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特許7190921射出成形品の製造方法、及び射出成形金型
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-08
(45)【発行日】2022-12-16
(54)【発明の名称】射出成形品の製造方法、及び射出成形金型
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/16 20060101AFI20221209BHJP
   B29C 45/26 20060101ALI20221209BHJP
【FI】
B29C45/16
B29C45/26
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019012241
(22)【出願日】2019-01-28
(65)【公開番号】P2020116920
(43)【公開日】2020-08-06
【審査請求日】2021-11-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591224504
【氏名又は名称】株式会社TMW
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100196346
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 貴士
(72)【発明者】
【氏名】永井 真
(72)【発明者】
【氏名】大月 隆史
(72)【発明者】
【氏名】中村 鷹彦
(72)【発明者】
【氏名】向出 英二郎
(72)【発明者】
【氏名】安達 一晃
【審査官】関口 貴夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-243534(JP,A)
【文献】特開2006-150894(JP,A)
【文献】特開平10-323867(JP,A)
【文献】特開平10-329172(JP,A)
【文献】特開平07-047568(JP,A)
【文献】特開平02-134223(JP,A)
【文献】特開2008-149562(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00-45/84
B29C 33/00-33/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一層と、前記第一層の一部を覆う第二層とを備えた射出成形品の製造方法であって、
前記第一層の成形面を有する固定型及び可動型を使用して前記第一層を成形する第一成形工程と、
前記可動型の型開き動作に伴い前記第一層の成形面の少なくとも一部を所定の向きに移動させて、前記第一層の成形面と前記第一層との間に第二層の射出空間を形成した後、前記第二層を成形する第二成形工程とを備え、
前記固定型と前記可動型の一方にシール用ブロックを設けて、前記第二層の射出空間を形成する際、前記シール用ブロックを前記第一層の側と密着するように前記可動型に追従して移動させて、前記第二層の射出空間の周囲を前記シール用ブロックでシールし、かつ
前記固定型と前記可動型の他方に、前記第一層を前記第二層の反対側から貫通する連通用ブロックを設け、前記連通用ブロックを前記第一層から遠ざかる向きに移動させることで、前記第一層の被貫通部を介して前記第二層の射出空間と第二層の射出用ゲート部とを連通させる、射出成形品の製造方法。
【請求項2】
第一層と、前記第一層の一部を覆う第二層とを備えた射出成形品を成形するための射出成形金型であって、
前記第一層の成形面を有する固定型及び可動型と、
前記固定型と前記可動型の一方に設けられるシール用ブロックと、
前記固定型と前記可動型の他方に設けられ、前記第一層を前記第二層の反対側から貫通する連通用ブロックとを備え、
前記可動型の型開き動作に伴い前記第一層の成形面の少なくとも一部を所定の向きに移動させて、前記第一層の成形面と前記第一層との間に第二層の射出空間を形成する際、前記シール用ブロックを前記第一層の側と密着するように前記可動型に追従して移動させて、前記第二層の射出空間の周囲を前記シール用ブロックでシールし、かつ
前記連通用ブロックを前記第一層から遠ざかる向きに移動させることで、前記第一層の被貫通部を介して前記第二層の射出空間と第二層の射出用ゲート部とを連通させるように構成される、射出成形金型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形品の製造方法、及び射出成形金型に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車のインパネやバンパーなどの大型部品のうち、インパネについては、樹脂で成形するのが一般的である。また、バンパーについても、近年、樹脂化への取り組みが進められている。これら大型部品を成形するに際しては、成形品に対応する形状のコアとキャビティとからなる一対の成形用金型と、射出用ユニットとを備えた射出成形装置を用いて、射出成形を行うのが一般的である。
【0003】
ここで、例えばインパネを射出成形で製造する場合、インパネの高品質化を図る目的で、特に意匠面の品質向上を図る目的で、射出成形材料に例えば所望の色彩、光沢感、質感などを示し得る樹脂やエラストマー、ゴムなどを使用することが検討され、開発が進められている。しかしながら、インパネは大型部品であるが故に高い強度、剛性が求められることから、意匠品質に優れた材料のみでインパネを成形することは難しい。また、上述した射出材料が汎用の樹脂に比べて高価であることも、上記射出材料のみで成形することを妨げる一因となっている。
【0004】
そこで、強度や剛性などの機械的特性と、色彩や光沢感、質感などの意匠品質とを共に満たし得るインパネとして、インパネのベースとなる第一層と、第一層に密着して形成され、インパネの意匠面の少なくとも一部(例えば上面部の意匠面)を有する第二層との二層構造をなす射出成形品が考えられる。この二層構造をなす射出成形品の製造方法としては、第一の金型で第一層を成形した後、第二層を成形するためのコア上に第一層を移動させた状態で、コアと共に第二層を成形するためのキャビティを用意し、これらコアとキャビティとからなる第二の金型でインサート状態の第一層上に第二層を射出成形する方法が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【0005】
あるいは、1個のコアと、成形面形状が互いに異なる2個のキャビティとを備えた射出成形装置を用いた射出成形品の製造方法であって、最初に一方のキャビティとコアとを使用して第一層を射出成形し、次に、一方のキャビティと他方のキャビティとを入れ替えて(例えば2個のキャビティを所定の軸まわりに回転又はスライドさせて)他方のキャビティをコアと対向配置した後、コアの成形面上に第一層を配置した状態で、第二層を射出成形する方法が知られている(例えば、特許文献2を参照)。
【0006】
あるいは、一種類の金型(一対のコアとキャビティ)で二層構造の射出成形品を得ることを目的として、一対のコアとキャビティからなる一つの金型で射出成形品の第一層を射出成形した後、コアを型開き方向にスライドさせて(コアをバックさせて)、コア側に保持された第一層とキャビティとの間に新たに第二層を成形するための空間を形成した状態で、第一層を覆うように第二層を射出成形する方法が知られている(例えば、特許文献3を参照)。
【0007】
特許文献3に記載の方法をインパネの射出成形に適用すれば、一種類の金型(一対のコアとキャビティ)で二層構造のインパネを得ることができ、二種類以上の金型を用意する手間、コスト、及びスペースの省略化による生産性の向上が期待できる。一方で、上述のようにコアバックを用いた二層成形手法を採用する場合において、一般的なダイレクトゲート部を用いて第一層及び第二層を成形したのでは、第二層の意匠面に射出用ゲート部を配置せざるを得ず、ゲート跡が意匠面に残るといった問題が生じる。
【0008】
そこで、例えば特許文献4には、型締め状態で、第一層の射出空間とその側端部でつながる射出用のランナゲート部を設けると共に、第一層の成形後、コアバック動作により、第二層の射出空間及び第二層の射出空間とその側端部でつながる射出用のランナゲート部を形成し、このランナゲート部を通じて第二層の射出空間に射出材料を射出する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2015-168110号公報
【文献】特開2011-84016号公報
【文献】特開2005-111820号公報
【文献】特開2011-25712号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、第二層をコアバックにより第一層の一部(例えばインパネであれば、インパネの上面部)に形成する場合には、第二層の射出空間のうち第二層の側端部に相当する部分をシールするための構造が必要になる。すなわち、図7(a)(b)に示すように、コア201とキャビティ202との間に第一層の射出空間203を形成した状態で第一層204を射出成形し、然る後、コア201をキャビティ202から離れる向きに移動(コアバック)させることで第一層204とキャビティ202との間に第二層の射出空間205を形成する場合、単にコアバックを行い第二層の射出空間205を形成したのでは、第二層の射出空間205の側端部205aと本来射出すべきでない空間206とがつながった状態となる(図7(b)を参照)。このため、本来射出すべきでない空間206に第二層の射出材料が流れ込み、第二層を所定の位置及び範囲に成形できないおそれが生じる。よって、このような事態を防止すべく、例えば図8(a)に示すように、第二層の射出空間205の側端部205aと本来射出すべきでない空間206との間をシールするためのシール用ブロック207を設けた構造が考えられる。このような構造とすることで、コアバック動作に伴い、シール用ブロック207が第一層204の表面204aに密着するよう、シール用ブロック207をコア201に向けて移動させることで、第二層の射出空間205が形成された状態では、本来射出すべきでない空間206と第二層の射出空間205との間がシールされた状態となる(図8(b)を参照)。これにより、第二層の射出空間205のみに射出材料を射出して、所望の位置及び範囲に第二層を成形することが可能となる。
【0011】
しかしながら、上述のようにシール用ブロック207を用いた場合、第二層の射出空間205の側端部205aは、シール用ブロックにより塞がれた状態となる(図8(b))。そのため、例えば上述の構造をなす射出成形品の製造に特許文献4に記載のゲート構造を適用しようとした場合、シール用ブロック207が妨げとなって、第二層の射出空間205のうち第二層の側端部に相当する部分に射出用ゲート部を設定することが難しい。
【0012】
上述した問題は何も自動車用インパネに限ったことではなく、第一層の一部を覆うように第二層を形成してなる他の種類の射出成形品を製造する場合にも起こり得る。
【0013】
以上の事情に鑑み、本発明では、第二層の意匠面にゲート跡を残すことなく、第一層の一部を覆うように第二層を形成してなる二層構造の射出成形品を容易に製造可能とすることを、解決すべき技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記課題の解決は、本発明に係る射出成形品の製造方法によって達成される。すなわち、この製造方法は、第一層と、第一層の一部を覆う第二層とを備えた射出成形品の製造方法であって、第一層の成形面を有する固定型及び可動型を使用して第一層を成形する第一成形工程と、第一層の成形面の少なくとも一部を所定の向きに移動させて、第一層の成形面と第一層との間に第二層の射出空間を形成した後、第二層を成形する第二成形工程とを備え、固定型と可動型の一方にシール用ブロックを設けて、第二層の射出空間を形成する際、シール用ブロックを第一層の側と密着するように移動させて、第二層の射出空間の周囲をシール用ブロックでシールし、かつ固定型と可動型の他方に、第一層を第二層の反対側から貫通する連通用ブロックを設け、連通用ブロックを第一層から遠ざかる向きに移動させることで、第一層の被貫通部を介して第二層の射出空間と第二層の射出用ゲート部とを連通させる点をもって特徴付けられる。
【0015】
このように、本発明に係る射出成形品の製造方法では、第一層の成形面の少なくとも一部を所定の向きに移動させて、第一層の成形面と第一層との間に第二層の射出空間を形成する場合に、固定型と可動型の一方にシール用ブロックを設けて、上記射出空間を形成する際、第一層の側と密着するようにシール用ブロックを移動させて、第二層の射出空間の周囲をシールするようにした。これにより第二層の射出材料が本来射出すべきでない空間に流れ出す事態を防止して、第一層のうち所定の位置及び範囲に第二層を正確に形成することができる。また、本発明では、第一層を第二層の反対側から貫通する連通用ブロックを設け、連通用ブロックを第一層から遠ざかる向きに移動させることで、第一層の被貫通部を介して第二層の射出空間と第二層の射出用ゲート部とを連通させるようにした。この構成によれば、第二層の射出空間のうち第二層の意匠面及び側端部となる領域から離れた位置に第二層の射出用ゲート部を配置して、第二層の射出空間に第二層の射出材料を射出することができる。よって、上述のように第二層の射出空間の周囲をシール用ブロックでシールする場合においても、ゲート跡が意匠面に残る事態を確実に回避して、第一層の一部を覆うように第二層を成形することが可能となる。また、本発明によれば、連通用ブロックの形状、サイズ、位置等によって、比較的容易に第二層の射出用ゲート部を適宜の位置に設定することができる。よって、射出成形装置の大幅な複雑化を招くおそれもなく、高コスト化の心配もない。以上より、本発明に係る射出成形品の製造方法によれば、第一層の一部が第二層で覆われてなる高品質の自動車用インパネを低コストに量産することが可能となる。
【0016】
また、前記課題の解決は、本発明に係る射出成形金型によっても達成される。すなわち、この射出成形金型は、第一層と、第一層の一部を覆う第二層とを備えた射出成形品を成形するための射出成形金型であって、第一層の成形面を有する固定型及び可動型と、固定型と可動型の一方に設けられるシール用ブロックと、固定型と可動型の他方に設けられ、第一層を第二層の反対側から貫通する連通用ブロックとを備え、第一層の成形面の少なくとも一部を所定の向きに移動させて、第一層の成形面と第一層との間に第二層の射出空間を形成する際、シール用ブロックを第一層の側と密着するように移動させて、第二層の射出空間の周囲をシール用ブロックでシールし、かつ連通用ブロックを第一層から遠ざかる向きに移動させることで、第一層の被貫通部を介して第二層の射出空間と第二層の射出用ゲート部とを連通させるように構成される点をもって特徴付けられる。
【0017】
このように、本発明に係る射出成形金型では、第一層の成形面の少なくとも一部を所定の向きに移動させて、第一層の成形面と第一層との間に第二層の射出空間を形成する場合に、固定型と可動型の一方にシール用ブロックを設けて、上記射出空間を形成する際、第一層の側と密着するようにシール用ブロックを移動させて、第二層の射出空間の周囲をシールするようにした。これにより第二層の射出材料が本来射出すべきでない空間に流れ出す事態を防止して、第一層のうち所定の位置及び範囲に第二層を正確に形成することができる。また、本発明では、第一層を第二層の反対側から貫通する連通用ブロックを設け、連通用ブロックを第一層から遠ざかる向きに移動させることで、第一層の被貫通部を介して第二層の射出空間と第二層の射出用ゲート部とを連通させるようにした。この構成によれば、第二層の射出空間のうち第二層の意匠面及び側端部となる領域から離れた位置に第二層の射出用ゲート部を配置して、第二層の射出空間に第二層の射出材料を射出することができる。よって、上述のように第二層の射出空間の周囲をシール用ブロックでシールする場合においても、ゲート跡が意匠面に残る事態を確実に回避して、第一層の一部を覆うように第二層を成形することが可能となる。また、本発明によれば、連通用ブロックの形状、サイズ、位置等によって、比較的容易に第二層の射出用ゲート部を適宜の位置に設定することができる。よって、射出成形装置の大幅な複雑化を招くおそれもなく、高コスト化の心配もない。以上より、本発明に係る射出成形金型によれば、第一層の一部が第二層で覆われてなる高品質の自動車用インパネを低コストに量産することが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明に係る射出成形品の製造方法及び射出成形金型によれば、第二層の意匠面にゲート跡を残すことなく、第一層の一部を覆うように第二層を形成してなる二層構造の射出成形品を容易に製造することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態に係る製造方法で製造されるインパネの概略斜視図である。
図2図1に示すインパネを成形するための射出成形装置の要部断面図である。
図3図2に示す射出成形装置を用いた射出成形の一例を説明するための図で、第一層を射出成形した時点における射出成形装置の要部断面図である。
図4図2に示す射出成形装置を用いた射出成形の一例を説明するための図で、型開き動作が終了した時点における射出成形装置の要部断面図である。
図5図2に示す射出成形装置を用いた射出成形の一例を説明するための図で、連通用ブロックの移動が終了した時点における射出成形装置の要部断面図である。
図6図2に示す射出成形装置を用いた射出成形の一例を説明するための図で、第二層の射出成形が完了した時点における射出成形装置の要部断面図である。
図7】他の第一の発明に係る射出成形品の製造方法を説明するための図で、(a)型締め状態における射出成形装置の要部断面図と、(b)型開き動作後の状態における射出成形装置の要部断面図である。
図8】他の第二の発明に係る射出成形品の製造方法を説明するための図で、(a)型締め状態における射出成形装置の要部断面図と、(b)型開き動作後の状態における射出成形装置の要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態に係る射出成形品の製造方法、及び射出成形金型の内容を、自動車用インパネを射出成形する場合を例にとって説明する。
【0021】
図1は、本発明の一実施形態に係る射出成形品の製造方法で製造されるインパネ1の斜視図を示している。このインパネ1は、インパネ1のベースとなる第一層2と、第一層2の一部を覆うように形成される第二層3とを一体的に有する。本実施形態では、インパネ1の前面部4及びインパネ1の上面部5の表層領域を除いた残りの領域に第一層2が対応し、インパネ1の上面部5の表層領域に第二層3が対応している。よって、この場合、インパネ1の前面部4の意匠面は、第一層2の表面2aのうち第二層3に覆われていない領域で主に構成され、インパネ1の上面部5の意匠面は、第二層3の表面3aで主に構成されている。
【0022】
図2は、図1に示すインパネ1を成形するための射出成形金型を備えた射出成形装置10の断面図を示している。本実施形態では、図1に示すインパネ1のA-A断面と同じ向きに切断したときに現れる射出成形装置10の要部断面図である。図2に示すように、この射出成形装置10は、固定型20と、可動型30と、固定型20と可動型30との間に形成され、第一層2の射出空間となる第一射出空間41、及び第二層3の射出空間となる第二射出空間42(図2中、二点鎖線で示す領域)と、スライドブロック50と、シール用ブロック60と、連通用ブロック70と、第一射出空間41に連通する第一射出用ゲート部(図示は省略)と、第二射出空間42に連通する第二射出用ゲート部80とを備える。また、図示は省略するが、本射出成形装置10は、第一射出用ゲート部を介して第一射出空間41に射出材料を射出するための一又は複数の第一射出ユニットと、第二射出用ゲート部80を介して第二射出空間42に射出材料を射出するための一又は複数の第二射出ユニットとをさらに備える。
【0023】
ここで、第一層2及び第二層3用の射出材料の材質は任意であり、第一層2及び第二層3に要求される特性に応じた材料を適宜選択することが可能である。例えば本実施形態のように第一層2がインパネ1のベースとなる場合、第一層2用の射出材料には、ポリプロピレンなどの汎用熱可塑性樹脂やエンプラなど、所要の機械的特性を示すと共に相対的に廉価な樹脂を採用することが可能である。また、第二層3が主に意匠品質(加飾性)の向上を目的とする場合、第二層3用の射出材料には、上記樹脂の他、ゴム、エラストマーなど色彩、光沢感、質感などの所定の外観特性を示し得る射出可能な材料を採用することが可能である。
【0024】
本実施形態では、固定型20はキャビティをなし、可動型30はコアをなしている。そのため、射出成形品としてのインパネ1の前面部4の意匠面側が固定型20側、反意匠面側が可動型30側となるように、各射出空間41,42が設定される。また、インパネ1の上面部5の意匠面側が固定型20側、反意匠面側が可動型30側となるように、各射出空間41,42が設定される。これにより、第一層2(図3)の射出成形後、第一層2がコアとしての可動型30に保持され、型開き動作時、第一層2が可動型30と共に型開き方向(図2ではx方向)に移動可能とされる。
【0025】
スライドブロック50は、固定型20のうち第二層3に対応する領域に配設される。本実施形態では、インパネ1の上面部5の意匠面側表層領域を第二層3としているので(図1を参照)、第一射出空間41の上方にスライドブロック50が配設される。この場合、スライドブロック50の下面50aが、第一層2を成形するための成形面になり、かつ第二層3を成形するための成形面にもなる。よって、図2に示す型締め状態では、スライドブロック50の下面50aは、可動型30に設けられた成形面30aとの間に第一射出空間41を形成し、図5に示す型開き状態では、第一層2の表面2aとの間に第二射出空間42を形成する。
【0026】
なお、図示は省略するが、固定型20には、スライドブロック50のスライドを案内するスライド案内面と、スライドブロック50を所定の方向に付勢するための付勢部材とが設けられる。このスライド案内面は、常にスライドブロック50と当接しており、スライドブロック50がスライド案内面と摺動することで、スライドブロック50が例えば型開き方向(図2のx方向)に向かうにつれて鉛直上方(図2のz方向)に移動するように、スライドブロック50をスライド可能としている。
【0027】
シール用ブロック60は、第二層3の側端部3b(ここではインパネ1の車幅方向端部)に対応する位置に設けられる。本実施形態では、シール用ブロック60は固定型20に設けられており、第二層3の形状に応じて一又は複数に分割した形態で配設されている。そして、第二射出空間42を形成する際には、シール用ブロック60はスライドブロック50と共に移動し、かつ可動型30に追従する向き(ここではz方向)に移動可能とされている。この場合、シール用ブロック60の下面60aが、第一層2を成形するための成形面になる。よって、図2に示す型締め状態では、シール用ブロック60の下面60aは、スライドブロック50の下面50aと共に、可動型30の成形面30aとの間に第一射出空間41を形成する。また、図5に示す型開き状態では、下面60aは、第一層2の表面2aに密着する。
【0028】
なお、シール用ブロック60には、図示は省略するが、シール用ブロック60を第一層2の表面2aに向けて付勢する付勢部材が設けられている。この付勢部材は、例えばスライドブロック50を貫通する支持ピン(図示は省略)で支持されており、スライドブロック50のスライド動作に関係なく、常に所定の方向(本実施形態ではz方向)にシール用ブロック60を付勢可能としている。
【0029】
連通用ブロック70は、固定型20と可動型30のうちシール用ブロック60と反対の側、ここでは可動型30の側に配設される。連通用ブロック70の上面70aは、可動型30の成形面30aの一部をなし、図2に示す型締め状態では、成形面30aと共に、スライドブロック50の下面50a及びシール用ブロック60の下面60aとの間に第一射出空間41を形成する。また、連通用ブロック70には、第一層2を貫通する貫通部70bが設けられている。本実施形態では、貫通部70bは、第一層2の成形面となる上面70aよりも上方(図2のz方向)に突出しており、型締めした状態では、スライドブロック50の下面50aと当接する。これにより、第一層2を射出成形することで、第一層2には、貫通部70bに対応した形状の穴部2b(被貫通部)が形成された状態となる(図3を参照)。
【0030】
また、可動型30には、図示は省略するが、連通用ブロック70を第一層2から遠ざける向きに移動させるための駆動装置が設けられている。この駆動装置は例えばシリンダ等で構成されており、可動型30の駆動(型開き動作)とは別個独立して駆動可能とされる。よって、本実施形態では、可動型30は、型開き方向(図2のx方向)に沿って移動する一方、連通用ブロック70は、型開き方向に直交する向きである鉛直方向(図2のz方向)に沿って、かつ型開き動作と異なるタイミングで移動可能とされている。そして、連通用ブロック70を下方に移動させた状態では、貫通部70bが第一層2の穴部2bから離脱し、上面70aと第一層2の裏面2cとの間に所定の連通用スペース90が生じる。また、連通用ブロック70は、固定型20に設けられた第二射出用ゲート部80を塞ぐ閉塞面70cを第二射出空間42よりも側方に有している。この閉塞面70cは、図2に示す型締め状態では、第二射出用ゲート部80を閉塞し、図5に示す型開き状態では、第二射出用ゲート部80から離れた状態となる。よって、この場合、第二射出用ゲート部80が、連通用スペース90及び穴部2b内の空間を介して、第二射出空間42と連通した状態となる。
【0031】
次に、上記構成の射出成形装置10を用いたインパネ1の製造方法の一例を、主に図2図6に基づいて説明する。
【0032】
(S1)第一成形工程
まず図2に示すように固定型20と可動型30とを型締めした状態で、所定の射出ユニットを駆動して、第一層2用の射出材料を第一射出空間41に向けて射出する。これにより、第一射出空間41に対応した形状の成形部、すなわち第一層2が形成される(図1及び図3を参照)。また、第一層2の射出成形時、連通用ブロック70に設けた貫通部70bをスライドブロック50の下面50aと当接させた状態で第一射出空間41内に配置することにより、第一層2をその厚み方向に貫通する穴部2bが第一層2に形成される(図3を参照)。
【0033】
なお、この際(第一層2の成形時)、スライドブロック50は、可動型30に設けた第一スライド規制面(図示は省略)によってスライド案内面に沿ったスライドを規制された状態にある。また、シール用ブロック60は、可動型30に設けた第二スライド規制面(図示は省略)によって型開き方向に沿ったスライドを規制された状態にある。また、図3に示す状態では、スライドブロック50の付勢部材とシール用ブロック60の付勢部材(共に図示は省略)にそれぞれ、所定の付勢力(ばねの場合、弾性復元力)が蓄積された状態にある。
【0034】
(S2)第二成形工程
第一層2を形成した後、可動型30の駆動により型開き動作を開始する。この際、可動型30の型開き動作に伴って、第一スライド規制面が型開き方向(ここではx方向)に移動するので、スライドブロック50のスライド規制状態が解消される。これにより、スライドブロック50が図示しない付勢部材から付勢力を受けて、スライド案内面に沿った向きのスライドを開始する。図3でいえば、型開き方向(x方向)に対して斜め上方に傾斜した向き、スライドブロック50がスライドを開始する。
【0035】
また、可動型30の型開き動作に伴って、第一層2は可動型30の成形面30aに保持された状態で可動型30と一体的に型開き方向への移動を開始すると共に、可動型30に設けた第二スライド規制面も型開き方向への移動を開始する。これにより、シール用ブロック60のスライド規制状態が解消されるので、シール用ブロック60は、スライドブロック50と共に移動しながら、図示しない付勢部材から付勢力を受けて、下方に向けたスライドを開始する。この場合、シール用ブロック60の下面60aが第一層2の表面2aに密着した状態を保ちながら、シール用ブロック60が可動型30及び第一層2に追従して型開き方向に移動する。
【0036】
このようにしてスライドブロック50がスライドすることで、スライドブロック50とその下方に位置する第一層2との間には鉛直方向(図4のz方向)の隙間が形成され、拡大していく。この隙間が最終的に第二層3を成形するための第二射出空間42となる。一方、上述のようにしてシール用ブロック60がスライドすることで、シール用ブロック60の下面60aと第一層2の表面2aとの密着状態が維持されるので、型開き動作の終了時まで、シール用ブロック60と第一層2との間に隙間が生じることはない(図4)。
【0037】
そして、可動型30に保持された状態の第一層2の表面2aとスライドブロック50との間に第二射出空間42となる所定の大きさの隙間が形成された状態で、可動型30の型開き動作を終了する(可動型30を停止する)。次に、図示しない駆動装置を駆動して、連通用ブロック70を第一層2から遠ざける向き、ここでは鉛直下方に向けて移動させる。これにより、貫通部70bを第一層2の穴部2bから離脱させると共に、上面70aと第一層2の裏面2cとの間に所定の連通用スペース90を形成する。また、連通用ブロック70に設けた閉塞面70cを下方に移動させることで、第二射出用ゲート部80の閉塞状態が解消される。これにより、第二射出用ゲート部80が、連通用スペース90及び穴部2b内の空間を介して、第二射出空間42と連通した状態となる(図5を参照)。この場合、連通用ブロック70の下方への移動量は、第二射出用ゲート部80から射出された射出材料が、連通用スペース90、及び穴部2bを介して第二射出空間42に流入できるように、適宜設定される。また、この場合、連通用ブロック70は、可動型30とは独立して駆動可能であるから、上述様に連通用ブロック70を移動させることで、シール用ブロック60と第一層2との密着状態が緩和又は解消されることはない。言い換えると、第二射出空間42と第二射出用ゲート部80との連通動作後においても、第二射出空間42の側端部42aが、シール用ブロック60と第一層2とによりシールされた状態が維持される。
【0038】
以上のようにして、第二射出空間42を形成した後、可動型30及び連通用ブロック70を図5に示す位置に維持した状態で、図示しない射出ユニットを駆動して、第二層3用の射出材料を第二射出空間42に向けて射出する。これにより、固定型20に設けた第二射出用ゲート部80から第二層3用の射出材料が連通用スペース90、次いで穴部2bを通じて、第二射出空間42に流入し、第二射出空間42に対応した形状の成形部、すなわち第二層3が形成される(図6を参照)。また、穴部2bと連通用スペース90に充填された射出材料の固化により、当該領域に第二層3とつながる連通部3cが成形される(図6を参照)。
【0039】
図6に示すように射出成形を行った後、可動型30を図6に示す状態からさらに型開き方向に移動させることで、インパネ1を固定型20と可動型30との間から取り出す。これにより、前面部4及び上面部5の大部分をなす第一層2と、上面部5の表層領域をなす第二層3とを一体に有する二層構造の射出成形品であるインパネ1が得られる。
【0040】
このように、本発明に係るインパネ1の製造方法では、可動型30の型開き動作に伴って第一層2の成形面の一部をなすスライドブロック50の下面50aを第一層2から離れる向きに移動させて、下面50aと第一層2との間に第二射出空間42を形成する場合に、固定型20の一部をなすスライドブロック50にシール用ブロック60を設けて、型開き動作の際、第一層2の表面2aと密着するようにシール用ブロック60を移動させて、第二射出空間42の側端部42aをシールするようにした。これにより第二層3の射出材料が本来射出すべきでない空間に流れ出す事態を防止して、第一層2のうち所定の位置及び範囲に第二層3を正確に形成することができる。また、本発明では、第一層2を第二層3の反対側から貫通する連通用ブロック70を設け、連通用ブロック70を第一層2から遠ざかる向きに移動させることで、第一層2の被貫通部となる穴部2bを介して第二射出空間42と第二射出用ゲート部80とを連通させるようにした。この構成によれば、第二射出空間42のうち第二層3の意匠面(表面3a)及び側端部3bとなる領域から離れた位置に第二射出用ゲート部80を配置して、第二射出空間42に第二層3の射出材料を射出することができる。よって、上述のように第二射出空間42の側端部42aをシール用ブロック60でシールする場合においても、ゲート跡が意匠面(表面3a)に残る事態を確実に回避して、第一層2の一部を覆うように第二層3を成形することが可能となる。また、本発明によれば、連通用ブロック70の形状、サイズ、位置等によって、比較的容易に第二射出用ゲート部80を適宜の位置に設定することができる。よって、射出成形装置10の大幅な複雑化を招くおそれもなく、高コスト化の心配もない。以上より、本発明によれば、第一層2の一部が第二層3で覆われてなる高品質の自動車用インパネ1を低コストに量産することが可能となる。
【0041】
また、本実施形態では、連通用ブロック70の貫通部70bに隣接する上面70aを、第一層2の成形面としたので、連通用ブロック70の移動時、第一層2の裏面2cと上面70aとの間に連通用スペース90を形成することができる(図5を参照)。これにより、穴部2bと第二射出用ゲート部80とをなるべく短い距離で連通することができ、より円滑かつ確実に第二射出空間42への射出材料の射出(充填)を図ることが可能となる。
【0042】
もちろん、本発明に係るインパネ1の製造方法によれば、一種類の金型(一対の固定型20及び可動型30)のみで二層構造のインパネ1を射出成形することができるので、製造コスト、設置スペースの面でも良好であり、また金型(固定型20及び可動型30)の交換動作等も必要ないため、生産性の面でも良好である。以上より、本発明によれば、第一層2の一部が第二層3で覆われてなる高品質の自動車用インパネ1を低コストに量産することが可能となる。
【0043】
以上、本発明の一実施形態について述べたが、本発明に係る射出成形品の製造方法は、その趣旨を逸脱しない範囲において、上記以外の構成を採ることも可能である。
【0044】
例えば、上記実施形態では、固定型20にスライドブロック50を設けて、このスライドブロック50がx方向(型開き方向)及びz方向(鉛直方向)に移動することで、スライドブロック50の下面50aと第一層2の表面2aとの間に第二射出空間42を形成した場合を例示したが、もちろんこれ以外の手段で第二射出空間42を形成することも可能である。例えば図示は省略するが、第一層2の厚み方向が型開き方向である場合、可動型30の型開き動作に伴い、第一層2が固定型20から遠ざかる向きに移動し、第一層2の表面2aと、この表面2aを成形した固定型20の下面との間に第一射出空間となる隙間を形成してもよい。この場合、第二射出用ゲート部80の閉塞面70cを可動型30に設けることができ、言い換えると閉塞面70cを有する部位を省略できるので、連通用ブロック70を小型化することができる。
【0045】
また、上記実施形態では、連通用ブロック70の上面70aを第一層2の成形面とした場合を例示したが、もちろんこれには限られない。例えば図示は省略するが、第一射出空間41の可動型30側の成形面を全て可動型30の表面のみで構成し、貫通部70bが第一層2及び可動型30を貫通するように構成することで、第一層2から離れた位置に連通用スペース90を設けることもできる。この場合、連通用ブロック70に第一層2の成形面を設ける必要がないため、より低コストに連通用ブロック70を製作できる。
【0046】
また、上記実施形態では、連通用ブロック70を可動型30とは独立して駆動可能とした場合を例示したが、もちろんこれ以外の構成をとることも可能である。例えば図示は省略するが、連通用ブロック70を所定の向き(図2に示す例であれば下方)に付勢する付勢部材を設け、可動型30の型開き動作に伴い、連通用ブロック70が付勢部材による付勢力を受けて下方に移動するように、連通用ブロック70を構成してもよい。この場合、型開き動作が終了した状態で、第二射出空間42が形成されると共に、第二射出空間42と第二射出用ゲート部80とが連通した状態となる。
【0047】
また、上記実施形態では、固定型20をキャビティ、可動型30をコアとした場合を例示したが、固定型20をコア、可動型30をキャビティとしてもよい。この場合、可動型30にシール用ブロック60を設け、固定型20に連通用ブロック70を設けてもよい。
【0048】
また、上記実施形態では、シール用ブロック60を付勢部材で第一層2に密着する向きに付勢することで、可動型30の型開き動作の間、シール用ブロック60の下面60aが第一層2の表面2aに密着した状態を維持できるようした場合を例示したが、もちろんこれには限られない。例えば設置スペースの面で問題がないようであれば、シリンダなど所定の駆動装置でシール用ブロック60を第一層2の表面2aに向けて移動させる構成をとることも可能である。もちろん、スライドブロック50に関しても、シリンダなど所定の駆動装置で第一層2から離れる向きにスライド可能に構成してもよい。
【0049】
また、上記実施形態では、第二層3をインパネ1の上面部のみに形成する場合を例示したが、第二層3をインパネ1の上面部から前面部の一部にわたって形成してもよい。
【0050】
また、以上の説明では、射出成形品としてインパネ1を射出成形品として製造する場合を例示したが、もちろん、インパネ1以外の種類の射出成形品を二層構造とする場合にも、本発明を適用することが可能である。
【符号の説明】
【0051】
1 自動車用インパネ
2 第一層
2b 穴部
3 第二層
3b 側端部
3c 連通部
4 前面部
5 上面部
10 射出成形装置
20 固定型
30 可動型
30a 成形面
41 第一射出空間
42 第二射出空間
42a 側端部
50 スライドブロック
60 シール用ブロック
70 連通用ブロック
70b 貫通部
70c 閉塞面
80 第二射出用ゲート部
90 連通用スペース
201 コア
202 キャビティ
203 射出空間
204 第一層
205 射出空間
205a 側端部
206 本来射出すべきでない空間
207 シール用ブロック
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8