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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-13
(45)【発行日】2022-12-21
(54)【発明の名称】作業車輌
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/46 20100101AFI20221214BHJP
   F16H 59/40 20060101ALI20221214BHJP
   F16H 47/04 20060101ALI20221214BHJP
   B60K 17/10 20060101ALI20221214BHJP
【FI】
F16H61/46
F16H59/40
F16H47/04 A
B60K17/10 D
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018203737
(22)【出願日】2018-10-30
(65)【公開番号】P2020070835
(43)【公開日】2020-05-07
【審査請求日】2021-04-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000125853
【氏名又は名称】株式会社 神崎高級工機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001597
【氏名又は名称】特許業務法人アローレインターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】岩木 浩二
(72)【発明者】
【氏名】小和田 七洋
(72)【発明者】
【氏名】笹原 謙悟
【審査官】西藤 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-318471(JP,A)
【文献】特開2008-180256(JP,A)
【文献】特開2000-351332(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 61/40-61/478
F16H 59/40
F16H 47/00-47/04
B60K 17/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源と、駆動輪と、前記駆動輪へ向けて回転動力を出力する変速出力軸と、前記駆動源からの回転動力を変速して前記変速出力軸に作動伝達する主変速構造と、変速操作部材と、前記変速出力軸の回転速度を直接又は間接的に検出する出力センサと、前記主変速構造の作動制御を司る制御装置とを備えた作業車輌であって、
前記主変速構造は、前記駆動源から作動的に入力される回転動力を無段変速する無段変速構造と、少なくとも第1変速比の第1伝動状態及び第1変速比より高速の第2変速比の第2伝動状態の切替が可能とされた多段変速構造とを備え、
前記無段変速構造は、前記駆動源からポンプ軸に作動的に入力される回転動力を出力調整部材の作動位置に応じて少なくとも第1HST速及び第2HST速の間で無段変速してモータ軸から出力するHSTと、第1~第3要素を有し、前記駆動源及び前記HSTから前記第1及び第3要素にそれぞれ作動的に入力される回転動力を合成し、合成回転動力を前記無段変速構造の出力として前記第2要素から出力する遊星歯車機構とを含み、
前記主変速構造は、さらに、前記モータ軸の回転動力を前記変速出力軸へ作動伝達可能なHST用伝動機構と、前記HST用伝動機構の動力伝達を係脱させるHST用クラッチ機構とを備えており、
前記制御装置は、前記出力センサの検出信号に基づき、
前記変速出力軸の回転速度が作業速範囲を越える速度に設定された切替速よりも低速の初速に到達するまでの状態においては、第1及び第2伝動状態を解除させて前記HST用クラッチ機構を係合させるHST伝動状態を現出させつつ、前記変速操作部材の前進側への増速操作に応じてHST出力を第1HST速から第2HST速へ向けて変速させ、
前記変速出力軸の回転速度が初速から切替速に達するまでの低速状態においてはHST伝動状態を解除させて前記多段変速構造を第1伝動状態としつつ前記変速操作部材の前進方向への増速操作に応じてHST出力を第2HST速から第1HST速へ向けて変速させて前記第2要素の出力を前進側へ増速させ、
前記変速出力軸の回転速度が切替速に達すると前記多段変速構造を第1伝動状態から第2伝動状態に変速させつつ、HST出力が切替時点でのHST回転速から第2HST速の側へ向けて、前記第2要素の出力を第2伝動状態基準速とさせる第2伝動状態基準HST速まで変速させ、
前記変速出力軸の回転速度が切替速以上の高速状態においては前記多段変速構造を第2伝動状態としつつ前記変速操作部材の前進側への増速操作に応じてHST出力が第2伝動状態基準HST速から第1HST速へ向けて変速するように前記出力調整部材を作動させることで前記第2要素の出力を第2伝動状態基準速から前進側へ増速させるように構成されており、
前記遊星歯車機構は、HST出力が第2HST速の側から第1HST速の側へ変速されるに従って、前記第2要素から出力する合成回転動力が増速されるように構成されていることを特徴とする作業車輌。
【請求項2】
HST伝動状態及び第1伝動状態の切替時において前記変速出力軸の回転速度に速度差が生じないように、前記HST、前記遊星歯車機構、前記HST用伝動機構及び前記多段変速構造が構成されていることを特徴とする請求項1に記載の作業車輌。
【請求項3】
第1HST速のHST出力は後進走行用の逆転側回転動力とされ、第2HST速のHST出力は前進走行用の正転側回転動力とされ、前記HSTは、第1及び第2HST速の間の中立速を挟んで正逆双方向の回転動力を出力可能とされており、
前記主変速構造は、さらに、前記第2要素の回転動力を前記変速出力軸へ後進回転動力として作動伝達可能な後進伝動機構と、前記後進伝動機構の動力伝達を係脱させる後進クラッチ機構とを有し、
前記制御装置は、前記変速出力軸の回転速度が後進側切替速に達するまでの状態においてはHST伝動状態を現出させ、前記変速出力軸の回転速度が後進側切替速以上となるとHST伝動状態を解除し且つ前記後進クラッチ機構を係合させて、前記第2要素の回転動力を前記後進伝動機構を介して前記変速出力軸に作動伝達する後進伝動状態を現出させる一方で、HST伝動状態においては、前記変速操作部材のゼロ速位置への操作に応じてHST出力が中立速となり、前記変速操作部材のゼロ速位置から後進側への増速操作に応じてHST出力が中立速から第1HST速へ向けて変速し、HST伝動状態から後進伝動状態への切替時には、HST出力が切替時点での回転速度から第2HST速の側へ所定速だけ変速し、後進伝動状態においては、前記変速操作部材の後進側への増速操作に応じてHST出力が第1HST速へ向けて変速するように前記出力調整部材を作動させることを特徴とする請求項又はに記載の作業車輌。
【請求項4】
前記制御装置は、HST伝動状態から後進伝動状態への切替時に、HST出力が後進伝動状態基準HST速となるように前記出力調整部材を作動させ、
後進伝動状態基準HST速は、前記変速出力軸の回転速度がHST伝動状態においてHST出力が第1HST速とされた際と後進伝動状態においてHST出力が後進伝動状態基準HST速とされた際とで一致するように設定されていることを特徴とする請求項に記載の作業車輌。
【請求項5】
駆動源と、駆動輪と、前記駆動輪へ向けて回転動力を出力する変速出力軸と、前記駆動源からの回転動力を変速して前記変速出力軸に作動伝達する主変速構造と、変速操作部材と、前記変速出力軸の回転速度を直接又は間接的に検出する出力センサと、前記主変速構造の作動制御を司る制御装置とを備えた作業車輌であって、
前記主変速構造は、前記駆動源から作動的に入力される回転動力を無段変速する無段変速構造と、少なくとも第1変速比の第1伝動状態及び第1変速比より高速の第2変速比の第2伝動状態の切替が可能とされた多段変速構造とを備え、
前記無段変速構造は、前記駆動源からポンプ軸に作動的に入力される回転動力を出力調整部材の作動位置に応じて少なくとも第1HST速及び第2HST速の間で無段変速してモータ軸から出力するHSTと、第1~第3要素を有し、前記駆動源及び前記HSTから前記第1及び第3要素にそれぞれ作動的に入力される回転動力を合成し、合成回転動力を前記無段変速構造の出力として前記第2要素から出力する遊星歯車機構とを含み、
前記主変速構造は、さらに、前記第2要素の回転動力を前記変速出力軸へ後進回転動力として作動伝達可能な後進伝動機構と、前記後進伝動機構の動力伝達を係脱させる後進クラッチ機構とを有し、
前記HST及び前記遊星歯車機構によって形成されるHMT構造は、HST出力が第1HST速とされた際に第2要素から出力されるHMT出力がゼロ速とされ、HST出力が第1HST速から第2HST速へ変速されるに従って増速されるように構成され、
前記制御装置は、前記出力センサの検出信号に基づき、
前記変速出力軸の回転速度が作業速範囲を越える速度に設定された切替速に達するまでの低速状態においては前記多段変速構造を第1伝動状態としつつ、前記変速操作部材の前進方向への増速操作に応じてHMT出力を前進側へ増速させ、
前記変速出力軸の回転速度が切替速に達すると前記多段変速構造を第1伝動状態から第2伝動状態に変速させ且つHMT出力を第2伝動状態基準速まで減速させ、
前記変速出力軸の回転速度が切替速以上の高速状態においては前記多段変速構造を第2伝動状態としつつ、前記変速操作部材の前進側への増速操作に応じてHMT出力を第2伝動状態基準速から前進側へ増速させるように構成されており、
前記制御装置は、さらに、前記変速操作部材がゼロ速位置から後進側へ操作されると前記第1伝動状態を解除し、前記後進クラッチ機構を係合させて前記第2要素の回転動力を前記後進伝動機構を介して前記変速出力軸に作動伝達する後進伝動状態を現出させる一方で、前記変速操作部材のゼロ速位置への操作に応じてHST出力が第1HST速となり、前記変速操作部材のゼロ速位置から前進側及び後進側への増速操作に応じてHST出力が第1HST速から第2HST速へ増速するように、前記出力調整部材を作動させ、
第1伝動状態においてHST出力が第2HST速とされた際に前記変速出力軸の回転速度が切替速に到達するように構成されていることを特徴とする作業車輌。
【請求項6】
第2伝動状態基準速は、第1伝動状態から第2伝動状態への切替前後において前記変速出力軸の回転速度に変化が生じない速度に設定されていることを特徴とする請求項1からの何れかに記載の作業車輌。
【請求項7】
前記遊星歯車機構のキャリヤ、インターナルギヤ及びサンギヤが、それぞれ、前記第1、第2及び第3要素を形成していることを特徴とする請求項からの何れかに記載の作業車輌。
【請求項8】
前記変速出力軸より伝動方向下流側に配置された副変速構造を備えていることを特徴とする請求項1から7の何れかに記載の作業車輌。
【請求項9】
前記多段変速構造は、前記無段変速構造から作動的に入力される回転動力を第1変速比及び第2変速比で前記変速出力軸にそれぞれ作動伝達可能な第1及び第2伝動機構と、前記第1及び第2伝動機構の動力伝達をそれぞれ係脱させる第1及び第2クラッチ機構とを有し、前記第1クラッチ機構が係合され且つ前記第2クラッチ機構が遮断されることで第1伝動状態を現出し、前記第1クラッチ機構が遮断され且つ前記第2クラッチ機構が係合されることで第2伝動状態を現出することを特徴とする請求項1から8の何れかに記載の作業車輌。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行系伝動経路に無段変速構造及び多段変速構造が直列配置された作業車輌に関する。
【背景技術】
【0002】
走行系伝動経路に、静油圧式無段変速機構(HST)及び遊星歯車機構によって形成される静油圧・機械式無段変速構造(HMT構造)を含む無段変速構造と、複数の変速段を有する多段変速構造とが直列配置された作業車輌が提案されている(例えば、下記特許文献1参照)。
斯かる構成の作業車輌は、無段変速可能な車速範囲を拡大できる点において有用である。
【0003】
前記特許文献1に記載の作業車輌は、さらに、前記多段変速構造の変速動作時における車速変化を抑える為にロックアップ機構を備えている。
【0004】
詳しくは、前記HSTは、駆動源から回転動力を入力するポンプと、前記ポンプによって流体的に駆動されるモータと、前記ポンプ及び前記モータの少なくとも一方(例えばポンプ)の容積を変更する出力調整部材とを有しており、前記出力調整部材は人為操作される変速操作部材の操作量に応じて作動し、これに応じて前記モータの回転速度が無段変速するようになっている。
【0005】
前記遊星歯車機構は、サンギヤに入力された前記HSTからの回転動力及びキャリヤに入力された駆動源からの回転動力を合成して、インターナルギヤから前記多段変速構造へ向けて出力するように構成されている。
ここで、前記ロックアップ機構は、前記多段変速構造の変速期間のみ前記キャリヤ及び前記インターナルギヤを同期回転させるように構成されている。
【0006】
前記特許文献1に記載の作業車輌における変速動作を、前記多段変速構造が第1速段から第2速段へ増速される場合を例に説明する。
【0007】
前記変速操作部材が第1速段操作範囲内で増速方向へ操作されると、前記出力調整部材はHST出力が第1HST速(例えば、逆転側最高速)から第2HST速(例えば、正転側最高速)へ変速する方向へ移動される。
【0008】
そして、前記変速操作部材が第1速段操作範囲と第2速段操作範囲との境界位置まで操作された時点で、前記出力調整部材は第2HST速位置(例えば、正転側最大傾転位置)まで作動されて、HST出力は第2HST速(例えば、正転側最高速)の状態となる。
この状態が、前記多段変速構造の第1速段係合状態での前記HMT構造の最高速出力状態である。
【0009】
前記変速操作部材が第1速段操作範囲及び第2速段操作範囲の境界位置を越えて第2速段操作範囲内へ操作されると、これに応じて、前記多段変速構造は第1速段から第2速段へ増速される。
【0010】
この前記多段変速構造の変速期間においては、前述の通り、前記インターナルギヤ及び前記キャリヤが前記ロック機構によって連結されて同期回転される。
これにより、前記インターナルギヤから回転動力を入力する前記多段変速構造には、前記キャリヤに入力される前記駆動源からの回転動力と同期した回転動力が伝達される。
【0011】
一方、この前記多段変速構造の変速期間においては、前記出力調整部材は前記変速操作部材との連係が解除されたフリー状態とされる。
従って、互いに対して作動連結されている前記モータ軸及び前記サンギヤは、前記ロック機構によって連結され、前記駆動源からの回転動力で同期回転される前記インターナルギヤ及び前記キャリヤの回転速度によって画される回転速度(以下、変速期間回転速度という)で回転される。
【0012】
これにより、前記出力調整部材は、第2HST速位置(例えば、正転側最大傾転位置)から、前記サンギヤの変速期間回転速度に対応したHST出力を現出させる位置(以下、変速期間基準位置という)まで第1HST速位置の方向へ戻される。
【0013】
その後、前記変速操作部材が第2速段操作範囲内で増速方向へ操作されると、前記出力調整部材は、変速期間基準位置から第2HST速位置へ向けて作動され、前記モータ軸の回転速度が増速される。
これにより、前記モータ軸からのHST出力によって回転駆動される前記サンギヤの回転速度が増速されて、前記インターナルギヤの回転速度が増速される。
【0014】
このように、前記特許文献1に記載のトランスミッションにおいては、前記多段変速構造の変速動作の際に、前記サンギヤに入力される回転動力は、第2HST速(例えば、正転側最高速)から、変速期間回転速度まで減速されることになる。
【0015】
前記特許文献1に記載の作業車輌は、前記多段変速構造の変速時における走行車速の変化幅を抑えることができる点において有用ではあるが、前記多段変速構造の変速タイミングと走行車速との関係については考慮されていなかった。
【0016】
即ち、対地作業機を牽引するトラクタやコンバイン等の作業車輌は、低速走行をしながら耕耘作業、耕起作業鎮圧作業、及び、収穫作業等の重負荷作業を行う場合が多い。
一般的に、前記作業車輌においては、このような重負荷作業を行う際の走行車速が作業速範囲として設定されており(例えば、下記非特許文献1の166頁参照)、通常、0~8Km/h、仕様によっては0~10Km/hの走行車速領域に作業速範囲が集中している。
【0017】
ここで、前記多段変速構造の変速動作が作業速範囲内で行われると、前記作業車輌に重負荷が掛かっている状態で駆動輪への十分な駆動力伝達が行われない事態が生じることになり、変速動作前に係合している変速段の係合が解除され、変速動作後に係合されるべき変速段の係合が完了するまでの間に走行車速が大きく減速し、ショックが発生して乗り心地が悪化するおそれがある。
また、定格回転数(ex:2200rpm)でエンジンを駆動しているときには変速動作が作業速範囲外で行われるように設計されたものであっても、作業者は、騒音低減のためや省エネを図るため意図的にエンジンを定格回転数以下(ex:1600rpm)にセットして作業することがしばしばあり、このような状況では、作業速範囲内で変速動作が行われてしまう可能性がある。
このような場合、変速動作後に係合されるべき変速段の係合時に、前記多段変速構造を含む走行系伝動経路の構成部材に大きな負荷が掛かることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【文献】特許第4162328号公報
【非特許文献】
【0019】
【文献】https://zidapps.boku.ac.at/abstracts/download.php?dataset_id=9267&property_id=107
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明は、前記従来技術に鑑みなされたものであり、走行系伝動経路にHST等を含む無段変速構造と多段変速構造とが直列配置されてなる作業車輌であって、作業中の変速動作に際し走行系伝動経路を構成する部材に掛かる負荷を可及的に防止乃至は低減し得る作業車輌の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
前記目的を達成する為に、本発明の第1形態は、駆動源と、駆動輪と、前記駆動輪へ向けて回転動力を出力する変速出力軸と、前記駆動源からの回転動力を変速して前記変速出力軸に作動伝達する主変速構造と、変速操作部材と、前記変速出力軸の回転速度を直接又は間接的に検出する出力センサと、前記主変速構造の作動制御を司る制御装置とを備えた作業車輌であって、前記主変速構造は、前記駆動源から作動的に入力される回転動力を無段変速する無段変速構造と、少なくとも第1変速比の第1伝動状態及び第1変速比より高速の第2変速比の第2伝動状態の切替が可能とされた多段変速構造とを備え、前記無段変速構造は、前記駆動源からポンプ軸に作動的に入力される回転動力を出力調整部材の作動位置に応じて少なくとも第1HST速及び第2HST速の間で無段変速してモータ軸から出力するHSTと、第1~第3要素を有し、前記駆動源及び前記HSTから前記第1及び第3要素にそれぞれ作動的に入力される回転動力を合成し、合成回転動力を前記無段変速構造の出力として前記第2要素から出力する遊星歯車機構とを含み、前記主変速構造は、さらに、前記モータ軸の回転動力を前記変速出力軸へ作動伝達可能なHST用伝動機構と、前記HST用伝動機構の動力伝達を係脱させるHST用クラッチ機構とを備えており、前記制御装置は、前記出力センサの検出信号に基づき、前記変速出力軸の回転速度が作業速範囲を越える速度に設定された切替速よりも低速の初速に到達するまでの状態においては、第1及び第2伝動状態を解除させて前記HST用クラッチ機構を係合させるHST伝動状態を現出させつつ、前記変速操作部材の前進側への増速操作に応じてHST出力を第1HST速から第2HST速へ向けて変速させ、前記変速出力軸の回転速度が初速から切替速に達するまでの低速状態においてはHST伝動状態を解除させて前記多段変速構造を第1伝動状態としつつ前記変速操作部材の前進方向への増速操作に応じてHST出力を第2HST速から第1HST速へ向けて変速させて前記第2要素の出力を前進側へ増速させ、前記変速出力軸の回転速度が切替速に達すると前記多段変速構造を第1伝動状態から第2伝動状態に変速させつつ、HST出力が切替時点でのHST回転速から第2HST速の側へ向けて、前記第2要素の出力を第2伝動状態基準速とさせる第2伝動状態基準HST速まで変速させ、前記変速出力軸の回転速度が切替速以上の高速状態においては前記多段変速構造を第2伝動状態としつつ前記変速操作部材の前進側への増速操作に応じてHST出力が第2伝動状態基準HST速から第1HST速へ向けて変速するように前記出力調整部材を作動させることで前記第2要素の出力を第2伝動状態基準速から前進側へ増速させるように構成されており、前記遊星歯車機構は、HST出力が第2HST速の側から第1HST速の側へ変速されるに従って、前記第2要素から出力する合成回転動力が増速されるように構成されている作業車輌を提供する。
【0022】
前記第1形態において、HST伝動状態及び第1伝動状態の切替時において前記変速出力軸の回転速度に速度差が生じないように、前記HST、前記遊星歯車機構、前記HST用伝動機構及び前記多段変速構造が構成される。
【0023】
前記第1形態において、第1HST速のHST出力は後進走行用の逆転側回転動力とされ、第2HST速のHST出力は前進走行用の正転側回転動力とされ、前記HSTは、第1及び第2HST速の間の中立速を挟んで正逆双方向の回転動力を出力可能とされ、前記主変速構造は、さらに、前記第2要素の回転動力を前記変速出力軸へ後進回転動力として作動伝達可能な後進伝動機構と、前記後進伝動機構の動力伝達を係脱させる後進クラッチ機構とを有するものとされる。
【0024】
この場合、前記制御装置は、前記変速出力軸の回転速度が後進側切替速に達するまでの状態においてはHST伝動状態を現出させ、前記変速出力軸の回転速度が後進側切替速以上となるとHST伝動状態を解除し且つ前記後進クラッチ機構を係合させて、前記第2要素の回転動力を前記後進伝動機構を介して前記変速出力軸に作動伝達する後進伝動状態を現出させる一方で、HST伝動状態においては、前記変速操作部材のゼロ速位置への操作に応じてHST出力が中立速となり、前記変速操作部材のゼロ速位置から後進側への増速操作に応じてHST出力が中立速から第1HST速へ向けて変速し、HST伝動状態から後進伝動状態への切替時には、HST出力が切替時点での回転速度から第2HST速の側へ所定速だけ変速し、後進伝動状態においては、前記変速操作部材の後進側への増速操作に応じてHST出力が第1HST速へ向けて変速するように前記出力調整部材を作動させる。
【0025】
好ましくは、前記制御装置は、HST伝動状態から後進伝動状態への切替時に、HST出力が後進伝動状態基準HST速となるように前記出力調整部材を作動させる。
後進伝動状態基準HST速は、前記変速出力軸の回転速度がHST伝動状態においてHST出力が第1HST速とされた際と後進伝動状態においてHST出力が後進伝動状態基準HST速とされた際とで一致するように設定される。
【0026】
本発明の第態は駆動源と、駆動輪と、前記駆動輪へ向けて回転動力を出力する変速出力軸と、前記駆動源からの回転動力を変速して前記変速出力軸に作動伝達する主変速構造と、変速操作部材と、前記変速出力軸の回転速度を直接又は間接的に検出する出力センサと、前記主変速構造の作動制御を司る制御装置とを備えた作業車輌であって、前記主変速構造は、前記駆動源から作動的に入力される回転動力を無段変速する無段変速構造と、少なくとも第1変速比の第1伝動状態及び第1変速比より高速の第2変速比の第2伝動状態の切替が可能とされた多段変速構造とを備え、前記無段変速構造は、前記駆動源からポンプ軸に作動的に入力される回転動力を出力調整部材の作動位置に応じて少なくとも第1HST速及び第2HST速の間で無段変速してモータ軸から出力するHSTと、第1~第3要素を有し、前記駆動源及び前記HSTから前記第1及び第3要素にそれぞれ作動的に入力される回転動力を合成し、合成回転動力を前記無段変速構造の出力として前記第2要素から出力する遊星歯車機構とを含み、前記主変速構造は、さらに、前記第2要素の回転動力を前記変速出力軸へ後進回転動力として作動伝達可能な後進伝動機構と、前記後進伝動機構の動力伝達を係脱させる後進クラッチ機構とを有するものとされる。
前記HST及び前記遊星歯車機構によって形成されるHMT構造は、HST出力が第1HST速とされた際に第2要素から出力されるHMT出力がゼロ速とされ、HST出力が第1HST速から第2HST速へ変速されるに従って増速されるように構成される。
【0027】
前記第2形態においては、前記制御装置は、前記出力センサの検出信号に基づき、前記変速出力軸の回転速度が作業速範囲を越える速度に設定された切替速に達するまでの低速状態においては前記多段変速構造を第1伝動状態としつつ、前記変速操作部材の前進方向への増速操作に応じてHMT出力を前進側へ増速させ、前記変速出力軸の回転速度が切替速に達すると前記多段変速構造を第1伝動状態から第2伝動状態に変速させ且つHMT出力を第2伝動状態基準速まで減速させ、前記変速出力軸の回転速度が切替速以上の高速状態においては前記多段変速構造を第2伝動状態としつつ、前記変速操作部材の前進側への増速操作に応じてHMT出力を第2伝動状態基準速から前進側へ増速させるように構成される。
【0028】
前記第形態においては、前記制御装置は、前記変速操作部材がゼロ速位置から後進側へ操作されると前記第1伝動状態を解除し、前記後進クラッチ機構を係合させて前記第2要素の回転動力を前記後進伝動機構を介して前記変速出力軸に作動伝達する後進伝動状態を現出させる一方で、前記変速操作部材のゼロ速位置への操作に応じてHST出力が第1HST速となり、前記変速操作部材のゼロ速位置から前進側及び後進側への増速操作に応じてHST出力が第1HST速から第2HST速へ増速するように、前記出力調整部材を作動させる。
前記第形態においては、第1伝動状態においてHST出力が第2HST速とされた際に前記変速出力軸の回転速度が切替速に到達するように構成される。
【0029】
本発明の前記種々の構成において、好ましくは、第2伝動状態基準速は、第1伝動状態から第2伝動状態への切替前後において前記変速出力軸の回転速度に変化が生じない速度に設定される。
【0030】
前記無段変速構造が前記HST及び前記遊星歯車機構を有する構成においては、例えば、前記遊星歯車機構のキャリヤ、インターナルギヤ及びサンギヤが、それぞれ、前記第1、第2及び第3要素を形成するものとされる。
【0031】
本発明に係る作業車輌は、前記変速出力軸より伝動方向下流側に配置された副変速構造を備え得る。
【0032】
本発明の前記種々の構成において、好ましくは、前記多段変速構造は、前記無段変速構造から作動的に入力される回転動力を第1変速比及び第2変速比で前記変速出力軸にそれぞれ作動伝達可能な第1及び第2伝動機構と、前記第1及び第2伝動機構の動力伝達をそれぞれ係脱させる第1及び第2クラッチ機構とを有し、前記第1クラッチ機構が係合され且つ前記第2クラッチ機構が遮断されることで第1伝動状態を現出し、前記第1クラッチ機構が遮断され且つ前記第2クラッチ機構が係合されることで第2伝動状態を現出する。
【発明の効果】
【0033】
本発明に係る作業車輌によれば、作業中の変速動作に際し走行系伝動経路を構成する部材に掛かる負荷を可及的に防止乃至は低減することができる。
また、本発明に係る作業車輌によれば、付設される対地作業機の種類を問わず、作業時にはショックのない安定した走行状態を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1図1は、本発明の実施の形態1に作業車輌の伝動模式図である。
図2図2(a)及び(b)は、前記実施の形態1に係る作業車輌における、走行車速とHST出力との関係を表すグラフであり、それぞれ、前記作業車輌に備えられた副変速構造の低速段係合状態及び高速段係合状態のグラフである。
図3図3は、本発明の実施の形態2に作業車輌の伝動模式図である。
図4図4は、前記実施の形態2に係る作業車輌における、走行車速とHST出力との関係を表すグラフであり、前記作業車輌に備えられた副変速構造の低速段係合状態のグラフである。
図5図5は、本発明の実施の形態3に作業車輌の伝動模式図である。
図6図6は、前記実施の形態3に係る作業車輌における、走行車速とHST出力との関係を表すグラフであり、前記作業車輌に備えられた副変速構造の低速段係合状態のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0035】
実施の形態1
以下、本発明に係る作業車輌の一実施の形態について、添付図面を参照しつつ説明する。
図1に、本実施の形態に係る作業車輌200の伝動模式図を示す。
【0036】
図1に示すように、前記作業車輌200は、駆動源210と、駆動輪220と、前記駆動輪220へ向けて回転動力を出力する変速出力軸45と、前記駆動源210からの回転動力を変速して前記変速出力軸45に作動伝達する主変速構造1と、操作位置センサ92によって操作位置が検出可能な変速レバー等の変速操作部材90と、前記変速出力軸45の回転速度を直接又は間接的に検出する出力センサ95と、前記主変速構造1の作動制御を司る制御装置100とを備えている。
【0037】
前記主変速構造1は、前記駆動源210から作動的に入力される回転動力を無段変速する無段変速構造5と、前記無段変速構造5に対して直列配置された第1及び第2伝動機構50(1)、50(2)と、前記第1及び第2伝動機構50(1)、50(2)の動力伝達をそれぞれ係脱させる第1及び第2クラッチ機構60(1)、60(2)とを有している。
【0038】
本実施の形態においては、前記無段変速構造5は、静油圧式無段変速機構(HST)10と、前記HST10と共働してHMT構造(静油圧・機械式無段変速構造)を形成する遊星歯車機構30とを有している。
【0039】
図1に示すように、前記HST10は、前記駆動源210によって作動的に回転駆動されるポンプ軸12と、前記ポンプ軸12に相対回転不能に支持された油圧ポンプ14と、前記油圧ポンプ14に一対の作動油ライン15を介して流体接続されて前記油圧ポンプ14によって油圧的に回転駆動される油圧モータ18と、前記油圧モータ18を相対回転不能に支持するモータ軸16と、前記油圧ポンプ14及び前記油圧モータ18の少なくとも一方の容積を変更させる出力調整部材20とを有している。
【0040】
前記HST10は、前記出力調整部材20の作動位置に応じて、前記ポンプ軸12に入力される動力の回転速度に対する、前記モータ軸16から出力されるHST出力の回転速度の割合(即ち、HST10の変速比)を無段変化させ得るようになっている。
【0041】
即ち、前記駆動源210から前記ポンプ軸12に作動的に入力される回転動力の回転速度を基準入力速とした場合、前記HST10は、前記出力調整部材20の作動位置に応じて、前記基準入力速の回転動力を少なくとも第1HST速から第2HST速の間の回転動力に無段変速して、前記モータ軸16から出力する。
【0042】
なお、本実施の形態においては、図1に示すように、前記ポンプ軸12は、前記駆動源210に作動連結された主駆動軸212にギヤ列214を介して連結されている。
【0043】
本実施の形態においては、前記HST10は、HST出力の回転方向を正逆切替可能とされている。
即ち、前記HST10は、基準入力速の回転方向を正転方向とした場合に、前記出力調整部材20が第1作動位置に位置されると前記モータ軸16から回転方向が正逆方向一方側(例えば逆転方向)とされた第1HST速の回転動力を出力し、且つ、前記出力調整部材20が第2作動位置に位置されると前記モータ軸16から回転方向が正逆方向他方側(例えば正転方向)とされた第2HST速の回転動力を出力するように、構成されている。
【0044】
この場合、前記出力調整部材20が第1及び第2作動位置の間の中立位置に位置されると、HST出力の回転速度は中立速(ゼロ速)となる。
【0045】
本実施の形態においては、図1に示すように、前記HST10は、前記出力調整部材20として、揺動軸回りに揺動されることで前記油圧ポンプ14の容積を変更する可動斜板であって、前記油圧ポンプ14から吐出される吐出量をゼロとする中立位置を挟んで揺動軸回り一方側及び他方側へ揺動可能とされた可動斜板を有している。
【0046】
前記可動斜板が中立位置に位置されると、前記油圧ポンプ14からの圧油の吐出が無くなり、前記HST10は、前記油圧モータ18の出力がゼロの中立状態となる。
そして、前記可動斜板が中立位置から揺動軸回り一方側の正転側へ揺動されると、前記油圧ポンプ14から一対の作動油ライン15の一方に圧油が供給され、当該一方の作動油ライン15が高圧側となり、他方の作動ライン15が低圧側となる。
これにより、前記油圧モータ18が正転側へ回転駆動されて、前記HST10は正転出力状態となる。
【0047】
逆に、前記可動斜板が中立位置から揺動軸回り他方側の逆転側へ揺動されると、前記油圧ポンプ14から前記一対の作動油ライン15の他方に圧油が供給され、当該他方の作動油ライン15が高圧側となり、一方の作動油ライン15が低圧側となる。
これにより、前記油圧モータ18が逆転側へ回転駆動されて、前記HST10は逆転出力状態となる。
なお、前記HST10においては、前記油圧モータ18は固定斜板によって容積が固定されている。
【0048】
図1に示すように、前記出力調整部材20は、前記変速操作部材90の操作に基づき前記制御装置100によって作動制御される。
即ち、前記制御装置100は、前記変速操作部材90への操作に基づきアクチュエータ110を介して前記出力調整部材20を作動させる。
前記アクチュエータ110は、前記制御装置100によって作動制御される限り、電動モータや油圧サーボ機構等、種々の構成を取ることができる。
【0049】
前記遊星歯車機構30は、図1に示すように、サンギヤ32と、前記サンギヤ32と噛合する遊星ギヤ34と、前記遊星ギヤ34と噛合するインターナルギヤ36と、前記遊星ギヤ34を軸線回り回転自在に支持し且つ前記遊星ギヤ34の前記サンギヤ32回りの公転に連動して前記サンギヤ32の軸線回りに回転するキャリヤ38とを有しており、前記サンギヤ32、前記キャリヤ38及び前記インターナルギヤ36が遊星3要素を形成している。
【0050】
前記遊星3要素のうちの一つである第3要素が前記モータ軸16に作動連結されており、前記第3要素がHST出力を入力する可変動力入力部として作用している。
【0051】
図1に示すように、本実施の形態においては、前記サンギヤ32が前記第3要素とされている。
詳しくは、本実施の形態においては、前記サンギヤ32には遊星入力軸31が連結されており、前記遊星入力軸31はギヤ列216を介して前記モータ軸16に作動連結されている。
【0052】
前記遊星3要素のうちの一つである第1要素が前記駆動源210からの基準回転動力を入力する基準動力入力部として作用している。
図1に示すように、本実施の形態においては、前記キャリヤ38が前記第1要素とされている。
なお、本実施の形態においては、前記キャリヤ38はギヤ列218を介して前記主駆動軸212に作動連結されている。
【0053】
前記遊星3要素のうちの一つである第2要素が合成回転動力を出力する出力部として作用している。
図1に示すように、本実施の形態においては、前記インターナルギヤ36が前記第2要素とされている。
なお、本実施の形態においては、前記インターナルギヤ36は変速中間軸43に作動連結されている。
【0054】
前記第1伝動機構50(1)は、前記無段変速構造5(本実施の形態においては前記遊星歯車機構30)から作動的に入力される回転動力を第1変速比で前進回転動力として前記変速出力軸45に作動伝達し得るように構成されている。
【0055】
本実施の形態においては、前記第1伝動機構50(1)は、前記変速中間軸43から前記変速出力軸45へ第1変速比で回転動力を伝達可能とされている。
詳しくは、前記第1伝動機構50(1)は、前記変速中間軸43に相対回転自在に支持された第1駆動ギヤ52(1)と、前記第1駆動ギヤ52(1)に噛合され且つ前記変速出力軸45に相対回転不能に支持された第1従動ギヤ54(1)とを有している。
【0056】
前記第2伝動機構50(2)は、前記無段変速構造5(本実施の形態においては前記遊星歯車機構30)から作動的に入力される回転動力を第1変速比よりも前記変速出力軸45を高速回転させる第2変速比で当該変速出力軸45に前進回転動力として作動伝達し得るように構成されている。
【0057】
本実施の形態においては、前記第2伝動機構50(2)は、前記変速中間軸43から前記変速出力軸45へ第2変速比で回転動力を伝達可能とされている。
詳しくは、前記第2伝動機構50(2)は、前記変速中間軸43に相対回転自在に支持された第2駆動ギヤ52(2)と、前記第2駆動ギヤ52(2)に噛合され且つ前記変速出力軸45に相対回転不能に支持された第2従動ギヤ54(2)とを有している。
【0058】
本実施の形態においては、前記第1及び第2クラッチ機構60(1)、60(2)は、前記変速中間軸43から、対応する前記第1及び第2駆動ギヤ52(1)、52(2)への動力伝達を係脱し得るように構成されている。
【0059】
前記第1及び第2伝動機構50(1)、50(2)並びに前記第1及び第2クラッチ機構60(1)、60(2)は、前記無段変速構造5(本実施の形態においては、前記HMT構造)の出力を有段変速して前記変速出力軸45に伝達する多段変速構造6を形成している。
【0060】
本実施の形態においては、前記第1及び第2クラッチ機構60(1)、60(2)は、摩擦板式クラッチ機構とされている。
【0061】
詳しくは、前記第1クラッチ機構60(1)は、前記変速中間軸43に相対回転不能に支持された第1クラッチハウジング62(1)と、前記第1クラッチハウジング62(1)に相対回転不能に支持された第1駆動側摩擦板及び前記第1駆動側摩擦板に対向された状態で前記第1駆動ギヤ52(1)に相対回転不能に支持された第1従動側摩擦板を含む第1摩擦板群64(1)と、前記第1摩擦板群64(1)を摩擦係合させる第1ピストン(図示せず)とを有している。
【0062】
前記第2クラッチ機構60(2)は、前記変速中間軸43に相対回転不能に支持された第2クラッチハウジング62(2)と、前記第2クラッチハウジング62(2)に相対回転不能に支持された第2駆動側摩擦板及び前記第2駆動側摩擦板に対向された状態で前記第2駆動ギヤ52(2)に相対回転不能に支持された第2従動側摩擦板を含む第2摩擦板群64(2)と、前記第2摩擦板群64(2)を摩擦係合させる第2ピストン(図示せず)とを有している。
前記第1及び第2クラッチ機構60(1)、60(2)は、例えば、圧油の給排に応じて係脱を行うように構成される。
この場合、例えば、圧油の給排を切り替える電磁弁であって、前記制御装置100によって位置制御される電磁弁を含む電磁弁群112(図1参照)が備えられる。
【0063】
図1に示すように、前記作業車輌200は、前記主変速構造1より伝動方向下流側において前記走行係伝動経路に介挿された副変速構造240を備えている。
【0064】
前記副変速構造240は、前記変速出力軸45及び走行伝動軸245の間で駆動力の回転速度を高速段及び低速段の2段階に変速可能とされている。
前記副変速構造240は、前記作業車輌200が停止されている際に切替操作されるものであり、例えば、複数のギヤ列と、前記複数のギヤ列の何れか一のギヤ列を動力伝達状態とするドグクラッチ式のスライダとを有し得る。
【0065】
前記作業車輌200は、前記駆動輪220として、左右一対の主駆動輪を有している。
従って、前記作業車輌200は、図1に示すように、さらに、前記一対の主駆動輪をそれぞれ駆動する一対の主駆動車軸250と、前記走行伝動軸245の回転動力を前記一対の主駆動車軸250に差動伝達するディファレンシャル機構260とを有している。
【0066】
図1に示すように、前記作業車輌200は、さらに、前記主駆動車軸250に選択的に制動力を付加する走行ブレーキ機構255と、前記走行伝動軸245からの回転動力によって前記一対の主駆動車軸250を強制的に同期駆動するデフロック機構265と、前記走行伝動軸245から分岐された回転動力を副駆動輪へ向けて選択的に出力可能な副駆動輪用駆動力取出機構270とを有している。
【0067】
また、前記作業車輌200は、外部へ回転動力を出力するPTO軸280と、前記駆動源210からPTO軸280へ至るPTO伝動経路に介挿されたPTOクラッチ機構285及びPTO変速機構290とを有している。
【0068】
以下、前記制御装置100の作動制御について説明する。
図2に、前記作業車輌200における、走行車速とHST出力の回転速との関係を表すグラフを示す。
なお、図2(a)及び(b)は、それぞれ、前記副変速構造240が低速段及び高速段に係合している状態のグラフである。
【0069】
前記制御装置100は、前記出力センサ95の検出信号に基づき、前記変速出力軸45の回転速度が所定の切替速に達するまでの低速状態においては前記第1クラッチ機構60(1)を係合させ且つ前記第2クラッチ機構60(2)を遮断させる第1伝動状態を現出させ、且つ、前記変速出力軸45の回転速度が切替速以上の高速状態においては前記第1クラッチ機構60(1)を遮断させ且つ前記第2クラッチ機構60(2)を係合させる第2伝動状態を現出させるように構成されている。
【0070】
なお、前記出力センサ95は、前記変速出力軸45の回転速度を直接又は間接的に認識し得る限り、前記変速出力軸45の回転速度を検出するセンサ、前記駆動輪20又は前記駆動車軸250の回転速度を検出するセンサ等、種々の形態をとり得る。
本実施の形態においては、図1に示すように、前記出力センサ95として、前記HST10から前記第3要素(本実施の形態においては前記サンギヤ32)に入力される可変動力の回転速度を検出する回転速度センサ95aと、前記駆動源210から前記第1要素(本実施の形態においては前記キャリヤ38)に入力される基準回転動力の回転速度を検出する回転速度センサ95bとが備えられており、前記制御装置100は、前記変速出力軸45の回転速度を、前記回転速度センサ95a、95bの検出信号に基づき総合的に算出するように構成されている。
【0071】
前述の通り、本実施の形態においては、前記無段変速構造5は、前記HST10及び前記遊星歯車機構30を有するHMT構造とされている。
前記制御装置100は、前記無段変速構造5の作動制御として、前記操作位置センサ92による前記変速操作部材90の操作位置と、前記出力センサ95からの検出信号とに基づき前記出力調整部材20の作動制御を実行するように構成される。
【0072】
前記HSTセンサは、前記HST10の出力状態を検出し得る限り、前記モータ軸16の回転速度を検出するセンサ、前記出力調整部材20の作動位置を検出するセンサ等、種々の形態をとり得る。
【0073】
図2(a)及び(b)に示すように、本実施の形態においては、前記変速出力軸45の回転速度が所定の切替速に達するまでの低速状態は、前記第1伝動状態の他に、前記変速出力軸45の回転速度が切替速よりも低速に設定された初速までの際に現出されるHST伝動状態を有している。
そして、前記第1伝動状態は、前記変速出力軸45の回転速度が初速から切替速までの際に現出されるようになっている。
【0074】
なお、前記変速出力軸45の初速は、図2中の走行車速を基準にすると、+a(L)(前記副変速構造240の低速段係合時、以下、単に低速段係合時という)及び+a(H)(前記副変速構造240の高速段係合時、以下、単に高速段係合時という)に相当する。
前記変速出力軸45の切替速は、図2中の走行車速における+b(L)(低速段係合時)及び+b(H)(高速段係合時)に相当する。
また、図2中の+c(L)は低速段係合時の最高車速であり、+c(H)は高速段係合時の最高車速である。
なお、図2中の車速における「+」は前進方向を示し、「-」は後進方向を示している。
【0075】
前記HST伝動状態の現出を可能とする為に、図1に示すように、本実施の形態に係る前記作業車輌200は、さらに、前記モータ軸16の回転動力を前記変速出力軸45へ作動伝達可能なHST用伝動機構70と、前記HST用伝動機構70の動力伝達を係脱させるHST用クラッチ機構80とを有している。
【0076】
本実施の形態においては、前記HST用伝動機構70は、前記遊星入力軸31を介して前記モータ軸16の回転動力を前記変速出力軸45へ作動伝達可能に構成されている。
【0077】
詳しくは、図1に示すように、前記HST用伝動機構70は、前記ギヤ列216と、前記遊星入力軸31と、前記遊星入力軸31に相対回転不能に支持されたHST用駆動ギヤ72と、前記HST用駆動ギヤ72に噛合され且つ前記変速出力軸45に相対回転自在に支持されたHST用従動ギヤ74とを有している。
【0078】
本実施の形態においては、前記HST用クラッチ機構80は、前記HST用従動ギヤ74から前記変速出力軸45への動力伝達を係脱し得るように構成されている。
【0079】
本実施の形態においては、前記HST用クラッチ機構80は、摩擦板式クラッチ機構とされている。
【0080】
詳しくは、前記HST用クラッチ機構80は、前記変速出力軸45に相対回転不能に支持されたHST用クラッチハウジング82と、前記HST用従動ギヤ74に相対回転不能に支持された駆動側摩擦板及び前記駆動側摩擦板に対向された状態で前記HST用クラッチハウジング82に相対回転不能に支持された従動側摩擦板を含むHST用摩擦板群84と、前記HST用摩擦板群84を摩擦係合させるピストン(図示せず)とを有している。
前記HST用クラッチ機構80は、例えば、圧油の給排に応じて係脱を行うように構成される。
この場合、前記電磁弁群112には、前記HST用クラッチ機構80に対する圧油給排を切り替える電磁弁が備えられる。
【0081】
本実施の形態においては、図2に示すように、前記HST10は正逆双方向の回転動力を出力可能とされている。
即ち、第1HST速のHST出力は後進走行用の逆転側回転動力とされ、第2HST速のHST出力は前進走行用の正転側回転動力とされており、前記HST10は、第1及び第2HST速の間のHST中立速を挟んで正逆双方向の回転動力を出力可能とされている。
【0082】
図2(a)及び(b)に示すように、前記制御装置100は、
・HST伝動状態においては、前記変速操作部材90の前進側への増速操作に応じてHST出力が第1HST速の側から第2HST速の側へ向けて変速するように前記出力調整部材20を作動させ、
・第1伝動状態においては、前記変速操作部材90の前進側への増速操作に応じてHST出力が第2HST速の側から第1HST速の側へ向けて変速するように前記出力調整部材20を作動させ、
・第1伝動状態から第2伝動状態への切替時には、HST出力が切替時点でのHST回転速から第2HST速の側へ第2伝動状態基準HST速まで変速するように前記出力調整部材20を作動させ、
・第2伝動状態においては、前記変速操作部材90の前進側への増速操作に応じてHST出力が第2伝動状態基準HST速から第1HST速の側へ向けて変速するように前記出力調整部材20を作動させる。
【0083】
前記遊星歯車機構30は、HST出力が第2HST速の側から第1HSTの側へ変速されるに従って、前記第2要素から出力する合成回転動力が増速されるように構成されている。
【0084】
ここで、HST出力が第2伝動状態基準HST速とされた際に、前記無段変速構造5(本実施の形態においては前記第2要素)は第2伝動状態基準速の回転動力を出力する。
切替後の第2伝動状態において前記第2要素が第2伝動状態基準速とされた際の前記変速出力軸45の回転速度(走行車速を基準にすると、車速+bx(L)(低速段係合時)又は車速+bx(H)(高速段係合時))が、第2伝動状態への切替直前の前記変速出力軸45の回転速度(走行車速を基準にすると、車速+b(L)(低速段係合時)又は車速+b(H)(高速段係合時))に一致又は近接するように、第2伝動状態基準速(即ち、第2伝動状態基準HST速)が設定される。
【0085】
詳しくは、本実施の形態においては、図2(a)及び(b)に示すように、第1伝動状態においてHST出力が第1HST速とされた際に前記変速出力軸45の回転速度が切替速(走行車速を基準にすると、車速+b(L)(低速段係合時)又は車速+b(H)(高速段係合時))に到達するように構成されている。
【0086】
そして、第2伝動状態においてHST出力が第2伝動状態基準HST速とされた際の前記変速出力軸45の回転速度(走行車速を基準にすると、車速+bx(L)(低速段係合時)又は車速+bx(H)(高速段係合時))が、第1伝動状態においてHST出力が第1HST速とされた際の前記変速出力軸45の回転速度(走行車速を基準にすると、車速+b(L)(低速段係合時)又は車速+b(H)(高速段係合時))と一致するように、第2伝動状態基準HST速が設定されている。
【0087】
斯かる構成によれば、第1及び第2伝動状態の切替前後において前記変速出力軸45の回転速度、即ち、走行車速に変化が生じないようになっている。
【0088】
前述のように、本実施の形態においては、前記変速出力軸45の回転速度が切替速(走行車速を基準にすると、車速+b(L)(低速段係合時)又は車速+b(H)(高速段係合時))に到達すると、前記HST10の出力変更を行いつつ第1変速比の前記第1伝動機構50(1)から第2変速比の前記第2伝動機構50(2)への有段変速が行われるが、前記変速出力軸45の切替速は、前記作業車輌200において設定される作業速範囲よりも高速に設定されており、これにより、前記多段変速構造6の変速動作時に走行系伝動経路に大きな負荷が掛かることを有効に防止している。
【0089】
即ち、対地作業機を牽引するトラクタやコンバイン等の作業車輌は、低速走行をしながら耕耘作業、耕起作業、鎮圧作業、及び、収穫作業等の重負荷作業を行う場合が多い。
一般的に、前記作業車輌においては、このような重負荷作業を行う際の走行車速が作業速範囲として設定されており、0~10Km/hの走行車速領域に作業速範囲が集中している。
【0090】
走行車速が作業速範囲内の際に有段変速動作が行われると、作業車輌に重負荷が掛かっている状態で駆動輪への十分な駆動力伝達が行われない事態が生じることになり、変速動作前に係合している変速段の係合が解除され、変速動作後に係合されるべき変速段の係合が完了するまでの間に走行車速が大きく減速するおそれがある。
このような場合、変速動作後に係合されるべき変速段の係合時に、前記多段変速構造6(本実施の形態においてはギヤ変速構造)を含む走行系伝動経路の構成部材に大きな負荷が掛かることになる。
【0091】
この点に関し、本実施の形態においては、HST出力の変更を行いつつ前記第2伝動機構50(2)への切替を行うタイミングとなる前記変速出力軸45の切替速を作業速範囲よりも高速に設定しており、これにより、作業車輌200の車速が高負荷走行領域(図2中のハッチング領域)に入っている際には前記多段変速構造6の有段変速動作が行われないようになっている。
従って、有段変速の切替時に走行系伝動経路に大きな負荷が掛かることを有効に防止することができる。
また、作業速範囲では前記多段変速構造6の有段変速動作が行われないことから、前記作業車輌200に付設される対地作業機の種類を問わず、作業時にはショックのない安定した走行状態を得ることができる。
【0092】
特に、本実施の形態に係る作業車輌においては、前記変速出力軸45の回転速度がゼロ速から初速(走行車速を基準にすると、車速+a(L)(低速段係合時)又は車速+a(H)(高速段係合時))までの間はHST伝動状態を現出させて、HST出力によって前記変速出力軸45を作動回転させ、前記変速出力軸45の回転速度が初速から切替速までの間は第1伝動状態を現出させて、HMT出力によって前記変速出力軸45を作動回転させており、これにより、前記HST10及び前記遊星歯車機構30の大容量化を要することなく、有段変速動作のタイミングとなる前記変速出力軸45の切替速を作業速範囲から高速側へシフトさせることが可能となっている。
【0093】
また、本実施の形態に係る作業車輌は、図2(a)及び(b)に示すように、HST伝動状態から第1伝動状態への切替時に前記変速出力軸45の回転速度、即ち、走行車速に速度差が生じないように、構成されている。
【0094】
即ち、HST出力が第2HST速とされた際の前記変速出力軸45の回転速度が、HST伝動状態と第1伝動状態との間で変化しないように、前記HST10、前記遊星歯車機構30、前記HST用伝動機構70及び前記第1伝動機構50(1)が構成されている。
【0095】
斯かる構成によれば、HST伝動状態及び第1伝動状態間の移行をスムーズに行うことができ、前記HST10を高容量化せずとも前記第1伝動機構50(1)下での無段変速状態を広域化して切替速を高速側に寄せることができる。
【0096】
図1に示すように、本実施の形態に係る作業車輌においては、前記主変速構造1は、さらに、前記第2要素の回転動力を前記変速出力軸45へ後進回転動力として作動伝達可能な後進伝動機構50(R)と、前記後進伝動機構50(R)の動力伝達を係脱させる後進クラッチ機構60(R)とを有している。
【0097】
本実施の形態においては、前記後進伝動機構50(R)は、前記変速中間軸43の回転動力を逆転させて前記変速出力軸45へ伝達させ得るように構成されている。
【0098】
詳しくは、前記後進伝動機構50(R)は、前記変速中間軸43に相対回転自在に支持された後進駆動ギヤ52(R)と、前記変速出力軸45に相対回転不能に支持された後進従動ギヤ54(R)と、前記後進駆動ギヤ52(R)及び前記後進従動ギヤ54(R)に噛合されたアイドルギヤ53(R)とを有している。
【0099】
本実施の形態においては、前記後進クラッチ機構60(R)は、摩擦板式クラッチ機構とされている。
【0100】
詳しくは、前記後進クラッチ機構60(R)は、前記変速中間軸43に相対回転不能に支持された後進クラッチハウジング62(R)と、前記後進クラッチハウジング62(R)に相対回転不能に支持された後進駆動側摩擦板及び前記後進駆動側摩擦板に対向された状態で前記後進駆動ギヤ52(R)に相対回転不能に支持された後進従動側摩擦板を含む後進摩擦板群64(R)と、前記後進摩擦板群64(R)を摩擦係合させる後進ピストン(図示せず)とを有している。
【0101】
前記後進クラッチ機構60(R)は、例えば、圧油の給排に応じて係脱を行うように構成される。
この場合、前記電磁弁群112には、前記後進クラッチ機構60(R)に対する圧油給排を切り替える電磁弁が備えられる。
本実施の形態においては、前記後進クラッチハウジング62(R)及び前記第1クラッチハウジング62(1)は一体形成された共通ハウジングとされている。
【0102】
前記制御装置100は、前記変速出力軸45の回転速度が後進側切替速(走行車速を基準にすると、車速-b(L)(低速段係合時)又は車速-b(H)(高速段係合時))までの状態においてはHST伝動状態を現出させ、前記変速出力軸45の回転速度が後進側切替速以上となるとHST伝動状態を解除して、前記後進クラッチ機構60(R)を係合させて前記後進伝動機構50(R)を介して前記第2要素の回転動力を前記変速出力軸45に作動伝達する後進伝動状態を現出させる。
【0103】
そして、前記制御装置100は、
・HST伝動状態においては、前記変速操作部材90の後進側への増速操作に応じてHST出力が第2HST速の側から第1HST速の側へ向けて変速するように前記出力調整部材20を作動させ、
・HST伝動状態から後進伝動状態への切替時には、HST出力が切替時点でのHST回転速から第2HST速の側へ後進伝動状態基準HST速まで変速するように前記出力調整部材20を作動させ、
・後進伝動状態においては、前記変速操作部材90の後進側への増速操作に応じてHST出力が後進伝動状態基準HST速から第1HST速の側へ向けて変速するように前記出力調整部材20を作動させる。
【0104】
ここで、後進伝動状態においてHST出力が後進伝動状態基準HST速とされた際の前記変速出力軸45の回転速度(素行車速を基準にすると、車速-bx(L)(低速段係合時)又は車速-bx(H)(高速段係合時))が、HST伝動状態においてHST出力が第1HST速とされた際の前記変速出力軸45の回転速度(素行車速を基準にすると、車速-b(L)(低速段係合時)又は車速-b(H)(高速段係合時)と一致するように、後進伝動状態基準HST速が設定されている。
【0105】
斯かる構成によれば、HST伝動状態及び後進伝動状態の切替前後において前記変速出力軸45の回転速度、即ち、走行車速に変化が生じることを有効に防止乃至は低減することができる。
【0106】
実施の形態2
以下、本発明に係る作業車輌の他の実施の形態について、添付図面を参照しつつ説明する。
図3に、本実施の形態に係る作業車輌200Bの伝動模式図を示す。
なお、図中、前記実施の形態1におけると同一部材には同一符号を付して、その説明を適宜省略する。
【0107】
本実施の形態に係る作業車輌200Bは、前記実施の形態1に係る作業車輌200に比して、前記主変速構造1に代えて主変速構造1Bを備えている。
前記主変速構造1Bは、無段変速構造5B及び多段変速構造6Bを有している。
【0108】
前記無段変速構造5Bは、前記遊星歯車機構30が省略されている点において、前記実施の形態1における前記無段変速構造5とは相違している。
即ち、図3に示すように、前記無段変速構造5Bは、実質的に前記HST10のみを有している。
【0109】
前記多段変速構造6Bは、前記無段変速構造5Bの出力を有段変速し得るように構成されている。
本実施の形態においては、前記多段変速構造6Bは、前記無段変速構造5Bの出力の回転速度を3段に変速して、前記変速出力軸45に作動伝達するように構成されている。
【0110】
具体的には、図3に示すように、前記多段変速構造6Bは、前記無段変速構想5Bの出力を第1変速比、第1変速比よりも高速の第2変速比及び第2変速比よりも高速の第3変速比でそれぞれ変速して前記変速出力軸45に作動伝達する第1~第3伝動機構50(1)~50(3)と、前記第1~第3伝動機構50(1)~50(3)の動力伝達をそれぞれ係脱させる第1~第3クラッチ機構60(1)~60(3)とを有している。
【0111】
図4に、前記作業車輌200Bにおける、走行車速とHST出力の回転速との関係を表すグラフを示す。
なお、図4は、前記副変速構造240が低速段に係合している状態のグラフである。
【0112】
図4に示すように、前記制御装置100は、前記出力センサ95の検出信号に基づき、前記変速出力軸45の回転速度が切替速(図4の走行車速を基準にすると、+d(L))に達するまでの低速状態においては前記第1クラッチ機構60(1)を係合させ且つ前記第2及び第3クラッチ機構60(2)、60(3)を遮断させて前記第1伝動機構50(1)を介して動力伝達を行う第1伝動状態を現出させ、前記変速出力軸45の回転速度が切替速以上で且つ第2切替速(図4の走行車速を基準にすると、+e(L))に達するまでの中速状態においては前記第2クラッチ機構60(2)を係合させ且つ前記第1及び第3クラッチ機構60(1)、60(3)を遮断させて前記第2伝動機構50(2)を介して動力伝達を行う第2伝動状態を現出させ、前記変速出力軸45の回転速度が第2切替速を越える高速状態においては前記第3クラッチ機構60(3)を係合させ且つ前記第1及び第2クラッチ機構60(1)、60(2)を遮断させて前記第3伝動機構50(3)を介して動力伝達を行う第3伝動状態を現出させる。
【0113】
図4に示すように、前記HST10は正逆双方向の回転動力を出力可能とされている。
即ち、前記HST10は、後進走行用の逆転側回転動力とされる第1HST速のHST出力と前進走行用の正転側回転動力とされる第2HST速のHST出力との間で無段変速可能とされており、第1及び第2HST速の間の中立速Nが実質的に回転速度ゼロとなるように構成されている。
【0114】
前記制御装置100は、前記多段変速構造6Bに対する前記作動制御に加えて、前記無段変速構造5Bを構成する前記HST10に対して下記作動制御を行う。
【0115】
即ち、図4に示すように、前記制御装置100は、
・第1伝動状態においては、前記変速操作部材90のゼロ速位置への操作に応じてHST出力が中立速となり、前記変速操作部材90のゼロ速位置から後進側への増速操作に応じてHST出力が中立速から逆転側へ増速し、且つ、前記変速操作部材90のゼロ速位置から前進側への増速に応じてHST出力が中立速から正転側へ増速するように、前記出力調整部材20を作動させ、
・第1伝動状態から第2伝動状態への切替時には、HST出力が第2HST速から第2伝動状態基準HST速まで減速するように、前記出力調整部材20を作動させ、
・第2伝動状態においては、前記変速操作部材90の前進側への増速操作に応じてHST出力が第2伝動状態基準HST速から第2HST速の側へ増速するように、前記出力調整部材20を作動させ、
・第2伝動状態から第3伝動状態への切替時には、HST出力が第2HST速から第3伝動状態基準HST速まで減速するように、前記出力調整部材20を作動させ、
・第3伝動状態においては前記変速操作部材90の前進側への増速操作に応じてHST出力が第3伝動状態基準HST速から第2HST速の側へ増速するように、前記出力調整部材20を作動させる。
【0116】
本実施の形態においても、切替速は作業速範囲(走行車速を基準にした場合において0~10Km/h)よりも高速に設定されている。
本実施の形態においては、前記HST10の容量や前記ポンプ軸12の回転速度(即ち、前記主駆動軸212から前記ポンプ軸12へ回転動力を伝達するギヤ列214のギヤ比)を適宜設定することによって、切替速を作業速範囲よりも高速側へシフトさせることができる。
【0117】
本実施の形態においては、図4に示すように、第1伝動状態においてHST出力が第2HST速とされた際の前記変速出力軸45の回転速度(走行車速を基準にすると、車速+d(L))と第2伝動状態においてHST出力が第2伝動状態基準HST速とされた際の前記変速出力軸45の回転速度(走行車速を基準にすると、車速+dx(L))とが一致するように、第2伝動状態基準HST速が設定されている。
【0118】
また、第2伝動状態においてHST出力が第2HST速とされた際の前記変速出力軸45の回転速度(走行車速を基準にすると、車速+e(L))と第3伝動状態においてHST出力が第3伝動状態基準HST速とされた際の前記変速出力軸45の回転速度(走行車速を基準にすると、車速+ex(L))とが一致するように、第3伝動状態基準HST速が設定されている。
【0119】
実施の形態3
以下、本発明に係る作業車輌のさらに他の実施の形態について、添付図面を参照しつつ説明する。
図5に、本実施の形態に係る作業車輌200Cの伝動模式図を示す。
なお、図中、前記実施の形態1及び2におけると同一部材には同一符号を付して、その説明を適宜省略する。
【0120】
本実施の形態に係る作業車輌200Cは、前記実施の形態1に係る作業車輌200に比して、前記主変速構造1に代えて主変速構造1Cを備えている。
【0121】
前記主変速構造1Cは、無段変速構造5C及び前記多段変速構造6Cを有している。
前記無段変速構造5Cは、前記HST10及び前記遊星歯車機構30によって形成されるHMT構造を有している。
【0122】
前記多段変速構造6Cは、前記無段変速構造5Cの出力を有段変速し得るように構成されている。
本実施の形態においては、前記多段変速構造6Cは、前記無段変速構造5Cの出力の回転速度を前進側に3段及び後進側に2段に変速して、前記変速出力軸45に作動伝達するように構成されている。
【0123】
具体的には、図5に示すように、前記多段変速構造6Cは、前記無段変速構想5Cの出力を前進側第1変速比、前進側第1変速比よりも高速の前進側第2変速比及び前進側第2変速比よりも高速の前進側第3変速比でそれぞれ変速して前記変速出力軸45に作動伝達する第1~第3伝動機構50(1)~50(3)と、前記第1~第3伝動機構50(1)~50(3)の動力伝達をそれぞれ係脱させる第1~第3クラッチ機構60(1)~60(3)と、前記無段変速構想5Cの出力を後進側第1変速比及び後進側第1変速比よりも高速の後進側第2変速比でそれぞれ変速して前記変速出力軸45に作動伝達する後進側第1及び第2伝動機構50(R1)、50(R2)と、前記後進側第1及び第2伝動機構50(R1)、50(R2)の動力伝達をそれぞれ係脱させる後進側第1及び第2クラッチ機構60(R1)、60(R2)とを有している。
【0124】
図6に、前記作業車輌200Cにおける、走行車速とHST出力の回転速との関係を表すグラフを示す。
なお、図6は、前記副変速構造240が低速段に係合している状態のグラフである。
【0125】
図6に示すように、前記制御装置100は、前記出力センサ95の検出信号に基づき、前記変速出力軸45の回転速度が切替速(図6の走行車速を基準にすると、+f(L))に達するまでの低速状態においては前記第1クラッチ機構60(1)を係合させ且つ残りのクラッチ機構を遮断させて前記第1伝動機構50(1)を介して動力伝達を行う第1伝動状態を現出させ、前記変速出力軸45の回転速度が切替速以上で且つ第2切替速(図6の走行車速を基準にすると、+g(L))に達するまでの中速状態においては前記第2クラッチ機構60(2)を係合させ且つ残りのクラッチ機構を遮断させて前記第2伝動機構50(2)を介して動力伝達を行う第2伝動状態を現出させ、前記変速出力軸45の回転速度が第2切替速を越える高速状態においては前記第3クラッチ機構60(3)を係合させ且つ残りのクラッチ機構を遮断させて前記第3伝動機構50(3)を介して動力伝達を行う第3伝動状態を現出させる一方で、前記変速出力軸45が後進側へ回転し始めると、前記変速出力軸の回転速度が後進側切替速(図6の走行車速を基準にすると、-f(L))に達するまでの後進側低速状態においては前記後進側第1クラッチ機構60(R1)を係合させ且つ残りのクラッチ機構を遮断させて前記後進側第1伝動機構50(R1)を介して動力伝達を行う後進第1伝動状態を現出させ、前記変速出力軸45の回転速度が後進側切替速以上の後進側高速状態においては前記第2後進側クラッチ機構60(R2)を係合させ且つ残りのクラッチ機構を遮断させて前記第2伝動機構50(R2)を介して動力伝達を行う後進第2伝動状態を現出させる。
【0126】
図6に示すように、本実施の形態においては、前記HMT構造は、HST出力が第1HST速の際にHMT出力がゼロ速となり、HST出力が第1HST速から第2HST速へ変速されるに従ってHMT出力が軸線回り一方側へ増速するように、構成されている。
【0127】
詳しくは、前記HST10は、後進走行用の逆転側回転動力とされる第1HST速のHST出力と前進走行用の正転側回転動力とされる第2HST速のHST出力との間で無段変速可能とされており、第1及び第2HST速の間の中立速Nが実質的に回転速度ゼロとなるように構成されている。
【0128】
従って、前記遊星歯車機構は、第3要素に入力されるHST出力が逆転側の第1HST速から中立速を介して正転側の第2HST速へ変速されるに従って、第2要素から出力される合成回転動力が軸線回り一方側へ増速するように、構成されている。
【0129】
前記制御装置100は、前記多段変速構造6Cに対する前記作動制御に加えて、前記無段変速構造5Cに対して下記作動制御を行う。
【0130】
即ち、図6に示すように、前記制御装置100は、
・第1伝動状態においては、前記変速操作部材90のゼロ速位置への操作に応じてHST出力が第1HST速となり、前記変速操作部材90のゼロ速位置から前進側への増速操作に応じてHST出力が第1HST速から第2HST速へ増速するように、前記出力調整部材を作動させ、
・第1伝動状態から第2伝動状態への切替時には、HST出力が第2HST速から第2伝動状態基準HST速まで減速するように、前記出力調整部材20を作動させ、
・第2伝動状態においては、前記変速操作部材90の前進側への増速操作に応じてHST出力が第2伝動状態基準HST速から第2HST速の側へ増速するように、前記出力調整部材20を作動させ、
・第2伝動状態から第3伝動状態への切替時には、HST出力が第2HST速から第3伝動状態基準HST速まで減速するように、前記出力調整部材20を作動させ、
・第3伝動状態においては前記変速操作部材90の前進側への増速操作に応じてHST出力が第3伝動状態基準HST速から第2HST速の側へ増速するように、前記出力調整部材20を作動させ、
・後進第1伝動状態においては、前記変速操作部材のゼロ速位置から後進側への増速操作に応じてHST出力が第1HST速から第2HST速へ増速するように、前記出力調整部材を作動させ、
・後進第1伝動状態から後進第2伝動状態への切替時には、HST出力が第2HST速から第2伝動状態基準HST速まで減速するように、前記出力調整部材20を作動させ、
・後進第2伝動状態においては、前記変速操作部材90の後進側への増速操作に応じてHST出力が後進第2伝動状態基準HST速から第2HST速の側へ増速するように、前記出力調整部材20を作動させる。
【0131】
本実施の形態においても、切替速は作業速範囲(走行車速を基準にした場合において0~10Km/h)よりも高速に設定されている。
本実施の形態においては、前記HST10の容量及び前記遊星歯車機構30の変速比や前記ポンプ軸12の回転速度(即ち、前記主駆動軸212から前記ポンプ軸12へ回転動力を伝達するギヤ列214のギヤ比)を適宜設定することによって、切替速を作業速範囲よりも高速側へシフトさせることができる。
【0132】
本実施の形態においては、図6に示すように、第1伝動状態においてHST出力が第2HST速とされた際の前記変速出力軸45の回転速度(走行車速を基準にすると、車速+f(L))と第2伝動状態においてHST出力が第2伝動状態基準HST速とされた際の前記変速出力軸45の回転速度(走行車速を基準にすると、車速+fx(L))とが一致するように、第2伝動状態基準HST速が設定されている。
【0133】
また、第2伝動状態においてHST出力が第2HST速とされた際の前記変速出力軸45の回転速度(走行車速を基準にすると、車速+g(L))と第3伝動状態においてHST出力が第3伝動状態基準HST速とされた際の前記変速出力軸45の回転速度(走行車速を基準にすると、車速+gx(L))とが一致するように、第3伝動状態基準HST速が設定されている。
【0134】
さらに、後進第1伝動状態においてHST出力が第2HST速とされた際の前記変速出力軸45の回転速度(走行車速を基準にすると、車速-f(L))と後進第2伝動状態においてHST出力が後進第2伝動状態基準HST速とされた際の前記変速出力軸45の回転速度(走行車速を基準にすると、車速-fx(L))とが一致するように、後進第2伝動状態基準HST速が設定されている。
【符号の説明】
【0135】
1~1C 主変速構造
5~5C 無段変速構造
6~6C 多段変速構造
10 HST
12 ポンプ軸
16 モータ軸
20 出力調整部材
30 遊星歯車機構
32 サンギヤ
36 インターナルギヤ
38 キャリヤ
45 変速出力軸
50(1) 第1伝動機構
50(2) 第2伝動機構
50(R) 後進伝動機構
60(1) 第1クラッチ機構
60(2) 第2クラッチ機構
60(R) 後進クラッチ機構
70 HST用伝動機構
80 HST用クラッチ機構
90 変速操作部材
95 出力センサ
100 制御装置
200 作業車輌
210 駆動源
220 駆動輪
240 副変速構造
図1
図2
図3
図4
図5
図6