外部電極の焼き付け時における部品間の融着を容易に防止することができるセラミック電子部品及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの斜視図である。
【
図2】上記積層セラミックコンデンサの
図1のA-A'線に沿った断面図である。
【
図3】上記積層セラミックコンデンサの
図1のB-B'線に沿った断面図である。
【
図4】上記積層セラミックコンデンサの外部電極の拡大断面図である。
【
図5】上記積層セラミックコンデンサの外部電極表面の拡大平面図である。
【
図6】上記積層セラミックコンデンサの製造方法を示すフローチャートである。
【
図7】上記積層セラミックコンデンサの製造過程を示す分解斜視図である。
【
図8】上記積層セラミックコンデンサの製造過程を示す斜視図である。
【
図9】本発明の実施例と比較例の外部電極の表面をX線解析(XRD)によって分析した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
図面には、相互に直交するX軸、Y軸、及びZ軸が適宜示されている。X軸、Y軸、及びZ軸は全図において共通である。
【0019】
図1~3は、本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサ10を示す図である。
図1は、積層セラミックコンデンサ10の斜視図である。
図2は、積層セラミックコンデンサ10の
図1のA-A'線に沿った断面図である。
図3は、積層セラミックコンデンサ10の
図1のB-B'線に沿った断面図である。
【0020】
積層セラミックコンデンサ10は、セラミック素体11と、第1外部電極14と、第2外部電極15とを具備する。積層セラミックコンデンサ10は、セラミック素体11の表面に外部電極14,15が形成された構成を有する。
【0021】
セラミック素体11は、典型的には、X軸方向を向いた2つの端面11a,11bと、Y軸方向を向いた2つの側面11c,11dと、Z軸方向を向いた2つの主面11e,11fとを有する。端面11a,11bには、外部電極14,15が形成される。セラミック素体11の各面を接続する稜部は面取りされていてもよい。
なお、セラミック素体11は、
図1~3に示すような直方体形状でなくてもよい。例えば、セラミック素体11の各面は曲面であってもよく、セラミック素体11は全体として丸みを帯びた形状であってもよい。
【0022】
セラミック素体11は、容量形成部16と、保護部17と、を有する。容量形成部16は、複数のセラミック層18と、複数の第1内部電極12と、複数の第2内部電極13と、を有し、これらが積層された構成を有する。保護部17は、容量形成部16のZ軸方向を向いた両主面の全領域と、Y軸方向を向いた両側面の全領域とをそれぞれ覆っている。
【0023】
内部電極12,13は、Z軸方向に積層された複数のセラミック層18の間に、Z軸方向に沿って交互に配置されている。第1内部電極12は、端面11aに引き出され、端面11bから離間している。第2内部電極13は、端面11bに引き出され、端面11aから離間している。
内部電極12,13は、典型的にはニッケル(Ni)を主成分として構成され、積層セラミックコンデンサ10の内部電極として機能する。なお、内部電極12,13は、ニッケル以外に、銅(Cu)、銀(Ag)、パラジウム(Pd)の少なくとも1つを主成分としていてもよい。
【0024】
セラミック層18は、誘電体セラミックスによって形成されている。セラミック層18は、容量形成部16における容量を大きくするために、高誘電率の誘電体セラミックスで形成される。
上記高誘電率の誘電体セラミックスとして、チタン酸バリウム(BaTiO3)系材料の多結晶体、つまりバリウム(Ba)及びチタン(Ti)を含むペロブスカイト構造の多結晶体が用いられる。これにより、大容量の積層セラミックコンデンサ10が得られる。
なお、セラミック層18は、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)系、チタン酸カルシウム(CaTiO3)系、チタン酸マグネシウム(MgTiO3)系、ジルコン酸カルシウム(CaZrO3)系、チタン酸ジルコン酸カルシウム(Ca(Zr,Ti)O3)系、ジルコン酸バリウム(BaZrO3)系、酸化チタン(TiO2)系などで形成されてもよい。
【0025】
保護部17も、誘電体セラミックスで形成されている。保護部17を形成する材料は、絶縁性セラミックスであればよいが、セラミック層18と同様の誘電体セラミックスを用いることにより、セラミック素体11における内部応力が抑制される。
保護部17は、容量形成部16におけるX軸方向両端面以外の面を被覆する。保護部17は、主に、容量形成部16の周囲を保護し、内部電極12,13の絶縁性を確保する機能を有する。
以下、保護部17の両主面11e,11f側の領域をカバー領域、両側面11c,11d側の領域をサイドマージン領域と称する。
【0026】
外部電極14,15は、セラミック素体11の両端面11a,11bにそれぞれ形成される。第1外部電極14は、端面11aに引き出された第1内部電極12と接続され、第2外部電極15は、端面11bに引き出された第2内部電極13と接続される。
外部電極14,15は、端面11a,11bを覆い、かつ、両側面11c,11d及び両主面11e,11fに延出していてもよい。この場合、外部電極14,15のいずれにおいても、X-Z平面に平行な断面及びX-Y平面に平行な断面の形状がU字状となっている。
【0027】
外部電極14,15は、導電性ペースト等の電極材料を焼き付けることによって形成された焼結金属膜として構成される。外部電極14,15の表面Sには、1又は複数のメッキ膜が形成されてもよい(図示せず)。これにより、積層セラミックコンデンサ10をハンダ等により実装することが容易になる。
【0028】
[外部電極14,15の詳細な構成]
図4は、外部電極14,15をZ軸方向から見た拡大断面図である。
図5は、外部電極14,15の表面Sの拡大平面図である。
【0029】
外部電極14,15は、バリウム(Ba)、亜鉛(Zn)、ケイ素(Si)及び酸素(O)を含む複数の棒状結晶粒子Pを有する。この棒状結晶粒子Pは、後述するように、外部電極14,15の焼き付け時に析出する、長手方向を有する結晶粒子である。棒状結晶粒子Pは、例えば平面視において矩形に構成されるが、一方向に長く形成されていればこれに限定されない。各棒状結晶粒子Pは、例えば長手方向に20μm以下の長さを有しており、短手方向に3μm以下の長さを有していてもよい。棒状結晶粒子Pは、例えば、バリウム亜鉛シリケート(BaZnSiO4)で構成される。
【0030】
棒状結晶粒子Pは、外部電極14,15を、外部電極14,15の表面Sから外部電極14,15の厚みDの半分の深さD/2以内の表面領域R1と、表面領域R1とセラミック素体11とに隣接する内部領域R2とに区分したときに、内部領域R2よりも表面領域R1に多く分布する。
図4に示す例では、棒状結晶粒子Pは、表面領域R1に4個、内部領域R2に1個、分布している。また、
図5に示すように、棒状結晶粒子Pは、表面Sにも多く析出する。
【0031】
図4を参照し、表面領域R1及び内部領域R2は、以下のようにも定義できる。
表面領域R1は、外部電極14,15の厚み方向(例えばX軸方向)に直交する方向(例えばZ軸方向)から見た外部電極14,15の断面において、外部電極14,15の厚み方向の中心に沿って延在する仮想的な中心線Lよりも外部電極14,15の表面S側の領域をいうものとする。
内部領域R2は、上記外部電極14,15の上記断面において、中心線Lよりもセラミック素体11側の領域をいうものとする。
【0032】
外部電極14,15が棒状結晶粒子Pを有することで、後述するように、外部電極14,15の焼き付け時に隣接する積層セラミックコンデンサ10間の融着を防止することができる。
【0033】
[積層セラミックコンデンサ10の製造方法]
図6は、積層セラミックコンデンサ10の製造方法を示すフローチャートである。
図7及び
図8は、積層セラミックコンデンサ10の製造過程を示す図である。以下、積層セラミックコンデンサ10の製造方法について、
図6に沿って、
図7及び
図8を適宜参照しながら説明する。
【0034】
(ステップS01:セラミックシート積層)
ステップS01では、容量形成部16を形成するための第1セラミックシート101及び第2セラミックシート102と、保護部17のカバー領域を形成するための第3セラミックシート103と、を準備する。そして、
図7に示すように、これらのセラミックシート101,102,103を積層し、未焼成のセラミック素体111を作製する。
【0035】
セラミックシート101,102,103は、誘電体セラミックスを主成分とする未焼成の誘電体グリーンシートとして構成される。セラミックシート101,102,103は、例えば、ロールコーターやドクターブレードなどを用いてシート状に成形される。セラミックシート101,102,103の厚さは適宜調整可能である。
【0036】
図7に示すように、第1セラミックシート101には第1内部電極12に対応する未焼成の第1内部電極112が形成され、第2セラミックシート102には第2内部電極13に対応する未焼成の第2内部電極113が形成されている。なお、保護部17のカバー領域に対応する第3セラミックシート103には内部電極が形成されていない。
【0037】
内部電極112,113は、任意の導電性ペーストをセラミックシート101,102に塗布することによって形成することができる。導電性ペーストの塗布方法は、公知の技術から任意に選択可能である。例えば、導電性ペーストの塗布には、スクリーン印刷法やグラビア印刷法を用いることができる。
【0038】
図7に示す未焼成のセラミック素体111では、セラミックシート101,102が交互に積層され、そのZ軸方向上下面にカバー領域に対応する第3セラミックシート103が積層される。なお、セラミックシート101,102,103の枚数は
図7に示す例に限定されない。
【0039】
未焼成のセラミック素体111は、セラミックシート101,102,103を圧着することにより一体化される。セラミックシート101,102,103の圧着には、例えば、静水圧加圧や一軸加圧などを用いることが好ましい。これにより、セラミック素体111を高密度化することが可能である。
【0040】
図8は、ステップS01で得られる未焼成のセラミック素体111の斜視図である。未焼成のセラミック素体111は、セラミック層118の間に内部電極112,113が交互に積層された容量形成部116を有し、X軸方向両端面に内部電極112,113が露出している。未焼成のセラミック素体111は、容量形成部116の周囲に保護部117が形成されており、Y軸方向両側面及びZ軸方向両主面からは内部電極112,113が露出していない。
【0041】
なお、以上では1つのセラミック素体11に相当する未焼成のセラミック素体111について説明したが、実際には、個片化されていない大判のシートとして構成された積層シートが形成され、セラミック素体111ごとに個片化される。
【0042】
(ステップS02:焼成)
ステップS02では、ステップS01で得られた未焼成のセラミック素体111を焼結させることにより、
図1~3に示すセラミック素体11を作製する。つまり、ステップS02により、容量形成部116が容量形成部16になり、保護部117が保護部17になる。
【0043】
ステップS02における焼成温度は、セラミック素体111の焼結温度に基づいて決定可能である。例えば、誘電体セラミックスとしてチタン酸バリウム系材料を用いる場合には、焼成温度を1000~1300℃程度とすることができる。また、焼成は、例えば、還元雰囲気下、又は低酸素分圧雰囲気下において行うことができる。
【0044】
(ステップS03:電極材料塗布)
ステップS03では、ステップS02で得られたセラミック素体11の表面に電極材料を塗布する。
【0045】
例えば、セラミック素体11の両端面11a,11bに未焼成の電極材料を塗布する。電極材料としては、例えば金属粉末とバリウム(Ba)、亜鉛(Zn)及びケイ素(Si)を含む導電性ペーストが用いられる。金属粉末は、銅(Cu)やニッケル(Ni)、銀(Ag)、パラジウム(Pd)等を含んでいてもよく、例えばCuで構成される。Si,Ba及びZnは、ガラス成分として添加される。電極材料は、これらの他、有機バインダ等を適宜含んでいてもよい。
【0046】
本実施形態において、電極材料は、フレーク状の金属粉末を含んでいてもよい。フレーク状の金属粉末とは、薄い鱗片状の金属粉末をいい、例えば、長手方向の長さと厚みとのアスペクト比が10倍以上あり、長手方向の長さが5μm以上、厚みが1μm以下のものをいう。フレーク状の金属粉末は、例えば、球状の金属粉末を薄く延ばして加工することで形成される。電極材料がフレーク状の金属粉末を含むことにより、より多くの棒状結晶粒子Pを析出させることができる。
金属粉末全体におけるフレーク状の金属粉末の割合は、例えば、60%以上95%以下とすることができる。これにより、棒状結晶粒子Pを多く析出させつつ、焼き付け後の電極の密度も十分に高めることができる。
【0047】
塗布方法としては、ディップ工法が用いられる。これにより、両端面11a,11bを覆うように電極材料を塗布することができる。あるいは、スクリーン印刷法やロール転写法が用いられてもよい。
【0048】
(ステップS04:電極材料の焼き付け)
ステップS04では、塗布された電極材料を焼き付けることで、バリウム(Ba)、亜鉛(Zn)、ケイ素(Si)及び酸素(O)を含む棒状結晶粒子が析出され、内部電極12,13と接続された外部電極14,15を形成する。
【0049】
電極材料は、加湿された雰囲気下において焼き付けられる。加湿された雰囲気とは、例えば、還元雰囲気又は低酸素分圧雰囲気に水分を含ませ加湿させた雰囲気をいう。これにより、外部電極14,15は、より多くの棒状結晶粒子Pを析出させることができる。当該雰囲気における露点温度は、例えば、20℃以上60℃以下であればよく、より好ましくは30℃以上50℃以下であればよい。
【0050】
さらに、外部電極14,15の上に電解メッキ等のメッキ処理を行い、1又は複数のメッキ膜を形成してもよい。
【0051】
なお、上記のステップS03における処理を、ステップS02の前に行ってもよい。例えば、ステップS02の前に未焼成のセラミック素体111のX軸方向両端面に未焼成の電極材料を塗布してもよい。これにより、ステップS02において、未焼成のセラミック素体111の焼成と電極材料の焼き付けとを同時に行うことができる。
【0052】
[作用効果]
本実施形態の積層セラミックコンデンサ10は、バリウム(Ba)、亜鉛(Zn)及びケイ素(Si)を含む電極材料を、加湿された雰囲気下で焼き付けることで、Ba,Zn,Si及び酸素(O)を含む棒状結晶粒子Pを析出させることができる。これにより、焼き付け時に、ガラスが溶融することによる積層セラミックコンデンサ10間の融着を防止することができる。
【0053】
棒状結晶粒子Pは、以下のような機序で形成されると推測される。
電極材料の焼き付け時に、昇温とともにケイ素(Si)、亜鉛(Zn)、バリウム(Ba)等のガラス成分が溶融し液相焼結する。これと同時に、Zn等の元素を中心とする棒状結晶粒子Pの種結晶が形成され、ガラス成分の一部を取り込んで当該結晶が成長することで、棒状結晶粒子Pが形成されると推測される。さらに、加湿された雰囲気下で焼き付けることにより、水蒸気の存在によって棒状結晶粒子Pに含まれる元素の気化が抑制され、棒状結晶粒子Pの析出を促進できると考えられる。
【0054】
上記機序によれば、ガラス成分の一部が棒状結晶粒子Pに取り込まれるため、棒状結晶粒子Pを析出させることでガラスの析出を抑制し、ガラスの溶融による積層セラミックコンデンサ10間の融着を防止することができる。
【0055】
さらに、
図4及び
図5に示すように、棒状結晶粒子Pは、外部電極14,15の表面領域R1に多く分布することができる。これにより、表面Sにおけるガラスの析出を抑制でき、ガラスの溶融による積層セラミックコンデンサ10間の融着を効果的に防止することができる。
【0056】
一方で、外部電極14,15の内部領域R2においては、棒状結晶粒子Pの析出を抑えてガラスを十分に析出させることができる。これにより、ガラスの本来の機能である、セラミック素体11と外部電極14,15との密着性は十分に確保することができる。
【0057】
また、表面Sにガラスが多く析出すると、表面Sにメッキ膜を形成する場合、連続性が低下することが知られている。このため、本実施形態によれば、表面Sに形成されたメッキ膜の連続性を向上させることができる。
【0058】
また、本実施形態の製造方法によれば、部品間の融着を防止できるため、各積層セラミックコンデンサ10を密集した状態に並べて焼き付け処理を行うことができる。これにより、一度に処理可能な積層セラミックコンデンサ10の数を増加させ、生産性を高めることができる。
【0059】
さらに、フレーク状の金属粉末を含む電極材料を用いることで、より棒状結晶粒子を析出しやすくできる。実際に、粒径0.5μmの微細な銅粉末を含む電極材料を用いた場合よりも、粒径7~8μmのフレーク状の銅粉末と粒径1μmの球状の銅粉末とを95対5~60対40の割合で含む電極材料を焼き付けた場合の方が、棒状結晶粒子が多く析出した。また、フレーク状の銅粉末を含む方が棒状結晶粒子のサイズも大きかった。これにより、フレーク状の金属粉末を含む電極材料を用いることで、積層セラミックコンデンサ10間の融着をより効果的に防止することができる。
【0060】
[実施例及び比較例]
本実施形態の実施例及び比較例として、上記の製造方法に基づいて積層セラミックコンデンサ10のサンプルを作製し、外部電極の焼き付けの雰囲気と棒状結晶粒子の析出有無、部品間の融着の度合い等について調べた。
【0061】
表1は、本実施形態に係る実施例及び比較例の製造方法及び評価結果を示す表である。
実施例1,2,及び3及び比較例のサンプルは、いずれも、バリウム(Ba)、亜鉛(Zn)及びケイ素(Si)と、銅粉とを含む電極材料をセラミック素体11の端面11a,11bにディップ工法により塗布し、焼き付けた。焼き付けの雰囲気は、実施例1~3では、窒素ガスに水分を含ませ加湿したもの(加湿の有無:あり)とし、比較例は、窒素ガスに水分を含ませないものとした(加湿の有無:なし)。実施例1~3の各サンプルの露点温度は表に示す。また、焼き付けは、各実施例及び比較例とも、2000個のサンプルを密集させた状態で行った。
【0062】
【0063】
続いて、焼き付け後の外部電極14,15の断面及び表面をSEM(走査型電子顕微鏡)により観察した。その結果、実施例1~3では、
図4及び
図5に示すように、棒状の結晶粒子が多数見られ(棒状結晶粒子の有無:あり)、当該結晶粒子は外部電極14,15の表面領域R1において多く分布していた。一方、比較例では、このような結晶粒子が見られなかった(棒状結晶粒子の有無:なし)。
【0064】
実施例1~3で観察された結晶粒子の組成を確認するため、X線回折法(XRD)によって外部電極14,15の表面Sを分析した。
図9に、解析結果の一例を示す。図中の符号Eは、実施例2の結果を示し、Cは比較例の結果を示す。また、ピークに付された記号のうち、丸印は銅(Cu)を示し、四角印はチタン酸バリウム(BaTiO
3)を示し、三角印はバリウム亜鉛シリケート(BaZnSiO
4)を示す。
【0065】
比較例の外部電極の表面からは、銅(Cu)及びセラミック素体の成分であるチタン酸バリウム(BaTiO3)が検出されたが、バリウム亜鉛シリケート(BaZnSiO4)は検出されなかった。
一方で、実施例2の外部電極14,15の表面Sからは、Cu、BaTiO3に加えてBaZnSiO4も検出された。
この結果から、実施例1~3で観察された棒状結晶粒子は、BaZnSiO4であり、本実施形態の棒状結晶粒子Pであることが確認された。
【0066】
また、同時に焼き付けた2000個のサンプル中の融着しているサンプルの数を数えた。この結果、実施例1は1個、実施例2及び3はいずれも0個であったのに対し、比較例は10個であり、実施例よりも多かった。また、実施例同士で比較すると、露点温度が26℃の実施例1よりも、露点温度が30℃以上である実施例2及び3の方が融着をより確実に抑制できた。
【0067】
さらに、焼き付け後の外部電極14,15の表面Sに電解メッキ処理によってニッケル(Ni)からなるメッキ膜を形成した。その結果、実施例はいずれも100%の連続率だったのに対し、比較例は98%であり、非連続となった部分があった。
【0068】
以上の結果より、バリウム(Ba)、亜鉛(Zn)及びケイ素(Si)を含む電極材料を加湿された雰囲気下で焼き付けることによって、棒状結晶粒子Pが析出し、サンプル同士の融着を防止できることが確認された。さらに、本実施例では、外部電極14,15上にメッキ膜を形成する場合にも連続率を向上できることが確認された。
【0069】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0070】
例えば、積層セラミックコンデンサ10では、容量形成部16がZ軸方向に複数に分割して設けられていてもよい。この場合、各容量形成部16において内部電極12,13がZ軸方向に沿って交互に配置されていればよく、容量形成部16が切り替わる部分において第1内部電極12又は第2内部電極13が連続して配置されていてもよい。
【0071】
また、上記実施形態では、セラミック電子部品の一例として積層セラミックコンデンサについて説明したが、本発明は、相互に対を成す内部電極が交互に配置される積層セラミック電子部品全般に適用可能である。このような積層セラミック電子部品としては、例えば、圧電素子などが挙げられる。
【符号の説明】
【0072】
10…積層セラミックコンデンサ(セラミック電子部品)
11…セラミック素体
12,13…内部電極
14,15…外部電極
P…棒状結晶粒子
R1…表面領域
R2…内部領域