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特許7181288ダイノード電子放射表面上の汚染物質堆積を制御するための方法及び装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】ダイノード電子放射表面上の汚染物質堆積を制御するための方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 43/10 20060101AFI20221122BHJP
【FI】
H01J43/10
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2020515258
(86)(22)【出願日】2018-08-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-12-17
(86)【国際出願番号】 AU2018050930
(87)【国際公開番号】W WO2019071294
(87)【国際公開日】2019-04-18
【審査請求日】2021-05-31
(31)【優先権主張番号】2017904061
(32)【優先日】2017-10-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(73)【特許権者】
【識別番号】518272784
【氏名又は名称】アダプタス ソリューションズ プロプライエタリー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】シールズ,ウェイン
(72)【発明者】
【氏名】シャンリー,トビー
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-291658(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0035550(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 43/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)ダイノードの二次電子収率を増加させる及び/又は
(ii)ダイノードの電子収率の劣化の速度を低下させる、
ための方法であって、当該方法は、ダイノード電子放出面に堆積した汚染物質の電子衝撃誘起除去を引き起こす条件下で、ダイノード電子放射表面を電子流束に曝露するステップを含む、方法。
【請求項2】
前記条件は、汚染物質堆積の速度の正味の減少及び/又はダイノードの電子放射表面に存在する汚染物の含量の減少を提供するように、汚染物質堆積プロセスに対して電子媒介除去が強化されるようなものである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記条件は、前記電子媒介除去は前記汚染物質堆積プロセスよりも高い効率を有する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記電子媒介除去は、除去反応物もしくはその前駆体に少なくとも部分的に依存し、
前記除去反応物もしくはその前駆体は、前記ダイノード電子放射表面上もしくはその周囲に本質的に存在するか、又は前記ダイノード電子放射表面上もしくはその周囲に意図的に導入され、
前記除去反応物もしくはその前駆体は、前記方法条件下で、前記ダイノード電子放射表面上に堆積した汚染物質を除去すること、又は前記ダイノード電子放射表面上に堆積した汚染物質の除去を促進することができる、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記除去反応物は、前記ダイノード電子放射表面上に堆積した汚染物質に電子を供与することができるか、又は前記前駆体は、前記方法条件下で、前記ダイノード電子放射表面上に堆積した汚染物質に電子を供与することができる除去反応物に変換することができる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記除去反応物が前記ダイノード電子放射表面上に堆積した汚染物質との酸化還元反応に関与している、請求項4又は請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記除去反応物又はその前駆体が水である、請求項4から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記除去反応物又はその前駆体を、その内部で前記ダイノード電子放射表面が動作可能である真空チャンバに導入するステップを含む、請求項4から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記汚染物堆積プロセスは、堆積前駆体に少なくとも部分的に依存している、請求項2から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記堆積前駆体は、前記ダイノード電子放射表面上に堆積した汚染物質を形成することができ、前記ダイノード電子放射表面上に堆積した前記汚染物質は、前記除去反応物との酸化還元反応に関与することができる、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記除去反応物は、前記堆積前駆体と比較して、より高い濃度で又はより高い含量で、前記ダイノード電子放射表面上又はその周囲に存在する、請求項9又は請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記除去反応物及び前記堆積前駆体は両方とも気体であり、且つ前記除去反応物は前記堆積前駆体よりも高い分圧で存在する、請求項9から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記電子流束は、前記ダイノード電子放射表面上の汚染物質の堆積よりも前記ダイノード電子放射表面上に堆積した汚染物質の電子媒介除去を強化するように制御される、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記ダイノード電子放射表面に衝突する前記電子流束の電子電流密度が、前記ダイノード電子放射表面上の汚染物質の堆積よりも汚染物質の電子媒介除去に有利になるように制御される、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記電子電流密度は、ある範囲の上限もしくは下限に、範囲制限内に、制御され、これにより、電子密度のいずれの増加は、電子電流密度による汚染物質のエッチングの速度を増加させるが、汚染物質の堆積の速度は比例して増加しない、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
増幅チェーン内の一連の個別のダイノードに適用される場合、当該方法は、チェーン内のダイノード間で電子電流密度を個別に調整する又は設定するステップを含み、それにより、流束密度は、汚染物質の堆積速度が電子制限されたダイノードでは比較的低く、且つ、汚染物質の堆積速度が堆積前駆体制限されたダイノードでは比較的高い、請求項9から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記ダイノード電子放射表面は、電子増倍管のコンポーネントであって、当該電子増倍管は、1つ以上のダイノード放射表面上の又はその周囲の除去反応物の含量、濃度、又は分圧を制御するための手段を含む、請求項1から16のいずれか一項に記載の方法
【請求項18】
前記電子増倍管は、除去反応物又はその前駆体を1つ以上のダイノード放射表面上又はその周囲に導入するための手段を含む、請求項17に記載の方法
【請求項19】
前記電子増倍管は、除去反応物もしくはその前駆体を1つ以上のダイノード電子放射表面上もしくはその周囲に運ぶように構成された導管、又は1つ以上のダイノード電子放射表面上又はその周囲に配置された吸収材料をさらに含み、真空チャンバが所望の圧力に達することを可能にするように、前記吸収材料は、ある期間にわたって貯蔵された水を脱ガスするように構成される、請求項18に記載の方法
【請求項20】
前記電子増倍管は、1つ以上のダイノード電子放射表面上又はその周囲に汚染物質堆積前駆体の含量、濃度、又は分圧を制御するための手段を含む、請求項17から19のいずれか一項に記載の方法
【請求項21】
前記電子増倍管は、1つ以上のダイノード電子放射表面上又はその周囲に汚染物質堆積前駆体の含量、濃度、又は分圧を増やすための手段、及び汚染物質堆積前駆体の含量、濃度、又は分圧を減らすための手段を含む、請求項17から20のいずれか一項に記載の方法
【請求項22】
ダイノード電子放射表面から汚染物質を除去するための、又はダイノード電子放射表面上の汚染物質の蓄積を抑制するための方法であって、当該方法は、請求項1~21のいずれか一項に記載の方法ステップを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、一般に科学分析機器のコンポーネントに関する。より詳細には、本発明は、電子増倍管で使用されるダイノードの動作寿命を延ばすか、そうでなければダイノードの性能を改善する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
多くの科学的用途では、電子信号を増幅する必要がある。例えば、質量分析計では、分析対象物がイオン化されて一連の荷電粒子(イオン)が形成される。次に、生成されたイオンは、典型的には、電界もしくは磁界への加速及び曝露によって、それらの質量電荷比に従って分離される。分離されたシグナルイオンは、イオン検出器の表面に衝突して、1つ又は複数の二次電子を生成する。結果は、質量電荷比の関数として、検出されたイオンの相対存在量のスペクトルとして表示される。
【0003】
他の用途では、検出される粒子はイオンではなくてもよく、中性原子、中性分子、又は電子である場合がある。いずれにせよ、粒子が衝突する検出器表面はまだ提供されている。
【0004】
入力粒子が検出器の衝突面に衝突した結果生じる二次電子は、典型的には、電子増倍管によって増幅される。電子増倍管は一般に二次電子放出によって動作し、それにより、増倍管の衝突面に対する単一又は複数の粒子の衝突により、衝突面の原子に関連する単一又は(好ましくは)複数の電子が放出される。
【0005】
電子増倍管の1つのタイプは、ディスクリートダイノード電子増倍管として知られている。このような増倍管(multipliers)には、ダイノードと呼ばれる一連の表面を包含し、シリーズ内の各ダイノードはますます正の電圧に設定される。各ダイノードは前のダイノードから放出された二次電子からの衝撃で1つ以上の電子を放出することができ、それにより入力信号を増幅する。
【0006】
別のタイプの電子増倍管は、単一の連続ダイノードを使用して動作する。これらのバージョンでは、連続ダイノード自体の抵抗材料が、放射表面の長さに沿って電圧を分配する分圧器として使用される。
【0007】
質量分析機器の開発により、機器のスループットが向上し、これらの増加により、ダイノードベースの検出器で処理されるイオン電流が同様に増加した。検出器は、ゲイン係数に従ってイオン電流を増幅して、単一のイオン衝撃の信頼性の高い検出を提供する。検出器が高いダイナミックレンジを示すこと、及びさらに大きな出力電荷の抽出に耐えることができることが非常に望ましい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ダイノードベースの検出器の感度とゲインが時間とともに低下することは、当技術分野の問題である。ダイノードの表面は、検出器の真空システムからの汚染物質でゆっくりと覆われ、それによって、二次電子放出が減少し、電子増倍管のゲインが減少する原因となる、と考えられる。このプロセスを補正するには、増倍管に印加される動作電圧を定期的に増やして、必要な増倍管ゲインを維持する必要がある。ただし、最終的には、増倍管の交換が必要になる。
【0009】
従来の当業者は、ダイノードの表面積を増加させることにより、ダイノードの老化の問題に取り組んできた。表面積の増加は、電子増倍プロセスの作業負荷をより大きな領域に分散するように作用し、エージングプロセスを効果的に遅くし、且つ動作寿命とゲインの安定性を改善する。このアプローチは、サービス寿命をわずかに延長するだけであり、もちろん、質量分析計を備えた検出器ユニットのサイズの制約によって制限される。
【0010】
ダイノードベースの検出器の耐用年数を延ばすための方法及び装置を提供することにより、従来技術の問題を克服又は改善することが本発明の態様である。先行技術に対する有用な代替物を提供することはさらなる態様である。
【0011】
文書、行為、材料、デバイス、物品(articles)などの議論は、本発明の文脈を提供する目的のためだけに本明細書に含まれる。これらの事項のいずれか又はすべては、先行技術の基礎の一部を形成するか、本出願の各請求項の優先日前に存在した本発明に関連する分野の一般的な一般知識であったことは示唆又は表明されていない。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明の概要
第1の態様において、但し必ずしも最も広い態様ではない、本発明は、(i)ダイノードの二次電子収量を増やす、及び/又は(ii)ダイノードの電子収量の劣化速度を減らす、方法を提供する。当該方法は、ダイノード電子放射表面上に堆積した汚染物質の電子衝撃誘起化学的除去を強化する条件下で、ダイノード電子放射表面を電子流束(flux)に曝露するステップを含む。
【0013】
第1の態様の一実施形態において、前記条件は、汚染物質の堆積速度の正味の減少及び/又はダイノード電子放射表面に存在する汚染物質の量の減少を提供するために、電子誘導化学的除去は汚染物質堆積プロセスと比較して強化されるというものである。
【0014】
第1の態様の一実施形態において、前記条件は、電子誘導化学的除去が汚染物質堆積プロセスよりも高い速度を有するようなものである。
【0015】
第1の態様の一実施形態において、電子媒介化学的除去は、除去反応物又はその前駆体に少なくとも部分的に依存している。前記除去反応物又はその前駆体は、ダイノード電子放射表面上もしくは周囲に本質的に存在するか、又はダイノード電子放射表面上もしくは周囲に意図的に導入されるかのいずれかである。前記除去反応物又はその前駆体は、ダイノード電子放射表面に堆積した汚染物質を除去する又は除去を容易にする方法条件下で可能である。
【0016】
第1の態様の一実施形態において、前記除去反応物は、ダイノード電子放射表面に堆積した汚染物質に電子を供与することができ、又は前記前駆体は、当該方法の条件下で前記ダイノード電子放射表面に堆積した前記汚染物質に電子を供与できる除去反応物に変換できる。
【0017】
第1の態様の一実施形態において、前記除去反応物は、前記ダイノード電子放射表面に堆積した前記汚染物質との酸化還元反応に関与する。
【0018】
第1の態様の一実施形態において、前記除去反応物は、酸化還元反応の文脈では酸化剤であり、且つ前記汚染物質は酸化還元反応の文脈では還元剤である。
【0019】
第1の態様の一実施形態において、前記除去反応物又はその前駆体は水である。
【0020】
第1の態様の一実施形態において、前記除去反応物又はその前駆体は、気体又は蒸気又は吸着質(adsorbate)である。
【0021】
第1の態様の一実施形態において、前記除去反応物又はその前駆体は、ダイノード電子放射表面上に汚染物質として堆積することができない。
【0022】
第1の態様の一実施形態において、前記除去反応物又はその前駆体は、炭素ベースではなく、炭化水素ではなく、又は炭素原子を含まない。
【0023】
第1の態様の一実施形態において、当該方法は、前記除去反応物又はその前駆体を、前記ダイノード電子放射表面が動作可能である真空チャンバに導入するステップを含む。
【0024】
第1の態様の一実施形態において、前記汚染物質堆積プロセスは、堆積前駆体に少なくとも部分的に依存している。
【0025】
第1の態様の一実施形態において、前記堆積前駆体は、前記ダイノード電子放射表面上もしくはその周囲に存在するか、又はダイノード材料内に存在する。
【0026】
第1の態様の一実施形態において、前記堆積前駆体は、前記ダイノード電子放射表面に堆積する汚染物質を形成することができる。前記ダイノード電子放射表面に堆積する前記汚染物質は、前記除去反応物との酸化還元反応に関与することができる。
【0027】
第1の態様の一実施形態において、前記堆積前駆体は、炭素ベースであるか、炭化水素であるか、又は炭素含有分子である。
【0028】
第1の態様の一実施形態において、前記堆積前駆体は、前記ダイノード電子放射表面、又は近接表面、又はダイノード表面関連物質の上又はその周囲のガス又は蒸気である。
【0029】
第1の態様の一実施形態において、前記除去反応物前駆体は、前記堆積前駆体と比較して、より高い濃度で、又はより高い量で、前記ダイノード電子放射表面上又は周囲に存在する。
【0030】
第1の態様の一実施形態において、前記除去反応物質前駆体と前記堆積前駆物質は両方とも気体であり、且つ前記除去反応物質前駆物質は前記堆積前駆物質よりも高い分圧で存在する。
【0031】
第1の態様の一の実施形態において、前記ダイノード放射表面に衝突する前記電子流束の電子電流密度は、前記ダイノード電子放射表面への汚染物質の堆積に対する汚染物質の電子誘導化学的除去を強化するように制御される。
【0032】
第1の態様の一実施形態において、前記電子電流密度は、範囲の上限もしくは下限に、又は範囲制限内に制御され、それにより、汚染物質堆積速度が質量輸送制限される状況では、電子電流密度のいずれの増加は、前記汚染物質堆積速度を増加させない。
【0033】
第1の態様の一実施形態において、前記電子電流密度は、範囲の上限もしくは下限に、又は範囲制限内に制御され、それにより、電子密度のいずれの増加は、汚染物質除去の速度を増加させる。
【0034】
第1の態様の一実施形態において、前記電子電流密度は、範囲の上限もしくは下限に、範囲制限内に、制御され、それにより、電子電流密度のいずれの増加は、電子電流密度による汚染物質除去の速度を増加させるが、汚染物質の堆積速度を比例して増加させない。
【0035】
第1の態様の一実施形態において、当該方法は、増幅チェーン内の一連のディスクリートダイノードに適用され、且つ当該方法は、チェーン内のダイノード間で電子電流密度を差動的に制御するステップを含む。それにより、流束密度は、汚染物質の堆積速度が電子制限されているダイノードでは比較的低く、且つ汚染物質の堆積速度が堆積前駆体制限されているダイノードでは比較的高い。
【0036】
第2の態様において、本発明は、一連のディスクリートダイノード又は連続ダイノードを含む電子増倍管を提供する。前記電子増倍管は、1つ以上のダイノード放射表面上又はその周囲の除去反応物の量、濃度、又は分圧を制御する手段を含む。
【0037】
第2の態様の一実施形態において、前記電子増倍管は、1つ以上のダイノード電子放射表面上又はその周囲に除去反応物又はその前駆体を導入する手段を含む。
【0038】
第2の態様の一実施形態において、除去反応物又はその前駆体を導入する前記手段は、除去反応物又はその前駆体源を含む。
【0039】
第2の態様の一実施形態において、前記電子増倍管は、除去反応物又はその前駆体を1つ以上のダイノード電子放射表面上又はその周囲に運ぶように構成された導管をさらに含む。
【0040】
第2の態様の一実施形態において、前記除去反応物は、前記ダイノード電子放射表面に堆積した汚染物質に電子を供与することができ、又は前記前駆体は、当該方法の条件下で前記ダイノード電子放射表面に堆積した前記汚染物質に電子を供与できる除去反応物に変換できる。
【0041】
第2の態様の一実施形態において、前記除去反応物は、前記ダイノード電子放射表面に堆積した前記汚染物質との酸化還元反応に関与する。
【0042】
第2の態様の一実施形態において、前記除去反応物は、前記酸化還元反応の文脈では酸化剤であり、且つ前記汚染物質は、前記酸化還元反応の文脈では還元剤である。
【0043】
第2の態様の一実施形態において、前記除去反応物又はその前駆体は水である。
【0044】
第2の態様の一実施形態において、前記除去反応物又はその前駆体は気体又は蒸気である。
【0045】
第2の態様の一実施形態において、前記除去反応物又はその前駆体は、前記ダイノード電子放射表面上に汚染物質として堆積することができない。
【0046】
第2の態様の一実施形態において、前記除去反応物又はその前駆体は、炭素ベースではなく、炭化水素ではなく、又は炭素原子を含まない。
【0047】
第2の態様の一実施形態において、除去反応物又はその前駆体を1つ以上のダイノード放射表面上又はその周囲に導入する前記手段は、気体又は蒸気を導入するように構成される。
【0048】
第2の態様の一実施形態において、前記電子増倍管は、1つ以上のダイノード放射表面上又はその周囲の汚染物質堆積前駆体の量、濃度、又は分圧を制御する手段を含む。
【0049】
第2の態様の一実施形態において、前記電子増倍管は、1つ以上のダイノード放射表面上又はその周囲の除去反応物又はその前駆体の量、濃度又は分圧を増加させる手段、及び汚染物質堆積前駆体の量、濃度又は分圧を減少させる手段を含む。
【0050】
第3の態様において、本発明は、ダイノード電子放射表面から汚染物質を除去する、又はダイノード電子放射表面への汚染物質の蓄積を抑制するための方法を提供する。当該方法は、第1の態様のいずれの実施形態の方法ステップを含む。
【0051】
第3の態様の一実施形態において、当該方法は、第2の態様のいずれの実施形態の電子増倍管で実施される。
【図面の簡単な説明】
【0052】
図面の簡単な説明
図1図1は、ダイノード表面に堆積した汚染物質の表面で発生する競合する汚染物質の堆積と化学物質除去プロセスの概略図である。
図2図2は、使用さらた(エージングされた)増倍管(multiplier)のダイノード表面の炭素汚染の相対レベルを示すグラフである(ダイノード#20:最後のダイノード)。
図3図3は、(i)新しい増倍管のダイノード表面と古い増倍管のダイノード表面、(ii)ダイノード3、(iii)ダイノード10、(iv)ダイノード19、及び(v)非常に厚い炭素層で覆われた、特別に準備された重度に汚染されたダイノードの表面(比較のため)、からの二次電子収量を示すグラフである。
図4図4は、使用された(エージングされた)増倍管の各ダイノードに入射する理論上の総電子線量を示すグラフである。
図5図5は、オージェ電子分光法(AES)を使用して取得した、頻繁に使用される増倍管のダイノード表面の炭素汚染の相対量の深さプロファイルを示すグラフである。ダイノード1は第1のダイノードに対応し、ダイノード19はnear出力である。
図6図6は、ゲイン減衰後の増倍管ゲインの回復を示すグラフである。回復は、汚染物質の堆積プロセスよりも化学物質除去プロセスを優先する増倍管の条件を設定することにより達成された。
図7】ダイノードプレート110の終端領域の周りの真空チャンバに水を導入するように構成された連続ダイノード検出器100を示している。
【発明を実施するための形態】
【0053】
発明の詳細な説明
この説明を検討した後、本発明が様々な代替実施形態及び代替用途でどのように実施されるかは当業者には明らかであろう。しかし、本発明の様々な実施形態が本明細書で説明されるが、これらの実施形態は、例としてのみ提示され、限定ではないことが理解される。したがって、さまざまな代替実施形態のこの説明は、本発明の範囲又は幅を限定するものと解釈されるべきではない。さらに、利点又は他の態様の記述は、特定の例示的な実施形態に適用され、必ずしも特許請求の範囲に含まれるすべての実施形態に適用されるわけではない。
【0054】
本明細書の説明及び特許請求の範囲を通して、「含む(comprise)」という単語及び「含むこと(comprising)」及び「含む(comprises)」などの当該単語の変形は、他の添加物、成分、整数又はステップを除外するものではない。
【0055】
本明細書全体を通して「一実施形態」又は「一実施形態」への言及は、実施形態に関連して説明される特定の特徴、構造又は特性が本発明の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。したがって、本明細書全体の様々な場所での「一実施形態において」又は「一実施形態において」というフレーズの出現は、必ずしもすべてが同じ実施形態を指しているわけではないが、すべてが同じ実施形態を指してもよい。
【0056】
本明細書に記載される本発明のすべての実施形態が本明細書に開示されるすべての利点を有するわけではないことが理解されるであろう。いくつかの実施形態は単一の利点を有してもよいが、他の実施形態は全く利点を有しておらず、単に従来技術の有用な代替物である。
【0057】
本発明は、電子増倍管の通常の動作に起因するダイノード表面での電子駆動炭素の蓄積は、検出器の感度とゲインの経時変化の原因であるという出願人の発見に少なくとも部分的に基づいている。電子駆動炭素除去プロセスを強化すると、堆積した炭素ベースの材料が除去され、結果として炭素堆積速度が正味減少し、且つ場合によってはダイノード表面の実際の洗浄が行われることがわかっている。
【0058】
理論に制限されることを望まないが、炭素系材料の蓄積に関与する物理的プロセスには、ダイノードに入射する電子流束によって引き起こされるダイノード表面への汚染物質の堆積が含まれることが提案されている。炭素ベースの反応物の場合、このプロセスにより、ダイノード表面に炭素質が蓄積し、表面の特性(character)とその特性(properties)(二次電子放射率の減少を包含する)が変化する。一般にはるかに効率が悪い競合プロセスは、同じ電子流束によるダイノード表面の周囲の酸素ベースの分子の解離である。前記解離は、ダイノード表面から堆積した炭素をエッチングする除去反応物として機能するフリーラジカルを形成する。
【0059】
入射電子電流密度と衝撃エネルギーを操作することにより、競合するプロセスを調整して汚染物質の除去を強化できる。理論に制限されることを望むものではないが、各プロセスが異なる速度で進行する可能性があるため、汚染物質堆積プロセスよりも汚染物質除去プロセスを強化することが可能であることが提案される。速度の有用な差異は、汚染物質除去プロセスの速度を増加させるように作用する過剰な電子とともに電子流束で汚染物質堆積プロセスを過飽和にすることにより達成され得る。
【0060】
したがって、電子増倍管の通常の動作条件下での堆積プロセスは、除去プロセスよりも高い効率を有する。しかし、堆積速度は、電子放射の下でのダイノード表面領域への堆積前駆体(例えば、増倍管に存在する炭素質ガス汚染物質など)の到達速度によって制限される。あるいは、堆積速度は、ダイノード表面上の吸着物、又は吸着粒子、又は上層(overlayer)の存在によって制限される場合がある。対照的に、通常の動作条件下では、化学物質除去プロセスはより低いレートで発生し、且つダイノード表面での除去反応物分子の高い到達率の条件下で電子流束が高くても飽和しない。
【0061】
本発明者らは、電子増倍管内の条件は、正味の汚染物質堆積の比較的高いレートから(i)比較的低いレートまた正味の純汚染物質堆積に、又は(ii)正味の純汚染物質のゼロレートに、又は(iii)正味の汚染物質のネガティブレート(すなわち、ダイノード表面に堆積する汚染物質量の正味の減少)に、変化するように変更されてもよいことを提案する。前記変更は、化学物質除去プロセスの効率が比較的低いために達成される可能性があり、且つ、堆積プロセスは、汚染物質堆積前駆体の制限により、電子電流密度によって飽和する。
【0062】
次に、ダイノード表面(15)に関連する炭素質汚染物質の既存の塊(10)に関係する、汚染物質の堆積と汚染物質の除去の競合するプロセスを示す図1の図を参照する。炭素質堆積前駆体分子(20)。前記堆積前駆体分子は、有機(炭素含有)分子、例えば小(例えば、メタン、エタン)から大までの範囲の炭化水素及びフルオロカーボン、及び複合分子(complex molecules)、例えばタンパク質、糖及び油など、を包含する。
【0063】
除去反応物(25)は、ダイノード表面(15)を取り巻く及び/又はで吸着される環境(30)に存在する。入ってくる電子(35)は、ダイノード表面(15)に結合されるように、前駆体を化学的に変化させるため、堆積前駆体分子(20)に作用する。汚染物質堆積のこのプロセスは、汚染物質の塊(mass)(10)を成長させる効果がある。入ってくる電子(35)が前駆物質の堆積を促進して汚染物質の塊(10)を増加させる間、電子(35)は汚染物質の塊(10)の化学的除去にも寄与し、したがって塊(10)を収縮させる効果がある場合がある。堆積プロセスよりも化学的除去プロセスに有利になるように、本発明に従って条件を操作してもよい。
【0064】
したがって、堆積と除去との2つの競合するプロセスによって炭素質材料が裏返される限り、汚染物質塊(10)は動的塊(dynamic mass)であることが理解されよう。汚染物質(10)が成長するか、縮小するか、又は同じサイズのままであるかは、堆積プロセスと除去プロセスとのバランス(又はバランスの欠如)によって決まる。
【0065】
揮発した除去生成物(40)は汚染物質塊(10)から排出され、且つガス流によって運び去られ手もよい。揮発性生成物(40)は周期的に機能し、且つ堆積前駆体分子(20など)として寄与することが可能であるが、条件が堆積プロセスよりも除去プロセスに有利である限り、最終(net)結果は汚染物質堆積の減少になる。
【0066】
堆積プロセスが支配的である場合でも、除去速度のいずれの改善は、少なくとも汚染物質塊(10)の成長を遅くする。
【0067】
図1のスキームにおいて、酸化剤除去反応物(25)は除去プロセスを促進するが、堆積プロセスには関与しない。
【0068】
本発明によれば、電子増倍管の物理的構成及び/又は動作パラメータを設定することを、汚染物質除去プロセスを促進するために使用することができる。例えば、電流密度を増加させるため、電子「ビーム」を各ダイノード表面の領域に空間的に集束させるため、静電場を使用することができる。同様に、電流密度の増加は堆積プロセスを飽和させるが、電流密度の高い領域で汚染物質の除去速度を増加させるように作用する。例えば、ダイノードの側面にわずかに負のバイアスをかけることにより、エリア内の電流密度を増加させることが達成できる。電流密度は、ダイノードの形状、静電界の形状と強度、又は増倍管全体のダイノード間電圧の分布によって制御することもできる。当業者は、電流密度を操作することができる他の手段に精通しており、及びしたがって、発明力を発揮することなく代替案を思いつくことができるであろう。
【0069】
磁気増倍管の場合、電子ビームは磁場を使用してしっかりと集束される。このフィールドは、オプションとして、近位磁気グリッドによって制御できる。
【0070】
好ましくは、電子ビームは、ダイノードチェーンの末端ダイノードでより高い電流密度を生成するため、及びチェーン内の最初のダイノードに広がるように集束される。最後/末端のダイノードでは炭素の堆積がより問題となるため、これらのダイノードでの電子電流密度が大きくなると、チェーン内のすべてのダイノードの放射率を正規化するのに役立る。(電子電流が比較的低いため)炭素堆積速度がフロントエンドで飽和していない場合、電流密度を上げると汚染物質堆積速度が望ましくなく増加する可能性がある。
【0071】
電子ビームの空間的広がりを操作することに加えて、又はその代わりに、ダイノード間電圧を制御することにより、各ダイノードの歩留まりを操作することができる。この戦略は、増倍管のフロントエンドで比較的高い歩留まりを確立するために使用できるため、電子電流はダイノードチェーンに沿って急速に増加し、且つ電子ビームはより早く絞ることができる。
【0072】
あるいは、比較的低い歩留まりを前部で使用することができ、及びしたがって、電流はバックエンドで急速に増加し、それにより、大量輸送が制限された堆積速度の確立が促進され得る。堆積速度を飽和させるために特に高い電流密度が必要な場合、ビームがどのように狭くなるかに関係なく、最後の1又は2ダイノードまで必要な電流が得られない場合がある。
【0073】
例示的な実施形態において、少なくとも約50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、又は200nA/mmの電流密度を使用することができる。約5~1000eVの衝撃エネルギーを使用することができる。
【0074】
衝突エネルギーの入射電子電流密度の操作に加えて、又はその代わりに、除去反応物又はその前駆体の存在又は導入によって除去プロセスが促進される場合がある。
【0075】
いくつかの電子増倍管アプリケーション(例えば、液体クロマトグラフィー質量分析など)では、ダイノードの表面にいくつかの気体水分子が存在する。そのような水分子の存在は、汚染物質除去プロセスに有利に作用する(又は、前述のように電流密度を増加させる場合にさらに有利になる)ため、ダイノード表面上の炭素質汚染物質の蓄積を遅くする、防止する、又は逆転させるように作用することが提案されている。
【0076】
理論によって制限されることを決して望まないが、水は除去反応物への前駆体として作用することが提案されている。除去反応物は、電子増倍管に存在する電子流束の下で堆積した汚染物質との酸化還元反応における酸化剤として作用する場合がある。除去反応物は揮発してもよいか、そうでなければ、ダイノードの放射面からの剥離を引き起こすように、劣化させる可能性がある。電子増倍管から揮発した汚染物質を除去するには、ガスパージを使用することができる。揮発した汚染物質がダイノード又は汚染物質に結合しにくい場合、ガスパージは不要であってよい。
【0077】
当該方法のいくつかの実施形態において、除去反応物、又はその前駆体、が電子増倍管に意図的に導入される。この作用剤(agent)は、ダイノード表面の周囲に前駆体又は反応物(例えば水)が本質的に存在しない場合、又は本質的に存在する低レベルの化学的除去剤を増強するために導入される場合がある。
【0078】
例えば、除去反応物又はその前駆体は、酸化ガス/蒸気、例えばオゾン、O、NO、Cl、SF、XeF又はClFなど、であってもよい。あるいは、それ自体が酸化剤として作用するか、あるいは前駆体として機能してよい、且つ電子流束の存在下でヒドロキシルラジカルなどの強力な酸化剤に変換されてよい、水を使用してもよい。水の利点は、堆積物を吸着するが、堆積物を自然にエッチングしない作動温度で蒸気相前駆体としてそれが存在することである。さらに、水は完全に安全に処理できる。
【0079】
一部の用途では、除去プロセスを促進するには、非常に低いレベルの酸化ガス/蒸気のみが必要である。これに関して、約0.01mPa~約100mPa、好ましくは約0.1mPa~約10mPa、より好ましくは約1mPaの量のガスを使用することができる。これらの量は、高真空条件において有用である。より低い真空条件では、より多くの量(例えば10~10Paなど)の酸化剤ガスを使用できる。
【0080】
いくつかの実施形態において、酸化ガス/蒸気は、真空チャンバ全体が溢れるのを防ぐために投与される。チャンバ内の水蒸気の通過を制御するために、真空チャンバ内の局所的な圧力効果を利用してよい。例えば、水分配開口部の周りに局所化された高圧領域が確立され得る。
【0081】
本方法は、サンプル間で、定期的な間隔(毎日、毎週、又は毎月)で、通常のサービス間隔(例えば、隔年又は毎年)でのみ実行されてもよい。あるいは、当該方法は、適切な操作パラメータを使用することにより、且つオプションとして酸化ガスを連続的に又は間隔を置いて増倍管に導入することにより、サンプル分析中に実行できる。
【0082】
ここで、以下の非限定的な実施例を参照することにより、本発明をより完全に説明する。
実施例
【実施例1】
【0083】
実施例1: オージェ電子顕微鏡によるダイノード表面の分析
この研究の目的は、質量分析アプリケーションにおいて検出器の寿命を最適化することを目的として、長時間にわたる使用に伴う電子増倍管の劣化の主な原因(複数化)を特定することであった。電子増倍管の「老化」プロセスを理解することは、非常に長寿命の質量分析計検出器を開発するために必要な前駆物質である。ETP Multiplier(ETP Electron Multipliers、NSW、オーストラリア)のダイノード表面を研究することにより、電子増倍管のパフォーマンスの低下に影響を与える主要な要因が特定された。
【0084】
ダイノード表面の分析はディスクリートダイノードデバイス上で実行されたが、これらの結果はあらゆるタイプの電子増倍管検出器に一般化できる。
【0085】
テストは、「Diffstak」拡散ポンプでポンピングされた3x10-6mbarの真空で動作する20段の増倍管で実行された。窒素イオンの定電流(constant current)を増倍管の開口部に誘導し、増倍管の高電圧を動的に調整して、20時間のテストでゲインを定数(constant)1x10に固定した。増倍管の出力電流は25μAで一定に保たれた。
【0086】
20時間の加速老化の後、増倍管は分析のために分解された。増倍管の各ダイノードには、増倍管入力に最も近いダイノードから始めて、チェーン内のその位置を識別するために番号が付けられた。
【0087】
ディスクリートダイノード増倍管の動作を厳密にモデル化する、コンピュータシミュレーション技術を使用して、各ダイノードの表面に入射する電子の総線量を推定した(図4)。
【0088】
増倍管の出力により近いダイノードは、入力により近いダイノードよりも大幅に大きな線量の二次電子にさらされることがわかった。図4の曲線の形状は、図2に見られるものに非常に近い。
【0089】
ダイノード表面の分析は、オージェ電子分光法(AES)を使用して行われ、ダイノード表面で観察された主な汚染物質は炭素であることが示された。増倍管の出力端により近いダイノードで汚染レベルが劇的に増加した(図5)。
【0090】
増倍管のすべてのダイノードは、同じ時間間隔で同じ環境にさらされた。ダイノード間の唯一の違いは、加速老化プロセス中に受け取った二次電子の線量である。これは、ダイノード表面を照射する二次電子の単位面積あたりの線量が、ダイノード表面の汚染率を支配する支配的な要因であることを示唆する。
【0091】
堆積した炭素の量は、ダイノード上の単位面積あたりの電子の総蓄積線量に直接関係することが示された。且つ、真空環境が検出器の寿命全体を決定する上で重要な役割を果たしている場合でも、単に真空チャンバ内の環境に増倍管がさらされる時間ではない。
【0092】
ダイノード表面に二次電子が入射すると、残留ガス中の炭素系分子がダイノード表面に結合し、二次収率が低下する。図4は、重度に汚染されたダイノードの表面層の深さプロファイルを示す。酸化物層は、無傷のまま、炭素汚染の厚い層の下に埋まっていることに注意。
【実施例2】
【0093】
実施例2:炭素質汚染物質の除去による初期ゲイン減衰後の検出器ゲインの回復。
入力電流を操作し、且つ水分子の存在下でダイノード表面から炭素堆積物を除去することを示す実験を実施した。図6を参照。
【0094】
使用したこの装置は、飛行時間型質量分析計で動作する連続ダイノードを備えた磁気増倍管(MagneTOF)であった。分析チャンバの基本圧力は1x10-6mBarであった。
【0095】
検出器に供給される電圧(y軸)は、10の全体的なゲインを維持するように実験中に調整された。検出器によって経時的に蓄積された出力電荷(クーロン単位)は、x軸に表示される。
【0096】
グラフは、蓄積電荷がゼロから増加するにつれて、ゲインの減衰を相殺するため、及び低レベルの電子への曝露では電圧の増加が必要であることを示している。矢印で示されたポイントで、出力電流は10nAから100nAに10増倍加した(入力電流を10fAから100fAに増加させることにより)。プラトーの後、10のゲインを維持するために必要な電圧の低下によって示されるように、ゲインが回復し始める。これは、ダイノード表面からの炭素堆積物の除去に有利な電子流束の増加を反映していると解釈された。
【0097】
水は、最も多くではないにしても、真空チャンバに残っている一般的な種の1つであることは広く受け入れられている。水分子の分圧は測定されなかったが、いくらかの水が存在したと想定される。キャンバ(camber)内の水の濃度を上げると、実施例3で説明したように、汚染物質の除去が比例して増加することに気付くことが予想される。
【実施例3】
【0098】
実施例3: 炭素質汚染物質の水による除去。
実施例2の検出器は、検出器真空チャンバの内側から外側に延びるキャピラリーチューブを包含するように修正されている。チャンバ外のキャピラリーチューブの端部は、気体の水の源に接続されている。水源とキャピラリーチューブとの間にバルブが配置され、気体の水の量とタイミングを制御することができる。
【0099】
検出器は、気体の水が1mPaで導入されることを除いて、実施例2で説明したように動作する。水の流れは約0.1 sccmに制御されているため、チャンバ全体の圧力は実質的に影響を受けないが、水は臨界面に局在化する。
【0100】
結果として生じる電圧グラフは、図6に示されるものと同様である。ただし、グラフのゲイン回復部分(すなわち、最初の減衰後)はより急勾配であり、及びしたがって、ゲイン減衰のより迅速な(及び場合によってはより完全な)反転を反映している。
【0101】
図7を参照する。図7は、ダイノードプレート110の終端領域の周りの真空チャンバに水を導入するように構成された連続ダイノード検出器100を示す。液体の水は、水の蒸気圧までポンピングダウンされる気密リザーバ120に保持される。それにより、リザーバ120の内部は、液体の水のさらなる蒸発を防ぐ圧力で液体と気体の両方の水で満たされている。ニードルバルブ130を開くことにより、水蒸気がキャピラリーチューブ130を介して増倍管に漏れるので、リザーバ120の圧力低下により、より多くの液体の水が気相に入り、リザーバ内の圧力を一定に保る(水の蒸気圧である)。
【0102】
リザーバ120からキャピラリーチューブ140に水を運ぶ導管150は、真空チャンバフランジ160を密封して通過することに留意されたい。
【0103】
本装置は、既存の市販のICP-MS機器で動作可能となるように物理的及び/又は構造的に構成されてもよい。例としてのみ、本装置は、Agilent(商標)が、例えばモデル7800、7900、8900トリプル四重極、8800トリプル四重極、7700e、7700xなど、又はPerkinElmer(商標)が、例えばモデルNexION2000、N8150045、N8150044、N8150046、及びN8150047など、又はThermoFisher Scientificが、例えばモデルiCAP RQ、iCAP TQ、及びElementシリーズなど、又はShimadzuが、例えばモデルICPMS-2030など、が提供するICP-MS機器のいずれかにおいて電子増倍管として動作するように構成することができる。
【0104】
本装置の電子増倍管コンポーネントは、線形のディスクリートダイノード増倍管によって例示されてきた。本明細書の利点を考慮すると、当業者は、本発明との適合性について他のタイプの増倍管タイプをルーチン的にテストすることができる。例えば、ディスクリートダイノード電子増倍管の代わりに連続(チャネル/チャネルプレート)ダイノードを使用することができる。
【0105】
本発明の例示的な実施形態の説明でにおいて、本発明の様々な特徴は、開示を簡素化し、様々な発明の態様の1つ以上の理解を支援する目的で、単一の実施形態、図、又はその説明にまとめられることがあることが理解されよう。しかしながら、この開示方法は、請求された発明が各請求項に明示的に列挙されているよりも多くの特徴を必要とするという意図を反映していると解釈されるべきではない。むしろ、以下の特許請求の範囲が反映するように、発明の態様は、単一の前述の開示された実施形態のすべての特徴よりも少ないことにある。
【0106】
さらに、本明細書に記載のいくつかの実施形態は、他の実施形態に包含されるいくつかの特徴を包含するが、他の実施形態に包含される他の特徴を包含しないが、異なる実施形態の特徴の組み合わせは、本発明の範囲内であり、当業者によって理解されるように異なる実施形態を形成することを意味する。例えば、以下の請求項において、請求された実施形態のいずれも、任意の組み合わせで使用することができる。
【0107】
本明細書で提供される説明では、多数の特定の詳細が示されている。しかしながら、本発明の実施形態は、これらの特定の詳細なしで実施され得ることが理解される。他の例では、この説明の理解を不明瞭にしないために、周知の方法、構造、及び技術は詳細に示されていない。
【0108】
したがって、本発明の好ましい実施形態であると考えられるものを説明してきたが、当業者は、本発明の精神から逸脱することなく、他の更なる修正を加えることができること、及び本発明の範囲内にあるそのようなすべての変更及び修正を請求することが意図されていることを認識するであろう。そのようなすべての変更及び修正は、本発明の範囲内に入る。機能を図に追加又は削除したり、機能ブロック間で操作を交換したりできます。本発明の範囲内で説明される方法にステップを追加又は削除することができる。機能を図に追加又は削除したり、機能ブロック間で操作を交換したりできる。本発明の範囲内で説明される方法にステップを追加又は削除することができる。
【0109】
特定の例を参照して本発明を説明したが、本発明は他の多くの形態で実施できることを当業者は理解するであろう。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7