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  • 特許-衛生設備部材 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】衛生設備部材
(51)【国際特許分類】
   B32B 9/00 20060101AFI20221122BHJP
   C23C 28/00 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
B32B9/00 A
C23C28/00 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021516841
(86)(22)【出願日】2021-03-01
(86)【国際出願番号】 JP2021007682
(87)【国際公開番号】W WO2021199833
(87)【国際公開日】2021-10-07
【審査請求日】2021-03-24
(31)【優先権主張番号】P 2020064495
(32)【優先日】2020-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000010087
【氏名又は名称】TOTO株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094640
【弁理士】
【氏名又は名称】紺野 昭男
(74)【代理人】
【識別番号】100103447
【弁理士】
【氏名又は名称】井波 実
(74)【代理人】
【識別番号】100111730
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 武泰
(74)【代理人】
【識別番号】100187377
【弁理士】
【氏名又は名称】芳野 理之
(74)【代理人】
【識別番号】100180873
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 慶政
(72)【発明者】
【氏名】野田 結衣
(72)【発明者】
【氏名】浮貝 沙織
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 優也
【審査官】松浦 裕介
(56)【参考文献】
【文献】特表2003-535216(JP,A)
【文献】特表2015-511992(JP,A)
【文献】特開平04-129734(JP,A)
【文献】特表2019-515790(JP,A)
【文献】特開2009-268991(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0124360(US,A1)
【文献】欧州特許出願公開第02807284(EP,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0227177(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC B32B 1/00 - 43/00
C23C 24/00 - 30/00
C09K 3/16
E03C 1/00 - 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、当該基材上にある着色層と、当該着色層上にある表面層とを含んでなる部材であって、
前記着色層は、
Zrと、CおよびNの双方とを含み、かつ、
Zrを15at%以上65at%以下、
Oを10at%以上40at%以下、
CおよびNを合計で25at%以上45at%以下、並びに
Crを0at%以上20at%以下含み、
但し、前記Zr、O、CおよびN、並びにCrの組み合わせの合計が100at%であり、または、前記組み合わせ以外の元素を1.0at%以下含んでいてもよく、
下記「スパッタ条件1」と下記「XPS測定条件」を用いたXPS深さ方向分析によって得られたスペクトルにおける、表面層側の界面におけるZr酸化物由来のピーク高さ(HZr酸化物)とZrのピーク高さ(HZr)の比(HZr酸化物/HZr)が0を超え4.5未満であり、かつ
表面層側の界面から、下記「スパッタ条件2」と下記「XPS測定条件」を用いたXPS深さ方向分析で5分Arスパッタした点におけるHZr酸化物/HZrが0以上3未満であり、
前記表面層は、
撥水性であり、
疎水基を含み、かつ
下記「スパッタ条件1」と下記「XPS測定条件」を用いたXPS深さ方向分析で得られるプロファイルにおいて、ある測定点における炭素原子濃度と、その1点前の測定点における炭素原子濃度との差の絶対値が1.0at%以下となった点を表面層の終点とし、スパッタの開始から前記終点までのスパッタ時間が5分以内である、部材。
(XPS測定条件)
X線条件:単色化AlKα線(出力25W)
光電子取出角:45°
分析領域:100μmφ
中和銃条件:1.0V,10μA
Time Per Step:50ms
Sweeps:5回
Pass energy:112eV
分析元素(エネルギー範囲):Zr3d(177-187eV)、C1s(281-296eV)、N1s(394-406eV)、O1s(524-540eV)、Cr2p3(572-582eV)、Ti2p(452-463eV)、Si2p(98―108eV)
(スパッタ条件1)
不活性ガス種:Ar
スパッタ電圧:500V
スパッタ範囲:2mm×2mm
スパッタサイクル:10秒
(スパッタ条件2)
不活性ガス種:Ar
スパッタ電圧:500V
スパッタ範囲:2mm×2mm
スパッタサイクル:1分
【請求項2】
前記着色層は、酸化物皮膜の厚みが30nmよりも小である、請求項1に記載の部材。
【請求項3】
前記表面層は、
単分子層であり、かつ
請求項1において定義される「スパッタ条件1」と「XPS測定条件」を用いたXPS深さ方向分析で得られるプロファイルにおいて、ある測定点における炭素原子濃度と、その1点前の測定点における炭素原子濃度との差の絶対値が1.0at%以下となった点を表面層の終点とし、スパッタの開始から前記終点までのスパッタ時間が3分以内である、請求項1または2に記載の部材。
【請求項4】
前記着色層は、
請求項1において定義される「スパッタ条件1」と「XPS測定条件」を用いたXPS深さ方向分析によって得られたスペクトルにおける、前記表面層側の界面におけるZr酸化物由来のピーク高さ(HZr酸化物)とZrのピーク高さ(HZr)の比(HZr酸化物/HZr)が、2以上4以下であり、かつ、前記表面層側の界面から、下記「スパッタ条件2」と下記「XPS測定条件」を用いたXPS深さ方向分析で5分Arスパッタした点におけるHZr酸化物/HZrが0.5以上1.5未満である、請求項1~のいずれ一項に記載の部材。
【請求項5】
前記着色層は、
Zrを25at%以上55at%以下、
Oを10at%以上40at%以下、
CおよびNを合計で25at%以上45at%以下、並びに
Crを0at%以上10at%以下含み、
但し、前記Zr、O、CおよびN、並びにCrの組み合わせの合計が100at%であり、または、前記組み合わせ以外の元素を1.0at%以下含んでいてもよい、請求項1~のいずれか一項に記載の部材。
【請求項6】
前記撥水性は、前記表面層の水滴接触角が90°以上であることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の部材。
【請求項7】
前記着色層と前記表面層との間に中間層をさらに含んでなる、請求項1~6のいずれか一項に記載の部材。
【請求項8】
水栓、トイレを構成する部材、または浴室を構成する部材として用いられる、請求項1~7のいずれか一項に記載の部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着色層を含む部材に関する。より詳しくは、着色層と撥水性表面層とを含む部材に関する。
【背景技術】
【0002】
水道水を含む生活用水は、ケイ素、カルシウムを含む。これらの物質は水垢の要因となっている。生活用水に接する水まわり部材においては、水垢の付着を抑制し、あるいは付着した水垢を容易に除去することが求められる。水まわり部材表面への水垢等の汚れの付着を防止し、あるいは汚れの除去性を高めるために、水まわり部材を保護層で被覆するなどして部材表面を改質する技術が知られている。
【0003】
しかしながら、水まわり部材に保護層を設けることで着色が見られたり、保護層の傷つき・剥離などにより部材の外観が損なわれたりすることが問題であった。一方、水まわり部材の表面に汚れを付着させないことは困難であるため、清掃によって汚れを除去することが行われている。水垢等の落しにくい汚れを清掃する場合、特殊な洗剤を使って研磨するなどの方法が行われている。この方法は、日常的に行うには負担の大きな作業である。そこで、簡単な清掃で汚れを除去できることが求められている。
【0004】
保護層として、基材と直接化学結合させる単分子膜を用いた防汚技術が知られている。例えば、特開2004-217950号公報(特許文献1)には、水栓金具表面をフッ素アルキルホスホン酸で被覆することで、水垢易除去性が得られることが記載されている。単分子膜は、視認できない薄い層である。単分子膜を設けることにより、部材の外観が損なわれる可能性は低く、単分子膜の機能を付与することができる。また、単分子膜の結合を、ホスホン酸により結合することにより、単分子膜を緻密に形成することができる。これによって、基材表面の水酸基の大部分をシールドすることができ、基材表面への汚れ固着を防止し、汚れを容易に除去することができる。例えば、特開2000-265526号公報(特許文献2)には、陶器表面の水酸基をシールドする防汚層を設けることで、珪酸スケール汚れの固着を抑制することが記載されている。この防汚層として、陶器表面の水酸基とフッ化アルキル基含有有機珪素化合物、加水分解性基含有メチルポリシロキサン化合物、およびオルガノポリシロキサン化合物を混合したものを塗布・乾燥した防汚層が開示されている。
【0005】
一方、ある種の水まわり部材は、美観や耐食性、耐摩耗性を実現するために金属コートが施されており、金属種(クロム、ジルコニウム、チタン)によって色味を調整している。例えば、特開2003-247085号公報(特許文献3)には、Zr、Ti、Hf、C及びNから選ばれる1種または複数種を含むPVDカラー水栓の着色層の上に、薄い遷移層のコーティングを施すことで、化学物質による腐食や摩耗への耐性と色味を両立させることが記載されている。また、http://tanury.com/services/pvd/(非特許文献1)には、PVDにより形成される着色層が、TiN、TiCN、ZrCN等から成ることが記載されている。また特開2009-233920号公報(特許文献4)には、印刷原版の親水疎水パターン形成において、ジルコニア光触媒によるSAM(自己組織化単分子層)の分解を利用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-217950号公報
【文献】特開2000-265526号公報
【文献】特開2003-247085号公報
【文献】特開2009-233920号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】http://tanury.com/services/pvd/
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは実験により、撥水性の表面層により水垢を除去する機能が、下層の種類、具体的にはTiやZrを含む着色層によって経時的に著しく劣化することを見出した。そして、この現象の原因が上記金属元素により形成される酸化物皮膜(不動態)の光触媒作用によって有機成分を主とする表面層が分解されることにあると推察し、表面層の撥水機能を維持・発現させるための着色層の最適な元素組成、これを実現するための表面処理方法を見出した。
また、着色層の上に表面層を備える部材において、表面層が着色層の色調を変えないようにするためには、表面層をナノメートルオーダーの薄膜にする必要があるところ、このような薄膜は、可視光線のみならず、光触媒作用を惹起する紫外光も透過させるため、着色層を光触媒作用の小さい成分で構成することにより、部材の耐候劣化を食い止めることが可能となることを見出した。
本発明は、これらの知見に基づくものである。
【0009】
したがって、本発明は、着色層の光触媒活性を抑えて耐候性を向上させ、表面層による撥水機能も得られる衛生設備部材を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による部材は、
基材と、当該基材上にある着色層と、当該着色層上にある表面層とを含んでなる部材であって、
前記着色層は、
Zr、および場合により、CもしくはNのいずれか、またはCおよびNの双方を含み、
表面層側からXPS深さ方向分析でスパッタしてZrが検出された点を表面層側の界面と識別し、当該界面におけるZr酸化物由来のピーク高さ(HZr酸化物)とZrのピーク高さ(HZr)の比(HZr酸化物/HZr)が0を超え4.5未満であり、かつ
表面層側の界面からXPS深さ方向分析で5分Arスパッタした点におけるHZr酸化物/HZrが0以上3未満であり、
前記表面層は、
撥水性であり、
疎水基を含み、かつ
XPS深さ方向分析で得られるプロファイルにおいて、ある測定点における炭素原子濃度と、その1点前の測定点における炭素原子濃度との差の絶対値が1.0at%以下となった点を表面層の終点とし、スパッタの開始から前記終点までのスパッタ時間が5分以内であることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明による部材の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1 部材の構成
本発明による部材1は、図1に示すように、基材10と、基材10上にある着色層20と表面層40とを備えてなる。部材1は、着色層20と表面層40との間に中間層30を含んでいてもよい。
【0013】
1-1 表面層
本発明における表面層40は、有機分子を含む撥水性の層であり、表面層40より下の着色層20または基材10の色味を損なわない程度に透明かつ薄い。表面層40が撥水層であることで、ケイ素、カルシウム(水垢の原因物質)を含む水道水に接する衛生設備部材において、水垢の付着が抑制され、また付着した水垢を容易に除去することができる。
【0014】
表面層の材質
本発明において、表面層40は、高分子層、低分子層または単分子層であってよい。
【0015】
本発明において、高分子層は、高分子化合物を含有する層である。また低分子層とは、低分子化合物を含有する層である。高分子化合物および低分子化合物は、疎水基Rを有する。疎水基Rを有することにより、表面層40に撥水性を与える。
【0016】
疎水基Rの具体例
本発明において、疎水基Rはアルキル鎖を含むものである。疎水基Rは、アルキル鎖の水素の一部がフッ素により置換されたものを含んでもよいし、アルキル鎖の炭素の一部が他の原子に置換されたものを含んでもよい。例えば、疎水基Rは、炭化水素基、フルオロアルキル基、フルオロ(ポリ)エーテル基、フルオロアルコキシ基、フルオロアシル基、アルコキシ基、アシル基、アルキルチオ基、アルキルアミノ基からなる群から選択される1種以上を含むことができる。
【0017】
疎水基Rは、CとHとからなる炭化水素基であることが好ましい。炭化水素基は、飽和炭化水素基でもよいし、不飽和炭化水素基でもよい。また、鎖式炭化水素基でもよいし、芳香環などの環式炭化水素基でもよい。疎水基Rは、好ましくは鎖式飽和炭化水素基であり、より好ましくは直鎖式の飽和炭化水素基である。鎖式飽和炭化水素基は、柔軟な分子鎖であるため、下地層を隙間なく覆うことができ、耐水性を高めることができる。炭化水素基が鎖式炭化水素基の場合は、好ましくは炭素数が6以上25以下、より好ましくは炭素数が10以上18以下の炭化水素基である。炭素数が多い場合には、分子同士の相互作用が大きく、後述する自己組織化単分子層(SAM)の分子間隔を狭くすることができ、耐水性をさらに高めることができる。
【0018】
疎水基Rが飽和炭化水素基(すなわち、アルキル基)の場合、アルキル基の水素の一部が他の原子により置換されていてもよい。他の原子は、例えばハロゲン原子である。ハロゲン原子は、例えばフッ素原子である。アルキル基の水素の一部がフッ素原子により置換されたものは、例えばフルオロアルキル基である。疎水基Rがフルオロアルキル基を含むことで、高い撥水性の表面が得られる。ただし、高い水垢除去性を得るためにはハロゲン原子を含まない表面層の方が好ましい。またアルキル基の炭素の一部が他の原子に置換されていてもよい。
【0019】
高分子化合物および低分子化合物は、金属元素に対し結合性を有する官能基を有することが好ましい。この官能基としては、ホスホン酸基、リン酸基、ホスフィン酸基、カルボキシル基、シラノール基(あるいは、アルコキシシリル基などのシラノールの前駆体)、βジオール基、アミノ基、水酸基、ヒドロキシアミド基、αまたはβ-ヒドロキシカルボン酸基からなる群から選択される1種以上を含むことが好ましい。より好ましくは、官能基として、ホスホン酸基またはシラノール基(あるいは、アルコキシシリル基などのシラノールの前駆体)を含む。これらの官能基は、着色層20または中間層30に含まれる金属元素と結合していることが好ましい。言い換えれば、表面層40はこの官能基を介して着色層20または中間層30と結合していることが好ましい。
【0020】
表面層の好ましい構成
本発明において、表面層40は、疎水基Rおよび金属元素に対し配位性を有する官能基Xを含む層であり、表面層40は単層で形成された単分子層であることが好ましく、後述する非高分子の有機配位子R-Xからなる自己組織化単分子層(self assembled monolayers、SAM)であることがより好ましい。自己組織化単分子層は、分子が緻密に集合した層となるため、撥水性に優れる。
【0021】
SAMの厚さは、構成分子1分子の長さと同程度となる。ここで、「厚さ」とは、SAMのZ方向に沿う長さを指す。ここで、図1において、基材10から表面層40に向かう方向をZ方向とする。SAMの厚さは10nm以下、好ましくは5nm以下、より好ましくは3nm以下である。また、SAMの厚さは、0.5nm以上、好ましくは1nm以上である。SAMの厚さがこのような範囲になるような構成分子を用いることで、基材10を効率的に被覆することができ、水垢等の汚染物質の易除去性に優れた衛生設備部材を得ることができる。
【0022】
SAMの構成
本発明において、SAMは、有機分子が固体表面に吸着する過程で着色層20または中間層30の表面上に形成される分子集合体であり、分子同士の相互作用によって集合体構成分子が密に集合する。本発明において、SAMはアルキル基を含むことが好ましい。これによって、分子同士に疎水性相互作用が働き、分子が密に集合することができるため、汚れの易除去性に優れた衛生設備部材を得ることができる。
【0023】
SAMを構成する分子の定義
本発明の好ましい態様において、非高分子の有機配位子R-Xは、疎水基Rと、着色層20または中間層30に含まれる金属元素に対し配位性を有する官能基Xとを備える。非高分子の有機配位子R-Xは、官能基Xを介して着色層20または中間層30と結合する。ここで、「非高分子」とは、国際純正応用化学連合(IUPAC)高分子命名法委員会による高分子科学の基本的術語の用語集(日本語訳)の定義1.1(すなわち、相対分子質量の大きい分子で、相対分子質量の小さい分子から実質的または概念的に得られる単位の多数回の繰返しで構成された構造をもつもの。http://main.spsj.or.jp/c19/iupac/Recommendations/glossary36.htmlを参照)に該当しない化合物を意味する。SAMは、このような非高分子の有機配位子R-Xを用いて形成される層である
【0024】
非高分子の有機配位子R-X
本発明の好ましい態様において、表面層40は非高分子の有機配位子R-Xを用いて形成される層である。疎水基Rは、前述に記載されたものを用いることができる。疎水基Rは、CとHとからなる炭化水素基を含むことが好ましい。疎水基Rが有する炭化水素基の骨格内の1ないし2個所で炭素以外の原子が置換されていても良い。置換される原子としては、酸素、窒素、硫黄が挙げられる。好ましくは、疎水基Rの片末端(Xとの結合端ではない側の端部)はメチル基である。これによって、部材1の表面が撥水性となり、汚れの易除去性を高めることができる。
【0025】
Xの具体例
本発明において、官能基Xは、ホスホン酸基、リン酸基、ホスフィン酸基、カルボキシル基、シラノール基(あるいは、アルコキシシリル基などのシラノールの前駆体)、βジオール基、アミノ基、水酸基、ヒドロキシアミド基、αまたはβ-ヒドロキシカルボン酸基から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0026】
カルボキシル基、βジオール基、アミノ基、水酸基、ヒドロキシアミド基、αまたはβ-ヒドロキシカルボン酸基は、官能基同士で重合することなく、着色層20または中間層30に含まれる金属元素に配位(吸着)するため、緻密な表面層が形成される。
【0027】
本発明の好ましい態様によれば、Xは、リン原子を含む官能基のうち、ホスホン酸基、リン酸基、ホスフィン酸基から選ばれる少なくとも1種であり、より好ましくはホスホン酸基である。別の好ましい態様によれば、Xはシラノール基である。これにより、耐水性が高く、かつ汚染物質の易除去性に優れた部材を効率的に得ることができる。
【0028】
R-Xの構成
本発明において、表面層40は、二種類以上のR‐Xから形成されていてもよい。二種類以上のR-Xから形成された表面層とは、上述した化合物が複数種類混合されてなる表面層を意味する。また、本発明において、表面層40は、水垢易除去性を損なわない範囲において、R-X以外の有機分子を微量に含んでいてもよい。
【0029】
R-Xの具体例
一般式R-Xで表される有機ホスホン酸化合物は、好ましくはオクタデシルホスホン酸、ヘキサデシルホスホン酸、ドデシルホスホン酸、デシルホスホン酸、オクチルホスホン酸、ヘキシルホスホン酸、ペルフルオロデシルホスホン酸、ペルフルオロヘキシルホスホン酸、ペルフルオロオクチルホスホン酸であり、より好ましくはオクタデシルホスホン酸、ヘキサデシルホスホン酸、ドデシルホスホン酸、デシルホスホン酸である。さらに、より好ましくは、オクタデシルホスホン酸である。
【0030】
R-Xにおいて、ホスホン酸基を有する分子としてホスホン酸、リン酸基を有する分子として(有機)リン酸、ホスフィン酸基を有する分子としてホスフィン酸、カルボキシル基を有する分子としてカルボン酸、βジオール基を有する分子としてプロトカテク酸、没食子酸、ドーパ、カテコール(オルトヒドロキシフェニル)基、アミノ基を有する分子としてアミノ酸、水酸基を有する分子としてアルコール、ヒドロキシアミド基を有する分子としてヒドロキサム酸、αまたはβ-ヒドロキシカルボン酸基を有する分子としてサリチル酸、キナ酸を用いてもよい。
【0031】
1-2 中間層
本発明の好ましい態様によれば、着色層20と表面層40との間に中間層30を設けてもよい。中間層30は表面層40および基材10と良好な密着性を得ることができる。中間層30の好ましい例としては、金属原子と酸素原子とを含む層が挙げられる。中間層30において、前記金属原子は酸素原子と結合している。つまり、中間層30には、酸化状態の金属元素が含まれる。前記金属元素は、本発明においては、Cr、Siから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。また、中間層30は、下地の色味を損なわないため、表面層40と同じ程度のまたはそれ未満の厚みが好ましい。
【0032】
1-3 着色層
本発明において、着色層20は、Zr、および場合により、CもしくはNのいずれか、またはCおよびNの双方を含む無機層である。着色層20は、このような組成を有することにより、後述する表面層40を接着することが可能となり、また着色層20を有しない部材表面を対照として、着色層20を有する部材表面のΔL*、Δa*およびΔb*の少なくとも1つの絶対値が0を超える色を呈することが可能となる。
【0033】
好ましい着色層の構成
本発明において、着色層20は、好ましくは、
15at%以上65at%以下のZr、
10at%以上40at%以下のO、
25at%以上45at%以下のCおよびN、並びに
0at%以上20at%以下のZr以外の金属元素(但し、Tiを除く)を含み、
但し、前記Zr、O、CおよびN、並びにZr以外の金属元素(但し、Tiを除く)の組み合わせの合計が100at%であり、場合により、前記組み合わせ以外の元素を1.0at%以下含む。Zr以外の金属元素として、例えばCrを含んでもよい。
【0034】
本発明において、着色層20は、より好ましくは、
25at%以上55at%以下のZr、
10at%以上40at%以下のO、
25at%以上45at%以下のCおよびN、並びに
0at%以上10at%以下のZr以外の金属元素(但し、Tiを除く)を含み、
但し、前記Zr、O、CおよびN、並びにZr以外の金属元素(但し、Tiを除く)の組み合わせの合計が100at%であり、場合により、前記組み合わせ以外の元素を1.0at%以下含む。
【0035】
本発明において、着色層20は、表面層40側の面に酸化物皮膜を備えていることが好ましい。この酸化物皮膜は、厚みが30nmよりも小であることが好ましい。この酸化物皮膜により、表面層に含まれる上述の官能基Xと化学的に結合することが可能となり、表面層40は高い耐久性を得ることができる。ここで、酸化物皮膜とは、着色層20に含まれる金属元素の酸化物により形成される皮膜を指す。具体的には、着色層20に含まれるZrや、Tiを除く金属元素の酸化物により形成される皮膜を指す。酸化物皮膜の厚みは、上限が、30nm未満であることが好ましく、10nm未満であることがより好ましく、1nm未満であることがさらに好ましい。酸化物皮膜の厚みは、下限が、0nmよりも大であることが好ましい。
【0036】
1-4 基材
本発明において、基材10の材質は特に制限されず、例えば衛生設備部材の基材として一般的に使用されているもの使用することができる。
【0037】
基材10の支持材10a
基材10は、支持材10aを含んでなる。すなわち、基材10は支持材10aからなるものであるか、支持材10aと他の要素とを備えてなるか、または、支持材10aの表面層40の側に、後述する領域10bを含んでなるものか、のいずれかである。支持材10aの材質は、金属でもよいし、樹脂やセラミック、陶器、ガラスであってもよい。
【0038】
基材10の領域10b
また、基材10は領域10bを含んでいても良い。領域10bは支持材10aの表面層側の面に備えられる。領域10bは、金属を含む層または炭素を主として含む無機化合物からなる層であることが好ましい。領域10bは、例えば、金属めっきや物理蒸着法(PVD)により形成されることができる。領域10bは、金属元素のみから構成されていてもよいし、金属窒化物(例えば、TiN、TiAlNなど)、金属炭化物(例えば、CrCなど)、金属炭窒化物(例えば、TiCN、CrCN、ZrCN、ZrGaCNなど)等を含んでいてもよい。領域10bは支持材10aの上に直接形成されていてもよいし、領域10bと支持材10aの間に異なる層を含んでいてもよい。領域10bが設けられる基材10としては、例えば、黄銅や樹脂で形成された支持材10aに金属めっき処理により領域10bを設けた金属めっき製品が挙げられる。一方、領域10bが設けられない基材10としては、例えば、ステンレス鋼(SUS)のような金属成型品が挙げられる。基材10の形状は、特に限定されるものではなく、単純な平板のような形状であっても立体形状であってもよいが、立体形状であることが好ましい。
【0039】
2 部材の特定
本発明における部材1の特定方法は、以下の方法を用いることができる。先ず、部材1の表面が撥水性であることを確認し、部材1が表面層40を有することを確認する。次に、表面層40を構成する元素をXPS測定により特定する。また、表面層40および中間層30の厚みはXPS測定で元素の存在比を測定しながらスパッタリングすることで得られる。次に、着色層20および基材10の特定については、断面をSEM観察することで着色層20と基材10の境界を識別する。着色層20に含まれる元素は、XPS測定の深さ方向分析により特定する。上記の測定の前には表面に付着した汚れを除去するために前処理を行う。詳細を下記にて説明する。
【0040】
前処理
本発明において、測定前に部材1の表面を洗浄し、表面に付着した汚れを十分に除去する。例えば、測定前に部材1の表面をエタノールによる拭取り洗浄、および中性洗剤によるスポンジ摺動洗浄の後、超純水にて十分にすすぎ洗いを行う。また、部材1が、表面にヘアライン加工やショットブラスト加工などが施された、表面粗さが大きな衛生設備部材の場合は、測定する部位として、できるだけ平滑性の高い平面の部分を選んで測定する。平滑性の高い部分とは、例えば、粗い部分に比べて光を拡散するため、分光測色計等を用いて色差測定した場合に正反射成分を含まないSCE方式によるL*が5未満の点のことを指す。
【0041】
本発明において、部材1の表面を分析する場合、部材1の表面のうち、曲率半径が比較的大きい部分を選択することが好ましい。また、分析可能なサイズに切断したものを測定試料とすることが好ましい。切断時には、分析や評価をする部分をフィルム等で覆うことで、表面の損傷がないようにすることが好ましい。
【0042】
2-1 表面層
表面層の疎水基の特定
本発明において、表面層40がアルキル基を含む層であることは、以下の手順で詳細に確認できる。まず、表面層40の撥水性を評価し、撥水性の表面層40が形成されていることを確認する。撥水性の評価方法としては、後述の水滴接触角の評価等を用いることができる。この撥水性の表面層40に対し、XPS分析にて表面元素分析を行い、表面層40に含まれる元素を確認する。
【0043】
本発明において、表面層40が疎水基を含む層であることは、以下の手順で疎水基に含まれるアルキル鎖を確認することにより、判断できる。
【0044】
先ず、XPS分析にて表面元素分析を行い、疎水基に含まれるアルキル鎖のC-C結合に帰属される284-285eVのピークが検出されることを確認する。
【0045】
次に、赤外分光法もしくは表面増強ラマン分光法(Surface Enhanced Raman Spectroscopy:SERS)を用いて、疎水基に由来するピークシフト(cm-1)を確認する。
【0046】
赤外分光法を用いる場合は、高感度反射法(Reflection Absorption Spectroscopy)を用いることができる。高感度反射法による測定装置として、赤外線の入射角度を80°以上に可変可能な高感度反射測定が可能なアタッチメント(例えば、Harrick社製Seagull)を備えた赤外分光装置(FT-IR)を用いることができる。赤外分光装置は、例えば、Cary 630IR(アジレント)、Nicolet iS50(サーモフィッシャーサイエンティフィック)を用いることができる。
【0047】
高感度反射法によるFT-IRを用いた測定は、以下の条件で測定する。赤外線入射角度:85°、検出器:MCT検出器、波数分解能;2cm-1、積算回数:256。
まず、測定対象の衛生設備部材に用いられている基材のみ(基材表面に表面層等が形成されていないもの)を参照として測定する。なお、ここで、衛生設備部材に用いられている基材の代用として、測定対象の基材と同一の材料で構成された板材等を用いても良い。その後、切り出した衛生設備部材1を測定することでIRスペクトルを得る。IRスペクトルは、横軸は、波数(cm-1)、縦軸は透過率又は吸光度である。
【0048】
得られたIRスペクトルにおいて、以下を確認することにより、表面層40が疎水基を含むことを確認できる。メチル基に由来する波数:2960cm-1、2930cm-1付近、アルキル鎖(-(CH)n-)に由来する波数:2850cm-1付近、2920cm-1付近が検出されることでアルキル鎖の存在を確認できる。疎水基が水素の一部がフッ素により置換されたアルキル鎖を含む場合は、波数:1295cm-1付近、1200cm-1付近、1150cm-1付近が検出されることで水素の一部がフッ素により置換されたアルキル鎖の存在を確認できる。また、他の疎水基の場合は、これらに相当する波数を確認する。測定範囲で最も吸光度が低い範囲の100cm-1の吸光度の平均値の3倍以上あることで検出されているとみなし、存在を確認する。
【0049】
表面増強ラマン分光法を用いる場合は、透過型表面増強センサ(透過型SERSセンサ)および共焦点顕微ラマン分光装置を備えた表面増強ラマン分光分析装置を用いる。透過型表面増強センサは、例えば、特許第6179905号の実施例1に記載されるものを用いることができる。共焦点顕微ラマン分光装置は、例えば、NanoFinder30(東京インスツルメンツ)を用いることができる。
【0050】
表面増強ラマン分光法を用いた測定方法を以下に説明する。切り出した衛生設備部材1の表面に透過型表面増強センサを配置し、測定する。測定条件は、以下とする。Nd:YAGレーザー(532nm、1.2mW)スキャン時間(10秒)、グレーチング(800 Grooves/mm)、ピンホールサイズ(100μm)である。測定結果としてラマンスペクトルを得る。ラマンスペクトルは、横軸はラマンシフト(cm-1)、縦軸は信号強度である。
【0051】
得られたラマンスペクトルにおいて、メチル基に由来するラマンシフト:2930cm-1付近、アルキル鎖(-(CH-)に由来するラマンシフト:2850cm-1付近、2920cm-1付近が検出されることで疎水基の存在を確認できる。疎水基が水素の一部がフッ素により置換されたアルキル鎖を含む場合は、-(CF-に由来するラマンシフト:735cm-1付近、1295cm-1付近が検出されることで水素の一部がフッ素により置換されたアルキル鎖を確認できる。また、他のアルキル基の場合は、これらに相当するラマンシフトを確認する。ラマンシフトの信号は、測定範囲で最も信号強度が低い範囲の100cm-1の信号強度の平均値の3倍以上あることで検出されているとみなし、存在を確認する。
【0052】
表面層が単分子層である場合の疎水基(R)およびXの特定
本発明において、表面層40が、疎水基Rおよび金属元素に対し結合性を有する官能基Xを含む層であり、さらに単層で形成された単分子層である場合、表面層40がRおよびXを含む層であることは下記の方法により特定することができる。
【0053】
先ず、XPS分析にて表面元素分析を行い、表面層40に含まれる元素を確認する。
【0054】
次に、質量分析にて表面に存在する成分の分子に由来する質量電荷比(m/z)から分子構造を特定する。質量分析は、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF‐SIMS)または高分解能質量分析法(HR-MS)を用いることができる。ここで高分解能質量分析法とは、質量分解能が0.0001u(u:Unified atomic mass units)又は0.0001Da未満の精度で測定可能で精密質量から元素組成が推定できるものを指す。HR-MSとしては、二重収束型質量分析法、飛行時間型タンデム質量分析法(Q-TOF-MS)、フーリエ変換型イオンサイクロトロン共鳴質量分析法(FT-ICR-MS)、オービトラップ質量分析法などが挙げられ、本発明においては飛行時間型タンデム質量分析法(Q-TOF-MS)を用いる。質量分析は、部材1から十分な量のRおよびXを回収できる場合は、HR-MSを用いることが望ましい。一方、部材1のサイズが小さいこと等の理由で、部材から十分な量のRおよびXが回収できない場合は、TOF‐SIMSを用いることが望ましい。質量分析を用いる場合、イオン化したRおよびXに相当するm/zのイオン強度が検出されることで、RおよびXの存在を確認できる。ここでイオン強度は、測定範囲においてイオン強度が算出されている範囲の中で最も値が低いm/zを中心に前後50Daの平均値の信号の3倍以上を有することで検出されているとみなす。
【0055】
表面層のRおよびX認定時のTOF-SIMS測定条件
飛行時間型2次イオン質量分析法(TOF-SIMS)装置には、例えば、TOF-SIMS5(ION-TOF社製)を用いる。測定条件は、照射する1次イオン:209Bi3++、1次イオン加速電圧25kV、パルス幅10.5or7.8ns、バンチングあり、帯電中和なし、後段加速9.5kV、測定範囲(面積):約500×500μm、検出する2次イオン:Positive、Negative、Cycle Time:110μs、スキャン数16とする。測定結果として、RおよびXに由来する2次イオンマススペクトル(m/z)を得る。2次イオンマススペクトルは、横軸は質量電荷比(m/z)、縦軸は検出されたイオンの強度(カウント)として表される。
【0056】
表面層のRおよびX認定時のHR/MS測定条件
高分解能質量分析装置として飛行時間型タンデム質量分析装置(Q-TOF-MS)、例えば、Triple TOF 4600(SCIEX社製)を用いる。測定には、例えば、切り出した基材をエタノールに浸漬させ、表面層40を形成するために用いた成分(RおよびX)を抽出し、不要成分をフィルターろ過後、バイアル瓶(1mL程度)に移した後に測定する。測定条件は、例えば、イオン原:ESI/Duo Spray Ion Source、イオンモード(Positive/Negative)、IS電圧(-4500V)、ソース温度(600℃)、DP(100V)、CE(40V)でのMS/MS測定を行う。測定結果として、MS/MSスペクトルを得る。MS/MSスペクトルは、横軸は質量電荷比(m/z)、縦軸は検出されたイオンの強度(カウント)として表される。
【0057】
各層の原子濃度の測定
表面層40、中間層30、および着色層20の組成は、X線光電子分光法(XPS)により求める。測定前に、部材1を中性洗剤でスポンジ摺動後、超純水にて十分にすすぎ洗いを行うことが好ましい。XPS装置には、PHI QanteraII(アルバック・ファイ製)を用いることが好ましい。表面層40、中間層30、および着色層20に含まれる各元素を後述の「XPS測定条件」および「スパッタ条件1」を用いてXPS深さ方向分析を行うことによりスペクトルを得る。
【0058】
検出された原子の濃度は、得られたスペクトルから、データ解析ソフトウェアPHI MultiPak(アルバック・ファイ製)を用いて算出する。得られたスペクトルは、測定された各原子の電子軌道に基づくピークに対してShirely法でバックグラウンドを除去した後にピーク面積強度を算出し、データ解析ソフトウェアに予め設定されている装置固有の感度係数で除算することで補正処理を行う。測定した元素種全ての補正後のピーク面積強度の合計に対する、ある元素の補正後のピーク面積の割合を対象の原子濃度と定義し、at.%単位で算出する。
【0059】
なお、XPSは、軟X線を試料表面に照射し、試料表面のイオン化に伴い放出される光電子を補足してエネルギー分析を行う手法であり、得られるスペクトルは各電子軌道から放出される光電子ピークを示すため、元素は元素記号+電子軌道で表記する。(例:炭素の1s軌道から得られた光電子ピークをC1sと表記する)
【0060】
XPS測定条件
本明細書に記載の全てのXPS測定において、下記の「XPS測定条件」を用いる。
XPS測定条件
X線条件:単色化AlKα線(出力25W)
光電子取出角:45°
分析領域:100μmφ
中和銃条件:1.0V,10μA
Time Per Step:50ms
Sweeps:5回
Pass energy:112eV
分析元素(エネルギー範囲):Zr3d(177-187eV)、C1s(281-296eV)、N1s(394-406eV)、O1s(524-540eV)、Cr2p3(572-582eV)、Ti2p(452-463eV)、Si2p(98―108eV)
【0061】
本発明において、XPS測定とArイオンを使用したスパッタリングの併用による深さ方向分析を行うことにより、各層の深さ方向の元素組成等を特定する。なお、本発明において、XPS測定とArイオンを使用したスパッタリングの併用による深さ方向分析を「XPS深さ方向分析」と表す。XPS深さ方向分析では、Arイオンを使用したスパッタリングとXPS測定を交互に繰り返す。XPS測定の条件は、上述の「XPS測定条件」を用いることができる。スパッタリング時の条件(以下、「スパッタリング条件」とも言う)は、下記の各条件を用いることができる。XPS測定は、各スパッタリング条件の「スパッタサイクル」ごとに行う。XPS深さ方向分析により、スペクトル情報を得る。このスペクトル情報から元素組成について深さ方向プロファイル(プロファイル)を取得する。このプロファイルから深さ方向の元素組成を特定することができる。
【0062】
スパッタ条件1
(XPS深さ方向分析時のスパッタリング条件1、以下「スパッタ条件1」という)
不活性ガス種:Ar
スパッタ電圧:500V
スパッタ範囲:2mm×2mm
スパッタサイクル:10秒
なお、スパッタ電圧とはArイオン銃に印加する電圧、スパッタ範囲とはスパッタリングにより削る表面の範囲を指す。また、スパッタサイクルとは深さ方向の一測定ごとにArガスを連続して照射した時間を指し、スパッタサイクルの総和をスパッタ時間とする。
【0063】
スパッタ条件2
(XPS深さ方向分析時のスパッタリング条件2、以下「スパッタ条件2」という)
不活性ガス種:Ar
スパッタ電圧:500V
スパッタ範囲:2mm×2mm
スパッタサイクル:1分
【0064】
表面層の厚さ
本発明において、表面層40は、XPS深さ方向分析で得られるプロファイルにおいて、ある測定点における炭素原子濃度と、その1点前の測定点における炭素原子濃度との差の絶対値が1.0at%以下となった点を表面層40の終点とし、スパッタの開始から前記終点までのスパッタ時間が5分以内であり、3分以内であることがより好ましい。ここで、「XPS深さ方向分析で得られるプロファイル」とは、上述の「XPS測定条件」と「スパッタ条件1」を用いて、XPS深さ方向分析を行って得られたプロファイルである。またスパッタ時間の下限値は0.5分以上であることが好ましい。好適な範囲はこれらの上限値と下限値とを適宜組み合わせることが出来る。XPS深さ方向分析を行う前に、まず表面層の撥水性を確認し、撥水性の表面層が形成されていることを確認する。この撥水性の表面層に対し、無作為の3点を選んで測定を行い、これら3点の平均値を表面層の厚さと認定することが好ましい。
【0065】
表面層の好ましい炭素原子濃度
本発明において、表面層40が炭化水素基を含む場合、表面層40の炭素原子濃度は、好ましくは35at%以上であり、より好ましくは40at%以上であり、さらに好ましくは43at%以上であり、最も好ましくは45at%以上である。また、炭素原子濃度は、好ましくは70at%未満であり、より好ましくは65at%以下であり、さらに好ましくは60at%以下である。炭素原子濃度の好適な範囲はこれらの上限値と下限値とを適宜組み合わせることができる。炭素原子濃度をこのような範囲とすることにより、水垢易除去性を高めることができる。
【0066】
表面層の好ましい金属原子濃度
本発明において、表面層40の金属原子濃度は、好ましくは1.0at%以上10at%未満である。金属原子濃度をこの範囲とすることで、表面層40は緻密であることを示している。これによって、十分な耐水性を有し、水垢易除去性に優れた衛生設備部材を得ることができる。より好ましくは、金属原子濃度は1.5at%以上10at%未満である。これによって、さらに耐水性、および水垢易除去性を高めることができる。
【0067】
表面層の好ましい撥水性
本発明の衛生設備部材1、言い換えると、表面層40の水滴接触角は、好ましくは90°以上であり、より好ましくは100°以上である。水滴接触角は、静的接触角を意味する。静的接触角は、表面層40に2μlの水滴を滴下し、1秒後の水滴を基材側面から撮影することによって求められる。測定装置としては、例えば接触角計(型番:SDMs-401、協和界面科学株式会社製)を用いることができる。
【0068】
2-2.中間層
本発明において、中間層30は、XPS深さ方向分析により認定できる。先ず上述の「スパッタ条件1」と「XPS測定条件」を用いて、10分間XPS深さ方向分析を行う。これにより深さ方向プロファイルを得る。このプロファイルにおいて、炭素原子の検出が1点前の測定点との差が1.0at%以下となった点において、10at%以上検出される金属元素を確認する。当該金属元素の濃度が10分間スパッタした時に3.0at%以下になった場合、当該金属元素の存在範囲を中間層と認定できる。当該金属元素の濃度が10分間スパッタした時に3.0at%以下に下がらなかった場合、部材は中間層を含まないとする。
【0069】
2-3.着色層
着色層20は、以下の方法により特定できる。まず、着色層20を含む部材を着色層20と垂直方向(図1のZ方向)に切断し、イオンミリング装置を用いて断面ミリングを行い、平滑な断面を得る。この断面に対して、走査型電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分光法(SEM/EDX)を用いて観察を行うことで、着色層20および基材10の識別ができる。観察領域は、着色層20と基材10の界面が収まるようにSEM画像を取得する。そのSEM画像に対して、EDXによるマッピング分析を行うことで、着色層20および基材10の元素分布を視覚的に確認することができる。この元素分布の異なる境界面を、着色層20と基材10の境界面と識別する。これにより、着色層20を特定することができる。
【0070】
着色層のZr酸化度の特定
本発明において、着色層20は、表面層側の界面におけるZr酸化物由来のピーク高さ(HZr酸化物)とZrのピーク高さ(HZr)の比(HZr酸化物/HZr)が、0を超え4.5未満であり、かつ、表面層側の界面からXPS深さ方向分析で5分Arスパッタした点におけるHZr酸化物/HZrが0以上3.0未満である。着色層20におけるこれら領域のZrの酸化度が上記範囲内にあることにより、光触媒活性が抑えられ、その結果、部材の耐候劣化が抑制される。好ましくは、着色層20は、表面層側の界面におけるZr酸化物由来のピーク高さ(HZr酸化物)とZrのピーク高さ(HZr)の比(HZr酸化物/HZr)が、2以上4以下である。また、好ましくは、表面層側の界面からXPS深さ方向分析で5分Arスパッタした点におけるHZr酸化物/HZrが0.5以上1.5未満である。なお、ここで「表面層側の界面」とは、表面層からXPS深さ方向分析でスパッタしてZrが検出された点によって特定される表面層10と着色層20の界面を意味する。
【0071】
本発明において、着色層20のジルコニウム(Zr)の酸化度は、XPS測定で得られた酸化状態のZrのピーク高さおよびZrのピーク高さの比(HZr酸化物/HZr)を用いて、算出することができる。具体的な算出方法を以下に説明する。まず、以下の段落に記載の各位置でのZrスペクトルを得る。次に、得られた各Zrスペクトルをデータ解析ソフトウェアとしてMultiPak(アルバック・ファイ製)を用いて解析する。この際、ベースラインの両端を176eV、189eVに設定する。180eV付近のピーク高さをHZr、182eV付近のピーク高さをHZr酸化物として、それぞれのピーク高さを算出する。ピーク高さは、ピークの最大強度からそのピーク位置におけるベースライン強度を差し引いた値とする。
【0072】
着色層の表面層側の界面のZrスペクトル
本発明において、着色層20の表面層側の界面のZrの酸化度、つまり、表面層側の界面におけるZr酸化物由来のピーク高さ(HZr酸化物)とZrのピーク高さ(HZr)の比(HZr酸化物/HZr)は、以下のZrスペクトルをから求める。上述の「スパッタ条件1」と「XPS測定条件」を用いたXPS深さ方向分析を行う。これにより、Zrのピークが1.0at.%以上検出される最も表面層側に近い点におけるZrスペクトルを得る。
【0073】
着色層の表面層側の界面から所定深さのZrスペクトル
本発明において、着色層20の表面層側の界面から所定深さのZrの酸化度、つまり、表面層側の界面からXPS深さ方向分析で5分Arスパッタした点におけるZr酸化物由来のピーク高さ(HZr酸化物)とZrのピーク高さ(HZr)の比(HZr酸化物/HZr)は、以下のZrスペクトルから求める。まず、上述の「スパッタ条件1」と「XPS測定条件」を用いたXPS深さ方向分析を行う。この分析結果における、Zrのピークが1.0at.%以上検出される点を起点と特定する。その後、この起点から上述の「スパッタ条件2」と「XPS測定条件」を用いて5分間XPS深さ方向分析した点のZrのスペクトルを得る。
【0074】
着色層の組成分析
着色層20の組成はXPS深さ方向分析により得られる。まず、衛生設備部材1を上述の「スパッタ条件1」と「XPS測定条件」を用い、XPS深さ方向分析を行う。これにより得られたプロファイルにおいて、Zrのピークが1.0at.%以上検出される点を起点とする。この起点から、上述の「スパッタ条件2」と「XPS測定条件」を用い5分間XPS深さ方向分析した点における組成を着色層20の組成とする。この組成から、着色層20がZr、O、C、NおよびZr以外の金属元素(但し、Tiを除く)を含むこと、およびそれぞれの原子濃度を確認できる。
【0075】
部材の製造方法
本発明において、部材1は、基材10を用意し、当該基材上に着色層20を形成し、場合により中間層30を形成し、さらに表面層40を形成することで製造される。着色層20の形成は、例えば物理蒸着法(PVD)を用いることができる。また、表面層40を形成する前に、着色層20の表面を前処理することが好ましい。表面の汚れを除去する為の前処理として、中性洗剤洗浄、UVオゾン処理、アルカリ処理などが挙げられる。
【0076】
部材の用途
本発明において、「衛生設備」とは、建物の給排水設備または室内用の備品であり、好ましくは、室内用の備品である。また、好ましくは、水、例えば生活用水(工業用水でも良い)がかかり得る環境で用いられるものである。
【0077】
本発明において、水がかかり得る環境としては、水を用いる場所であれば良く、住宅や、公園、商業施設、オフィスなどの公共施設などの水を用いる場所が挙げられ、そのような場所としては、好ましくは、バスルーム、トイレ空間、化粧室、洗面所、台所などが挙げられる。
【0078】
本発明において、室内用の備品は、住宅や商業施設などの公共施設で用いられ、かつ人が触れるものである。室内用の備品は、好ましくは、バスルーム、トイレ空間、化粧室、洗面所、または台所などで用いられる備品である。本発明において、室内用の備品として使用される衛生設備部材としては、めっきやPVDコートしたものを含む製品が挙げられる。具体的には、水栓、排水金具、止水金具、洗面器、扉、シャワーヘッド、シャワーバー、シャワーフック、シャワーホース、手すり、タオルハンガー、キッチンカウンター、キッチンシンク、排水カゴ、キッチンフード、換気扇、排水口、大便器、小便器、温水洗浄便座、温水洗浄便座の便蓋、温水洗浄便座のノズル、操作盤、操作スイッチ、操作レバー、取っ手、ドアノブなどが挙げられる。本発明の衛生設備部材は、水栓、水栓金具、排水金具、止水金具、洗面器、シャワーヘッド、シャワーバー、シャワーフック、シャワーホース、手すり、タオルハンガー、キッチンカウンター、キッチンシンク、排水カゴであることが好ましい。特に、本発明の衛生設備部材は、水栓、バスルームまたはトイレ空間で用いられる部材として好適に使用できる。
【実施例
【0079】
以下の実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない
【0080】
3 部材の作製
3-1 基材および着色層
基材として、黄銅にニッケルクロムメッキした平板を作製した。この平板に物理蒸着法(PVD)によってジルコニウム(Zr)を含む着色層を形成した。
着色層は、アークイオンプレーティング方式にて形成した。ターゲットには、ジルコニウム板およびクロム板を用いた。成膜時の圧力は1Pa以下とした。成膜時のガスには、アルゴン、アセチレン、窒素を用いた。成膜時のガスの流量を変化させることによって、着色層の炭素および窒素の含有量を調整した。
【0081】
3-2 前処理
(実施例1~4、10、11、比較例3)
(着色層を形成した)基材表面の汚れを除去する為に、中性洗剤入りの水溶液で超音波洗浄し、その後流水で十分に基材を洗い流した。さらに、基材の中性洗剤を除去するため、イオン交換水で超音波洗浄し、その後エアーダスターで水分を除去した。
【0082】
(実施例5、8)
実施例1と同様の前処理を行った後、さらに、基材を光表面処理装置(PL21-200(S)、センエンジニアリング製)の中に導入し、5分間UVオゾン処理を行った。
【0083】
(実施例12、13)
実施例1と同様の前処理を行った後、さらに、基材を光表面処理装置(PL21-200(S)、センエンジニアリング製)の中に導入し、10分間UVオゾン処理を行った。
【0084】
(比較例1、2)
実施例1と同様の前処理を行った後、さらに、基材を光表面処理装置(PL21-200(S)、センエンジニアリング製)の中に導入し、30分間UVオゾン処理を行った。
【0085】
(実施例6、7、9)
実施例1と同様の前処理を行った後、さらに、基材を5wt%水酸化ナトリウム水溶液に25℃・5分間超音波を照射しながら浸漬したのち、イオン交換水にて十分にすすぎ洗いを行った。
【0086】
3-3 表面層の形成
(実施例1、2、5~7、10、11、比較例1~3)
表面層を形成するための処理剤として、オクタデシルホスホン酸(東京化成工業製、製品コードO0371)をエタノール(富士フイルム和光純薬製、和光一級)に溶解させた溶液を用いた。(着色層を形成した)基材を処理剤の中に1分以上浸漬し、エタノールにて掛け洗い洗浄した。その後、乾燥機にて120℃で10分間乾燥させた。以上より、基材表面に表面層を形成させた。
【0087】
(実施例3、4、8、9)
シリコーン系プライマー(製品名:KBM403、信越化学製)をイソプロピルアルコール(富士フイルム和光純薬製)に溶解させた溶液を、不織布(製品名:ベンコットM3-II、旭化成製)にしみ込ませ、(着色層を形成した)基材全体に塗り広げたのち、10分間自然乾燥させて中間層を形成した。
表面層を形成するための処理剤として、フッ化アルキル基を含有するコーティング剤(製品名:SURECO2101S、AGC製)を用いた。この処理剤を不織布(製品名:ベンコットM3-II、旭化成製)に浸み込ませ、中間層の表面全体に塗り広げた。その後、乾燥機にて120℃で30分間乾燥させ、表面層を形成した。
【0088】
(実施例12)
シリコーン系プライマー(製品名:KBM403、信越化学製)をイソプロピルアルコール(富士フイルム和光純薬製)に溶解させた溶液を、不織布(製品名:ベンコットM3-II、旭化成製)にしみ込ませ、(着色層を形成した)基材全体に塗り広げたのち、10分間自然乾燥させて中間層を形成した。
表面層を形成するための処理剤として、シラノール基を末端に有し、かつ分子鎖の一部にペルフルオロポリエーテルを有する高分子化合物(ペルフルオロポリエーテル基含有シラン化合物)を含有するコーティング剤を用いた。この処理剤を不織布(製品名:ベンコットM3-II、旭化成製)に浸み込ませ、中間層の表面全体に塗り広げた。その後、乾燥機にて120℃で30分間乾燥させ、表面層を形成した。
【0089】
(実施例13)
表面層を形成するための処理剤として、(1H,1H,2H,2H-ペルフルオロデシル)ホスホン酸(東京化成工業)をエタノール(富士フイルム和光純薬製、和光一級)に溶解させた溶液を用いた。(着色層を形成した)基材を処理剤の中に1分以上浸漬し、エタノールにて掛け洗い洗浄した。その後、乾燥機にて120℃で10分間乾燥させた。以上より、基材表面に表面層を形成した。
【0090】
4 特性の測定
上記のとおり作製した各部材に対し、以下の分析・評価を実施した。
【0091】
水滴接触角測定
測定前に、アルカリ性洗剤を用いて各部材をウレタンスポンジで擦り洗いし、超純水で十分にすすぎを行った。各部材の水滴接触角測定には、接触角計(型番:SDMs-401、協和界面科学株式会社製)を用いた。測定用の水は超純水を用い、滴下する水滴サイズは2μlとした。接触角は、いわゆる静的接触角であり、水を滴下してから1秒後の値とし、異なる5か所を測定した平均値を求めた。ただし、5か所中4か所の平均値±20°以上乖離する値を異常値と見なし、5か所の中に異常値を示す測定点が現れた場合は、異常値を除いて平均値を算出した。結果を表1に示す。
【0092】
水垢除去性
各部材の表面に、水道水を20μL滴下し、24時間放置することにより、部材表面に水垢を形成した。水垢が形成された部材を以下の手順で評価した。
湿らせた布を用いて、部材表面に対して軽い荷重(80gf/cm)を掛けながら、往復摺動させた。1往復を1回としてカウントし、下記回数ごとに部材表面を観察し、水垢が完全に除去できたときの回数を記録した。
・1~30回までは、5回ごとに部材表面を観察
・30~100回までは、10回ごとに部材表面を観察
往復摺動は、100回まで実施した。
なお、水垢除去の可否は、部材表面を流水で洗い流し、エアーダスターで水分を除去した後、部材表面に水垢が残存しているかを目視で判断した。結果を表1に示す。
【0093】
耐候性試験
耐候性試験は、下記条件にて行った。
促進試験装置:スーパーキセノンウェザーメーターSX75(スガ試験機社製)
フィルタ:試料表面フィルタ#320(スガ試験機社製)
ブラックパネル温度:63±3℃
水噴射:なし
試験時間:30時間
その他の条件については、JIS D 0205(1970年制定)に規定される条件を用いた。試験後の各部材に対して、上記の方法で、水垢除去性を評価した。
【0094】
着色層の色差測定
各部材の表面、および着色層を除去した面、すなわちニッケルクロムめっき面について、下記条件にて測色を行った。着色層の除去は、サンドペーパーで行った。サンドペーパーで、大まかに着色層を削った後、測色する部分については、ダイヤモンドペーストを用いて、金属光沢が出るまで研磨した。測定する部分について、XPS測定を行い、検出された金属元素がクロムのみであったことから、クロムめっき面であると判断した。
【0095】
(測色の条件)
装置:分光測色計CM-2600D(コニカミノルタ製)
バージョン:1.42
測定パラメータ:SCI
表色系:L*a*b*
UV設定:UV0%
光源:D65
観察視野角:10°
測定径:φ3mm
測定波長間隔:10nm
測定回数:3回
測定前待ち時間:0秒
校正:ゼロ校正後、白色校正(ゼロ校正:遠方の空間で校正、白色校正:校正用の白色板で校正)
【0096】
各部材の表面の測色で得られた値をL、a、b、ニッケルクロムめっき面の測色で得られた値をL、a、bとした。それぞれの値を用いて、下記式(1)より、着色層とクロムめっき面の色差ΔEを計算した。
【数1】
結果は表1に示されるとおりであった。
【0097】
表面層の厚さの測定
上述の「スパッタ条件1」と「XPS測定条件」を用いたXPS深さ方向分析により表面層の厚さを測定した。ある測定点における炭素原子濃度と、その1点前の測定点における炭素原子濃度との差の絶対値が1.0at%以下となった点を表面層の終点とし、スパッタの開始から前記終点までのスパッタ時間を表1に記載した。
【0098】
着色層のZrの酸化度の算出
着色層のジルコニウム(Zr)の酸化度は、XPS測定で得られた酸化状態のZrのピーク高さおよびZrのピーク高さの比(HZr酸化物/HZr)を用いて、算出した。Zrは180eV付近のピークの存在により確認し、酸化状態のZrは、182eV付近のピークの存在により確認した。
【0099】
着色層の表面層側の界面のZrの酸化度
着色層の表面層側の界面のZrの酸化度は、上述の「スパッタ条件1」と「XPS測定条件」を用いたXPS深さ方向分析により求めた。Zrのピークが1.0at.%以上検出される点におけるZrのスペクトルにより算出した。得られた着色層の表面層側の界面の酸化度を表1に示す。
【0100】
着色層の表面層側の界面から所定深さのZrの酸化度
着色層の表面層側の界面から所定深さのZrの酸化度は、以下のZrスペクトルから求めた。まず、上述の「スパッタ条件1」と「XPS測定条件」を用いたXPS深さ方向分析を行った。Zrのピークが1.0at.%以上検出される点を起点とした。その後、この起点から上述の「スパッタ条件2」で5分間Arスパッタした点、つまり「スパッタ条件2」と「XPS測定条件」を用いて5分間XPS深さ方向分析した点におけるZrのスペクトルにより算出した。得られた表面層側の界面から所定深さのZrの酸化度を表1に示す。
【0101】
着色層の組成分析
着色層の組成は、XPS深さ方向分析により評価した。まず、上述の「スパッタ条件1」と「XPS測定条件」を用いたXPS深さ方向分析を行った。Zrのピークが1.0at.%以上検出される点を起点とした。その後、上述の「スパッタ条件2」で5分間Arスパッタした点、つまり「スパッタ条件2」と「XPS測定条件」を用いて5分間XPS深さ方向分析した点における組成を着色層の組成とした。得られた着色層の組成を表1に示す。
【0102】
表面層に含まれる疎水基の確認
表面層がアルキル基を含むことを下記の方法により確認した。表面増強ラマン分光法を用いて確認した。表面増強ラマン分光分析装置としては、以下を用いた。表面増強ラマンセンサとして、特許第6179905号の実施例1に記載される透過型表面増強センサを用いた。共焦点顕微ラマン分光装置としてNanoFinder30(東京インスツルメンツ)を用いた。測定には、切り出した部材の表面に透過型表面増強ラマンセンサを配置し、測定した。測定条件は、Nd:YAGレーザー(532nm、1.2mW)スキャン時間(10秒)、グレーチング(800 Grooves/mm)、ピンホールサイズ(100μm)を用いた。
【0103】
実施例1、2、5~7、10、11においては、アルキル鎖に含まれる-(CH-に由来するラマンシフト2850cm-1、2920cm-1に信号ピークが検出された。実施例3、4、8、9、12、13においては、水素の一部がフッ素により置換されたアルキル鎖に含まれる-(CF-に由来するラマンシフト735cm-1、1295cm-1に信号ピークが検出された。
【0104】
【表1】
【符号の説明】
【0105】
1 部材、10 基材、10a 基材10の支持材、10b 基材10の一領域、20 着色層、30 中間層、40 表面層


図1