(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-26
(45)【発行日】2023-01-10
(54)【発明の名称】重合トナーの製造方法
(51)【国際特許分類】
G03G 9/08 20060101AFI20221227BHJP
【FI】
G03G9/08 384
(21)【出願番号】P 2019067819
(22)【出願日】2019-03-29
【審査請求日】2021-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】津村 了
【審査官】中山 千尋
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-073273(JP,A)
【文献】特開2012-068561(JP,A)
【文献】特開2007-052039(JP,A)
【文献】特開2002-062687(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 9/00-9/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも重合性単量体及び着色剤を含有し、重合開始剤を含有しない重合性単量体組成物を、水系媒体中で造粒することにより、モノマー液滴が水系媒体中に分散した懸濁液を調製する工程、
前記懸濁液中に重合開始剤を添加する工程、及び、
重合開始剤を添加した懸濁液を重合反応に供することにより着色樹脂粒子を形成する工程を含む重合トナーの製造方法であって、
前記懸濁液中に10時間半減期温度が70℃以上95℃以下の重合開始剤を添加し、重合開始剤添加時の懸濁液の温度T(℃)を35℃≦T
≦50℃の範囲に維持し、
重合開始剤を添加する所要時間を301秒以上、3600秒以下とし、重合開始剤添加終了後に懸濁液の温度を昇温して重合反応を行うことを特徴とする重合トナーの製造方法。
【請求項2】
前記重合開始剤として、温度が25℃の水に対する最大溶解割合が0.03質量%以上である重合開始剤を用いる請求項1に記載の重合トナーの製造方法。
【請求項3】
前記重合開始剤の分子量が205以下である請求項1又は2に記載の重合トナーの製造方法。
【請求項4】
前記重合開始剤は、t-ブチルパーオキシジエチルアセテートである請求項3に記載の重合トナーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電子写真法、静電記録法等によって形成される静電荷像を現像するためのトナーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真法は、感光体に形成された静電荷像を、着色粒子(トナー粒子)と外添剤とからなるトナー(現像剤)により現像して可視像とし、必要に応じて紙又はOHP等の転写材にトナー画像を転写した後、転写材上にトナー画像を定着して複写物又は印刷物を得る方法である。
トナーの製造方法は、粉砕法と重合法に大別される。このうち重合法には、乳化重合法、懸濁重合法などがあり、水性分散媒中で重合性単量体を重合することによって、直接樹脂粒子を得、必要に応じて会合させることにより、トナーを得る方法である。
【0003】
従来、懸濁重合法によりトナーを製造する場合、一段階で目標のトナー粒径とするために、重合性単量体、着色剤や離型剤等を含有する重合性単量体組成物を、分散安定剤を含有する水性分散媒中に添加した後、高速回転する攪拌装置を用いて、重合性単量体組成物の液滴(モノマー液滴)がトナー粒径と同じ程度になるまで攪拌して分散液を得、次いで得られた分散液を反応器に移送し、分散液の温度を昇温することによって重合を行っている。
通常、重合を行うために重合開始剤を添加することが一般的に行われているが、得られるトナー粒子の特性を一定にするには、重合する前の分散液中に含まれているどのモノマー液滴にも重合開始剤が均一に添加されていることが好ましい。従って従来、重合開始剤を重合性単量体組成物と水性分散媒体の混合物中に含有させてからモノマー液滴を形成することが行われていた。しかしながら、重合性単量体組成物と水性分散媒体の混合物中に重合開始剤を含有させて高速で攪拌を行うと、攪拌エネルギーにより分散液の温度が上昇して、モノマー液滴を形成するための攪拌装置内で重合反応が起こることがあった。本来であれば、得られた分散液を反応器に移送し、制御された反応条件下で重合を行わなければならないところ、モノマー液滴の形成中に重合反応が起こってしまうと、トナー粒子の特性を一定にすることが難しくなる。
このため、この高速回転する攪拌装置を低温で制御できるように温度管理を厳密に行う必要があった。低温で制御するためには、その設備を設置する為の費用が必要となる、或いは、重合資材として使用する離型剤の選択の幅が狭くなる等の問題があった。
【0004】
特許文献1には、重合性単量体及び着色剤を含有し、重合開始剤を含有しない重合性単量体組成物を、分散安定剤を含有する水性分散媒中に添加して分散液(A)を得、別途重合開始剤を、分散安定剤を含有する水性分散媒中に添加して分散液(B)を得、分散液(A)と分散液(B)を混合し、次いで昇温して重合するトナーの製造方法が開示されている。
また特許文献2には、少なくとも重合性単量体及び着色剤を含有しており、重合開始剤を含有していない重合性単量体組成物を調製し、該重合性単量体組成物を水系媒体に投入して造粒し、造粒終了後に水系媒体中に重合開始剤を添加し、造粒された該重合性単量体組成物を重合してトナー粒子の製造を行う重合トナーの製造方法であって、該重合開始剤を5乃至300秒間かけて水系媒体中に添加し、かつ該重合開始剤の添加に要する時間T(秒)と、反応に使用する撹拌翼の単位時間あたりのパス回数N(回/秒)が、5≦T×N≦2500の関係を満たすことを特徴とする重合トナーの製造方法が開示されている。
上記特許文献1及び2の方法は、重合開始剤を含有しない重合性単量体組成物を水性分散媒中に添加して造粒を行うことにより、重合開始剤を含有しないモノマー液滴を含む分散液を調製し、当該分散液に重合開始剤を添加してから重合を行うため、モノマー液滴の形成中に重合反応が起こってしまうことを回避できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-134821号公報
【文献】特開2002-62687号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、重合開始剤を含有しないモノマー液滴を含む分散液を調製し、当該分散液に重合開始剤を添加する場合でも、造粒時の強攪拌により分散液の温度が上昇しているため、分散液に重合開始剤を添加している間に重合反応が起こることがあった。本来であれば、得られた分散液を反応器に移送し、制御された反応条件下で重合を行わなければならないところ、モノマー液滴内に重合開始剤を取り込ませている間に重合反応が起こってしまうと、トナー粒子の特性がばらつきやすい。
本開示の課題は、重合開始剤を含有しないモノマー液滴を含む分散液に重合開始剤を添加している間にモノマー液滴の重合反応が進行することを防止し、得られるトナー粒子の特性を一定にすることができる重合トナーの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、重合材料の混合物系に重合開始剤を添加するタイミングを、造粒工程後、重合工程前とし、さらに、重合開始剤を含有しないモノマー液滴を含む分散液の温度T(℃)を35℃≦T<60℃の範囲に維持しながら当該分散液に重合開始剤を添加する場合には、重合開始剤を添加している途中、又は、反応器内で制御しながら重合反応を行う前の段階で、モノマー液滴の重合反応が進行しにくくなることに着目した。
【0008】
本開示によれば、少なくとも重合性単量体及び着色剤を含有し、重合開始剤を含有しない重合性単量体組成物を、水系媒体中で造粒することにより、モノマー液滴が水系媒体中に分散した懸濁液を調製する工程、
前記懸濁液中に重合開始剤を添加する工程、及び、
重合開始剤を添加した懸濁液を重合反応に供することにより着色樹脂粒子を形成する工程を含む重合トナーの製造方法であって、
重合開始剤添加時の懸濁液の温度T(℃)を35℃≦T<60℃の範囲に維持し、重合開始剤添加終了後に懸濁液の温度を昇温して重合反応を行うことを特徴とする重合トナーの製造方法が提供される。
【0009】
本開示の上記製造方法においては、温度が25℃の水に対する最大溶解割合が0.03質量%以上である重合開始剤を用いることが好ましい。
本開示の上記製造方法においては、前記重合開始剤として、分子量が205以下である重合開始剤を用いることが好ましい。
本開示の上記製造方法においては、前記重合開始剤として、t-ブチルパーオキシジエチルアセテートを用いることが、さらに好ましい。
本開示の上記製造方法においては、前記懸濁液中に重合開始剤を添加する所要時間を、301秒以上、3600秒以下とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
上記の如き本開示の製造方法によれば、重合開始剤を含有しないモノマー液滴を含む分散液に重合開始剤を添加している間にモノマー液滴の重合反応が進行することを防止し、得られるトナー粒子の特性を一定にすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.重合トナーの製造方法
本開示における重合トナーの製造方法は、
少なくとも重合性単量体及び着色剤を含有し、重合開始剤を含有しない重合性単量体組成物を、水系媒体中で造粒することにより、モノマー液滴が水系媒体中に分散した懸濁液を調製する工程、
前記懸濁液中に重合開始剤を添加する工程、及び、
重合開始剤を添加した懸濁液を重合反応に供することにより着色樹脂粒子を形成する工程を含み、
重合開始剤添加時の懸濁液の温度T(℃)を35℃≦T<60℃の範囲に維持し、重合開始剤添加終了後に懸濁液の温度を昇温して重合反応を行うことを特徴とする。
【0012】
従来法に従って、重合性単量体組成物を水系媒体中に投入し、さらに重合開始剤を添加してから強攪拌を伴う造粒を行う場合には、所望の粒径を有し、重合性単量体が各液滴中に均一に含まれたモノマー液滴が分散する懸濁液が得られる。しかし、この場合には、懸濁液に強攪拌のエネルギーが加え続けられるため、造粒時に懸濁液が昇温し、重合性単量体の重合反応が無秩序に進行するため、予想外の異常反応や局所反応が起きる。その後の重合工程において、たとえ重合反応を制御しながら続行したとしても、トナーの熱特性、例えば溶融時流動性などがばらついてしまう。
また、重合開始剤を含有しないモノマー液滴を含む懸濁液を調製し、当該懸濁液に重合開始剤を添加する場合でも、造粒時の強攪拌により懸濁液の温度が上昇しているため、懸濁液に重合開始剤を添加している間に重合反応が起こることがあった。この場合には、懸濁液中の各モノマー液滴に重合開始剤が均一に取り込まれる前に重合反応が無秩序に進行するため、トナー粒子の特性がばらつきやすい。
重合開始剤を含有しないモノマー液滴を含む懸濁液に重合開始剤を添加する場合にも、モノマー液滴を形成する造粒工程ほど強くないが攪拌を伴うため、重合開始剤添加時の攪拌エネルギーも重合反応が無秩序に進行する要因の一つとなる。
さらに、重合開始剤を含有しないモノマー液滴を含む懸濁液に重合開始剤を添加するときに、懸濁液中の各モノマー液滴に重合開始剤を均一に取り込ませるためには、重合開始剤を添加するために費やす所要時間を充分にとることが望ましいが、添加時間を長くすると重合反応が無秩序に進行する要因の一つとなる。この点に関し、特許文献2には、重合開始剤の添加中に重合反応が始まるのを回避するために、造粒された重合性単量体組成物を含む水系媒体中に重合開始剤を300秒以内に添加することが記載されている。
このように、制御された重合工程を行う前に重合反応が無秩序に進行してしまう場合には、得られたトナー特性がばらつきやすく、トナーの印字性能に悪影響を及ぼす。
【0013】
これに対し本開示の製造方法においては、造粒中のモノマー液滴が重合開始剤を含有しておらず、強攪拌し続けても重合反応が進行するおそれが少ないので、安全性(予想外の異常反応や局所反応が起こりにくい性質)に優れ、得られるトナーの熱特性ばらつき、例えばトナー粒子の溶融時流動性のばらつきなどを抑制することができる。
また本開示の製造方法においては、重合開始剤を含有しないモノマー液滴を含む懸濁液に重合開始剤を添加するときに懸濁液の温度T(℃)が35℃≦T<60℃の範囲に維持されており、重合開始剤の添加中に重合反応が進行するおそれが少ないので、懸濁液中の各モノマー液滴に重合開始剤を充分な時間をかけて均一に取り込ませてから重合反応を行うことができ、トナー粒子の粒径分布の広がり(ばらつき)、トナー粒子に含まれる結着樹脂の分子量分布の広がり(ばらつき)、トナー粒子の凝集などを抑制することができる。
【0014】
また、従来法に従って、重合性単量体組成物を水系媒体中に投入し、さらに重合開始剤を添加してから強攪拌を伴う造粒を行う場合には、攪拌装置の温度を制御したとしても、攪拌時間を制御しなければ連続生産時にトナー粒子の特性のばらつきが大きくなってしまうという製造工程上の問題も生じる。さらにこの場合には、造粒容器内で重合反応が進行するので、造粒容器内にスケールが発生するという問題も生じる。
これに対し本開示の製造方法においては、重合開始剤を含有しないモノマー液滴を含む懸濁液に重合開始剤を添加してから比較的弱い攪拌を行うので、攪拌装置の温度を制御することにより、連続生産時にトナー粒子の特性のばらつきを抑制することができる。また、攪拌容器内での重合反応の進行を阻止することにより、スケールの発生を抑制することができる。
【0015】
本開示の製造方法は、基本的には懸濁重合法であり、重合性単量体組成物の調製工程、懸濁液の調製工程(液滴形成工程)、重合開始剤の添加工程、及び重合工程の各工程を少なくとも含み、さらに、これら以外の工程を含んでもよい。以下、工程順に説明する。
(1)重合性単量体組成物の調製工程
先ず、重合性単量体及び着色剤、さらに必要に応じて離型剤、帯電制御剤、分子量調整剤など、その他の材料を混合し、重合開始剤を含有しない重合性単量体組成物を調製する。重合性単量体組成物を調製する際の混合には、例えば、メディア式分散機を用いる。
【0016】
本開示において重合性単量体とは、重合可能な官能基を有するモノマーのことをいい、重合性単量体が重合して結着樹脂となる。
重合性単量体の主成分として、モノビニル単量体を使用することが好ましい。モノビニル単量体としては、例えば、スチレン;ビニルトルエン、及びα-メチルスチレン等のスチレン誘導体;アクリル酸、及びメタクリル酸;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、及びアクリル酸ジメチルアミノエチル等のアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、及びメタクリル酸ジメチルアミノエチル等のメタクリル酸エステル;アクリロニトリル、及びメタクリロニトリル等のニトリル化合物;アクリルアミド、及びメタクリルアミド等のアミド化合物;エチレン、プロピレン、及びブチレン等のオレフィン;が挙げられる。
これらのモノビニル単量体は、それぞれ単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いることができる。これらのうち、モノビニル単量体として、スチレン、スチレン誘導体、及びアクリル酸もしくはメタクリル酸の誘導体が、好適に用いられる。
【0017】
ホットオフセット改善及び保存性改善のために、モノビニル単量体とともに、任意の架橋性の重合性単量体を用いることが好ましい。架橋性の重合性単量体とは、2つ以上の重合可能な官能基を持つモノマーのことをいう。架橋性の重合性単量体としては、例えば、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン、及びこれらの誘導体等の芳香族ジビニル化合物;エチレングリコールジメタクリレート、及びジエチレングリコールジメタクリレート等の2個以上の水酸基を持つアルコールにカルボン酸が2つ以上エステル結合したエステル化合物;N,N-ジビニルアニリン、及びジビニルエーテル等の、その他のジビニル化合物;3個以上のビニル基を有する化合物;等を挙げることができる。
これらの架橋性の重合性単量体は、それぞれ単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いることができる。
架橋性の重合性単量体は、モノビニル単量体100質量部に対して、通常、0.1~5質量部、好ましくは0.3~2質量部の割合で用いる。
【0018】
さらに、重合性単量体の一部として、マクロモノマーを用いると、得られるトナーの保存性と低温での定着性とのバランスが良好になるので好ましい。マクロモノマーは、分子鎖の末端に重合可能な炭素-炭素不飽和二重結合を有するもので、数平均分子量が、通常、1,000~30,000の反応性の、オリゴマーまたはポリマーである。マクロモノマーは、モノビニル単量体を重合して得られる重合体のガラス転移温度(以下、「Tg」と称することがある。)よりも、高いTgを有する重合体を与えるものが好ましい。
マクロモノマーは、モノビニル単量体100質量部に対して、好ましくは0.03~5質量部、さらに好ましくは0.05~1質量部用いる。
【0019】
本開示で用いられる着色剤は特に制限されないが、例えばブラック、シアン、イエロー、マゼンタの着色剤を用いることができる。
ブラック着色剤としては、例えば、カーボンブラック、チタンブラック、並びに酸化鉄亜鉛、及び酸化鉄ニッケル等の磁性粉等を用いることができる。
【0020】
シアン着色剤としては、例えば、銅フタロシアニン化合物、その誘導体、及びアントラキノン化合物等が利用できる。具体的には、C.I.ピグメントブルー2、3、6、15、15:1、15:2、15:3、15:4、16、17:1、及び60等が挙げられる。
【0021】
イエロー着色剤としては、例えば、モノアゾ顔料、及びジスアゾ顔料等のアゾ系顔料、縮合多環系顔料等の化合物が用いられ、C.I.ピグメントイエロー3、12、13、14、15、17、62、65、73、74、83、93、97、120、138、155、180、181、185、186、及び213等が挙げられる。
【0022】
マゼンタ着色剤としては、例えば、モノアゾ顔料、及びジスアゾ顔料等のアゾ系顔料、縮合多環系顔料等の化合物が用いられ、C.I.ピグメントレッド31、48、57:1、58、60、63、64、68、81、83、87、88、89、90、112、114、122、123、144、146、149、150、163、170、184、185、187、202、206、207、209、237、238、251、254、255、269及びC.I.ピグメントバイオレット19等が挙げられる。
【0023】
本発明においては、各着色剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上組み合わせて使用できる。着色剤の量は、重合性単量体100質量部に対して、好ましくは1~10質量部である。
【0024】
定着時におけるトナーの定着ロールからの離型性を改善する観点から、重合性単量体組成物に離型剤を添加することができる。離型剤としては、一般にトナーの離型剤として用いられるものであれば、特に制限無く用いることができる。
離型剤は、エステルワックス及び炭化水素系ワックスの少なくともいずれか1つを含有することが好ましい。これらのワックスを離型剤として使用することにより、低温定着性と保存性とのバランスを好適にすることができる。
エステルワックスのなかでも、多官能エステルワックスがより好適であり、例えば、ペンタエリスリトールテトラパルミネート、ペンタエリスリトールテトラベヘネート、ペンタエリスリトールテトラステアレート等のペンタエリスリトールエステル化合物;ヘキサグリセリンテトラベヘネートテトラパルミネート、ヘキサグリセリンオクタベヘネート、ペンタグリセリンヘプタベヘネート、テトラグリセリンヘキサベヘネート、トリグリセリンペンタベヘネート、ジグリセリンテトラベヘネート、グリセリントリベヘネート等のグリセリンエステル化合物;ジペンタエリスリトールヘキサミリステート、ジペンタエリスリトールヘキサパルミネート等のジペンタエリスリトールエステル化合物;等が挙げられる。中でもジペンタエリスリトールエステル化合物が好ましく、また、ジペンタエリスリトールヘキサミリステートがより好ましい。
【0025】
本開示において離型剤として好適に用いられる炭化水素系ワックスは、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、フィッシャートロプシュワックス、石油系ワックス等が挙げられ、中でも、フィッシャートロプシュワックス、石油系ワックスが好ましく、石油系ワックスがより好ましい。
上記離型剤の他にも、例えば、ホホバ等の天然ワックス;オゾケライト等の鉱物系ワックス;等を用いることができる。
離型剤としてワックスを用いる場合、重合性単量体組成物と水系媒体を混合してなる懸濁液中での析出温度が60℃以下であるワックスを用いることが好ましい。
上記離型剤は、重合性単量体100質量部に対して、通常0.5~50質量部用いられ、好ましくは1~20質量部用いられる。
【0026】
トナーの帯電性を向上させるために、正帯電性又は負帯電性の帯電制御剤を用いることができる。
帯電制御剤としては、一般にトナー用の帯電制御剤として用いられているものであれば、特に限定されないが、帯電制御剤の中でも、重合性単量体との相溶性が高く、安定した帯電性(帯電安定性)をトナー粒子に付与させることができることから、正帯電性又は負帯電性の帯電制御樹脂が好ましく用いられる。
正帯電性の帯電制御剤としては、ニグロシン染料、4級アンモニウム塩、トリアミノトリフェニルメタン化合物及びイミダゾール化合物、並びに、好ましく用いられる帯電制御樹脂としてのポリアミン樹脂、並びに4級アンモニウム基含有共重合体、及び4級アンモニウム塩基含有共重合体等が挙げられる。
負帯電性の帯電制御剤としては、Cr、Co、Al、及びFe等の金属を含有するアゾ染料、サリチル酸金属化合物及びアルキルサリチル酸金属化合物、並びに、好ましく用いられる帯電制御樹脂としてのスルホン酸基含有共重合体、スルホン酸塩基含有共重合体、カルボン酸基含有共重合体及びカルボン酸塩基含有共重合体等が挙げられる。
本開示では、帯電制御剤を、重合性単量体重合性単量体100質量部に対して、通常、0.01~10質量部、好ましくは0.03~8質量部の割合で用いることが望ましい。帯電制御剤の添加量が少なすぎる場合にはカブリが発生することがある。一方、帯電制御剤の添加量が多すぎる場合には印字汚れが発生することがある。
【0027】
重合性単量体を重合して得られる結着樹脂の分子量を調整するために、分子量調整剤を用いることが好ましい。
分子量調整剤としては、一般にトナー用の分子量調整剤として用いられているものであれば、特に限定されず、例えば、t-ドデシルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、n-オクチルメルカプタン、及び2,2,4,6,6-ペンタメチルヘプタン-4-チオール等のメルカプタン類;テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィド、N,N’-ジメチル-N,N’-ジフェニルチウラムジスルフィド、N,N’-ジオクタデシル-N,N’-ジイソプロピルチウラムジスルフィド等のチウラムジスルフィド類;等が挙げられる。これらの分子量調整剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本開示では、分子量調整剤を、重合性単量体100質量部に対して、通常0.01~10質量部、好ましくは0.1~5質量部の割合で用いることが望ましい。
【0028】
(2)懸濁液の調製工程(液滴形成工程)
上記工程で得られた重合性単量体組成物を水系媒体に混合し、造粒を行うことにより、重合性単量体組成物の液滴(モノマー液滴)が水系媒体中に分散した懸濁液を調製する。この工程においては、重合開始剤を含有しないモノマー液滴が水系媒体中に分散した懸濁液が得られる。
液滴形成の方法は特に限定されないが、例えば、インライン型乳化分散機(太平洋機工社製、商品名:マイルダー)、高速乳化分散機(プライミクス株式会社製、商品名:T.K.ホモミクサー MARK II型)等の強攪拌が可能な装置を用いて行う。
水系媒体の量は、重合性単量体100質量部に対して、通常、100~3000質量部、好ましくは200~2000質量部の割合で使用する
水系媒体としては、水を主成分とする媒体が用いられる。通常、イオン交換水が用いられるが、重合を阻害しない範囲でメタノール、エタノール等の親水性の有機溶媒を添加してもよい。
【0029】
水系媒体には、分散安定化剤を含有させることが好ましい。分散安定化剤としては、例えば、硫酸バリウム、及び硫酸カルシウム等の硫酸塩;炭酸バリウム、炭酸カルシウム、及び炭酸マグネシウム等の炭酸塩;リン酸カルシウム等のリン酸塩;酸化アルミニウム、及び酸化チタン等の金属酸化物;水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、及び水酸化第二鉄等の金属水酸化物;等の無機化合物や、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、及びゼラチン等の水溶性高分子;アニオン性界面活性剤;ノニオン性界面活性剤;両性界面活性剤;等の有機化合物が挙げられる。上記分散安定化剤は1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0030】
上記分散安定化剤の中でも、無機化合物、特に難水溶性の金属水酸化物のコロイドが好ましい。無機化合物、特に難水溶性の金属水酸化物のコロイドを用いることにより、着色樹脂粒子の粒径分布を狭くすることができ、また、洗浄後の分散安定化剤残存量を少なくできるため、得られるトナーが画像を鮮明に再現することができ、且つ環境安定性に優れたものとなる。
分散安定剤の量は、重合性単量体100質量部に対して、通常、0.1~20質量部の割合とする。
【0031】
(3)重合開始剤の添加工程
上記工程により得られた、重合開始剤を含有しないモノマー液滴が水系媒体中に分散した懸濁液に、重合開始剤を添加し、モノマー液滴内に重合開始剤を取り込ませる。
この工程において、懸濁液の温度T(℃)が35℃≦T<60℃の範囲に維持しながら重合開始剤を添加するので、重合開始剤の添加中に重合反応が進行させずに、懸濁液中の各モノマー液滴に重合開始剤を充分な時間をかけて均一に取り込ませることができる。重合開始剤添加時の懸濁液の温度T(℃)は、40℃≦T≦50℃であることが好ましく、40℃≦T≦45℃であることがさらに好ましい。
重合開始剤添加時の懸濁液の温度Tが35℃未満である場合には、懸濁液の温度Tの下限は35℃とすれば重合開始剤添加時の重合反応の進行を阻止するためには充分であり、かつ、昇温時の温度差が大きくなるという理由から、温度制御のために費やす手間、時間、エネルギーの無駄が大きい。従って、製造方法の生産性が悪くなる。
また、懸濁液の温度Tが35℃未満である場合には、モノマー液滴中に離型剤として含まれるワックスが析出し、得られるトナーの粒径分布が広がったり、トナーの熱特性が悪くなったりするおそれがある。
一方、重合開始剤添加時の懸濁液の温度Tが60°以上の場合には、重合開始剤添加時の重合反応の進行を充分に阻止できないおそれがある。
攪拌装置の攪拌槽をジャケットで覆い、当該攪拌装置にモノマー液滴を含む懸濁液と重合開始剤を投入し、ジャケットに温水または冷水を流通しながら一般的な攪拌翼で攪拌することにより、懸濁液の温度を制御することができる。
【0032】
重合開始剤としては、過硫酸カリウム、及び過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩:4,4’-アゾビス(4-シアノバレリック酸)、2,2’-アゾビス(2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド)、2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)ジヒドロクロライド、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、及び2,2’-アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物;ジ-t-ブチルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシジエチルアセテート、t-ヘキシルパーオキシ-2-エチルブタノエート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ-t-ブチルパーオキシイソフタレート、及びt-ブチルパーオキシイソブチレート等の有機過酸化物等が挙げられる。
これらは、それぞれ単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いることができる。また、これら重合開始剤と還元剤とを組み合わせたレドックス開始剤を挙げることができる。
【0033】
重合開始剤は、温度が25℃の水に対する最大溶解割合が0.03質量%以上であることが好ましい。本開示において「水に対する重合開始剤の最大溶解割合」とは、溶媒である水に溶質である重合開始剤を溶解したときに、水溶液の全量に対する重合開始剤の最大溶解量の割合を意味する。
水に対する最大溶解割合が大きい重合開始剤を用いて懸濁液に多量の重合開始剤を溶け込ませた場合には、懸濁液中に存在する各モノマー液滴に、重合工程を介する前に予め多量の重合開始剤を均一に含ませることができるため、各モノマー液滴を均一に重合させて、得られるトナー粒子の特性を一定にすることができる。
【0034】
また、残留重合性単量体を少なくすることができ、印字耐久性も優れ、モノマー液滴に溶け込みやすい油溶性も有することから、重合開始剤は有機過酸化物であることが好ましい。
有機過酸化物の中でも、開始剤効率がよく、残留する重合性単量体も少なくすることができることから、パーオキシエステルが好ましく、非芳香族パーオキシエステルすなわち芳香環を有しないパーオキシエステルがより好ましい。
非芳香族パーオキシエステルとしては、下記化学式(1)
【0035】
【0036】
(式中、R及びR’は任意のアルキル基をあらわす。)で表されるパーオキシエステルであることがより好ましい。
式中のRは、炭素数6以下のアルキル基であることが好ましく、5以下であることがより好ましく、ジエチルメチル、イソプロピル、1-メチルプロピル、1-エチルプロピル、1-メチルブチル、2-メチルブチル、3-メチルブチル、及び1-エチルプロピル等の2級のアルキル基であることがさらに好ましく、ジエチルメチル、1-メチルプロピル、1-エチルプロピルが特に好ましい。
また、式中、R’は、炭素数8以下のアルキル基が好ましく、t-ブチル、及びt-ヘキシルがより好ましく、t-ブチルが特に好ましい。
式(1)のパーオキシエステルの具体例としては、t-ブチルパーオキシジエチルアセテート、t-ヘキシルパーオキシピバレート(t-ヘキシルパーオキシ-2,2-ジメチル-アセテート)、t-ブチルパーオキシ-2-エチルブタノエート、t-ブチルパーオキシ-2-メチルブタノエート等が挙げられる。
【0037】
本開示において、有機過酸化物の分子量は、好ましくは205以下であり、より好ましくは170以上200以下、であり、さらに好ましくは、175以上195以下である。分子量が205以下の有機過酸化物は、モノマー液滴に溶解しやすいため、懸濁液中の各モノマー液滴に均一に含有させることができる。
【0038】
有機過酸化物の10時間半減期温度は、印字耐久性の良いトナーが得られることから、70℃以上95℃以下であることが好ましく、75℃以上95℃以下であることがより好ましく、85℃以上95℃以下がさらに好ましい。
ここで、半減期温度とは、重合開始剤の開裂の起こりやすさを表す指標であり、該重合開始剤を一定温度下に保持したとき、これが分解して一定時間後に元の開始剤量の1/2となる温度を示す。例えば、10時間半減期温度では、この一定時間が10時間の半減期温度である。重合開始剤の10時間半減期温度は、ベンゼン中に有機過酸化物を0.1mol/L溶解させ、10時間で開始剤濃度が0.05mol/Lになる温度を測定することにより特定できる。
【0039】
上記諸条件を満たす重合開始剤としては、下記化学式(2)で表されるt-ブチルパーオキシジエチルアセテートを挙げることができる。t-ブチルパーオキシジエチルアセテートの分子量は188.3であり、10時間半減期温度は74℃であり、25℃の水に対する溶解割合が0.05質量%である。
【0040】
【0041】
重合開始剤の添加量は、重合性単量体100質量部に対して、通常0.1~20質量部であり、好ましくは0.3~15質量部であり、さらに好ましくは1~10質量部である。
【0042】
重合開始剤を懸濁液に添加するための所要時間は、好ましくは301秒以上3600秒以下とし、さらに好ましくは301秒以上900秒以下とする。
重合開始剤を301秒以上かけて懸濁液に添加することにより、各モノマー液滴に重合開始剤を充分な時間をかけて均一に取り込ませることができる。また、懸濁液中の各モノマー液滴に重合開始剤を均一に取り込ませるためには、所要時間が長すぎても無駄なだけなので3600秒以下とする。
【0043】
本開示では、重合開始剤が液体の場合にはそのまま懸濁液に添加することができるが、重合開始剤が固体の場合は、上述した重合性単量体の一部に溶解するか、または有機溶媒に溶解し、液状にしてから懸濁液に添加することが好ましい。
このときに使用する有機溶媒は重合開始剤を溶解できれば特に限定されないが、沸点が重合温度以上であり、且つ有機溶媒を回収するときにトナー中に残留する可能性が小さい、トルエン、メチルシクロヘキサン、オクタンなどが好ましい。重合開始剤を溶解させる重合性単量体または有機溶媒の量は、使用する重合開始剤の種類及び量によって変化するが、重合開始剤が溶解できる量であれば特に限定されない。しかしながら、トナーの製造を安全に行うこと、トナー中の揮発性有機化合物量を少なくすることから、その量は少なくすることが好ましい。重合開始剤を溶解するために重合性単量体の量は、通常、全重合性単量体の20質量%以下、好ましくは10質量%以下である。また、有機溶媒の量は、重合性単量体100質量部に対して、通常、20質量部以下、好ましくは10質量部以下である。
【0044】
(4)重合工程
重合開始剤の添加が終了した後、懸濁液を昇温し、重合反応を行うことにより着色樹脂粒子を形成する。
懸濁液の重合温度は、重合開始剤添加時の懸濁液の温度よりも高い温度とし、好ましくは60℃よりも高い温度とし、更に好ましくは60℃超~95℃以下である。また、重合の反応時間は好ましくは1~20時間であり、更に好ましくは2~15時間である。
【0045】
着色樹脂粒子は、そのまま外添剤を添加して重合トナーとして用いてもよいが、この着色樹脂粒子をコア層とし、その外側にコア層と異なるシェル層を作ることで得られる、所謂コアシェル型(又は、「カプセル型」ともいう)の着色樹脂粒子とすることが好ましい。コアシェル型の着色樹脂粒子は、低軟化点を有する物質よりなるコア層を、それより高い軟化点を有する物質で被覆することにより、定着温度の低温化と保存時の凝集防止とのバランスを取ることができる。
【0046】
上述した、上記着色樹脂粒子を用いて、コアシェル型の着色樹脂粒子を製造する方法としては特に制限はなく、従来公知の方法によって製造することができる。in situ重合法や相分離法が、製造効率の点から好ましい。
【0047】
in situ重合法によるコアシェル型の着色樹脂粒子の製造法を以下に説明する。
着色樹脂粒子が分散している水系分散媒体中に、シェル層を形成するための重合性単量体(シェル用重合性単量体)と重合開始剤を添加し、重合することでコアシェル型の着色樹脂粒子を得ることができる。
【0048】
シェル用重合性単量体としては、前述の重合性単量体と同様なものが使用できる。その中でも、スチレン、アクリロニトリル、及びメチルメタクリレート等の、Tgが80℃を超える重合体が得られる単量体を、単独であるいは2種以上組み合わせて使用することが好ましい。
【0049】
シェル用重合性単量体の重合に用いる重合開始剤としては、過硫酸カリウム、及び過硫酸アンモニウム等の、過硫酸金属塩;2,2’-アゾビス(2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド)、及び2,2’-アゾビス-(2-メチル-N-(1,1-ビス(ヒドロキシメチル)2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド)等の、アゾ系開始剤;等の水溶性重合開始剤を挙げることができる。これらは、それぞれ単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いることができる。重合開始剤の量は、シェル用重合性単量体100質量部に対して、好ましくは、0.1~30質量部、より好ましくは1~20質量部である。
【0050】
シェル層の重合温度は、好ましくは50℃以上であり、更に好ましくは60~95℃である。また、重合の反応時間は好ましくは1~20時間であり、更に好ましくは2~15時間である。
【0051】
(5)洗浄、ろ過、脱水、及び乾燥工程
重合により得られた着色樹脂粒子の水分散液は、重合終了後に、常法に従い、ろ過、分散安定化剤の除去を行う洗浄、脱水、及び乾燥の操作が、必要に応じて数回繰り返されることが好ましい。
【0052】
上記の洗浄の方法としては、分散安定化剤として無機化合物を使用した場合、着色樹脂粒子の水分散液への酸、又はアルカリの添加により、分散安定化剤を水に溶解し除去することが好ましい。分散安定化剤として、難水溶性の無機水酸化物のコロイドを使用した場合、酸を添加して、着色樹脂粒子水分散液のpHを6.5以下に調整することが好ましい。添加する酸としては、硫酸、塩酸、及び硝酸等の無機酸、並びに蟻酸、及び酢酸等の有機酸を用いることができるが、除去効率の大きいことや製造設備への負担が小さいことから、特に硫酸が好適である。
【0053】
脱水、ろ過の方法は、種々の公知の方法等を用いることができ、特に限定されない。例えば、遠心ろ過法、真空ろ過法、加圧ろ過法等を挙げることができる。また、乾燥の方法も、特に限定されず、種々の方法が使用できる。
【0054】
(6)外添工程
上記工程を経て得られた着色樹脂粒子は、そのままでトナーとすることもできるが、トナーの帯電性、流動性、及び保存性等を調整する観点から、上記着色樹脂粒子を、外添剤と共に混合攪拌して外添処理を行うことにより、着色樹脂粒子の表面に、外添剤を付着させて1成分トナーとしてもよい。
なお、1成分トナーは、さらにキャリア粒子と共に混合攪拌して2成分現像剤としてもよい。
【0055】
外添処理を行う攪拌機は、着色樹脂粒子の表面に外添剤を付着させることができる攪拌装置であれば特に限定されず、例えば、FMミキサー(:商品名、日本コークス工業社製)、スーパーミキサー(:商品名、川田製作所社製)、Qミキサー(:商品名、日本コークス工業社製)、メカノフュージョンシステム(:商品名、ホソカワミクロン社製)、及びメカノミル(:商品名、岡田精工社製)等の混合攪拌が可能な攪拌機を用いて外添処理を行うことができる。
【0056】
外添剤としては、シリカ、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化錫、炭酸カルシウム、燐酸カルシウム、及び/又は酸化セリウム等からなる無機微粒子;ポリメタクリル酸メチル樹脂、シリコーン樹脂、及び/又はメラミン樹脂等からなる有機微粒子;等が挙げられる。これらの中でも、無機微粒子が好ましく、無機微粒子の中でも、シリカ、及び/又は酸化チタンが好ましく、特にシリカからなる微粒子が好適である。
なお、これらの外添剤は、それぞれ単独で用いることもできるが、2種以上を併用して用いることが好ましい。
【0057】
本発明では、外添剤を、着色樹脂粒子100質量部に対して、通常、0.05~6質量部、好ましくは0.2~5質量部の割合で用いることが望ましい。外添剤の添加量が0.05質量部未満の場合には転写残が発生することがある。外添剤の添加量が6質量部を超える場合にはカブリが発生することがある。
【0058】
2.本開示の重合トナー
本開示の製造方法においては、制御された重合工程を行う前に重合反応が進行してしまうことを防止しながら、強攪拌を伴う造粒工程で所望の粒径を有するモノマー液滴を形成し、さらに、懸濁液中の各モノマー液滴に重合開始剤を均一に取り込ませてから、制御された条件下で懸濁液を均一に重合させることにより、トナーの熱特性のばらつき、トナー粒子の粒径分布の広がり(ばらつき)、トナー粒子に含まれる結着樹脂の分子量分布の広がり(ばらつき)、トナー粒子の凝集などを抑制することができる。
【実施例】
【0059】
以下に、実施例及び比較例を挙げて、本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。なお、部及び%は、特に断りのない限り質量基準である。
【0060】
1.着色樹脂粒子の製造
[着色樹脂粒子(1)の製造]
(1)コア用重合性単量体組成物の調製
スチレン75部及びn-ブチルアクリレート25部、ポリメタクリル酸エステルマクロモノマー(東亜合成化学工業社製、商品名「AA6」、Tg=94℃)0.25部、ジビニルベンゼン0.7部、ブラック着色剤としてカーボンブラック10部を、メディア型乳化分散機を用いて分散させて、重合性単量体の混合物を得た 。この混合物に、帯電制御樹脂(藤倉化成社製、商品名「アクリベース FCA-676P」)3.7部、エステルワックス(日油社製、商品名「WE-6」)7部、及びテトラエチルチウラムジスルフィド1.0部を添加し、混合、溶解して、重合性単量体組成物を調製した
(2)水系分散媒体の調製
他方、イオン交換水280質量部に塩化マグネシウム10.4部を溶解した水溶液に、イオン交換水50部に水酸化ナトリウム7.3部を溶解した水溶液を、攪拌下で徐々に添加して、水酸化マグネシウムコロイド分散液を調製した。
(3)シェル用重合性単量体の調製
一方、メチルメタクリレート2部と水130部を超音波乳化機にて微分散化処理して、シェル用重合性単量体の水分散液を調製した。
【0061】
(4)造粒
上記水酸化マグネシウムコロイド分散液(水酸化マグネシウムコロイド量5.3部)に、上記重合性単量体組成物を投入し、さらに攪拌して得られる分散液を、インライン型乳化分散機(大平洋機工社製、商品名:マイルダー)により、回転数15,000rpmにて分散を行い、重合性単量体組成物の液滴(モノマー液滴)を形成した。
(5)重合開始剤の添加
モノマー液滴を含む懸濁液の温度を40℃に制御した条件下で、当該懸濁液に、重合開始剤としてt-ブチルパーオキシジエチルアセテート(化薬アクゾ株式会社製、商品名:トリゴノックス27、分子量188.3、10時間半減期温度74℃、25℃の水に対する最大溶解割合0.05質量%)6部を、600秒かけて添加し、攪拌した。
【0062】
(6)懸濁重合
重合開始剤を含有するモノマー液滴を含む懸濁液を、反応器に入れ、90℃に昇温して重合反応を行った。重合転化率がほぼ100%に達した後、前記シェル用重合性単量体の水分散液にシェル用重合開始剤として2,2’-アゾビス〔2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)-プロピオンアミド〕(和光純薬社製、商品名:VA-086、水溶性開始剤)0.1部を溶解したものを反応器に添加した。次いで、95℃で4時間維持して、重合を更に継続した後、水冷して反応を停止し、コアシェル型着色樹脂粒子の水分散液を得た。
(7)後処理工程:
着色樹脂粒子の水分散液を攪拌しながら、pHが4.5以下となるまで硫酸を添加して酸洗浄を行った後(25℃、10分間)、濾別した着色樹脂粒子を、水で洗浄し、洗浄水をろ過した。この際の濾液の電気伝導度は、20μS/cmであった。さらに洗浄・ろ過工程後の着色樹脂粒子を脱水・乾燥し、乾燥した着色樹脂粒子(1)を得た。
【0063】
[着色樹脂粒子(2)の製造]
上記着色樹脂粒子1の製造において、コア用重合性単量体組成物の調製に用いたエステルワックス(日油社製、商品名「WE-6」)の量を7部から20部に変更し、さらに、重合開始剤添加時の懸濁液の温度を40℃から50℃に変更したこと以外は、着色樹脂粒子(1)の製造と同様の手順で、着色樹脂粒子(2)を得た。
【0064】
[着色樹脂粒子(3)の製造]
上記着色樹脂粒子1の製造において、コア用重合性単量体組成物の調製に用いたエステルワックス(日油社製、商品名「WE-6」)の量を7部から20部に変更し、さらに、重合開始剤添加時の懸濁液の温度を40℃から30℃に変更したこと以外は、着色樹脂粒子(1)の製造と同様の手順で、着色樹脂粒子(3)を得た。
【0065】
[着色樹脂粒子(4)の製造]
上記着色樹脂粒子1の製造において、コア用重合性単量体組成物の調製に用いたエステルワックス(日油社製、商品名「WE-6」)の量を7部から20部に変更し、さらに、重合開始剤添加時の懸濁液の温度を40℃から70℃に変更したこと以外は、着色樹脂粒子(1)の製造と同様の手順で、着色樹脂粒子(4)を得た。
【0066】
[着色樹脂粒子(5)の製造]
上記着色樹脂粒子1の製造において、重合開始剤の添加タイミングを造粒工程後の段階から造粒中の段階に変更して、着色樹脂粒子(5)を得た。ただし、重合開始剤添加時の温度(この場合は造粒時の懸濁液の温度)は、着色樹脂粒子1の製造と同じ40℃とした。
具体的には、造粒工程において、水酸化マグネシウムコロイド分散液(水酸化マグネシウムコロイド量5.3部)に重合性単量体組成物を投入し、攪拌して懸濁液を得た。得られた懸濁液の温度を40℃に制御した条件下で、当該懸濁液に重合開始剤を添加し、さらに懸濁液の温度を40℃に制御した条件下で、インライン型乳化分散機(大平洋機工社製、商品名:マイルダー)により回転数15,000rpmにて分散し続けて、重合性単量体組成物の液滴(モノマー液滴)を形成した。
【0067】
[着色樹脂粒子(6)の製造]
上記着色樹脂粒子1の製造において、コア用重合性単量体組成物の調製に用いたエステルワックスの量を変更し、重合開始剤の添加タイミングを造粒工程後の段階から造粒中の段階に変更し、さらに重合開始剤添加時の温度(この場合は造粒時の懸濁液の温度)を40℃から50℃に変更して、着色樹脂粒子(6)を得た。
エステルワックスについては、着色樹脂粒子1の製造において用いたエステルワックス(日油社製、商品名「WE-6」)の量を7部から20部に変更した。
重合開始剤の添加は次の手順で行った。水酸化マグネシウムコロイド分散液(水酸化マグネシウムコロイド量5.3部)に重合性単量体組成物を投入し、攪拌して懸濁液を得た。得られた懸濁液の温度を50℃に制御した条件下で、当該懸濁液に重合開始剤を添加し、さらに懸濁液の温度を50℃に制御した条件下で、インライン型乳化分散機(大平洋機工社製、商品名:マイルダー)により回転数15,000rpmにて分散し続けて、重合性単量体組成物の液滴(モノマー液滴)を形成した。
【0068】
2.ブラックトナーの製造
上記着色樹脂粒子(1)~(6)に外添処理を施して、実施例1~2、及び比較例1~4のブラックトナーを製造した。
[実施例1]
着色樹脂粒子(1)100部に、疎水化処理した平均粒径7nmのシリカ微粒子0.6部と、疎水化処理した平均粒径35nmのシリカ微粒子1部とを添加し、高速攪拌機(日本コークス社製、商品名FMミキサー)を用いて混合し、実施例1のブラックトナーを調製した。
【0069】
[実施例2]
着色樹脂粒子(1)を着色樹脂粒子(2)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして実施例2のブラックトナーを得た。
【0070】
[比較例1]
着色樹脂粒子(1)を着色樹脂粒子(3)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして比較例1のブラックトナーを得た。
【0071】
[比較例2]
着色樹脂粒子(1)を着色樹脂粒子(4)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして比較例2のブラックトナーを得た。
【0072】
[比較例3]
着色樹脂粒子(1)を着色樹脂粒子(5)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして比較例3のブラックトナーを得た。
【0073】
[比較例4]
着色樹脂粒子(1)を着色樹脂粒子(6)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして比較例4のブラックトナーを得た。
【0074】
3.試験及び評価方法
上記「1.着色樹脂粒子の製造」で製造された着色樹脂粒子について以下の試験及び評価を行った。
(1)着色樹脂粒子のメルト・インデックス(MI)値
着色樹脂粒子のメルト・インデックス値を、メルトインデクサー(東洋精機社製、商品名:セミオートメルトインデクサー)を用いて、JIS(日本工業規格)K7210 Aに準拠し、試験温度150℃、試験荷重10kgfの条件で測定した。
製品11バッチの各MI値の対数を取り、それらの値の標準偏差をメルト・インデックス値のばらつきとした。
メルト・インデックス値のばらつきが小さいほど、連続生産時にトナー粒子の熱特性ばらつきが小さいと評価できる。具体的には以下の基準に従って評価した。
[評価基準]
(a)優秀:標準偏差0.06未満
(b)良好:標準偏差0.06以上0.10未満
(c)やや不良:標準偏差0.10以上0.20未満
(d)不可:標準偏差0.20以上
【0075】
(2)着色樹脂粒子の粒径分布(体積平均粒径Dv、個数平均粒径Dp、粒径分布Dv/Dp)
着色樹脂粒子0.2gをビーカーに取り、その中に分散剤として界面活性剤水溶液(富士フィルム社製、商品名:ドライウェル)を加えた。そこへ、更に分散媒体(ベックマン・コールター社製、商品名:アイソトンII)を2ml加え着色樹脂粒子を湿潤させた後、分散媒体をさらに10ml加え、超音波分散器で1分間分散させた。
分散させた上記着色樹脂粒子の体積平均粒径Dv、個数平均粒径Dp、及び粒径分布Dv/Dpを、粒度分布測定機(ベックマン・コールター社製、商品名:マルチサイザー)を用い、アパーチャー径:100μm、分散媒体:商品名アイソトンII(ベックマン・コールター社製)、濃度10%、測定粒子個数:100,000個の条件で測定した。
測定された粒径分布Dv/Dp値が1.20未満である場合には、当該着色樹脂粒子を用いたトナー粒子の粒径ばらつきが小さいと評価できる。具体的には、以下の基準に従って評価した。
[評価基準]
(a)優秀:粒径分布Dv/Dp値が1.15未満
(b)良好:粒径分布Dv/Dp値が1.15以上1.20未満
(c)やや不良:粒径分布Dv/Dp値が1.20以上1.40未満
(d)不可:粒径分布Dv/Dp値が1.40以上
【0076】
(3)重合工程の昇温前の反応転化率
昇温前の懸濁液をサンプリングし、重量法で反応転化率を測定した。
【0077】
4.結果
表1に、各実験例で用いた材料の種類、使用量、及び試験結果を示す。なお表中、置換用極性有機溶剤の略称IPAはイソプロパノールであり、略称THFはテトラヒドロフランである。
【0078】
【0079】
[考察]
以下、表1を参照しながら、各実験例の評価結果について検討する。
【0080】
(2)比較例1
比較例1においては、重合開始剤を造粒工程後に添加した結果、重合工程の昇温を開始する前の反応転化率は0(ゼロ)であることが確認され、重合工程前の重合反応の進行を完全に阻止することができた。
しかし重合開始剤添加時の懸濁液の温度が35℃以下であったため、温度制御のための手間とエネルギーを必要とした。
また、重合開始剤添加時の懸濁液の温度が低すぎたために、着色樹脂粒子の粒径分布が不可(Dv/Dp≧1.40)となり、着色樹脂粒子のメルト・インデックスのばらつきが不可(標準偏差≧0.20)となった。これは、懸濁液の温度が低すぎて、モノマー液滴中に含まれるワックスが析出したために、粒径分布のばらつき及びメルト・インデックスのばらつきが大きくなったためだと考えられる。
【0081】
(3)比較例2
比較例2においては、重合開始剤を造粒工程後に添加したにもかかわらず、重合工程の昇温を開始する前の反応転化率が5%であり、着色樹脂粒子の粒径分布がやや不良(1.20≦Dv/Dp<1.40)となり、着色樹脂粒子のメルト・インデックスもやや不良(0.10≦標準偏差<0.20)となった。これは、重合開始剤を造粒工程後に添加したものの、重合開始剤添加時の懸濁液の温度が60℃よりも高かったため、重合開始剤添加中に重合反応が不均一に進行したためだと考えられる。
【0082】
(4)比較例3
比較例3においては、着色樹脂粒子の粒径分布は優秀(Dv/Dp<1.15)であった。しかし、重合工程の昇温を開始する前の反応転化率が5%であり、着色樹脂粒子のメルト・インデックスのばらつきがやや不良(0.10≦標準偏差<0.20)となった。これは、造粒工程中の懸濁液に重合開始剤を添加したため、強攪拌状態で、かつ、重合反応の条件が何らコントロールされない状態で重合反応が進行し、異常反応や局所反応が起きたためだと考えられる。
【0083】
(5)比較例4
比較例4においては、着色樹脂粒子の粒径分布は優秀(Dv/Dp<1.15)であった。しかし、重合工程の昇温を開始する前の反応転化率が15%であり、着色樹脂粒子のメルト・インデックスのばらつきが不可(標準偏差≧0.20)となった。昇温開始前の反応転化率は、比較例3と比べてみても特に高い。
これは、造粒工程中の懸濁液に重合開始剤を添加し、しかも、重合開始剤添加時(この場合は造粒時)の懸濁液の温度が50℃であり比較例3の場合と比べて高かったため、異常反応や局所反応が、より高レベルに起きたためだと考えられる。
【0084】
(6)実施例1~2
実施例1及び2においては、重合工程の昇温を開始する前の反応転化率は0(ゼロ)であることが確認され、重合工程前の重合反応の進行を完全に阻止することができ、着色樹脂粒子の粒径分布は優秀(Dv/Dp<1.15)であり、着色樹脂粒子のメルト・インデックスのばらつきも優秀(標準偏差<0.06)であった。
これは、造粒後のモノマー液滴を含む懸濁液に重合開始剤を添加し、しかも、重合開始剤添加時の懸濁液の温度を35℃以上60℃未満の範囲としたことにより、懸濁液中の各モノマー液滴に重合開始剤を均一に取り込ませてから、制御された条件下で懸濁液を均一に重合させることができたためだと考えられる。