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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-08
(45)【発行日】2022-12-16
(54)【発明の名称】車両制御装置、及び、車両
(51)【国際特許分類】
   G05B 11/32 20060101AFI20221209BHJP
   G05B 13/02 20060101ALI20221209BHJP
   B60W 30/188 20120101ALI20221209BHJP
   B60L 15/20 20060101ALN20221209BHJP
【FI】
G05B11/32 F
G05B13/02 B
B60W30/188
B60L15/20 J
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019233269
(22)【出願日】2019-12-24
(65)【公開番号】P2021103350
(43)【公開日】2021-07-15
【審査請求日】2022-05-26
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100138771
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 将明
(72)【発明者】
【氏名】谷 則幸
【審査官】大古 健一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/083557(WO,A1)
【文献】特開2006-18431(JP,A)
【文献】特開平6-309008(JP,A)
【文献】国際公開第2019/171781(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 1/00 - 7/04
11/00 -13/04
17/00 -17/02
21/00 -21/02
B60W 30/188
B60L 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車輪の回転速度に関連するトルク指令値を出力するフィードフォワード制御部と、
前記トルク指令値に基づいて、前記車輪の回転速度を推定した値である推定値を特定する速度推定部と、
前記車輪の回転速度を測定した値である測定値と前記推定値との誤差に基づいて、前記フィードフォワード制御部にて前記トルク指令値の決定に用いられるパラメータを決定するパラメータ決定部と、を備え、
前記フィードフォワード制御部は、前記車輪の回転速度の目標とされる値である目標値と、前記パラメータ決定部によって決定された前記パラメータとを用いて、出力する前記トルク指令値を決定する、
車両制御装置。
【請求項2】
前記パラメータ決定部は、
前記誤差が負値である第1の閾値よりも小さい場合、前記パラメータを第1のパラメータに決定し、
前記誤差が正値である第2の閾値よりも大きい場合、前記パラメータを第2のパラメータに決定し、
前記誤差が前記第1の閾値以上かつ前記第2の閾値以下の場合、前記パラメータを第3のパラメータに決定し、
前記第1のパラメータを用いた場合の前記トルク指令値は、前記第3のパラメータを用いた場合の前記トルク指令値よりも大きく、
前記第2のパラメータを用いた場合の前記トルク指令値は、前記第3のパラメータを用いた場合の前記トルク指令値よりも小さい、
請求項1に記載の車両制御装置。
【請求項3】
外乱を推定した値である外乱推定値を出力する外乱推定部をさらに備え、
前記パラメータ決定部は、
前記外乱推定値が負値である第1の閾値よりも小さい場合、前記パラメータを第1のパラメータに決定し、
前記外乱推定値が正値である第2の閾値よりも大きい場合、前記パラメータを第2のパラメータに決定し、
前記外乱推定値が前記第1の閾値以上かつ前記第2の閾値以下の場合、前記パラメータを第3のパラメータに決定し、
前記第1のパラメータを用いた場合の前記トルク指令値は、前記第3のパラメータを用いた場合の前記トルク指令値よりも大きく、
前記第2のパラメータを用いた場合の前記トルク指令値は、前記第3のパラメータを用いた場合の前記トルク指令値よりも小さい、
請求項1に記載の車両制御装置。
【請求項4】
前記目標値と前記測定値との差に基づく前記トルク指令値を出力するフィードバック制御部と、
前記測定値が第3の閾値以上の場合、前記フィードバック制御部から出力された前記トルク指令値を出力し、前記測定値が前記第3の閾値未満の場合、前記フィードフォワード制御部から出力された前記トルク指令値を出力する切替部、をさらに備え、
前記車輪は、前記切替部から出力された前記トルク指令値に基づいて回転駆動される、
請求項1から3のいずれか1項に記載の車両制御装置。
【請求項5】
車輪を備える車両であって、
前記車輪の回転速度に関連するトルク指令値を出力するフィードフォワード制御部と、
前記トルク指令値に基づいて、前記車輪の回転速度を推定した値である推定値を特定する速度推定部と、
前記車輪の回転速度を測定した値である測定値と前記推定値との誤差に基づいて、前記フィードフォワード制御部にて前記トルク指令値の決定に用いられるパラメータを決定するパラメータ決定部と、を備え、
前記フィードフォワード制御部は、前記車輪の回転速度の目標とされる値である目標値と、前記パラメータ決定部によって決定された前記パラメータとを用いて、出力する前記トルク指令値を決定する、
車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両制御装置、及び、車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車輪又は駆動原動機の回転速度を極低速域において制御する場合に、フィードフォワード制御を用いる方法が知られている。特許文献1には、出力軸回転速度センサの精度が維持されない可能性のある出力軸回転速度が所定回転速度未満の場合には、変則進行度の算出値の精度が保証されないため、イナーシャ相において第1電動機トルク及び第2電動機トルクをフィードフォワード制御することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-202805号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のフィードフォワード制御では、車両の走行環境の変化に伴う走行抵抗の変化が考慮されていない。例えば、上り坂又は下り坂を走行中の場合と平坦地を走行中の場合とでは、車両の走行抵抗は異なるにも関わらず、従来のフィードフォワード制御では、いずれの場合でも平坦地用に最適化された制御が行われる。したがって、例えば、上り坂又は下り坂を走行中の車両を自動運転制御にて所望の位置に停止させる場合、平坦地用に最適化されたフィードフォワード制御が行われ、車両が所望の位置からずれた位置に停止してしまう。
【0005】
本開示の目的は、走行抵抗の変化を考慮したフィードフォワード制御を提供し、走行抵抗の違いによる車両の停止位置のバラツキを抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係る車両制御装置は、車両の車輪の回転速度に関連するトルク指令値を出力するフィードフォワード制御部と、前記トルク指令値に基づいて、前記車輪の回転速度を推定した値である推定値を特定する速度推定部と、前記車輪の回転速度を測定した値である測定値と前記推定値との誤差に基づいて、前記フィードフォワード制御部にて前記トルク指令値の決定に用いられるパラメータを決定するパラメータ決定部と、を備え、前記フィードフォワード制御部は、前記車輪の回転速度の目標とされる値である目標値と、前記パラメータ決定部によって決定された前記パラメータとを用いて、出力する前記トルク指令値を決定する。
【0007】
本開示の一態様に係る車両は、車輪を備える車両であって、前記車輪の回転速度に関連するトルク指令値を出力するフィードフォワード制御部と、前記トルク指令値に基づいて、前記車輪の回転速度を推定した値である推定値を特定する速度推定部と、前記車輪の回転速度を測定した値である測定値と前記推定値との誤差に基づいて、前記フィードフォワード制御部にて前記トルク指令値の決定に用いられるパラメータを決定するパラメータ決定部と、を備え、前記フィードフォワード制御部は、前記車輪の回転速度の目標とされる値である目標値と、前記パラメータ決定部によって決定された前記パラメータとを用いて、出力する前記トルク指令値を決定する。
【0008】
なお、これらの包括的又は具体的な態様は、システム、装置、方法、集積回路、コンピュータプログラム又は記録媒体で実現されてもよく、システム、装置、方法、集積回路、コンピュータプログラム及び記録媒体の任意な組み合わせで実現されてもよい。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、走行抵抗の変化を考慮したフィードフォワード制御を提供でき、走行抵抗の違いによる車両の停止位置のバラツキを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施の形態1に係る車両の構成例を示す図
図2】実施の形態1に係る制動制御部の構成例を示す図
図3】実施の形態1に係るパラメータ決定部の処理例を示すフローチャート
図4】車輪速度オブザーバにおける、制御対象物に対応する推定モデルの構成例を示す図
図5】実施の形態2に係る制動制御部の構成例を示す図
図6】実施の形態2に係るパラメータ決定部の処理例を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を適宜参照して、本開示の実施の形態について詳細に説明する。ただし、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、すでによく知られた事項の詳細説明及び実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。なお、添付図面及び以下の説明は、当業者が本開示を十分に理解するために提供されるのであって、これらにより特許請求の記載の主題を限定することは意図されていない。
【0012】
(実施の形態1)
<車両構成>
図1は、実施の形態1に係る車両の構成例を示す図である。
【0013】
車両1は、車輪10、車両制動部21、車輪速度センサ22、挙動制御部23、及び、制動制御部100を備える。車両1が4輪車の場合、車輪10の数は4つであり、車輪速度センサ22の数も4つであってよい。以下では、1つの車輪10と、その車輪10の速度を測定する車輪速度センサ22について説明するが、当該説明は、他の車輪10と車輪速度センサ22にも適用可能である。
【0014】
車両制動部21は、車輪10を制動(駆動)させるための機構であり、例えば、駆動原動機、変速機及びブレーキ機構等を含む。駆動原動機は、電動モータ、内燃機関、又はそれらの組み合わせであってよい。車両制動部21は、車輪10の駆動軸(図示しない)に加速用又は減速用のトルクを与えることにより、車両1を加速、減速及び停止させる。
【0015】
車輪速度センサ22は、車輪10の回転速度を測定するための装置である。車輪速度センサ22は、車輪10の回転速度を測定し、その測定結果である車輪速度測定値Vmesを送信する。例えば、車輪速度センサ22は、車輪10又は駆動軸と共に回転するロータのパルス周期を検出し、その検出したパルス周期に基づいて、車輪速度測定値Vmesを測定する。そのため、パルス周期が所定の閾値以上となる極低速域においては、車輪速度測定値Vmesの精度が不十分である。よって、パルス周期が所定の閾値以上となる極低速域では、後述するように、フィードバック制御ではなく、フィードフォワード制御が行われる。なお、車輪速度測定値Vmesは、回転速度(例えばrpm)、角速度(例えばrad/ms)、及び、車輪10の周長に基づく走行速度(例えばkm/h)のうちのいずれであってもよい。
【0016】
挙動制御部23は、車両1の挙動(例えば走る、曲がる、止まる)を制御する。自動運転制御される車両1の場合、挙動制御部23は、車両1に備えられたカメラ、ミリ波レーダ、及び測位センサといった各種センサから得られる情報に基づき、車両1の速度及び操舵角等を自動的に決定する。例えば、挙動制御部23は、車輪10の回転速度の目標とされる値である車輪速度目標値Vtrgを決定し、その決定した車輪速度目標値Vtrgを制動制御部100へ送信する。
【0017】
制動制御部100は、車両制御装置の一例であり、車両制動部21の制動を制御する。制動制御部100は、挙動制御部23から受信した車輪速度目標値Vtrgと、車輪速度センサ22から受信した車輪速度測定値Vmesとに基づいて、車輪10の回転速度に関連するトルク指令値を決定し、その決定したトルク指令値を車両制動部21に送信する。例えば、車両制動部21は、制動制御部100から正のトルク指令値を受信した場合、そのトルク指令値に基づいてトルク値を決定し、その決定したトルク値に応じた加速用のトルクを車輪10の駆動軸に与える。例えば、車両制動部21は、制動制御部100から負のトルク指令値を受信した場合、そのトルク指令値に基づいてトルク値を決定し、その決定したトルク値に応じた減速用のトルクを車輪10の駆動軸に与える。なお、制動制御部100の詳細については後述する。
【0018】
挙動制御部23及び制動制御部100は、個別のECU(Electronic Control Unit)によって構成される。あるいは、挙動制御部23及び制動制御部100は、1つのECUによって構成されてもよい。ECUは、本開示の機能を実現するマイコン、集積回路、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、PLD(Programmable Logic Device)又はFPGA(Field-Programmable Gate Array)によって構成されてよい。あるいは、ECUは、プロセッサ及びメモリを含み、プロセッサがメモリに記憶されたコンピュータプログラムを読み出して実行することにより、本開示の機能を実現してもよい。各ECUは、車両1内の通信ネットワークに接続され、当該通信ネットワークを介して情報(又は信号)を送受信できる。車両1内の通信ネットワークの例は、CAN(Controller Area Network)、LIN(Local Interconnect Network)、FlexRay、又は、これらの組み合わせである。
【0019】
<制動制御部の詳細>
図2は、実施の形態1に係る制動制御部100の構成例を示す図である。
【0020】
制動制御部100は、フィードバック制御部101、フィードフォワード制御部102、切替部103、車輪速度オブザーバ104、及び、パラメータ決定部105を含む。なお、本開示における「オブザーバ」は、現代制御理論に基づいて制御系の内部状態を観測する状態観測器を意味する。
【0021】
フィードバック制御部101は、挙動制御部23から受信した車輪速度目標値Vtrgから、車輪速度センサ22から受信した車輪速度測定値Vmesを減じた値に基づいて、トルク指令値を決定する。フィードバック制御部101は、決定したトルク指令値を、切替部103に出力する。
【0022】
フィードフォワード制御部102は、挙動制御部23から受信した車輪速度目標値Vtrgと、後述するパラメータ決定部105から出力されたパラメータとに基づいて、トルク指令値を決定(算出)する。フィードフォワード制御部102は、決定したトルク指令値を、切替部103に出力する。
【0023】
切替部103は、車輪速度センサ22から受信した車輪速度測定値Vmesに基づいて、トルク指令値の入力元を切り替える。例えば、切替部103は、車輪速度測定値Vmesが所定の閾値(第3の閾値)以上の場合、トルク指令値の入力元を、フィードバック制御部101に切り替える。この場合、フィードバック制御部101から出力されたトルク指令値が、車両制動部21に出力される。例えば、切替部103は、車輪速度測定値Vmesが所定の閾値(第3の閾値)未満の場合(つまり極低速域の場合)、トルク指令値の入力元を、フィードフォワード制御部102に切り替える。この場合、フィードフォワード制御部102から出力されたトルク指令値が、車両制動部21に出力される。このように、極低速域において、フィードバック制御部101ではなく、フィードフォワード制御部102から出力されたトルク指令値を使用する理由は、上述のとおり、極低速域では、フィードバックされる車輪速度測定値Vmesの精度が不十分だからである。
【0024】
車輪速度オブザーバ104は、速度推定部の一例であり、切替部103から出力されたトルク指令値に基づいて、車輪10の回転速度を推定した値である車輪速度推定値Vestを算出する。また、車輪速度オブザーバ104は、車輪速度センサ22から受信した車輪速度測定値Vmesから、車輪速度推定値Vestを減じ、車輪速度推定誤差eを算出する。したがって、車輪速度測定値Vmesが車輪速度推定値Vestよりも大きい場合、車輪速度推定誤差eは正値となり、車輪速度測定値Vmesが車輪速度推定値Vestよりも小さい場合、車輪速度推定誤差eは負値となる。車輪速度オブザーバ104は、その算出した車輪速度推定誤差eを、パラメータ決定部105に出力する。
【0025】
パラメータ決定部105は、車輪速度オブザーバ104から出力された車輪速度推定誤差eに基づいて、フィードフォワード制御部102がトルク指令値の決定に用いるパラメータを決定し、その決定したパラメータをフィードフォワード制御部102に出力する。
【0026】
車輪速度推定誤差eが負値である場合、車輪速度測定値Vmesが車輪速度推定値Vestよりも小さい。この場合、車両1が上り坂を走行中であるために、車輪10が車輪速度推定値Vestよりも遅く回転している可能性がある。そこで、この場合、パラメータ決定部105は、フィードフォワード制御部102がトルク指令値の決定に用いるパラメータを、上り坂用のパラメータに決定する。すなわち、パラメータ決定部105は、車輪速度推定誤差eが所定の閾値(第1の閾値)-Vth(<0)よりも小さい場合(e<-Vth)、フィードフォワード制御部102がトルク指令値の決定に用いるパラメータを、上り坂用のパラメータ(第1のパラメータ)に決定する。
【0027】
車輪速度推定誤差eが正値である場合、車輪速度測定値Vmesが車輪速度推定値Vestよりも大きい。この場合、車両1が下り坂を走行中であるために、車輪10が車輪速度推定値Vestよりも速く回転している可能性がある。そこで、この場合、パラメータ決定部105は、フィードフォワード制御部102がトルク指令値の決定に用いるパラメータを、下り坂用のパラメータに決定する。すなわち、パラメータ決定部105は、車輪速度推定誤差eが所定の閾値(第2の閾値)Vth(>0)よりも大きい場合(e>Vth)、フィードフォワード制御部102がトルク指令値の決定に用いるパラメータを、下り坂用のパラメータ(第2のパラメータ)に決定する。
【0028】
車輪速度推定誤差eが0を包含する所定の範囲内である場合、車輪速度推定値Vestは車輪速度測定値Vmesと概ね一致する。この場合、車両1が平坦地を走行中であるために、車輪速度推定値Vestが車輪速度測定値Vmesと概ね一致している可能性がある。そこで、この場合、パラメータ決定部105は、フィードフォワード制御部102がトルク指令値の決定に用いるパラメータを、平坦地用(通常用)のパラメータに決定する。すなわち、パラメータ決定部105は、車輪速度推定誤差eが所定の第1の閾値-Vth以上、かつ、所定の第2の閾値Vth以下である場合(-Vth≦e≦Vth)、フィードフォワード制御部102がトルク指令値の決定に用いるパラメータを、平坦地用のパラメータ(第3のパラメータ)に決定する。
【0029】
上り坂用のパラメータは、平坦地用のパラメータよりも、トルク指令値が大きく算出されるパラメータである。下り坂用のパラメータは、平坦地用のパラメータよりも、トルク指令値が小さく算出されるパラメータである。これにより、フィードフォワード制御部102は、平坦地用のパラメータのみを用いてトルク指令値を算出する場合と比較して、車両1が走行中の環境状況に適したトルク指令値を算出できる。すなわち、車両1が走行中の環境状況に適したトルクにて、車輪10の駆動軸を回転させることができる。
【0030】
例えば、従来は、下り坂での自動停止制御においても平坦地用のパラメータのみを用いてトルク指令値を算出するため、車両1は目標の停止位置よりも奥に停止してしまう。これに対して、本実施の形態は、下り坂での自動停止制御では下り坂用のパラメータを用いてトルク指令値を算出するため、車両1は目標の停止位置に停止できる。
【0031】
同様に、従来は、上り坂での自動停車制御においても平坦地用のパラメータのみを用いてトルク指令値を算出するため、車両1は目標の停止位置よりも手前に停止してしまう。これに対して、本実施の形態は、上り坂での自動停止制御では上り坂用のパラメータを用いてトルク指令値を算出するため、車両1は目標の停止位置に停止できる。
【0032】
<パラメータ決定部の処理例>
図3は、実施の形態1に係るパラメータ決定部105の処理例を示すフローチャートである。
【0033】
パラメータ決定部105は、車輪速度オブザーバ104から、車輪速度推定誤差eを取得する(S101)。
【0034】
パラメータ決定部105は、車輪速度推定誤差eが閾値Vthよりも大きいか否かを判定する(S102)。
【0035】
パラメータ決定部105は、車輪速度推定誤差eが閾値Vthよりも大きい場合(S102:YES)、下り坂用のパラメータをフィードフォワード制御部102に出力し(S103)、本処理を終了する。
【0036】
パラメータ決定部105は、車輪速度推定誤差eが閾値Vth以下である場合(S102:NO)、次のS104の処理を実行する。
【0037】
パラメータ決定部105は、車輪速度推定誤差eが閾値-Vthよりも小さいか否かを判定する(S104)。
【0038】
パラメータ決定部105は、車輪速度推定誤差eが閾値-Vthよりも小さい場合(S104:YES)、上り坂用のパラメータをフィードフォワード制御部102に出力し(S105)、本処理を終了する。
【0039】
パラメータ決定部105は、車輪速度推定誤差eが閾値-Vth以上の場合(S104:NO)、平坦地用のパラメータをフィードフォワード制御部102に出力し(S106)、本処理を終了する。
【0040】
なお、上述では、2つの閾値Vth及び-Vthを用いて、上り坂用、下り坂用及び平坦用の3つのパラメータを決定する例を説明したが、上り坂用及び/又は下り坂用のパラメータは、多段階に切り替えられてもよい。例えば、パラメータ決定部105は、車輪速度推定誤差e>閾値Vth2ならば、下り坂用のパラメータに決定し、閾値Vth2≧車輪速度推定誤差e>閾値Vth1ならば、ゆるい下り坂用のパラメータに決定してよい。パラメータ決定部105は、車輪速度推定誤差e<閾値-Vth2ならば、上り坂用のパラメータに決定し、閾値-Vth2≦車輪速度推定誤差e<閾値-Vth1ならば、ゆるい上り坂用のパラメータに決定してよい。パラメータ決定部105は、閾値-Vth1≦車輪速度推定誤差e≦閾値Vth1ならば、平坦用のパラメータに決定してよい。
【0041】
<変形例>
上述では、車輪速度オブザーバ104が車輪速度推定誤差eを出力する例を説明したが、車輪速度オブザーバ104は、車輪速度推定誤差eとは異なる値を出力してもよい。
【0042】
図4は、車輪速度オブザーバ104における、制御対象物に対応する推定モデルの構成例を示す図である。次に、図4を参照して、車輪速度オブザーバ104が、車輪速度推定誤差eとは異なる値を出力する例を説明する。本説明における制御対象物は、車両制動部21である。あるいは、制御対象物は、車両制動部21及び車輪10であってもよい。
【0043】
図4に示す推定モデルにおいて、A、B、Cは、制御対象物に基づいて定まる行列を示す。1/sは、ラプラス変換における時間積分を示す。Keは、所定のオブザーバゲインを示す。
【0044】
図4に示すように、推定モデルでは、車輪速度推定誤差eの他に、状態量推定値x_est、及び、状態量推定値微分量xdot_estが算出される。状態量推定値x_estは、状態量推定値微分量xdot_estを時間積分した値である。状態量推定値微分量xdot_estは、車輪速度オブザーバ104に入力されたトルク指令値と行列Bを乗算して得た値と、車輪速度推定誤差eとオブザーバゲインKeを乗算して得た値と、状態量推定値x_estと行列Bを乗算して得た値と、の加算値である。
【0045】
車輪速度オブザーバ104は、車輪速度推定誤差eに代えて、状態量推定値x_est、又は、状態量推定値微分量xdot_estを、パラメータ決定部105に出力してもよい。
【0046】
この場合、パラメータ決定部105は、車輪速度推定誤差eを判定するための上記閾値Vth、-Vthに代えて、状態量推定値x_est又は状態量推定値微分量xdot_estを判定するための所定の閾値を用いて、上り坂用のパラメータ(第1のパラメータ)、下り坂用のパラメータ(第2のパラメータ)、及び、平坦地用のパラメータ(第3のパラメータ)を決定してよい。
【0047】
(実施の形態2)
図5は、実施の形態2に係る制動制御部100の構成例を示す図である。なお、実施の形態2では、実施の形態1で説明済みの構成要素については、共通の参照符号を付し、説明を省略する場合がある。
【0048】
制動制御部100は、フィードバック制御部101、フィードフォワード制御部102、切替部103、車両モデル106、外乱オブザーバ107、及び、パラメータ決定部105を含む。
【0049】
車両モデル106は、速度推定部の一例であり、切替部103(フィードフォワード制御部102)から出力されたトルク指令値に基づき、車輪速度推定値Vestを出力する。車両モデル106は、車両制動部21及び車輪10をモデル化したものである。
【0050】
外乱オブザーバ107は、外乱推定部の一例であり、車輪速度センサ22から出力された車輪速度測定値Vmesから、車両モデル106から出力された車輪速度推定値Vestを減じた車輪速度推定誤差eに基づいて、外乱を推定した値である外乱推定値destを出力する。外乱オブザーバ107は、車両モデル106の逆モデルとして構成されてよい。
【0051】
パラメータ決定部105は、外乱オブザーバ107から出力された外乱推定値destに基づいて、フィードフォワード制御部102がトルク指令値の決定に用いるパラメータを決定し、その決定したパラメータをフィードフォワード制御部102に出力する。
【0052】
外乱推定値destが負値である場合、車輪速度測定値Vmesが車輪速度推定値Vestよりも小さい。この場合、車両1が上り坂を走行中であるために、車輪10が車輪速度推定値Vestよりも遅く回転している可能性がある。そこで、この場合、パラメータ決定部105は、フィードフォワード制御部102においてトルク指令値の算出に用いられるパラメータを、上り坂用のパラメータに決定する。すなわち、パラメータ決定部105は、外乱推定値destが所定の閾値(第1の閾値)-dth(<0)よりも小さい場合(dest<-dth)、フィードフォワード制御部102においてトルク指令値の算出に用いられるパラメータを、上り坂用のパラメータ(第1のパラメータ)に決定する。
【0053】
外乱推定値destが正値である場合、車輪速度測定値Vmesが車輪速度推定値Vestよりも大きい。この場合、車両1が下り坂を走行中であるために、車輪10が車輪速度推定値Vestよりも速く回転している可能性がある。そこで、この場合、パラメータ決定部105は、フィードフォワード制御部102においてトルク指令値の算出に用いられるパラメータを、下り坂用のパラメータに決定する。すなわち、パラメータ決定部105は、外乱推定値destが所定の閾値(第2の閾値)dth(>0)よりも大きい場合(dest>dth)、フィードフォワード制御部102においてトルク指令値の算出に用いられるパラメータを、下り坂用のパラメータ(第2のパラメータ)に決定する。
【0054】
外乱推定値destが0を包含する所定の範囲内である場合、車輪速度推定値Vestは車輪速度測定値Vmesと概ね一致する。この場合、車両1が平坦地を走行中であるために、車輪速度推定値Vestが車輪速度測定値Vmesと概ね一致している可能性がある。そこで、この場合、パラメータ決定部105は、フィードフォワード制御部102においてトルク指令値の算出に用いられるパラメータを、平坦地用(通常用)のパラメータに決定する。すなわち、パラメータ決定部105は、外乱推定値destが所定の閾値(第1の閾値)-dth以上かつ所定の閾値(第2の閾値)dth以下である場合(-dth≦dest≦dth)、フィードフォワード制御部102においてトルク指令値の算出に用いられるパラメータを、平坦地用のパラメータ(第3のパラメータ)に決定する。
【0055】
図6は、実施の形態2に係るパラメータ決定部105の処理例を示すフローチャートである。
【0056】
パラメータ決定部105は、外乱オブザーバ107から、外乱推定値destを取得する(S201)。
【0057】
パラメータ決定部105は、外乱推定値destが閾値dthよりも大きいか否かを判定する(S202)。
【0058】
パラメータ決定部105は、外乱推定値destが閾値dthよりも大きい場合(S202:YES)、下り坂用のパラメータをフィードフォワード制御部102に出力し(S203)、本処理を終了する。
【0059】
パラメータ決定部105は、外乱推定値destが閾値dth以下である場合(S202:NO)、次のS204の処理を実行する。
【0060】
パラメータ決定部105は、外乱推定値destが閾値-dthよりも小さいか否かを判定する(S204)。
【0061】
パラメータ決定部105は、外乱推定値destが閾値-dthよりも小さい場合(S204:YES)、上り坂用のパラメータをフィードフォワード制御部102に出力し(S205)、本処理を終了する。
【0062】
パラメータ決定部105は、外乱推定値destが閾値-dth以上の場合(S204:NO)、平坦地用のパラメータをフィードフォワード制御部102に出力し(S206)、本処理を終了する。
【0063】
なお、上述では、2つの閾値dth及び-dthを用いて、上り坂用、下り坂用及び平坦用の3つのパラメータを決定する例を説明したが、上り坂用及び/又は下り坂用のパラメータは、多段階に切り替えられてもよい。例えば、パラメータ決定部105は、外乱推定値dest>閾値dth2ならば、下り坂用のパラメータに決定し、閾値dth2≧外乱推定値dest>閾値dth1ならば、ゆるい下り坂用のパラメータに決定してよい。パラメータ決定部105は、外乱推定値dest<閾値-dth2ならば、上り坂用のパラメータに決定し、閾値-dth2≦外乱推定値dest<閾値-dth1ならば、ゆるい上り坂用のパラメータに決定してよい。パラメータ決定部105は、閾値-dth1≦外乱推定値dest≦閾値dth1ならば、平坦用のパラメータに決定してよい。
【0064】
(実施の形態1及び2に共通の変形例)
上述したパラメータ決定部105における閾値及びパラメータは一例である。例えば、S102又はS202における下り坂用のパラメータを出力するか否かを判定するための閾値(第1の閾値)は、正値であればどのような値であってもよい。例えば、S104又はS204における上り坂用のパラメータを選択するか否かを判定するための閾値(第2の閾値)は、負値であればどのような値であってもよい。
【0065】
また、上述では、パラメータ決定部105が、平坦地用に第3のパラメータを、上り坂用及び下り坂用に、それぞれ、第1及び第2のパラメータを有する例を説明したが、パラメータ決定部105が有するパラメータの数は、3つに限られない。例えば、パラメータ決定部105は、上り坂用及び/又は下り坂用に、それぞれ、2つ以上のパラメータを有してもよい。
【0066】
あるいは、パラメータ決定部105は、車輪速度推定誤差e又は外乱推定値destを変数とする、所定の関数又はマップに基づいて、フィードフォワード制御部102に出力するパラメータを決定してもよい。
【0067】
また、上述では、車輪速度測定値Vmesが車輪速度推定値Vestよりも大きい場合は、車両1が下り坂を走行中であり、車輪速度測定値Vmesが車輪速度推定値Vestよりも小さい場合は、車両1が上り坂を走行中であるとして説明した。しかし、下り坂は、走行抵抗が小さくなる場合の一例であり、上り坂は、走行抵抗が大きくなる場合の一例である。したがって、上り坂用のパラメータは、走行抵抗が大きくなる場合に対応する第1のパラメータに、下り坂用のパラメータは、走行抵抗が小さくなる場合に対応する第2のパラメータに読み替えられてもよい。走行抵抗が大きくなる場合の他の例としては、路面が未舗装(例えば砂利道又は林道)の場合がある。走行抵抗が小さくなる場合の他の例としては、路面が水又は氷で覆われている場合がある。
【0068】
(本開示のまとめ)
本開示の一態様に係る車両制御装置(100)は、車両(1)の車輪(10)の回転速度に関連するトルク指令値を出力するフィードフォワード制御部(102)と、トルク指令値に基づいて、車輪の回転速度を推定した値である推定値を特定する速度推定部(104、106)と、車輪の回転速度を測定した値である測定値と上記推定値との誤差に基づいて、フィードフォワード制御部にてトルク指令値の決定に用いられるパラメータを決定するパラメータ決定部(105)と、を備える。フィードフォワード制御部は、車輪の回転速度の目標とされる値である目標値と、パラメータ決定部によって決定されたパラメータとを用いて、出力するトルク指令値を決定する。
【0069】
上記構成によれば、フィードフォワード制御部は、測定値と推定値との誤差に基づいて決定されたパラメータを用いてトルク指令値を決定するため、単一のパラメータを用いてトルク指令値を決定する場合と比べて、走行抵抗の変化を考慮したフィードフォワード制御を提供できる。よって、走行抵抗の違いによる車両の停止位置のバラツキを抑制できる。
【0070】
パラメータ決定部(105)は、誤差が負値である第1の閾値よりも小さい場合、上記パラメータを第1のパラメータに決定し、誤差が正値である第2の閾値よりも大きい場合、上記パラメータを第2のパラメータに決定し、誤差が第1の閾値以上かつ第2の閾値以下の場合、上記パラメータを第3のパラメータに決定してよい。ここで、第1のパラメータを用いた場合のトルク指令値は、第3のパラメータを用いた場合のトルク指令値よりも大きく、第2のパラメータを用いた場合のトルク指令値は、第3のパラメータを用いた場合の前記トルク指令値よりも小さくてよい。
【0071】
上記構成によれば、例えば、平坦地よりも走行抵抗が大きい上り坂では、第1のパラメータに決定されるので、フィードフォワード制御部は、平坦地の場合よりも大きなトルク指令値を出力する。また、平坦地よりも走行抵抗が小さい下り坂では、第2のパラメータに決定されるので、フィードフォワード制御部は、平坦地の場合よりも小さなトルク指令値を出力する。よって、平坦地、上り坂及び下り坂における車両の停止位置のバラツキを抑制できる。
【0072】
車両制御装置(100)は、外乱を推定した値である外乱推定値を出力する外乱推定部(107)をさらに備えてよい。パラメータ決定部(105)は、外乱推定値が負値である第1の閾値よりも小さい場合、上記パラメータを第1のパラメータに決定し、外乱推定値が正値である第2の閾値よりも大きい場合、上記パラメータを第2のパラメータに決定し、外乱推定値が第1の閾値以上かつ第2の閾値以下の場合、上記パラメータを第3のパラメータに決定してよい。ここで、第1のパラメータを用いた場合のトルク指令値は、第3のパラメータを用いた場合のトルク指令値よりも大きく、第2のパラメータを用いた場合のトルク指令値は、第3のパラメータを用いた場合のトルク指令値よりも小さくてよい。
【0073】
上記構成によれば、例えば、平坦地よりも走行抵抗が大きい上り坂では、第1のパラメータに決定されるので、フィードフォワード制御部は、平坦地の場合よりも大きなトルク指令値を出力する。また、平坦地よりも走行抵抗が小さい下り坂では、第2のパラメータに決定されるので、フィードフォワード制御部は、平坦地の場合よりも小さなトルク指令値を出力する。よって、平坦地、上り坂及び下り坂における車両の停止位置のバラツキを抑制できる。
【0074】
車両制御装置(100)は、目標値と測定値との差に基づくトルク指令値を出力するフィードバック制御部(101)と、測定値が第3の閾値以上の場合、フィードバック制御部から出力されたトルク指令値を出力し、測定値が第3の閾値未満の場合、フィードフォワード制御部(102)から出力されたトルク指令値を出力する切替部(103)をさらに備えてよい。車輪(10)は、切替部から出力されたトルク指令値に基づいて回転駆動されてよい。
【0075】
上記構成によれば、測定値が第3の閾値未満の場合(例えば極低速域の場合)、フィードフォワード制御部から出力されたトルク指令値に基づいて車輪は回転駆動される。よって、極低速域において精度が不十分な測定値によるフィードバック制御によって車輪が回転駆動されることを回避でき、車両の停止位置のバラツキを抑制できる。
【0076】
以上、添付図面を参照しながら実施の形態について説明したが、本開示はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例、修正例、置換例、付加例、削除例、均等例に想到し得ることは明らかであり、それらについても本開示の技術的範囲に属すると了解される。また、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述した実施の形態における各構成要素を任意に組み合わせてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本開示の技術は、自動運転制御される車両の極低速域における挙動制御に有用である。
【符号の説明】
【0078】
1 車両
10 車輪
21 車両制動部
22 車輪速度センサ
23 挙動制御部
100 制動制御部
101 フィードバック制御部
102 フィードフォワード制御部
103 切替部
104 車輪速度オブザーバ
105 パラメータ決定部
106 車両モデル
107 外乱オブザーバ
図1
図2
図3
図4
図5
図6