(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-08
(45)【発行日】2022-12-16
(54)【発明の名称】通信状態についての対象との対応度に基づき端末を同定する装置、プログラム及び方法
(51)【国際特許分類】
H04W 16/18 20090101AFI20221209BHJP
H04W 24/04 20090101ALI20221209BHJP
H04W 88/18 20090101ALI20221209BHJP
【FI】
H04W16/18
H04W24/04
H04W88/18
(21)【出願番号】P 2019203920
(22)【出願日】2019-11-11
【審査請求日】2021-11-16
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度、総務省、「研究開発課題 II.第5世代移動通信システムの更なる高度化に向けた研究開発、技術課題ア.多様なサービス要求に応じた高信頼な高度5Gネットワーク制御技術の研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】599108264
【氏名又は名称】株式会社KDDI総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100135068
【氏名又は名称】早原 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100141313
【氏名又は名称】辰巳 富彦
(72)【発明者】
【氏名】三原 翔一郎
(72)【発明者】
【氏名】村上 隆秀
【審査官】望月 章俊
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-148297(JP,A)
【文献】国際公開第2019/103664(WO,A1)
【文献】特表2021-510466(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0023562(US,A1)
【文献】国際公開第2019/085904(WO,A1)
【文献】特表2021-501425(JP,A)
【文献】岡本 浩尚 Hironao OKAMOTO,ミリ波通信制御のためのオンライン機械学習を用いた深度画像からのスループット推定 Throughput Estimation Using Online Machine Learning Algorithm from Depth-images for mmWave Communications,電子情報通信学会技術研究報告 Vol.115 No.473 IEICE Technical Report,日本,一般社団法人電子情報通信学会 The Institute of Electronics,Information and Communication Engineers,2016年02月24日,第115巻
【文献】西尾 理志 Takayuki NISHIO,RGB-Dカメラを用いたミリ波通信環境予測に基づくプロアクティブ通信制御の提案 Framework of Proactive Communication Control Based on mmWave Environment Prediction using RGB-D camera,電子情報通信学会技術研究報告 Vol.114 No.490 IEICE Technical Report,日本,一般社団法人電子情報通信学会 The Institute of Electronics,Information and Communication Engineers,2015年02月25日,第114巻
【文献】三原 翔一郎,ステレオカメラ動画像とミリ波の受信信号強度を用いた通信端末の位置推定,情報処理学会 シンポジウム マルチメディア通信と分散処理ワークショップ 2020 [online] ,日本,情報処理学会,2020年11月04日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04W4/00-H04W99/00
H04B7/24-H04B7/26
3GPP TSG RAN WG1-4
SA WG1-4
CT WG1、4
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
端末と通信を行う通信手段から取得した通信に係る情報に基づいて、当該端末との間の通信状態に係る情報である端末通信状態情報を決定する端末通信状態決定手段と、
当該端末の存在し得る環境をセンシングするセンサから当該環境に係る情報である環境情報であって、所定の対象及
び通信の障害となり得る障害対象
のうちの一方又は両方を含み得る環境情報を取得し、当該環境情報から、当該所定の対象が端末を含むならば当該所定の対象との間で具現することになる通信状態に係る情報である対象通信状態情報を決定する対象通信状態決定手段と、
決定された端末通信状態情報と、決定された対象通信状態情報とが対応する度合いを算出し、当該度合いに基づいて、当該端末通信状態情報に係る端末と、当該対象通信状態情報に係る所定の対象とが対応関係にあるか否かを判定し、当該端末と当該所定の対象との対応関係に係る情報を決定する対応関係決定手段と
を有することを特徴とする端末同定装置。
【請求項2】
前記端末通信状態決定手段は、当該通信に係る情報に基づいて、当該端末の位置に係る情報である端末位置情報も決定し、
前記対象通信状態決定手段は、当該環境情報から検出された当該所定の対象の検出位置に係る情報である対象位置情報も決定し、
前記対応関係決定手段は、決定された端末位置情報と、決定された対象位置情報とが対応する度合いである位置対応度を算出し、当該位置対応度にも基づいて、当該端末と当該所定の対象とが対応関係にあるか否かを判定する
ことを特徴とする請求項1に記載の端末同定装置。
【請求項3】
当該端末通信状態情報は、当該端末との通信接続の有無に係る情報であり、
前記対象通信状態決定手段は、当該環境情報から検出された当該所定の対象の検出位置と、当該障害対象が検出された場合には当該障害対象の検出位置とに基づき、当該所定の対象と前記通信手段とを結ぶ直線分を決定して、当該障害対象が、当該直線分上若しくは当該直線分を含む所定領域内に位置しているか否か、又は当該直線分を遮っているか否かを示す、当該所定の対象との通信接続の可否に係る情報を算出して、当該通信接続の可否に係る情報を、当該対象通信状態情報に決定し、
前記対応関係決定手段は、当該端末通信状態情報としての通信接続の有無に係る情報と、当該対象通信状態情報としての通信接続の可否に係る情報との対応する度合いである通信接続対応度に基づいて、当該端末と当該所定の対象とが対応関係にあるか否かを判定する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の端末同定装置。
【請求項4】
当該端末通信状態情報は、当該端末から受信された電波の強度に係る情報であり、
前記対象通信状態決定手段は、当該環境情報から検出された当該所定の対象の検出位置と、当該障害対象が検出された場合には当該障害対象の検出位置とに基づき、当該所定の対象と前記通信手段とを結ぶ直線分を決定して、当該障害対象が、当該直線分を含む所定領域を遮る度合いに係る遮蔽度合情報を算出し、当該遮蔽度合情報から、当該対象通信状態情報として、当該所定の対象が端末を含むならば当該所定の対象から受信されることになる電波の強度に係る情報を決定し、
前記対応関係決定手段は、当該端末通信状態情報としての電波の強度に係る情報と、当該対象通信状態情報としての電波の強度に係る情報との対応する度合いである電波強度対応度に基づいて、当該端末と当該所定の対象とが対応関係にあるか否かを判定する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の端末同定装置。
【請求項5】
当該端末通信状態情報は、当該端末から受信された電波の強度に係る情報であり、
前記対象通信状態決定手段は、入力された環境情報に応じ、前記通信手段によって受信される電波の強度に係る情報を出力する学習済みの対象電波情報推定モデルを用いて、当該環境情報から、当該所定の対象が端末を含むならば当該所定の対象から受信されることになる電波の強度に係る情報を導出し、当該電波の強度に係る情報を、当該対象通信状態情報に決定し、
前記対応関係決定手段は、当該端末通信状態情報における電波の強度に係る情報と、当該対象通信状態情報における電波の強度に係る情報との対応する度合いである電波強度対応度に基づいて、当該端末と当該所定の対象とが対応関係にあるか否かを判定する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の端末同定装置。
【請求項6】
当該端末通信状態情報は、当該端末との通信接続の有無に係る情報も含み、
前記対象通信状態決定手段は、当該環境情報から検出された当該所定の対象の検出位置と、当該障害対象が検出された場合には当該障害対象の検出位置とに基づき、当該所定の対象と前記通信手段とを結ぶ直線分を決定して、当該障害対象が、当該直線分上若しくは当該直線分を含む所定領域内に位置しているか否か、又は当該直線分を遮っているか否かを示す、当該所定の対象との通信接続の可否に係る情報を算出して、当該通信接続の可否に係る情報も、当該対象通信状態情報に含まれる情報として決定し、
前記対応関係決定手段は、当該端末通信状態情報における通信接続の有無に係る情報と、当該対象通信状態情報における通信接続の可否に係る情報との対応する度合いである通信接続対応度と、当該電波強度対応度とが各々、所定以上であるか否かに基づいて、又は当該通信接続対応度と当該電波強度対応度との和若しくは重み付けされた和に基づいて、当該端末と当該所定の対象とが対応関係にあるか否かを判定する
ことを特徴とする請求項4又は5に記載の端末同定装置。
【請求項7】
前記センサは、互いに異なる位置に設けられた複数のセンサであり、
前記対象通信状態決定手段は、前記複数のセンサのそれぞれから複数の環境情報を取得して、当該複数の環境情報のそれぞれから当該対象通信状態情報を決定し、決定した対象通信状態情報のうちで、当該対象通信状態情報に係る所定の対象の検出位置が所定以上に近いもの同
士、及び
、当該対象通信状態情報に係る所定の対象の検出領域の特徴量が所定以上に類似しているもの同士
のうちの一方又は両方について、それらの対象通信状態情報は、同一の所定の対象に係るものとする
ことを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の端末同定装置。
【請求項8】
前記対象通信状態決定手段は、周囲に存在する他の端末同定装置から、当該他の端末同定装置において前記センサとは別のセンサから取得された環境情報から決定された対象通信状態情報を取得し、
前記対応関係決定手段は、取得された対象通信状態情報と、決定された端末通信状態情報とが対応する度合いも算出し、当該度合いにも基づいて、当該端末と当該所定の対象とが対応関係にあるか否かを判定する
ことを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の端末同定装置。
【請求項9】
当該端末は、移動体に設置された又は携帯された複数の端末を含み、
前記端末同定装置は、
検出された複数の所定の対象の検出位置に基づいて、お互いが後に所定以上に接近すると推定される複数の所定の対象を特定する接近対象特定手段と、
前記対応関係決定手段によって、特定された複数の所定の対象のいずれかと対応関係にあると判定された少なくとも1つの端末のうちの少なくとも1つに宛てて、当該所定以上に接近すると推定されることに係る情報を送信させる通信制御手段と
を更に有することを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の端末同定装置。
【請求項10】
当該環境情報と、該環境情報から検出された所定の対象に係る情報とを含む学習データであって、請求項1から9のいずれか1項に記載の端末同定装置によって、該所定の対象と対応関係にあると判定された端末との間の通信状態に係る情報を正解データとした学習データ
を用いてニューラルネットワークアルゴリズムを訓練することによって構築され
ており、説明変数に係る情報としての環境情報及び該環境情報から検出された所定の対象に係る情報を入力すると、目的変数に係る情報としての、該所定の対象とされる端末の通信状態に係る情報を出力する端末電波情報推定
部としてコンピュータを機能させることを特徴とする学習モデル。
【請求項11】
請求項10に記載の学習モデルに対し、当該環境情報と、該環境情報から検出された所定の対象に係る情報とを含むデータを入力し、該学習モデルによって出力された端末の通信状態に係る情報に基づいて、端末としての該所定の対象の通信状態に係る情報を推定する端末通信状態推定手段と、
推定された通信状態に係る情報に基づいて、端末としての前記所定の対象の通信経路を切り替えるか否かの判断を行う通信制御手段と
を有することを特徴とする通信中継装置。
【請求項12】
端末と所定の対象との対応関係を判定可能なコンピュータを機能させるプログラムであって、
当該端末と通信を行う通信手段から取得した通信に係る情報に基づいて、当該端末との間の通信状態に係る情報である端末通信状態情報を決定する端末通信状態決定手段と、
当該端末の存在し得る環境をセンシングするセンサから当該環境に係る情報である環境情報であって、当該所定の対象及
び通信の障害となり得る障害対象
のうちの一方又は両方を含み得る環境情報を取得し、当該環境情報から、当該所定の対象が端末を含むならば当該所定の対象との間で具現することになる通信状態に係る情報である対象通信状態情報を決定する対象通信状態決定手段と、
決定された端末通信状態情報と、決定された対象通信状態情報とが対応する度合いを算出し、当該度合いに基づいて、当該端末通信状態情報に係る端末と、当該対象通信状態情報に係る所定の対象とが対応関係にあるか否かを判定し、当該端末と当該所定の対象との対応関係に係る情報を決定する対応関係決定手段と
してコンピュータを機能させることを特徴とする端末同定プログラム。
【請求項13】
端末と所定の対象との対応関係を判定可能なコンピュータによる端末同定方法であって、
当該端末と通信を行う通信手段から取得した通信に係る情報に基づいて、当該端末との間の通信状態に係る情報である端末通信状態情報を決定し、一方、当該端末の存在し得る環境をセンシングするセンサから当該環境に係る情報である環境情報であって、当該所定の対象及
び通信の障害となり得る障害対象
のうちの一方又は両方を含み得る環境情報を取得し、当該環境情報から、当該所定の対象が端末を含むならば当該所定の対象との間で具現することになる通信状態に係る情報である対象通信状態情報を決定するステップと、
決定された端末通信状態情報と、決定された対象通信状態情報とが対応する度合いを算出し、当該度合いに基づいて、当該端末通信状態情報に係る端末と、当該対象通信状態情報に係る所定の対象とが対応関係にあるか否かを判定し、当該端末と当該所定の対象との対応関係に係る情報を決定するステップと
を有することを特徴とする端末同定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
通信対象としての端末についての情報を取得する技術、特に当該端末を同定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
来る第5世代移動通信システム(5G)は、ミリ波帯の電波を利用し、高速、大容量、低遅延、多端末接続といった高性能の通信を実現可能とする。ここで、ミリ波は、高い直進性を有していて回折が起きにくく、端末と基地局との間に存在する物体によってその伝播が遮られたり減衰したりする可能性が高くなる。そのため、5Gでは、このような物体の介在により受信電力が急激に低下して、通信品質が大幅に劣化してしまうことが大きな問題となっている。
【0003】
ここで、このような物体による受信電力の低下を予測できれば、端末の通信経路を切り替える等の制御によって通信品質を維持することも可能となる。この受信電力の予測技術として、例えば非特許文献1には、RGB画像に加えデプス画像も生成可能なRGB-Dカメラによって取得される時系列の3次元環境情報を用い、機械学習によって通信装置における受信電力を予測する手法が開示されている。
【0004】
具体的にこの手法では、通信環境を撮像した結果である時系列の環境情報に対し、送信局から電波を受信した端末において(撮像と同時に)計測された受信電力の時系列情報を正解データとして紐づけた教師データをもって、機械学習モデルを構築し、この構築した機械学習モデルを用いて、RGB-Dカメラにより取得された時系列の環境情報から、受信端末における受信電力の予測値を決定している。
【0005】
また、例えば特許文献1は、非特許公報1に開示されたような機械学習による通信品質の予測処理において、システムの初期動作段階や発生頻度の低い通信環境における通信品質の推定精度を向上させる技術を開示している。具体的には、通信環境の計測結果から形成した仮想空間において、仮想的にRGB-Dカメラによる情報を生成するとともに、伝搬シミュレーションによって仮想空間における受信端末の通信品質を推定することにより、仮想空間上で大量の学習データを生成し、これにより推定精度の向上した機械学習モデルを構築することができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-148297号公報
【文献】特開2016-212675号公報
【文献】特開2019-144941号公報
【文献】特開2019-174164号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】西尾理志,「機械学習による無線通信品質予測と通信制御」,信学技報,Vol. 118,No. 57,SR2018-1,1~8頁,2018年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、以上に述べた非特許文献1に開示されたような従来技術では、例えば時系列の環境情報に複数の物体が含まれる通常の状況において、これらの物体のうちで、正解データとなる時系列の受信電力情報に係る端末に相当するものを特定することができない。その結果、実運用に使用可能な高い推定精度を有する機械学習モデルを構築することが非常に困難となる。すなわち、RGB-Dカメラで撮像された(端末を含む可能性のある)物体と、計測された受信電力に係る端末とが同じ対象であるか否か(対応関係にあるか否か)を判断できないので、そもそも信頼性の高い学習データが生成できないのである。
【0009】
また、仮に非特許文献1に開示されたような機械学習モデルを適用した場合でも、例えばRGB-Dカメラで生成された時系列の環境情報から検出された物体(端末)が、この機械学習モデルによって予測された受信電力に係るものであるか否かは全く不明であり、したがって送信局側としても、予測された受信電力は、接続しているいずれの端末に係るものであるのか、さらにはそもそも、予測された受信電力が、いずれかの端末に係るものであるのか否かですらも判断することができなくなってしまう。
【0010】
この点、特許文献1に開示された技術では、仮想空間においてRGB-Dカメラで撮像した端末と計測した受信電力との対応関係を決定することができるので、例えば複数の端末が移動し得る状況に対応した機械学習モデルを構築することは可能である。しかしながら、このようなモデルを適用したとしても、実運用における受信電力の予測の場面においては結局、端末の同定ができず、上述したような非特許公報1と同様の問題が生じてしまう。
【0011】
ここで、特許文献2には、携帯端末の挙動を把握し、当該携帯端末とコンピュータが検出している移動体とを対応付ける物体認識システムが開示されている。このシステムでは、各携帯端末は、自端末に作用する加速度等の種々の状態量を逐次検出し、時系列の検出結果を端末挙動データとしてサーバに送信し、サーバは、カメラから入力される映像信号に基づいて撮影範囲に存在する移動体の挙動を監視して、各移動体の挙動に関する状態量の時間変化を示すデータを推定結果履歴データとしてサーバ側記憶部に格納する。次いで、携帯端末から送信された端末挙動データと、移動体毎の推定結果履歴データとを比較することで、撮影範囲に存在する移動体と携帯端末との対応関係を特定している。
【0012】
しかしながら、この特許文献2に係るシステムでは、対応関係を特定する基準が、移動体の挙動に起因する物理的状態量のみとなっており、まさに懸案であるところの、各携帯端末が基地局と行う通信に係る情報は何ら活用されていない。また、携帯端末側でも自身の挙動に起因して変化する所定の状態の情報を取得する必要があるので、各携帯端末に所定の状態を検出可能なセンサ等の設備が必須となってしまい、さらにその検出結果を逐次送信する必要が生じるので、技術的に面倒な状況となってしまう。
【0013】
また、特許文献3には、無線受信機を所持する一人又は複数の人物が滞在したり移動したりしている環境において、カメラ等を用いて取得した当該人物の動線情報と、当該無線受信機(を所持する人物)との対応付けを行う技術が開示されている。この技術は具体的に、人物の動線情報から当該人物が所定エリアに滞在している時間帯を特定し、所定エリアに対応する位置に設置された無線発信機と当該人物の所持する受信機とが通信を行うことで生成される受信履歴情報から、その時間帯において所定エリアに滞在している可能性が高い人物を判別し、当該人物を、その時間帯を特定した動線情報に対応付けるものとなっている。
【0014】
しかしながら、この特許文献3の技術において、無線受信機を所持する人物とカメラをもって取得された人物の動線情報とを対応付けるためには、当該人物が所定エリアに滞在していることが大前提となっている。勿論、多数の所定エリアを設定することで当該人物が所定エリアに滞在することになる確率は高まるが、そうなると今度は、多数の所定エリア毎に無線発信機を設置しなければならなくなってしまう。
【0015】
またさらに、特許文献4には、電磁波源(ビーコン)からの電磁波を受信した端末における受信電磁波情報を取得して端末の位置を推定する技術が開示されている。この技術は具体的に、この受信電磁波情報、移動し得る物体を認識可能な物体認識手段から取得された物体認識情報、及び端末の正解の位置に係る端末位置情報を含む学習データを生成して、端末位置推定用のモデルを生成し、生成されたモデルを用いて、位置推定対象の端末から取得した位置推定時点での受信電磁波情報及び物体認識情報を含む特徴データに基づき、位置推定対象の端末の位置を決定するものとなっている。
【0016】
しかしながら、この特許文献4の技術では、受信電磁波情報に係る端末と、物体認識情報に係る物体(端末)との対応付けは基本的に、受信電磁波情報から推定した端末位置と、物体認識情報から取得した物体位置との幾何学的な位置関係(例えば距離)に基づいて行われるため、例えば推定した端末位置の近くに多数の物体が存在している場合、誤った対応付けが行われる可能性が高くなってしまう。また、実際には複数のビーコンをエリア内に配置する必要があり、一般の通信エリア全体に適用することは現実的ではない。
【0017】
そこで、本発明は、端末と、当該端末の存在し得る環境に存在する対象との対応関係を、互いの位置関係に又は当該位置関係のみに頼ることなく、当該端末との通信に係る情報を利用して決定することができる装置、プログラム及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明によれば、
端末と通信を行う通信手段から取得した通信に係る情報に基づいて、当該端末との間の通信状態に係る情報である端末通信状態情報を決定する端末通信状態決定手段と、
当該端末の存在し得る環境をセンシングするセンサから当該環境に係る情報である環境情報であって、所定の対象及び通信の障害となり得る障害対象のうちの一方又は両方を含み得る環境情報を取得し、当該環境情報から、当該所定の対象が端末を含むならば当該所定の対象との間で具現することになる通信状態に係る情報である対象通信状態情報を決定する対象通信状態決定手段と、
決定された端末通信状態情報と、決定された対象通信状態情報とが対応する度合いを算出し、当該度合いに基づいて、当該端末通信状態情報に係る端末と、当該対象通信状態情報に係る所定の対象とが対応関係にあるか否かを判定し、当該端末と当該所定の対象との対応関係に係る情報を決定する対応関係決定手段と
を有する端末同定装置が提供される。
【0019】
この本発明による端末同定装置の一実施形態として、端末通信状態決定手段は、当該通信に係る情報に基づいて、当該端末の位置に係る情報である端末位置情報も決定し、
対象通信状態決定手段は、当該環境情報から検出された当該所定の対象の検出位置に係る情報である対象位置情報も決定し、
対応関係決定手段は、決定された端末位置情報と、決定された対象位置情報とが対応する度合いである位置対応度を算出し、当該位置対応度にも基づいて、当該端末と当該所定の対象とが対応関係にあるか否かを判定することも好ましい。
【0020】
また、本発明の端末及び対象通信状態情報に係る一実施形態として、当該端末通信状態情報は、当該端末との通信接続の有無に係る情報であり、
対象通信状態決定手段は、当該環境情報から検出された当該所定の対象の検出位置と、当該障害対象が検出された場合には当該障害対象の検出位置とに基づき、当該所定の対象と通信手段とを結ぶ直線分を決定して、当該障害対象が、当該直線分上若しくは当該直線分を含む所定領域内に位置しているか否か、又は当該直線分を遮っているか否かを示す、当該所定の対象との通信接続の可否に係る情報を算出して、当該通信接続の可否に係る情報を、当該対象通信状態情報に決定し、
対応関係決定手段は、当該端末通信状態情報としての通信接続の有無に係る情報と、当該対象通信状態情報としての通信接続の可否に係る情報との対応する度合いである通信接続対応度に基づいて、当該端末と当該所定の対象とが対応関係にあるか否かを判定することも好ましい。
【0021】
さらに、本発明の端末及び対象通信状態情報に係る他の実施形態として、当該端末通信状態情報は、当該端末から受信された電波の強度に係る情報であり、
対象通信状態決定手段は、当該環境情報から検出された当該所定の対象の検出位置と、当該障害対象が検出された場合には当該障害対象の検出位置とに基づき、当該所定の対象と通信手段とを結ぶ直線分を決定して、当該障害対象が、当該直線分を含む所定領域を遮る度合いに係る遮蔽度合情報を算出し、当該遮蔽度合情報から、当該対象通信状態情報として、当該所定の対象が端末を含むならば当該所定の対象から受信されることになる電波の強度に係る情報を決定し、
対応関係決定手段は、当該端末通信状態情報としての電波の強度に係る情報と、当該対象通信状態情報としての電波の強度に係る情報との対応する度合いである電波強度対応度に基づいて、当該端末と当該所定の対象とが対応関係にあるか否かを判定することも好ましい。
【0022】
また、本発明の端末及び対象通信状態情報に係る更なる他の実施形態として、当該端末通信状態情報は、当該端末から受信された電波の強度に係る情報であり、
対象通信状態決定手段は、入力された環境情報に応じ、通信手段によって受信される電波の強度に係る情報を出力する学習済みの対象電波情報推定モデルを用いて、当該環境情報から、当該所定の対象が端末を含むならば当該所定の対象から受信されることになる電波の強度に係る情報を導出し、当該電波の強度に係る情報を、当該対象通信状態情報に決定し、
対応関係決定手段は、当該端末通信状態情報における電波の強度に係る情報と、当該対象通信状態情報における電波の強度に係る情報との対応する度合いである電波強度対応度に基づいて、当該端末と当該所定の対象とが対応関係にあるか否かを判定することも好ましい。
【0023】
さらに、上述した電波強度対応度を用いて対応関係を決定する実施形態において、当該端末通信状態情報は、当該端末との通信接続の有無に係る情報も含み、
対象通信状態決定手段は、当該環境情報から検出された当該所定の対象の検出位置と、当該障害対象が検出された場合には当該障害対象の検出位置とに基づき、当該所定の対象と通信手段とを結ぶ直線分を決定して、当該障害対象が、当該直線分上若しくは当該直線分を含む所定領域内に位置しているか否か、又は当該直線分を遮っているか否かを示す、当該所定の対象との通信接続の可否に係る情報を算出して、当該通信接続の可否に係る情報も、当該対象通信状態情報に含まれる情報として決定し、
対応関係決定手段は、当該端末通信状態情報における通信接続の有無に係る情報と、当該対象通信状態情報における通信接続の可否に係る情報との対応する度合いである通信接続対応度と、当該電波強度対応度とが各々、所定以上であるか否かに基づいて、又は当該通信接続対応度と当該電波強度対応度との和若しくは重み付けされた和に基づいて、当該端末と当該所定の対象とが対応関係にあるか否かを判定することも好ましい。
【0024】
また、本発明による端末同定装置の他の実施形態として、上記のセンサは、互いに異なる位置に設けられた複数のセンサであり、
対象通信状態決定手段は、これら複数のセンサのそれぞれから複数の環境情報を取得して、当該複数の環境情報のそれぞれから当該対象通信状態情報を決定し、決定した対象通信状態情報のうちで、当該対象通信状態情報に係る所定の対象の検出位置が所定以上に近いもの同士、及び、当該対象通信状態情報に係る所定の対象の検出領域の特徴量が所定以上に類似しているもの同士のうちの一方又は両方について、それらの対象通信状態情報は、同一の所定の対象に係るものとすることも好ましい。
【0025】
さらに、本発明による端末同定装置における更なる他の実施形態として、対象通信状態決定手段は、周囲に存在する他の端末同定装置から、当該他の端末同定装置において上記のセンサとは別のセンサから取得された環境情報から決定された対象通信状態情報を取得し、
対応関係決定手段は、取得された対象通信状態情報と、決定された端末通信状態情報とが対応する度合いも算出し、当該度合いにも基づいて、当該端末と当該所定の対象とが対応関係にあるか否かを判定することも好ましい。
【0026】
また、本発明による端末同定装置における更なる他の実施形態として、当該端末は、移動体に設置された又は携帯された複数の端末を含み、本端末同定装置は、
検出された複数の所定の対象の検出位置に基づいて、お互いが後に所定以上に接近すると推定される複数の所定の対象を特定する接近対象特定手段と、
対応関係決定手段によって、特定された複数の所定の対象のいずれかと対応関係にあると判定された少なくとも1つの端末のうちの少なくとも1つに宛てて、当該所定以上に接近すると推定されることに係る情報を送信させる通信制御手段と
を更に有することも好ましい。
【0027】
本発明によれば、また、当該環境情報と、この環境情報から検出された所定の対象に係る情報とを含む学習データであって、以上に述べた端末同定装置によって、この所定の対象と対応関係にあると判定された端末との間の通信状態に係る情報を正解データとした学習データを用いてニューラルネットワークアルゴリズムを訓練することによって構築されており、説明変数に係る情報としての環境情報及び該環境情報から検出された所定の対象に係る情報を入力すると、目的変数に係る情報としての、該所定の対象とされる端末の通信状態に係る情報を出力する端末電波情報推定部としてコンピュータを機能させる学習モデルが提供される。
【0028】
本発明によれば、さらに、上述した学習モデルに対し、当該環境情報と、この環境情報から検出された所定の対象に係る情報とを含むデータを入力し、この学習モデルによって出力された端末の通信状態に係る情報に基づいて、端末としてのこの所定の対象の通信状態に係る情報を推定する端末通信状態推定手段と、
推定された通信状態に係る情報に基づいて、端末としてのこの所定の対象の通信経路を切り替えるか否かの判断を行う通信制御手段と
を有する通信中継装置が提供される。
【0029】
本発明によれば、また、端末と所定の対象との対応関係を判定可能なコンピュータを機能させるプログラムであって、
当該端末と通信を行う通信手段から取得した通信に係る情報に基づいて、当該端末との間の通信状態に係る情報である端末通信状態情報を決定する端末通信状態決定手段と、
当該端末の存在し得る環境をセンシングするセンサから当該環境に係る情報である環境情報であって、当該所定の対象及び通信の障害となり得る障害対象のうちの一方又は両方を含み得る環境情報を取得し、当該環境情報から、当該所定の対象が端末を含むならば当該所定の対象との間で具現することになる通信状態に係る情報である対象通信状態情報を決定する対象通信状態決定手段と、
決定された端末通信状態情報と、決定された対象通信状態情報とが対応する度合いを算出し、当該度合いに基づいて、当該端末通信状態情報に係る端末と、当該対象通信状態情報に係る所定の対象とが対応関係にあるか否かを判定し、当該端末と当該所定の対象との対応関係に係る情報を決定する対応関係決定手段と
してコンピュータを機能させる端末同定プログラムが提供される。
【0030】
本発明によれば、さらに、端末と所定の対象との対応関係を判定可能なコンピュータによる端末同定方法であって、
当該端末と通信を行う通信手段から取得した通信に係る情報に基づいて、当該端末との間の通信状態に係る情報である端末通信状態情報を決定し、一方、当該端末の存在し得る環境をセンシングするセンサから当該環境に係る情報である環境情報であって、当該所定の対象及び通信の障害となり得る障害対象のうちの一方又は両方を含み得る環境情報を取得し、当該環境情報から、当該所定の対象が端末を含むならば当該所定の対象との間で具現することになる通信状態に係る情報である対象通信状態情報を決定するステップと、
決定された端末通信状態情報と、決定された対象通信状態情報とが対応する度合いを算出し、当該度合いに基づいて、当該端末通信状態情報に係る端末と、当該対象通信状態情報に係る所定の対象とが対応関係にあるか否かを判定し、当該端末と当該所定の対象との対応関係に係る情報を決定するステップと
を有する端末同定方法が提供される。
【発明の効果】
【0031】
本発明の端末同定装置、プログラム及び方法によれば、端末と、当該端末の存在し得る環境に存在する対象との対応関係を、互いの位置関係に又は当該位置関係のみに頼ることなく、当該端末との通信に係る情報を利用して決定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本発明による端末同定装置の一実施形態を示す模式図である。
【
図2】本発明に係る端末通信状態決定部、対象通信状態決定部、及び対応関係決定部での処理の一実施形態を説明するための模式図である。
【
図3】本発明による端末同定方法の一応用例を説明するための模式図である。
【
図4】本発明に係るモデル構築部及び端末電波情報推定部での処理の一実施形態を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0034】
[端末同定装置]
図1は、本発明による端末同定装置の一実施形態を示す模式図である。
【0035】
図1に示した、本発明による端末同定装置としての基地局1は、本実施形態において5G(第5世代移動通信方式)に対応した通信中継装置であり、同じく5Gに対応した通信端末である複数の端末2との間で通信を実施可能な装置となっている。また、基地局1は本実施形態において、通信エリアの状況を所定の画角をもって撮影可能なRGB-Dカメラであるカメラ103を備えている。
【0036】
このカメラ103によって生成された(RGB及びデプス)画像データ(映像データ)には、
(a)端末2を所持・携帯した人物や、
(b)端末2を搭載した、含む又は搭乗させた自動車、二輪車、鉄道車両、ロボット、ドローン等の移動体、さらには
(c)端末2の設置された設備・施設・建造物・固定物
といったような「対象」が含まれている(撮像されている)可能性があり、さらに、端末2に関わらない人物、移動体や、設備・施設・建造物・(樹木等の植物も含む)固定物等の「対象」も含まれ得るのである。
【0037】
ちなみに、このような「対象」は、同定対象である端末2との対応関係を決定すべきものとなり得る一方、端末2と基地局1との間に存在することによって、通信電波の障害物ともなり得る。特に、本実施形態の通信方式である5Gは、ミリ波帯の電波を通信に利用しているが、ミリ波は、高い直進性を有していて回折が起きにくく、端末2と基地局1との間に存在する「対象」によってその伝播が遮られたり減衰したりする可能性が高い。
【0038】
そのため、5Gでは、このような「対象」の介在により基地局1での受信信号電力が急激に低下して、通信品質が大幅に劣化してしまうことが大きな問題となるのである。ここで、このような「対象」による基地局1での受信信号電力の低下を予測できれば、端末2の通信経路を切り替える等の制御によって通信品質を維持することも可能となる。そこで、本実施形態の基地局1は、端末2と「対象」との対応関係を決定するだけでなく、後に説明するように、このような受信信号電力の予測や、通信経路の制御をも可能にする装置となっている。
【0039】
同じく
図1において、基地局1は、まず端末2と所定の対象との対応関係を決定するべく、具体的にその特徴として、
(A)端末と通信を行う通信手段(本実施形態では自ら具備する通信インタフェース101、通信制御部114及び通信履歴情報蓄積部102)から取得した通信に係る情報(例えば通信履歴情報)に基づいて、端末2との間の通信状態に係る情報である「端末通信状態情報」を決定する端末通信状態決定部111と、
(B)端末2の存在し得る環境をセンシングするセンサ(本実施形態ではカメラ103)から当該環境に係る情報である「環境情報」であって、所定の対象及び/又は通信の障害となり得る障害対象を含み得る「環境情報」を取得し、この「環境情報」から、所定の対象が端末2を含むならば当該所定の対象との間で具現することになる通信状態に係る情報である「対象通信状態情報」を決定する対象通信状態決定部112と、
(C)決定された「端末通信状態情報」と、決定された「対象通信状態情報」とが対応する度合いである「対応度」を算出し、この「対応度」に基づいて、「端末通信状態情報」に係る端末2と、「対象通信状態情報」に係る所定の対象とが対応関係にあるか否かを判定し、端末2と所定の対象との対応関係に係る情報である「端末対象対応情報」を決定する対応関係決定部113と
を有している。
【0040】
ここで、上記(B)で検出される「所定の対象」は、後に改めて説明するが、端末2を携帯した、搭載した又は含む可能性のある"人物"や"移動体"とすることができる。また場合によってはさらに、端末2を含む可能性のある"設備”、"施設"、"建造物"、"固定物"等も「所定の対象」とすることがあり得るのである。また、「障害対象」は、上述したように通信の障害となり得る対象であり、例えば、環境情報から検出された対象のうちで「所定の対象」以外のものとすることができる。
【0041】
また、上記(A)の「端末通信状態情報」は、好適な形態として、
(α)端末2との通信接続の有無に係る情報、又は
(β)端末2から受信された電波の強度に係る情報(例えば受信信号電力,RSSI(Received Signal Strength Indicator))
とすることができる。
【0042】
一方、上記(B)の「対象通信状態情報」は、上記の「端末通信状態情報」に合わせて、後に詳細に説明するが、
(α’)障害対象が検出された場合における当該障害対象の検出位置を用いて決定される、当該所定の対象との通信接続の可否に係る情報、又は
(β’)障害対象が検出された場合における当該障害対象の検出位置を用いて決定される電波の強度に係る情報、若しくは「環境情報」から対象電波情報推定モデルを用いて推定される、所定の対象が端末2を含むならば当該所定の対象から受信されることになる電波の強度に係る情報
とすることができる。
【0043】
さらに、これらの好適な形態において、上記(C)の「対応度」は、
(a)「端末通信状態情報」としての通信接続の有無に係る情報と、「対象通信状態情報」としての通信接続の可否に係る情報との一致する度合いである通信接続一致度合い、又は
(b)「端末通信状態情報」における電波の強度に係る量(受信信号電力値,RSSI値)と、「対象通信状態情報」における電波の強度に係る量との一致する度合いである電波強度一致度合い
として設定され、対応関係決定部113は、このような「対応度」に基づいて、端末2と所定の対象とが対応関係にあるか否かを判定するのである。
【0044】
このように、本発明による端末同定装置としての基地局1によれば、端末2と、端末2の存在し得る環境に存在する(「環境情報」から検出される)所定の対象との対応関係を、それぞれの「通信状態」を互いに比較することによって、決定することが可能となる。すなわち、端末2及び所定の対象における互いの位置関係に頼ることなく、それぞれの「通信状態」の比較から「端末対象対応情報」を決定することができるのである。
【0045】
ここで後述するように、基地局1においては、端末2及び所定の対象における互いの「通信状態」だけでなく互いの位置関係にも基づいて、「端末対象対応情報」を決定する実施形態をとることも可能である。しかしながら、いずれにしても基地局1は、互いの位置関係のみに頼ることなく、端末2と所定の対象との対応関係を判定することができるのである。またその結果として、例えば同定対象である端末2の近傍に多数の所定の対象が存在している場合(検出された場合)に、互いの位置の差が微小であるが故に誤った対応関係が決定されてしまうリスクを、それらの「通信状態」を勘案することによって低減することも可能となるのである。
【0046】
なお、本実施形態における基地局1と端末2との間の通信方式には5Gが採用されているが、当然にLTE等、他の通信方式を用いてもよく、また、本発明による端末同定装置と端末との間の通信が、他の様々な無線通信規格に基づくものであってもよい。例えば物体による遮蔽問題が5Gほど顕著ではない通信方式であっても、「環境情報」から検出された対象を用いて、配下の端末を正確に同定したい状況は少なからず発生する。例えば、ある端末と対応関係にあると判定されたユーザの閲覧ページと、当該ユーザの動線との関係を決定してマーケティングや管理に生かす等、端末同定ニーズは多様に存在している。これに対し、本発明による端末同定装置によれば、そのような端末同定処理を高い精度で実施することも可能になるのである。
【0047】
また、本発明による端末同定装置は、基地局等の通信中継装置に限定されるものでもない。例えば、端末同定処理の専用装置として、基地局等の通信中継装置・設備に接続される形で設けられてもよい。また、本発明による端末同定装置として、本発明による端末同定プログラムを搭載した、クラウドサーバ、非クラウドのサーバ装置、パーソナル・コンピュータ(PC)、又はノート型若しくはタブレット型コンピュータ等を用いることも可能である。
【0048】
さらに言えば、本発明による端末同定装置(基地局1)の構成要素である上記(A)~(C)のうちの少なくとも1つが、他の構成要素とは別の装置となっている形態をとることも不可能ではない。例えば、複数のサーバの全体によって上記(A)~(C)の機能を実現することも可能となっている。ここでこのような場合でも、これらの全体をもって、本発明による端末同定方法を実施する端末同定装置又はシステムであると捉えることができるのである。
【0049】
[端末同定装置の機能構成,端末同定プログラム]
同じく
図1の機能ブロック図において、基地局1は、本発明による端末同定装置及び通信中継装置の一実施形態として、通信インタフェース101と、通信履歴情報蓄積部102と、カメラ103と、カメラ画像蓄積部104と、プロセッサ・メモリとを有する。ここで、プロセッサ・メモリは、本発明による端末同定プログラムを包含する通信中継プログラムの一実施形態を保存しており、また、コンピュータ機能を有していて、この通信中継プログラムを実行することによって、端末同定処理及び通信中継処理を実施する。
【0050】
また、プロセッサ・メモリは、機能構成部として、端末位置決定部111aを含む端末通信状態決定部111と、対象位置決定部112aを含む対象通信状態決定部112と、対応関係決定部113と、通信制御部114と、接近対象特定部121と、モデル構築部131と、端末電波情報推定部132とを有する。なお、これらの機能構成部は、プロセッサ・メモリに保存された端末同定プログラム及び通信中継プログラムの機能と捉えることができ、また、
図1の機能ブロック図における基地局1の機能構成部間を矢印で接続して示した処理の流れは、本発明による端末同定方法及び通信中継方法の一実施形態としても理解される。
【0051】
同じく
図1の機能ブロック図において、通信制御部114は、通信インタフェース101と各端末2との間の無線通信動作を制御することにより基地局としての機能を果たし、さらに、各端末2との通信に係る各種情報を取得・記録して当該情報を時系列で整理した通信履歴情報を生成し、通信履歴情報蓄積部102に保存・管理させる。
【0052】
端末通信状態決定部111は、通信履歴情報蓄積部102から通信履歴情報を取得し、この通信履歴情報に基づいて、端末2との間の通信に係る情報である端末通信状態情報を決定する。ここで本実施形態において、この端末通信状態情報は、
(α)端末2との通信接続の有無に係る情報、及び
(β)端末2から受信された電波信号の受信信号電力(RSSI)
のいずれか一方又は両方となっている。
【0053】
このうち上記(α)について、端末通信状態決定部111は、端末2との通信接続が各時点において確立されているか否かの時系列情報、すなわち、時点tにおいて通信が確立されている場合に1、確立されていない場合に-1の値をとる2値の通信接続有無変数:
(1) B_t∈{-1, 1}
の時系列情報を生成してもよい。
【0054】
また上記(β)について、端末通信状態決定部111は、端末2から受信された電波信号の時点tにおける信号電力値を示す受信信号電力変数E_tの時系列情報を生成してもよい。また上述したように、端末通信状態決定部111は、好適な一実施形態として、通信接続有無変数B_tの時系列情報、及び受信信号電力変数E_tの時系列情報の両方を含む端末通信状態情報を決定することも好ましい。
【0055】
以上、端末2の端末通信状態情報の決定処理について説明したが、端末通信状態決定部111の端末位置決定部111aは、後に説明する好適な一実施形態においてではあるが、取得した通信履歴情報に含まれる(又は通信履歴情報から生成される)受信信号電力に基づいて、端末2の位置に係る情報である端末位置情報も決定することも好ましい。ここで具体的には、基地局1での受信信号電力のみならず、
(a)基地局1の周囲に存在する複数の基地局における受信信号電力計測値や、
(b)複数の基地局からの電波を受信した端末2における受信信号電力計測値
を、例えば通信によって取得し利用する周知の基地局測位技術を用いて、端末2の端末位置情報を決定することができるのである。
【0056】
同じく
図1の機能ブロック図において、カメラ103は、例えばCCDイメージセンサやCMOSイメージセンサ等の固体撮像素子を備えた可視光、近赤外線又は赤外線対応の撮影デバイスであってもよく、ステレオカメラ、全天球(全方位)カメラとすることもできる。勿論、カメラ103の代わりに、例えばLiDAR、レーザ・赤外線測位器、TOFカメラ、サーモグラフィデバイスといったような、端末2の存在し得る環境をセンシングし環境情報を生成可能なセンサを採用することも可能である。
【0057】
ここで本実施形態では、カメラ103は、環境情報としてRGB画像及びデプス画像を生成可能なRGB-Dカメラとなっており、生成された環境情報(RGB画像データ及びデプス画像データ)は、カメラ画像蓄積部104で保存・管理される。
【0058】
なお、カメラ103は、本実施形態では基地局1内に設置されているが、例えば基地局1とは離隔した位置に設置されたカメラ、例えば街中の監視カメラであって、基地局1と通信接続されたものであってもよい。また、後に説明するが、基地局1の内外を問わず、カメラ103が、互いに異なる位置に複数設けられている実施形態をとることも可能である。
【0059】
次に、対象通信状態決定部112は、
(ア)カメラ画像蓄積部104から(RGB及びデプス)画像データ(環境情報)であって、「所定の対象」及び/又は通信の障害となり得る「障害対象」を含み得る画像データ(環境情報)を取得し、
(イ)取得した画像データから、「所定の対象」が端末を含むならば当該「所定の対象」との間で具現することになる通信状態に係る情報である「対象通信状態情報」を決定する。
【0060】
ここで、上記(ア)及び(イ)の「所定の対象」は、例えば、
(a)携帯端末を所持した人物(ユーザ)や、
(b)ドライブレコーダ機能、CAN情報転送機能、サーバによる自動運転制御のインタフェース機能等を有する端末2の搭載された自動車、さらには、
(c)サーバによる自律移動制御のインタフェース機能を有する端末2を搭載した自律移動型ロボットや自律飛行型ドローン
といったような、通信履歴情報に係る通信先である端末2を含む可能性のある"人物"や"移動体"とすることができる。また場合によっては、端末2を含む可能性のある"設備”、"施設"、"建造物"、"固定物"等も、「所定の対象」とすることがあり得るのである。
【0061】
なお本実施形態において、1つの画像データから「所定の対象」を検出した場合、当該画像データから検出された他の対象は、当該「所定の対象」については「障害対象」として取り扱われることになる。
【0062】
<「対象通信状態情報」が通信接続可否情報である場合>
また、上記(イ)で決定される「対象通信状態情報」は、
(α’)「所定の対象」との通信接続の可否に係る情報
とすることができる。この場合、対象通信状態決定部112は、取得した画像データから検出された「所定の対象」の検出位置と、「障害対象」が検出された場合には当該「障害対象」の検出位置とに基づき、
(a)「所定の対象」と基地局1(のアンテナ)とを結ぶ直線分を決定し、
(b)「障害対象」が、この直線分上若しくはこの直線分を含む所定領域内に位置しているか否か、又はこの直線分を遮っているか否かの通信接続可否情報(遮蔽有無情報)を算出し、
(c)算出した通信接続可否情報を対象通信状態情報に決定する
ことも好ましい。
【0063】
より具体的には、上記(b)の通信接続可否情報として、いずれかの「障害対象」の検出位置が、ある時点t(=k, k+1, …, k+M)において上記の直線分上に又はこの直線分を回転軸として含む所定の大きさの回転体領域内に位置する場合には-1、そうでない場合には1の値をとるような2値の通信接続可否変数:
(2) B'_t∈{-1, 1}
の時系列情報を生成し、これを対象通信状態情報としてもよい。ここで、上記の回転体領域は、円柱領域であってもよく、または、楕円体のように所定の曲線を回転軸の周りで回転させることにより形成可能なものであってもよい。
【0064】
また変更態様として、対象通信状態決定部112は、「障害対象」に対しその種別(クラス)に応じて所定の大きさ(検出位置での断面積)を予め設定しておき、いずれかの「障害対象」が、その検出位置においてその大きさ(断面積)をもって上記の直線分を遮っている(上記の直線分が「障害対象」の当該断面を貫通している)場合には-1、そうではない場合には1の値をとるような通信接続可否変数として、上記(2)のB'_tを定義してもよい。
【0065】
<「対象通信状態情報」が受信電波強度情報である場合>
さらに、上記(イ)で決定される「対象通信状態情報」は、
(β’)「所定の対象」が端末を含むならば当該「所定の対象」から受信されることになる電波の強度に係る情報
とすることもできる。この場合、対象通信状態決定部112は、取得した画像データから検出された「所定の対象」の検出位置と、「障害対象」が検出された場合には当該「障害対象」の検出位置とに基づき、
(a)「所定の対象」と基地局1(のアンテナ)とを結ぶ直線分を決定し、
(b)「障害対象」が、この直線分を含む所定領域を遮る度合いに係る遮蔽度合情報を算出し、
(c)算出した遮蔽度合情報から、対象通信状態情報として、「所定の対象」が端末2を含むならば当該「所定の対象」から受信されることになる電波の強度に係る情報を決定する
ことも好ましい。ここでより具体的に、上記(b)の遮蔽度合情報は以下のように算出される。
【0066】
最初に、「障害対象」に対しその種別(クラス)に応じて所定の大きさ(所定の面積を有する検出位置での断面領域)を予め設定しておき、さらに、上記の直線分を回転軸として含む所定の大きさの回転体領域を設定した上で、ある時点t(=k, k+1, …, k+M)において、
(b1)いずれの「障害対象」も、その検出位置においてその断面領域の一部が上記の回転体領域内に含まれていない(障害対象の断面領域と回転体領域とが重畳部分を有さない)場合には1の値をとり、一方、
(b2)いずれかの「障害対象」で、その検出位置においてその断面領域の一部が上記の回転体領域内に含まれている(障害対象の断面領域と回転体領域とが重畳部分を有する)場合には、次式
(3) R=(Sa∩Sb
-)/Sa
をもって算出されるR値をとる
ような変数E'_tの時系列情報を遮蔽度合情報とすることができる。ちなみに上記(b1)の場合についても、(R値の算出処理は実行不要ではあるものの)R値が1の場合として結局、上式(3)に含めることができる。
【0067】
ここで、上式(3)において、Saは、上記の回転体領域における「障害対象」の検出位置での(回転軸に垂直な)断面領域を表す集合(例えば当該領域を形成する単位点領域の集合)であり、Sbは、「障害対象」の検出位置での断面領域を表す集合(例えば当該領域を形成する単位点領域の集合)である。また、Sb
-は、Sbの補集合であり、「/」は、分子の集合に係る断面領域の面積値(例えば単位点領域数)を、分母に係る断面領域の面積値(例えば単位点領域数)で割り算することを示す演算子である。
【0068】
次いで、対象通信状態決定部112は、この変数E'_t(又は当該変数E'_tに所定の定数を乗算したもの)の時系列情報を、「所定の対象」が端末2を含むならば当該「所定の対象」から受信されることになる電波の強度に係る情報とし、これを対象通信状態情報とするのである。なお以下、変数E'_tは、上記の受信信号電力変数E_tと区別するため、受信電力相当変数と称することとする。
【0069】
なお、上記のR値をとるような「障害対象」が2つ以上存在する場合、Sbは、これらの「障害対象」の断面領域全体が形成する領域、すなわちこれらの断面領域の和集合として表される領域としてもよい。さらに、上記の回転体領域は、円柱領域であってもよく、または、楕円体のように所定の曲線を回転軸の周りで回転させることにより形成可能なものであってもよい。
【0070】
さらに変更態様として、対象通信状態決定部112は、入力された画像データに応じ、受信される電波の強度に係る情報を出力する学習済みの「対象電波情報推定モデル」を用いて、取得した画像データから、「所定の対象」が端末2を含むならば当該「所定の対象」から受信されることになる電波の強度に係る情報を導出し、当該電波の強度に係る情報を、対象通信状態情報に決定してもよい。
【0071】
ここで、上記の「対象電波情報推定モデル」としては、非特許文献1に開示されたような公知の機械学習モデルを採用することができる。具体的には、ある時点t(=k, k+1, …, k+M)における画像データをこのモデルへ入力して、受信信号電力の推定値を出力させ、この推定値を受信電力相当変数E'_t値として、この受信電力相当変数E'_tの時系列情報を、対象通信状態情報とするのである。
【0072】
以上、「対象通信状態情報」を、
(α’)通信接続可否情報(通信接続可否変数B'_tの時系列情報)とする場合、及び
(β’)受信電波強度情報(受信電力相当変数E'_tの時系列情報)とする場合
の処理を説明した。ここで、これらの処理中で実施されている、画像データから対象を検出する処理としては、例えば、各種画像認識用として周知の機械学習アルゴリズムに基づき対象検出用のモデルを構築し、当該モデルを用いて、画像データ内における対象が存在すると推定される検出領域(例えばbounding box)を特定し、さらに、当該検出領域が対象である確からしさを示すスコアも算出して、所定条件を満たすだけの高いスコアを有する検出領域を対象領域に決定する、といったような周知の画像認識処理が採用可能である。また、対象の検出位置は、この決定された対象領域の代表点(例えば重心や下端中点等)とすることができるのである。
【0073】
ちなみに、カメラ103としてステレオカメラを採用する場合、生成された環境情報であるステレオカメラ画像データに対し、例えば、非特許文献:Wei Liu, Dragomir Anguelov, Dumitru Erhan, Christian Szegedy, Scott Reed, Cheng-Yang Fu, Alexander C. Berg, “SSD: single shot multibox detector”, European Conference on Computer Vision, Computer Vision-ECCV 2016, 21~37頁, 2016年に記載された物体検出器を適用することによって、対象領域及び検出位置を決定することが可能となっている。
【0074】
また、カメラ103に代わりにLiDARを本発明に係るセンサとして用いる場合、生成された環境情報であるポイントクラウド(点群)に対しては、例えば、Charles R. Qi, Hao Su, Kaichun Mo, Leonidas J. Guibas, “PointNet: Deep Learning on Point Sets for 3D Classification and Segmentation”, Journal of 2017 IEEE Conference on Computer Vision and Pattern Recognition (CVPR), 77~85頁, 2016年に記載された物体検出器を用いることによって、対象領域及び検出位置を決定することができる。
【0075】
さらに、対象通信状態決定部112は、環境情報から所定の対象が検出されない場合、すなわち1つの所定の対象も計測(センシング)されない場合や、計測されてはいるがノイズ等の影響により検出されない場合は、当該環境情報について対象通信状態決定処理を終了することも好ましい。
【0076】
また、対象通信状態決定部112の対象位置決定部112aは、上述したように、検出した対象の位置(検出位置)を決定することができるが、本実施形態ではさらに、検出した対象毎に、当該対象を各時点における検出位置に対応付けた上で、当該対象の位置の時系列情報(移動履歴情報)を生成する。これにより、検出した各対象を個別に追跡することも可能となる。
【0077】
ここでこのような対象追跡処理については、決定した対象領域(bounding box)に対し、例えば周知の状態推定手法であるカルマンフィルタを適用して、過去の時点での状態から現時点における対象の検出領域(bounding box)を予測し、この予測した検出領域(bounding box)と、現時点で検出された検出領域(bounding box)との重畳面積を評価値として、当該評価値に基づき対象領域を決定していくことも好ましい。ちなみにこのような対象追跡処理は、例えば非特許文献:Alex Bewley, Zongyuan Ge, Lionel Ott, Fabio Ramos, Ben Upcroft, “Simple Online and Realtime Tracking”, Journal of 2016 IEEE International Conference on Image Processing (ICIP), 3464~3468頁, 2016年に記載されている。
【0078】
さらに、他の実施形態として、カメラ103又は上述したようなカメラ以外のセンサが、基地局1の内外を問わず、互いに異なる位置に複数設けられている場合において、対象通信状態決定部112は、
(a)これら複数のカメラ103(又はセンサ)のそれぞれから複数の環境情報を取得し、
(b)これら複数の環境情報のそれぞれから対象通信状態情報を決定し、
(c)決定した対象通信状態情報のうちで、
(c1)当該対象通信状態情報に係る対象の検出位置が所定以上に近いもの(例えば互いの距離が所定閾値未満であるもの)同士について、及び/又は、
(c2)当該対象通信状態情報に係る対象の検出領域(bounding box)の画像特徴量が所定以上に類似しているもの(例えば画像特徴量空間における互いの距離が所定閾値未満であるもの)同士について、
それらの対象通信状態情報は、同一の対象に係るものとすることも好ましい。またこの場合、それらの対象通信状態情報に係る対象についての検出位置群の代表値(例えば平均値)を、当該同一の対象の位置として取り扱ってもよい。
【0079】
これにより、ある端末2が、取得された環境情報の中に含まれず、結果的に当該端末2の同定処理に失敗してしまうといった事態を回避することも可能となるのである。例えば、1つのカメラ103(又はセンサ)による環境情報については、ある対象が他の対象の裏に位置し、この他の対象に遮蔽されてしまって、当該環境情報に含まれない(撮像されない)状況も少なからず発生してしまう。例えば、1つのカメラ103からすると、端末2を所持した人物が停車中のバスに遮られて見えなくなる、といったことも十分に起こり得るのである。
【0080】
これに対し、互いに設置位置の異なる複数のカメラ103(又はセンサ)による環境情報を用いれば、ある環境情報には含まれていない対象も、センシング(計測)の視点が異なる他の環境情報に含まれることになり、その結果、上記の懸念される事態を回避することも十分に可能となるである。
【0081】
ちなみに、以上に述べたような複数のカメラ103(又はセンサ)に係る対象通信状態情報を利用する典型例として、基地局1が、自らの周囲に存在する他の1つ以上の基地局1の各々から、当該基地局1に設置されたカメラ103(又はセンサ)によって生成された対象通信状態情報を受信・取得して、上記の同一対象判定処理を実施することが挙げられる。この場合、複数の基地局1が連携して、本発明に係る端末同定処理をより好適に実施することも可能となるのである。
【0082】
同じく
図1の機能ブロック図において、対応関係決定部113は、
(a)端末通信状態決定部111で決定された端末通信状態情報、本実施形態では通信接続有無変数B_tの時系列情報、又は受信信号電力変数E_tの時系列情報と、
(b)対象通信状態決定部112で決定された対象通信状態情報、本実施形態では通信接続可否変数B'_tの時系列情報、又は受信電力相当変数E'_tの時系列情報と
が対応する度合いである対応度Cを算出し、この対応度Cに基づいて、上記(a)の端末通信状態情報に係る端末2と、上記(b)の対象通信状態情報に係る所定の対象とが対応関係にあるか否かを判定し、端末2と所定の対象との対応関係に係る情報である端末対象対応情報を決定する。
【0083】
ここで本実施形態では、上記の対応度Cは、
(α)所定時間区間(t=k~k+Mの時間区間)の各時点tにおける通信接続有無変数B_tと、通信接続可否変数B'_tとの相互相関として、次式
(4) C=Σt=k
k+MB_t*B'_t
を用いて算出してもよく、または、
(β)所定時間区間(t=k~k+Mの時間区間)の各時点tにおける受信信号電力変数E_tと、受信電力相当変数E'_tとの相互相関として、次式
(5) C=Σt=k
k+ME_t*E'_t
を用いて算出することもできる。ここで上式(4)及び(5)において、Σt=k
k+Mは、時点t(=k, k+1, …, k+M)についての総和(summation)を示す演算子である。
【0084】
対応関係決定部113は次いで、算出した対応度Cが所定の閾値C_thを超える場合(C>C_thである場合)、(当該所定時間区間において)当該端末2と当該検出された所定の対象とが対応関係にあると判定し、例えば、当該端末2の端末IDと、当該所定の対象の対象IDとを対応付けて記録した端末対象対応情報を決定するのである。なお、この閾値C_thは、例えば管理者によって経験的に好適な値に設定されてもよい。
【0085】
また変更態様として、対応関係決定部113は、全ての端末2と、全ての検出された所定の対象との間で生成される全ての組について対応度Cを算出し、その中で最適な結果(対応関係)を与える組を解として選択する貪欲法(greedy algorithm)によって、端末2と所定の対象との間の対応関係を判定し、端末対象対応情報を決定することも好ましい。
【0086】
図2は、端末通信状態決定部111、対象通信状態決定部112、及び対応関係決定部113での処理の一実施形態を説明するための模式図である。
【0087】
図2に示した実施形態では、自動車に搭載されて移動している端末2は、基地局1との間で通信接続を確立しており、基地局1は、この端末2との通信に係る通信履歴情報を生成している。ここで、基地局1の端末通信状態決定部111は、生成されたこの通信履歴情報に基づき、各時点tにおいて、端末2の端末ID(
図2では003)と当該端末2から受信された電波信号の受信信号電力値とを対応付けて記録したレコードを含む受信信号電力テーブルを生成し、さらに、このテーブルから、端末2についての受信信号電力情報、すなわち受信信号電力変数E_tの時系列情報を生成する。
【0088】
一方、端末2を搭載した自動車は、その移動状態を含め基地局1のカメラ103によって撮影されている。基地局1の対象通信状態決定部112は、この自動車を含む環境情報として、この自動車を撮像した画像データを取得して、当該画像データに対し、所定の対象及び障害対象として予め設定されていた"自動車"の検出処理を実施し、端末2を搭載した自動車や、周囲を走行している他の(障害対象としての)自動車の各々における検出位置の時系列情報を生成する。
【0089】
ここで
図2では、端末2を搭載した自動車には対象IDとして008が付与され、また、障害対象として検出されたバス(自動車)には対象IDとして905が付与されて、これらの対象IDの下、これらの自動車の追跡処理が行われるのである。なお以下、対象IDが008である自動車(以下、自動車008と略称)を所定の対象(端末2を含む可能性のある対象)として対象通信状態情報を生成するが、勿論、対象IDが905であるバス(以下、バス905と略称)を所定の対象とすることも可能である。この場合は、自動車008が、障害対象として取り扱われることになる。
【0090】
次いで、対象通信状態決定部112は、
(a)所定の対象である自動車008と、基地局1(のアンテナ)とを結ぶ直線分を決定し、
(b)障害対象であるバス905が「決定した直線分を軸とする円柱領域」を遮る度合いに係る上式(3)のR値を算出し、算出されたR値を受信電力相当変数E'_t値として、自動車008についての受信電力相当変数E'_tの時系列情報を生成する。
【0091】
この後、基地局1の対応関係決定部113は、端末2について生成された受信信号電力変数E_tの時系列情報と、自動車008について生成された受信電力相当変数E'_tの時系列情報との相互相関に相当する上式(5)の対応度C(E_t,E'_t)を決定する。対応関係決定部113は次いで、決定した対応度C(E_t,E'_t)が所定の閾値C_thを超える場合(C>C_thである場合)、端末2と自動車008(所定の対象)とが対応関係にあると判定し、最後に、端末2の端末ID(003)と、自動車008の対象ID(008)とを対応付けて記録したレコードを含む端末対象対応テーブル(端末対象対応情報)を生成するのである。
【0092】
このように、本実施形態の基地局1によれば、端末2と、端末2の存在し得る環境に存在する所定の対象(
図2では自動車008)との対応関係を、端末2及び所定の対象についての受信電波の強度に係る情報(通信状態)を互いに比較することによって、決定可能となっている。すなわち、端末2及び所定の対象における互いの位置関係に頼ることなく、それぞれの通信状態の比較から端末対象対応情報を決定することができ、特に、端末2が移動し得る端末であっても、その同定処理をより確実に実施することができるのである。
【0093】
以上、
図2を用いて端末同定処理の一実施形態を説明したが、この実施形態では、端末2及び所定の対象の対応度C(E_t,E'_t)(以下、電波強度対応度とも称する)に基づいて両者の対応関係を判定している。これに対し勿論、上述した通信接続有無変数B_tと通信接続可否変数B'_tとの相互相関として算出される上式(4)の対応度C(B_t,B'_t)(以下、通信接続対応度とも称する)に基づいて、両者の対応関係を判定してもよい。
【0094】
またさらに、他の好適な実施形態として、端末2及び所定の対象について、端末通信状態情報に、通信接続有無変数B_tの時系列情報も受信信号電力変数E_tの時系列情報も含め、さらに、対象通信状態情報に、通信接続可否変数B'_tの時系列情報も受信電力相当変数E'_tの時系列情報も含めて、通信接続対応度C(B_t,B'_t)及び電波強度対応度C(E_t,E'_t)を算出した上で、対応関係決定部113(
図1)は、
(a)通信接続対応度C(B_t,B'_t)及び電波強度対応度C(E_t,E'_t)のうち、両方が、若しくはいずれか一方が、所定の閾値C_th以上である場合に、又は、
(b)通信接続対応度C(B_t,B'_t)及び電波強度対応度C(E_t,E'_t)の和若しくは重み付けした和が、所定値以上である場合に、
端末2と検出された所定の対象とが対応関係にあるとの判定を行ってもよい。
【0095】
このように、互いに異なる通信状態について算出された2つの対応度Cを統合して端末2の同定処理を行う実施形態では、通信状態に関し互いに異なる手法によって多角的に対応関係を推定することになり、その結果、様々な通信環境下においても、端末2の同定処理の精度が維持される又は向上するのである。
【0096】
またさらに、他の好適な実施形態として、対応関係決定部113(
図1)は、
(a)端末通信状態決定部111の端末位置決定部111a(
図1)で決定された端末位置情報と、
(b)対象通信状態決定部112の対象位置決定部112a(
図1)で決定された対象位置情報と
が一致する度合いである位置対応度(位置一致度合い)LCを算出し、上述した通信状態の対応度(通信接続対応度及び/又は電波強度対応度)Cのみならず、位置対応度LCにも基づいて、端末2と検出された所定の対象とが対応関係にあるか否かを判定することも好ましい。
【0097】
ここで、位置対応度LCは、例えば、所定時間区間の各時点における端末2の位置と所定の対象の位置との差の絶対値(距離)の逆数についての、当該所定時間区間での代表値(例えば平均値)とすることができる。また、対応関係決定部113は、例えば、
(a)通信状態の対応度C(通信接続対応度C(B_t,B'_t)及び/又は電波強度対応度C(E_t,E'_t))が、所定の閾値C_thを超え(C>C_thであり)、且つ
(b)位置対応度LCが所定の閾値LC_thを超える(LC>LC_thである)場合に、
端末2と検出された所定の対象とが対応関係にあるとの判定を行うことも好ましい。なお上記(a)において、通信状態の対応度CとしてC(B_t,B'_t)及びC(E_t,E'_t)の両方が採用される場合は、いずれもが所定の閾値C_thを超えることが条件となる。
【0098】
このように、位置対応度LCも勘案して端末2の同定処理を実施することによって、より確度の高い(端末2と所定の対象との)対応関係を決定することも可能となるのである。
【0099】
さらに、通信状態の対応度Cに関する他の好適な実施形態を説明する。この実施形態では、基地局1の周囲には少なくとも1つの基地局1が存在しており、各基地局1は、自らのカメラ103による環境情報から対象通信状態情報(通信接続可否変数B'_t及び/又は受信電力相当変数E'_tの時系列情報)を決定し、さらに、この自ら決定した対象通信状態情報を互いにやり取り可能となっている。
【0100】
ここで、対象通信状態決定部111(
図1)は、周囲の基地局1で決定された対象通信状態情報(B'_t及び/又はE'_tの時系列情報)を取得し、さらに、対応関係決定部113(
図1)は、このように取得された対象通信状態情報と、決定された端末通信状態情報(通信接続有無変数B_t及び/又は受信信号電力変数E_tの時系列情報)との対応度(通信接続対応度及び/又は電波強度対応度)C'も算出し、自ら決定した対象通信状態情報の対応度Cだけでなく、この対応度C'にも基づいて、端末2と所定の対象とが対応関係にあるか否かを判定することも好ましい。
【0101】
なおこの場合、既に説明したような、基地局1が複数のカメラ103と接続されている実施形態において実施される端末同定処理と同様の端末同定処理を実施することができる。またこれにより、ある端末2が、自らのカメラ103による環境情報の中に含まれず、結果的に基地局1が当該端末2の同定処理に失敗してしまう、といった事態を回避することも可能となるのである。
【0102】
[端末同定処理の応用例]
以下、以上に説明した端末同定処理の一応用例を説明する。
【0103】
図1の機能ブロック図において、接近対象特定部121は、通信エリア環境内に、移動し得る複数の端末2が存在する状況において、対象通信状態決定部112で検出された(所定の対象以外の対象、すなわち障害対象も含む)複数の対象の検出位置に基づいて、お互いが後に所定以上に接近すると推定される複数の対象を特定する。
【0104】
例えば、接近対象特定部121は、検出された各対象における現時点での検出位置と、当該検出位置の過去の時間変化から算出された速度ベクトルとに基づいて、所定時間経過後の将来時点における各対象の位置を推定し、当該将来時点における互いの距離が所定閾値以下となる対象を、接近対象群として特定することも好ましい。
【0105】
この場合、通信制御部114は、接近対象特定部121において特定された複数の対象の情報を受け、対応関係決定部113によってこれらの複数の対象のうちのいずれかと対応関係にあると判定された(少なくとも1つの)端末2を特定し、特定した端末2のうちの少なくとも1つに宛てて、所定以上に接近すると推定されることに係る情報、例えば接近・衝突アラームや出会い・遭遇予報等を(通信インタフェース101から)送信させるのである。
【0106】
図3は、本発明による端末同定方法の一応用例を説明するための模式図である。
【0107】
図3の応用例によれば、基地局1は、5Gをもって通信接続された自動車(やロボット等)を遠隔監視している。具体的に基地局1は、端末IDが001である端末2_001、及び端末IDが002である端末2_002と通信接続しており、さらに、この基地局1の対応関係決定部113は、
(a)端末2_001と、対象IDが002である検出された自動車3_002とが、対応関係にあり(すなわち端末2_001は、自動車3_002に搭載されており)、
(b)端末2_002と、対象IDが003である検出された自動車3_003とが、対応関係にある(すなわち端末2_002は、自動車3_003に搭載されている)、
ことを決定し、その旨を記録した端末対象対応テーブルを生成している。
【0108】
一方、接近対象特定部121は、自動車3_003と、対象IDが001である走行者4_001とを、1つの接近対象群の要素として特定しており、自動車3_003及び走行者4_001を1つの接近対象群に含める旨の情報である接近対象群情報を通信制御部114へ出力している。なお本応用例では、走行者4_001は、道路沿いに立ったビルが障害となって、自動車3_003に搭載されたセンサによっては認識できない状況にある。
【0109】
このような状況において、通信制御部114は、
(a)この接近対象群情報に基づき、取得した上記の端末対象対応テーブルから、接近アラーム通知先として、接近対象群に含まれている自動車3_003と対応関係を有する端末2_002を決定し、
(b)「(同じく接近対象群に含まれている)走行者4_001が接近している」旨のアラーム情報を、通知先として決定した端末2_002宛てに送信させるのである。
【0110】
また、接近対象特定部121は、このアラーム情報に合わせ、走行者4_001の検出位置情報も端末2_002へ送信し、走行者4_001の現在位置(及びその動線)を、端末2の画面上の道路マップに強調表示させることも好ましい。
【0111】
以上説明したような処理を実施することによって、例えば、運転者による安全運転や人物の安全な歩行・走行を促し、自動車等の移動体による衝突事故の防止を図ることもできる。特に、ある自動車にとっての危険な状況であって、しかしながらその車載センサ(カメラ)によっては検知・予測できない危険な状況を、同定済みの端末2を介し、まさに当事者であるこの自動車へ通知することも可能となるのである。
【0112】
[通信中継処理,通信中継プログラム]
以上、端末2の同定処理に係る様々な実施形態を説明したが、以下、
図1の機能ブロック図と
図4とを用い、このような同定処理を用いて実現する、基地局1における通信中継処理の一実施形態を説明する。なお、
図4は、この後に述べるモデル構築部131及び端末電波情報推定部132における処理の一実施形態を説明するための模式図となっている。
【0113】
図1の機能ブロック図において、モデル構築部131は、端末電波情報推定用の学習モデルを構築する。具体的に本実施形態では、モデル構築部131は、
図4(A)に示したように、
(a)カメラ103によって生成された(端末2に係る対象や電波障害物となり得る対象を含み得る)時系列画像データ(環境情報)と、
(b)この時系列画像データから検出された所定の対象に係る情報、例えば当該対象の検出位置に係る情報(対象位置情報)と
を含む学習データであって、
(c)対応関係決定部113においてこの所定の対象と対応関係にあると判定された端末2に係る(上記(a)の環境情報の各時点における又は代表時点における)受信電波情報、例えば受信信号電力
を正解データとした学習データを生成し、当該学習データによって、画像認識分野で周知の機械学習アルゴリズム(例えば、ニューラルネットワーク・アルゴリズムであって複数の畳み込み層部(Convolutional Layers)と、それらの出力を取りまとめる全結合層部(Fully-Connected Layers)との組合せ)を用いて、端末電波情報推定モデルを構築するのである。
【0114】
ここで、既に詳細に説明したように、非特許文献1に開示されたような従来の機械学習モデルでは、例えばカメラで生成された時系列の環境情報から検出された物体が、この機械学習モデルによって予測された受信信号電力に係る端末に対応するものであるか否かは確定できない状況となっている。
【0115】
これに対し、モデル構築部131で構築された端末電波情報推定モデルは、正解データとしての受信電波情報にまさに対応付けられた(対応関係にあると判定された)対象に係る情報、例えば対象位置情報を、学習データに含めて構築されている。したがって、この端末電波情報推定モデルによって予測された受信電波情報、例えば受信信号電力は、当該受信電波情報に係る端末2の同定先として決定された所定の対象についての予測値と解釈することができる。すなわち、本端末電波情報推定モデルによる受信電波情報の推定処理は、従来の機械学習モデルによる推定処理における対応対象の確実な特定という未解決課題を、確実に解決するのである。
【0116】
次いで、端末電波情報推定部132は、モデル構築部131で構築された端末電波情報推定モデルを用いて、端末2の受信電波情報、例えば受信信号電力を推定する。具体的に本実施形態では、端末電波情報推定部132は、
図4(B)に示したように、
(a)カメラ103によって生成された、推定対象である端末2を含み電波障害物となり得る対象も含み得る時系列画像データ(環境情報)と、
(b)この時系列画像データから検出された所定の対象であって、推定対象である端末2と対応関係にあると判定された所定の対象の対象位置情報と
を端末電波情報推定モデルへの入力とし、この入力によって端末電波情報推定モデルから出力された(推定情報としての)受信信号電力に基づいて、推定対象である端末2の(推定時点若しくは時間区間における)受信信号電力の予測値を決定する。
【0117】
最後に、(上述したように高い推定精度を有する)端末2の受信信号電力の予測値を取得した通信制御部114(
図1)は、この予測値に基づいて、端末2(又は当該端末2と対応する所定の対象)の通信経路を切り替えるか否かの判断を行う。例えば、所定の将来時点若しくは時間区間における当該予測値が所定の電力閾値以下である場合、この端末2との通信を、他の隣接する基地局1に手渡してもよい。
【0118】
ここで、他の隣接する基地局1においても、同じ端末2における受信信号電力の予測値を決定しておき、当該基地局1の間で当該予測値を共有して最も大きな予測値を特定し、この特定した最大予測値を決定した基地局1へ通信経路を切り替えることも好ましい。
【0119】
以上のように、本実施形態の基地局1によれば、端末同定処理結果を利用して構築した端末電波情報推定モデルを使用することによって、5Gで大きな問題となる通信路遮蔽物による通信障害の問題、特に、移動している遮蔽物による一時的な通信障害の問題を、確実に解決可能な通信中継処理を実施することが可能となるのである。
【0120】
以上詳細に説明したように、本発明によれば、端末と、端末の存在し得る環境に存在する対象との対応関係を、それぞれの「通信状態」を互いに比較することによって、決定することが可能となる。すなわち、端末及び対象における互いの位置関係に又は当該位置関係のみに頼ることなく、それぞれの「通信状態」の比較から端末対象対応情報を決定することができるのである。
【0121】
また、このような本発明による端末同定処理は、来る5Gにおける通信路遮蔽物による通信障害の問題を解決したり、端末を搭載した自動車に対して人物や他車等の接近を通知・警告したり、さらには、ある端末と対応関係にあると判定されたユーザの閲覧ページと、当該ユーザの動線との関係を決定してマーケティングや管理に生かしたり等、様々な状況・分野において応用することが可能となっている。
【0122】
以上に述べた本発明の種々の実施形態において、本発明の技術思想及び見地の範囲の種々の変更、修正及び省略は、当業者によれば容易に行うことができる。前述の説明はあくまで例であって、何ら制約しようとするものではない。本発明は、特許請求の範囲及びその均等物として限定するものにのみ制約される。
【符号の説明】
【0123】
1 基地局(端末同定装置、通信中継装置)
101 通信インタフェース
102 通信履歴情報蓄積部
103 カメラ
104 カメラ画像蓄積部
111 端末通信状態決定部
111a 端末位置決定部
112 対象通信状態決定部
112a 対象位置決定部
113 対応関係決定部
114 通信制御部
121 接近対象特定部
131 モデル構築部
132 端末電波情報推定部
2、2_001、2_002 端末
3_002、3_003 自動車
4_001 走行者