(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-14
(45)【発行日】2022-12-22
(54)【発明の名称】放射性核種製造装置、および、放射性核種製造方法
(51)【国際特許分類】
G21G 1/12 20060101AFI20221215BHJP
G21K 5/08 20060101ALI20221215BHJP
G21G 4/08 20060101ALI20221215BHJP
【FI】
G21G1/12
G21K5/08 C
G21G4/08 G
G21G4/08 T
(21)【出願番号】P 2019089200
(22)【出願日】2019-05-09
【審査請求日】2022-01-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000888
【氏名又は名称】弁理士法人山王坂特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田所 孝広
(72)【発明者】
【氏名】上野 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】可児 祐子
【審査官】後藤 大思
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-080574(JP,A)
【文献】国際公開第2017/135196(WO,A1)
【文献】特開2002-221600(JP,A)
【文献】特表2007-536533(JP,A)
【文献】特表平05-506093(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21G 1/00-7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料を含む流体を循環させる循環路と、
前記循環路の少なくとも一部に放射線を照射し、前記原料から第1の放射性核種を生じさせる放射線発生装置と、
前記循環路を循環している流体から、前記第1の放射性核種および前記第1の放射性核種から生じた第2の放射性核種のうちの少なくとも一部を含む物質を取り出し、残りの原料を含む流体を前記循環路に戻す分離装置とを有し、
前記原料は、ラジウム226(Ra-226)であり、前記第1の放射性核種は、ラジウム225(Ra-225)であり、前記第2の放射性核種はアクチニウム225(Ac-225)であることを特徴とする放射性核種製造装置。
【請求項2】
請求項1に記載の放射性核種製造装置であって、前記放射線発生装置は、加速した電子線を出射する電子線加速器と、前記電子線加速器から出射される電子線の照射される位置に制動放射線用ターゲットを保持する保持部とを含み、前記電子線を照射された前記制動放射線用ターゲットから生じる制動放射線を前記流体に照射することを特徴とする放射性核種製造装置。
【請求項3】
請求項1に記載の放射性核種製造装置であって、前記流体は、前記原料を溶媒に溶解した溶液、前記原料を溶媒に分散させた分散溶液、および、前記原料をガスに分散させた分散ガスのうちのいずれかであることを特徴とする放射性核種製造装置。
【請求項4】
原料を含む流体を循環させる循環路と、
前記循環路の少なくとも一部に放射線を照射し、前記原料から第1の放射性核種を生じさせる放射線発生装置と、
前記循環路を循環している流体から、前記第1の放射性核種および前記第1の放射性核種から生じた第2の放射性核種のうちの少なくとも一部を含む物質を取り出し、残りの原料を含む流体を前記循環路に戻す分離装置とを有し、
前記循環路の一部は、前記流体が流れる方向が直線状の領域を有し、
前記放射線発生装置の出射する放射線の中心軸は、前記循環路の前記直線状の領域内を通過するように前記放射線発生装置が配置されていることを特徴とする放射性核種製造装置。
【請求項5】
請求項1に記載の放射性核種製造装置であって、前記循環路には、前記流体に含まれる放射性核種が崩壊することにより生成される気体状の核種を、放出する放出口が設置されていることを特徴とする放射性核種製造装置。
【請求項6】
原料を含む流体を循環させる循環路と、
前記循環路の少なくとも一部に放射線を照射し、前記原料から第1の放射性核種を生じさせる放射線発生装置と、
前記循環路を循環している流体から、前記第1の放射性核種および前記第1の放射性核種から生じた第2の放射性核種のうちの少なくとも一部を含む物質を取り出し、残りの原料を含む流体を前記循環路に戻す分離装置とを有し、
前記循環路の少なくとも一部は、電子線を照射されることにより制動放射線を発生する材料によって構成され、
前記放射線発生装置は、加速した電子線を出射する電子線加速器であり、前記電子線を、前記制動放射線を発生する材料で構成された前記循環路に向かって出射し、前記循環路の流れる流体に制動放射線を照射することを特徴とする放射性核種製造装置。
【請求項7】
請求項1に記載の放射性核種製造装置であって、前記循環路に備えられたポンプと、前記ポンプを制御する制御部とをさらに有し、
前記制御部は、ポンプの運転及び停止の時間、および、ポンプ運転時の流量の少なくとも一方を調整することを特徴とする放射性核種製造装置。
【請求項8】
請求項1に記載の放射性核種製造装置であって、前記循環路には、前記流体を冷却する冷却部が備えられていることを特徴とする放射性核種製造装置。
【請求項9】
請求項2に記載の放射性核種製造装置であって、前記放射線発生装置は、複数台であり、それぞれの前記放射線発生装置は、前記循環路の異なる部分に制動放射線を照射することを特徴とする放射性核種製造装置。
【請求項10】
原料を含む流体を循環させる循環路と、
前記循環路の少なくとも一部に放射線を照射し、前記原料から第1の放射性核種を生じさせる放射線発生装置と、
前記循環路を循環している流体から、前記第1の放射性核種および前記第1の放射性核種から生じた第2の放射性核種のうちの少なくとも一部を含む物質を取り出し、残りの原料を含む流体を前記循環路に戻す分離装置とを有し、
前記循環路には、前記分離装置を迂回する迂回路が備えられていることを特徴とする放射性核種製造装置。
【請求項11】
原料を含む流体を循環路に沿って循環させながら、循環路の途中で放射線を前記流体に照射することにより前記原料から第1の放射性核種を前記流体中に生じさせ、
前記流体を循環路に沿って循環させながら、前記流体の中から、前記第1の放射性核種および前記第1の放射性核種から生じた第2の放射性核種のうちの少なくとも一部を含む物質を取り出し、残りの原料を含む流体を再び前記循環路に戻して循環させ
、
前記原料は、ラジウム226(Ra-226)であり、前記第1の放射性核種は、ラジウム225(Ra-225)であり、前記第2の放射性核種はアクチニウム225(Ac-225)であることを特徴とする放射性核種製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載の放射性核種製造方法であって、前記放射線は、加速した電子をターゲットに照射することにより生じさせた制動放射線であることを特徴とする放射性核種製造方法。
【請求項13】
請求項11に記載の放射性核種製造方法であって、前記原料は、モリブデン100(Mo-100)または三酸化モリブデン100であり、前記第1の放射性核種はモリブデン99(Mo-99)であり、前記第2の放射性核種はテクネチウム99m(Te-99m)であることを特徴とする放射性核種製造方法。
【請求項14】
請求項11に記載の放射性核種製造方法であって、前記流体は、前記原料を溶媒に溶解した溶液、前記原料を溶媒に分散させた分散溶液、および、前記原料をガスに分散させた分散ガスのうちのいずれかであることを特徴とする放射性核種製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加速器を利用した放射性核種の製造装置に係り、特に、治療用薬剤の原料として需要の大きいアクチニウム225(Ac-225)に代表されるアルファ線を放出する放射性核種を、小型軽量な装置で効率良く製造することが可能な放射性核種の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、治療用薬剤の原料核種として研究開発に利用されているアルファ線を放出する核種であるアクチニウム225(Ac-225)は、親核種であるトリウム229(Th-229)からの崩壊によって生産されている。現在、臨床に利用可能なのAc-225を供給可能な施設は、ドイツのカールスルーエにある超ウラン元素研究所(ITU:Institute for Transuranium Elements)、米国オークリッジ国立研究所(ORNL:Oak Ridge National Laboratory)、及び、ロシアのオブニンスクにあるロシア国立科学センタ物理エネルギ研究所(IPPE:Institute of Physics and Power Engineering)の世界に3カ所のみである。
【0003】
Th-229は自然界には無く、ウラン233(U-233)からの崩壊により生成されるが、核防護の関係で、U-233が今後製造されないことから、世界での生産可能量は、現在、世界で保有されているU-233の崩壊により生成されるTh-229の崩壊により生成される量のみとなっている。この量は、臨床前試験等に用いるには十分であるが、今後、大量に不足することが予想されており、加速器を用いた製造が望まれている。
【0004】
加速器を用いたAc-225製造に関しては、天然に存在するラジウム226(Ra-226)に、サイクロトロンで加速された陽子を照射し、照射された陽子1個に対し2個の中性子を放出させるRa-226(p,2n)Ac-225反応を利用する製造方法が特許文献1等により知られている。また、この製造方法の試験は、ORNLや量子科学技術研究開発機構において進められているが、商用化はされていない。サイクロトロンを用いた製造方法は、加速された陽子のRa-226ターゲット中での飛程が短いため、Ra-226ターゲットを厚くしても大量製造ができないという課題がある。また、この製造方法は、加速された陽子のエネルギーのほとんどをターゲット中で失うため、ターゲットの温度が上昇するが、その除熱は困難であるため、大量製造のために電流値やエネルギーを向上させることができない等の課題がある。
【0005】
加速器を用いたAc-225の別の製造方法として、Ra-226ターゲットに高速中性子を照射し、照射した中性子1個に対して中性子2個を放出させるRa-226(n,2n)Ra-225反応によりラジウム225(Ra-225)製造し、得られたRa-225のベータ崩壊によってAc-225を製造する手法が検討されている。加速した中性子は、サイクロトロンにより加速した重陽子を、炭素のターゲットやトリチウムを吸蔵させた金属等のターゲットに照射することにより発生させる。高速中性子は、Ra-226中での飛程が長い。よって、原料であるRa-226を厚くすることにより、Ac-225を大量に製造できるが、大量に発生する高速中性子の遮蔽が必要なため、装置が大型になってしまうという課題がある。また、大量の高速中性子により、装置構造物全体が強く放射化されてしまうという課題もある。
【0006】
一方、特許文献2には、Ac-225を含むRa-226ターゲットを硝酸に溶解した後、クロマトグラフィを用いてAc-225をRa-226から分離抽出する精製方法が開示されている。
【0007】
特許文献3、4には、小型の電子線加速器で加速された電子を制動放射線用ターゲットに照射して制動放射線(γ線)を発生させ、発生した制動放射線を原料に照射する方法が開示されている。これにより、(γ,n)反応によって、原料から中性子を放出させ、所望の放射性核種を製造することができる。この製造方法により、モリブデン100(Mo-100)を原料としてモリブデン99(Mo-99)を生成できる。さらにMo-99のベータ崩壊により、テクネチウム99m(Te-99m)を製造できる。Te-99mは、単一格子放射断面撮像装置(SPECT)での撮像の際に被検体に投与される等の用途に用いられる。
【0008】
上記特許文献3、4の装置は、生成したTe-99mを取り出すために、原料を加熱し、気化した酸化テクネリウムをガスで流して移動させ、ガスから参加テクネリウムを分離する構成である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特表2007-508531号公報
【文献】特開2009-527731号公報
【文献】特開2015-99117号公報
【文献】特開2016-80574号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1等に記載の陽子や中性子を原料ターゲットに照射することにより所望の放射性核種を生じさせる方法は、原料ターゲットの温度が上昇する。このため、原料ターゲットの冷却が必要であるが、加速器から陽子や中性子が照射されている最中の原料ターゲットを冷却するのは容易ではない。このため、連続照射を行うことは難しい。また、所望の放射性核種は、板状等の原料ターゲットの表面や内部に生じるため、抽出するためには原料ターゲットを取り出して溶解する必要があり、その間、陽子等の照射を停止させる必要がある。
【0011】
また、特許文献3,4の方法は、原料ターゲットを制動放射線が照射される位置に配置したままの状態で、取り出したい放射性核種の沸点以上に加熱し、気化した放射性核種をガスで流して分離する。放射線が照射されている最中の原料ターゲットを、取り出したい放射性核種の沸点以上まで加熱するのは容易ではない。そのため、原料へ放射線の連続照射しながら、放射線核種を取り出すことは難しい。また、取り出したい放射性核種の沸点が、原料の沸点よりも高い必要があり、原料と取り出す放射性核種との組み合わせが限られる。
【0012】
上記のような理由により、特許文献1、3および4の製造方法は製造効率を向上させることは難しかった。
【0013】
本発明の目的は、効率よく放射性核種を製造することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の目的を達成するために、本発明の放射性核種製造装置は、原料を含む流体を循環させる循環路と、循環路の少なくとも一部に放射線を照射し、原料から第1の放射性核種を生じさせる放射線発生装置と、循環路を循環している流体から、第1の放射性核種および第1の放射性核種から生じた第2の放射性核種のうちの少なくとも一部を含む物質を取り出し、残りの原料を含む流体を循環路に戻す分離装置とを有する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、原料を含む流体を循環させることにより、放射線が照射される位置に原料を供給できるとともに、照射後には照射位置から分離装置まで移動させて所望の放射性核種を分離できる。また、循環中の流体を、放射線の照射位置とは異なる位置で冷却または加熱して温度管理できるため、所定の温度で放射性核種を効率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施形態1の放射性核種製造装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】Ra-226にガンマ線を照射して、中性子を1個発生させる反応の反応断面積の理論値を示すグラフである。
【
図3】本発明の実施形態2の放射性核種製造装置の構成を示すブロック図である。
【
図4】本発明の実施形態3の放射性核種製造装置の構成を示すブロック図である。
【
図5】本発明の実施形態4の放射性核種製造装置の構成を示すブロック図である。
【
図6】本発明の実施形態4の放射性核種製造装置におけるポンプの流量調整の一例である。
【
図7】本発明の実施形態5の放射性核種製造装置の構成を示すブロック図である。
【
図8】本発明の実施形態6の放射性核種製造装置の構成を示すブロック図である。
【
図9】Ra-226を含む流体20に、Ra-225の半減期よりも短い20時間だけ制動放射線12を照射した場合の、流体20中のRa-225とAc-225の量の一例を示すグラフである。
【
図10】Ra-226を含む流体20に、Ra-225の半減期よりも短い20時間だけ制動放射線12を照射した後、間欠的にAc-225を分離した場合の、流体20中のRa-225とAc-225の量の一例を示すグラフである。
【
図11】本発明の実施形態6の放射性核種製造装置の循環ループ21を移動させて、他の原料核種15の製造を行う例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の一実施形態について説明する。
【0018】
本実施形態の放射性核種製造装置は、
図1に示すように、原料を含む流体20を循環させる循環路21と、放射線発生装置50と、分離装置30とを備えて構成される。
【0019】
本実施形態では、この製造装置により、原料を含む流体20を循環路21に沿って循環させながら、循環路の途中で放射線発生装置50から放射線12を流体20に照射し、流体20中で原料から第1の放射性核種を生じさせる。さらに、流体20を循環路21に沿って循環させながら、分離装置30は、流体20の中から、第1の放射性核種および第1の放射性核種から生じた第2の放射性核種のうちの少なくとも一部を含む物質を取り出し、残りの原料を含む流体20を再び循環路に戻して循環させる。
【0020】
このように、本実施形態では、原料を含む流体20を循環させながら、その途中で放射線を照射し、さらに、所望の放射性核種を取り出し、残りの原料を再び循環路に戻すことにより、原料を含む流体20を常に循環させながら、連続して放射線を照射して所望の放射性核種を生じさせ、生じた放射性核種を流体20から取り出すことができる。よって、放射性核種の製造効率を向上させることができる。
【0021】
また、本実施形態の放射性核種製造装置は、簡単な構成でありながら、放射性核種に変換されなかった原料は繰り返し循環させることができるため、循環路は、原料の供給機構として、かつ、放射性核種を取り出しのための移動機構として、さらには、原料や生成した放射性核種の保管機構としても機能するため、装置構成を簡素化できる。
【0022】
また、本実施形態の放射性核種製造装置では、流体20を常に循環させることができるため、放射線照射による原料の過度な温度上昇を防ぐことができる。また、循環路の途中であって、放射線が照射されない領域に流体20の冷却装置や加熱装置を容易に配置することができるため、流体20の温度を所望の温度まで冷却または加熱することも容易にできる。
【0023】
また、本実施形態の放射性核種製造装置では、流体20の循環速度や流体20に含まれる原料濃度を調節したり、放射性核種の取り出し量を調節することにより、放射性核種の製造量を容易に調整することができる。
【0024】
なお、放射線発生装置50は、放射線を流体20に照射できるものであればどのようなものでもよく、例えば荷電粒子を加速する加速器を用いることができる。具体的には例えば、電子線加速器、サイクロトロン、シンクロトロンおよびサイクロシンクロトロンを用いることができる。これらのうち加速した電子線を出射する電子線加速器は、他の加速器と比較して小型で簡素な構成とすることができるため小型の放射性核種製造装置に好適である。特に、線形電子線加速器は、小型であるため好適である。
【0025】
例えば、放射線発生装置50は、電子線加速器1と、電子線加速器から出射された電子線の照射される位置に制動放射線用ターゲット11を保持する保持部11aとを含むものを用いることができる。これにより、電子線を照射された制動放射線用ターゲット11から生じる制動放射線(γ線)12を流体20に照射することができるため、1個の制動放射線(γ線)を原料に照射するにより1個の中性子を発生させる(γ,n)反応によって、原料から放射性核種を製造することができる。
【0026】
循環路21で循環させる流体20としては、例えば、原料を溶媒に溶解した溶解溶液、原料を溶媒に分散させた分散溶液、および、原料をガスに分散させた分散ガスのうちのいずれかを用いることができる。
【0027】
原料としては、放射線の照射により放射性核種を生じるものであればどのようなものでもよい。
【0028】
例えば、原料としては、Ra-226(元素記号の後の数字は質量数を示す),Mo-100、Zn-68、Ge-70、Zr-91、Pd-106、Hf-178のうちのいずれか、および、これらの酸化物、窒化物、炭酸塩、水素化物、塩化物、炭化物、具体的には、三酸化モリブデン、酸化亜鉛、炭酸亜鉛、一酸化及び二酸化ゲルマニウム、水素化ゲルマニウム、二酸化ジルコニウム、塩化ジルコニウム、水素化パラジウム、塩化ハフニウム、炭化ハフニウム等を原料として用いることができる。
【0029】
流体20を原料の溶解溶液とする場合、原料を溶解できる溶媒であればどのようなものを用いてもよい。例えば、原料がRa-226である場合、水溶液、塩酸溶液、または、硝酸溶液を流体20として用いることができる。
【0030】
流体20として原料の分散溶液を用いる場合、原料を溶解しない溶媒を用いて、原料粒子を分散させたスラリーを用いることができる。
【0031】
流体20として分散ガスを用いる場合、原料の微粒子が分散した不活性ガスを用いることができる。また、原料の蒸気を含むガスを流体20として用いてもよい。
【0032】
具体的には、本実施形態の放射性核種製造装置において、原料がラジウム226(Ra-226)であり、その水溶液、塩酸溶液または硝酸溶液を流体20として用いて、電子線加速器を用いる放射線発生装置から制動放射線を照射することにより、(γ,n)反応により第1の放射性核種としてラジウム225(Ra-225)を流体20中に発生させる構成にすることができる。Ra-225は、流体20中で崩壊し第2の放射性核種としてアクチニウム225(Ac-225)となる。分離装置は、アクチニウム225(Ac-225)を流体20から分離する構成とする。
【0033】
このとき、Ra-226からRa-225を生成する(γ,n)反応の反応断面積(Ra-226(γ,n)Ra-225)は、Ra-226に加速した陽子を照射し、2個の中性子を放出する反応により直接Ac-225を製造する方法(Ra-226(p,2n)Ac-225)の反応断面積と同程度であることから、製造効率も維持できる。
【0034】
また、本実施形態の放射性核種製造装置において、原料がモリブデン100(Mo-100)または三酸化モリブデン100であり、その塩酸又は硝酸溶液を流体20とし、放射線発生装置から中性子線を照射することにより、(n,2n)反応により、第1の放射性核種としてモリブデン99(Mo-99)を流体20中に発生させることができる。Mo-99は、崩壊して第2の放射性核種としてテクネチウム99m(Te-99m)となる。この場合、分離装置30は、Te-99mを流体20から分離する構成とする。
【0035】
本実施形態において、分離装置30は、第1放射性核種および第2放射性核種の少なくとも一部を取り出すことができる構成であれば、どのようなものであってもよい。例えば、分離装置30として、固定相(または担体)が充てんされたカラムを用い、流体20にカラムを通過させることにより、クロマトグラフィにより原料と、第1放射性核種または第2放射性核種を分離し、取り出し部31から第1放射性核種または第2放射性核種を取りだす構成とする。この時、分離後の原料を含む液体は、再び循環ループ21に戻す。
【0036】
また、分離装置30は、流体20に、第1放射性核種および第2放射性核種と結合して沈殿する材料を添加し、沈殿物を集めて回収することにより第1放射性核種および第2放射性核種を取り出し、沈殿しなかった原料を含む液体を循環ループ21に戻す構造としてもよい。
【0037】
流体20が分散溶液(スラリー)である場合、分離装置30は、第1放射性核種または第2放射性核種の沸点以上に加熱して、蒸気を回収して冷却することにより第1放射性核種または第2放射性核種を取り出し、蒸気とならなかった原料に再び溶媒を添加してスラリーとして循環ループ21に戻す構造としてもよい。
【0038】
また、制動放射線用ターゲット11としては、電子線10の照射により制動放射線を生じるものであればどのようなものでもよいが、例えば、タングステン、白金、鉛、ビスマス等の原子番号の大きな金属を用いる。
【0039】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照してさらに詳しく説明する。
【0040】
<<実施形態1>>
実施形態1の放射性核種製造装置の構成を
図1に基づいて説明する。
【0041】
本実施形態の放射性核種製造装置は、
図1に示したように電子線加速器1で加速された電子線10を、保持部11aで保持された制動放射線用ターゲット11に照射することで制動放射線(γ線)12を発生させる。循環路(以下、循環ループと呼ぶ)21の途中には、流体20を循環させるポンプ22と、所望の放射性核種を分離する分離装置30が配置されている。
【0042】
原料を含む流体(ここでは溶液)20は、循環ループ21の中を循環している。
【0043】
原料を含む流体20は、制動放射線用ターゲット11に近接配置されている循環ループ21を通過する際に、制動放射線用ターゲット11から出射された制動放射線12の照射を受ける。これにより、1個の制動放射線の照射により1個の中性子を発生させる(γ,n)反応によって、流体20中の原料核種から第1放射性核種が生成される。
【0044】
生成された放射性核種と原料とを含む流体20は、さらに循環ループ21内を移動し、その最中に、第1放射性核種は一部崩壊して第2放射性核種に変わる。流体20は、分離装置30に到達し、分離装置30によって、第1放射性核種および第2放射性核種の少なくとも一部が取り出し部31から外部に取り出される。取り出されなかった第1放射性核種および第2放射性核種と原料を含む流体は、再び循環ループ21を通って移動し、制動放射線12の照射を受ける。
【0045】
上記の反応と分離は、流体20が循環ループ21を循環するたびに繰り返される。
【0046】
例えば、原料としてRa-226を用い、流体20として、原料の水溶液、または、塩酸溶液、または、硝酸溶液を用いることができる。原料Ra-226を含む流体20は、循環ループ21を繰り返し循環し、制動放射線12の照射を受けるたびに、(γ,n)反応により、流体20中の原料核種Ra-226からRa-225が生成される。生成されたRa-225は、14.8日の半減期でベータ崩壊し、循環している間に一部が子孫核種であるAc-225となる。よって、循環ループ21を流れている流体20は、原料Ra-226と生成されたRa-225とAc-225を含む。
【0047】
分離装置30は、Ac-225をカラム等により取り出す。
【0048】
以上により、本実施形態の製造装置によって、治療用薬剤の原料となるAc-225を製造することができる。
【0049】
図2にRa-226にガンマ線を照射して中性子を1個発生させる反応の反応断面積の理論値を示す。
図2より、閾値以上のエネルギーのγ線(放射線)12をRa-226に照射することにより、Ra-225を生成できることがわかる。
【0050】
電子線加速器1は、同程度の加速エネルギー及び加速電流値であれば、陽子加速器または重粒子加速器と比較して小型化が可能である。また、Ra-226からRa-225を生成する(γ,n)反応の生成断面積は、Ra-226に加速した陽子を照射する方法(Ra-226(p,2n)Ac-225) Ac-225を生成する断面積と同程度である。よって、電子線加速器1を用いる本実施形態の放射性核種製造装置は、陽子加速器または重粒子加速器を用いる放射性核種製造装置よりも小型化することができる。
【0051】
また、電子線形加速器を用いた場合、制動放射線用ターゲットから発生する中性子は比較的少なく、大部分が鉛等での遮蔽が容易な制動放射線であることから、制動放射線用ターゲット及びその周囲の遮蔽を小型にすることが可能であり、したがって、放射性核種製造装置の小型化が可能である。
【0052】
なお、
図1では、図示の都合上、電子線加速器1を循環ループ21よりも小さく表しているが、実際の電子線加速器1は、長さ数mであるのに対し、循環ループ21は、ループの径を1m以内することが可能である。
【0053】
なお、本実施形態において、放射線発生装置として、陽子加速器または重粒子加速器を用いることももちろん可能である。例えば、上述の(Ra-226(p,2n)Ac-225)反応を用いてもよいし、 (Ra-226(n,2n)Ra-225)反応を用いてもよい。
【0054】
本実施形態の放射性核種製造装置において、流体20中の原料核種であるRa-226の大部分は、制動放射線12と核反応することなく原料核種として残る。また、制動放射線12と原料が反応することにより生成されたRa-225は、分離装置30において、Ra-226から分離精製することは困難であるため、Ra-226とRa-225は、流体20に含まれた状態で循環する。なお、循環のたびにRa-225にも制動放射線12が照射されるが、Ra-226と比較して流体20中のRa-226の量は非常に少ないため、Ra-225と制動放射線による核反応により生成する核種は、微量であり問題とならない。
【0055】
Ra-225は、流体20が循環ループ21中を循環中にベータ崩壊してAc-225に壊変し、分離装置30を流体20が通過するたびに、Ac-225が分離されて取り出し部31から取り出される。よって、取出し部31から、連続的または必要に応じてAc-225を取り出すことが可能であり、循環ループ21は、原料核種の保管の機能も兼ねることが可能でなる。
【0056】
なお、治療用薬剤の原料として有用なAc-225は、10.0日の半減期で子孫核種であるFr-221となる。Fr-221は、半減期4.9分でAt-217となり、At-217は、半減期32ミリ秒でBi-213となる。Ac-225及びその子孫核種は治療用薬剤の原料として有用であるが、Ra-226及びRa-225は、アルファ線を放出する核種ではないことから治療用薬剤の原料としては不要な核種であり、Ac-225との分離精製が必要である。本実施形態の放射線発生装置は、Ra-226及びRa-225を、Ac-225から分離して再び循環させ、再利用することができる。
【0057】
このように、実施形態1の放射線発生装置は、原料を含む流体を循環させながら放射線を照射することにより、効率よく放射性核種を製造することができる。
【0058】
<<実施形態2>>
実施形態2の放射性核種製造装置の一例を、
図3に基づいて説明する。
【0059】
実施形態2の放射性核種製造装置は、実施形態1の
図1の装置と同様の構成であるが、実施形態2では、循環ループ21に直線領域21aを設け、制動放射線12の中心軸12aが、循環ループ21の直線領域21a内を通過するように、放射線発生装置50が配置されている点で実施形態1とは異なる。
【0060】
実施形態2の放射性核種製造装置の構成は、制動放射線12が循環ループ21内の流体20内を通過する距離が、
図1のように循環ループ21を横切るように制動放射線を照射する場合よりも長くなるため、流体20内の原料から生成される第1の放射性核種の量を増加させることができる。これにより、放射性核種を製造効率を高めることができる。以下、さらに詳しく説明する。
【0061】
実施形態1と同様に、実施形態2の放射線発生装置50は、電子線加速器1によって加速された電子線2を、制動放射線用ターゲット11に照射することにより、制動放射線を発生する。電子線加速器1から照射される電子線2のように、比較的エネルギーの高い電子線を制動放射線用ターゲット11に照射した場合、発生する制動放射線12の強度が最も大きい中心軸12aは、電子線の照射軸方向に一致する。
【0062】
そこで、本実施形態2の装置では、循環ループ21の一部分(直線領域21a)を、その長手方向が、制動放射線12が強く発生される中心軸12aと一致するように設置する。
【0063】
原料を含む流体(溶液)20中における制動放射線12の飛程は、陽子または重陽子等の荷電粒子の飛程と比較して、非常に長い。そのため、循環ループ21の一部分(直線領域21a)を、その長手方向が、制動放射線12の中心軸12aと一致するように設置することにより、循環ループ21中の原料核種と制動放射線による反応量が増加する。よって、実施形態1で説明した例のように、流体20が原料としてRa-226を含む場合、実施形態2の製造装置で生成されるRa-225の量は、実施形態1の製造装置よりも増加する。
【0064】
なお、本実施形態では、循環ループ21に直線状の領域21aを設けて、長手方向を制動放射線12の中心軸12aと一致させる構成であったが、この構成に限られず、制動放射線12が循環ループ21内を通過する距離を長くするための他の構造を循環ループ21内に設けることが可能である。例えば、制動放射線12の強度分布は、電子線10が制動放射線用ターゲット11に照射される位置を中心に、電子線10の軸方向(中心軸12a)が最も強く、中心軸12aとのなす角が大きくなるにつれ弱くなるため、中心軸12a方向において、循環ループ21の径を大きくしても良い。
【0065】
<<実施形態3>>
実施形態3の放射性核種製造装置の一例を、
図4に基づいて説明する。
【0066】
実施形態3の放射性核種製造装置は、実施形態1の装置と同様の構成であるが、循環ループ21に気体の放出口40を設けている点が実施形態1とは異なっている。放出口30を設けたことにより、流体20に含まれる放射性核種が崩壊することで生成される気体状の核種を放出することができる。これにより、流体20中に気体が含まれることを抑制でき、流体20をポンプ22により安定して循環させることができる。以下、詳しく説明する。
【0067】
放射性核種製造溶液用循環ループ中の原料核種としてRa-226を用いた場合、半減期1600年でアルファ崩壊し、ラドン222(Rn-222)を生成する。Rn-222は、希ガス元素に属し、標準状態で単原子分子の気体として存在することが知られている。例えば、流体20の溶媒が20℃の水であるとすると、Rn-222の水に対する溶解度は、100mlあたり24.5mlであるため、水に溶解されない量のRn-222が循環ループ21内に発生した場合には、流体20中に気体として存在することになる。
【0068】
ポンプ22は、流体20に気体が混合されている場合、正常に作動しなくなる可能性がある。また、気体の体積は大きいため、流体20に気体が混ざっていると、制動放射線12が照射される領域の流体20に含まれる原料核種Ra-226の量が低減する。このため、原料からRa-225が生成される量が減少してしまう。
【0069】
そこで、本実施形態では、循環ループ21に放出口40を設けることにより、流体20内に含まれる気体を放出する。これにより、流体20内に気体が混合していることによる、上述のような不都合を解消し、安定して所望の核種を製造することができる。
【0070】
なお、放出口40から気体を放出は、必ずしも常時行わなくてもよく、Rn-222等の気体の核種の生成量と、流体20の溶液への気体の溶解度等に応じて、定期的または不定期な放出タイミングで放出してもよい。
【0071】
<<実施形態4>>
実施形態4の放射性核種製造装置の一例を、
図5及び
図6に従って説明する。
【0072】
実施形態4の放射性核種製造装置は、実施形態1と同様の構成であるが、循環ループ21の配管の全部または一部23が、制動放射線用ターゲット11の材料で構成され、制動放射線用ターゲット11を兼用している点で実施形態1とは異なっている。放射線発生装置50は、電子線10を、制動放射線を発生する材料で構成された循環ループ21の配管に向かって照射する。これにより、配管から制動放射線12が発生し、循環ループ21の内部を流れる流体20に照射される。
【0073】
循環ループ21の制動放射線用ターゲット11を兼用する配管の全部または一部23を構成する材料としては、タングステンや白金等の原子番号の大きな金属を用いることができる。
【0074】
このように、循環ループ21の配管の一部が制動放射線用ターゲット11を兼用することにより、制動放射線12が発生される位置(ターゲット11)と流体20の原料核種との距離が短くなる。これにより、原料核種に照射される制動放射線12の強度が強くなるため、所望の放射性核種(例えばRa-225)の生成量が増加する。
【0075】
なお、制動放射線用ターゲット11では、電子線10のエネルギーが損失されるため、ターゲット11の温度が上昇するが、流体20が循環しているため、流体20によってターゲット11を冷却することができる。すなわち、流体20は、制動放射線用ターゲット11に接する位置で熱伝導により熱を受け取って、ターゲット11を兼用していない循環ループ21の領域で受け取った熱を放熱することにより、ターゲット11を冷却することができる。
【0076】
また、循環ループ21の途中に、流体20を冷却する冷却部24を配置してもよい。これにより、制動放射線用ターゲット11を流体20により効率よく冷却することができる。
【0077】
また、冷却部24に変えて、加熱および冷却の両方の機能を備える温度調整部を配置してもよい。これにより、制動放射線用ターゲット11の発熱温度に応じて、温度調整部24が流体20を加熱または冷却し、放射性核種製造溶液が気化しない温度、または、原料核種の溶解度が最大となるような温度に保つことができる。
【0078】
また、
図5のように、温度調整部24とポンプ22を制御する制御部60を配置してもよい。制御部60は、
図6に示すようにポンプ22の運転と停止の時間、ならびに運転時の流量を制御する。また、制御部60は、温度調節部24が流体20を加熱または冷却する動作を制御する。このように制御部60は、ポンプ22と温度調節部24の両方を制御することにより、流体20の温度を所定の温度範囲に調整することができる。
【0079】
また、制御部60は、分離装置30から取り出したい放射性核種の量に応じて、ポンプ22の流量を調整してもよい。すなわち、分離装置30から取り出す放射性核種の量を低減したい場合には、制御部60は、ポンプ22の流量を減少させる。このように、ポンプ22の流量を調整することにより、製造量の制御を行うことができる。
【0080】
<<実施形態5>>
実施形態5の放射性核種製造装置の一例を
図7に従って説明する。
【0081】
実施形態5の放射性核種製造装置は、実施形態1の装置と同様の構成であるが、循環ループ21の周囲に複数台の放射線発生装置50を備えている点で実施形態1とは異なっている。複数台の放射線発生装置50は、放射線をそれぞれ循環ループ21に照射する。例えば、
図7のように2台の同じ構造の放射線発生装置50からそれぞれ循環ループ21に制動放射線を照射した場合、
図1の1台の放射線発生装置50を用いる場合と比較して、2倍の量の放射性核種(例えばRa-225)を製造できるため、製造効率を高めることができる。
【0082】
また、本実施形態5の装置は、複数台の放射線発生装置50を備えているため、1台の放射線発生装置50が故障した場合でも、他の1台を用いて製造を継続できるため、生成核種がまったく製造できなくなるリスクを低減できる。
【0083】
また、本実施形態と実施形態4の構成を組み合わせて、循環ループ21の配管の全部または複数個所の一部を、タングステンや白金等の原子番号の大きな金属を用い、循環ループ21の配管を複数個所で制動放射線用ターゲット11と兼用させる構成としても良い。
【0084】
<<実施形態6>>
実施形態6の放射性核種製造装置の一例を
図8に従って説明する。
【0085】
実施形態6の放射性核種製造装置は、実施形態1の装置と同様の構成であるが、循環ループ21に、分離装置30を迂回する迂回路25と、流路切替器27を設けた点で実施形態1とは異なっている。
【0086】
実施形態1の放射性核種製造装置は、流体20が循環ループ21を循環するたびに分離装置30を通過する構成であるため、装置の運転中は、常時、分離装置30から放射性核種が取り出される。これに対し、本実施形態6の放射性核種製造装置では、迂回路25を設け、流路切替器27により流体20を迂回路25に流すか、分離装置30に流すかを選択することができる。これにより、装置の運転中であっても、迂回路25に流体20を流した場合には放射性核種は取り出されず、流体20を分離装置30に流した時にのみ放射性核種が取り出される。したがって、本実施形態6の放射性核種製造装置によれば、放射性核種を取り出すタイミングを制御することができる。例えば、以下の例のように、原料であるRa-226からAc-225を製造することができる。
【0087】
原料であるRa-226を含む流体20に制動放射線12を照射することで製造したRa-225は、14.8日の半減期でベータ崩壊し、子孫核種であるAc-225となる。
図9に、Ra-226を含む流体20に、Ra-225の半減期よりも短い20時間だけ制動放射線12を照射した場合の、流体20中のRa-225とAc-225の量の一例を示す。
図9の例では、制動放射線12の照射時間が、Ra-225の半減期と比較して十分短いため、Ra-225の量は、制動放射線12が照射されている間はその時間に応じて増加し、照射終了後は半減期14.8日でベータ崩壊するため漸減する。一方、Ac-225は、制動放射線12の照射されている間は、Ra-225の増加に遅れて増加し、照射終了後もRa-225のベータ崩壊による漸減に対応して増加し、照射後約428時間で最大量となるが、半減期10.0日で子孫核種であるFr-221に変化するのに伴い減少する。
【0088】
このとき、本実施形態の放射性核種製造装置は、照射中及び照射後を通じて、流体20を分離装置30に通すように流路切替器27を設定し、連続してAc-225を分離して取り出し部31から取り出すことができる。
【0089】
また、
図10に示すように、本実施形態の放射性核種製造装置は、間欠的にAc-225を取り出すこともできる。
【0090】
図10は、
図9と同様に、Ra-226を含む流体20に、Ra-225の半減期よりも短い20時間だけ制動放射線12を照射した場合の、流体20中のRa-225とAc-225の量の一例を示す。
図10におけるRa-225の増加と漸減は、
図9と同様である。また、
図10において、Ac-225が増加し、制動放射線12の照射後約428時間で最大量となるのも
図9と同様である。
【0091】
図10の例は、制動放射線12の照射後から428時間までは、流体20を流路切替器27により迂回路25を流すが、照射後428時間において、流路切替器27により流体20を分離装置30に流し、循環ループ21中の流体20のAc-225をすべて取り出す(1回目の分離精製)。
【0092】
1回目の取り出し後、流路切替器27により流体20を迂回路25に流すか、または循環ループ21の循環を停止させる。Ac-225は、制動放射線12を流体20に照射していなくても、流体20の中にすでに生成されているRa-225のベータ崩壊によって生成されるため、
図10のように再び増加し、1回目の取り出しから約428時間後に再び最大量となる。そこで、
図10の例では、流路切替器27により流体20を分離装置30に流し、循環ループ21中の流体20のAc-225をすべて取り出す(2回目の分離精製)。
【0093】
2回目の取り出し後、流路切替器27により流体20を迂回路25に流すか、または循環ループ21の循環を停止させ、2回目の取り出しから約428時間後に、流路切替器27により流体20を分離装置30に流し、循環ループ21中の流体20のAc-225をすべて取り出す(3回目の分離精製)。
【0094】
このように、本実施形態6の装置では、制動放射線12を照射後に、Ac-225を連続的に取り出すことも可能であるし、間欠的に取り出すことも可能である。
【0095】
なお、実施形態6の放射性核種製造装置において、制動放射線12を照射後、Ac-225を連続的または間欠的に取り出している間は、放射線発生装置50は不要であるので、
図11に示すように、循環ループ21を放射線発生装置50の前から移動させ、移動させた部分に他の原料核種15や他の循環ループ21を設置することで、他の核種や他の循環ループ21における放射性核種の製造が可能となる。他の原料核種15の形態としては、固体でも液体でも良い。
【符号の説明】
【0096】
1…電子線加速器、10…電子線、11…制動放射線用ターゲット、12…制動放射線、15…他の原料核種、20…流体、21…循環ループ(循環路)、22…ポンプ、23…配管材料にターゲット材料を用いた部分、24…冷却部、25…迂回路、30…分離装置、31…取出し部、40…放出口