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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-21
(45)【発行日】2023-01-04
(54)【発明の名称】ベツリンに基づく非晶質ポリエステル
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/199 20060101AFI20221222BHJP
   C09J 167/02 20060101ALI20221222BHJP
   C08G 63/91 20060101ALI20221222BHJP
   C09K 3/10 20060101ALI20221222BHJP
【FI】
C08G63/199
C09J167/02
C08G63/91
C09K3/10 Z
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020533767
(86)(22)【出願日】2018-11-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-02-22
(86)【国際出願番号】 EP2018083091
(87)【国際公開番号】W WO2019120934
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2021-11-26
(31)【優先権主張番号】17209984.8
(32)【優先日】2017-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】391008825
【氏名又は名称】ヘンケル・アクチェンゲゼルシャフト・ウント・コムパニー・コマンディットゲゼルシャフト・アウフ・アクチェン
【氏名又は名称原語表記】Henkel AG & Co. KGaA
【住所又は居所原語表記】Henkelstrasse 67,D-40589 Duesseldorf,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【弁理士】
【氏名又は名称】森住 憲一
(72)【発明者】
【氏名】アドリアン・ブラント
(72)【発明者】
【氏名】ホルスト・ベック
(72)【発明者】
【氏名】カースティン・シュレーダー
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンダー・クックス
【審査官】北田 祐介
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2008/0004369(US,A1)
【文献】特開2013-082929(JP,A)
【文献】ロシア国特許出願公開第02167892(RU,A)
【文献】NEMILOV V. E., et al.,Kinetics of Polycondensation of Betulin with Adipic Acid,Russian Journal of Applied Chemistry,ロシア,2005年,vol. 78, No. 7,p.1162-1165
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 63/199
C09J 167/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベツリンに基づく非晶質ポリエステルであって、DSCにより測定されるガラス転移温度Tgが-50℃~80℃の範囲であり、前記ポリエステル中のベツリン構造単位の割合は6~65モル%であり、前記ポリエステルは、ベツリンとダイマー酸、短鎖ポリオール、および任意にアミンとの反応生成物、または、ベツリンとジカルボン酸、植物油、および任意にアミンとの反応生成物であり、前記短鎖ポリオールは2~8個の炭素原子を含むことを特徴とする、非晶質ポリエステル。
【請求項2】
ポリエステル中のベツリン構造単位の割合は10~50モル%であることを特徴とする、請求項1に記載のポリエステル。
【請求項3】
前記ベツリンは再生可能な原材料から得られることを特徴とする、請求項1~2のいずれかに記載のポリエステル。
【請求項4】
前記ジカルボン酸は、4~24個の炭素原子を有する脂肪族ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸およびダイマー酸からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載のポリエステル。
【請求項5】
前記ダイマー酸は、一般式CnH2n+1COOHの脂肪酸および/またはその誘導体のダイマー[式中、nは、7~33の整数である]であることを特徴とする、請求項1~4のいずれかに記載のポリエステル。
【請求項6】
前記ダイマー酸は、一般式CnH2n+1COOHの脂肪酸および/またはその誘導体のダイマー[式中、nは、9~17の整数である]であることを特徴とする、請求項1~5のいずれかに記載のポリエステル。
【請求項7】
前記植物油は、大豆油、亜麻仁油、ヒマワリ油、菜種油、アザミ油、魚油、ヒマシ油、トール油、ココナッツ油、パーム油、オリーブオイルおよびそれらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1~6のいずれかに記載のポリエステル。
【請求項8】
ポリエステルの総重量に基づいて、80~100重量%の割合の再生可能な原材料を含むことを特徴とする、請求項1~のいずれかに記載のポリエステル。
【請求項9】
以下の工程を含む、請求項1~のいずれかに記載のポリマーの製造方法:
a)ベツリンとダイマー酸、短鎖ポリオール、および任意にアミンとを含む混合物、または、ベツリンとジカルボン酸、植物油、および任意にアミンとを含む混合物を提供する工程;
b)工程a)からの前記混合物を加熱し、ポリエステルポリオールを得る工程。
【請求項10】
工程b)における混合物は、200~250℃の温度に加熱されることを特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項11】
前記混合物中のベツリンは可溶性であることを特徴とする、請求項および10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
工程a)における前記混合物は、混合物の総重量に基づいて、0.01~0.05重量%の量で触媒をさらに含むことを特徴とする、請求項11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
請求項1~のいずれかに記載のポリエステルの末端ヒドロキシル基上に、少なくとも1つのエポキシドおよび/またはイソシアネート基を含むタイプの有機化合物を添加することにより得られるポリマー材料。
【請求項14】
熱可塑性材料または接着剤および/またはシーラントの成分としての、請求項1~のいずれかに記載のポリエステルまたは請求項13に記載のポリマー材料の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベツリンに基づく非晶質ポリエステル、それらの製造方法およびそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
石油ベースの原材料を持続可能な供給源から入手可能な原材料で置き換えることは、特にこれまで使用されてきた原材料の不足と環境への意識の高まりから、化学産業において重要性を増している。適切な原料の供給源を見つけて特定することとは別に、これには、通常、再生可能な供給源からの原料が対応する石油ベースの化合物とは異なる特性を持っているという困難も含まれ、これは、原材料から作られた製品に反映され、たとえば、石油ベースの出発材料から製造された製品とは異なる化学的または物理的特性を持つ可能性がある。したがって、抽出および処理チェーンを原材料に適合させる必要があるだけでなく、石油ベースの原材料と再生可能資源の原材料の違いを許容するために、いくつかの製造方法も適合させる必要がある。
【0003】
再生可能な供給源から入手でき、化学産業での使用に有望な特性を示す1つの原料は、ベツリンである。
(3β)-ルパ-20(29)-エン-3,28-ジオールとしても知られるベツリンは、五環トリテルペンの1つであり、C30ボディを持ち、その基本構造は炭化水素環に基づいている。4つの6員環と1つの5員環で構成されるベツリンの構造のため、ルパンのトリテルペングループに属している。五環トリテルペンは植物界では非常に一般的である。たとえば、カバノキのコルクと樹皮には、40%もの五環トリテルペンが含まれており、白樺のコルクの乾燥質量の最大34%がベツリンで構成されている。白樺のコルクの他に、ベツリンは、たとえば白灰の根と葉、およびアメリカの山の灰(アメリカナナカマド)の樹皮に少量含まれている。皮膚創傷の治療におけるその医学的使用に加えて、ベツリンの生物学的重要性はその抗炎症特性に見られ、この化合物がマラリア、腫瘍、HIVの治療に使用できることが期待されている。ベツリンのさらなる利点は、ベツリンが製紙の副産物として蓄積すること、およびこの方法で持続可能性への別の貢献をできるという事実にある。
【0004】
これまで、ベツリンの工業的使用は溶解度が低いために妨げられ、その結果、塩素化化合物や環境に有害な溶媒の使用など、過酷な条件下でのみ反応が可能であった。
【0005】
WO 2006/053936は、フリーラジカル反応によって架橋され得る生分解性または実質的に再生可能な原材料に基づいてポリマーを製造する方法を記載しており、ベツリンが可能なジオール成分として言及されている。
【0006】
V.エラとヤスケライネンは、1981年1月のジャーナルオブアメリカオイルケミスト協会(JAOCS)(20~23ページ)で、酸塩化物経路を介したベツリンの脂肪酸エステル製造の合成経路を説明している。
【0007】
ロシア応用化学ジャーナル、Vol. 78、No. 7、2005、pages 1162-1165において、VE ネミロフらは、ベツリンとアジピン酸との重縮合の速度論的研究について説明し、特に、ベツリンの第一級および第二級ヒドロキシル基とそのイソプロペニル基の異なる挙動が強調されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第2006/053936号
【非特許文献】
【0009】
【文献】V. Era and Jaaskelainen, Journal of the American Oil Chemists‘ Society (JAOCS), January 1981 (pages 20 through 23)
【文献】V.E. Nemilov et al., Russian Journal of Applied Chemistry, Vol. 78, No. 7, 2005, pages 1162-1165
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、工業用途において石油ベースの原材料の代替としてベツリンを使用するための簡単で複雑でない方法が必要であった。この点で特に興味深い化学化合物クラスはポリエステルであり、これは化学業界で広く採用されている。特に、従来の石油ベースの資源から製造された製品の特性に匹敵する特性を持つ製品をもたらす再生可能な資源からポリエステルを製造することの困難性がここで生じ、特に、幅広い温度範囲で使用できる非晶質ポリエステルの製造の間に、まだ満足のいく結果を達成することはまだ不可能であった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
したがって、本発明が取り組む課題は、従来のポリエステルの特性に匹敵する特性を示す再生可能な原材料に基づいてポリエステルを提供することであった。さらに、本発明によって対処される課題は、再生可能な資源に基づくこのタイプのポリエステルへの容易かつ効率的なアクセスを提供し、塩素化化合物などの危険な試薬またはテトラヒドロフランまたはピリジンなどの溶媒を優先的に除外する方法を提供することであった。
【0012】
驚くべきことに、この課題は、本発明によるポリエステルおよびそれを製造するための本発明による方法によって解決されることが見出された。
【0013】
したがって、本発明の第1の主題は、-50℃~80℃のガラス転移温度Tgを有する、ベツリンに基づく非晶質ポリエステルである。示されている範囲のガラス転移温度を持つポリエステルは、室温で液体から固体の物理状態となり得る。
【0014】
この場合に、ガラス転移温度は動的示差熱量測定(示差走査熱量測定、DSC)によって決定した。
【0015】
驚くべきことに、本発明によるポリエステルは、広い温度範囲にわたって使用できることが見出された。さらに、驚くべきことに、本発明によるベツリンベースのポリエステルを用いて、室温で液体または固体であり、したがってさらに無臭であり、実質的に芳香族成分を含まず、生分解性および再生可能であり、さらなる加工処理に応じて、機械的に柔軟なポリマーを提供する従来の非晶質ポリエステルの典型的な特性をシミュレートできるカスタマイズされた成分を製造できることが発見された。
【0016】
1つの好ましい実施形態において、本発明によるポリエステルは、DSCによって決定される、-40℃~70℃のガラス転移温度Tgを有する。
【0017】
本発明によるポリエステルは、再生可能な原材料から製造されるという点で際立っている。このため、本発明によるポリエステル中のベツリン構造単位の割合は、好ましくは6~65モル%、特に好ましくは10~50モル%である。驚くべきことに、特に芳香族ポリエステルの特性をこの方法でシミュレートできることが判明したが、このポリエステルは、食品技術の分野など、後の用途に支障をきたす移行可能な不純物を含まない。
【0018】
酸価が50 mg KOH/g/g未満のポリエステルは、さらなる加工処理および他の化合物との反応に関して理想的であることが証明されている。したがって、本発明によるポリエステルが、それぞれの場合において、反応混合物の1グラムあたり、50mg KOH/g未満、好ましくは10mg KOH/g未満、特に好ましくは5mg KOH/g未満の酸価を有する実施形態が好ましい。特に好ましい実施形態では、本発明によるポリエステルは、反応混合物1グラムあたり0.1~3mg KOH/gの酸価を有する。驚くべきことに、クレームされた範囲の酸価を有するポリエステルは、他の単官能性および多官能性化合物との良好な相溶性を示すことが実証された。
【0019】
本発明によれば、酸価は、実験によって決定されるべき測定された変数であり、それぞれ定義された参照量における遊離酸基の数の尺度である。酸価は、秤量された参照量のサンプルを溶媒混合物に溶解し、0.05 mol/l KOHのメタノールで電位差滴定することによって決定できる。酸価は、電位差滴定曲線の反転点での参照量1グラムあたりのKOH添加量に対応する。
【0020】
本発明によれば、ヒドロキシル価(OH価)は、それぞれ定義された参照量における遊離ヒドロキシル基の数の尺度と見なされる。本発明によるポリエステルは、それぞれの場合において、反応混合物のグラムあたり10~220mg KOH/g、特に好ましくは20~150mg KOH/gのOH価を有することが好ましい。驚くべきことに、本発明によるポリエステルは、OH価が示された範囲にある場合にポリエステルの効率的な加工を可能にする有利な粘度を示すことが見出された。同様に、OH価は電位差滴定または酸-塩基滴定を使用した実験によって決定できる。
【0021】
好ましい一実施形態では、本発明によるポリエステルは、アミノ基をさらに含み、それらは好ましくは一級または二級アミノ基である。好ましくは、本発明によるポリエステルのアミン価は、1~20mg KOH/g、特に好ましくは5~10mg KOH/gである。アミン価は、OH価と同様に滴定によって決定でき、同様に、それぞれ定義された参照量の遊離アミノ基の数の指標と見なされる。
【0022】
特に好ましい実施形態では、OH価とアミン価の合計は、10~220mg KOH/g、特に好ましくは20~150mg KOH/gである。
【0023】
本発明によるポリエステルは、特にその持続可能性によって区別される。このため、ベツリンが再生可能な原材料から得られる実施形態が好ましい。ベツリンを単離できる再生可能な供給源は、例えば、コルクおよび樹皮である。
【0024】
本発明によるポリエステルは、ベツリンと、ジカルボン酸、短鎖ポリオール、アミン、植物油およびそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1つの化合物との反応生成物であることが好ましい。
【0025】
ジカルボン酸は、4~24個の炭素原子を有する脂肪族ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、ダイマー酸およびそれらの混合物からなる群から選択されることが好ましい。
【0026】
コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン酸、トリデカン二酸およびそれらの混合物からなる群から選択される適切な脂肪族ジカルボン酸が特に好ましい。
【0027】
適切な芳香族ジカルボン酸は、好ましくは、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、フランジカルボン酸、それらの無水物およびメチルエステル、ならびにそれらの混合物からなる群から選択される。
【0028】
1つの好ましい実施形態では、1つまたは複数のダイマー酸は、一般式CnH2n1COOHの脂肪酸のダイマーであり、ここで、nは、4~33、好ましくは7~17の整数である。ダイマー酸に加えて、それらの誘導体も使用されることが好ましく、これは、例えば、対応するダイマー酸を水和または蒸留することによって得ることができる。また好ましくは、脂肪酸は、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、これらの脂肪酸の誘導体およびそれらの混合物からなる群から選択される。
【0029】
短鎖ポリオールは、好ましくは、2~8個、好ましくは3~6個の炭素原子を有するジオールである。適切な短鎖ポリオールは、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,4-ペンタンジオール、グリセロールおよびそれらの混合物からなる群から選択されることが好ましい。本発明によるポリエステルポリオールは、その高含量の再生可能な原料、したがって、短鎖ポリオール、または、特に好ましい実施形態では、再生可能な原料から製造されることによって区別される。
【0030】
好ましい一実施形態では、アミンはジアミンであり、好ましくは、エチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、オクタメチレンジアミンおよびデカメチレンジアミンピペラジン、Jeffamine(登録商標)(ポリエーテルアミン)およびそれらの混合物からなる群から選択される。
【0031】
本発明によれば、ベツリンとの反応に適した植物油は、大豆油、亜麻仁油、ヒマワリ油、菜種油、アザミ油、魚油、ヒマシ油、トール油、ココナッツ油、パーム油、オリーブ油およびそれらの混合物からなる群から選択される。
【0032】
本発明によるポリエステルは、それぞれの場合において、ポリエステルの総重量に基づいて、好ましくは、80~100重量%、好ましくは90~99重量%の割合の再生可能な原材料を含む。したがって、ベツリンおよび/またはジカルボン酸、短鎖ポリオール、アミン、植物油およびそれらの混合物からなる群から選択される化合物が、再生可能な原材料から製造される実施形態が特に好ましい。
【0033】
本発明の別の主題は、以下の工程を含む、本発明によるポリエステルを製造する方法である。
(a) ベツリンと、ジカルボン酸、短鎖ポリオール、アミン、植物油およびそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1つの化合物とを含む混合物を提供する工程;
(b) 工程a)からの混合物を加熱し、ポリエステルを得る工程。
【0034】
驚くべきことに、本発明による方法により、塩素化化合物または溶媒などの危険な試薬を使用する必要なしに、ベツリンに基づくポリエステルの製造が可能となることが見出された。
【0035】
好ましい一実施形態では、混合物は工程b)において、200~250℃、好ましくは205~240℃の温度に加熱される。
【0036】
驚くべきことに、ベツリンと、ジカルボン酸、短鎖ポリオール、アミン、植物油およびそれらの混合物からなる群から選択される化合物との反応は、化合物を反応媒体として使用すると効率的に進行することがわかった。したがって、ベツリンと、ジカルボン酸、短鎖ポリオール、アミン、植物油およびそれらの混合物からなる群から選択される化合物との比率は、好ましくは、ベツリンが混合物中に溶解形態で存在するように選択される。
【0037】
好ましい一実施形態では、本発明による方法の工程a)における混合物は、ベツリンおよび少なくとも1つの短鎖ポリオールを含む。好ましくは、混合物中のベツリンの割合は、混合物の総重量に基づいて、10~70重量%、好ましくは25~65重量%になる。好ましくは、混合物中のベツリンの割合は、混合物の総重量に基づいて、9~25重量%、好ましくは10~20重量%である。特に好ましい実施形態では、[0001]混合物は、混合物の総重量に基づいて、好ましくは9~60重量%、好ましくは25~45重量%の量で少なくとも1つのジカルボン酸をさらに含有する。
【0038】
別の好ましい実施形態では、本発明による方法の工程a)における混合物は、ベツリンおよび少なくともジカルボン酸、好ましくは少なくとも1つのダイマー酸を含む。好ましくは、混合物中のベツリンの割合は、この場合、混合物の総重量に基づいて、10~60重量%、好ましくは25~55重量%になる。また好ましくは、ダイマー酸の割合は、混合物の総重量に基づいて、30~75重量%、好ましくは40~60重量%である。特に好ましい実施形態では、混合物は、少なくとも1つの短鎖ポリオールを、好ましくは1~8重量%、特に好ましくは1.5~6重量%の量でさらに含有する。
【0039】
別の好ましい実施形態では、本発明による方法の工程a)における混合物は、ベツリンおよび少なくとも1つの植物油を含む。好ましくは、混合物中のベツリンの割合は、この場合、混合物の総重量に基づいて、10~40重量%、好ましくは20~35重量%になる。また好ましくは、植物油の割合は、混合物の総重量に基づいて、50~80重量%、好ましくは45~70重量%である。特に好ましい実施形態では、混合物は、少なくとも1つのジカルボン酸を、好ましくは1~40重量%、特に好ましくは5~30重量%の量でさらに含有する。
【0040】
好ましくは、混合物中のアミンの割合は、混合物の総重量に基づいて、5~25重量%、好ましくは9~25重量%、特に好ましくは10~20重量%である。
【0041】
特に好ましい実施形態では、混合物は短鎖ポリオールおよびアミンを含む。好ましくは、アミンはジアミン、特に好ましくはエチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、オクタメチレンジアミンおよびデカメチレンジアミンピペラジン、ジェファミン(登録商標)(ポリエーテルアミン)およびそれらの混合物からなる群から選択される。
【0042】
本発明による方法の好ましい実施形態では、工程a)の混合物は、混合物の総重量に基づいて、好ましくは0.01~0.05重量%、特に好ましくは0.02~0.04重量%の量で、さらに触媒を含む。
【0043】
本発明のさらなる主題は、本発明によるポリエステルの末端ヒドロキシル基上に少なくとも1つのエポキシドおよび/またはイソシアネート基を含むタイプの有機化合物を添加することにより得ることができるポリマー材料である。好ましくは、有機化合物は、少なくとも2つのエポキシドおよび/またはイソシアネート基、特に好ましくは少なくとも2つのイソシアネート基を含む。
【0044】
イソシアネート基は、本発明の意味の範囲内で、遊離およびブロックまたは保護されたイソシアネート基の両方を含むと理解される。
【0045】
驚くべきことに、本発明によるポリマー材料の特性は、所望の用途に応じて個別に調整できることがわかった。このようにして、高い機械的柔軟性と、それに伴う脆性を伴う高い強度の両方を達成できる。さらに、それは無臭であって、生分解性かつ感作性化合物を実質的に含まない。
【0046】
したがって、本発明によるポリマー材料は、食品および皮膚との直接的および間接的接触を含む用途の両方、および熱可塑性材料の成分としてよく適している。好ましくは、熱可塑性材料は接着剤および/またはシーラントである。
【0047】
本発明によるポリマー材料に関しては、トルエン-2,4-ジイソシアネート、ヘキサメチルジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,4-シクロヘキシルジイソシアネートおよびジフェニルメチルジイソシアネートによる化学修飾が好ましい。
【0048】
本発明のさらなる主題は、熱可塑性材料または接着剤および/またはシーラントの成分としての、本発明によるポリエステルおよび/または本発明によるポリマー材料の使用である。本発明によるポリエステルは、変形および押出助剤として、ならびに接着剤および/またはシーラントを物理的に結合するための融着助剤として、両方とも熱可塑性樹脂において使用できるが、本発明によるポリマー材料は、熱可塑性樹脂中および接着剤における粘着剤としての両方に適用される。なぜなら、得られる高分子材料は、低い塗布温度と高い弾性と機械的安定性を可能にし、モノマー組成によっては、必要に応じて、接着剤化合物の機械的強度を利用して、より高い脆性ならびに高い塗布温度を実現するからである。
【0049】
本発明は、以下の実施例に基づいてより詳細に記載されるものとし、ここで、これらの実施例は、決して本発明の概念の制限として理解されるべきではない。
【実施例
【0050】
一般に、本発明によるポリエステルは、個々の成分を混合し、混合物を窒素流中で220℃に加熱することにより製造できる。例示的な組成を表1に要約する。
【0051】
サンプルは、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)によって分析される。ポリスチレン標準によるキャリブレーション後のIR検出器を使用したクロマトグラフィーは、カラムオーブン温度40°Cで、検出器内の温度も同様に40℃で行った。分子量分布曲線から相対および数平均および重量平均分子量値を計算でき、それから多分散性を決定できる。
【0052】
それによって生成されたポリエステルは、示差走査熱量測定によって測定され、ここで、サンプルは最初に150℃に加熱し、次に毎分10ケルビンの冷却速度で-90℃にした。-90°Cで10分後、サンプルを毎分10ケルビンの加熱速度で150°Cにし、DSCダイアグラムを記録した。サンプルのガラス転移温度は、DSCダイアグラムを使用して決定した。
【0053】
【表1】

本明細書の好ましい態様は、少なくとも下記を包含する。
[1]DSCにより測定されるガラス転移温度Tgが-50℃~80℃の範囲であることを特徴とする、ベツリンに基づく非晶質ポリエステル。
[2]ポリエステル中のベツリン構造単位の割合は6~65モル%、好ましくは10~50モル%であることを特徴とする、[1]に記載のポリエステル。
[3]前記ベツリンは再生可能な原材料から得られることを特徴とする、[1]~[2]のいずれかに記載のポリエステル。
[4]ベツリンと、ジカルボン酸、短鎖ポリオール、アミン、植物油およびそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1つの化合物との反応生成物であることを特徴とする、[1]~[3]のいずれかに記載のポリエステル。
[5]前記ジカルボン酸は、4~24個の炭素原子を有する脂肪族ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸およびダイマー酸からなる群から選択されることを特徴とする、[4]に記載のポリエステル。
[6]前記ダイマー酸は、一般式CnH2n+1COOHの脂肪酸および/またはその誘導体のダイマー[式中、nは、7~33、好ましくは9~17の整数である]であることを特徴とする、[5]に記載のポリエステル。
[7]前記短鎖ポリオールは、2~8個の炭素原子、好ましくは3~6個の炭素原子を含むことを特徴とする、[4]に記載のポリエステル。
[8]前記植物油は、大豆油、亜麻仁油、ヒマワリ油、菜種油、アザミ油、魚油、ヒマシ油、トール油、ココナッツ油、パーム油、オリーブオイルおよびそれらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする、[4]に記載のポリエステル。
[9]ポリエステルの総重量に基づいて、それぞれの場合に、80~100重量%、好ましくは90~99重量%の割合の再生可能な原材料を含むことを特徴とする、[1]~[8]のいずれかに記載のポリエステル。
[10]以下の工程を含む、[1]~[9]のいずれかに記載のポリマーの製造方法:
a)ベツリンと、ジカルボン酸、短鎖ポリオール、アミン、植物油および混合物からなる群から選択される少なくとも1つの化合物とを含む混合物を提供する工程;
b)工程a)からの前記混合物を加熱し、前記ポリエステルポリオールを得る工程。
[11]工程b)における混合物は、200~250℃、好ましくは205~240℃の温度に加熱されることを特徴とする、[10]に記載の方法。
[12]ジカルボン酸、短鎖ポリオール、アミン、植物油およびそれらの混合物からなる群から選択される化合物中のベツリンは可溶性であることを特徴とする、[10]および[11]のいずれかに記載の方法。
[13]工程a)における前記混合物は、混合物の総重量に基づいて、好ましくは0.01~0.05重量%、特に好ましくは0.02~0.04重量%の量で触媒をさらに含むことを特徴とする、[10]~[12]のいずれかに記載の方法。
[14][1]~[9]のいずれかに記載のポリエステルの末端ヒドロキシル基上に、少なくとも1つのエポキシドおよび/またはイソシアネート基、好ましくはこれらの基の少なくとも2つ、特に好ましくは少なくとも2つのイソシアネート基を含むタイプの有機化合物を添加することにより得られるポリマー材料。
[15]熱可塑性材料または接着剤および/またはシーラントの成分としての、[1]~[9]のいずれかに記載のポリエステルまたは[14]に記載のポリマー材料の使用。