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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-26
(45)【発行日】2023-01-10
(54)【発明の名称】フィルター用湿式不織布
(51)【国際特許分類】
   B01D 39/16 20060101AFI20221227BHJP
   D21H 13/16 20060101ALI20221227BHJP
   D04H 1/435 20120101ALI20221227BHJP
   D04H 1/4309 20120101ALI20221227BHJP
【FI】
B01D39/16 A
D21H13/16
D04H1/435
D04H1/4309
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018068385
(22)【出願日】2018-03-30
(65)【公開番号】P2019177349
(43)【公開日】2019-10-17
【審査請求日】2021-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】高見 健人
【審査官】中村 泰三
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-059859(JP,A)
【文献】特開2009-242973(JP,A)
【文献】特開2012-218284(JP,A)
【文献】国際公開第2009/139194(WO,A1)
【文献】特開平06-340043(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 39/14-16
D04H 1/00-76
D21H 13/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビニロン、ポリエステル、及びポリビニルアルコールから成る繊維から構成された不織布であり、
通気の上流側に配置される面の表面粗さ(カトーテック製摩擦感テスター(KES-SE)による評価において、表面の凹凸データの平均偏差を示すSMD)が2.7μm以下であり、
前記繊維はポリアクリル酸エステルを0.001~0.1重量%含有しており、
前記繊維の平均繊維径1~100μmであり、
目付10~100g/m 、厚み0.1~3.0mmである、ことを特徴とするフィルター用湿式不織布。
【請求項2】
通気の上流側に配置される面の平均摩擦係数(MIU)が0.15以下であることを特
徴とする請求項1に記載のフィルター用湿式不織布。
【請求項3】
前記繊維は前記ポリビニルアルコールを10~20重量%含有していることを特徴とする請求項1または2に記載のフィルター用湿式不織布。
【請求項4】
前記繊維は繊維長30mm以下であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のフィルター用湿式不織布。
【請求項5】
請求項1~のいずれか1項に記載のフィルター用湿式不織布を用いたフィルター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、付着した異物の除去に優れたフィルター用湿式不織布に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、空調用、エアコン用、自動車用フィルター等の分野において、濾材の高性能化、多様化の要請が急激に高まっている。使用によりフィルターに付着した異物は容易には除去できないため、フィルターの再利用は難しい状況にある。フィルターの再利用に関しては、例えば吸引ノズルを用いた粉塵除去方法がある(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-136475号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、吸引ノズルを使用して異物を除去すると、フィルターが変形し、性能が十分に回復しないといった問題がある。
【0005】
そこで本発明は、上記課題に鑑みなされ、その目的は、付着した異物を容易に除去でき、再利用可能なフィルター用湿式不織布を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討した結果、以下に示す手段により、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。すなわち本発明は以下の通りである。
(1)ビニロン、ポリエステル、及びポリビニルアルコールから構成され、通気の上流側に配置される面の表面粗さ(SMD)が2.7μm以下であるフィルター用湿式不織布。
(2)通気の上流側に配置される面の平均摩擦係数(MIU)が0.15以下である(1)に記載のフィルター用湿式不織布。
(3)前記ポリビニルアルコールを10~20重量%含有している(1)または(2)に記載のフィルター用湿式不織布。
(4)繊維長30mm以下の繊維から成ることを特徴とする(1)~(3)のいずれか1つに記載のフィルター用湿式不織布。
(5)ポリアクリル酸エステルを0.001~0.1重量%含有している(1)~(4)のいずれか1つに記載のフィルター用湿式不織布。
(6)(1)~(5)のいずれか1つに記載のフィルター用湿式不織布を用いたフィルター。
【発明の効果】
【0007】
本発明のフィルター用湿式不織布は、通気の上流側に配置される面が平坦であるため、簡易に異物を除去できる。そのため、本発明のフィルター用湿式不織布を用いたフィルターの清掃を容易にすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本実施形態の湿式不織布は、ビニロン、ポリエステル、及びポリビニルアルコールから構成され、前記ポリビニルアルコールを10~20重量%含有しており、通気の上流側に配置される面の表面粗さ(SMD)が2.7μm以下であり、フィルターに用いられる。
【0009】
本明細書において表面粗さとは、カトーテック製摩擦感テスター(KES-SE)による評価において、表面の凹凸データの平均偏差を示すSMDの値である。SMDの値が大きくなるに従い、表面が粗く、凹凸性を有していることを示す。
【0010】
本実施形態の湿式不織布は、通気の上流側に配置される面の表面粗さ(SMD)が2.7μm以下である。2.7μmよりも大きいと、付着した異物が表面の凹凸性により除去し難い。
【0011】
本明細書において平均摩擦係数とは、カトーテック製摩擦感テスター(KES-SE)による評価において測定される表面の滑り度合いの平均摩擦係数(MIU)の値である。MIUの値が小さくなるに従い、表面が滑り易いことを示す。
【0012】
本実施形態の湿式不織布は、通気の上流側に配置される面の平均摩擦係数を示すMIUが0.15である。0.15よりも大きいと、付着した異物が表面の摩擦により除去し難い。
【0013】
本実施形態の湿式不織布を構成する繊維の平均繊維径は、1~100μmが好ましく、5~50μmがより好ましい。構成繊維の平均繊維径が1μmよりも小さいと、繊維間の空隙も狭くなり、空気中の塵埃がカバー層上に堆積し、通気抵抗が急上昇する。構成繊維の平均繊維径が100μmよりも大きいと、異物を除去し難くなる。
【0014】
本実施形態の濾材の不織布Bを構成する繊維の繊維長は30mm以下が好ましい。繊維長が30mmよりも大きいと、繊維が厚み方向に配向しやすくなり、表面粗さが大きくなる。
【0015】
本実施形態の湿式不織布は、厚みが0.1~3.0mmであることが好ましい。厚みが0.1mmよりも小さいと地合いの問題が生じる。厚みが3.0mmよりも大きいとフィルター全体の厚みが大き過ぎ、フィルターをプリーツ状にした場合に構造抵抗が大きくなり、結果としてフィルター全体での通気抵抗が高くなり過ぎ、実用上問題がある。
【0016】
本実施形態の湿式不織布は、目付量が10~100g/mであることが好ましく、20~80g/mがより好ましい。目付が10g/m未満であれば地合いが悪くなる。目付が100g/mを越えると、厚みが大きくなり、フィルターに用いる際にプリーツ加工時の構造抵抗が大きくなる。
【0017】
本実施形態の湿式不織布を構成する繊維構造体の素材は、ビニロン、ポリエステル、及びポリビニルアルコールから構成されている。ここで、ポリビニルアルコールを10~20重量%含有しているのが好ましい。10%未満であると、湿式不織布の腰強度が弱く、更には表面平滑性が得られにくい。20重量%よりも多いと、通気抵抗が上がってしまう。
【0018】
本実施形態の湿式不織布は、ポリアクリル酸エステルは0.001~0.1重量%含有していることが好ましい。0.001%未満であると、表面平滑性及び表面滑り性が向上せず、0.1重量%よりも多くなると、通気抵抗が上がってしまう。
【0019】
本実施形態の湿式不織布は、公知の湿式抄紙法により公知の抄紙機で製造することが可能である。
【実施例
【0020】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例に記載されたものに限定されない。まず、実施例および比較例で用いた湿式不織布の物性の測定方法について説明する。
【0021】
[表面凹凸性]
評価はカトーテック製、摩擦感テスター(KES-SE)にて評価を行う。テーブルに固定した試料(不織布)を1mm/sの速度で、10gfの荷重をかけながら、接触子を掃引させ、検出された表面凹凸データの平均偏差を表面粗さ(SMD)の値とする。
【0022】
[平均摩擦係数]
評価はカトーテック製、摩擦感テスター(KES-SE)にて評価を行う。テーブルに固定した試料を1mm/sの速度で、25gfの荷重をかけながら、接触子を掃引させ、検出された平均摩擦係数(MIU)を算出する。
【0023】
[異物除去性]
15cm角のサイズに試料を切り取り、JIS15種粉塵を5m/minにて負荷させ、通気抵抗がベースよりも50Paアップした時点で負荷を止める。試料に捕集された粉塵量を重量にて評価する。そして15cm角の試料を机上に対して垂直に治具に設置し、高さ10cmのところから10回落とす。最後に試料の重量を測り、試料から落ちた重量を確認する。試料から落ちた重量が付着量の7割であれば、異物除去性能は良好である(○)との判定とする。
【0024】
参考例1〕
ビニロン繊維(17dtex、平均繊維長12mm、平均繊維径40μm)、ビニロン繊維(7dtex、平均繊維長10mm、平均繊維径25μm)、ビニロン繊維(2.2dtex、平均繊維長6mm、平均繊維径15μm)ポリエステル繊維(0.6dtex、平均繊維長5mm、平均繊維径8μm)、ポリエステル繊維(2.2dtex、平均繊維長5mm、平均繊維径15μm)、PVA繊維(1.1dtex、平均繊維長3mm、平均繊維径10μm)を、26:31.25:5.25:11.25:11.25:15の重量比で混繊し、パルパーで水中に分散させ、湿式抄紙用原液を調整した。
この湿式抄紙用原液を短網式抄紙法にて抄紙して湿潤ウェッブをつくり、その後プレスローラーで軽く絞り140℃で回転乾燥ドラムにて乾燥し、目付40g/m2、厚み0.3mmの実施例1の湿式不織布を得た。
【0025】
〔実施例2〕
ビニロン繊維(7dtex、平均繊維長10mm、平均繊維径25μm)、ビニロン繊維(2.2dtex、平均繊維長6mm、平均繊維径15μm)、ポリエステル繊維(0.6dtex、平均繊維長5mm、平均繊維径8μm)、ポリエステル繊維(2.2dtex、平均繊維長5mm、平均繊維径15μm)、PVA繊維(1.1dtex、平均繊維長3mm、平均繊維径10μm)を、51:7.6:16.2:16.2:9の重量比で混繊し、更にポリアクリル酸エステルを投入した繊維重量に対して0.05%となるように測り、パルパーで水中に分散させ、湿式抄紙用原液を調整した。
この湿式抄紙用原液を短網式抄紙法にて抄紙して湿潤ウェッブをつくり、その後プレスローラーで軽く絞り140℃で回転乾燥ドラムにて乾燥し、目付30g/m、厚み0.2mmの実施例2の湿式不織布を得た。
【0026】
〔実施例3〕
ビニロン繊維(7dtex、平均繊維長10mm、平均繊維径25μm)、ビニロン繊維(2.2dtex、平均繊維長6mm、平均繊維径15μm)ポリエステル繊維(0.6dtex、平均繊維長5mm、平均繊維径8μm)、ポリエステル繊維(2.2dtex、平均繊維長5mm、平均繊維径15μm)、PVA繊維(1.1dtex、平均繊維長3mm、平均繊維径10μm)を、45:7.6:16.2:16.2:15の重量比で混繊し、更にポリアクリル酸エステルを投入した繊維重量に対して0.05%となるように測り、パルパーで水中に分散させ、湿式抄紙用原液を調整した。
この湿式抄紙用原液を短網式抄紙法にて抄紙して湿潤ウェッブをつくり、その後プレスローラーで軽く絞り140℃で回転乾燥ドラムにて乾燥し、目付30g/m、厚み0.2mmの実施例3の湿式不織布を得た。
【0027】
参考例2
ビニロン繊維(7dtex、平均繊維長10mm、平均繊維径25μm)、ビニロン繊維(2.2dtex、平均繊維長6mm、平均繊維径15μm)ポリエステル繊維(0.6dtex、平均繊維長5mm、平均繊維径8μm)、ポリエステル繊維(2.2dtex、平均繊維長5mm、平均繊維径15μm)、PVA繊維(1.1dtex、平均繊維長3mm、平均繊維径10μm)を、39:7.6:16.2:16.2:21の重量比で混繊し、パルパーで水中に分散させ、湿式抄紙用原液を調整した。
この抄紙用原液を短網式抄紙法にて抄紙して湿潤ウェッブをつくり、その後プレスローラーで軽く絞り140℃で回転乾燥ドラムにて乾燥し、目付30g/m2、厚み0.2mmの実施例4の湿式不織布を得た。
【0028】
〔実施例5〕
ビニロン繊維(7dtex、平均繊維長10mm、平均繊維径25μm)、ビニロン繊維(2.2dtex、平均繊維長6mm、平均繊維径15μm)ポリエステル繊維(0.6dtex、平均繊維長5mm、平均繊維径8μm)、ポリエステル繊維(2.2dtex、平均繊維長5mm、平均繊維径15μm)、PVA繊維(1.1dtex、平均繊維長3mm、平均繊維径10μm)を、45:7.6:16.2:16.2:15の重量比で混繊し、更にポリアクリル酸エステルを投入した繊維重量に対して0.15%となるように測り、パルパーで水中に分散させ、湿式抄紙用原液を調整した。
この湿式抄紙用原液を短網式抄紙法にて抄紙して湿潤ウェッブをつくり、その後プレスローラーで軽く絞り140℃で回転乾燥ドラムにて乾燥し、目付30g/m、厚み0.2mmの実施例5の湿式不織布を得た。
【0029】
〔比較例1〕
低融点ポリエステル繊維(22dtex、平均繊維長64mm、平均繊維径45μm)、低融点ポリエステル繊維(4.4dtex、平均繊維長51mm、平均繊維径20μm)、レギュラーポリエステル繊維(17dtex、平均繊維長51mm、平均繊維径40μm)を、重量比5:3:2で混繊し、サーマルボンド法により、厚み0.2mm、目付65g/m、の比較例1のサーマルボンド不織布を得た。
【0030】
〔比較例2〕
ビニロン繊維(7dtex、平均繊維長10mm、平均繊維径25μm)、ビニロン繊維(2.2dtex、平均繊維長6mm、平均繊維径15μm)ポリエステル繊維(0.6dtex、平均繊維長5mm、平均繊維径8μm)、ポリエステル繊維(2.2dtex、平均繊維長5mm、平均繊維径15μm)、PVA繊維(1.1dtex、平均繊維長3mm、平均繊維径10μm)を、51:7.6:16.2:16.2:9の重量比で混繊し、パルパーで水中に分散させ、湿式抄紙用原液を調整した。
この湿式抄紙用原液を短網式抄紙法にて抄紙して湿潤ウェッブをつくり、その後プレスローラーで軽く絞り140℃で回転乾燥ドラムにて乾燥し、目付30g/m、厚み0.2mmの比較例2の湿式不織布を得た。
【0031】
〔比較例3〕
ビニロン繊維(7dtex、平均繊維長10mm、平均繊維径25μm)、ビニロン繊維(2.2dtex、平均繊維長6mm、平均繊維径15μm)ポリエステル繊維(0.6dtex、平均繊維長5mm、平均繊維径8μm)、ポリエステル繊維(2.2dtex、平均繊維長5mm、平均繊維径15μm)、PVA繊維(1.1dtex、平均繊維長3mm、平均繊維径10μm)を、45:7.6:16.2:16.2:15の重量比で混繊し、更にポリアクリル酸エステルを投入した繊維重量に対して0.0009%となるように測り、パルパーで水中に分散させ、湿式抄紙用原液を調整した。
この湿式抄紙用原液を短網式抄紙法にて抄紙して湿潤ウェッブをつくり、その後プレスローラーで軽く絞り140℃で回転乾燥ドラムにて乾燥し、目付30g/m、厚み0.2mmの比較例3の湿式不織布を得た。
【0032】
表1に実施例及び比較例の湿式不織布の評価を示す。
【0033】
【表1】
【0034】
表1から、通気の上流に配置される面の表面粗さ(SMD)が2.7μm以下である湿式不織布を用いることで、異物の除去性能に優れることが分かる。つまり、本発明のフィルター用湿式不織布を用いたフィルターの清掃を容易にすることができる。
【0035】
なお、上記開示した実施の形態および各実施例はすべて例示であり制限的なものではない。また、実施の形態および各実施例で開示した構成を適宜組み合わせた実施の形態や実施例も本発明に含まれる。つまり、本発明の技術的範囲は、特許請求の範囲によって有効であり、特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内のすべての変更・修正・置き換え等を含むものである。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明のフィルター用不織布は、フィルターを清掃する際の異物除去に対して優れており、空調用フィルター、エアコン用フィルター、自動車用フィルター等のフィルター全般に有効に利用できる。