(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-16
(45)【発行日】2022-12-26
(54)【発明の名称】磁性トナー及び画像形成方法
(51)【国際特許分類】
G03G 9/083 20060101AFI20221219BHJP
G03G 9/097 20060101ALI20221219BHJP
G03G 9/087 20060101ALI20221219BHJP
【FI】
G03G9/083
G03G9/097 374
G03G9/097 375
G03G9/097 365
G03G9/087 325
(21)【出願番号】P 2018141075
(22)【出願日】2018-07-27
【審査請求日】2021-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100124442
【氏名又は名称】黒岩 創吾
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 雄介
(72)【発明者】
【氏名】佐野 智久
(72)【発明者】
【氏名】福留 航助
(72)【発明者】
【氏名】大久保 顕治
(72)【発明者】
【氏名】衣松 徹哉
(72)【発明者】
【氏名】池尻 拓馬
(72)【発明者】
【氏名】鈴村 禎崇
【審査官】高橋 純平
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-013353(JP,A)
【文献】特開2019-015957(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 9/083
G03G 9/097
G03G 9/087
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結着樹脂、磁性体及びワックスを含有する磁性トナー粒子と、
該磁性トナー粒子の表面に存在する無機微粒子と
、
を含有する磁性トナーであって、
該磁性トナーは、平均円形度が0.960以上の乳化凝集磁性トナーであり、
透過型電子顕微鏡を用いた該磁性トナーの断面において、
一辺が0.8μmの正方グリッドで該磁性トナーの断面を区切った際の、該磁性体の占有面積率の変動係数CV3が、40.0%以上80.0%以下であり、
該無機微粒子が、シリカ微粒子、チタニア微粒子、及びアルミナ微粒子からなる群より選ばれた少なくとも1つの無機酸化物微粒子を含有し、該無機酸化物微粒子中の85質量%以上がシリカ微粒子であり、
該無機微粒子による該磁性トナー粒子の表面の被覆率を被覆率A(%)としたとき、該被覆率Aが、45.0%以上80.0%以下であり、
該ワックスが
、該磁性トナー粒子の内部にドメインを形成し、該ドメインの個数平均径が
、100nm以上500nm以下であり、
該結着樹脂が
、スチレン系樹脂を含有し、
該磁性トナーのテトラヒドロフラン可溶分のゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定される、メインピークのピーク分子量が、5000以上12000以下である
、
ことを特徴とする磁性トナー。
【請求項2】
前記磁性トナーの個数平均粒径をDn(μm)とし、
該磁性トナーの、Dn-0.500以上Dn+0.500以下の範囲における輝度分散値の変動係数をCV1(%)とし、
該磁性トナーの、Dn-1.500以上Dn-0.500以下の範囲における輝度分散値の変動係数をCV2(%)としたとき、
該CV1及び該CV2が、下記式(1)の関係を満たし、
該磁性トナーの該Dnにおける平均輝度が、30.0以上60.0以下である、
請求項1に記載の磁性トナー。
CV2/CV1≦1.00 (1)
【請求項3】
透過型電子顕微鏡を用いた前記磁性トナーの断面において、
一辺が0.8μmの正方グリッドで該磁性トナーの断面を区切った際の、該磁性体の占有面積率の平均値が、10.0%以上40.0%以下である、
請求項1又は2に記載の磁性トナー。
【請求項4】
前記CV1が
、4.00%以下である、請求項2に記載の磁性トナー。
【請求項5】
前記磁性トナー粒子の表面に固着された無機微粒子による被覆率を被覆率B(%)としたとき、該被覆率Bの前記被覆率Aに対する比が、0.50以上0.85以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の磁性トナー。
【請求項6】
前記被覆率Aの変動係数が、10.0%以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載の磁性トナー。
【請求項7】
前記ワックスが、炭化水素系ワックスを含有する、請求項1~
6のいずれか一項に記載の磁性トナー。
【請求項8】
外部より帯電部材に電圧を印加し、静電潜像担持体を帯電する帯電工程、
帯電された該静電潜像担持体に静電潜像を形成する潜像形成工程、
該静電潜像をトナー担持体に担持された
磁性トナーにより現像してトナー画像を静電潜像担持体上に形成する現像工程、
該静電潜像担持体上のトナー画像を、中間転写体を介して、又は介さずに転写材に転写する転写工程、及び、
転写材に転写されたトナー画像を加熱加圧手段により定着する定着工程
、
を含む画像形成方法であって、
該現像工程は、該静電潜像担持体と該トナー担持体に担持された
磁性トナーとが直接接触して現像が行われる一成分接触現像方式
による現像工程であり、
該
磁性トナーが、
結着樹脂、磁性体及びワックスを含有する磁性トナー粒子と、
該磁性トナー粒子の表面に存在する無機微粒子と
、
を含有
し、平均円形度が0.960以上の乳化凝集磁性トナーであって、
透過型電子顕微鏡を用いた該磁性トナーの断面において、
一辺が0.8μmの正方グリッドで該磁性トナーの断面を区切った際の、該磁性体の占有面積率の変動係数CV3が、40.0%以上80.0%以下であり、
該無機微粒子が、シリカ微粒子、チタニア微粒子、及びアルミナ微粒子からなる群より選ばれた少なくとも1つの無機酸化物微粒子を含有し、該無機酸化物微粒子中の85質量%以上がシリカ微粒子であり、
該無機微粒子による該磁性トナー粒子の表面の被覆率を被覆率A(%)としたとき、該被覆率Aが、45.0%以上80.0%以下であり、
該ワックスが
、該磁性トナー粒子の内部にドメインを形成し、該ドメインの個数平均径が
、100nm以上500nm以下であり、
該結着樹脂が
、スチレン系樹脂を含有し、
該磁性トナーのテトラヒドロフラン可溶分のゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定される、メインピークのピーク分子量が、5000以上12000以下である
、
ことを特徴とする画像形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真法、静電記録法及びトナージェット方式記録法を利用した記録方法に用いられる磁性トナー及び該磁性トナーを用いた画像形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、オフィスから家庭まで幅広い分野で、画像を出力する手段が要望されており、その一つとして様々な使用環境において多数の画像を出力しても画質低下のない高耐久性が求められる。一方で、画質以外にも画像出力装置自体について小型化・省エネルギー化などが求められている。
【0003】
小型化する手段としては、現像剤が収容されるカートリッジの小型化が有効であるため、キャリアを使用する二成分現像方式よりも一成分現像方式が好ましく、同時に高品質な画像を得るためには、接触現像方式が好ましい。そのため、上記性能を満足するには、一成分接触現像方式が有効な手段となる。
【0004】
しかし、一成分接触現像方式は、トナー担持体と静電潜像担持体が接触配置(当接配置)された現像方式である。すなわち、これら担持体は回転することでトナーを搬送しており、接触部分は大きなシェアがかかるため、高画質の画像を得るためには、トナーは高耐久性と、高流動性を有することが必要となる。
【0005】
流動性の低いトナーは、現像時に担持体中に滞留してしまい、摺擦により熱を帯び融着しやすい。特にトナー担持体中で融着した場合、画像上に「スジ」が発生してしまう。
【0006】
一方、耐久性が低いトナーは、割れ、欠けが発生し、トナー担持体と静電潜像担持体を汚染するなどして画質の低下を招く。また、割れたり、欠けたりしたトナーは電荷を帯びにくく、静電潜像担持体上の非画像領域に現像されてしまう「カブリ」成分となることもある。
【0007】
磁性体を含有する磁性トナー(以下、単にトナーともいう。)は、樹脂と磁性体の密度差が大きく、外力がかかった場合に、力が樹脂に集中し変位することで樹脂が切断され、特にトナーの割れ、欠けが発生しやすい。
【0008】
様々な使用環境において多数の画像出力を行いたい場合、トナーにさらなる負荷がかかるため、一層の高耐久性と、高流動性が必要となる。
【0009】
特許文献1では、磁性体を含有するトナーが提案されている。
【0010】
特許文献2では、凝集法を用い、磁性体が分散した磁性トナーが提案されている。この製法は微小粒子をトナー粒子径まで凝集させる凝集工程、及び、凝集体を溶融させることで合一化しトナー化する合一工程を有する製法である。この方法ではトナー形状を変形させることが容易で流動性を高くすることができる。
【0011】
特許文献3では、特定のワックスとトナー表面の無機微粒子の存在状態を規定することで、耐久試験における画像濃度と摺擦した際の濃度低下の抑制を両立することが可能であることが提示されている。
【0012】
特許文献4では、外添剤によるトナー母粒子の総被覆率を制御し、現像及び転写工程の安定化を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開2006-243593号公報
【文献】特開2012-93752号公報
【文献】特許第5361984号公報
【文献】特開2007-293043号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
特許文献1に開示された製法を用いたトナーは、円形度を高くすることが難しく、一成分接触現像方式のようなシェアのかかるシステムにおいてはトナーの融着が発生しやすいという課題を有している。
【0015】
特許文献2に開示されたトナーは、磁性体同士の間隔が均一で比較的近距離に磁性体同士が存在する場合、一成分接触現像方式のようなシェアのかかるシステムにおいて、シェアを吸収しうる部分が不足し、トナー劣化が発生しやすいという課題を抱えている。
【0016】
逆に、磁性体が過度に凝集したトナーは、磁性体の表面積の低下により、着色力が低下し、出力画像の濃度が低下しやすいという問題を有している。また、このようなトナーは磁性体の含有率がトナー粒子ごとに差が出やすく、多数の画像出力を行う場合に画像の濃度低下が徐々に起きるという課題を有する。
【0017】
特許文献4に開示されたトナーは、確かに、ある特定のトナー母粒子について、計算上の理論被覆率を制御することにより、一定の効果を得ている。しかしながら、実際の外添剤の付着状態は、トナーを真球と仮定した場合の計算値とは大きく異なる場合があり、特に後述する効果を得るには、実際の外添剤の付着状態を制御しなければ、不十分である。本発明者らの検討の結果、画像出力装置のさらなる高速化や上述の一成分接触現像方式に適用した場合には、さらなる耐久性と定着時の熱に対する応答性を向上する必要があった。
【0018】
本発明は、一成分接触現像方式のようなシェアのかかるシステムにおいても様々な使用環境で高品質な画像を提供するものである。
【0019】
すなわち、上記特許文献については、よりシェアのかかるシステムにおいても、耐久性を確保でき、定着時の熱に対する応答性を両立させるという観点では、改良の余地がある。
【0020】
さらなる高画質化を求める観点で定着工程に着目してみると、使用目的及び使用環境の多様化に伴い顕在化した課題として、高温高湿環境下における高印字率画像の後端部分にオフセット(以下、後端オフセットともいう。)が発生するという問題がある。
【0021】
一般的に、定着工程においては、トナーによる未定着画像が形成された紙が定着器を通過する際(特に通過する部分を以下、定着ニップと呼ぶ。)、熱と圧力が与えられることにより、紙に対してトナーが定着される。
【0022】
低印字率画像より、高印字率画像で後端オフセットが発生しやすい理由は、トナー層に与えられる熱量に起因するものと思われる。高印字率画像になるほど、定着器からの熱量がより多くのトナーに分散されるために、溶融が不十分なトナーが多くなり、定着不良が起きやすい状態となる。
【0023】
さらに、画像の後端になるほど、定着ニップ部から与えられる熱量が小さくなる傾向があるため、画像の後端は定着性が不利になりやすい。
【0024】
特に、上記後端オフセットは、高温高湿環境下に放置された紙で顕著になる傾向がある。高温高湿環境下に放置されて水分を多く含んだ紙が定着器を通過する際に、定着ニップで定着器からの熱により、紙から水蒸気が発生する。後端オフセットは、この水蒸気によって紙の上のトナー層が定着部材側に押しつけられることにより発生すると推測している。
【0025】
つまり、高印字率画像の後端で定着不良が起きやすい状態で、高温高湿環境下に放置された紙を使用すると、後端オフセットが発生しやすい。
【0026】
また、従来からトナーの定着性改善のために軟化温度を低く設計するなどの改良がおこなわれてきた。確かに、そのような設計の場合、熱が十分に付与された部分の熱溶融性は向上する。しかし、一方で、高印字率画像の後端など、与えられる熱量が十分でない場合には、トナーの溶融スピードが追い付かず、高印字率画像の後端オフセットの発生を抑制することが困難であった。
【0027】
すなわち、本発明は、高温高湿環境下においても、高印字率画像の後端オフセットの発生が抑制され、かつ、シェアのかかるシステムにおいても耐久性を確保できる磁性トナー、及び該磁性トナーを用いた画像形成方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0028】
本発明は、
結着樹脂、磁性体及びワックスを含有する磁性トナー粒子と、
該磁性トナー粒子の表面に存在する無機微粒子と、
を含有する磁性トナーであって、
該磁性トナーは、平均円形度が0.960以上の乳化凝集磁性トナーであり、
透過型電子顕微鏡を用いた該磁性トナーの断面において、
一辺が0.8μmの正方グリッドで該磁性トナーの断面を区切った際の、該磁性体の占有面積率の変動係数CV3が、40.0%以上80.0%以下であり、
該無機微粒子が、シリカ微粒子、チタニア微粒子、及びアルミナ微粒子からなる群より選ばれた少なくとも1つの無機酸化物微粒子を含有し、該無機酸化物微粒子中の85質量%以上がシリカ微粒子であり、
該無機微粒子による該磁性トナー粒子の表面の被覆率を被覆率A(%)としたとき、該被覆率Aが、45.0%以上80.0%以下であり、
該ワックスが、該磁性トナー粒子の内部にドメインを形成し、該ドメインの個数平均径が、100nm以上500nm以下であり、
該結着樹脂が、スチレン系樹脂を含有し、
該磁性トナーのテトラヒドロフラン可溶分のゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定される、メインピークのピーク分子量が、5000以上12000以下である、
ことを特徴とする磁性トナーである。
【0029】
また、本発明は、
外部より帯電部材に電圧を印加し、静電潜像担持体を帯電する帯電工程、
帯電された該静電潜像担持体に静電潜像を形成する潜像形成工程、
該静電潜像をトナー担持体に担持された磁性トナーにより現像してトナー画像を静電潜像担持体上に形成する現像工程、
該静電潜像担持体上のトナー画像を、中間転写体を介して、又は介さずに転写材に転写する転写工程、及び、
転写材に転写されたトナー画像を加熱加圧手段により定着する定着工程、
を含む画像形成方法であって、
該現像工程は、該静電潜像担持体と該トナー担持体に担持された磁性トナーとが直接接触して現像が行われる一成分接触現像方式による現像工程であり、
該磁性トナーが、
結着樹脂、磁性体及びワックスを含有する磁性トナー粒子と、
該磁性トナー粒子の表面に存在する無機微粒子と、
を含有し、平均円形度が0.960以上の乳化凝集磁性トナーであって、
透過型電子顕微鏡を用いた該磁性トナーの断面において、
一辺が0.8μmの正方グリッドで該磁性トナーの断面を区切った際の、該磁性体の占有面積率の変動係数CV3が、40.0%以上80.0%以下であり、
該無機微粒子が、シリカ微粒子、チタニア微粒子、及びアルミナ微粒子からなる群より選ばれた少なくとも1つの無機酸化物微粒子を含有し、該無機酸化物微粒子中の85質量%以上がシリカ微粒子であり、
該無機微粒子による該磁性トナー粒子の表面の被覆率を被覆率A(%)としたとき、該被覆率Aが、45.0%以上80.0%以下であり、
該ワックスが、該磁性トナー粒子の内部にドメインを形成し、該ドメインの個数平均径が、100nm以上500nm以下であり、
該結着樹脂が、スチレン系樹脂を含有し、
該磁性トナーのテトラヒドロフラン可溶分のゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定される、メインピークのピーク分子量が、5000以上12000以下である、
ことを特徴とする画像形成方法である。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、高温高湿環境下においても、高印字率画像の後端オフセットの発生が抑制され、かつ、シェアのかかるシステムにおいても耐久性を確保できる磁性トナー、及び該磁性トナーを用いた画像形成方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図2】一成分接触現像方式の画像形成装置の模式的断面図
【
図3】(a)無機微粒子の外添混合に用いることができる混合処理装置の一例を示す模式図、(b)混合処理装置に使用される攪拌部材の構成の一例を示す模式図
【
図4】(a)シリカ添加部数と被覆率の関係の一例を示す図、(b)シリカ添加部数と被覆率の関係の一例を示す図
【
図6】超音波分散時間と被覆率の関係の一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明において、数値範囲を表す「○○以上××以下」や「○○~××」の記載は、特に断りのない限り、端点である下限及び上限を含む数値範囲を意味する。
【0033】
また、モノマーユニットとは、ポリマー中のモノマー物質の反応した形態をいう。
【0034】
以下、本発明の実施の形態を挙げて、さらに詳しく説明するが、これらに限定されることはない。
【0035】
本発明の磁性トナー(以下、単にトナーともいう。)は、
結着樹脂、磁性体及びワックスを含有する磁性トナー粒子と、該磁性トナー粒子の表面に存在する無機微粒子とを含有する磁性トナーであって、
透過型電子顕微鏡を用いた該磁性トナーの断面において、
一辺が0.8μmの正方グリッドで該磁性トナーの断面を区切った際の、該磁性体の占有面積率の変動係数CV3が、40.0%以上80.0%以下であり、
該無機微粒子が、シリカ微粒子、チタニア微粒子、及びアルミナ微粒子からなる群より選ばれた少なくとも1つの無機酸化物微粒子を含有し、該無機酸化物微粒子中の85質量%以上がシリカ微粒子であり、
該無機微粒子による該磁性トナー粒子の表面の被覆率を被覆率A(%)としたとき、該被覆率Aが、45.0%以上80.0%以下であり、
該ワックスが該磁性トナー粒子の内部にドメインを形成し、該ドメインの個数平均径が100nm以上500nm以下であり、
該結着樹脂がスチレン系樹脂を含有し、
該磁性トナーのテトラヒドロフラン可溶分のゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定される、メインピークのピーク分子量が、5000以上12000以下であることを特徴とする。
【0036】
該磁性トナーは、磁性トナー粒子中の磁性体の分散状態、及び、磁性トナー粒子(以下、単にトナー粒子ともいう。)の表面に存在する無機微粒子の被覆状態が制御されたものである。
【0037】
該トナーを用いることにより、トナーに強いシェアのかかるような画像形成装置においても画質に優れ、高温高湿環境下においても、高印字率画像の後端オフセットの発生を抑制することが可能である。
【0038】
その理由は定かではないが、本発明者らは以下のように考えている。
【0039】
トナーの定着工程は、定着部材の熱によるトナーの溶融、変形を促進し、紙などのメディアに固着させる工程である。よって、エネルギーを節約した定着を目指し、熱量を低減した場合、トナーをメディア上に固着させるためには、さまざまな因子が重要となる。
【0040】
外部から与えられた熱に対し迅速にトナー粒子を変形させること、及び、定着部材へ付着しようとする力よりも、メディア上に付着しようとする力を大きくすることが重要である。さらに、詳細は後述するが定着前の紙上のトナー層を均一とすることも重要である。そうすることで、メディア上のトナー全てに対し、効率よく熱量を伝達でき、少ない熱量でも十分な定着性が得られ、後端オフセットの発生を効果的に抑制することができる。また、上記構成を有するトナーは、トナー粒子の変形性とワックスの押し出し効果に優れ、トナーの定着部材からの離型性が増し、相対的に紙への接着性(アンカリング効果)が増すと推測している。
【0041】
該磁性トナーのテトラヒドロフラン(THF)可溶分のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定される、メインピークのピーク分子量(Mp)は5000以上12000以下である。このように、比較的低めの分子量に制御することで、熱による磁性トナーの変形性を増すことができたと考えている。
【0042】
さらに、該磁性トナーは、無機微粒子による磁性トナー粒子の表面の被覆率を被覆率A(%)としたとき、該被覆率Aが、45.0%以上80.0%以下である。該被覆率Aは、50.0%以上80.0%以下であることが好ましい。
【0043】
転写工程後の紙上のトナーは定着器を通過することで紙上に接着、固定される。定着前の段階では、紙などのメディア上に感光体上から転写された状態で存在するため、その状態ではまだ可動できる状態で存在する。
【0044】
定着器からの熱を最も効率よく、且つトナーに対し偏りなく均一に伝えるためには、この転写工程後の紙上のトナーと定着器の接する面積を増やすこと、つまり定着部材と直接接するトナー数をできるだけ多くすることが有効であると考えられる。そのためには紙上のトナー層が均一であり、特に定着器と接する面が可能な限り凹凸の無い状態に制御することが有効であると考えられる。
【0045】
該磁性トナーは、無機微粒子による被覆率Aが45.0%以上80.0%以下と比較的高いために、接触する部材とのvan der Waals力、及び静電付着力が低く、また、トナー同士の付着性も低くなる。
【0046】
そのため、転写工程後のトナーは、そのトナー間の付着性の低さから、凝集を起こしにくく、トナー層がより最密充填される。そのため、トナー層は均一化され、トナー層上部の凹凸が存在しにくくなり、定着器と接する面積を多くすることができる。
【0047】
この効果は、紙などのメディアの適用範囲を広げることも可能とし、例えばラフ紙のような紙自体の凹凸が大きく、トナー層が不均一化しやすい状況においても、そのトナー間付着性の低さから適宜均一化され、平滑紙同様の効果を得ることが可能となる。
【0048】
その上、該磁性トナーは、定着フィルムなどの定着部材とのvan der Waals力、及び静電付着力が低いため、定着部材からの離型効果が大きく、相対的に紙へのアンカリング効果を促進できる。
【0049】
van der Waals力、及び静電付着力が低いという点に関して、以下に詳述する。まず、van der Waals力については、平板と粒子間に生じるvan der Waals力(F)は以下の式で示される。
F=H×D/(12Z2)
【0050】
ここで、HはHamaker定数、Dは粒子の粒径、Zは粒子と平板間の距離である。Zに関しては、一般的に距離が遠い場合は引力が働き、距離が非常に近くなると斥力が働くと言われており、磁性トナー表面の状態とは関係ないため、定数として扱うこととする。上記式より、van der Waals力(F)は平板と接する粒子の粒径に比例する。これを磁性トナー表面に適応すると、磁性トナー粒子が平板に接するよりも、粒子径が小さな無機微粒子が平板に接した方がvan der Waals力(F)が小さい。すなわち、van der Waals力は、磁性トナー粒子が定着部材に直接接するよりも、外添剤としての無機微粒子を介して接する方が小さい。
【0051】
次に、静電付着力は鏡映力と言い換えることができる。鏡映力は一般には粒子の電荷(q)の2乗に比例し、距離の2乗に反比例することが知られている。
【0052】
磁性トナーが帯電する場合、電荷を有するのは無機微粒子ではなく磁性トナー粒子表面である。このため、磁性トナー粒子表面と平板(ここでは定着部材)との距離が離れている方が鏡映力は小さくなる。
【0053】
すなわち、磁性トナー表面においては、無機微粒子を介して磁性トナー粒子が平板と接していると磁性トナー粒子表面と平板間の距離がとれるため、鏡映力が低下する。
【0054】
上述のように、磁性トナー粒子表面に無機微粒子が存在し、無機微粒子を介して磁性トナーが定着部材と接することにより、磁性トナーと定着部材間に生じるVan der Waals力と鏡映力が低下する。すなわち、磁性トナーと定着部材との付着力が低下する。
【0055】
次に、磁性トナー粒子が直接定着部材と接するか、無機微粒子を介して接するかは、磁性トナー粒子表面をどれだけ無機微粒子が覆っているか、すなわち、無機微粒子の被覆率に依存する。
【0056】
無機微粒子の被覆率が高いと磁性トナー粒子が直接定着部材と接する機会は減少し、磁性トナーは定着部材に貼り付きにくいと考えられる。
【0057】
さらに、磁性トナー粒子表面の被覆率が比較的高い場合、表面の硬度が増すことで、外部からのシェアに対して強くなる。これは磁性トナー粒子表面に存在する無機微粒子によって、磁性トナー粒子表面の性状が結着樹脂よりも無機微粒子の性状に近づくことによると推測している。
【0058】
その結果、シェアのかかるシステムにおいて、多数の画像出力を行っても、画像濃度の低下が抑制される。
【0059】
該磁性トナーは、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いた該磁性トナーの断面において、一辺が0.8μmの正方グリッドで該磁性トナーの断面を区切った際の、磁性体の占有面積率の変動係数CV3が、40.0%以上80.0%以下である。該CV3は、50.0%以上70.0%以下であることが好ましい。
【0060】
磁性体の占有面積率の変動係数CV3は、該磁性トナーの断面において区画法により、一辺が0.8μmの正方グリッドにおける磁性体の占有面積率の頻度ヒストグラムから得たものである。
【0061】
該CV3が上記範囲にあるということは、磁性トナー粒子中で磁性体が局所に偏在していることを意味する。すなわち、磁性トナー粒子中で磁性体を偏在させることにより、磁性体が存在しない部分(以下、磁性体間バインダー部ともいう。)を適度に設けることができ、その部分に外部からのシェアを吸収させることが可能となる。
【0062】
例えば、上記一成分接触現像方式のようなシェアのかかるシステムにおいては、磁性体同士の間隔が均一かつ比較的近距離にある場合に比べて、磁性体を局所に偏在させ、該磁性体間バインダー部を設けることでトナーの耐久性は向上する。
【0063】
また、上述のように磁性トナー粒子の変形のしやすさは重要であるが、該磁性体間バインダー部を設けたほうがトナー粒子の変形も促進される。この理由は、磁性体によるフィラー効果が低減されることによるものと推察する。
【0064】
すなわち、磁性体間バインダー部が印字中の現像器付近温度では外部からのシェアを吸収する一方で、定着時のトナー粒子変形に重要な役割を果たすと推測している。
【0065】
該CV3が上記範囲にあることで外部からシェアがかかったときのトナーの割れを抑制させやすい。そのため、一成分接触現像方式のような高シェアのかかるシステムにおいて、多数の画像出力を行った際の画像濃度の低下や現像スジといった画像弊害がなく、カブリの発生が抑制された良好な画像を得ることができる。
【0066】
該CV3が40.0%未満の場合、磁性トナーの断面を区切った各グリッド間において、磁性体の占有面積率の差が小さいことになり、磁性体間バインダー部の存在量が少なくなる場合がある。
【0067】
この場合、結着樹脂同士のつながりが細くなり、磁性トナー粒子の脆性が低下しやすく、一成分接触現像方式のようなトナーに高シェアのかかるシステムにおいて、トナーが割れやすくなり、帯電不良によるカブリが発生しやすい。
【0068】
また、磁性体によるフィラー効果が大きくなりやすく、定着時に熱がかかったときのトナー粒子変形が遅くなる傾向にある。
【0069】
一方、該CV3が80.0%を超える場合、トナー内で磁性体が過度に局在した状態となる。この場合、磁性体同士が凝集し、表面積低下に伴う着色力の低下が発生し、画像濃度が低下する。
【0070】
該CV3を上記範囲に調整する方法としては、磁性体の表面の親疎水性を制御すること、トナー粒子の製造時に磁性体の凝集度を制御することなどが挙げられる。
【0071】
例えば、乳化凝集法を用いる場合、予め磁性体を凝集させてトナー粒子中に導入する方法や、合一工程において、キレート剤の添加、及び/又はpH調製を行うことで磁性体の凝集度を調整する方法などが挙げられる。
【0072】
該磁性トナーは、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いた該磁性トナーの断面において、一辺が0.8μmの正方グリッドで該磁性トナーの断面を区切った際の、該磁性体の占有面積率の平均値は、10.0%以上40.0%以下であることが好ましい。より好ましくは、15.0%以上30.0%以下である。
【0073】
占有面積率の平均値が上記範囲である場合、トナー粒子中の磁性体の分散状態が適正な状態となり、過度な凝集状態による着色力の低下を抑制することができる。
【0074】
また、一成分接触現像方式のようなトナーに高シェアがかかるようなシステムでもトナーの割れの発生を抑制させやすい。その結果、カブリが発生しにくく、良好な画像が得られる。
【0075】
該占有面積率が10.0%未満の場合、磁性体の含有率が低く、着色力の低下により画像濃度が低下しやすい。一方、占有面積率が40.0%を超える場合、磁性体の含有率が高く、磁性体の分散状態によっては、トナーの脆性が低下しやすく、トナーが割れやすくなり、カブリが発生しやすくなる。
【0076】
なお、該磁性体の占有面積率の平均値を上記範囲に制御するための手法としては、磁性体の表面の親疎水性を制御すること、トナー粒子の製造時に磁性体の凝集度を制御することなどが挙げられる。
【0077】
一般的に、磁性体を含有するトナーにおいて磁性体がトナー粒子間でより均一に含有されることが好ましい。磁性体の含有率が異なるトナー粒子が存在する場合、帯電性、磁気性能が異なることになる。その場合、特に磁気搬送を有するシステムやトナーの帯電性、磁気性能を制御して現像を行うシステムでは、トナーごとに現像時の挙動に差が出る可能性があり、結果として濃度低下など画像不良を起こす可能性がある。
【0078】
また、トナーの輝度はトナーの光の散乱の程度を表す指標であり、着色剤や光を吸収する磁性体のような物質を含有することでトナーの輝度は低下する。
【0079】
一方、トナーの輝度分散値は、輝度の測定においてトナー粒子の粒子1つの中で輝度にどれだけ偏りがあるかを見る指標である。そのため、輝度分散値の変動係数はトナー粒子の粒子間でどれだけ輝度にバラつきがあるかを見る指標となる。
【0080】
本発明者らは磁性トナー粒子の粒子間での磁性体の含有率を制御することを検討し、輝度と輝度分散値の変動係数を適切な値にすることで、濃度低下のない良好な画像を得ることができることを見出した。
【0081】
該磁性トナーの個数平均粒径をDn(μm)とし、
該磁性トナーの、Dn-0.500以上Dn+0.500以下の範囲における輝度分散値の変動係数をCV1(%)とし、
該磁性トナーの、Dn-1.500以上Dn-0.500以下の範囲における輝度分散値の変動係数をCV2(%)としたとき、
該CV1及び該CV2が、下記式(1)の関係を満たすことが好ましい。
CV2/CV1≦1.00 (1)
該CV2/CV1は、0.70以上0.95以下であることがより好ましい。
【0082】
CV2/CV1が上記範囲にある場合、磁性トナー粒子中の磁性体の含有量が、トナー粒子の粒径に依存しにくくなる。その結果、トナー粒子の帯電ムラ、磁気特性ムラが抑制されやすく、多数の画像出力を行う場合でも現像性が良好となりやすい。
【0083】
該CV2/CV1は磁性体の粒径や、トナーの製造における製造条件によって調整することができる。
【0084】
該CV1は4.00%以下であることが好ましく、3.50%以下であることがより好ましい。
【0085】
CV1が上記範囲である場合、トナー粒子間での磁性体の存在状態に差が少なく、連続で画出しを行った後での画像濃度が変化しにくく、良好な画像が得られる。
【0086】
該CV1は、トナー粒子の製造時に磁性体の分散状態を制御することによって調整することができる。
【0087】
該磁性トナーの該Dnにおける平均輝度は、30.0以上60.0以下であることが好ましく、35.0以上50.0以下であることがより好ましい。
【0088】
該平均輝度が上記範囲にある場合、磁性体の含有量が適切であり、良好な着色力を示すと同時に、トナーの割れを防止しやすく、カブリの発生をより抑制することができる。
【0089】
該平均輝度は、磁性体の含有量を調整することで上記範囲に調整することができる。
【0090】
上述のように、無機微粒子による磁性トナー粒子表面の被覆率Aを特定の範囲にすることで部材への付着力を低減できる。そこで、無機微粒子の被覆率と部材との付着力について検証した。
【0091】
磁性トナーの被覆率と部材との付着力の関係を、シリカ微粒子による被覆率を変えた球形ポリスチレン粒子とアルミ基板との静止摩擦係数を測定することで間接的に推測した。具体的には、シリカ微粒子による被覆率(走査型電子顕微鏡による観察から求めた被覆率)を変えた球形ポリスチレン粒子(重量平均粒径(D4)=7.5μm)を用い、被覆率と静止摩擦係数の関係を求めた。
【0092】
より具体的には、アルミ基板上に、シリカ微粒子を添加した球形ポリスチレン粒子を押圧する。押圧を変化させながら基板に左右に動かし、その際の応力から静止摩擦係数を算出した。これを被覆率の異なる球形ポリスチレン粒子毎に行い、得られた被覆率と静止摩擦係数の関係を
図5に示す。
【0093】
このような手法で求める静止摩擦係数は、球形ポリスチレン粒子と基板の間に働くVan der Waals力と鏡映力の総和と相関すると考えられる。グラフから明らかなように無機微粒子の被覆率が高いと静止摩擦係数が小さくなることが分かる。このことから、被覆率が高い磁性トナーは部材との付着力も小さいことが示唆される。
【0094】
ここで、被覆率Aを80.0%より大きくした場合、該磁性トナー粒子の構成としても、ワックスの作用が阻害されやすく、後端オフセットが発生しやすい。
【0095】
該磁性トナー粒子の表面に固着された無機微粒子による被覆率を被覆率B(%)としたとき、該被覆率Bの前記被覆率Aに対する比(以下、B/Aともいう。)が、0.50以上0.85以下であることが好ましい。より好ましくは、0.55以上0.80以下である。
【0096】
該被覆率Aは容易に遊離しうる無機微粒子も含めた被覆率であり、被覆率Bは後述の遊離操作によっては遊離しない、磁性トナー粒子表面に固着された無機微粒子によるものを示す。被覆率Bで表される無機微粒子は、磁性トナー粒子表面に半埋没状態で固着されており、現像スリーブ上や静電潜像担持体上で、磁性トナーがシェアを受けても、移動することがないと考えられる。
【0097】
一方、被覆率Aで表わされる無機微粒子は、上記固着された無機微粒子と、さらにその上層に存在する、比較的自由度の高い無機微粒子も含む。
【0098】
上述のような、van der Waals力、及び静電付着力が低くなる効果は、磁性トナー間、磁性トナーと各部材間に存在しうる無機微粒子が影響しており、被覆率Aを高くすることがこの効果の点で特に重要であると考えられる。
【0099】
該B/Aが上記範囲にあるということは、磁性トナー表面に固着された無機微粒子がある程度存在し、その上にさらに無機微粒子が容易に遊離しうる状態(磁性トナー粒子から離れて挙動できる状態)で、適当量存在していることを意味している。おそらく、この固着された無機微粒子に対して、遊離可能な無機微粒子が滑ることにより、ベアリングのような効果を発揮し、磁性トナー間の凝集力が大幅に低減すると考えられる。
【0100】
本発明者らの検討の結果、上述の付着力低減効果及びベアリング効果は、無機微粒子が、個数平均一次粒子径(D1)において、50nm以下程度の比較的小さな無機微粒子であるときに最大限に得られることがわかった。よって、被覆率A及び被覆率Bを算出する際には、50nm以下の無機微粒子に着目した。
【0101】
該磁性トナーは、被覆率A、及び、B/Aを特定の範囲とすることにより、磁性トナーと各部材間の付着力を低くし、磁性トナー間の凝集力を大幅に低減することができる。
【0102】
その結果、定着器を通過する際の磁性トナー層が最密充填されることによる磁性トナー層の均一化により、トナーと定着部材の接触面積を増やすことができる。
【0103】
その上で、結着樹脂とワックスの構成の最適化によるワックスの染み出し効果と組み合わせることで、効率的なメディアへのアンカリング効果を得ることができ、上記効果を示すことができる。これにより、例えば、定着フィルムを用いた軽圧定着にラフ紙を組み合わせたような、熱伝導効率が低くなりがちな構成においても、熱伝導が不十分なトナーが生じるのを大幅に減らすことができる。
【0104】
被覆率A、被覆率B、及び該被覆率Bの被覆率A対する比[B/A]については後述のような方法で求めることができる。
【0105】
また、該被覆率Aの変動係数は、10.0%以下であることが好ましく、8.0%以下であることがより好ましい。
【0106】
変動係数が10.0%以下であるということは、磁性トナー粒子間、磁性トナー粒子内での被覆率Aが極めて均一であることを意味している。被覆率が均一であることで、トナーの帯電均一性が向上し、多数の画像出力を行った場合においても、画像濃度などの現像性が安定しやすい。また、磁性トナー表面の被覆状態が均一であるため、磁性トナー間の凝集力も低減しやすい。
【0107】
該変動係数を10.0%以下にするための手法は特に限定されないが、磁性トナー粒子表面に高度にシリカ微粒子などの無機酸化物微粒子を拡散させることができる、後述するような外添装置や手法を用いて調整するとよい。
【0108】
なお、外添剤としての無機微粒子の被覆率についてであるが、無機微粒子、磁性トナーが真球状であると仮定すると、該特許文献4などに記載の計算式で導くことは可能である。しかし、無機微粒子や磁性トナーが真球状でない場合も多く、さらに、無機微粒子が磁性トナー粒子表面で凝集した状態で存在することもあるので、これらの手法で導き出された被覆率は本発明とは関連しない。
【0109】
そこで本発明者らは、磁性トナー表面の走査電子顕微鏡(SEM)観察を行い、無機微粒子が磁性トナー粒子表面を実際に覆っている被覆率を求めた。
【0110】
一例として、体積平均粒径(Dv)が8.0μmの粉砕法による磁性トナー粒子(磁性体の含有量は43.5質量%)100質量部に、シリカ微粒子の添加量(シリカ添加部数)を変えて混合したものの理論被覆率と実際の被覆率を求めた(
図4(a)、(b))。なお、シリカ微粒子としては体積平均粒径(Dv)が15nmのシリカ微粒子を用いた。また、理論被覆率を算出する際には、シリカ微粒子の真比重を2.2g/cm
3、磁性トナーの真比重を1.65g/cm
3とし、シリカ微粒子及び磁性トナー粒子に関しては、それぞれ粒径15nm、8.0μmの単分散の粒子とした。
【0111】
図4(a)から明らかなように、シリカ添加部数を増やしていくと理論被覆率は100%を超える。一方、実際の観察により得られる被覆率はシリカ添加部数と共に変化するが、100%を超えることはない。これは、シリカ微粒子が磁性トナー表面に一部凝集体として存在しているため、あるいは、シリカ微粒子が真球でない影響が大きい。
【0112】
また、本発明者らの検討によれば、シリカ微粒子の添加量が同じであっても、外添の手法によって被覆率が変化することがわかった。すなわち、無機微粒子の添加量から一義に被覆率を求めることは不可能である(
図4(b)参照)。なお、外添条件Aは
図3(a)の装置を用い、1.0W/g、処理時間5分の条件で混合したものである。外添条件Bは、FMミキサFM10C(日本コークス工業株式会社製)を用い、4000rpm、処理時間2分の条件で混合したものである。
【0113】
このような理由から、本発明者らは磁性トナー表面のSEM観察により得られる無機微粒子の被覆率を用いた。
【0114】
該ワックスとしては、公知の材料を用いるとよい。該ワックスの具体例として以下のものが挙げられる。
【0115】
低分子量ポリエチレン、低分子量ポリプロピレン、マイクロクリスタリンワックス、フィッシャートロプッシュワックス、パラフィンワックスなどの脂肪族炭化水素系ワックス;酸化ポリエチレンワックスなどの脂肪族炭化水素系ワックスの酸化物、又はそれらのブロック共重合物;カルナバワックス、モンタン酸エステルワックスなどの脂肪酸エステルを主成分とするワックス類、及び脱酸カルナバワックスなどの脂肪酸エステル類を一部又は全部を脱酸化したもの;パルミチン酸、ステアリン酸、モンタン酸などの飽和直鎖脂肪酸類;ブラシジン酸、エレオステアリン酸、パリナリン酸などの不飽和脂肪酸類;ステアリルアルコール、アラルキルアルコール、ベヘニルアルコール、カルナウビルアルコール、セリルアルコール、メリシルアルコールなどの飽和アルコール類;ソルビトールなどの多価アルコール類;リノール酸アミド、オレイン酸アミド、ラウリン酸アミドなどの脂肪酸アミド類;メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アミドなどの飽和脂肪酸ビスアミド類;エチレンビスオレイン酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド、N,N’ジオレイルアジピン酸アミド、N,N’ジオレイルセバシン酸アミドなどの不飽和脂肪酸アミド類;m-キシレンビスステアリン酸アミド、N,N’ジステアリルイソフタル酸アミドなどの芳香族系ビスアミド類;ステアリン酸カルシウム、ラウリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウムなどの脂肪族金属塩(一般に金属石けんといわれているもの);脂肪族炭化水素系ワックスにスチレンやアクリル酸などのビニル系モノマーを用いてグラフト化させたワックス類;ベヘニン酸モノグリセリドなどの脂肪酸と多価アルコールの部分エステル化物;植物性油脂の水素添加などによって得られるヒドロキシ基を有するメチルエステル化合物など。
【0116】
これらの中でも、パラフィンワックス、フィッシャートロプシュワックスなどの炭化水素ワックスが好ましい。該ワックスが炭化水素ワックスを含有することで、結着樹脂への相溶を抑制することが比較的容易になる。その結果、定着部材に対する離型効果が向上し、後端オフセットを抑制しやすい。
【0117】
該ワックスの含有量は、結着樹脂100質量部に対して、1.0質量部以上30.0質量部以下であることが好ましく、3.0質量部以上25.0質量部以下であることがより好ましい。
【0118】
また、ワックスの総量に対する炭化水素ワックスの含有割合は、35質量%以上100質量%以下であることが好ましい。
【0119】
ワックスの含有量を上記の範囲に調整することによって、トナー粒子の離型性をさらに向上させることができる。
【0120】
該ワックスの示差走査熱量測定(DSC)で測定される最大吸熱ピークのピーク温度は、60℃以上120℃以下であることが好ましく、60℃以上90℃以下であることがより好ましい。
【0121】
該ワックスが磁性トナー粒子の内部にドメインを形成し、該ドメインの個数平均径が100nm以上500nm以下である。また、該ドメインの個数平均径は200nm以上500nm以下であることが好ましい。
【0122】
該ドメインの個数平均径は、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いた磁性トナー粒子の断面において、長軸が20nm以上のワックスのドメインを無作為に30個選び、長軸及び短軸の平均値をドメイン径とし、30個の平均値をドメインの個数平均径とした。なお、該ドメインの選択は同一のトナー粒子中でなくともよい。
【0123】
トナーの定着工程において、後端オフセットの発生を効果的に抑制させるための一因子として、定着部材への付着力を低減させることが挙げられる。
【0124】
本発明者らの検討の結果、トナー粒子が変形する際に、ドメインの個数平均径が上記範囲であることで、ワックスの押し出し効果を最大限発揮しうることを見出した。
【0125】
ドメインの個数平均径が100nm未満の場合、ワックスの結晶構造が脆弱になる。特に一成分接触現像方式のような高シェアがかかるシステムにおいて、トナーへ長時間のシェアがかかることによりワックスの一部の結晶構造が崩壊し、ワックスは溶融した状態になる。その結果、トナー粒子表面にワックスが染み出して、現像スジのような画像不良が発生する。
【0126】
一方、ドメインの個数平均径が500nmを超える場合、トナー変形時のワックスの押し出し速度が低下しやすく、定着部材に対する離型効果が得られにくい。
【0127】
すなわち、ドメインの個数平均径を上記範囲にすることにより、シェアがかかったときのワックスの染み出しを抑制しつつ、熱がかかりトナーが変形したときのワックスの押し出しを促進することを両立させることができる。
【0128】
該ドメインの個数平均径は、ワックスの添加量や、トナーの製造方法として乳化凝集法を用いた場合は、ワックス分散液中のワックス粒子径、合一工程における保持時間などで調整することができる。
【0129】
また、CV3を40.0%以上80.0%以下に調整した場合、該ドメインの個数平均径を上記範囲へ調整しやすくなる。
【0130】
透過型電子顕微鏡を用いた該磁性トナー粒子の断面において、該断面の輪郭から1.0μm以内の領域におけるワックスの占有面積百分率をWsとしたとき、該Wsが1.5%以上18.0%以下であることが好ましい。より好ましくは、2.0%以上15.0%以下である。
【0131】
該Wsが上記範囲である場合、トナー粒子表層近傍でのワックス量が適正となり、磁性体の局在や、ワックスのトナー粒子表面への偏在を防ぐことができる。
【0132】
その結果、一成分接触現像方式のようなトナーに高シェアがかかるシステムにおいて、トナーの割れによるカブリや、ワックスの染み出しに起因する現像スジのさらなる抑制が可能となる。
【0133】
該Wsは、ワックスの添加量や、トナーの製造工程における熱処理時間及び熱処理温度により調整することができる。また、トナーの製造方法として乳化凝集法を用いた場合は、ワックスの凝集速度を制御することや、他の材料との混合のタイミングを制御するとよい。
【0134】
透過型電子顕微鏡を用いた該磁性トナー粒子の断面において、該断面の輪郭から1.0μmよりも内側の内部領域におけるワックスの占有面積百分率をWcとしたとき、該Wcの該Wsに対する比(Wc/Ws)が、2.0以上10.0以下であることが好ましい。より好ましくは、3.0以上8.0以下であることがより好ましい。
【0135】
該Wc/Wsが上記範囲にあることで、ワックスがトナー粒子表層に局在していない状態とすることができる。その結果、トナー粒子表層近傍でのワックス量が適正となり、磁性体の局在や、ワックスのトナー粒子表面への偏在を防ぐことができる。
【0136】
その結果、一成分接触現像方式のようなトナーに高シェアがかかるシステムにおいて、トナーの割れによるカブリや、ワックスの染み出しに起因する現像スジのさらなる抑制が可能となり、長期にわたり良好な画像を得ることができる。
【0137】
該Wc/Wsは、ワックスの添加量や、トナーの製造工程における熱処理時間及び熱処理温度により調整することができる。また、トナーの製造方法として乳化凝集法を用いた場合は、ワックスの凝集速度を制御することや、他の材料との混合のタイミングを制御するとよい。
【0138】
該磁性トナーの結着樹脂は、スチレン系樹脂を含有する。
【0139】
また、該磁性トナーのテトラヒドロフラン(THF)可溶分のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定される、メインピークのピーク分子量(Mp)が、5000以上12000以下である。また、該メインピークのピーク分子量(Mp)は、6000以上11000以下であることが好ましい。
【0140】
該樹脂構成とし、かつ、該ピーク分子量(Mp)を上記範囲にすることで、樹脂の変形性とワックスの染み出し効果を顕著に向上させることができる。その結果、磁性トナーの定着部材からの離型性が向上し、相対的に紙への接着性(アンカリング効果)が増加することで、後端オフセットの発生を抑制することができる。
【0141】
該ピーク分子量(Mp)を、5000以上12000以下という比較的低めの分子量に制御することで、熱による磁性トナーの変形性を増すことができる。
【0142】
該ピーク分子量(Mp)は、下記のスチレン樹脂を形成するモノマーの種類を適宜選択したり、重合開始剤の量を適宜調整したりすることにより上記範囲に制御することが可能である。
【0143】
該スチレン系樹脂は、ポリマー中にスチレン由来のモノマーユニットを有する樹脂である。例えば、スチレンと他のモノマーと共重合体が挙げられる。
【0144】
スチレン系樹脂の製造に使用可能なモノマーとしては、スチレン以外に以下のモノマーが挙げられる。
【0145】
脂肪族ビニル炭化水素:アルケン類、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン、イソブチレン、ペンテン、ヘプテン、ジイソブチレン、オクテン、ドデセン、オクタデセン、前記以外のα-オレフィン;
アルカジエン類、例えば、ブタジエン、イソプレン、1,4-ペンタジエン、1,6-ヘキサジエン及び1,7-オクタジエン。
【0146】
脂環式ビニル炭化水素:モノ-又はジ-シクロアルケン及びアルカジエン類、例えば、シクロヘキセン、シクロペンタジエン、ビニルシクロヘキセン、エチリデンビシクロヘプテン;
テルペン類、例えば、ピネン、リモネン、インデン。
【0147】
芳香族ビニル炭化水素:スチレンのハイドロカルビル(アルキル、シクロアルキル、アラルキル及び/又はアルケニル)置換体、例えば、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、2,4-ジメチルスチレン、エチルスチレン、イソプロピルスチレン、ブチルスチレン、フェニルスチレン、シクロヘキシルスチレン、ベンジルスチレン、クロチルベンゼン、ジビニルベンゼン、ジビニルトルエン、ジビニルキシレン、トリビニルベンゼン;及びビニルナフタレン。
【0148】
カルボキシ基含有ビニル系モノマー及びその金属塩:炭素数3以上30以下の不飽和モノカルボン酸、不飽和ジカルボン酸並びにその無水物及びそのモノアルキル(炭素数1以上27以下)エステル。例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、マレイン酸モノアルキルエステル、フマル酸、フマル酸モノアルキルエステル、クロトン酸、イタコン酸、イタコン酸モノアルキルエステル、イタコン酸グリコールモノエーテル、シトラコン酸、シトラコン酸モノアルキルエステル、桂皮酸のカルボキシ基含有ビニル系モノマー。
【0149】
ビニルエステル、例えば、酢酸ビニル、ビニルブチレート、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ジアリルフタレート、ジアリルアジペート、イソプロペニルアセテート、ビニルメタクリレート、メチル4-ビニルベンゾエート、シクロヘキシルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、フェニルアクリレート、フェニルメタクリレート、ビニルメトキシアセテート、ビニルベンゾエート、エチルα-エトキシアクリレート、炭素数1以上22以下のアルキル基(直鎖若しくは分岐)を有するアルキルアクリレート及びアルキルメタクリレート(メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、プロピルアクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、ラウリルアクリレート、ラウリルメタクリレート、ミリスチルアクリレート、ミリスチルメタクリレート、セチルアクリレート、セチルメタクリレート、ステアリルアクリレート、ステアリルメタクリレート、エイコシルアクリレート、エイコシルメタクリレート、ベヘニルアクリレート、ベヘニルメタクリレートなど)、ジアルキルフマレート(フマル酸ジアルキルエステル、2個のアルキル基は、炭素数2以上8以下の、直鎖、分枝鎖又は脂環式の基である。)、ジアルキルマレエート(マレイン酸ジアルキルエステル、2個のアルキル基は、炭素数2以上8以下の、直鎖、分枝鎖又は脂環式の基である。)、ポリアリロキシアルカン類(ジアリロキシエタン、トリアリロキシエタン、テトラアリロキシエタン、テトラアリロキシプロパン、テトラアリロキシブタン、テトラメタアリロキシエタン)、ポリアルキレングリコール鎖を有するビニル系モノマー(ポリエチレングリコール(分子量300)モノアクリレート、ポリエチレングリコール(分子量300)モノメタクリレート、ポリプロピレングリコール(分子量500)モノアクリレート、ポリプロピレングリコール(分子量500)モノメタクリレート、メチルアルコールエチレンオキサイド(エチレンオキサイドを以下EOと略記する。)10モル付加物アクリレート、メチルアルコールエチレンオキサイド10モル付加物メタクリレート、ラウリルアルコールEO30モル付加物アクリレート、ラウリルアルコールEO30モル付加物メタクリレート)、ポリアクリレート類及びポリメタクリレート類(多価アルコール類のポリアクリレート及びポリメタクリレート:エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート)。
【0150】
これらの中でも、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、プロピルアクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレートなどが好ましい。
【0151】
また、カルボキシ基含有ビニルエステル:例えば、炭素数3以上20以下のアルキル鎖を有するカルボキシアルキルアクリレート、炭素数3以上20以下のアルキル鎖を有するカルボキシアルキルメタクリレートも用いることができる。
【0152】
これらの中でも、β-カルボキシエチルアクリレートが好ましい。
【0153】
該スチレン系樹脂は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用したものでもよい。2種類以上を併用する際は、化学的に結合した複合樹脂の形態でもよい。
【0154】
該スチレン系樹脂のピーク分子量は、5000以上12000以下であることが好ましく、7000以上10000以下であることがより好ましい。
【0155】
結着樹脂は、該スチレン系樹脂以外にも、公知のトナー用の樹脂を含有させることができる。
【0156】
結着樹脂中の該スチレン系樹脂の含有量は、70質量%以上100質量%以下であることが好ましく、85質量%以上100質量%以下であることがより好ましい。
【0157】
結着樹脂のガラス転移温度(Tg)は、定着性の観点から、40.0℃以上120.0℃以下であることが好ましい。
【0158】
該磁性体としては、マグネタイト、マグヘマイト、フェライトなどの酸化鉄;鉄、コバルト、ニッケルのような金属、又はこれらの金属とアルミニウム、銅、マグネシウム、スズ、亜鉛、ベリリウム、カルシウム、マンガン、セレン、チタン、タングステン、バナジウムのような金属の合金及びそれらの混合物などが挙げられる。
【0159】
該磁性体の一次粒子の個数平均粒径は、0.50μm以下であることが好ましく、0.05μm以上0.30μm以下であることがより好ましい。
【0160】
トナー粒子中に存在する磁性体の一次粒子の個数平均粒径は、透過型電子顕微鏡を用いて測定できる。
【0161】
具体的には、エポキシ樹脂中へ観察すべきトナー粒子を十分に分散させた後、温度40℃の雰囲気中で2日間硬化させて硬化物を得る。得られた硬化物をミクロトームにより薄片状のサンプルとして、透過型電子顕微鏡(TEM)において1万~4万倍の拡大倍率の画像を撮影し、該画像中の100個の磁性体の一次粒子の投影面積を測定する。そして、該投影面積に等しい円の相当径を磁性体の一次粒子の粒子径とし、該100個の平均値を磁性体の一次粒子の個数平均粒径とする。
【0162】
該磁性体の795.8kA/m印加での磁気特性として、抗磁力(Hc)は、1.6~12.0kA/mであることが好ましい。また、磁化の強さ(σs)は、50~200Am2/kgであることが好ましく、より好ましくは50~100Am2/kgである。一方、残留磁化(σr)は、2~20Am2/kgであることが好ましい。
【0163】
磁性トナー中の磁性体の含有量は、35質量%以上50質量%以下であることが好ましく、40質量%以上50質量%以下であることがより好ましい。
【0164】
磁性体の含有量が上記の範囲内であれば、現像スリーブ内のマグネットロールとの磁気引力が適度となる。
【0165】
なお、磁性トナー中の磁性体の含有量は、パーキンエルマー社製熱分析装置TGA Q5000IRを用いて測定することができる。測定方法は、窒素雰囲気下において昇温速度25℃/分で常温から900℃まで磁性トナーを加熱し、100~750℃の減量質量を磁性トナーから磁性体を除いた成分の質量とし、残存質量を磁性体量とする。
【0166】
該磁性体は、例えば、下記の方法で製造することができる。
【0167】
第一鉄塩水溶液に、鉄成分に対して当量又は当量以上の水酸化ナトリウムなどのアルカリを加え、水酸化第一鉄を含む水溶液を調製する。調製した水溶液のpHを7以上に維持しながら空気を吹き込み、水溶液を70℃以上に加温しながら水酸化第一鉄の酸化反応を行い、磁性酸化鉄の芯となる種晶をまず生成する。
【0168】
次に、種晶を含むスラリー液に前に加えたアルカリの添加量を基準として約1当量の硫酸第一鉄を含む水溶液を加える。混合液のpHを5から10に維持し、空気を吹き込みながら水酸化第一鉄の反応を進め、種晶を芯にして磁性酸化鉄を成長させる。この時、任意のpH及び反応温度、撹拌条件を選択することにより、磁性体の形状及び磁気特性をコントロールすることが可能である。酸化反応が進むにつれて混合液のpHは酸性側に移行していくが、混合液のpHは5未満にしない方がよい。このようにして得られた磁性体を定法によりろ過、洗浄、乾燥することにより磁性体を得ることができる。
【0169】
また、該磁性体は必要に応じて公知の表面処理を行ってもよい。
【0170】
磁性トナー粒子は、荷電制御剤を含有してもよい。なお、該磁性トナーは、負帯電性トナーであることが好ましい。
【0171】
負帯電用の荷電制御剤としては、有機金属錯化合物、キレート化合物が有効であり、モノアゾ金属錯化合物;アセチルアセトン金属錯化合物;芳香族ハイドロキシカルボン酸又は芳香族ダイカルボン酸の金属錯化合物などが例示される。
【0172】
市販品の具体例として、Spilon Black TRH、T-77、T-95(保土谷化学工業(株))、BONTRON(登録商標)S-34、S-44、S-54、E-84、E-88、E-89(オリエント化学工業(株))が挙げられる。
【0173】
該荷電制御剤は単独、又は二種以上組み合わせて用いることが可能である。
【0174】
該荷電制御剤の含有量は、帯電量の観点から、結着樹脂100質量部に対して、0.1質量部以上10.0質量部以下であることが好ましく、0.1質量部以上5.0質量部以下であることがより好ましい。
【0175】
該磁性トナーの製造方法は、特に限定されず、乾式製法(例えば、混練粉砕法など)、湿式製法(例えば、乳化凝集法、懸濁重合法、溶解懸濁法など)のいずれを用いてもよい。これらのうち、乳化凝集法を用いることが好ましい。
【0176】
乳化凝集法を用いた場合、磁性体の占有面積率の変動係数、ワックスのドメインの個数平均径などを上記範囲に容易に制御することができる。
【0177】
該乳化凝集法を用いたトナー粒子の製造方法について、具体例を挙げて説明する。
乳化凝集法は大きく分けて以下の4つの工程を含む。
(a)微粒子分散液を調製する工程、(b)凝集粒子を形成する凝集工程、(c)溶融、合一によりトナー粒子を形成する合一工程、(d)洗浄、乾燥工程。
【0178】
(a)微粒子分散液を調製する工程
微粒子分散液は水系媒体中に微粒子が分散したものである。
水系媒体としては、蒸留水、イオン交換水などの水、アルコール類が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
水系媒体中に微粒子を分散させるための助剤を用いてもよく、助剤として界面活性剤が挙げられる。
界面活性剤としては、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン界面活性剤が挙げられる。
【0179】
具体的には、アルキルベンゼンスルホン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、リン酸エステルのようなアニオン界面活性剤;アルキルアミン塩、アミノアルコール脂肪酸誘導体、ポリアミン脂肪酸誘導体、イミダゾリンのようなアミン塩型、アルキルトリメチルアンモニム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩、ピリジニウム塩、アルキルイソキノリニウム塩、塩化ベンゼトニウムのような四級アンモニウム塩型のカチオン界面活性剤;脂肪酸アミド誘導体、多価アルコール誘導体のようなノニオン界面活性剤;アラニン、ドデシルジ(アミノエチル)グリシン、ジ(オクチルアミノエチル)グリシンやN-アルキル-N,N-ジメチルアンモニウムベタインのような両性界面活性剤が挙げられる。
界面活性剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
微粒子分散液の調製方法は、分散質の種類により適宜選択することができる。
【0180】
例えば、回転せん断型ホモジナイザーや、メディアを有するボールミル、サンドミル、ダイノミルなどの一般的な分散機を用い、分散質を分散させる方法が挙げられる。また、有機溶剤に溶解する分散質の場合、転相乳化法を用いて水系媒体中に分散させてもよい。転相乳化法とは、分散すべき材料を、材料が可溶な有機溶剤中に溶解し、有機連続相(O相)を中和する。その後、水媒体(W相)を投入することによって、W/OからO/Wへの、樹脂の変換(いわゆる転相)が行われて不連続相化し、水媒体中に粒子状に分散する方法である。
【0181】
転相乳化法で用いられる溶剤は樹脂が溶解する溶剤であれば特に制限されるものではないが、液滴を形成する目的から疎水性、又は両親媒性の有機溶剤を用いることが好ましい。
【0182】
乳化重合のように水系媒体中で液滴を形成したのちに重合を行うことで微粒子分散液を調製することも可能である。乳化重合は、まず分散すべき材料の前駆体、水系媒体、重合開始材を混合した後に撹拌又は剪断することで材料が水系媒体に分散した微粒子分散液を得る方法である。この際、乳化の助剤として有機溶剤、界面活性剤を用いてもよい。また、撹拌又は剪断する装置は一般的な装置を用いればよく、回転せん断型ホモジナイザーなどの一般的な分散機が挙げられる。
【0183】
微粒子分散液の分散質の個数平均粒子径は、凝集速度の制御、合一の簡便性の観点から、0.01μm以上1μm以下であることが好ましい。より好ましくは、0.08μm以上0.8μm以下であり、さらに好ましくは、0.1μm以上0.6μm以下である。
【0184】
微粒子分散液中の分散質は、凝集速度の制御の観点から、分散液全量に対して、5質量%以上50質量%以下であることが好ましく、10質量%以上40質量%以下であることがより好ましい。
【0185】
(b)凝集工程
微粒子分散液を調製した後、1種類の微粒子分散液、又は2種類以上の微粒子分散液を混合し、微粒子を凝集させた凝集粒子が分散した凝集粒子分散液を調製する。
混合方法は特に制限されるものではなく、一般的な攪拌機を用いて混合することができる。
凝集は凝集粒子分散液の温度、pH、凝集剤などで制御させるものであり、どの方法を用いてもよい。
凝集粒子を形成する温度に関しては、結着樹脂のガラス転移温度-30℃以上、ガラス転移温度以下であることが好ましい。
【0186】
凝集剤としては無機金属塩、2価以上の金属錯体などが挙げられる。また、微粒子分散液に助剤として界面活性剤を用いた場合、逆極性の界面活性剤を用いることも有効である。特に、凝集剤として金属錯体を用いた場合には、界面活性剤の使用量が低減され、帯電特性が向上する。無機金属塩としては、例えば、
塩化カルシウム、硝酸カルシウム、塩化バリウム、塩化マグネシウム、塩化亜鉛、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウムなどの金属塩、及び、
ポリ塩化アルミニウム、ポリ水酸化アルミニウム、多硫化カルシウムなどの無機金属塩重合体
などが挙げられる。
【0187】
キレート剤としては、水溶性のキレート剤を用いてもよい。キレート剤の具体例としては、例えば、酒石酸、クエン酸、グルコン酸などのオキシカルボン酸、イミノジ酸(IDA)、ニトリロトリ酢酸(NTA)、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)などが挙げられる。キレート剤の添加量としては、例えば、樹脂粒子100質量部に対して、0.01質量部以上5.0質量部以下であることが好ましく、0.1質量部以上3.0質量部以下であることがより好ましい。
【0188】
微粒子分散液の混合のタイミングは特に制限されるものではなく、一度凝集粒子分散液を形成した後又は形成途中にさらに微粒子分散液を添加し、凝集させても構わない。
微粒子分散液の添加タイミングを制御することで、トナー中の構造を制御することが可能となる。
凝集粒子が目的の粒径に達した段階で凝集を停止させることが好ましい。
【0189】
凝集の停止には、希釈、温度の制御、pHの制御、キレート剤の添加、界面活性剤の添加などが挙げられ、キレート剤の添加が製造面から好ましい。また、キレート剤の添加とpHの調整により凝集の停止を行うことが、より好ましい方法である。キレート剤の添加とpHの調整を併用した場合、その後の合一工程後に磁性体がやや凝集したトナー粒子を形成させることができる。
【0190】
(c)合一工程
凝集粒子を形成した後に加熱することで溶融、合一により、トナー粒子を形成する。
加熱温度は結着樹脂のガラス転移温度以上であることが好ましい。
また、凝集粒子を加熱、合一した後に微粒子分散剤を混合し、さらに(b)凝集粒子を形成する工程、(c)溶融、合一工程を経ることでコア/シェル構造のトナー粒子を形成させてもよい。
【0191】
(d)洗浄、乾燥工程
公知の洗浄方法、固液分離方法、乾燥方法を用いてよく、特に制限されるものではない。
ただし、洗浄工程は、帯電性の観点から、充分にイオン交換水による置換洗浄を施すことがよい。また、固液分離工程は、生産性の観点から、吸引濾過、加圧濾過などを施すことがよい。また、乾燥工程は生産性の観点から、凍結乾燥、フラッシュジェット乾燥、流動乾燥、振動型流動乾燥などを施すことがよい。
【0192】
該磁性トナーは、磁性トナー粒子の表面に存在する無機微粒子を含有する。
該無機微粒子としては、シリカ微粒子、チタニア微粒子、及びアルミナ微粒子が挙げられ、それら微粒子表面に疎水化処理を施したものも好適に用いることができる。
【0193】
また、該無機微粒子が、シリカ微粒子、チタニア微粒子、及びアルミナ微粒子からなる群より選ばれた少なくとも一つの無機酸化物微粒子を含有し、該無機酸化物微粒子中の85質量%以上がシリカ微粒子である。また、該無機酸化物微粒子中の90質量%以上がシリカ微粒子であることが好ましい。
【0194】
これは、帯電性付与及び流動性付与の点で、シリカ微粒子が最もバランスが優れているだけでなく、トナー粒子間の凝集力低減の点でも優れているためである。
【0195】
トナー粒子間の凝集力低減の観点でシリカ微粒子が優れている理由については定かではないが、おそらくシリカ微粒子同士の滑り性の点で、前述したようなベアリング効果が大きく作用するためであると推測している。
【0196】
一方、該磁性トナー粒子表面に固着された無機微粒子はシリカ微粒子が主成分であることが好ましい。具体的には、磁性トナー粒子表面に固着された無機微粒子は、シリカ微粒子、チタニア微粒子、及びアルミナ微粒子からなる群より選ばれた少なくとも一つの無機酸化物微粒子を含有し、該無機酸化物微粒子中の80質量%以上がシリカ微粒子であることが好ましい。より好ましくは90質量%以上がシリカ微粒子である。
【0197】
これは、上記と同様の理由であると推察しており、帯電性付与及び流動性付与の点でシリカ微粒子が最も優れており、これにより磁性トナーの帯電の立ち上がりが素早くなる。その結果、高い画像濃度を得ることができる。
【0198】
ここで、磁性トナー粒子表面に存在する無機酸化物微粒子中の85質量%以上をシリカ微粒子とし、磁性トナー粒子表面に固着された無機酸化物粒子中の80質量%以上をシリカ微粒子とするには、無機微粒子添加の量やタイミングを調整すればよい。
また、後述する無機微粒子の定量方法により、その存在量を確認することが可能である。
【0199】
該無機微粒子の一次粒子の個数平均粒径は、5nm以上50nm以下であることが好ましく、10nm以上35nm以下であることがより好ましい。
【0200】
無機微粒子の一次粒子の個数平均粒径が上記範囲であることにより、被覆率A、B/A、及び被覆率Aの変動係数を上記適切な範囲に制御しやすく、前述の付着力低減やベアリング効果が得られやすくなる。
【0201】
該無機微粒子は、疎水化処理を施したものであることが好ましく、メタノール滴定試験によって測定された疎水化度が40%以上、より好ましくは50%以上となるように疎水化処理を施したものである。
【0202】
該疎水化処理の方法としては、有機ケイ素化合物、シリコーンオイル、長鎖脂肪酸などで処理する方法が挙げられる。
【0203】
該有機ケイ素化合物としては、ヘキサメチルジシラザン、トリメチルシラン、トリメチルエトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、トリメチルクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、メチルトリクロロシラン、ジメチルエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ヘキサメチルジシロキサンなどが挙げられる。これらは一種又は二種以上の混合物で用いられる。
【0204】
該シリコーンオイルとしては、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、α-メチルスチレン変性シリコーンオイル、クロルフェニルシリコーンオイル、フッ素変性シリコーンオイルなどが挙げられる。
【0205】
該長鎖脂肪酸としては、炭素数10~22の脂肪酸を好適に用いることができ、直鎖脂肪酸であっても、分岐脂肪酸であってもよい。また、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸のいずれも用いることが可能である。
【0206】
これらのうち、炭素数10~22の直鎖の飽和脂肪酸は無機微粒子表面を均一に処理しやすく、好ましい。
【0207】
該直鎖の飽和脂肪酸としては、カプリン酸、ラウリン酸、ミルスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸などが挙げられる。
【0208】
該無機微粒子の中でも、シリカ微粒子はシリコーンオイルにより処理されたものが好ましく、より好ましくは、シリカ微粒子を有機ケイ素化合物とシリコーンオイルにより処理されたものが疎水化度を好適に制御でき、好ましい。
【0209】
シリカ微粒子をシリコーンオイルで処理する方法としては、例えば、有機ケイ素化合物で処理された無機微粒子とシリコーンオイルとをFMミキサなどの混合機を用いて直接混合する方法や、無機微粒子にシリコーンオイルを噴霧する方法が挙げられる。又は、適当な溶剤にシリコーンオイルを溶解又は分散させた後、無機微粒子を加えて混合し、溶剤を除去する方法でもよい。
【0210】
シリコーンオイルの処理量は、良好な疎水性を得るために、シリカ微粒子100質量部に対して、1質量部以上40質量部以下であることが好ましく、3質量部以上35質量部以下であることがより好ましい。
【0211】
磁性トナーに良好な流動性を付与させる観点から、該無機微粒子の窒素吸着によるBET法で測定された比表面積(BET比表面積)は、20m2/g以上350m2/g以下であることが好ましい。より好ましくは、25m2/g以上300m2/g以下である。
【0212】
該窒素吸着によるBET法で測定された比表面積(BET比表面積)は、JIS Z8830(2001年)に準じて測定するとよい。
【0213】
測定装置としては、定容法によるガス吸着法を測定方式として採用している「自動比表面積・細孔分布測定装置 TriStar3000(島津製作所社製)」を用いる。
【0214】
ここで、シリカ微粒子の添加量は、磁性トナー粒子100質量部に対して、1.5質量部以上3.0質量部以下であることが好ましい。より好ましくは、1.5質量部以上2.6質量部以下であり、さらに好ましくは、1.8質量部以上2.6質量部以下である。
【0215】
シリカ微粒子の添加量が上記範囲であることにより、被覆率A、及びB/Aを適正に制御しやすく、さらに画像濃度やカブリの点でも好ましい。
【0216】
該無機微粒子を外添混合する混合処理装置としては、公知の混合処理装置を用いることができるが、被覆率A、B/A、及び被覆率Aの変動係数を容易に制御できる点で
図3(a)に示すような装置が好ましい。
【0217】
図3(a)は、無機微粒子を外添混合する際に、用いることができる混合処理装置の一例を示す模式図である。
【0218】
該混合処理装置は、磁性トナー粒子と無機微粒子に対して、狭いクリアランス部において、シェアがかかる構成になっているために、磁性トナー粒子表面に無機微粒子を固着させやすい。
【0219】
さらに、後述するように、回転体の軸方向において、磁性トナー粒子と無機微粒子が循環しやすく、固着が進む前に十分に均一混合されやすい点で、被覆率A、B/A、及び被覆率Aの変動係数を上記範囲に制御しやすい。
【0220】
一方、
図3(b)は、該混合処理装置に使用される攪拌部材の構成の一例を示す模式図である。
【0221】
以下、無機微粒子の外添混合工程について
図3(a)及び(b)を用いて説明する。
【0222】
無機微粒子を外添混合する混合処理装置は、少なくとも複数の攪拌部材3が表面に設置された回転体2と、回転体を回転駆動する駆動部8と、攪拌部材3と間隙を有して設けられた本体ケーシング1とを有する。
【0223】
本体ケーシング1の内周部と、撹拌部材3との間隙(クリアランス)は、磁性トナー粒子に均一にシェアを与え、磁性トナー粒子表面に無機微粒子を固着させやすくするために、一定かつ微小に保つとよい。
【0224】
また本装置は、本体ケーシング1の内周部の径が、回転体2の外周部の径の2倍以下である。
図3(a)において、本体ケーシング1の内周部の径が、回転体2の外周部の径(回転体2から撹拌部材3を除いた胴体部の径)の1.7倍である例を示す。本体ケーシング1の内周部の径が、回転体2の外周部の径の2倍以下であると、磁性トナー粒子に力が作用する処理空間が適度に限定されるため、磁性トナー粒子に十分に衝撃力が加わるようになる。
【0225】
また、該クリアランスは、本体ケーシングの大きさに応じて、調整するとよい。本体ケーシング1の内周部の径の、1%以上5%以下程度にすると、磁性トナー粒子に十分なシェアをかけることができる。具体的には、本体ケーシング1の内周部の径が130mm程度の場合は、クリアランスを2mm以上5mm以下程度とし、本体ケーシング1の内周部の径が800mm程度の場合は、10mm以上30mm以下程度とすればよい。
【0226】
無機微粒子の外添混合工程は、混合処理装置を用い、駆動部8によって回転体2を回転させ、混合処理装置中に投入された磁性トナー粒子及び無機微粒子を攪拌、混合することで、磁性トナー粒子の表面に無機微粒子を外添混合処理する。
【0227】
図3(b)に示すように、複数の撹拌部材3の少なくとも一部が、回転体2の回転に伴って、磁性トナー粒子及び無機微粒子を回転体の軸方向の一方向に送る送り用撹拌部材3aとして形成される。また、複数の撹拌部材3の少なくとも一部が、磁性トナー粒子及び無機微粒子を、回転体2の回転に伴って、回転体の軸方向の他方向に戻す戻し用撹拌部材3bとして形成されている。
【0228】
ここで、
図3(a)のように、原料投入口5と製品排出口6が本体ケーシング1の両端部に設けられている場合には、原料投入口5から製品排出口6へ向かう方向(
図3(a)で右方向)を「送り方向」という。
【0229】
すなわち、
図3(b)に示すように、送り用撹拌部材3aの板面は送り方向(13)に磁性トナー粒子を送るように傾斜している。一方、撹拌部材3bの板面は戻り方向(12)に磁性トナー粒子及び無機微粒子を送るように傾斜している。
【0230】
これにより、「送り方向」への送り(13)と、「戻り方向」への送り(12)とを繰り返し行いながら、磁性トナー粒子の表面に無機微粒子の外添混合処理を行う。
【0231】
また、撹拌部材3aと3bは、回転体2の円周方向に間隔を置いて配置した複数枚の部材が一組となっている。
図3(b)に示す例では、撹拌部材3a、3bが回転体2に互いに180度の間隔で2枚の部材が一組をなしているが、120度の間隔で3枚、あるいは90度の間隔で4枚、というように多数の部材を一組としてもよい。
【0232】
図3(b)に示す例では、撹拌部材3aと3bは等間隔で、計12枚形成されている。さらに、
図3(b)において、Dは撹拌部材の幅、dは撹拌部材の重なり部分を示す間隔を示す。磁性トナー粒子及び無機微粒子を、送り方向と戻り方向に効率よく送る観点から、
図3(b)における回転体2の長さに対して、Dは20%以上30%以下程度の幅であることが好ましい。
図3(b)においては、23%である例を示す。さらに撹拌部材3aと3bは撹拌部材3aの端部位置から垂直方向に延長線を引いた場合、撹拌部材3bと撹拌部材3aの重なり部分dをある程度有することが好ましい。これにより、磁性トナー粒子及び無機微粒子に効率的にシェアをかけることが可能である。Dに対するdは、10%以上30%以下であることがシェアをかける点で好ましい。
【0233】
なお、羽根の形状に関しては、
図3(b)に示すような形状以外にも、送り方向及び戻り方向に磁性トナー粒子及び無機微粒子を送ることができる。クリアランスを維持することができれば、曲面を有する形状や先端羽根部分が棒状アームで回転体2に結合されたパドル構造であってもよい。
【0234】
以下、
図3(a)及び
図3(b)に示す装置の模式図に従って、更に詳細に説明する。
図3(a)に示す装置は、少なくとも
複数の攪拌部材3が表面に設置された回転体2と、
回転体2を回転駆動する駆動部8と、
攪拌部材3と間隙を有して設けられた本体ケーシング1と、
本体ケーシング1の内側及び回転体端部側面10にあって、冷熱媒体を流すことのできるジャケット4
を有している。
【0235】
さらに、
図3(a)に示す装置は、
磁性トナー粒子及び無機微粒子を導入するために、本体ケーシング1上部に形成された原料投入口5、及び
外添混合処理された磁性トナーを本体ケーシング1から外に排出するために、本体ケーシング1下部に形成された製品排出口6
を有している。
【0236】
さらに、
図3(a)に示す装置は、原料投入口5内に、原料投入口用インナーピース16が挿入されており、製品排出口6内に、製品排出口用インナーピース17が挿入されている。
【0237】
まず、原料投入口5から原料投入口用インナーピース16を取り出し、磁性トナー粒子を原料投入口5より処理空間9に投入する。次に無機微粒子を原料投入口5より処理空間9に投入し、原料投入口用インナーピース16を挿入する。次に、駆動部8により回転体2を回転させ(11は回転方向を示す。)、上記で投入された磁性トナー粒子及び無機微粒子を、回転体2表面に複数設けられた撹拌部材3により撹拌、混合しながら外添混合処理する。
【0238】
なお、投入する順序は、先に無機微粒子を原料投入口5より投入し、次に、磁性トナー粒子を原料投入口5より投入しても構わない。また、ヘンシェルミキサーのような混合機で予め、磁性トナー粒子と無機微粒子を混合した後、混合物を、
図3(a)に示す装置の原料投入口5より投入しても構わない。
【0239】
より具体的には、外添混合処理条件として、駆動部8の動力を、0.2W/g以上2.0W/g以下に制御することが、被覆率A、B/A、及び被覆率Aの変動係数を上記範囲に調整する観点から好ましい。また、駆動部8の動力を、0.6W/g以上1.6W/g以下に制御することが、より好ましい。
【0240】
処理時間としては、特に限定されないが、好ましくは、3分以上10分以下である。
【0241】
外添混合時の撹拌部材の回転数については特に限定されない。
図3(a)に示す装置の処理空間9の容積が2.0×10
-3m
3の装置において、撹拌部材3の形状を
図3(b)のものとしたときの撹拌部材の回転数としては、1000rpm以上3000rpm以下であることが好ましい。該範囲に回転数を調整することで、被覆率A、B/A、及び被覆率Aの変動係数を上記範囲に調整しやすくなる。
【0242】
さらに、外添混合処理操作の前に、プレ混合工程を持たせてもよい。プレ混合工程を入れることにより、無機微粒子が磁性トナー粒子表面上で高度に均一分散されることで、被覆率Aをより高く調整することができ、被覆率Aの変動係数をより低減させやすい。
【0243】
より具体的には、プレ混合処理条件として、駆動部8の動力を、0.06W/g以上0.20W/g以下とし、処理時間を0.5分以上1.5分以下とすることが好ましい。
【0244】
外添混合処理終了後、製品排出口6内の、製品排出口用インナーピース17を取り出し、駆動部8により回転体2を回転させ、製品排出口6から磁性トナーを排出する。得られた磁性トナーを、必要に応じて円形振動篩機等の篩機で粗粒等を分離し、磁性トナーを得るとよい。
【0245】
該磁性トナーには、本発明の効果に影響を与えない範囲で、該無機微粒子に加えて、一次粒子の個数平均粒径が80nm以上3μm以下の粒子を添加してもよい。該粒子としては、フッ素樹脂粉末、ステアリン酸亜鉛粉末、ポリフッ化ビニリデン粉末のような滑剤;酸化セリウム粉末、炭化硅素粉末、チタン酸ストロンチウム粉末などの研磨剤などが挙げられる。
【0246】
該磁性トナーの体積平均粒径(Dv)は、3.0μm以上8.0μm以下であることが好ましく、5.0μm以上7.0μm以下であることがより好ましい。
【0247】
トナーの体積平均粒径(Dv)が上記範囲である場合、トナーのハンドリング性を良好にしつつ、ドットの再現性を十分に満足させることができる。
【0248】
また、磁性トナーの体積平均粒径(Dv)の個数平均粒径に対する比(体積平均粒径/個数平均粒径)は、1.25未満であることが好ましい。
【0249】
該磁性トナーの平均円形度は、0.960以上1.000以下であることが好ましく、0.970以上1.000以下であることがより好ましい。
【0250】
平均円形度が上記範囲にある場合、一成分接触現像方式のような高シェアのかかるシステムにおいても、トナーの圧密化が発生しにくく、トナーの流動性を維持させやすい。その結果、多数の画像出力を行う際、後半での画像濃度の低下や現像スジの発生をより抑制できる。
【0251】
該平均円形度は、トナーの製造時に、一般的に用いられる方法で円形度を制御すればよく、例えば、乳化凝集法では、合一工程の時間や界面活性剤の添加量を制御するとよい。
【0252】
本発明の画像形成方法は、
外部より帯電部材に電圧を印加し、静電潜像担持体を帯電する帯電工程、
帯電された該静電潜像担持体に静電潜像を形成する潜像形成工程、
該静電潜像をトナー担持体に担持されたトナーにより現像してトナー画像を静電潜像担持体上に形成する現像工程、
該静電潜像担持体上のトナー画像を、中間転写体を介して、又は介さずに転写材に転写する転写工程、及び、
転写材に転写されたトナー画像を加熱加圧手段により定着する定着工程を含む画像形成方法であって、
該現像工程は、該静電潜像担持体と該トナー担持体に担持されたトナーとが直接接触して現像が行われる一成分接触現像方式であり、
該トナーが、
結着樹脂、磁性体及びワックスを含有する磁性トナー粒子と、該磁性トナー粒子の表面に存在する無機微粒子とを含有する磁性トナーであって、
透過型電子顕微鏡を用いた該磁性トナーの断面において、
一辺が0.8μmの正方グリッドで該磁性トナーの断面を区切った際の、該磁性体の占有面積率の変動係数CV3が、40.0%以上80.0%以下であり、
該無機微粒子が、シリカ微粒子、チタニア微粒子、及びアルミナ微粒子からなる群より選ばれた少なくとも1つの無機酸化物微粒子を含有し、該無機酸化物微粒子中の85質量%以上がシリカ微粒子であり、
該無機微粒子による該磁性トナー粒子の表面の被覆率を被覆率A(%)としたとき、該被覆率Aが、45.0%以上80.0%以下であり、
該ワックスが該磁性トナー粒子の内部にドメインを形成し、該ドメインの個数平均径が100nm以上500nm以下であり、
該結着樹脂がスチレン系樹脂を含有し、
該磁性トナーのテトラヒドロフラン可溶分のゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定される、メインピークのピーク分子量が、5000以上12000以下であることを特徴とする。
【0253】
該一成分接触現像方式は、トナー担持体と静電潜像担持体が接触配置(当接配置)された現像方式であり、これら担持体は回転することでトナーを搬送する。該トナー担持体と静電潜像担持体の接触部分には大きなシェアがかかる。そのため、高画質の画像を得るためには、トナーは高耐久性と高流動性を有することが好ましい。
【0254】
一方、現像方式として、キャリアを使用する二成分現像方式よりも一成分現像方式の方が、現像剤が収容されるカートリッジの小型化が可能である。
【0255】
また、該接触現像方式は、トナーの飛び散りの少なく、高品質な画像を得ることができる。すなわち、この両者を併せもつ一成分接触現像方式は、現像装置の小型化と画像の高画質化を両立させることができる。
【0256】
以下、一成分接触現像方式について図面を用いて詳細に説明する。
【0257】
図1は、現像装置の一例を示す模式的断面図である。また、
図2は、一成分接触現像方式の画像形成装置の一例を示す模式的断面図である。
【0258】
図1又は
図2において、静電潜像が形成された静電潜像担持体45は、矢印R1方向に回転される。トナー担持体47は矢印R2方向に回転することによって、トナー担持体47と静電潜像担持体45とが対向している現像領域にトナー57を搬送する。また、トナー担持体47にはトナー供給部材48が接しており、矢印R3方向に回転することによって、トナー担持体47の表面にトナー57を供給している。また、トナー57は、攪拌部材58にて攪拌される。
【0259】
静電潜像担持体45の周囲には帯電部材(帯電ローラ)46、転写部材(転写ローラ)50、クリーナー容器43、クリーニングブレード44、定着器51、ピックアップローラ52などが設けられている。静電潜像担持体45は帯電ローラ46によって帯電される。そして、レーザー発生装置54によりレーザー光を静電潜像担持体45に照射することによって露光が行われ、目的の画像に対応した静電潜像が形成される。静電潜像担持体45上の静電潜像は、現像装置49内のトナー57で現像されてトナー画像を得る。トナー画像は転写材を介して静電潜像担持体45に当接された転写部材(転写ローラ)50により転写材(紙)53上へ転写される。トナー画像の転写材への転写は、中間転写体を介して行われてもよい。トナー画像を載せた転写材(紙)53は定着器51へ運ばれ転写材(紙)53上に定着される。また、一部静電潜像担持体45上に残されたトナー57はクリーニングブレード44によりかき落とされ、クリーナー容器43に収納される。
【0260】
また、トナー規制部材(
図1の符号55)がトナーを介してトナー担持体に当接することによってトナー担持体上のトナー層厚を規制することが好ましい。このようにすることで規制不良の無い高画質を得ることができる。トナー担持体に当接するトナー規制部材としては、規制ブレードが一般的である。
【0261】
上記規制ブレード上辺部側である基部は現像装置側に固定保持され、下辺部側をブレードの弾性力に抗してトナー担持体の順方向或いは逆方向にたわめ状態にしてトナー担持体表面に適度の弾性押圧力をもって当接させるとよい。
【0262】
例えば、トナー規制部材55の現像装置への固定は
図1に示すようにトナー規制部材55の片側自由端を2枚の固定部材(例えば、金属弾性体、
図1の符号56)で挟み込み、ビス留めにより固定するとよい。
【0263】
以下に、本発明に係る各物性値の測定方法を記載する。
【0264】
<無機微粒子の定量方法>
(1)磁性トナー中のシリカ含有量の定量(標準添加法)
磁性トナー3gを直径30mmのアルミリングに入れ、10トンの圧力でペレットを作製する。そして、波長分散型蛍光X線分析(XRF)により、ケイ素(Si)の強度を求める(Si強度-1)。なお、測定条件は使用するXRF装置で最適化されたものであればよいが、一連の強度測定はすべて同一条件で行うこととする。磁性トナーに、一次粒子の個数平均粒径が12nmのシリカ微粒子を、磁性トナーに対して1.0質量%添加して、コーヒーミルにより混合する。
【0265】
この際、混合するシリカ微粒子は、一次粒子の個数平均粒径が5nm以上50nm以下のものであれば、本定量に影響なく使用することができる。
【0266】
混合後、上記と同様にペレット化したのちに、上記同様にSiの強度を求める(Si強度-2)。同様の操作を、シリカ微粒子を、磁性トナーに対して2.0質量%、3.0質量%添加混合したサンプルにおいても、Siの強度を求める(Si強度-3、Si強度-4)。Si強度-1~Si強度-4を用いて、標準添加法により磁性トナー中のシリカ含有量(質量%)を計算する。
【0267】
磁性トナー中のチタニア含有量(質量%)及び、アルミナ含有量(質量%)については、上記のシリカ含有量の定量と同様に標準添加法により定量する。すなわち、チタニア含有量(質量%)については、一次粒子の個数平均粒径が5nm以上50nm以下のチタニア微粒子を添加混合し、チタン(Ti)強度を求めることにより、定量することができる。アルミナ含有量(質量%)については、一次粒子の個数平均粒径が5nm以上50nm以下のアルミナ微粒子を添加混合し、アルミニウム(Al)強度を求めることにより、定量することができる。
【0268】
(2)磁性トナーから無機微粒子の分離
磁性トナー5gを、精密天秤を用いて200mLの蓋付きポリカップに秤量し、メタノールを100mL加え、超音波分散機で5分間分散させる。ネオジム磁石により磁性トナーを引き付け、上澄み液を捨てる。メタノールによる分散と上澄みを捨てる操作を3回繰り返す。その後、10%NaOHを100mLと、「コンタミノンN」(非イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、有機ビルダーからなるpH7の精密測定器洗浄用中性洗剤の10質量%水溶液、和光純薬工業社製)を数滴加え、軽く混合する。その後、24時間静置する。その後、再びネオジム磁石を用いて分離する。なお、この際にNaOHが残留しないように繰り返し蒸留水ですすぐ。回収された粒子を真空乾燥機により十分に乾燥させ、粒子Aを得る。上記操作により、外添されたシリカ微粒子は溶解、除去される。チタニア微粒子、アルミナ微粒子は10%NaOHに対して難溶解性であるため、粒子A中に残存しうる。
【0269】
(3)粒子A中のSi強度測定
3gの粒子Aを直径30mmのアルミリングに入れ、10トンの圧力でペレットを作製し、波長分散型蛍光X線分析(XRF)により、Siの強度を求める(Si強度-5)。Si強度-5と磁性トナー中のシリカ含有量の定量で使用したSi強度-1~Si強度-4を利用して、粒子A中のシリカ含有量(質量%)を計算する。
【0270】
(4)磁性トナーから磁性体の分離
5gの粒子Aに対して、100mLのテトラヒドロフランを加え、良く混合した後に超音波分散を10分間行う。磁石により磁性粒子を引き付け、上澄み液を捨てる。この作業を5回繰り返し、粒子Bを得る。この操作で、磁性体以外の樹脂などの有機成分はほぼ取り除くことができる。ただし、樹脂中のテトラヒドロフラン不溶分が残存する可能性があるため、上記操作で得られた粒子Bを800℃まで加熱して残存する有機成分を燃焼させることが好ましく、加熱後に得られた粒子Cを、磁性トナーに含有されていた磁性体と近似することができる。
【0271】
粒子Cの質量を測定することにより、磁性トナー中の磁性体含有量W(質量%)とすることができる。この際、磁性体の酸化増量分を補正するために、粒子Cの質量に0.9666(Fe2O3→Fe3O4)を乗じる。
【0272】
(5)分離した磁性体中のTi強度、Al強度の測定
磁性体中に不純物又は添加物としてTi、Alが含まれることがある。磁性体に起因するTi及びAlについては、波長分散型蛍光X線分析(XRF)のFP定量法によって、その量を検出できる。検出されたTi量、Al量を、チタニア、アルミナ換算して、磁性体中のチタニア、アルミナ含有量を算出する。
【0273】
上記手法により得られた、各定量値を以下の式に代入することにより、外添シリカ微粒子量、外添チタニア微粒子量、外添アルミナ微粒子量を算出する。
【0274】
外添シリカ微粒子量(質量%)=磁性トナー中のシリカ含有量(質量%)-粒子A中のシリカ含有量(質量%)
外添チタニア微粒子量(質量%)=磁性トナー中のチタニア含有量(質量%)-{磁性体のチタニア含有量(質量%)×磁性体含有量W/100}
外添アルミナ微粒子量(質量%)=磁性トナー中のアルミナ含有量(質量%)-{磁性体のアルミナ含有量(質量%)×磁性体含有量W/100}
(6)磁性トナー粒子表面に固着された無機微粒子において、シリカ微粒子、チタニア微粒子、及びアルミナ微粒子からなる群より選ばれる無機酸化物微粒子中のシリカ微粒子の割合の算出。
【0275】
後述する、被覆率Bの算出法において、「固着されていない無機微粒子の除去」操作をした後のトナーを乾燥したのち、上記(1)~(5)の方法と同様の操作を実施することにより、無機酸化物微粒子中のシリカ微粒子の割合の算出が可能である。
【0276】
<磁性トナーの体積平均粒径(Dv)及び個数平均粒径(Dn)の測定方法>
磁性トナーの体積平均粒径(Dv)及び個数平均粒径(Dn)は、以下のようにして算出する。
【0277】
測定装置としては、100μmのアパーチャーチューブを備えた細孔電気抵抗法による精密粒度分布測定装置「コールター・カウンター Multisizer 3」(登録商標、ベックマン・コールター社製)を用いる。測定条件の設定及び測定データの解析は、付属の専用ソフト「ベックマン・コールター Multisizer 3 Version3.51」(ベックマン・コールター社製)を用いる。なお、測定は実効測定チャンネル数25000にて行う。
【0278】
測定に使用する電解水溶液は、特級塩化ナトリウムをイオン交換水に溶解して濃度が約1質量%となるようにしたもの、例えば、「ISOTON II」(ベックマン・コールター社製)が使用できる。
【0279】
なお、測定、解析を行う前に、以下のように専用ソフトの設定を行う。
【0280】
専用ソフトの「標準測定方法(SOM)を変更画面」において、コントロールモードの総カウント数を50000粒子に設定し、測定回数を1回、Kd値は「標準粒子10.0μm」(ベックマン・コールター社製)を用いて得られた値を設定する。「閾値/ノイズレベルの測定ボタン」を押すことで、閾値とノイズレベルを自動設定する。また、カレントを1600μAに、ゲインを2に、電解水溶液をISOTON IIに設定し、「測定後のアパーチャーチューブのフラッシュ」にチェックを入れる。
【0281】
専用ソフトの「パルスから粒径への変換設定画面」において、ビン間隔を対数粒径に、粒径ビンを256粒径ビンに、粒径範囲を2μmから60μmまでに設定する。
【0282】
具体的な測定法は以下の通りである。
【0283】
(1)Multisizer 3専用のガラス製250mL丸底ビーカーに前記電解水溶液約200mLを入れ、サンプルスタンドにセットし、スターラーロッドの撹拌を反時計回りで24回転/秒にて行う。そして、専用ソフトの「アパーチャーチューブのフラッシュ」機能により、アパーチャーチューブ内の汚れと気泡を除去しておく。
【0284】
(2)ガラス製の100mL平底ビーカーに前記電解水溶液約30mLを入れる。この中に分散剤として「コンタミノンN」(非イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、有機ビルダーからなるpH7の精密測定器洗浄用中性洗剤の10質量%水溶液、和光純薬工業社製)をイオン交換水で約3質量倍に希釈した希釈液を約0.3mL加える。
【0285】
(3)発振周波数50kHzの発振器2個を、位相を180°ずらした状態で内蔵し、電気的出力120Wの超音波分散器「Ultrasonic Dispersion System Tetora150」(日科機バイオス社製)を準備する。超音波分散器の水槽内に約3.3Lのイオン交換水を入れ、この水槽中にコンタミノンNを約2mL添加する。
【0286】
(4)前記(2)のビーカーを前記超音波分散器のビーカー固定穴にセットし、超音波分散器を作動させる。そして、ビーカー内の電解水溶液の、液面の共振状態が最大となるようにビーカーの高さ位置を調整する。
【0287】
(5)前記(4)のビーカー内の電解水溶液に超音波を照射した状態で、トナー約10mgを少量ずつ前記電解水溶液に添加し、分散させる。そして、さらに60秒間超音波分散処理を継続する。なお、超音波分散については、水槽の水温が10℃以上40℃以下となる様に適宜調節する。
【0288】
(6)サンプルスタンド内に設置した前記(1)の丸底ビーカーに、ピペットを用いてトナーを分散した前記(5)の電解水溶液を滴下し、測定濃度が約5%となるように調整する。そして、測定粒子数が50000個になるまで測定を行う。
【0289】
(7)測定データを装置付属の前記専用ソフトにて解析を行い、体積平均粒径(Dv)及び個数平均粒径(Dn)を算出する。なお、前記専用ソフトでグラフ/体積%と設定したときの、「分析/体積統計値(算術平均)」画面の「50%D径」を体積平均粒径(Dv)とした。前記専用ソフトでグラフ/個数%と設定したときの、「分析/個数統計値(算術平均)」画面の「算術径」を個数平均粒径(Dn)とした。
【0290】
<磁性トナーの平均輝度、輝度分散値及びその変動係数、平均円形度の測定方法>
磁性トナーの平均輝度、輝度分散値及びその変動係数、平均円形度は、フロー式粒子像測定装置「FPIA-3000」(シスメックス社製)を用い、校正作業時の測定及び解析条件で測定する。
【0291】
具体的な測定方法は、以下の通りである。
【0292】
まず、ガラス製の容器中に予め不純固形物などを除去したイオン交換水約20mLを入れる。この中に分散剤として「コンタミノンN」(非イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、有機ビルダーからなるpH7の精密測定器洗浄用中性洗剤の10質量%水溶液、和光純薬工業社製)をイオン交換水で約3質量倍に希釈した希釈液を約0.2mL加える。さらに測定試料を約0.02g加え、超音波分散器を用いて2分間分散処理を行い、測定用の分散液とする。その際、分散液の温度が10℃以上40℃以下となる様に適宜冷却する。超音波分散器としては、発振周波数50kHz、電気的出力150Wの卓上型の超音波洗浄機「VS-150」(ヴェルヴォクリーア社製)を用い、水槽内には所定量のイオン交換水を入れ、この水槽中に前記コンタミノンNを約2mL添加する。
【0293】
測定には、対物レンズとして「LUCPLFLN」(倍率20倍、開口数0.40)を搭載した前記フロー式粒子像測定装置を用い、シース液にはパーティクルシース「PSE-900A」(シスメックス社製)を使用する。前記手順に従い調製した分散液を前記フロー式粒子像測定装置に導入し、HPF測定モード、トータルカウントモードにて2000個の磁性トナーを計測する。その結果から磁性トナーの平均輝度、輝度分散値及びその変動係数、平均円形度を算出する。
【0294】
磁性トナーのDnにおける平均輝度は、該磁性トナーの個数平均粒径(Dn)の結果に対して、本フロー式粒子像分析装置の円相当径を、Dn-0.500(μm)以上Dn+0.500(μm)以下の範囲に限定し、平均輝度を算出した値である。
【0295】
CV1は、輝度分散値の測定結果において、前記磁性トナーの個数平均粒径(Dn)の結果に対して、本フロー式粒子像測定装置の円相当径を、Dn-0.500(μm)以上Dn+0.500(μm)以下の範囲に限定する。そして、輝度分散値の変動係数を計算した値である。
【0296】
CV2は、輝度分散値の測定結果において、前記磁性トナーの個数平均粒径(Dn)の結果に対して、本フロー式粒子像測定装置の円相当径を、Dn-1.500(μm)以上Dn-0.500(μm)以下の範囲に限定する。そして、輝度分散値の変動係数を計算した値である。
【0297】
測定にあたっては、測定開始前に標準ラテックス粒子(Duke Scientific社製の「RESEARCH AND TEST PARTICLES Latex Microsphere Suspensions 5100A」をイオン交換水で希釈)を用いて自動焦点調整を行う。その後、測定開始から2時間毎に焦点調整を実施することが好ましい。
【0298】
なお、本件では、シスメックス社による校正作業が行われた、シスメックス社が発行する校正証明書の発行を受けたフロー式粒子像分析装置を使用する。
【0299】
解析粒子径を円相当径1.977μm以上39.54μm未満に限定した以外は、校正証明を受けた時の測定及び解析条件で測定を行う。
【0300】
<融点の測定方法>
樹脂又はワックスの融点は、示差走査熱量計(DSC)Q2000(TA Instruments社製)を使用して以下の条件にて測定を行う。
【0301】
昇温速度:10℃/min
測定開始温度:20℃
測定終了温度:180℃
装置検出部の温度補正はインジウムと亜鉛の融点を用い、熱量の補正についてはインジウムの融解熱を用いる。
【0302】
具体的には、試料約5mgを精秤し、アルミニウム製のパンの中に入れ、一回測定を行う。リファレンスとしてはアルミニウム製の空パンを用いる。そのときの最大吸熱ピークのピーク温度を融点とする。
【0303】
<ガラス転移温度(Tg)の測定方法>
樹脂などのガラス転移温度は、前記融点の示差走査熱量測定によって得られた昇温時のリバーシングヒートフロー曲線において、比熱変化が出る前と出た後のベースラインを延長した直線から縦軸方向に等距離にある直線と、リバーシングヒートフロー曲線におけるガラス転移の階段状変化部分の曲線とが交わる点の温度(℃)である。
【0304】
<樹脂などの、数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、及びピーク分子量(Mp)の測定方法>
樹脂及びその他材料の、数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、及びピーク分子量(Mp)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用い、以下のようにして測定する。
【0305】
(1)測定試料の作製
試料とテトラヒドロフラン(THF)とを5.0mg/mLの濃度で混合し、室温にて5~6時間放置した後、充分に振とうし、THFと試料を、試料の合一体がなくなるまで良く混ぜる。さらに、室温にて12時間以上静置する。この時、試料とTHFの混合開始時点から、静置終了の時点までの時間が72時間以上となるようにし、試料のテトラヒドロフラン(THF)可溶分を得る。
【0306】
その後、耐溶剤性メンブランフィルター(ポアサイズ0.45~0.50μm、マイショリディスクH-25-2[東ソー社製])でろ過して試料溶液を得る。
【0307】
(2)試料の測定
得られた試料溶液を用いて、以下の条件で測定する。
【0308】
装置:高速GPC装置 LC-GPC 150C(ウォーターズ社製)
カラム:Shodex GPC KF-801、802、803、804、805、806、807(昭和電工社製)の7連
移動相:THF
流速:1.0mL/min
カラム温度:40℃
試料注入量:100μL
検出器:RI(屈折率)検出器
試料の分子量測定にあたっては、試料の有する分子量分布を数種の単分散ポリスチレン標準試料により作製された検量線の対数値とカウント数との関係から算出する。
【0309】
検量線作成用の標準ポリスチレン試料としては、Pressure ChemicalCo.製又は東洋ソーダ工業社製の、分子量が6.0×102、2.1×103、4.0×103、1.75×104、5.1×104、1.1×105、3.9×105、8.6×105、2.0×106、4.48×106のものを用いる。なお、メインピークのピーク分子量とは、得られた分子量分布において、最も大きなピークをメインピークとする。
【0310】
<微粒子分散液における分散体の粒径の測定方法>
各微粒子分散液の分散体の粒径は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置を用いて測定する。具体的には、JIS Z 8825-1(2001年)に準じて測定される。
【0311】
測定装置としては、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置「LA-920」(堀場製作所社製)を用いる。
【0312】
測定条件の設定及び測定データの解析は、LA-920に付属の専用ソフト「HORIBA LA-920 for Windows(登録商標) WET(LA-920)Ver.2.02」を用いる。また、測定溶媒としては、予め不純固形物などを除去したイオン交換水を用いる。測定手順は、以下の通りである。
【0313】
(1)バッチ式セルホルダーをLA-920に取り付ける。
(2)所定量のイオン交換水をバッチ式セルに入れ、バッチ式セルをバッチ式セルホルダーにセットする。
(3)専用のスターラーチップを用いて、バッチ式セル内を撹拌する。
(4)「表示条件設定」画面の「屈折率」ボタンを押し、相対屈折率を微粒子に対応した値に設定する。
(5)「表示条件設定」画面において、粒径基準を体積基準とする。
(6)1時間以上の暖気運転を行った後、光軸の調整、光軸の微調整、ブランク測定を行う。
(7)ガラス製の100mL平底ビーカーに微粒子分散液を3mL入れる。さらに、57mLのイオン交換水を入れて樹脂微粒子分散液を希釈する。この中に分散剤として、「コンタミノンN」(非イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、有機ビルダーからなるpH7の精密測定器洗浄用中性洗剤の10質量%水溶液、和光純薬工業社製)をイオン交換水で3質量倍に希釈した希釈液を0.3mL加える。
(8)発振周波数50kHzの発振器2個を、位相を180度ずらした状態で内蔵し、電気的出力120Wの超音波分散器「Ultrasonic Dispersion System Tetora150」(日科機バイオス社製)を準備する。超音波分散器の水槽内に3.3Lのイオン交換水を入れ、この水槽中にコンタミノンNを2mL添加する。
(9)前記(7)のビーカーを前記超音波分散器のビーカー固定穴にセットし、超音波分散器を作動させる。そして、ビーカー内の水溶液の液面の共振状態が最大となるようにビーカーの高さ位置を調整する。
(10)60秒間超音波分散処理を継続する。また、超音波分散にあたっては、水槽の水温が10℃以上40℃以下となる様に適宜調節する。
(11)前記(10)で調製した微粒子分散液を、気泡が入らないように注意しながら直ちにバッチ式セルに少量ずつ添加して、タングステンランプの透過率が90%~95%となるように調整する。そして、粒度分布の測定を行う。得られた体積基準の粒度分布のデータを元に、微粒子分散液中の分散体の粒径を算出する。
【0314】
<透過型電子顕微鏡(TEM)を用いた磁性トナー粒子の断面の観察方法>
透過型電子顕微鏡(TEM)を用いた磁性トナー粒子の断面の観察は以下のようにして行う。
【0315】
磁性トナーを可視光硬化性包埋樹脂(D-800、日新EM社製)に包埋し、超音波ウルトラミクロトーム(EM5、ライカ社製)により60nm厚に切削し、真空染色装置(フィルジェン社製)によりRu染色を行う。
【0316】
その後、透過型電子顕微鏡(H7500、株式会社日立ハイテクノロジー製)を用い、加速電圧120kVで、得られた磁性トナー粒子の断面観察を行う。
【0317】
観察する磁性トナー粒子の断面は、磁性トナー粒子の個数平均粒径から±2.0μm以内のものを10個選んで撮影を行い、断面画像を得る。
【0318】
なお、非晶性樹脂に比べ、ワックスなど結晶性を有する材料はRuによる染色が進まず、TEMによる該断面画像では白く見える。
【0319】
<ワックスのドメインの個数平均径の算出方法>
ワックスのドメインの個数平均径は、該断面画像において、長軸が20nm以上のワックスのドメインを無作為に30個選び、長軸と短軸の平均値をドメイン径とし、30個の平均値をドメインの個数平均径とする。なお、ドメインの選択は同一の磁性トナー粒子中でなくともよい。
【0320】
<Ws及びWcの算出方法>
磁性トナー中のワックスの分布状態は、該断面画像おけるワックスのドメインの面積からWs及びWcを算出し、任意に選択した磁性トナー10個の平均値をもって評価する。画像処理ソフト(Photoshop 5.0、Adobe製)を用い、該断面画像に「色調補正」における「2階調化」処理を行う。
【0321】
閾値の設定は画像の255階調の階調分布において結着樹脂を示す階調ピークの低階調側のオフセット階調とする。この二階調化処理によりワックスのドメインと結着樹脂の領域の区別を明確化した画像を得る。
【0322】
さらに、該断面画像において、該断面の輪郭から1.0μm以内(1.0μmの境界を含む)の領域を残しマスキングを行う。そして、得られた1.0μm以内の領域における長軸が20nm以上のワックスのドメインの占有面積百分率をワックスの占有面積百分率として算出し、これをWsとする。
【0323】
一方、該断面の輪郭から1.0μmよりも内側の内部領域における長軸が20nm以上のワックスのドメインの占有面積百分率をワックスの占有面積百分率として算出し、これをWcとする。
【0324】
<磁性トナー中の磁性体の占有面積率及びその変動係数(CV3)の算出方法>
磁性トナー中の磁性体の占有面積率及びその変動係数(CV3)は、以下のように算出する。
【0325】
まず、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて、磁性トナーの断面の画像を取得する。得られた断面画像を区画法に基づき、各区画グリッドにおける磁性体の占有面積率の頻度ヒストグラムを得る。
【0326】
さらに、得られた各区画グリッドの占有面積率の変動係数を求め、占有面積率の変動係数(CV3)とする。
【0327】
具体的には、まず、磁性トナーを圧縮形成して錠剤とする。直径8mmの錠剤形成器に100mgの磁性トナーを充填し、35kNの力をかけて1分間静置することで錠剤を得る。
【0328】
得られた錠剤を、超音波ウルトラミクロトーム(Leica社、UC7)により切削し、膜厚250nmの薄片サンプルを得る。
【0329】
得られた薄片サンプルを、透過型電子顕微鏡(JEOL社、JEM2800)を用いてSTEM画像を撮影する。
【0330】
STEM画像の撮影に用いるプローブサイズを1.0nmとし、画像サイズを1024×1024pixelとする。この際、明視野像のDetector ControlパネルのContrastを1425、Brightnessを3750、Image ControlパネルのContrastを0.0、Brightnessを0.5、Gammmaを1.00に調整することで、磁性体部分のみを暗く撮影することができる。該設定により、画像処理に好適なSTEM画像が得られる。
【0331】
得られたSTEM画像は、画像処理装置(株式会社ニレコ、LUZEX AP)を用いて数値化する。
【0332】
具体的には、区画法により、一辺が0.8μmの正方グリッドにおける磁性体の占有面積率の頻度ヒストグラムを得る。この際、ヒストグラムの階級間隔は5%とする。
【0333】
さらに、得られた各区画グリッドの占有面積率から変動係数を求め、占有面積率の変動係数CV3とする。また、占有面積率の平均値は、各区画グリッドの占有面積率の平均をとったものである。
【0334】
<被覆率Aの算出方法>
被覆率Aは、日立超高分解能電界放出形走査電子顕微鏡S-4800(株式会社日立ハイテクノロジーズ)にて撮影された磁性トナー表面画像を、画像解析ソフトImage-Pro Plus ver.5.0((株)日本ローパー)により解析して算出する。S-4800の画像撮影条件は以下の通りである。
【0335】
(1)試料作製
試料台(アルミニウム試料台15mm×6mm)に導電性ペーストを薄く塗り、その上に磁性トナーを吹きつける。さらにエアブローして、余分な磁性トナーを試料台から除去し十分乾燥させる。試料台を試料ホルダにセットし、試料高さゲージにより試料台高さを36mmに調節する。
【0336】
(2)S-4800観察条件設定
被覆率Aの算出は、S-4800の反射電子像観察により得られた画像を用いて行う。反射電子像は2次電子像と比べて無機微粒子のチャージアップが少ないため、被覆率Aを精度良く測定することができる。
【0337】
S-4800の筐体に取り付けられているアンチコンタミネーショントラップに液体窒素を溢れるまで注入し、30分間置く。S-4800の「PC-SEM」を起動し、フラッシング(電子源であるFEチップの清浄)を行う。画面上のコントロールパネルの加速電圧表示部分をクリックし、[フラッシング]ボタンを押し、フラッシング実行ダイアログを開く。フラッシング強度が2であることを確認し、実行する。フラッシングによるエミッション電流が20~40μAであることを確認する。試料ホルダをS-4800筐体の試料室に挿入する。コントロールパネル上の[原点]を押し試料ホルダを観察位置に移動させる。
【0338】
加速電圧表示部をクリックしてHV設定ダイアログを開き、加速電圧を[0.8kV]、エミッション電流を[20μA]に設定する。オペレーションパネルの[基本]のタブ内にて、信号選択を[SE]に設置し、SE検出器を[上(U)]及び[+BSE]を選択し、[+BSE]の右の選択ボックスで[L.A.100]を選択し、反射電子像で観察するモードにする。同じくオペレーションパネルの[基本]のタブ内にて、電子光学系条件ブロックのプローブ電流を[Normal]に、焦点モードを[UHR]に、WDを[3.0mm]に設定する。コントロールパネルの加速電圧表示部の[ON]ボタンを押し、加速電圧を印加する。
【0339】
(3)磁性トナーの個数平均粒径の算出
コントロールパネルの倍率表示部内をドラッグして、倍率を5000(5k)倍に設定する。操作パネルのフォーカスつまみ[COARSE]を回転させ、ある程度焦点が合ったところでアパーチャアライメントの調整を行う。コントロールパネルの[Align]をクリックし、アライメントダイアログを表示し、[ビーム]を選択する。操作パネルのSTIGMA/ALIGNMENTつまみ(X,Y)を回転し、表示されるビームを同心円の中心に移動させる。次に[アパーチャ]を選択し、STIGMA/ALIGNMENTつまみ(X,Y)を一つずつ回し、像の動きを止める又は最小の動きになるように合わせる。アパーチャダイアログを閉じ、オートフォーカスで、ピントを合わせる。この操作をさらに2度繰り返し、ピントを合わせる。
【0340】
その後、磁性トナー粒子300個について粒径を測定して個数平均粒径を求める。該個数平均粒径は、磁性トナー粒子を観察した際の最大径を測定し、該最大径を算術平均したものである。
【0341】
(4)焦点調整
(3)で得た、個数平均粒径±0.1μmの粒子について、最大径の中点を測定画面の中央に合わせた状態でコントロールパネルの倍率表示部内をドラッグして、倍率を10000(10k)倍に設定する。操作パネルのフォーカスつまみ[COARSE]を回転させ、ある程度焦点が合ったところでアパーチャアライメントの調整を行う。コントロールパネルの[Align]をクリックし、アライメントダイアログを表示し、[ビーム]を選択する。操作パネルのSTIGMA/ALIGNMENTつまみ(X,Y)を回転し、表示されるビームを同心円の中心に移動させる。次に[アパーチャ]を選択し、STIGMA/ALIGNMENTつまみ(X,Y)を一つずつ回し、像の動きを止める又は最小の動きになるように合わせる。アパーチャダイアログを閉じ、オートフォーカスで、ピントを合わせる。その後、倍率を50000(50k)倍に設定し、上記と同様にフォーカスつまみ、STIGMA/ALIGNMENTつまみを使用して焦点調整を行い、再度オートフォーカスでピントを合わせる。この操作を再度繰り返し、ピントを合わせる。ここで、観察面の傾斜角度が大きいと被覆率の測定精度が低くなりやすいので、ピント調整の際に観察面全体のピントが同時に合うものを選ぶことで、表面の傾斜が極力無いものを選択して解析する。
【0342】
(5)画像保存
ABCモードで明るさ合わせを行い、サイズ1280×960ピクセルで写真撮影して保存する。この画像ファイルを用いて下記の解析を行う。磁性トナー粒子一つに対して写真を1枚撮影し、少なくとも磁性トナー粒子を30粒子以上について画像を得る。
【0343】
(6)画像解析
下記解析ソフトを用いて、上述した手法で得た画像を2値化処理することで被覆率Aを算出する。このとき、上記一画面を正方形で12分割してそれぞれ解析する。ただし、分割区画内に、粒径が50nmを超える無機微粒子が入る場合はその区画では被覆率Aの算出を行わないこととする。
【0344】
画像解析ソフトImage-Pro Plus ver.5.0の解析条件は以下の通りである。
ソフトImage-ProPlus5.1J
【0345】
ツールバーの「測定」から「カウント/サイズ」、「オプション」の順に選択し、二値化条件を設定する。オブジェト抽出オプションのンかで8連結を選択し、平滑化を0とする。その他、予め選別、穴を埋める、包括線は選択せず、「境界線を除外」は「なし」とする。ツールバーの「選択」から「測定項目」を選択し、面積の選別レンジに2~107と入力する。
【0346】
被覆率の計算は、正方形の領域を囲って行う。この時、領域の面積(C)は24000~26000ピクセルになるようにする。「処理」-2値化で自動2値化した場合の0以上255以下の数値を控えておく。次に、ツールバーの「レンジを選択」で、上述で控えた面積値を入力し、「カウント」で2値化を行う。
【0347】
そして、シリカの無い領域の面積の総和(D)を算出する。さらに、正方形の領域の面積C、シリカの無い領域の面積の総和Dから下記式で被覆率aが求められる。
被覆率a(%)=100-(D/C×100)
【0348】
上述のように、被覆率aの計算を磁性トナー30粒子以上について、各10以上の選択範囲において、被覆率aを算出し、総数300以上の被覆率aの平均値を、被覆率Aとする。
【0349】
<被覆率Aの変動係数>
る被覆率Aの変動係数は下記のように求める。上述の被覆率Aの計算において使用した全被覆率データの標準偏差をσ(A)とすると、被覆率Aの変動係数は下記式で得られる。
変動係数(%)={σ(A)/A}×100
【0350】
<被覆率Bの算出>
被覆率Bは、まず、磁性トナー表面の固着されていない無機微粒子を除去し、その後、被覆率Aの算出と同様の操作を行って、算出する。
【0351】
(1)固着されていない無機微粒子の除去
固着されていない無機微粒子の除去は下記のように行う。この除去条件は、トナー表面に埋没した無機微粒子以外を十分除去するために本発明者らが検討し、決定した。
【0352】
一例として、NOB-130(ホソカワミクロン株式会社製)を使用して、3種類の外添強度で被覆率Aを46%とした磁性トナーについて、超音波分散時間と、超音波分散後に算出した被覆率の関係を
図6に示す。
図6は、以下の方法により超音波分散による無機微粒子の除去を行った後、乾燥させた磁性トナーの被覆率を上記被覆率Aの算出と同様に行うことにより作成した。
【0353】
図6より、超音波分散による無機微粒子の除去とともに、被覆率が低下し、いずれの外添強度においても、20分間超音波分散することにより、被覆率がほぼ一定となることがわかる。このことから、30分間の超音波分散により、トナー表面に埋没した無機微粒子以外を十分除去できるとし、そのときに得られる被覆率を被覆率Bと定義した。
【0354】
より詳細には、水16.0g、コンタミノンN(和光純薬製中性洗剤、商品No.037-10361)4.0gをガラス製の30mLバイアルに投入し、十分混合する。作製された溶液に磁性トナー1.50gを投入して磁石を底面から近付け、磁性トナーを全て沈める。その後、磁石を動かして気泡を除くと共に溶液に磁性トナーを馴染ませる。
【0355】
超音波振動機UH-50(株式会社エスエムテー製、先端の直径6mmのチタン合金チップ使用)の先端が、バイアルの中央部であり、かつ、バイアル底面から5mmの高さになるようにセットし、超音波分散による無機微粒子の除去を行う。30分間、超音波を掛けた後、磁性トナーを全量取り出して乾燥させる。この時、極力熱を掛けないこととし、30℃以下で真空乾燥を行う。
【0356】
(2)被覆率Bの算出
上述の乾燥後の磁性トナーを上述の被覆率Aと同様に被覆率を算出し、被覆率Bを得る。
【0357】
<無機微粒子の一次粒子の個数平均粒径の測定方法>
無機微粒子の一次粒子の個数平均粒径は、日立超高分解能電界放出形走査電子顕微鏡S-4800(株式会社日立ハイテクノロジーズ)にて撮影される磁性トナー表面の無機微粒子画像から算出される。S-4800の画像撮影条件は以下の通りである。
【0358】
上述した「被覆率Aの算出」と同様に(1)~(3)まで操作を行い、(4)と同様に磁性トナー表面を倍率50000(50k)倍で焦点調整を行ってピントを合わせた後、ABCモードで明るさ合わせを行う。その後、倍率を100000(100k)倍とした後に(4)と同様にフォーカスつまみ、STIGMA/ALIGNMENTつまみを使用して焦点調整を行い、さらに、オートフォーカスでピントを合わせる。焦点調整の操作を再度繰り返し、100000(100k)倍にてピントを合わせる。
【0359】
その後、磁性トナー表面上の少なくとも300個の無機微粒子について粒径を測定して、個数平均粒径を求める。ここで、無機微粒子は凝集塊として存在するものもあるため、一次粒子と確認できるものの最大径を求め、得られた最大径を算術平均することによって、一次粒子の個数平均粒径を得る。
【実施例】
【0360】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明は何らこれに制約されるものではない。なお、実施例及び比較例の部数及び%は特に断りが無い場合、すべて質量基準である。また、実施例16は参考例である。
【0361】
<樹脂1の製造例>
・スチレン 75.0部
・ブチルアクリレート 25.0部
・β-カルボキシエチルアクリレート 2.0部
・トルエン 150.0部
・重合開始剤:アゾビスイソブチロニトリル(AIBN) 0.22部
撹拌装置及び温度計を備えた反応容器中に、窒素置換をしながら上記を仕込んだ。70℃まで加熱した後、5時間かけて重合を行い、減圧乾燥を行うことで樹脂1を得た。該樹脂1のピーク分子量(Mp)は8500であった。
【0362】
<樹脂粒子分散液1の調製例>
100.0部の樹脂1を、トルエン150.0部に溶解した後、イオン交換水300部中に入れ、1.0部のアニオン界面活性剤(ネオゲンRK、第一工業製薬株式会社)を加え、ホモジナイザー(IKA社製:ウルトラタラックスT50)で攪拌した。その後、蒸留によってトルエンを分離することで樹脂粒子分散液1を得た。樹脂粒子分散液1中の固形分濃度は、イオン交換水を添加することで25.0質量%に調整した。樹脂粒子分散液1の処方及び物性について、表1に示す。
【0363】
<樹脂粒子分散液2~7の調製例>
樹脂粒子分散液1の調製例において、処方を表1のように変更した以外は同様にして樹脂粒子分散液2~7を得た。樹脂粒子分散液2~7の処方及び物性について、表1に示す。
【0364】
【0365】
<ワックス分散液1の調製例>
・パラフィンワックス 50.0部
(日本精蝋(株)製、HNP-9)
・アニオン性界面活性剤 0.3部
(第一工業製薬株式会社、ネオゲンRK)
・イオン交換水 150.0部
以上を混合して95℃に加熱し、ホモジナイザー(IKA社製、ウルトラタラックスT50)を用いて分散した。その後、マントンゴーリン高圧ホモジナイザ(ゴーリン社製)で分散処理し、ワックス粒子を分散させてなるワックス分散液1(固形分濃度:25質量%)を調製した。得られたワックス粒子の体積平均粒径は0.20μmであった。
【0366】
<ワックス分散液2の調製例>
ワックス分散液1の調製例において、パラフィンワックスの代わりに、ベヘン酸ベヘニル(融点73℃)に変更した以外は同様にして、ワックス分散液2を得た。得られたワックス粒子の体積平均粒径は0.22μmであった。
【0367】
<ワックス分散液3~5の調製例>
ワックス分散液1の調製例において、界面活性剤の添加量及びホモジナイザーの条件を調整し、表2に示す物性のワックス分散液3~5を得た。
【0368】
【0369】
<磁性体1の製造例>
Fe2+を2.0mol/L含有する硫酸鉄第一水溶液50リットルに、4.0mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液55リットルを混合撹拌し、水酸化第一鉄コロイドを含む第一鉄塩水溶液を得た。この水溶液を85℃に保ち、20L/minで空気を吹き込みながら酸化反応を行い、コア粒子を含むスラリーを得た。
【0370】
得られたスラリーをフィルタープレスにてろ過及び洗浄した後、コア粒子を水中に再度分散させた。得られたリスラリー液に、コア粒子100部当たり、珪素換算で0.20質量%となる珪酸ソーダを添加し、スラリー液のpHを6.0に調整し、撹拌することで珪素リッチな表面を有する磁性酸化鉄粒子を得た。
【0371】
得られたスラリー液をフィルタープレスにてろ過、洗浄、さらにイオン交換水にてリスラリーを行った。このリスラリー液(固形分50部/L)に500部(磁性酸化鉄に対して10質量%)のイオン交換樹脂SK110(三菱化学製)を投入し、2時間撹拌してイオン交換を行った。その後、イオン交換樹脂をメッシュでろ過して除去し、フィルタープレスにてろ過及び洗浄し、乾燥及び解砕して、一次粒子の個数平均粒径が0.21μmの磁性体1を得た。
【0372】
<磁性体2の製造例>
磁性体1の製造例において、空気の吹き込み量と酸化反応時間を調整したこと以外は磁性体1の製造例と同様にして、一次粒子の個数平均粒径が0.30μmの磁性体2を得た。
【0373】
<磁性体分散液1の調製例>
・磁性体1 25.0部
・イオン交換水 75.0部
上記材料を混合して、ホモジナイザー(IKA社製、ウルトラタラックスT50)を用いて分散した。得られた磁性体分散液1中の磁性体の体積平均粒径は0.23μmであった。
【0374】
<磁性体分散液2の調製例>
磁性体分散液1の調製例において、磁性体1を磁性体2に変更した以外は同様にして磁性体分散液2を製造した。磁性体分散液2中の磁性体の体積平均粒径は0.35μmであった。
【0375】
<磁性トナー粒子1の製造例>
・樹脂粒子分散液1(固形分25.0質量%) 150.0部
・ワックス分散液1(固形分25.0質量%) 15.0部
・磁性体分散液1(固形分25.0質量%) 105.0部
ビーカーに、上記材料を投入し、水の総部数が250部になるように調整した後、30.0℃に温調した。その後、ホモジナイザー(IKA社製、ウルトラタラックスT50)を用いて、5000rpmで1分間撹拌することにより混合した。
さらに凝集剤として10.0部の硫酸マグネシウム2.0質量%水溶液を徐々に添加した。
【0376】
撹拌装置、温度計を備えた重合釜に原料分散液を移し、マントルヒーターで50.0℃に加熱し撹拌することで凝集粒子の成長を促進させた。
【0377】
60分間経過した段階でエチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)5.0質量%水溶液を200.0部添加し凝集粒子分散液1を調製した。
【0378】
続いて、凝集粒子分散液1を0.1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH8.0に調整した後、凝集粒子分散液1を80.0℃に加熱し、180分間放置して、凝集粒子の合一を行った。
【0379】
180分間経過後、トナー粒子が分散したトナー粒子分散液1を得た。1.0℃/分の降温速度で冷却した後、トナー粒子分散液1をろ過し、イオン交換水で通水洗浄し、ろ液の伝導度が50mS以下となったところで、ケーキ状になったトナー粒子を取り出した。次に、トナー粒子の質量の20倍量のイオン交換水中に、ケーキ状になったトナー粒子を投入し、スリーワンモータで撹拌し、充分にトナー粒子がほぐれたところで再度ろ過、通水洗浄し固液分離した。得られたケーキ状になったトナー粒子をサンプルミルで解砕して、40℃のオーブン中で24時間乾燥した。さらに得られた粉体をサンプルミルで解砕した後、40℃のオーブン中で5時間、追加の真空乾燥をして、磁性トナー粒子1を得た。
【0380】
<磁性トナー1の製造例>
磁性トナー粒子1に対して、
図3(a)に示す装置を用いて、無機微粒子の外添混合処理を行った。
【0381】
本実施例においては、
図3(a)に示す装置の処理空間9の容積が2.0×10
-3m
3の装置(NOB-130;ホソカワミクロン株式会社製)を用い、駆動部8の定格動力を5.5kWとし、攪拌部材3の形状を
図3(b)のものとした。そして、
図3(b)における攪拌部材3aと攪拌部材3bの重なり幅dを攪拌部材3の最大幅Dに対して0.25Dとし、攪拌部材3と本体ケーシング1内周との最小間隙を3.0mmとした。
【0382】
該装置に、100部の磁性トナー粒子1と、1.0部のシリカ微粒子1とを投入した。シリカ微粒子1は、BET比表面積:200m2/g、一次粒子の個数平均粒径11nmのシリカ微粒子100部をヘキサメチルジシラザン20部で処理し、次いでジメチルシリコーンオイル10部で処理を行ったものである。
【0383】
磁性トナー粒子とシリカ微粒子1を投入後、磁性トナー粒子とシリカ微粒子1を均一に混合するために、プレ混合を実施した。
【0384】
プレ混合の条件は、駆動部8の動力を0.1W/g(駆動部8の回転数150rpm)とし、処理時間を1分間とした。
【0385】
プレ混合終了後、外添混合処理を行った。外添混合処理条件は、駆動部8の動力を1.0W/g(駆動部8の回転数1800rpm)で一定となるように、攪拌部材3の最外端部周速を調整し、処理時間を5分間とした。外添混合処理条件を表4に示す。
【0386】
外添混合処理後、直径500mm、目開き75μmのスクリーンを設置した円形振動篩機で粗粒などを除去し、磁性トナー1を得た。磁性トナー1を走査型電子顕微鏡で拡大観察し、磁性トナー表面のシリカ微粒子の一次粒子の個数平均粒径を測定したところ、13nmであった。
【0387】
得られた磁性トナー1についての、外添条件及び物性を表4に示す。また、得られた磁性トナー1の下記結果を表5に示す。
【0388】
体積平均粒径(Dv)、個数平均粒径(Dn)、Dnにおける平均輝度[表中では、単に平均輝度と表記する。]、CV1、CV2/CV1、磁性体の占有面積率の平均値[表中では、Aと表記する。]、平均円形度、ワックスのドメインの個数平均径[表中では、Bと表記する。]、磁性トナーのテトラヒドロフラン可溶分のGPCを用いて測定されたメインピークのピーク分子量[表中では、Mpと表記する。]。
【0389】
<実施例1>
(画像形成装置)
一成分接触現像方式のLaserJet Pro M12(ヒューレットパッカード社製)を本来のプロセススピードよりも高速である、200mm/secに改造して使用した。
【0390】
上記のように改造した装置に磁性トナー1を100g充填し、以下の評価を実施した。なお、記録材は、坪量が75g/m2のbusiness4200(Xerox社製)を用いた。
【0391】
また、評価結果を表6に示す。なお、各評価における評価方法及び評価基準は以下の通りである。
【0392】
<画像濃度の評価>
上記改造機を用いて、低温低湿環境下(15.0℃/10.0%RH)において、印字率が2%の横線を1枚間欠モードで3000枚画出しの耐久試験を行った。
【0393】
画像濃度は、耐久初期及び耐久試験後にベタ画像部を形成し、このベタ画像の濃度をマクベス反射濃度計(マクベス社製)にて測定した。
【0394】
磁性トナー1は、耐久試験前後において、画像濃度の高い良好なベタ黒画像が得られた。画像濃度の評価基準は以下の通りである。
【0395】
(耐久初期のベタ画像濃度(表6中では「初期濃度」と記載)の評価基準)
A:1.45以上
B:1.40以上1.45未満
C:1.35以上1.40未満
D:1.35未満
耐久試験後の画像濃度の評価は、耐久初期のベタ画像濃度と耐久試験後のベタ画像濃度の差(表6中では「濃度差」と記載)により判断し、該濃度差が、小さいほど良好とした。
【0396】
(評価基準)
A:0.05以下
B:0.05より大きく、0.10以下
C:0.10より大きく、0.15以下
D:0.15より大きい
【0397】
<カブリの評価>
カブリは、上記画像濃度における耐久試験後に評価した。低温低湿環境下でカブリを評価することで、トナーの脆性に影響されるトナーの割れ、欠けに伴うカブリを厳しく評価することができる。該耐久試験後に、白画像を出力して、その反射率を東京電色社製のREFLECTMETER MODEL TC-6DSを使用して測定した。一方、白画像形成前の転写紙(標準紙)についても同様に反射率を測定した。フィルターは、グリーンフィルターを用いた。白画像出力前後の反射率から、下記式を用いてカブリを算出した。カブリ(反射率)(%)=標準紙の反射率(%)-白画像サンプルの反射率(%)
磁性トナー1は、耐久試験前後においても、カブリの抑制された良好な画像が得られた。カブリの判断基準は以下のとおりである。
【0398】
A:1.2%未満
B:1.2%以上2.0%未満
C:2.0%以上3.0%未満
D:3.0%以上
【0399】
<現像スジの評価>
現像スジは、画像濃度と同様に、上記改造機に磁性トナー1を100g充填し、高温高湿環境下(32.5℃/80%RH)で耐久試験を行うことで評価した。印字率が2%の横線を1枚間欠モードで3000枚画出しの耐久試験を行い、規制部材へのトナー融着に起因する縦スジ、いわゆる現像スジ発生の有無は耐久試験中、定期的にベタ黒画像を出力し、目視で確認した。
【0400】
高温高湿環境下で行うことで、規制部材へのトナー融着が促進されやすく、現像スジを厳しく評価できる。
【0401】
磁性トナー1の評価結果においては、耐久試験を通して、現像スジは発生しなかった。現像スジの判断基準は以下のとおりである。
【0402】
A:3,000枚でも発生なし
B:2,000枚より大きく3,000枚以下で発生
C:1,000枚より大きく2,000枚以下で発生
D:1,000枚以下で発生
【0403】
<後端オフセットの評価>
上記改造機を用い、さらに定着器の温調を10℃下げるように定着器の設定を変更した。高温高湿環境下(32.5℃/80%RH)において、評価間には定着器を取り外し、定着器を、扇風機などを使用して十分に冷やした状態で以下の評価を実施した。
【0404】
評価後に定着器を十分に冷やしておくことで、画像出力後に上昇した定着ニップ部の温度が冷やされることで、トナーの定着性を厳しく、さらに再現良く評価することが可能である。
【0405】
後端オフセットを評価するに際して、記録材として、キヤノン製A4サイズOceRedLabel紙(坪量80g/m2)を、該高温高湿環境下に48時間以上放置したものを使用した。
【0406】
比較的重く、かつ、表面粗さの大きい紙を使用し、さらに高温高湿環境下に放置した紙(放置紙)を使用することで、後端オフセットを厳しく評価することが可能である。
【0407】
磁性トナー1を用いて、定着器が十分に冷えた状態で、上記放置紙にベタ黒画像を出力した。この際、紙上のトナーの載り量を9g/m2となるように調節した。磁性トナー1の評価結果においては、後端オフセットのない良好なベタ黒画像が得られた。
【0408】
後端オフセットの判断基準は、上記の手順で出力したベタ黒画像についてオフセットのレベルを目視で評価した。なお、判断基準は以下の通りである。
【0409】
A:オフセットが全くない
B:よく見るとオフセットが若干見られる
C:オフセットが見られるが目立たない
D:オフセットが目立つ
【0410】
<磁性トナー粒子2の製造例>
(プレ凝集工程)
・磁性体分散液1(固形分25.0質量%) 105.0部
ビーカーに、上記材料を投入し、30.0℃に温調した後、ホモジナイザー(IKA社製、ウルトラタラックスT50)を用いて、5000rpmで1分間撹拌し、さらに凝集剤として1.0部の硫酸マグネシウム2.0質量%水溶液を徐々に添加し、1分間撹拌した。
【0411】
(凝集工程)
・樹脂粒子分散液1(固形分25.0質量%) 150.0部
・ワックス分散液1(固形分25.0質量%) 15.0部
該材料を上記ビーカーに投入し、水の総部数が250部になるように調整した後、5000rpmで1分間撹拌することにより混合した。
【0412】
さらに凝集剤として9.0部の硫酸マグネシウム2.0質量%水溶液を徐々に添加した。
【0413】
撹拌装置、温度計を備えた重合釜に原料分散液を移し、マントルヒーターで50.0℃に加熱し撹拌することで凝集粒子の成長を促進させた。
【0414】
59分間経過した段階でエチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)5.0質量%水溶液を200.0部添加し凝集粒子分散液2を調製した。
【0415】
続いて、凝集粒子分散液2を0.1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH8.0に調整した後、凝集粒子分散液2を80.0℃に加熱し、180分間放置して、凝集粒子の合一を行った。
【0416】
180分間経過後、トナー粒子が分散したトナー粒子分散液2を得た。1.0℃/分の降温速度で冷却した後、トナー粒子分散液2をろ過し、イオン交換水で通水洗浄し、ろ液の伝導度が50mS以下となったところで、ケーキ状になったトナー粒子を取り出した。次に、トナー粒子の質量の20倍量のイオン交換水中に、ケーキ状になったトナー粒子を投入し、スリーワンモータで撹拌し、充分にトナー粒子がほぐれたところで再度ろ過、通水洗浄し固液分離した。得られたケーキ状になったトナー粒子をサンプルミルで解砕して、40℃のオーブン中で24時間乾燥した。さらに得られた粉体をサンプルミルで解砕した後、40℃のオーブン中で5時間、追加の真空乾燥をして、磁性トナー粒子2を得た。
【0417】
<磁性トナー粒子3~17の製造例>
磁性トナー粒子1の製造例において、表3に記載した条件に変更した以外は同様にして、磁性トナー粒子3~17を得た。
【0418】
なお、磁性トナー粒子3の製造例では、第一凝集工程において、0.2部の界面活性剤(ノイゲンTDS-200、第一工業製薬株式会社)を添加後に、凝集剤を添加した。
【0419】
また、磁性トナー粒子14及び15の製造例では、50.0℃で凝集粒子の成長を促進させる第一凝集工程の後に、表3に記載した分散液を添加し、再び、50.0℃で凝集粒子の成長を促進させる第二凝集工程を実施した。
【0420】
【0421】
<磁性トナー粒子18の製造例>
・樹脂1 100.0部
・パラフィンワックス 4.0部
(日本精蝋(株)製、HNP-9)
・磁性体1 65.0部
・荷電制御剤 1.0部
(アゾ鉄化合物;T-77、保土谷化学工業(株))
上記原材料を、FMミキサ(FM10C、日本コークス工業株式会社製)を用い、2500rpmで2分間、予備混合した。その後、回転数200rpmに設定した二軸混練押し出し機(PCM-30:池貝鉄工所社製)により、混練物の出口付近における混練物温度が150℃となるように設定温度を調節し、混練した。
【0422】
得られた溶融混練物を冷却し、冷却された溶融混練物をカッターミルで粗粉砕した後、得られた粗粉砕物を、ターボミルT-250(ターボ工業社製)を用いて、フィード量を20kg/hrとし、排気温度が38℃になるようエアー温度を調整して微粉砕した。さらに、コアンダ効果を利用した多分割分級機を用いて分級して、重量平均粒径が7.58μmの磁性トナー粒子18を得た。
【0423】
<磁性トナー粒子19の製造例>
・樹脂粒子分散液2(固形分25.0質量%) 150.0部
・ワックス分散液1(固形分25.0質量%) 15.0部
・磁性体分散液1(固形分25.0質量%) 105.0部
ビーカーに、上記材料を投入し、水の総部数が250部になるように調整した後、30.0℃に温調した。その後、ホモジナイザー(IKA社製、ウルトラタラックスT50)を用いて、8000rpmで10分間撹拌することにより混合した。
【0424】
さらに0.1mol/Lの塩酸を徐々に添加しpHを5.0に調整し、さらに8000rpmで20分間撹拌した。
【0425】
撹拌装置、温度計を備えた重合釜に原料分散液を移し、マントルヒーターで50.0℃に加熱し、0.1mol/Lの塩酸を徐々に添加しpHを3.0に調整し、撹拌することで凝集粒子の成長を促進させた。
【0426】
60分間経過した段階で、凝集粒子分散液19を0.1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を用いてpHを6.8に調整した後、凝集粒子分散液19を90.0℃に加熱し、180分間放置し、凝集粒子の合一を行った。
【0427】
180分間経過後、トナー粒子が分散したトナー粒子分散液19を得た。1.0℃/分の降温速度で冷却した後、トナー粒子分散液19をろ過し、イオン交換水で通水洗浄し、ろ液の伝導度が50mS以下となったところで、ケーキ状になったトナー粒子を取り出した。
【0428】
次に、トナー粒子の質量の20倍量のイオン交換水中に、ケーキ状になったトナー粒子を投入し、スリーワンモータで撹拌し、充分にトナー粒子がほぐれたところで再度ろ過、通水洗浄し固液分離した。得られたケーキ状になったトナー粒子をサンプルミルで解砕して、40℃のオーブン中で24時間乾燥した。さらに得られた粉体をサンプルミルで解砕した後、40℃のオーブン中で5時間、追加の真空乾燥をして、磁性トナー粒子19を得た。
【0429】
<磁性トナー粒子20の製造例>
(プレ凝集工程)
・磁性体分散液1(固形分25.0質量%) 105.0部
ビーカーに、上記材料を投入し、30.0℃に温調した後、ホモジナイザー(IKA社製、ウルトラタラックスT50)を用いて、8000rpmで10分間撹拌し、さらに凝集剤として1.0部の硫酸マグネシウム2.0質量%水溶液を徐々に添加し、10分間撹拌した。
【0430】
(凝集工程)
・樹脂粒子分散液1(固形分25.0質量%) 150.0部
・ワックス分散液1(固形分25.0質量%) 15.0部
該材料を上記ビーカーに投入し、水の総部数が250部になるように調整した後、8000rpmで1分間撹拌することにより混合した。
【0431】
さらに凝集剤として9.0部の硫酸マグネシウム2.0質量%水溶液を徐々に添加した。
【0432】
撹拌装置、温度計を備えた重合釜に原料分散液を移し、マントルヒーターで50.0℃に加熱し撹拌することで凝集粒子の成長を促進させた。
【0433】
50分間経過した段階でエチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)5.0質量%水溶液を200.0部添加し凝集粒子分散液20を調製した。
【0434】
続いて、凝集粒子分散液20を0.1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH8.0に調整した後、凝集粒子分散液20を80.0℃に加熱し、180分間放置して、凝集粒子の合一を行った。
【0435】
180分間経過後、トナー粒子が分散したトナー粒子分散液20を得た。1.0℃/分の降温速度で冷却した後、トナー粒子分散液20をろ過し、イオン交換水で通水洗浄し、ろ液の伝導度が50mS以下となったところで、ケーキ状になったトナー粒子を取り出した。
【0436】
次に、トナー粒子の質量の20倍量のイオン交換水中に、ケーキ状になったトナー粒子を投入し、スリーワンモータで撹拌し、充分にトナー粒子がほぐれたところで再度ろ過、通水洗浄し固液分離した。得られたケーキ状になったトナー粒子をサンプルミルで解砕して、40℃のオーブン中で24時間乾燥した。さらに得られた粉体をサンプルミルで解砕した後、40℃のオーブン中で5時間、追加の真空乾燥をして、磁性トナー粒子20を得た。
【0437】
<磁性トナー粒子21の製造例>
磁性トナー粒子2と磁性トナー粒子3を同量ずつよく混合し、磁性トナー粒子21とした。
【0438】
<磁性トナー2~31の製造例>
磁性トナー1の製造例において、磁性トナー粒子No.、外添処方、外添装置、外添条件、処理時間を表4に示すように変更した以外は同様にして、磁性トナー2~31を得た。得られた磁性トナー2~31の物性を表4に示す。
【0439】
また、磁性トナー2~31の下記結果を表5に示す。
【0440】
体積平均粒径(Dv)、個数平均粒径(Dn)、Dnにおける平均輝度[表中では、単に平均輝度と表記する。]、CV1、CV2/CV1、磁性体の占有面積率の平均値[表中では、Aと表記する。]、平均円形度、ワックスのドメインの個数平均径[表中では、Bと表記する。]、磁性トナーのテトラヒドロフラン可溶分のGPCを用いて測定されたメインピークのピーク分子量[表中では、Mpと表記する。]。さらに、磁性トナー2~31の評価結果を表6に示す。
【0441】
表4に記載の、チタニア微粒子は、アナターゼ型酸化チタン微粒子[BET比表面積:80m2/g、一次粒子の個数平均粒径:15nm、イソブチルトリメトキシシラン12質量%処理]を用いた。
【0442】
磁性トナー10及び11、磁性トナー13~31については、プレ混合を行わず、磁性トナー粒子と無機微粒子を投入後、直ちに外添混合処理を実施した。
【0443】
【0444】
表4中、
外添装置における「A」は、「NOB-130」(ホソカワミクロン株式会社製)を表し、「B」は、「FMミキサFM10C」(日本コークス工業株式会社製)を表す。
【0445】
【0446】
<実施例2~23、及び、比較例1~8>
磁性トナー2~31を用い、実施例1と同様の評価を実施した。結果を表6に示す。
【0447】
【符号の説明】
【0448】
1 本体ケーシング
2 回転体
3、3a、3b 撹拌部材
4 ジャケット
5 原料投入口
6 製品排出口
7 中心軸
8 駆動部
9 処理空間
10 回転体端部側面
11 回転方向
12 戻り方向
13 送り方向
16 原料投入口用インナーピース
17 製品排出口用インナーピース
d 撹拌部材の重なり部分を示す間隔
D 撹拌部材の幅
43 クリーナー容器
44 クリーニングブレード
45 静電潜像担持体
46 帯電ローラ
47 トナー担持体
48 トナー供給部材
49 現像装置
50 転写部材(転写ローラ)
51 定着器
52 ピックアップローラ
53 転写材(紙)
54 レーザー発生装置
55 トナー規制部材
56 固定部材
57 トナー
58 攪拌部材
R1、R2及びR3 回転方向