(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-06
(45)【発行日】2022-12-14
(54)【発明の名称】カップリング式管継手
(51)【国際特許分類】
F16L 21/06 20060101AFI20221207BHJP
F16L 21/08 20060101ALI20221207BHJP
【FI】
F16L21/06
F16L21/08 B
(21)【出願番号】P 2018082043
(22)【出願日】2018-04-23
【審査請求日】2021-03-03
(73)【特許権者】
【識別番号】591063464
【氏名又は名称】ショーボンドマテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120868
【氏名又は名称】安彦 元
(74)【代理人】
【識別番号】100198214
【氏名又は名称】眞榮城 繁樹
(72)【発明者】
【氏名】桐原 順治
【審査官】伊藤 紀史
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-075884(JP,A)
【文献】英国特許出願公開第02303677(GB,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0217745(US,A1)
【文献】特開平05-256383(JP,A)
【文献】特許第3015017(JP,B1)
【文献】特開2015-209891(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0012339(US,A1)
【文献】特開平11-294655(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 21/06-21/08
F16L 37/00-37/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
管軸方向に沿ってスリットが形成されて締付手段で締付可能な円筒状のカップリング本体を有し、このカップリング本体が2つの
消火設備用のステンレス鋼鋼管の突き合わせた管端同士に跨って外嵌されて、これらの管端同士を接続するカップリング式管継手であって、
前記カップリング本体には、リング状の一部が縮径可能に切り欠かれ、前記金属管に喰い込む相対的に高い硬度を有した複数対のグリップリングと、これらのグリップリング内に介装されて接続する前記
ステンレス鋼鋼管の管内の流動体を封止する円筒状のゴムスリーブと、を備え、
前記複数対のグリップリングは、12mm以上18mm以下の所定間隔を置いて各管端に複数枚ずつ設けられていること
を特徴とするカップリング式管継手。
【請求項2】
各対の前記グリップリング同士の間には、両者の間隔を保持
し、外側に前記グリップリングの傾斜角度を保持する傾斜面が形成された断面台形状のガイドリングが介装されていること
を特徴とする請求項1に記載のカップリング式管継手。
【請求項3】
各対の内側の前記グリップリングの基端部の内側には、当該グリップリングの傾斜角度を保持する断面三角形状の三角リングが設けられていること
を特徴とする請求項1又は2に記載のカップリング式管継手。
【請求項4】
各対の内側の前記グリップリングの切り欠かれた部分の内側には、前記ゴムスリーブが管内の圧力で外側へ押し出されないように阻止するプロテクションリングが設けられていること
を特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のカップリング式管継手。
【請求項5】
前記ゴムスリーブには、両端付近に前記金属管との密着力を高める環状のスプリングが装着されていること
を特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のカップリング式管継手。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、突き合わせた金属管同士を接続するカップリング式管継手に関し、詳しくは、ステンレス鋼鋼管同士を接続するカップリング式管継手に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、機械的(メカニカル)な方法により金属管同士を接続するメカニカル形管接手が知られている。また、メカニカル形管接手としても、プレス式、拡管式、ナット式、転造ねじ式、差込式、カップリング式(ストラブ・グリップ式)などの種々の方式のものが知られている。
【0003】
このうちカップリング式管接手は、カップリング本体内にゴムスリーブとグリップリングを収容し、カップリング本体をボルトとナットで締め付けて、このグリップリングを金属管の管端部に喰い込ませて、管端部を封止する構造となっている。このカップリング式管継手は、金属管の抜け防止として、管端部にねじ切りやグルービングといった二次加工の必要がなく、金属管同士を簡単に接続できるという優れた特徴を有している。
【0004】
しかしながら、一方で、管端部に抜け防止の二次加工が施されていないため、管内に高い圧力がかけられた場合に、管接手から金属管が抜け出さないための高い引抜阻止力(グリップ力:管軸方向の引張強度)が求められている。
【0005】
例えば、特許文献1には、配管30の管端同志を突き当てた外周面位置をシートリング21やロックリング22等を有するシートロック機構20を収容した断面略C字形のハウジング11で囲繞し、このハウジング11の円周方向両端部12、12をボルト等の締結部材18で締め付けて配管30、30同志を接合する管継手10であって、前記ハウジング11の両端部12、12の何れか一方又は双方に当接部13を設け、ハウジング11の締め付け時に当接部13を他方の当接部13、又はハウジング11の他の端部12に当接するようにした管継手10が開示されている(特許文献1の特許請求の範囲の請求項1、明細書の段落[0015]~[0030]、図面の
図1,
図2等参照)。
【0006】
特許文献1に記載の管継手10は、容易に締め付けトルクを規制して適正な締め付け量による締付けを行なって確実に配管をシールすることができ、径の異なる配管の接合に対しても安定した締め付けを行なって密封状態で接合を行うことができるとされている。
【0007】
また、特許文献2には、密封スリーブ161を囲繞する断面C形状の筒形のハウジング151の両端をボルト締結部材168で締付けて前記ハウジング151内に装着したロックリング機構160で配管Pを接合する縮径用継手において、前記ハウジング151の両端部の一方、又は双方から円周方向に沿って適宜の長さのスリット154を設けた縮径用継手が開示されている(特許文献1の特許請求の範囲の請求項1、明細書の段落[0027]~[0055]、図面の
図2,
図3,
図11等参照)。
【0008】
特許文献2の縮径用継手は、同一の呼び径の配管を接合する場合に実際の管径に誤差が生じていたり、或は、呼び径の異なる異径管や金属と樹脂などの異なる材質の配管を接合していたりする場合にも、ロックリング機能を働かせつつ、高いシール性を発揮しながら強固に接合することができるとされている。
【0009】
しかし、特許文献1に記載の管継手10や特許文献2に記載の縮径用継手などのカップリング式管接手は、肉厚が厚く、一般的な硬度をもつ金属管同士を接続する場合であって、ステンレス鋼鋼管のような、肉厚が薄く高い硬度の金属管同士を接続する場合は、所望の 引抜阻止力を達成できないという問題があった。
【0010】
例えば、消火設備用のステンレス鋼鋼管同士を接続する場合は、カップリング式管接手も、消防法の継手性能基準等により所定の耐圧試験や曲げ試験及び引張強度試験をクリアする必要があった。このようにカップリング式管接手によりステンレス鋼鋼管同士を接続する場合は、管内に高い圧力が掛けられるうえ、一般的に使用されるステンレス鋼鋼管の厚みは2mm以内で最大でも3mmと薄く、しかも硬度が高く非常に硬いという特徴があった。このため、カップリング式管接手において、単純にケーシング(カップリング本体)をボルトとナットで締め付ける力を上げても、鋼管自体が撓んでグリップリングがステンレス鋼鋼管に深く喰い込まず、所望の高い引抜阻止力(グリップ力)を達成できないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2003-172485号公報
【文献】特開2008-75884号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで本発明は、前記問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、金属管の管厚が薄く、且つ高い圧力が掛けられる場合であっても、高い引抜阻止力(グリップ力)を達成することができるカップリング式管継手を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
第1発明に係るカップリング式管継手は、管軸方向に沿ってスリットが形成されて締付手段で締付可能な円筒状のカップリング本体を有し、このカップリング本体が2つの消火設備用のステンレス鋼鋼管の突き合わせた管端同士に跨って外嵌されて、これらの管端同士を接続するカップリング式管継手であって、前記カップリング本体には、リング状の一部が縮径可能に切り欠かれ、前記金属管に喰い込む相対的に高い硬度を有した複数対のグリップリングと、これらのグリップリング内に介装されて接続する前記ステンレス鋼鋼管の管内の流動体を封止する円筒状のゴムスリーブと、を備え、前記複数対のグリップリングは、12mm以上18mm以下の所定間隔を置いて各管端に複数枚ずつ設けられていることを特徴とする。
【0014】
第2発明に係るカップリング式管継手は、第1発明において、各対の前記グリップリング同士の間には、両者の間隔を保持し、外側に前記グリップリングの傾斜角度を保持する傾斜面が形成された断面台形状のガイドリングが介装されていることを特徴とする。
【0015】
第3発明に係るカップリング式管継手は、第1発明又は第2発明において、各対の内側の前記グリップリングの基端部の内側には、当該グリップリングの傾斜角度を保持する断面三角形状の三角リングが設けられていることを特徴とする。
【0016】
第4発明に係るカップリング式管継手は、第1発明ないし第3発明のいずれかの発明において、各対の内側の前記グリップリングの切り欠かれた部分の内側には、前記ゴムスリーブが管内の圧力で外側へ押し出されないように阻止するプロテクションリングが設けられていることを特徴とする。
【0017】
第5発明に係るカップリング式管継手は、第1発明ないし第4発明のいずれかの発明において、前記ゴムスリーブには、両端付近に前記金属管との密着力を高める環状のスプリングが装着されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
第1発明~第5発明によれば、金属管の管厚が薄く、且つ高い圧力が掛けられる場合、例えば、消火設備用のステンレス鋼鋼管同士を接続する場合であっても、金属管が凹んだり撓んだりすることなく所定深さまでグリップリングを金属管に喰い込ませることができる。このため、管端部にねじ切りやグルービングといった二次加工の必要がなく、金属管同士を簡単に接続できるカップリング式管継手において、高い引抜阻止力(グリップ力)を達成することができる。
【0019】
特に、第2発明によれば、各対のグリップリング同士の間隔を保持するガイドリングが介装されているので、外側のグリップリングが内側へずれたり、グリップリングが倒れて傾斜角度が小さくなったりすることがなく、グリップリングを確実に金属管に喰い込ませることができる。
【0020】
特に、第3発明によれば、内側のグリップリングの傾斜角度を保持する断面三角形状の三角リングが設けられているので、内側のグリップリングが倒れることを阻止して、さらに確実にグリップリングを金属管に喰い込ませることができる。
【0021】
特に、第4発明によれば、プロテクションリングが設けられているので、ゴムスリーブが管内の圧力で外側へ押し出されることを阻止することができる。このため、金属管同士の接続部分をゴムスリーブで確実に封止することができ、管内を流れる流動体が漏れ出すおそれがすくない。
【0022】
特に、第5発明によれば、ゴムスリーブの両端付近に、環状のスプリングが装着されているので、金属管とゴムスリーブの密着力を高めることができ、さらに封止力を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の実施形態に係るカップリング式管継手を示す斜視図である。
【
図2】同上のカップリング式管継手を管軸方向に沿って見た正面図である。
【
図3】同上のカップリング式管継手の左側面図である。
【
図4】同上のカップリング式管継手を示す
図2のA-A線端面図である。
【
図5】同上のカップリング式管継手のグリップリングを示す斜視図である。
【
図6】同上のカップリング式管継手のゴムスリーブの一部を管軸方向に沿って切断した状態で示す部分断面斜視図である。
【
図7】同上のカップリング式管継手の三角リングを示す斜視図である。
【
図8】同上のカップリング式管継手のガイドリングを示す斜視図である。
【
図9】同上のカップリング式管継手のプロテクションリングを示す斜視図である。
【
図10】従来のカップリング式管継手の締付状態を端面図で示す説明図であり、(a)が締付前、(b)が締付後を示している。
【
図11】鋼管が内側に凹むことで設計通りの喰い込み量に達しないことを端面図で示す説明図であり、(a)が設計の状態、(b)が実際の状態を示している。
【
図12】従来のカップリング式管継手にグリップリングを各対2枚ずつ重ねて装着した場合を端面図で示す説明図である。
【
図13】本発明の実施形態に係るカップリング式管継手のグリップリングの所定間隔を12.0mmにした場合のステンレス鋼鋼管SPの凹み(撓み)を端面図で示す説明図である。
【
図14】同上のカップリング式管継手のグリップリングの所定間隔Xを18.0mmにした場合のステンレス鋼鋼管SPの凹み(撓み)が生じていないことを端面図で示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態に係るカップリング式管継手について、図面を参照しながら説明する。
【0025】
<カップリング式管継手>
図1~
図9を用いて、本発明の実施形態に係るカップリング式管継手について説明する。本実施形態に係るカップリング式管継手により、管端部にねじ切りやグルービングといった二次加工が施されていない突き合わせただけのステンレス鋼鋼管同士を接続する場合を例示して説明する。
【0026】
図1は、本発明の実施形態に係るカップリング式管継手1を示す斜視図である。また、
図2は、カップリング式管継手1を管軸方向に見た正面図であり、
図3は、その右側面図である。
図4は、カップリング式管継手1を示す
図2のA-A線端面図である。
【0027】
図1~
図4に示すように、本発明の実施形態に係るカップリング式管継手1は、カップリング本体であるケーシング2を備えている。このカップリング式管継手1は、このケーシング2が2つのステンレス鋼鋼管の突き合わせた管端同士に跨って外嵌され、後述の締付手段20で締め付けられて、これらの管端同士を接続するカップリング式の管継手である。
【0028】
このケーシング2には、
図4に示すように、左右二対、各対2枚ずつの計4枚のグリップリング3(3-1,3-2),3’ (3’-1,3’-2)と、これらのグリップリング内に介装された円筒状のゴムスリーブ4など、が収容されている。
【0029】
また、
図4に示すように、内側の2枚のグリップリング3-1,3’-1の基端部(ケーシング2側となる部分)の内側には、断面三角形状の三角リング5が設けられている。その上、内側のグリップリング3-1,3’-1と外側のグリップリング3-2,3’-2との間には、ガイドリング6が介装されている。
【0030】
そして、
図2に示すように、内側のグリップリング3-1,3’-1の切り欠かれた部分の内側には、プロテクションリング7が設けられているとともに、ケーシング2とゴムスリーブ4との間には、スライドプレート8が介装されている。
【0031】
(ケーシング)
ケーシング2は、板厚2mmのステンレス鋼板(SUS304)から断面C字状に折り曲げられて、その断面C字状の鋼材が、スリット状の開口2aが形成された円筒状に丸められた部材である(
図1等参照)。ケーシング2は、カップリング式管継手1全体の筐体としての機能を有している。
【0032】
また、このケーシング2は、
図1,
図2等に示すように、スリット状の開口2aに接する端部の一部の鋼材が袋状に折り返されて止付けられ、一対の締付手段収容部2bが形成されている。ケーシング2は、スリット状の開口2aを締付手段20で締め付けることで縮径して、装着したステンレス鋼鋼管を締め付け、管端同士を接続する構成となっている。
【0033】
(締付手段)
本実施形態では、締付手段20は、ステンレス鋼材(SUSXM7)からなるM12の3本の六角穴付きボルト21を備えている。また、締付手段20は、ステンレス鋼材(SUS304)からなる棒ワッシャである1本のホールバー22と、ステンレス鋼材(SUS304)からなる棒ナットである1本のソレッドバー23と、を備えている。
【0034】
締付手段収容部2bには、
図1、
図3に示すように、六角穴付きボルト21を挿通するための3つの長孔2cが形成され、それらの長孔2cに六角穴付きボルト21が挿通されている。また、これらの六角穴付きボルト21は、3つの貫通孔が穿設されたホールバー22を介して、ソレッドバー23にねじ止めされている。
【0035】
(グリップリング)
次に、
図5を用いて、本実施形態に係るカップリング式管継手1のグリップリング3について説明する。
図5は、カップリング式管継手1のグリップリング3を示す斜視図である。
【0036】
グリップリング3は、接続するステンレス鋼鋼管より相対的に高い硬度を持つ厚さ1mm程度のステンレス鋼板(SUS301)からなる。このグリップリング3は、
図5に示すように、縮径可能なようにリング状の一部が切り欠かれた切欠部3aが形成された管軸方向に見てC字状となったリングである。
【0037】
また、このグリップリング3は、硬いステンレス鋼鋼管に喰い込むように、多数の切込みが形成されて櫛歯状となった刃先3bが形成されているとともに、
図4に示すように、ケーシング2の外周面に対して内側に倒れる方向に45度傾斜して設置されている。このため、グリップリング3が鋼管に喰い込んだ際に、外側へ管が引き抜かれる力に対して所望のグリップ力が発揮できるようになっている。
【0038】
本発明では、これらのグリップリング3が、一対各2枚が所定間隔Xをあけて並設されていることが特徴の1つとなっている。この所定間隔Xは、後で詳述するが、12.0mm以上必要であり、好ましくは、18.0mm以上である。所定間隔Xの上限値は、理論上は無いが、これらを収容するケーシング2が大きくなりすぎて重くなるため、所定間隔Xは、18.0mmが最適と考えられる。
【0039】
(ゴムスリーブ)
次に、
図6を用いて、本実施形態に係るカップリング式管継手1のゴムスリーブ4について説明する。
図6は、カップリング式管継手1のゴムスリーブ4の一部を管軸方向に沿って切断した状態で示す部分断面斜視図である。なお、図示形態では、ゴムスリーブ4の特殊な断面形状を示すため、一部を切断した状態で示しているが、ゴムスリーブ4は、スリットなどの切欠部分のない円筒状の部材である。
【0040】
ゴムスリーブ4は、本実施形態では、合成ゴムからなる全体として円筒状のスリーブであり、接続する管の管内を流れる流動体が継手部分から漏れ出さないように封止する機能を有している。勿論、本発明に係るゴムスリーブは、小さな力で大きな弾性変形をし、その力が働かなくなる瞬時に元に戻るゴム弾性を示す物質でなければならない。
【0041】
このゴムスリーブ4は、
図6に示すように、管軸方向に沿って切断した断面における両端が折り返されて折返し部4aが形成され、その内側に溝部4bが形成されている。また、この溝部4bには、環状(リング状)のステンレス製(SUS316)のコイルスプリングであるスプリング41が装着されている。このため、ゴムスリーブ4の両端部である折返し部4aの管への密着性(密着力)が高まり、封止力が向上している。
【0042】
そして、折返し部4aの内側の部分には、山形の3つの山形リブ4cが形成され、折返し部4aがなく薄い断面上の中央部分の剛性を向上させて、ゴムスリーブ4が捩じれて切れたりすることを防止できるようになっている。また、山形リブ4cが形成されていることにより、ゴムスリーブ4を管に密着させた際の形状安定性が増すとともに、管内に高い圧力が掛かった場合でも、封止力を維持することができる。
【0043】
(三角リング)
次に、
図7を用いて、本実施形態に係るカップリング式管継手1の三角リング5について説明する。
図7は、カップリング式管継手1の三角リング5を示す斜視図である。
【0044】
三角リング5は、断面三角形状(直角二等辺三角形状)のステンレス鋼材(SUS301)からなり、
図7に示すように、縮径可能なように一部が切り欠かれた切欠部5aが形成され、管軸方向に見てC字状に加工されたC型リングである。
【0045】
この三角リング5は、
図4に示すように、前述の内側のグリップリング3-1,3’-1及び後述のプロテクションリング7の基端部の内側に頂点を内側にして左右一対設置されている。三角リング5は、直角二等辺三角形の45度の傾斜面でこれらのグリップリング3-1,3’-1を支持して、その傾斜角度を保持する機能を有している。ここで、基端部とは、
図4に示すように、外側となるケーシング2側の端部を指している。
【0046】
(ガイドリング)
次に、
図8を用いて、本実施形態に係るカップリング式管継手1のガイドリング6について説明する。
図8は、カップリング式管継手1のガイドリング6を示す斜視図である。
【0047】
ガイドリング6は、断面台形状のステンレス鋼材(SUS304)からなり、
図8に示すように、縮径可能なように一部が切り欠かれた切欠部6aが形成され、管軸方向に見てC字状に加工されたC型リングである。
【0048】
このガイドリング6は、
図4に示すように、断面台形状の内側が垂直面となり、外側が前述の三角リング5の傾斜面と同傾斜の傾斜面となっている。このガイドリング6は、内側のグリップリング3-1,3’-1と外側のグリップリング3-2,3’-2との間の基端部側に、左右一対設置されている。このため、ガイドリング6は、これらのグリップリング3の所定間隔Xを保持するスペーサとしての機能と、断面台形状の外側の傾斜面で外側のグリップリング3-2,3’-2が内側へ倒れないように傾斜角度を保持する機能を併せ持っている。
【0049】
(プロテクションリング)
次に、
図9を用いて、本実施形態に係るカップリング式管継手1のプロテクションリング7について説明する。
図9は、カップリング式管継手1のプロテクションリング7を示す斜視図である。
【0050】
プロテクションリング7は、平板状のステンレス鋼板(SUS304)からなり、
図9に示すように、縮径可能なように一部が切り欠かれた切欠部7aが形成され、管軸方向に見てC字状に加工されたC型リングである。
【0051】
このプロテクションリング7は、
図4に示すように、内側のグリップリング3-1,3’-1の内側に三角リング5との間に介装されており、グリップリング3-1,3’-1の切欠部3a部分に設置されている。
【0052】
このプロテクションリング7は、グリップリング3の代わりに、ゴムスリーブ4が管内の圧力で外側へ押し出されないように阻止する機能を有している。このため、プロテクションリング7は、グリップリング3-1,3’-1の切欠部3a部分に装着されていればよい。しかし、切欠部3a部分にだけある場合、脱落したり移動したりするおそれがある。よって、本実施形態に係るプロテクションリング7は、管に嵌まり込んで脱落しないように、C字状のC型リングとなっている。
【0053】
(スライドプレート)
次に、
図1,
図2,
図4を用いて、本実施形態に係るカップリング式管継手1のスライドプレート8について説明する。
【0054】
スライドプレート8は、薄肉のステンレス鋼板(SUS301)からなり、
図4に示すように、ゴムスリーブ4の外周面を覆うように管軸方向の両端部が折り曲げられた縁部8aが形成されている。
【0055】
スライドプレート8は、縁部8aが形成されたステンレス鋼板からケーシング2の内周面の曲率に応じて円弧状(図示せず)に曲げ加工されている。このスライドプレート8は、
図1,
図2に示すように、ケーシング2の開口2aに跨るように、ケーシング2とゴムスリーブ4との間に装着される。このスライドプレート8は、締付手段20で締め付けることで開口2aが縮まって、ケーシング2の内周面をスライドする構成となっている。このスライドプレート8は、ケーシング2の開口2aにおいて、ゴムスリーブ4の外周面を覆ってサポートし、ゴムスリーブ4が管内の圧力で膨出することを防ぐ機能を有している。
【0056】
以上説明した本実施形態に係るカップリング式管継手1によれば、ステンレス鋼鋼管同士を接続する場合であっても、薄いステンレス鋼鋼管が撓むことなくグリップリング3をステンレス鋼鋼管に喰い込ませることができる。このため、加工が困難なステンレス鋼鋼管の管端部にねじ切りやグルービングといった二次加工の必要がなく、ステンレス鋼鋼管を簡単に接続できるとともに、高い引抜阻止力(グリップ力)を達成することができる。
【0057】
また、カップリング式管継手1によれば、各対の内側のグリップリング3-1(3’-1)と外側のグリップリング3-2(3’-2)の間隔を保持するガイドリング6が介装されている。このため、外側のグリップリング3-2(3’-2)が内側へずれたり、外側のグリップリング3-2(3’-2)が倒れて傾斜角度が小さくなったりすることがなく、グリップリング3を確実にステンレス鋼鋼管に喰い込ませることができる。
【0058】
その上、カップリング式管継手1によれば、内側のグリップリング3-1(3’-1)の傾斜角度を保持する断面三角形状の三角リング5が設けられている。このため、グリップリング3-1(3’-1)が倒れることを阻止して、さらに確実にグリップリング3をステンレス鋼鋼管に喰い込ませることができる。
【0059】
さらに、カップリング式管継手1によれば、プロテクションリング7が設けられているので、ゴムスリーブ4が管内の圧力で外側へ押し出されることを阻止することができる。このため、ステンレス鋼鋼管同士の接続部分をゴムスリーブ4で確実に封止することができ、管内を流れる流動体が漏れ出すおそれが無い。
【0060】
<効果確認実験>
次に、
図10~
図14(
図1~
図9も参照)を用いて、効果確認実験について発明に至るまでの経緯を含めて説明する。なお、前述のカップリング式管継手1と同一構成は同一符号を付して詳細な説明を省略する。
【0061】
本発明の発明者らは、ステンレス鋼鋼管同士を接続する場合において消防法の継手性能基準をクリアするカップリング式管継手を開発しようと考えた。しかし、従来のカップリング式管継手10は、当該性能基準に遠く及ばす、管の引抜阻止力(管軸方向の引張強度:グリップ力)を約2倍アップさせる必要があった。
【0062】
図10は、従来のカップリング式管継手10の締付状態を
図4と同様の端面図で示す説明図であり、(a)が締付前、(b)が締付後を示している。
図10に示すように、従来のカップリング式管継手10の基本機構は、締付手段20(図示せず)である六角穴付きボルト21(図示せず)が2本で、グリップリング3が左右一対設けられているものであった。
【0063】
この従来のカップリング式管継手10は、2本の六角穴付きボルト21を締め付けると、初めに、カップリング本体であるケーシング2が円周方向に収縮し内部のグリップリング3の先端がステンレス鋼鋼管SPの表面に接触する。そして、さらに六角穴付きボルト21を回すトルク値を上げることで先端が深く喰い込んでゆく構造となっているものであった。
【0064】
そこで初め、発明者らは、締付手段20の締付力を2倍にすることを考えた。具体的には、六角穴付きボルト21の本数を2本から3本(1.5倍)に増やすとともに、六角穴付きボルト21をM10からM12にサイズアップした。これにより、ボルトの有効断面積が1本あたり1.4 倍になる。このため、締付手段20全体の軸力(許容耐力)を2倍以上にすることができる。
【0065】
当初の想定上では、グリップリング3のステンレス鋼鋼管への喰い込み深さが2倍となり、その結果、管軸方向の引張強度も2倍とは行かないまでも大幅に向上すると考えられたためである。しかしながら、
図11に示すように、ある所定の深さに達すると、それ以上いくら六角穴付きボルト21を回すトルク値(軸力)を上げても鋼管が内側に凹んだり撓んだりして弾性変形するだけで、一向に喰い込み深さが増加しないことが判明した。当然ながら引張強度(グリップ力)アップには繋がらなかった。
図11は、鋼管が内側に凹むことで設計通りの喰い込み量に達しないことを端面図で示す説明図であり、(a)が設計の状態、(b)が実際の状態を示している。なお、0.9mmとは、設計上のグリップリング3のステンレス鋼鋼管への喰い込み深さである。
【0066】
図12は、従来のカップリング式管継手10にグリップリング3を各対2枚ずつ重ねて装着した場合を端面図で示す説明図である。
図12に示すように、次のアイデアは、グリップリング3を各対2枚ずつ重ねて装着することであった。しかしながら、結果的には、同じくステンレス鋼鋼管SPが内側に凹んでしまい、1枚当りの喰い込み深さが60 %減少(0.9mm→0.5mm)し、引張強度(グリップ力)も数%アップ止まりであった。
【0067】
図13は、本発明の実施形態に係るカップリング式管継手1のグリップリング3の所定間隔Xを12.0mmにした場合のステンレス鋼鋼管SPの凹み(撓み)を端面図で示す説明図である。
図13に示すように、次に考えたのが、ステンレス鋼鋼管SPの凹みを軽減することを目的として、前述のカップリング式管継手1のようにグリップリング3を各対2枚ずつ装着するとともに、所定間隔Xを12.0mmとすることであった。また、グリップリング3同士の間に、硬度が高く変形し難い強固なリングであるガイドリング6を配置して、締付手段20の締付力(ボルトを回すトルク)をアップしても所定間隔Xをガイドリング6で保持させることを考えた。
【0068】
結果としては、従来のカップリング式管継手10と比べて引張強度(グリップ力)が30%向上した。但し、ステンレス鋼鋼管SPが凹む現象は、
図12で示した2枚重ねと大差が無かった。よって、各対に並設されたグリップリング3同士の所定間隔Xが12.0mm以上であれば、一定程度の引張強度(グリップ力)向上の効果が期待できることが判明したといえる。
【0069】
図14は、本発明の実施形態に係るカップリング式管継手1のグリップリング3の所定間隔Xを18.0mmにした場合のステンレス鋼鋼管SPの凹み(撓み)を示す説明図である。
図14に示すように、次に、グリップリング3の所定間隔Xを6.0mm,12.0mm,18.0mmというように徐々に上げて行き、ステンレス鋼鋼管SPの凹み(撓み)を観察するとともに、引張強度(グリップ力)を計測した。
【0070】
結果的には、グリップリング3の所定間隔Xが6.0mmの場合、ステンレス鋼鋼管SPの凹みの量にほとんど変化は見られなかったが、12.0mmの場合は、ガイドリング6によりこれを保持する構成とすることにより、従来のカップリング式管継手10と比べて引張強度(グリップ力)が70 %向上した。また、ステンレス鋼鋼管SPの凹みの量も軽減していることが観察できた。よって、各対に並設されたグリップリング3同士の所定間隔Xが12.0mm以上であれば、従来と比べて引張強度(グリップ力)が70 %向上するという好ましい結果を達成することが判明したといえる。
【0071】
次に、
図14に示すように、グリップリング3同士の所定間隔Xを18.0mmにして、ガイドリング6によりこれを保持する構成とした。この場合の実験結果は、期待値通りに引張強度(グリップ力)が従来のカップリング式管継手10の約2倍にアップした。また、ステンレス鋼鋼管SPの凹みもほとんど観察されなかった。
【0072】
このように、所定間隔Xをこれ以上広げて行っても引張強度(グリップ力)やステンレス鋼鋼管SPの凹みは、所定間隔Xが18.0mmのときと変わらないと考えれれる。要するに、理論上は、グリップリング3同士の所定間隔Xは、18.0mm以上であればいくらでも良いと考えられる。しかし、人力で持ち運びが容易なことを勘案すると、カップリング式管継手1は、軽量化を達成することが望まれるものである。したがって、所定間隔Xは、18.0mmが最適と云える。
【0073】
また、本発明の実施形態に係るカップリング式管継手1としてグリップリング3を左右二対設けるものを例示して説明したが、さらなる引張強度(グリップ力)の向上を目指すには、グリップリング3を左右三対を設けるとよいと考えられる。その場合でも、各グリップリング3の間隔は、所定間隔X以上あけることが必要である。
【0074】
以上、本発明の実施形態に係るカップリング式管継手及び発明の原理について詳細に説明したが、前述した又は図示した実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたって具体化した一実施形態を示したものに過ぎない。よって、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。
【0075】
特に、カップリング式管継手で接続する金属管としてステンレス鋼鋼管を例示して説明したが、その他の金属管同士を接続する場合にも適用できることは云うまでもない。ステンレス鋼鋼管のように硬度が高くて薄い管同士を接続できて所望のグリップ力達成できるのであるから、それより硬度が低い種々の金属管同士を接続できるのは明らかである。
【符号の説明】
【0076】
1:カップリング式管継手
2:ケーシング(カップリング本体)
2a:開口
2b:締付手段収容部
2c:長孔
20:締付手段
21:六角穴付きボルト(ボルト)
22:ホールバー(棒ワッシャ)
23:ソレッドバー(棒ナット)
3,3’:グリップリング
3-1,3’-1:内側のグリップリング(グリップリング)
3-2,3’-2:外側のグリップリング(グリップリング)
3a:切欠部
3b:刃先
4:ゴムスリーブ
4a:折返し部
4b:溝部
4c:山形リブ
41:環状のスプリング(スプリング)
5:三角リング
5a:切欠部
6:ガイドリング
6a:切欠部
7:プロテクションリング
7a:切欠部
8:スライドプレート
8a:縁部
10:従来のカップリング式管継手
SP:ステンレス鋼鋼管