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特許7201371熱可塑性液晶ポリマー多層構造体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-26
(45)【発行日】2023-01-10
(54)【発明の名称】熱可塑性液晶ポリマー多層構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H05K 3/46 20060101AFI20221227BHJP
【FI】
H05K3/46 G
H05K3/46 Y
H05K3/46 T
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018167915
(22)【出願日】2018-09-07
(65)【公開番号】P2019161206
(43)【公開日】2019-09-19
【審査請求日】2021-06-21
(31)【優先権主張番号】P 2018041401
(32)【優先日】2018-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【弁理士】
【氏名又は名称】中田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 真二
(72)【発明者】
【氏名】中島 崇裕
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 健
(72)【発明者】
【氏名】砂本 辰也
【審査官】黒田 久美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-304071(JP,A)
【文献】特開2014-220544(JP,A)
【文献】特開2001-244630(JP,A)
【文献】特開2005-019474(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 3/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)熱可塑性液晶ポリマーフィルム、(ii)導体層を一方の面に有する熱可塑性液晶ポリマーフィルム、および(iii)導体層を双方の面に有する熱可塑性液晶ポリマーフィルムからなる群から選択された少なくとも2枚の熱可塑性液晶ポリマー副構造を重ね合わせた予備積層体を、その上下面に配設した保護材を介して熱プレス機において加熱および加圧して熱可塑性液晶ポリマー多層構造体を製造する方法であって、
前記予備積層体の上下面の少なくとも一方に、当該熱プレス機側から順に耐熱性クッション材および金属板が配設され、
熱可塑性液晶ポリマーの熱圧着温度未満において、前記熱プレス機を第1の圧力に昇圧し、(I)前記予備積層体を、前記保護材を介して前記耐熱性クッション材および金属板で加圧し、(II)前記予備積層体の側方では、前記保護材の端部を前記耐熱性クッション材の加圧によりシールし、(III)前記保護材が前記予備積層体の全ての側面に接した状態で前記予備積層体を包み込むことにより、前記予備積層体が、所望の熱可塑性液晶ポリマー多層構造体の形状となるよう形状を固定する形状固定工程と、
前記第1の圧力から減圧し、前記第1の圧力より0.8~2.5MPa低い第2の圧力下で、熱圧着温度まで昇温し、隣接する熱可塑性液晶ポリマー副構造を熱圧着させる熱圧着工程と、
を備える、熱可塑性液晶ポリマー多層構造体の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法であって、前記導体層が、導体パターン、導体箔、および導体膜からなる群から選択され、
前記熱可塑性液晶ポリマー多層構造体の上面および下面の少なくとも一方に導体パターンが形成されている場合、
当該導体パターンが形成されている表面に接する保護材は、前記導体パターンの形状に応じて変形可能な多層複合材であり、
当該導体パターンが形成されていない表面に接する保護材は、単層シートである、製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の製造方法であって、前記多層複合材が、第1の金属箔、互いにMD方向が直交する1対の高密度ポリエチレンシート、第2の金属箔、および低摩擦性フィルムで形成されている、製造方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法であって、前記耐熱性クッション材が、耐熱性繊維クッション材である、製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の製造方法であって、前記耐熱性繊維クッション材が、金属繊維不織布または融点若しくは熱分解温度が260℃以上の有機繊維不織布である、製造方法。
【請求項6】
請求項1~のいずれか一項に記載の製造方法であって、前記耐熱性クッション材の縦方向の長さ(CL)および横方向の辺の長さ(CW)が、予備積層体の縦方向の長さ(PL)および横方向の辺の長さ(PW)に対し、以下の関係を有する、製造方法。
L+1≦CL≦PL+10 (単位:cm)かつ
W+1≦CW≦PW+10 (単位:cm)
【請求項7】
請求項1~のいずれか一項に記載の製造方法であって、前記金属板の縦方向の長さ(ML)および横方向の辺の長さ(MW)が、前記耐熱性クッション材の縦方向の長さ(CL)および横方向の辺の長さ(CW)および前記予備積層体の縦方向の長さ(PL)およ
び横方向の辺の長さ(PW)に対し、以下の関係を有する、製造方法。
L-1.0≦ML≦PL (単位:cm)
W-1.0≦MW≦PW (単位:cm)
L-11≦ML≦CL-1.2 (単位:cm)かつ
W-11≦MW≦CW-1.2 (単位:cm)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学的に異方性の溶融相を形成し得る熱可塑性ポリマー(以下、これを熱可塑性液晶ポリマーと称する)で構成された熱可塑性液晶ポリマー多層構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性液晶ポリマーは、熱圧着で接着することが可能な材料であるにもかかわらず耐熱性を有するため、多層回路基板などを形成する誘電層として有用な材料である。多層回路基板を形成する上では、多数の熱可塑性液晶ポリマー層を一括積層することが生産効率を高める上で有利である。しかしながら、その多層化工程では高温下での加工を行う必要があり、液晶ポリマー層の高多層化に向けて、新たな製造方法が求められている。
【0003】
高多層化を行うための製造方法として、例えば、特許文献1(特開2006-049502号公報)には、樹脂フィルムと導体パターンとが積層された積層体を熱プレス板間に配置し、少なくとも一方の前記積層体表面と前記熱プレス板との間に、導体パターンの配置に応じた緩衝部材を介在させた状態で、前記熱プレス板によって前記積層体を上下両面から加熱・加圧する加熱・加圧工程とを備える多層基板の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-049502号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この特許文献1では、加熱および加圧後の緩衝部材に、多層基板表面の凹凸が転写され、緩衝部材を繰り返し使用できなくなる点を問題とし、導体パターンの配置に応じて個別の緩衝部材を用いることを特徴としている。しかしながら、導体パターンの配置に応じて個別の緩衝部材を用いることは、製造方法を煩雑とし、非効率である。
【0006】
したがって、本発明の目的は、熱可塑性液晶ポリマーの過度な流動や回路層の形状がつぶれることなどを抑制しつつ、簡便な製造方法により効率よく熱可塑性液晶ポリマー多層構造体を製造する方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、前記製造方法において用いられる耐熱性クッション材を繰り返し利用でき、製造コストを低減して熱可塑性液晶ポリマー多層構造体を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、熱可塑性液晶ポリマーは一般のプラスチックとは異なり、極めて低いせん断速度で溶融粘度が極端に下がるため、熱可塑性液晶ポリマー多層構造体を製造するために緩衝部材を介在させた状態で熱プレス機により加熱加圧を行うと、熱圧着温度において緩衝部材に由来する模様が、熱可塑性液晶ポリマー多層構造体の表面に転写されてしまうことを見出した。
【0008】
そして、さらに研究を重ねた結果、(i)熱プレス機において、耐熱性繊維で形成されたクッション材と、熱可塑性液晶ポリマー多層構造体を保護する保護材との間に金属板を介在させ、(ii)熱圧着温度未満において、耐熱性クッション材と金属板で熱可塑性液晶ポリマー多層構造体を加圧するとともに、前記多層構造体の側方では、保護材を耐熱性クッション材でシールすると、(iii)保護材により熱可塑性液晶ポリマー多層構造体を所望の形状に固定できることを見出し、さらに、(iv)熱圧着の際には、形状を固定するのに負荷した圧力より低い圧力で加圧するとともに、熱圧着温度に昇温して熱プレスを行うと、(v)保護材により熱可塑性液晶ポリマー多層構造体の形状を固定したままで、良好に熱圧着ができること、耐熱性クッション材により熱可塑性液晶ポリマー多層構造体の表面が悪影響を受けないこと、さらに、耐熱性クッション材が繰り返し利用可能であること、を見出し、本発明の完成に至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の態様で構成されうる。
〔態様1〕
(i)熱可塑性液晶ポリマーフィルム、(ii)導体層を一方の面に有する熱可塑性液晶ポリマーフィルム、および(iii)導体層を双方の面に有する熱可塑性液晶ポリマーフィルムからなる群から選択された少なくとも2枚の熱可塑性液晶ポリマー副構造を重ね合わせた予備積層体を、その上下面に配設した保護材を介して熱プレス機において加熱および加圧して熱可塑性液晶ポリマー多層構造体を製造する方法であって、
前記予備積層体の上下面の少なくとも一方に、当該熱プレス機側から順に耐熱性クッション材および金属板が配設され、
熱可塑性液晶ポリマーの熱圧着温度未満において、前記熱プレス機を第1の圧力に昇圧し、(I)前記予備積層体を、前記保護材を介して前記耐熱性クッション材および金属板で加圧し、(II)前記予備積層体の側方では、前記保護材の端部を前記耐熱性クッション材の加圧によりシールし、(III)前記保護材が前記予備積層体の全ての側面に接した状態で前記予備積層体を包み込むことにより、前記予備積層体が、所望の熱可塑性液晶ポリマー多層構造体の形状となるよう形状を固定する形状固定工程と、
前記第1の圧力から減圧し、前記第1の圧力より低い第2の圧力下で、熱圧着温度まで昇温し、隣接する熱可塑性液晶ポリマー副構造を熱圧着させる熱圧着工程と、
を備える、熱可塑性液晶ポリマー多層構造体の製造方法。
〔態様2〕
態様1に記載の製造方法であって、前記導体層が、導体パターン、導体箔、および導体膜からなる群から選択され、
前記熱可塑性液晶ポリマー多層構造体の上面および下面の少なくとも一方に導体パターンが形成されている場合、
当該導体パターンが形成されている表面に接する保護材は、前記導体パターンの形状に応じて変形可能な多層複合材であり、
当該導体パターンが形成されていない表面に接する保護材は、単層シートである、製造方法。
〔態様3〕
態様2に記載の製造方法であって、前記多層複合材が、第1の金属箔、互いにMD方向が直交する1対の高密度ポリエチレンシート、第2の金属箔、および低摩擦性フィルムで形成されている、製造方法。
〔態様4〕
態様1~3のいずれか態様に記載の製造方法であって、前記耐熱性クッション材が、耐熱性繊維クッション材である、製造方法。
〔態様5〕
態様4に記載の製造方法であって、前記耐熱性繊維クッション材が、金属繊維不織布または融点若しくは熱分解温度が260℃以上の有機繊維不織布である、製造方法。
〔態様6〕
態様1~5のいずれか一態様に記載の製造方法であって、第1の圧力と、第2の圧力との差が、0.8~2.5MPaである、製造方法。
〔態様7〕
態様1~6のいずれか一態様に記載の製造方法であって、前記耐熱性クッション材の縦方向の長さ(C)および横方向の辺の長さ(C)が、予備積層体の縦方向の長さ(P)および横方向の辺の長さ(P)に対し、以下の関係を有する、製造方法。
+1≦C≦P+10 (単位:cm)かつ
+1≦C≦P+10 (単位:cm)
〔態様8〕
態様1~7のいずれか一態様に記載の製造方法であって、前記金属板の縦方向の長さ(M)および横方向の辺の長さ(M)が、前記耐熱性クッション材の縦方向の長さ(C)および横方向の辺の長さ(C)および前記予備積層体の縦方向の長さ(P)および横方向の辺の長さ(P)に対し、以下の関係を有する、製造方法。
-1.0≦M≦P (単位:cm)
-1.0≦M≦P (単位:cm)
-11≦M≦C-1.2 (単位:cm)かつ
-11≦M≦C-1.2 (単位:cm)
【発明の効果】
【0010】
本発明では、熱可塑性液晶ポリマー多層構造体を効率よく製造することができるとともに、製造の際に用いた耐熱性クッション材を繰り返し利用でき、製造コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
この発明は、添付の図面を参考にした以下の好適な実施形態の説明から、より明瞭に理解される。図面は必ずしも一定の縮尺で示されておらず、本発明の原理を示す上で誇張したものになっている。
図1】本発明の第一の実施形態による熱可塑性液晶ポリマー多層構造体の製造方法について、形状固定工程前の状態を説明するための概略断面図である。
図2図1の実施形態について、形状固定工程において予備積層体に圧力を加える状態を説明するための概略断面図である。
図3】本発明の第二の実施形態による熱可塑性液晶ポリマー多層構造体の製造方法について、形状固定工程前の状態を説明するための概略断面図である。
図4】本発明の第三の実施形態による熱可塑性液晶ポリマー多層構造体の製造方法について、形状固定工程前の状態を説明するための概略断面図である。
図5図4の実施形態について、形状固定工程において予備積層体に圧力を加える状態を説明するための概略断面図である。
図6】比較例4~8による熱可塑性液晶ポリマー多層構造体の製造方法について、形状固定工程前の状態を説明するための概略断面図である。
図7】比較例9~13による熱可塑性液晶ポリマー多層構造体の製造方法について、形状固定工程前の状態を説明するための概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の熱可塑性液晶ポリマー多層構造体の製造方法では、(i)熱可塑性液晶ポリマーフィルム、(ii)導体層を一方の面に有する熱可塑性液晶ポリマーフィルム、および(iii)導体層を双方の面に有する熱可塑性液晶ポリマーフィルムからなる群から選択された少なくとも2枚の熱可塑性液晶ポリマー副構造を重ね合わせた予備積層体を、熱プレス機において上下両面から特定の加熱および加圧制御により熱圧着させ、隣り合う熱可塑性液晶ポリマー副構造が接着した熱可塑性液晶ポリマー多層構造体を製造する。
【0013】
(熱可塑性液晶ポリマー)
熱可塑性液晶ポリマーは、溶融成形できる液晶性ポリマー(または光学的に異方性の溶融相を形成し得るポリマー)で構成され、この熱可塑性液晶ポリマーは、溶融成形できる液晶性ポリマーであればその化学的構成については特に限定されるものではないが、例えば、熱可塑性液晶ポリエステル、又はこれにアミド結合が導入された熱可塑性液晶ポリエステルアミドなどを挙げることができる。
【0014】
また、熱可塑性液晶ポリマーは、芳香族ポリエステルまたは芳香族ポリエステルアミドに、更にイミド結合、カーボネート結合、カルボジイミド結合やイソシアヌレート結合などのイソシアネート由来の結合等が導入されたポリマーであってもよい。
【0015】
本発明に用いられる熱可塑性液晶ポリマーの具体例としては、以下に例示する(1)から(4)に分類される化合物およびその誘導体から導かれる公知の熱可塑性液晶ポリエステルおよび熱可塑性液晶ポリエステルアミドを挙げることができる。ただし、光学的に異方性の溶融相を形成し得るポリマーを形成するためには、種々の原料化合物の組合せには適当な範囲があることは言うまでもない。
【0016】
(1)芳香族または脂肪族ジヒドロキシ化合物(代表例は表1参照)
【表1】
【0017】
(2)芳香族または脂肪族ジカルボン酸(代表例は表2参照)
【表2】
【0018】
(3)芳香族ヒドロキシカルボン酸(代表例は表3参照)
【表3】
【0019】
(4)芳香族ジアミン、芳香族ヒドロキシアミンまたは芳香族アミノカルボン酸(代表例は表4参照)
【表4】
【0020】
これらの原料化合物から得られる液晶ポリマーの代表例として表5および6に示す構造単位を有する共重合体を挙げることができる。
【0021】
【表5】
【表6】
【0022】
これらの共重合体のうち、p―ヒドロキシ安息香酸および/または6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸を少なくとも繰り返し単位として含む重合体が好ましく、特に、(i)p-ヒドロキシ安息香酸と6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸との繰り返し単位を含む重合体、又は(ii)p-ヒドロキシ安息香酸および6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸からなる群から選ばれる少なくとも一種の芳香族ヒドロキシカルボン酸と、少なくとも一種の芳香族ジオールと、少なくとも一種の芳香族ジカルボン酸との繰り返し単位を含む共重合体が好ましい。
【0023】
例えば、(i)の重合体では、熱可塑性液晶ポリマーが、少なくともp-ヒドロキシ安息香酸と6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸との繰り返し単位を含む場合、繰り返し単位(A)のp-ヒドロキシ安息香酸と、繰り返し単位(B)の6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸とのモル比(A)/(B)は、液晶ポリマー中、(A)/(B)=10/90~90/10程度であるのが望ましく、より好ましくは、(A)/(B)=15/85~85/15程度であってもよく、さらに好ましくは、(A)/(B)=20/80~80/20程度であってもよい。
【0024】
また、(ii)の重合体の場合、p-ヒドロキシ安息香酸および6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸からなる群から選ばれる少なくとも一種の芳香族ヒドロキシカルボン酸(C)と、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、ヒドロキノン、フェニルヒドロキノン、および4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテルからなる群から選ばれる少なくとも一種の芳香族ジオール(D)と、テレフタル酸、イソフタル酸および2,6-ナフタレンジカルボン酸からなる群から選ばれる少なくとも一種の芳香族ジカルボン酸(E)の、液晶ポリマーにおける各繰り返し単位のモル比は、芳香族ヒドロキシカルボン酸(C):前記芳香族ジオール(D):前記芳香族ジカルボン酸(E)=(30~80):(35~10):(35~10)程度であってもよく、より好ましくは、(C):(D):(E)=(35~75):(32.5~12.5):(32.5~12.5)程度であってもよく、さらに好ましくは、(C):(D):(E)=(40~70):(30~15):(30~15)程度であってもよい。
【0025】
また、芳香族ヒドロキシカルボン酸(C)のうち6-ヒドロシキ-2-ナフトエ酸に由来する繰り返し単位のモル比率は、例えば、85モル%以上であってもよく、好ましくは90モル%以上、より好ましくは95モル%以上であってもよい。芳香族ジカルボン酸(E)のうち2,6-ナフタレンジカルボン酸に由来する繰り返し単位のモル比率は、例えば、85モル%以上であってもよく、好ましくは90モル%以上、より好ましくは95モル%以上であってもよい。
【0026】
また、芳香族ジオール(D)は、ヒドロキノン、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、フェニルヒドロキノン、および4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテルからなる群から選ばれる互いに異なる二種の芳香族ジオールに由来する繰り返し単位(D1)と(D2)であってもよく、その場合、二種の芳香族ジオールのモル比は、(D1)/(D2)=23/77~77/23であってもよく、より好ましくは25/75~75/25、さらに好ましくは30/70~70/30であってもよい。
【0027】
また、芳香族ジオールに由来する繰り返し構造単位と芳香族ジカルボン酸に由来する繰り返し構造単位とのモル比は、(D)/(E)=95/100~100/95であることが好ましい。この範囲をはずれると、重合度が上がらず機械強度が低下する傾向がある。
【0028】
なお、本発明にいう光学的に異方性の溶融相を形成し得るとは、例えば試料をホットステージにのせ、窒素雰囲気下で昇温加熱し、試料の透過光を観察することにより認定できる。
【0029】
熱可塑性液晶ポリマーとして好ましいものは、融点(以下、Tmと称す)が260~360℃の範囲のものであり、さらに好ましくはTmが270~350℃のものである。なお、Tmは示差走査熱量計((株)島津製作所DSC)により主吸熱ピークが現れる温度を測定することにより求められる。
【0030】
前記熱可塑性液晶ポリマーには、本発明の効果を損なわない範囲内で、ポリエチレンテレフタレート、変性ポリエチレンテレフタレート、ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、フッ素樹脂等の熱可塑性ポリマー、各種添加剤、充填剤などを添加してもよい。
【0031】
熱可塑性液晶ポリマーフィルムは、例えば、前記熱可塑性液晶ポリマーの溶融混練物を押出成形して得られる。押出成形法としては任意の方法のものが使用されるが、周知のTダイ法、インフレーション法等が工業的に有利である。特にインフレーション法では、熱可塑性液晶ポリマーフィルムの機械軸方向(以下、MD方向と略す)だけでなく、これと直交する方向(以下、TD方向と略す)にも応力が加えられ、MD方向、TD方向に均一に延伸できることから、MD方向とTD方向における分子配向性、誘電特性などを制御した熱可塑性液晶ポリマーフィルムが得られる。
【0032】
例えば、Tダイ法による押出成形では、Tダイから押出した溶融体シートを、熱可塑性液晶ポリマーフィルムのMD方向だけでなく、これとTD方向の双方に対して同時に延伸して製膜してもよいし、またはTダイから押出した溶融体シートを一旦MD方向に延伸し、ついでTD方向に延伸して製膜してもよい。
【0033】
また、インフレーション法による押出成形では、リングダイから溶融押出された円筒状シートに対して、所定のドロー比(MD方向の延伸倍率に相当する)およびブロー比(TD方向の延伸倍率に相当する)で延伸して製膜してもよい。
【0034】
このような押出成形の延伸倍率は、MD方向の延伸倍率(またはドロー比)として、例えば、1.0~10程度であってもよく、好ましくは1.2~7程度、さらに好ましくは1.3~7程度であってもよい。また、TD方向の延伸倍率(またはブロー比)として、例えば、1.5~20程度であってもよく、好ましくは2~15程度、さらに好ましくは2.5~14程度であってもよい。
【0035】
(導体層と熱可塑性液晶ポリマーフィルムとの一体化工程)
熱可塑性液晶ポリマーフィルムに対して、導体層(信号層、電源層、グラウンド層などの導電性がある層、例えば、導体パターン、導体箔、導体膜など)を形成する場合は、公知又は慣用の方法により導体層と熱可塑性液晶ポリマーフィルムとの一体化工程を行うことができる。この一体化工程により、導体層を一方の面に有する熱可塑性液晶ポリマーフィルムを作製してもよく、導体層を双方の面に有する熱可塑性液晶ポリマーフィルムを作製してもよい。
例えば、熱可塑性液晶ポリマーフィルムに対して金属箔などを熱圧着して片面金属張積層体または両面金属張積層体とし、必要に応じてさらにエッチングすることなどにより、必要な導体層の形状を形成してもよい。
【0036】
導体層を形成する導体としては、導電性を有する各種金属、例えば、金、銀、銅、鉄、ニッケル、アルミニウムまたはこれらの合金金属などであってもよい。導体層の厚みは、必要に応じて適宜設定することができ、例えば、5~50μm程度であってもよく、より好ましくは8~35μmの範囲であってもよい。
【0037】
このようにして、熱可塑性液晶ポリマー多層構造体において用いられる熱可塑性液晶ポリマー副構造として、(i)熱可塑性液晶ポリマーフィルム、(ii)導体層を一方の面に有する熱可塑性液晶ポリマーフィルム、および(iii)導体層を双方の面に有する熱可塑性液晶ポリマーフィルムを作製することができる。
【0038】
(脱気乾燥工程)
必要に応じて、熱可塑性液晶ポリマー副構造は、熱可塑性液晶ポリマーフィルムに存在するエアーや水分を除去するための脱気乾燥工程へ供せられてもよい。脱気乾燥工程は、形状固定工程に先立って、個々の熱可塑性液晶ポリマー副構造およびこれらの組合わせに対して行われてもよいし、形状固定工程の一部として予備積層体に対して行われてもよいし、双方が行われてもよい。
【0039】
形状固定工程に先立って行われる場合、脱気乾燥工程は、形状固定工程の前に行われる限り特にタイミングは限定されず、例えば、熱可塑性液晶ポリマーフィルムと導体層との一体化工程に先立って、熱可塑性液晶ポリマーフィルムにおいて行われてもよいし、熱可塑性液晶ポリマーフィルムと導体層との一体化工程の一部として行われてもよい。
脱気乾燥工程により、熱可塑性液晶ポリマー副構造の熱接着性を向上することができ、熱可塑性液晶ポリマー副構造の層間接着性を向上することができる。
【0040】
脱気乾燥工程に供せられる熱可塑性液晶ポリマー副構造は、熱可塑性液晶ポリマーフィルムの脱気乾燥が可能である限り、その形状は特に限定されない。例えば、脱気乾燥工程において、熱可塑性液晶ポリマー副構造は、熱可塑性液晶ポリマーフィルム自体であってもよいし、熱可塑性液晶ポリマーフィルムの一方または双方の面に導体層が形成された熱可塑性液晶ポリマー副構造のシート物として供せられてもよい。さらに、これらの熱可塑性液晶ポリマー副構造は、必要に応じて、ロール状物として供せられてもよい。
【0041】
さらにまた、必要に応じて、熱可塑性液晶ポリマー副構造は、複数の熱可塑性液晶ポリマー副構造の多層積層物(例えば、熱可塑性液晶ポリマー副構造が複数層に重ねられた多層積層物、仮組した多層回路など)の状態で、脱気乾燥工程に供せられてもよい。
【0042】
脱気乾燥工程では、熱可塑性液晶ポリマー副構造に対して、特定の真空下での脱気乾燥(例えば真空乾燥)および/または加熱下での脱気乾燥(例えば加熱乾燥)を行うことにより、熱可塑性液晶ポリマーフィルムの内部や表面に存在するエアーや水分を極めて高度に低減することが可能となる。そして、このような脱気乾燥工程を経た熱可塑性液晶ポリマー副構造では、その熱接着性を向上させることが可能となる。
【0043】
例えば、脱気乾燥工程が行われた熱可塑性液晶ポリマーフィルムでは、スキン層を破壊するといった軟化処理を行わなくとも、高い接着性を達成することが可能となる。ただし、本発明は軟化処理を否定するものではない。熱可塑性液晶ポリマーフィルムには、必要に応じて、軟化処理などの表面処理が行われてもよい。
【0044】
脱気乾燥工程では、熱可塑性液晶ポリマー副構造を、(a)真空度1500Pa以下で30分以上、真空下で脱気乾燥させることにより、および/または(b)80℃~300℃の範囲で、加熱下で脱気乾燥させることより、熱可塑性液晶ポリマーフィルムを脱気乾燥することができる。脱気乾燥工程では、上記(a)真空下での脱気乾燥工程または(b)加熱下での脱気乾燥工程のいずれか一方を充足する条件で脱気乾燥すればよいが、上記(a)および(b)の双方を充足する条件で脱気乾燥することが好ましい。
【0045】
(a)および(b)の双方を充足する条件で脱気乾燥する場合とは、(a)および(b)の双方が同時に充足される条件(すなわち、真空加熱下)で行われる脱気乾燥工程であってもよいし、熱可塑性液晶ポリマー副構造に対して(a)および(b)の条件が別々に行われる脱気乾燥工程、すなわち(a)から(b)の順、または(b)から(a)の順で別々に行われる脱気乾燥工程であってもよい。
【0046】
なお、別々に脱気乾燥工程を行う場合、熱可塑性液晶ポリマーフィルムの熱接着性に悪影響を与えない範囲において、(a)および(b)の間、または(b)および(a)の間に別乾燥工程が行われてもよい。
【0047】
また、脱気乾燥工程では、脱気乾燥性を向上させる観点から、実質的に加圧を行わない無加圧下(圧力解放下)で脱気乾燥を行ってもよい。例えば、低加圧または圧力解放状態(例えば、0~0.7MPa程度の圧力下、好ましくは0~0.5MPa程度の圧力下)で脱気乾燥工程を行ってもよい。
【0048】
(a)真空下での脱気乾燥は、真空度1500Pa以下で行われてもよく、好ましくは1300Pa以下、より好ましくは1100Pa以下で行われてもよい。真空下での脱気乾燥を独立して行う場合、常温下(例えば10~50℃、好ましくは15~45℃の範囲)において行われてもよいが、脱気乾燥効率を高める観点から加熱下で行ってもよい。その場合の加熱温度は、例えば、50~300℃(例えば、50~250℃)、好ましくは80~250℃、より好ましくは80~200℃程度であってもよい。
【0049】
(b)加熱下での脱気乾燥は、80~300℃の範囲で行われてもよく、好ましくは80~250℃の範囲、より好ましくは80~200℃の範囲で行ってもよい。また、加熱下での脱気乾燥は、熱可塑性液晶ポリマーフィルムの融点Tmに対して、所定の温度範囲を設定してもよい。その場合は、例えば、(Tm-235)℃~(Tm-10)℃の範囲(例えば、(Tm-200)℃~(Tm-50)℃の範囲)で加熱してもよく、好ましくは、(Tm-225)℃~(Tm-50)℃の範囲(例えば、(Tm-190)℃~(Tm-60)℃の範囲)、より好ましくは、(Tm-215)℃~(Tm-70)℃の範囲(例えば、(Tm-180)℃~(Tm-70)℃の範囲)で行われてもよい。
【0050】
上述のような、特定の温度範囲において加熱することにより、フィルムから急激に水分が発生することを抑制しつつ、フィルム中(例えば、フィルム内部やフィルム表面)の水を水蒸気として脱気乾燥したり、表面に存在するエアーの運動エネルギーを高めてフィルム表面から脱気乾燥することが可能となる。
【0051】
なお、加熱下での脱気乾燥を単独で行う場合、真空度1500Pa以下を含まない条件下で行われてもよく、例えば、圧力を調整しない大気圧下(または常圧下)で行ってもよいが、必要に応じて、大気圧から減圧された条件下(例えば、1500Paを超えて100000Pa未満、好ましくは3000~50000Pa程度)で加熱してもよい。
【0052】
脱気乾燥工程に要する時間は、熱可塑性液晶ポリマー副構造中の熱可塑性液晶ポリマーフィルムの状態、真空度および/または加熱温度などの各種条件により適宜設定することができるが、熱可塑性液晶ポリマーフィルム全体から水分やエアーを除去する観点から、例えば、それぞれの脱気乾燥工程(真空下、加熱下、真空加熱下)について、同一または異なって、30分以上、40分以上、または50分以上であってもよく、6時間以下、4時間以下、3時間以下、2時間以下、または1.5時間以下であってもよい。
また、脱気乾燥工程に要する時間は、例えば、熱可塑性液晶ポリマーフィルムの水分率が、所定の範囲(例えば、380ppm以下、300ppm以下、または200ppm以下)になる時点を見計らって適宜設定してもよい。
【0053】
上述したように、脱気乾燥工程において、(a)真空下での脱気乾燥と(b)加熱下での脱気乾燥とを組み合わせて行う場合、熱可塑性液晶ポリマー副構造の熱接着性を向上できる範囲で、(a)真空下での脱気乾燥と(b)加熱下での脱気乾燥の順序はいずれを先にしてもよいが、好ましくは、第一の脱気乾燥工程として加熱下での脱気乾燥を行った後、第二の脱気乾燥工程として真空下での脱気乾燥を行ってもよい。
具体的には、例えば、脱気乾燥工程が、80℃~300℃の範囲で所定の時間加熱して、脱気乾燥を行う第一の脱気乾燥工程と、真空度1500Pa以下で、さらに所定の時間脱気乾燥を行う第二の脱気乾燥工程とを備えていてもよい。これらの脱気乾燥工程を行う際には、上述した条件を適宜組み合わせて行うことができる。
【0054】
[第一の実施形態に係る製造方法]
本発明の一実施形態に係る熱可塑性液晶ポリマー多層構造体の製造方法を、図1および2を参照しつつ、以下に説明する。図1は、本発明の一実施形態による熱可塑性液晶ポリマー多層構造体の製造方法について、形状固定工程前の状態を説明するための概略断面図であり、図2は、形状固定工程において予備積層体に圧力を加える状態を説明するための概略断面図である。
【0055】
図1に示すように、本発明の第一の実施形態においては、上プラテン110および下プラテン120を備える熱プレス機(好ましくは真空熱プレス機)100により、上下両面から予備積層体130が加熱および加圧される。予備積層体130は、上から順に、3枚の熱可塑性液晶ポリマー副構造131,l32,133で構成されている。熱可塑性液晶ポリマー副構造131および132には、上面にのみ導体パターンが形成され、熱可塑性液晶ポリマー副構造133には、上下面に導体パターンが形成されている。そのため、予備積層体130の上下面には、導体パターンが導体層として形成されている。
【0056】
予備積層体130の上方には、第1の保護材142が配設され、予備積層体130の下方には、第2の保護材144が配設される。第1の保護材142と上プラテン110との間には、上プラテン110側に第1の耐熱性クッション材150が配設され、第1の保護材142側に第1の金属板152が配設される。一方、第2の保護材144と下プラテン120との間には、下プラテン120側に第2の耐熱性クッション材160が配設され、第2の保護材144側に第2の金属板162が配設される。
【0057】
(形状固定工程)
形状固定工程では、熱可塑性液晶ポリマーの熱圧着温度未満において、前記熱プレス機を第1の圧力に昇圧し、(I)前記予備積層体を、前記保護材を介して前記耐熱性クッション材および金属板で加圧し、(II)前記予備積層体の側方では、前記保護材の端部を前記耐熱性クッション材の加圧によりシールし、(III)前記保護材が前記予備積層体の全ての側面に接した状態で前記予備積層体を包み込むことにより、前記予備積層体が、所望の熱可塑性液晶ポリマー多層構造体の形状となるよう形状を固定する。
例えば、図2に示すように、まず熱プレス機100からの加圧に従って、上下プラテン110,120、第1および第2の耐熱性クッション材150,160、第1および第2の金属板152,162、並びに第1および第2の保護材142,144により、上下両面から予備積層体130を挟み、前記予備積層体130が、所望の熱可塑性液晶ポリマー多層構造体の形状となるように、第1の圧力へ昇圧し、所定の時間、予備積層体130に対する加圧を行う。この形状固定工程では、第1の圧力によって、第1および第2の耐熱性クッション材150,160が、予備積層体130の上面および下面において、予備積層体130の厚みに応じて沈み込む。
【0058】
その結果、予備積層体130の上面および下面は、それぞれ第1および第2の保護材142,144を介して第1および第2の耐熱性クッション材150,160により加圧される。一方、予備積層体の配設されていない箇所である予備積層体130の側方では、第1および第2の保護材142,144が互いに接する状態で、第1および第2の耐熱性クッション材150,160により加圧される。
【0059】
その結果、第1および第2の保護材142,144は、それぞれ予備積層体130の上面および下面に接する部分を保護するとともに、予備積層体130の全ての側面に接した状態で、前記予備積層体130を包み込み、予備積層体130の側方において第1および第2の耐熱性クッション材150,160でシールされる。そして、第1および第2の保護材142,144でシール構造を形成することにより、予備積層体130の形状が側面も含めて固定される。その結果、予備積層体130が、所望の熱可塑性液晶ポリマー多層構造体の形状となるように形状を固定され、後で行われる熱圧着工程において予備積層体130の熱可塑性液晶ポリマーが加圧下で横にフローするのを抑制することができる。
【0060】
形状固定工程で予備積層体に対して負荷される第1の圧力は、耐熱性クッション材の形状を変形させて、予備積層体を所望の形状とすることができる限り特に限定されないが、例えば、2~6MPaであってもよく、好ましくは2.5~5.5MPa、より好ましくは3~5MPa、さらに好ましくは3.5~4.5MPaであってもよい。
【0061】
なお、第1の圧力へ昇圧する工程は、室温下で行ってもよいし、熱圧着工程での熱圧着温度未満(例えば、融着対象の熱可塑性液晶ポリマーのガラス転移温度未満)であれば、適宜加熱された状態であってもよい。加熱する場合は、昇圧する前から加熱されていてもよい。加熱することにより、予備積層体を脱気して接着性を高めることができる。なお、
動的粘弾性測定(DMA)にて3℃/分の速度で25℃から220℃まで昇温したときに現れるtanDのピーク温度をガラス転移温度とする。
【0062】
脱気乾燥工程の項で述べたように、脱気乾燥工程は、形状固定工程の一部として予備積層体に対して行われてもよい。この場合、脱気乾燥条件は、前述した脱気乾燥工程で記載された条件を参照して行われてもよい。予備積層体を脱気乾燥する観点からは、第1の圧力へ昇圧する前から加熱するのが好ましい。例えば加熱温度としては、熱圧着工程での熱圧着温度未満であれば特に限定されないが、例えば、熱圧着温度をT℃とした場合、(T-200)~(T-50)℃であってもよく、好ましくは(T-180)~(T-70)℃、より好ましくは(T-160)~(T-90)℃であってもよい。具体的には、例えば80~300℃、好ましくは80~200℃の範囲で加熱することにより行われてもよく、より好ましくは100~200℃の範囲、さらに好ましくは115~200℃範囲で行われてもよい。
また、前記加熱温度で保持する時間は、例えば、5~120分、好ましくは5~60分程度であってもよく、熱可塑性液晶ポリマーフィルムの水分率が、所定の範囲(例えば、380ppm以下、300ppm以下、または200ppm以下)になる時点を見計らって適宜設定してもよい。
【0063】
(熱圧着工程)
熱圧着工程では、第1の圧力から減圧し、前記第1の圧力より低い第2の圧力下で、熱圧着温度まで昇温し、隣接する熱可塑性液晶ポリマー副構造を熱圧着させる。
具体的には、形状固定工程により、所望の形状へと予備積層体の形状を固定した後、次いで、減圧を行い、第1の圧力よりも低い第2の圧力へ減圧する。耐熱性クッション材は変形しつつも反発弾性を有するため、予備積層体の形状に寄り添いつつ、保護材との位置を変えずに予備積層体の形状を維持することができる。特に、本発明で用いられる耐熱性繊維クッション材は、繊維で形成されるためか、第1の圧力から所定の圧力へ減圧しても、加圧下であれば繊維間の空隙の形状をそのまま固定することができる。その結果、減圧を行っても、すでに固定された耐熱性クッション材と保護材の位置を変えず予備積層体の形状を維持することができる。
【0064】
第2の圧力は、変形した耐熱性クッション材や保護材の形状を保持し、予備積層体を所定の形状に固定するとともに、加熱温度に応じて、熱可塑性液晶ポリマー分子が過度に流動しない範囲で適宜選択することができ、例えば、0.5~3.5MPaであってもよく、好ましくは1.0~3.0MPa、より好ましくは1.5~2.5MPaであってもよい。
【0065】
第1の圧力と、第2の圧力との差は、例えば、0.8~2.5MPa程度であってもよく、好ましくは、1.3~2.3MPa程度であってもよい。
【0066】
例えば、図2に示すように、熱圧着工程では、前記第2の圧力下、予備積層体130の温度を熱圧着温度まで昇温し、所定の時間保持することにより、隣接する熱可塑性液晶ポリマー副構造131,132,133同士が熱圧着される。
【0067】
第1および第2の金属板152,162が配設されることにより、熱圧着工程において、前記第1および第2の耐熱性クッション材150,160に由来する模様などが予備積層体130の表面に写りこむのを防ぐことができる。
【0068】
一方、熱圧着の際には、予備積層体130の上下面に形成された導体パターンは保護材142,144により保護されるため、金属板からの圧力を受けても、導体パターンがずれることなく熱圧着を行うことができる。このような保護材としては、導体パターンの形状に応じて変形可能な多層複合材が好ましい。
【0069】
熱圧着温度は、熱可塑性液晶ポリマー副構造を形成する熱可塑性液晶ポリマー間で、隣接するユニットのいずれか一方が融着できる範囲であれば限定されない。
【0070】
例えば、熱圧着温度は、事前に熱可塑性液晶ポリマー副構造の熱融着温度を把握した上で決定してもよい。例えば、融着対象の熱可塑性液晶ポリマーフィルムの融点を(Tm)とした場合、熱圧着温度は、例えば(Tm-20)~(Tm+20)℃の範囲であってもよく、好ましくは(Tm-15)~(Tm+5)℃程度であってもよい。確実な融着を行う観点からは、融着対象の熱可塑性液晶ポリマーフィルムを、予備積層体の中で最も融点の高い熱可塑性液晶ポリマーフィルムとしてもよい。
【0071】
また、熱圧着温度で保持する時間は、例えば、1~30分、好ましくは1~15分程度であってもよい。
【0072】
熱圧着工程後、温度を降下させ、圧力を解放した後、熱可塑性液晶ポリマー多層構造体を保護材から取り外して、所望の形状(積層構造)を有する熱可塑性液晶ポリマー多層構造体を得ることができる。また、耐熱性クッション材は、圧力解放により、反発弾性が回復してクッション性を維持することができるため、耐熱性クッション材を複数回使用することが可能である。特に耐熱性繊維クッション材では、繊維間の空隙が増加してクッション性を維持することができるため、耐熱性クッション材を複数回(特に10回以上)繰り返し使用することが可能である。
【0073】
[第二の実施形態に係る製造方法]
図3に、第二の実施形態に係る製造方法について、形状固定工程前の状態を説明するための概略断面図を示す。図3において、図1と同一または対応する部材には同じ番号を付し、説明を省略している。第二の実施形態に係る製造方法は、第一の実施形態に係る製造方法と比較して、基本的に同様の工程を備えており、重複する工程についてはその説明を繰り返さない。
【0074】
図3に示すように、本発明の第二の実施形態においては、熱プレス機200からの加圧に従って、上下プラテン110,120、第1および第2の耐熱性クッション材150,160、第1および第2の金属板152,162、および第1および第2の保護材242,244により、上下両面から予備積層体230が加熱および加圧される。予備積層体230は、上から順に、3枚の熱可塑性液晶ポリマー副構造231,232,233で構成されている。熱可塑性液晶ポリマー副構造231は、熱可塑性液晶ポリマー層単体であり、熱可塑性液晶ポリマー副構造232,233には、熱可塑性液晶ポリマー層の上面にのみ導体パターンが形成されている。そのため、予備積層体230には、その上下面に導体パターンが存在していない。
【0075】
予備積層体230の上方には、第1の保護材242が配設され、予備積層体230の下方には、第2の保護材244が配設される。第1の保護材242と上プラテン110との間には、上プラテン110側に第1の耐熱性クッション材150が配設され、第1の保護材242側に第1の金属板152が配設される。一方、第2の保護材244と下プラテン120との間には、下プラテン120側に第2の耐熱性クッション材160が配設され、第2の保護材244側に第2の金属板162が配設される。
【0076】
(形状固定工程)
形状固定工程では、第1および第2の保護材242,244が図2の第1および第2の保護材142,144に代えて用いられること以外は、図2とほぼ同様に行われる。第2の実施形態では、第1および第2の保護材242,244はそれぞれ前記予備積層体230の上下面を取り囲むとともに、予備積層体230の側方へとはみ出た第1および第2の保護材242,244の端部は、前記第1および第2の耐熱性クッション材150,160により上下方向から圧迫される。
【0077】
(熱圧着工程)
形状固定工程により、所望の形状へと予備積層体230の形状を固定した後、次いで、減圧を行い、第1の圧力よりも低い第2の圧力へ減圧する。そして、前記第2の圧力下、予備積層体230の温度を熱圧着温度まで昇温し、所定の時間保持することにより、隣接する熱可塑性液晶ポリマー副構造231,232,233同士が熱圧着される。
【0078】
予備積層体230の上下面には導体パターンが形成されていないため、熱圧着の際には、金属板からの圧力を受けても、予備積層体230の上下面の形状に影響を及ぼさず熱圧着を行うことができる。このような場合、製造工程の簡略化のために第1および第2の保護材242,244として単層シートを用いてもよい。
【0079】
なお、熱可塑性液晶ポリマー多層構造体の上面および下面の少なくとも一方に導体パターンが形成されている場合、当該導体パターンが形成されている表面に接する保護材は、前記導体パターンの形状に応じて変形可能な多層複合材であってもよく、当該導体パターンが形成されていない表面に接する保護材は、単層シートであってもよい。
【0080】
[第三の実施形態に係る製造方法]
本発明の別の実施形態に係る熱可塑性液晶ポリマー多層構造体の製造方法を、図4および図5を参照しつつ、以下に説明する。本発明では、予備積層体の上下面の少なくとも一方に、当該予備積層体の表面に対して近い方から順に保護材、金属板、および耐熱性クッション材を配設すればよいため、図4および5では、これらを予備積層体の一方の面に配設している。図ではわかりやすさを重視して、予備積層体の上方のみに金属板および耐熱性クッション材を配設しているが、当然、予備積層体の下方のみに金属板、および耐熱性クッション材を配設してもよい。
【0081】
図4は、本発明の第三の実施形態による熱可塑性液晶ポリマー多層構造体の製造方法について、形状固定工程前の状態を説明するための概略断面図であり、図5は、形状固定工程において予備積層体に圧力を加える状態を説明するための概略断面図である。図4および図5において、図1と同一または対応する部材には同じ番号を付し、説明を省略している。第三の実施形態に係る製造方法は、第一の実施形態に係る製造方法と比較して、基本的に同様の工程を備えており、重複する工程についてはその説明を繰り返さない。
【0082】
図4に示すように、本発明の第三の実施形態においては、上プラテン110および下プラテン120を備える熱プレス機300により、上下両面から予備積層体130が加熱および加圧される。予備積層体130は、上から順に、3枚の熱可塑性液晶ポリマー副構造131,l32,133で構成されている。熱可塑性液晶ポリマー副構造131および132には、上面にのみ導体パターンが形成され、熱可塑性液晶ポリマー副構造133には、上下面に導体パターンが形成されている。そのため、予備積層体の上下面には、導体パターンが導体層として形成されている。
【0083】
予備積層体130の上方には、第1の保護材142が配設され、予備積層体130の下方には、第2の保護材144が配設される。第1の保護材142と上プラテン110との間には、上プラテン110側に第1の耐熱性クッション材150が配設され、第1の保護材142側に第1の金属板152が配設される。一方、第2の保護材144と下プラテン120との間には、何も配設されず、加圧時には、第2の保護材144は下プラテン120に直接接触する。
【0084】
本発明では、予備積層体の上下面の少なくとも一方に、当該予備積層体の表面に対して近い方から順に保護材、金属板、および耐熱性クッション材が配設されればよく、第1の耐熱性クッション材150単独でも、上下プラテンによる加圧に対して予備積層体に対する十分な沈み込み性を達成できるため、下プラテン側において、金属板および耐熱性クッション材の配設が省略されている。
【0085】
(形状固定工程)
図5に示すように、上プラテン110および下プラテン120を備える熱プレス機300により、上面から第1の耐熱性クッション材150、第1の金属板152および第1の保護材142で、下面から第2の保護材144で、上下両面から予備積層体130を挟み、前記予備積層体130が、所望の熱可塑性液晶ポリマー多層構造体の形状となるように、第1の圧力へ昇圧し、所定の時間、予備積層体130に対する加圧を行う。この形状固定工程では、第1の圧力によって、前記第1の耐熱性クッション材150が変形する。
【0086】
前記第1および第2の保護材142,144は、それぞれ前記予備積層体130の上下面を取り囲むとともに、予備積層体130の側方へとはみ出た第1および第2の保護材142,144の端部は、さらに第1の耐熱性クッション材150および下プラテン120により上下方向から圧迫される。この場合、第1および第2の保護材142,144のシール構造は、下プラテン120に対する第1の耐熱性クッション材150の圧迫により形成される。このシール構造により、予備積層体130の形状が側面も含めて固定され、後で行われる昇温工程において予備積層体130の熱可塑性液晶ポリマーが加圧下で横にフローするのを抑制することができる。
【0087】
一方、第1の金属板152が配設されることにより、形状固定工程において前記第1の耐熱性クッション材150が変形する程圧力がかかったとしても、耐熱性クッション材150に由来する模様などが予備積層体130の表面に写りこむのを防ぐことができる。
【0088】
また、前記第1の耐熱性クッション材150の変形に追随し、第1および第2の保護材142,144は、その端部が予備積層体130の側面を包み込むよう変形する。その結果、予備積層体130の側面は、保護材142,144および耐熱性クッション材150により包み込まれ、予備積層体130が所望の熱可塑性液晶ポリマー多層構造体の形状となるように、形状を固定することができる。
【0089】
なお、第1の圧力へ昇圧する工程は、室温下で行ってもよいし、熱可塑性液晶ポリマーの熱圧着温度未満であれば、適宜加熱された状態であってもよい。加熱する場合は、昇圧する前から加熱されていてもよい。
【0090】
(熱圧着工程)
形状固定工程により、所望の形状へと予備積層体130の形状を固定した後、次いで、減圧を行い、第1の圧力よりも低い第2の圧力へ減圧する。熱圧着工程では、前記第2の圧力下、予備積層体130の温度を熱圧着温度まで昇温し、所定の時間保持することにより、隣接する熱可塑性液晶ポリマー副構造131,132,133同士が熱圧着される。熱圧着の際には、予備積層体130の上下面に形成された導体パターンは保護材142,144により保護されるため、金属板からの圧力を受けても、導体パターンがずれることなく熱圧着を行うことができる。
【0091】
熱圧着工程後、温度を降下させ、圧力を解放した後、熱可塑性液晶ポリマー多層構造体を保護材から取り外して、所望の形状(積層構造)を有する熱可塑性液晶ポリマー多層構造体を得ることができる。
【0092】
上述した代表的な第1、第2および第3の実施形態以外にも、本発明の概念に基づいて、さまざまな実施形態が含まれうる。以下に、各実施形態において共通する点を説明する。
【0093】
(耐熱性クッション材)
耐熱性クッション材は、変形性を有しつつも、反発弾性を有する限り特に限定されず、好ましい耐熱性クッション材としては、耐熱性クッションシート、耐熱性繊維クッション材などを挙げることができる。
【0094】
変形性を有しつつも、反発弾性を有する観点から、耐熱性クッション材の目付は、構成素材の種類に応じて適宜選択することができるが、良好な反発弾性を有する観点から、例えば、100~3000g/mであってもよく、好ましくは150~2500g/m、より好ましくは300~2000g/mであってもよい。また、これらの耐熱性クッション材を数枚重ねてクッション性を増やしても良い。
【0095】
例えば、耐熱性繊維クッション材は、耐熱性の繊維集合体で形成されたクッション材である。耐熱性繊維集合体は、例えば、熱圧着温度における使用が可能な耐熱性繊維、例えば、熱変形温度が熱圧着温度以上である耐熱性繊維で形成されていればよく、求められる耐熱性は熱圧着温度に応じて設定することができる。例えば、耐熱性繊維の目安としては、260℃でクッション材としての使用が可能な繊維であってもよい。
【0096】
耐熱性繊維としては、耐熱性有機繊維、金属繊維、無機繊維などが挙げられる。より詳細には、耐熱性有機繊維としては、融点または熱分解温度が260℃以上である繊維であってもよく、例えば、アラミド繊維(メタ系アラミド繊維、パラ系アラミド繊維)、半芳香族ポリアミド系繊維(例えば、C脂肪族ジアミン単位と芳香族ジカルボン酸単位とで構成されるポリアミド(PA9C)繊維)、ポリイミド(PI)繊維、ポリフェニレンサルファイド(PPS)繊維、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)繊維、ポリベンズイミダゾール(PBI)繊維、ポリパラフェニレンベンズオキサゾール(PBO)繊維、ノボロイド繊維などが挙げられる。金属繊維としては、ステンレス鋼繊維、銅繊維、ニッケル繊維、アルミニウム繊維などが挙げられる。無機繊維としては、ガラス繊維などが挙げられる。これらの繊維は耐熱性繊維クッション材を構成する繊維として、単独でまたは二種以上組み合わせて使用してもよい。
【0097】
繊維集合体としては、クッション性を呈する繊維集合体であれば特に限定されず、織物、編物、機械的結合不織布(例えば、ニードルパンチ不織布など)、フェルト、ウェブなどであってもよく、クッション性の観点から、不織布、フェルト、金属繊維や無機繊維の板状成形物が好ましく、金属繊維不織布または融点若しくは熱分解温度が260℃以上の有機繊維不織布であることがより好ましい。
【0098】
耐熱性繊維クッション材のファイバー径は、例えば、1~30μmであってもよく、好ましくは2~20μmであってもよく、より好ましくは5~18μmであってもよい。
【0099】
また、耐熱性クッションシートは、繊維以外の、耐熱性の材料で形成されたクッション材である。繊維以外の耐熱性の材料としては、耐熱性樹脂や耐熱性ゴムなどが挙げられる。耐熱性クッションシートとしては、ショア硬度がA50~A95程度である耐熱性クッションシート、例えば、西部ポリマ化成(株)製「スーパーテンペックス」や、(株)金陽社製「シルベスト」などが挙げられる。
【0100】
本発明の製造工程によれば、耐熱性クッション材は、繰り返し使用することができ、製造コストを低減することができる。
【0101】
また、耐熱性クッション材の縦方向の長さ(C)および横方向の辺の長さ(C)が、予備積層体の縦方向の長さ(P)および横方向の辺の長さ(P)に対し、以下の関係を有しているのが好ましい。
+1≦C≦P+10 (単位:cm)かつ
+1≦C≦P+10 (単位:cm)
より好ましくは、以下の関係を有しているのが好ましい。
+2≦C≦P+8 (単位:cm)かつ
+2≦C≦P+8 (単位:cm)
【0102】
耐熱性クッション材は、例えば、厚みが、0.5~20mm程度であってもよく、好ましくは1~18mm程度、さらに好ましくは1.5~16mm程度であってもよい。
【0103】
また、熱プレスにより積層する予備積層体の積層後の総厚みをD(単位:mm)、とした場合、耐熱性クッション材の厚みは、熱プレス機における総厚みとして、(D+0.5)~(D+20)mm程度、好ましくは(D+1)~(D+15)mm程度、さらに好ましくは(D+2)~(D+10)mm程度であってもよい。
【0104】
(金属板)
金属板は、耐熱性クッション材に由来する形状が、熱可塑性液晶ポリマー多層構造体の表面に写るのを防ぐために配設される。したがって、耐熱性クッション材が配設されない場合は、金属板についても配設しなくてもよい。
金属板を構成する金属としては、例えば、耐圧縮性の高い公知または慣用の金属材料を用いることができ、好ましくはステンレス鋼または銅である。
【0105】
金属板は、例えば、厚みが、0.1~2mm程度であってもよく、好ましくは0.2~0.8mm程度、さらに好ましくは0.3~0.6mm程度であってもよい。
【0106】
また、金属板の縦方向の長さ(M)および横方向の辺の長さ(M)は、耐熱性クッション材の縦方向の長さ(C)および横方向の辺の長さ(C)および予備積層体の縦方向の長さ(P)および横方向の辺の長さ(P)に対し、以下の関係を有していてもよい。
-1.0≦M≦P (単位:cm)
-1.0≦M≦P (単位:cm)
-11≦M≦C-1.2 (単位:cm)かつ
-11≦M≦C-1.2 (単位:cm)
【0107】
好ましくは、以下の関係を有していてもよい。
-0.8≦M≦P(単位:cm)
-0.8≦M≦P(単位:cm)
-8≦M≦C-0.5 (単位:cm)かつ
-8≦M≦C-0.5 (単位:cm)
【0108】
(保護材)
保護材は、熱圧着工程において、予備積層体の表面、すなわち、上下面および側面を包み込むことにより、予備積層体の表面を保護するために用いられる。保護材としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレンシート、ポリイミドシート、アルミ箔などの金属箔と耐熱性ポリマーシートとの複合材などが挙げられる。
【0109】
保護材は、例えば、予備積層体の表面の状態に応じて適宜使い分けてもよく、予備積層体の最外表面に導体パターンが形成されている場合、当該最外表面に接する保護材は、前記導体パターンの形状に応じて変形可能な多層複合材であってもよい。
【0110】
一方、予備積層体の最外表面に導体パターンが形成されている場合、当該最外表面に接する保護材は、前記導体パターンの形状に応じて変形可能な多層複合材であってもよいが、作業の簡便性から、単なる単層シートであってもよい。
【0111】
例えば、多層複合材としては、第1の金属箔(好ましくは、アルミ箔)、互いにMD方向が直交する1対の高密度ポリエチレンシート、第2の金属箔(好ましくは、アルミ箔)、および低摩擦性フィルムで形成されている多層複合材が特に好ましく用いられる。
【0112】
高密度ポリエチレンシートは、公知または慣用のHDPEシートを用いることができるが、例えば高密度ポリエチレンの粘度平均分子量は、例えば2万~50万、好ましくは5万~30万程度、更に好ましくは10万~20万程度であってもよい。
【0113】
低摩擦性フィルムとしては、JIS K 7125で定義される静摩擦係数が0.30以下(好ましくは、0.05~0.25程度)の低い摩擦係数を有するフィルムが挙げられ、具体的には、超高分子量ポリエチレンフィルム、ポリテトラフルオロエチレンフィルムなどが例示できる。
【0114】
例えば、超高分子量ポリエチレンフィルムは、静摩擦係数が0.10~0.25程度であり、その粘度平均分子量が、例えば100万以上、好ましくは200万~700万程度、更に好ましくは300万~600万程度であってもよい。なお、粘度平均分子量の算出に使用する極限粘度数の測定方法は、JIS K7367-3:1999に準拠して測定できる。
【0115】
また、ポリテトラフルオロエチレンフィルムは、静摩擦係数が0.08~0.12程度であり、その溶融粘度は、380℃において、1010poise以上、好ましくは1010~1011poiseの範囲内であってもよい。
【0116】
(熱可塑性液晶ポリマー多層構造体)
本発明の製造方法では、熱圧着工程においてポリマーが流動し、導体パターンなどをつぶしてしまうことを抑制できるとともに、意図しない層間のずれを防止でき、熱可塑性液晶ポリマー副構造間の一体性に優れた熱可塑性液晶ポリマー多層構造体を得ることができる。
【0117】
熱可塑性液晶ポリマー副構造としては、熱可塑性液晶ポリマーから形成され、複数の熱可塑性液晶ポリマー副構造が熱圧着により一体化可能である限りさまざま形状のものを用いることが可能である。好ましくは、熱可塑性液晶ポリマー多層構造体において、熱可塑性液晶ポリマー副構造は、(i)熱可塑性液晶ポリマー層単独(L)、(ii)導体層を一方の面に有する熱可塑性液晶ポリマー層(CL)、および(iii)導体層を双方の面に有する熱可塑性液晶ポリマー層(CLC)からなる群から選択することができる。ここで、導体層としては、導体パターン、導体箔、導体膜などが挙げられ、これらの導体層には、必要に応じて、適宜所望の形状が形成されていてもよい。
【0118】
前記熱可塑性液晶ポリマー多層構造体は、導体層を3層以上有していてもよい。また、用途に応じて、導体層を5層以上、7層以上有していてもよい。導体層の上限は、用途に応じて適宜設定することができ、例えば、20層程度であってもよい。
【0119】
また、熱可塑性液晶ポリマー多層構造体を構成する熱可塑性液晶ポリマーフィルムは、それぞれの融点が同一であっても、異なっていてもよい。異なっている場合は、最も融点の低いフィルムと、最も融点の高いフィルムとの間の温度差が、0℃を越えて100℃以下、好ましくは10℃以上90℃以下、より好ましくは20℃以上80℃以下であってもよい。
【0120】
また、熱可塑性液晶ポリマー多層構造体を構成する熱可塑性液晶ポリマーフィルムは、それぞれの厚みが同一であっても、異なっていてもよい。異なっている場合は、最も厚いフィルムと、最も薄いフィルムとの間の差が、0μmを越えて50μm以下、好ましくは10μm以上40μm以下、より好ましくは20μm以上30μm以下であってもよい。
【0121】
熱可塑性液晶ポリマー多層構造体の製造方法には、必要に応じて、当業者に公知の加工工程、例えば、ブラインドバイア、スルーホールのための穿孔およびメッキ処理などが含まれてもよい。
【0122】
例えば、前記熱可塑性液晶ポリマー多層構造体は、電気・電子分野や、事務機器・精密機器分野などにおいて用いられる部品として有効に用いることができ、例えば、回路基板(特にミリ波レーダ用基板)などとして有用に用いることができる。
【実施例
【0123】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明は本実施例により何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例においては、下記の方法により各種物性を測定した。
【0124】
[融点]
DSC(TAインスツルメント製、「Q2000」)を用いて、サンプル5mgについて、室温から毎分20℃の速度でサンプルを重合した温度まで昇温を行い、その温度で2分保持し、毎分20℃の速度で25℃まで冷却を行い、25℃で2分保持し、再び毎分20℃の速度で昇温した際の、吸熱ピーク温度を融点とした。
【0125】
[熱可塑性液晶ポリマー多層構造体(LCP多層構造体)への模様の転写]
熱圧着工程後に得られた熱可塑性液晶ポリマー多層構造体の表面について、目視により耐熱性クッション材の模様が転写されているかどうかを確認し、以下の基準により評価した。
○:熱可塑性液晶ポリマー多層構造体の表面に、転写された模様が確認されない。
×:熱可塑性液晶ポリマー多層構造体の表面に、転写された模様が確認された。
【0126】
[クッション材の形状保持性]
熱圧着工程後における耐熱性クッション材の形状保持性を、以下の基準により評価した。
○:耐熱性クッション材が形状を保持してプラテンに融着せず、圧力解放後は再度クッション性を回復した。
×:耐熱性クッション材が形状を保持できずプラテンに融着した、および/または圧力解放後はクッション性を回復しなかった。
【0127】
[熱可塑性液晶ポリマー多層構造体(LCP多層構造体)の流動・潰れ]
熱圧着工程後に得られた熱可塑性液晶ポリマー多層構造体の流動・潰れについて、目視により、以下の基準により評価した。
○:熱可塑性液晶ポリマー多層構造体は、各層においてずれることなく接着し、表面の導体パターンの潰れもなく、側面においても樹脂が側方に流動していなかった。
×:熱可塑性液晶ポリマー多層構造体には、各層がずれた状態で接着するか、表面の導体パターンが潰れているか、側面においても樹脂が側方に流動しているか、いずれかの現象が少なくとも一つ発生していた。
【0128】
(参考例1)
融点310℃の熱可塑性液晶ポリマーフィルム((株)クラレ製、「ベクスター」、縦30cm×横40cm×厚さ18μm)の両面に同じサイズの銅箔(福田金属箔粉工業(株)製、「CF-H9A-DS-HD2-12」)を重ね合わせ、真空バッチプレス(北川精機(株)製、「VH2-1600」)により、290℃、2MPaで熱圧着させて両面銅張板を作製した。その後エッチングにより導体パターンを形成し、導体パターンが双方の面に形成された熱可塑性液晶ポリマー副構造を得た。
【0129】
(参考例2)
融点310℃の熱可塑性液晶ポリマーフィルム((株)クラレ製、「ベクスター」、縦30cm×横40cm×厚さ18μm)の片面のみに同じサイズの銅箔(福田金属箔粉工業(株)製、「CF-H9A-DS-HD2-12」)を重ね合わせ、真空バッチプレス(北川精機(株)製、「VH2-1600」)により、290℃、2MPaで熱圧着させて片面銅張板を作製した。その後エッチングにより導体パターンを形成し、導体パターンが一方の面に形成された熱可塑性液晶ポリマー副構造を得た。
【0130】
[実施例1]
熱プレス機において、図1に示すように、熱プレス機の上プラテンから順に、耐熱性クッション材、金属板、保護材を配設するとともに、熱プレス機の下プラテンから順に、耐熱性クッション材、金属板、保護材を配設し、これらの保護材の間に予備積層体を位置合わせして配置した。なお、予備積層体は、参考例1および2で得られた熱可塑性液晶ポリマー副構造を図1のように組み合わせ、3枚の熱可塑性液晶ポリマー副構造で構成され、耐熱性クッション材、金属板、保護材、および予備積層体は、それぞれ中心点が厚み方向で一致している。
【0131】
なお、耐熱性クッション材としてステンレス鋼ウェブ(日本精線(株)製、「ナスロンウェブ」、ファイバー径8μm、目付1800g/m、縦33cm×横43cm×厚さ15mm)を使用し、金属板としてSUS板(縦30cm×横40cm×厚さ0.4mm)を使用した。さらに保護材として、予備積層体からプラテン側に向かって、ポリテトラフルオロエチレンフィルム(厚み30μm、静摩擦係数0.12)、第1のアルミ箔(厚み50μm)、第1の高密度ポリエチレンフィルム(大倉工業(株)製、「HDフィルム」、厚み50μm)、前記第1の高密度ポリエチレンフィルムとMD方向が直交した状態の第2の高密度ポリエチレンフィルム(大倉工業(株)製、「HDフィルム」、厚み50μm、メルトフローインデックス0.05)、および第2のアルミ箔(厚み50μm)の順で配設した。なお、保護材のサイズは、縦34cm×横44cmである。
【0132】
熱プレス機として、真空バッチプレス機(北川精機(株)製、「VH2-1600」)を用いて、まず、形状固定工程を行った。具体的には、真空4torr、160℃において、予備積層体の上面および下面を圧力4MPaで10分間加圧を行った。この操作により、図2に示すように、予備積層体の側面は保護材および耐熱性クッション材により包み込まれ、さらに、保護材が予備積層体の側方において、耐熱性クッション材によりシールされた。
次いで、予備積層体への加圧を2MPaに減圧し、300℃へ昇温を行った後、30分間保持し、予備積層体の熱圧着を行い、常温まで冷却した後、圧力を解放し、熱可塑性液晶ポリマー多層構造体を得た。得られた熱可塑性液晶ポリマー多層構造体の評価を表7に示す。
【0133】
[実施例2]
耐熱性クッション材として、ステンレス鋼フェルト(日本精線(株)製、「ナスロンフェルト」、ファイバー径8μm、目付1500g/m、縦33cm×横43cm×厚さ7mm)を使用する以外は、実施例1と同様にして熱可塑性液晶ポリマー多層構造体を得た。得られた熱可塑性液晶ポリマー多層構造体の評価を表7に示す。
【0134】
[実施例3]
耐熱性クッション材として、パラ系アラミド繊維ニードルパンチ不織布(イチカワ(株)製、「エースボード」、目付1300g/m、縦33cm×横43cm×厚さ7mm)を使用する以外は、実施例1と同様にして熱可塑性液晶ポリマー多層構造体を得た。得られた熱可塑性液晶ポリマー多層構造体の評価を表7に示す。
【0135】
[実施例4]
耐熱性クッション材として、C脂肪族ジアミン単位とテレフタル酸単位で構成される半芳香族ポリアミド系樹脂((株)クラレ製、「ジェネスタ PA9T」)のメルトブロー不織布(目付800g/m、縦33cm×横43cm×厚さ3mm)を使用する以外は、実施例1と同様にして熱可塑性液晶ポリマー多層構造体を得た。得られた熱可塑性液晶ポリマー多層構造体の評価を表7に示す。
【0136】
[比較例1]
クッション材として、耐熱性を有さないポリエステル不織布(目付4400g/m、縦33cm×横43cm×厚さ20mm)を使用する以外は、実施例1と同様にして熱可塑性液晶ポリマー多層構造体を得た。得られた熱可塑性液晶ポリマー多層構造体の評価を表7に示す。
【0137】
[実施例5]
融点310℃の熱可塑性液晶ポリマーフィルム((株)クラレ製、「ベクスター」、縦30cm×横40cm×厚さ18μm)および参考例2で得られた熱可塑性液晶ポリマー副構造を、図3のように組み合わせ、3枚の熱可塑性液晶ポリマー副構造で予備積層体を形成した。
【0138】
この予備積層体に対し、保護材としてポリテトラフルオロエチレンシートを使用する以外は、実施例1と同様にして熱可塑性液晶ポリマー多層構造体を得た。得られた熱可塑性液晶ポリマー多層構造体の評価を表7に示す。
【0139】
[実施例6]
耐熱性クッション材として、ステンレス鋼フェルト(日本精線(株)製、「ナスロンフェルト」、ファイバー径8μm、目付1500g/m、縦33cm×横43cm×厚さ7mm)を使用する以外は、実施例5と同様にして熱可塑性液晶ポリマー多層構造体を得た。得られた熱可塑性液晶ポリマー多層構造体の評価を表7に示す。
【0140】
[実施例7]
耐熱性クッション材として、パラ系アラミド繊維ニードルパンチ不織布(イチカワ(株)製、「エースボード」、目付1300g/m、縦33cm×横43cm×厚さ7mm)を使用する以外は、実施例5と同様にして熱可塑性液晶ポリマー多層構造体を得た。得られた熱可塑性液晶ポリマー多層構造体の評価を表7に示す。
【0141】
[実施例8]
耐熱性クッション材として、C脂肪族ジアミン単位とテレフタル酸単位で構成される半芳香族ポリアミド系樹脂((株)クラレ製、「ジェネスタ PA9T」)のメルトブロー不織布(目付800g/m、縦33cm×横43cm×厚さ3mm)を使用する以外は、実施例5と同様にして熱可塑性液晶ポリマー多層構造体を得た。得られた熱可塑性液晶ポリマー多層構造体の評価を表7に示す。
【0142】
[比較例2]
クッション材として、耐熱性を有さないポリエステル不織布(目付4400g/m、縦33cm×横43cm×厚さ20mm)を使用する以外は、実施例5と同様にして熱可塑性液晶ポリマー多層構造体を得た。得られた熱可塑性液晶ポリマー多層構造体の評価を表7に示す。
【0143】
[実施例9]
熱プレス機において、図4に示すように、熱プレス機の上プラテンから順に、耐熱性クッション材、金属板、保護材を配設し、熱プレス機の下プラテンと予備積層体の間には、保護材のみを配設する以外は、実施例1と同様にして熱可塑性液晶ポリマー多層構造体を得た。得られた熱可塑性液晶ポリマー多層構造体の評価を表7に示す。
【0144】
[実施例10]
耐熱性クッション材として、ステンレス鋼フェルト(日本精線(株)製、「ナスロンフェルト」、ファイバー径8μm、目付1500g/m、縦33cm×横43cm×厚さ7mm)を使用する以外は、実施例9と同様にして熱可塑性液晶ポリマー多層構造体を得た。得られた熱可塑性液晶ポリマー多層構造体の評価を表7に示す。
【0145】
[実施例11]
耐熱性クッション材として、パラ系アラミド繊維ニードルパンチ不織布(イチカワ(株)製、「エースボード」、目付1300g/m、縦33cm×横43cm×厚さ7mm)を使用する以外は、実施例9と同様にして熱可塑性液晶ポリマー多層構造体を得た。得られた熱可塑性液晶ポリマー多層構造体の評価を表7に示す。
【0146】
[実施例12]
耐熱性クッション材として、C脂肪族ジアミン単位とテレフタル酸単位で構成される半芳香族ポリアミド系樹脂((株)クラレ製ジェネスタ PA9T」)のメルトブロー不織布(目付800g/m、縦33cm×横43cm×厚さ3mm)を使用する以外は、実施例9と同様にして熱可塑性液晶ポリマー多層構造体を得た。得られた熱可塑性液晶ポリマー多層構造体の評価を表7に示す。
【0147】
[実施例13]
参考例1および2で得られた熱可塑性液晶ポリマー副構造を、熱風オーブンを用いて200℃で60分間脱気乾燥を行い、水分率を100ppm以下とした後に、予備積層体を形成し形状固定工程を行った以外は、実施例9と同様にして熱可塑性液晶ポリマー多層構造体を得た。得られた熱可塑性液晶ポリマー多層構造体の評価を表7に示す。
なお、脱気乾燥工程を経て得られた熱可塑性液晶ポリマー多層構造体は各層間の接着性が高く、隣接する熱可塑性液晶ポリマー副構造間で剥離が困難であった。
【0148】
[実施例14]
参考例1および2で得られた熱可塑性液晶ポリマー副構造を、真空オーブンを用いて200℃、真空度1500Pa以下で60分間脱気乾燥を行い、水分率を100ppm以下とした後に、予備積層体を形成し形状固定工程を行った以外は、実施例9と同様にして熱可塑性液晶ポリマー多層構造体を得た。得られた熱可塑性液晶ポリマー多層構造体の評価を表7に示す。
なお、脱気乾燥工程を経て得られた熱可塑性液晶ポリマー多層構造体は各層間の接着性が高く、隣接する熱可塑性液晶ポリマー副構造間で剥離が困難であった。
【0149】
[比較例3]
クッション材として、耐熱性を有さないポリエステル不織布(目付4400g/m、縦33cm×横43cm×厚さ20mm)を使用する以外は、実施例9と同様にして熱可塑性液晶ポリマー多層構造体を得た。得られた熱可塑性液晶ポリマー多層構造体の評価を表7に示す。
【0150】
[比較例4]
熱プレス機400において、図6に示すように、金属板を用いることなく、熱プレス機の上プラテン110から順に、耐熱性クッション材150、保護材142を配設するとともに、熱プレス機の下プラテンから順に、耐熱性クッション材160、保護材144を配設する以外は、実施例1と同様にして熱可塑性液晶ポリマー多層構造体を得た。得られた熱可塑性液晶ポリマー多層構造体の評価を表7に示す。
【0151】
[比較例5]
耐熱性クッション材として、ステンレス鋼フェルト(日本精線(株)製、「ナスロンフェルト」、ファイバー径8μm、目付1500g/m、縦33cm×横43cm×厚さ7mm)を使用する以外は、比較例4と同様にして熱可塑性液晶ポリマー多層構造体を得た。得られた熱可塑性液晶ポリマー多層構造体の評価を表7に示す。
【0152】
[比較例6]
耐熱性クッション材として、パラ系アラミド繊維ニードルパンチ不織布(イチカワ(株)製、「エースボード」、目付1300g/m、縦33cm×横43cm×厚さ7mm)を使用する以外は、比較例4と同様にして熱可塑性液晶ポリマー多層構造体を得た。得られた熱可塑性液晶ポリマー多層構造体の評価を表7に示す。
【0153】
[比較例7]
耐熱性クッション材として、C脂肪族ジアミン単位とテレフタル酸単位で構成される半芳香族ポリアミド系樹脂((株)クラレ製、「ジェネスタ PA9T」)のメルトブロー不織布(目付800g/m、縦33cm×横43cm×厚さ3mm)を使用する以外は、比較例4と同様にして熱可塑性液晶ポリマー多層構造体を得た。得られた熱可塑性液晶ポリマー多層構造体の評価を表7に示す。
【0154】
[比較例8]
クッション材として、耐熱性を有さないポリエステル不織布(目付4400g/m、縦33cm×横43cm×厚さ20mm)を使用する以外は、比較例4と同様にして熱可塑性液晶ポリマー多層構造体を得た。得られた熱可塑性液晶ポリマー多層構造体の評価を表7に示す。
【0155】
[比較例9]
熱プレス機500において、図7に示すように、金属板のサイズを大きくし、SUS板(縦31cm×横41cm×厚さ0.4mm)を使用する以外は、実施例1と同様にして熱プレス機500の上プラテン110から順に、耐熱性クッション材150、金属板552、保護材142を配設するとともに、熱プレス機の下プラテンから順に、耐熱性クッション材160、金属板562、保護材144を配設する以外は、熱可塑性液晶ポリマー多層構造体を得た。得られた熱可塑性液晶ポリマー多層構造体の評価を表7に示す。
【0156】
[比較例10]
耐熱性クッション材として、ステンレス鋼フェルト(日本精線(株)製、「ナスロンフェルト」、ファイバー径8μm、目付1500g/m、縦33cm×横43cm×厚さ7mm)を使用する以外は、比較例9と同様にして熱可塑性液晶ポリマー多層構造体を得た。得られた熱可塑性液晶ポリマー多層構造体の評価を表7に示す。
【0157】
[比較例11]
耐熱性クッション材として、パラ系アラミド繊維ニードルパンチ不織布(イチカワ(株)製、「エースボード」、目付1300g/m、縦33cm×横43cm×厚さ7mm)を使用する以外は、比較例9と同様にして熱可塑性液晶ポリマー多層構造体を得た。得られた熱可塑性液晶ポリマー多層構造体の評価を表7に示す。
【0158】
[比較例12]
耐熱性クッション材として、C脂肪族ジアミン単位とテレフタル酸単位で構成される半芳香族ポリアミド系樹脂((株)クラレ製、「ジェネスタ PA9T」)のメルトブロー不織布(目付800g/m、縦33cm×横43cm×厚さ3mm)を使用する以外は、比較例9と同様にして熱可塑性液晶ポリマー多層構造体を得た。得られた熱可塑性液晶ポリマー多層構造体の評価を表7に示す。
【0159】
[比較例13]
クッション材として、耐熱性を有さないポリエステル不織布(目付4400g/m、縦33cm×横43cm×厚さ20mm)を使用する以外は、比較例9と同様にして熱可塑性液晶ポリマー多層構造体を得た。得られた熱可塑性液晶ポリマー多層構造体の評価を表7に示す。
【0160】
【表7】
【0161】
実施例1~8では、耐熱性クッション材を金属板と組み合わせ、保護材が予備積層体の側面に接した状態で熱圧着をしたため、得られた熱可塑性液晶ポリマー多層構造体には、耐熱性クッション材に由来する模様は転写されておらず、熱可塑性液晶ポリマーの流動や、導体パターンの潰れは確認されなかった。また、耐熱性クッション材も熱圧着工程において形状を保持することができ、プラテンへの融着は発生しなかった。また、圧力解放後は、再度クッション性を回復していた。そのため、耐熱性クッション材は、繰り返しの使用に耐えることが推測される。
【0162】
また、耐熱性クッション材が、予備積層体の一方の面にのみ配設されている実施例9~14においても、得られた熱可塑性液晶ポリマー多層構造体には、耐熱性繊維クッション材に由来する模様は転写されておらず、熱可塑性液晶ポリマーの流動や、導体パターンの潰れは確認されなかった。また、耐熱性クッション材も熱圧着工程において形状を保持することができ、プラテンへの融着は発生しなかった。また、圧力解放後は、再度クッション性を回復していた。
【0163】
一方、比較例1~3、8および13は、クッション材として、耐熱性の低いポリエステル不織布を用いたため、得られた熱可塑性液晶ポリマー多層構造体には、ポリエステル不織布に由来する転写が無いものの、不織布で使用されているポリエステル樹脂(融点:260℃未満)の融点以上の熱圧着温度により、ポリエステルが溶融してしまい、液晶ポリマーの流動を十分とめることができず、実用的ではなかった。また、ポリエステル樹脂が溶融してしまうことにより、熱可塑性液晶ポリマー多層構造体のズレが激しく、何層にも重ねることができなかった。
【0164】
比較例4~7では、耐熱性クッション材を金属板と組み合わせずに用いたため、熱可塑性液晶ポリマーの流動や、導体パターンの潰れは確認されなかったものの、耐熱性繊維クッション材に由来する模様が、熱可塑性液晶ポリマー多層構造体の表面に転写されてしまった。
【0165】
比較例9~13では、金属板の大きさが予備積層体よりも大きく、保護材が予備積層体の角部で側面に接することができない状態で熱圧着したため、積層でのエッジ効果により予備積層体のエッジ部分で圧力が高くなり、どのクッション材を用いた場合でも圧力の不均一化とエッジ部分の樹脂の流動が発生してしまった。
【産業上の利用可能性】
【0166】
本発明の製造方法によれば、熱可塑性液晶ポリマー多層構造体を効率よく製造することができ、得られた熱可塑性液晶ポリマー多層構造体は、電気・電子分野や、事務機器・精密機器分野などにおいて用いられる部品、例えば、回路基板(特にミリ波レーダ用基板)として有効に用いることができる。
【0167】
以上のとおり、本発明の好適な実施形態を説明したが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の追加、変更または削除が可能であり、そのようなものも本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0168】
100,200,300,400,500…熱プレス機
110…上プラテン
120…下プラテン
130、230…予備積層体
131,l32,133,231,232,233…熱可塑性液晶ポリマー副構造
142,242…第1の保護材
144,244…第2の保護材
150…第1の耐熱性クッション材
152…第1の金属板
160…第2の耐熱性クッション材
162…第2の金属板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7