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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】真贋判定装置およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06T 7/00 20170101AFI20221109BHJP
   B42D 25/23 20140101ALI20221109BHJP
   B42D 25/30 20140101ALI20221109BHJP
【FI】
G06T7/00 300F
B42D25/23
B42D25/30
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018125026
(22)【出願日】2018-06-29
(65)【公開番号】P2020004238
(43)【公開日】2020-01-09
【審査請求日】2021-04-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】山崎 正彦
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 紘志
(72)【発明者】
【氏名】久保木 将司
(72)【発明者】
【氏名】大賀 重信
(72)【発明者】
【氏名】福地 弘之
(72)【発明者】
【氏名】滝沢 直樹
【審査官】山田 辰美
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-011866(JP,A)
【文献】特開2005-260597(JP,A)
【文献】特開2013-188935(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06T 7/00-7/90
B42D 25/23
B42D 25/30
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
IDカードの真贋判定を行う真贋判定装置であって、
前記IDカードのプレ印刷部分の画像における所定方向の濃度値の変化に基づいて、前記IDカードの真贋判定を行う際に、カード周辺とそれより内側にある複数の前記プレ印刷部分の画像を判定に用い、前記IDカードが正規のものと判定される少なくとも一つの前記画像がある場合、前記IDカードを正規のIDカードとすることを特徴とする真贋判定装置。
【請求項2】
前記真贋判定装置は、前記所定方向に隣接する画素の濃度差の度数分布を求め、前記度数分布から前記IDカードの真贋判定を行うことを特徴とする請求項1記載の真贋判定装置。
【請求項3】
前記真贋判定装置は、前記度数分布の度数を閾値と比較することにより、前記IDカードの真贋判定を行うことを特徴とする請求項2記載の真贋判定装置。
【請求項4】
前記プレ印刷部分は文字であることを特徴とする請求項1から請求項のいずれかに記載の真贋判定装置。
【請求項5】
コンピュータを、
IDカードの真贋判定を行う真贋判定装置であって、
前記IDカードのプレ印刷部分の画像における所定方向の濃度値の変化に基づいて、前記IDカードの真贋判定を行う際に、カード周辺とそれより内側にある複数の前記プレ印刷部分の画像を判定に用い、前記IDカードが正規のものと判定される少なくとも一つの前記画像がある場合、前記IDカードを正規のIDカードとする真贋判定装置として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真贋判定装置とそのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
金融機関や携帯電話キャリアなどでは契約時に運転免許証等のIDカードによる本人確認が必要であるが、別人になりすましての契約を行うためにIDカードを偽造するケースが増えつつある。
【0003】
一般的に、IDカードは、各カードで共通に使用される文字や罫線(プレ印刷部分という)をオフセット印刷方式や凸版印刷方式などによりカードに予め形成し、このカードに対し、カード所持者の氏名や生年月日、住所、顔画像など個々のカードによって異なる情報(オンデマンド情報という)を溶融型熱転写方式、昇華型熱転写方式などの熱転写方式により印刷して製造される。
【0004】
IDカードの偽造方法の例として、オンデマンド情報を変更した偽の券面画像をインクジェットプリンタで印刷してIDカードの全面に貼り付けるものがあり、特許文献1には、このような偽造を検出するべくインクジェットプリンタで印刷を行った時に現れるモアレ縞を検出可能とした真贋判定装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-34535号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の方法は、インクジェット方式特有のモアレ縞を検出するものであり、インクジェット方式によるプリンタを使用した偽造しか検出できない。
【0007】
例えばIDカードの偽造方法には、オンデマンド情報を変更した偽の券面画像を昇華型熱転写方式によるプリンタを使用して印刷し、これをIDカードの全面に貼り付けるものもあり、このような偽造を特許文献1の方法で検出することは難しい。
【0008】
本発明は上記の問題に鑑みてなされたものであり、偽のIDカードを好適に検出する真贋判定装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述した課題を解決するための第1の発明は、IDカードの真贋判定を行う真贋判定装置であって、前記IDカードのプレ印刷部分の画像における所定方向の濃度値の変化に基づいて、前記IDカードの真贋判定を行う際に、カード周辺とそれより内側にある複数の前記プレ印刷部分の画像を判定に用い、前記IDカードが正規のものと判定される少なくとも一つの前記画像がある場合、前記IDカードを正規のIDカードとすることを特徴とする真贋判定装置である。
【0010】
前記したように、IDカードのプレ印刷部分はオフセット印刷方式や凸版印刷方式などにより形成され、線の境界部のエッジが明確に現れる。本発明では、このようなプレ印刷部分の特性を利用し、プレ印刷部分の画像の濃度値の変化に基づいて、上記のようなエッジが明確に現れないもの全般を偽のIDカードと判定できる。例えば昇華型熱転写方式により印刷した線の境界部にはグラデーションが現れるため、昇華型熱転写方式により券面画像を印刷したものをIDカードの全面に貼り付けると、プレ印刷部分に該当する部分でも線の境界部にグラデーションが生じることになり、正規のIDカードに対する違いが生じるのでIDカードを偽と判定できる。
【0011】
前記真贋判定装置は、前記所定方向に隣接する画素の濃度差の度数分布を求め、前記度数分布から前記IDカードの真贋判定を行うことが望ましい。例えば、前記真贋判定装置は、前記度数分布の度数を閾値と比較することにより、前記IDカードの真贋判定を行う。
本発明では、濃度値の変化として、例えば所定方向に隣接する画素の濃度差をとり、その度数分布の形状によりIDカードの真贋判定ができる。真贋判定の方法としては、例えば、特定の濃度差または濃度差の範囲について、度数分布の度数を閾値と比較することで、真贋判定を好適に行うことができる。
【0012】
前記真贋判定装置は、複数のプレ印刷部分の画像を用いて、前記IDカードの真贋判定を行うことより、IDカードに反りが生じている場合にも、真贋判定の精度を上げることができる。
【0013】
前記プレ印刷部分は、例えば文字である。
文字は線が密集していることから、線の境界部の濃度変化の違いを利用して真贋判定を行う本発明の真贋判定方法に好適に利用できる。
【0014】
第2の発明は、コンピュータを、IDカードの真贋判定を行う真贋判定装置であって、前記IDカードのプレ印刷部分の画像における所定方向の濃度値の変化に基づいて、前記IDカードの真贋判定を行う際に、カード周辺とそれより内側にある複数の前記プレ印刷部分の画像を判定に用い、前記IDカードが正規のものと判定される少なくとも一つの前記画像がある場合、前記IDカードを正規のIDカードとする真贋判定装置として機能させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、偽のIDカードを好適に検出する真贋判定装置等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】真贋判定システム1を示す図。
図2】真贋判定装置3のハードウェア構成を示す図。
図3】IDカード10の券面の例。
図4】プレ印刷部分の例。
図5】昇華型熱転写プリンタ100と熱転写リボン200を示す図。
図6】昇華型熱転写方式での印刷方法について説明する図。
図7】真贋判定方法について示すフローチャート。
図8】プレ印刷部分の画像300の例。
図9】真贋判定方法について説明する図。
図10】真贋判定方法について説明する図。
図11】複数のプレ印刷部分の画像を判定に用いる例。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面に基づいて本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0018】
(1.真贋判定システム1)
図1は、本発明の実施形態に係る真贋判定装置3を有する真贋判定システム1を示す図である。図1に示すように、真贋判定システム1は読取装置2と真贋判定装置3を有する。読取装置2と真贋判定装置3は無線または有線による通信手段により通信可能に接続される。
【0019】
読取装置2はIDカード10の読取を行うものであり、カメラ21等を有する。カメラ21はIDカード10の券面を撮影するものであり、例えば受光レンズ、撮像素子、A/D(Analog/digital)変換部等を有する既知のカメラを用いることができる。
【0020】
真贋判定装置3は、IDカード10の券面画像からIDカード10の真贋判定を行い、偽のIDカード10を検出するものである。
【0021】
図2は真贋判定装置3のハードウェア構成を示す図である。図2に示すように、真贋判定装置3は、制御部31、記憶部32、表示部33、入力部34、通信制御部35等をバス等により接続して構成されたコンピュータにより実現できる。ただしこれに限ることは無く、適宜様々な構成をとることができる。
【0022】
制御部31はCPU、ROM、RAMなどから構成される。CPUは、記憶部32、ROMなどの記憶媒体に格納された真贋判定装置3の処理に係るプログラムをRAM上のワークエリアに呼び出して実行する。ROMは不揮発性メモリであり、ブートプログラムやBIOSなどのプログラム、データなどを恒久的に保持している。RAMは揮発性メモリであり、記憶部32、ROMなどからロードしたプログラムやデータを一時的に保持するとともに、制御部31が各種処理を行うために使用するワークエリアを備える。
【0023】
記憶部32はハードディスクドライブやソリッドステートドライブ、フラッシュメモリ等であり、後述する処理に際し真贋判定装置3が実行するプログラム、プログラム実行に必要なデータ、OSなどが格納される。これらのプログラムやデータは、制御部31により必要に応じて読み出され実行される。
【0024】
表示部33は液晶ディスプレイ等を備える。
入力部34は真贋判定装置3に各種の設定入力を行うものである。
通信制御部35は無線通信を媒介する通信インタフェースであり、読取装置2との間で通信を行う。
【0025】
(2.IDカード10)
IDカード10は、本実施形態において真贋判定の対象となる本人確認用媒体である。図3(a)はIDカード10の概略を示す図であり、IDカード10の券面の一例を模式的に示したものである。IDカード10は、例えば運転免許証、マイナンバーカード、在留カード、特別永住者カードなどである。
【0026】
IDカード10は金融機関や携帯電話キャリアなどで本人確認に用いられる。IDカード10は、横に長い略矩形状のカード基材上に、カード所持者の氏名12、生年月日13、住所14および顔画像18、IDカード10の交付年月日15、発行番号16、有効期限17などを印刷したものである。
【0027】
IDカード10のうち、氏名12、生年月日13の「年」「月」「日」「生」を除く文字、住所14、顔画像18、交付年月日15の「年」「月」「日」を除く文字、発行番号16の「第」「号」を除く文字、有効期限17などはIDカード10によって異なるオンデマンド情報であり、溶融型熱転写方式、昇華型熱転写方式などの熱転写方式によってカード基材上に印刷して形成される。
【0028】
一方、氏名12、住所14、交付年月日15、発行番号16の記載欄を示す「氏名」「住所」「交付年月日」「番号」などの文字、氏名12、生年月日13、住所14、交付年月日15、発行番号16の記載欄の罫線、生年月日13の「年」「月」「日」「生」の文字、交付年月日15の「年」「月」「日」の文字、発行番号16の「第」「号」の文字は、各IDカード10で共通に使用される。
【0029】
これらの文字あるいは罫線は、オンデマンド情報の印刷前に、オフセット印刷方式や凸版印刷方式などの印刷方式でカード基材上の決まった位置に予め形成され、プレ印刷部分と呼ばれる。図3(b)はIDカード10からプレ印刷部分を抜き出したものであり、図3(b)のように予めプレ印刷部分を形成したカード基材に前記のオンデマンド情報を印刷することでIDカード10が製造される。オンデマンド情報やプレ印刷部分がどのような構成となるかは、運転免許証、マイナンバーカード、在留カード、特別永住者カードなどIDカード10の種類によって異なる。
【0030】
図4(a)は、IDカード10のプレ印刷部分の一部として、「番号」の「番」の文字の「田」の部分を拡大した例であり、オフセット印刷方式や凸版印刷方式等で形成される線にはニジミやカスレが無く、境界部のエッジが明確に現れる。この部分が仮に昇華型熱転写方式で印刷されると、図4(b)に示すように線の境界部には明確なエッジが現れずにグラデーションが生じる。これは昇華型熱転写方式での印刷方法によるものなので、以下その印刷方法について簡単に説明する。
【0031】
(3.昇華型熱転写方式での印刷方法)
昇華型熱転写方式による印刷は図5(a)に示す昇華型熱転写プリンタ100によって行われる。昇華型熱転写プリンタ100では、供給リール101に巻付けた熱転写リボン200を巻出して矢印aに示す方向に搬送しつつ、その途中でサーマルヘッド110により熱転写リボン200に熱を加えて熱転写リボン200の転写層の昇華性染料を印刷対象11に転写する。転写後の熱転写リボン200は巻取リール102で巻取られる。
【0032】
図5(b)は熱転写リボン200の転写層202の例であり、Y(イエロー)、M(マゼンタ)、C(シアン)の各転写層202が熱転写リボン200の基材上に面順次に配列される。
【0033】
昇華型熱転写プリンタ100では、印刷対象11を搬送しつつ、図6(a)に示すように基材201上の転写層202の昇華性染料を印刷対象11に転写する。サーマルヘッド110は、制御部(不図示)から信号を受けるとサーマルヘッド素子111を所定の温度とし、サーマルヘッド素子111から熱転写リボン200に熱を加える。
【0034】
サーマルヘッド素子111が図6(a)の転写層202の範囲Cに熱を加えると、この範囲Cの転写層202の昇華性染料が気化して印刷対象11に設けられた受容層11aに熱拡散し、転写層202の染料が印刷対象11に転写される。転写層202の転写は256階調で行うことができ、印刷対象11を往復搬送しながらY、M、Cの転写層202を印刷対象11上の所定位置に転写することで文字等の印刷が行われる。
【0035】
前記したように、サーマルヘッド素子111の温度は制御部により制御されており、その温度を転写層202の転写時のみ所定の温度とするようにオン、オフの信号を与える。しかしながら、図6(b)に示すように、時間t1でオン信号を与えてもサーマルヘッド素子111が所定の温度になるまでに遅延dt1が発生し、その後サーマルヘッド素子111に時間t2でオフ信号を与えても、サーマルヘッド素子111が元の温度に戻るまでに遅延dt2が発生する。
【0036】
サーマルヘッド素子111の温度が所定の温度に上昇する間、および所定の温度から元の温度に下降する間にも転写層202の昇華性染料はある程度気化して転写され、染料の転写量は上昇中あるいは下降中の温度に比例する。これが、昇華型熱転写方式で印刷された線の境界部に明確なエッジが現れず、図6(b)のGに示すようなグラデーションが生じる理由である。
【0037】
前記したように、正規のIDカード10ではプレ印刷部分がオフセット印刷方式や凸版印刷方式で形成され、線の境界部に明確なエッジが現れるので、上記のように線の境界部に明確なエッジが現れないものを偽のIDカード10として検出できる。そこで本実施形態では、プレ印刷部分の画像の濃度値の変化に基づいて、上記のような線の境界部の濃度変化の違いを利用したIDカード10の真贋判定を行う。
【0038】
(4.真贋判定方法)
図7は本実施形態の真贋判定方法について示すフローチャートである。図7のS1~S2は読取装置2が実行する処理であり、S3~S7は真贋判定装置3の制御部31が実行する処理である。図7の処理は、例えばIDカード10を指定の位置にセットし、真贋判定装置3から読取装置2に処理開始の指示を送信することで開始される。
【0039】
本実施形態では、まず読取装置2がIDカード10の券面をカメラ21によって撮影し(S1)、IDカード10の券面画像を真贋判定装置3に送信する(S2)。本実施形態ではIDカード10の券面の画像を300dpi(1画素約84ミクロン)の分解能のカメラ21で撮影し、256の濃度階調のグレースケール画像を得るが、これに限ることはない。
【0040】
真贋判定装置3は、券面画像を受信する(S3)と、券面画像のうち、所定のプレ印刷部分の画像の抽出を行う(S4)。
【0041】
ここでは、所定のプレ印刷部分として、前記した「番」の文字の画像を抽出するものとし、事前に設定された「番」の文字を含む範囲を券面画像から切り出す。本実施形態では線の境界部の濃度変化の違いを利用して真贋判定を行うので、線の密集した文字の画像が判定に好適であり、なかでも「番」の文字は特に線が密集している。
【0042】
図8は「番」の文字を抽出した画像300の例である。この例では、オンデマンド情報を変更した偽の券面画像を昇華型熱転写方式によって印刷したものをIDカード10の全面に貼り付ける偽造が行われており、「番」のようなプレ印刷部分に該当する部分でも線の境界部に昇華型熱転写方式によるグラデーションが生じている。
【0043】
真贋判定装置3は、S4で抽出したプレ印刷部分の画像300からIDカード10の真贋判定を行う。真贋判定は画像300における所定方向の濃度値の変化に基づいて行うが、ここでは画像300を図9の矢印bに示すように所定方向に走査し、所定方向bの濃度値の変化として、所定方向bに隣接する画素301間の濃度差を全て算出する(S5)。
【0044】
上記の所定方向bは予め定めることができ、ここでは上記のグラデーションが現れる方向、つまりIDカード10を偽造する際に券面画像を昇華型熱転写方式により印刷する時の熱転写リボン200の搬送方向(図5(a)の矢印a参照)に対応しているものとする。図9の例では所定方向bをIDカード10の横方向とし、横方向に隣接する画素301間の濃度差(の絶対値)を全て算出する処理を、縦方向の全ての段の画素301について行う。
【0045】
そして、真贋判定装置3は、隣接する画素301間の濃度差の度数分布からIDカード10の真贋判定を行う(S6)。
【0046】
本実施形態では、まず図10(a)に示すように隣接する画素301間の濃度差の度数分布を求め、その度数を濃度差の最大値から最小値へと順に累積した度数分布(以下、累積度数分布という)を図10(c)の実線に示すように作成する。
【0047】
図10(a)は、プレ印刷部分が昇華型熱転写方式で印刷された偽のIDカード10における濃度差の度数分布の例であり、線の境界部で明確なエッジが現れずにグラデーションが生じる結果、濃度差が大きい部分が比較的少なく、濃度差が中間的な値になる部分が多くなる。また、プレ印刷部分の線がYMCの染料を重ねて印刷されるため、濃度差の最大値自体も比較的小さい。
【0048】
一方、図10(b)は、プレ印刷部分がオフセット印刷方式や凸版印刷方式で形成された正規のIDカード10における濃度差の度数分布の例であり、この場合、前記したように線の境界部に明確なエッジが現れてエッジ部分のみで濃淡が鋭く変化する結果、濃度差が大きい部分と小さい部分が多くなり、また濃度差の最大値自体も大きい。
【0049】
結果、偽のIDカード10の累積度数分布(図11(c)の実線参照)と、正規のIDカード10の累積度数分布(図11(c)の鎖線参照)とでは累積度数分布の形状に違いが生じ、本実施形態ではこのような累積度数分布の違いによりIDカード10の真贋を判定する。
【0050】
具体的な判定方法は上記の違いを判別できるものであれば特に問わないが、例えば特定の濃度差X1について所定の閾値V1を設定し、濃度差X1における(累積)度数を閾値V1と比較して度数が閾値V1以上であれば正規のIDカード10とし、そうでなければ偽のIDカード10とする。あるいは特定の濃度差の範囲X2にある各々の濃度差について所定の閾値V2を設定し、これらの濃度差の度数の和から閾値V2の和を引いた値が所定値以上であれば正規のIDカード10とし、そうでなければ偽のIDカード10としてもよい。また、濃度差の大きい特定の範囲X3を設定し、その範囲X3における度数の和が閾値以上であれば正規のIDカード10とし、そうでなければ偽のIDカード10とすることも可能である。
【0051】
真贋判定装置3は、判定結果を表示部33に表示し(S6)、処理を終了する。オペレータは、真贋判定装置3の表示部33に表示された判定結果を見ることで、IDカード10が正規のものであるか偽造されたものであるかがわかる。
【0052】
以上説明したように、本実施形態では、オフセット印刷方式や凸版印刷方式などにより形成された線の境界部に明確なエッジが現れることを利用し、そのようなエッジが明確に現れないIDカード10を、プレ印刷部分の画像の濃度値の変化に基づいて偽のIDカード10と判定できる。そのため、昇華型熱転写方式により券面画像を印刷したものをIDカード10の全面に貼り付けるような偽造等を検出できる。
【0053】
なお、インクジェット方式により印刷を行う場合も、誤差拡散法により濃淡を表現する結果、線の境界部にニジミやボケが生じるので、インクジェット方式でプレ印刷部分が印刷されたIDカード10も同様に偽と判定できる。このように、本実施形態の真贋判定方法は、昇華型熱転写方式に限らず、インクジェット方式、あるいはドットの面積で階調を表現するような印刷方式(例えば、電子写真印刷方式)など、線の境界部のエッジが明確に現れないような印刷方式による偽造全般を検出できる。
【0054】
本実施形態では、上記した濃度値の変化として、所定方向に隣接する画素の濃度差をとり、その度数分布の形状によりIDカード10の真贋判定ができる。真贋判定の方法としては、例えば、特定の濃度差X1または濃度差の範囲X2、X3について、度数分布の度数を閾値と比較することで、真贋判定を好適に行うことができる。本実施形態では図11(c)に示したような累積度数分布を真贋判定に用いているが、図11(a)、(b)に示す通常の(累積度数分布でない)度数分布を用いることも可能であり、上記と同様、度数を閾値と比較することで真贋判定を行うことが可能である。
【0055】
また本実施形態ではプレ印刷部分の文字の画像から真贋判定を行っている。文字は線が密集していることから、線の境界部の濃度変化の違いを利用して真贋判定を行う本実施形態の真贋判定方法に好適に利用できる。
【0056】
しかしながら、本発明はこれに限らない。例えばIDカード10をズボンの後ポケット等に入れるとIDカード10が反り、IDカード10の撮影時の焦点が合わず、S4で抽出するプレ印刷部分の画像にボケが生じることがある。このようなボケは正規のIDカード10を偽のIDカード10と誤判定する要因となるので、これを防ぐため、カード周辺とそれより内側にある複数のプレ印刷部分の画像を判定に用い、少なくとも一つの画像の焦点が有っていれば判定を正しく行える(正規のIDカード10を正規のIDカード10と判定できる)仕組みとしてもよい。これにより判定精度を向上させることができる。
【0057】
例えば図11のA~Cに示すように、カード周辺の「番」、「生」の文字の画像と、カード中央部の「号」の文字の画像のそれぞれに対しS5~S6の処理を行い、少なくとも一つの画像で正規のIDカード10と判定されれば、他の画像での判定結果に関わらずそのIDカード10を正規のIDカード10とする。
【0058】
また、文字ではなくプレ印刷部分の罫線の画像を真贋判定に用いることも可能であり、プレ印刷部分のその他の線を真贋判定に用いてもよい。当該線はIDカード10の縦方向や横方向に対して傾斜した方向に形成されていてもよい。これらの文字、罫線その他の線は、モノクロ印刷されていてもよいし、カラー印刷されていてもよい。
【0059】
また、本実施形態では前記したようにプレ印刷部分の画像を所定方向に走査して所定方向の濃度値の変化を調べる。前記の例において、所定方向は偽のIDカード10の券面画像を昇華型熱転写方式で印刷するときの熱転写リボン200の搬送方向に対応しており、通常IDカード10の縦方向または横方向である。ただし、検査段階では熱転写リボン200の搬送方向がどの方向であるかわからないことが多いので、所定方向を複数の方向、例えばIDカード10の縦方向と横方向としたときのそれぞれでS5~S6の処理を行い、いずれかの方向での走査時に偽と判定された場合に、そのIDカード10を偽とすることが可能である。あるいは、IDカード10の縦方向および横方向に対して傾斜した方向にプレ印刷部分の画像の走査を行ってもよく、この場合は熱転写リボン200の搬送方向がIDカード10の縦方向と横方向のどちらであっても判定を行うことが可能である。
【0060】
以上、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0061】
1:真贋判定システム
2:読取装置
3:真贋判定装置
10:IDカード
100:昇華型熱転写プリンタ
200:熱転写リボン
300:画像
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11