(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】熱転写印画装置、印画物の製造方法、及び熱転写シート
(51)【国際特許分類】
B41M 5/385 20060101AFI20221109BHJP
B41M 5/382 20060101ALI20221109BHJP
B41J 2/325 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
B41M5/385 300
B41M5/385 400
B41M5/382 330
B41M5/382 420
B41J2/325 A
(21)【出願番号】P 2022532470
(86)(22)【出願日】2021-06-01
(86)【国際出願番号】 JP2021020797
(87)【国際公開番号】W WO2021256236
(87)【国際公開日】2021-12-23
【審査請求日】2022-08-30
(31)【優先権主張番号】P 2020103117
(32)【優先日】2020-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】服部 良司
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 悠紀
【審査官】富士 春奈
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-49841(JP,A)
【文献】米国特許第6916130(US,B1)
【文献】特開2016-107595(JP,A)
【文献】特開平7-253482(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M5/035、5/26
5/36-5/48
5/50、5/52
B41J2/325、31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材の一方の面に設けられた、色材を含む色材層と、
前記基材の一方の面に設けられた保護層と、
前記保護層上の所定領域に設けられ、前記色材を変色させる変消色性化合物を含む変色層と、
を備える熱転写シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、熱転写印画装置、印画物の製造方法、及び熱転写シートに関する。
【背景技術】
【0002】
印画物の製造では、昇華型熱転写方式や溶融型熱転写方式を用いて、被転写体上に熱転写画像を形成することが広く行われている。例えば、昇華型熱転写方式による熱転写画像の形成には、基材の一方の面に染料層が設けられた熱転写シートと、被転写体、例えば、他の基材の一方の面に受容層が設けられた受像シートとが使用される。そして、受像シートの受容層と、熱転写シートの染料層とを重ね合わせ、サーマルヘッドにより熱転写シートの背面側から熱を印加して、染料層の染料を受容層上に移行させることにより、受容層に熱転写画像が形成された印画物が得られる。このような昇華型熱転写方式によれば、熱転写シートに印加するエネルギー量によって染料の移行量を制御できることから、画像が非常に鮮明であり、かつ透明性、中間調の色再現性、階調性に優れ、フルカラー写真画像に匹敵する高品質の印画物を形成できる。
【0003】
従来の昇華型熱転写方式では、受像シートに形成された画像を任意の位置で消色/変色できなかった。例えば、特許文献1には、ロイコ染料を用いて記録及び消去を繰り返し行う手法が開示されている。しかし、ロイコ染料を用いる場合、画像全体が消去され、所望の領域のみを消去することはできなかった。
【0004】
【文献】特開平5-169841号公報
【文献】特開2020-49841号公報
【発明の概要】
【0005】
本開示は、画像の所望の領域が所望の時期に変色(消色)するように被転写体に画像を印画できる熱転写印画装置、印画物の製造方法、及び熱転写シートを提供することを課題とする。
【0006】
本開示による熱転写印画装置は、色材を含む色材層及び前記色材を変色させる変消色性化合物を含む変色層が設けられた熱転写シートを加熱し、前記色材層から被転写体に前記色材を転写して画像を形成し、前記変色層から前記被転写体に前記変消色性化合物を転写する印画部と、前記画像を維持する期間に基づいて前記変色層に印加する熱エネルギーを決定し、前記印画部を制御する制御部と、を備えるものである。
【0007】
本開示による印画物の製造方法は、色材を含む色材層及び前記色材を変色させる変消色性化合物を含む変色層が設けられた熱転写シートを加熱し、前記色材層から被転写体に前記色材を転写して画像を形成する工程と、前記画像を維持する期間に基づいて、前記変色層に印加する熱エネルギーを決定する工程と、前記熱エネルギーに基づいて前記熱転写シートを加熱し、前記変色層から前記被転写体に前記変消色性化合物を転写する工程と、を備えるものである。
【0008】
本開示による熱転写シートは、基材と、前記基材の一方の面に設けられた、色材を含む色材層と、前記基材の一方の面に前記色材層と面順次に設けられ、前記色材を変色させる変消色性化合物を含み、互いに総質量に対する前記変消色性化合物の含有量が異なる複数の変色層と、を備えるものである。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、画像の所望の領域が所望の時期に変色(消色)するように被転写体に画像を印画できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示の実施形態に係る熱転写印画装置の概略構成図である。
【
図3】
図3aは製造直後の印画物の平面図であり、
図3bは
図3aのIIIb-IIIb線断面図であり、
図3cは時間経過後の印画物の平面図であり、
図3dは
図3cのIIId-IIId線断面図である。
【
図4】
図4は、変色層の転写エネルギー毎の印画画像の経過変化を示す図である。
【
図5】
図5a、
図5bは別の実施形態に係る熱転写シートの断面図である。
【
図7】
図7aは別の実施形態に係る熱転写シートの平面図であり、
図7bは
図7aのVIIb-VIIb線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0012】
図1に示すように、実施形態に係る熱転写印画装置は、印画部Pと、制御部Cと、記憶部Mとを備え、印画部Pが、印画データ(画像データ)に基づいて熱転写シート100から被転写体200に色材を転写して画像を形成し、形成した画像上に熱転写シート100から変消色性化合物を所定のパターンで転写して、印画物を製造する。変消色性化合物は、時間経過と共に、画像を構成する色材を構造変化させ、色を変色させる。ここで、変色とは、退色や色の消滅(消色)を含む。例えば、変消色性化合物による色材の消色により、被転写体200に形成された画像には、上述の所定のパターンの白抜き模様が出現する。
【0013】
図2に示すように、熱転写シート100は、基材1と、この基材1の一方の面、つまり
図2においては上面に設けられた、染料を含む染料層2と、この染料層2と面順次に設けられ、前記染料を構造変化させる変消色性化合物を含む変色層3と、を備える。熱転写シート100は、染料層2及び変色層3と面順次に、熱溶融性インキ層4や、いわゆる保護層を転写するための転写層5が設けられていてもよく、基材1の他方の面、つまり
図2においては下面に、背面層6が設けられていてもよい。
【0014】
なお、本実施形態では、画像を形成するための色材として染料を使用し、熱転写シート100に色材層として染料層2を設ける例について説明するが、染料層2に代えて、又は染料層2に加えて、染料及び顔料を含む色材層、顔料を含む色材層、カーボンブラック等の無機粒子を含む色材層等を設けてもよい。また、基材1上に設けられるパネル(染料層2、変色層3、熱溶融性インキ層4、転写層5)の順番は
図2に示すものに限定されず、被転写体に色材を転写することで形成された画像の消色(変色)させたい部分に変色層3を接触させることができればよい。
【0015】
図1に示すように、印画部Pにおいて、熱転写シート100は供給部13に巻き付けられており、供給部13から繰り出された熱転写シート100は、サーマルヘッド11を通って、回収部14に巻き取られて回収されるようになっている。
【0016】
熱転写シート100を挟んでサーマルヘッド11と反対側には、回転自在なプラテンロール12が設けられている。サーマルヘッド11とプラテンロール12との間に、熱転写シート100及び被転写体200が挟み込まれる。被転写体200は、熱転写受像シート又は各種カード基材であり、一方の面に染料を受容可能な受容層が設けられている。被転写体200には公知のものを使用できる。
【0017】
サーマルヘッド11が熱転写シート100の染料層2を加熱し、被転写体200の受容層に染料を転写することで、
図3a、
図3bに示すように画像20が形成される。続いて、サーマルヘッド11が熱転写シート100の変色層3を所定のパターンで加熱することで、画像20上に変消色性化合物30が転写される。熱転写シート100から転写された変消色性化合物30は、被転写体200の受容層内で拡散する。
【0018】
サーマルヘッド11が熱転写シート100の熱溶融性インキ層4を文字や記号などの所定のパターンで加熱することで、熱溶融インキ層4が被転写体200上に転写され、被転写体200に文字や記号が形成される。
【0019】
サーマルヘッド11は、熱転写シート100の転写層5を加熱して被転写体200上に転写する。これにより、
図3a、
図3bに示すように、画像20全体を覆う転写層(保護層)40が形成される。このようにして、被転写体200に画像20を形成し、画像20上に所定パターンで変消色性化合物30を転写した印画物300が製造される。
【0020】
印画物300を放置しておくと、変消色性化合物30が転写された部分における画像20の色が徐々に抜け落ち、消色する。これにより、
図3c、
図3dに示すように、変消色性化合物30が転写された部分に、新たな白抜き模様が出現する。
【0021】
変消色性化合物が染料を分解、消色するのに要する期間は、変消色性化合物を転写する際にサーマルヘッド11が印加する熱エネルギーによって変わる。サーマルヘッド11が印加する熱エネルギーが大きい程、熱転写シート100から被転写体200に転写(移行)する変消色性化合物の移行量が増すと共に、変消色性化合物が被転写体200の受容層内の深部まで拡散し、消色に要する時間が短くなる。例えば、変色層3を加熱する回数や、印画速度(熱転写シート100及び被転写体200の搬送速度)を変更することで、サーマルヘッド11が印加する熱エネルギーを調整できる。
【0022】
本実施形態に係る熱転写印画装置では、このような性質を利用して、ユーザから画像を消色させるまでの期間(消色期間)、言い換えれば、画像を維持する期間の指示を受け付け、指示された期間に応じた熱エネルギーを印加するように熱転写シート100の変色層3を加熱し、被転写体200に変消色性化合物を転写する。
【0023】
図1に示すように、熱転写印画装置の記憶部Mには、消色期間と、変色層3に印加する熱エネルギーとの関係を示すテーブルが格納されている。
【0024】
制御部Cは、入力部71及び転写条件決定部72の機能を有するコンピュータである。入力部71は、タッチパネル、キーボード、マウス等の入力手段を介して、ユーザから消色期間の入力を受け付ける。例えば、「〇〇日」、「〇〇ヶ月」、「〇〇年」などの形式で消色期間の入力を受け付ける。また、期間でなく、消色日の入力を受け付け、現在日時から消色日までの期間(消色期間)を制御部Cが算出してもよい。
【0025】
転写条件決定部72は、記憶部M内のテーブルを参照し、入力された消色期間に対応する印加エネルギーを決定し、印画部Pを制御する。サーマルヘッド11は、制御部Cから指示された熱エネルギーを印加するように変色層3を加熱する。指示された熱エネルギーを印加するために、サーマルヘッド11の印加電圧を調整してもよいし、被転写体200の搬送速度(変色層3の加熱時間)を調整してもよい。また、変色層3の加熱を、複数回に分けて行ってもよい。
【0026】
変色層3を加熱する部分(転写パターン)は、事前に設定されている。
【0027】
記憶部Mは、テーブルでなく、消色期間を変数とし、熱エネルギーを算出するための計算式を記憶していてもよい。この場合、転写条件決定部72は、入力された消色期間を計算式に代入し、熱エネルギーを算出する。
【0028】
例えば、
図4に示すように、被転写体200に染料を転写して画像を形成し、形成した画像のうち、画像20A及び20Bを覆うようなパターンで変消色性化合物を転写して印画物300A、300B、300Cを製造した場合を考える。印画物300Aは変消色性化合物を転写する際にサーマルヘッド11が印加する熱エネルギーを「大」とし、印画物300Bは変消色性化合物を転写する際にサーマルヘッド11が印加する熱エネルギーを「中」とし、印画物300Cは変消色性化合物を転写する際にサーマルヘッド11が印加する熱エネルギーを「小」とした。
【0029】
例えば、印画物300A、300B、300Cを製造して6ヶ月経過すると、印画物300Aの画像20A及び20Bが消色して白抜き模様となる。印画物300B、300Cの画像20A及び20Bは残存している。
【0030】
さらに6ヶ月が経過すると、印画物300Bの画像20A及び20Bが消色して白抜き模様となる。印画物300Cの画像20A及び20Bは残存している。
【0031】
さらに6ヶ月が経過すると、印画物300Cの画像20A及び20Bが消色して白抜き模様となる。
【0032】
このように、変消色性化合物転写時の印加エネルギーを調整することで、印画物に形成された画像の消色期間を制御できる。
【0033】
消色期間はユーザが入力するものであってもよいし、印画データ(画像データ)に基づいて制御部Cが消色期間を計算・判定してもよい。
【0034】
次に、熱転写シート100の構成について説明する。
【0035】
(基材)
熱転写シート100の基材1についていかなる限定もされることはなく、熱転写シートの分野で従来公知のものを適宜選択して用いることができる。一例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルケトンもしくはポリエーテルサルホン等の耐熱性の高いポリエステル、ポリプロピレン、ポリカーボネート、酢酸セルロース、ポリエチレン誘導体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリメチルペンテンまたはアイオノマー等のプラスチックの延伸または未延伸フィルムが挙げられる。また、これらの材料を2種以上積層した複合フィルムも使用できる。
【0036】
基材1の厚みについても特に限定されないが、0.5μm以上50μm以下が好ましく、1μm以上20μm以下がより好ましく、1μm以上10μm以下がさらに好ましい。
【0037】
(染料層)
基材1の一方の面に染料層2が設けられている。染料層2は、
図1に示すように、基材1に直接設けられていてもよく、たとえば、各種プライマー層のような他の層(図示せず)を介して間接的に設けられていてもよい。また、染料層2は、
図1に示すように、色相の異なる複数の染料層、つまり、イエロー染料層2Y、マゼンタ染料層2M、およびシアン染料層2Cの組み合わせであってもよく、ブラック染料層など単一の染料層(図示せず)であってもよい。
【0038】
このような染料層2は、昇華性染料とバインダーとを含有している。
【0039】
昇華性染料は特に限定されることはなく、従来公知の昇華性染料から適宜選択して用いることができる。具体的には、ジアリールメタン系染料、トリアリールメタン系染料、チアゾール系染料、メロシアニン染料、ピラゾロン染料、メチン系染料、インドアニリン系染料、ピラゾロメチン系染料、アセトフェノンアゾメチン、ピラゾロアゾメチン、イミダゾルアゾメチン、イミダゾアゾメチン、ピリドンアゾメチン等のアゾメチン系染料、キサンテン系染料、オキサジン系染料、ジシアノスチレン、トリシアノスチレン等のシアノスチレン系染料、チアジン系染料、アジン系染料、アクリジン系染料、ベンゼンアゾ系染料、ピリドンアゾ、チオフェンアゾ、イソチアゾールアゾ、ピロールアゾ、ピラゾールアゾ、イミダゾールアゾ、チアジアゾールアゾ、トリアゾールアゾ、ジスアゾ等のアゾ系染料、スピロピラン系染料、インドリノスピロピラン系染料、フルオラン系染料、ローダミンラクタム系染料、ナフトキノン系染料、アントラキノン系染料、キノフタロン系染料などを例示できる。
【0040】
バインダー樹脂としては、特に限定されず、従来公知のものを使用できる。例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、酢酸セルロース、酪酸セルロース等のセルロース樹脂、ポリビニルブチラールやポリビニルアセトアセタール等のポリビニルアセタール、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド等のビニル樹脂、ポリエステル、フェノキシ樹脂等が挙げられる。中でもポリビニルアセタールが好適に使用できる。これらのバインダー樹脂は、1種のみを用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0041】
染料層2は、離型材を含有してもよい。離型材としては、ポリエチレンワックス、アミドワックス、テフロン(登録商標)パウダー等の固形ワックス、弗素、リン酸エステル、シリコーン含有化合物を例示できる。中でも、シリコーン含有化合物が好ましい。シリコーン含有化合物としては、シリコーンオイル、シリコーン樹脂等を例示できる。
【0042】
染料層2の厚みについては、特に限定されないが、0.3μm以上1.5μm以下が好ましい。
【0043】
染料層2の形成方法についても特に限定はなく、昇華性染料、バインダー、必要に応じて添加される各種の添加材を適当な溶媒に分散、あるいは溶解した染料層用塗工液を調製し、これを、基材1、あるいは基材1上に任意に設けられる層上に、塗布・乾燥して形成できる。
【0044】
(熱溶融性インキ層)
熱溶融性インキ層4は、加熱により溶融軟化し、被転写体200上に転写可能であるとの条件を満たす層であればよく、例えば、熱溶融性インキ及びバインダー樹脂が含まれる。熱溶融性インキとしては、公知の有機または無機の顔料、あるいは染料の中から適宜選択できる。熱溶融性インキ層4の厚みについて特に限定はないが、0.1μm以上30μm以下の範囲が好ましい。
【0045】
(転写層)
転写層5には、透明で、接着性、耐光性等を有する樹脂材料を用いることが好ましい。例えば、(メタ)アクリル樹脂、スチレン樹脂、ビニル樹脂、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、イミド樹脂、セルロース樹脂、熱硬化性樹脂及び活性光線硬化性樹脂等が挙げられる。「活性光線硬化樹脂」とは、活性光線硬化性樹脂に対して活性光線を照射し、硬化させた状態の樹脂を意味する。「活性光線」とは、活性光線硬化性樹脂に対して化学的に作用させて重合を促進せしめる放射線を意味し、具体的には、可視光線、紫外線、X線、電子線、α線、β線、γ線等を意味する。
【0046】
転写層5の厚さは、0.1μm以上10μm以下が好ましく、0.5μm以上5μm以下がより好ましい。
【0047】
(背面層)
熱転写シート100の基材1の他方の面に背面層6を設けることで、耐熱性および印画時におけるサーマルヘッドの走行性等を向上できる。
【0048】
背面層6は、従来公知の熱可塑性樹脂等を適宜選択して形成できる。このような熱可塑性樹脂としては、たとえば、ポリエステル、ポリアクリル酸エステル、ポリ酢酸ビニル、スチレンアクリレート、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエーテル、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリアクリルアミド、ポリビニルクロリド、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセトアセタール等のポリビニルアセタール等の熱可塑性樹脂、これらのシリコーン変性物等が挙げられる。
【0049】
(変色層)
変色層3は、変消色性化合物とバインダー樹脂とを含有している。
【0050】
変消色性化合物として、光酸発生材や熱酸発生材等の酸発生材やキレート材、可塑材、酸化チタンを用いることができる。
【0051】
本開示で用いられる酸化チタンとは、特定エネルギーを持つ光の照射で有機物の酸化還元に対して触媒作用を示すものであり、純粋な酸化チタンの他、含水酸化チタン、水和酸化 チタン、メタチタン酸、オルトチタン酸、水酸化チタンと呼ばれているものを含む。二酸化チタンまたはこれより低次酸化状態にあるものが好ましく用いられる。二酸化チタンの結晶型は、アナターゼ型、ルチル型、ブルッカイト型などがあるが、本開示で用いられる酸化チタンは、アナターゼ型が好ましい。
【0052】
光酸発生材は、光の照射に伴う分解により酸を発生させる。熱酸発生材は加熱に伴う分解により酸を発生させる。発生した酸が、染料を消色(変色)させる。
【0053】
酸発生材としては、例えば、化学増幅型フォトレジストや光カチオン重合に利用される化合物を用いることができる(有機エレクトロニクス材料研究会編、「イメージング用有機材料」、ぶんしん出版(1993年)、187~192ページ参照)。本開示に好適な化合物の例を以下に挙げる。
【0054】
第1に、ジアゾニウム、アンモニウム、ヨードニウム、スルホニウム、ホスホニウムなどの芳香族オニウム化合物のB(C6F5)4
-、PF6
-、AsF6
-、SbF6
-、CF3SO3
-塩を挙げることができる。オニウム化合物の具体的な例を、以下に示す。
【0055】
【0056】
第2に、スルホン酸を発生するスルホン化物を挙げることができ、その具体的な化合物を、以下に例示する。
【0057】
【0058】
第3に、ハロゲン化水素を光発生するハロゲン化物を挙げることができ、以下にその具体的な化合物を例示する。
【0059】
【0060】
第4に、鉄アレン錯体を挙げることができ、以下にその具体的な化合物を例示する。
【0061】
【0062】
変色層3の材料固形分に対し、変消色性化合物が0.1%以上80%以下の範囲で含まれていることが好ましい。
【0063】
変色層3の厚みについては、特に限定されないが、変色層3が溶融転写される場合は、被転写体に転写した変色層3による凹凸が目立たない程度の厚みが好ましく、例えば、0.1μm以上1.5μm以下が好ましい。変色層3内のバインダーは転写せず、変消色性化合物や添加材のみが移行する場合、変色層3の厚みは、0.1μm以上5μm以下が好ましい。
【0064】
変色層3の形成方法についても特に限定はなく、変消色性化合物、バインダー、必要に応じて添加される各種の添加材を適当な溶媒に分散、あるいは溶解した変色層用塗工液を調製し、これを、基材1、あるいは基材1上に任意に設けられる層上に、塗布・乾燥して形成できる。
【0065】
上記実施形態では、サーマルヘッド11が印加する熱エネルギーによって、変色層3から被転写体200に移行・拡散する変消色性化合物量が変わるものについて説明したが、変色層は、基材1から剥離可能に設けられ、サーマルヘッド11からのエネルギー印加により、層ごと被転写体200側に溶融転写されるものであってもよい。
【0066】
変色層ごと溶融転写される場合は、熱転写シートに、変消色性化合物の含有量(変色層の総質量に対する変消色性化合物の含有量)が異なる複数の変色層を設けておき、消色期間に応じて、被転写体200に転写する変色層を選択する。被転写体200に転写する変色層の変消色性化合物濃度が高い程、被転写体200に形成された画像の消色期間は短くなる(早く消色する)。
【0067】
例えば、
図5a、
図5bに示すように、熱転写シート100A、100Bの基材1上に、基材1から剥離可能となるように、変消色性化合物の含有量が異なる変色層3A、3B、3Cが面順次に設けられている。
【0068】
被転写体200で消色する領域が広い場合は、
図5aに示すように、変色層3A、3B、3Cのパネル面積は、それぞれ、染料層2(イエロー染料層2Y、マゼンタ染料層2M、およびシアン染料層2C)と同じになるようにする。
【0069】
被転写体200で消色する領域が狭い場合は、
図5bに示すように、変色層3A、3B、3Cのパネル面積の合計が、染料層2(イエロー染料層2Y、マゼンタ染料層2M、およびシアン染料層2C)と同じになるようにしてもよい。
【0070】
熱転写印画装置の記憶部Mのテーブルには、変色層3A、3B、3Cそれぞれに対応する消色期間が定義されている。転写条件決定部72は、テーブルを参照し、ユーザから入力された消色期間に対応する変色層を選択し、サーマルヘッド11を制御する。サーマルヘッド11は、変色層3A、3B、3Cのうち、転写条件決定部72が選択した変色層を所定のパターンで加熱し、被転写体200上に変色層を層ごと転写する。
【0071】
図6に示す印画物300Dのように、染料を転写した画像が第1情報J1を含み、変色層(変消色性化合物)の転写パターンが、第1情報J1を含む領域の画像を消色すると共に、別の位置に、画像の消色により第2情報J2を出現させるものであってもよい。変色層の転写パターンに情報(第2情報J2)を持たせることで、製造直後の印画物には無い情報を後から発現させることができる。例えば、染料を転写した画像が、第1情報を表すと共に、第1情報以外の領域はベタ画像や模様になっている。第1情報を覆うように変色層を(例えば矩形状に)転写すると共に、第1情報とは異なる位置に、第2情報を表すパターンで変色層を転写する。
【0072】
図7a、
図7bに示すように、熱転写シート100Cの転写層5(保護層)上に変色層3を設けてもよい。被転写体に色材層(染料層2)から色材を転写して画像を形成し、画像上に転写層5と共に変色層3を転写する。熱転写シート100Cの転写層5上において変色層3が設けられる領域は、被転写体に形成される画像の変色(消色)させたい部分に対応した位置である。被転写体に形成された画像のうち、転写層5と共に転写された変色層3が接触する部分は、色が徐々に抜け落ち、消色する。
【0073】
染料層2と変色層3とは別の熱転写シートに設けられていてもよい。この場合、熱転写印画装置の印画部は、染料層2が設けられた第1熱転写シートを加熱して被転写体に画像を形成する第1サーマルヘッドと、変色層3が設けられた第2熱転写シートを加熱して被転写体に変消色性化合物を転写する第2サーマルヘッドとを備える。変色層を層ごと溶融転写する場合、熱転写印画装置は、変消色性化合物濃度に応じた複数の熱転写シートをセットできるようにし、これら複数の熱転写シートに対応する複数のサーマルヘッドを備えるようにしてもよい。
【0074】
中間転写媒体を用いて印画物を作製してもよい。この場合、熱転写印画装置は、色材層が設けられた熱転写シートを加熱して、中間転写媒体の転写層に画像を形成する。画像形成後、中間転写媒体上に変色層を転写するか、又は変色層内の変消色性化合物を移行する。その後、中間転写媒体の転写層を被転写体に転写する。被転写体上に変色層を転写し、その後、被転写体上に中間転写媒体から転写層を転写してもよい。中間転写媒体の転写層に変色層を転写するか、又は変色層内の変消色性化合物を移行させた後に、転写層に画像を形成してもよい。
【0075】
変色層に含まれる変消色性化合物は、熱や光によって酸を発生させ、染料を消色(変色)させる。そのため、印画物の表面側に変色層(変消色性化合物)が設けられていることが好ましい。例えば、受容層が設けられた被転写体200を用いる場合、画像を形成した後に変色層を転写(変色層内の変消色性化合物を移行)して印画物を作製することが好ましい。一方、中間転写媒体を使用する場合は、中間転写媒体の転写層に変色層を転写(変色層内の変消色性化合物を移行)した後に画像を形成し、その後、転写層を被転写体に転写して印画物を作製することが好ましい。
【実施例】
【0076】
次に実施例を挙げて、本開示をさらに詳細に説明するが、本開示は、これら実施例に限
定されるものではない。
【0077】
実施例
(変色付与層転写シートの作成)
基材フィルム(東レ(株)製ポリエチレンテレフタレートフィルム「5AF56」、厚さ4.5μm)の一方の面上に、下記組成の耐熱滑性層用塗工液を乾燥後の厚さが1μmになるようにグラビアコーティング法にて塗布し、乾燥して耐熱滑性層を形成した。更に、上記基材フィルムの、耐熱滑性層と反対側の面上に、下記組成のプライマー層用塗工液を、乾燥後の厚さが0.10μmになるようにグラビアコーティング法にて塗布し、110℃の熱風に1分間さらすことにより乾燥してプライマー層を形成した。
【0078】
上記プライマー層上に、下記組成の変色付与層用塗工液をそれぞれ乾燥後の厚さが0.6μmになるようにワイヤーバーコーティング法にて塗布し、80℃で1分間乾燥して変色付与層(変色層)を形成し、実施例の熱転写シートを作製した。
【0079】
<耐熱滑性層用塗工液>
・ポリビニルブチラール
(エスレック(登録商標)BX-1、積水化学工業(株)製):3.6部
・ポリイソシアネート
(バーノック(登録商標)D750、DIC(株)製):8.4部
・リン酸エステル系界面活性剤
(プライサーフ(登録商標)A208N、第一工業製薬(株)製):2.8部
・タルク
(ミクロエース(登録商標)P-3、日本タルク工業(株)製):0.6部
・メチルエチルケトン :42.3部
・トルエン :42.3部
【0080】
<プライマー層用塗工液>
・アルミナゾル(アルミナゾル200 日産化学工業(株)製):3部
・酢酸ビニル-ビニルピロリドン共重合体
(PVP/VA E-335 アイエスピー・ジャパン(株)製):7部
・水 :100部
・イソプロピルアルコール :100部
【0081】
<変色付与層>
・ポリビニルアセタール
(エスレック(登録商標)KS-6Z、積水化学工業(株)製):2部
・酸発生材(TAZ110、みどり化学) :2部
・トルエン :46.65部
・メチルエチルケトン :46.65部
【0082】
(印画物の作製)
得られた熱転写シートと、下記評価プリンタと、昇華性染料を含む染料層及び保護層を備える、昇華型熱転写プリンタ(大日本印刷(株)製、DS620)用の純正リボン、受像シートとを用意した。下記評価プリンタにて、ブラック(Bk)の印画を行った。ブラックの印画はイエロー染料層、マゼンタ染料層及びシアン染料層の重ね合わせで印画した。
【0083】
≪評価プリンタ≫
・サーマルヘッド:F3598(東芝ホクト電子(株)製)
・発熱体平均抵抗値:5015(Ω)
・主走査方向印字密度:300(dpi)
・副走査方向印字密度:300(dpi)
・印字電力:0.21(W/dot)
・印加電圧:25.5(V)
・ライン周期:2(msec./line)
・パルスDuty:85%
【0084】
次いで、上記プリンタで階調パターン上に、転写エネルギーを変えて変色付与層を転写し、その後、保護層を転写して印画物を作製した。転写エネルギーは、0.22(mJ/dot)、0.165(mJ/dot)、0.11(mJ/dot)とした。
【0085】
光学濃度計(X-Rite社製、i1Pro2)を用いて、下記測定条件で、作製直後の印画物と、太陽光を72時間照射した後の印画物の画像濃度(OD値)を測定し、濃度差を計算した。結果を下記の表1に示す。なお、印画物作製直後は、変色付与層が転写されていない領域(保護層で覆われたブラック(Bk)画像)の濃度を測定した。太陽光照射後は、変色付与層が転写された領域(変色付与層及び保護層が設けられたブラック(Bk)画像)の濃度を測定した。
【0086】
(測定条件)
・Densityステータス:ステータスA
・測定照明条件:M0(ISO 13655-2009)
【0087】
【0088】
本発明を特定の態様を用いて詳細に説明したが、本発明の意図と範囲を離れることなく様々な変更が可能であることは当業者に明らかである。
本出願は、2020年6月15日付で出願された日本特許出願2020-103117に基づいており、その全体が引用により援用される。
【符号の説明】
【0089】
1 基材
2 染料層
3 変色層
4 熱溶融性インキ層
5 転写層
6 背面層
11 サーマルヘッド
20 画像
30 変消色性化合物
40 転写層(保護層)
71 入力部
72 転写条件決定部
100 熱転写シート
200 被転写体
300 印画物
C 制御部
M 記憶部
P 印画部