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特許7190757フェノール基質の対応するカテコール生成物への酵素的変換のための方法
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  • 特許-フェノール基質の対応するカテコール生成物への酵素的変換のための方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-08
(45)【発行日】2022-12-16
(54)【発明の名称】フェノール基質の対応するカテコール生成物への酵素的変換のための方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 7/22 20060101AFI20221209BHJP
   C12N 9/04 20060101ALN20221209BHJP
   C12N 15/31 20060101ALN20221209BHJP
   C12N 15/53 20060101ALN20221209BHJP
   C12N 1/21 20060101ALN20221209BHJP
【FI】
C12P7/22
C12N9/04 Z ZNA
C12N15/31
C12N15/53
C12N1/21
【請求項の数】 13
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021000134
(22)【出願日】2021-01-04
(62)【分割の表示】P 2017533184の分割
【原出願日】2015-12-09
(65)【公開番号】P2021048881
(43)【公開日】2021-04-01
【審査請求日】2021-01-05
(31)【優先権主張番号】1422508.0
(32)【優先日】2014-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】501339171
【氏名又は名称】ユニバーシティ・カレッジ・ダブリン,ナショナル・ユニバーシティ・オブ・アイルランド,ダブリン
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ケビン オコナー
(72)【発明者】
【氏名】スーザン モロイ
(72)【発明者】
【氏名】リータ デイビス
(72)【発明者】
【氏名】ウェスリー ショウ
【審査官】上村 直子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2010/0068775(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0047887(US,A1)
【文献】Enzyme and Microbial Technology,2006年,Vol.39,p.191-196
【文献】Applied Microbiology and Biotechnology,2004年,Vol.64,p.486-492
【文献】Biotechnology and Bioengineering,2013年,Vol.110, No.7,p.1849-1857
【文献】FEBS Journal,2006年,Vol.273,p.257-270
【文献】Journal of Applied Microbiology,2005年,Vol.98,p.332-343
【文献】Applied and Environmental Microbiology,2005年,Vol.71, No.11,p.6808-6815
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 7/22
C12N 9/04
C12N 15/31
C12N 15/53
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェノール基質の対応するカテコール生成物への酵素的変換のための方法であって、前記フェノール基質は、チロソールおよび4-ハロフェノールから選択され、前記方法は、少なくとも75mMのチロソール基質、または少なくとも10mMの4-ハロフェノール基質を、反応混合物中で青枯病菌(Ralstonia solanacearum)チロシナーゼ酵素またはその機能的誘導体と、前記酵素が前記フェノール基質の少なくとも90%を前記カテコール生成物に変換することを可能にするのに十分な期間インキュベートするステップを含み、前記反応混合物は、前記基質がチロソールである場合には少なくとも150mMのアスコルビン酸を含み、前記基質が4-ハロフェノールである場合には少なくとも20mMのアスコルビン酸を含み、前記機能性誘導体は、野生型の青枯病菌(Ralstonia solanacearum)チロシナーゼ酵素からY119F、V153A、D317YおよびL330Vの変異を有する青枯病菌(Ralstonia solanacearum)チロシナーゼの改変型変異体(RV145);野生型の青枯病菌(Ralstonia solanacearum)チロシナーゼ酵素からT183I、F185Y、N322Sおよび359Mの変異を有する青枯病菌(Ralstonia solanacearum)チロシナーゼの改変型変異体(RVC10);または、野生型の青枯病菌(Ralstonia solanacearum)チロシナーゼ酵素からN322Sの変異を有する青枯病菌(Ralstonia solanacearum)チロシナーゼの改変型変異体(C10_N322S)である、方法。
【請求項2】
前記フェノール基質は、チロソールであり、前記カテコール生成物は、ヒドロキシチロソールである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記フェノール基質は、4-ハロフェノールであり、前記カテコール生成物は、ハロカテコールである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記アスコルビン酸は塩として提供される、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記青枯病菌チロシナーゼ酵素の前記機能的誘導体は、175mMチロソールのヒドロキシチロソールへの100%変換の能力がある、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
青枯病菌チロシナーゼ酵素の前記機能的誘導体は、10mM4-ハロフェノールのハロカテコールへの98%変換の能力がある、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
青枯病菌チロシナーゼ酵素の前記機能的誘導体は、RVC10、RV145およびC10_N322Sからなる群から選択される、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記青枯病菌チロシナーゼ酵素またはその機能的誘導体は、前記青枯病菌チロシナーゼ酵素またはその機能的誘導体を発現する細菌からの抽出物として提供される、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記青枯病菌チロシナーゼ酵素またはその機能的誘導体は、前記青枯病菌チロシナーゼ酵素またはその機能的誘導体を発現する細菌として提供される、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記青枯病菌チロシナーゼ酵素またはその機能的誘導体は、精製された酵素として提供される、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記青枯病菌チロシナーゼ酵素またはその機能的誘導体は、細胞抽出物の形態での粗製混合物として提供される、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記カテコール生成物は、酵素的変換ステップ後に前記反応混合物を冷却することによって前記反応混合物中に存在する不純物から分離される、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記カテコール生成物は、酵素的変換ステップ後に前記反応混合物を冷蔵するまたは凍結させることによって前記反応混合物中に存在する不純物から分離される、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
序論
チロシナーゼは、天然に広く分布しているポリフェノールオキシダーゼ酵素の型であり、いくつかの生物学的機能および生物工学的適用を有する。分子酸素の存在下で、チロシナーゼは、反応の2つの型を触媒する:モノフェノールのo-ジフェノールへのヒドロキシル化(モノフェノラーゼ活性)およびo-ジフェノールのo-キノンへのその後の酸化(ジフェノラーゼ活性)。反応性キノンは、皮膚および毛髪色素沈着、果実の褐変ならびに植物および節足動物における創傷治癒を担う巨大分子メラニンに自家重合(非酵素的に)する。チロシナーゼは、広範な基質特異性を有し、フェノールおよびジフェノール(カテコール)の多くの型を受け入れ得る。置換フェノールの中で、それは、3-および4-置換フェノールに働き得るが、2-置換フェノールは、その酵素の競合的阻害剤である。
【0002】
チロシナーゼがモノフェノールをo-ジフェノールに変換する能力は、医薬品、農薬、フレーバー、重合阻害剤、インク、および抗酸化剤の合成のための重要な前駆物質である様々なo-ジフェノールの製造に関する研究を動機づけた。ハロカテコールは、それらの生物活性ならびに官能化カテコールビルディングブロックの合成を可能にするハロカテコール中間体から始まるいろいろなクロスカップリングおよびハロゲン-金属交換反応に起因する、興味深いシントンである。例えば、フルオロカテコールは、潜在的に、アドレナリン性カテコールアミンおよび生体アミンなどの医薬品の合成のための価値ある前駆物質である。化学的手段による置換カテコールの合成は、強い試薬を用いること、厳しい反応条件および貧弱な収率のために複雑である。チロシナーゼは、これらのカテコールを合成する生物学的手段として大きな可能性を有するが、カテコール合成のためのチロシナーゼの使用は、モノフェノラーゼ対ジフェノラーゼ活性の比が低く、カテコールの蓄積が促進されないことにより制限されてきた。
【0003】
ヒドロキシチロソールは、食品、化粧品、および医薬において使用される非常に望ましい抗酸化剤である。欧州食品安全機関は、ヒドロキシチロソールの健康上の利益について出されたいくつかの主張を支持する声明を2011年に公表した。ヒドロキシチロソールの価格は、困難な製造プロセス(例えば、オリーブの葉からの抽出、化学的合成、およびオリーブ油工業廃水からの抽出)が原因で高い。ヒドロキシチロソール含有生成物の大部分の純度は、フェノール類および他の汚染物質が存在して低い(<80%、しばしば30%未満)。低品質、高コストにより、ヒドロキシチロソールの適用は制限されている。チロシナーゼなどの生物学的触媒の使用により、高品質のヒドロキシチロソールが可能になるであろう。
【0004】
チロソールからのヒドロキシチロソールの製造のための化学的プロセスが報告されているが、6mM濃度で50%のみの変換である(特許文献1)。緑膿菌(P.aeruginosa)の全細胞がチロソールをヒドロキシチロソールに変換し得る(25mMで80~96%収率)が、下流プロセスの複雑さおよびコストを増加させる望まれない副生成物(p-ヒドロキシフェニル酢酸および3,4ジヒドロキシフェニル酢酸)をもたらす(非特許文献1;非特許文献2)。さらに、緑膿菌は、生産設備内の生物学的制御手順にコストを付加する日和見病原体である。ヒドロキシチロソールなどの食品添加物を製造するために使用される見込みはない。
【0005】
特許文献2は、細菌青枯病菌(Ralstonia solanacearum)からの酵素チロシナーゼNP_518485を使用してL-チロシンからL-DOPAを得るためのプロセスを記載している。Molloyら(非特許文献3)は、ランダムおよび部位特異的突然変異誘発法を使用したD-チロシンへの改善された触媒効率のための青枯病菌からの改変型チロシン酵素(engineered tyrosine enzyme)を記載している。
【0006】
特許文献3は、キノコ(mushroom)由来チロシナーゼ酵素を使用したチロソールのヒドロキシチロソールへの生物変換を記載している。そのプロセスは、高収率をもたらすが、反応時間は、非常に遅く、1リットル反応において15mgのキノコチロシナーゼを使用した1gのチロソール変換には、反応を完了するために5hを必要とする。さらに、市販のキノコチロシナーゼの調製物は、10g/lを超えるチロソールで阻害され、反応を完了することができない。科学文献は、5mMでのアスコルビン酸によるキノコチロシナーゼの阻害を報告している(非特許文献4;非特許文献5)。青枯病菌チロシナーゼは、全細胞、粗製細胞溶解物または精製酵素として生物学的触媒として働き得る。生物学的触媒調製の最初の2つの方法は、容易であり、精製調製物において使用されるキノコチロシナーゼに対する利点を提供する。チロソール(5g/l)のヒドロキシチロソールへの変換のための反復バッチシステムが可能であることが示唆された(非特許文献6)が、収率は、1回の操業で85%であり、生物学的触媒は、3回の操業後にその活性の60%を失い、貧弱な収率、低い全体的な濃度をもたらし、最終生成物中に高濃度の基質を残す。したがって、高度に純粋なヒドロキシチロソールを達成するための複雑な下流での加工が必要となる。さらに、反復サイクルは、煩雑である。フェッドバッチ方法での別の変形法は、ビーズを用いた繰り返しの生成物除去を要求する(非特許文献7)が、これは、低い生成物濃度および50%未満の収率をもたらした。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】EP1623960
【文献】ES2320505
【文献】米国特許出願公開第2003/180833(D1)明細書
【非特許文献】
【0008】
【文献】Allouche et al., Appl. Environ. Microbiol., 2004, 70, pp 2105-2109
【文献】Boullagui and Sayadi, J. Agric. Food Chem., 2006, 54, pp 9906-9911
【文献】Molloy et al., Biotechnol. Bioeng. 2013, 110, pp 1849-1857
【文献】Golan-Goldhirsh and Whitaker, J. Agric. Food Chem., 1984, 32, p 1003-1009
【文献】Marin-Zamora et al, J. Biotechnol., 2009, 139, pp 163-168
【文献】Bouallagui and Sayedi J. Agric. Food Chem., 2006, 54 (26), pp 9906-9911
【文献】Brouk and Fishman, J Mol Catal B: Enzym 84: 121-127
【文献】Smith et al. 1985
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、上記の問題の少なくとも1つを克服することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本出願人は、任意の他の生物学的触媒(25mMおよび0.4g/l/hで最善)と比較して、非常に高い濃度(最大150mM)および速度(最大9.3g/l/h)でチロソールをヒドロキシチロソールに変換する能力がある青枯病菌からのチロシナーゼ酵素を同定した(図2~4)。青枯病菌チロシナーゼ酵素を使用したチロソールの対応するカテコールへの変換速度は、天然の基質であるL-チロシンに関する変換速度よりもはるかに高い。本出願人は、青枯病菌チロシナーゼがチロシナーゼまたは任意の他の酵素を使用して以前に報告されているものよりも高い変換速度4g/l/hおよび生成物収率(>92%)で4-ハロフェノールを対応する4-ハロカテコールに変換する能力があることも実証した(図5)。本発明の方法は、20分での1リットル反応において1gのチロソールの生物学的変換を完了するために青枯病菌からの12.9mgのチロシナーゼを必要とする(市販のキノコチロシナーゼよりも15倍速い)。さらに、本発明の方法は、今まで達成されていない高濃度の基質での反応を実証する。青枯病菌チロシナーゼは、基質(27.6g/Lのチロソール)および生成物(30.8g/Lのヒドロキシチロソール)への高い耐性を実証する。アスコルビン酸ナトリウム塩(最大400mM)による青枯病菌チロシナーゼ活性の阻害は観察されなかった。青枯病菌チロシナーゼは、全細胞、粗製細胞溶解物または精製酵素として生物学的触媒として働き得る。生物学的触媒調製の最初の2つの方法は、容易であり、精製調製物において使用されるキノコチロシナーゼを越える利点を提供する。
【0011】
したがって、本発明は、フェノール基質の対応するカテコール生成物への酵素的変換のための方法であって、反応混合物中でフェノール基質を青枯病菌チロシナーゼ酵素またはその機能的誘導体と、前記酵素がフェノール基質の少なくとも一部をカテコール生成物に変換することを可能にするのに十分な期間インキュベートするステップを含む方法を提供する。
【0012】
好ましくは、フェノール基質は、3-置換または4-置換フェノールであり、カテコール生成物は、対応する3-置換または4-置換カテコールである。
【0013】
好ましくは、フェノールは、ヒドロキシアルキル-置換フェノールである。好ましくは、フェノールは、ヒドロキシエチル-置換フェノールである。好ましくは、フェノールは、3-または4-ヒドロキシアルキル-置換フェノールである。好ましくは、フェノールは、3-または4-ヒドロキシエチル-置換フェノールである。
【0014】
典型的には、4-ヒドロキシエチル-置換フェノールは、チロソールであり、4-置換カテコールは、3,4-ジヒドロキシエチルフェノールである。
【0015】
好適には、3-置換または4-置換フェノール基質は、3-ハロフェノールまたは4-ハロフェノールであり、カテコール生成物は、3-ハロカテコールまたは4-ハロカテコールである。
【0016】
好ましくは、反応混合物は、アスコルビン酸を含む。好ましくは、反応混合物は、100mMから300mMのアスコルビン酸を含む。一実施形態では、反応混合物は、最大400mMのアスコルビン酸を含む。一実施形態では、アスコルビン酸は、塩、好ましくは、アスコルビン酸ナトリウムとして提供される。
【0017】
好適には、青枯病菌チロシナーゼ酵素の機能的誘導体は、RVC10、RV145およびC10_N322Sからなる群から選択される改変型酵素(engineered enzyme)を含み、その詳細は、Molloyらの非特許文献3に記載されている。一実施形態では、機能的誘導体は、改変型酵素RV145である。
【0018】
一実施形態では、青枯病菌チロシナーゼ酵素またはその機能的誘導体は、全細胞、粗製細胞溶解物または精製酵素として提供される。一実施形態では、酵素は、支持体に固定化されている。
【0019】
典型的には、基質濃度は、少なくとも10mMである。一実施形態では、基質濃度は、少なくとも100mMである。一実施形態では、基質濃度は、少なくとも150mMである。一実施形態では、基質濃度は、少なくとも175mMである。
【0020】
好適には、方法は、酵素からカテコール生成物を分離するステップを含む。一実施形態では、分離ステップは、膜ろ過ステップを含む。一実施形態では、分離ステップは、溶媒抽出ステップを含む。一実施形態では、分離は、水性の生物学的変換培地からカテコール生成物を結合しかつ抽出するための固相を使用して行われる。
【0021】
一実施形態では、酵素は、90%のフェノール基質をカテコール生成物に変換する。一実施形態では、酵素は、100%のフェノール基質をカテコール生成物に変換する。
【0022】
本発明は、本発明の方法に従って作られたカテコール生成物にも関する。一実施形態では、カテコール生成物は、ヒドロキシチロソールおよびハロカテコールから選択される。一実施形態では、ハロカテコールは、3-ハロカテコールおよび4-ハロカテコールから選択される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】モノフェノラーゼ活性によるハロフェノールのヒドロキシル化およびチロシナーゼのジフェノラーゼ活性によるハロカテコールの酸化を示す図である。
図2】40mMアスコルビン酸ナトリウム塩の存在下でWTおよびRV145酵素(20μg/mL)を使用した振とうフラスコ中の20mMのチロソールの生物学的変換(TY:チロソール、HT:ヒドロキシチロソール)を示す図である。
図3】改変型RV145酵素によるチロソールのヒドロキシチロソールへの生物学的変換を示す図である。a:150mMアスコルビン酸ナトリウム塩の存在下で精製された改変型RV145酵素を使用したチロソールの75mM生物学的変換。B:200mMアスコルビン酸ナトリウム塩の存在下で、改変型RV145酵素を宿す大腸菌(E.coli)の、細胞を含まない溶解物を使用したチロソールの100mM生物学的変換。
図4】300mMアスコルビン酸ナトリウム塩の存在下で、改変型RV145酵素を宿す大腸菌の、細胞を含まない粗製溶解物を使用したチロソールの150mM生物学的変換を示す図である。
図5】a 20mMアスコルビン酸ナトリウム塩の存在下でWTおよびRV145酵素(20μg/mL)を使用した振とうフラスコ中の10mMの4-フルオロフェノールの生物学的変換を示す図である。b 20mMアスコルビン酸ナトリウム塩の存在下でWTおよびRV145酵素(10μg/mL)を使用した振とうフラスコ中の10mMの4-ヨードフェノールの生物学的変換を示す図である(4-IP:4-ヨードフェノール、4-IC:4-ヨードカテコール、4-FP:4-フルオロフェノール、4-FC:4-フルオロカテコール)。
図6】200mMアスコルビン酸の存在下で市販のキノコチロシナーゼを使用したチロソールの100mM生物学的変換を示す図である。反応は、30%のみの生成物をもたらし、30mM生成物がいったん形成されると停止し、これは、青枯病菌チロシナーゼと比較してそのはるかに貧弱な性能を示している。
【発明を実施するための形態】
【0024】
定義:
「フェノール基質」は、非置換または置換フェノール、特に、3-置換または4-置換フェノールを意味する。置換基の例は、ハロゲンまたはヒドロキシアルキル置換基を含む。ヒドロキシアルキル置換基の例は、ヒドロキシメチルおよびヒドロキシエチル置換基、特に、4-ヒドロキシメチルおよび4-ヒドロキシエチル置換基を含む。典型的には、3-置換または4-置換フェノールは、3-ハロフェノールまたは4-ハロフェノールである。ハロフェノールの例は、ヨードフェノール、ブロモフェノール、クロロフェノール、およびフルオロフェノールを含む。好ましくは、フェノールは、チロソールである。好ましくは、フェノール基質は、水性環境におけるそれらの最大溶解度までの濃度で提供される。一実施形態では、フェノール基質は、チロソール、3-ハロフェノール、および4-ハロフェノールから選択される。一実施形態では、フェノール基質は、チロソールおよび4-ハロフェノールから選択される。
【0025】
「対応するカテコール生成物」は、フェノール基質を青枯病菌チロシナーゼ酵素と反応させることによって製造されるカテコールを意味する。フェノール基質が4-ハロフェノール(例えば、4-フルオロフェノール)である場合、対応するカテコール生成物は、対応する4-フルオロカテコール(4-フルオロカテコール)である。同様に、フェノール基質が4-置換ヒドロキシアルキルフェノール(例えば、チロソール)である場合、対応するカテコール生成物は、対応する4-置換ヒドロキシアルキルカテコール(ヒドロキシチロソール)である。
【0026】
「チロソール」は、4-(2-ヒドロキシエチル)フェノールをいう。
【0027】
「ヒドロキシチロソール」は、4-(2-ヒドロキシエチル)-1,2-ベンゼンジオールを意味する。
【0028】
「青枯病菌(Ralstonia solanacearum)チロシナーゼ酵素」は、青枯病菌(Ralstonia solanacearum)から単離されたチロシナーゼ酵素を意味する。そのような酵素の例は、Molloyらの非特許文献3に記載されている。野生型酵素に関するアミノ酸および核酸配列が以下に提供されている:
青枯病菌(Ralstonia solanacearum)チロシナーゼ酵素アミノ酸配列(配列番号1)
(NP_518458)
【0029】
【表1】
【0030】
青枯病菌(Ralstonia solanacearum)チロシナーゼ酵素核酸配列(配列番号2)
(gi 30407127)
【0031】
【表2】
【0032】
青枯病菌チロシナーゼ酵素に適用される場合の「その機能的誘導体」は、特許文献3に記載されているキノコチロシナーゼよりも著しく優れた濃度および速度でフェノール(すなわちチロソール)を対応するカテコール(すなわちヒドロキシチロソール)に変換する能力が典型的にある青枯病菌チロシナーゼ酵素の改変型変異体(engineered variant)を意味する。野生型青枯病菌チロシナーゼ酵素の少なくとも同等値である濃度および速度でチロソールをヒドロキシチロソールに変換する能力がある変異体を含めた、青枯病菌チロシナーゼ酵素のそのような改変型変異体の例は、非特許文献3に記載されている。一実施形態では、青枯病菌チロシナーゼ酵素の改変型変異体は、以下に記載されたチロソール生物学的変換アッセイにおける150mMチロソールのヒドロキシチロソールへの100%変換の能力がある。一実施形態では、青枯病菌チロシナーゼ酵素の改変型変異体は、以下に記載されたチロソール生物学的変換における175mMチロソールのヒドロキシチロソールへの100%変換の能力がある。青枯病菌チロシナーゼ酵素の改変型変異体を生成し、かつ試験するための方法は、当業者に明らかであり、Molloyらの非特許文献3に記載されている。
【0033】
青枯病菌チロシナーゼ酵素タンパク質の「改変型変異体(engineered variant)」は、野生型青枯病菌チロシナーゼ酵素と実質的に同一であるアミノ酸配列を有する酵素を意味すると解釈されるべきである。したがって、例えば、この用語は、1または複数のアミノ酸残基に関して変化された酵素を含むと解釈されるべきである。好ましくは、そのような変化は、5以下のアミノ酸、より好ましくは、4以下の、さらにより好ましくは、3以下の、最も好ましくは、1または2アミノ酸のみの挿入、付加、欠失および/または置換を含む。天然および修飾アミノ酸での挿入、付加および置換が想定される。改変型変異体は、保存的アミノ酸の変化を有し得、ここで、導入されるアミノ酸は、置換されるものと構造的、化学的、または機能的に類似している。一般に、変異体は、野生型青枯病菌チロシナーゼ酵素との少なくとも70%アミノ酸配列相同性、好ましくは少なくとも80%配列相同性、より好ましくは少なくとも90%配列相同性、理想的には、少なくとも95%、96%、97%、98%または99%配列相同性を有することになる。この文脈では、配列相同性は、配列同一性と類似性の両方を含む。すなわち、野生型青枯病菌チロシナーゼ酵素との70%アミノ酸相同性を共有するポリペプチド配列は、整列された残基の任意の70%が野生型青枯病菌チロシナーゼ酵素における対応する残基と同一であるものか、またはこれの保存的置換であるものである。本発明の範囲内に含まれる特定の変異体は、Molloyら、2013(非特許文献3)に記載された改変型変異体、特に(RVC10、RV145およびC10_N322S)である。一実施形態では、青枯病菌チロシナーゼ酵素の改変型変異体は、任意のチロシナーゼまたは他の生物学的触媒によって以前に報告されたよりも高い桁の濃度でのチロソール基質のヒドロキシチロソールへの完全な変換の能力がある(例えば175mMチロソール)。
【0034】
「改変型変異体(engineered variant)」という用語は、野生型青枯病菌チロシナーゼ酵素の化学的誘導体、すなわち、野生型酵素の1または複数の残基が官能性側基の反応によって化学的に誘導体化されているものを含むことも意図されている。天然に存在するアミノ酸残基がアミノ酸類似体で置き換えられている野生型青枯病菌チロシナーゼ酵素も変異体という用語内に含まれる。側鎖修飾の例は、アルデヒドとの反応、その後のNaBH4での還元による還元的アルキル化;メチルアセトイミデートでのアミド化;無水酢酸でのアセチル化;シアネートでのアミノ基のカルバミル化;2,4,6,トリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS)でのアミノ基のトリニトロベンジル化;無水コハク酸および無水テトラヒドロフタル酸でのアミノ基のアルキル化;およびピリドキサ-5’-ホスフェートでのリシンのピリドキシル化、その後のNaBH4での還元などによるアミノ基の修飾を含む。アルギニン残基のグアニジノ基は、2,3-ブタンジオン、フェニルグリオキサールおよびグリオキサールなどの試薬でのヘテロ環縮合生成物の形成によって修飾され得る。カルボキシル基は、o-アシルイソ尿素形成を通したカルボジイミド活性化、その後のそれに続く例えば、対応するアミドへの誘導体化によって修飾され得る。スルフヒドリル基は、ヨード酢酸またはヨードアセトアミドでのカルボキシメチル化;システイン酸への過ギ酸酸化;他のチオール化合物との混合ジスルフィドの形成;マレイミド;無水マレイン酸または他の置換マレイミドとの反応;4-クロロマーキュリベンゾエート、4-クロロマーキュリフェニルスルホン酸、塩化フェニル水銀、2-クロロマーキュリック-4-ニトロフェノールおよび他の水銀剤を使用した水銀誘導体の形成;アルカリpHでのシアネートによるカルバミル化などの方法によって修飾され得る。トリプトファン残基は、例えば、N-ブロモスクシンイミドでの酸化または2-ヒドロキシ-5-ニトロベンジルブロマイドもしくはスルフォニルハライドでのインドール環のアルキル化によって修飾され得る。チロシン残基は、テトラニトロメタンでのニトロ化によって変化されて、3-ニトロチロシン誘導体を形成し得る。ヒスチジン残基のイミダゾール環の修飾は、ヨード酢酸誘導体でのアルキル化またはピロ炭酸ジエチルでのN-カルベトキシル化によって達成され得る。酵素合成中に非天然アミノ酸および誘導体を組み込む例は、ノルロイシン、4-アミノ酪酸、4-アミノ-3-ヒドロキシ-5-フェニルペンタン酸、6-アミノヘキサン酸、t-ブチルグリシン、ノルバリン、フェニルグリシン、オルニチン、サルコシン、4-アミノ-3-ヒドロキシ-6-メチルヘプタン酸、2-チエニルアラニンおよび/またはアミノ酸のD-異性体の使用を含むが、これらに限定されない。
【0035】
(実施例)
材料および方法
チロシナーゼの株、増殖条件および精製
【0036】
組換え大腸菌BL21を使用して、青枯病菌からの野生型(WT)チロシナーゼ遺伝子およびMolloyら(2013)(非特許文献3)によって以前に生成された同じ遺伝子の3つの改変型変異体(RV145、RVC10、C10_N322S)を発現させた。全ての株を-80℃で50%グリセロールを有する溶原培地(LB)中で維持した。誘導およびチロシナーゼ精製のための調製において、-80℃で保管された大腸菌株をLB寒天上でストリークし、37℃で24hインキュベートした。第一次接種物を5mLのLB中で回転振とう機(200rpm、37℃)において終夜培養した。カルベニシリン(50μg/mL)を、研究を通してプラスミドの維持のための抗生物質として使用した。チロシナーゼ産生を誘導し、酵素を以前に記載されたように精製した(Molloyら、2013、非特許文献3)。精製チロシナーゼの異なる画分を純度および分子量の確認のために10%SDS-PAGEによって分析した。タンパク質濃度を、標準としてウシ血清アルブミンを使用してビシンコニン酸方法(Smithら、1985、非特許文献8)によって決定した。
【0037】
基質および他の化学物質の調製
4-フルオロフェノール、4-ブロモフェノール、4-クロロフェノール、および4-ヨードフェノールなどの様々なモノフェノール基質をSigma-Aldrich(Dublin,Ireland)から購入した。4-ブロモフェノール、および4-ヨードフェノールのストック溶液(1M)を100%エタノール中で調製し、その後の作業液(working solution)を50mMリン酸カリウムバッファー(pH7)中でさらに希釈した。同様に、4-フルオロフェノールおよび4-クロロフェノールのストック溶液(500mM)を脱イオン水中で調製し、作業ストック(working stock)を50mMホスフェートバッファー中で調製した。チロソールをTCI Europe(Belgium)から購入し、ストックを50mMホスフェートバッファー中で調製した。アスコルビン酸およびアスコルビン酸ナトリウム塩(AA)(o-キノンをo-ジフェノールに還元するために使用される)を生物学的変換アッセイ直前に脱イオン水中で調製した。
【0038】
4-ハロゲン化フェノールおよびチロソールの生物学的変換
ハロフェノールの対応するハロカテコールへの生物学的変換を、精製酵素(WTおよび改変型変異体)を使用して行った。様々な濃度(5、10、および20mM)のハロフェノール生物学的変換をシェーカーインキュベーター中で30℃および200rpmで20mLの作業体積を有する100mL三角フラスコ中で行った。チロソールのヒドロキシチロソールへの生物学的変換を精製酵素、細胞を含まない溶解物または全細胞を使用して行った。様々な濃度(75、100、150および175mM)のチロソール生物学的変換をシェーカーインキュベーター中で30℃および200~250rpmで100mLの作業体積を有する500mLバッフル付き三角フラスコ中で行った。1mMの基質あたり2μg/mLの酵素濃度を、1:2の基質対アスコルビン酸ナトリウム比で試験した。ヒドロキシチロソールへの100mMチロソールの生物学的変換を、上で特定した条件を使用して市販のキノコチロシナーゼ(Sigma,Ireland)を使用しても行った。試料(450μL)を様々な時点で取り出し、50μLの氷冷1N HClに直ちに加えた。試料を遠心分離し(12,000g)、Whatman Mini-UniPrep(商標)syringeless filters(0.45μ Whatman Inc.NJ,USA)を使用してろ過し、20μLの試料体積を全てのHPLC注入に使用した。
【0039】
HPLC分析
ろ過された試料を5μm ACE5 C18カラム(25cm×4.6mm ID;Apex Scientific,Ireland)およびHewlett-Packard(Palo Alto,CA,USA)Agilent 1100 Series Diode Array Detectorを備えたHP 1100器械を使用してHPLCによって分析した。試料を1.0mL/分の流速でリン酸(0.1%、v/v)およびメタノール混合物を使用して22℃で、均一濃度で溶出した。リン酸とメタノールとの比は、4-フルオロフェノールに関して70:30であり、4-クロロ-、4-ブロモ-、および4-ヨードフェノールに関して50:50であった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
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