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特許7195792基板の加工方法、並びに、液体吐出ヘッド用基板およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-16
(45)【発行日】2022-12-26
(54)【発明の名称】基板の加工方法、並びに、液体吐出ヘッド用基板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/14 20060101AFI20221219BHJP
   B41J 2/16 20060101ALI20221219BHJP
【FI】
B41J2/14 605
B41J2/14 603
B41J2/14 201
B41J2/16 101
B41J2/16 507
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2018128255
(22)【出願日】2018-07-05
(65)【公開番号】P2020006548
(43)【公開日】2020-01-16
【審査請求日】2021-06-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】樋口 広志
(72)【発明者】
【氏名】上村 貴之
(72)【発明者】
【氏名】加藤 雅隆
(72)【発明者】
【氏名】寺崎 敦則
(72)【発明者】
【氏名】玉作 秋一
【審査官】高松 大治
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-134470(JP,A)
【文献】特開2017-185659(JP,A)
【文献】特表2007-531645(JP,A)
【文献】特開2010-162887(JP,A)
【文献】特表2011-509203(JP,A)
【文献】特開2009-137155(JP,A)
【文献】特開平05-013381(JP,A)
【文献】特開2012-223902(JP,A)
【文献】特開平06-040037(JP,A)
【文献】特開2014-237229(JP,A)
【文献】特開2014-213485(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズル層と、基板と、を有する液体吐出ヘッド用基板であって、
前記ノズル層は、液体を吐出する吐出口と、該吐出口と連通し該吐出口に液体を輸送する液体流路と、を備えており、
前記基板は、前記液体を吐出するためのエネルギーを発生する記録素子と、前記液体流路と連通する液体供給口と、を備えており、
前記基板の前記記録素子が配された面を第一の面とし、該基板の該第一の面に対向する面を第二の面としたとき、前記液体供給口は、該基板の該第一の面から該第二の面まで貫通しており、
前記液体供給口は、前記第一の面に開口し、前記液体流路に連通する第一の供給口と、前記第二の面に開口し、該第一の供給口に連通する第二の供給口とを含み、
前記液体供給口は、基板面に平行な第一の方向に複数配され、1つの前記液体流路に対して、1つ以上の前記液体供給口が連通しており、
前記第一の方向に隣り合う前記液体供給口の少なくとも一部において、
なる液体供給口が有する隣り合う第一の供給口の前記第一の方向における中心間距離が、前記第一の面から前記第二の面に向かって拡大する領域を少なくとも有し、
記異なる液体供給口が有する、隣り合う第一の供給口の前記第一の面における前記第一の方向の中心間距離が、隣り合う第二の供給口の前記第二の面における該第一の方向の中心間距離よりも小さく、
前記第一の供給口の前記第二の供給口側の開口の中心軸は、前記第二の供給口の前記第一の供給口側の開口の中心軸に対して前記記録素子側にずれている、
ことを特徴とする液体吐出ヘッド用基板。
【請求項2】
前記記録素子の中心位置から、前記第一の供給口の前記記録素子側の開口端までの前記第一の方向における距離をL1、前記記録素子の中心位置から、前記第二の供給口の前記記録素子側の開口端までの前記第一の方向における距離をL2とした時、少なくとも一つの液体供給口で、L1<L2が成立する、請求項1に記載の液体吐出ヘッド用基板。
【請求項3】
前記第二の供給口が、前記第一の方向と直交し基板面に平行な第二の方向に延在しており、
前記記録素子と前記吐出口の対が、前記第二の方向に複数配される、請求項1または2に記載の液体吐出ヘッド用基板。
【請求項4】
前記記録素子と前記吐出口の対が、1つの前記液体流路において、前記第一の方向に、1つまたは2つずつ配される、請求項3に記載の液体吐出ヘッド用基板。
【請求項5】
前記第二の供給口が、前記第一の方向と直交し基板面に平行な第二の方向に延在しており、
各液体供給口において、前記第一の供給口が前記第二の方向に複数配され、該複数の第一の供給口が1つの前記第二の供給口に連通する、請求項1~4のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッド用基板。
【請求項6】
異なる液体供給口が有する、隣り合う第一の供給口の前記第二の方向における位置が、略同一である、請求項5に記載の液体吐出ヘッド用基板。
【請求項7】
前記液体流路が、異なる液体供給口が有する、隣り合う2つの前記第二の供給口と連通した前記第一の供給口の少なくとも一対と連通する、請求項1~6のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッド用基板。
【請求項8】
前記一対の第一の供給口の前記第一の方向における中心間距離が、前記第一の面から前記第二の面に向かって拡大する領域を少なくとも有し、該一対の第一の供給口が、該一対の第一の供給口の該第一の方向における中心位置を軸として、該第一の方向に対称な傾きを有する、請求項7に記載の液体吐出ヘッド用基板。
【請求項9】
前記第一の面における前記第一の供給口の位置を基準とした、該第一の供給口の基板厚み方向に対する傾斜角度が、複数の該第一の供給口のうち前記基板の中心から前記第一の方向の外側に配されている第一の供給口ほど徐々に大きくなる、請求項1~7のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッド用基板。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッド用基板と、該液体吐出ヘッド用基板を支持する支持部材と、を有する液体吐出ヘッドであって、
前記支持部材には、前記第二の供給口と連通する供給路が複数形成されており、
隣り合う該供給路の前記第二の面における前記第一の方向の中心間距離は、隣り合う前記第二の供給口の前記第二の面における前記第一の方向の中心間距離よりも小さい、
ことを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項11】
基板に、基板厚み方向に対して傾きの異なる複数の孔を形成する方法であって、
前記基板にエッチングマスクを形成する工程と、前記エッチングマスクを形成した前記基板に反応性イオンエッチングにより前記孔を形成する工程と、前記エッチングマスクを除去する工程とを少なくとも有し、
前記エッチングマスクは、前記基板のエッチング開始面の大きさを規定する第一のマスクと、前記反応性イオンエッチングにおける被エッチング領域の周囲の該第一のマスク上の少なくとも一部に配され、形成する孔の基板厚み方向の傾きに対応した厚みを有する第二のマスクと、を有し、
前記エッチングマスクを形成する工程が、前記第二のマスクを作製した後に、該第二のマスクの少なくとも前記被エッチング領域側の角部を丸める処理を含む、ことを特徴とする基板の加工方法。
【請求項12】
前記被エッチング領域の周囲に配された前記第二のマスク側に、エッチングの進行方向が傾く、請求項11に記載の基板の加工方法。
【請求項13】
前記被エッチング領域が、基板の中心から外側に向かって、より厚く形成された前記第二のマスクで規定される領域を有する、請求項11または12に記載の基板の加工方法。
【請求項14】
前記基板が、少なくともエッチング開始面に、シリコン層もしくはシリコン酸化膜を有する、請求項1113のいずれか一項に記載の基板の加工方法。
【請求項15】
前記エッチングマスクが、感光性樹脂を含む、請求項1114のいずれか一項に記載の基板の加工方法。
【請求項16】
ノズル層と、基板と、を有する液体吐出ヘッド用基板の製造方法であって、
前記ノズル層は、液体を吐出する吐出口と、該吐出口と連通し該吐出口に液体を輸送する液体流路と、を備えており、
前記基板は、前記液体を吐出するためのエネルギーを発生する記録素子と、前記液体流路と連通する液体供給口と、を備えており、
前記基板の前記記録素子が配された面を第一の面とし、該基板の該第一の面に対向する面を第二の面としたとき、前記液体供給口は、該基板の該第一の面から該第二の面まで貫通しており、
前記第一の面に開口する前記液体供給口の少なくとも一部を、請求項11~15のいずれか一項に記載の基板の加工方法を用いて形成することを特徴とする液体吐出ヘッド用基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板の加工方法、並びに、液体吐出ヘッド用基板およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録ヘッド等の液体吐出ヘッドは、特許文献1に示されるように、外部の液体供給系との接続、或いは基板の保持等の観点から、記録素子が形成された液体吐出ヘッド用基板を何らかの支持部材と接合して構成される。
【0003】
ここで、一つの基板内で複数の液体(例えば、複数色のインク)を使用可能な液体吐出ヘッド用基板においては、基板と支持部材の接合部において、複数の液体の混合を防止する為に、各液体間を封止することが求められる。
【0004】
また、近年、生産性の向上、及び、液体吐出機能の向上のために、基板の微細加工および液体吐出ノズルの高密度配置が進められている。同一基板で複数の液体を使用可能な液体吐出ヘッド用基板においては、各液体間の距離を縮めることによりヘッドの高密度化が達成できる。その為に、記録素子を駆動する為の電気回路や、液体供給口の縮小が進められている。
【0005】
液体吐出ヘッド用基板に形成される液体供給口としては、特許文献2に示されるように、基板のおもて面(第一の面)に開口する第一の供給口と、該第一の供給口に連通し、基板の裏面(第二の面)に開口する第二の供給口とを含む構成が知られている。このような液体吐出ヘッド用基板では、支持部材から第二の供給口へ供給された液体が、第一の供給口を経て、液体吐出口から吐出される。
【0006】
液体吐出ヘッド用基板に液体供給口を形成する手段としては、ドリル、レーザー、サンドブラスト等の手法や、ウェットエッチングによる結晶異方性エッチング、エッチングガスを用いるドライエッチング等の手法が知られている。これらの中でもエッチングガスを用いるドライエッチングにより液体供給口を形成する方法では、精度よく、基板面に対して垂直な形状の液体供給口を形成することができる。このため、他の手法と比較して、複数の液体供給口間の距離を縮小し易く、液体吐出ヘッド用基板の高密度化が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2005-125516号公報
【文献】特開2009-96036号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
液体吐出ヘッド用基板のおもて面には、記録素子やその駆動回路などのパターン、さらに、液体吐出口を配置するために必要な領域等が存在する。従って、液体吐出ヘッドの高密度化を図るためには、これらの間を縫って、液体吐出口に対応した第一の供給口を多数形成することが求められる。よって、第一の供給口は、限られた領域への微細配置が求められる。
一方、第二の供給口が開口する基板の裏面には、通常、微細化に不利な樹脂成型品から成る支持部材が接合される。このため、液体吐出ヘッドの高密度化を図るために、第一の供給口に合わせて、第二の供給口を単に微細化しただけでは、支持部材等に起因する生産性の低下やコストアップを避けることはできない。
従って、生産性やコストに対する要求を満たした上で、高密度化が可能な液体吐出ヘッド用基板を製造するための技術の開発が求められている。
【0009】
本発明は上記事情を鑑みてなされたものであり、優れた生産性及び低コストを維持したまま高密度化が可能な液体吐出ヘッド用基板の製造に用いることのできる基板の加工方法、当該方法を用いた液体吐出ヘッド用基板及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様は、ノズル層と、基板と、を有する液体吐出ヘッド用基板であって、前記ノズル層は、液体を吐出する吐出口と、該吐出口と連通し該吐出口に液体を輸送する液体流路と、を備えており、前記基板は、前記液体を吐出するためのエネルギーを発生する記録素子と、前記液体流路と連通する液体供給口と、を備えており、前記基板の前記記録素子が配された面を第一の面とし、該基板の該第一の面に対向する面を第二の面としたとき、前記液体供給口は、該基板の該第一の面から該第二の面まで貫通しており、前記液体供給口は、前記第一の面に開口し、前記液体流路に連通する第一の供給口と、前記第二の面に開口し、該第一の供給口に連通する第二の供給口とを含み、前記液体供給口は、基板面に平行な第一の方向に複数配され、1つの前記液体流路に対して、1つ以上の前記液体供給口が連通しており、前記第一の方向に隣り合う前記液体供給口の少なくとも一部において、異なる液体供給口が有する隣り合う第一の供給口の前記第一の方向における中心間距離が、前記第一の面から前記第二の面に向かって拡大する領域を少なくとも有し、前記異なる液体供給口が有する、隣り合う第一の供給口の前記第一の面における前記第一の方向の中心間距離が、隣り合う第二の供給口の前記第二の面における該第一の方向の中心間距離よりも小さく、前記第一の供給口の前記第二の供給口側の開口の中心軸は、前記第二の供給口の前記第一の供給口側の開口の中心軸に対して前記記録素子側にずれている、ことを特徴とする液体吐出ヘッド用基板である。
また、本発明の一態様は、上記液体吐出ヘッド用基板と、該液体吐出ヘッド用基板を支持する支持部材と、を有する液体吐出ヘッドであって、前記支持部材には、前記第二の供給口と連通する供給路が複数形成されており、隣り合う該供給路の前記第二の面における前記第一の方向の中心間距離は、隣り合う前記第二の供給口の前記第二の面における前記第一の方向の中心間距離よりも小さい、ことを特徴とする液体吐出ヘッドである。
【0011】
また、本発明の一態様は、基板に、基板厚み方向に対して傾きの異なる複数の孔を形成する方法であって、前記基板にエッチングマスクを形成する工程と、前記エッチングマスクを形成した前記基板に反応性イオンエッチングにより前記孔を形成する工程と、前記エッチングマスクを除去する工程とを少なくとも有し、前記エッチングマスクは、前記基板のエッチング開始面の大きさを規定する第一のマスクと、前記反応性イオンエッチングにおける被エッチング領域の周囲の該第一のマスク上の少なくとも一部に配され、形成する孔の基板厚み方向の傾きに対応した厚みを有する第二のマスクと、を有し、前記エッチングマスクを形成する工程が、前記第二のマスクを作製した後に、該第二のマスクの少なくとも前記被エッチング領域側の角部を丸める処理を含む、ことを特徴とする基板の加工方法である。
【0012】
さらに、本発明の一態様は、ノズル層と、基板と、を有する液体吐出ヘッド用基板の製造方法であって、前記ノズル層は、液体を吐出する吐出口と、該吐出口と連通し該吐出口に液体を輸送する液体流路と、を備えており、前記基板は、前記液体を吐出するためのエネルギーを発生する記録素子と、前記液体流路と連通する液体供給口と、を備えており、前記基板の前記記録素子が配された面を第一の面とし、該基板の該第一の面に対向する面を第二の面としたとき、前記液体供給口は、該基板の該第一の面から該第二の面まで貫通しており、前記第一の面に開口する前記液体供給口の少なくとも一部を、上記基板の加工方法を用いて形成することを特徴とする液体吐出ヘッド用基板の製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、優れた生産性及び低コストを維持したまま高密度化が可能な液体吐出ヘッド用基板の製造に用いることのできる基板の加工方法、当該方法を用いた液体吐出ヘッド用基板及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の液体吐出ヘッド用基板の一実施形態を含む液体吐出ヘッドを説明するための図であり、(a)はその断面斜視図であり、(b)はその模式的断面図である。
図2】本発明の液体吐出ヘッド用基板の一実施形態を説明するための図であり、(a)はその模式的断面図であり、(b)はその模式的平面図である。
図3】本発明の基板の加工方法の一実施形態における各工程を説明するための模式的断面図である。
図4】(a)はドライエッチング時に形成されるシースの一例を説明するための模式図であり、(b)はそのシースによるドライエッチングの途中の段階における基板の模式的断面図である。
図5】本発明の液体吐出ヘッド用基板の複数の実施形態を説明するための模式的断面図である。
図6-1】本発明の液体吐出ヘッド用基板の製造方法の一実施形態における各工程の一部((a)~(e))を説明するための模式的断面図である。
図6-2】本発明の液体吐出ヘッド用基板の製造方法の一実施形態における各工程の一部((f)~(k))を説明するための模式的断面図である。
図7】本発明の液体吐出ヘッド用基板の製造方法の他の実施形態における各工程を説明するための模式的断面図である。
図8】従来の液体吐出ヘッド用基板の製造方法の一例を説明するための模式的断面図である。
図9】本発明の液体吐出ヘッド用基板の製造方法のさらに他の実施形態における各工程を説明するための模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の基板の加工方法を用いて液体吐出ヘッド用基板を作製することにより、第二の面に開口する第二の供給口は支持部材と容易に接合できる寸法間隔で形成でき、より高密度配置が求められる第一の面に開口する第一の供給口はより小さな寸法間隔で形成できる。これにより、液体吐出ヘッドにおいて、ノズル及び液体供給口の高密度化とともに、生産性及び吐出機能の向上を達成することができる。
以下に、図3及び図4を用いて、本発明の基板の加工方法の実施形態について詳しく説明する。
【0016】
<基板の加工方法>
本発明の基板の加工方法は、基板に、基板厚み方向に対して傾きの異なる複数の孔を形成する方法であり、以下の工程を少なくとも有する。
・基板にエッチングマスクを形成する工程(マスク形成工程)。
・前記エッチングマスクを形成した前記基板に反応性イオンエッチングにより前記孔を形成する工程(孔形成工程)。
・前記エッチングマスクを除去する工程(マスク除去工程)。
以下に、各工程について詳しく説明する。
【0017】
(マスク形成工程)
図3(a)~(c)に示すように、基板50に、エッチングマスクを形成する。ここで、エッチングマスクは、基板のエッチング開始面の大きさを規定する第一のマスク51(第一段目のエッチングマスク)と、形成する孔の基板厚み方向の傾きに対応した厚みを有する第二のマスクとを有する。
【0018】
図3では、この第二のマスクとして、第二のマスクI 52(第二段目のエッチングマスク)と、第二のマスクII 53(第三段目のエッチングマスク)とが形成されている。これらの第二のマスクは、反応性イオンエッチングにおける被エッチング領域の周囲の第一のマスク上の少なくとも一部に配される。これらのマスク(符号51~53)には、開口部51a~53aが形成されている。
【0019】
なお、これらのマスクは、例えば、図3(a)~(c)に示すように、マスク材料としての感光性樹脂の塗布、露光及び現像をそれぞれ行うことにより、段階的に形成することができる。図3では、反応性イオンエッチングにおける被エッチング領域が、基板の中心から外側に向かって、より厚く形成された、すなわち、基板の中心から外側に向かって徐々に厚く形成された第二のマスクで規定される領域を有する。詳しくは、第一の厚みを有する第二のマスクで規定される第一のエッチング領域(符号51aii)と、第一の厚みを有する第二のマスクと(例えば、該第一の厚みより薄い(又は厚い))第二の厚みを有する第二のマスクで規定される第二のエッチング領域(符号51aiii)を有する。そして、この第一のエッチング領域が基板の中心側に配置され、第二のエッチング領域が基板の(例えば、紙面左右方向の)外側に配置される。
従って、図3に示す被エッチング領域は、一部が最も厚みのあるマスクで囲われた領域51aiii、一部が二番目に厚いマスクで囲われた領域51aii、及び最も薄いマスクですべてが囲われた領域51aiを有する。
【0020】
このように、図3では、形成する孔の基板厚み方向(紙面上下方向)に対する傾きに応じて、被エッチング領域として、以下の領域が存在する。すなわち、エッチングマスクが第一のマスクのみで規定される領域51aiと、第一のマスクと1層の第二のマスクとで規定される領域51aiiと、第一のマスクと2層の第二のマスクとで規定される領域51aiiiとが存在する。
【0021】
本発明では、一つの開口パターンすなわち被エッチング領域を、離散的な複数の厚みを持つエッチングマスクによって囲むように形成することができる。このように、異なる複数の厚みを有するエッチングマスクを形成すると、図4(a)に示すように、ドライエッチング時に形成されるシース55がエッチングマスクの厚みに倣って歪み、一様にはならない。従って、エッチング中はシースに対して垂直な方向にイオンが基板に向かって飛翔するため、図4(b)に示すように、被エッチング領域51ai~51aiiiでは、それぞれ異なった方向にエッチングが進行する。具体的には、被エッチング領域の周囲に配された第二のマスク側に、エッチングの進行方向が傾く。
すなわち、第一のマスク51で周囲がすべて囲われた被エッチング領域51aiでは、基板面に対して垂直な方向(鉛直方向)にエッチングが進行する。また、周囲の一部に1層の第二のマスクI 52が形成された被エッチング領域51aiiでは、基板面に対して垂直な方向に対して、この第二のマスクI 52側に傾いた方向にエッチングが進行する。さらに、周囲の一部に2層の第二のマスクが形成された被エッチング領域51aiiiでは、基板面に対して垂直な方向に対して、これらの第二のマスク側にさらに傾いた方向にエッチングが進行する。このように、被エッチング領域を囲うエッチングマスクの一部の厚みを変えることで、形成されるシースを歪ませることができ、エッチングの進行方向を所望の方向に制御することができる。
【0022】
上述の説明より、第二のマスクの厚みと、当該第二のマスクを介して行うエッチングの進行方向の傾きとは相関関係があると言える。従って、第二のマスクは、形成する孔の基板厚み方向の傾きに対応したシース形状を形成するために、適宜その厚みを設定でき、さらに、エッチング条件や用いる基板の材質等も考慮に入れて適宜設定することができる。
このように、エッチングマスク(特に第二のマスク)の必要段数(層数)や厚みは任意に選択できるが、この作用を得るためには、通常、シース厚み(基板表面からシースまでの距離)に対して10分の1以上のマスク厚みとすることが求められる。例えば、ドライエッチングのシース厚みが数mm程度のオーダーの場合には、少なくとも数百μm程度以上のマスク厚みとすることが好ましい。
【0023】
なお、基板に対するエッチングの進行方向をより傾ける場合や、より微細なパターンでの進行方向を傾ける場合には、図9(b)に示すように、エッチングマスクの角部が丸い形状のエッチングマスクを用いることが好ましい。これにより、シース形状がエッチングマスク形状により倣い易くなる。
従って、上記マスク形成工程は、第二のマスクを作製した後に、該第二のマスクの少なくとも被エッチング領域側の角部を丸める処理を含むことが好ましい(処理工程)。なお、この処理工程において、角部を丸める処理を行う第二のマスクとは、各領域の周囲に形成された第二のマスクのうち、最表層となるマスクであることができる。すなわち、例えば、図3(c)では、領域51aiiiに対しては、第二のマスクII 53であることができ、領域51aiiに対しては、第二のマスクI 52であることができる。
【0024】
これらのエッチングマスクを構成する材料は特に限定されない。例えば、図3に示す基板50上に、感光性樹脂、金属及び酸化膜等を成膜することによって、エッチングマスクを形成してもよい。また、基板50上に、直接、エッチングマスクを形成せずに、別途作製したマスクを基板上に重ねてもよく、例えば、所望の第一の供給口のパターンが刻まれたメカニカルマスクを基板50上に配置することでエッチングマスクとしてもよい。
しかしながら、より簡便にエッチングマスクを形成できることから、エッチングマスクは、感光性樹脂(例えば、ネガ型感光性樹脂)を含むことが好ましい。このように、エッチングマスクが感光性樹脂のような有機物から成る場合には、該感光性樹脂を基板上に塗布しパターニングしてエッチングマスクを形成した後に、例えば、処理工程として酸素プラズマ処理を行うことで、第二のマスクの角部を丸めることができる。
【0025】
エッチングマスク(材料)の塗布方法及び形成方法としては、例えば、スピンコートやスリットコート、ドライフィルムテンティング等を用いることができる。また、パターニングには、フォトリソグラフィー法による露光現像処理を用いることができる。
【0026】
(孔形成工程)
次いで、図3(d)に示すように、第一のマスク51及び第二のマスク(符号52及び53)を有する基板に対して、ドライエッチング(詳しくは反応性イオンエッチング)により、第一の面50aから第二の面50bを貫通する複数の孔54を形成する。上述したように、ドライエッチングの際、各領域の周囲に形成されたエッチングマスクの厚みに応じて、第二のマスク側に、エッチングの進行方向が傾く。その結果、図4(b)に示すエッチングの途中段階を経て、図3(d)に示すように、基板厚み方向に対して異なる傾きを有する複数の孔54i~54iiiがそれぞれ形成される。これらの孔はそれぞれ別々の角度で、第一の面から第二の面に延伸している。例えば、孔54iiiは、図3(e)に示すように、第一の面における(開口の中心)位置を基準として、基板厚み方向に対して角度θiiiの傾きで、基板50を貫通している。なお、第一の面50aにおける孔の(開口の中心)位置を基準とした、孔の基板厚み方向に対する傾斜角度θは、上述したエッチングマスクの厚み等を調整することで適宜設定することができる。また、基板としては、例えば、シリコン基板やシリコン酸化膜を有する基板を用いることができ、少なくともエッチング開始面に、シリコン層及びシリコン酸化膜の少なくとも一方を有することができる。
【0027】
(マスク除去工程)
続いて、図3(e)に示すように、エッチングマスク(符号51~53)を除去する。除去方法としては特に限定されず、液体吐出ヘッドの分野で公知な方法を用いて各マスクを同時に又は別々に除去することができる。
【0028】
以上の工程を経ることで、液体吐出ヘッド用基板に応用することができる、基板厚み方向に対して傾きの異なる複数の孔を有する加工基板を得ることができる。
【0029】
続いて、上述した基板の加工方法を用いて製造できる、本発明の液体吐出ヘッド用基板の複数の実施形態について、図面を参照して詳しく説明する。なお、図1は、本発明の液体吐出ヘッド用基板の一実施形態を含む液体吐出ヘッドの模式的な図であり、(a)はその断面斜視図であり、(b)はその断面図である。また、図2は、本発明の液体吐出ヘッド用基板の一実施形態を説明するための図であり、(a)はその模式的断面図であり、(b)はその模式的平面図である。ここで、図2(b)には、第一の供給口の開口部と、第二の供給口の開口部の位置関係が示されている。さらに、図5(a)~(b)は、本発明の液体吐出ヘッド用基板のその他の実施形態を説明するための模式的断面図である。
【0030】
<液体吐出ヘッド用基板>
(第一の実施形態)
図1及び図2に示すように、本実施形態の液体吐出ヘッド用基板30は、ノズル層10及び(素子)基板20を含むことができ、当該液体吐出ヘッド用基板30は、(液体)供給路41を有する支持部材40に接合され液体吐出ヘッドとして用いることができる。また、当該液体吐出ヘッド用基板30は、(液体)吐出口11と、記録素子21と、液体流路12と、第一の面20a及び第二の面20bを有する(素子)基板20と、液体供給口22とを有する。
本発明の液体吐出ヘッド用基板を用いた液体吐出ヘッド(例えば、インクジェット記録ヘッド)は、プリンタ、複写機、通信システムを有するファクシミリ、更には、各種処理装置と複合的に組み合わせた産業記録装置に搭載可能である。
【0031】
また、作製された液体吐出ヘッド用基板30は、第二の面20bにて支持部材40と接合される。この時、液体吐出ヘッド用基板30の第二の供給口22bと、支持部材40の液体供給路41とが連通されることにより、支持部材側の液体タンク(不図示)から、素子基板内、具体的には、第二の供給口内に液体が供給される。そして、液体流路内に充填された液体が、記録素子から発生する液体を吐出するためのエネルギーによって、吐出口から吐出され、紙などの記録媒体にこの液体が着弾することにより、印字(記録)を行うことができる。
【0032】
以下に、本実施形態の液体吐出ヘッド用基板の各構成について詳しく説明する。
【0033】
(ノズル層)
ノズル層10は、液体を吐出する吐出口11と、吐出口11と連通し、記録素子21に液体(例えば、インク等の記録液)を輸送する液体流路12とを有する。吐出口11は、図1(b)及び図2(a)に示すように、記録素子21の上方(紙面上方)の部分に形成することができ、通常、1つの液体吐出ヘッド用基板に複数形成される。液体流路12は、素子基板20の第一の面20a上に配され、吐出口11と液体供給口22と連通する空間部分であり、この空間部分に液体を保持する液室として利用される。
当該ノズル層10は、例えば、感光性樹脂を用いて形成することができ、単層又は複数層で構成されることができる。例えば、ノズル層10は、吐出口11を有するオリフィスプレートと、液体流路12を有する流路壁部材とから構成されることができる。
【0034】
(素子基板)
素子基板20は、(複数の)記録素子21が配された第一の面20aと、第一の面20aに対向する第二の面20bとを有する。素子基板20に用いる基板としては、例えば、シリコン基板(シリコンウエハ)を用いることができ、当該基板の厚さは、例えば、0.1mm~1.0mmの範囲とすることができる。記録素子21は、液体吐出ヘッド用基板の吐出口から液体を吐出するためのエネルギーを発生できるものであればよい。記録素子21としては、例えば、液体を沸騰させる電気熱変換素子(発熱抵抗体素子、ヒータ素子)や、体積変化や振動により液体に圧力を与える素子(ピエゾ素子、圧電素子)等を用いることができる。
【0035】
図1及び図2に示す実施形態では、素子基板20の第一の面20a上には、複数の記録素子21、複数の液体流路12、及び、複数の吐出口11から構成されるノズル列が基板面に平行な第一の方向Xに複数(2列)設けられている。各ノズル列では、第一の面20a上に、記録素子21と吐出口11との対が複数、第一の方向Xに直交する第二の方向Yに沿って所定のピッチで列状に(1列)配置されている。
また、各ノズル列では、図2に示すように、各記録素子21に対応した液体流路12が配置されており、上記記録素子21と吐出口11との対が、1つの液体流路12において、第一の方向に1つ又は複数(例えば2つ)ずつ配置されている。そして、このノズル列毎に、素子基板の第一の面20aから第二の面20bまで貫通する液体供給口22が形成されており、当該液体供給口22は、第一の面20aにおいて液体流路12と連通し、第二の面20bにおいて液体供給路41と連通している。
この液体供給口22は、第一の面20aに開口し、液体流路12に連通する第一の供給口22aと、第二の面20bに開口し、第一の供給口22aに連通する第二の供給口22bとを含む構成となっている。
【0036】
なお、図1及び図2に示す実施形態では、各液体流路12が、異なる液体供給口22が有する、隣り合う2つの第二の供給口22bと連通した第一の供給口22aの一対と連通している。また、異なる液体供給口22が有する、隣り合う第一の供給口(例えば、上記一対の第一の供給口)の第二の方向Yにおける位置は略同一となっており、それぞれ同一ピッチで配されている。
【0037】
このように、液体供給口22は、基板面に平行な第一の方向Xに複数配され、1つの液体流路12に対して、1つ以上(図1では2つ)の液体供給口22が連通している。ここで、第二の供給口22bは、第一の方向Xと直交し基板面に平行な第二の方向Yに延在して配されている。また、図2(b)に示すように、各液体供給口において、第一の供給口22aが第二の方向Yに複数(所定のピッチで)配され、その複数の第一の供給口が1つの第二の供給口22bに連通している。なお、各液体供給口において、第一の供給口は、第二の方向Yに沿って、一列に配置されている。
【0038】
また、本実施形態の液体吐出ヘッド用基板は、第一の方向Xに隣り合う液体供給口22(例えば、上記一対の第一の供給口)の少なくとも一部において、以下の構成を有する。すなわち、当該液体吐出ヘッド用基板では、異なる液体供給口が有する隣り合う第一の供給口22aの第一の方向Xにおける(開口の)中心間距離が、第一の面20aから第二の面20bに向かって拡大する領域を少なくとも有する。図2では、各液体流路に連通する一対の第一の供給口22aiと22aii、22aiiiと22aivの第一の方向における中心間距離A及びAが、第一の面から第二の面(より詳しくは第一の供給口と第二の供給口との連結面)に向かって拡大している。言い換えると、第一の供給口22aは、上記中心間距離が拡大する斜め方向に第二の面20bに向かって延伸して形成されている。
また、図2に示す液体吐出ヘッド用基板では、各液体流路に連通する一対の第一の供給口は、一対の第一の供給口の第一の方向における中心位置を軸として、第一の方向に対称な傾きを有している。
なお、第一の面20aにおける第一の供給口の(開口の中心)位置を基準とした、第一の供給口の基板厚み方向に対する傾斜角度θは、上述した基板の加工方法と同様に、適宜設定することができる。例えば、上記傾斜角度θは、0°以上、90°未満とすることができる。
【0039】
なお、上記中心間距離は、第一の面から第二の面に向かって拡大する領域が存在すればよく、これらの図に示すように、連続して拡大していてもよいし、中心間距離が変化しない領域を一部有していてもよい。しかしながら、液体吐出ヘッドの高密度化等の観点から、上記中心間距離は、第一の面から第二の面に向かって連続して拡大することが好ましい。
【0040】
また、図2のように、隣り合う第一の供給口の両方が、第一の面から第二の面に向かって、上記中心間距離が拡大する斜め方向に延伸していてもよい。或いは、後述する図5(b)のように、隣り合う第一の供給口の一方のみが、上記中心間距離が拡大する斜め方向に延伸していてもよい。結果的に、隣り合う第一の供給口22aの第一の方向における中心間距離が、第一の面から第二の面に向かって拡大する領域が存在すればよい。
【0041】
この際、図1(b)に示すように、第一の供給口22aは、第二の供給口の天井部分23で第二の供給口22bと連通することが好ましい。第二の供給口の天井部分23で第一の供給口と連通することにより、第二の供給口の側壁部分24と連通した場合と比較して、ドライエッチング時の基板の貫通加工の際に、バリの残存を容易に防ぐことができる。
【0042】
また、本実施形態の液体吐出ヘッド用基板は、第一の方向Xに隣り合う液体供給口22の少なくとも一部において、以下の構成を有する。すなわち、異なる液体供給口が有する、隣り合う第一の供給口22aの第一の面20aにおける第一の方向Xの中心間距離が、隣り合う第二の供給口22bの第二の面20bにおける第一の方向Xの中心間距離よりも小さくなる。図2では、隣り合う第一の供給口22aiと22aiiの第一の面での第一の方向の中心間距離Aが、隣り合う第二の供給口22biと22biiの第二の面での第一の方向の中心間距離Bよりも小さくなっており、A<Bの関係を満たす。図2に示す液体吐出ヘッド用基板では、各液体流路12に連通する、隣り合う第一の供給口の開口の中心位置の第一の面での隣接間ピッチを同じ距離としており、中心間距離AとAとは等しい。また、同様に、第二の供給口の開口の中心位置の第二の面での隣接間ピッチも同じ距離としており、中心間距離BとBとは等しい。従って、隣り合う第一の供給口22aiiiと22aivの第一の面での第一の方向の中心間距離Aは、隣り合う第二の供給口22biiiと22bivの第二の面での第一の方向の中心間距離Bよりも小さくなっており、A<Bの関係が成立する。
【0043】
このように、液体供給口22i、22ii、22iii、22ivでは、第一の供給口と第二の供給口の平面位置関係が異なっており、各液体供給口では、第二の供給口に対して、第一の供給口が互いに近づいた位置に開口している。
【0044】
また図1に示すように、記録素子の中心位置から第一の供給口の記録素子側の開口端までの第一の方向における距離をL1、記録素子の中心位置から第二の供給口の記録素子側の開口端までの第一の方向における距離をL2としたとき、以下を満たすことが好ましい。すなわち、液体吐出ヘッド用基板が有する少なくとも1つの液体供給口22において、L1<L2が成立することが好ましい。言い換えると、第一の方向において、第二の供給口の開口端位置よりも、第一の供給口の開口端位置を記録素子21近くに配置することが好ましい。これにより、ノズル部への液体の供給が容易となり、液体の吐出スピードを一層上げることができる。従って、第一の供給口に併せて第二の供給口を微細化せずとも、つまり、支持部材の生産性を落とさずに液体吐出ヘッドの吐出機能を高めることが可能となる。
これにより、微細化には不利な支持部材を接合する第二の面のピッチを変えることなく、第一の面のピッチをより微細化した液体供給口22を基板20に形成することができる。
【0045】
(第二の実施形態)
図5(a)に示す第二の実施形態では、1つの液体流路74に対して、記録素子と吐出口73との対が第一の方向(紙面左右方向)に2つずつ配されている。そして、これらから構成されるノズルが、第二の方向(紙面手前-奥方向)に沿って略等間隔に複数配置されることによって構成されるノズル列が、第一の方向に5列(吐出口列は10列)配置されている。そして、各液体流路74に対して、第二の方向に沿って所定のピッチで一列に配置された第一の供給口69が1つずつ連通している。また、この第二の方向に沿って配された複数の第一の供給口が、第二の方向に延在して配される1つの第二の供給口64に連通し、1つの液体供給口を構成している。
【0046】
また、異なる液体供給口が有する、隣り合う第一の供給口の第二の方向における位置は略同一となっており、それぞれ同一ピッチで配されている。「位置が略同一である」或いは「同一ピッチで配されている」とは、製造誤差を除いて実質的に同じ位置関係、或いはピッチであることを意味している。ここで、図5(a)に示す液体吐出ヘッド用基板では、第一の面での第一の供給口の(開口の中心)位置を基準とした、該第一の供給口の基板厚み方向(紙面上下方向)に対する傾斜角度に着目する。この傾斜角度は、基板の中心から第一の方向の外側(基板の第一の方向の両端側)に向かって、徐々に大きくなっている。従って、隣り合う第一の供給口69の第一の方向における(開口の)中心間距離Aは、第一の面から第二の面(より詳しくは第一の供給口と第二の供給口との連結面)に向かって拡大している。さらに、この隣り合う第一の供給口の第一の面での第一の方向の中心間距離Aは、隣り合う第二の供給口64の第二の面での第一の方向の中心間距離Bよりも小さくなり、A<Bの関係を満たす。また、上記距離L1及びL2に関しては、少なくとも、基板の第一の方向の両端に配される液体供給口において、L1<L2の関係が成立している。さらに、第一の供給口69は、第二の供給口64の天井部分で第二の供給口と連通している。
【0047】
従って、図5(a)に示す液体吐出ヘッド用基板は、ノズル部への液体の供給が容易となり、液体の吐出スピードを一層上げることができ、支持部材の生産性を落とさずに液体吐出ヘッドの吐出機能を高めることが可能となる。
【0048】
(第三の実施形態)
図5(b)に示す第三の実施形態では、異なる液体供給口が有する隣り合う第一の供給口106の一方(106ai)のみが上記中心間距離が拡大する斜め方向に延伸している点が第一の実施形態と異なっており、それ以外の点は第一の実施形態と同一となっている。このような形態であっても、異なる液体供給口が有する隣り合う第一の供給口(例えば、同一の液体流路に連通する一対の第一の供給口)において、第一の方向の中心間距離Aが、第一の面から第二の面に拡大する領域を有する。また、この第一の面における中心間距離Aが、隣り合う第二の供給口の第二の面での第一の方向の中心間距離Bよりも小さくなっている。さらに、上記距離L1及びL2に関しても、少なくとも、基板の第一の方向の両端に配される液体供給口(第一の供給口106aiと第二の供給口104)において、L1<L2の関係が成立する。このため、図5(b)に示す液体吐出ヘッド用基板であっても、ノズル部への液体の供給が容易となり、液体の吐出スピードを一層上げることができ、支持部材の生産性を落とさずに液体吐出ヘッドの吐出機能を高めることが可能となる。
【0049】
<液体吐出ヘッド用基板の製造方法>
本発明の液体吐出ヘッド用基板の製造方法は、図1に示すように、第一の面20aに開口する液体供給口22の少なくとも一部(例えば、第一の供給口22a)を上記基板の加工方法を用いて形成することに特徴を有する。それ以外の方法については、従来の液体吐出ヘッド用基板の製造方法を適宜用いることができる。
【実施例
【0050】
以下に、実施例を用いて、本発明をより詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0051】
[実施例1]
図6-1(a)から図6-2(k)に示す手順に従い、図5(a)に示す第二の実施形態のインクジェット記録ヘッド用基板を作製した。
【0052】
まず、図6-1(a)に示すように、基板60として、シリコン基板を用いて、第一の面60aに、記録素子61として、TaSiNからなる電気熱変換素子を形成した。なお、シリコン基板の厚さは700μmとした。
【0053】
次に、図6-1(b)に示すように、第二の面60bに開口部62aを有する第二の供給口形成用マスク62を形成し、第一の面60aに表面保護膜63を形成した。マスク62及び表面保護膜63は共に、ノボラック樹脂を含むポジ型フォトレジストをそれぞれ、基板上に15μmの厚みでスピンコートすることにより作製した。また、第二の供給口形成用マスク62は、裏面露光機を用いて、第二の供給口に対応した開口部62a(開口パターン)を形成した。
【0054】
次に、図6-1(c)に示すように、第二の供給口形成用マスク62を用いて、通常のボッシュサイクルによるシリコン深掘りエッチングにより、基板60に第二の供給口64を形成した。なお、基板の第二の面から、第二の供給口の底までの深さは、500μmであり、第二の供給口64は、第二の方向(紙面に対して垂直な方向)に延在して形成された。
【0055】
次に、図6-1(d)に示すように、剥離液を45℃に温調し、そこに、第二の供給口が形成された基板を浸漬して、第二の供給口形成用マスク62、及び表面保護膜63を剥離除去した。
次に、ネガ型フォトレジスト(エポキシ樹脂)を、基板の第一の面60aに(第一の面からの)厚さ15μmでスピンコートし、感光性樹脂層を形成した。次いで、当該感光性樹脂層に対して、第一の供給口の開口位置となる領域(被エッチング領域)以外の部分を露光し、その後、アルカリ溶液(テトラメチルアンモニウムハイドライド水溶液)を用いた現像を行い、開口部65aを有する第一のマスク65を形成した。この第一のマスクによって、エッチング開始面の大きさを規定した。
【0056】
次いで、図6-1(e)に示すように、厚膜塗布用のネガ型フォトレジスト(エポキシ樹脂)を、スクリーン印刷法により、(第一のマスク65表面からの)厚さ280μmで塗布した。さらに、露光及び現像処理をして、開口部66aを有する第二のマスクI 66を形成した。
次いで、厚さ220μmのエポキシ樹脂を含むネガ型感光性樹脂層が積層されたドライフィルムレジストを、第二のマスクI 66の表面に、ラミネーターを用いて転写した。その後、当該ドライフィルムレジストを露光及び現像し、開口部67aを有する第二のマスクII 67を形成した。
このように、被エッチング領域65aiの周囲を、厚さ15μmの第一のマスク65で囲った。また、被エッチング領域65aiiの周囲に、該第一のマスクと、形成する孔が傾く方向に厚さ280μmの第二のマスクIとを形成した。さらに、被エッチング領域65aiiiの周囲に、該第一のマスクと、形成する孔が傾く方向に合計の厚みが500μmの第二のマスクを形成した。このように、エッチングマスクとして、基板60の第一の面60a上に、一番厚い部分で515μmのマスクを形成し、基板の中心から外側に向かって、より厚く第二のマスクを形成した。
次いで、保護膜68を、第二の供給口64が形成された基板の第二の面60bに形成した。
【0057】
次に、図6-2(f)に示すように、通常のボッシュサイクルによるシリコン深掘りエッチングを行い、基板60に、第一の供給口69(69ai~69aiii)が第二の供給口64に貫通するように連通させた。なお、エッチング中のシース厚みは、エッチング条件から計算したところ、およそ2.5mmであることが想定された。なお、第一の供給口69及び第二の供給口64で構成される各液体供給口において、第一の供給口は第二の方向に所定のピッチで複数配置されており、この複数の第一の供給口が第二の方向に延在する1つの第二の供給口に連通していた。なお、各液体供給口では、略同一のピッチで第二の方向に第一の供給口が形成されていた。
【0058】
次に、図6-2(g)に示すように、剥離液を用いて、エッチングマスク65~67及び保護膜68を剥離除去した。
なお、第一の供給口69aiiiは、第一の面60aの第一の供給口の位置を基準とした、基板厚み方向に対する傾斜角度θaiiiは7°であった。また、第一の供給口69aiiの傾斜角度θaiiは4°であり、第一の供給口69aiの傾斜角度θaiは0°であり、基板厚み方向と平行であった。このように、基板の中心から第一の方向の外側に向かって徐々に傾斜角度が大きくなる構成とした。
【0059】
次いで、図6-2(h)に示すように、支持体71となる樹脂フィルム上に、第一の感光性樹脂(ネガ型フォトレジスト:エポキシ樹脂)70をスリットコート法で塗布して積層化させ、ドライフィルムレジストを作製した。なお、この第一の感光性樹脂の厚みは6μmであった。
【0060】
次に、上記ドライフィルムレジストを、液体供給口(第一の供給口69及び第二の供給口64)が形成された基板60の第一の面60a上に第一の感光性樹脂70を向けて、ラミネーターにて、温度120℃、圧力0.4MPaの条件で接合させた。その後、常温下で、支持体71を剥離した。さらに、第一の感光性樹脂70に対して、露光波長365nmの光を5000J/mの露光量でマスク(不図示)を介してパターン露光させた。その後、50℃、5min.のポストベークを行うことにより、第一の感光性樹脂70の非露光部70aが液体流路となり、露光部70bが液体流路壁となるように潜像させ、図6-2(i)に示す基板を得た。
【0061】
次いで、第一の感光性樹脂70と同じように、第二の感光性樹脂72となるエポキシ樹脂(厚み10μm)を有するネガ型のドライフィルムレジストを作製した。続いて、このドライフィルムレジストを、図6-2(k)に示すように、第一の感光性樹脂70上に第二の感光性樹脂側を向けて、ラミネーターにて、温度(120℃)、圧力(0.4MPa)の条件で接合させた。さらに、第二の感光性樹脂72に対して、露光波長365nmの光を1000J/mの露光量でマスク(不図示)を介してパターン露光させた。その後、90℃、5min.のポストベークを行うことにより、第二の感光性樹脂72の非露光部72aが液体吐出口となり、露光部72bが吐出口壁となるように潜像させ、図6-2(k)に示す基板を得た。
【0062】
最後に、有機溶剤による現像により、第一の感光性樹脂70の非露光部70aと、第二の感光性樹脂72の非露光部72aとを同時に除去し、吐出口73と液体流路74を形成し、図5(a)に示すインクジェット記録ヘッド用基板を作製した。
【0063】
上記実施例1に基づき製造したインクジェット記録ヘッド用基板では、第一の供給口69及び第二の供給口64から構成される液体供給口が第一の方向(紙面左右方向)に複数(図では5つ)配され、1つ液体流路74に対して、1つの液体供給口が連通していた。また、記録素子61と吐出口73の対が、第二の方向(紙面に対して垂直方向)に複数、所定のピッチで配され、さらに1つの液体流路74において、この対が第一の方向に2つずつ配置されていた。
なお、第一の面における第一の供給口間のピッチ(図5(a)における中心間距離A)は678μmであった。これに対して、第二の面における第二の供給口間のピッチ(図5(a)における中心間距離B)は850μmであった。従って、第一の方向に隣り合う液体供給口において、A<Bの関係が成立していた。
さらに、隣り合う第一の供給口の第一の方向における中心間距離は、第一の面60aから第二の面60bに向かって連続して拡大していた。
【0064】
また、基板の第一の方向の両端に形成された液体供給口では、記録素子の中心位置から、第一の供給口の記録素子側の開口端までの第一の方向における距離L1が130μmであった。また、記録素子の中心位置から第二の供給口の記録素子側の開口端までの第一の方向における距離L2は190μmであった。従って、少なくとも、基板の第一の方向の両端に形成された液体供給口において、L1<L2の関係が成立していた。
また、このインクジェット記録ヘッド用基板を用いたインクジェット記録ヘッドのインク吐出スピード(リフィル周波数)は、24kHzであった。
【0065】
このように、実施例1に基づき製造したインクジェット記録ヘッド用基板を用いた場合は、第二の面に接合する支持部材の開口部(液体供給路)は、850μm程度のピッチで形成すれば良い。従って、第一の供給口に比べて、支持部材の開口部間距離を大きくすることが可能であり、インクジェット記録ヘッドの高密度化とともに、優れた生産性及び低コストを実現することが可能となる。
【0066】
[実施例2]
以下の点を変更した以外は、実施例1と同様にして、図1及び図2に示す第一の実施形態に相当するインクジェット記録ヘッド用基板を作製した。
【0067】
具体的には、図7(a)に示すように、実施例1と同様にして(図6-1(d)参照)、基板80の第一の面80a上に、開口部82aを有する厚さ15μmの第一のマスク82を形成した。この際、実施例1では、第一の方向に配される2つの記録素子の間に、1つの第一の供給口を形成する構成としたが、実施例2では、1つの記録素子81の両側に1つずつ第一の供給口を形成する構成へと変更した。
次いで、厚膜塗布用のネガ型フォトレジストをスリットコーターで(第一のマスク表面からの)厚み500μmで塗布し、その後、露光及び現像処理をして、開口部83aを有する第二のマスク83を形成した。被エッチング領域82aiでは、紙面左側に、被エッチング領域82aiiでは、紙面右側に、第二のマスク83が配置された。各領域の周囲に配されたエッチングマスクの合計厚みは、一番厚い部分で515μmであった。次いで、有機樹脂からなる保護膜85を、第二の供給口84が形成された基板80の第二の面80bに形成した。
【0068】
次いで、図7(b)に示すように、通常のボッシュサイクルによるシリコン深掘りエッチングを行い、第一の供給口86(86ai及び86aii)が第二の供給口84に貫通するように連通させた。なお、エッチング中のシース厚みはエッチング条件から計算したところおよそ2.5mmであることが想定された。
【0069】
次に、図7(c)に示す様に、エッチングマスク82及び83、並びに、保護膜85を剥離液を用いて剥離除去した。なお、第一の面80aの第一の供給口の位置を基準として、各第一の供給口は、基板厚み方向に対して、7°傾いて形成されていた。
【0070】
続いて、実施例1と同様の方法で、吐出口87及び液体流路88を形成し、図7(d)に示すように、インクジェット記録ヘッド用基板を作製した。
このインクジェット記録ヘッド用基板では、1つの液体流路88に対して、2つの液体供給口が連通しており、液体流路が、異なる液体供給口が有する第一の方向に隣り合う2つの第二の供給口84と連通した第一の供給口86の一対と連通していた。
また、この一対の第一の供給口は、それらの第一の方向における中心位置を軸として、第一の方向に対称な傾きを有していた。
この一対の隣り合う第一の供給口の第一の面での第一の方向の中心間距離Aは320μmであり、この中心間距離は、第一の面80aから第二の面80bに向かって連続して拡大する構成であった。また、この一対の隣り合う第二の供給口の第二の面での第一の方向の中心間距離Bは850μmであった。なお、各液体流路に連通する液体供給口は同様のピッチで構成された。従って、得られたインクジェット記録ヘッド用基板において、A<Bの関係が成立していた。
なお、このインクジェット記録ヘッド用基板では、記録素子と吐出口の対が、1つの液体流路において、第二の方向に複数配され、また、第一の方向に1つずつ配されていた。
【0071】
また、上記一対の液体供給口では、記録素子の中心位置から、第一の供給口の記録素子側の開口端までの第一の方向における距離L1が130μmであった。また、記録素子の中心位置から第二の供給口の記録素子側の開口端までの第一の方向における距離L2は190μmであった。従って、上記一対の液体供給口において、L1<L2の関係が成立していた。
【0072】
第一及び第二の供給口の連結部から第一の面に向かって斜め方向に、第一の供給口86ai及び86aiiが延伸することで、第二の供給口の配置を変えることなく、記録素子81の近くに、第一の供給口86を配置することができた。この基板を用いたインクジェット記録ヘッドのインク吐出スピード(リフィル周波数)は24kHzであった。
【0073】
[比較例1]
図8(a)~(d)に示すように、第二のマスク83を用いなかった以外は実施例2と同様にして、インクジェット記録ヘッド用基板を作製した。具体的には、第二の供給口93が形成された基板90の第一の面90aに、実施例2と同様に、開口部92aを有する第一のマスク92を形成し、その後、第二の面90bに保護膜94を形成した。そして、図7(b)に示すように、第二のマスクを作製せずに、この第一のマスク92を用いて、通常のボッシュサイクルによるシリコン深掘りエッチングを行い、第一の面から第二の供給口93に連通する第一の供給口95を形成した。この第一の供給口95は、基板面に対して垂直な方向に基板を貫通していた。続いて、図7(c)に示すように、第一のマスク及び保護膜を除去し、図7(d)に示すように、基板の第一の面90a上に吐出口96及び液体流路97を形成した。
【0074】
得られたインクジェット記録ヘッド用基板の第一の供給口の第一の方向における中心間距離Aは440μmであり、第二の供給口の第二の面における第一の方向の中心間距離Bは850μmであり、A<Bの関係が成立していた。しかしながら、このインクジェット記録ヘッド用基板では、第一の供給口は基板面に対して垂直な方向に基板を貫通しており、隣り合う第一の供給口の第一の方向における中心間距離が第一の面から第二の面に向かって拡大する領域が存在しなかった。また、記録素子91の中心位置からの第一の供給口95及び第二の供給口93の開口端までの第一の方向における距離L1及びL2はいずれも同じであった。
【0075】
このインクジェット記録ヘッド用基板を用いたヘッドで、リフィル周波数を測定したところ20kHzであり、上記実施例2に示すインクジェット記録ヘッド用基板よりもインク吐出スピードが劣る結果となった。
このように、実施例2に示すインクジェット記録ヘッド用基板では、第二の供給口のピッチを狭くすることなく、比較例1に対して、インクの吐出能力を向上させることができることがわかった。つまり、支持部材の生産性を落とすことなくインクジェット記録ヘッドの吐出能力を上げることができることがわかった。
【0076】
[実施例3]
【0077】
以下の点を変更した以外は、実施例2と同様にして、図5(b)に示す第三の実施形態のインクジェット記録ヘッド用基板を作製した。
【0078】
具体的には、図9(a)に示すように、実施例2と同様にして、基板100の第一の面100a上に、開口部102aを有する、厚さ15μmの第一のマスク102を形成した。次いで、厚膜塗布用のネガ型フォトレジストを、スリットコーターで厚み500μmで塗布し、その後、露光及び現像処理をして、開口部103aを有する第二のマスク103を形成した。基板の第一の方向の両端部に配される被エッチング領域102aiでは、紙面左側又は右側に、第二のマスク103が配置され、基板中心部に形成された被エッチング領域102aiiでは、周囲が第一のマスクですべてが囲われていた。各領域の周囲に配されたエッチングマスクの合計厚みは、一番厚い部分で515μmであった。
【0079】
次いで、図9(b)に示すように、酸素プラズマ処理を2min行い、第二のマスク103の被エッチング領域側の角部103bを丸めた。次いで、第二の供給口104が形成された基板100の第二の面100bに、有機樹脂からなる保護膜105を形成した。
【0080】
次いで、通常のボッシュサイクルによるシリコン深掘りエッチングを行い、第一の供給口106(106ai及び106aii)が第二の供給口104に貫通するように連通させた。なお、エッチング中のシース厚みはエッチング条件から計算したところおよそ2.5mmであることが想定された。
【0081】
その後、図9(c)に示す様に、剥離液を用いて、エッチングマスク102及び103、並びに、保護膜105を剥離除去した。領域102aiに対応する第一の供給口106aiは、第一の面の第一の供給口の位置を基準として、基板厚み方向に対して傾斜角度が10°であった。このように、第一の供給口106aiに関しては、実施例2における第一の供給口と比較してより傾いた形状とすることができた。一方、領域102aiiに対応する第一の供給口106aiiは、基板厚み方向に対する傾斜角度は0°であり、基板面に対して垂直な方向に基板を貫通していた。従って、第一の面における第一の供給口を基準とした、第一の供給口の基板厚み方向に対する傾斜角度は、基板の中心から第一の方向の外側に向かって徐々に大きく構成されていた。
【0082】
続いて、実施例2と同様の方法で、吐出口107及び液体流路108を形成し、図9(d)に示すインクジェット記録ヘッド用基板を作製した。
このインクジェット記録ヘッド用基板では、1つの液体流路108に対して、2つの液体供給口が連通しており、液体流路が、異なる液体供給口が有する第一の方向に隣り合う2つの第二の供給口104と連通した第一の供給口106の一対と連通していた。
この一対の第一の供給口の第一の面の第一の方向における中心間距離Aは340μmであり、この中心間距離は、第一の面100aから第二の面100bに向かって連続して拡大する構成であった。また、この一対の隣り合う第二の供給口の第二の面における第一の方向の中心間距離Bは850μmであった。なお、各液体流路に連通する液体供給口は同様のピッチで構成された。従って、得られたインクジェット記録ヘッド用基板において、A<Bの関係が成立していた。
なお、このインクジェット記録ヘッド用基板では、記録素子と吐出口の対が、1つの液体流路において、第二の方向に複数配され、また、第一の方向に1つずつ配されていた。
【0083】
また、基板の第一の方向の両端に配される液体供給口では、記録素子の中心位置から、第一の供給口の記録素子側の開口端までの第一の方向における距離L1が120μmであった。また、記録素子の中心位置から第二の供給口の記録素子側の開口端までの第一の方向における距離L2は190μmであった。従って、少なくとも、基板の第一の方向の両端に配される液体供給口において、L1<L2の関係が成立していた。
【0084】
第一及び第二の供給口の連結部から第一の面に向かって斜め方向に、第一の供給口106aiが延伸することで、第二の供給口の配置を変えることなく、記録素子101の近くに、第一の供給口を配置することができた。この基板を用いたインクジェット記録ヘッドのインク吐出スピード(リフィル周波数)は24kHzであった。
従って、上記比較例1に示すインクジェット記録ヘッド用基板を用いたヘッドに対して吐出能力が向上し、支持部材の生産性を落とすことなくインクジェット記録ヘッドの能力を上げることができることがわかった。
【符号の説明】
【0085】
11、73、87、96、107 (液体)吐出口
12、74、88、97、108 液体流路
20、50、60、80、90、100 (素子)基板
20a、50a、60a、80a、90a、100a 第一の面
20b、50b、60b、80b、90b、100b 第二の面
21、61、81、91、101 記録素子
22、22i~22iv 液体供給口
22a、22ai~22aiv、69、69ai~69aiii、86、86ai~86aii、95、106、106ai~106aii 第一の供給口
22b、22bi~22biv、64、84、93、104 第二の供給口
30 液体吐出ヘッド用基板
51、65、82、92、102 第一のマスク
51ai~51aiii、65ai~65aiii、82ai~82aii、102ai~102aii 領域
52、66 第二のマスクI
53、67 第二のマスクII
83、103 第二のマスク
54、54i~54iii 孔
103b 被エッチング領域側の角部
A、A、A 隣り合う第一の供給口の第一の面での第一の方向の中心間距離
B、B、B 隣り合う第二の供給口の第二の面での第一の方向の中心間距離
X 第一の方向
Y 第二の方向
L1 記録素子の中心位置から、第一の供給口の記録素子側の開口端までの第一の方向における距離
L2 記録素子の中心位置から、第二の供給口の記録素子側の開口端までの第一の方向における距離
θiii (傾斜)角度
図1
図2
図3
図4
図5
図6-1】
図6-2】
図7
図8
図9