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特許7177465評価装置、制御装置、動揺病の低減システム、評価方法、及びコンピュータプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-15
(45)【発行日】2022-11-24
(54)【発明の名称】評価装置、制御装置、動揺病の低減システム、評価方法、及びコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 10/00 20060101AFI20221116BHJP
   A61B 5/18 20060101ALI20221116BHJP
   A61B 5/11 20060101ALI20221116BHJP
【FI】
A61B10/00 W
A61B5/18
A61B5/11 200
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2018146767
(22)【出願日】2018-08-03
(65)【公開番号】P2020018770
(43)【公開日】2020-02-06
【審査請求日】2021-07-29
(73)【特許権者】
【識別番号】504143441
【氏名又は名称】国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学
(74)【代理人】
【識別番号】100111567
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 寛
(72)【発明者】
【氏名】和田 隆広
【審査官】高松 大
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第08708884(US,B1)
【文献】特開2018-126185(JP,A)
【文献】特開2012-131269(JP,A)
【文献】国際公開第2018/070330(WO,A1)
【文献】特開2007-236644(JP,A)
【文献】特開2006-034576(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第03167927(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 10/00
A61B 5/18
A61B 5/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに異なる複数の感覚器それぞれでの運動感覚量に対応した値に基づいて動揺病の程度を算出する演算部を備え
前記演算部は、感覚器での運動感覚量に対応した値と、中枢神経系に構築されている前記感覚器の内部モデルで推定された運動感覚量である運動推定量に対応した値と、の誤差に基づいて、動揺病の程度を算出す
評価装置。
【請求項2】
前記演算部は、第1の感覚器での運動感覚量に対応した値と、前記第1の感覚器の他の少なくとも1つの感覚器での運動感覚量に対応した値と、の差に基づいて動揺病の程度を算出する
請求項1に記載の評価装置。
【請求項3】
前記第1の感覚器での運動感覚量に対応した値は、前庭感覚器での運動感覚量に対応した値である
請求項2に記載の評価装置。
【請求項4】
前記感覚器での運動感覚量に対応した値は、前庭感覚器での第1の運動感覚量に対応した値と、他の少なくとも1つの感覚器での第2の運動感覚量に対応した値と、を含み、
前記運動推定量に対応した値は、前庭感覚器の内部モデルで推定された第1の運動推定量に対応した値と、前記他の少なくとも1つの感覚器の内部モデルで推定された第2の運動推定量に対応した値と、を含む
請求項1~3のいずれか1項に記載の評価装置。
【請求項5】
前記演算部は、
前庭感覚器に対する刺激に対応する第1の運動情報、及び、前記他の少なくとも1つの感覚器に対する刺激に対応する第2の運動情報に基づいて、前庭感覚器での知覚の処理に対応した処理、及び、前記他の少なくとも1つの感覚器の知覚の処理に対応した処理を行い、前記第1の運動感覚量に対応した値、及び、前記第2の運動感覚量に対応した値を出力する感覚器処理と、
前記第1の運動情報、及び、前記第2の運動情報の少なくとも一方に基づいて、前記前庭感覚器の内部モデルでの運動推定の処理に対応した処理、及び、前記他の少なくとも1つの感覚器の内部モデルでの運動推定の処理に対応した処理を行い、前記第1の運動推定量に対応した値、及び、前記第2の運動推定量に対応した値を出力する内部モデル処理と、
前記運動感覚量に対応した値と前記運動推定量に対応した値との差を算出する処理と、
前記差から前記動揺病の程度を算出する処理と、を実行する
請求項に記載の評価装置。
【請求項6】
前記演算部は、前記第1の運動感覚量に対応した値と前記第1の運動推定量に対応した値との第1の差と、前記第2の運動感覚量に対応した値と前記第2の運動推定量に対応した値との第2の差と、を算出し、
前記動揺病の程度を算出する前記処理に用いられる前記差は、前記第1の差と前記第2の差とを含む
請求項に記載の評価装置。
【請求項7】
前記演算部は、前記第1の運動感覚量に対応した値と前記第2の運動感覚量に対応した値とを組み合わせる処理を実行することによって得られる第1の情報と、前記運動推定量に対応した値と、の差を算出する
請求項に記載の評価装置。
【請求項8】
前記演算部は、前記第1の情報と、前記第1の運動推定量に対応した値と前記第2の運動推定量に対応した値とを組み合わせる処理を実行することによって得られる第2の情報と、の差を算出する
請求項に記載の評価装置。
【請求項9】
前記他の少なくとも1つの感覚器は視覚器である
請求項2~8のいずれか1項に記載の評価装置。
【請求項10】
前記演算部は、前記視覚器に対する刺激である視覚刺激に対応する情報を運動情報に変換する処理をさらに実行する
請求項に記載の評価装置。
【請求項11】
前記視覚器に対する刺激である視覚刺激に対応する情報は画像情報を含む
請求項又は10に記載の評価装置。
【請求項12】
前記差は、前記運動感覚量及び前記運動推定量の鉛直方向の成分に対応した値についての差である
請求項2~請求項11のいずれか1項に記載の評価装置。
【請求項13】
動揺病の低減装置を制御する制御装置であって、
互いに異なる複数の感覚器それぞれでの運動感覚量に対応した値に基づいて動揺病の程度を算出する評価装置から取得した評価結果に基づいて前記低減装置を制御し、
前記評価装置は、感覚器での運動感覚量に対応した値と、中枢神経系に構築されている前記感覚器の内部モデルで推定された運動感覚量である運動推定量に対応した値と、の誤差に基づいて、動揺病の程度を算出する
制御装置。
【請求項14】
動揺病の程度を算出する評価装置と、
動揺病の低減装置と、
前記評価装置から取得した評価結果に基づいて前記低減装置を制御する制御装置と、を備え、
前記評価装置は、互いに異なる複数の感覚器それぞれでの運動感覚量に対応した値に基づいて動揺病の程度を算出し、
前記動揺病の程度を算出することは、感覚器での運動感覚量に対応した値と、中枢神経系に構築されている前記感覚器の内部モデルで推定された運動感覚量である運動推定量に対応した値と、の差に基づいて、動揺病の程度を算出することを含む
動揺病の低減システム。
【請求項15】
評価装置において動揺病の程度を評価する方法であって、
互いに異なる複数の感覚器それぞれでの運動感覚量に対応した値に基づいて動揺病の程度を算出する、ことを含み、
前記動揺病の程度を算出することは、感覚器での運動感覚量に対応した値と、中枢神経系に構築されている前記感覚器の内部モデルで推定された運動感覚量である運動推定量に対応した値と、の差に基づいて、動揺病の程度を算出することを含む
評価方法。
【請求項16】
動揺病の程度を評価する評価装置としてコンピュータを機能させるためのコンピュータプログラムであって、
前記コンピュータを、
互いに異なる複数の感覚器それぞれでの運動感覚量に対応した値に基づいて動揺病の程度を算出する演算部として機能させ
前記演算部は、感覚器での運動感覚量に対応した値と、中枢神経系に構築されている前記感覚器の内部モデルで推定された運動感覚量である運動推定量に対応した値と、の誤差に基づいて、動揺病の程度を算出す
コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、評価装置、制御装置、動揺病の低減システム、評価方法、及びコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
動揺病は平衡失調に起因する疾病であり、車酔い、船酔いなどが含まれる。そのため、車両や船舶などの乗り物の快適性(乗り心地)を向上させるために、動揺病の発生や程度を抑えることは効果的である。
【0003】
動揺病の原因は感覚矛盾であるとする説がある(感覚矛盾説)。感覚矛盾は、例えば、感覚器で得られた情報と内部モデルで得られた情報との差である。内部モデルは、中枢神経系に構築されていると言われている、運動指令から運動結果(身体運動)までを記述する神経機構である。
【0004】
また、感覚矛盾説に関連して、動揺病の原因は主観的重力方向誤差であるとする説もある(主観的重力方向誤差説)。主観的重力方向誤差は、各種感覚情報を統合して得た重力方向の感覚と、内部モデルで得られた重力方向との差である。
【0005】
発明者は、発明者らによる論文「乗員の動揺知覚特性に基づく車酔いのモデル化に関する研究」(非特許文献1)において主観的重力方向誤差説を数理モデルとして表現し、実験によってこの数理モデルの有効性を検証している。このような数理モデルを用いて、動揺病の程度の推定や、定量化が試みられている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】上地,丸尾,和田,土居、「乗員の動揺知覚特性に基づく車酔いのモデル化に関する研究」、自動車技術会論文集、公益社団法人自動車技術会、2008年、第39巻第2号、pp.381-386
【発明の概要】
【0007】
乗り物の快適性(乗り心地)を向上させるためには、より高精度に動揺病の程度を推定することが求められる。この点、非特許文献1に示された手法では1つの感覚器しか考慮していない。そのため、動揺病の程度の推定に改善の余地があると考えられる。これに対して、ある実施の形態に従うと、評価装置は、互いに異なる複数の感覚器それぞれでの運動感覚量に対応した値に基づいて動揺病の程度を算出する演算部を備える。
【0008】
他の実施の形態に従うと、制御装置は動揺病の低減装置を制御する制御装置であって、互いに異なる複数の感覚器それぞれでの運動感覚量に対応した値に基づいて動揺病の程度を算出する評価装置から取得した評価結果に基づいて低減装置を制御する。
【0009】
他の実施の形態に従うと、動揺病の低減システムは、動揺病の程度を算出する評価装置と、動揺病の低減装置と、評価装置から取得した評価結果に基づいて低減装置を制御する制御装置と、を備え、評価装置は、互いに異なる複数の感覚器それぞれでの運動感覚量に対応した値に基づいて動揺病の程度を算出する。
【0010】
他の実施の形態に従うと、評価方法は評価装置において動揺病の程度を評価する方法であって、互いに異なる複数の感覚器それぞれでの運動感覚量に対応した値に基づいて動揺病の程度を算出する。
【0011】
他の実施の形態に従うと、コンピュータプログラムは動揺病の程度を評価する評価装置としてコンピュータを機能させるためのコンピュータプログラムであって、コンピュータを、互いに異なる複数の感覚器それぞれでの運動感覚量に対応した値に基づいて動揺病の程度を算出する演算部として機能させる。
【0012】
この算出方法は、例えば、複数の感覚器それぞれについて運動感覚量と中枢神経系に構築されているその感覚器の内部モデルで推定された運動感覚量である運動推定量との差に基づく算出、複数の感覚器の運動感覚量から得られる値とそれらの内部モデルによる運動推定量から得られる値との差に基づく算出、及び、複数の感覚器それぞれについての運動感覚量の差に基づく算出、である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、実施の形態にかかる、動揺病の程度を低減させるためのシステムの構成の概略を示す図である。
図2図2は、システムに含まれる評価装置の装置構成の概略を示したブロック図である。
図3図3は、評価装置での演算処理の概要を表した図である。
図4図4は、第1の実施の形態にかかる評価装置の演算部の機能構成の一例を表したブロック図である。
図5図5は、図4の各機能の詳細な処理の一例を表したブロック図である。
図6図6は、第2の実施の形態にかかる評価装置の演算部の機能構成の一例を表したブロック図である。
図7図7は、第3の実施の形態にかかる評価装置の演算部の機能構成の一例を表したブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[1.評価装置、制御装置、動揺病の低減システム、評価方法、及びコンピュータプログラムの概要]
(1)本実施の形態に含まれる評価装置は、互いに異なる複数の感覚器それぞれでの運動感覚量に対応した値に基づいて、動揺病の程度を算出する演算部を備える。
【0015】
動揺病の程度は、例えば、動揺病発症率(MSI:Motion Sickness Incidence)である。MSIは、物理刺激に対して嘔吐に至る被験者数の割合である。
【0016】
人が実際に運動を知覚する感覚器は複数存在するため、互いに異なる複数の感覚器それぞれでの運動感覚量に対応した値に基づいて動揺病の程度が算出されることで、より実際の感覚に近く動揺病が評価される。つまり、高精度で動揺病の程度が推定される。
【0017】
評価装置において動揺病の程度が算出されることによって、この評価結果を用いて動揺病の程度を抑える様々な制御が可能になる。その結果、車両などの乗り心地を向上させることができる。
【0018】
(2)好ましくは、演算部は、第1の感覚器での運動感覚量に対応した値と、第1の感覚器の他の少なくとも1つの感覚器での運動感覚量に対応した値と、の差に基づいて動揺病の程度を算出する。これにより、動揺病の程度の算出に複数の感覚器それぞれでの運動感覚量に対応した値の差が用いられる。その結果、より実際の感覚に近く動揺病が評価されると考えられる。
【0019】
(3)好ましくは、第1の感覚器での運動感覚量に対応した値は前庭感覚器での運動感覚量に対応した値である。これにより、動揺病の程度の算出に前庭感覚器と他の感覚器それぞれでの運動感覚量に対応した値の差が用いられる。その結果、より実際の感覚に近く動揺病が評価されると考えられる。
【0020】
(4)好ましくは、演算部は、感覚器での運動感覚量に対応した値と、中枢神経系に構築されている感覚器の内部モデルで推定とされた運動感覚量である運動推定量に対応した値、の差に基づいて、動揺病の程度を算出する。これにより、動揺病の程度の算出に、複数の感覚器それぞれでの運動感覚量に対応した値と、当該感覚器の内部モデルでの運動推定量に対応した値との差が用いられる。その結果、より実際の感覚に近く動揺病が評価されると考えられる。
【0021】
(5)好ましくは、感覚器での運動感覚量に対応した値は、前庭感覚器での第1の運動感覚量に対応した値と、他の少なくとも1つの感覚器での第2の運動感覚量に対応した値と、を含み、運動推定量に対応した値は、前庭感覚器の内部モデルで推定された運動推定量に対応した値と、他の少なくとも1つの感覚器の内部モデルで推定された運動推定量に対応した値と、を含む。これにより、動揺病の程度の算出に、感覚器での動感覚量に対応した値及び他の感覚器での運動感覚量に対応した値と、当該感覚器の内部モデルでの運動推定量に対応した値との差が用いられる。その結果、より実際の感覚に近く動揺病が評価されると考えられる。
【0022】
(6)好ましくは、演算部は、前庭感覚器に対する刺激に対応する第1の運動情報、及び、他の少なくとも1つの感覚器に対する刺激に対応する第2の運動情報に基づいて、前庭感覚器での知覚の処理に対応した処理、及び、他の少なくとも1つの感覚器の知覚の処理に対応した処理を行い、第1の運動感覚量に対応した値、及び、第2の運動感覚量に対応した値を出力する感覚器処理と、第1の運動情報、及び、第2の運動情報の少なくとも一方に基づいて、前庭感覚器の内部モデルでの運動推定の処理に対応した処理、及び、他の少なくとも1つの感覚器の内部モデルでの運動推定の処理に対応した処理を行い、第1の運動推定量に対応した値、及び、第2の運動推定量に対応した値を出力する内部モデル処理と、運動感覚量に対応した値と運動推定量に対応した値との差を算出する処理と、算出された差から動揺病の程度を算出する処理と、を実行する。
【0023】
演算部が、前庭感覚器及び他の感覚器それぞれで運動情報を知覚する処理に対応した処理によって得られた第1の運動情報及び第2の運動情報に基づいて動揺病の程度を算出することで、複数種類の感覚器を考慮して動揺病の程度が算出される。人が実際に運動を知覚する感覚器は複数存在するため、複数種類の感覚器を考慮することでより実際の感覚に近く動揺病が評価されると考えられる。つまり、評価装置では、高精度で動揺病の程度が推定されると考えられる。
【0024】
(7)好ましくは、演算部は、第1の運動感覚量に対応した値と第1の運動推定量に対応した値との第1の差と、第2の運動感覚量に対応した値と第2の運動推定量に対応した値と、の第2の差を算出し、前記動揺病の程度を算出する前記処理に用いられる上記差は、第1の差と第2の差とを含む。これにより、前庭感覚器及び視覚器それぞれについて、感覚矛盾と呼ばれる、感覚器と内部モデルとの運動量の誤差に相当する差が得られる。そして、これら差を用いて動揺病の程度を算出することができる。
【0025】
(8)好ましくは、演算部は、第1の運動感覚量に対応した値と第2の運動感覚量に対応した値とを組み合わせる処理を実行することによって得られる第1の情報と、運動推定量に対応した値と、の差とを算出する。これにより、前庭感覚器と視覚器とからなる感覚器と、感覚器の内部モデルとの運動量の誤差に相当する差が得られる。そして、これら差を用いて動揺病の程度を算出することができる。
【0026】
(9)好ましくは、演算部は、第1の情報と、第1の運動推定量に対応した値と第2の運動推定量に対応した値とを組み合わせる処理を実行することによって得られる第2の情報と、の差を算出する。これにより、前庭感覚器と視覚器とからなる感覚器と、前庭感覚器の内部モデルと視覚器の内部モデルからなる内部モデルとの運動量の誤差に相当する差が得られる。そして、これら差を用いて動揺病の程度を算出することができる。
【0027】
(10)好ましくは、他の少なくとも1つの感覚器は視覚器である。これにより、前庭感覚器と視覚器との複数種類の感覚器を考慮してより実際の感覚に近く動揺病が評価される。つまり、本実施の形態にかかる評価装置では、前庭感覚器と視覚器とのそれぞれについて運動感覚量と各内部モデルで推定された運動推定量との差に基づいた評価、前庭感覚器の運動感覚量と視覚器の運動感覚量とから得られる値と各内部モデルによる運動推定量から得られる値との差に基づいた評価、及び、前庭感覚器の運動感覚量と視覚器複数の運動感覚量との差に基づいた評価、などが行われる。これにより、本実施の形態にかかる評価装置では、高精度で動揺病の程度が推定される。
【0028】
(11)好ましくは、演算部は、視覚器に対する刺激である視覚刺激に対応する情報を運動情報に変換する処理をさらに実行する。これにより、視覚刺激に対応した情報が運動情報とは異なる情報であっても、動揺病の程度の算出に用いることができる。
【0029】
(12)好ましくは、視覚器に対する刺激である視覚刺激に対応する情報は画像情報を含む。画像情報は、例えば、乗員の網膜に入る画像そのものである。又は、画像情報は、車両等の乗り物の特定の方向の車窓からの撮影画像であってもよい。このような画像情報は、乗員の頭部に設置されたカメラや車載のカメラなどのセンサによって得ることができる。
【0030】
(13)好ましくは、差は、運動感覚量及び運動推定量の鉛直方向の成分についての差である。運動量の推定量のうちの鉛直方向の成分についての差は、主観的重力方向誤差(Subjective Vertical Conflict)と呼ばれ、動揺病の要因と言われている(例えば、Bles W,Bos JE,de Graaf B,Groen E,Wertheim AH、“Motion sickness: only one provocative conflict?”、Brain Research Bulletin,1998 Nov等)。運動量の推定量のうちの鉛直方向の成分についての差に基づいて動揺病の程度を推定することで、この説に基づいて動揺病の程度を高精度で推定することができる。
【0031】
(14)本実施の形態に含まれる制御装置は動揺病の低減装置を制御する制御装置であって、互いに異なる複数の感覚器それぞれでの運動感覚量に対応した値に基づいて動揺病の程度を算出する。この制御装置は、(1)~(13)に記載の評価装置から取得した評価結果に基づいて低減装置を制御するものであるため、これら評価装置と同様の効果を奏する。これにより、効果的に動揺病の程度を低減させることができる。その結果、車両等の乗り物の乗り心地を向上させることができる。
【0032】
(15)本実施の形態に含まれる動揺病の低減システムは、動揺病の程度を算出する評価装置と、動揺病の低減装置と、評価装置から取得した評価結果に基づいて低減装置を制御する制御装置と、を備え、評価装置は、互いに異なる複数の感覚器それぞれでの運動感覚量に対応した値に基づいて動揺病の程度を算出する。
【0033】
動揺病の低減装置は、例えば、車両の少なくとも一部を動作させるモーション装置である。モーション装置としての低減装置は、例えば、車両の座席に設けられ、その座席に着席した乗員の体勢を所定の方向に傾ける機構を含む装置である。又は、低減装置は、他の例として、乗員に視覚情報を与える表示装置である。表示装置としての低減装置は、例えば、車窓位置に配置された図示しないモニタに画像を表示するプロジェクタである。
【0034】
この動揺病の低減システムは、(1)~(13)に記載の評価装置を含むものであるため、これら評価装置と同様の効果を奏する。
【0035】
(16)本実施の形態に含まれる評価方法は評価装置において動揺病の程度を評価する方法であって、互いに異なる複数の感覚器それぞれでの運動感覚量に対応した値に基づいて動揺病の程度を算出する。この評価方法は、(1)~(13)に記載の評価装置における動揺病の程度の評価方法であるため、これら評価装置と同様の効果を奏する。
【0036】
(17)本実施の形態に含まれるコンピュータプログラムは動揺病の程度を評価する評価装置としてコンピュータを機能させるためのコンピュータプログラムであって、コンピュータを、互いに異なる複数の感覚器それぞれでの運動感覚量に対応した値に基づいて動揺病の程度を算出する演算部として機能させる。このコンピュータプログラムは、コンピュータを(1)~(13)に記載の評価装置として機能させるコンピュータプログラムであるため、これら評価装置と同様の効果を奏する。
【0037】
[2.評価装置、制御装置、動揺病の低減システム、評価方法、及びコンピュータプログラムの例]
[第1の実施の形態]
<システムの構成>
図1は、本実施の形態にかかるシステム100の構成の概略を示す図である。本システム100は、乗り物の一例としての車両Vの乗員の動揺病(乗り物酔い)を防止、又は、程度を低減するシステムである。乗り物は、他の例として、船舶、電車、航空機、などであってもよい。
【0038】
図を参照して、システム100は、評価装置1を含む。評価装置1は、人の複数種類の感覚器それぞれにおいて運動感覚を得る工程に対応した演算を行って、その人の動揺病の程度を算出する。そのため、評価装置1は、上記複数種類の感覚器に対応した複数種類のセンサとして、車両V内に設置された第1のセンサSE1及び第2のセンサSE2を用いる。評価装置1は、センサSE1,SE2それぞれからのセンサ信号を入力として演算を行い、その結果を出力する。
【0039】
第1のセンサSE1は、第1の感覚器として前庭感覚器に対応したセンサである。第1のセンサSE1は、乗員の頭部に与えられる運動刺激を検出し、運動刺激に対応した運動情報(以下、第1の運動情報)を出力する。第1のセンサSE1の出力信号I1は、第1の運動情報を表す。以下、第1のセンサSE1からの出力を第1の運動情報I1ともいう。第1の運動情報I1は、頭部加速度及び頭部角度である。その他、頭部速度、又は、これらのうちの2以上の組み合わせ、などであってもよい。第1のセンサSE1は、例えば、乗員の頭部(例えば帽子)に取り付けられ、頭部加速度を計測する加速度センサ、及び、頭部角度を計測するジャイロセンサである。
【0040】
なお、第1の運動情報I1は、乗員の頭部に与えられる運動刺激とみなされる運動に関する情報であってもよく、例えば、車両V自体の加速度及び角度であってもよい。車両Vの加速度及び角度が車両Vの乗員のそれと同じであると推定されるためである。この場合、第1のセンサSE1は車載の加速度センサ及びジャイロセンサである。
【0041】
第2のセンサSE2は、第1の感覚器の他の少なくとも1つの感覚器(第2の感覚器)として視覚器に対応したセンサである。第2のセンサSE2は、乗員の視覚刺激を検出し、視覚刺激に対応した運動情報(以下、第2の運動情報)を出力する。第2の運動情報は、視覚が受けた刺激に影響を与えるパラメータであって、例えば、乗員の網膜に入る画像情報から得られる運動情報である。
【0042】
第2のセンサSE2の出力信号I2は、視覚情報を表す。以下、第2のセンサSE2からの出力を第2の運動情報I2ともいう。第2のセンサSE2は、例えば、乗員の頭部(例えば帽子)に取り付けられ、乗員の顔の向く方向を撮影するカメラである。カメラで撮影される画像が乗員の網膜に入る画像と同じと想定しているためである。
【0043】
なお、第2の運動情報I2は、乗員の網膜に入る画像に対応した運動情報の他、車両Vの特定の方向(例えば前方)の画像に対応した運動情報であってもよい。この場合、第2のセンサSE2は車載のカメラである。車載のカメラは、例えば、乗員の顔の向く方向の車外の風景を撮影する。乗員は車両Vと挙動が同じと想定し、車両Vに固定されたカメラで撮影される画像は乗員の網膜に入る画像と同じと想定しているためである。
【0044】
第1のセンサSE1及び第2のセンサSE2は、それぞれ、予め規定された間隔(例えば10msec間隔)でセンシングを実行し、第1の運動情報I1及び第2の運動情報I2を評価装置1に対して出力する。
【0045】
以降の説明では、第1のセンサSE1及び第2のセンサSE2はそれぞれ独立したセンサであって、それぞれ、第1の運動情報I1及び第2の運動情報I2を評価装置1に対して出力するものとする。
【0046】
システム100は、車両Vに搭載された、車両Vの乗員の動揺病を低減する低減装置5を含む。低減装置5については後述する。
【0047】
システム100は、低減装置5を制御する制御装置3を有する。制御装置3は、例えば、車両Vに搭載されている。制御装置3は、車両Vに含まれる車両制御装置(ECU:Electronic Control Unit)や、1つ又は複数のECUを制御するゲートウェイ、などであってもよい。制御装置3は、評価装置1から演算結果の入力を受け付けて、演算結果に基づいて低減装置5を制御する。
【0048】
<評価装置の装置構成>
図2は、評価装置1の装置構成の概略を示したブロック図である。評価装置1は、プロセッサ11と、記憶部12と、を有する一般的なコンピュータなどで構成される。プロセッサ11は、例えば、CPU(Central Processing Unit)である。
【0049】
評価装置1は、センサインタフェース(I/F)14を備える。センサI/F14は、第1のセンサSE1及び第2のセンサSE2それぞれと有線、又は、無線で接続されて、センサ信号の入力を受け付ける。センサI/F14は、入力されたセンサ信号をプロセッサ11に入力する。
【0050】
記憶部12は、フラッシュメモリ、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)、ROM、RAM(Random Access Memory)などを含む。記憶部12は、1又は複数のプログラムからなる演算プログラム121を記憶する。プロセッサ11は、センサ信号に応じて記憶部12に記憶された演算プログラム121を読み出し、演算処理111を実行する演算部110として機能する。演算プログラム121は、CD-ROMや(Compact Disc Read only memory)やDVD-ROM(Digital Versatile Disk ROM)などの記録媒体に記録した状態で譲渡することもできるし、サーバコンピュータなどのコンピュータ装置からのダウンロードによって譲渡することもできる。演算プログラム121は、ウェブブラウザ上で動作するいわゆるウェブアプリケーションであってもよいし、プロセッサ11でのみ動作するいわゆる専用アプリケーションであってもよい。
【0051】
評価装置1は、制御装置インタフェース(I/F)13を備える。制御装置I/F13は、制御装置3と有線、又は、無線で接続されている。制御装置I/F13は、演算プログラム121を実行することによる演算部110での演算処理111の演算結果を、制御装置3に入力する。
【0052】
<演算処理の概要>
演算処理111は、互いに異なる複数の感覚器それぞれでの運動感覚量に対応した値に基づいて、動揺病の程度を算出する処理である。互いに異なる複数の感覚器それぞれでの運動感覚量に対応した値に基づくことの第1の例は、複数の感覚器それぞれについて、感覚器での運動感覚量に対応した値と、中枢神経系に構築されている感覚器の内部モデルでの運動感覚量の推定(運動推定)に対応した値と、を用いることである。本実施の形態にかかる評価装置1では、上記感覚器は、前庭感覚と他の少なくとも1つの感覚とを知覚する。本例では、他の少なくとも1つの感覚は視覚であるものとする。
【0053】
図3は、評価装置1での演算処理111の概要を表した図である。図を参照して、演算処理111を実行する演算部110には、運動刺激に対応する運動情報(第1の運動情報)I1、及び、視覚刺激に対応する運動情報(第2の運動情報)I2が入力される。
【0054】
演算処理111は感覚器処理(ステップS1)を含む。感覚器処理は、第1の運動情報I1、及び、第2の運動情報I2に基づいて、前庭感覚器及び他の感覚器としての視覚器を含む感覚器での運動知覚の処理に対応した処理を行い、運動感覚量を示す運動感覚情報I3を出力する処理である。
【0055】
演算処理111は内部モデル処理(ステップS2)を含む。内部モデル処理は、第1の運動情報I1、及び、第2の運動情報I2の少なくとも一方に基づいて、前庭感覚器及び他の感覚器としての視覚器の内部モデルでの運動推定の処理に対応した処理を行い、推定された運動感覚量である運動推定量を示す運動推定情報I4を出力する処理である。
【0056】
演算処理111は誤差算出処理(ステップS3)を含む。誤差算出処理は、運動感覚情報I3として出力された運動感覚量と、運動推定情報I4として出力された運動推定量との誤差を算出する処理である。
【0057】
演算処理111は動揺病程度算出処理(ステップS4)を含む。動揺病程度算出処理は、誤差算出処理で算出された誤差から動揺病の程度を算出する処理である。動揺病の程度は、一例として指標値で表される。動揺病の程度を示す指標は、例えば、動揺病発症率(MSI:Motion Sickness Incidence)である。MSIは、物理刺激に対して嘔吐に至る被験者数の割合である。
【0058】
演算部110は、動揺病程度算出処理で得られた演算結果を、制御装置3に対して出力する。これにより、制御装置3は、演算結果に基づいて低減装置5を制御できる。
【0059】
<動揺病の程度の推定原理>
本実施の形態にかかる演算処理111は、動揺病が次のメカニズムで発症するという考え方に立って動揺病の程度を算出する処理である。すなわち、感覚器の1つである前庭器において頭部運動が検知され、頭部運動に対応する信号(運動感覚信号)が生じる。また、中枢神経系に同様の過程を模擬した内部モデルが構築されていると考えられており、内部モデルでは、頭部運動の運動感覚量(第1の運動感覚量)を示す信号(運動推定信号)が生成される。運動感覚信号と運動推定信号との間に誤差がある場合、つまり、感覚器で得られた運動感覚量と内部モデルで推定された運動感覚量との間に誤差がある場合、その誤差は感覚矛盾となる。感覚矛盾が動揺病を引き起こすとされている。
【0060】
一方、人には前庭感覚器のみならず複数種類の感覚器が存在する。そして、人は、神経系において様々な感覚情報を統合して自身の身体運動を把握していると考えられる。例えば、感覚器の1つである視覚器では、視覚刺激に対する視覚器での運動感覚量(第2の運動感覚量)に対応する信号(視覚感覚信号)が生じる。また、内部モデルには視覚器に対応した内部モデルも含まれると考えられる。
【0061】
そこで、本実施の形態にかかる評価装置1の演算部110での演算に用いられる数理モデルMは、演算部110に、互いに異なる複数の感覚器それぞれでの運動感覚量を算出させ、その誤差に対応した値に基づいて動揺病の程度を推定させる。互いに異なる複数の感覚器は、前庭感覚器に加えて他の少なくとも1つの感覚器である複数種類の感覚器(例えば、前庭感覚器と視覚器)である。なお、以降の説明では、複数種類の感覚器が前庭感覚器及び視覚器であるものとし、その場合について具体例を挙げている。しかしながら、人には前庭感覚器の他の感覚器は視覚器に限定されず、その他の感覚器であってもよい。又は、2つの感覚器に限定されず、3つ以上の感覚器を考慮してもよい。
【0062】
<評価装置の機能構成>
図4は、数理モデルMに従って演算処理111を実行する評価装置1の演算部110の機能構成の一例を表したブロック図である。図に示された各部は、プロセッサ11によって実現される。
【0063】
図を参照して、演算部110は、第1の種類の感覚器としての前庭感覚器での運動知覚の処理に対応した処理を実行する第1の処理部101を含む。第1の処理部101には、第1の運動情報I1が入力される。第1の運動情報I1は、頭部座標系から見た頭部の重力と慣性力との合力である頭部加速度と、頭部角速度と、を含む。第1の処理部101での処理は、耳石器での運動知覚に対応した処理、及び、半規管での運動知覚に対応した処理を含み、第1の運動情報I1が入力されると前庭感覚器から出力される、第1の運動感覚量を示す運動感覚信号に相当する運動感覚情報(以下、第1の運動感覚情報)21を出力する。
【0064】
演算部110は、第2の種類の感覚器としての視覚器での運動知覚に対応した処理を実行する第2の処理部113を含む。第2の処理部113には、第2の運動情報I2が入力される。第2の処理部113は、第2の運動情報I2が入力されると視覚器から出力される、第2の運動感覚量を示す視覚感覚信号に相当する運動感覚情報(以下、第2の運動感覚情報)22を出力する。第1の運動感覚情報及び第2の運動感覚情報は、図3の運動感覚情報I3に相当する。
【0065】
第2の処理部113に入力される第2の運動情報I2はセンサSE2で検出された視覚刺激に対応した運動情報である。しかしながら、センサSE2からの入力情報は、運動情報に替えて、視覚刺激を表す画像情報(例えば撮影画像)であってもよい。センサSE2からの入力情報が画像情報である場合、演算部110は、画像情報を運動情報に変換する変換部である前処理部123を含む。
【0066】
前処理部123は、例えば、センサSE2からの入力された画像に対して所定の画像処理をして速度に変換することで第2の運動情報I2に変換する。所定の画像処理は、例えば、連続した画像中の特定の対象物を検出し、各画像での対象物の位置を特定することで、センサSE2の変位速度、つまり、乗員の網膜に入力される視覚刺激を運動情報に変換する処理である。
【0067】
また、所定の画像処理は、他の例として、センサSE2からの入力された画像中の特定の対象物を検出し、対象物の角度から乗員の姿勢を算出してその姿勢から垂直方向を推定することによって、センサSE2の変位の重力加速度、つまり、乗員の網膜に入力される視覚刺激を運動情報に変換する処理であってもよい。
【0068】
演算部110は身体運動推定部103を含む。身体運動推定部103は、神経系において身体に与えられる刺激の遠心性コピーや体性感覚などに対応する情報(以下、コピー情報と略する)を生成する処理に対応した処理を実行する。すなわち、身体運動推定部103は第1の運動情報I1の入力を受け付けて、第1の運動情報I1に対して予め規定された適当なゲインを乗じて第1のコピー情報23を出力する。第1のコピー情報23は、誤差を含む第1の運動情報EI1に相当する。また、身体運動推定部103は第2の運動情報I2の入力を受け付けて、第2の運動情報I2に対して予め規定された適当なゲインを乗じて第2のコピー情報24を出力する。第2のコピー情報24は、誤差を含む第2の運動情報EI2に相当する。
【0069】
演算部110は統合処理部105を含み、第1のコピー情報23及び第2のコピー情報24が入力される。統合処理部105は、後述する統合処理を実行し、処理後の情報25,26を内部モデルに出力する。
【0070】
演算部110は内部モデルでの運動推定の処理に対応した処理を実行する前庭感覚器モデル107及び視覚器モデル117を含む。前庭感覚器モデル107には情報25が入力される。視覚器モデル117には情報26が入力される。
【0071】
前庭感覚器モデル107は、入力された情報25を用いて内部モデルの前庭感覚器モデルでの運動推定の処理に対応した処理を実行することで運動感覚量を推定し、推定された運動感覚量である運動推定量(第1の運動推定量)を示す運動推定情報27を出力する。視覚器モデル117は、入力された情報26を用いて内部モデルでの運動推定の処理に対応した処理を実行することで運動感覚量を推定し、運動推定量(第2の運動推定量)を示す運動推定情報28を出力する。運動推定情報27及び運動推定情報28は、図3の運動推定情報I4に相当する。
【0072】
演算部110は第1の比較部108及び第2の比較部114を含む。第1の比較部108及び第2の比較部114は加算器である。第1の比較部108には、第1の処理部101から出力された第1の運動感覚情報21、及び、前庭感覚器モデル107から出力された運動推定情報27が入力される。第2の比較部114には、第2の処理部113から出力された第2の運動感覚情報22、及び、視覚器モデル117から出力された運動推定情報28が入力される。
【0073】
第1の比較部108は、第1の運動感覚情報21と運動推定情報27とを用いて比較処理を実行することで第1の処理部101で得られた運動感覚量と前庭感覚器モデル107で推定された運動感覚量(運動推定量)とを比較し、それらの差分(誤差)を算出する。算出された誤差は、第1の感覚矛盾情報29として出力される。
【0074】
第2の比較部114は、第2の運動感覚情報22と運動推定情報28とを用いて比較処理を実行することで第2の処理部113で得られた運動感覚量と視覚器モデル117で推定された運動感覚量(運動推定量)とを比較し、それらの差分(誤差)を算出する。算出された誤差は、第2の感覚矛盾情報30として出力される。
【0075】
演算部110は第1の適応処理部109及び第2の適応処理部119を含む。第1の適応処理部109には、第1の比較部108から出力された感覚矛盾情報29が入力される。第2の適応処理部119には、第2の比較部114から出力された感覚矛盾情報30が入力される。第1の適応処理部109は、入力された感覚矛盾情報29を蓄積し、内部モデルでの処理に適応させるための適応処理を施した情報31を出力する。第2の適応処理部119は、入力された感覚矛盾情報30を蓄積し、内部モデルでの処理に適応させるための適応処理を施した情報32を出力する。
【0076】
演算部110は統合処理部105を含む。統合処理部105には、身体運動推定部103から出力された第1のコピー情報23及び第2のコピー情報24、第1の適応処理部109から出力された情報31、並びに、第2の適応処理部119から出力された情報32が入力される。統合処理部105は、自身の身体運動を把握するために人が行っている様々な感覚情報を統合する感覚統合に対応した処理である統合処理を実行する。統合処理部105は、これら情報に対して統合処理を実行し、情報25,26を内部モデルに出力する。
【0077】
演算部110は感覚矛盾処理部125を含む。感覚矛盾処理部125には、第1の比較部108から出力された感覚矛盾情報29及び第2の適応処理部119から出力された感覚矛盾情報30が入力される。感覚矛盾処理部125は、これら感覚矛盾情報29,30を用いて動揺病の程度を示す指標値を算出するための演算式を予め記憶しておき、その演算式に感覚矛盾情報29,30を代入することによって動揺病の程度を示す指標値を算出する。
【0078】
<詳細ブロック図>
図5は、図4の各機能の詳細な処理の一例を表したブロック図である。図を参照して、数理モデルMに従って演算処理111を実行する演算部110には、センサSE1からの第1の運動情報I1として、頭部にかかる重力加速度gと慣性加速度aとの和である頭部加速度f(f=g+a)と、頭部角速度ωと、慣性加速度aと、が入力される。
【0079】
第1の処理部101は、耳石器での運動知覚の処理に対応した処理を実行する処理部OTO、及び、半規管での運動知覚の処理に対応した処理を実行する処理部SCCを含む。処理部OTOには頭部加速度fが、処理部SCCには頭部角速度ωが入力される。処理部OTO及び処理部SCCの伝達特性は、いずれも頭部固定座標系で記述された式で表される。処理部OTOの伝達特性は単位行列で表される。処理部SCCの伝達特性は図中の式(1)で表される。なお、式(1)中のτa、τdは時定数である。
【0080】
処理部OTOからは信号f’が出力され、処理部SCCからは頭部角速度ωの感覚量ω’が出力される。信号f’及び信号ω’に対してローパスフィルタLPを適用することで、重力方向速度の感覚量vsが算出され、これを用いて慣性加速度aの感覚量asが算出される。ローパスフィルタLPの特性は図中の式(2)で表される。なお、式(2)中のτは時定数である。感覚量as、感覚量ωs、及び、感覚量vsは、第1の運動感覚情報21に相当する。
【0081】
前庭感覚器モデル107は、耳石器の内部モデルに相当する処理部<OTO>と、半規管の内部モデルに相当する処理部<SCC>と、を含む。表記「<>」で挟まれた符号は、内部モデルに相当する処理を行う処理部を指している。以降の説明でも同様である。
【0082】
処理部<OTO>の伝達特性は単位行列で表される。処理部<SCC>の伝達特性は図中の式(3)で表される。処理部<OTO>は信号41を出力し、処理部<SCC>は信号42を出力する。信号41,42に対してローパスフィルタ<LP>を適用することで、慣性加速度aの推定量as^、頭部角速度ωの推定量ωs^、及び、重力方向速度の推定量vs^が得られる。ローパスフィルタ<LP>の特性もまた、図中の式(2)で表される。信号41、42は、運動推定情報27に相当する。
【0083】
第1の比較部108は、処理部OTO及び処理部SCCそれぞれから出力された感覚量as、感覚量vs、及び、感覚量ωsと、処理部<OTO>及び処理部<SCC>それぞれから出力された推定量as^、推定量ωs^、及び、推定量vs^との誤差Δa、Δv、Δωを算出し、それぞれを示す信号61,62,63を出力する。信号61,62,63は、第1の感覚矛盾情報29に相当する。
【0084】
第1の適応処理部109は、信号61,62,63に示される誤差Δa、Δv、Δωをそれぞれ積分し、それぞれにゲインKac、Kωc、Kvcを乗じて得られた処理後の誤差Δa’、Δv’、Δω’を統合処理部105に入力する。
【0085】
第2の処理部113は、視覚器によって角速度を知覚する処理に対応した処理を実行する処理部VISω、及び、鉛直方向の速度を知覚する処理を実行する処理部VISγを含む。処理部VISωには第2の運動情報I2から得られた角速度ωγ、処理部VISγには第2の運動情報I2から得られた重力方向速度Vγが入力される。処理部VISωは、角速度ωγの視覚による感覚量に相当する信号43、処理部VISγは、重力方向速度Vγの視覚による感覚量に相当する信号44を出力する。信号43,44は、第2の運動感覚情報22に相当する。
【0086】
視覚器モデル117は、視覚器の内部モデルによって角速度を推定する処理に対応した処理を実行する処理部<VISω>、及び、鉛直方向の速度を推定する処理を実行する処理部<VISγ>を含む。処理部<VISω>は、視覚器モデルによる角速度ωγの推定量に相当する信号45を出力する。処理部<VISγ>は、視覚器モデルによる重力方向速度Vγの推定量に相当する信号46を出力する。信号45,46は、運動推定情報28に相当する。
【0087】
第2の比較部114は、加算器47,48を含む。加算器47には、処理部VISωから出力される信号43、及び、処理部<VISω>から出力される信号45が入力される。加算器47は、それら信号が示す角速度ωγの視覚による感覚量と視覚器モデルによる角速度ωγの推定量との誤差Δωγを示す信号49を出力する。
【0088】
加算器48には、処理部VISγから出力される信号44、及び、処理部<VISγ>から出力される信号46が入力される。加算器48は、それら信号が示す重力方向速度Vγの視覚による感覚量と視覚器モデルによる重力方向速度Vγの推定量との誤差ΔVγを示す信号50を出力する。信号49,50は、第2の感覚矛盾情報30に相当する。
【0089】
信号49,50は、第2の適応処理部119に入力される。第2の適応処理部119は、信号49,50の示す誤差Δωγ、ΔVγに対してゲインKvω、Kvγを乗じて得られる誤差Δωγ’、ΔVγ’を示す信号51,52を統合処理部105に入力する。信号51,52は、図4の情報32に相当する。
【0090】
身体運動推定部103には、頭部角速度ω及び慣性加速度aが入力される。身体運動推定部103は、頭部角速度ωにゲインKωを乗じて得られた頭部角速度ω~を統合処理部105に入力する。身体運動推定部103は、慣性加速度aにゲインKaを乗じて得られた慣性加速度a~を統合処理部105に入力する。頭部角速度ω~及び慣性加速度a~は、第1のコピー情報23に相当する。
【0091】
また、身体運動推定部103には、角速度ωγ及び重力方向速度Vγが入力される。身体運動推定部103は、角速度ωγにゲインKωγを乗じて得られた角速度ωγ~を統合処理部105に入力する。身体運動推定部103は、重力方向速度VγにゲインKVγを乗じて得られた重力方向速度Vγ~を統合処理部105に入力する。角速度ωγ~及び重力方向速度Vγ~は、第2のコピー情報24に相当する。
【0092】
統合処理部105の実行する統合処理は、一例として、加算処理である。そのため、統合処理部105は加算器64~69を含む。加算器64は、慣性加速度a~と誤差Δa’とを加算し、加算器66に渡す。加算器65は、誤差Δv’と誤差ΔVγ’とを加算し、加算器66及び加算器69に渡す。加算器66は、慣性加速度a~と誤差Δa’との加算結果、及び、誤差Δv’と誤差ΔVγ’との加算結果を加算して得られた結果を示す信号53を処理部<OTO>に入力する。
【0093】
加算器67は、頭部角速度ω~と誤差Δω’と誤差Δωγ’とを加算した結果を加算器68に渡すとともに、加算結果を示す信号54を処理部<SCC>に入力する。加算器68は、頭部角速度ω~と誤差Δω’と誤差Δωγ’との加算結果に、さらに、角速度ωγ~を加算して得られた結果を示す信号55を処理部<VISω>に入力する。
【0094】
加算器69は、誤差Δv’と誤差ΔVγ’との加算結果に、さらに、重力方向速度Vγ~を加算して得られた結果を示す信号56を処理部<VISγ>に入力する。
【0095】
感覚矛盾処理部125は、処理部125A,125B及び加算器70を含む。処理部125Aには、第1の比較部108から出力された誤差Δvが入力される。処理部125Bには、加算器48から出力された誤差ΔVγを示す信号50が入力される。誤差Δvは、主観的重力方向誤差(Subjective Vertical Conflict)とも呼ばれる。
【0096】
処理部125Aは、誤差Δvに2次のHill関数及び2次遅れ伝達関数を適用する処理を実行し、処理結果を示す信号71を出力する。なお、ここでの2次のHill関数は図中の式(4)で表される。2次遅れ伝達関数は図中の式(5)で表される。式(4)及び式(5)の組み合わせが、感覚矛盾処理部125が予め記憶している動揺病の程度を示す指標値を算出するための演算式に相当する。
【0097】
処理部125Bは、誤差ΔVγに2次のHill関数及び2次遅れ伝達関数を適用する処理を実行し、処理結果を示す信号72を出力する。ここでの2次のHill関数は図中の式(6)で表される。式(6)及び式(5)の組み合わせが、感覚矛盾処理部125が予め記憶している動揺病の程度を示す指標値を算出するための演算式に相当する。
【0098】
加算器70には、信号71,72が入力される。加算器70は、これら信号の示す情報を加算して出力する。加算器70から出力される信号が示す情報が動揺病発症率MSIに相当する。
【0099】
<実施の形態の効果>
本実施の形態にかかる評価装置1では、動揺病の要因を感覚矛盾とする感覚矛盾説に立って、感覚器と内部モデルとの感覚矛盾に相当する値に基づいて動揺病の程度を算出する。その際に、本実施の形態にかかる評価装置1は、前庭感覚器及び1以上のその他の感覚器である複数種類の感覚器での運動感覚情報に相当する情報を利用する。これにより、本実施の形態にかかる評価装置1では、複数種類の感覚器での運動感覚を考慮して動揺病の程度が推定される。人が実際に運動を知覚する感覚器は複数存在するため、複数種類の感覚器を考慮することでより実際の感覚に近く動揺病が評価されると考えられる。つまり、本実施の形態にかかる評価装置1では、高精度で動揺病の程度が推定されると考えられる。
【0100】
特に、運動感覚量のうちの鉛直方向の成分についての誤差は、主観的重力方向誤差と呼ばれ、動揺病の要因とする説がある。運動感覚量のうちの鉛直方向の成分についての誤差に基づいて動揺病の程度を推定することで、この説に基づいて動揺病の程度を推定することができる。
【0101】
評価装置1において動揺病の程度が推定されることで、評価装置1を含む本実施の形態にかかるシステム100では、評価装置1での推定結果を用いて車両Vの乗員の動揺病の程度を低減する制御が可能となる。上記の原理に基づくと、前庭器と内部モデルとの前庭感覚信号の誤差、及び、視覚器と内部モデルとの視覚感覚信号の誤差、との、少なくとも一方を低減させることが動揺病の程度を低減するために有効である。
【0102】
そこで、低減装置5は、一例として、車両Vの少なくとも一部を動作させるモーション装置である。モーション装置としての低減装置5は、例えば、車両Vの座席(図示せず)に設けられ、その座席に着席した乗員の体勢を所定の方向に傾ける機構を含む装置である。傾ける機構は、例えば、座席下及び/又は背もたれ部に配置された空気袋、及び、空気袋に給・排気することで膨張・収縮させるポンプや弁などである。この場合、制御装置3は、評価装置1からの評価結果に対して予め規定されている変化量、座席を傾けるように低減装置5を制御する。そして、変化後の評価装置1からの評価結果が改善されるまで、変化量を変化させる。これにより、前庭器と内部モデルとの前庭感覚信号の誤差が低減され、その結果、動揺病の程度の低減につながる。
【0103】
モーション装置としての低減装置5の他の例は、車両Vの電子制御サスペンションである。この場合、制御装置3は、評価装置1からの評価結果に基づいて電子制御サスペンションの減衰力やばね定数を変化させる。
【0104】
また、低減装置5は、他の例として、乗員に視覚情報を与える表示装置である。表示装置としての低減装置5は、例えば、車窓位置に配置された図示しないモニタに画像を表示するプロジェクタである。この場合、制御装置3は、評価装置1からの評価結果に対して予め規定されている変化量、モニタに表示する画像を変化させる(傾ける)。そして、変化後の評価装置1からの評価結果が改善されるまで、変化量を変化させる。これにより、視覚器と内部モデルとの視覚感覚信号の誤差が低減され、その結果、動揺病の程度の低減につながる。
【0105】
また、他の例として、制御装置3は、評価装置1からの評価結果に対して予め規定されている変化量、モニタに表示する画像のサイズを変化させてもよい。
【0106】
表示装置としての低減装置5の他の例は、車両V内で用いる電子機器の表示装置であってもよい。車両V内で用いる電子機器は、車載のテレビ、ナビゲーション装置、車両Vの乗員が携帯するスマートフォンやタブレット端末などの端末装置、などである。この場合、制御装置3は、評価装置1からの評価結果に対して予め規定されている変化量、モニタに表示する画像のサイズや明るさなどを変化させる。なお、制御装置3は、表示装置に搭載されていてもよい。すなわち、表示装置としての低減装置5の図示しない制御部が制御装置3として機能してもよい。低減装置5が車両Vの乗員が携帯する端末装置である場合、低減装置5の制御部での制御のためのプログラム(アプリケーション)が車両Vの図示しないECUやゲートウェイなどから端末装置に配信されてもよい。
【0107】
なお、低減装置5は、上記のような、モーション装置と表示装置との組み合わせであってもよい。
【0108】
[変形例]
なお、身体運動推定部103は、第1のコピー情報23のみ生成し、第2のコピー情報24を生成しなくてもよい。一例として、身体運動推定部103は、ゲインKωγ及びKVγを0とする。この場合、図4において点線で示された、身体運動推定部103から統合処理部105への角速度ωγ~及び重力方向速度Vγ~の入力がなされない。また、他の例として、身体運動推定部103に第2の運動情報I2からの角速度ωγ及び重力方向速度Vγが入力されなくてもよい。この場合、図4で点線示された、身体運動推定部103から統合処理部105への角速度ωγ~及び重力方向速度Vγ~の入力に加えて、第2の運動情報I2からの情報の入力がなされない。
【0109】
[第2の実施の形態]
数理モデルMに従って演算処理111を実行する評価装置1の演算部110の機能構成は図4の構成に限定されない。図6は、第2の実施の形態にかかる評価装置1の演算部110の機能構成を示したブロック図である。
【0110】
図を参照して、第2の実施の形態にかかる評価装置1の演算部110は、前庭感覚器での運動知覚の処理に対応した処理を実行する第1の処理部201と、視覚器での運動知覚の処理に対応した処理を実行する第2の処理部215と、を含む。これらは、図4に示された第1の処理部101及び第2の処理部113と同じである。また、図4と同じく、センサSE2からの入力情報が画像情報である場合、演算部110は、画像情報を第2の運動情報I2に変換する変換部である前処理部213を含む。
【0111】
演算部110は第1の感覚統合部217を含み、第1の処理部201で出力された運動感覚情報と、第2の処理部215で出力された運動感覚情報とを組み合わせる処理を行う。組み合わせる処理は、後述する第2の情報との差を算出するため、第1の処理部201で出力された第1の運動感覚情報と、第2の処理部215で出力された第2の運動感覚情報とを1つの情報である第1の情報とするための演算処理であって、例えば、加算処理である。組み合わせる処理は、加算の他、平均値を算出する処理、合計値を算出する処理、など、他の演算処理であってもよい。
【0112】
また、演算部110は身体運動推定部205を含み、第1の運動情報I1から遠心性コピーに相当する情報を生成する。なお、図6は、身体運動推定部205が処理に第2の運動情報I2を用いない例を示しているが、第1の実施の形態と同様に、第2の運動情報I2も用いてもよい。
【0113】
演算部110は前庭感覚器の内部モデル及び視覚器の内部モデルでの運動推定の処理に対応した処理を実行する前庭感覚器モデル209及び視覚器モデル207を含み、身体運動推定部205からの情報がそれぞれに入力される。前庭感覚器モデル209及び視覚器モデル207は、それぞれ、身体運動推定部205からの情報に基づいて運動感覚量を推定して、第1の運動推定情報、第2の運動推定情報を出力する。演算部110は、さらに、第2の感覚統合部211を含み、両モデル207,209での運動推定情報を組み合わせる処理を実行する。組み合わせる処理は、第1の感覚統合部217での処理と同じであって、両モデル207,209での第1、第2の運動推定情報を1つの情報である第2の情報とする演算処理である。
【0114】
演算部110は比較部219を含み、各感覚統合部211,217で算出された第1の情報及び第2の情報を比較することで、これらの差を算出する。この差は、感覚矛盾に相当する。演算部110は適応処理部221を含み、比較部219で算出された差が入力される。適応処理部221は、入力された差を両モデル207,209での処理に適応させるように処理を施し、モデル207,209に入力する。
【0115】
さらに、演算部110は、感覚矛盾処理部223を含む。感覚矛盾処理部223は、比較部219で算出された差から、動揺病の程度を示す指標値を算出する。このため、感覚矛盾処理部223は、第1の情報及び第2の情報の差を用いて動揺病の程度を示す指標値を算出するための演算式を予め記憶しておき、その演算式に比較部219から入力された差を代入することによって動揺病の程度を示す指標値を算出する。
【0116】
<実施の形態の効果>
本実施の形態に示されたように、複数種類の感覚器での運動感覚情報と内部モデルとの感覚矛盾に相当する情報に基づいて動揺病の程度の指標値を算出する方法は、第1の実施の形態で説明された図4図5に示された方法に限定されず、上に説明された図6に示されたような他の方法であってもよい。本実施の形態にかかる評価装置1でも、複数種類の感覚器での運動感覚を考慮して動揺病の程度が推定されるため、高精度で動揺病の程度が推定されると考えられる。
【0117】
また、本実施の形態では、各感覚器に相当する処理部201,215での運動感覚情報を組み合わせる処理、及び、各内部モデル207,209での運動推定情報を組み合わせる処理、を行って、それぞれ、第1の情報及び第2の情報を得ている。このため、本実施の形態では、感覚矛盾情報を算出する処理が比較器219での処理のみとなる。第1の実施の形態では比較器108,114それぞれで感覚矛盾情報を算出する処理が行われていたため、本実施の形態の方が感覚矛盾情報を算出する処理を容易にできる。また、本実施の形態では、得られる感覚矛盾情報が1つとなる。このため、得られる感覚矛盾情報が2つであった第1の実施の形態と比較すると、感覚矛盾処理部223が記憶する動揺病の程度を示す指標値を算出するための演算式を減らすことができる。つまり、感覚矛盾処理部223での処理を第1の実施の形態よりも簡易にすることができる。
【0118】
[第3の実施の形態]
演算処理111における、互いに異なる複数の感覚器それぞれでの運動感覚量に対応した値に基づくことの第2の例は、複数の感覚器それぞれについて、内部モデルでの運動感覚量の推定に対応した値を用いず、感覚器での運動感覚量に対応した値だけを用いることである。本実施の形態にかかる評価装置1では、互いに異なる複数の感覚器それぞれでの運動感覚量に対応した値を、前庭感覚器での運動感覚量に対応した値と、他の少なくとも1つの感覚器での運動感覚量に対応した値とする。本例では、他の少なくとも1つの感覚器での運動感覚量に対応した値は視覚器での運動感覚量に対応した値であるものとする。
【0119】
図7は、第3の実施の形態にかかる評価装置1の演算部110の機能構成の一例を表したブロック図である。図7において、図6のブロック図と同じ参照符号で示された構成は、図6に示された構成と同じである。
【0120】
図を参照して、第3の実施の形態にかかる評価装置1の演算部110において、比較器219Aは、前庭感覚器での運動知覚の処理に対応した処理を実行する第1の処理部201で出力された運動感覚情報と、視覚器での運動知覚の処理に対応した処理を実行する第2の処理部215で出力された運動感覚情報と、を比較することでこれらの差を算出し、算出された差を感覚矛盾に相当する情報として感覚矛盾処理部223に入力する。感覚矛盾処理部223は、比較器219Aで算出された差から、動揺病の程度を示す指標値を算出する。
【0121】
本実施の形態にかかる評価装置1でも、前庭感覚器及びその他の感覚器である複数種類の感覚器での運動感覚量を利用して動揺病の程度を算出する。これにより、本実施の形態にかかる評価装置1では、複数種類の感覚器での運動感覚を考慮して動揺病の程度が推定される。人が実際に運動を知覚する感覚器は複数存在するため、複数種類の感覚器を考慮することでより実際の感覚に近く動揺病が評価されると考えられる。つまり、本実施の形態にかかる方法でも、高精度で動揺病の程度が推定されると考えられる。
【0122】
[第4の実施の形態]
低減装置5のさらに他の例として、ナビゲーション装置であってもよい。又は、車両Vが自動運転機能を有する場合、低減装置5はルート設定部であってもよい。この場合、制御装置3は低減装置5の図示しない制御部であって、評価装置1からの評価結果に応じたルートを設定する。すなわち、制御装置3は、ルートごとの動揺病の可能性の大きさを予め記憶しておき、又は、サーバ等の他の装置から取得可能であって、評価装置1からの評価結果に応じた大きさの動揺病の可能性であるルートを設定する。
【0123】
[第5の実施の形態]
評価装置1はシステム100のみならず、単独で用いられてもよい。例えば、評価装置1は通信機能を有し、評価結果を予め規定されたサーバ等の装置に対して出力してもよい。これにより、他の装置を用いて、動揺病の程度を低減できる道路(カーブ)の設計、道路の段差の設計、などに用いることができる。
【0124】
[第6の実施の形態]
評価装置1は、動揺病の一種であり、同じ原理と考えられる、いわゆるVR(バーチャルリアリティ)酔いと呼ばれる映像酔いの程度の推定も行うことができる。視聴者の頭の動きと映像の動きとのずれによって生じると考えられているためである。この場合、低減装置5は映像表示装置、及び/又は、視聴者の体勢を変化させる装置であって、車両Vの動揺病を低減するシステム100と同様に制御することで、VR酔いの低減が期待される。
【0125】
[第7の実施の形態]
複数種類の感覚器は前庭感覚器に加えて他の少なくとも1つの感覚器であって、他の感覚器は視覚器に限定されない。他の感覚器は、例えば、聴覚器、嗅覚器、皮膚、などであって、演算部110は、これら感覚器での運動知覚の処理に対応した処理を実行する処理部、及び、内部モデルでの運動推定の処理に対応した処理を実行する処理部、を有してもよい。この場合であっても、より実際の感覚に近く動揺病が評価されると考えられる。つまり、本実施の形態にかかる評価装置1では、高精度で動揺病の程度が推定されると考えられる。
【0126】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。
【符号の説明】
【0127】
1 :評価装置
3 :制御装置
5 :低減装置
11 :プロセッサ
12 :記憶部
13 :制御装置I/F
14 :センサI/F
21 :第1の運動感覚情報
22 :第2の運動感覚情報
23 :第1のコピー情報
24 :第2のコピー情報
25 :情報
26 :情報
27 :運動推定情報
28 :運動推定情報
29 :第1の感覚矛盾情報
30 :第2の感覚矛盾情報
31 :情報
32 :情報
41 :信号
42 :信号
43 :信号
44 :信号
45 :信号
46 :信号
47 :加算器
48 :加算器
49 :信号
50 :信号
51 :信号
52 :信号
53 :信号
54 :信号
55 :信号
56 :信号
61 :信号
62 :信号
63 :信号
64 :加算器
65 :加算器
66 :加算器
67 :加算器
68 :加算器
69 :加算器
70 :加算器
71 :信号
72 :信号
100 :システム
101 :第1の処理部
103 :身体運動推定部
105 :統合処理部
107 :前庭感覚器モデル
108 :第1の比較部
109 :第1の適応処理部
110 :演算部
111 :演算処理
113 :第2の処理部
114 :第2の比較部
117 :視覚器モデル
119 :第2の適応処理部
121 :演算プログラム
123 :前処理部
125 :感覚矛盾処理部
125A :処理部
125B :処理部
201 :第1の処理部
205 :身体運動推定部
207 :視覚器モデル
209 :前庭感覚器モデル
211 :第2の感覚統合部
213 :前処理部
215 :第2の処理部
217 :第1の感覚統合部
219 :比較部
219A :比較部
221 :適応処理部
223 :感覚矛盾処理部
EI1 :第1の運動情報
EI2 :第2の運動情報
I1 :第1の運動情報
I2 :第2の運動情報
I3 :運動感覚情報
I4 :運動推定情報
KVγ :ゲイン
Ka :ゲイン
Kac :ゲイン
Kvω :ゲイン
Kω :ゲイン
Kωc :ゲイン
Kωγ :ゲイン
LP :ローパスフィルタ
M :数理モデル
MSI :動揺病発症率
OTO :処理部
SCC :処理部
SE1 :第1のセンサ
SE2 :第2のセンサ
V :車両
VISγ :処理部
VISω :処理部
Vγ :重力方向速度
Vγ~ :重力方向速度
a :慣性加速度
a~ :慣性加速度
as :感覚量
as^ :推定量
f :頭部加速度
f’ :信号
g :重力加速度
vs :感覚量
vs^ :推定量
ΔVγ :誤差
ΔVγ’ :誤差
Δa :誤差
Δa’ :誤差
Δv :誤差
Δv’ :誤差
Δω’ :誤差
Δωγ :誤差
Δωγ’ :誤差
ω :頭部角速度
ω~ :頭部角速度
ω’ :信号
ωs :感覚量
ωs^ :推定量
ωγ :角速度
ωγ~ :角速度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7