(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】発振装置、量子計算機、及び制御方法
(51)【国際特許分類】
H01L 39/22 20060101AFI20221220BHJP
G06N 10/00 20220101ALI20221220BHJP
H03B 15/00 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
H01L39/22 D
G06N10/00
H03B15/00
(21)【出願番号】P 2021533886
(86)(22)【出願日】2020-06-26
(86)【国際出願番号】 JP2020025244
(87)【国際公開番号】W WO2021014887
(87)【国際公開日】2021-01-28
【審査請求日】2021-12-24
(31)【優先権主張番号】P 2019133816
(32)【優先日】2019-07-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「高効率・高速処理を可能とするAIチップ・次世代コンピューティングの技術開発/次世代コンピューティング技術の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】山本 剛
(72)【発明者】
【氏名】橋本 義仁
【審査官】杉山 芳弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-011022(JP,A)
【文献】特開2018-010577(JP,A)
【文献】特表2018-513580(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0145631(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 39/22
G06N 10/00
H03B 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の超伝導線路と第一のジョセフソン接合と第二の超伝導線路と第二のジョセフソン接合とが環状に接続されているループ回路とキャパシタとを有する共振器と、前記ループ回路に磁場を印加する磁場発生手段と、を有してパラメトリック発振を行なう発振器と、
前記発振器の内部状態を読み出す読み出し手段と、
前記発振器と前記読み出し手段との結合強度が可変である回路素子と、
を有し、
前記キャパシタと前記ループ回路とが環状に接続されている回路と、前記読み出し手段が、前記回路素子を介して接続されている
発振装置。
【請求項2】
前記回路素子は、信号の透過を制限する帯域が可変である可変フィルタである
請求項1に記載の発振装置。
【請求項3】
前記回路素子は、キャパシタンスが可変である可変キャパシタである
請求項1に記載の発振装置。
【請求項4】
前記共振器は、さらに線形インダクタを含み、
前記キャパシタ及び前記線形インダクタからなる回路と前記ループ回路とが環状に接続されている
請求項1又は2に記載の発振装置。
【請求項5】
前記共振器は、さらに、前記ループ回路に含まれるジョセフソン接合とは別に設けられた、少なくとも1つの第三のジョセフソン接合を含み、
前記ループ回路と、前記第三のジョセフソン接合と、前記キャパシタとが環状に接続されている
請求項1又は2に記載の発振装置。
【請求項6】
前記第三のジョセフソン接合に直流電流を印加する電流印加手段をさらに有する
請求項
5に記載の発振装置。
【請求項7】
請求項1乃至
6いずれか1項に記載された前記発振装置を4個と、前記4個の発振装置のそれぞれの、前記キャパシタと前記ループ回路を有する環状の回路を結合する結合回路とを単位構造として有する量子計算機。
【請求項8】
前記結合回路は、前記4個の発振装置のうち、2個の発振装置からなる第一組の発振装置群と、他の2個の発振装置からなる第二組の発振装置群とを第四のジョセフソン接合を介して結合し、
前記第一組の発振器群のうちの第一の発振装置は前記第四のジョセフソン接合の一方の端子に、第一のキャパシタを介して接続し、
前記第一組の発振器群のうちの第二の発振装置は前記第四のジョセフソン接合の一方の端子に、第二のキャパシタを介して接続し、
前記第二組の発振器群のうちの第三の発振装置は前記第四のジョセフソン接合の他方の端子に、第三のキャパシタを介して接続し、
前記第二組の発振器群のうちの第四の発振装置は前記第四のジョセフソン接合の他方の端子に、第四のキャパシタを介して接続している
請求項
7に記載の量子計算機。
【請求項9】
前記単位構造を複数有し、
前記発振装置が、複数の前記単位構造で共有されている
請求項
7又は
8に記載の量子計算機。
【請求項10】
第一の超伝導線路と第一のジョセフソン接合と第二の超伝導線路と第二のジョセフソン接合とが環状に接続されているループ回路とキャパシタとを有する共振器と前記ループ回路に磁場を印加する磁場発生手段とを有する発振器と、前記発振器の内部状態を読み出す読み出し手段との結合強度を、第1の結合強度に設定し、前記発振器をパラメトリック発振させ、
次に、前記発振器と前記読み出し手段との結合強度を、前記第1の結合強度よりも強い第2の結合強度に設定し、前記読み出し手段により前記発振器の内部状態を読み出し、
前記キャパシタと前記ループ回路とが環状に接続されている
制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は発振装置、量子計算機、及び制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1及び非特許文献1は、非線形発振器のネットワークを利用した量子計算機について提案している。これらの量子計算機に用いる非線形発振器には、可能な限り低い損失が要求される。これらの非線形発振器は、一般に、非線形発振器の内部状態を読み出すための読み出し部と、キャパシタなどを介して結合している。非線形発振器の損失を可能な限り低減するには、非線形発振器と読み出し部との結合を可能な限り弱くする必要があるが、そうすると読み出し部に伝わるエネルギーが小さくなるため、読み出しが困難になってしまう。逆に、読み出しが十分可能な大きさのエネルギーを読み出し部に伝えるためには、非線形発振器と読み出し部との結合を強くする必要がある。しかし、そうすると非線形発振器の損失が増大してしまい、量子計算機の性能が低下してしまうという問題がある。
【0003】
この問題を解決する手段として、特許文献2には、発振器とフィルタを含む発振装置が記載されている。
【0004】
特許文献2に記載の発振器の構成要素である共振器は、例えば、長さLの導波路を有している。そのため、この共振器には、複数のモードが存在する。この文献では、最も共振周波数が低いモードを基本モードと呼び、それ以外のモードを高次モードと呼んでいる。さらに、高次モードは共振周波数が低いものから順に1次、2次、と番号を付けている。
【0005】
特許文献2に記載の方法では、発振器を構成する共振器と、読み出しラインとの間に、共振器のn次モードを通すが基本モードは通さないフィルタを設置することで、計算の際に用いる基本モードの損失を非常に小さくすることができる。
【0006】
一方、読み出しの際は、基本モードのエネルギーをn次モードに変換し、発生したn次モードの電磁波を、フィルタを介して読み出しラインに取り出して測定することにより、基本モードの状態を読み出せる。このようにして、大きなオンオフ比が実現でき、かつ、オフ時の基本モードの損失を非常に小さくすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2017-73106号公報
【文献】特開2018-11022号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】S. Puri, et al., “Quantum annealing with all-to-all connected nonlinear oscillators,” Nature Comm., 2017.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献2に記載されている発振器は、共振器に長さLの導波路を含む。そのような発振器は一般に分布定数型の非線形発振器と呼ばれている。分布定数型の非線形発振器の構成要素である共振器が有する導波路は、非線形発振器の発振周波数に対応する電磁波の、回路基板上での波長と同程度の長さを有する。なお、ここで言う回路基板とは、ジョセフソンパラメトリック発振器がその上に形成されている基板のことを指す。一般にこの発振周波数は例えば5~10GHz程度であるため、この周波数に対応する導波路の長さのオーダーはミリ程度である。実際、特許文献2には、発振周波数が5GHzの場合に、導波路の長さLの値として、1mm以上4mm以下、又は2mm以上4mm以下が望ましいと記載されている。このため、導波路の長さは、非常に長くなる。よって、分布定数型の共振器、すなわち分布定数型の非線形発振器は占有面積が大きい。
【0010】
一方、実用的な量子計算機を実現するためには、例えば数千個程度の非線形発振器を数ミリ角程度のチップに集積する必要がある。しかし、分布定数型の非線形発振器は、上述の通り、占有面積が大きすぎるため、このような集積化には不向きであるという問題があった。
【0011】
このため、実用的な量子計算機においては、集中定数型の非線形発振器を用いることが求められる。しかし、集中定数型の非線形発振器は高次モードを有さないため、特許文献2に記載の方法は集中定数型の非線形発振器には適用できないという問題がある。そのため、第1の時点における損失を抑制しつつ、第2の時点で発振器の状態の読み出しが容易である集中定数型の非線形発振器が求められている。
【0012】
そこで、本開示の目的は、第1の時点における損失を抑制しつつ、第2の時点で状態の読み出しが容易である非線形発振器を回路の占有面積を抑制しつつ実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
第1の態様にかかる発振装置は、
第一の超伝導線路と第一のジョセフソン接合と第二の超伝導線路と第二のジョセフソン接合とが環状に接続されているループ回路とキャパシタとを有する共振器と、前記ループ回路に磁場を印加する磁場発生手段と、を有してパラメトリック発振を行なう発振器と、
前記発振器の内部状態を読み出す読み出し手段と、
前記発振器と前記読み出し手段との結合強度が可変である回路素子と、
を有し、
前記キャパシタと前記ループ回路とが環状に接続されている回路と、前記読み出し手段が、前記回路素子を介して接続されている。
【0014】
第2の態様にかかる制御方法は、
第一の超伝導線路と第一のジョセフソン接合と第二の超伝導線路と第二のジョセフソン接合とが環状に接続されているループ回路とキャパシタとを有する共振器と前記ループ回路に磁場を印加する磁場発生手段とを有する発振器と、前記発振器の内部状態を読み出す読み出し手段との結合強度を、第1の結合強度に設定し、前記発振器をパラメトリック発振させ、
次に、発振器と、前記読み出し手段との結合強度を、前記第1の結合強度よりも強い第2の結合強度に設定し、前記読み出し手段により前記発振器の内部状態を読み出し、
前記キャパシタと前記ループ回路とが環状に接続されている。
【発明の効果】
【0015】
上述の態様によれば、第1の時点における損失を抑制しつつ、第2の時点で発振器の状態の読み出しが容易である発振装置、量子計算機、及び制御方法を、回路の占有面積を抑制しつつ提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】第一の実施形態にかかる集中定数型の発振器を含む発振装置の一例を示す模式図である。
【
図2】発振器のループ回路に印加される磁束と発振周波数の関係を示したグラフである。
【
図3】フィルタの透過特性の一例を示すグラフである。
【
図4】第一の変形例にかかる発振器の構成を示す模式図である。
【
図5】第二の変形例にかかる発振器の構成を示す模式図である。
【
図6】第三の変形例にかかる発振器の構成を示す模式図である。
【
図7】第四の変形例にかかる発振器の構成を示す模式図である。
【
図8】第五の変形例にかかる発振器の構成を示す模式図である。
【
図9】第六の変形例にかかる発振器の構成を示す模式図である。
【
図10】第二の実施形態及び第三の実施形態の概要にかかる発振装置の構成を示す模式図である。
【
図11】第二の実施形態にかかる発振装置の一例を示す模式図である。
【
図12】第三の実施形態にかかる発振装置の一例を示す模式図である。
【
図13】発振装置を用いた量子計算機の構成を示す模式図である。
【
図14】発振装置を集積した量子計算機の構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。なお、実施形態にかかる共振器は、例えば、シリコン基板上に超伝導体により形成した線路(配線)により実現される。例えば、この線路の材料として、例えばNb(ニオブ)又はAl(アルミニウム)が用いられるが、Mo(モリブデン)、Ta(タンタル)など、極低温に冷却すると超伝導状態となる他の任意の金属が用いられてもよい。また、超伝導状態を実現するため、冷凍機により実現される例えば10mK(ミリケルビン)程度の温度環境において、共振器の回路は利用される。
また、以下の説明において、ジョセフソン接合とは、第1の超伝導体と第2の超伝導体で薄い絶縁膜を挟んだ構造を有する素子をいう。
上述した通り、分布定数型のジョセフソンパラメトリック発振器は、共振器の占有面積が大きすぎるため、集積化には不向きである。これに対し、集中定数型のジョセフソンパラメトリック発振器は、分布定数線路が不要であるため、分布定数型のジョセフソンパラメトリック発振器よりも小さく構成することができる。そこで、以下の実施形態では、集中定数型のジョセフソンパラメトリック発振器(非線形発振器)を用いた回路構成について説明する。なお、以下の説明では、ジョセフソンパラメトリック発振器(非線形発振器)について、単に発振器と称す。
【0018】
<第一の実施形態>
図1は、第一の実施形態にかかる集中定数型の発振器10を含む発振装置1の一例を示す模式図である。
【0019】
図1に示すように発振装置1は、集中定数型の超伝導非線形発振器である発振器10と、電流制御部11と、読み出し部12と、フィルタ13とを主に有する。
【0020】
発振器10は、共振器100と、磁場発生部200とを有する。共振器100は、ループ回路110とキャパシタ120とを備えている。ループ回路110は、第一のジョセフソン接合103と第二のジョセフソン接合104とを接続する第一の超伝導線路101と、第一のジョセフソン接合103と第二のジョセフソン接合104とを接続する第二の超伝導線路102とを備えている。換言すると、共振器100は、第一の超伝導線路101と第二の超伝導線路102とが第一のジョセフソン接合103と第二のジョセフソン接合104により接合されているループ回路110と、キャパシタ120とを備えている。
図1に示すように、第一の超伝導線路101と第一のジョセフソン接合103と第二の超伝導線路102と第二のジョセフソン接合104とが環状に接続されることによりループ回路110が構成されている。換言すると、ループ回路110において、第一の超伝導線路101と第二の超伝導線路102とが第一のジョセフソン接合103と第二のジョセフソン接合104により接合されることによりループを構成している。すなわち、ループ回路110は、DC-SQUID(superconducting quantum interference device)と言うこともできる。
【0021】
ループ回路110は、キャパシタ120によりシャントされている。すなわち、第一の超伝導線路101における第一の部分105と第二の超伝導線路102における第二の部分106が、キャパシタ120でシャントされている。換言すると、共振器100は、DC-SQUIDの入出力端部がキャパシタ120でシャントされている。つまり、キャパシタ120とループ回路110とを環状に接続することにより、ループ回路110をループの線路上に取り込んだループ回路が構成されているとも言える。なお、以下の説明においてシャントするための回路をシャント回路と称すことがある。ここで、第一の部分105は第一の超伝導線路101の任意の部分である。すなわち、第一の超伝導線路101における第一の部分105の位置は特に制限されない。同様に、第二の部分106は第二の超伝導線路102の任意の部分である。すなわち、第二の超伝導線路102における第二の部分106の位置は特に位置は制限されない。なお、
図1に示されるように、ループ回路の一端は、接地されていてもよい。
【0022】
磁場発生部200と共振器100は相互インダクタンスを介して磁気的に結合している。言い換えれば、磁場発生部200と共振器100は誘導的に結合している。磁場発生部200は、交流磁場を発生させ、ループ回路110に交流磁場を印加する回路である。磁場発生部200は、交流電流が流れる回路であり、当該交流電流により交流磁場を発生させる。より詳細には、磁場発生部200は、直流電流と交流電流が重畳された電流が流れる。後述するように、直流電流の大きさにより、磁束及び発振周波数(共振周波数)の大きさが制御される。磁場発生部200に流れる電流は、電流制御部11により制御される。
【0023】
磁場発生部200に交流電流を流すことによってループ回路110に共振器100の共振周波数の2倍の交流磁場を印加すると、当該共振周波数(すなわち交流磁場の周波数の0.5倍の発振周波数)で発振器10は発振する。このような発振はパラメトリック発振と呼ばれる。つまり、発振器10は、パラメトリック発振を行なう発振器である。
【0024】
ここで、共振器100の共振周波数、すなわち発振器10の発振周波数は、ループ回路110のループを貫く磁束の大きさに依存している。
図2は、発振器10のループ回路110のループに印加される磁束と発振周波数の関係を示したグラフである。ループに印加される磁束の大きさは、磁場発生部200に流れる電流の大きさに依存する。電流制御部11は、磁場発生部200に流す直流電流の大きさを変化させることにより、ループに印加される磁束の大きさを制御する。
図2に示すように、ループに印加する磁束を変化させることによって、発振周波数(共振周波数)を制御することができる。磁場発生部200は、
図1では1本の配線で表現されているが、2本の配線で構成し、一方の配線には直流電流を流し、他方の配線には交流電流を流すという構成でもよい。
【0025】
電流制御部11は、磁場発生部200に流れる電流を制御する制御回路である。本実施形態では、特に、電流制御部11は、第1の電流値の直流電流と所定の周波数の交流電流を所定の時間だけ磁場発生部200に流すように制御する。そして、所定の時間経過後、電流制御部11は、第1の電流値とは異なる第2の電流値の直流電流を磁場発生部200に流すように制御する。すなわち、第1の時点(量子計算時)において、電流制御部11は、第1の電流値の直流電流と所定の周波数の交流電流を磁場発生部200に流すように制御する。そして、次に、第2の時点(発振器10の内部状態の読み出し時)において、電流制御部11は、第2の電流値の直流電流を磁場発生部200に流すように制御する。
【0026】
図2において、磁束Φ
0dcは、本実施形態において量子計算時にループに印加される磁束を表す。磁束Φ
0dcがループに印加される場合の発振周波数(共振周波数)をf
0とする。すなわち、周波数f
0は、第1の電流値の直流電流が磁場発生部200に流れる場合にループ回路110を貫く磁束の大きさにしたがって定まる、発振器10の発振周波数(共振器100の共振周波数)である。
【0027】
また、
図2において、磁束Φ
1dcは、本実施形態において読み出し時にループに印加される磁束を表す。磁束Φ
1dcがループに印加される場合の発振周波数(共振周波数)をf
1とする。すなわち、周波数f
1は、第2の電流値の直流電流が磁場発生部200に流れる場合にループ回路110を貫く磁束の大きさにしたがって定まる、発振器10の発振周波数(共振器100の共振周波数)である。
【0028】
本実施形態では、量子計算をする際には、電流制御部11は、磁場発生部200に第1の電流値の直流電流I0dcを流すことにより、第1の大きさの磁束Φ0dcをループに印加する。これにより、発振器10の発振周波数を第1の発振周波数f0に設定できる。一方、発振器10(共振器100)の内部状態(発振状態)を読みだす際には、磁場発生部200に第2の電流値の直流電流I1dcを流すことにより、第2の大きさの磁束Φ1dcをループに印加する。これにより、発振器10の発振周波数を第2の発振周波数f1に設定できる。
【0029】
読み出し部12は、発振器10の内部状態、すなわち発振状態を読み出す回路(読み出しライン)である。発振器10と読み出し部12は、フィルタ13を介して接続されている。つまり、発振器10と読み出し部12との間にフィルタ13が挿入されている。より詳細には、フィルタ13は、シャント回路(ループ回路110をキャパシタ120でシャントする回路)に接続されている。つまり、フィルタ13は、キャパシタ120とループ回路110とによる環状の回路に、接続されている。
【0030】
フィルタ13は、所定の周波数帯の信号の透過を制限する回路であり、キャパシタとインダクタを用いて構成されている。より詳細には、所定の周波数帯の信号の透過を、他の周波数帯の信号の透過に比べて制限する回路である。フィルタ13は、例えばバンドパスフィルタである。
【0031】
図3は、フィルタ13の透過特性の一例を示すグラフである。
図3に示すように、フィルタ13は、透過帯域幅BWを有する。透過帯域の定義は、例えば、最大の透過率t
1の半分以上の透過率を有する周波数の領域として定義できる。本実施形態では、上述した周波数f
0すなわち量子計算時に設定される発振周波数が透過帯域に含まれず、かつ、上述した周波数f
1すなわち読み出し時に設定される発振周波数が透過帯域に含まれるように予めフィルタ13を設計しておく。
図3に示した例では、周波数f
1において、フィルタ13の透過率が最大となるようフィルタ13が設計されている。また、
図3に示した例では、透過帯域は、f
2以上、f
3以下の周波数領域であり、周波数f
0はこの領域の外に存在する。このように、フィルタ13は、周波数f
0の信号の透過率が、周波数f
1の信号の透過率よりも低く設定されている。換言すると、フィルタ13は、周波数f
1の信号の透過率が、周波数f
0の信号の透過率よりも高く設定されている。
【0032】
フィルタ13は、公知の任意の技術を用いることにより実装可能だが、集積化の観点から、集中定数型のフィルタを用いることが好ましい。なお、フィルタ13および読み出し部12は、発振器10と同一のチップ上に配置してもよいし、別のチップに配置してもよい。
【0033】
本実施形態では、上述した構成により、発振装置1は次のように動作する。まず、量子計算の際には、電流制御部11は、磁場発生部200に、直流電流I
0dcと第1の発振周波数f
0の2倍の周波数の交流電流とを重ねあわせた電流を流す。そうすることにより、発振器10は第1の発振周波数f
0で発振する。周波数f
0はフィルタ13の透過帯域外なので、発振器10の損失を低くすることができる。一方、量子計算が終わった後に発振器10の内部状態を読み出す際には、電流制御部11は、磁場発生部200に、直流電流I
1dcを流す。そうすることにより、発振器10の発振周波数がf
0からf
1に移行する。周波数f
1はフィルタ13の透過帯域内なので、発振器10のエネルギーは読み出し部12によく伝わり、内部状態を容易に読み出すことができる。なお、
図2及び
図3で示した例では、量子計算時の発振周波数f
0は読み出し時の発振周波数f
1よりも小さいが、量子計算時の発振周波数f
0が読み出し時の発振周波数f
1より大きくてもよい。
【0034】
つまり、本実施の形態では、次のような制御が行なわれる。まず、第1の電流値の直流電流と所定の周波数の交流電流を重ねた電流を磁場発生部200に流し、発振器10をパラメトリック発振させる。次に、第2の電流値の直流電流を磁場発生部200に流し、読み出し部12により発振器10の内部状態を読み出す。
【0035】
上記のように、本実施形態によれば、量子計算の際には発振器10の損失が低減でき、かつ、読み出し時には発振器10と読み出し部12との結合を強くして容易に読み出しを行なうことができるという効果がある。また、発振器10は、集中定数型の発振器であるため、回路の占有面積を抑制することができる。したがって、本実施形態によれば、第1の時点における損失を抑制しつつ、その後の第2の時点で状態の読み出しが容易である非線形発振器を回路の占有面積を抑制しつつ実現することができる。
【0036】
以上、第一の実施形態について説明したが、非線形発振器の具体的な構成は、
図1に示した構成に限られない。以下、本実施形態に適用可能な非線形発振器の他の構成について説明する。
【0037】
図1に示した発振器10を量子計算機に用いることは可能であるが、その場合、量子計算機において所望の性能を得る上で、発振器10の非線形性が大きすぎる場合がある。より性能が優れた量子計算機を提供する場合、量子計算機に用いる非線形発振器には、適度な非線形性が要求される。ここで非線形発振器の非線形性は、後述する非線形係数で定量づけられるものである。非線形係数とは、非線形発振器のハミルトニアンの非線形項の係数により定義される係数である。本開示では、ハミルトニアンの非線形項の係数の絶対値を12倍したものをプランク定数hで割ったものを、非線形発振器の非線形係数として用いる。
【0038】
図1に示した集中定数型のジョセフソンパラメトリック発振器10のハミルトニアンHは下記の(1)式で表される。
【0039】
【0040】
(1)式において、hはプランク定数であり、fJ0は非線形発振器の発振周波数である。a†は生成演算子である。aは消滅演算子である。また、ECは下記の(2)式で表される。
【0041】
【0042】
(2)式において、eは素電荷、Crはシャントに用いられるキャパシタ120のキャパシタンスである。
【0043】
また、(1)式のfJ0は、以下の(3)式で表される。
【0044】
【0045】
(3)式において、CJは第一のジョセフソン接合103及び第二のジョセフソン接合104のキャパシタンスである。一方、(3)式において、LJはループ回路110の等価インダクタンスであり、以下の(4)式で定義される。
【0046】
【0047】
(4)式において、ICは第一のジョセフソン接合103及び第二のジョセフソン接合104の臨界電流値、Φはループ回路110に印加される磁束、Φ0は磁束量子(約2.07×10-15 Wb)である。(4)式から分かるように、ループ回路110の等価インダクタンスLJは、ループ回路110に印加する磁束Φを変えることによって変化させることができる。磁束Φは、磁場発生部200に流す電流の大きさを変えることによって変えることができる。より具体的には、磁場発生部200に流す交流電流に重畳される直流電流の大きさによって変えることができる。また、(3)式及び(4)式からわかるように、発振周波数は、磁場発生部200に流す電流の大きさにより制御できる。
【0048】
上述したように、本開示では、非線形発振器の非線形係数Kを、非線形発振器のハミルトニアンの非線形項の係数の絶対値を12倍したものをプランク定数hで割った値として定義する。(1)式のハミルトニアンにおいては、第2項、すなわち、(a
†+a)
4の項が非線形項である。したがって、
図1に示した非線形発振器の非線形係数Kは、以下の(5)式のようになる。
【0049】
【0050】
(5)式から、
図1に示した非線形発振器の非線形係数Kはキャパシタ120のキャパシタンスC
rの値で決まることが分かる。
【0051】
ところで、特許文献1や非特許文献1に記載の量子計算機を作製する場合、非線形発振器の発振周波数は5GHz以上、40GHz以下が好ましい。これは次のような理由による。5GHzより低い周波数の場合、熱雑音による量子計算機の誤動作確率が無視できないほど増大してしまうという問題がある。40GHzより高い周波数の場合、量子計算機を動作させるために必要な高周波電子機器や高周波電子部品が非常に高価なものになってしまう。このため、5GHz以上、40GHz以下の発振周波数を用いることが好ましい。
【0052】
また、非線形発振器を構成する第一のジョセフソン接合103及び第二のジョセフソン接合104の臨界電流値ICの値は、10nA以上、0.1mA以下であることが好ましい。これは次のような理由による。10nAより小さい場合、非線形発振器の出力信号が小さすぎるため読み出しが困難になるという問題がある。また、0.1mAより大きい場合、ループ回路110の等価インダクタンスLJが小さくなるため、所定の発振周波数fJ0を実現するためにはキャパシタ120のキャパシタンスCrを大きくしなければならない。その結果、非線形発振器の損失が無視できないほど増大してしまうという問題がある。臨界電流値が大きくなるとループ回路110の等価インダクタンスLJが小さくなることは、(4)式において、ICが大きいほどLJが小さくなることからわかる。所定の発振周波数fJ0を実現するために、キャパシタンスCrを大きくしなければならない理由は、(3)式において、LJを小さくする場合、Crを大きくしないと所定のfJ0を保てないことからわかる。キャパシタンスCrが大きくなると損失が増大する理由は、次の通りである。すなわち、大きなキャパシタンスを集積回路に適した十分小さな面積で作製するには積層構造のキャパシタにする必要があるが、積層構造のキャパシタの場合、損失の小さな誘電層を作製することが現状の技術では困難だからである。ここで誘電層とは、キャパシタの2つの電極の間に形成される誘電体の層のことである。損失を十分低減するためには、キャパシタンスCrは1pF以下であることが好ましい。
【0053】
一方、量子計算機においては、非線形係数Kは、1MHz以上、10MHz以下であることが好ましい。これは次のような理由による。非線形係数Kが1MHzより小さい場合、量子計算に要する時間が長くなりすぎてしまい、量子計算機が量子状態を維持している間に量子計算を完了することができなくなるという問題がある。また、非線形係数Kが10MHzより大きい場合、非線形発振器の出力信号が小さくなってしまい、出力信号の読み出しが困難になるという問題がある。
【0054】
ジョセフソン接合の臨界電流値I
Cを10nA以上、0.1mA以下とすると、ループ回路110の等価インダクタンスL
Jは、(4)式から、1.85pH以上、18.5nH以下となる。なお、算出に当たっては、(4)式において、Φの値を0.3Φ
0として計算を行った。Φの値を0.3Φ
0としたのは、Φが小さすぎると非線形発振器の発振が起こりにくくなり、一方、Φが大きすぎると磁場ノイズに敏感になり発振周波数が不安定になるため、0.3Φ
0程度のΦで発振器を動作させることが好ましいからである。また、ジョセフソン接合のキャパシタンスC
Jは、現在の素子作製技術においては、0.1fF以上1pF以下となる。これらのL
JとC
Jの値の場合に、
図1に示したジョセフソンパラメトリック発振器10の発振周波数f
J0を5GHz以上、40GHz以下とするようなキャパシタンスC
rは、(3)式を用いて計算できる。さらに、求められたC
rの場合の非線形係数Kは、(5)式を用いて計算できる。実際に計算すると、
図1のジョセフソンパラメトリック発振器10は、非線形係数Kが1MHz以上、10MHz以下の範囲に入らない。あるいは、非線形係数Kが1MHz以上、10MHz以下の範囲に入ったとしてもキャパシタンスC
rが1pFより大きくなってしまう。
【0055】
以上のように、
図1のジョセフソンパラメトリック発振器10は、好ましい臨界電流値のジョセフソン接合を用いて好ましい発振周波数を実現しようとすると、量子計算機に要求される適度な非線形性と低い損失とを両立することが必ずしも容易ではない。
【0056】
以下、上述した第一の実施形態の変形例として、適度な非線形性と低い損失とを両立しつつ、回路の占有面積を抑制することができる発振器の構成について具体的に説明する。なお、以下の説明では、既に説明した構成要素と同じ構成要素については同一の符号を用い、具体的な説明については適宜省略する。また、数式における変数の定義についても、適宜、重複する説明を省略する。
【0057】
以下で説明する第一の変形例及び第二の変形例は、ループ回路110がキャパシタ及び線形インダクタでシャントされている点で共通している。ただし、第一の変形例では、シャントに用いられるキャパシタと線形インダクタが直列に接続されている。これに対し、第二の変形例では、シャントに用いられるキャパシタと線形インダクタが並列に接続されている。
【0058】
<第一の変形例>
図4は、第一の変形例にかかる超伝導非線形発振器(ジョセフソンパラメトリック発振器)の構成を示す模式図である。
図4に示すように、発振器20は、共振器300と、磁場発生部200とを有する。共振器300は、ループ回路110とキャパシタ120と線形インダクタ130とを備えている。ループ回路110は、第一のジョセフソン接合103と第二のジョセフソン接合104とを接続する第一の超伝導線路101と、第一のジョセフソン接合103と第二のジョセフソン接合104とを接続する第二の超伝導線路102とを備えている。換言すると、共振器300は、第一の超伝導線路101と第二の超伝導線路102とが第一のジョセフソン接合103と第二のジョセフソン接合104により接合されているループ回路110と、キャパシタ120と、線形インダクタ130とを備えている。
【0059】
共振器300において、ループ回路110は、キャパシタ120及び線形インダクタ130が直列に接続された回路によりシャントされている。すなわち、第一の超伝導線路101における第一の部分105と第二の超伝導線路102における第二の部分106が、直列に接続されたキャパシタ120及び線形インダクタ130でシャントされている。換言すると、共振器300は、DC-SQUIDの入出力端部が直列に接続されたキャパシタ120及び線形インダクタ130でシャントされている。つまり、キャパシタ120及び線形インダクタ130からなる直列回路とループ回路110とを環状に接続することにより、ループ回路110をループの線路上に取り込んだループ回路が構成されているとも言える。なお、
図4に示されるように、ループ回路の一端は、接地されていてもよい。
【0060】
磁場発生部200と共振器300は相互インダクタンスを介して磁気的に結合している。言い換えれば、磁場発生部200と共振器300は誘導的に結合している。
図4の構成においても、交流磁場の発生によりパラメトリック発振が実現される。すなわち、磁場発生部200に交流電流を流すことによってループ回路110に共振器300の共振周波数の2倍の交流磁場を印加すると、当該共振周波数(すなわち交流磁場の周波数の0.5倍の発振周波数)で発振器20は発振する。なお、交流磁場の周波数は交流電流の周波数に等しい。また、本変形例においても、(4)式及び後述する(8)式からわかるように、発振周波数は、磁場発生部200に流す電流の大きさにより制御できる。磁場発生部200は、
図4では1本の配線で表現されているが、2本の配線で構成し、一方の配線には直流電流を流し、他方の配線には交流電流を流すという構成でもよい。
【0061】
図4に示した発振器20のハミルトニアンH(共振器300のハミルトニアンH)は、以下の(6)式で表される。
【0062】
【0063】
(6)式において、Lrは線形インダクタ130のインダクタンスである。また、f0は発振器20の発振周波数である。(6)式のハミルトニアンHにおいて、第2項、すなわち、(a†+a)4の項が非線形項である。したがって、本変形例の発振器20の非線形係数Kは、以下の(7)式のようになる。
【0064】
【0065】
(7)式においてL
r=0とすると、非線形係数Kは(5)式と同じ数式になる。これは、本変形例の発振器20から線形インダクタ130を取り除くと
図1に示した非線形発振器になることに対応する。言い換えれば、本変形例の発振器20は、
図1の非線形発振器に線形インダクタ130を挿入した発振器である。(7)式から分かるように、線形インダクタ130のインダクタンスL
rを大きくするほど、非線形係数Kを小さくすることができる。従って、本変形例の発振器20は、シャントに用いられているキャパシタ120のキャパシタンスC
rを大きくしなくても、非線形係数Kを量子計算機に要求される適度な値まで下げることができる。そのため、非線形発振器の損失を増大させることなく、非線形係数を量子計算機に要求される適度な値まで低下させることができるという効果がある。
【0066】
なお、
図4に示した本変形例の発振器20の発振周波数f
0は、以下の(8)式で表される。なお、(8)式において、第一のジョセフソン接合103及び第二のジョセフソン接合104のキャパシタンスC
Jは無視した。
図4の回路では、ジョセフソン接合のキャパシタンスの影響は無視できるほど小さいためである。
【0067】
【0068】
本変形例においても、発振器20の発振周波数f0は、5GHz以上、40GHz以下が好ましい。また、発振器20を構成する第一のジョセフソン接合103及び第二のジョセフソン接合104の臨界電流値ICの値は、10nA以上、0.1mA以下であることが好ましい。
【0069】
ジョセフソン接合の臨界電流値ICを10nA以上、0.1mA以下とすると、ループ回路110の等価インダクタンスLJは、(4)式から、1.85pH以上、18.5nH以下となる。なお、算出に当たっては、(4)式において、Φの値を0.3Φ0として計算を行った。等価インダクタンスが1.85pH以上、18.5nH以下の場合、発振器20の発振周波数f0を5GHz以上、40GHz以下とできるようなインダクタンスLrとキャパシタンスCrの組み合わせは、(8)式に基づき様々な組み合わせが可能である。そのような組み合わせの中から、(7)式の非線形係数Kを1MHz以上、10MHz以下とできるようなLrとCrの組み合わせを用いることにより、量子計算機に要求される適度な非線形性を有する非線形発振器を実現することができる。
【0070】
例えば、発振周波数f0を10GHz、ジョセフソン接合の臨界電流値ICを0.83μA、キャパシタンスCrを0.57pF、インダクタンスLrを225pHと選択すると、非線形係数Kは4.2MHzと計算される。すなわち、この場合、量子計算機に要求される適度な非線形性を実現できる。
【0071】
このように、線形インダクタ130のインダクタンスの値は、非線形係数Kの値が所定の値になるよう、等価インダクタンスLJと、発振周波数f0と、ジョセフソン接合の臨界電流値ICと、キャパシタンスCrとに基づいて予め設定されている。すなわち、線形インダクタ130のインダクタンスは、浮遊インダクタンスではなく、所定の値となるように設計されている。換言すると、線形インダクタ130は、非浮遊成分として存在しているインダクタである。線形インダクタ130は、例えば、ミアンダ配線として実装されてもよいし、コイルとして実装されてもよいが、実装方法はこれらに限定されない。
【0072】
<第二の変形例>
次に、第二の変形例について説明する。第一の変形例では、シャントに用いられるキャパシタと線形インダクタが直列に接続されていたが、第二の変形例では、シャントに用いられるキャパシタと線形インダクタが並列に接続されている。
【0073】
図5は、第二の変形例にかかる超伝導非線形発振器(ジョセフソンパラメトリック発振器)の構成を示す模式図である。
図5に示すように、発振器30は、共振器400と、磁場発生部200とを有する。共振器400は、ループ回路110とキャパシタ120と線形インダクタ130とを備えている。ループ回路110は、第一のジョセフソン接合103と第二のジョセフソン接合104とを接続する第一の超伝導線路101と、第一のジョセフソン接合103と第二のジョセフソン接合104とを接続する第二の超伝導線路102とを備えている。換言すると、共振器400は、第一の超伝導線路101と第二の超伝導線路102とが第一のジョセフソン接合103と第二のジョセフソン接合104により接合されているループ回路110と、キャパシタ120と、線形インダクタ130とを備えている。
【0074】
共振器400において、ループ回路110は、キャパシタ120及び線形インダクタ130が並列に接続された回路によりシャントされている。すなわち、第一の超伝導線路101における第一の部分105と第二の超伝導線路102における第二の部分106が、並列に接続されたキャパシタ120及び線形インダクタ130でシャントされている。換言すると、共振器400は、DC-SQUIDの入出力端部が並列に接続されたキャパシタ120及び線形インダクタ130でシャントされている。つまり、キャパシタ120及び線形インダクタ130からなる並列回路とループ回路110とを環状に接続することにより、ループ回路110をループの線路上に取り込んだループ回路が構成されているとも言える。なお、
図5に示されるように、ループ回路の一端は、接地されていてもよい。
【0075】
磁場発生部200と共振器400は相互インダクタンスを介して磁気的に結合している。言い換えれば、磁場発生部200と共振器400は誘導的に結合している。
図5の構成においても、交流磁場の発生によりパラメトリック発振が実現される。すなわち、磁場発生部200に交流電流を流すことによってループ回路110に共振器400の共振周波数の2倍の交流磁場を印加すると、当該共振周波数(すなわち交流磁場の周波数の0.5倍の発振周波数)で発振器30は発振する。なお、交流磁場の周波数は交流電流の周波数に等しい。また、本変形例においても、(4)式及び後述する(11)式からわかるように、発振周波数は、磁場発生部200に流す電流の大きさにより制御できる。磁場発生部200は、
図5では1本の配線で表現されているが、2本の配線で構成し、一方の配線には直流電流を流し、他方の配線には交流電流を流すという構成でもよい。
【0076】
図5に示した発振器30のハミルトニアンH(共振器400のハミルトニアンH)は、以下の(9)式で表される。
【0077】
【0078】
(9)式において、L
rは
図5の線形インダクタ130のインダクタンスである。また、f
0は発振器30の発振周波数である。(9)式のハミルトニアンHにおいて、第2項、すなわち、(a
†+a)
4の項が非線形項である。したがって、本変形例の発振器30の非線形係数Kは、以下の(10)式のようになる。
【0079】
【0080】
(10)式においてL
r=∞とすると、非線形係数Kは(5)式と同じ数式になる。これは、本変形例の発振器30から線形インダクタ130を取り除くと
図1に示した非線形発振器になることに対応する。言い換えれば、本変形例の発振器30は、
図1の非線形発振器に線形インダクタ130を挿入した発振器である。(10)式から分かるように、線形インダクタ130のインダクタンスL
rを小さくするほど、非線形係数Kを小さくすることができる。従って、本変形例の発振器30は、シャントに用いられているキャパシタ120のキャパシタンスC
rを大きくしなくても、非線形係数Kを量子計算機に要求される適度な値まで下げることができる。そのため、非線形発振器の損失を増大させることなく、非線形係数を量子計算機に要求される適度な値まで低下させることができるという効果がある。
【0081】
なお、
図5に示した本変形例の発振器30の発振周波数f
0は、以下の(11)式で表される。
【0082】
【0083】
本変形例においても、発振器30の発振周波数f0は、5GHz以上、40GHz以下が好ましい。また、発振器30を構成する第一のジョセフソン接合103及び第二のジョセフソン接合104の臨界電流値ICの値は、10nA以上、0.1mA以下であることが好ましい。
【0084】
ジョセフソン接合の臨界電流値ICを10nA以上、0.1mA以下とすると、ループ回路110の等価インダクタンスLJは、(4)式から、1.85pH以上、18.5nH以下となる。なお、算出に当たっては、(4)式において、Φの値を0.3Φ0として計算を行った。等価インダクタンスが1.85pH以上、18.5nH以下の場合、発振器30の発振周波数f0を5GHz以上、40GHz以下とできるようなインダクタンスLrとキャパシタンスCrの組み合わせは、(11)式に基づき様々な組み合わせが可能である。そのような組み合わせの中から、(10)式の非線形係数Kを1MHz以上、10MHz以下とできるようなLrとCrの組み合わせを用いることにより、量子計算機に要求される適度な非線形性を有する非線形発振器を実現することができる。
【0085】
例えば、発振周波数f0を10GHz、ジョセフソン接合の臨界電流値ICを0.83μA、キャパシタンスCrを0.57pF、インダクタンスLrを30pHと選択すると、非線形係数Kは4.0MHzと計算される。すなわち、この場合、量子計算機に要求される適度な非線形性を実現できる。
【0086】
このように、線形インダクタ130のインダクタンスの値は、非線形係数Kの値が所定の値になるよう、等価インダクタンスLJと、発振周波数f0と、ジョセフソン接合の臨界電流値ICと、キャパシタンスCrとに基づいて予め設定されている。すなわち、線形インダクタ130のインダクタンスは、浮遊インダクタンスではなく、所定の値となるように設計されている。換言すると、線形インダクタ130は、非浮遊成分として存在しているインダクタである。
【0087】
<第三の変形例>
次に、第三の変形例について説明する。
図6は、第三の変形例にかかる超伝導非線形発振器(ジョセフソンパラメトリック発振器)の一例を示す模式図である。
図6に示すように、発振器40は、共振器500と、磁場発生部200とを有する。共振器500は、ループ回路110と、ジョセフソン接合140と、キャパシタ120とを備えている。ループ回路110は、第一のジョセフソン接合103と第二のジョセフソン接合104とを接続する第一の超伝導線路101と、第一のジョセフソン接合103と第二のジョセフソン接合104とを接続する第二の超伝導線路102とを備えている。換言すると、共振器500は、第一の超伝導線路101と第二の超伝導線路102とが第一のジョセフソン接合103と第二のジョセフソン接合104により接合されているループ回路110を備えている。
図6に示すように、第一の超伝導線路101と第一のジョセフソン接合103と第二の超伝導線路102と第二のジョセフソン接合104とが環状に接続されることによりループ回路110が構成されている。換言すると、ループ回路110において、第一の超伝導線路101と第二の超伝導線路102とが第一のジョセフソン接合103と第二のジョセフソン接合104により接合されることによりループを構成している。本変形例では、共振器500はループ回路110を1つ備える。ただし、後述する変形例で示すように、共振器500は複数のループ回路110を備え得る。
【0088】
ジョセフソン接合140は、ループ回路110に含まれるジョセフソン接合103、104とは別に設けられたジョセフソン接合である。共振器500は、少なくとも1つのジョセフソン接合140を有する。すなわち、共振器500は、複数のジョセフソン接合140を有してもよい。ジョセフソン接合140と、ループ回路110とは、直列に接続されている。なお、
図6では、複数のジョセフソン接合140がまとまって直列に接続されているが、これらの順序は任意である。したがって、例えば、ループ回路110とジョセフソン接合140とが交互に並ぶように直列に接続されてもよい。
【0089】
ループ回路110において、第一の超伝導線路101における第一の部分105及び第二の超伝導線路102における第二の部分106が、この直列接続に用いられる。つまり、第一の部分105及び第二の部分106が直列接続における接続点となる。
また、ジョセフソン接合140において、ジョセフソン接合140の両端子が直列接続における接続点となる。
【0090】
ループ回路110とジョセフソン接合140とが直列に接続された回路は、キャパシタ120によりシャントされている。つまり、ループ回路110と、ジョセフソン接合140と、キャパシタ120とを環状に接続することにより、ループ回路110をループの線路上に取り込んだループ回路が構成されているとも言える。なお、
図6に示されるように、ループ回路110と、ジョセフソン接合140と、キャパシタ120とを環状に接続したループ回路は、接地されていてもよい。
【0091】
磁場発生部200と共振器500は相互インダクタンスを介して磁気的に結合している。言い換えれば、磁場発生部200と共振器500は誘導的に結合している。
図6の構成においても、交流磁場の発生によりパラメトリック発振が実現される。すなわち、磁場発生部200に交流電流を流すことによってループ回路110に共振器500の共振周波数の2倍の交流磁場を印加すると、当該共振周波数(すなわち交流磁場の周波数の0.5倍の発振周波数)で発振器40は発振する。なお、交流磁場の周波数は交流電流の周波数に等しい。また、本変形例においても、発振周波数は、磁場発生部200に流す電流の大きさにより制御できる。磁場発生部200は、
図6では1本の配線で表現されているが、2本の配線で構成し、一方の配線には直流電流を流し、他方の配線には交流電流を流すという構成でもよい。
【0092】
ここで、
図6に示した発振器40の非線形係数について検討する。
図6に示した発振器40のハミルトニアンH(共振器500のハミルトニアンH)の近似式は、以下の(12)式で表される。
【0093】
【0094】
(12)式において、hはプランク定数である。また、f0は発振器40の発振周波数である。a†は生成演算子である。aは消滅演算子である。ECは1つのジョセフソン接合140のジョセフソンエネルギーである。Nはジョセフソン接合140の個数である。すなわち、Nは1以上の整数である。αは、ループ回路110の臨界電流値の、ジョセフソン接合140の臨界電流値に対する比である。なお、ジョセフソン接合103及びジョセフソン接合104の臨界電流値は同じであり、その値をIc1とする。また、ジョセフソン接合140の臨界電流値は、それぞれIc2とする。つまり、α=Ic1/Ic2となる。ループ回路110の臨界電流値Ic1は、ジョセフソン接合140の臨界電流値Ic2のα倍である、ということもできる。
【0095】
非線形発振器の非線形係数は、非線形発振器のハミルトニアンの非線形項の係数により定義され、その値は非線形項の係数に比例する。(12)式のハミルトニアンにおいては、第2項、すなわち、(a†+a)4の項が非線形項である。したがって、発振器40の非線形係数の値は、(a†+a)4の項の係数に比例する。(12)式から分かるように、ジョセフソン接合140の個数Nが増えるほど、非線形項の係数が小さくなる。なぜならば、非線形項の係数の分子はNの1乗で変化するのに対し、分母はNの3乗で変化するためである。このことから、発振器40の非線形性は、ジョセフソン接合140の個数Nにより自由に設計することができる。つまり、ジョセフソン接合140の個数Nに応じて、非線形係数を低下させることができる。
【0096】
このように本変形例では、ループ回路110とキャパシタ120のみからなる環状の回路により共振器を構成するのではなく、ループ回路110とジョセフソン接合140とキャパシタ120とを環状に接続した回路により共振器を構成している。これにより、上述した通り、発振器40の非線形性をジョセフソン接合140の個数Nにより自由に設計することができる。つまり、発振器の損失を増大させることなく、量子計算機に要求される適度な値まで、非線形係数を低下させることができる。
【0097】
<第四の変形例>
上述した第三の変形例では、共振器500はループ回路110を1つ備えたが、
図7に示すように、共振器500は、複数のループ回路110を備えてもよい。
図7に示した共振器500は、複数のループ回路110と、1以上のジョセフソン接合140と、キャパシタ120とを備えている。
【0098】
第四の変形例においても、ジョセフソン接合140と、ループ回路110とは、直列に接続されている。なお、
図7では、複数のジョセフソン接合140がまとまって直列に接続され、複数のループ回路110がまとまって直列に接続されているが、これらの順序は任意である。したがって、例えば、ループ回路110とジョセフソン接合140とが交互に並ぶように直列に接続されてもよい。
【0099】
また、第四の変形例においても、ループ回路110において、第一の部分105及び第二の部分106が直列接続における接続点となり、ジョセフソン接合140において、ジョセフソン接合140の両端子が直列接続における接続点となる。
【0100】
第四の変形例では、複数のループ回路110と1以上のジョセフソン接合140とが直列に接続された回路が、キャパシタ120によりシャントされている。つまり、複数のループ回路110と1以上のジョセフソン接合140とキャパシタ120とを環状に接続することにより、複数のループ回路110をループの線路上に取り込んだループ回路が構成されているとも言える。なお、
図7に示されるように、ループ回路110と、ジョセフソン接合140と、キャパシタ120とを環状に接続したループ回路は、接地されていてもよい。
【0101】
第四の変形例においても、磁場発生部200は、交流磁場を発生させ、ループ回路110に交流磁場を印加する。ただし、第三の変形例では、磁場発生部200は、1つのループ回路110に対し、交流磁場を印加したが、第四の変形例では、磁場発生部200は、複数のループ回路110に対し、交流磁場を印加する。このため、磁場発生部200の配線は、ループ回路110の数に応じた長さとなっている。第四の変形例においても、磁場発生部200は、
図7では1本の配線で表現されているが、2本の配線で構成し、一方の配線には直流電流を流し、他方の配線には交流電流を流すという構成でもよい。
【0102】
磁場発生部200に交流電流を流すことによってそれぞれのループ回路110に共振器500の共振周波数の2倍の交流磁場を印加すると、当該共振周波数(すなわち交流磁場の周波数の0.5倍の発振周波数)で発振器40は発振する。
【0103】
ここで、
図7に示した発振器40の非線形係数について検討する。上述の通り、ループ回路110は、ジョセフソン接合103、104を備えた回路である。このため、ループ回路110を、ジョセフソン接合と等価的な回路と見なすと、本変形例のようにループ回路110の個数を複数に増やすということは、ジョセフソン接合の個数を増やすことと同じように考えることができる。上記(12)式から理解されるように、ジョセフソン接合の個数に応じて非線形係数は低下するため、ループ回路110の数を増やすほど、発振器40の非線形係数は低下する。よって、発振器40が備えるループ回路110の数は1つでなくてもよい。しかしながら、ループ回路110の数が1つである方が次のような理由により好ましい。
ループ回路110、すなわちDC-SQUIDは、磁場ノイズの影響を受ける回路であるため、その個数が多ければ多いほど、磁場ノイズに敏感な回路になってしまい、回路の誤動作確率を高めてしまう恐れがある。また、複数のループ回路110に均一に磁場を印加するための磁場発生部200の配線は、ループ回路110の個数に応じて長くなってしまう。このため、ループ回路110の個数は1つであることが好ましい。
【0104】
<第五の変形例>
次に、第五の変形例について説明する。
図8は、第五の変形例にかかる超伝導非線形発振器(ジョセフソンパラメトリック発振器)の一例を示す模式図である。本変形例は、発振器が電流印加部250をさらに有する点で、第三の変形例と異なっている。電流印加部250は、ジョセフソン接合140に所定の電流値の直流電流を印加する回路である。
図8に示した例では、電流印加部250は、直列に接続された全てのジョセフソン接合140からなる回路の一端251と他端252に電流印加部250の入出力端子が接続されている。これにより、電流印加部250とジョセフソン接合140とを含む閉回路が構成される。よって、電流印加部250から出力した直流電流は、すべてのジョセフソン接合140を流れて、また電流印加部250に戻る。
【0105】
ここで、ジョセフソン接合140の等価インダクタンスLJは下記の式で表される。
【0106】
【0107】
(13)式において、Φ0は磁束量子(約2.07×10-15 Wb)、ICはジョセフソン接合140の臨界電流値、Iはジョセフソン接合140を流れる電流である。上式から、ジョセフソン接合140に流す電流Iを変えることによって、ジョセフソン接合140の等価インダクタンスLJを変えることができることがわかる。つまり、電流印加部250からジョセフソン接合140に流す電流を制御することにより、ジョセフソン接合140の等価インダクタンスLJを制御することができる。
【0108】
共振器500は、単純なLC共振回路と同様、共振周波数が、共振器500のインダクタンス及びキャパシタンスに依存する。つまり、共振器500のインダクタンスを代えることで、共振周波数を変えることができる。本変形例では、電流印加部250がジョセフソン接合140に直流電流を流すことにより、ジョセフソン接合140の等価インダクタンスLJを制御することができる。これにより、共振器500全体の等価的なインダクタンスも制御でき、結果として共振器の共振周波数(つまり、発振器41の発振周波数)を制御することができる。このように、本変形例では、さらに、磁場発生部200の直流電流による共振周波数の制御以外の周波数制御を実現することができるという効果を有する。
【0109】
なお、
図8に示した例では、全てのジョセフソン接合140に対し直流電流を流すように電流印加部250が接続されているが、一部のジョセフソン接合140に対し直流電流を流すように電流印加部250が接続されてもよい。
また、
図8では、複数のジョセフソン接合140がまとまって直列に接続され、複数のループ回路110がまとまって直列に接続されているが、これらの順序は任意である。したがって、例えば、ループ回路110とジョセフソン接合140とが交互に並ぶように直列に接続されてもよい。
【0110】
<第六の変形例>
第五の変形例についても、第四の変形例と同様の変形例を考えることができる。すなわち、
図9に示すように、発振器41の共振器500は、複数のループ回路110を備えていてもよい。第六の変形例は、電流印加部250が追加されている点を除き、第四の変形例と構成が同様であるため、構成の詳細については説明を省略する。
【0111】
本変形例においても、一部のジョセフソン接合140に対し直流電流を流すように電流印加部250が接続されてもよい。
また、
図9では、複数のジョセフソン接合140がまとまって直列に接続され、複数のループ回路110がまとまって直列に接続されているが、これらの順序は任意である。したがって、例えば、ループ回路110とジョセフソン接合140とが交互に並ぶように直列に接続されてもよい。
以上、キャパシタ120とループ回路110とが環状に接続された共振器の例として第一の変形例乃至第六の変形例について説明した。ただし、本実施の形態に適用可能な共振器は、例えばキャパシタ120とループ回路110とが環状に接続された構成を有する共振器であればよく、その具体的な構成は、上述した構成に限られない。
【0112】
次に、他の実施形態について説明する。なお、以下の説明では、既に説明した構成要素と同じ構成要素については同一の符号を用い、具体的な説明については適宜省略する。第一の実施形態では、量子計算時と読み出し時とで発振周波数を変更することにより、損失を低減しつつ容易な読み出しを可能にした。これに対し、以下で説明する第二の実施形態及び第三の実施形態では、発振器と読み出し部との結合強度を可変にすることにより、上記効果を得る。
【0113】
<第二の実施形態及び第三の実施形態の概要>
まず、第二の実施形態及び第三の実施形態の概要について説明する。
図10は第二の実施形態及び第三の実施形態の概要にかかる発振装置2の構成を示す模式図である。発振装置2は、
図10に示すように、パラメトリック発振を行なう発振器15と、電流制御部17と、発振器15の内部状態を読み出す読み出し部12と、発振器15と読み出し部12との間に設けられた回路素子16とを有する。発振器15と読み出し部12は、回路素子16を介して接続されている。より詳細には、回路素子16は、シャント回路(ループ回路110をキャパシタ120でシャントする回路)に接続されている。つまり、回路素子16は、キャパシタ120とループ回路110とによる環状の回路に、接続されている。回路素子16は、発振器15と読み出し部12との結合強度が可変である素子である。
【0114】
発振器15は、上述した共振器100と、磁場発生部201とを有する。磁場発生部201と共振器100は相互インダクタンスを介して磁気的に結合している。言い換えれば、磁場発生部201と共振器100は誘導的に結合している。
【0115】
磁場発生部201は、交流磁場を発生させ、共振器100のループ回路110に交流磁場を印加する回路である。磁場発生部201は、交流電流が流れる回路であり、当該交流電流により交流磁場を発生させる。より詳細には、磁場発生部201は、直流電流と交流電流が重畳された電流が流れる。ただし、以下の点で、磁場発生部201は第一の実施形態の磁場発生部200と異なる。第一の実施形態の磁場発生部200は、量子計算時にはパラメトリック発振を発生させるための交流電流が流れるよう電流が制御されるが、読み出し時にはパラメトリック発振を発生させるための交流電流は流れない。これに対し、磁場発生部201は、量子計算時のみならず読み出し時も継続してパラメトリック発振を発生させるための交流電流が流れるよう電流制御部17により制御される。磁場発生部201は、
図10では1本の配線で表現されているが、2本の配線で構成し、一方の配線には直流電流を流し、他方の配線には交流電流を流すという構成でもよい。
【0116】
磁場発生部201に交流電流を流すことによってループ回路110に共振器100の共振周波数の2倍の交流磁場を印加すると、当該共振周波数(すなわち交流磁場の周波数の0.5倍の発振周波数)で発振器15はパラメトリック発振する。
電流制御部17は、磁場発生部201に流れる電流を制御する制御回路である
【0117】
図10に示した構成によれば、回路素子16により発振器15と読み出し部12の結合強度を変更することができる。このため、量子計算時と読み出し時とで、結合強度を変更することができる。したがって、
図10に示した構成によれば、損失を低減しつつ容易な読み出しを可能にした集中定数型の発振器を実現することができる。換言すると、
図10に示した構成によれば、第1の時点における損失を抑制しつつ、その後の第2の時点で状態の読み出しが容易である非線形発振器を回路の占有面積を抑制しつつ実現することができる。
【0118】
具体的には、発振装置2を次のように制御すればよい。まず、第1の時点(量子計算時)において、発振器15と読み出し部12との結合強度を第1の結合強度に設定し、発振器15をパラメトリック発振させる。次に、第2の時点(読み出し時)において、発振器15と読み出し部12との結合強度を、第1の結合強度よりも強い第2の結合強度に設定し、読み出し部12により発振器15の内部状態を読み出す。これにより、第1の時点における損失を抑制しつつ、第2の時点で状態の読み出しが容易である非線形発振器を回路の占有面積を抑制しつつ実現することができる。
【0119】
なお、
図10に示した構成において、共振器100の代わりに、
図4に示した共振器300が用いられてもよいし、
図5に示した共振器400が用いられてもよい。また、共振器100の代わりに、
図6又は
図7に示した共振器500が用いられてもよい。この場合、
図8又は
図9に示したように、電流印加部250が追加されていてもよい。
【0120】
第二の実施形態では、回路素子として、信号の透過を制限する帯域が可変である可変フィルタが用いられる。これに対し、第三の実施形態では、回路素子として、キャパシタンスが可変である可変キャパシタが用いられる。以下、第二の実施形態及び第三の実施形態について具体的な構成を説明する。
【0121】
<第二の実施形態>
図11は、第二の実施形態にかかる発振装置3の一例を示す模式図である。
【0122】
図11に示すように発振装置3は、集中定数型の超伝導非線形発振器である発振器15と、電流制御部17と、読み出し部12と、可変フィルタ160と、フィルタ制御部161を有する。発振器15は、上述した共振器100と、上述した磁場発生部201とを有する。磁場発生部201に流れる電流は、電流制御部17により制御される。
【0123】
電流制御部17は、磁場発生部201に流れる電流を制御する制御回路である。電流制御部17は、量子計算時及び読み出し時に、パラメトリック発振を発生させるための交流電流を磁場発生部201に流す。より詳細には、電流制御部17は、第一の実施形態における電流制御部11と同様、直流電流と所定の周波数の交流電流を重ねた電流を磁場発生部201に流すように制御する。ただし、第一の実施形態における電流制御部11は、量子計算時のみ交流電流を磁場発生部200に流したが、電流制御部17は、量子計算時のみならず、その直後の読み出し時においても、引き続き交流電流を流す。
【0124】
本実施の形態においても、磁場発生部201に交流電流を流すことによってループ回路110に共振器100の共振周波数の2倍の交流磁場を印加すると、当該共振周波数(すなわち交流磁場の周波数の0.5倍の発振周波数)で発振器15はパラメトリック発振する。上述の通り、第一の実施形態では、読み出し時には磁場発生部200への交流電流の供給が停止してしまう。すなわち、第一の実施形態では、パラメトリック発振のためのポンプ信号である交流電流(共振周波数の2倍の周波数の交流電流)は、量子計算時のみ供給され、読み出し時には供給が停止する。これに対し、本実施の形態及び後述する第三の実施形態では、量子計算時に引き続いて読み出し時も、磁場発生部201へ交流電流が供給され続ける。すなわち、本実施の形態及び後述する第三の実施形態では、共振器100に継続してポンプ信号が供給される。ポンプ信号の供給を停止してしまうよりも、ポンプ信号を供給し続けたほうが、非線形発振器の発振状態をより長く維持できる。このため、ポンプ信号を読み出し時に停止する場合に比べて、共振器100からの出力信号がより強くなり、読み出しがより容易になる。
【0125】
発振器15と読み出し部12は、可変フィルタ160を介して接続されている。つまり、発振器15と読み出し部12との間に可変フィルタ160が挿入されている。より詳細には、可変フィルタ160は、シャント回路(ループ回路110をキャパシタ120でシャントする回路)に接続されており、読み出し部12は、可変フィルタ160に接続されている。
【0126】
フィルタ制御部161は、可変フィルタ160の透過帯域を制御する制御回路である。
可変フィルタ160は、フィルタ制御部161の制御により設定された周波数帯の信号の透過を制限する回路であり、キャパシタとインダクタを用いて構成されている。より詳細には、可変フィルタ160は、フィルタ制御部161の制御に基づき、所定の周波数帯の信号の透過を、他の周波数帯の信号の透過に比べて制限する回路である。なお、可変フィルタ160および読み出し部12は、発振器15と同一のチップ上に配置してもよいし、別のチップに配置してもよい。
【0127】
可変フィルタ160は、公知の任意の技術を用いることにより実装可能である。例えば、可変フィルタ160として、強誘電体の誘電率を電圧で制御する方式のフィルタを用いてもよいし、ジョセフソン接合を用いた超伝導フィルタを用いてもよい。
【0128】
ここで、ジョセフソン接合を用いた超伝導フィルタとは、次のようなフィルタである。一般的に、ジョセフソン接合を含む超伝導ループ、言い換えれば、超伝導材料で作ったループの途中にジョセフソン接合を挿入した回路は、インダクタと見なすことができる。そして、この回路のループを貫く磁束を変化させることによって、この回路のインダクタンスを変化させることができる。よって、この回路を可変インダクタとして用いることができる。このように構成された可変インダクタを、例えば、集中定数型のバンドパスフィルタにおけるインダクタとして用いると可変フィルタが構成される。この可変フィルタでは、可変インダクタのインダクタンス値を変えることによって透過帯域を変えることができる。
【0129】
本実施形態では、上述した構成により、発振装置3は次のように動作する。まず、量子計算の際には、フィルタ制御部161は、可変フィルタ160の透過帯域が発振器15の発振周波数を含まないように可変フィルタ160を制御する。一方、量子計算が終わった後に発振器15の内部状態を読み出す際には、フィルタ制御部161は、可変フィルタ160の透過帯域が発振器15の発振周波数を含むように可変フィルタ160を制御する。
【0130】
このように可変フィルタ160を制御することにより、量子計算の際には、発振周波数が可変フィルタ160の透過帯域外となるため、発振器15の損失が低減できる。そして、読み出し時には発振周波数が可変フィルタ160の透過帯域内となるため、発振器15と読み出し部12との結合を強くして容易に読み出すことができる。
【0131】
なお、本実施形態では、発振器15の発振周波数は、量子計算時と読み出し時とで同一でもよいし、変えてもよい。発振器15の発振周波数は、第一の実施形態と同様の方法により制御することができる。すなわち、磁場発生部201に流す直流電流値を制御することにより、発振器15の発振周波数を制御することができる。
【0132】
このように、本実施形態によれば、量子計算の際には発振器15の損失が低減でき、かつ、読み出し時には発振器15と読み出し部12との結合を強くして容易に読み出しを行なうことができるという効果がある。また、発振器15は、集中定数型の発振器であるため、回路の占有面積を抑制することができる。したがって、本実施形態によれば、第1の時点における損失を抑制しつつ、第2の時点で状態の読み出しが容易である非線形発振器を回路の占有面積を抑制しつつ実現することができる。
【0133】
また、本実施の形態においても、上述した変形例を適用することができる。すなわち、本実施の形態において、共振器100の代わりに、
図4に示した共振器300が用いられてもよいし、
図5に示した共振器400が用いられてもよい。また、共振器100の代わりに、
図6又は
図7に示した共振器500が用いられてもよい。この場合、
図8又は
図9に示したように、電流印加部250が追加されていてもよい。また、上述した変形例に限らず、本実施の形態に適用可能な共振器は、例えばキャパシタ120とループ回路110とが環状に接続された構成を有する共振器であればよい。
【0134】
<第三の実施形態>
図12は、第三の実施形態にかかる発振装置4の一例を示す模式図である。
【0135】
図12に示すように、発振装置4は、上述した発振器15と、読み出し部12と、可変キャパシタ162と、キャパシタ制御部163を有する。発振器15及び読み出し部12については、第二の実施形態と同様であるため、説明を省略する。なお、上述した通り、本実施の形態においても、量子計算時に引き続いて読み出し時も、共振器100に継続してポンプ信号が供給される。このため、ポンプ信号を読み出し時に停止する場合に比べて、共振器100からの出力信号がより強くなり、読み出しがより容易である。
【0136】
発振器15と読み出し部12は、可変キャパシタ162を介して接続されている。つまり、発振器15と読み出し部12との間に可変キャパシタ162が挿入されている。より詳細には、可変キャパシタ162は、一端が、共振器100のシャント回路(ループ回路110をキャパシタ120でシャントする回路)に接続されており、他端が、読み出し部12に接続されている。
【0137】
キャパシタ制御部163は、可変キャパシタ162のキャパシタンスを制御する制御回路である。
可変キャパシタ162は、キャパシタ制御部163からの制御信号に応じたキャパシタンスを実現する回路である。可変キャパシタ162は、強誘電体の誘電率を電圧で制御する方式など、公知の任意の技術を用いることにより実装可能である。なお、可変キャパシタ162および読み出し部12は、発振器15と同一のチップ上に配置してもよいし、別のチップに配置してもよい。
【0138】
本実施形態では、上述した構成により、第1の時点(量子計算時)における可変キャパシタ162のキャパシタンスの値をその後の第2の時点(読み出し時)における可変キャパシタ162のキャパシタンスの値よりも小さくするよう制御を行なう。キャパシタンスの変更により、発振器15と読み出し部12の結合強度を制御する。結合強度はキャパシタンスが小さいほど小さくなり、キャパシタンスが大きいほど大きくなる。
【0139】
より具体的には、発振装置4は次のように動作する。まず、量子計算の際には、キャパシタ制御部163は、可変キャパシタ162のキャパシタンスを所定の第1の容量値に設定する。第1の容量値は、所定の第1の基準値以下の値である。これにより発振器15と読み出し部12との結合を弱くして発振器15の損失を低減する。一方、量子計算が終わった後に発振器15の内部状態を読み出す際には、キャパシタ制御部163は、可変キャパシタ162のキャパシタンスを所定の第2の容量値に設定する。第2の容量値は、所定の第2の基準値以上の値である。また、第2の容量値は第1の容量値よりも大きい。これにより、発振器15と読み出し部12との結合を強くして、容易に読み出しができるようにする。このように可変キャパシタ162のキャパシタンスを制御することにより、量子計算の際には発振器15の損失が低減でき、かつ、読み出し時には容易に読み出すことができるという効果が得られる。本実施形態でも、発振器15の発振周波数は、量子計算時と読み出し時とで同一でもよいし、変えてもよい。
【0140】
なお、第1の基準値は量子計算時に用いられるキャパシタンスの値の指標となる値であるため、可能な限り小さいことが好ましい。その理由は、キャパシタンスの値が大きいと、発振器15のエネルギーが読み出し部12にたくさん流れ出してしまい、発振器15のQ値が低下してしまうためである。言い換えれば、発振器15の損失が増大してしまうため、量子状態を維持できる時間(いわゆるコヒーレンス時間)が短くなってしまうためである。
【0141】
一方、第2の基準値は、発振器15の内部状態を読み出す際のキャパシタンスの値の指標となる値であるため、可能な限り大きくすることが好ましい。その理由は、キャパシタンスの値を大きくするほど、発振器15のエネルギーを読み出し部12に流しやすくなるため、読み出しが容易になるからである。実用的な値としては、第1の基準値は、例えば、0.1fF以下であり、第2の基準値は、例えば、10fF以上である。
【0142】
以上説明した通り、本実施形態によれば、量子計算の際には発振器15の損失が低減でき、かつ、読み出し時には発振器15と読み出し部12との結合を強くして容易に読み出しを行なうことができるという効果がある。また、発振器15は、集中定数型の発振器であるため、回路の占有面積を抑制することができる。したがって、本実施形態によれば、第1の時点における損失を抑制しつつ、第2の時点で状態の読み出しが容易である非線形発振器を回路の占有面積を抑制しつつ実現することができる。
【0143】
また、本実施の形態においても、上述した変形例を適用することができる。すなわち、本実施の形態において、共振器100の代わりに、
図4に示した共振器300が用いられてもよいし、
図5に示した共振器400が用いられてもよい。また、共振器100の代わりに、
図6又は
図7に示した共振器500が用いられてもよい。この場合、
図8又は
図9に示したように、電流印加部250が追加されていてもよい。また、上述した変形例に限らず、本実施の形態に適用可能な共振器は、例えばキャパシタ120とループ回路110とが環状に接続された構成を有する共振器であればよい。
【0144】
<第四の実施形態>
次に、上述した各実施形態で述べた発振装置1、3、4を量子計算機用の量子ビット回路として用いる実施形態について説明する。なお、ここでいう量子計算機は、イジングモデルにマッピング可能な任意の問題の解を計算する量子アニーリング型の計算機である。上述したように、発振装置1、3、4は、共振周波数の2倍の周波数の交流磁場をループ回路110に与えるとパラメトリック発振する。このとき、発振状態は、互いに位相がπだけ異なる第一の発振状態と第二の発振状態のいずれかの状態をとり得る。この第一の発振状態と第二の発振状態が量子ビットの0、1に対応する。
【0145】
図13は、いずれかの実施形態で示した発振装置を用いた量子計算機の構成を示す模式図である。
図13に示した構成は、非特許文献1に記載されている分布定数型の超伝導パラメトリック発振装置を用いた量子計算機の構成において、発振装置として上述した発振装置1、発振装置3、又は発振装置4を適用したものである。より詳細には、
図13に示した構成は、例えば、非特許文献1の
図4に記載されている構成において、分布定数型の超伝導パラメトリック発振装置の代わりに上述した発振装置1、発振装置3、又は発振装置4を適用したものである。
図13において、発振装置5は、発振装置1、発振装置3、又は発振装置4を表す。
【0146】
図13に示した量子計算機50では、4個の発振装置5を1個の結合回路51で接続している。より詳細には、発振装置5が共振器100を備える場合、結合回路51は、共振器100のシャント回路(ループ回路110をシャントする回路)に接続されている。同様に、発振装置5が共振器300を備える場合、結合回路51は、共振器300のシャント回路(ループ回路110をシャントする、キャパシタ120及び線形インダクタ130からなる直列回路)に接続されている。また、発振装置5が共振器400を備える場合、結合回路51は、共振器400のシャント回路(ループ回路110をシャントする、キャパシタ120及び線形インダクタ130からなる並列回路)に接続されている。また、発振装置5が共振器500を備える場合、結合回路51は、共振器500のシャント回路(ループ回路110とジョセフソン接合140とが直列に接続された回路をシャントする回路)に接続されている。結合回路51は、4個の発振装置5を結合する回路であり、1個のジョセフソン接合510と4個のキャパシタ511で構成される。より詳細には、結合回路51は、各発振装置における、キャパシタ120とループ回路110を有する環状の回路を結合する。結合回路51は、4個の発振装置5のうち、2個の発振装置5からなる第一組の発振装置群と、他の2個の発振装置5からなる第二組の発振装置群とをジョセフソン接合510を介して結合している。ここで、第一組の発振装置群はそれぞれ、超伝導体512_1に、キャパシタ511を介して接続している。また、第二組の発振装置群はそれぞれ、超伝導体512_2に、キャパシタ511を介して接続している。ここで、超伝導体512_1は、ジョセフソン接合510の一方の端子に接続される配線であり、超伝導体512_2は、ジョセフソン接合510の他方の端子に接続される配線である。つまり、超伝導体512_1及び超伝導体512_2は、ジョセフソン接合510により接合されているとも言える。
つまり、第一組の発振
装置群のうちの第一の発振装置5はジョセフソン接合510の一方の端子に、第一のキャパシタ511を介して接続している。また、第一組の発振
装置群のうちの第二の発振装置5はジョセフソン接合510の一方の端子に、第二のキャパシタ511を介して接続している。同様に、第二組の発振
装置群のうちの第三の発振装置5はジョセフソン接合510の他方の端子に、第三のキャパシタ511を介して接続している。また、第二組の発振
装置群のうちの第四の発振装置5はジョセフソン接合510の他方の端子に、第四のキャパシタ511を介して接続している。
【0147】
電流制御部11又は電流制御部17は、4個の発振装置5に対し互いに異なる周波数の交流電流を用いる。磁場発生部200又は磁場発生部201を2本の配線で構成して一方の配線には直流電流を流し他方の配線には交流電流を流す場合、交流電流用の配線は、複数の発振装置5において共有される配線であってもよい。すなわち、交流電流用の配線は、複数の発振装置5を巡るように設けられてもよい。この場合、共有される交流電流用の配線には、複数の発振装置5を制御するために複数の電流制御部11又は電流制御部17が接続され、これらの電流制御部11又は電流制御部17により異なる周波数の交流電流が重畳される。
なお、
図13に示した構成において、電流制御部11又は電流制御部17は、各発振装置5を制御するために分散的に配置されて設けられてもよいし、複数の電流制御部11又は電流制御部17がまとめて1箇所に集約されて設けられてもよい。同様に、フィルタ制御部161、キャパシタ制御部163、又は電流印加部250についても、各発振装置5を制御するために発振装置5毎に分散的に配置されて設けられてもよいし、まとめて1箇所に集約されて設けられてもよい。また、読み出し部12を複数の発振装置5に対して1個だけ設け、この読み出し部12により複数の発振装置5についての読み出しを行なってもよい。この場合、複数の発振装置5に対して共通に設けられた読み出し部12は、各発振装置5で用いられる周波数の違いにより、各発振装置5を区別して読み出しを行なう。なお、読み出し部12を複数の発振装置5に対して1個だけ設ける場合も、第一の実施形態のフィルタ13は、各発振装置5に対しそれぞれ設けられる。すなわち、読み出し部12を複数の発振装置5に対して1個だけ設ける場合、1個の読み出し部12に対し、複数のフィルタ13が接続される。
【0148】
なお、
図13に示した構成では、発振装置5が4個の場合の量子計算機の構成を示しているが、
図13に示した構成を単位構造として、複数の単位構造を並べて接続することにより、任意の個数の発振装置5を集積した量子計算機を実現することができる。その構成例を
図14に示す。
図14は、発振装置5を集積した量子計算機52の構成を示す模式図である。
図14に示した構成では、各結合回路51は、
図13に示したように、それぞれ4個の発振装置5と接続している。そして、各発振装置5が1乃至4個の結合回路51と接続され、発振装置5を複数の単位構造で共有して並べられることにより、
図13に示した単位構造が並べられた状態としている。量子計算機52において、少なくとも一個の発振装置5は、複数の結合回路51に接続されている。特に
図14に示した例では、少なくとも1個の発振装置5は、4個の結合回路51に接続されている。また、量子計算機52について、次のように説明することもできる。量子計算機52は、複数の発振装置5を有し、各発振装置5は、1乃至4個の結合回路51に接続されている。各発振装置5が接続する結合回路51の個数は、当該発振装置5がいくつの単位構造において共有されているかに対応している。このように、
図14で示した例では、量子計算機52は、単位構造を複数有し、発振装置5が、複数の単位構造で共有されている。
図14に示した例では13個の発振装置5を集積しているが、任意の個数の発振装置5を同様の方法で集積できる。
【0149】
なお、量子計算機の動作原理と制御方法は非特許文献1に記載されており、
図13及び
図14に示した量子計算機においても、非特許文献1に記載されている動作原理及び制御方法が適用される。
本実施形態によれば、量子計算時における損失を抑制しつつ、読み出し時に状態の読み出しが容易である量子計算機を回路の占有面積を抑制しつつ実現することができる。
なお、本開示にかかる超伝導非線形発振器は、量子アニーリング回路だけではなく、ゲート型の量子コンピューティング回路にも適用できる。
【0150】
なお、本発明は上記実施形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【0151】
また、上記の実施形態の一部又は全部は、以下の付記のようにも記載されうるが、以下には限られない。
【0152】
(付記1)
第一の超伝導線路と第一のジョセフソン接合と第二の超伝導線路と第二のジョセフソン接合とが環状に接続されているループ回路とキャパシタとを有する共振器と、前記ループ回路に磁場を印加する磁場発生部と、を有してパラメトリック発振を行なう発振器と、
前記発振器の内部状態を読み出す読み出し部と、
前記発振器と前記読み出し部との結合強度が可変である回路素子と、
を有し、
前記キャパシタと前記ループ回路とが環状に接続されている回路と、前記読み出し部が、前記回路素子を介して接続されている
発振装置。
(付記2)
前記回路素子は、信号の透過を制限する帯域が可変である可変フィルタである
付記1に記載の発振装置。
(付記3)
前記回路素子は、キャパシタンスが可変である可変キャパシタである
付記1に記載の発振装置。
(付記4)
前記共振器は、さらに線形インダクタを含み、
前記キャパシタ及び前記線形インダクタからなる回路と前記ループ回路とが環状に接続されている
付記1又は2に記載の発振装置。
(付記5)
前記キャパシタと前記線形インダクタが直列に接続されている
付記4に記載の発振装置。
(付記6)
前記キャパシタと前記線形インダクタが並列に接続されている
付記4に記載の発振装置。
(付記7)
前記共振器は、さらに、前記ループ回路に含まれるジョセフソン接合とは別に設けられた、少なくとも1つの第三のジョセフソン接合を含み、
前記ループ回路と、前記第三のジョセフソン接合と、前記キャパシタとが環状に接続されている
付記1又は2に記載の発振装置。
(付記8)
前記ループ回路が1つである、
付記7に記載の発振装置。
(付記9)
前記第三のジョセフソン接合に直流電流を印加する電流印加部をさらに有する
付記7又は8に記載の発振装置。
(付記10)
付記1乃至9いずれか1項に記載された前記発振装置を4個と、前記4個の発振装置のそれぞれの、前記キャパシタと前記ループ回路を有する環状の回路を結合する結合回路とを単位構造として有する量子計算機。
(付記11)
前記結合回路は、前記4個の発振装置のうち、2個の発振装置からなる第一組の発振装置群と、他の2個の発振装置からなる第二組の発振装置群とを第四のジョセフソン接合を介して結合し、
前記第一組の発振装置群のうちの第一の発振装置は前記第四のジョセフソン接合の一方の端子に、第一のキャパシタを介して接続し、
前記第一組の発振装置群のうちの第二の発振装置は前記第四のジョセフソン接合の一方の端子に、第二のキャパシタを介して接続し、
前記第二組の発振装置群のうちの第三の発振装置は前記第四のジョセフソン接合の他方の端子に、第三のキャパシタを介して接続し、
前記第二組の発振装置群のうちの第四の発振装置は前記第四のジョセフソン接合の他方の端子に、第四のキャパシタを介して接続している
付記10に記載の量子計算機。
(付記12)
前記単位構造を複数有し、
前記発振装置が、複数の前記単位構造で共有されている
付記10又は11に記載の量子計算機。
(付記13)
第一の超伝導線路と第一のジョセフソン接合と第二の超伝導線路と第二のジョセフソン接合とが環状に接続されているループ回路とキャパシタとを有する共振器と前記ループ回路に磁場を印加する磁場発生部とを有する発振器と、前記発振器の内部状態を読み出す読み出し部との結合強度を、第1の結合強度に設定し、前記発振器をパラメトリック発振させ、
次に、前記発振器と前記読み出し部との結合強度を、前記第1の結合強度よりも強い第2の結合強度に設定し、前記読み出し部により前記発振器の内部状態を読み出し、
前記キャパシタと前記ループ回路とが環状に接続されている
制御方法。
【0153】
以上、実施の形態を参照して本願発明を説明したが、本願発明は上記によって限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【0154】
この出願は、2019年7月19日に出願された日本出願特願2019-133816を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【符号の説明】
【0155】
1、2、3、4、5 発振装置
10 発振器
11 電流制御部
12 読み出し部
13 フィルタ
15 発振器
16 回路素子
17 電流制御部
20、30、40、41 発振器
50 量子計算機
51 結合回路
52 量子計算機
100 共振器
101、102 超伝導線路
103、104 ジョセフソン接合
105 第一の部分
106 第二の部分
110 ループ回路
120 キャパシタ
130 線形インダクタ
140 ジョセフソン接合
160 可変フィルタ
161 フィルタ制御部
162 可変キャパシタ
163 キャパシタ制御部
200、201 磁場発生部
250 電流印加部
300、400、500 共振器
510 ジョセフソン接合
511 キャパシタ
512_1、512_2 超伝導体