IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社日立ハイテクノロジーズの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-26
(45)【発行日】2023-01-10
(54)【発明の名称】凹面回折格子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/18 20060101AFI20221227BHJP
   G01J 3/18 20060101ALI20221227BHJP
   B29C 59/02 20060101ALI20221227BHJP
   B29C 33/38 20060101ALI20221227BHJP
【FI】
G02B5/18
G01J3/18
B29C59/02 B
B29C33/38
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019562815
(86)(22)【出願日】2018-11-07
(86)【国際出願番号】 JP2018041261
(87)【国際公開番号】W WO2019130835
(87)【国際公開日】2019-07-04
【審査請求日】2021-03-09
(31)【優先権主張番号】P 2017251088
(32)【優先日】2017-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】八重樫 健太
(72)【発明者】
【氏名】江畠 佳定
(72)【発明者】
【氏名】青野 宇紀
【審査官】植野 孝郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/059928(WO,A1)
【文献】特開2008-145898(JP,A)
【文献】特公昭59-1971(JP,B2)
【文献】特開2002-62417(JP,A)
【文献】特開2014-115154(JP,A)
【文献】特開平10-62248(JP,A)
【文献】特開平9-15410(JP,A)
【文献】国際公開第2014/148118(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/183601(WO,A1)
【文献】特開2000-98117(JP,A)
【文献】特開2016-27325(JP,A)
【文献】国際公開第2007/043383(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/110110(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/18
G02B 5/32
G01J 3/18
B29C59/02
B29C33/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面回折格子に形成された、不等間隔の溝周期を有する溝パターンを金属薄膜に転写し、
前記金属薄膜を固定する凸面を有する固定基板の前記凸面に第1の位置合わせマークを形成し、
前記金属薄膜の接着面に形成された第2の位置合わせマークを、前記第1の位置合わせマークに重ね合わせることにより、位置合わせを行い、前記金属薄膜の接着面と前記固定基板の前記凸面とを接着してマスターを作製し、
前記マスターの前記金属薄膜の溝パターンを転写することにより、凹面回折格子を作製する凹面回折格子の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記凹面回折格子の溝パターンを転写して凸面回折格子を作製し、
前記凸面回折格子の溝パターンを転写してさらに凹面回折格子を作製する凹面回折格子の製造方法。
【請求項3】
請求項1において、
前記固定基板の前記凸面に複数の前記第1の位置合わせマークを形成し、
前記金属薄膜の接着面には、複数の前記第1の位置合わせマークのそれぞれに対応する複数の前記第2の位置合わせマークが形成されている凹面回折格子の製造方法。
【請求項4】
請求項1において、
前記第1の位置合わせマーク及び前記第2の位置合わせマークは、重ね合わせることにより、異なる2方向の位置ずれが視認できるマークの組み合わせである凹面回折格子の製造方法。
【請求項5】
請求項4において、
前記第1の位置合わせマーク及び前記第2の位置合わせマークは、大きさの異なる同一の形状を有するマークの組み合わせである凹面回折格子の製造方法。
【請求項6】
請求項1において、
前記平面回折格子に前記第2の位置合わせマークを形成するためのパターンを形成し、
前記パターンが形成された前記平面回折格子に対して電解めっきを用いて前記金属薄膜を製膜し、
前記パターンを除去し、前記平面回折格子から前記金属薄膜を剥離することにより、前記金属薄膜に前記第2の位置合わせマークを形成する凹面回折格子の製造方法。
【請求項7】
請求項6において、
前記パターンは前記平面回折格子の前記溝パターンが形成されている領域内に形成される凹面回折格子の製造方法。
【請求項8】
平面回折格子に形成された、不等間隔の溝周期を有する溝パターンを金属薄膜に転写し、
前記金属薄膜を固定する凸面を有する固定基板を貫通する第1の位置合わせ孔を形成し、
前記金属薄膜に形成された第2の位置合わせ孔を、位置合わせ用冶具が備える位置合わせ用ピンにより、前記第1の位置合わせ孔に重ね合わせることにより、位置合わせを行い、前記金属薄膜の接着面と前記固定基板の前記凸面とを接着してマスターを作製し、
前記マスターの前記金属薄膜の溝パターンを転写することにより、凹面回折格子を作製する凹面回折格子の製造方法。
【請求項9】
請求項8において、
前記凹面回折格子の溝パターンを転写して凸面回折格子を作製し、
前記凸面回折格子の溝パターンを転写してさらに凹面回折格子を作製する凹面回折格子の製造方法。
【請求項10】
請求項8において、
前記固定基板に複数の前記第1の位置合わせ孔を形成し、
前記金属薄膜には、複数の前記第1の位置合わせ孔のそれぞれに対応する複数の前記第2の位置合わせ孔が形成されている凹面回折格子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凹面回折格子の製造方法関する。
【背景技術】
【0002】
回折格子とは分析装置の分光器などに使用される、様々な波長の混ざった光(白色光)を狭帯域の波長毎に分ける光学素子である。表面に反射膜が蒸着された光学材料表面に微細な溝が刻まれている。回折格子の種類には非特許文献1に記載されているように格子面が平面状の平面回折格子と、格子面が球状または非球面状の凹面回折格子とがある。凹面回折格子は、平面回折格子とは異なり、光を分光する作用と光を結像する作用との両方の作用を持つ。
【0003】
また、凹面回折格子には刻まれている溝の周期が等間隔なものと不等間隔なものがある。溝の周期を不等間隔とすることにより回折光の結像位置を調整することができるため、収差を補正したり、直線上に並べた複数の検知器に結像させたりできる。しかし、不等間隔な溝を持つ凹面回折格子において高い結像性を得るためには、曲面上のそれぞれの位置での溝周期が所望の寸法となるよう、溝周期と曲面上の位置とを合わせる必要がある。
【0004】
従来、凹面回折格子は曲面基板にルーリングエンジンなどの機械を用いて溝パターンを刻線する方法でマスターを作成し、マスターの溝パターンを反射膜、樹脂などに複製することで凹面回折格子を製造していた。これに対し、以下のように平面上に形成した回折格子を所望の曲率に湾曲させてマスターを作成する技術も提案されている。
【0005】
特許文献1では、樹脂、金属薄膜など柔軟な材料に回折格子の溝パターンを形成し、それを所望の曲率に湾曲した基板に貼り付けたものをマスターとする。このマスターを硬化前の液状の曲面回折格子材料と接触させて、硬化させることで曲面回折格子を製作する方法が開示されている。特許文献2では、平面回折格子基板をシリコン樹脂のような可撓性材料に転写し、それを曲面基板に固定して、曲面回折格子のマスターを形成している。特許文献3ではシリコン製の平面回折格子を非晶質媒質に転写して、非晶質材料基板を曲面化させて、曲面固定基板に実装する製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭61-72202号公報
【文献】特開平9-5509号公報
【文献】特開2014-182301号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】工藤恵栄著、「分光の基礎と方法」、オーム社刊、1985年7月発行、p.364
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1や特許文献2に開示されている製造方法は、いずれも回折格子の溝パターンを形成する段階で柔軟性のある材料を用いているため、いずれも曲面回折格子の転写時に溝パターンの形状のばらつきが大きくなってしまう。これに対して、特許文献3に開示されている製造方法では、シリコン製の平面回折格子をガラスなどの非晶質材料に転写して、非晶質材料基板を曲面化させて、曲面固定基板に実装することにより、溝パターンの形状のばらつきが小さい凹面回折格子を製造することを可能にしている。
【0009】
回折格子の溝が不等間隔の場合、そもそも回折格子の溝の幅はおよそ数100nm~数μmと微小なものであり、このような微小な溝パターンの溝周期と曲面固定基板の位置とを合わせることは困難である。平面回折格子を曲面固定基板に実装する際に、溝の方向や位置にずれが生じると、設計値通りの高い結像性を得ることができない。
【0010】
本発明の目的は、シリコン基板上に形成した回折格子の溝パターンを凸面固定基板に固定する際に、溝パターンの溝周期と凸面固定基板の位置とを容易に、高精度に合わせることを可能とすることにより、高精度の凹面回折格子を製造する方法、当該製法により得られる凹面回折格子及びそれを用いた分析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一実施の形態である凹面回折格子の製造方法においては、平面回折格子に形成された、不等間隔の溝周期を有する溝パターンを金属薄膜に転写し、金属薄膜を固定する凸面を有する固定基板の凸面に第1の位置合わせマークを形成し、金属薄膜の接着面に形成された第2の位置合わせマークを、第1の位置合わせマークに重ね合わせることにより、位置合わせを行い、金属薄膜の接着面と固定基板の凸面とを接着してマスターを作製し、マスターの金属薄膜の溝パターンを転写することにより、凹面回折格子を作製する。
【0012】
その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【発明の効果】
【0013】
金属薄膜の溝パターンの溝周期と凸面固定基板の位置とを高精度に合わせることができるようになるため、高い結像性をもつ凹面回折格子を製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例1に係る凹面回折格子の製造方法を示す図である。
図2】平面回折格子に位置合わせマーク形成用パターンを形成する方法を示す図である。
図3A】金属薄膜側位置合わせマークの形状の一例である。
図3B】凸面固定基板側位置合わせマークの形状の一例である。
図4A】金属薄膜側位置合わせマークを形成した金属薄膜の一例(平面図)である。
図4B】金属薄膜側位置合わせマークを形成した金属薄膜の一例(断面図)である。
図5A】凸面固定基板側位置合わせマークを形成した凸面固定基板の一例(平面図)である。
図5B】凸面固定基板側位置合わせマークを形成した凸面固定基板の一例(断面図)である。
図6】金属薄膜側位置合わせマークと凸面固定基板側位置合わせマークとを重ね合わせた状態を示す図である。
図7A】金属薄膜側位置合わせマークの形状の他の例である。
図7B】凸面固定基板側位置合わせマークの形状の他の例である。
図7C】金属薄膜側位置合わせマークと凸面固定基板側位置合わせマークとを重ね合わせた状態を示す図である。
図8A】金属薄膜側位置合わせマークを形成した金属薄膜の一例(平面図)である。
図8B】金属薄膜側位置合わせマークを形成した金属薄膜の一例(断面図)である。
図9】実施例2に係る凹面回折格子の製造方法を示す図である。
図10A】金属薄膜105と凸面固定基板108の調整方法を示す図(俯瞰図)である。
図10B】金属薄膜105と凸面固定基板108の調整方法を示す図(断面図)である。
図11A】金属薄膜側位置合わせ孔を形成した金属薄膜の一例(平面図)である。
図11B】金属薄膜側位置合わせ孔を形成した金属薄膜の一例(断面図)である。
図12A】凸面固定基板側位置合わせ孔を形成した凸面固定基板の一例(平面図)である。
図12B】凸面固定基板側位置合わせ孔を形成した凸面固定基板の一例(断面図)である。
図13】凹面回折格子を用いた分析装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図13に凹面回折格子を用いた分析装置の概略図を示す。白色光源1201からの光は集光レンズ1202aにより集光され、試料室1203に照射される。試料室1203から透過してくる光は集光レンズ1202bによりスリット1204の開口部上に集光される。スリット1204を通過した光は凹面回折格子115によって波長分散されスペクトルを形成する。形成されたスペクトルを検出器1205で検出する。
【0016】
検出器1205の検出面1206(点線)は平面状となっており、この平面状の検出面1206にあわせた位置に凹面回折格子115からのスペクトルが結像するように回折格子の溝周期は設定されている。なお、凹面回折格子115の溝周期が一定である場合は、凹面回折格子115からのスペクトルの結像面は球面状の結像面1207(一点鎖線)となり、検出面1206とは合致しない。このように、凹面回折格子115の溝周期は検出面1206にスペクトルが結像するように設計されており、凹面回折格子115の凹面に設計通りの溝周期の回折格子がなければ、回折格子の結像性が低下する。本実施例は、マスター作製時に溝周期と固定基板の曲面とを高精度に合わせることにより、高い結像性を有する凹面回折格子を実現する。
【実施例1】
【0017】
図1に第1の実施例として、凹面回折格子の製造方法を示す。
【0018】
(a)シリコン基板上に溝パターン103を形成した平面回折格子101上に位置合わせマーク形成用パターン102を形成する。図では模式的に表示しているが、溝パターン103の溝周期は不等間隔となっている。後述するように、位置合わせマーク形成用パターン102は図のように回折格子の溝パターンが刻線されている領域内に形成されてもよく、あるいは回折格子の溝パターンが刻線されている領域外(額縁部分)に形成されてもよい。なお、本工程についてはさらに図2を用いて詳述する。
【0019】
(b)位置合わせマーク形成用パターン102が形成された平面回折格子101に対して、電解めっきを用いて金属薄膜105を成膜する。金属薄膜105の材料は特に限定されないが、Niなどを用いることができる。これにより、平面回折格子101の溝パターンが転写された金属薄膜105が作製できる。
【0020】
(c)金属薄膜105を成膜後、位置合わせマーク形成用パターン102を除去することにより、金属薄膜105に金属薄膜側位置合わせマーク106を形成する。
【0021】
(d)平面回折格子101から金属薄膜105を剥離する。
【0022】
(e)金属薄膜105の溝パターンが形成されている面の反対側の面に接着剤107を塗布する。
【0023】
(f)凸面固定基板108に凸面基板側位置合わせマーク109を形成する。凸面固定基板108の材料には例えば光を透過するガラスを用いる。また、凸面固定基板108における凸面基板側位置合わせマーク109の位置は、金属薄膜105に設けた金属薄膜側位置合わせマーク106と合わせることで、金属薄膜105の溝パターンの溝周期と凸面固定基板の曲面とが一致する位置に設けられている。なお、金属薄膜側位置合わせマーク106及び凸面基板側位置合わせマーク109の形状については後述する。
【0024】
(g)金属薄膜側位置合わせマーク106と凸面固定用基板側位置合わせマーク109とを光学式顕微鏡を用いて確認しながら固定することにより、凹面回折格子のマスター110を作製する。例えば、方向111から透明な凸面固定基板108を通して、2つのマーク106、109を観察しながら両者の位置合わせを行うことができる。金属薄膜105と凸面固定基板108とが互いに接する面に、それぞれ位置合わせマークが設けられているため、高い位置精度で金属薄膜105と凸面固定基板108とを合わせ、固定することができる。
【0025】
(h)マスター110の回折格子の溝パターンを転写することにより凹面回折格子115を作製する。凹面回折格子115は、凹面形状の表面に回折格子の溝パターンを有する樹脂113、樹脂が固定される凹面固定基板112、樹脂113の凹面形状の表面を被覆する反射膜114が積層された構成を有している。
【0026】
なお、凹面回折格子115の溝パターンを転写して凸面回折格子を作製し、凸面回折格子の溝パターンを転写することにより凹面回折格子(レプリカ)を作製することもできる。このように作製した凹面回折格子(レプリカ)も分析装置の凹面回折格子として使用することができる。このように複製を繰り返して回折格子を作製することにより、少ないマスターから多数の凹面回折格子を作製することが可能になる。
【0027】
次に、平面回折格子101に位置合わせマーク形成用パターン102を形成する方法について、図2を参照して説明する。
【0028】
(a)シリコン基板200上にフォトレジスト201を塗布してパターン露光を行い、フォトレジスト201上に溝パターン202を形成する。
【0029】
(b)溝パターン202形成後にエッチングを行い、シリコン基板上に溝パターン202を転写することにより、平面回折格子101を作成する。
【0030】
(c)平面回折格子101の溝パターン103上にシード膜104を成膜する。シード膜104はその後の電解めっき工程(図1(b))において陰極として機能し、平面回折格子101の溝パターン103上に金属がめっきされるのを助ける役割を果たす。例えば、シード膜104としてTi膜を形成する。
【0031】
(d)シード膜104上にフォトレジスト203を塗布する。
【0032】
(e)フォトレジスト203にフォトマスク204を用いて露光を行う。フォトマスク204には位置合わせマークに応じた開口205が形成されている。
【0033】
(f)現像を行い、露光部分のフォトレジストが残存することにより、位置合わせ形成用パターン102を形成する。これにより、平面回折格子101上に位置合わせマーク形成用パターン102が形成される。なお、図1においてはシード膜104を省略したが、図2において説明した通り、平面回折格子101の格子面にはシード膜が形成されている。
【0034】
図3Aに金属薄膜側位置合わせマーク106の形状の一例、図3Bに凸面固定基板側位置合わせマーク109の形状の一例を示す。位置合わせマーク106、109は重ね合わせることにより、少なくとも異なる2方向(ここでは、x方向、y方向)での位置ずれが視認できるようなマークの組み合わせとして選択する。
【0035】
図3Aに示す金属薄膜側位置合わせマーク106は、4つの正方形301~304で構成されており、A-A’軸、B-B’軸をそれぞれ軸として線対称となるように配置されている。また、x方向の正方形間の間隔305とy方向の正方形間の間隔306は同じ間隔とされている。一方、図3Bに示す凸面固定基板側位置合わせマーク109はA-A’軸上に配置される直線307とB-B’軸上に配置される308とが交差する十字形状のマークである。
【0036】
図4A図4Bに、図3Aに示した金属薄膜側位置合わせマーク106が形成された金属薄膜105の例を示す。図4Aが平面図、図4BがK-K’線における断面図である。本例では、金属薄膜側位置合わせマーク106は、溝パターンが刻線されている領域501の外(額縁領域502)に形成する。このため、位置合わせマーク106が回折格子の性能に影響を与えることはない。また、金属薄膜側位置合わせマーク106は、金属薄膜105を貫通して形成されているために、溝パターン103が刻線されている面の反対側の面からも確認することができる。
【0037】
図5A図5Bに、図3Bに示した凸面固定基板側位置合わせマーク109が形成された凸面固定基板108の例を示す。図5Aが平面図、図5BがL-L’線における断面図である。凸面固定基板側位置合わせマーク109の形成には、レーザ加工または機械加工を用いる。凸面固定基板側位置合わせマーク109は、図5Bに示すように金属薄膜105と凸面固定基板108とを接着剤107で固定する凸面701に形成する。
【0038】
凸面基板側位置合わせマーク109を凸面固定基板108の凸面701に形成する一方、金属薄膜側位置合わせマーク106を、金属薄膜105を貫通させることで金属薄膜105の接着面に形成することにより、両方の位置合わせマーク106を互いに接する面で合わせることが可能となるため、調整を行うときの精度を向上させることができる。なお、金属薄膜105を貫通させて金属薄膜側位置合わせマーク106を形成するのは、金属薄膜105の接着面にマークを形成する一手法であり、これには限られない。位置合わせをするための観察手法と関係し、金属薄膜105の接着面から金属薄膜側位置合わせマーク106が視認できる形態であればよい。例えば、金属薄膜105の接着面に貫通しない位置合わせマークを形成してもよく、印刷等の手法により形成してもよい。
【0039】
図6図3Aに示す金属薄膜側位置合わせマークと図3Bに示す凸面固定基板側位置合わせマークとを重ね合わせた状態を示す。(a)図は位置合わせマーク同士が一致した状態を示している。これに対して、(b)図は回転方向のずれ309が生じた状態、(c)図はx方向へのずれ310が生じた状態である。
【0040】
(b)図のように回転方向のずれ309が生じている場合には、回転方向のずれをなくして(a)図となるように位置合わせを調整することにより、回折格子の溝パターンを、凸面固定基板108の軸方向と一致させることができる。また、(c)図のように位置ずれ310が生じている場合には、位置ずれをなくして(a)図となるように位置合わせを調整することにより、回折格子の溝パターンの位置と凸面固定基板の位置とを合わせることができる。これにより、溝パターンの溝周期と曲面固定基板の位置とを高精度に合わせることが可能になる。
【0041】
位置合わせマークの形状は、図3A,Bに示したものには限られない。図7A~Cに位置合わせマークの形状の他の例を示す。図7Aに金属薄膜側位置合わせマーク106’、図7Bに凸面固定基板側位置合わせマーク109’を示す。これらは先に説明したのと同様な方法で、それぞれ金属薄膜105、凸面固定基板108に形成される。この例では、位置合わせマークの形状はどちらも正方形であり、凸面固定基板側位置合わせマーク109’の1辺は、金属薄膜側位置合わせマーク106’の1辺よりも短くされている。
【0042】
図7Cに位置合わせマークが一致した状態を示す。位置合わせマークを調整する方法としては、金属薄膜側位置合わせマーク106’と凸面基板側位置合わせマーク109’とを合わせたときに生じる間隔401、402、403、404が同じ間隔となるようにそれぞれの位置合わせマークを合わせる。
【0043】
本例では、位置合わせマークの形状の例として、大きさの異なる正方形を用いた例を示したが、多角形状であれば同様の効果を得ることができる。また、図4A図5Aに示すように位置合わせマークを複数個所に付する場合には、円形状であってもよい。
【0044】
また、図4Aでは、位置合わせマークを溝パターンが刻線されている領域501の外に形成したが、これに限定されない。図8A図8Bに金属薄膜側位置合わせマーク106の別の配置例を示す。図8Aが平面図、図8BがK-K’線における断面図である。本例では金属薄膜側位置合わせマーク106が、溝パターンが形成されている領域501の中に形成されている。回折格子の光学的な性能に影響しない位置であれば、金属薄膜側位置合わせマーク106を溝パターンが刻線されている領域501の中に形成してもよい。額縁部分が不要となるので、より表面積の小さい凹面回折格子を作製することが可能になる。
【実施例2】
【0045】
図9に第2の実施例として、凹面回折格子の製造方法を示す。第1の実施例と共通する構成については同じ符号で示し、重複する説明は省略するものとする。
【0046】
(a)シリコン基板上に溝パターン103を形成した平面回折格子101上に位置合わせ孔形成用パターン802を形成する。パターン802の形成方法は図2で示したパターン102の形成方法と同じである。位置合わせ孔形成用パターン802は図のように回折格子の溝パターンが刻線されている領域内に形成されてもよく、あるいは回折格子の溝パターンが刻線されている領域外(額縁部分)に形成されてもよい。
【0047】
(b)(c)位置合わせ孔形成用パターン802が形成された平面回折格子101に対して、電解めっきを用いて金属薄膜105を成膜する。これにより、平面回折格子101の溝パターンが転写された金属薄膜105が作製できる。続いて、位置合わせ孔形成用パターン802を除去することにより、金属薄膜105に金属薄膜側位置合わせ孔806を形成する。
【0048】
(d)(e)平面回折格子101から金属薄膜105を剥離する。続いて、接着剤107を塗布する。
【0049】
(f)凸面固定基板108に凸面基板側位置合わせ孔809を形成する。凸面固定基板108の材料には例えばガラスやシリコンを用いる。また、凸面固定基板108における凸面基板側位置合わせ孔809の位置は、金属薄膜105に設けた金属薄膜側位置合わせ孔806と合わせることで、金属薄膜105の溝パターンの溝周期と凸面固定基板の曲面とが一致する位置に設けられている。
【0050】
(g)位置合わせ用冶具801を用いて金属薄膜側位置合わせ孔806と凸面固定用基板側位置合わせ孔809とを合わせて固定することにより、凹面回折格子のマスター110を作製する。
【0051】
(h)マスター110の回折格子の溝パターンを転写することにより凹面回折格子115を作製する。
【0052】
第2の実施例では、金属薄膜105と凸面固定基板108の調整を行うときに、位置合わせ用冶具801を用いる点が特徴である。
【0053】
金属薄膜105と凸面固定基板108の調整方法について、図10A図10Bを参照して説明する。図10Aは金属薄膜105と凸面固定基板108の調整方法を示す俯瞰図であり、図10BはA-A’線における断面図である。図10Bに示すように、位置合わせ用冶具801は位置合わせ用ピン901を備えており、ピン901を用いて機械的に位置合わせをすることが可能である。熱による膨張により凸面固定基板108が破損しないように、位置合わせ用冶具801(位置合わせ用ピン901を含む)は線膨張係数が凸面固定基板108と同じ材質で作成する。
【0054】
図11Aは金属薄膜側位置合わせ孔806が形成された金属薄膜105の平面図、図11BはそのK-K’線における断面図である。本例では、金属薄膜側位置合わせ孔806は円形形状とする。
【0055】
図12Aは凸面固定基板側位置合わせ孔809が形成された凸面固定基板108の平面図、図12BはそのL-L’線における断面図である。凸面固定基板側位置合わせ孔809の形成にはレーザ加工または機械加工を用いる。また位置合わせ用ピン901が貫通するように凸面固定基板側位置合わせ孔809は貫通穴の構造とする。
【0056】
2つの実施例により、凹面回折格子の製造方法について説明してきたが、いずれの製造方法によっても、作製される凹面回折格子のレプリカに位置合わせマーク910(図1図9参照)が残る。このため、分析装置への凹面回折格子の組み込み、調整を行う際に、位置合わせマーク910を用いて調整することができる。位置合わせマーク910を調整に用いることで、溝方向等を設計位置と正確に調整することができるので、結像性などの光学的性能のばらつきを小さくすることが可能となり、高い分析精度を保つことができる。
【符号の説明】
【0057】
101…平面回折格子、102…位置合わせマーク形成用パターン、103…溝パターン、104…シード膜、105…金属薄膜、106…金属薄膜側位置合わせマーク、107…接着剤、108…凸面固定基板、109…凸面固定基板側位置合わせマーク、110…マスター、112…凹面固定基板、113…樹脂、114…反射膜、115…凹面回折格子、200…シリコン基板、201…フォトレジスト、202…溝パターン、203…フォトレジスト、204…フォトマスク、801…位置合わせ用冶具、806…金属薄膜側位置合わせ孔、809…凸面基板側位置合わせ孔、901…位置合わせ用ピン、910…凹面回折格子のレプリカ側位置合わせマーク、1201…白色光源、1202a…集光レンズ、1203…試料室、1202b…集光レンズ、1204…スリット、1205…検出器。
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図6
図7A
図7B
図7C
図8A
図8B
図9
図10A
図10B
図11A
図11B
図12A
図12B
図13