(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-17
(54)【発明の名称】電動垂直離着陸(VTOL)機用の翼傾斜作動システム
(51)【国際特許分類】
B64C 27/26 20060101AFI20221109BHJP
B64D 27/24 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
B64C27/26
B64D27/24
(21)【出願番号】P 2020537809
(86)(22)【出願日】2018-09-06
(86)【国際出願番号】 AU2018050962
(87)【国際公開番号】W WO2019056052
(87)【国際公開日】2019-03-28
【審査請求日】2021-08-24
(32)【優先日】2017-10-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(32)【優先日】2018-04-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(32)【優先日】2017-09-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(73)【特許権者】
【識別番号】520097618
【氏名又は名称】エーエムエスエル イノベーションズ ピーティーワイ リミテッド
【氏名又は名称原語表記】AMSL INNOVATIONS PTY LTD
【住所又は居所原語表記】42 Stafford Street, Stanmore, New South Wales 2048, Australia
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ムーア,アンドリュー ダドリー
【審査官】諸星 圭祐
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0288903(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2005/0178879(US,A1)
【文献】国際公開第2016/135697(WO,A1)
【文献】特開2005-168222(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0042509(US,A1)
【文献】特開2010-057314(JP,A)
【文献】特表2019-517412(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0207625(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64C 3/10
B64C 27/22-27/30
B64C 29/00
B64C 39/08
B64D 27/02
B64D 27/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機体と、
前記機体の互いに反対側に取り付けられた第1および第2の前翼であって、各翼は固定された前縁部とほぼ水平な枢動軸を中心に枢動する後部操縦翼面とを有する、第1および第2の前翼と、
前記第1および第2の前翼の
それぞれ
が第1および第2の電動モーターを
備え、該
第1および第2の電動モーターのそれぞれはローターを備え、該モーターは各翼に設置され、各ローターがほぼ垂直な回転軸を有する第1の位置と、各ローターがほぼ水平な回転軸を有する第2の位置との間で
共通の後部操縦翼面と共に枢動する、
前記ローターと、
各モーターを制御するための制御システムと、を備え、
前記制御システムは、前記第1の電動モーターおよびローターと前記第2の電動モーターおよびローターとを異なる回転速度で選択的に動作させて、前記枢動軸を中心に前記操縦翼面を枢動させる回転モーメントを発生させるように構成されていることを特徴とする、
垂直離着陸(VTOL)機。
【請求項2】
前記第1の電動モーターおよびローターの推力線が、前記第2の電動モーターおよびローターの推力線に対して角度的にオフセットされていることを特徴とする、
請求項1に記載の垂直離着陸(VTOL)機。
【請求項3】
前記第1の電動モーターおよびローターは前記操縦翼面の上側に位置し、前記第2の電動モーターおよびローターは前記操縦翼面の下側に位置し、前記第1の電動モーターおよびローターの推力線は前記第2の電動モーターおよびローターの推力線に概ね平行でありオフセットしていることを特徴とする、
請求項1に記載の垂直離着陸(VTOL)機。
【請求項4】
前記第1のモーターは、コマンドに応じて、前記制御システムによって前記第2のモーターよりも高い回転速度で動作され、前記操縦翼面を前記第1の位置から前記第2の位置に移動させ、
前記第1のモーターは、コマンドに応じて、前記制御システムによって前記第2のモーターよりも低い回転速度で操作され、前記操縦翼面を前記第2の位置から前記第1の位置に移動させることを特徴とする、
請求項1~3のいずれか1項に記載の垂直離着陸(VTOL)機。
【請求項5】
各翼がそれぞれがローターを有する少なくとも2つの電動モーターを有し、該電動モーターおよびローターが対となるように配置され、該対となる電動モーターおよびローターは、対の電動モーターおよびローターがほぼ等しい回転速度で回転されている場合に回転モーメントが相殺される推力線を有していることを特徴とする、
請求項1~4のいずれか1項に記載の垂直離着陸(VTOL)機。
【請求項6】
ホバリングモードでは、前記制御システムは、全電動モーターおよびローターによって発生される推力の合計が重力加速度を乗算した航空機および積載物の総質量に等しくなるように、各モーターおよびローターを適切な速度で回転させるように構成されていることを特徴とする、
請求項1~5のいずれか1項に記載の垂直離着陸(VTOL)機。
【請求項7】
前記操縦翼面を所望の前記第1の位置および前記第2の位置に保持するブレーキ、アクチュエータ、またはクランプ装置をさらに備える、
請求項1~6のいずれか1項に記載の垂直離着陸(VTOL)機。
【請求項8】
前記ブレーキ
、アクチュエーターまたはクランプ装置は、前記制御システムによって操作されることを特徴とする、
請求項7に記載の垂直離着陸(VTOL)機。
【請求項9】
前記機体の互いに反対側に取り付けられた第1および第2の後翼をさらに備え、
前記機体から最も遠い各前翼の先端部分と隣接する前記後翼の先端部分とが接続部材によって接続されて箱型翼構造を画定することを特徴とする、
請求項1~8のいずれか1項に記載の垂直離着陸(VTOL)機。
【請求項10】
前記第1の電動モーターは、
第1の可変ピッチプロペラを有
し、
前記第2の電動モーターは、第2の可変ピッチプロペラを有
し、
前記制御システムは、
各可変ピッチプロペラの回転速度および/またはブレードピッチを制御する
ように構成され、前記制御システムは、前記
第2の可変ピッチプロペラに対する前記第1の可変ピッチプロペ
ラのピッチを変化させて、前記操縦翼面を前記枢動軸を中心に枢動させる回転モーメントを発生させるように構成されていることを特徴とする、
請求項1に記載の垂直離着陸(VTOL)機。
【請求項11】
前記電動モーターが、前記制御システムの電子速度コントローラーからのスイッチング周波数の変化に応じて速度を変化させるブラシレスDCモーターであることを特徴とする、請求項1~10のいずれか1項に記載の垂直離着陸(VTOL)機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電動垂直離着陸(VTOL)機用の翼傾斜作動システムに関する。特に、本発明は、旅客および/または軍事的用途の電動VTOL機のための翼傾斜作動システムおよび機構に関する。
【背景技術】
【0002】
VTOL機は、垂直にまたは垂直に近い角度で離着陸することが可能である。この形式の航空機には、ヘリコプターや特定の固定翼機が含まれ、軍事用途によく使用されている。有利には、VTOL機は、限られたスペースでの離着陸が可能であるため、長い滑走路が不要であり、船の甲板やビルなどの建造物上の離着陸場といった小さなスペースでの離着陸が可能である。
【0003】
ヘリコプターは、その上昇と前進との両方がローターによって行われる形式の航空機である。ヘリコプターに関しては、高レベルのノイズ出力など、一部の用途で問題になる可能性のあるいくつかの問題がある。ヘリコプターに関連するそのような欠点の1つは、飛行において重要なローターの設計に関係している。通常、設計には冗長性が無く、そのため、ローター(あるいは各ローター)の動作が重要である。このように冗長性が欠如していることにより、ローターおよび駆動系統のあらゆる部品に対して高い安全性を確保する必要が生じ、その結果、ヘリコプターの重量と製造コストとが大幅に増加している。
【0004】
さまざまな商業的および安全上の理由から電動航空機への関心が高まっている。近年、ほぼピッチ円径の間隔に配置される複数の電動ローターを一般的に用いるドローン技術に関して数多くの開発が行われている。通常、ドローンはそれぞれがほぼ垂直な軸を中心に回転する電動ローターで動作する。
【0005】
ドローンは、積載量の小さな物を運ぶために商業的に成長してきている一方で、ローターの回転軸が垂直であるため、一般的に比較的低い飛行速度に制限されている。さらに、バッテリーの充電1回あたりの移動範囲がかなり狭い傾向がある。
【0006】
ティルトウィング型の航空機が利用されており、それは一般に離着陸に際しては垂直プロペラ軸の原理に基づいて動作する。その翼は傾斜可能に構成されており、翼を傾斜させることで、プロペラが離着陸のための垂直軸を有する形態と、プロペラが前進飛行のための水平軸を有する形態とを取ることができる。
【0007】
上記のティルトウィング構成によって、空母や離着陸場などの利用可能な空きスペースが限られている領域での離着陸が可能になるという利点が得られる。さらに、ティルトウィング機は、従来のプロペラ駆動の固定翼機に匹敵する飛行速度を実現可能である。
【0008】
ティルトウィング機は一般に、翼に直接設置されたプロペラまたはダクト付きファンを駆動する電動モーターまたはガスタービンエンジンを備えている。翼全体が垂直と水平の間で回転することで、推力ベクトルを垂直から水平に傾けたり戻したりすることが可能である。
【0009】
定義として、「推力ベクトル」とも呼ばれる「推力線」は、プロペラの推力であり、プロペラの回転軸とほぼ同じである。「ヒンジ線」はヒンジ回転の軸である。
【0010】
既存のティルトウィング機にはいくつかの固有の欠点がある。欠点の1つは、離着陸用形態と前進飛行用形態との間の翼の傾斜角度を制御するために必要なアクチュエータやベアリングまたはその他の機構に関する。アクチュエータは、前進飛行中に翼を所望の傾斜でロックするようにも機能する。ただし、実際には、アクチュエータやベアリングによって航空機の重量がかなり増加している。その結果、輸送できる人員や貨物などの積載量が減少している。さらに、翼傾斜作動システムとベアリングの重要な性質のため、壊滅的な故障のリスクを減らすために十分な冗長性を備えて設計する必要がある。
【0011】
電動VTOLジェット機は現在、Lilium Jet(登録商標)ブランドでLilimu Aviation社によって設計およびテストが行われている。そのプロトタイプは、2つの翼と約36個の電動モーターを備えた2人乗りの軽量コミューター機としての利用が想定されている。
【0012】
Lilium Jet(登録商標)型の航空機の欠点は、ファンが覆われたタイプのモーターである電動モーターに関係している。この構成ではエネルギーを大量に消費するため、特定のバッテリーサイズでの飛行可能範囲が狭くなってしまう。
【0013】
さらに、覆われた形状のファンは、指定された離着陸場や滑走路などの舗装された表面での離着陸時にのみ稼働可能である。このため、この航空機の有用性が制限され、公園、野原、庭園などの未舗装表面での離着陸時に稼働させることができない。これは軍事用途では望ましくなく、遠隔地での即時着陸に対応できていない。
【0014】
別のコンセプトのVTOL機には、Joby Aviation社によるS2 electric(登録商標)がある。この設計では、複数の電動モーターを備えた固定翼を有し、好ましくはそれぞれの翼に4つのモーターが設置されている。さらに4つのモーターが後部スタビライザーまたはテールに設置されている。このコンセプトの航空機の欠点は、各電動モーターが独立して作動するため、モーターごとに個別のアクチュエータが必要になることである。上記のように、このことによって作動モーターシステムのために相当な重量が増加することになる。
【0015】
別のコンセプトのVTOL機には、ElectronFlight(登録商標)ティルトローターシステムがある。このシステムには2つの固定翼があり、垂直軸モーターが各翼の前側と後側の両方に取り外し不能に設置されている。さらに、各翼の外側部分には、2つのローターが設置された枢動パネルが設けられている。ローターは差動推力によって作動するため、専用の作動システムが不要になる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、上記の欠点の1つ以上を実質的に克服または少なくとも改善すること、または有用な代替物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
第1の態様において、本発明は垂直離着陸(VTOL)機を提供し、該垂直離着陸(VTOL)機は、
機体と、
前記機体の互いに反対側に取り付けられた第1および第2の前翼であって、各翼は固定された前縁部とほぼ水平な枢動軸を中心に枢動する後部操縦翼面とを有する、第1および第2の前翼と、
それぞれがローターを有する第1および第2の電動モーターであって、該モーターは各翼に設置され、該電動モーターおよびローターは、各ローターがほぼ垂直な回転軸を有する第1の位置と、各ローターがほぼ水平な回転軸を有する第2の位置との間で前記後部操縦翼面と共に枢動する、第1および第2の電動モーターと、
各電動モーターを制御するための制御システムと、を備え、
前記制御システムは、前記第1の電動モーターおよびローターと前記第2の電動モーターおよびローターとを異なる回転速度で選択的に動作させて、前記枢動軸を中心に前記操縦翼面を枢動させる回転モーメントを発生させるように構成されている。
【0018】
好ましくは、前記第1の電動モーターおよびローターの推力線が、前記第2の電動モーターおよびローターの推力線に対して角度的にオフセットされている。
【0019】
好ましくは、前記第1の電動モーターおよびローターは前記操縦翼面の上側に位置し、前記第2の電動モーターおよびローターは前記操縦翼面の下側に位置し、前記第1の電動モーターおよびローターの推力線は前記第2の電動モーターおよびローターの推力線に概ね平行でありオフセットしている。
【0020】
好ましくは、前記第1の電動モーターは、コマンドに応じて、前記制御システムによって前記第2の電動モーターよりも高い回転速度で動作され、前記操縦翼面を前記第1の位置から前記第2の位置に移動させ、
前記第1の電動モーターは、コマンドに応じて、前記制御システムによって前記第2の電動モーターよりも低い回転速度で操作され、前記操縦翼面を前記第2の位置から前記第1の位置に移動させる。
【0021】
一実施形態において、各翼がそれぞれがローターを有する少なくとも2つの電動モーターを有し、該電動モーターおよびローターが対となるように配置され、該対となる電動モーターおよびローターは、対の電動モーターおよびローターがほぼ等しい回転速度で回転されている場合に回転モーメントが相殺される推力線を有している。
【0022】
一実施形態において、各翼は小型アクチュエータを備える2つのローターを有し、冗長性が高められている。
【0023】
好ましくは、ホバリングモードでは、前記制御システムは、全電動モーターおよびローターによって発生される推力の合計が重力加速度を乗算した航空機および積載物の総質量に等しくなるように、各モーターおよびローターを適切な速度で回転させるように構成されている。
【0024】
好ましくは、前記垂直離着陸(VTOL)機は、前記操縦翼面を所望の前記第1の位置および前記第2の位置に保持するブレーキ、小型アクチュエータ、またはクランプ装置をさらに備えている。
【0025】
好ましくは、前記ブレーキ、小型アクチュエータ、またはクランプ装置は、前記制御システムによって操作される。
【0026】
好ましくは、前記垂直離着陸(VTOL)機は、前記機体の互いに反対側に取り付けられた第1および第2の後翼をさらに備え、前記機体から最も遠い各前翼の先端部分と隣接する前記後翼の先端部分とが接続部材によって接続されて箱型翼構造を画定している。
【0027】
第2の態様において、本発明は垂直離着陸(VTOL)機を提供し、該垂直離着陸(VTOL)機は、
機体と、
前記機体の互いに反対側に取り付けられた第1および第2の前翼であって、各翼は固定された前縁部とほぼ水平な枢動軸を中心に枢動する後部操縦翼面とを有する、第1および第2の前翼と、
第1の可変ピッチプロペラを有する第1の電動モーターと第2の可変ピッチプロペラを有する第2の電動モーターであって、該第1および第2の電動モーターは各翼に設置され、該第1および第2の可変ピッチプロペラは、各プロペラがほぼ垂直な回転軸を有する第1の位置と、各プロペラがほぼ水平な回転軸を有する第2の位置との間で前記後部操縦翼面と共に枢動する、第1および第2の電動モーターと、
各可変ピッチプロペラの回転速度および/またはブレードピッチを制御するための制御システムと、を備え、
前記制御システムは、前記第2のプロペラに対する前記第1のプロペラのピッチを変化させて、前記操縦翼面を前記枢動軸を中心に枢動させる回転モーメントを発生させるように構成されている。
【0028】
好ましくは、前記電動モーターが、前記制御システムの電子速度コントローラーからのスイッチング周波数の変化に応じて速度を変化させるブラシレスDCモーターである。
【図面の簡単な説明】
【0029】
添付の図面を参照して、本発明の好適な実施形態を具体的な例に基づいて以下に説明する。
【
図1】離着陸形態における本発明の垂直離着陸(VTOL)機を示す概略図である。
【
図2】第2の前進飛行形態における
図1のVTOL機を示す概略図である。
【
図3】
図1および
図2の航空機の翼に配置された電動モーターの、ローターが垂直(離着陸)位置にある場合の配置構成を示す概略図である。
【
図4】ローターが部分的に傾斜した位置にある場合の
図3の構成のさらなる概略図である。
【
図5】ローターがさらに傾斜した位置にある場合の
図3の構成のさらなる概略図である。
【
図6】ローターが水平(前進飛行)位置にある場合の
図3の構成のさらなる概略図である。
【
図7】VTOL機のさらなる実施形態を示す斜視図である。
【
図10】ローターブレードが収納された状態における、
図7の翼構成の斜視図である。
【
図11A】
図7~
図10のいずれか1つの航空機の翼に配置された電動モーターの、ローターが水平(前進飛行)位置にある場合の配置構成を示す概略側面図である。
【
図11C】
図7~
図10のいずれか1つの航空機の翼に配置された電動モーターの、ローターが垂直(離着陸)位置にある場合の配置構成を示す概略側面図である。
【
図12A】
図7~
図10のいずれか1つの航空機における翼構成の垂直位置と水平位置との間の移行を示す概略断面図である。
【
図12B】
図7~
図10のいずれか1つの航空機における翼構成の垂直位置と水平位置との間の移行を示す概略断面図である。
【
図12C】
図7~
図10のいずれか1つの航空機における翼構成の垂直位置と水平位置との間の移行を示す概略断面図である。
【
図12D】
図7~
図10のいずれか1つの航空機における翼構成の垂直位置と水平位置との間の移行を示す概略断面図である。
【
図13】第1および第2の実施形態のいずれかにおける電動モーターの配置構成の概略図である。
【
図14】本発明の8ローター垂直離着陸(VTOL)機の離着陸形態における斜視図である。
【
図15】本発明の8ローター垂直離着陸(VTOL)機の前進飛行形態における斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
垂直離着陸(VTOL)機10が開示されている。好適な実施形態では、図示されているように、2対の翼を有している。すなわち、前翼20、22と後翼30、32である。前翼20、22のそれぞれは、機体24の横方向に反対側の領域に取り付けられている。同様に、後翼30、32のそれぞれも、胴体24の横方向に反対側の領域に取り付けられている。図示される実施形態では、航空機10は単座機10として示されている。しかしながら、より大きな複数人用の実施形態も想定される。
【0031】
図示される実施形態では、2対の翼20、22、30、32が箱型翼または閉じた翼構造を画定するように、前翼20、22および後翼30、32の先端部分が接続されている。
【0032】
別の実施形態(図示せず)では、前翼20、22および後翼30、32は、タイバーまたはストラットで接続されたストラットブレース翼であってもよい。ストラットブレース翼は通常、従来の片持翼よりも軽量である。
【0033】
本明細書に記載されているVTOL機10は、箱型翼機またはストラットブレース型航空機10であるが、航空機10が、前翼20、22および後翼30、32が分離され相互接続されていない従来の片持翼機であってもよいことは当業者には理解されるであろう。さらに、航空機10は、一対の翼のみを有するものであってもよい。
【0034】
図を参照すると、前翼20、22および後翼30、32は垂直方向に分離されている。
【0035】
図2に示されるように、後翼30、32の先端部分40は、下方および後方に延在している。この翼端部分、すなわちウィングレット40は、翼端渦を低減するのに役立つ。
【0036】
再度
図2を参照すると、各ウィングレット40の近位側は、隣接する前翼20と後翼30とを接合する接続部材42に接続されている。別の接続部材42は、機体の反対側で隣接する前翼22と後翼32とを接合している。
【0037】
前翼20、22および後翼30、32のそれぞれは、固定された前縁部25、35を有している。前縁部25、35は、翼の一部の形状を成す湾曲した輪郭を有している。前縁部は回転あるいは移動しない。
【0038】
各固定された前縁部25、35の後方側で、前翼20、22および/または後翼30、32には、枢動可能に設置された補助翼すなわち操縦翼面50が設けられている。各操縦翼面50は、(
図11C、11Dに示されるような)離着陸のためのほぼ垂直な形態と(
図11A、11Bに示されるような)前進飛行のためのほぼ水平な形態との間で枢動する。
【0039】
操縦翼面50は、翼20、22、30、32の全長に沿って連続的に延在する単一の面であってもよい。あるいは、各翼20、22、30、32は、1つまたは複数の独立した枢動操縦翼面50を有していてもよく、操縦翼面50が他の操縦翼面50とは独立して前縁部25、35を中心に枢動できるように構成されていてもよい。
【0040】
垂直離着陸(VTOL)機10は、複数の電動モーター60を備えている。各モーター60は、プロペラすなわちローター70を有する。図示されるように、各モーター60の本体部分62は、可動操縦翼面50の上面または下面に隣接して、一般に固定前縁部25、35の前側に設置されている。操縦翼面50は、水平飛行モード(
図2)および垂直飛行モード(
図1)の両方への移行のために、約80~100度の範囲で、好ましくは約90度回転することができる。
【0041】
モーター60は、翼構造に接触することなくローターブレードを後方に折りたたむことができるように、固定された前縁部25、35の十分前方に設置することができる。
【0042】
モーター60および操縦翼面50については、例えば以下の2つの配置構成が可能である。すなわち:
a)各モーター60が、固定前縁部25、35の1つに枢動可能に接続されており、操縦翼面50が、モーター60の本体部分62に固定される構成(例えば、
図11C);または、
b)操縦翼面50が、固定前縁部25、35の1つに枢動可能に接続されており、操縦翼面がさらにモーター60の本体部分62に固定される構成。
【0043】
電動モーター60はそれぞれ、各モーター60のローターがほぼ垂直な回転軸を有する第1の位置と各モーターのローターがほぼ水平な回転軸を有する第2の位置との間で、操縦翼面50と共に前縁部25、35を中心に枢動する。
【0044】
図1~
図6に示す実施形態では、翼20、22、30、32の少なくとも1つは、操縦翼面50を通る平面に対して互いにオフセットされた第1および第2のモーター60を有する。図示される実施形態では、このことは、翼20、22、30、32の対向する上側および下側にモーター60を配置することによって達成される。
図1~6に示される実施形態では、各翼に4つの電動モーター60が設けられる。すなわち、翼20、22、30、32の上側に2つの電動モーター60が、翼20、22、30、32の下側に2つの電動モーターが、互い違いの構成で配置される。しかしながら、
図14および15に示される実施形態では、各翼に2つの電動モーター60が設けられている。
【0045】
電動モーター60およびそれらの設置用パイロンは、それぞれ枢動操縦翼面50に配置されている。すべてのモーターはヒンジ点33を中心に回転する。4つのモーター60は、異なる推力線で設置されている。特に、2つのモーター60は、操縦翼面50を水平方向に回転させる推力線を有し、他の2つのモーターは、翼20、22、30、32を垂直方向に回転させる推力線を有している。4つすべてのモーター60が一斉に作動すると、モーメントが相殺され、垂直飛行モードでの安定化が達成される。
【0046】
図3~
図6に示す一連の翼の調節過程では、離陸翼位置から前進飛行翼位置へ移行する際の、モーター60および操縦翼面50の傾斜の変化が示されている。これらの図に示されるように、前縁部25、35は静止しており、枢動しない。対照的に、モーター60および操縦翼面50は、一体的に枢動する。
【0047】
図6を参照すると、翼が前進飛行のための最終水平位置に到達すると、前縁部25、35と操縦翼面50とが係合し、翼20、22、30、32がさらに枢動することが防止される。このことは、翼20、22、30、32および操縦翼面50が相補的な係合面を有していることにより起こる。
【0048】
本発明の第2の実施形態を
図7~10に示す。本実施形態では、4つのモーター60はそれぞれ、翼20、22、30、32の下側に配置されている。特に、各モーター60は翼20、22、30、32の下側の位置にヒンジ固定されており、これを用いて前縁部スロット72が形成されることで、揚力係数がさらに増加され、降下中の高傾斜角度でのバフェットが低減される。
【0049】
前縁部スロット72は、前縁部25、35と傾斜操縦翼面50との間の隙間である。スロット72は、
図3、4、および5において見ることができ、
図6では閉位置にある。スロット72は
図11Aにおいても見られる。
【0050】
図8を参照すると、この構成では、モーターの回転軸は互いに平行ではない。特に、各奇数番モーター60は、操縦翼面50に対して下向きに傾斜した回転軸XXを有し、各偶数番モーター60は、操縦翼面50に対して上向きに傾斜した回転軸YYを有している。このようにして、2つのモーター60は、操縦翼面50を時計回りに回転させる推力線を有し、他の2つのモーターは、操縦翼面50を反時計回りに回転させる推力線を有している。4つすべてのモーター60が一斉に作動すると、モーメントが相殺され、垂直飛行モードでの安定化が達成される。
【0051】
航空機10は、各モーター60に別々に制御された電源を供給する。これにより、各モーターに異なる電圧を供給することができるため、各モーターで可変動力出力を選択的に生成して、左旋回や右旋回などの所望の飛行状態を実現できる。
【0052】
さらに、モーター60の独立した動力により、モーター60を用いて、翼20、22、30、32の後縁部に位置する操縦翼面50を傾斜させることができる。
【0053】
図11A~11Dは、翼20、22、30、32の1つの下側に設置されたモーター60の概略図である。ヒンジプレート28は、固定された前縁部25、35に接続され、下向きに延在している。モーター60は、ヒンジ点33でヒンジプレート28に枢動可能に接続されている。プロペラ70およびパイロン構造は、ヒンジ点33を中心に回転する操縦翼面50に固定されている。
【0054】
本実施形態では、翼の下側に設置されたモーター60を有し、垂直離陸翼位置と水平前進飛行翼位置との間を移行する際の一連の翼の調節過程における、モーター60および操縦翼面50の傾斜の変化が
図11A~
図11Dに示されている。第1の実施形態と同様に、前縁部25、35は静止しており枢動せず、モーター60および操縦翼面50は一体的に枢動する。
【0055】
図12A~12Dは、
図7~
図11Dのいずれか1つの翼構成における垂直位置と水平位置との間の移行を示す概略断面図である。
図12A~12Dには、各翼上の隣接するモーターの互いに非平行である推力線も示されており、これにより、ヒンジ点33を中心にモーメントが生じ、これを選択的に使用することで操縦翼面50を回転させることができる。
【0056】
図示された好ましい実施形態では、2つまたは4つのモーター60が各翼20、22、30、32に設置されている。しかしながら、追加のモーター60を航空機10に、例えば翼20、22、30、32、機体24の機首または翼接続部材42に設置してもよい。
【0057】
一実施形態では、ヒンジ機構をモーターポッド構造に統合することで、構造重量をさらに低減することができる。さらに考えられる改善点としては、モーターポッドが複数ある場合、各ポッドにヒンジベアリングを搭載する構成がある。
【0058】
図10を参照すると、モーター60のローターブレード70は、非使用時に下向きに折りたたむことができる。さらに、離着陸時と比較して前進飛行モードでは通常必要とされる推進力が少ないため、前進飛行モードのときにはローターブレード70のいくつかを下向きおよび後ろ向きに折りたたむことができる。
【0059】
従来のティルトウィング機では、翼を傾斜させるためのアクチュエータが必要である。対照的に、本明細書に開示されるVTOL機10の実施形態では、操縦翼面50を回転させるためにモーター推力を使用する。このことは、モーターを翼の傾斜軸の両側(つまり、翼の上側と下側)に設置するか、あるいは
図7に示すように、モーターの一部を他のモーターに対して角度を付けて傾けることで、角度的にオフセットした異なる推力線を設定することによって実現される。以下、その動作について説明する。
【0060】
モーター60は、好ましくは、スイッチング周波数を変えることにより速度が変化するブラシレスDCモーターである。このスイッチング周波数は、制御システム90の電子速度コントローラ(ESC)によって制御される。モーター60は実際には永久磁石ACモーターであるが、ESCからの入力がDCであるため、それらは一般にブラシレスDCと呼ばれる。モーター60は、ESCからの周波数入力が高い場合にはプロペラ速度が上がり、ESCからの周波数入力が低い場合にはプロペラ速度が下がるというように動作する。
【0061】
実際には、スイッチング周波数が等しい場合、モーメントは平衡を保つ。
【0062】
第1の実施形態-翼の上下にモーターが設置される場合
図1~6に示される実施形態を参照すると、翼の操縦翼面50の上側に配置された電動モーター60の回転速度を上げることにより、制御システムは、上部プロペラ70によって生じる推力を増加することができる。同時に、翼の操縦翼面50の下側に配置されたモーター60の速度を下げると、下部プロペラ70によって生じる推力が減少する。その結果、操縦翼面50を回転させる回転モーメントが生じ、ほぼ水平な前進飛行モードとなる。
【0063】
一方、翼の操縦翼面50の上側に配置された電動モーター60の速度を下げ、翼の操縦翼面50の下側に配置された電動モーター60の速度を上げることにより、結果として、操縦翼面50を回転させる回転モーメントが生じ、垂直(離着陸)形態となる。
【0064】
モーター60は、翼のその部分におけるすべてのモーター60の総出力によって安定した飛行に必要な総推力を確実に発生させ、さらにコマンドに従って翼を垂直から水平にさらにはその反対に傾けることが可能となる、制御ソフトウェアの複合アルゴリズムを用いて制御される。
【0065】
ブレーキまたはクランプ装置または小型アクチュエータを用いて、操縦翼面50を所望の垂直または水平形態に保持する。
【0066】
第2の実施形態-角度推力ベクトルをオフセットしてモーターが配置される場合
図7~13に示される実施形態を参照すると、下方に傾斜した推力線XXを有する電動モーター60の回転速度を上げることにより、制御システムは、上部プロペラ70によって生じる推力を増加することができる。同時に、上方に傾斜した推力線YYを有する2つのモーター60の速度を下げると、それらのプロペラ70によって生じる推力が減少する。その結果、操縦翼面50を回転させる回転モーメントが生じ、ほぼ水平な前進飛行モードとなる。
【0067】
一方、下方に傾斜した推力線XXを有する電動モーター60の速度を下げ、上方に傾斜した推力線YYを有する電動モーター60の速度を上げることにより、結果として、操縦翼面50を回転させる回転モーメントが生じ、垂直(離着陸)形態となる。
【0068】
航空機10のさらなる実施形態としては、傾斜機構が冗長性を有するように、操縦翼面50ごとに4、6または2n(n=1、2、3、4…)個のモーター60を備え、モーターの1つが故障しても翼の回転に支障が出ない構成が考えられる。
【0069】
有利には、航空機10の実施形態によれば、ティルトウィング構成の航空機10の翼を回転させるための大型のすなわち重いアクチュエータが不要となる。また、部品数を減少できる可能性があり、それによってシステムの信頼性が向上できる。
【0070】
ここで一例を説明する。
図7および13を参照すると、記載の実施形態においては、翼20、22、30、32ごとに4つのモーター60が設けられ、合計16個のモーター60が設けられている。
T
1=プロペラとモーター1(P
1)の推力
T
2=プロペラとモーター2(P
2)の推力
T
n=プロペラとモーターn(P
n)の推力
T
16=プロペラとモーター16(P
16)の推力
【0071】
モーター60が垂直軸形態(例えば、
図12A)にあるとき、総浮揚推力=T
1+T
2+T
3+......+T
16である。
【0072】
浮揚のバランスが取れている重量=質量* g(重力による加速)、すなわち、W=T1+T2+T3+......+T16となる。
【0073】
各モーター60によって発生される推力は、モーター60の回転速度を増加または減少させるモーター電子速度コントローラー(ESC)に信号を送信することによって実行される各プロペラ70の速度の増減により、制御システムによって変更可能である。あるいは、可変ピッチプロペラを使用してもよく、その場合、プロペラのピッチを変化させることで推力を変更できる。
翼1の推力=TW1=T1+T2+T3+T4
翼2の推力=TW2=T5+T6+T7+T8
翼3の推力=TW3=T9+T10+T11+T12
翼4の推力=TW4=T13+T14+T15+T16
安定した浮揚状態では:
W=TW1+TW2+TW3+TW4
である。
【0074】
従来のマルチローター安定化アルゴリズムを用いることで、各モーター60の速度を変化させて外乱に対して航空機10を安定化し、差動推力を用いて航空機10をピッチングおよびローリングさせる。
【0075】
ホバリングモードでは、翼20、22、30、32はフリーであっても、別のメカニズムを使用して固定されていてもよい。
【0076】
有利には、航空機10においては、各モーター60に対して、より小さな分散型ヒンジベアリングの使用が可能であり、これにより冗長化が図られ、大幅な直径の縮小化(したがって、軽量化)が実現する。
【0077】
本発明は、降下中にティルトウィング機が経験するバフェットを劇的に減少させるスロット付き前縁部を備えることができる。
【0078】
揚力および/または前進速度を増加させるために、機体などの翼以外の構造に電動モーター(図示せず)を追加して設置することも可能である。
【0079】
有利には、箱型翼構造は、同じサイズの従来の翼よりも空気力学的に効率的であり、構造的により効率的(したがってより軽量)であり得る。
【0080】
有利には、箱型翼構造を用いることで剛性が増す。
【0081】
有利には、航空機10では、従来のティルトウィング機と比較して、必要とされるベアリングおよび傾斜構造の重量が低減される。これは、従来のティルトウィングでは、回転する堅い構造の1対の大きなベアリング(航空機の機体の両側に1つ)が必要なためである。
【0082】
本発明を具体的な例を参照して説明したが、本発明が他の多くの形態で具現化され得ることは当業者には理解されるであろう。