(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-21
(45)【発行日】2023-01-04
(54)【発明の名称】潤滑診断におけるグリス中の非鉄摩耗粉抽出方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/30 20060101AFI20221222BHJP
G01N 1/10 20060101ALI20221222BHJP
G01N 1/04 20060101ALI20221222BHJP
【FI】
G01N33/30
G01N1/10 H
G01N1/10 B
G01N1/04
(21)【出願番号】P 2019156354
(22)【出願日】2019-08-29
【審査請求日】2021-10-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000200334
【氏名又は名称】JFEプラントエンジ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127845
【氏名又は名称】石川 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】岡田 晃太郎
(72)【発明者】
【氏名】矢羽田 和彦
【審査官】草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-263786(JP,A)
【文献】特開平09-059661(JP,A)
【文献】特開2014-038001(JP,A)
【文献】特開2019-045495(JP,A)
【文献】特開2010-107252(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0201962(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/30
G01N 1/00-1/44
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械の運転によりグリス中に発生した摩耗粉を分析して機械の状態を診断する潤滑診断における前記分析の前提として、前記グリス中に発生する非鉄摩耗粉を抽出する方法であって、
試料油である非鉄摩耗粉を含むグリスに、希釈液、及び前記非鉄摩耗粉と添加剤・増ちょう剤の間の比重を有
し界面活性剤を含む分離補助液を添加して攪拌する攪拌工程と、
攪拌したものを遠心分離機によって遠心分離して、非鉄摩耗粉、分離補助液、添加剤・増ちょう剤及び希釈液の層に分離する分離工程と、
複数の層のうち、添加剤・増ちょう剤、希釈液を廃棄する廃棄工程と、
残った層に希釈液を入れて攪拌後、濾過フィルタを通過させて非鉄摩耗粉を抽出する抽出工程と、を備えたことを特徴とする潤滑診断におけるグリス中の非鉄摩耗粉抽出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械の運転により潤滑油中に発生した摩耗粉を分析して機械の状態を診断する潤滑診断に関し、特に前記分析の前提としてグリス中に発生する非鉄摩耗粉を抽出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
回転・駆動装置や油圧装置などの一般的な機械設備の保全の方式は、機械設備の状態を診断することにより修理の要否とそのタイミングを決定する予知保全である。
このような予知保全には、機械設備の状態を診断する必要があるが、機械設備は運転に伴い潤滑油中に摩耗粉が発生するので、この摩耗粉を分析することで機械設備の状態を診断することができる。
【0003】
潤滑診断の対象となる潤滑油には油とグリスがあるが、グリスの潤滑診断の需要が高まっており、その効率化が求められている。
グリスの潤滑診断方法として、摩耗粉を磁力でガラス板上に吸着させて顕微鏡で観察する分析フェログラフィや、摩耗粉を含むグリスを希釈した後、フィルタに通し、摩耗粉を顕微鏡で観察して分析する濾過診断方法ある。
【0004】
摩耗粉が鉄系摩耗粉のような磁性体であれば、分析フェログラフィを適用できるが、摩耗粉が非鉄摩耗粉の場合には、磁力による吸着ができないので、一般的には分析フェログラフィを適用できない。
もっとも、摩耗粉が非鉄摩耗粉の場合には、鉄系摩耗粉に乗ってガラス板の上に残っていることもあり、分析フェログラフィでも観察できる時もあるが、判定することは難しい。
したがって、摩耗粉が非鉄摩耗粉の場合には、濾過診断方法を適用することになる。
しかし、グリスは基油(ベースオイル)に添加剤・増ちょう剤が混合されており、濾過診断においては、添加剤・増ちょう剤が濾過フィルタに詰まってしまうという問題がある。濾過フィルタが詰まると、試料油をそれ以上に流すことができないため、診断に必要な規定量の試料油から摩耗粉を採取することができず、適正な診断ができない可能性があった。
【0005】
このため、濾過する前のグリスからフィルタの目詰まりの原因となる添加剤・増ちょう剤を除去する必要がある。
この点、油から浮遊物を分離する方法としては、例えば、特許文献1に「遠心分離器内の油内に浮遊している粒子を汚濁した油から取り除く方法」が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載のものは、試料油から浮遊物を取り除く方法であり、試料油であるグリスに存在する添加剤・増ちょう剤を分離して除去することには適用できない。
【0008】
本発明はかかる課題を解決するためになされたものであり、潤滑診断における非鉄摩耗粉の分析の前提として、濾過フィルタの目詰まりを防止してグリス中に存在する非鉄摩耗粉を効率的に抽出する方法を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る潤滑診断におけるグリス中の非鉄摩耗粉抽出方法は、機械の運転によりグリス中に発生した摩耗粉を分析して機械の状態を診断する潤滑診断における前記分析の前提として、前記グリス中に発生する非鉄摩耗粉を抽出する方法であって、
試料油である非鉄摩耗粉を含むグリスに、希釈液、及び前記非鉄摩耗粉と添加剤・増ちょう剤の間の比重を有する分離補助液を添加して攪拌する攪拌工程と、
攪拌したものを遠心分離機によって遠心分離して、非鉄摩耗粉、分離補助液、添加剤・増ちょう剤及び希釈液の層に分離する分離工程と、
複数の層のうち、添加剤・増ちょう剤、希釈液を廃棄する廃棄工程と、
残った層に希釈液を入れて攪拌後、濾過フィルタを通過させて非鉄摩耗粉を抽出する抽出工程と、を備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、濾過フィルタの詰まりの原因となる添加剤・増ちょう剤を除去して試料油を効率的に濾過フィルタを通過させることができるので、適量のグリスを濾過診断対象とすることができ、診断の精度が向上するとともに、短時間での濾過診断が可能になり、コストも削減できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施の形態の工程の流れを説明する説明図である。
【
図2】実施例において、攪拌工程を実施した試験管内の状態を示す図である。
【
図3】実施例において、遠心分離を実施した試験管内の状態を示す図である。
【
図5】比較例として、分離補助液を用いないで遠心分離した試験管内の状態を示す図である。
【
図6】実施例において、本発明を適用した試料油を濾過した濾過フィルタの状態を示す図(a)と、抽出された非鉄摩耗粉の顕微鏡拡大図(b)である。
【
図7】実施例において、本発明を適用していない比較例としての試料油を濾過した濾過フィルタの状態を示す図(a)と、抽出された摩耗粉の顕微鏡拡大図(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本実施の形態に係る潤滑診断におけるグリス中の非鉄摩耗粉抽出方法は、機械の運転によりグリス中に発生した摩耗粉を分析して機械の状態を診断する潤滑診断における前記分析の前提として、グリス中に発生する非鉄摩耗粉を抽出する方法であって、
図1に示すように、攪拌工程と、分離工程と、廃棄工程と、抽出工程と、を備えている。
以下、各工程を詳細に説明する。
【0013】
<攪拌工程>
攪拌工程は、試料油である非鉄摩耗粉を含むグリスに、希釈液、及び非鉄摩耗粉と添加剤・増ちょう剤の間の比重を有する分離補助液を添加して攪拌する工程である。
具体的には、例えば試験管等の遠心分離器に装着できる容器に試料油、希釈液、分離補助液を入れて攪拌する。
希釈液は、グリスを希釈できるものであればよく、例えば、機械設備の洗浄液等を用いることができる。
【0014】
分離補助液は、比重差により非鉄摩耗粉を含む摩耗粉(以下、単に「非鉄摩耗粉」という)を抽出するものであるため、非鉄摩耗粉と添加剤・増ちょう剤の間の比重の液体を選定すればよく、このような比重の液体であれば特に限定されない。もっとも、液体以外の不純物が入っておらず、濾過フィルタを溶かしたりしないものであればより好ましい。
分離補助液の具体例としては、ミクロクリーン(商品名)を水で稀釈したミクロクリーン稀釈液が挙げられる。なお、この分離補助液に加えて、グリスと親和性のある浸透探傷用洗浄液を稀釈液として同時に用いる。浸透探傷用洗浄液は、グリスと親和性があり、油分は溶込むが添加剤、増調剤は溶けないという性質を有する。
他方、浸透探傷用洗浄液は、ミクロクリーン稀釈液とは親和性がない。
浸透探傷用洗浄液、グリス、分離補助液、非鉄摩耗粉(非鉄金属)の成分と比重は下記の表1に示す通りである。
【0015】
【0016】
浸透探傷用洗浄液を分離補助液として用いて遠心分離すると、「非鉄金属」・「添加剤、増調剤」・「分離補助液(浸透探傷用洗浄液)」の3層が形成される。
この状態では、「非鉄金属」と「添加剤、増調剤」の層分離が十分でない。
そこで、ミクロクリーン稀釈液及び浸透探傷用洗浄液を同時に用いて遠心分離すると、「非鉄金属」・「ミクロクリーン稀釈液」・「添加剤、増調剤」・「分離補助液(浸透探傷用洗浄液)」の4層が形成され、「非鉄金属」と「添加剤、増調剤」の間に「ミクロクリーン稀釈液」の層が形成されるので、「非鉄金属」と「添加剤、増調剤」の層分離を確実に行うことができる。
【0017】
<分離工程>
分離工程は、攪拌工程で攪拌したものを遠心分離機によって遠心分離する工程である。
試験管内の試料は遠心分離機により遠心分離することで、試験管の底側から非鉄摩耗粉、分離補助液、添加剤・増ちょう剤及び希釈液の順で複数の層に分離する。
【0018】
<廃棄工程>
廃棄工程は、分離工程で分離した複数の層のうち、下層の非鉄摩耗粉、分離補助液を残して、上層の添加剤・増ちょう剤及び希釈液の層を廃棄する工程である。
【0019】
<抽出工程>
抽出工程は、試験管内に残った層に、再度希釈液を入れて攪拌後、濾過フィルタを通過させて非鉄摩耗粉を抽出する工程である。
この抽出工程で、濾過フィルタを通過する液体には、添加剤・増ちょう剤が含まれていないので、濾過フィルタが目詰まりすることがなく、液量が多くても円滑な濾過が可能である。
濾過フィルタには、非鉄摩耗粉が捕捉され、診断に必要な量の非鉄摩耗粉が抽出され、適切な濾過診断が可能となる。
【0020】
以上のように、本実施の形態によれば、非鉄摩耗粉と添加剤・増ちょう剤との比重差を考慮した分離補助液を用いて遠心分離を行うことにより、濾過フィルタの目詰まりの原因となる添加剤・増ちょう剤を分離除去することができ、診断に必要な量のグリスを濾過診断することが可能になった。これによって、診断の精度が向上するとともに、短時間での濾過診断が可能になり、コストも削減できる。
【実施例】
【0021】
上記の実施の形態で示した工程に基づいて、グリスから非鉄摩耗粉の抽出実験を行ったので、以下これについて説明する。
まず、試験管に試料油としてのグリス、希釈液としての浸透探傷用洗浄液、分離補助液としての工場用洗剤(より具体的には、ミクロクリーン(商品名))入れて攪拌した。
ミクロクリーン(商品名)は、原液密度(15℃)1.10g/cm3であり、成分は界面活性剤・防錆剤(ジエタノールアミン、ブチルセロソルブ、水酸化カリウム、ポリ=ノニルフェニルエーテル)を含むものである。
攪拌後には、
図2に示すように、均一に混ざった状態となる。
【0022】
次に、上記のように攪拌した後、試験管を遠心分離機にセットし、遠心分離した。遠心分離機の回転数5500rpmで、5分間行った。遠心分離後の試験管内は、
図3に示すように、底側から非鉄摩耗粉、ミクロクリーン、添加剤・増ちょう剤及び浸透探傷用希釈液の順で複数の層に分離した。非鉄摩耗粉は、
図4に示すように、ミクロクリーンの中に沈んでいる。
なお、分離補助液を用いずに遠心分離すると、攪拌後の状態は
図5(a)に示すように、
図2とほぼ同じ状態であるが、遠心分離後には、
図5(b)に示すように非鉄摩耗粉と添加剤・増ちょう剤が同じ下層に溜まった状態となり、添加剤・増ちょう剤と非鉄摩耗粉を分離することができない。
【0023】
上記のように分離された複数の層のうち、上層の添加剤・増ちょう剤及び浸透探傷用希釈液の層を廃棄したのち、試験管内に残った層に、再度希釈液を入れて攪拌後、濾過フィルタを通過させて非鉄摩耗粉を抽出した。
【0024】
このとき、濾過フィルタを通過させる液には添加剤・増ちょう剤が含まれていないので、濾過フィルタは目詰まりせず、濾過フィルタ上に非鉄摩耗粉を抽出することができた(
図6(a)参照)。また、
図6(b)に示すように、本発明例においては、非鉄摩耗粉を顕微鏡ではっきりと観察することができる。
【0025】
比較例として、添加剤・増ちょう剤を分離することなく濾過フィルタを通過させた場合の濾過フィルタの状態を
図7に示す。
図7(a)に示すように、濾過フィルタが目詰まりし、濾過フィルタ上に試料油が溜まっていることが分かる。また、充分な試料油を流し込めず、非鉄摩耗粉が分離できていないため、顕微鏡で観察することも難しいことがわかる。
【0026】
以上の実施例の結果から、本発明に係るグリス中の非鉄摩耗粉抽出方法が有効であることが実証された。