(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-10
(45)【発行日】2022-11-18
(54)【発明の名称】水浄化エレメントおよび水浄化装置
(51)【国際特許分類】
C02F 3/10 20060101AFI20221111BHJP
【FI】
C02F3/10 Z
(21)【出願番号】P 2018059891
(22)【出願日】2018-03-27
【審査請求日】2021-01-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000001834
【氏名又は名称】三機工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000512
【氏名又は名称】弁理士法人山田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原田 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】長野 晃弘
(72)【発明者】
【氏名】三村 和久
【審査官】高橋 成典
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-207379(JP,A)
【文献】実開平03-119500(JP,U)
【文献】特開2008-178824(JP,A)
【文献】特開2001-231554(JP,A)
【文献】特開昭60-047673(JP,A)
【文献】特開2016-123957(JP,A)
【文献】特開2003-071478(JP,A)
【文献】中国実用新案第202594844(CN,U)
【文献】中国実用新案第203602396(CN,U)
【文献】中国特許出願公開第105585110(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第101439905(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 3/02 - 3/10
3/28 - 3/34
3/00
C12M 1/00 - 3/10
C12N 1/00 - 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
柔軟性を有する多孔質の
スポンジ状の素材により形成された多角柱状の多孔体と、
複数のリング部を軸方向に沿って延びる柱部によって接続され、全体として円筒形をなす枠体とを備え、
端部に位置する前記リング部の内径は、前記多孔体の最大径より短く設定され、
前記多孔体の側面に前記柱部が対向するよう、前記多孔体が前記枠体に収容されること
により、前記多孔体の前記枠体からの抜けが防止され得るよう構成されること
を特徴とする水浄化エレメント。
【請求項2】
前記枠体の端部に位置する前記リング部の少なくとも一部が、前記多孔体の端面の外周に対して径方向内側に位置していること
を特徴とする請求項1に記載の水浄化エレメント。
【請求項3】
前記リング部の外周部の少なくとも一部が、前記多孔体の外周に対して径方向外側へ突出していること
を特徴とする請求項1または2に記載の水浄化エレメント。
【請求項4】
前記多孔体の側面に、軸方向に沿って切れ込みを備えたこと
を特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の水浄化エレメント。
【請求項5】
前記多孔体を貫通する孔を設けたこと
を特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の水浄化エレメント。
【請求項6】
前記多孔体は正六角柱をなすこと
を特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の水浄化エレメント。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の水浄化エレメントを備えたことを特徴とする水浄化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水の浄化装置に用いられるエレメント、およびこれを用いた浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
魚介類等の生物を養殖する養殖設備の排水、その他の産業排水や生活排水、上下水、河川水等を浄化するための技術として、例えば下記特許文献1に記載の如き技術が提案されている。
【0003】
図10は下記特許文献1に記載されている汚水浄化装置と概ね同様の水浄化装置を示しており、ここに示す水浄化装置4は、筐体5内に水平方向に沿ってメッシュ状の仕切板5aを備え、該仕切板5aの上に多数の水浄化エレメント3が収容されている。筐体5の上部には、散水装置6の散水管6aと、散水ノズル6bが設けられており、散水管6aに対し、外部から給水管6cを通じて供給される水Wが、散水ノズル6bから筐体5内の水浄化エレメント3に散水されるようになっている。散水された水Wは、筐体5の仕切板5aより下部に設けられた処理水排出装置7の排水管7aから外部へ排出される。
【0004】
また、筐体5の仕切板5aより下部には給気装置8の給気管8aが設置されており、ここから筐体5内に空気Aが供給される。そして、水浄化エレメント3に付着した好気性の微生物を活動させることで、水W中の汚濁物質等を浄化するようにしている。筐体5内に供給された空気Aは、筐体5の上部に接続された排気装置9の排気管9aから排出される。
【0005】
こうして、散水ノズル6bから筐体5に散水された水Wは、水浄化エレメント3に付着した微生物の働きによって浄化され、排水管7aから排出されるようになっている。
【0006】
図11、
図12は、筐体5(
図10参照)内に収容される水浄化エレメント3の形態の一例を示している。水浄化エレメント3は、円筒状の枠構造をなす枠体2内に、円筒状の多孔体1を収容して構成される。多孔体1の素材としては、微生物の付着する空隙を有し、且つ保水性を有する連続気泡の多孔質体が用いられる。具体的には、不織布やポリウレタン等からなるスポンジ状の素材や、セラミック等を採用することができる。枠体2は、複数の環状体2aを、軸方向へ延びる複数の接続部材2bにより接続した形状をなし、一端側には、径方向に沿って十字状に延びる支持部材2cが取付けられている。そして、枠体2の他端側から多孔体1を挿入することで、水浄化エレメント3が構成される。枠体2の素材としては、例えばプラスチック樹脂が用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、
図11、
図12に示す如き水浄化エレメント3の場合、円筒状の枠体2内に円筒状の多孔体1を挿入するので、多孔体1が枠体2から抜けてしまいやすいという問題があった。抜けを防止するためには、枠体2の内側の寸法に対し、一部あるいは全体の寸法が大きい多孔体1を柔軟性のある素材で形成し、枠体2に対して多孔体1を変形させつつ収容し、元の形状に復元しようとする多孔体1の弾発力によって多孔体1を枠体2に対して保持する方策が考えられる。しかしながら、このようにすると多孔体1を圧縮することになるので、多孔体1内の間隙が閉塞し、多孔体1における微生物の付着可能な面積が減少してしまうほか、多孔体1内における空気Aや水Wの流通も阻害され、水浄化装置4における水Wの浄化効率を落としてしまう懸念があった。
【0009】
また、多孔体1と枠体2との間に何らかの係合構造を形成すれば、多孔体1の圧縮を抑えつつ、枠体2からの抜けを防止することも可能ではあるが、多孔体1や枠体2にあまり複雑な形状を設けると、水浄化エレメント3の製造コストが大幅に上昇してしまう。
【0010】
本発明は、斯かる実情に鑑み、簡単な構成で水浄化エレメントにおける多孔体の抜けを防止しつつ、多孔体の圧縮を極力軽減して水の浄化効率を保ち得る水浄化エレメントおよび水浄化装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、柔軟性を有する多孔質のスポンジ状の素材により形成された多角柱状の多孔体と、複数のリング部を軸方向に沿って延びる柱部によって接続され、全体として円筒形をなす枠体とを備え、端部に位置する前記リング部の内径は、前記多孔体の最大径より短く設定され、前記多孔体の側面に前記柱部が対向するよう、前記多孔体が前記枠体に収容されることにより、前記多孔体の前記枠体からの抜けが防止され得るよう構成されることを特徴とする水浄化エレメントにかかるものである。
【0012】
本発明の水浄化エレメントにおいては、前記枠体の端部に位置する前記リング部の少なくとも一部が、前記多孔体の端面の外周に対して径方向内側に位置していることが好ましい。
【0013】
本発明の水浄化エレメントにおいては、前記リング部の外周部の少なくとも一部が、前記多孔体の外周に対して径方向外側へ突出していることが好ましい。
【0014】
本発明の水浄化エレメントにおいては、前記多孔体の側面に、軸方向に沿って切れ込みを備えることが好ましい。
【0015】
本発明の水浄化エレメントにおいては、前記多孔体を貫通する孔を設けることが好ましい。
【0016】
本発明の水浄化エレメントにおいては、前記多孔体は正六角柱をなすことが好ましい。
【0017】
また、本発明は、上述の水浄化エレメントを備えたことを特徴とする水浄化装置にかかるものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明の水浄化エレメントおよび水浄化装置によれば、簡単な構成で水浄化エレメントにおける多孔体の抜けを防止しつつ、多孔体の圧縮を極力軽減して水の浄化効率を保ち得るという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施例による水浄化エレメントの形態を示す正面図である。
【
図2】本発明の実施例による水浄化エレメントの形態を示す平面図である。
【
図3】本発明の実施例による水浄化エレメントの形態を示す分解斜視図である。
【
図4】本発明の実施例による水浄化エレメントの形態を示す正断面図であり、
図2のIV-IV矢視相当図である。
【
図5】本発明の実施による水浄化エレメントの形態を示す断面図であり、
図2のV-V矢視相当図である。
【
図6】本発明の実施例による水浄化エレメントの形態を示す平断面図であり、
図1のVI-VI矢視相当図である。
【
図7】本発明の実施による水浄化エレメントの形態を示す平断面図であり、
図1のVII-VII矢視相当図である。
【
図8】本発明の別の実施例による水浄化エレメントの形態を示す正断面図である。
【
図9】本発明のさらに別の実施例による水浄化エレメントの形態を示す正断面図である。
【
図10】水浄化エレメントを用いた水浄化装置の一例を示す断面図である。
【
図11】従来例による水浄化エレメントの形態を示す正面図である。
【
図12】従来例による水浄化エレメントの形態を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0021】
図1~
図7は本発明の実施による水浄化エレメントの形態の一例を示している。本実施例の水浄化エレメント10は、微生物の付着する間隙を有する多孔体11と、該多孔体11を収容する枠体12により構成される。
【0022】
多孔体11は、連続気泡構造の多孔質体であり、保水性と柔軟性を備えた素材により形成される。多孔体11の素材としては、具体的には、例えばウレタン樹脂、エステル重合体、エーテル重合体といった樹脂を発泡させた多孔質体が用いられる。
【0023】
多孔体11は、
図3に示す如く多角柱状に形成され、本実施例の場合、正六角形の断面形状を有している。多孔体11には、一方の端面11aから他方の端面11aまで、多角柱形状をなす多孔体11を中心軸に沿って貫通する孔11bが設けられている。また、多孔体11の側面11cの軸方向と直交する方向(以降、これを周方向と称する)における中央部には、軸方向に沿って切れ込み11dが設けられている。
【0024】
枠体12は、全体として円筒形の籠状の形状をなし、
図3に示す如く枠体12の周をなすように環状に延びる複数のリング部12aと、軸方向に沿って延びてリング部12a同士を接続する柱部12bとを備えて構成される。本実施例の場合、1個の枠体12に対し、リング部12aは枠体12の両端面と、軸方向における中間部とに計3個が備えられ、柱部12bは、周方向に均等に6本が配置される。そして、
図1、
図2に示す如く、リング部12aと、柱部12bとにより枠体12内に形成される円筒状の空間に、中心軸が互いに一致するよう、多孔体11が収容されるようになっている。
【0025】
多角柱状のスポンジ等である多孔体11は、例えば均一な厚みの素体を、多孔体11の平面視の形状(すなわち、本実施例に即して言えば、正六角形の中心に円を配置した形状)に配置された刃により上下に打ち抜くことで形成することができる。また、枠体12は、例えばプラスチック樹脂等を所定の型に対してインジェクション成形することにより形成することができる。ただし、多孔体11および枠体12の材質や製造方法はこれに限定されるものではなく、例えば枠体12を細長い素材を屈曲させたり、組み合わせることで形成しても良い。
【0026】
多孔体11と、枠体12の各部の寸法について詳述する。
【0027】
柱部12bの長さは、多孔体11の軸方向の寸法と同じか、それよりやや長く設定される。したがって、枠体12の端部に位置し、円筒形をなす枠体12の両端面をなすリング部12a(以下、「端部のリング部12a」と称する)は、向かい合う面同士の距離が多孔体11の軸方向の寸法と同じか、それよりやや大きくなるように配置され、
図1および
図4、
図5に示す如く、両端部のリング部12aの間に多孔体11が収まるようになっている。
【0028】
枠体12の周方向に沿って均等に配置された柱部12bは、向かい合う面同士の距離(以下、これを枠体12の柱部12bにおける内径と称する)が、六角柱をなす多孔体11の最小径(向かい合う側面11c同士の距離、すなわち端面11aにおける平行な辺同士の距離)よりもやや短く設定される。
【0029】
端部のリング部12aは、外径が多孔体11の最大径(すなわち、端面11aにおける向かい合う頂点同士の距離)と同程度か、やや小さく設定される。また、端部のリング部12aの内径は、多孔体11の最大径より短く設定される。本実施例の場合、端部のリング部12aの内径は、柱部12bにおける内径と一致している。また、端部のリング部12aの外径は、向かい合う柱部12bの径方向外側の面同士の距離(以下、これを枠体12の柱部12bにおける外径と称する)と一致している。
【0030】
枠体12のうち、軸方向中間部に位置するリング部12a(以下、「中間部のリング部12a」と称する)は、内径が多孔体11の最小径より大きく設定されており、これは、柱部12bにおける内径よりも大きい。また、外径は端部のリング部12aの外径および柱部12bにおける外径と一致している。
【0031】
各部の寸法について、具体的な数値例を提示しつつさらに説明する。
【0032】
水浄化エレメント10の最適な寸法は、製造コストと、保水力によって決定される。水浄化エレメント10は、例えば
図10に示す如き水浄化装置4に用いることができるが、こうした水浄化装置4において、水Wの浄化を担うのは水浄化エレメント10のうち多孔体11であり、枠体12は各水浄化エレメント10において多孔体11の形状を維持するための構造物である。筐体5に多数の水浄化エレメント10を収納して使用する際、柔軟な多孔体11が水浄化エレメント10同士の干渉により潰れることのないように枠体12を備えているのである。
【0033】
ここで、仮に多孔体11の形状を同じとしたまま寸法を小さくすることを考えた場合、多孔体11の質量は寸法の3乗に比例して小さくなるが、枠体12によって取り囲まれる多孔体11の表面積は、多孔体11の寸法の2乗に比例して小さくなる。また、水浄化エレメント10に必要な強度を保つためには、枠体12を構成するリング部12aや柱部12bにある程度の太さを確保しなくてはならない。したがって、水浄化エレメント10の寸法が小さいほど、水浄化エレメント10に占める枠体12の質量の割合が大きくなる。
【0034】
上述のように、多孔体11は多孔質の素材を切断することで製造され、枠体12はインジェクション成形により製造される。枠体12の製造コストは多孔体11よりも高価であるので、個々の水浄化エレメント10の寸法が大きいほど、ある容積を満たすだけの水浄化エレメント10を製造するコストは小さく済むことになる。また、水浄化エレメント10のうち、水Wの浄化を担うのは多孔体11であるので、浄化性能の点からも、水浄化エレメント10に占める多孔体11の割合はなるべく大きい方が良い。
【0035】
一方、多孔体11の保水力は、構成する素材の種類や孔径によって異なる。例えば、多孔体11として平均孔径が0.3~0.5mm程度の発泡ウレタン樹脂を用いる場合、一個の多孔体11に保持できる水は高さ50mm程度までである。それより上の高さまでは水を保持できないので、水の浄化に必要な微生物を繁殖させることができない。したがって、多孔体11の高さ方向の寸法を50mm以上としても、それより上にあたる体積は無駄になることになる。この観点から、多孔体11の寸法は、水浄化装置4(
図10参照)に設置された状態における高さ方向の寸法が50mm程度までとなるよう設定すべきである。
【0036】
水浄化エレメント10は、水浄化装置4の筐体5に対し向きや配列を揃えることなくランダムに投入されるので、多孔体11の寸法は、軸方向、径方向共に50mm以下とし、下限は30mm以上程度とする。これが、多孔体11の保水力を保ちつつ、水浄化エレメント10の製造コストを抑えるのに適した寸法である。本実施例の場合、多孔体11の軸方向の寸法を44mmとし、径方向の寸法は最大径を46mmと想定している。このとき、最小径は39.8mm程度である。
【0037】
また、多孔体11には、中心軸に沿って孔11bが設けられる。この孔11bは、多孔体11の内部への水Wや空気A(
図10参照)の流通をスムーズにするための構成である。
図10に示す水浄化装置4においては、水浄化エレメント10の多孔体11に繁殖させた好気性の微生物の働きにより水Wを浄化するが、多孔体11へ供給される水Wの酸素濃度は、水Wが多孔体11の表面から内部へ至る間に微生物によって消費され、低下していく。したがって、多孔体11においては、表面からの距離がある程度以上長くなると水Wの浄化効率が低下することになる。そこで、多孔体11の中心部に孔11bを設けることにより、孔11bから多孔体11の内部へと水Wを導くことができるようにし、多孔体11の体積を十分に活かすようにしている。
【0038】
孔11bは、径が大きすぎると多孔体11の体積を削いでしまうことになる一方、径が小さすぎればあまり水Wが流通せず、水Wを多孔体11へ浸透させる効果が十分に発揮できない。孔11bの径は、水Wが流通するのに支障のない程度に小さくすることが好ましく、具体的には最低1mm以上、且つ多孔体11の最小径に対して3分の1以下程度が好適である。本実施例の場合、例えば10mm程度を想定している。
【0039】
切れ込み11dは、後述するように多孔体11の変形と、枠体12に対する回転を抑えるための構成であるが、側面11cからの深さについては特に大きな制限はなく、切れ込み11dが深すぎるために多孔体11の構造強度が過度に低下するようなことがなければ足りる。例えば、切れ込み11dの深さは0.1mm以上15mm以下程度に設定すれば良い。
【0040】
このように決定した多孔体11の寸法に合わせ、枠体12の各部の寸法が設定される。
【0041】
端部のリング部12aの外径は、本実施例の場合、多孔体11の最大径46mmに対してやや小さく、42mmに設定している。このような設定にすると、
図2および
図4、
図6、
図7に示す如く、多孔体11の一部が端部のリング部12aから径方向外側へ部分的にはみ出し、そのはみ出し量は最大で2mm程度となる。これは、後述するように、複数の水浄化エレメント10の間で多孔体11同士の接触を小さく保つためである。端部のリング部12aの外径が多孔体11の径に対して大きいほど、水浄化装置4(
図10参照)における筐体5に多数収容された多孔体11同士の接触を小さくすることができるが、一方で、筐体5の容積の有効利用の観点、また、水浄化エレメント10において枠体12の占める割合を少なくする観点からは、リング部12aをあまり大きくすべきではない。端部のリング部12aの外径として好適な寸法は、多孔体11の最大径に対して102%以下、90%以上程度である。
【0042】
中間部のリング部12aの外径に関しても、端部のリング部12aと同様に決定される。中間部のリング部12aは、 水浄化エレメント10の軸方向中間部の強度を確保するために設けられるが、この部分においても、多孔体11同士の接触を小さく保ちつつリング部12aを大きくしすぎないよう、リング部12aの外径は多孔体11の最大径に対して102%以下、90%以上程度とすることが好ましい。本実施例の場合、中間部のリング部12aの外径は、端部のリング部12aと同じ42mmに設定している。
【0043】
端部のリング部12aの内径については、多孔体11の最大径より小さくすることで、多孔体11の枠体12からの抜けの防止を図ることができる(尚、本実施例の場合、リング部12aの外径が多孔体11の最大径より小さいので、内径は当然それよりも小さくなっている)。多孔体11の端面11aに対し、端部のリング部12aの接触面積を3%以上とすれば、十分な抜け止め効果が期待できる。一方、接触面積があまり大きいと、多孔体11を枠体12内に収納しにくくなるし、また水浄化エレメント10に対する枠体12の質量の割合も大きくなってしまうので、端面11aと端部のリング部12aとの接触面積は、端面11aの面積に対して15%程度を上限とすべきである。つまり、端部のリング部12aの内径は、多孔体11の端面11aに対し、端部のリング部12aの接触面積が3%以上15%以下程度となるよう設定するのが好適であり、最も好適には5%程度である。
【0044】
中間部のリング部12aについては、端部のリング部12aとは異なり、多孔体11の抜け止めを考慮する必要がない。むしろ、リング部12aによる多孔体11の不必要な変形を防ぐため、中間部のリング部12aの内径は多孔体11の最大径に対してある程度大きくすべきである。つまり、中間部のリング部12aについては、外径は上述の如く多孔体11のはみ出し量を考慮して決定しつつ、内径はリング部12aに必要な強度を保ち得る程度に大きくすることが好ましい。本実施例の場合、中間部のリング部12aの径方向の寸法を2mmとしている。すなわち、中間部のリング部12aの外径が42mmであるのに対し、内径は38mmである。
【0045】
柱部12bの軸方向の長さは、本実施例の場合、多孔体11が両端部のリング部12aの内側にちょうど収まるよう、多孔体11の軸方向の寸法と同じ44mmとしている。
【0046】
柱部12bは、端部および中間部のリング部12aを接続する部材であるので、各リング部12a同士を接続できる位置に設けるべきであるのは勿論であるが、後述するように、柱部12bは多孔体11の側面11cに面することで、多孔体11の回転を防ぐ役割をも有している。この観点から、柱部12bは、枠体12の柱部12bにおける内径、すなわち枠体12の周方向に配置された全体としての内径が、多孔体11の最大径よりも小さくなるように配置されるべきである。本実施例の場合は、端部および中間部のリング部12aの外径および内径が多孔体11の最大径より小さく設定されているため、これらを軸方向に接続する柱部12bにおける内径は当然、多孔体11の最大径より小さくなっている(
図2および
図6、
図7参照)。
【0047】
さらに、本実施例の場合、多孔体11の側面11cに回転止めのための構造として切れ込み11dを設けており、後述するように柱部12bの径方向内側に位置する部分(内周部12cとする)が切れ込み11dに埋没することで、多孔体11が枠体12に対して中心軸の周りを回転することを抑えるようになっている(
図5~
図7参照)。本実施例の場合、柱部12bにおける内径は端部のリング部12aの内径と同じとなっており、これは中間部のリング部12aの内径よりは小さく、柱部12bの内周部12cは、
図6に示す如く、中間部のリング部12aの内周面に対しては径方向内側に突出している。
【0048】
柱部12bにおける外径については、柱部12bに必要な強度を保つことができ、且つ枠体12の径が大きくなりすぎて筐体5(
図10参照)における収納性を妨げるようなことのない範囲で適宜設定すれば良い。本実施例の場合、柱部12bにおける外径は、各リング部12aにおける外径と同じ42mmに設定している。
【0049】
このように各部の寸法を設定された枠体12に対し、多孔体11を嵌め込むようにして、
図1、
図2および
図4~
図7に示す如き水浄化エレメント10が構成される。多孔体11は柔軟性を有する素材で構成されているので、多孔体11を圧縮しつつ軸方向に枠体12内に押し込んでから解放することで、多孔体11を枠体12内に設置することができる。この際、多角柱状をなす多孔体11と、全体として円筒形をなす枠体12の軸が互いに一致するようにし、多孔体11の両端面11aが枠体12の両端部のリング部12aの軸方向内側の面と対向するようにする。また、枠体12の各柱部12bが、多孔体11の各側面11cに対向し、且つ柱部12bが側面11cの周方向中間部に位置するようにする(
図2および
図6、
図7参照)。
【0050】
このようにすると、多孔体11の側面11c同士が接する部分である角部11eが柱部12bの間に位置し、リング部12aの外周部12dから径方向外側へはみ出す。はみ出し量は上述の如く最大2mmである。多孔体11の側面11cにおける角部11e以外の部分に関しては、両端および中間部のリング部12aの外周部12dが多孔体11より径方向外側へ張り出すことになる。
【0051】
また、両端のリング部12aの内周部12eは、多孔体11の端面11aに対して径方向内側に突出し、リング部12aの軸方向内側の面は、端面11aに対して5%程度接触する(
図2、
図4、
図5参照)。
【0052】
また、枠体12の柱部12bは、内周部12cが多孔体11の側面11cに設けた切れ込み11dに埋没する(
図5~
図7参照)。このような形で、多孔体11が枠体12内に保持される。
【0053】
水浄化エレメント10は、例えば
図10に示す水浄化装置4に用いられる。筐体5内には水平方向に沿ってメッシュ状の仕切板5aを備え、該仕切板5aの上に
図1、
図2および
図4~
図7に示す水浄化エレメント10が多数収容される。筐体5内の水浄化エレメント10に対し、上部に設けられた散水ノズル6bから水Wが散水される。散水された水Wは、水浄化エレメント10の多孔体11に浸透し、多孔体11の表面や間隙を通って下方へ移動する。その間、水Wは多孔体11に付着した微生物によって浄化される。このとき、多孔体11には中心軸に沿って孔11bが開口しているため、水Wや空気Aが六角柱の各面だけでなく孔11bの内面からも多孔体11の内部に浸透することになり、多孔体11の内部に存在する微生物に対し汚濁物質や酸素等が効率良く供給され、水Wが効率良く浄化される。
【0054】
浄化された水Wは、筐体5の仕切板5aより下部に設けられた処理水排出装置7の排水管7aから外部へ排出される。筐体5には、仕切板5aより下部に設けられた給気管8aから空気Aが供給され、水浄化エレメント10に付着した好気性の微生物の活動を促すようになっている。こうして、散水ノズル6bから筐体5に散水された水Wは、筐体5内を下方へ移動する間に水浄化エレメント10に付着した微生物の働きによって浄化され、排水管7aから排出される。
【0055】
このような水浄化装置4において、水浄化エレメント10は筐体5内に向きや配列を揃えることなくランダムに投入される。水浄化エレメント10の向きや位置によっては、水Wを吸った多孔体11の自重により、多孔体11が枠体12から軸方向へ抜け出ようとする力が働く場合がある。
【0056】
ここで、上述の如く、多孔体11の両端面11aより軸方向外側に位置する両端部のリング部12aは、少なくとも一部(本実施例の場合、全部)の内径が多孔体11の最大径より小さく設定され、内周部12eが多孔体11の端面11aの外周に対して径方向内側に位置している。このため、多孔体11と枠体12との間に係合が生じ、多孔体11が枠体12から抜け出る動きが抑え込まれる。特に、本実施例では両端のリング部12aの内周部12eが多孔体11の端面11aに対して径方向内側へ突出し、リング部12aの軸方向内側の面が端面11aに対し所定の接触面積を保つようになっているので、多孔体11の抜けをより確実に防止することができる。尚、本実施例では端部のリング部12aのうち、一部のみが多孔体11の端面11aの外周に対して径方向内側に位置しているが、寸法の設定によっては、端部のリング部12aの全体が多孔体11の端面11aの外周に対して径方向内側に位置する場合もあり得る。
【0057】
また、多孔体11には、筐体5に加わる振動等に伴い、中心軸の周りに枠体12に対して回転しようとする力が生じる場合がある。多孔体11は、上述の如く角部11eが柱部12bの間からはみ出る形で枠体12に保持されるが、多孔体11が枠体12に対して回転すれば、角部11eが柱部12bの位置に来ることで押し潰されてしまう。角部11eが潰れれば、その部分の間隙が潰れることになって微生物の付着や水W、空気A(
図10参照)の流通が阻害され、水Wの浄化効率が低下してしまうことになるほか、多孔体11が枠体12から軸方向に抜け出る可能性も高まってしまう。
【0058】
しかしながら、本実施例の水浄化エレメント10において、多孔体11が枠体12に対して回転しようとする動きは、柱部12bによって抑えられるようになっている。柱部12bにおける内径は、多孔体11の最大径、すなわち角部11eにおける径よりも小さいので、多孔体11が枠体12に対して回転しようとすれば、角部11eと柱部12bの間に抵抗が生じるからである。加えて、
図6、
図7に示す如く、柱部12bの内周部12cは多孔体11の切れ込み11dに埋没しているので、多孔体11の回転をより確実に抑え込むことができる。また、この切れ込み11dには、多孔体11の柱部12bによる変形を最小限に抑えるという作用もある。
【0059】
このように、本実施例の水浄化エレメント10においては、枠体12を円筒形に形成する一方、多孔体11を多角柱状に形成しており、その結果、多孔体11と枠体12との間で各部の径の大小関係に部位によって差が生じている。この差を利用し、多孔体11の枠体12に対する抜け止めと同時に回転止めをも図り、さらに、多孔体11の圧縮や変形を最小限にしているのである。
【0060】
一方、多孔体11が多角柱状であるデメリットとして、枠体12に対する保持の状態によっては一部が枠体12の外側へはみ出てしまうことが挙げられ、本実施例の場合は角部11eが枠体12から径方向外側へはみ出るようになっている。多孔体11のはみ出しは、上述の如く水浄化エレメント10間における多孔体11同士の接触を招く。多孔体11同士が接触すれば、多孔体11が圧縮され、あるいは変形することで間隙が閉塞してしまうほか、多孔体11における保水性が損なわれてしまうという問題が生じる。すなわち、上述の如く、多孔体11において水W(
図10参照)を保持できる高さは、多孔体11として用いられる素材の種類に応じて決まり、例えば50mm程度である。本実施例において、多孔体11の寸法はこの保水可能な高さを考慮して決められているが、多孔体11同士が接触した結果、互いに接触した多孔体11全体としての高さが保水可能な高さを超えてしまった場合、上部に位置する多孔体11からは保持されるべき水Wが下方へ流れてしまい、保水体積が減少してしまう。よって、筐体5(
図10参照)内における多孔体11同士の接触は最低限に保つべきである。そこで、本実施例においては、枠体12を構成する両端部および中間部のリング部12aの外周部12dを多孔体11の径に対して適当な範囲に設定し、外周部12dの一部が多孔体11の外周に対して径方向外側へ突出するようにして、多孔体11同士の接触を少なくしているのである(尚、本実施例では、リング部12aの外周部12dが多孔体11のうち外周の一部(角部11e以外の部分の側面11c)に対して突出するようにしているが、リング部12aの径の設定によっては、外周部12dの全部が多孔体11の外周に対して径方向外側へ突出することもあり得る)。
【0061】
無論、多孔体11を多角柱状とすることには、製造のコストを低減できるという効果もある。柱状のスポンジ等である多孔体11は、上述の如くスポンジ等の素体を上下に打ち抜くことで簡便に形成できるが、この際、多孔体11の断面形状が三角形、四角形、六角形のいずれかで適当な形状であれば、一個の素体から複数の多孔体11を隙間なく切り出すことができるので歩留まりが良く、低コストにて多孔体11を製造することができる。ただし、多孔体11の断面積に対し、多孔体11の最大径がなるべく短い方が多孔体11同士の接触を小さく保つうえで有利であるので、多孔体11の断面形状は、正六角形とすることが最も好適である。
【0062】
尚、中間部のリング部12aにあたる部分では、
図4、
図6に示す如く、多孔体11が圧縮されて変形する。ここにおける変形を軽減するために、例えば
図8に別の実施例として示す如く、多孔体11の周方向にわたり、側面11cに軸方向に直交する向きの切れ込み11fを入れても良い。ただし、このような向きの切れ込み11fは、上述の如く多孔体11の素体を上下に打ち抜く方法で同時に形成することができず、製造にかかるコストは多少上がってしまう。
【0063】
あるいは、
図9にさらに別の実施例として示す如く、中間部のリング部12aの位置で多孔体11を分割しても良い。ただし、この場合は、各枠体12に多孔体11を収納する作業がやや複雑となるため、やはり製造コストが上がってしまう懸念はある。
【0064】
以上のように、上記本実施例の水浄化エレメント10においては、柔軟性を有する多孔質の素材により形成された多角柱状の多孔体11と、複数のリング部12aを軸方向に沿って延びる柱部12bによって接続され、全体として円筒形をなす枠体12とを備え、多孔体11の側面11cに柱部12bが対向するよう、多孔体11が枠体12に収容されている。このようにすれば、枠体12による多孔体11の圧縮や変形を極力防止しながら、多孔体11の枠体12からの抜けを抑えることができる。
【0065】
本実施例の水浄化エレメント10においては、枠体12の端部に位置するリング部12aの少なくとも一部が、多孔体11の端面11aの外周に対して径方向内側に位置しており、このようにすれば、多孔体11の枠体12からの抜けをいっそう確実に抑えることができる。
【0066】
本実施例の水浄化エレメント10においては、リング部12aの外周部の少なくとも一部が、多孔体11の外周に対して径方向外側へ突出しており、このようにすれば、複数の水浄化エレメント10間における多孔体11同士の接触を抑え、多孔体11の圧縮や変形、保水力の低下を抑えることができる。
【0067】
本実施例の水浄化エレメント10においては、多孔体11の側面11cに、軸方向に沿って切れ込み11dを備えており、このようにすれば、多孔体11の柱部12bによる変形を抑えると共に、多孔体11の枠体12に対する回転を抑えることができる。
【0068】
本実施例の水浄化エレメント10においては、多孔体11を貫通する孔11bを設けており、このようにすれば、水Wや空気Aを孔11bから多孔体11の内部に浸透させ、多孔体11の内部に存在する微生物に対し汚濁物質や酸素等を効率良く供給することができる。
【0069】
本実施例の水浄化エレメント10においては、多孔体11は正六角柱をなしており、このようにすれば、多孔体11同士の接触を極力小さく保ちつつ、低コストにて多孔体11を製造することができる。
【0070】
また、本実施例においては、上述の水浄化エレメント10を水浄化装置4に備えており、このようにすれば、上述の水浄化エレメント10により水Wを効率良く浄化することができる。
【0071】
したがって、上記本実施例によれば、簡単な構成で水浄化エレメントにおける多孔体の抜けを防止しつつ、多孔体の圧縮を極力軽減して水の浄化効率を保ち得る。
【0072】
尚、本発明の水浄化エレメントおよび水浄化装置は、上述の実施例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0073】
4 水浄化装置
10 水浄化エレメント
11 多孔体
11a 端面
11b 孔
11c 側面
11d 切れ込み
12 枠体
12a リング部
12b 柱部