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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】光通信システム及び光通信方法
(51)【国際特許分類】
   H04B 10/61 20130101AFI20221109BHJP
   H04B 10/2507 20130101ALI20221109BHJP
   H04B 10/077 20130101ALI20221109BHJP
【FI】
H04B10/61
H04B10/2507
H04B10/077
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021541369
(86)(22)【出願日】2019-08-19
(86)【国際出願番号】 JP2019032323
(87)【国際公開番号】W WO2021033248
(87)【国際公開日】2021-02-25
【審査請求日】2021-12-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【弁理士】
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】寒河江 悠途
(72)【発明者】
【氏名】松井 隆
(72)【発明者】
【氏名】坂本 泰志
(72)【発明者】
【氏名】中島 和秀
【審査官】佐藤 敬介
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-195149(JP,A)
【文献】FEUER, Mark D. et al.,Joint Digital Signal Processing Receivers for Spatial Superchannels,IEEE Photonics Technology Letters,IEEE,2012年10月02日,vol. 24, no. 21,pp. 1957-1960
【文献】UDEN, Roy G. H. van et al.,28-GBd 32QAM FMF Transmission With Low Complexity Phase Estimators and Single DPLL,IEEE Photonics Technology Letters,IEEE,2014年02月10日,vol. 26, no. 8,pp. 765-768
【文献】ALFREDSSON, Arni F. et al.,Joint Phase Tracking for Multicore Transmission with Correlated Phase Noise,2018 IEEE Photonics Society Summer Topical Meeting Series (SUM),IEEE,2018年09月06日,pp.15-16
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 10/61
H04B 10/2507
H04B 10/077
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
デジタルコヒーレント伝送を行う光通信システムであって、
光を伝送データで変調した光信号を伝送するN個(Nは2以上の整数)の伝送チャネルと、
それぞれの前記伝送チャネルに接続され、それぞれの前記伝送チャネルで伝送された前記光信号を同一の局発光でコヒーレント検波を行って受信するN台の受信機と、
前記伝送チャネルの中で伝送遅延時間が最も小さい伝送チャネルである最短伝送チャネルに接続する前記受信機に接続され、前記最短伝送チャネルで伝搬された光信号の信号歪を除去する伝達関数を取得する信号処理部と、
前記伝送チャネルの中で前記最短伝送チャネル以外である他の伝送チャネルに接続する前記受信機に接続され、前記他の伝送チャネルで伝搬されたそれぞれの光信号の信号歪を前記伝達関数を用いて除去するとともに、前記伝送データを復調するN-1台の復調部と、
を備えることを特徴とする光通信システム。
【請求項2】
前記最短伝送チャネルで伝搬される光信号の前記伝送データは、
前記他の伝送チャネルで伝搬される光信号の前記伝送データより伝送遅延時間が小さいパイロットデータであることを特徴とする請求項1に記載の光通信システム。
【請求項3】
単一の光源と、
前記光源が同時刻に出力した光をそれぞれの前記伝送データで変調した光信号を出力するN台の変調器と、
をさらに備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の光通信システム。
【請求項4】
同時刻に出力された前記局発光がN台の前記受信機にそれぞれ到着する時刻を、前記伝送チャネルの伝送遅延時間差だけずらす遅延器をさらに備えることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の光通信システム。
【請求項5】
前記最短伝送チャネルに接続され、前記最短伝送チャネルで伝搬された光信号の信号歪を前記伝達関数を用いて除去するとともに、前記パイロットデータに続くデータを復調する第2復調部をさらに備えることを特徴とする請求項2、請求項2を引用する請求項3、又は請求項2を引用する請求項4に記載の光通信システム。
【請求項6】
デジタルコヒーレント伝送の光通信方法であって、
N個(Nは2以上の整数)の伝送チャネルで光信号を伝送し、
それぞれの前記伝送チャネルで伝送した前記光信号を同一の局発光でコヒーレント検波を行ってN台の受信機で受信し、
前記伝送チャネルの中で伝送遅延時間が最も小さい伝送チャネルである最短伝送チャネルで伝搬した光信号の信号歪を除去する伝達関数を取得し、
前記伝送チャネルの中で前記最短伝送チャネル以外である他の伝送チャネルで伝搬したそれぞれの光信号の信号歪を前記伝達関数を用いて除去する
ことを特徴とする光通信方法。
【請求項7】
前記最短伝送チャネルで伝搬する光信号を、前記他の伝送チャネルで伝搬する光信号を変調する伝送データより伝送遅延時間が小さいパイロットデータで変調することを特徴とする請求項6に記載の光通信方法。
【請求項8】
同時刻に出力された前記局発光がN台の前記受信機にそれぞれ到着する時刻を、前記伝送チャネルの伝送遅延時間差だけずらすことを特徴とする請求項6又は7に記載の光通信方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、デジタルコヒーレント伝送を行う光通信システム及び光通信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ネットワーク利用の多様化に伴い、伝送遅延への要求が高まっている。アルゴリズムに基づく高頻度の金融取引を初めとしたコンピュータ間の通信ではns~μs単位でのデータ通信・処理が行われており、わずかな伝送遅延低減であっても大きな影響を与える。今後、更に遅延低減量に対する要求は加速していくことが予想される。
【0003】
光伝送システムでは光源や伝送路により付加される波長分散、偏波モード分散、周波数オフセット、位相オフセット、その他の信号歪みが伝送容量拡大を制限する。現在では、信号歪みをデジタル信号処理によって補正するデジタルコヒーレント伝送技術や、他のランダムな雑音によるビット誤りを補正する誤り訂正技術により、多値度の高い光伝送が可能となり、飛躍的な伝送容量の拡大が実現している。デジタルコヒーレント伝送技術や誤り訂正技術は、受信信号から上記の伝送路による信号歪みやビット誤りを推定することで、等化信号を得る。
【0004】
伝送帯域の拡大のためには負荷の高いデジタル信号処理が必要とされる。伝送帯域と信号処理の負荷および遅延時間とはトレードオフの関係にある。非特許文献1ではデジタル信号処理による歪み補正を部分的にチャネル間で転用することで、信号処理の負荷を低減することが報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】M. D. Feuer, L. E. Nelson, X. Zhou, S. L. Woodward, R. Isaac, B. Zhu, T. F. Taunay, M. Fishteyn, J. M. Fini and M. F. Yan, “Joint Digital Signal Processing Receivers for Spatial Superchannels,” IEEE Photon. Technol. Lett. Vol.24, No.21 (2012).
【文献】M. Hirano, Y. Yamamoto, V. A. M. Sleifffer and T. Sasaki,“Analytical OSNR Formulation Validate with 100G-WDM experiments and Optical Subsea Fiber Proposal,” in proceedings of OFC2013, OTu2B.6 (2013)
【文献】S. Zhang, P. Y. Kam, J. Chen, and C. Yu “Bit-error rate performance of coherent optical M-ary PSK/QAM using decision-aided maximum likelihood phase estimation,” Optics Express, Vol. 18, No. 12, pp. 12088-12103 (2010).
【文献】T. Kodama, T. Miyazaki, and M. Hanawa “Seamless PAM-4 to QPSK Modulation Format Conversion at Gateway for Short-reach and Long-haul Integrated Networks,” ECOC2018 pp.1-3 (2018).
【文献】K. Kikuchi “Characterization of semiconductor-laser phase noise and estimation of bit-error rate performance with low-speed offline digital coherent receivers,” Optics Express, Vol. 20, No. 5, pp. 5291-5302 (2012).
【文献】B. J. Puttnam, G. Rademacher, R. S. Luis, J. Sakaguchi, Y. Awaji, N. Wada, “Inter-Core Skew Measurements in Temperature Controlled Multi-Core Fiber,”in proceedings of OFC2018, Tu3B.3 (2018).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献1は、信号処理の負荷が低減されるものの、歪み補正を行うための伝達関数を求める処理で発生する遅延を低減することが困難という課題があった。そこで、本発明は、デジタルコヒーレント伝送において、歪み補正を行うための伝達関数を求める処理で発生する遅延も低減できる光通信システム及び光通信方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係る光通信システムは、伝送チャネルにおける伝達関数を推定するためのパイロットデータを伝送遅延時間が小さい伝送チャネルで伝送し、伝送データの受信に先行して当該伝送チャネルの伝達関数を推定し、当該伝達関数を他の伝送チャネルに適用することとした。
【0008】
具体的には、本発明に係る光通信システムは、デジタルコヒーレント伝送を行う光通信システムであって、
光を伝送データで変調した光信号を伝送するN個(Nは2以上の整数)の伝送チャネルと、
それぞれの前記伝送チャネルに接続され、それぞれの前記伝送チャネルで伝送された前記光信号を同一の局発光でコヒーレント検波を行って受信するN台の受信機と、
前記伝送チャネルの中で伝送遅延時間が最も小さい伝送チャネルである最短伝送チャネルに接続する前記受信機に接続され、前記最短伝送チャネルで伝搬された光信号の信号歪を除去する伝達関数を取得する信号処理部と、
前記伝送チャネルの中で前記最短伝送チャネル以外である他の伝送チャネルに接続する前記受信機に接続され、前記他の伝送チャネルで伝搬されたそれぞれの光信号の信号歪を前記伝達関数を用いて除去するとともに、前記伝送データを復調するN-1台の復調部と、
を備えることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る光通信方法は、デジタルコヒーレント伝送の光通信方法であって、
N個(Nは2以上の整数)の伝送チャネルで光信号を伝送し、
それぞれの前記伝送チャネルで伝送した前記光信号を同一の局発光でコヒーレント検波を行ってN台の受信機で受信し、
前記伝送チャネルの中で伝送遅延時間が最も小さい伝送チャネルである最短伝送チャネルで伝搬した光信号の信号歪を除去する伝達関数を取得し、
前記伝送チャネルの中で前記最短伝送チャネル以外である他の伝送チャネルで伝搬したそれぞれの光信号の信号歪を前記伝達関数を用いて除去する
ことを特徴とする。
【0010】
本光通信システム及び本光通信方法は、信号伝送遅延時間の異なる複数の伝送チャネルを用い、そのうち伝送遅延時間の小さい伝送チャネルで信号歪み補正用の伝達関数を他の伝送チャネルに先んじて取得する。そして、当該伝達関数を他の伝送チャネルの信号歪推定に使用する。従来のデジタルコヒーレント伝送では全ての伝送チャネルで伝達関数を取得していたため、本光通信システム及び本光通信方法のように特定の伝送チャネルの伝達関数のみ取得し、他へ転用することで、伝送路全体の信号処理負荷を大幅に低減すると同時に信号処理時間を低減することができる。
【0011】
前記最短伝送チャネルで伝搬される光信号の前記伝送データは、前記他の伝送チャネルで伝搬される光信号の前記伝送データより伝送遅延時間が小さいパイロットデータであることが好ましい。
【0012】
本発明に係る光通信システムは、単一の光源と、前記光源が同時刻に出力した光をそれぞれの前記伝送データで変調した光信号を出力するN台の変調器と、をさらに備えることを特徴とする。信号を生成する光源の周波数揺らぎや位相ノイズによって伝達関数が異なる。このため、パイロットデータで特定された伝達関数を伝送データの復調に転用するためには、1つの光源で同一時刻に生成された光をパイロットデータ信号および伝送データ信号に用いることが好ましい。
【0013】
本発明に係る光通信システム及び光通信方法は、同時刻に出力された前記局発光がN台の前記受信機にそれぞれ到着する時刻を、前記伝送チャネルの伝送遅延時間差だけずらすことを特徴とする。本光通信システム及び本光通信方法は、伝送チャネルの伝送遅延時間差と伝送距離等との関係によらずに、品質劣化を生じずに復調を行うことができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、デジタルコヒーレント伝送において、歪み補正を行うための伝達関数を求める処理で発生する遅延も低減できる光通信システム及び光通信方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係る光通信方法の原理を説明する図である。
図2】本発明に係る光通信システムを説明するブロック図である。
図3】本発明に係る光通信システムがQPSKであるときの位相揺らぎと符号誤り率の関係を説明する図である。横軸は位相揺らぎ、縦軸は符号誤り率である。
図4】本発明に係る光通信システムの特性図を説明する図である。本特性図は、横軸が伝送距離、縦軸が誤り訂正限界の符号誤り率を実現するパイロットデータと伝送データの許容伝送遅延時間差であり、伝送距離と許容伝送遅延時間差との関係を光源線幅毎に表している。
図5】本発明に係る光通信システムを説明するブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
添付の図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本発明の実施例であり、本発明は、以下の実施形態に制限されるものではない。なお、本明細書及び図面において符号が同じ構成要素は、相互に同一のものを示すものとする。
【0017】
以下では、Nチャネル伝送系を例として発明の実施形態を説明する。Nは2以上の自然数である。
【0018】
(実施形態1)
図1は、本実施形態の光通信方法の概念図を示す。コヒーレント光伝送は伝送チャネル50で生じた信号歪みをデジタル信号処理によって復調する。デジタル信号処理部11は、波長分散補償部11a、偏波分離・偏波モード分散補償部11b、及び周波数オフセット・位相揺らぎ補償部11cを備える。光信号が、波長分散補償部11a、偏波分離・偏波モード分散補償部11b、及び周波数オフセット・位相揺らぎ補償部11cを順に経ることで、デジタル信号処理部11は信号歪みを除去する伝達関数を特定する。従来のデジタルコヒーレント伝送は伝送チャネル毎に伝達関数を取得し、復調部で復調信号を得ていた。
【0019】
本実施形態の光通信方法は、信号遅延時間の異なる異種の伝送チャネル50を用いて、信号処理負荷の低減と、信号処理遅延の低減を同時に実現する。伝送チャネル50(1)は伝送チャネル50(2)~(N)に対して伝送遅延時間差sだけ小さい。本光通信方法は、伝送遅延時間の小さいパイロット信号によって伝達関数を特定し、遅れて受信する伝送チャネル50(2)~(N)のデータ復調に当該伝達関数を転用する。
【0020】
本光通信方法は、伝送チャネル(2)~(N)におけるデジタル信号処理が不要なため、従来のデジタルコヒーレント伝送に対して信号処理負荷を1/Nに低減することができる。図1の例では、波長分散補償部11a、偏波分離・偏波モード分散補償部11b、及び周波数オフセット・位相揺らぎ補償部11cの全ての機能ブロックに対する伝達関数を他の伝送チャネルの伝送データに転用している。図1の例以外に、いずれかの機能ブロックの伝達関数のみを取得し、他の伝送データに転用しても同様の効果が得られる。
【0021】
(実施形態2)
図2は、本実施形態の光通信システム301を説明するブロック図である。光通信システム301は、デジタルコヒーレント伝送を行う光通信システムであって、
光を伝送データで変調した光信号を伝送するN個(Nは2以上の整数)の伝送チャネル50と、
それぞれの伝送チャネル50に接続され、それぞれの伝送チャネル50で伝送された前記光信号を同一の局発光12でコヒーレント検波を行って受信するN台の受信機13と、
伝送チャネル50の中で伝送遅延時間が最も小さい伝送チャネルである最短伝送チャネル50(1)に接続する受信機13(1)に接続され、最短伝送チャネル50(1)で伝搬された光信号の信号歪を除去する伝達関数を取得する信号処理部11と、
他の伝送チャネル50(2)~(N)に接続する受信機13(2)~(N)に接続され、他の伝送チャネル50(2)~(N)で伝搬されたそれぞれの光信号の信号歪を前記伝達関数を用いて除去するとともに、前記伝送データを復調するN-1台の復調部14(2)~(N)と、
を備えることを特徴とする。
【0022】
光通信システム301は、単一の光源15と、光源15が同時刻に出力した光をそれぞれの前記伝送データで変調した光信号を出力するN台の変調器16と、をさらに備える。デジタルコヒーレント伝送では信号を生成する光源の周波数揺らぎや位相ノイズによって伝達関数が異なる。このため、パイロットデータで特定された伝達関数を伝送データの復調に転用するためには、光源15で同一時刻に生成された光をパイロットデータ信号および伝送データ信号に用いることが好ましい。
【0023】
変調同期部17は、パイロットデータの光信号を生成する変調器16(1)と伝送データの光信号を生成する変調器16(2)~(N)の動作を同期する。変調器16(1)で変調された光信号は伝送チャネル50(1)に伝送され、変調器16(2)~(N)で変調された光信号は伝送チャネル50(2)~(N)に伝送される。
【0024】
伝送チャネル50(1)は伝送チャネル50(2)~(N)に比べ、伝送チャネルへの信号入射から受信までの遅延時間がsだけ小さい。伝送チャネル50(1)を伝搬したパイロットデータの光信号は、受信機13(1)に入射され、伝送チャネル50(2)~(N)を伝搬した伝送データの光信号は受信機13(2)~(N)に入射される。
【0025】
局発光源12からのコヒーレント受信に用いる局発光は、局発光分岐伝送部18にて複数に分岐され、受信機13(1)~(N)に入力される。局発光とパイロットデータの光信号および伝送データの光信号はそれぞれ合波され、受信機13(1)~(N)でコヒーレント受信される。
【0026】
受信機13(1)でコヒーレント受信されたパイロットデータは、デジタル信号処理部11にてデジタル信号処理による復調が行われ、復調用の伝達関数が特定される。
受信機13(2)~(N)でコヒーレント受信された伝送データは、信号復調用の復調部14(2)~(N)に入力される。伝達関数転送部19は、デジタル信号処理部11で特定された伝達関数を伝送データ復調部(2)~(N)に転送する。
伝送データ復調部(2)~(N)は、当該伝達関数を用いて伝送チャネルで発生した歪を補償し、コヒーレント受信された伝送データを復調する。
【0027】
なお、上の説明では、伝送チャネル50(1)がパイロットデータのみを伝送するように説明したが、伝送チャネル50(1)がパイロットデータに続く形で伝送データを伝送してもよい。つまり、光通信システム301は、最短伝送チャネル50(1)に接続され、最短伝送チャネル50(1)で伝搬された光信号の信号歪を前記伝達関数を用いて除去するとともに、前記パイロットデータに続くデータを復調する復調部14(1)をさらに備える。
【0028】
本実施形態の光通信システムは、パイロッデータの光信号と伝送データの光信号との間に伝送遅延時間差が発生するため、これらの光信号の送信時刻が同じでも復調時刻が異なる。そのため、コヒーレント受信に用いる局発光の位相がパイロットデータの光信号の受信時と伝送データの光信号の受信時で異なることがある。局発光の位相が異なると、パイロットデータで取得した伝達関数を伝送データの復調に転用すると、位相不一致による位相ノイズに起因した復調精度劣化が生じる。
【0029】
光通信システムの伝送方式がQPSK、伝送チャネルの損失が0.16dB/kmであるときの、最大の光信号対雑音比(OSNR;Optical Signal to Noise Ratio)を想定する。図3は、このときのビット誤り率(BER)と位相ノイズΔφとの関係を伝送路長毎に示した図である。ここで、最大OSNRは非特許文献2に基づいて計算し、QPSKのBER特性は非特許文献3に基づき以下の式によって求めた。
【数1】
ここで、G(Δθ、Δφ)は分散が位相ノイズΔφである正規分布である。
【0030】
デジタル信号処理の誤り訂正において冗長度7%のリードソロモン(255、233)を用いた時の誤り訂正限界(FEC limit)は、BER=3.4×10-3である(例えば、非特許文献4を参照。)。この誤り訂正限界以下のBERとなる許容位相ノイズは、伝送路長10000km、5000km、1000kmの時、それぞれ0.057rad、0.071rad、0.081radとなる。上記の許容位相ノイズの変化は伝送路長の長尺化によるOSNRの劣化に起因する。
【0031】
伝送データの光信号とパイロットデータの光信号の伝送遅延時間差をsとし、光源線幅をΔfとすると、位相ノイズは非特許文献5より、
[数2]
Δφ=2πΔfs
と表すことができる。
【0032】
図4は、誤り訂正限界であるBER=3.4×10-3のときの、許容位相ノイズから数式2を用いて求まる許容伝送遅延時間差sと伝送距離との関係を光源線幅毎に示した図である。伝送距離の長尺化でOSNRが劣化して許容位相ノイズが低下することから、許容伝送遅延時間差sが減少している。図4より、例えば光源線幅10kHz以上、伝送距離を10000km以下とした場合、パイロットデータと伝送データを伝送する伝送チャネル間の伝送遅延時間差を100ps/km以下とすれば、復調時刻差に伴う信号劣化を抑制できる。
【0033】
(実施形態3)
実施形態1では、信号処理の負荷低減と信号処理に伴う遅延時間の低減を両立する光通信システムを説明し、さらに、伝送遅延時間差と伝送距離等との関係によって復調の品質が変化することも説明した。
【0034】
本実施形態では、局発光伝送路に遅延線を付与することで、伝送遅延時間差と伝送距離等との関係による復調の品質変化を防止する構成の光通信システムを説明する。図5は、本実施形態の光通信システム302を説明する図である。光通信システム302は、図2の光通信システム301に、同時刻に出力された前記局発光がN台の前記受信機にそれぞれ到着する時刻を、前記伝送チャネルの伝送遅延時間差だけずらす遅延器をさらに備えることを特徴とする。
【0035】
光通信システム302も光通信システム301と同様に、光源15が同一時刻に生成した光源をパイロットデータの光信号および伝送データの光信号に用い、パイロットデータの光信号から伝達関数を取得して伝送データの復調に転用する。
【0036】
変調同期部17は、パイロットデータの光信号を生成する変調器16(1)と伝送データの光信号を生成する変調器16(2)~(N)の動作を同期する。変調器16(1)で変調されたパイロットデータの光信号は伝送チャネル50(1)で伝送され、変調器16(2)~(N)で変調された伝送データの光信号は伝送チャネル50(2)~(N)で伝送される。伝送チャネル50(1)で伝送されたパイロットデータの光信号は受信機13(1)に入射され、伝送チャネル50(2)~(N)で伝送された伝送データの光信号は受信機13(2)~(N)に入射される。
この時、伝送チャネル50(1)と伝送チャネル50(2)~(N)とは、群遅延時間特性が異なり、パイロットデータの光信号は伝送データの光信号と比較して伝送遅延時間差sだけ早く受信機13(1)に受信される。
【0037】
局発光源12から出射された局発光は局発光分岐伝送部18へ入射される。局発光分岐伝送部18は、伝送遅延時間差s分の伝搬遅延時間を付与する遅延付与部18aを備える。伝送データの光信号のコヒーレント受信に用いる局発光は、遅延付与部18aを経由し、受信機13(2)~(N)に入射される。一方、パイロットデータの光信号のコヒーレント受信に用いる局発光は遅延付与部18aを経由せずに受信機13(1)に入射される。
【0038】
受信機13(1)は、パイロットデータの光信号と局発光を合波してコヒーレント受信する。デジタル信号処理部11は復調に用いる伝達関数を特定する。伝達関数転送部19は、デジタル信号処理部11で特定された伝達関数を伝送データ復調部(2)~(N)に転送する。
【0039】
受信機13(2)~(N)は、伝送データの光信号と遅延された局発光を合波してコヒーレント受信し、受信信号を伝送データ復調部(2)~(N)に伝送する。伝送データ復調部(2)~(N)は、受信信号を伝達関数転送部19からの伝達関数を用いて伝送データを復調する。
【0040】
伝送データの光信号の受信機13(2)~(N)に入射される局発光が遅延付与部18aを経ているため、パイロットデータの光信号に対する局発光の位相と、伝送データの光信号に対する局発光の位相との差が十分小さくなる。従って、実施形態1で説明したパイロットデータの光信号と伝送データの光信号の伝送遅延時間差による変調精度劣化を抑制することができる。
【0041】
(他の実施形態)
パイロットデータの光信号と伝送データの光信号の伝送遅延時間差は、光ファイバ敷設環境の温度変動によって変化すると考えられる。ここで、マルチコア光ファイバ(MCF)を用いた伝送では各コアの伝送遅延時間差の温度変動が、単一コア光ファイバによる複数チャネル伝送と比較して小さいことが知られている(例えば、非特許文献6を参照。)。
【0042】
そのため、上記の伝送チャネルとして、異なる光の群遅延時間特性を有するコアを2種類以上配置したMCFの各コアを用いる。MCFの各コアを伝送チャネルとすることで、各伝送チャネルが受ける環境変動は共通化され、環境変動による変調精度劣化が抑制できる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、コヒーレント光通信に用いることができる。
【符号の説明】
【0044】
11:信号処理部
12:局発光源
13:受信機
14:復調部
15:光源
16:変調器
17:変調同期部
18:局発光分岐伝送部
18a:遅延付与部
19:伝達関数転送部
50:伝送チャネル
301、302:光通信システム
図1
図2
図3
図4
図5