(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-15
(45)【発行日】2022-12-23
(54)【発明の名称】実装構造体およびナノ粒子実装材料
(51)【国際特許分類】
H01L 21/52 20060101AFI20221216BHJP
【FI】
H01L21/52 B
(21)【出願番号】P 2020513093
(86)(22)【出願日】2019-02-14
(86)【国際出願番号】 JP2019005254
(87)【国際公開番号】W WO2019198328
(87)【国際公開日】2019-10-17
【審査請求日】2021-08-18
(31)【優先権主張番号】P 2018076801
(32)【優先日】2018-04-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【氏名又は名称】岡部 博史
(72)【発明者】
【氏名】日根 清裕
(72)【発明者】
【氏名】北浦 秀敏
(72)【発明者】
【氏名】古澤 彰男
【審査官】河合 俊英
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-178507(JP,A)
【文献】特開2011-029472(JP,A)
【文献】国際公開第2018/116813(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
素子電極を有する半導体素子と、
金属部材と、
前記半導体素子と前記金属部材との接合する焼結体と、を含み、
前記焼結体は、第1金属と、前記第1金属に固溶した第2金属と、を含み、
前記第2金属は、前記第1金属における拡散係数が、前記第1金属の自己拡散係数よりも大きい金属であり、
前記焼結体中の前記第1金属および前記第2金属の質量の合計に対する前記第2金属の含有率は、前記第1金属への前記第2金属の固溶限以下であ
り、
前記第1金属は、Agであり、前記第2金属は、PbまたはGeである、実装構造体。
【請求項2】
前記焼結体中の前記Agおよび前記Pbの質量の合計に対する前記Pbの含有率は0.4%である、請求項1に記載の実装構造体。
【請求項3】
前記焼結体中の前記Agおよび前記Geの質量の合計に対する前記Geの含有率は0.7%である、請求項1に記載の実装構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パワーデバイスなどの機器で用いられる、2つの部材が金属材料で接合された構造を有する実装構造体、およびその製造に用いるナノ粒子実装材料に関する。
【背景技術】
【0002】
パワーデバイスなどの発熱を伴う半導体素子を有する機器は、半導体素子から発生した熱の放熱を目的として、半導体素子を搭載した基板から放熱部への熱輸送のために、基板と放熱部の2つの部材間を接合した実装構造を有することがある。
【0003】
近年、パワーデバイスとしては、省エネの観点から、従来のSi素子から、高効率で電力を制御できる利点を持ったSiC素子およびGaN素子などの次世代パワーデバイス素子の使用が増加している。これらの次世代パワーデバイス素子は、高温でも動作できる利点を有しており、従来のSi素子よりも大きな発熱に耐えることができるため、より大きな電流を流しての制御が行われることがある。しかし、より大きな電流を流すと、半導体素子からの発熱量が上昇し、半導体素子がより高温化される結果、半導体素子で制御した電流を流すためのリードフレームなどの電極と、素子電極との間の接合部の温度Tjも上昇してしまう。たとえば、上記接合部の温度Tjは、従来のSi素子を用いるときは約125℃だったが、SiC素子およびGaN素子を用いるときは200~250℃にも達する。
【0004】
そのため、素子電極とリードフレーム電極との間の接合部には、発生した熱をリードフレームに効率よく逃がすための熱伝導率と、より高い接合部の温度Tjにも対応する耐熱性とが求められる。
【0005】
従来、素子電極とリードフレーム電極との間を導電体で接合する実装構造体の接合部に用いられる接合材には、低温での接合が可能であることから、はんだ材料が広く用いられていた。しかしながら、SiC素子およびGaN素子を用いるときの接合部の温度Tjである200~250℃は、一般的に用いられるSnおよびPbなどを主成分としたはんだ材料にとっては融点付近またはそれ以上の温度となり非常に過酷な温度である。そのため、これらのはんだ材料を接合部に用いた実装構造体では、SiC素子およびGaN素子を用いるときの耐熱性の確保は困難である。
【0006】
このような課題に対し、AgおよびCuなどの金属を焼結させて素子電極とリードフレーム電極とを接合させた実装構造体に対する期待が高まっている。AgおよびCuなどの金属は、優れた熱伝導率を有しており、かつ、それぞれの融点は上記接合部の温度Tjである200~250℃に対して十分に高いため、耐熱性にも優れる。しかしながら、AgおよびCuなどの金属は、高融点であるがゆえに、従来のはんだ材料での接合のように上記金属を溶融させて素子電極とリードフレーム電極との間での固液間拡散によりこれらを接合させるためには、1000~1200℃の加熱が必要であり、実用化は困難である。
【0007】
AgおよびCuなどの高融点金属を用いたときの上記接合を容易にするために、平均粒径が数nm~数百nmであるこれらの粒子をナノ粒子実装材料として用いることが研究されている。ナノサイズの金属粒子は、ミクロンサイズ以上の平均粒径を有する金属粒子と比較して、粒子に占める表面積の割合である比表面積が非常に大きくなる。このときの表面の金属粒子は、バルクの金属と比較して不安定な状態であり、大きな表面エネルギーを有している。そのため、ナノサイズの金属粒子は、その融点よりはるかに低い温度(たとえば150~400℃)での上記焼結による接合が可能となる。
【0008】
しかしながら、AgおよびCuなどのナノ粒子実装材料の焼結により上記接合を行うときは、これらの金属を固相間で拡散させるための加熱プロセスに要する時間が30minから60min以上となる。この時間は、従来のはんだ材料での5min程度と比較して各段に大きい。上記加熱プロセスに要する時間を短くしようとすると、より高温で蒸気ナノ粒子実装材料を焼結させる必要がある。しかし、上記焼結時の温度を高くすると、焼結時に高温に晒される周辺部材への熱ダメージが発生する。一方で、周辺部材への熱ダメージを抑制するために接合時の保持温度を低温にすると、上記加熱プロセスに要する時間は指数関数的に増加し、特に量産時にコストが増大してしまう。このように、上記ナノ粒子実装材料の焼結により素子電極とリードフレーム電極とを接合させようとすると、周辺部材への熱ダメージを抑制して生産物の品質を高めることと、量産を行う際のリードタイムを短くしてコストを抑制することと、を両立させることが困難である。そのため、上記接合に要する時間を短くしつつ、周辺部材への熱ダメージを増大させないナノ粒子実装材料が求められる。
【0009】
特許文献1には、加熱により脱離可能な有機被膜がその表面に配置された第1金属微粒子と、上記有機被膜の脱離開始温度より低い液相生成温度を有し、かつ、上記第1金属微粒子との反応により金属間化合物を形成可能な金属を含む第2金属微粒子と、を含有する接合材料が開示されている。特許文献1に記載の接合材料は、はじめに第2金属粒子が液相を生成する温度(250℃以下)で加熱し、その後、有機被膜が第1金属微粒子の表面から脱離する温度(250℃~350℃程度)で加熱することにより、金属間化合物を生成させる。上記方法で接合層を形成すると、金属間化合物の形成が接合材料中で均一に起こり、接合強度に優れた接合層が形成されると、特許文献1には記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【発明の概要】
【0011】
特許文献1に記載の接合材料によれば、より低温での接合を可能として、周辺部材への熱ダメージを増大させずに、従来の接合に要する時間を短くすることもできると期待される。しかしながら、特許文献1に記載のように、第2金属微粒子の溶融によって第1金属微粒子との金属間化合物を形成すると、金属間化合物に特有の脆性が発現されることにより、第1金属が有する耐熱性が変化してしまうという問題がある。
【0012】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、金属のナノ粒子の焼結により素子電極と金属部材とを接合した実装構造体であって、上記焼結による接合に要する時間を短くしたことで、焼結時の周辺部材への熱ダメージが小さくなっており、かつ、上記焼結による金属間化合物の生成を抑制してナノ粒子を構成する金属の持つ物性を低減させにくい実装構造体、および当該実装構造体の製造に用いるナノ粒子実装材料を提供することを目的としている。
【0013】
上記課題を達成するために、素子電極を有する半導体素子と、金属部材と、上記半導体素子と上記金属部材との接合する焼結体と、を含み、上記焼結体は、第1金属と、上記第1金属に固溶した第2金属と、を含み、上記第2金属は、上記第1金属における拡散係数が、上記第1金属の自己拡散係数よりも大きい金属であり、上記焼結体中の上記第1金属および上記第2金属の質量の合計に対する上記第2金属の含有率は、上記第1金属への上記第2金属の固溶限以下である実装構造体を用いる。
【0014】
また、第1金属のナノ粒子と、上記第1金属に固溶する第2金属のナノ粒子と、が少なくとも含有され、上記第1金属のナノ粒子の全個数に対する、粒径が100nm以下である上記第1金属のナノ粒子の割合は、50%以上であり、上記第2金属のナノ粒子の平均粒径は100nm以下であり、上記第2金属は、上記第1金属における拡散係数が、上記第1金属の自己拡散係数よりも大きい金属であり、上記第1金属および上記第2金属の質量の合計に対する上記第2金属の質量の割合は、上記第1金属への固溶限以下であるナノ粒子実装材料を用いる。
【0015】
本発明によれば、焼結による接合に要する時間を短くしたことで、焼結時の周辺部材への熱ダメージが小さくなっており、かつ、上記焼結による金属間化合物の生成を抑制してナノ粒子を構成する金属の持つ物性が低減しにくい実装構造体、および当該実装構造体の製造に用いるナノ粒子実装材料を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本実施形態における実装構造体の半導体素子からリードフレームまでの接合部の厚み方向に対して平行方向の断面図である。
【
図2】
図2は、本実施形態における、実施例1-4の実装構造体における焼結体の断面SEM像である。
【
図3】
図3は、比較例1-1の実装構造体における焼結体の断面SEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の1つの実施形態における実装構造体、上記実装構造体を製造するために用いられるナノ粒子実装材料、および上記実装構造体の製造方法について詳述する。
【0018】
<構造>
図1は、本実施の形態における実装構造体の半導体素子からリードフレームまでの接合部の厚み方向に対して平行方向の断面図である。
【0019】
本実施形態における実装構造体108は、素子電極102を有する半導体素子101と、リードフレーム電極104を有するリードフレーム105とが、焼結体103を介して接合された実装構造体である。
【0020】
実装構造体108は、トランジスタなどの半導体素子101が、リードフレーム105に支持され、リードフレーム105によって外部配線に接続された構造を有する。半導体素子101とリードフレーム105とは、半導体素子101が有する素子電極102とリードフレーム105が有するリードフレーム電極104とが焼結体103を介して接合されることにより、電気的および機械的に接続されている。
【0021】
本実施形態において、焼結体103は、ナノサイズの金属粒子を焼結させてなる構造体であり、第1金属と第2金属とを含有する焼結体である。
【0022】
なお、ナノサイズの金属粒子の大きさは、平均粒径50nm~100nmが好ましい。
【0023】
なお、平均粒径は、レーザー粒度分布計を用いて算出した。平均粒径は、メジアン径d50%(μm、体積換算)の値である。以下同様である。
【0024】
上記第1金属は、導電性を有し、熱伝導率が高く、かつ、接合部の温度Tjは、SiC素子およびGaN素子などを用いるときの半導体素子101とリードフレーム105との接合部(焼結体103)の温度Tjである200~250℃に耐えうるような耐熱性を有する金属である。第1金属の例には、AgおよびCuなどが含まれる。
【0025】
ここで、接合部の温度Tjとは、半導体素子が動作する際の接合部界面の達する最高温度である。
【0026】
上記第2金属は、第1金属に固溶可能な金属であり、焼結体103においては、少なくともその一部が第1金属に固溶して存在する。また、上記第2金属は、第1金属中における拡散係数が、第1金属の自己拡散係数よりも大きい元素である。ここで、自己拡散係数とは、金属原子が、その金属中で拡散する係数である。
【0027】
第2金属の例には、第1金属がAgであるときのSn、Cu、PbおよびGe、ならびに、第1金属がCuであるときの、Geなどが含まれる。
【0028】
後述するように、焼結体103は、上記第1金属のナノ粒子および上記第2金属のナノ粒子を含むナノ粒子実装材料を焼結させて形成される。この焼結時に、上記第2金属のナノ粒子は、第1金属中における拡散係数が第1金属の自己拡散係数よりも大きいため、上記第1金属よりも速やかに拡散して、第1金属のナノ粒子同士を結合させやすくする。そのため、上記第2金属は、第1金属のナノ粒子の結合に要する時間を短くし、焼結による接合に要する時間を短くすることができる。これにより、焼結時の周辺部材への熱ダメージを小さくすることができる。さらにこのとき、上記第2金属のナノ粒子は、上記拡散により上記第2金属が上記第1金属に固溶して消滅するため、焼結体103には、第2金属の相は形成されず、第1金属が有する導電性、熱伝導率および耐熱性などの特性は損なわれにくい。
【0029】
上記第1金属中における第2金属の拡散係数、および第1金属の自己拡散係数は、公知の値を用いることができるが、焼結体103を作製するための温度、たとえば200℃における値をもとに判断すればよい。
【0030】
焼結体103は、上記第1金属および第2金属の質量の合計に対する上記第2金属の含有率が、上記第1金属への上記第2金属の固溶限以下である。これにより、第2金属が第1金属と金属間化合物を形成することによる、第1金属が有する導電性、熱伝導率および耐熱性などの特性の変化を抑制することができる。
【0031】
一方で、低温および短時間での焼結時にも、第1金属のナノ粒子を十分に結合させて、未焼結のナノ粒子が残存することによる導電性、熱伝導率および耐熱性などの低下を抑制するためには、第2金属の含有率を、上記固溶限以下でなるべく高めることが好ましい。具体的には、第2金属の含有率は、上記固溶限に対して70%以上100%以下とすることができ、たとえば第1金属がAgであり第2金属がSnであるとき(Snの固溶限は10質量%)は、第2金属であるSnの含有率は、第1金属および第2金属の質量の合計に対して7質量%以上10質量%以下とすることができる。
【0032】
上記第1金属への上記第2金属の固溶限は、上記第1金属と上記第2金属との平衡状態図から求めることができるが、焼結体103を作製するための温度、たとえば200℃における固溶限とすればよい。
【0033】
<ナノ粒子実装材料>
本実施形態におけるナノ粒子実装材料は、上述した第1金属のナノ粒子と、上述した第2金属のナノ粒子と、が少なくとも含有された実装材料である。
【0034】
本実施形態においても、上記第1金属は、導電性を有し、熱伝導率が高く、かつ、接合部の温度Tjは、SiC素子およびGaN素子などを用いるときの半導体素子101とリードフレーム105との接合部(焼結体103)の温度Tjである200~250℃に耐えうるような耐熱性を有する金属である。第1金属の例には、AgおよびCuなどが含まれる。
【0035】
また、本実施形態においても、上記第2金属は、第1金属に固溶可能な金属であり、第1金属中における拡散係数が、第1金属の自己拡散係数よりも大きい元素である。第2金属の例には、第1金属がAgであるときのSn、Cu、PbおよびGe、ならびに、第1金属がCuであるときの、Geなどが含まれる。
【0036】
また、本実施形態においても、上記第1金属および上記第2金属の全質量に対する上記第2金属の質量の割合は、上記第1金属への固溶限以下である。なお、第2金属の含有率は、上記固溶限に対して70%以上100%以下とすることができ、第1金属がAgであり第2金属がSnであるとき(Snの固溶限は10質量%)、第2金属であるSnの含有率は、第1金属および第2金属の質量の合計に対して7質量%以上10質量%以下とすることができる。
【0037】
本実施形態において、上記第1金属のナノ粒子の全個数に対する、粒径が100nm以下である上記第1金属のナノ粒子の割合は、50%以上である。第1金属のナノ粒子の粒径が小さいほど、ナノ粒子の比表面積が大きくなり、より低温でも焼結させやすくなる。
【0038】
また、本実施形態において、上記第2金属のナノ粒子の平均粒径は、100nm以下である。第2金属のナノ粒子の平均粒径が小さいほど、第2金属が第1金属に拡散して固溶しやすくなり、焼結に要する時間も短くすることができる。また、第2金属のナノ粒子の平均粒径が小さいほど、第2金属を第1金属に固溶させやすくなり、固溶しなかった第2金属のナノ粒子が焼結後の焼結体103に残存することによる、第1金属が有する導電性、熱伝導率および耐熱性などの特性の変化を抑制することができる。
【0039】
上記ナノ粒子実装材料は、電極への塗布性を付与したり上記ナノ粒子に分散性を付与したりするための有機溶剤、保管中のナノ粒子の凝集を防止するための分散剤、およびナノ粒子の表面に形成された酸化膜を除去するための還元剤を含有してもよい。
【0040】
<プロセス>
本実施形態における実装構造体の製造方法は、上述したナノ粒子実装材料を用いて、上記第1金属のナノ粒子および第2金属のナノ粒子の焼結により半導体素子が有する素子電極とリードフレームが有するリードフレーム電極とを接合させる工程を含む。
【0041】
(1)ナノ粒子実装材料準備工程
まず、上記第1金属のナノ粒子および上記第2金属のナノ粒子を含むナノ粒子実装材料を準備する。ナノ粒子実装材料は、有機溶剤、分散剤および還元剤などを含んでもよい。
【0042】
(2)ナノ粒子実装材料供給工程
次に、リードフレーム105上のリードフレーム電極104に、メタルマスクなどを用いてナノ粒子実装材料を供給する。リードフレーム電極104は、Cuなどで形成されたものとすることができる。
【0043】
(3)素子載置工程
さらに、供給したナノ粒子実装材料の上に、半導体素子101を素子電極102がナノ粒子実装材料と接するように載置する。素子電極102は、最表層がAuなどで形成されたものとすることができる。
【0044】
(4)接合工程
最後に、半導体素子101およびナノ粒子実装材料が載置されたリードフレーム105を、気流式の加熱炉中に投入し、大気雰囲気において加熱する。加熱条件は特に限定されないが、たとえば、200℃で20min程度とすることができる。
【0045】
これによって、ナノ粒子実装材料中の第1金属のナノ粒子及び第2金属の焼結によって粒子の成長が発生し、200nm以上の組織の集合で構成される焼結体103が形成される。このとき、素子電極102を構成する元素と、第1金属および第2金属と、の界面から厚み数nm程度の範囲で互いの元素が相互拡散し、リードフレーム電極104を構成する元素と、第1金属および第2金属と、の界面から厚み数nm程度の範囲で互いの元素が相互拡散して、素子電極102とリードフレーム電極104とが接合し、実装構造体108が作製される。
【実施例】
【0046】
本発明を実施例に基づき詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0047】
[実施例1]
1.実装構造体の作製
第1金属のナノ粒子として平均粒径が100nmであるAgのナノ粒子を、第2金属のナノ粒子として、平均粒径が100nmであるSnのナノ粒子、平均粒径が100nmであるSbのナノ粒子、および平均粒径が100nmであるPdのナノ粒子を、それぞれ用意した。上記第1金属のナノ粒子を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、観察された第1金属のナノ粒子の個数に対する、粒径が100nm以下であるナノ粒子の割合は、50%であった。
【0048】
第1金属のナノ粒子および第2金属のナノ粒子の合計量が70質量%、有機溶剤としてのポリエチレングリコール(平均分子量は200)の量が29質量%、ならびに分散剤および還元剤の合計量が1質量%、となるようにこれらを混合して、ナノ粒子実装材料を調製した。このとき、上記第1金属のナノ粒子および第2金属のナノ粒子は、合計量が70質量%となるように異なる比率で混合して、複数のナノ粒子実装材料を得た。
【0049】
リードフレーム上にCu製のリードフレーム電極を配置した。さらに、上記リードフレーム電極の表面に配置した、長さ1mm、幅1mm、厚さ50μmのメタルマスクに、上記ナノ粒子実装材料を流し込んだ。さらに、最表層がAuで形成された素子電極を有する半導体素子を、上記素子電極が上記ナノ粒子実装材料と接するように載置した。その後、上記半導体素子が載置されたリードフレームを、気流式の加熱炉中に投入して、大気雰囲気下で200℃で20min加熱して、実装構造体を得た。
【0050】
なお、200℃におけるAg中のAgの自己拡散係数は10-24m2/secの桁であるのに対し、200℃におけるAg中のSnの拡散係数は10-22m2/secの桁である。また、200℃におけるAg中のSbの拡散係数は10-25m2/secの桁であり、200℃におけるAg中のPdの拡散係数は10-31m2/secの桁である。
【0051】
また、Agに対するSnの固溶限は、10質量%である。
【0052】
2.評価
作製された実装構造体をエポキシ樹脂に埋め込んだ後に、半導体素子側から研磨紙およびバフを用いて鏡面研磨して、ナノ粒子実装材料の上記加熱により形成された焼結体103の、厚み方向の中心付近の断面を露出させた。SEMで上記断面を観察し、未焼結のナノ粒子の割合、金属間化合物の有無および第2金属のナノ粒子の残存状態を観察した。
【0053】
(未焼結のナノ粒子の割合)
SEMで10万倍の像を撮影し、視野内に観察された全粒子数に対する、粒径が100nm以下の粒子が占める割合を算出して、未焼結のナノ粒子の割合とした。
【0054】
未焼結のナノ粒子の割合が、第2金属であるSnを添加しない場合の値より小さいものを合格とした。
【0055】
(金属間化合物の有無)
上記SEM像で明度の異なる相が確認されたときに、当該明度の異なる相生のエネルギー分散型X線分析(EDX分析)を行った。当該明度の異なる相が、上記第1金属および第2金属を含む相であるとき、金属間化合物が生成したものと判断した。
【0056】
金属間化合物がないもの合格とした。
【0057】
(第2金属のナノ粒子の残存)
上記SEM像で明度の異なる相が確認されたときに、当該明度の異なる相生のエネルギー分散型X線分析(EDX分析)を行った。当該明度の異なる相が、ほぼ上記第2金属のみからなる相であるとき、第2金属のナノ粒子が焼結せずに残存したものと判断した。
【0058】
第2金属が残存しないものを合格にした。
【0059】
表1に、実施例1における第1金属および第2金属の種類、第1金属(Ag)のナノ粒子および第2金属(Sn)のナノ粒子の質量の合計に対する第2金属(Sn)のナノ粒子の質量の割合(含有率)、ならびに上記評価の結果を示す。
【0060】
【0061】
図2に実施例1-4の実装構造体における焼結体103の断面SEM像を示す。また、比較のために、
図3に比較例1-1の実装構造体における焼結体103の断面SEM像を示す。
【0062】
図2では、接合後の組織は、点線で示した部分を除いては、粒径が100nm以下の粒子は見当たらない。実施例1-4の実装構造体における焼結体103では、ナノ粒子実装材料の焼結が良好に進行していたことが確認された。一方、
図3では、点線で示粒径が100nm以下の粒子を含む組織の占める割合が、
図2と比較して明らかに大きい。比較例1-1の実装構造体における焼結体103では、ナノ粒子実装材料の焼結がさほど良好に進行しなかったことが確認された。
【0063】
また、表1から明らかなように、実施例1-1~1-4の実装構造体では、未焼結のナノ粒子の割合が比較例1-1の実装構造体よりも低かった。さらに、金属間化合物(Ag5Snなど)の発生や第2金属(Sn)のナノ粒子の残存は見られなかった。
【0064】
実施例1-1~1-4の実装構造体の作製において用いたナノ粒子実装材料は、次の共通点がある。まず、第1金属のナノ粒子と上記第1金属に固溶する第2金属のナノ粒子とを含有したナノ粒子実装材料を用いている。また、上記第2金属は、上記第1金属における拡散係数が、上記第1金属の自己拡散係数よりも大きい金属である。さらに、上記第1金属および上記第2金属の全質量に対する上記第2金属のナノ粒子の質量の割合は、上記第1金属への固溶限以下である。
【0065】
一方、第1金属(Ag)のナノ粒子および第2金属(Sn)のナノ粒子の質量の合計に対する第2金属(Sn)の含有率が12.5質量%であり、Ag中のSnの固溶限以上である比較例1-2では、未焼結のナノ粒子は認められなかったが、焼結体103中に金属間化合物であるAg5Snの発生が見られた。
【0066】
また、Ag中での拡散係数がAg中のAgの自己拡散係数と比較して小さいSbおよびPdをそれぞれ含有する比較例1-3、1-4では、未焼結のナノ粒子の占める割合が比較例1-1よりも大きくなっており未焼結のナノ粒子を測定すると、SbおよびPdの残存が見られた。
【0067】
[実施例2]
実施例2では、第2金属をCu、PbおよびGeとした以外は実施例1と同様にして、実装構造体を作製し、評価した。
【0068】
なお、200℃におけるAg中のCuの拡散係数は10-17m2/secの桁であり、200℃におけるAg中のPbの拡散係数は10-22m2/secの桁であり、200℃におけるAg中のGeの拡散係数は10-22m2/secの桁である。これらの拡散係数は、いずれも200℃におけるAg中のAgの自己拡散係数よりも大きい。
【0069】
また、Agの全質量に対するCu、PbおよびGeの質量は、Agとそれぞれの元素との平衡状態図における200℃での固溶限の半分となるように、第2金属のナノ粒子の配合比を調整した。
【0070】
表2に、実施例2における第1金属および第2金属の種類、第1金属(Ag)のナノ粒子および第2金属(Sn)のナノ粒子の質量の合計に対する第2金属(Sn)のナノ粒子の質量の割合(含有率)、ならびに上記評価の結果を示す。なお、比較を容易にするため、実施例1-2および比較例1-1で用いたナノ粒子実装材料および評価結果も、表2に掲載する。
【0071】
【0072】
表2から明らかなように、第2金属としてSn以外を用いた時でも、実施例2-1~2-3の実装構造体では、未焼結のナノ粒子の割合が比較例1-1の実装構造体よりも低かった。さらに、金属間化合物の発生や第2金属のナノ粒子の残存は見られなかった。
【0073】
実施例2-1~2-3の実装構造体の作製において用いたナノ粒子実装材料は、次の共通点がある。まず、第1金属のナノ粒子と上記第1金属に固溶する第2金属のナノ粒子とを含有したナノ粒子実装材料を用いている。また、上記第2金属は、上記第1金属における拡散係数が、上記第1金属の自己拡散係数よりも大きい金属である。さらに、上記第1金属および上記第2金属の全質量に対する上記第2金属のナノ粒子の質量の割合は、上記第1金属への固溶限以下である。
【0074】
なお、第2金属としてCuを用いた実施例2-1では、第2金属の重量比率が少量であるにもかかわらず、未焼結のナノ粒子の割合が減少していた。これは、CuのAg中での拡散係数が他の元素と比較してかなり大きいためと考える。
【0075】
[実施例3]
実施例3では、第1金属をCuとし、第2元素をGeとした以外は実施例1と同様にして、実装構造体を作製し、評価した。
【0076】
なお、200℃におけるCu中のGeの拡散係数は10-23m2/secの桁であり、200℃におけるCu中のCuの自己拡散係数は10-29m2/secの桁である。200℃におけるCu中のGeの拡散係数は、200℃におけるCu中のCuの自己拡散係数よりも大きい。
【0077】
また、Cuの全質量に対するGeの質量は、CuとGeとの平衡状態図における200℃での固溶限の半分となるように、第2金属(Ge)のナノ粒子の配合比を調整した。
【0078】
表3に、実施例3における第1金属および第2金属の種類、第1金属(Cu)のナノ粒子および第2金属(Ge)のナノ粒子の質量の合計に対する第2金属(Ge)のナノ粒子の質量の割合(含有率)、ならびに上記評価の結果を示す。
【0079】
【0080】
表3から明らかなように、第1金属としてAg以外を用いた時でも、実施例3-1の実装構造体では、未焼結のナノ粒子の割合が比較例3-1の実装構造体よりも低かった。さらに、金属間化合物の発生や第2金属のナノ粒子の残存は見られなかった。
【0081】
実施例3-1の実装構造体の作製において用いたナノ粒子実装材料は、次の特徴がある。まず、第1金属のナノ粒子と上記第1金属に固溶する第2金属のナノ粒子とを含有したナノ粒子実装材料を用いている。また、上記第2金属は、上記第1金属における拡散係数が、上記第1金属の自己拡散係数よりも大きい金属である。さらに、上記第1金属および上記第2金属の全質量に対する上記第2金属のナノ粒子の質量の割合は、上記第1金属への固溶限以下である。
【0082】
(全体として)
リードフレーム105で説明したが、金属部材でもよい。例えば、放熱板でもよい。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明の実装構造体によれば、パワーデバイスなどの大きな発熱を伴うデバイスにおいて求められる、接合に要する時間を短くし、周辺部材への熱ダメージが小さく、ナノ粒子の金属の持つ物性を確保した実装構造体を提供することができる。
【符号の説明】
【0084】
101 半導体素子
102 素子電極
103 焼結体
104 リードフレーム電極
105 リードフレーム
108 実装構造体