(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】部材
(51)【国際特許分類】
B23K 26/34 20140101AFI20221109BHJP
B23K 26/21 20140101ALI20221109BHJP
B33Y 80/00 20150101ALI20221109BHJP
【FI】
B23K26/34
B23K26/21 Z
B33Y80/00
(21)【出願番号】P 2021172117
(22)【出願日】2021-10-21
(62)【分割の表示】P 2020529009の分割
【原出願日】2019-07-02
【審査請求日】2021-10-21
(31)【優先権主張番号】P 2018128913
(32)【優先日】2018-07-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】國友 謙一郎
(72)【発明者】
【氏名】小関 秀峰
(72)【発明者】
【氏名】白鳥 浩史
(72)【発明者】
【氏名】川中 啓嗣
【審査官】石田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-088185(JP,A)
【文献】特開2002-219567(JP,A)
【文献】特開2005-88042(JP,A)
【文献】特開2007-9323(JP,A)
【文献】特開平10-291070(JP,A)
【文献】特開平8-296419(JP,A)
【文献】特許第3755404(JP,B2)
【文献】特公平5-5593(JP,B2)
【文献】米国特許出願公開第2011/57360(US,A1)
【文献】特開昭62-224528(JP,A)
【文献】国際公開第2017/170890(WO,A1)
【文献】特開2017-206852(JP,A)
【文献】特開2014-100730(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/34
B23K 26/21
B33Y 80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1材料からなる第1金属領域と、
前記第1材料とは異なる材料である第2材料からなる第2金属領域と、
前記第1金属領域と前記第2金属領域との間に、前記第1材料および前記第2材料が混合された混合領域と、
を有し、
前記第1金属領域と前記混合領域との界面は、前記第1金属領域の最上面へ向かって延在する階段状の面を少なくとも有し、
前記階段状の面は、断面視において、第1曲線、第2曲線、および、前記第1曲線と前記第2曲線との交点を複数有し、
前記第1曲線は、断面視において、前記第1金属領域側に凸となる曲線であり、
前記第2曲線は、断面視において、前記第1金属領域側に凸となる曲線であり、
前記交点において、前記第1曲線の接線と前記第2曲線の接線とが前記第1金属領域側で成す角度は、70度以上、180度未満である、部材。
【請求項2】
第1材料からなる第1金属領域と、
前記第1材料とは異なる材料である第2材料からなる第2金属領域と、
を有し、
前記第1金属領域と前記第2金属領域との界面は、前記第1金属領域の最上面へ向かって延在する階段状の面を少なくとも有し、
前記階段状の面は、断面視において、第1曲線、第2曲線、および、前記第1曲線と前記第2曲線との交点を複数有し、
前記第1曲線は、断面視において、前記第1金属領域側に凸となる曲線であり、
前記第2曲線は、断面視において、前記第1金属領域側に凸となる曲線であり、
前記交点において、前記第1曲線の接線と前記第2曲線の接線とが前記第1金属領域側で成す角度は、70度以上、180度未満である、部材。
【請求項3】
請求項1又は2記載の部材において、
前記角度が90度以上、180度未満である、部材。
【請求項4】
請求項1記載の部材において、
前記角度が90度以上、180度未満であり、
前記第2材料は、サーメットからなる材料である、部材。
【請求項5】
請求項1又は4に記載の部材において、
前記第2金属領域内において、前記混合領域よりも前記第1金属領域から離れた領域における前記第2材料の含有比率は、前記混合領域における前記第2材料の含有比率よりも大きい、部材。
【請求項6】
請求項1乃至4に記載の部材において、
前記第1金属領域には、凹部が形成され、
前記第2金属領域は、前記凹部内に形成され、
前記第1金属領域には、前記凹部の底面から前記凹部外の前記第1金属領域の上面に向かう面の途中に、凹部の上面に向かう突出部が設けられている、部材。
【請求項7】
請求項1乃至5に記載の部材において、
前記部材は、金型の一部を構成する金型部材である、部材。
【請求項8】
第1材料からなる第1金属領域と、
前記第1材料とは異なる材料である第2材料からなる第2金属領域と、
前記第1金属領域と前記第2金属領域との間に、前記第1材料および前記第2材料が混合された混合領域と、
を有し、
前記第1金属領域と前記第2金属領域との界面は、前記第1金属領域の最上面へ向かって延在する階段状の面を少なくとも有し、
前記階段状の面は、前記第1金属領域側に凸となる円弧状の第1曲面、前記第1金属領域側に凸となる円弧状の第2曲面、および、前記第1曲面と前記第2曲面との夫々の接線の交線を複数有し、
前記交線である稜線において、前記第1金属領域側で前記第1曲面と前記第2曲面とが成す開口角は、70度以上、180度未満である、部材。
【請求項9】
請求項8記載の部材において、
前記開口角は、90度以上、180度未満である、部材。
【請求項10】
請求項8又は9記載の部材において、
前記第2材料は、サーメットからなる材料である、部材。
【請求項11】
請求項8乃至10に記載の部材において、
前記部材は、金型の一部を構成する金型部材であり、
前記第1金属領域は、前記金型と一体化し、
前記第1金属領域の最上面は、前記金型の最上面であり、
前記金型の最上面から前記金型の側面に亘る肩において、前記第2金属領域が形成されている、部材。
【請求項12】
請求項11に記載の部材において、
前記最上面を基準とした場合に、前記界面が成す角度は50度以下である、部材。
【請求項13】
請求項8乃至12に記載の部材において、
前記第2金属領域内において、前記混合領域よりも前記第1金属領域から離れた領域における前記第2材料の含有比率は、前記混合領域における前記第2材料の含有比率よりも大きい、部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、部材に関し、特に、異種金属を積層造形により肉盛溶接した部材に関する。
【背景技術】
【0002】
複数種の金属を溶接するため、種々の積層造形技術が開発されている。例えば、特許文献1には、粉体プラズマ肉盛法により、圧延用ロール(例えばSCM440などの低合金鋼)に設けた溝に対して、高合金材質を肉盛することで、異種金属により形成される部材を製造することが開示されている。また、特許文献2には、溶接具を備えたティーチング可能な自動加工機を用いて金型を修正する方法として、目的とする修正部位に断面が階段状の加工を施したのち、階段状の部位に溶接材を肉盛りし、その後目的とする形状に修正加工することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平5-309404号公報
【文献】特開2002-219567号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、金型では、特定の箇所が摩耗し易い、または、破壊され易いような問題がある。このような特定の箇所に対して、上記の積層造形技術などを用いて金型の一部に部材(金型部材と呼ぶことがある)を設け、金型の一部の強度を向上させる、または、金型の一部を補修することが有効である。そして、異種金属により形成される部材においては、異種金属が接する境界面の接合力を向上させることで、信頼性を向上させることが望まれている。しかし、このような要望を満たす異種金属の部材の特徴及び製造方法について特許文献1及び2は開示していない。また、当該部材を製造するにあたり、レーザ光を用いた、例えばレーザ・メタル・デポジション(LMD:Laser Metal Deposition)を用いる方法について開示していない。そのため製造した部材に空洞や亀裂が発生する恐れがある。
【0005】
その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願において開示される実施の形態のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0007】
一実施の形態である部材は、第1材料からなる第1金属領域と、前記第1材料とは異なる材料である第2材料からなる第2金属領域と、前記第1金属領域と前記第2金属領域との間に、前記第1材料および前記第2材料が混合された混合領域と、を有する。ここで、前記第1金属領域と前記混合領域との界面は、前記第1金属領域の最上面へ向かって延在する階段状の面を少なくとも有し、前記階段状の面は、断面視において、第1曲線、第2曲線、および、前記第1曲線と前記第2曲線との交点を複数有し、前記第1曲線は、断面視において、前記第1金属領域側に凸となる曲線であり、前記第2曲線は、断面視において、前記第1金属領域側に凸となる曲線であり、前記交点において、前記第1曲線の接線と前記第2曲線の接線とが前記第1金属領域側で成す角度は、70度以上、180度未満である。
【0008】
一実施の形態である部材は、第1材料からなる第1金属領域と、前記第1材料とは異なる材料である第2材料からなる第2金属領域と、を有する。前記第1金属領域と前記第2金属領域との界面は、前記第1金属領域の最上面へ向かって延在する階段状の面を少なくとも有し、前記階段状の面は、断面視において、第1曲線、第2曲線、および、前記第1曲線と前記第2曲線との交点を複数有し、前記第1曲線は、断面視において、前記第1金属領域側に凸となる曲線であり、前記第2曲線は、断面視において、前記第1金属領域側に凸となる曲線であり、前記交点において、前記第1曲線の接線と前記第2曲線の接線とが前記第1金属領域側で成す角度は、70度以上、180度未満である。
【0009】
一実施の形態である部材は、第1材料からなる第1金属領域と、前記第1材料とは異なる材料である第2材料からなる第2金属領域と、前記第1金属領域と前記第2金属領域との間に、前記第1材料および前記第2材料が混合された混合領域と、を有する。ここで、前記第1金属領域と前記第2金属領域との界面は、前記第1金属領域の最上面へ向かって延在する階段状の面を少なくとも有し、前記階段状の面は、前記第1金属領域側に凸となる円弧状の第1曲面、前記第1金属領域側に凸となる円弧状の第2曲面、および、前記第1曲面と前記第2曲面との夫々の接線の交線を複数有し、前記交線である稜線において、前記第1金属領域側で前記第1曲面と前記第2曲面とが成す開口角は、70度以上、180度未満である。
【発明の効果】
【0010】
本願において開示される一実施の形態によれば、異種金属により形成される部材の空洞や亀裂を無くし、部材の機械的強度の信頼性を向上させることができる。また、LMD法を用いて前述のような部材を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施の形態1に用いられるLMD法の概要を示す斜視図である。
【
図2】実施の形態1の金型および金型部材を示す斜視図である。
【
図3】実施の形態1の金型の要部を拡大した斜視図である。
【
図5】実施の形態1の金型部材の製造工程を示す断面図である。
【
図11】実施の形態1の金型部材を示す斜視図である。
【
図12】実施の形態1の金型部材の要部を拡大した断面図である。
【
図14】実施の形態2の金型部材を示す斜視図である。
【
図16】実施の形態3の金型部材を示す斜視図である。
【
図17】実施の形態4の金型部材を示す斜視図である。
【
図19】実施の形態5の金型の要部を拡大した斜視図である。
【
図24】比較例2の金型部材の要部を拡大した断面図である。
【
図25】側面が傾斜している部材の形状測定結果である。
【
図26】側面が複数の階段で構成される部材の形状測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。また、以下の実施の形態では、特に必要なときを除き、同一または同様な部分の説明を原則として繰り返さない。
【0013】
(実施の形態1)
本実施の形態では、主に、異種金属接合部材の一例として、金型に用いられる部材である金型部材について説明する。また、金型部材を、レーザ光を用いた積層造形技術によって製造する方法について説明する。
【0014】
<LMD法による積層造形技術について>
まず、本実施の形態で用いられる積層造形技術の1つであるLMD法について説明する。LMD法は、レーザ金属堆積法またはレーザ粉体肉盛り法などと呼ばれる場合もある。以後の説明では、LMD法による積層造形を肉盛溶接と称し、粉末材料としてサーメットの粉末を用いる場合を説明する。
【0015】
図1は、一般的なLMD法の概要を示す斜視図である。また、
図1には、X方向、Y方向およびZ方向が示されており、これらは互いに直交している。Z方向は鉛直方向であり、母材1の厚さ方向である。X方向およびZ方向によって形成される面は、Y方向と垂直な断面であり、後述の母材1および金型部材20A~20FのA-A線に沿った断面である。このような各方向の関係は、
図2以降の各図面でも同様である。なお、上記X方向、Y方向およびZ方向と断面の関係は代表して「A-A線に沿った断面」と記す。また、斜視図で金型部材又は部材を示す場合、斜視図上の同部材の最前面はA-A線に沿った断面を示している。
【0016】
図1に示されるレーザヘッド12は、レーザ光出射装置の一部であり、レーザ光出射機構および粉末材料供給機構を備える。レーザヘッド12からZ方向に出射したレーザ光13は、母材1に照射され、レーザ光13が照射される領域には、レーザヘッド12から粉末材料14が供給される。レーザ光13によって、母材1に含まれる金属と、粉末材料14に含まれる金属とが溶融することで、母材1の一部に溶融池15が形成される。
【0017】
レーザヘッド12はX方向およびY方向に走査可能であり、レーザ光13が他の領域へ移動することで、溶融池15の各金属が凝固し、溶接物が形成される。そして、レーザ光13の走査による加工を繰り返すことにより、母材1上に積層の溶接物が造形される。このような積層の溶接物が、後述の造形物2となる。なお、レーザ光13の移動は、レーザヘッド12と母材1との相対位置を変更させる移動機構(図示は省略)により行うことが一例である。移動機構の一例としては、母材1を固定させた可動式のステージ、またはレーザヘッド12を可動保持可能なロボットアームである。
【0018】
以下では、本実施の形態の金型部材20Aの構造およびその製造方法について説明するが、その前に、比較例1および比較例2について説明する。
【0019】
<比較例1の金型部材20E>
以下に、
図20および
図21を用いて、比較例1の金型部材20Eについて説明する。
図20は、金型部材20Eが完成する前の母材1の構造を示す斜視図である。
図21は、母材1に造形物2が形成された金型部材20Eの構造を示す斜視図である。
【0020】
図20に示されるように、母材1には、母材1の最上面80の高さよりも低い箇所である凹部(例えば溝または窪み)GRが設けられ、そして凹部GRは、底面6および側面70を有する。ここで、比較例1の底面6と側面70とが成す角度は垂直である。
【0021】
図21に示されるように、金型部材20Eは、母材1と、母材1に溶接された造形物2とを有する。造形物2は、LMD法によって母材1と粉末材料14とを溶融することで形成された溶接物が堆積した領域である。混合領域3は、造形物2の一部であり、造形物2が母材1と接する領域である。すなわち、混合領域3は、母材1の材料に含まれる金属と、粉末材料14に含まれる金属とが混合した領域である。界面4は、母材1と混合領域3との境界である界面を示している。
【0022】
上述のように、混合領域3を含む造形物2を形成するために用いられるレーザ光13は、Z方向に沿って照射される。すなわち、レーザ光13は、凹部GRの底面6および母材1の最上面80には直接照射されるが、凹部GRの側面70にはほぼ照射されない。このため、母材1と粉末材料14とは、凹部GRの底面6および母材1の最上面80付近では溶融し易いが、凹部GRの側面70付近では溶融し難い。従って、
図21に示される黒塗りの箇所のように、側面70付近において、母材1と造形物2との間に、空洞11のような欠陥が発生してしまう恐れがある。このような空洞11が発生すると、母材1と造形物2との密着性が低下し、造形物2が母材1から剥離されるような不具合が発生し易くなる。即ち、接合力が弱くなる。
【0023】
<比較例2の金型部材20F>
以下に、
図22~
図24を用いて、比較例2の金型部材20Fについて説明する。なお、以下では、比較例1との相違点を主に説明する。
【0024】
図22は、金型部材20Fが完成する前の母材1の構造を示す斜視図である。
図23は、母材1に造形物2が形成された金型部材20Fの構造を示す斜視図である。
図24は、
図23に示されるA-A線に沿った断面図の一部であり、金型部材20Fの要部を拡大した断面図である。なお、
図24は断面図であるが、図面を見易くするため、ハッチングを省略している。
【0025】
図22に示されるように、比較例2の母材1において、側面70は、底面6に対して垂直ではなく、底面6から最上面80にかけて、一定の角度で傾斜している。この傾斜角は、例えば40度から60度である。
【0026】
このため、比較例2では、レーザ光13が側面70にも照射され易くなっている。従って、
図23に示されるように、比較例2の金型部材20Fでは、母材1と造形物2との間に、比較例1の空洞11のような欠陥が発生することを抑制できる。
【0027】
しかしながら、本願発明者らの検討によれば、比較例2の金型部材20Fは、混合領域3または造形物2に、亀裂が発生し易い場合があることが判った。混合領域3は、母材1に含まれる金属と、粉末材料14に含まれる金属とが混合された領域であり、レーザ光13の照射後に急速に凝固した領域である。凝固した混合領域3は、非平衡で不安定な領域であり、残留応力が生じやすい。
【0028】
ここで、
図24に示されるように、断面視において、母材1と混合領域3との境界である界面4は、曲線4aおよび曲線4bを有する線で示される。そして、曲線4aと曲線4bとの交点である頂点5において、母材1側で曲線4aと曲線4bとが成す角度θdは、鋭角となることが多い。
【0029】
このように頂点5が鋭角であればあるほど、上記の残留応力は頂点5に集中し易くなる。そうすると、上記の残留応力によって、この頂点5を起点として、混合領域3または造形物2に亀裂が生じ易い。このため、金型部材20Fが、本来設計されていた形状及び/又は強度にならない恐れがある。更に、このような亀裂が界面4の多くの箇所で発生すると、造形物2が母材1から剥離されるような不具合が発生し、接合力が弱くなる。また、金型部材20Fの外部から、亀裂を介して、水分または大気中の酸素などが浸透し、造形物2または母材1が、腐食するまたは酸化するなどの不具合が発生する恐れがある。特にサーメットを粉末材料14として用いる場合は、造形物の硬度が高いため、亀裂が伝搬して金型部材20F全体の破壊に至りやすい。
【0030】
<本実施の形態の金型100および金型部材20A>
図2は、本実施の形態の金型100および金型部材20Aを示す斜視図であり、
図3は、
図2の破線で示される箇所であり、金型100の要部を拡大した斜視図である。
図3では、便宜上、界面4の形状を点線で示している。
【0031】
図2に示されるように、金型100は母材1によって構成され、本例では母材1の一部には、母材1を貫通するように鍵穴形状の切り欠きが設けられている。すなわち、本実施の形態で例示する金型100は、柄杓型のプレス成型を行う時に用いられるメス型の金型である。本実施の形態では、金型100の上面である最上面80側を上方として扱う。
【0032】
図2および
図3に示されるように、金型100の切り欠きの肩には、金型100に用いられる部材である金型部材20Aが形成されている。金型部材20Aは、金型100の切り欠きの肩のように、特に摩耗し易い、または、破壊され易い箇所を補強するため、母材1に、母材1より強度の高い造形物2が肉盛溶接された部材である。造形物2は、金型100の上面から金型100の側面に亘る肩において形成され、露出している。
【0033】
また、金型部材20Aは、金型100の一部であり、金型100と一体化している。言い換えれば、金型100の母材1は、金型部材20Aの母材1と一体化している。なお、金型100は、複数の金型部材を含んでいてもよいが、本実施の形態では、このような複数の金型部材の1つである金型部材20Aについて説明する。
【0034】
以下に、
図4~
図12を用いて、金型部材20Aの製造方法および構造と、これらの特徴について説明する。なお、
図5~
図10は、
図4に示されるA-A線に沿った断面図である。
【0035】
図4は、金型部材20Aが完成する前の母材(第1金属領域)1の構造を示す斜視図である。最終的には、この母材1の肩に造形物(第2金属領域)2が肉盛溶接され、
図11に示される金型部材20Aが製造される。
【0036】
図4に示されるように、母材1には、母材1の最上面80の高さよりも低い箇所である凹部GRが形成されている。凹部GRには、凹部GRの底面6から母材1の最上面80にかけて、複数の段10が階段状に形成されている(以下、階段状に形成された構造を単に「段」と言う)。段10の各々は、側面7および上面8と、側面7および上面8によって構成された角9とを有する。なお、段10のうち、最上段の段10は、側面7および最上面80によって構成されている。
【0037】
角9において、側面7と上面8とが成す角度θaは、90度以上、120度以下の範囲であることが好ましく、90度であることが最も好ましい。90度未満の角9を持つ場合(仮に「鋭角の角」と呼ぶ)、鋭角の角の直上から見たときに鋭角の角に隠れる側面7及び上面8の一部がある。その結果として、側面7及び上面8へのレーザ照射量が不足し、母材1の溶融不良が生じることがある。側面7の長さ(高さ)L1は、例えば0.2mm以上、1.2mm以下の範囲であることが好ましく、0.6mmであることが最も好ましい。上面8の長さ(幅)L2は、例えば0.3mm以上であることが好ましく、1.0mmであることが最も好ましい。よって、上面8の長さL2に対する側面7の長さL1の比(長さL1/長さL2)は、4以下とすることができるが、1.2以下(小数点以下第1位を四捨五入した角度で表現すると50度以下)であることが好ましく、0.6以下(小数点以下第1位を四捨五入した角度で表現すると31度以下)であることがより好ましい。段10の形状をこのように設定している理由については、後で詳細に説明する。
【0038】
このような母材1を準備する工程を、
図5および
図6を用いて説明する。なお、
図6は断面図であるが、図面を見易くするため、ハッチングを省略している。
【0039】
まず、
図5に示されるように、凹部GRが設けられた第1材料からなる母材1(第1金属領域)を用意する。凹部GRは、底面6および側面70を有し、母材1の一部であり、母材1のうち、母材1の最上面80の高さよりも低い箇所である。また、母材1は、例えば鋼(ステンレス鋼、工具鋼を含む)、ニッケル合金(ニッケル基合金を含む)のような金属材料からなる。
【0040】
次に、
図6に示されるように、例えば切削装置またはワイヤカット放電加工を用いて母材1の側面70を加工することで、母材1に段10を形成する。上述のように、段10の各々は、側面7、上面8および角9を有する。これにより、凹部GRが拡大する。
【0041】
以下に、
図7~
図11を用いて、
図5および
図6の工程によって準備された第1材料からなる母材1(第1金属領域)に、第2材料からなる造形物2(第2金属領域)を肉盛溶接することで、金型部材20Aを形成する製造方法を説明する。本実施の形態では、
図1で説明したLMD法、すなわち、レーザ光13を照射しながら、レーザ光13のスポット径内に、粉末材料14を供給する積層造形法を用いる。
【0042】
まず、
図7に示されるように、
図1で説明したレーザ光出射装置(レーザヘッド12)を用いて、母材1に対してレーザ光13を照射しながら、レーザ光13のスポット径内に粉末材料14を供給する。例えば、レーザ光13の出力は3000W以下であり、レーザ光13のスポット径(直径)は1.6~3.0mmであり、種類はダイオードレーザである。なお、粉末材料14を溶融できるのであれば、ファイバーレーザまたはYAGレーザを採用してもよい。
【0043】
また、第2材料として用いる粉末材料14は、例えば粉末状のサーメットからなる。サーメットの一例は、下記の原料Aと原料Bとを混合させた複合材料である。尚、本発明ではこのような複合材料も金属領域に含むものとする。
原料A:タングステン(W)、チタン(Ti)、タンタル(Ta)またはニオブ(Ni)の何れかの金属の炭化物、窒化物、硼化物または珪化物
原料B:鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)またはコバルト(Co)の何れかの金属
【0044】
なお、本明細書に於けるサーメットは、炭化タングステンなどの超硬合金も含むものとする。上述のように、金型部材20Aは、金型100のうち、特に摩耗し易い、または、破壊され易い箇所を補強する目的で設けられている。そのため、金型部材20Aでは、造形物2は母材1よりも高い強度が求められる。従って、造形物2の主材料となる粉末材料14に含まれるサーメットは、母材1に含まれる材料よりも、高い強度を有している点が好ましい理由の一つである。なお、本実施例における「高い強度」とは、高い硬度、高い耐摩耗性、又は/及び高い耐熱性(高い融点)である。
【0045】
図7に示されるように、本実施の形態では、レーザ光13は、少なくとも隣接する2つの上面8に跨るように照射される。言い換えれば、レーザ光13のスポット径内には、少なくとも1つの角9が含まれる。
図7では、レーザ光13は、底面6および底面6に最も近い上面8に跨るように照射され、レーザ光13のスポット径内に、1つの角9が含まれている場合を例示している。これにより、上面8および底面6だけでなく、側面7においても、母材1と粉末材料14とが溶融される。
【0046】
上述のように、比較例1では、凹部GRの底面6から母材1の最上面80までの高さが高いため、母材1と粉末材料14とは、凹部GRの底面6付近、および、母材1の最上面80付近では溶融し易いが、凹部GRの側面70付近では溶融し難い問題があり、空洞11が発生する恐れがあった。
【0047】
これに対して、本実施の形態では、側面7の長さL1が0.6mm程度となり、かつ長さL1/長さL2の値が0.6以下となるように、段10の形状を調整している。このように各段10の側面7の長さL1が小さいので、角9に照射されるレーザ光13によって、上面8付近だけでなく、側面7付近も十分に加熱される。すなわち、母材1と粉末材料14とは、上面8付近だけでなく、側面7付近でも溶融する。従って、比較例1のような空洞11が発生する恐れを抑制できる。
【0048】
また、レーザ光13が上面8だけを照射し、角9を照射しない場合には、上面8から伝わる熱が、例えば側面7の中間部まで伝導できない恐れがある。そうすると、側面7における加熱が十分ではなくなり、側面7において、比較例1のような空洞11が発生する恐れがある。従って、レーザ光13のスポット径内には、少なくとも1つの角9が含まれていることが重要である。上記レーザ光13の照射によって角はより多く溶融することから、元々の角9が持っている角度「90度以上、120度以下」より広がった角度を持つ界面4の頂点5(または稜線5-2)が形成され易くなる。
【0049】
本実施の形態では、複数の段10を形成しており、複数の段差が発生しているため、これらの段差が大きいと、レーザ光13の焦点がずれ、母材1の一部は十分に加熱されない恐れがある。しかしながら、上記のように長さL1、および長さL2の値を調整することで、レーザ光13のスポット径内において、レーザ光13の焦点に若干のずれがあったとしても、母材1を十分に加熱することができる。従って、レーザ光13のスポット径内において、母材1と粉末材料14とを溶融させることができる。
【0050】
また、本実施の形態では、レーザ光13の照射方向は、重力方向(Z方向に沿った方向、または、最上面80と垂直な方向)と平行である場合について説明してきた。しかし、レーザ光13の照射方向を、重力方向から所定の角度を傾けた方向から行うことも可能である。ただし、粉末材料の供給は重力落下を利用していることから、レーザ光出射装置を改造し、レーザ光の照射方向と粉末材料の供給方向を異なる方向に構成可能とする必要がある。よって、金型部材20Aを形成する場合は、金型部材20Aの最上面80を重力方向と垂直とし、レーザ光13の照射方向は、出来るだけ重力方向と平行とすることが好ましい。
【0051】
図8は、
図7で説明したレーザ光13の照射後の状態を示している。
【0052】
レーザ光13によって母材1と粉末材料14とが溶融し、レーザ光13が他の領域へ走査された後、母材1に含まれる材料と、粉末材料14に含まれる材料とを有する溶接物(LMD法ではビードと呼ぶことがある)2aが、母材1上に形成(肉盛り)される。これにより、溶融前の段10の形状は変化する。
図8では、溶接物2aが形成された領域において、母材1と溶接物2aとの境界を界面4として示している。なお、溶融物の幅は、レーザ光のスポット径とほぼ等しくなる。
【0053】
図9は、
図7の工程と
図8の工程とを繰り返し行った状態を示している。
【0054】
図9に示されるように、溶接物2aの形成工程と同等な方法によって、溶接物2b~2fが順次形成される。溶接物2a~2fは、レーザ光13の照射位置をそれぞれ変更することで、溶接物2a、溶接物2b、溶接物2c、溶接物2d、溶接物2eおよび溶接物2fの順番で形成される。即ち、
図7で説明したように、レーザ光13のスポット径内に角9を含んで、母材1の底面6と直ぐ上の上面8を跨ぐようにレーザ光を照射する。照射しながらスポット径内に粉末材料14を供給することで、母材1の第1の上面に溶接物2aが形成される。そして、レーザ光のスポット径内に次の角9を含んで、第1溶接物2aと次の上面8を跨ぐようにレーザ光を照射する。照射しながらスポット径内に粉末材料14を供給することで、母材1の第2の上面に溶接物2aの表面に接する溶接物2bが形成される。次に、レーザ光のスポット径内に溶接物2aと溶接物2bを跨ぐようにレーザ光を照射しながら、スポット径内に粉末材料14を供給することで、溶接物2aと溶接物2bの表面に接する溶接物2cが形成される。以後、溶接物2d、2e、2fを形成するものである。上述のように本発明の製造方法では、階段付近の溶接物の形成は、図の溶接物2a及び溶接物2bが示すように、母材1の角9を含む階段表面(溶接物形成後の位置でいえば界面4に接するように)と、既に形成された溶接物と、の両方に接するように次の溶接物を形成する工程を含んでいることにも特徴がある。このようにすることで界面付近での溶接物間で隙間が発生することを回避できる。
【0055】
ここで、例えば溶接物2cは、溶接物2aと粉末材料14とを溶融することで形成される。すなわち、溶接物2aに対してレーザ光13を照射しながら、レーザ光13のスポット径内に粉末材料14を供給することで、溶接物2a上に溶接物2cが形成される。このため、溶接物2cは、溶接物2aに含まれる材料と、粉末材料14に含まれる材料とからなるので、溶接物2cに含まれる粉末材料14(サーメット)の含有比率(以後、単に比率と呼ぶことがある)は、溶接物2aに含まれる粉末材料14(サーメット)の比率よりも大きい。すなわち、上層に形成される溶接物は、下層に形成される溶接物よりも、粉末材料14であるサーメットの比率が大きくなっていく。
【0056】
図10は、
図9の溶接物2a~2fのような溶接物を順次形成し、これらの溶接物によって凹部GR内が充填された状態を示している。
図10では、これらの溶接物の集合を造形物(第2金属領域)2として示している。混合領域3は、母材1の材料に含まれる金属と、粉末材料14の材料に含まれる金属とが混合した領域である。また、混合領域3は、造形物2の一部であり、且つ、母材1と接する領域であるが、本実施の形態では、発明の理解を容易にするため、造形物2と混合領域3とを分けて図示している。
【0057】
造形物2内において、混合領域3から離れるにつれて、粉末材料14の比率が、母材1に含まれる材料の比率よりも大きくなる。造形物2の表面付近においては、粉末材料14の比率は、ほぼ100%である。
【0058】
また、造形物2の形成後には、複数の段10の形状は全て変化しており、母材1と混合領域3との境界は界面4となる。断面視において、界面4は、複数の曲線からなる線で示される。この曲線を含む線は、概ね最上面80へ向かう方向に延在する。上述のように、段10の形状は、長さL1/長さL2の比を適切にすることによって、空洞または亀裂が発生することなく溶融することができる。
【0059】
ここでは長さL1/長さL2の比が0.6以下となるように調整されていた。加えて、金型部材20Aを形成する場合は、金型部材20Aの最上面80を重力方向と垂直とし、レーザ光13の照射方向は、出来るだけ重力方向と平行となるよう調整していた。このようなことから断面視において、凹部GR外の母材1の最上面80(金型部材20Aの最上面80に相当)から凹部GRの底面6にかけて、界面4を構成する線の平均的な傾斜を示す仮想直線と、最上面80とが成す角度θbを指標とすることができる。本実施の形態では、上述のL1/L2が1.2の比に相当する50度以下とすることが好ましく、中でも0.6の比に相当する31度以下を維持することが好適である。
【0060】
ここで、断面視対象とする断面は、
図4のY方向(別な言い方をすれば段10の角9の伸長方向)と垂直に定義したり、
図3および
図19の稜線5-2と垂直に定義したり、後述する角直線と垂直に定義すると、より特徴が確認できる。しかし、これら定義とはやや異なる角度で定義されていたとしても特徴が確認できる。また、部材20形成後に消失してしまう角9の伸長方向と概ね同じ方向になる部材20、または、部材20を含む物体に、形状的な特徴があるのであれば、当該特徴を基準に断面を定義してもよい。たとえば、
図2のメス型の場合、角9の伸長方向は柄杓の柄の伸長方向と同じ方向に準備する場合がある。この場合は、柄杓の伸長方向を前述の「物体の形状的な特徴」と捉え、柄杓の柄の伸長方向と直角(又は概ね直角に)に断面を定義してもよいということである。ただし、断面視対象とする断面はほかの基準で定義してもよい。
【0061】
また、界面4を構成する線は、特定の箇所において、混合領域3側へ折れ曲がるように頂点を有し、この頂点で交差する2つの曲線の接線が母材1側で成す角度θcは70度以上であることが好ましい。このような直角または鈍角の頂点の特徴については、後で
図12などを用いて詳細に説明する。
【0062】
図11は、
図10に続く製造工程を示す斜視図であり、本実施の形態の金型部材20Aの構造を示す斜視図である。
【0063】
図11に示されるように、
図10で凹部GRの外部に形成されていた造形物2を切削または研磨することで、造形物2の上面および側面を平坦化する。なお、本実施の形態では、造形物2の上面および側面が、平面となる場合を例示しているが、造形物2の上面および側面は、所望の形状に加工することができる。例えば、造形物2の上面は、母材1よりもZ方向に盛り上がるような曲面であってもよいし、造形物2の側面は、母材1よりもX方向に盛り上がるような曲面であってもよい。以上のようにして、母材1に造形物2が肉盛溶接された金型部材20Aが製造される。
【0064】
本実施の形態の金型部材20Aは、2種類以上の金属が溶接された異種金属接合部材である。金型100では、特定の箇所が摩耗し易い、または、破壊され易いような問題がある。例えば、
図2に示されるように、金型100のうち金型部材20Aが形成されている箇所は、母材1の切り欠きの肩であり、このような箇所は、プレス成型時に大きな負荷が加えられる。このような箇所を、母材1よりも高い強度材料によって補強することが有効である。
【0065】
金型部材20Aでは、母材1の凹部GRに、造形物2を肉盛溶接している。造形物2内において、造形物2の表面に近づくほど、粉末材料14に含まれる材料であるサーメットの比率が、母材1に含まれる材料の比率よりも大きくなる。造形物2の表面付近においては、粉末材料14に含まれる材料の比率は、ほぼ100%である。言い換えれば、造形物2内において、混合領域3よりも母材1から離れた領域における粉末材料14の比率は、混合領域3における粉末材料14の比率よりも大きい。すなわち、造形物2に含まれる材料は、母材1に含まれる材料よりも、高い強度を有する。従って、本実施の形態の金型部材20Aを用いることで、金型100の特定の箇所における摩耗または破壊などの問題を抑制することができる。
【0066】
また、金型部材20Aを含む金型100を異種金属接合部材とせず、金型100を構成する材料を全てサーメット(粉末材料14に含まれる材料)とし、金型100全体の硬度を高めることも考えられる。しかしながら、その場合には、金型100の製造コストが大幅に増加する。本実施の形態のように、安価な母材1を基礎とし、特定の箇所のみ高価な造形物2によって補強することで、製造コストの増加を抑制することができる。
【0067】
また、金型部材20Aの凹部GRに充填する造形物2を、本実施の形態のようにLMD法を用いず、CVD(Chemical Vapor Deposition)法、または、PVD(Physical Vapor Deposition)法の一種であるスパッタリング法などを用いて形成することも考えられる。しかしながら、CVD法またはスパッタリング法では、数ミクロンの補強層を形成することは可能であるが、本実施の形態のように、数ミリメートル以上の造形物2を形成することは現実的に困難である。また、母材1と造形物2との密着性を考慮した時、CVD法またはスパッタリング法は、基本的に母材1の表面に補強物質を堆積する方法であり、この補強物質と母材1との接合性は、あまり高くない。本実施の形態のLMD法による肉盛溶接を用いることで、CVD法またはスパッタリング法と比較して、母材1と造形物2との接合性を向上させることができる。
【0068】
図12は、
図11に示されるA-A線に沿った断面図の一部であり、金型部材20Aの要部を拡大した断面図である。なお、
図12は断面図であるが、図面を見易くするため、ハッチングを省略している。
【0069】
図12に示されるように、断面視において、母材1と混合領域3との境界である界面4は、曲線4aおよび曲線4bを有する線で示される。そして、曲線4aと曲線4bとの交点である頂点5において、母材1側で曲線4aと曲線4bとが成す角度θcは、直角または鈍角であることが良い。すなわち、上記角度θcは、90度以上、180度未満である。
【0070】
言い換えれば、断面視において、母材1(第1金属領域)と混合領域3との境界である界面4は、母材1側に凸となる円弧状の第1の曲線4aおよび母材1側に凸となる円弧状の第2の曲線4bを有する線で示される。そして、前記第1の曲線4aと第2の曲線4bとの交点(頂点5)において、前記第1の曲線4aの接線と第2の曲線4bの接線とが母材1側で成す角度θcは、直角または鈍角であることがより良い。すなわち、上記角度θcは、90度以上、180度未満である。
【0071】
ここで、本実施の形態で説明した方法では、主に断面視の奥行き(又は手間)方向にレーザ光が移動しながら溶融池15が形成されるため、曲線4aと曲線4bとは母材1側に凸となる曲線(例えば円弧、楕円弧、トコロイド曲線の一部等の円弧状)となる。ただし、母材1及び粉末材料14が部分的に不均質な場合もあるため、母材側に凸でない区間を曲線4a及び曲線4bが含んでもよい。
【0072】
なお、LMD法では
図8の溶接物2aは点状ではなく、溶接物が連なって線状に形成される。
図8の例ではY方向と平行に(言い方を変えると、段10の角9の線と奥に向かって平行に)、溶接物が連なって線状に形成される。よって、
図3、
図4及び
図11のような立体視をした場合、段10の角9の概ね直線である周辺に於いて、
図12の断面図が角9の接線方向(
図12の奥行き方向、または、
図3、
図4及び
図11のY方向)に同じ形状で続く領域が存在することになる。なお、以後の説明では角9の線の中で概ね直線である部分を「角直線」と呼ぶことがある。たとえば後ほど説明する
図19のようなカーブした部位に対して本技術を用いる場合、図示は省略しているが、段10の角9もカーブする。しかし、
図19のB-B’間に注目すれば、角9のカーブは概ね直線であることから「角直線」とみなすことができる。
【0073】
図3及び
図8に戻り説明すると、当該周辺では、曲線4aは角直線方向には真っ直ぐである曲面4a-2となり、曲線4bは角直線方向には真っ直ぐである曲面4b-2となる。そして、頂点5は角直線方向に真っ直ぐであり、曲面4a-2と曲面4b-2が交差する線(すなわち稜線5-2)である。
図12では、頂点5がY方向(紙面方向)に伸びて形成される線が稜線5-2となる。よって、稜線に於いて、母材1側で曲面4a-2と曲面4b-2との母材1側の交差角度θc(開口角)も90度以上、180度未満が好ましい。下限側は鈍角であることが良く、好ましくは120度以上である。
【0074】
図3では、稜線5-2、曲面4a-2及び曲面4b-2を点線にて示している。なお、部材形成後は角直線は消失しているため、
図3では図示はしていない。なお、LMD法を用いる場合、溶接物2aの形成速度を速くできるため、角9の角直線は長いほど溶接物2aの形成速度が速い。そのため、造形物2が長手方向と短手方向を有する形状の場合、長手方向と稜線方向とは同じにしてもよい。
【0075】
再び断面視における特徴について説明する。前述の通り、LMDを用いる場合、溶接物2aの形成速度を向上させるため、角9の直線は長いほどLMDによる溶接物2aの形成速度が速い。そのため、造形物2が長手方向と短手方向とを有する形状の場合、長手方向と平行に角9の直線が形成されてもよい。この場合、角直線とは直角に断面定義を行って説明してきた
図6乃至
図10、及び
図12の特徴は、造形物の長手方向とは垂直に定義された断面についての特徴であるとも言える。
【0076】
以上、上述の比較例2では、
図24で説明したように、母材1側で曲線4aと曲線4bとが成す角度θdは、鋭角であった。このため、混合領域3に生じた残留応力が頂点5に集中し易くなり、頂点5を起点とした亀裂が発生し易いという問題があった。
【0077】
これに対して、本実施の形態では、母材1側で曲線4aと曲線4bとが成す角度θcは、直角に近くまたは鈍角であるため、混合領域3に生じた残留応力が、頂点5に集中することを緩和できる。このため、上記亀裂が発生する問題を抑制することができる。
【0078】
また、
図12では、1つの頂点5のみを図示しているが、断面視における界面4には、複数の頂点5が存在する場合もある。本実施の形態では、全ての頂点5において、母材1側で曲線4aと曲線4bとが成す角度θcが、直角に近くまたは鈍角となっていることが好ましい。
【0079】
以上のように、本実施の形態の技術を用いることで、母材1および造形物2のような異種金属が接する境界面の接合力を向上させることができ、空洞や亀裂などが無く、信頼性の高い金型部材20Aを形成することができるので、金型100全体の強度を高めることができる。
【0080】
(実施の形態2)
以下に、実施の形態2の金型部材20Bを、
図13および
図14を用いて説明する。
図13は、金型部材20Bが完成する前の母材1の構造を示す斜視図であり、
図14は、金型部材20Aの構造を示す斜視図である。なお、以下の説明では、実施の形態1との相違点を主に説明する。
【0081】
実施の形態1において、母材1の凹部GR内には複数の段10が形成されており、金型部材20Aは、造形物2の上面だけでなく造形物2の一方の側面が露出する構造であった。
【0082】
実施の形態2では、
図13に示されるように、母材1の凹部GR内には、X方向において互いに対向するように、対の段10が形成されている。このため、
図14に示されるように、金型部材20Bでは、造形物2が凹部GR内に埋め込まれるように、造形物2が母材1に溶接されている。従って、造形物2の両側面(界面4)は母材1によって覆われ、造形物2の上面のみが露出している。
【0083】
図2に示される金型100において、鍵穴形状の切り欠きの肩には、実施の形態1の金型部材20Aを用いることが有効であるが、実施の形態2の金型部材20Bは、切り欠きの肩以外の他の領域で用いられる。金型部材20Bでは、造形物2の両側面は母材1によって覆われているため、金型部材20Aと比較して、造形物2が母材1から剥離され難い。このように、金型部材20Bは、金型100の上面の硬度を向上させたいような場合に有効な部材である。
【0084】
(実施の形態3)
以下に、実施の形態3の金型部材20Cを、
図15および
図16を用いて説明する。
図15は、金型部材20Cが完成する前の母材1の構造を示す斜視図であり、
図16は、金型部材20Cの構造を示す斜視図である。なお、以下の説明では、実施の形態1との相違点を主に説明する。
【0085】
実施の形態1では、母材1に設けられた複数の段10は、凹部GRの底面6から母材1の最上面80に向かって、一律に上昇していた。
【0086】
実施の形態3では、
図15に示されるように、母材1に設けられた複数の段10は、上昇領域10a、上昇領域10aに接続された下降領域10b、および、下降領域10bに接続された上昇領域10cを有する。すなわち、母材1には、上昇領域10aと下降領域10bとからなる突出部16aが形成されている。
【0087】
そして、
図16に示されるように、母材1に造形物2を溶接した後には、母材1には、凹部GRの底面6から凹部GR外の母材1の最上面80に向かう途中に、突出部16aの形状が変化した突出部16bが設けられている。
【0088】
造形物2は、突出部16bと母材1の最上面80との間の窪みにも形成されている。このため、金型部材20Cは、X方向のせん断力に対して強い構造となる。すなわち、母材1と造形物2とは溶接されているので、母材1と造形物2との接合力は高いが、造形物2に対して、X方向の強いせん断力が作用した場合に、実施の形態1では、造形物2が母材1から分離する恐れがある。これに対して、実施の形態3では、母材1に突出部16bが存在しているため、造形物2が分離する恐れを抑制することができる。
【0089】
また、このような突出部16aおよび突出部16bは、2つ以上設けられていてもよい。その場合、X方向のせん断力に対して、より強い構造とすることができる。
【0090】
また、実施の形態3に開示した技術を、実施の形態2の金型部材20Bに適用することもできる。
【0091】
(実施の形態4)
以下に、実施の形態4の金型部材20Dを、
図17を用いて説明する。
図17は、金型部材20Dの構造を示す斜視図である。なお、以下の説明では、実施の形態1との相違点を主に説明する。
【0092】
実施の形態1では、母材1に造形物2を溶接した際に、造形物2のうち母材1に接する領域には、混合領域3が形成されていた。実施の形態4では、母材1に造形物2を肉盛溶接するが、造形物2には混合領域3が含まれていない。以後に説明する母材1及び造形物2の各々の材料は、たとえば純銅とステンレス鋼の例で見られる相分離が発生する組み合わせのためである。
【0093】
実施の形態4でも、実施の形態1の
図4に示される母材1が用いられ、
図5~
図11で説明した製造工程が行われるが、実施の形態4で用いられる粉末材料14は、粉末状の純銅である。従って、
図7の工程では、SUS316Lなどのステンレス鋼からなる母材1に対して、レーザ光13を照射すると共に、純銅からなる粉末材料14が供給される。そして、母材1に純銅からなる溶接物2a~2fが順次溶接され、これらの溶接物からなる造形物2が形成される。なお、純銅の純度は、99.95%以上であることが好ましいが、6N(99.9999%)以上であることがより好ましい。
【0094】
実施の形態4では、母材1および粉末材料14に上記の材料を用いることで、母材1に造形物2が肉盛溶接されるが、この造形時に混合領域3の内部で相分離が見られる。従って、実施の形態4の界面4は、ステンレス鋼からなる母材1と、純銅からなる造形物2との境界面である。
【0095】
実施の形態4においても、実施の形態1の
図12のように、断面視において、界面4は、曲線4aおよび曲線4bを有する線で示され、母材1側で曲線4aと曲線4bとが成す角度θcは、直角に近くまたは鈍角となる。そして、角度θcは90度以上、180度未満が好ましい。上限側は鈍角であることが良く、好ましくは120度以上である。従って、レーザ光13を用いた溶接によって、純銅からなる造形物2に生じた残留応力が、頂点5に集中することを緩和できる。このため、造形物2に亀裂が発生するような問題を抑制することができる。
【0096】
また、実施の形態4に使用する母材1は、実施の形態2または実施の形態3で開示した母材1であってもよく、その場合、実施の形態4の金型部材20Dは、実施の形態2または実施の形態3と同様の効果を得られる。また、母材1及び造形物2の各々の材料は、相分離が発生する組み合わせであれば、他の材料であってもよい。
【0097】
(実施の形態5)
以下に、実施の形態5の金型200を、
図18および
図19を用いて説明する。
図18は、本実施の形態の金型200および金型部材20Aを示す斜視図であり、
図19は、
図18の破線で示される箇所であり、金型200の要部を拡大した斜視図である。
図19では、便宜上、金型部材20Aの形状を点線で示している。なお、以下の説明では、実施の形態1との相違点を主に説明する。
【0098】
実施の形態1では、メス型の金型100を例示したが、金型の形状はこれに限られない。
図18に示されるように、金型200はオス型の形状であってもよい。すなわち、金型200は、母材1の一部が隆起した隆起部を有する形状である。
図18および
図19に示されるように、実施の形態5では、隆起部の肩に金型部材20Aを適用している。このように、金型200においても、特定の箇所における摩耗または破壊などの問題を抑制することができる。
【0099】
図18に示されるように、本実施の形態では造形物2はカーブしていることから、全体として見た場合は、カーブさせた階段(段もカーブしているといえる)を肩に形成する(図示は省略)。しかしながら
図19のB-B’区間のように、特定の領域を拡大すれば上述の角直線を確保することができることから、上述の稜線に関する特徴を角直線周辺に関して持つとも言える。言い方を変えると、角直線周辺を部材とみなせば、上述の部材の特徴を有するということである。また、稜線5-2上の所定の点における接線と垂直な断面を定義すれば、
図12等で説明した断面視の特徴を有するとも言える。オス型の金型100他、各実施の形態で説明した部材20に言えることだが、たとえば角度θcは70度以上、180度未満が好ましいが、より好ましくは90度以上である。また、部材20の際上面を基準とした場合に、界面が成す平均の傾斜角度θbは50度以下である。
【0100】
また、オス型の金型200の所望の箇所に、実施の形態2~4で説明した金型部材20B~20Dを、適宜適用することもできる。
(検証)
【0101】
以上説明した技術にて部材を製造した結果を示す。製造は、下記の<条件1>~<条件9>を用いて行った。
【0102】
<条件1>粉末材料供給量:2.0g/分
【0103】
<条件2>粉末材料:超硬合金(炭化タングステン60%、純コバルト40%)、粒径30~150μm
【0104】
<条件3>母材材料:インコネル718(インコネルは登録商標である)
【0105】
<条件4>母材形状その1:
図22(側面70は斜面左と斜面右と両側にあり、高さ6mm、底部長さ10mm)
【0106】
<条件5>母材形状その2:
図13(段10の数は10、各段10は同形状で長さL1=0.6mm、長さL2=1.0mm、角9の角度θaは90度)。ここで、母材は、Z方向が重力及びレーザ光の照射方向と平行となるように設置される。
【0107】
<条件6>レーザヘッド12の軌道の移動ピッチ:X方向と平行に1.0mm移動(つまり、角9の伸長方向に垂直且つ段10の上面8に平行にL2だけ移動)、Z方向と平行に0.6mm移動(つまり、角9の接線方向に垂直且つ段10の側面7に平行にL1だけ移動)。また、各角9にてレーザヘッドの距離と照射方向を同一とすることでばらつき低減を狙った。
【0108】
<条件7>レーザ出力:1200W(ダイオードレーザにより出力)
【0109】
<条件8>レーザスポット径:3.0mm(L2より長く、前述のレーザヘッド軌道の移動ピッチとの相互作用により、溶融物間の空洞発生を回避)
【0110】
<条件9>レーザ送り速度:100mm/分
【0111】
ここで、上記<条件1>~<条件9>及び
図5~10等で説明した製造方法は、母材1に対して第1の軌道でレーザ光を照射しながら、前記レーザ光のスポット径内に、粉末材料を供給することで、母材1の第1の表面に第1溶接物をまずは形成し、次いで、第2の軌道で第1溶接物に対して前記レーザ光を照射しながら、前記レーザ光のスポット径内に前記粉末材料を供給することで、前記第1の表面に隣接する前記母材の第2の表面及び前記第1溶接物の表面に、第2溶接物を形成している、とも言える。
【0112】
図9を例として説明すると、第1溶接物が溶接物2aだとすれば、第2溶接物は溶接物2bである。ここで、第1及び第2の軌道のレーザ光の照射は、軌道毎にレーザヘッド12を交換するのではなく、同じレーザヘッド12を前述の移動機構により、レーザヘッド12と母材1との間の相対位置を変えることで実現する。なお、<条件6>の説明は、第2の軌道は、第1の軌道を、(i)前記側面と平行且つ前記角の伸長方向に垂直な方向(
図9の例ではZ方向と平行な方向となる)にL1、及び(ii)前記上面と平行且つ前記角の伸長方向に垂直な方向(
図9の例ではX方向と平行な方向となる)にL2、移動させた軌道を含んでいる、とも言える。ここで、<条件5>で説明の通り、Z方向はレーザ光の照射方向と平行であり、X方向はレーザ光の照射方向とは垂直であることから、側面7のZ方向の長さL1は、側面7におけるレーザ光の照射方向と並行方向の長さL1、とも言える。また、同様に、上面8のX方向の長さL2は、上面8における前記レーザ光の照射方向と垂直方向の長さL2、とも言える。
【0113】
そうした上記<条件1>~<条件9>によって部材を製造し、階段または斜面であった周辺を対象に形状測定と割れの有無の観察を行った。なお、形状測定と割れ観察は、製造した部材をY方向の断面で切断し、切断面をやすり及びバフにより磨いた後に顕微鏡で確認することで行った。
図25は、側面70が傾斜している部材の測定結果である。
図26は、側面70が複数の段10で構成される部材の測定結果である。母材形状その1では、二か所の頂点5の周辺にて亀裂が発生し、その内一つについては亀裂が頂点5と重なったために頂点5の角度θd自体が測定不能となった。なお、亀裂が発生した時の最大角度は57度であり、70度では亀裂が発生していないことから、60度台までは亀裂発生の可能性が高いと言える。また、母材形状その2では、段10であった部分での亀裂は発生せず、また頂点5の角度θcも最小で118度である。なお、母材形状その1及び母材形状その2は、共に空洞の発生は見られなかった。また、母材形状その2では段10の数は10個であるが残りの、3つの段10も亀裂の発生は無かった。但し角度は観測が不可能な程、頂点5の角度θcが180度近くになったものと考え記載していない。
【0114】
以上の結果より、製造方法に関わらず、部材として頂点の角度と亀裂有無を評価した場合、上記測定によれば頂点の角度は70度以上180度未満であれば、亀裂発生の可能性が抑制されると言える。ところで、部材製造後の品質確認の場にて角度を検証するとした場合、最も簡単に調達可能な角度指標(例えば小型の分度器)は90度であり、次いで45度や60度である。しかし、45度では上記測定にて亀裂が生じることから、製造時点で亀裂が発生していないとしてもその後の使用にて亀裂が生じる恐れがある。60度も同様である。よって、現場では90度を品質確認の基準として部材の頂点角度が90度以上にあるか否かを確認することが好適である。
【0115】
次に、母材形状その2のように、本実施の形態でのレーザ光13のスポット径内には少なくとも一つの角9が含まれることから、元々の角9が持っている角度「90度以上、120度以下」より広がった角度を持つ頂点が形成される、と説明した。母材形状その2の測定結果でもこうした特徴が計測されることから、実施の形態にて説明した製造方法は高い強度の接合力を実現していると言える。また、母材形状その2の測定結果は、長さL1/長さL2の比が0.6の場合に高い強度の接合力を実現していると言える結果である。なお、当該比が0.6以下である場合に、よりレーザ照射条件が向上することから、より高い強度の接合力を実現できることは、本測定結果より導かれる考察である。
【0116】
(バリエーション)
以上、本願発明者らによってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。また、各実施の形態は単独で用いてもよいが、他の実施の形態と併用してもよい。また、前記実施の形態は例えば下記のバリエーションが考えられる。
【0117】
これまでの説明では金型部材を部材の一例として説明してきたが、部材の他の例としては機械部品や、装飾品等の物品の一部であってもよい。また、物品の一部において、これまで説明した製造方法以外の方法(その他製造方法)にて、同種の粉末材料で部材を製造してもよい。また、これまで説明した製造方法で製造した造形物2と、その他製造方法にて製造した造形物と、が接してもよい。また、物品中の部材と部材外との境界は任意の形状であってよい。
【0118】
また、母材1の段10の数と同数の頂点5又は稜線5-2が界面4に含まれていなくてもよい。また、界面4の曲線の例として曲率中心が造形物2側に存在する曲線を用いたが、曲線の途中で曲率中心が母材1側に存在するような曲線であってもよい。
【0119】
また、部材製造中に、異なる種類の粉末材料(例えば界面4に接する領域は第1の粉末材料を用い、その後第2の粉末材料を用いる)に切り替えて部材製造を行ってもよい。母材1の材料と第2の粉末材料との肉盛溶接結果が良好でない(溶接自体の良否に加え、熱膨張係数等の物性値の差異に伴う破壊が予見されることも含む)場合に、両材料との親和性が良い第1の粉末材料を用いてもよい。
【0120】
また、母材1の中の界面4に接する領域に、母材1の主要材料(例えば鋼)とは異なる材料(例えばニッケル基合金)の領域を設けてもよい。既存の物品を改良する場合は、粉末材料14との溶接結果が良好な材料で母材1が製造されているとは限らないためである。また、母材1の主要材料と粉末材料14の材料との溶接結果が良好でない場合の対策として、当該構成を採用してもよい。
【0121】
また、界面4の全ての頂点5の角度θc(又は稜線5-2の開口角)が90度以上、180度以下であることは望ましいが、必ずしも全てが満足しなくてもよい。前述のその他製造方法を用いる場合があるためである。加えて、隣接する複数の頂点5または稜線5-2が90度以上、180度以下であれば、当該頂点5(又は稜線5-2)間は亀裂が生じないため、有用であるからである。
【0122】
また、第2材料(粉末材料14)として、サーメット以外の材料を用いても良い。例えば、第2材料に、ステンレス鋼、ニッケル合金、コバルト合金、マルエージング鋼、チタン合金のうち、母材1の材料と異なる材料を用いてもよい。また、第1材料(母材1の材料)として、前述のインコネル718(インコネルは登録商標である)以外にもステンレス鋼または工具鋼が用いられてもよく、他の金属が用いられてもよい。
【0123】
また、複数の段10の各々の上面8の長さや側面7の長さや角度θaが異なっていてもよい。また、ある段10の上面8および側面7の長さが、部分的に異なっていてもよい。
【0124】
また、隣接するレーザヘッドの二つの軌道(例えば前述の第1の軌道および第2の軌道)は、移動ピッチだけずらした場合に始点から終点まで完全に同一である必要はなく、部分的に同一であってもよい。複雑な形状の造形物2を造成する場合はこのような状況があり得る。
【0125】
また、複数の段10を有する母材1を準備する者と、当該母材1に造形物2を形成する者とは同じでも良いが異なっていてもよい。異なる場合、造形物2を形成する者は、複数の段10を有する母材1を受け取る工程を行うことになる。
【符号の説明】
【0126】
1 母材(第1金属領域)
2 造形物(第2金属領域)
2a~2f 溶接物
3 混合領域
4 界面
4a、4b 曲線
4a-2、4b-2 曲面
5 頂点
5-2 稜線
6 底面
7 側面
8 上面
9 角
10 段
10a、10c 上昇領域
10b 下降領域
11 空洞
12 レーザヘッド
13 レーザ光
14 粉末材料
15 溶融池
16a、16b 突出部
20A~20E 金型部材(異種金属接合部材)
70 側面
80 最上面
100、200 金型
GR 溝(凹部)
L1、L2 長さ
θa~θd 角度