(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-16
(45)【発行日】2022-11-25
(54)【発明の名称】誘導素子を製造するための方法及び誘導素子
(51)【国際特許分類】
H01F 41/04 20060101AFI20221117BHJP
H01F 27/28 20060101ALI20221117BHJP
H01F 17/04 20060101ALI20221117BHJP
H01F 5/00 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
H01F41/04 B
H01F27/28 K
H01F17/04 A
H01F5/00 F
(21)【出願番号】P 2021504805
(86)(22)【出願日】2019-07-26
(86)【国際出願番号】 EP2019070252
(87)【国際公開番号】W WO2020025500
(87)【国際公開日】2020-02-06
【審査請求日】2021-01-28
(31)【優先権主張番号】102018118551.0
(32)【優先日】2018-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】518379278
【氏名又は名称】テーデーカー エレクトロニクス アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】ロッテネル,ミハエル
(72)【発明者】
【氏名】ウェブナー,シュテファン
【審査官】工藤 一光
(56)【参考文献】
【文献】独国特許出願公開第102013010228(DE,A1)
【文献】独国実用新案第202007003747(DE,U1)
【文献】特開2017-98544(JP,A)
【文献】国際公開第2017/070832(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0249490(US,A1)
【文献】特開2014-175531(JP,A)
【文献】特開2001-155932(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F41/00-41/12
H01F27/28-27/32
H01F17/04-17/08
H01F5/00-5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘導素子を製造するための方法であって、
上下に重なり合って延在する複数のターンを有し、前記複数のターンは螺旋形状の巻線になるように連結されている、少なくとも1つの巻線を形成する導電性材料と、
前記少なくとも1つの巻線のための支持体を形成する絶縁性材料と、
が加算的生産方法において
成形される、方法。
【請求項2】
前記導電性材料及び前記絶縁性材料は、同一のプロセスステップの中で適用される、
請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記導電性材料は、銅を含むか又は銅である、
請求項1
又は2いずれか1項記載の方法。
【請求項4】
前記絶縁性材料は、セラミック材料を含むか又はセラミック材料である、
請求項1乃至
3いずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記誘導素子は、貫通コンタクトを有さない、
請求項1乃至
4いずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記誘導素子は、平面トランス又は平面コイルである、
請求項1乃至
5いずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記少なくとも1つの巻線を加算的
生産方法において成形した後に、前記少なくとも1つの巻線によって磁気コアが取り囲まれるように、前記磁気コアを配置する、
請求項1乃至
6いずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記導電性材料は、2つの接続面を形成し、
前記2つの接続面は前記誘導素子の下面に配置される、
請求項1乃至
7いずれか1項記載の方法。
【請求項9】
導電性材料製の、少なくとも1つの螺旋形状の巻線
であって、前記巻線は、上下に重なり合って延在する複数のターンを有し、前記複数のターンは前記螺旋形状の巻線になるように連結されている巻線と、
前記螺旋形状の巻線が一体化されている、絶縁性材料製の支持体と、
を有する、誘導素子。
【請求項10】
前記少なくとも1つの螺旋形状の巻線は、伸長部及び圧縮部を有さない、
請求項
9記載の誘導素子。
【請求項11】
前記少なくとも1つの螺旋形状の巻線は貫通コンタクトを有さない、
請求項
9又は10記載の誘導素子。
【請求項12】
前記誘導素子は、平面トランス又は平面コイルである、
請求項
9乃至11いずれか1項記載の誘導素子。
【請求項13】
前記導電性材料は、銅を含むか又は銅である、
請求項
9乃至12いずれか1項記載の誘導素子。
【請求項14】
前記絶縁性材料は、セラミック材料を含むか又はセラミック材料である、
請求項
9乃至13いずれか1項記載の誘導素子。
【請求項15】
前記導電性材料及び前記絶縁性材料は、加算的生産方法において
成形されたものである、
請求項
9乃至14いずれか1項記載の誘導素子。
【請求項16】
前記導電性材料は2つの接続面を形成し、
前記2つの接続面は前記誘導素子の下面に配置されている、
請求項
9乃至15いずれか1項記載の誘導素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導素子を製造するための方法及び誘導素子に関する。
【0002】
EP1085535B1からは、薄いプリント回路基板が上下に積層され、プリント回路基板上にターンが形成され、ターンが貫通コンタクトを介して巻線を形成するように連結されている平面トランスが知られている。その際、プリント回路基板は、ターン間の必要な絶縁を確実にする。
【背景技術】
【0003】
平面トランスを製造するために、磁性材料用の切り欠きは、打ち抜かれるか又は削られ、切り欠かれた材料はそれ以上用いられることができない。さらに、貫通コンタクトは素子の性能適合性を制限する狭窄部(Engstellen)を形成する。さらに、平面トランスを通る巻線空間の利用可能なスペースは、最適に用いられることができない。
【発明の概要】
【0004】
したがって、本発明の課題は、改良された誘導素子及びその製造方法を提供することである。
【0005】
これらの課題は、請求項1による方法と、さらなる独立請求項による誘導素子とによって解決される。
【0006】
誘導素子を製造するための方法であって、少なくとも1つの巻線を形成する導電性材料と、少なくとも1つの巻線のための支持体を形成する絶縁性材料と、が加算的生産方法(additiven Fertigungsverfahren)において適用され又は堆積され(aufgetragen)る、方法が提案される。
【0007】
絶縁材料は、巻線の個々のターンの間に配置されることができる。したがって、絶縁材料は、個々の巻線を互いに絶縁し、巻線を機械的に安定化させる支持体を形成することができる。
【0008】
加算的生産方法は、生成的な生産方法とも称される。加算的生産方法は、データモデルに基づいて、形態のない(formlosen)又は形態中立な(formneutralen)材料から、化学的及び/又は物理的プロセスを使用して生産が実行される方法であることができる。形態のない材料は、例えば、ゲル、ペースト又は粉末であることができる。形態中立な材料は、例えば、帯状、ワイヤー状又は葉状であり得る
【0009】
加算的生産方法は、3D印刷であることができる。3D印刷は、材料が層毎に次々に(Schicht fuer Schicht)適用又は堆積され、したがって三次元の物品が生成される方法である。その際、層状の構築は、コンピュータ制御されて、1つ以上の流体状又は固体状の素材から、所定の寸法及び形態で実行される。構築の際には、物理的及び/又は化学的な硬化及び/又は溶融プロセスが行われる。
【0010】
あるいは、加算的生産方法は、ディスペンサ印刷方法であることができる。その際、ペースト又はゲル状の材料は、ノズル又はスプレーを用いて層状に適用または堆積され、層ごとに次々に1つの三次元物品へと組み立てられる。
【0011】
加算的生産方法は、誘導素子の生産に際して多くの利点を提供する。加算的生産方法は、高精度を有する素子を生産することを可能にする。加算的生産方法の使用によって、巻線の個別のターンの接続のための貫通コンタクト(Durchkontaktierungen)を有さない巻線の生産を可能にすることができる。したがって、EP1085535B1の平面トランスの欠点を克服することができる。巻線は貫通コンタクトを有さないことができるので、誘導素子の性能適合性(Leistungsvertraeglichkeit)は貫通コンタクトによって制限されない。巻線の凹部を打ち抜いたり(ausgestanzt)又は削ったり(gefraest)する必要がないので、加算的生産方法の際には材料が無駄にならない。さらに、加算的生産方法は、利用可能なスペースを最適に使用することができるように素子を構築することを可能にする。
【0012】
加算的生産方法において生産された巻線は、圧縮部又は伸長部(Stauchungen oder Dehnungen)を有さない。相応に巻線は材料的な弱い点(Materialschwachstellen)を有さない。それによって寿命と性能適合性を向上させることができる。
【0013】
加算的生産方法は、少なくとも1つの巻線のターンを非常に平坦に構成することを可能にする。それによって、高周波用途における使用に最適な構造が得られる。
【0014】
導電性材料及び絶縁性材料は同一のプロセスステップにおいて適用又は堆積されることができる。相応に両材料は同時に適用又は堆積されることができる。例えば、両材料は、3Dプリンタの異なるノズルによって同時に適用又は堆積されることができる。同一プロセスステップ中での絶縁性材料及び導電性材料の適用又は堆積によって、迅速に実行されることができる方法が提供されることができる。それによって、素子の、短い生産時間を達成することができる。
【0015】
少なくとも1つの巻線は、螺旋形状であることができる。少なくとも1つの巻線は、異なる直径、断面積及びピッチ角(Steigungswinkeln)を有する螺旋の形態で、加算的生産方法において製造されることができる。加算的生産方法は、相応に、常に、少なくとも1つの巻線が所望の使用目的に最適に適合することを可能にする。
【0016】
導電性材料は銅を含むことができる。あるいは導電性材料は銅であることができる。銅は、高い導電性を有し、コスト的都合が良い(kostenguenstig)ため、少なくとも1つの巻線のための好適な導電性材料として適している。
【0017】
絶縁性材料は、セラミック材料を含むか、又は、、セラミック材料から構成されていてもよい。導電性材料が銅含有材料である場合、銅は焼結工程を経て初めて所望の導電性を示すことになるため、誘導素子の焼結が必要となる場合がある。相応に、絶縁性材料にも同様に焼結可能な材料が選択されるべきである。この理由から、セラミック材料は、。焼結可能材料であるために、絶縁性材料として使用するのに適している。あるいは、プラスチック材料を絶縁性材料として使用することもできる。
【0018】
誘導素子は貫通コンタクトを有さない。貫通コンタクトは素子の導電性を制限する。加算的生産方法は、支持体及び少なくとも1つの巻線が所望の三次元形状で生産されることを可能にし、したがって貫通コンタクトを省略することができる。
【0019】
誘導素子は、例えば、平面トランス又は平面コイルであることができる。平面コイルは、例えば、ストレージチョーク(Speicherdrossel)とすることができる。平面トランスは、主に高伝送電力用のパワーエレクトロニクスで使用される。
【0020】
少なくとも1つの巻線及び支持体を付加的に製造した後、磁気コアが少なくとも1つの巻線によって取り囲まれるように磁気コアを配置することができる。コアはフェライト材料を含むことができる。
【0021】
さらなる態様によれば、本発明は、誘導素子置に関する。特に、上述の方法に従って生産された素子であることができる。したがって、方法に関連して開示された全ての構造的及び機能的特徴は、素子にも適用され得る。
【0022】
導電性材料製の少なくとも1つの螺旋形状の巻線と、螺旋形状の巻線が統合又は一体化されている、絶縁性材料製の支持体と、を有する、誘導素子が提案されている。その際、支持体の絶縁材料が巻線の個々のターンの間に配置され、それによってターンが互いに絶縁される場合、巻線は支持体に統合又は一体化されていると称される。
【0023】
加算的生産方法を使用することで、巻線を螺旋形状に形成することが可能になる。螺旋形状は、貫通コンタクトを省略できるという利点があり、部品の性能適合性が制限されない。加算的生産方法により、実質的に任意の断面、直径、及び巻き上げピッチ(Steigungswickeln)を有する少なくとも1つの巻線を製造することが可能になる。
【0024】
少なくとも1つの螺旋形状の巻線は、伸長部及び圧縮部を有さない。伸長部及び圧縮部は材料の弱体化を意味し、誘導素子の性能適合性が制限され、その寿命にわたって素子の損傷を招く虞がある。加算的生産方法を用いることで、伸長部及び圧縮部のない螺旋形状の巻線を生産することが可能になり得る。
【0025】
少なくとも1つの螺旋状の巻線は、貫通コンタクトを含まないものであることができる。加算的生産方法を使用することによって、さもなければ素子の性能適合性を制限し得る貫通コンタクトを省略することができる。
【0026】
誘導素子は、平面トランスであるか、又は、平面コイルであることができる。
【0027】
導電性材料は、銅であることができ、又は、銅を含有する材料であることができる。絶縁材料は、セラミック材料を含むか、又は、セラミック材料であることができる。
【0028】
導電性材料及び絶縁性材料は、加算的生産方法によって適用又は堆積されることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
以下では、図面を参照して本発明の好ましい実施形態をより詳細に説明する。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図1は、誘導素子1の巻線2を斜視図で示したものである。誘導素子1は、平面コイルである。巻線2は、上下に重なり合って延在する(uebereinander verlaufende)複数のターン3を有する。それらのターン3は、螺旋形状の巻線2になるように連結されている(verbunden)。
【0031】
誘導素子1は第1接続面4と第2接続面5とを有する。螺旋形状の巻線2の第1端部は第1接続面4と連結されている。螺旋形状の巻線2の第2端部は第2接続面5と連結されている。両接続面4,5は素子1の下面6に配置されており、素子1の表面実装を可能にする。したがって、素子1は表面実装素子(Surface Mounted Device = SMD)である。
【0032】
図1に示される巻線2及び接続面4,5は、加算的生産方法によって製造される。加算的生産方法は例えば3D印刷である。加算的生産方法において、例えば銅などの導電性材料が適用又は堆積され、したがって、それぞれ導電性材料からなる巻線2及び接続面4,5が生成される。後述するように、巻線2及び接続面4,5は、その際、絶縁性の支持体と同時に生産される。
【0033】
図2は、誘導素子1を斜視図で示す。誘導素子1は、巻線2に加えて、絶縁性の支持体7を有する。
【0034】
巻線2は絶縁性支持体7と統合又は一体化されている。支持体7の材料は、螺旋形状の巻線2のターン3の間に配置されている。絶縁性の支持体7は、それによって、巻線2の機械的支持を形成する。支持体7はさらに、巻線2のターン3間の短絡を防止する絶縁体を形成する。素子1の下面上では、接続面4,5は絶縁性の支持体によって覆われていない。
【0035】
絶縁性の支持体7は、加算的生産方法において、絶縁性の材料から製造される。支持体及び巻線は、加算的生産方法の同一のプロセスにおいて製造される。その際、支持体を形成する絶縁性材料と、巻線を形成する導電性材料とは、同時に、層状に(schichtweise)、適用又は堆積される。
【0036】
図3は、加算的生産方法で製造された、さらなる誘導素子1の斜視図である。素子1は平面トランスである。素子1は、巻線と支持体7とを有する。特に、素子は、一次巻線8と、二次巻線9とを有する。一次巻線8は、螺旋形状の巻線を形成するターンを有する。二次巻線9は、同様に、螺旋形状の巻線を形成するターンを有する。
【0037】
さらに、誘導素子1は4つの接続面4,5,10,11を有する。第1及び第2接続面4,5は一次巻線8と連結されている。第3及び第4接続面10,11は二次巻線9と連結されている。4つの接続面4,5,10,11は、素子1の下面6に配置されており、素子1の下面6には支持体7がない(frei von dem Traeger 7)。接続面4,5,10,11は、それによって、素子1の表面実装を可能にする。
【0038】
素子1はさらに、絶縁性の支持体7を有し、その中で、一次巻線8及び二次巻線9が統合され又は一体化されている。絶縁性の支持体7と、一次巻線8と、二次巻線9と、は加算的生産方法において製造される。その際、支持体7及び巻線8,9は、巻線8,9のための支持体7を形成する絶縁性材料及び両巻線8,9を形成する導電性材料を加算的に堆積する単一のプロセスステップにおいて製造される。
【0039】
平面トランスは、
図1及び2に示されるコイルとは、トランスにおいては、2つの巻線8,9が、素子1において、互いに電気的に(galvanisch)分離されて形成されている点で異なる。絶縁性材料で形成されている支持体7は、一次巻線8と二次巻線9との間の絶縁を提供するだけでなく、各巻線8,9の個別のターンの間の絶縁も提供する。その結果、素子1内の絶縁経路(Isolationsstrecken)に関する要件を正確に満たすことができる。巻き取りスペース(Wickelraum)における利用可能な空間を最適に活用することができる。
【0040】
図4は、平面トランスに磁気コア12が取り付けられた平面トランスを斜視図で示す。磁気コア12は例えばフェライト材料からなることができる。磁気コア12は、一次巻線8及び二次巻線9によって取り囲まれるように配置されている。磁気コア12は、例えば接着によって、互いに堅固に連結された2つの部分からなる。
【符号の説明】
【0041】
1 誘導素子(induktives Bauelement)
2 巻線(Wicklung)
3 ターン(Windung)
4 第1接続面(erste Anschlussflaeche)
5 第2接続面(zweite Anschlussflaeche)
6 下面(Unterseite)
7 支持体(Traeger)
8 一次巻線(Primaerwicklung)
9 二次巻線(Sekundaerwicklung)
10 第3接続面(dritte Anschlussflaeche)
11 第4接続面(vierte Anschlussflaeche)
12 磁気コア(magnetischer Kern)