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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-16
(45)【発行日】2022-12-26
(54)【発明の名称】光音響装置および被検体情報取得方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 8/13 20060101AFI20221219BHJP
【FI】
A61B8/13
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2018081436
(22)【出願日】2018-04-20
(65)【公開番号】P2019187617
(43)【公開日】2019-10-31
【審査請求日】2021-04-07
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)「ワイドフィールド可視化システムのプロトタイプ開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100131392
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 武司
(74)【代理人】
【識別番号】100125357
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100131532
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 浩一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155871
【弁理士】
【氏名又は名称】森廣 亮太
(74)【代理人】
【識別番号】100100549
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 嘉之
(72)【発明者】
【氏名】長永 兼一
【審査官】冨永 昌彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-137053(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0213259(US,A1)
【文献】特開2016-059768(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0238862(US,A1)
【文献】特開2017-140092(JP,A)
【文献】特開2013-042996(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0206960(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0345886(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 8/00 - 8/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに異なるタイミングで第一の波長の複数の第一パルスと、第一の波長と異なる第二の波長の複数の第二パルス光とを発生する光源に光学的に結合された出射端と
被検体に対して前記出射端を、所定の周回軌道に沿って繰り返し周回移動させる走査部と、
前記出射端からの前記複数の第一パルス光と前記複数の第二パルス光による光照射に伴い前記被検体から発生する複数の音響波を受信し、前記複数の第一パルス光に対応する複数の第一受信信号と前記複数の第二パルス光に対応する複数の第二受信信号とを出力する探触子と、
前記複数の第一受信信号と前記複数の第二受信信号に基づき複数の光音響画像データを生成する画像再構成処理を行う画像処理と、前記複数の光音響画像データを合成し合成ボリュームデータを生成する合成処理と、を行う画像処理部と、
前記出射端からの照射タイミング、前記被検体に対する前記出射端の前記周回軌道上における位置に対応する照射位置、ならびに、前記光源が発光する前記複数の第一パルス光と前記複数の第二パルス光の波長、を制御する制御部と、
を有し、
前記画像処理部は、前記探触子から取得された前記複数の第一受信信号のうち、所定の平均化数に対応する信号数で構成される第一受信信号群に基づいて第一合成ボリュームデータと、前記探触子から取得された前記複数の第二受信信号のうち、前記所定の平均化数に対応する信号数で構成される第二受信信号群に基づいて第二合成ボリュームデータと、を生成し、
前記制御部は、所定の周回期間における前記第一受信信号群に対応する前記周回軌道上の第一照射位置と、前記所定の周回期間とは異なる周回期間おける前記周回軌道上の第二照射位置と、が一致するように前記照射タイミングと前記照射位置とを制御する
ことを特徴とする、光音響装置。
【請求項2】
前記走査部は、前記出射端と前記探触子とを一体的に前記被検体に対して相対移動させることを特徴とする、請求項1に記載の光音響装置。
【請求項3】
前記画像処理部は、共通の前記照射位置に対応する前記第一合成ボリュームデータと前記第二合成ボリュームデータとに基づいて、前記被検体の内部の機能情報を表す第三合成
ボリュームデータを生成することを特徴とする、請求項に記載に光音響装置。
【請求項4】
前記画像処理部は、前記共通の照射位置に対応する前記第一合成ボリュームデータおよび前記第二合成ボリュームデータが共に更新されたことに応じて、前記第三合成ボリュームデータを更新することを特徴とする、請求項に記載の光音響装置。
【請求項5】
前記画像処理部は、前記出射端からの前記複数の第一パルス光と前記複数の第二パルス光による光の照射および前記探触子による前記複数の第一受信信号と前記複数の第二受信信号出力と平行して前記第一合成ボリュームデータおよび前記第二合成ボリュームデータの生成を行うことを特徴とする、請求項3または4に記載の光音響装置。
【請求項6】
前記第三合成ボリュームデータは、酸素飽和度に係る画像を含むことを特徴とする、請求項またはに記載の光音響装置。
【請求項7】
前記出射端は、n(n≧2)波長の光を照射可能であり、
一周回あたりの前記光の照射回数をmとした場合に、前記nとmが互いに素であり、かつ、n<mが成り立つ
ことを特徴とする、請求項1からのいずれか1項に記載の光音響装置。
【請求項8】
前記出射端と前記探触子とが一体として前記被検体に対する位置を変更可能なように前記出射端と前記探触子とを支持するとともに前記走査部により移動される支持部をさらに有することを特徴とする、請求項1からのいずれか1項に記載の光音響装置。
【請求項9】
前記出射端から照射される光の波長が、前記出射端からの照射ごとに切り替わることを特徴とする、請求項1から7のいずれか1項に記載の光音響装置。
【請求項10】
光源に光学的に結合された出射端と、被検体に対して前記出射端を移動させる走査部と、前記被検体からの音響波を受信する探触子と、を有する光音響装置を用いた被検体情報取得方法であって、
所定の周回軌道に沿って被検体に対する出射位置を変えながら、異なるタイミングで第一の波長の複数の第一パルス光と、第一の波長と異なる第二の波長の複数の第二パルス光とを、照射する照射ステップと、
前記複数の第一パルス光と前記複数の第二パルス光による光照射に伴い前記被検体から発生する複数の前記音響波を受信し、前記複数の第一パルス光に対応する複数の第一受信信号と前記複数の第二パルス光に対応する複数の第二受信信号とを出力する受信信号出力ステップと、
前記複数の第一受信信号と前記複数の第二受信信号に基づき複数の光音響画像データを生成する画像再構成処理を行う画像処理と、前記複数の光音響画像データを合成し合成ボリュームデータを生成する合成処理と、を行う画像処理ステップと、
前記出射端からの照射タイミング、前記被検体に対する前記出射端の前記周回軌道上における位置に対応する照射位置、ならびに、前記光源が発光する前記複数の第一パルス光と前記複数の第二パルス光の波長、を制御する制御ステップと、
を含み、
前記画像処理ステップは、前記探触子から取得された前記複数の第一受信信号のうち、所定の平均化数に対応する信号数で構成される第一受信信号群に基づいて第一合成ボリュームデータと、前記探触子から取得された前記複数の第二受信信号のうち、前記所定の平均化数に対応する信号数で構成される第二受信信号群に基づいて第二合成ボリュームデータと、を生成するように行われ、
前記制御ステップは、所定の周回期間における前記第一受信信号群に対応する前記周回軌道上の第一照射位置群と、前記所定の周回期間とは異なる周回期間における前記周回軌道上の第二照射位置群と、が一致するように前記照射タイミングと前記照射位置とを制御する
ことを特徴とする、被検体情報取得方法。
【請求項11】
前記照射ステップは、前記複数の第一パルス光と前記複数の第二パルス光を照射する出射端を介して行われ、前記受信信号出力ステップは、前記複数の第一受信信号と前記複数の第二受信信号を出力する探触子を用い、かつ、前記出射端と前記探触子とが一体的に前記被検体に対して相対移動させるように行われることを特徴とする、請求項10に記載の被検体情報取得方法。
【請求項12】
前記画像処理ステップは、共通の前記照射位置に対応する前記第一合成ボリュームデータと前記第二合成ボリュームデータとに基づいて、前記被検体の内部の機能情報を表す第三合成ボリュームデータを生成するように行われることを特徴とする、請求項10に記載に被検体情報取得方法。
【請求項13】
前記画像処理ステップは、前記共通の照射位置に対応する前記第一合成ボリュームデータおよび前記第二合成ボリュームデータが共に更新されたことに応じて、前記第三合成ボリュームデータを更新するように行われることを特徴とする、請求項12に記載の被検体情報取得方法。
【請求項14】
前記画像処理ステップは、前記照ステップおよび前記受信号出力ステップと平行して前記画処理ステップを行うことを特徴とする、請求項12または13に記載の被検体情報取得方法。
【請求項15】
前記第三合成ボリュームデータは、酸素飽和度に係る画像を含むことを特徴とする、請求項12または13に記載の被検体情報取得方法。
【請求項16】
前記照射ステップは、n(n≧2)波長の光を照射可能であり、
一周回あたりの前記光の照射回数をmとした場合に、前記nとmが互いに素であり、かつ、n<mが成り立つように行われる
ことを特徴とする、請求項10から15のいずれか1項に記載の被検体情報取得方法。
【請求項17】
前記照射ステップは、前記出射端から照射される光の波長が、前記出射端からの照射ごとに切り替わるように行われることを特徴とする、請求項11に記載の被検体情報取得方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光音響装置に関する。
【背景技術】
【0002】
被検体内の構造情報や、生理的情報、すなわち機能情報をイメージングするための技術として、光音響トモグラフィ(PAT:PhotoAcoustic Tomography)が知られている。
レーザ光などの光を被検体である生体に照射すると、光が被検体内の生体組織で吸収される際に音響波(典型的には超音波)が発生する。この現象を光音響効果と呼び、光音響効果により発生した音響波を光音響波と呼ぶ。被検体を構成する組織によって、光エネルギーの吸収率がそれぞれ異なるため、発生する光音響波の音圧も組織によって異なったものとなる。PATでは、発生した光音響波を探触子で受信し、受信信号を数学的に解析することにより、被検体内の特性情報を取得することができる。
【0003】
また、光音響トモグラフィでは、互いに異なる波長を有する光を照射して、光の吸収係数を波長ごとに求めることにより、被検体内に存在する物質の濃度関連分布(物質の濃度に関する値の分布)を得ることができる。
これに関連する技術として、例えば、特許文献1には、複数波長の光を被検体に照射し、酸素飽和度といった被検体内の機能情報を取得する光音響装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-59768号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の装置では、探触子を移動させながら光の波長を切り替え、それぞれの波長の光を被検体上の異なる位置に照射している。しかし、当該構成によると、被検体内における光の強度分布が波長ごとに変わってしまうため、酸素飽和度といった機能情報が精度よく得られなくなるおそれがある。
【0006】
本発明はこのような従来技術の課題に鑑みてなされたものであり、複数波長の光を用いた光音響装置において、測定精度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための、本発明に係る光音響装置は、
互いに異なるタイミングで第一の波長の複数の第一パルスと、第一の波長と異なる第二の波長の複数の第二パルス光とを発生する光源に光学的に結合された出射端と被検体に対して前記出射端を、所定の周回軌道に沿って繰り返し周回移動させる走査部と、前記出射端からの前記複数の第一パルス光と前記複数の第二パルス光による光照射に伴い前記被検体から発生する複数の音響波を受信し、前記複数の第一パルス光に対応する複数の第一受信信号と前記複数の第二パルス光に対応する複数の第二受信信号とを出力する探触子と、前記複数の第一受信信号と前記複数の第二受信信号に基づき複数の光音響画像データを生成する画像再構成処理を行う画像処理と、前記複数の光音響画像データを合成し合成ボリュームデータを生成する合成処理と、を行う画像処理部と、前記出射端からの照射タイミング、前記被検体に対する前記出射端の前記周回軌道上における位置に対応する照射
位置、ならびに、前記光源が発光する前記複数の第一パルス光と前記複数の第二パルス光の波長、を制御する制御部と、を有し、前記画像処理部は、前記探触子から取得された前記複数の第一受信信号のうち、所定の平均化数に対応する信号数で構成される第一受信信号群に基づいて第一合成ボリュームデータと、前記探触子から取得された前記複数の第二受信信号のうち、前記所定の平均化数に対応する信号数で構成される第二受信信号群に基づいて第二合成ボリュームデータと、を生成し、前記制御部は、所定の周回期間における前記第一受信信号群に対応する前記周回軌道上の第一照射位置と、前記所定の周回期間とは異なる周回期間おける前記周回軌道上の第二照射位置と、が一致するように前記照射タイミングと前記照射位置とを制御することを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る被検体情報取得方法は、
光源に光学的に結合された出射端と、被検体に対して前記出射端を移動させる走査部と、前記被検体からの音響波を受信する探触子と、を有する光音響装置を用いた被検体情報取得方法であって、所定の周回軌道に沿って被検体に対する出射位置を変えながら、異なるタイミングで第一の波長の複数の第一パルス光と、第一の波長と異なる第二の波長の複数の第二パルス光とを、照射する照射ステップと、前記複数の第一パルス光と前記複数の第二パルス光による光照射に伴い前記被検体から発生する複数の前記音響波を受信し、前記複数の第一パルス光に対応する複数の第一受信信号と前記複数の第二パルス光に対応する複数の第二受信信号とを出力する受信信号出力ステップと、前記複数の第一受信信号と前記複数の第二受信信号に基づき複数の光音響画像データを生成する画像再構成処理を行う画像処理と、前記複数の光音響画像データを合成し合成ボリュームデータを生成する合成処理と、を行う画像処理ステップと、前記出射端からの照射タイミング、前記被検体に対する前記出射端の前記周回軌道上における位置に対応する照射位置、ならびに、前記光源が発光する前記複数の第一パルス光と前記複数の第二パルス光の波長、を制御する制御ステップと、を含み、前記画像処理ステップは、前記探触子から取得された前記複数の第一受信信号のうち、所定の平均化数に対応する信号数で構成される第一受信信号群に基づいて第一合成ボリュームデータと、前記探触子から取得された前記複数の第二受信信号のうち、前記所定の平均化数に対応する信号数で構成される第二受信信号群に基づいて第二合成ボリュームデータと、を生成するように行われ、前記制御ステップは、所定の周回期間における前記第一受信信号群に対応する前記周回軌道上の第一照射位置群と、前記所定の周回期間とは異なる周回期間における前記周回軌道上の第二照射位置群と、が一致するように前記照射タイミングと前記照射位置とを制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、複数波長の光を用いた光音響装置において、測定精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第一の実施形態に係る光音響装置の構成を説明する図。
図2】第一の実施形態における探触子ユニットの移動を模式的に表した図。
図3】高解像度領域の中心位置を照射タイミングごとに示した図。
図4】第一の実施形態における波長ごとの照射タイミングを示した図。
図5】第一の実施形態における光照射分布を模式的に示した図。
図6】第二の実施形態における波長ごとの照射タイミングを示した図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に図面を参照しつつ、本発明の実施形態について説明する。ただし、以下に記載されている構成部品の寸法、材質、形状およびそれらの相対配置などは、発明が適用される装置の構成や各種条件により適宜変更されるべきものである。よって、この発明の範囲を以下の記載に限定する趣旨のものではない。
【0012】
本発明は、被検体から伝搬する音響波を検出し、被検体内部の特性情報を生成し、取得する技術に関する。よって本発明は、光音響装置またはその制御方法として捉えられる。本発明はまた、これらの方法をCPUやメモリ等のハードウェア資源を備える装置に実行させるプログラムや、そのプログラムを格納した、コンピュータにより読み取り可能な非一時的な記憶媒体としても捉えられる。
【0013】
実施形態に係る光音響装置は、被検体(例えば乳房、顔、手の平)に光(電磁波)を照射することにより被検体内で発生した音響波を受信して、被検体の特性情報を画像データとして取得する光音響効果を利用した装置である。この場合、特性情報とは、光音響波を受信することにより得られる受信信号を用いて生成される、被検体内の複数位置のそれぞれに対応する特性値の情報である。
【0014】
光音響測定により取得される特性情報は、光エネルギーの吸収率を反映した値である。例えば、光照射によって生じた音響波の発生源、被検体内の初期音圧、あるいは初期音圧から導かれる光エネルギー吸収密度や吸収係数、組織を構成する物質の濃度を含む。
また、異なる複数波長の光によって発生する光音響波に基づいて、被検体を構成する物質の濃度といった情報が得られる。この情報は、酸素飽和度、酸素飽和度に吸収係数等の強度を重み付けした値、トータルヘモグロビン濃度、オキシヘモグロビン濃度、またはデオキシヘモグロビン濃度であってもよい。また、グルコース濃度、コラーゲン濃度、メラニン濃度、または脂肪や水の体積分率であってもよい。
以下に説明する実施形態では、ヘモグロビンを吸収体として想定した波長の光を被検体に照射することで、被検体内の血管の分布・形状のデータと、その血管における酸素飽和度分布のデータを取得し、画像化する光音響イメージング装置を想定する。
【0015】
被検体内の各位置の特性情報に基づいて、二次元または三次元の特性情報分布が得られる。分布データは画像データとして生成され得る。特性情報は、数値データとしてではなく、被検体内の各位置の分布情報として求めてもよい。すなわち、初期音圧分布、エネルギー吸収密度分布、吸収係数分布や酸素飽和度分布などの分布情報である。
【0016】
本明細書における音響波とは、典型的には超音波であり、音波、光音響波と呼ばれる弾性波を含む。探触子等により音響波から変換された電気信号を音響信号とも呼ぶ。ただし、本明細書における超音波または音響波という記載には、それらの弾性波の波長を限定する意図はない。光音響効果により発生した音響波は、光音響波または光超音波と呼ばれる。光音響波に由来する電気信号を光音響信号とも呼ぶ。なお、本明細書において、光音響信号とは、アナログ信号とデジタル信号の双方を含む概念である。分布データは、光音響画像データや再構成画像データとも呼ばれる。
【0017】
本実施形態に係る光音響装置は、被検体にパルス光を照射し、被検体内において発生した光音響波を受信することで、被検体内の光学特性に関連した情報を生成する装置である。
【0018】
(第一の実施形態)
図1は、第一の実施形態に係る光音響装置の構成を説明する図である。本実施形態に係る光音響装置は、探触子ユニット110、光源103、照射光学系104、信号取得部105、データ処理部106、表示装置107、保持部材108、走査機構109を有して構成される。
探触子ユニット110は、複数の変換素子101および支持部材102を有して構成される。また、データ処理部106は、画像生成部1061、画像処理部1062、制御部1063を有して構成される。
【0019】
探触子ユニット110は、被検体に対して光を照射し、被検体から発生した音響波を受信するユニットである。探触子ユニット110は、半球状の支持部材102の内面に、複数(例えば512個)の変換素子101をスパイラル状に配置することで構成される。さらに、支持部材102の底部には、後述する光源103から発せられた光が通過する開口部が設けられている。
【0020】
支持部材102は、複数の変換素子101を支持する、略半球形状の容器である。本実施形態では、半球の内側面に複数の変換素子101が設置され、半球の底部(極)に光を通過させるための開口部が設けられ、後述する照射光学系104が接続されている。なお、半球の内側には、音響整合材(例えば水)が貯留されてもよい。支持部材102は、これらの部材を支持するため、機械的強度が高い金属材料などを用いて構成することが好ましい。より好ましくは、走査機構109により探触子ユニット110を移動させた場合に、探触子ユニット110の姿勢が保たれる程度の機械的強度を持つように支持部材102を構成する。
【0021】
変換素子101は、被検部の内部から到来する音響波を受信して、電気信号(以下、光音響信号)に変換する手段である。変換素子は、探触子、音響波検出素子、音響波検出器、音響波受信器、トランスデューサとも呼ばれる。
生体から発生する音響波は、100KHzから100MHzの超音波であるため、音響波検出素子には、上記の周波数帯を受信できる素子を用いる。具体的には、圧電現象を用いたトランスデューサ、光の共振を用いたトランスデューサ、容量の変化を用いたトランスデューサなどを用いることができる。
【0022】
また、音響波検出素子は、感度が高く、周波数帯域が広いものを用いることが望ましい。具体的にはPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)などを用いた圧電素子、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)などの高分子圧電膜材料、CMUT(容量性マイクロマシン超音波トランスデューサ)、ファブリペロー干渉計を用いたものなどが挙げられる。ただし、ここに挙げたものだけに限定されず、探触子としての機能を満たすものであれば、どのようなも
のであってもよい。
【0023】
複数の変換素子101は、各素子の最も受信感度の高い方向(指向軸)が、略半球面形状の曲率中心およびその近傍からなる一定の領域に集中するようにアレイ状に配置されている。複数の変換素子101をこのように配置することで、半球の曲率中心において高い分解能を得ることができる。本明細書では、このように高分解能化された領域を、高分解能領域と称する。なお、本実施形態における高分解能領域とは、最も高い分解能が得られる点から、当該分解能が最も高い分解能の半分になる点までの領域を指す。本実施形態においては、半球状の支持部材102の中心が、最も高い受信感度が得られる位置であり、高分解能領域は、半球の中心から等方的に広がる球状の領域となる。
【0024】
このように、複数の変換素子101を多次元的に配置することで、同時に複数の位置で音響波を受信することができるため、測定時間を短縮できる。なお、複数の変換素子101の受信感度の高い方向を所定の領域に集中させることができれば、支持部材102は半球状に限られない。例えば、支持部材102は、楕円体を任意の断面で切り取った形状であってもよく、多面体で構成されてもよい。
【0025】
探触子ユニット110は、走査機構109によって、三次元方向に移動させることができる。これにより、光の照射位置と音響波の受信位置を被検体に対して相対的に移動させることができる。走査機構109は、例えば、ガイド機構、駆動機構、走査位置センサ等を、X,Y,Z軸の三方向それぞれに有していてもよい。
【0026】
光源103は、被写体に照射するパルス光を発生させる装置である。光源103は、大出力を得るためにレーザ光源であることが望ましいが、レーザの代わりに発光ダイオードやフラッシュランプを用いることもできる。光源としてレーザを用いる場合、固体レーザ、ガスレーザ、色素レーザ、半導体レーザなど様々なものが使用できる。
また、パルス光の波長は、被検体を構成する成分のうち特定の成分に吸収される特定の波長であって、被検体内部まで光が伝搬する波長であることが望ましい。具体的には、500nm以上1200nm以下であることが望ましい。
また、光音響波を効果的に発生させるためには、被検体の熱特性に応じて十分短い時間に光を照射させなければならない。本実施形態に示すように被検体が生体である場合は、光源から発生するパルス光のパルス幅は10~100ナノ秒程度が好適である。
なお、光照射のタイミング、波形、強度等は、後述するデータ処理部106(制御部1063)によって制御される。
【0027】
光源103に用いるレーザは、出力が強く連続的に波長を変えられるものであることが好ましく、例えばNd:YAG励起のTi:saレーザや、アレキサンドライトレーザなどを好適に用いることができる。また、複数の波長の光を照射する場合、異なる波長の単波長レーザを複数含んで光源103を構成してもよい。
【0028】
照射光学系104は、光源から発せられたパルス光を伝送する部材である。光源から出射された光は、レンズやミラーなどの光学部品により、所定の光分布形状に加工されながら被検体に導かれ、照射される。なお、光ファイバなどの光導波路などを用いて光を伝搬させることも可能である。
照射光学系104は、例えば、複数の中空の導波管を、ミラーを内包した関節によって接続し、この導波管内を導光させる構成であってもよい。また、ミラーやレンズなどの光学素子により空間中を伝搬させて導光させる構成であってもよい。
照射光学系104は、例えば、レンズ、ミラー、プリズム、光ファイバ、拡散板、シャッター、フィルタなどの光学機器を含んでいてもよい。光源103から発せられた光を被検体に所望の形状で照射できれば、光学系には、どのような光学部品を用いてもよい。な
お、光はレンズで集光させるより、ある程度の面積に広げる方が、生体への安全性ならびに観察領域を広げられるという観点で好ましい。
【0029】
信号取得部105は、変換素子101が取得した電気信号を増幅してデジタル信号に変換する手段である。
信号取得部105は、受信信号を増幅する増幅器、アナログの受信信号をデジタル変換するA/D変換器、受信信号を記憶するFIFO等のメモリと、FPGAチップ等の演算回路を用いて構成されてもよい。また、信号取得部105は、複数のプロセッサや演算回路から構成されていてもよい。
【0030】
データ処理部106は、信号取得部105から出力されたデジタル信号を用いて画像再構成を行う手段(画像生成部1061)、画像処理を行う手段(画像処理部1062)、および、光音響装置が有する各構成要素の制御を行う手段(制御部1063)を含む。
データ処理部106は、CPUとRAM、不揮発メモリ、制御ポートを有するコンピュータで構成してもよい。不揮発メモリに格納されたプログラムがCPUで実行されることにより制御が行われる。データ処理部106は、汎用コンピュータや、専用に設計されたワークステーションによって実現されてもよい。また、データ処理部106の演算機能を担うユニットは、CPUやGPU等のプロセッサ、FPGAチップ等の演算回路で構成されていてもよい。これらのユニットは、単一のプロセッサや演算回路から構成されるだけでなく、複数のプロセッサや演算回路から構成されていてもよい。
【0031】
画像生成部1061は、デジタル変換された信号(光音響信号)に基づいて、例えば、Filtered Back Projection(FBP)などの手法を用いて、被検体内部の光音響波の初期音圧分布p(r)を算出する。FBPでは、例えば、以下の式(1)を用いて画像再構成を行う。ここで、dSは検出器のサイズ、Sは再構成に用いた開口サイズ、pd(r、t)は複数の変換素子において受信された信号、tは受信時刻、r0は複数の変換素子の位置である。
【数1】
【0032】
画像処理部1062は、画像再構成処理によって生成した画像データに対して画像処理を行う。例えば、ゲイン補正処理、ガウシアンフィルタやメディアンフィルタによるノイズ抑制処理、MIP(最大輝度投影)画像の生成、方向や距離に基づいた彩色、彩度や明度を変化させた投影像の生成等を行ってもよい。
また、複数の再構成データを用いて、被検体内の機能情報を算出し、対応する画像を生成してもよい。このようにして生成した画像についても、前述した画像処理の対象とすることができる。また、操作者によって指定された領域に対して強調を施す画像処理などを行ってもよい。処理後の画像は、表示装置107に出力される。
【0033】
制御部1063は、被検体に対する光照射の制御、音響波や光音響信号の受信制御、探触子ユニットの移動制御など、装置全体の制御に関する指令を行う。
【0034】
なお、本実施形態では、画像生成部1061と、画像処理部1062と、制御部1063を共通のハードウェアで実現したが、これらのハードウェアは分離していてもよい。
【0035】
また、データ処理部106の記憶機能を担うユニットは、ROM、磁気ディスクやフラッシュメモリなどの非一時記憶媒体や、RAMなどの揮発性の媒体であってもよい。なお、プログラムが格納される記憶媒体は、非一時記憶媒体である。なお、これらのユニット
は、1つの記憶媒体から構成されるだけでなく、複数の記憶媒体から構成されていてもよい。
【0036】
表示装置107は、データ処理部106が取得した情報およびその加工情報を表示する手段であり、典型的にはディスプレイ装置である。表示装置107は、複数の装置であってもよいし、単一の装置に複数の表示部を備え、並列表示が可能な装置であってもよい。なお、表示装置107は、タッチパネルのように、操作者からの指示を受け付ける入力部を備えた構成としてもよい。この他にも、入力手段を表示装置107とは別に設けてもよい。
【0037】
保持部材108は、被検体を保持する部材である。本実施形態では、被検体が図中Z軸正方向から挿入され、保持部材108に当接した状態で保持される。保持部材108は、ポリエチレンテレフタラートのように、被検体を支える強度と、光と音響波を透過させる特性を有する材質であることが好ましい。なお、必要に応じて、保持部材108の内側に音響整合材を貯留してもよい。
【0038】
走査機構109は、変換素子101と支持部材102を含む探触子ユニット110を、被検体に対して相対的に移動する手段である。なお、本実施形態では、探触子ユニット110を移動させているが、探触子ユニット110を固定して被検体を動かす構成であってもよい。また、双方を動かす構成であってもよい。探触子ユニット110と被検体との相対位置を変えることができれば、走査機構109の構成は限定されない。
本実施形態では、走査機構109は、可動ステージを含んで構成され、探触子ユニット110を、XY方向に二次元的に、または、XYZ方向に三次元的に移動させることができる。
【0039】
次に、本実施形態に係る光音響装置が、被検体である生体を測定する方法について説明する。
まず、光源103から発せられたパルス光が、照射光学系104を介して被検体に照射される。被検体の内部を伝搬した光のエネルギーの一部が血液などの光吸収体に吸収されると、熱膨張により当該光吸収体から音響波が発生する。生体内にがんが存在する場合は、がんの新生血管において他の正常部の血液と同様に光が特異的に吸収され、音響波が発生する。生体内で発生した光音響波は、変換素子101によって受信される。
【0040】
本実施形態では、支持部材102と被検体の相対的な位置関係を、走査機構によって変更しながら、光の照射および音響波の取得を行うことができる。すなわち、被検体上の異なる位置に光を複数回照射しながら光音響信号を取得することができる。
【0041】
図2(A)は、本実施形態における探触子ユニット110の移動をXY平面上で模式的に表した図である。また、図2(B)は、光の照射およびボリュームデータの生成、画像の表示を行うタイミングを示した図である。
【0042】
図2(A)における符号201は、探触子ユニット110がXY平面内で移動した場合において、高分解能領域の中心点が描く軌跡を実線で示している。つまり、図2(A)は、探触子ユニット110の描く軌跡をXY平面に投影した図と言うこともできる。本実施形態では、所定のタイミング(Te1,Te2,Te3,…,TeN)で、被検体に対して光の照射を行い、受信した音響波に基づいてボリュームデータ(V1,V2,…,VN)を生成する。図中、Pos1,Pos2,Pos3は、光照射タイミングTe1,Te2,Te3における、高分解能領域の中心位置を示す。Pos1,Pos2,Pos3は、本実施形態のように、半球状の支持部材を持つ探触子ユニットであれば、当該半球の中心をXY平面に投影した位置と言い換えることもできる。Pos1,Pos2,Pos3
の各点を中心とした点線は、それぞれの位置での高分解能領域の広がりを模式的に示したものである。
【0043】
本実施形態では、このように高分解能領域が重複する複数の位置において光の照射を行い、音響波を受信して光音響信号を取得する。高分解能領域では、複数の変換素子101の指向性の高い領域が重複するため、当該領域から発生した光音響信号を、高いSN比で取得することができる。また、被検体に対する探触子ユニット110の相対位置を変更しながら光音響信号を取得することで、再構成後の画像に発生するアーチファクトを抑制することができる。なお、本実施形態では、被検体上の光が照射される領域(光照射領域)は、高解像度領域の中心に対応する位置となる。光照射領域も、探触子ユニット110の移動に合わせて高解像度領域とともに移動する。
【0044】
次に、データ処理部106の動作を説明する。
まず、画像生成部1061が、信号取得部105から出力された光音響信号に基づいて画像再構成を実行し、ボリュームデータを出力する。この画像再構成は、光の照射ごとに得られた光音響信号に対して個別に実施される。
次に、画像処理部1062が、複数の光音響ボリュームを合成することで、アーチファクトが抑制された合成ボリュームデータを生成する。以下では、ボリュームデータおよび合成ボリュームデータを、それぞれ「画像データ」および「合成画像データ」とも称する。
【0045】
図2に示した例では、高分解能領域の中心がPos1にあるタイミングで光を照射し、それによって取得した光音響信号を用いて、Pos1を中心とする点線で示された高分解能領域を含む空間を対象として画像再構成を行い、ボリュームデータV1を得る。
次に、高分解能領域の中心がPos2にあるタイミングで光を照射し、取得した光音響信号を用いて、Pos2を中心とする点線で示された高分解能領域を含む空間を対象として画像再構成を行い、ボリュームデータV2を得る。同様に、高分解能領域の中心がPos3,Pos4にある場合に、ボリュームデータV3、ボリュームデータV4を得る。
【0046】
画像処理部1062は、これら4つのボリュームデータの相対的な位置関係を保持したまま合成を行い、合成ボリュームデータV’1を算出する。これにより、各ボリュームデータのうち、重複が生じる領域においてアーチファクトが抑制された光音響画像を得ることができる。このような効果を得るためには、光照射を行う際の高分解能領域の中心点のうち、少なくとも2ヶ所の位置の間の距離Lが、高分解能領域の半径Rよりも小さいことが望ましい。
【0047】
また、探触子ユニット110が軌道上のどの位置にある場合であっても高分解能領域同士が重複するように探触子ユニット110の動きを制御することで、より多くの光音響信号を用いて画像再構成をすることが可能となる。すなわち、アーチファクトをさらに抑制した光音響画像を得ることが可能となる。例えば、軌道201の半径をRrotとした場合に、Rrotが、高分解能領域の半径Rより小さくなるように制御することで、この効果を得ることができる。
また、さらに、Rrot<R/2となるように制御することで、周回軌道の内部の全ての領域において高分解能領域同士を重複させることができる。すなわち、より広い範囲においてアーチファクトが抑制された光音響画像を得ることが可能となる。
【0048】
本実施形態では、図2(B)に示したように、探触子ユニット110の位置をPos1,Pos2,Pos3,…,PosNと変えながら、等間隔で光の照射を行う。各タイミングで光音響信号が取得されると、画像生成部1061が画像再構成を行い、ボリュームデータV1,V2,…,VNを生成する。さらに、画像処理部1062が、ボリュームデ
ータV1~V4の4つを用いて合成ボリュームデータV’1を生成する。本例では、合成ボリュームデータV’nは、ボリュームデータVn~V(n+3)を合成することで生成される。
【0049】
こうして得られた、合成ボリュームデータに対応する画像は、表示装置107に順次出力される。これにより、リアルタイムに更新される光音響画像を提供することができる。特に、高分解能領域が互いに重複する位置において光音響波を受信し、ボリュームデータを生成するため、当該重複する位置の近傍において特にアーチファクトを抑制することができる。
【0050】
合成ボリュームデータは、複数回分の光照射に対応する光音響信号を合成して得られたものである。しかし、被検体が生体である場合、例えば呼吸などの体動によって撮像対象が動くことがあるため、体動の前後で得られた光音響信号を合成して合成ボリュームデータを生成すると、体動によるボケが生じることがある。
よって、合成に用いるボリュームデータの数は、体動の影響が及ばない程度の数に制限することが好ましい。例えば、呼吸による体動が約0.3Hz(周期約3.33秒)である場合、この周期よりも短い時間の間に取得された光音響信号を合成することで、体動の影響が低減された画像を得ることが可能となる。
【0051】
仮に、光照射の周期が10Hzであるとすると、合成に用いるボリュームデータの数を16以下に制限すれば、合成に用いる光音響信号を1.6秒以内に取得できるので、体動周期の約半分以下での合成が可能になる。さらに、合成に用いるボリュームデータの数を8以下に制限すれば、合成に用いる光音響信号を0.8秒以内に取得できるので、体動周期の約1/4程度での合成が可能になる。合成に用いるボリュームデータの数が少ないほど時間分解能の高い画像が得られ、逆に、合成に用いるボリュームデータの数が多いほどSN比の高い画像が得られる。
【0052】
合成に用いるボリュームデータの数は、操作者によって任意に設定できるようにしてもよい。また、合成に用いるボリュームデータの数を表示することで、操作者への利便性を向上させることができる。さらに、合成に用いている光音響信号の取得時間幅や、取得時間幅から算出した周期(Hz)を表示することで、得られる画像の時間分解能を操作者に認識させることができる。これにより、操作者は、合成に用いるボリュームデータの数や、時間分解能の指定がしやすくなる。
【0053】
上述した動作によると、タイミングTe2で取得された光音響信号は、画像Im1およびIm2には反映されるが、画像Im3には反映されない。また、タイミングTe3で取得された光音響信号は画像Im1,Im2,Im3には反映されるが、画像Im4には反映されない。つまり、あるタイミングで取得された光音響信号(当該光音響信号を用いたボリュームデータ)の、表示画像に対する寄与度が、時間の経過とともに低下する。結果、ボリュームデータの合成により、アーチファクトを抑制するとともに、時間的に古い光音響信号による画像への寄与を抑制しながら画像を更新することが可能となる。
【0054】
上記で説明した動作を一般化して説明する。
本実施形態においては、被検体に対する相対位置が異なるN箇所(Nは3以上の整数)の位置で光音響信号をそれぞれ取得し、N個のボリュームデータを得る。そして、第i~第(i+m)のボリュームデータ(i+m<N,iおよびmはともに自然数)のうちの少なくとも2つのボリュームデータを合成することで第1の合成ボリュームデータを生成する。また、第(i+n)~第(i+n+m)のボリュームデータ(nは自然数)のうちの少なくとも2つのボリュームデータを合成することで第2の合成ボリュームデータを生成する。その後、第1の合成ボリュームデータに基づく画像を、第2の合成ボリュームデー
タに基づく画像で更新することで、第1の合成画像と第2の合成画像を順次表示する。
【0055】
図2(A)に示したように、所定の領域(例えば軌道201の中心)の周囲を繰り返し周回しながら光音響信号の受信を行い、複数のボリュームデータを合成して得られる画像を周期的に表示することで、所定の領域に対応する動画像を提供することができる。この動画像は、表示装置107に出力してもよいし、不図示の記憶部に記録してもよい。
【0056】
なお、ボリュームデータから合成ボリュームデータを作成する際に、古い光音響信号の寄与率を下げるため、合成の比率に重みを付けてもよい。例えば、ボリュームデータV(i)からV(i+m)を用いて合成ボリュームデータを作成する際のそれぞれのボリュームに対する比率をα(i)からα(i+m)とした場合、
α(i)≦α(i+1)≦α(i+2)≦α(i+3)…≦α(i+m)
となるようにすることで、合成ボリュームデータに対する古い光音響信号の寄与をさらに低減することが可能となる。
【0057】
また、表示装置107に、ボリュームデータを取得するのに要した時間幅(例えば、Pos1に対応する光音響信号を得たタイミングから、Pos4に対応する光音響信号を得たタイミングまでの期間)を示してもよい。これにより、現在表示されている合成画像データがどの程度の時間分解能を有しているのかを操作者が把握することができる。
【0058】
さらに、合成ボリュームデータを作成する際の、それぞれのボリュームに対する比率(α(i)からα(i+m))の値を表示してもよい。また、さらにその値を操作者が変更できるようにしてもよい。これにより、操作者の要望する時間分解能やアーチファクトの抑制レベルに応じて、測定パラメータを調整することができるようになる。
【0059】
また、画像処理部1062は、高分解能領域に対応する画像上の領域を、それ以外の領域に対して強調する画像処理を行うようにしてもよい。
【0060】
本実施形態は、複数の異なる波長の光を照射可能な光源を用いる場合にも適用できる。たとえば、被検体に照射する光の波長を1回の照射ごとに切り替える場合、異なる波長の光を照射することで得られた光音響信号同士を用いて画像再構成してもよいし、同じ波長の光を照射したことで得られた光音響信号同士を用いて画像再構成してもよい。いずれの場合にも、光音響信号を取得した複数のタイミングにおける高分解能領域のうち、少なくとも2つが重複していることが好ましい。同じ波長の光を照射することで得られた光音響信号のみを用いることにより、アーチファクトが低減された、その波長に特有な光音響画像を得ることができる。なお、同じ波長に対応する複数の光音響信号を用いる場合、それぞれの光音響信号を取得したタイミングが近いものを採用することで、時間分解能の高い光音響画像を得ることができる。
【0061】
次に、異なる複数の波長を被検体に照射し、得られた光音響信号に基づいて被検体内の機能情報に関する画像を生成する場合の例について説明する。
【0062】
図3は、光の照射タイミングごとの高解像度領域の中心の位置を模式的に示した図である。本例では、高解像度領域の中心の位置は時計回りに変化する。また、図4は、波長ごとの照射タイミングを示した図である。
【0063】
本実施形態に係る光音響装置は、探触子ユニット110を周回運動させながら、波長1の光と波長2の光を交互に被検体に照射する。
ここではまず、波長1の光に着目し、光の照射タイミングを説明する。
波長1の光は、第一の周回において、タイミングTe1,Te2,Te3,Te4でそ
れぞれ照射される。各タイミングにおける高分解能領域の中心位置(光の照射位置、すなわち半球の中心をXY平面に投影した位置)はそれぞれ、Pos1,Pos2,Pos3,Pos4となる。また、第二の周回において、タイミングTe5,Te6,Te7でそれぞれ照射される。各タイミングにおける高分解能領域の中心位置(光の照射位置)はそれぞれ、Pos5,Pos6,Pos7となる。
【0064】
波長2の光は、第一の周回において、タイミングTe1’,Te2’,Te3’でそれぞれ照射される。各タイミングにおける高分解能領域の中心位置(光の照射位置)はそれぞれ、Pos5,Pos6,Pos7となる。また、第二の周回において、タイミングTe4’,Te5’,Te6’,Te7’でそれぞれ照射される。各タイミングにおける高分解能領域の中心位置(光の照射位置)はそれぞれ、Pos1,Pos2,Pos3,Pos4となる。
【0065】
このように、本実施形態に係る光音響装置は、波長1の光の、第一の周回における照射位置と、波長2の光の、第二の周回における照射位置が同一の位置(Pos1,Pos2,Pos3,Pos4)になるように制御を行う。また、波長2の光の、第一の周回における照射位置と、波長1の光の、第二の周回における照射位置が同一の位置(Pos5,Pos6,Pos7)になるように制御を行う。すなわち、異なる波長の光が、異なる周回において互いに同じ位置に照射されるように制御する。
【0066】
図4を参照して説明を続ける。
波長1の光をPos1に照射したことに起因して得られた光音響信号から、ボリュームデータV11が得られる。また、波長1の光をPos2に照射したことに起因して得られた光音響信号から、ボリュームデータV12が得られる。さらに、ボリュームデータV11,V12,V13,V14を合成することで、合成ボリュームデータV1’が得られる。また、ボリュームデータV12,V13,V14,V15を合成することで合成ボリュームデータV1’2が得られる。
【0067】
波長2の光についても同様である。
波長2の光をPos5,Pos6,Pos7,…で照射して得られた光音響信号から、ボリュームデータV21,V22,V23,…が得られる。さらにボリュームデータV21,V22,V23,V24を合成することで合成ボリュームデータV2’1が得られる。また、ボリュームデータV22,V23,V24,V25を合成することで合成ボリュームデータV2’2が得られる。
【0068】
ここで、合成ボリュームデータV1’1と合成ボリュームデータV2’4とに着目する。合成ボリュームデータV1’1は、ボリュームデータV11,V12,V13,V14を合成したものであり、各ボリュームデータは、それぞれ高分解能領域の中心が位置Pos1,Pos2,Pos3,Pos4にあるときに得られたデータを使用している。合成ボリュームデータV2’4は、ボリュームデータV24,V25,V26,V27を合成したものであり、各ボリュームデータは、それぞれ高分解能領域の中心が位置Pos1,Pos2,Pos3,Pos4にあるときに得られたデータを使用している。つまり、合成ボリュームデータV1’1と合成ボリュームデータV2’4は、同じ位置に光を照射して得られた光音響信号を用いたものとなる。すなわち、当該データを使用することで、機能情報ボリュームを算出することができる。
【0069】
ここでは、異なる波長の光に対応する光音響信号を用いたボリュームデータから、酸素飽和度に関する指標を算出する例を説明する。
酸素飽和度(SO2)は、以下の式(2)により算出できる。
ここで、[HbO]は酸化ヘモグロビン濃度、[Hb]は還元ヘモグロビン濃度であ
る。εHbλ、εHbλはそれぞれ波長λ、λにおける還元ヘモグロビンのモル吸収係数、ΔεHbλ、ΔεHbλはそれぞれ波長λ、λにおける酸化ヘモグロビンのモル吸収係数から還元ヘモグロビンのモル吸収係数を引いた値である。また吸収係数(μλ、μλ)はそれぞれの位置での波長λ、λにおける吸収係数であり、合成ボリュームとして得られた初期音圧分布を光フルエンスで除することで得られる。
【数2】
【0070】
ここで、画像処理部1062の動作タイミングについて説明する。先ほど述べたように、精度の高い機能情報ボリュームを得るためには、合成ボリュームデータV1’1と合成ボリュームデータV2’4が揃うまで待つ必要がある。そのため、撮像しながら機能情報ボリュームを表示する際は、異なる周回で異なる波長が照射された位置が重畳し、かつ指示された数のボリュームデータが揃った時点(例えば、図4に示したタイミングT0)で演算を開始し、表示を更新することが好ましい。
【0071】
なお、タイミングT0が到来するまでは、合成ボリュームデータV2’1と、合成ボリュームデータV1’1のような、近いタイミングで取得したボリュームデータを合成した合成ボリュームデータを用いて機能情報ボリュームを算出してもよい。
さらに、合成ボリュームデータを生成する前のボリュームデータ同士で機能情報ボリュームを算出してもよい。このようなタイミングで処理を開始することで、より早いタイミングで撮像が開始できているかを操作者に確認させることができる。
【0072】
ここで本実施形態の効果について、図5を用いて説明する。
図5(a)から図5(g)は、Pos1からPos7に対応した位置における光照射分布を模式的に示した図である。また、図中の丸は、高感度領域の中心を示している。例えば、1回目の周回で、Pos1,Pos2,Pos3,Pos4の各位置に対して波長1の光を照射した場合、図5(a)~(d)に示した光照射分布に対応した光音響信号を取得できる。
また、2回目の周回で、タイミングTe4’,Te5’,Te6’,Te7’において、Pos1,Pos2,Pos3,Pos4の各位置に対して波長2の光を照射した場合も、図5(a)~(d)に示した光照射分布に対応した光音響信号を取得できる。
【0073】
このようにして得られた光音響信号から算出したボリュームデータを合成して合成ボリュームデータが得られる。つまり、波長1に対応する合成ボリュームデータV1’1と、波長2に対応する合成ボリュームデータV2’4は、ともに4つの光照射分布を積算した光照射分布に基づいて発生した光音響信号を用いて画像再構成したものと同等と考えることができる。図5(h)は、図5(a),図5(b),図5(c),図5(d)の光照射分布を積算したものである。
【0074】
ところで、式(2)に記載したように、酸素飽和度を求める際の計算式には、2つの波長の光フルエンスの比が含まれる。そのため、関心領域中において、波長ごとに光照射分布が異なる場合、酸素飽和度の算出において、補正処理の負荷が増すことを含め、誤差を増大させる要因となりうる。
一方、本実施形態に係る光音響装置では、合成ボリュームデータV1’1と、合成ボリュームデータV2’4とを用いて、酸素飽和度などの機能情報ボリュームを算出する。いずれの合成ボリュームも、同一の位置に光を照射して得られた光音響信号を用いたものであるため、波長ごとの光照射分布の比は、図5(i)に示したように均一となる。
【0075】
一方、光の照射位置が波長ごとに異なる場合、光照射分布の比がばらつくため、精度の高い情報を取得することができない。図5(j)は、波長1の光を、Pos1,Pos2,Pos3,Pos4に照射して得られた合成ボリュームと、波長2の光を、Pos5,Pos6,Pos7,Pos1に照射して得られた合成ボリュームを用いて酸素飽和度を算出した場合の光照射分布の比である。図から明らかなように、前述した制御を行わない場合、複数の波長の光を被検体に照射する場合における光照射分布の比がばらつき、精度低下を招いてしまう。
【0076】
以上説明したように、本実施形態に係る光音響装置は、第一の周回において第一の波長の光が照射される位置と、第一の周回以降に行われる第二の周回において第二の波長が照射される位置とが重なるように制御を行う。換言すると、異なるタイミングにおいて、異なる波長の光が照射される位置が重畳するように制御を行う。これにより、機能情報ボリュームを算出する際の精度を向上させることが可能となる。
【0077】
なお、ボリュームデータを合成する際のデータ数(以下、平均化数)を多くすると、関心領域内における光照射分布が均一化できる。平均化数は、一周回における一波長の照射回数程度(例えば、図3の例では3~4回程度)とすることが好ましい。特に指示のない場合のデフォルト値として、一周回程度の照射回数を採用してもよい。
【0078】
(第二の実施形態)
次に、第二の実施形態に係る光音響装置を、図6を参照して説明する。第二の実施形態に係る光音響装置は、画像処理部1062における、合成ボリュームの算出制御方法が異なるという点において、第一の実施形態と相違する。当該制御方法以外については、第一の実施形態と同様であるため、重複した説明は省略する。
【0079】
第一の実施形態では、合成ボリュームデータを生成する際の平均化数を4回とした。これに対し、第二の実施形態では、複数の周回において、ある波長における照射位置が同じ照射位置に戻ってくるまでの照射回数を平均化数(図3の例では7回)とする。
【0080】
図6は、第二の実施形態における照射タイミングを示した図である。図示したように、第二の実施形態では、複数回の周回によって得られるボリュームデータV11~V17の7つのボリュームデータを合成して、波長1に対応する合成ボリュームデータV1’’1を生成する。同様に、複数回の周回によって得られるボリュームデータV21~V27の7つのボリュームデータを合成して、波長2に対応する合成ボリュームデータV2’’1を生成する。
【0081】
これらの合成ボリュームデータは、その取得順は異なるものの、全てPos1,Pos2,Pos3,Pos4,Pos5,Pos6,Pos7において光の照射を行って得られた光音響信号を含んでいる。そのため、異なる波長間における光照射分布の比がより均一に近くなる。なお、第二の実施形態では、図6に示したタイミングT1において機能情報ボリュームの算出を開始することができる。
【0082】
第二の実施形態では、このように、ある波長に注目した際に、その照射位置が同じ場所に戻ってくるまでの照射回数(本例では7回)を平均化数とする。これにより、異なる波長間の光照射分布の比のばらつきを抑制し、機能情報ボリュームの精度を向上させること
ができる。また、同じ光照射分布によって得られた光音響信号を用いた画像を順次更新することができるため、ちらつきの少ない動画を表示することができる。
【0083】
(変形例)
なお、実施形態の説明は本発明を説明する上での例示であり、本発明は、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更または組み合わせて実施することができる。
例えば、本発明は、上記手段の少なくとも一部を含む光音響装置として実施することもできる。また、本発明は、上記処理の少なくとも一部を含む被検体情報取得方法として実施することもできる。上記処理や手段は、技術的な矛盾が生じない限りにおいて、自由に組み合わせて実施することができる。
【0084】
また、実施形態の説明では、光の照射位置を重畳させると表現したが、光照射分布が必ずしも完全に一致している必要はなく、各波長に対応する光照射分布の中心や重心が互いに近くに存在している状態であればよい。少なくとも、同じ周回における異なる波長間での照射位置の距離(例えば、タイミングTe1におけるPos1とタイミングTe1’におけるPos5)よりも、異なる周回における異なる波長間での照射位置の距離のほうが短ければ、本発明の効果が得られる。
【0085】
また、実施形態の説明では、異なる2つの波長を用い、周回運動の1周期を7分割した位置で光の照射を行ったが、異なる2つの波長を用いる場合、1周期を2N+1(Nは自然数)に分割し、2波長の光を交互に照射すれば本発明の効果が得られる。
また、3つの波長を順次切り替えながら照射する場合、1周期を3N+1もしくは3N-1(Nは自然数)に分割すれば、本発明の効果が得られる。
また、それぞれの場合において、1波長の1周回あたりの照射回数が、2波長の場合はfloor((2N+1)/2)、3波長の場合はfloor((3N±1)/3)となるため、この数をデフォルトの
平均化数としてもよい。
【0086】
また、実施形態の説明では、2波長および3波長の場合を例示したが、より多くの波長を用いてもよい。そのうちの少なくとも2つの波長が、異なる周回において同じ位置に照射されるように制御することで、本発明の効果を得ることができる。
また、使用する波長の数や平均化数などは、システムに入力される検査付帯情報を参照してシステムが自動的に判別してもよく、また操作者によってプリセットされた値を用いても構わない。
【0087】
また、光音響装置が用いる制御パラメータは、操作者による入力や検査付帯情報に基づいて設定ないし変更してもよい。例えば操作者から指示があった場合や、検査付帯情報から時間分解能を高める必要があると判断された場合、光源の周波数、1周回あたりの光照射回数、1周回に要する時間、周回運動の半径、平均化回数などを変化させてもよい。
【0088】
また、実施形態の説明では、変換素子と照射光学系の端部が一体化した形態を例示したが、必ずしもこれに限られない。また、実施形態の説明では、光の照射および音響波の受信と、画像の生成を平行して行う形態を例示したが、必ずしもこれに限られない。
【0089】
本発明は、以下の処理を実行することによっても実現される。即ち、上述した各実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は各種記憶媒体を介してシステム或いは装置に供給し、そのシステム或いは装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサがプログラムを読み出して実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、FPGAやASIC)によっても実現可能である。
【符号の説明】
【0090】
103:光源、104:照射光学系、110:探触子ユニット
図1
図2
図3
図4
図5
図6