(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-08
(45)【発行日】2022-12-16
(54)【発明の名称】スラッジ調整のための組成物
(51)【国際特許分類】
C02F 11/147 20190101AFI20221209BHJP
B01D 21/01 20060101ALI20221209BHJP
C08F 2/38 20060101ALI20221209BHJP
C08L 101/14 20060101ALI20221209BHJP
【FI】
C02F11/147 ZAB
B01D21/01 107A
C08F2/38
C08L101/14
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2018216407
(22)【出願日】2018-11-19
【審査請求日】2019-01-31
【審判番号】
【審判請求日】2021-02-10
(73)【特許権者】
【識別番号】510338248
【氏名又は名称】エスペーセーエム・エスアー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】セドリック・ファヴェロ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァンサン・バトニエ
【合議体】
【審判長】原 賢一
【審判官】山田 倍司
【審判官】金 公彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-205403(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107487830(CN,A)
【文献】米国特許第5104552(US,A)
【文献】特開2004-113902(JP,A)
【文献】特開2004-113899(JP,A)
【文献】特開2004-089817(JP,A)
【文献】特許第6308585(JP,B2)
【文献】川村 和明,高分子凝集剤の開発と今後の展望,高分子 51巻 7月号,2002年,第504-507頁,URL,https://www.jstage.jst.go.jp/article/kobunshi1952/51/7/51_7_504/_pdf/-char/ja [retrieved on 2018-08-17]
【文献】Hirao Akira,スターポリマー,高分子 55巻 4月号,2006年,第276頁,https://www.jstage.jst.go.jp/article/kobunshi1952/55/4/55_4_276/_pdf [retrieved on 2020-01-10]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F1/52-56,11/00-20
B01D21/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の100万g.mol
-1以上の質量平均分子量を有する水溶性高分岐カチオン性ポリマー、及び少なくとも1種の100万g.mol
-1以上の質量平均分子量を有する水溶性星型カチオン性ポリマーを含む、スラッジを凝集処理するための組成物であって、
前記水溶性高分岐カチオン性ポリマーが、20%から300%の間のカチオンリゲインを有し、20から80質量%の間のカチオン性モノマー及び10から70質量%の間の非イオン性モノマーを含み、
前記水溶性星型カチオン性ポリマーが、10から80質量%の間のカチオン性モノマー及び10から70質量%の間の非イオン性モノマーを含み、
前記水溶性高分岐カチオン性ポリマーと前記水溶性星型カチオン性ポリマーのカチオン性モノマーが、ジメチルアミノエチルアクリラート(DMAEA)又はジメチルアミノエチルメタクリラート(DMAEMA)の第四級アンモニウム塩を含み、
前記水溶性高分岐カチオン性ポリマーと前記水溶性星型カチオン性ポリマーの非イオン性モノマーが、アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリルアミドのN-モノ誘導体、メタクリルアミドのN-モノ誘導体、アクリルアミドのN,N誘導体、又はメタクリルアミドのN,N誘導体を含み、
前記組成物の総質量に対して、0.01から90質量%の間の前記水溶性高分岐カチオン性ポリマー及び前記水溶性星型カチオン性ポリマーを含み、且つ、
組成物の総質量に対して5から20質量%の間の前記水溶性星型カチオン性ポリマーを含む、組成物。
【請求項2】
粒子状である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
水溶性高分岐カチオン性ポリマーが、3meq.g
-1以上7meq.g
-1以下のカチオン電荷を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
水溶性高分岐カチオン性ポリマーが、メチレンビスアクリルアミド、トリアリルアミン、テトラアリルアンモニウムクロリドから選択される架橋剤により構造化される、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
水溶性星型カチオン性ポリマーが、50から80質量%の間のカチオン性モノマーを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
質量平均分子量が200万g.mol
-1未満のポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
ポリビニルアミジンをさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
以下の工程:
a) 乾燥物含有量が0.2から6質量パーセントの間のスラッジS1を用意する工程、
b) 0.1から5g.L
-1の間の、請求項1から
7のいずれか一項に記載のスラッジを凝集処理するための組成物を含む水溶液Aを調製する工程、
c) 水溶液AをスラッジS1に添加して、乾燥物1トン当たり2から40キログラムの間の前記スラッジを凝集処理するための組成物を含むスラッジS2を得る工程、
d) スラッジS2を混合する工程、
e) 機械脱水システムを用いてスラッジS2を脱水する工程
を含む、スラッジを脱水する方法。
【請求項9】
機械脱水システムがスクリュープレスである、請求項
8に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1種の高分岐カチオン性凝集剤及び少なくとも1種の星型凝集剤を含む、スラッジを処理するための組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
都市、特に大都市、及び産業界は、非常に多量の排水を発生させ、又は排出している。この排水を自然環境中に排出する前に処理することにより、非常に多量のスラッジが発生している。一般に、スラッジの発生源が何であれスラッジの占める体積を最小限まで減少させるために、且つスラッジを焼却若しくは堆肥化により農業に再利用、又は埋立地への収容により除去する前にスラッジの乾燥度を上昇させるために、機械脱水の工程が必要になる。
【0003】
この脱水すなわち固体と液体との分離は、ほとんどの場合、通常機械的操作の上流で化学的調整の適用を組み合わせる、ベルトフィルター、フィルタープレス、ロータリープレスフィルター、遠心分離機、スクリュープレス、又はマルチディスク脱水機により行われている。機械脱水処理の目的は減容以外に、スラッジの管理、輸送及び収容を円滑化することである。
【0004】
本発明は特に無機化合物及び有機化合物によるスラッジ調整に関する。「スラッジ」という用語は本発明の意義において、少なくとも0.5%、一般には4%以上のレベルの乾燥物を有する残渣を意味する。スラッジは無機性でも有機性でも油性でもありうる。調整、特に化学的調整の概念は、本発明の意義においてDegremont、「Memento Technique de l'eau, Edition du Cinquantenaire 1989, 9th edition」第19章、特に949~959頁により定義されているとおりに理解しなければならない。
【0005】
スラッジが固相と液相とに分離できるようにするためには、まずスラッジのコロイド凝集を破壊し、スラッジを構成する粒子の粒径を人工的に増大させる必要がある。これが調整の目的である。スラッジを適切に調整することは脱水プラントが正しく機能する基盤である。従って、調整は処理すべきスラッジの性質及び脱水装置の種類の両方に適合するように最適化すべきである。従って、スラッジの調整は実際にはスラッジの特徴を固相と液相との分離を円滑化するように改変する処理である。
【0006】
原則が凝集剤及び/又は凝固剤の添加によりコロイド粒子の凝集及び沈降を起こすことからなる上水処理工程(例えば米国特許第4711727号を参照)とは異なり、スラッジの調整は、特に圧搾の問題点、すなわち濾布の目詰まり及びケーキの付着を防ぐことにより、機械脱水装置が正しく機能できるようにスラッジを調整することを目的としている。従って、スラッジの調整は凝固/凝集の特定の適用からなる。スラッジ調整の目的は、固体と液体との分離を促進することにより乾燥度(乾燥物含有率)を上昇させることである。
【0007】
4種類の技術がスラッジ調整装置中で最も一般的に機械脱水システムとして使用されている。
【0008】
スクリュープレス/「トルネード」
これらのシステムはスラッジを脱水するためにスクリーンに囲まれたスクリューを使用している。スクリューの圧力はスクリューに沿って増大する。排水能力の高い強固なフロック(凝集粒子)が必要になる。
【0009】
ベルトプレスフィルター
この種のフィルターの場合では、調整されるスラッジはまず脱水され、次いで2枚の濾布の間で圧搾される。ロールにより濾布の前進及び圧搾システムが提供される。この種の装置には均一でよく解離したフロックが必要であり、脱水工程中にはこのようなフロックにより急速に水の放出が促進される。
【0010】
遠心分離機又は遠心分離脱水機
これらのシステムは加速された沈降を起こすために遠心分離力を用いる。良好な分離は、剪断力に抵抗性のある大きく重いフロックの形成を前提としている。
【0011】
フィルタープレス(又はチャンバーフィルタープレス)
上記のシステムと異なり、この装置は非連続的にバッチで機能する。フィルタープレスは濾布に覆われてバッテリー内に濾過室(チャンバー)及び/又は濾過膜(メンブレン)とともに配置される濾板(プレート)からなる。濾過室は各濾板間に設けられ、調整されたスラッジがポンプにより供給される。このスラッジポンプが濾過室を通常10から15バールの間の高圧が得られるまでスラッジで満たす(過給操作)。このサイクルの終わりに、濾板は形成されたケーキを排出するために分離する。このように形成されたケーキは比較的強固なままであり、特に濾板及び濾布からきれいに剥離されることが非常に望ましい。そうでない場合は、清掃及び洗浄に人手を要する。フィルタープレス、スクリュープレス、又はマルチディスク脱水機の場合には、応力(特に圧力)へのプロセスロバスト性が要求される。
【0012】
スラッジを調製することを目的とする様々な化学的調整操作の中で、有機調整剤と無機調整剤とを区別するべきである。
【0013】
いわゆる有機調整剤:有機ポリマーのみを凝集剤として使用(典型的用量は乾燥物1トン当たり2から40kg)。長鎖の合成高分子電解質(高分子量、特にアクリルアミドを主成分とする)のみが効果的であり、それらは清澄な間隙水中に多量のよく分化したフロックを形成する。この処理は特に遠心脱水機及びベルトフィルターでの脱水に用いられる。加圧下での濾過による機械脱水(機械化されたフィルタープレス)中には、高比強度のために加圧時間が長くなること、濾布の洗浄が頻繁であること、ケーキの排出が悪くなることから、この処理はほとんど使われない。その上、得られるフロックはもろすぎる。
【0014】
いわゆる無機調整剤:塩化第二鉄等の鉄塩又はアルミニウム塩(典型的用量:処理する乾燥物に対して3質量%から15質量%)と石灰(典型的用量:処理する乾燥物に対して10質量%から40質量%)を組み合わせて使用。この調整方法により、微細であるが応力に対して非常にロバストな(堅固な)フロックが形成される。従って、この調整方法は特にフィルタープレスでの濾過に適している。ただし、鉄塩を使用することにはスラッジの生成が増加すること、鋼製又は鋳鉄製の配管及びフィルターが腐食すること、塩化物が高比率で存在すること、スラッジを焼却する際にスラグの生成を増大させる鉄が存在すること、作業員の火傷のリスクがある等の使用上の問題がある。
【0015】
脱水の性能を最適化するための混合調整操作(無機及び有機)も存在する。
【0016】
技術的課題の解決
以上のように、上記の全ての処理方法には欠点がある。有機調整剤はフィルタープレス等の特定の脱水システムには最適ではない。言及した他の調整方法は、上述の多数の問題を引き起こす鉄塩に特に頼っている。
【0017】
使用する調整方法及び試薬が何であっても、スラッジの良好な調整は、凝集したスラッジを分解せずに、試薬がスラッジ内によく分散できるようにすることを目的として、凝固/凝集のメカニズムを制御することを前提としている。従って、試薬の組込み(方法及び組込みの順序)、接触、熟成時間、及び凝集したスラッジに加える応力には特別に注意しなければならない。
【0018】
良好な結果を得るためには、一般的に、とりわけ以下のようなことが必要になる。
- 試薬の分散を促進し、スラッジの調整における有効性を高めるための試薬の準備(1種又は複数種のポリマーを溶液に入れること)
- 連続的な調整池
- 及び/又はインラインミキサー
【0019】
試薬の注入順序(塩化第二鉄は石灰の前に添加しなければならない、ポリマーは多くの場合最後に添加しなければならない)及び試薬間の一定の相互作用(ポリマーによる石灰の凝集のリスク)も重要となりうる。
【0020】
従って、以上のように、既存のスラッジ調整用試薬には全て、試薬添加の順序を考慮すること、各成分を一緒に添加した場合の不安定性、分離が必要なこと(保管、別個の輸送)、及び/又は一定の石灰の添加又は選択の際の注意、例えばポリマーがその凝集作用をもてるようにスラッジに最適な特性を与えること等の注意、等の面倒な制約がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【非特許文献】
【0022】
【文献】Degremont、「Memento Technique de l'eau, Edition du Cinquantenaire 1989, 9th edition」第19章、特に949~959頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
本発明の目的は、脱水前にスラッジを調整する際の従来技術の上述の欠点を、以前に直面していた問題への簡便で安全且つ効果的な解決策を提供することにより克服することである。
【課題を解決するための手段】
【0024】
操作を減らすことによる簡便性(化合物を保管するコストの低減、化合物を使用するコストの低減);鉄塩に頼ることをやめ、又は制限することによる安全性、特に強固なフロック(凝集粒子)を得ることによる有効性を実現する。強固なフロックはフィルタープレス又はスクリュープレスの使用と相性が良く、従って濾過効率性が高くなる(得られるケーキの乾燥度(乾燥物含有率)の上昇、固体と液体との機械的分離工程の加速、及び圧搾の問題点すなわち濾布の目詰まり及びケーキの付着の軽減)。
【0025】
本発明によれば、驚いたことに、少なくとも1種の100万g.mol-1以上の質量平均分子量を有する水溶性高分岐カチオン性ポリマー、及び少なくとも1種の100万g.mol-1以上の質量平均分子量を有する水溶性星型ポリマーを含む組成物が、従来技術の欠点を克服し、スラッジの脱水をより効率的にすることが判明した。
【0026】
その上、本発明の組成物が粒子状である場合、もう1つ予想外の利点がある。粉末状の分岐ポリマーは逆相エマルションの噴霧乾燥により生成することが多く、一般的に固相密度が低い。固相密度が低いことは、梱包及び輸送のコストが高く、粉塵及び管理、健康及び安全性の問題があることを意味する。密度を高めるために圧密、押出加工、又は凝集の工程がしばしば実施される。星型ポリマーをこの分岐ポリマーと混合することはこの処理工程の効率性を改善する。
【0027】
その上、粒子状の本組成物はケーキングの問題が限定的であり、水への溶解能がより高い。
【0028】
本発明は、少なくとも1種の100万g.mol-1以上の質量平均分子量を有する水溶性高分岐カチオン性ポリマー、及び少なくとも1種の100万g.mol-1以上の質量平均分子量を有する水溶性星型ポリマーを含む、スラッジ調整組成物(C)(スラッジコンディショニング組成物とも言う)に関する。
【0029】
本発明の他の態様は、以下の工程:
a) 乾燥物含有量が0.2から6質量パーセントの間のスラッジS1を準備する工程、
b) 0.1から5g.L-1の間のスラッジ調整組成物Cを含む水溶液Aを調製する工程、
c) 水溶液AをスラッジS1に添加して、乾燥物1トン当たり2から40キログラムの間の凝集剤を含むスラッジS2を得る工程、
d) スラッジS2を混合する工程、
e) 機械脱水システムを用いてスラッジS2を脱水する工程
を含む、スラッジを脱水する方法である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本明細書では、「水溶性ポリマー」という用語は、濃度20g.L-1、25℃で4時間かけて撹拌しながら添加する場合、不溶性粒子のない水溶液を形成するポリマーを指す。
【0031】
本発明によれば、ポリマーの「質量平均分子量」は固有粘度によって決定される。固有粘度は当業者に既知の方法により測定することができる。
【0032】
本発明によれば、スラッジ脱水組成物は本組成物の総質量に対して0.01から90質量パーセント(wt%)の間の高分岐ポリマー及び星型ポリマーを含む。より好ましくは、これらのポリマーは本組成物の総質量に対して0.01から70wt%の間、さらにより好ましくは、組成物の総質量に対して0.01から50wt%の間で含まれる。
【0033】
本発明のスラッジ脱水組成物は、水溶液状又は粒子状でありうる。好ましくは、このスラッジ脱水素組成物は粒子状である。
【0034】
以下の説明中で、「粒子状」とは、好ましくは0.1から2ミリメートルの間の平均粒径を有する粉末、ビーズ、プリル、又はその混合物を意味する。平均粒径とは、当業者の一般常識の一部である従来技術を用いてレーザー粒子測定器により測定した平均直径を意味する。
【0035】
当業者は本発明の組成物を調製する技術を選択する方法を知っているであろう。有利には、高分岐ポリマー及び星型ポリマーは混合及び圧縮の前には粒子状である。
【0036】
好ましくは、本発明の粒子状組成物は、本組成物の総質量に対して50質量%未満、より好ましくは、5から20質量%の間の星型ポリマーを含む。
【0037】
本発明によれば、分岐ポリマーは、ポリマーが直鎖状ではなく、主鎖の側鎖に主鎖の化学的性質と同じでも違っていてもよい、ペンディング鎖(ぶらさがっている鎖)のペンディング基(ぶらさがっている基)を有することを示す。このポリマーは水溶性のままである。
【0038】
分岐カチオン性ポリマーにおいては、実測上のカチオン性は理論上のカチオン性よりも低い。カチオンリゲインは理論上のカチオン性と実測上のカチオン度との間のカチオン性のゲイン(増加、上昇)である。
【0039】
実際には、実測上のカチオン性(meq.g-1)は5g.L-1ポリマー溶液の比色滴定により測定する。理論上のカチオン性(meq.g-1)は大きな剪断度(12,000rpmで7~8分間)で剪断した後5g.L-1ポリマー溶液の比色滴定により測定する。従って、カチオンリゲインは剪断なしの溶液に対する剪断後の溶液のカチオン性(meq.g-1)のゲインである。
【0040】
本発明によれば、高分岐カチオン性ポリマーはそのポリマーが20%から300%の間のカチオンリゲインを有することを示す。好ましくはカチオンリゲインは40から200%の間であり、より好ましくは50から150%の間である。
【0041】
本発明によれば、星型ポリマーは中心部(中心、コア)及び前記中心部から放射状に延在するポリマーを主体とするアームを有するポリマーである。そのようなポリマーは恐らくはこのポリマーを構成するポリマーアームの特性とは異なる、複数の特性を有することが知られている。
【0042】
本発明の高分岐ポリマーは、100万g.mol-1以上の質量平均分子量を有する。高分岐ポリマーの質量平均分子量の上限として、一般に本発明の高分岐ポリマーは1,000万g.mol-1以下の質量平均分子量を有するが、それに限定されるものではない。
【0043】
星型ポリマーは、100万g.mol-1以上、好ましくは200万g.mol-1以上の質量平均分子量を有する。星型ポリマーの質量平均分子量の上限としては、一般に、星型ポリマーは3,000万g.mol-1以下の質量平均分子量を有するが、それに限定されるものではない。
【0044】
一般に、高分岐ポリマーには重合工程の展開が必要ない。実際、高分岐ポリマーは当業者に周知の全ての不均一重合法により得られる。不均一重合は特に沈殿重合、逆相乳化重合、懸濁重合であってもよい。
【0045】
重合は一般にフリーラジカル重合で、好ましくは逆相乳化重合による。フリーラジカル重合には、UV重合開始剤、アゾ重合開始剤、レドックス重合開始剤、若しくは熱重合開始剤によるフリーラジカル重合、又は制御ラジカル重合法(CRP)若しくは鋳型重合法が含まれる。
【0046】
高分岐ポリマーは調製の間は液状であってもよく、次に「噴霧乾燥(スプレー乾燥)」、ドラム乾燥、マイクロ波乾燥等の放射乾燥、又は流動床での乾燥等の乾燥工程が必要となる。
【0047】
好ましくは、本発明の組成物中の高分岐ポリマーは油中水型エマルション(逆相エマルション)中での逐次重合と、必要によってはそれに続く蒸留/濃縮工程及びその結果生じる液体の噴霧乾燥により得られる。
【0048】
好ましくは、本発明の組成物中の高分岐ポリマーは3meq.g-1以上7meq.g-1以下のカチオン電荷を有する。
【0049】
カチオン性モノマーは、四級化又は塩化ジメチルアミノエチルアクリラート(DMAEA)、四級化又は塩化ジメチルアミノエチルメタクリラート(DMAEMA)、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド(DADMAC)、アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロリド(APTAC)、メタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロリド(MAPTAC)を含む群から選択することができる。
【0050】
好ましくは、高分岐カチオン性ポリマーは、カチオン性モノマーとしてジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド、第四級アンモニウム塩を有する。より好ましくは、カチオン性モノマーはDMAEA又はDMAEMAである。
【0051】
好ましくは、高分岐カチオン性ポリマーは、20から80質量%の間、より好ましくは50から80質量%の間のカチオン性モノマーを含む。
【0052】
高分岐カチオン性ポリマーは、アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリルアミドのN-モノ誘導体、メタクリルアミドのN-モノ誘導体、アクリルアミドのN,N誘導体、メタクリルアミドのN,N誘導体、アクリルエステル、及びメタクリルエステルを含む群から選択される非イオン性モノマーを含むことができる。最も好ましい非イオン性モノマーはアクリルアミドである。
【0053】
好ましくは、高分岐カチオン性ポリマーは、10から70質量%の間、より好ましくは20から60質量%の間の非イオン性モノマーを含む。
【0054】
高分岐カチオン性ポリマーは最終的に、得られたカチオン電荷をもち両性となりうる。この場合、高分岐カチオン性ポリマーは、カルボン酸官能基を有するモノマー及びその塩、スルホン酸官能基を有するモノマー及びその塩、リン酸官能基を有するモノマー及びその塩を含む群から選択されるアニオン性モノマーを含むことができる。それらは、例えばアクリル酸、アクリルアミドtert-ブチルスルホン酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、及びそれらの半エステル類を含む。最も好ましいアニオン性モノマーは、アクリル酸、アクリルアミドtert-ブチルスルホン酸(ATBS)、及びそれらの塩である。一般に、塩はアルカリ塩、アルカリ土類塩、又はアンモニウム塩である。
【0055】
本発明の高分岐ポリマーは、例えばビニル官能基、アリル官能基、アクリル官能基、及びエポキシ官能基等の、(少なくとも2つの不飽和官能基を有する)エチレン性不飽和モノマーを含む群から選択できる少なくとも1種の構造剤を使用して構造化することができる。この分岐ポリマーに使用される好ましい構造剤は、メチレンビスアクリルアミド(MBA)、トリアリルアミン、テトラアリルアンモニウムクロリド(TAAC)である。
【0056】
本発明の星型カチオン性ポリマーは、本発明の高分岐ポリマーの不均一重合法とはどのような場合でも異なる均一重合法を用いて合成される。
【0057】
好ましくは、星型ポリマーは可逆的付加脱離連鎖移動重合反応(RAFT)により得られ、MADIX法はRAFT法の一部である(キサンテート交換による高分子設計(MAcromolecular Design by Interchange of Xanthates))。
【0058】
RAFT重合は1998年に発見され、従来のフリーラジカル重合と似た手順を使用する。従来のフリーラジカル重合と異なる点は、急進的に成長する鎖を捕捉することにより重合を媒介する連鎖移動(RAFT)剤を導入して、急進的に成長する鎖をドーマント種とし、それにより活発に成長する鎖の平均濃度を減少させている点である。
【0059】
有利には、乾燥後に粉末状の星型ポリマーを得るために、ゲル重合をRAFT重合と組み合わせて使用することができる。
【0060】
好ましくは、本発明の組成物の星型ポリマーはカチオン性モノマーと非イオン性モノマーとのコポリマーである。カチオン性モノマー及び非イオン性モノマーは高分岐ポリマーに使用されるモノマーのリストから選択することができる。
【0061】
本組成物の星型ポリマーは両性でありうる。この場合、必要となるアニオン性モノマーは高分岐ポリマーに使用されるアニオン性モノマーのリストから選択することができる。
【0062】
星型ポリマーの中心部及びアームは同じ組成(コポリマー)とすることも異なる組成(非イオン性中心部/カチオン性アーム又はカチオン性中心部/カチオン性アーム)とすることもできる。
【0063】
好ましくは、星型ポリマーは、10から80質量%の間、より好ましくは50から80質量%の間のカチオン性モノマーを含む。
【0064】
好ましくは、星型ポリマーは、10から70質量%の間、より好ましくは40から60質量%の間の非イオン性モノマーを含む。
【0065】
粒子状の本組成物には他の化合物を組み込むことができる。この化合物は他の水溶性有機ポリマーでありうる。この水溶性ポリマーは直鎖状ポリマーでありうる。この水溶性ポリマーは、有利には、アクリルアミド、アクリル酸ナトリウム、ジメチルアミノエチルメタクリラートの塩化アンモニウム塩の直鎖状ターポリマー等の、得られたカチオン電荷をもつ両性ポリアクリルアミドである。他の水溶性有機ポリマーは一般に100万g.mol-1以上の質量平均分子量を有する。
【0066】
粒子状の本組成物に組み込むことのできる他の水溶性ポリマーは凝固剤とすることもできる。この凝固剤は有機でも無機でもよい。無機凝固剤の例としてはポリアルミニウムクロリド(PAC)が挙げられる。
【0067】
好ましい有機凝固剤は、質量平均分子量が200万g.mol-1未満のポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)である。他の好ましい凝固剤はポリビニルアミジンである。その質量平均分子量は本発明の高分岐ポリマーの質量平均分子量と同じ方法で測定することができる。
【0068】
有機塩及び/又は無機塩を粒子状の本組成物と混合することができる。これらの塩は、pH緩衝液の希釈液、流動性助剤、安定剤、溶解促進剤として使用することができる。好ましい塩は尿素、硫酸アンモニウム又は塩化アンモニウム、アジピン酸、ギ酸ナトリウム、コハク酸である。
【0069】
粒子状の本組成物は最大で50質量パーセントの有機及び/又は無機塩を含んでもよい。
【0070】
本発明の他の態様は、以下の逐次工程:
a) 乾燥物含有量が0.2から6質量パーセントの間のスラッジS1を準備する工程、
b) 0.1から5g.L-1の間のスラッジ調整組成物Cを含む水溶液Aを調製する工程、
c) 水溶液AをスラッジS1に添加して、乾燥物1トン当たり2から40キログラムの間の凝集剤を含むスラッジS2を得る工程、
d) スラッジS2を混合する工程、
e) 機械脱水システムを用いてスラッジS2を脱水する工程
を含む、スラッジを脱水する方法である。
【0071】
スラッジ脱水工程は通常、水処理施設で用いられる。水処理には都市用水処理及び工業用水処理が含まれる。
【0072】
本発明の組成物Cが粒子状である場合、工程b)は水にスラッジ調整組成物Cを溶解して、0.1から5g.L-1の間の凝集剤を含む水溶液Aを得ることにより実施する。
【0073】
有利には、工程c)及び工程d)は、工程e)を実施する前に1度、連続的に繰り返すことができる。
【0074】
好ましくは本発明の工程で使用される機械脱水システムはスクリュープレスである。このシステムはスラッジを脱水するためにスクリーンで囲まれたスクリューを使用する。スクリューの圧力はスクリューに沿って増大する。
【0075】
結果として生じる本発明の利点は、以下の実施態様の例により強調されている。本発明の組成物によりスラッジ脱水の適用が改善される。
【実施例】
【0076】
実施例で使用されるポリマー
ポリマー1:逆相乳化重合及び噴霧乾燥により得られた、メチレンビスアクリルアミド(MBA)により構造化された、アクリルアミドとジメチルアミノエチルメタクリラートの塩化アンモニウム塩(40/60 %mol)との分岐コポリマー。このポリマーのカチオンリゲインは約100%である。ポリマー1は固有粘度により決定される150万g.mol-1の質量平均分子量を有する。ポリマー1の固有粘度(4.5dL.g-1)は異なる濃度に対する粘度の換算値から、濃度(横座標軸に)に対する粘度の換算値(縦座標軸に)をプロットし、曲線をゼロ濃度に補外したものから構成される、グラフ法により計算した。固有粘度値は縦座標軸から読み取る。換算粘度はpH7に中和した1MのNaCl中で25℃で測定した。
【0077】
ポリマー2:ゲル重合と組み合わせたRAFT重合により得られた、アクリルアミドとジメチルアミノエチルメタクリラートの塩化アンモニウム塩(45/55 %mol)との星型コポリマー。ポリマー2は固有粘度により決定される500万g.mol-1の質量平均分子量を有する。ポリマー2の固有粘度(10dL.g-1)はポリマー1について記載したのと同じ方法で計算した。
【0078】
ポリマー3:ゲル重合により得られたアクリルアミドとジメチルアミノエチルメタクリラートの塩化アンモニウム塩との直鎖状コポリマー(20/80 %mol)。ポリマー3は固有粘度により決定される400万g.mol-1の質量平均分子量を有する。ポリマー3の固有粘度(8.4dL.g-1)はポリマー1について記載したのと同じ方法で計算した。
【0079】
(実施例1)
スラッジの特性:
【0080】
【0081】
1試験当たりのスラッジ体積:250mL。スラッジ凝集のためにジャーテスターを使用した(撹拌:1試料当たり130rpmで1分間)。フロック寸法は視覚的に測定した。凝集後、スラッジを気孔率250ミクロンの篩で濾過した。濾液の量は濾液の質量の測定により決定する。
【0082】
粉末の圧密工程後、ポリマー1を単独で使用した。
【0083】
粉末状のポリマー1とポリマー2との逐次的な混合及び圧密工程により、粒子状の他の組成物を得た。
【0084】
これらの組成物を水に溶解することによりポリマー(0.2wt%(質量%))溶液を調製し、混合しながらスラッジに添加した。
【0085】
【0086】
本例(Table 2(表2))では、本発明の組成物(粒子状のポリマー1とポリマー2との混合物)はスラッジの排水を向上させる(少なくとも、10及び20質量%の星型ポリマーを含む組成物について)とともに、フロック寸法を増大する。
【0087】
(実施例2)
スラッジの特性:
【0088】
【0089】
1試験当たりのスラッジ体積:250mL。これらの組成物を水に溶解することによりポリマー(0.2 wt%)溶液を調製した。
【0090】
必要な粉末状のポリマーの逐次的な混合及び圧密工程により、粒子状の組成物が得られた。
【0091】
スラッジ凝集のためにジャーテスターを使用した(撹拌:1試料当たり130rpmで1分間)。
【0092】
フロック寸法は視覚的に測定した。凝集後、スラッジを気孔率250ミクロンの篩で濾過する。濾液の量は濾液の質量の測定により決定する。
【0093】
【0094】
本例(Table 4(表4))では、本発明の組成物(ポリマー1及びポリマー2を含む混合物)はスラッジの排水量を向上させ、フロック寸法を増大させ、上澄みの濁度を減少させている。