(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-26
(45)【発行日】2023-01-10
(54)【発明の名称】プラズマ処理装置およびプラズマ処理方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/3065 20060101AFI20221227BHJP
【FI】
H01L21/302 103
(21)【出願番号】P 2021542197
(86)(22)【出願日】2020-09-17
(86)【国際出願番号】 JP2020035193
(87)【国際公開番号】W WO2022059114
(87)【国際公開日】2022-03-24
【審査請求日】2021-07-20
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】特許業務法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永沢 充
(72)【発明者】
【氏名】江藤 宗一郎
(72)【発明者】
【氏名】臼井 建人
(72)【発明者】
【氏名】中元 茂
【審査官】加藤 芳健
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-111313(JP,A)
【文献】特開2009-117685(JP,A)
【文献】特開2007-234666(JP,A)
【文献】特開2017-112238(JP,A)
【文献】特開2014-072264(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/3065
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空容器内部の処理室内に処理対象のウエハを配置し、前記処理室内にプラズマを形成して前記ウエハの表面に予め形成された膜をエッチングするプラズマ処理方法であって、
前記処理室内にウエハを載置し、前記プラズマが形成されてから前記エッチングが終了するまでの複数の時刻において、前記ウエハの表面で反射された干渉光を受光して、前記干渉光の強度を示す信号を生成する工程と、
エッチング前後における、前記ウエハの膜厚を測定する工程と、
生成された前記信号に基づいて、前記ウエハにおけるエッチング開始時刻を決定する工程と、
決定された前記エッチング開始時刻に基づいて、前記信号と前記膜厚との対応関係を導出する工程と、を有するプラズマ処理方法。
【請求項2】
請求項1に記載のプラズマ処理方法であって、
前記干渉光の強度を示す信号は、スペクトルの波形を含み、複数の時刻における前記スペクトルの波形を処理することにより、前記エッチング開始時刻を決定するプラズマ処理方法。
【請求項3】
請求項2に記載のプラズマ処理方法であって、
隣接する時刻における前記スペクトルの波形の差をそれぞれ算出し、前記差の和が所定の閾値以上となった時刻を前記エッチング開始時刻として決定するプラズマ処理方法。
【請求項4】
請求項2に記載のプラズマ処理方法であって、
隣接する時刻における前記スペクトルの波形の差をそれぞれ算出し、前記差の和における時間に対する変化率の平均値に基づいて、前記エッチング開始時刻を決定するプラズマ処理方法。
【請求項5】
請求項2に記載のプラズマ処理方法であって、
隣接する時刻における前記スペクトルの波形の差をそれぞれ算出し、前記差の和における時間に対する変化率を曲線で近似したときに、前記曲線上において第1の変曲点と第2の変曲点がこの順序の時系列で存在し、前記第1の変曲点の時刻を前記エッチング開始時刻として決定し、前記第1の変曲点から前記第2の変曲点までの時間を第1処理区間とし、前記第2の変曲点以降の時間を、前記第1処理区間よりもエッチング速度が大きい第2処理区間とするプラズマ処理方法。
【請求項6】
請求項1に記載のプラズマ処理方法であって、
決定された前記エッチング開始時刻まで前記膜厚が一定であると見做すプラズマ処理方法。
【請求項7】
真空容器内部の処理室内に処理対象のウエハを配置し、前記処理室内にプラズマを形成して前記ウエハの表面に予め形成された膜をエッチングするプラズマ処理装置であって、
前記プラズマが形成されてから前記エッチングが終了するまでの複数の時刻において、前記ウエハの表面で反射された干渉光を受光して、前記干渉光の強度を示す信号を生成する検出装置と、
複数の時刻における前記信号の差分に基づいて、エッチング開始時刻を決定する判定器と、を有するプラズマ処理装置。
【請求項8】
請求項7に記載のプラズマ処理装置であって、
前記干渉光の強度を示す信号は、スペクトルの波形を含み、
前記判定器は、複数の時刻における前記スペクトルの波形を処理することにより、前記エッチング開始時刻を決定するプラズマ処理装置。
【請求項9】
請求項8に記載のプラズマ処理装置であって、
前記判定器は、隣接する時刻における前記スペクトルの波形の差をそれぞれ算出し、前記差の和が所定の閾値以上となった時刻を前記エッチング開始時刻として決定するプラズマ処理装置。
【請求項10】
請求項8に記載のプラズマ処理装置であって、
前記判定器は、隣接する時刻における前記スペクトルの波形の差をそれぞれ算出し、前記差の和における時間に対する変化率の平均値に基づいて、前記エッチング開始時刻を決定するプラズマ処理装置。
【請求項11】
請求項8に記載のプラズマ処理装置であって、
隣接する時刻における前記スペクトルの波形の差をそれぞれ算出し、前記差の和における時間に対する変化率を曲線で近似したときに、前記曲線上において第1の変曲点と第2の変曲点がこの順序の時系列で存在し、
前記判定器は、前記第1の変曲点の時刻を前記エッチング開始時刻として決定し、前記第1の変曲点から前記第2の変曲点までの時間を第1処理区間とし、前記第2の変曲点以降の時間を、前記第1処理区間よりもエッチング速度が大きい第2処理区間とするプラズマ処理装置。
【請求項12】
請求項7に記載のプラズマ処理装置であって、
前記判定器は、決定された前記エッチング開始時刻まで
膜厚が一定であると見做すプラズマ処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ処理装置またはプラズマ処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造において、ウエハの表面上に様々なコンポーネントやそれらを相互接続する配線などが形成される。これらコンポーネントや配線は、導体・半導体・絶縁体など種々の材料の成膜と、不要な部分の除去の繰り返しにより形成することができる。
【0003】
不要な部分の除去プロセスとして、プラズマを用いたドライエッチング(以下、プラズマエッチングという)が広く使用されている。プラズマエッチングでは、エッチング装置の処理室内に導入したガスを高周波電源などでプラズマ化し、ウエハをプラズマ化したガスに暴露することでエッチング処理を行う。この時、プラズマ中のイオンによるスパッタリングやラジカルによる化学反応などによって異方性や等方性のエッチングが行われ、これらを使い分けることでウエハ表面上には種々の構造のコンポーネントや配線が形成される。
【0004】
このようなエッチング処理により得られた加工形状が設計形状と異なる場合、製造された半導体は所望の性能を発揮できないため、加工形状を設計形状に近づけるべく、エッチング処理を監視・安定化するプロセスモニタ技術が必要である。
【0005】
特に、半導体デバイスは近年微細化が進むことで微細化プロセスは増加しており、それに伴って半導体デバイスのパターン形成方法が多様化されるため、エッチング開始直後からの膜厚・深さ変化を監視するニーズが高まっている。
【0006】
これに対し、例えば処理中のウエハからの反射光を計測することによりウエハ上に成膜された膜の膜厚やウエハ上に形成された溝や穴の深さを測定するプロセスモニタに関する技術がある。プロセスモニタは膜厚・深さモニタと呼ばれ、エッチング処理の終点判定などに利用されてきた。
【0007】
エッチングの監視技術の一例が、特許文献1に開示されている。特許文献1には、ウエハ上に堆積された導体膜に対して、その導体膜上に形成されたフォトレジストパターンをエッチングマスクとしてプラズマドライエッチング処理を施す工程において、ドライエッチング処理中にプラズマから検出される所望の波長の発光波形の変化開始点Aから変化終了点Bまでを連続的に監視することにより、被エッチング面内における被エッチング膜のエッチング速度の均一性を測定し、それを基に被エッチング膜のエッチング量の最適値を把握する技術が開示されている。
【0008】
また、特許文献2には、エッチング処理中の試料表面からの複数波長の干渉光を検出する検出器と、試料の処理中の任意の時刻に得られた前記干渉光に関する実偏差パターンデータと、この試料の処理前に得られた別の試料の処理に関する複数波長の干渉光のデータであって前記膜の複数の厚さに各々対応する複数の標準偏差パターンとを比較して、その偏差を演算するパターン比較手段と、これらの間の偏差と予め設定された偏差とを比較して試料のその時点の膜の厚さに関するデータを出力する偏差比較手段と、前記膜の厚さに関するデータを時系列データとして記録する残膜厚さ時系列データ記録手段と、前記膜の厚さデータを用いて所定量のエッチングが終了したことを判定する終点判定器を備えるプラズマ処理装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2003-243368号公報
【文献】特開2007-234666号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記の従来技術では、以下のような問題が生じていた。
【0011】
まず、特許文献1の技術では、エッチング処理の信頼性を向上させるため、エッチング処理中にプラズマから検出される所定の波長の発光波形の、変化開始点Aから変化終了点Bまでの電圧を連続的に検出することにより、エッチング膜のエッチング速度の均一性を測定している。また、得られたエッチング速度に基づいてエッチング量の最適値を定めている。
【0012】
しかし、特許文献1の技術では、感度の高い所望の波長の電圧が一様に増減し、所謂単調に変化することを前提としており、実際のエッチング中のプラズマ発光の光量のように、処理中に増減するものに対しては考慮されておらず、膜厚を精度よく検出することが困難となるおそれがある。
【0013】
さらに、特許文献2の技術では、予め取得した複数波長の干渉光のパターンのデータベースを用いて、処理中の任意の時刻にウエハの表面から得られた干渉光のパターンとデータベース中のパターンとを比較して、偏差が最も小さいデータに対応する膜厚の値を時系列に膜厚情報として記録し、これらの時系列の膜厚のデータから任意の時刻のエッチング量(深さ、残り膜厚、速度)等を算出してエッチング処理の終点への到達を判定することができるとされている。
【0014】
しかし、特許文献2の技術では、エッチング処理においてプラズマが形成されて発光が開始された直後からエッチング処理が所定の値以上の速度で進行してその残り膜厚が一様に低減して変化することを前提として、エッチング量の検出が行われる。
【0015】
したがって、エッチング処理が一様に進行しない、例えばプラズマの発光開始から所定の初期の期間では処理が容易に進行しない場合等では、膜厚の検出の精度が大きく損なわれるおそれがある。
【0016】
以上のように、プラズマの発光の開始直後の処理の初期を含め処理が行われる期間で、発光の量や処理の進行の速度等の残り膜厚やエッチング量の検出のパラメータがバラついてしまう条件では、これらエッチング量の検出の精度が損なわれてしまい、処理の歩留まりが低下してしまうという問題について、従来の技術では解消することが困難であった。
【0017】
本発明は、処理対象の膜のエッチング量を高い精度で検出して処理の歩留まりを向上させたプラズマ処理装置またはプラズマ処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するために、代表的な本発明にかかるプラズマ処理方法の一つは、真空容器内部の処理室内に処理対象のウエハを配置し、前記処理室内にプラズマを形成して前記ウエハの表面に予め形成された膜をエッチングするプラズマ処理方法であって、
前記処理室内にウエハを載置し、前記プラズマが形成されてから前記エッチングが終了するまでの複数の時刻において、前記ウエハの表面で反射された干渉光を受光して、前記干渉光の強度を示す信号を生成する工程と、
エッチング前後における、前記ウエハの膜厚を測定する工程と、
生成された前記信号に基づいて、前記ウエハにおけるエッチング開始時刻を決定する工程と、
決定された前記エッチング開始時刻に基づいて、前記信号と前記膜厚との対応関係を導出する工程と、を有することにより達成される。
【0019】
また、代表的な本発明にかかるプラズマ処理装置の一つは、真空容器内部の処理室内に処理対象のウエハを配置し、前記処理室内にプラズマを形成して前記ウエハの表面に予め形成された膜をエッチングするプラズマ処理装置であって、
前記プラズマが形成されてから前記エッチングが終了するまでの複数の時刻において、前記ウエハの表面で反射された干渉光を受光して、前記干渉光の強度を示す信号を生成する検出装置と、
複数の時刻における前記信号の差分に基づいて、エッチング開始時刻を決定する判定器と、を有することにより達成される。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、処理対象の膜のエッチング量を高い精度で検出して処理の歩留まりを向上させたプラズマ処理装置またはプラズマ処理方法を提供できる。
本発明の構成、作用・効果の詳細は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係るプラズマ処理装置の構成の概略を模式的に示す縦断面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す実施形態に係るプラズマ処理装置の膜厚・深さ判定部の構成を模式的に示すブロック図である。
【
図3】
図3は、比較例によるエッチング処理中の時間の経過に対する膜厚の変化および検出される膜厚の誤差の変化を模式的に示すグラフである。
【
図4】
図4は、比較例によるエッチング処理中の時間の経過に対する膜厚の変化および検出される膜厚の誤差の変化を模式的に示すグラフである。
【
図5】
図5は、
図1に示す実施形態に係るプラズマ処理装置がウエハのエッチング処理を開始した時刻の前後で得られる干渉光のスペクトルの例を示すグラフである。
【
図6】
図6は、
図1に示す実施形態に係るプラズマ処理装置のデータベース部のデータとこれから検出される残り膜厚の対応を示す図である。
【
図7】
図7は、
図1に示す実施形態に係るプラズマ処理装置において干渉光のスペクトルの特徴データを含む膜厚・スペクトルデータを、データベース部に格納する動作の流れを示すフローチャートである。
【
図8】
図8は、
図1に示す実施形態に係るプラズマ処理装置の残り膜厚の検出に用いられる干渉光のデータにおけるサンプリング時刻毎の残り膜厚及び誤差の例を模式的に示すグラフである。
【
図9】
図9は、
図1の実施形態のプラズマ処理装置において、エッチングの進行が開始したことを検出した時刻が実際の時刻よりわずかに遅れた場合において、処理中に検出される残り膜厚と実際の残り膜厚の値およびこれらの間の誤差の関係を示したグラフである。
【
図10】
図10は、
図1に示す実施形態に係るプラズマ処理装置が検出するスペクトルの変化の量を模式的に示すグラフである。
【
図11】
図11は、
図1に示す実施形態に係るプラズマ処理装置が検出するスペクトルの変化の量を模式的に示すグラフである。
【
図12】
図12は、
図1に示す実施形態に係るプラズマ処理装置がウエハの処理中の各サンプリング時刻で検出する干渉光15のスペクトルについて、直前のサンプリング時刻での干渉光15のスペクトルとの差の和の時間の経過に伴う変化を模式的に示すグラフである。
【
図13】
図13は、
図1に示す実施形態の変形例に係るプラズマ処理装置が検出する干渉光のスペクトル差の和の時間の経過に伴う変化を模式的に示すグラフである。
【
図14】
図14は、
図13に示す本発明の変形例に係るプラズマ処理装置の残り膜厚の検出に用いられる干渉光のデータにおけるサンプリング時刻毎の残り膜厚及び誤差の例を模式的に示すグラフである。
【
図15】
図15は、
図1に示す実施形態に係るプラズマ処理装置の信号処理部の構成を模式的に示すブロック図である。
【
図16】
図16は、
図1に示す実施形態の変形例に係るプラズマ処理装置の構成の概略を模式的に示す縦断面図である。
【
図17】
図17は、
図16に示す変形例に係るプラズマ処理装置の動作の流れを模式的に示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。
【0023】
以下、本発明の実施形態を
図1乃至15を用いて説明する。
図1は、本発明の実施形態に係るプラズマ処理装置の構成の概略を模式的に示す縦断面図である。本図に示すプラズマ処理装置10は、円筒形状を少なくとも一部に備えた真空容器11と、その内部に配置され減圧された内側の空間にプラズマ12が形成される処理室19を備えている。
【0024】
処理室19の内部には、ガス導入手段(図示せず)から導入されたエッチング用の処理ガスが導入され、高周波電源(図示せず)等から供給された電力により所定の周波数帯の高周波電界やマイクロ波の電界またはソレノイドコイル等の磁界の発生器により磁界が形成される。これら電界又は電界と磁界との相互作用によって処理用ガスの原子または分子が励起され、電離、解離してプラズマ12が形成される。
【0025】
処理室19内部では、プラズマ12が形成された状態で、処理室19内部の試料台13上面上に配置され保持された処理対象の試料である半導体ウエハ(以下、ウエハという)14が、当該プラズマ12内の反応性、活性の高い粒子やイオン等の荷電粒子に接し、これらの粒子とウエハ14表面に予め配置された処理対象の膜層表面の材料との物理的、化学的作用が生起されてエッチングが進行する。
【0026】
本実施形態において、処理室19の内部へのガスの導入や、電界または磁界の形成とこれによるプラズマ12の生成、消失およびその強度や分布の調節、試料台13内に配置されプラズマ12の形成中に供給されてウエハ14上方にバイアス電位を形成するための高周波電力の供給、停止等のプラズマ処理装置10の各部の動作は、これらと有線ケーブルや無線でデータを通信可能に接続された制御部23によって行われる。
【0027】
本実施形態の制御部23は、内部に上記通信の入出力が行われるインターフェースと、半導体デバイスによるマイクロプロセッサ等の演算器と、内部にデータやソフトウエアが記録されたRAMやROMあるいはハードディスクドライブやDVD-ROMドライブ等の記憶装置とを有して、これらが通信可能に接続された構成を備える。制御部23により、処理室19内でウエハ14上の処理対象の膜層に所望のエッチング処理が実現されるように、各部の動作の量や開始、終了等の同期を含む動作のタイミングの調節を行うことができる。また、制御部23は、後述する
図7のフローチャートの制御を実行するプログラムを格納し、該プログラムに従ってプラズマ処理装置10の制御を実行する。
【0028】
エッチング処理中には、処理室19内に形成されたプラズマ12で生じた光がウエハ14に照射される。照射された光は、ウエハ14表面に処理に先立って予め形成されていた半導体デバイスの回路を構成する膜構造で反射され、膜構造の最表面あるいは上下に積層された2つの膜の界面と回路のパターンの内側の底面等の複数の面で反射し、これら照射され反射した光が、その経路の長さの差に起因して干渉を生じた干渉光15となる。
【0029】
干渉光15は、透光性を有した材料から構成され処理室19の内側に面した窓部材を通して真空容器11の壁面に取り付けられた石英等透光性を有した材料製の窓、およびその上方に配置されたレンズとを備える受光器16で受光される。さらに干渉光15は、受光器16と光学的に接続された光ファイバ等の光伝達用の経路を介して、これに接続された検出部17に伝送される。検出部17は、所定の帯域の波長の光を予め定められた波長間隔の波長の光毎に分ける分光器を有しており、処理中の任意の時刻において、検出部17において分光された干渉光15は、当該任意の時刻における各波長ごとの干渉光の光量を示す干渉光15のスペクトルとして検出される。受光器16と検出部17とで、検出装置を構成する。
【0030】
本実施形態では、ウエハ14の処理中の予め定められた時刻の間隔(時間)毎に、干渉光15のスペクトルが検出される。これらの各サンプリング時刻毎の信号は、干渉光15のスペクトルを示す時系列の信号として、検出部17から送信される。
【0031】
検出部17で検出された任意の時刻の干渉光15のスペクトルを示す信号は、信号処理部20に伝送され、信号処理部20において、エッチング量や終点をより精度良く検出することが可能になるような信号に変換され、あるいは処理される。具体的には、信号処理部20に入力された信号には、光量オフセットの処理や高周波ノイズを除去する等の処理が行われる。
【0032】
このような処理がされた信号は、膜厚・深さ判定部(判定器)21に伝送され、送信された信号から任意の時刻における膜厚あるいは深さの値が検出される。本実施形態では、各時刻に対応する信号から当該時刻でのエッチング量を検出しても良く、さらに、当該時刻でのエッチング量とこの時刻より前の処理中の時刻において検出されたエッチング量とを用いて、さらに精度の高いこの時刻でのエッチング量を検出しても良い。
【0033】
検出されたエッチング量の値を示す信号は、表示部22に送信されて表示または報知される。また、膜厚・深さ判定部21で検出された結果から、この処理において目標とするエッチング量あるいは残り膜厚となったことが判定された場合は、制御部23はプラズマ処理装置10に指令信号を発信して、処理用ガスの供給あるいはプラズマの形成を停止してウエハ14のエッチング処理を終了させる。
【0034】
なお、プラズマ処理装置10は、
図1に示すような構成に限られるものではないことは言うまでもない。ここでは外部装置として示した、信号処理部20や膜厚・深さ判定部や制御部23等をプラズマ処理装置10が含む構成としても構わない。
【0035】
図2は、
図1に示す実施形態に係るプラズマ処理装置の膜厚・深さ判定部の構成を模式的に示すブロック図である。本図では、各機能を奏する各ブロックが接続された膜厚・深さ判定部21の構成が模式的に示されている。
【0036】
この図に示すとおり、信号処理部20で処理されて適切な信号の形状にされた任意の時刻における干渉光15のスペクトルを示す信号は、膜厚・深さ判定部21に送信され、比較部31において当該信号のデータが予め得られたデータと比較が行われる。比較の対象となるデータは、比較部31と通信可能に接続されたデータベース部30の記憶装置内に予め記憶され格納されている。
【0037】
データベース部30の記憶装置には、例えば、プラズマ処理装置10を用いてウエハ14を処理して製造される半導体デバイス用の回路のための膜構造と同じか、これとみなせる程度に近似した寸法や種類を有する膜構造を、当該ウエハ14の処理条件と同じかこれと同じとみなせる程度に近似した条件で処理した際に得られる膜厚と、干渉光15の所定の複数の波長のスペクトルの時系列のデータが対応付けて記憶されている。
【0038】
このようなデータは、予めウエハ14と同等の膜構造を有した別のウエハ(テスト用のウエハとする)を同等の処理の条件で処理した際に検出したデータであっても良く、あるいはシミュレーション等の計算の結果のデータであっても良い。本実施形態では、このように予め得られたデータから、処理中の残り膜厚等の複数のエッチング量の値と、波長の変化に対する干渉光15のスペクトルの光量またはその微分値の変化の複数のパターンとの間、あるいは波長をパラメータとする干渉光15の光の量またはその微分値の複数のパターンとの間で対応付けがなされて、データベース部30の記憶装置に記憶されている。
【0039】
例えば、上記のテスト用のウエハの処理の開始前における処理対象の膜厚と、処理後の膜厚とを測定しておき、膜厚の値とデータベース部30に記憶されたデータとを用いて、同じ処理対象においてエッチングの進行に応じて変化する膜厚(複数のエッチング量)の値の各々と、干渉光15のスペクトルとの間で対応付けがされ、この対応付けされた情報と共に時系列のパターンのデータがデータベース部30に格納される。膜厚と干渉光のスペクトルの特徴データとの対応関係を示すデータを、膜厚・スペクトルデータという。スペクトルの特徴データとは、例えばスペクトルの波形や、波長に対応する強度、微分値の変化など、そのスペクトルを表す情報をいう。微分値を用いた場合、原信号に含まれるスパイクノイズなどの影響を抑制でき、S/N比が向上する。
【0040】
このようなデータベース部30内の膜厚・スペクトルデータと、ウエハ14のエッチング処理時に信号処理部20で処理されて実際に得られた任意の時刻の干渉光のスペクトルとを比較することにより、実際のデータに最も近いと判定された光量のパターンに対応するエッチング量の値が、当該任意の時刻のウエハ14のエッチング量(残り膜厚あるいは深さ)として検出される。
【0041】
なお、膜厚・深さを決定する方法は上記に限ったものではない。例えば、データベース部30の膜厚・スペクトルデータが少ない場合は、膜厚・スペクトルデータにおける複数のスペクトルに基づいて補間を行うことで、新たなスペクトルを生成し、膜厚もそれに応じた値となるように設定することで、膜厚・スペクトルデータを増やしても構わない。また、予め測定するテスト用のウエハを複数準備して、複数の条件ごとに膜厚・スペクトルデータを設定しても構わない。また、量産化時、ウエハ14のエッチング処理前後の膜厚検査結果を用いてデータベース部30に追加し、比較する膜厚・スペクトルデータを増やしても構わない。
【0042】
また、上記の膜厚・深さ判定部21において、比較部31は1つ以上の半導体デバイスまたはその回路で構成されていても良く、また1つの半導体デバイス内部の一部の回路であっても良い。データベース部30は、RAMやROM、あるいはハードディスクドライブやDVD-ROMドライブ等の記憶装置と、該記憶装置と比較部31との間で有線または無線で通信可能に接続されデータの送受信を行えるインターフェースとを備えていてよい。データベース部30は、プラズマ処理装置10に比較部31と共に取り付けられていても、遠隔した箇所に配置されていても良い。
【0043】
(比較例)
図3,4は、比較例によるエッチング処理中の時間の経過に対する膜厚の変化および検出される膜厚の誤差の変化を模式的に示すグラフである。
【0044】
図3(a)は、比較例に係るエッチング処理の期間中に検出される処理対象の膜層の残り膜厚と実際の残り膜厚との関係を示すグラフである。
図3(b)は、(a)に示されるエッチング中に検出された残り膜厚と実際の残り膜厚との差(膜厚誤差)の変化を示したグラフである。これらの図において、横軸はエッチング時間であって、エッチング処理の開始の時刻を0、エッチング処理の終了時刻をTeとし、処理開始前の残り膜厚の値をDi、処理終了後の残り膜厚の値をDeとする。
【0045】
ここでは、予め、半導体デバイス製造用のウエハ14と同等の膜の構造を有したテスト用のウエハ14を、半導体デバイス製造用に処理する際のものと同等の処理の条件で処理するか又は計算上でシミュレートして、干渉光15の波長をパラメータとする強度(スペクトル)のデータを入手する工程が行われる。
【0046】
この工程において、処理室19内にプラズマ12が形成されるか或いは試料台13内部に配置されたバイアス電位形成用の電極に高周波電力が供給された時点が処理開始時刻として見做され、当該開始の時刻から以降のサンプリング時刻毎にウエハ14表面からの干渉光15が検出されて、当該時刻での残り膜厚が算出される。さらに、算出された時刻での残り膜厚の値と共に、当該時刻より前の処理中のサンプリング時刻での膜厚の値が用いられて、最終的に当該時刻での残り膜厚の値が算出される。この際、各サンプリング時刻における最終的な残り膜厚の算出には、少なくとも1つの当該時刻より前の時刻での残り膜厚の値を用いた再帰分析の手法が用いられる。
【0047】
さらに、比較例において、予め得られた処理中の各時刻での干渉光のスペクトルの特徴データを用いて、半導体デバイスを製造するために処理の終点まで行われるウエハ14のエッチング処理中の残り膜厚の算出では、処理対象の膜層がエッチングされ始めた時刻をプラズマが形成されたか又はバイアス形成用の高周波電力が供給され始めた時刻と見做している。しかし、実際には、プラズマ12が形成され、さらに高周波電力が試料台13内の電極に供給され始めた時刻直後からの処理の初期では、プラズマ12の強度とその分布やバイアス電位の大きさやその分布が安定せず、処理の速度(レート)や実質的に処理の進行が始まる時点が、ウエハ14毎や複数の工程から構成された処理であれば各工程毎にバラついてしまう。
【0048】
つまり、実際のウエハ14のエッチング処理中には、プラズマ12が形成され発光が開始された直後からエッチングとその進行が安定して行われるわけではない。具体的には、
図3(a)の実線41として表される実際の残り膜厚の値は、縦軸の近傍において膜厚Dの値がほぼ一定に示されているように、プラズマ12が形成された以降も状態が安定してエッチングの進行が安定するまでに、膜種類や処理の条件に応じて所定の時間(本例では時刻0からTiまでの時間)を要して、この期間の間処理対象の膜層のエッチングは実質的に進行しない。そのため、実際のエッチングの開始の時刻はTiだけシフトすることとなる。
【0049】
しかし、比較例では、処理の開始と見做された時点の残り膜厚の値として、開始前の処理の対象の残り膜厚は値Diから処理の終点に到達したと判定された際の残り膜厚Deまで安定して一様に低減すると見做しており、処理中の任意の時刻における残り膜厚が当該時刻より前の時刻での残り膜厚の値を用いて再帰的に算出される。このため、比較例で検出される各時刻での残り膜厚Dの値は、時刻0(縦軸上)の厚さDeを通る直線として
図3(a)の破線40で模式的に示されるように、時刻0から時刻Teまでの処理の期間中の各々の時刻より前の時刻での値が補間されたものとなる。
【0050】
その結果、比較例では、
図3(b)に示すように、検出された残り膜厚の値と実際の残り膜厚の値との間の乖離(膜厚誤差)が生じ、これはプラズマ12の形成あるいはバイアス電位形成用の高周波電力の試料台13への供給の開始された直後から所定の時間(時刻Ti)に最も大きいものとなる。
【0051】
図3では、エッチングの処理が終点に到達したと判定された時刻(終了時刻)での残り膜厚の値はDeとして一致している。しかし、データベース部30に格納されるデータを入出するためのテスト用のウエハ14の処理では、データベース部30のデータを膜構造の下地層やマスク層等の各層の膜厚や形状、寸法等の構造のパラメータの値は、実際のウエハ14のものより広い範囲に亘るものにするため、実際の工程の終点より深く設定するのが通常である。そのため、終点の目標となる残り膜厚Dtが検出された時刻Ttでエッチング処理を終えると、残り膜厚はDtと一致せず誤差が生じる。その結果、
図3(b)の実線42に示すように、エッチング開始時刻Tiをピークとして検出される残り膜厚の誤差が発生し、エッチング処理を終了する推定時刻Ttでも膜厚誤差が発生している。ただし、エッチング時間が長いほど膜厚誤差は小さく見える傾向があるため、長時間エッチングでは膜厚誤差は小さい。
【0052】
しかし、エッチング処理の開始から終了までの時間が短くなるほど、この影響は無視することができなくなる。
図4(a)は、短時間エッチングにおける、データベース作成時のエッチング時間に対する比較例の膜厚推定と実際の膜厚の関係を示したグラフ、
図4(b)は、長時間エッチングにおける、比較例の膜厚誤差を示したグラフである。各符号は
図3と同じであるため、その説明を省略する。短時間エッチングの場合、エッチング開始時刻Tiのシフトの影響が相対的に大きくなるため、目標の残り膜厚Dtで処理を終えた場合の時刻Ttの残り膜厚の誤差は、
図4(b)に示すように大きくなるという問題が生じる。
【0053】
図5は、
図1に示す実施形態に係るプラズマ処理装置がウエハのエッチング処理を開始した時刻の前後で得られる干渉光のスペクトルの例を示すグラフである。
図5(a)は、処理室19内にプラズマ12が形成された時刻から処理対象の膜層のエッチングが開始された時刻Tiまでの各サンプリング時刻における干渉光15の強度の値を、横軸に波長(周波数)を採って所定の複数の波長(周波数)毎にプロットしたスペクトルを重ねた結果を示す。
図5(b)は、時刻Ti以降の各サンプリング時刻で得られた干渉光15のスペクトルを重ねた結果を示している。
【0054】
図5(a)に示されるように、時刻Tiまで干渉光15のスペクトルの変化はほとんど見られない。一方、
図5(b)に示すように、時刻Ti以降の各サンプリング時刻で得られた干渉光15のスペクトルには同じ波長で明らかに異なる値となっているものが見られ、値がプロットされた線同士の間には上下方向に差が生じており、スペクトルが変化していることが判る。
【0055】
干渉光15のスペクトルが示す光の強度情報は、ウエハ14表面に配置された回路パターンを構成する膜構造を構成する膜層の残り膜厚を示しているので、時刻Ti以降に、プラズマ12の状態が安定して処理対象の膜層のエッチングが所定の閾値以上に進行したことが判り、時刻Tiにエッチングが開始されたと見做すことができる。
【0056】
このように、各サンプリング時刻での干渉光15におけるスペクトルまたはその波形同士の間に所定の閾値以上の変化の量が有るか無いかを判定し、変化が閾値以上になったと判定されたサンプリング時刻をエッチング処理の開示された時刻として見做すことで、エッチングの処理の開始時刻を判定可能となる。
【0057】
図6は、
図1に示す実施形態に係るプラズマ処理装置のデータベース部のデータとこれから検出される残り膜厚の対応を示す図である。特に、
図6では、処理開始後の任意の時刻において得られた干渉光15のスペクトルの特徴データを、データベース部30に格納された膜厚・スペクトルデータを照会して、膜厚・深さ判定部21の比較部31で比較した結果、差が最も小さいと判定されたスペクトルに対応する膜厚を、比較例と本実施形態とで比較して示す。
【0058】
図6では、半導体デバイスを製造するエッチング処理が施されるウエハ14と同等の構成を有するテスト用のウエハ14上の処理対象の膜を処理室19内に配置してエッチング処理した際に得られた、またはシミュレーション等で当該エッチング処理を計算して得られたウエハ14からの干渉光15のスペクトルについて示している。
【0059】
図6のデータでは、エッチング処理する工程が開始され処理室19内にプラズマ12が形成された時刻、または試料台13内の電極に高周波電力が供給されてプラズマ12中のイオン等荷電粒子をウエハ14に誘引するバイアス電位が形成された、または計算でこれと想定された時刻を上記工程の期間の時刻0としている。
【0060】
図6において、当該工程の期間の時刻0とこれ以降の各サンプリング時刻における干渉光15のスペクトルがプロットされてグラフとして示された波形と、比較例に係るプラズマ処理装置および本実施形態のプラズマ処理装置10が各時刻に対応する値として検出する残り膜厚の値とが、横軸に採られた工程の期間中の時刻に対応付けされて示されている。
【0061】
なお、本実施形態では、サンプリング時刻同士の間隔(サンプリング間隔)を0.1秒(sec)としている。また、エッチング処理の開始前の処理対象の膜の厚さをDi、エッチングの処理の終点となる目標の残り膜厚をDeとする。
【0062】
図6に示すように、本実施形態のデータでは、干渉光15から得られるスペクトルを示すグラフの波形は時刻0からTiまで変化がないと見做されるほど同等であって、時刻Ti直後のサンプリング時刻(Ti+0.1秒)から波形が変化する。
【0063】
すなわち、本実施形態では、時刻0の以降のサンプリング時刻で得られたスペクトルの予め定められた波長(周波数)の値の変化あるいはスペクトル波形と、当該時刻の以前における任意のサンプリング時刻(本実施形態では1つ前のサンプリング時刻)のスペクトル波形との差の量(差分)が、所定の閾値より小さいと判定され、処理対象の膜のエッチングが進行していない未処理の状態であると判定される。この結果として、時刻0から時刻Tiまでの残り膜厚はエッチング処理前の値のDiと同じ値として検出され、時刻0からTiまでの期間は、処理対象の膜が未処理である期間と見做される。
【0064】
時刻(Ti+0.1)[秒]において、上記所定の閾値以上のスペクトルの値または波形の変化の量が検出された結果、当該時刻(Ti+0.1)にエッチングの処理が開始された、つまり時刻(Ti+0.1)がエッチング期間が開始された時刻と判定される。さらに、本実施形態では時刻Teに残り膜厚の値が目標である終点の残り膜厚Deに到達したと判定され、時刻(Ti+0.1)以降時刻Teまでの期間(エッチング処理が進行する期間)中の残り膜厚は、単位サンプリング時間毎に残り膜厚の変化量(Di-De)をサンプリング時刻の個数で除した値Δd’だけ変化すると見做されて、各時刻での残り膜厚が算出される。例えば、時刻(TI+0.1)での残り膜厚の算出値は(Di-Δd’)となり、時刻Tt=(Ti+0.1)×m[秒]での残り膜厚は(Di-Δd’)×mとなる。
【0065】
一方、比較例では、時刻0から時刻Tiの間の未処理の期間を含む時刻Teまでの時間がエッチング処理の期間として見做され、残り膜厚の値Di,Deとの差を当該時刻0乃至Teまでのサンプリング時刻の個数(工程の期間÷サンプリング間隔)で除して得られる単位サンプリング間隔当たりの残り膜厚の変化Δdを用いて、時刻0.1[秒]の膜厚は(Di-Δd)、時刻Tiの残り膜厚は0乃至Tiの期間のサンプリング時刻がn個あるとすると(Di-Δd)×nとして算出され、さらに時刻Ttの膜厚はDi-Δd×(n+m)として算出される。
【0066】
このように比較例で用いられる複数の干渉光15のスペクトルや強度のパターンを示すデータには、エッチング処理が行われると見做した期間に未処理の期間が含められている。このため、このようなデータと対応付けされた残り膜厚の値には誤差が生じた。さらに、このようにデータを用いて半導体デバイスの量産のためのウエハ14の処理中に残り膜厚を検出すると、実際の残り膜厚は所期の値との間の乖離(膜厚誤差)が生じており、処理対象の膜を処理する工程または実際のエッチングが進行する処理の時間が短くなるほど、上記誤差の影響が大きくなり処理の歩留まりが損なわれてしまう。
【0067】
そこで、本実施形態では、上記のように、工程が開始された時刻0の以降は、各サンプリング時刻で得られたスペクトル波形(あるいはスペクトルの予め定められた波長(周波数)に対応する強度の変化)と、当該時刻の以前の任意の時刻(本例では1つ前のサンプリング時刻)のスペクトル波形との差が、所定の閾値より大きくなったと判定される時刻(Ti+0.1)まで、このようなスペクトルの波形の変化を示す干渉光15に対しては、処理対象の膜のエッチングが進行していない未処理の状態であると判定し、時刻(Ti+0.1)から時刻Teまでのエッチング処理が進行する期間の干渉光15のスペクトルを示す上記データを用いて残り膜厚を検出する。
【0068】
図7は、
図1に示す実施形態に係るプラズマ処理装置において干渉光のスペクトルの特徴データを含む膜厚・スペクトルデータを、データベース部に格納する動作の流れを示すフローチャートである。本実施形態においては、上記の通り、半導体デバイスを量産するウエハ14の処理の開始前に、予め、当該ウエハ14と同等の構成を備えたテスト用のウエハ14における処理対象の膜層のエッチング処理の進行に伴う複数の波長の干渉光15のスペクトルの特徴データを、膜層の残り膜厚と対応付けして格納される。
【0069】
図7には、予め行われるこのようなデータを取得して膜厚・深さ判定部21内のデータベース部30に、膜厚・スペクトルデータとして格納するまでの動作の流れが示されている。当該動作のフローが開始されると、まず、ステップS701において、半導体デバイスを量産する工程に用いられるウエハ14と同じ構成(表面に形成された膜も含めた寸法、構造)が同じかまたはこれと見做せる程度に近似した同等のテスト用のウエハ14の処理の工程を開始する前の処理対象の膜層の残り膜厚Diが測定され、制御部23内部の記憶装置内に記憶され格納される。
【0070】
本ステップにおいて、膜厚の測定は、断面SEM(Scanning Electron Microscope)、OCD(Optical Critical Dimension)、AFM(Atomic Force Microscope)等の従来から知られた測定技術のいずれを使用しても良い。なお、実際に処理室19内でエッチング処理してデータを取得する場合には、テスト用のウエハ14として量産に用いられるものと同じロットのものを用いることが好ましい。
【0071】
次に、ステップS702において、テスト用のウエハ14を真空容器11内部の処理室19内に搬送し試料台13上に載せて固定する。
【0072】
ステップS703において、量産用のウエハ14と同じかこれと見做せる程度に近似した条件でエッチング処理の工程を開始する。すなわち、処理室19内が所定の範囲内の真空度の圧力に維持され、処理室19に供給された処理用のガスを用いてプラズマ12が形成され、試料台13内部の電極にバイアス電位形成用の高周波電力が供給されて工程が開始される。なお、本実施形態では、この工程が開始された時刻を当該工程の期間中の時刻0と定めている。
【0073】
本実施形態のプラズマ処理装置10では、処理対象の膜を処理する工程が開始された時点、及び開始後、膜厚・深さ判定部21において、所定の間隔のサンプリング時刻毎に、受光器16を介して受光したウエハ14からの干渉光15のスペクトルを用いて処理対象の膜層の残り膜厚が予め定められた目標の値に到達したか否かが判定され、到達していない場合には、判定されるまでエッチング処理が継続される。
【0074】
すなわち、各サンプリング時刻で受光器16を介して受光されたウエハ14からの複数波長の干渉光15のスペクトルが検出部17において検出された後、信号処理部20で処理されて膜厚・深さ判定部21に伝送され、各時刻毎の複数波長の干渉光15のスペクトルの特徴データが当該時刻(処理開始時点を含む)と対応付けされて内部のデータベース部30内の記憶装置内部に記憶される(ステップS704)。
【0075】
なお、本実施形態では、目標となる値に対象の膜層の残り膜厚が到達したか否かの判定は、処理が開始されてから予め定められた目標の膜厚に到達すると想定される時間が経過したか、あるいはサンプリング時刻の個数に達したか否かを判定することで行われる。
【0076】
所望の膜厚に到達したと想定される時間が経過したことが判定されると、ステップS705に進み、テスト用のウエハ14のエッチング処理が終了される。さらに、ステップS706でテスト用のウエハ14が処理室19から搬出される。
【0077】
その後、ステップS707において、ステップS701と同様の工程により、テスト用のウエハ14の処理対象の膜層の残り膜厚Deが測定され、制御部23内の記憶装置内に記憶され格納される。ここまでのステップで、テスト用のウエハ14の処理対象の膜層がエッチングされる前後の残り膜厚と、当該膜層をエッチングする工程の期間中の各サンプリング時刻毎の干渉光15のスペクトルの特徴データが取得される。
【0078】
本実施形態では、取得された干渉光15の特徴データから、工程の開始時刻からの干渉光15の各波長の光の強度の変化、あるいは干渉光15の波長の変化に対する光の強度の変化を示すスペクトルの波形の変化が検出される。
【0079】
ステップS708で、当該変化の量と所定の閾値との大小が膜厚・深さ判定部21内の比較部31で比較され、変化の量が閾値を超えたと判定された時刻が、エッチングの進行の開始された時刻として検出される。
【0080】
ステップS709で、時刻0からこのエッチングの開始された時刻(
図6の時刻(Ti+0.1)秒)までのエッチング処理が進行していない未処理の期間の各サンプリング時刻では、残り膜厚がDiとして検出されて各時刻のデータに対応付けされる。さらに、エッチングの開始された時刻以降の各サンプリング時刻での残り膜厚の値が、エッチング処理の開始時刻での膜厚Diと、終点の膜厚Deの値とに基づいて各サンプリング時刻で線形に補間して得られた値として、各時刻のスペクトルの特徴データに対応付けされて、データベース部30に記憶され格納される。このようにして、干渉光15のスペクトルの特徴データと残り膜厚の値との間の対応付けがされた膜厚・スペクトルデータが、データベース部30に格納されてデータベースが構築されて、フローが終了する。
なお、膜厚・深さ判定部21は、エッチング開始時刻およびそれ以前のスペクトルにエッチング処理前の膜厚を割り当て、エッチング終了時刻のスペクトルにエッチング処理後の膜厚を割り当て、その間のスペクトルはエッチング時間に対する線形補間にて導出した膜厚を割り当てるようにして、膜厚・スペクトルデータ(膜厚とスペクトルとの対応関係)を生成すると好ましい。
【0081】
図8を用いて、
図7で得られた干渉光15のデータにおける各サンプリング時刻毎の残り膜厚の値と誤差の大きさとを説明する。
図8は、
図1に示す実施形態に係るプラズマ処理装置の残り膜厚の検出に用いられる干渉光のデータにおけるサンプリング時刻毎の残り膜厚及び誤差の例を模式的に示すグラフである。
【0082】
図8(a)は、データベース部30に格納された膜厚・スペクトルデータにより得られる残り膜厚と実際の残り膜厚との関係を示している。
図8(b)は、
図8(a)に示される2つの残り膜厚の値の間の差(膜厚誤差)を示している。
【0083】
図8(a)において、横軸はウエハ14のエッチング処理する工程が開始された時点以降の時間、縦軸は処理対象の膜層の残り膜厚または深さ、及びデータを用いて検出される残り膜厚(深さ)の値と実際の値との間の誤差の大きさである。各符号は
図3で示したものと同じであるため、説明を省略する。
【0084】
図8(a)において、実線41で示されるように、プラズマ12が形成されエッチング処理の工程が開始された時刻0から、プラズマ12の強度が安定して処理対象の膜層のエッチングの進行が開始される直前の時刻Tiまでの未処理の状態である未処理期間が発生している。このため、当該未処理期間では、実際の残り膜厚はほぼ一定またはその変化は所定の閾値内ものとなる。本実施形態では、このような未処理期間が生じる場合でも、エッチング処理の進行が開始される時刻を干渉光15のスペクトルの変化から検出し、当該時刻以降の時刻におけるスペクトルの特徴データを用いて残り膜厚を検出する。
【0085】
例えば、量産用のウエハ14を処理する工程の期間中の任意の時刻において検出された実際の干渉光15のスペクトルの特徴データと、データベース部に格納された上記の未処理期間が除かれた期間のサンプリング時刻の干渉光15のスペクトルの特徴データとが比較され、これら各時刻の特徴データのうち実データとの差が最も小さいものに対応する残り膜厚の値が、当該の時刻の膜厚として検出される。
【0086】
或いは、量産用のウエハ14の処理の工程の開始(時刻0)から所定の初期の期間中のサンプリング時刻において、干渉光15のスペクトルの特徴データの変化が予め定められた閾値より小さいと判定された場合には、当該時刻は未処理の期間中であると判定され、残り膜厚が工程開始前の値Diであるものと見做す。
【0087】
さらに、その後に変化の大きさが閾値を超えた時刻にエッチング処理が開始されたことを検出した上で、当該開始された時刻(上記の例では時刻(Ti+0.1)秒)以降の任意のサンプリング時刻に検出された干渉光15のスペクトルの特徴データと、データベース部30内の膜厚・スペクトルデータとが比較部31で比較されて、該膜厚・スペクトルデータにおいて、検出されたスペクトルの特徴データに対応する膜厚を、当該時刻の残り膜厚を瞬時膜厚として抽出すると共に、この瞬時膜厚の値及び当該任意の時刻より過去のエッチング処理中のサンプリング時刻で検出された残り膜厚とを用いた再帰分析から、この任意の時刻での残り膜厚を計算膜厚として算出しても良い。この場合、再帰分析に用いられる過去のサンプリング時刻の残り膜厚は、時刻(Ti+0.1)秒以降の複数の時刻で検出されてデータベース部30または制御部23に記憶され格納された計算膜厚の値である。
【0088】
このように、干渉光15のスペクトルの特徴データからエッチング未処理の状態か、エッチング処理の進行が開始されたかを判定することができる。これにより未処理の期間後のエッチング処理が開始された時点以降の干渉光15のスペクトルの特徴データを用いて、エッチングの開始以降の各サンプリング時刻で残り膜厚を算出することで、再帰分析により残り膜厚を算出する場合でも、
図8(a)の破線43として表される残り膜厚の値は、ウエハ14の処理の工程の期間の各時刻において、高い精度で検出される。その結果、
図8(b)に実線42として表されるように、膜厚誤差、すなわち実際の残り膜厚との間の誤差が低減される。
【0089】
図9は、
図1の実施形態のプラズマ処理装置において、エッチングの進行が開始したことを検出した時刻が実際の時刻よりわずかに遅れた場合において、処理中に検出される残り膜厚と実際の残り膜厚の値およびこれらの間の誤差の関係を示したグラフである。
図9(a)は、横軸に時間を採り時間の経過に伴う残り膜厚の値の変化を示すグラフを示し、
図9(b)は、時間の経過に伴う誤差の変化を示すグラフである。
【0090】
図9(a)に示すように、前後に隣接するサンプリング時刻同士の間にエッチングの進行が開始された場合には、当該プラズマ処理装置10の膜厚・深さ判定部21または制御部23が進行を判定することのできる時刻は、早くとも次のサンプリング時刻となり実際のものよりわずかに遅れることになる。
【0091】
この場合には、実線41に示す実際の残り膜さの変化と破線43に示す検出される膜厚の変化との間にずれが生じており、誤差が生じている。しかし、
図3,4に示された実線40、破線41との間の差の大きさと比べて小さくすることができるため、
図9(b)の実線42に示すように、膜厚誤差を小さくすることが可能となる。
【0092】
なお、
図9ではエッチング開始時刻の判定が遅れた場合を説明しているが、判定が早まった場合でも同様の効果が得られることは、言うまでもない。
【0093】
次に、本実施形態において干渉光15のスペクトルの変化を検出する構成について説明する。
図10及び
図11は、
図1に示す実施形態に係るプラズマ処理装置が検出するスペクトルの変化の量を模式的に示すグラフである。
【0094】
これら
図10(a)から
図11(c)までの図では、プラズマ処理装置10が検出する干渉光15の連続する2つのサンプリング時刻でのスペクトル波形の差が、横軸に波長を採って示されている。それぞれの図は、処理対象の膜層をエッチング処理する工程が開始して以降の6つのサンプリング時刻(時刻T=0.1,0.3,Ti,(Ti+0.1),(Ti+0.2),(Ti+0.3)[秒])において検出された干渉光15の複数の波長の光の強度と、直前のサンプリング時刻での光の強度との差を、横軸に波長を、縦軸はスペクトル差(光の強度の差)を採って示している。
【0095】
これらの図に示される通り、プラズマ12が形成されエッチング工程が開始された時刻直後の0.1秒や0.3秒では、時刻Ti以降のものと比べて、所定の複数の波長の範囲にわたりスペクトル差は小さいことが判る。これは、処理対象の膜層のエッチングが進行しておらず干渉光15に含まれる複数波長の光の強度変化が少ないことが理由であり、干渉光15の強度を時間の経過に伴って変化させる要因としては、プラズマ12の強度或いは分布の変動やプラズマ処理装置10に用いられる電気回路を流れる高周波のノイズ等の大きさとして相対的に小さいもののみであるためと考えられる。
【0096】
一方、
図11(c)に示すように、時刻Ti秒に複数波長でスペクトル差が大きくなっている。このような変化は、プラズマ12によってウエハ14上の回路パターンを形成ための処理対象の膜層のエッチングが十分に進行して当該エッチングが開始されたことを示している。そして、時刻Ti以降も、(Ti+0.1),(Ti+0.2),(Ti+0.3)[秒]の各々でスペクトル差は、Tiより前の時刻のものを示す
図10(a),(b)のものと比べ大きくなっており、特に、時間の経過に伴ってスペクトル差の量(例えば、各周波数毎の差の総和)は大きくなっていることが判る。
【0097】
なお、図示はしていないが、時刻(Ti+0.3)秒以降のサンプリング時刻においても、スペクトル差の形状のばらつきはあるものの絶対値的な変化は見られなくなり、安定的に対象材料がエッチングされていると判断される。これらの結果より、直前の時刻のものとのスペクトル差の大きさが所定の閾値より大きくなった時刻Tiを、処理対象の膜層のエッチング処理の開始された時刻として検出できる。
【0098】
以上述べたように、干渉光15のスペクトルの波形あるいは複数波長の光の強度変化を連続する2時刻のスペクトル差を用いて検出することにより、処理対象の膜層のエッチングの開始された時刻を正確に検出することが可能となる。
【0099】
なお、スペクトルの変化を検出する構成は、上記のものに限定されない。例えば、連続する2時刻の特定の波長のスペクトル比(強度の比)を算出し、所定の閾値と比較することでスペクトル変化を観測しても構わない。また、所定時刻(例えばプラズマ12が形成され発光が生じた直後)の光スペクトルを基準として算出した各時刻の光スペクトルとの差分や比を用いても構わない。
【0100】
次に、エッチング処理の開始された時刻を定量的に検出する別の手段について説明する。この手段では、プラズマ処理装置10がウエハ14をエッチング処理する工程を開始した後の各サンプリング時刻において検出した干渉光15のスペクトルと、直前のサンプリング時刻での干渉光15のスペクトルとの差を算出し、当該差を各サンプリング時刻毎に足し合わせた合計値が所定の値を超えたことを検出した時刻を、処理対象の膜層のエッチングが開始された時刻として検出する。
【0101】
図12は、
図1に示す実施形態に係るプラズマ処理装置がウエハの処理中の各サンプリング時刻で検出する干渉光15のスペクトルについて、直前のサンプリング時刻での干渉光15のスペクトルとの差(以下、スペクトル差という)の和の時間の経過に伴う変化を模式的に示すグラフである。
図12の横軸はウエハ14のエッチング処理の工程が開始された時点以降の時間を示し、縦軸はスペクトル差の和の値を示している。
【0102】
ここで、スペクトル差は上記工程が開始された以降の任意のサンプリング時刻で得られた干渉光15のスペクトルについて、その直前のサンプリング時刻での干渉光15のスペクトルとの差である。前後2つのサンプリング時刻で得られる干渉光15の波長ごとの強度は、
図10,11に示すように、干渉光15の複数の各波長で増加するものと減少するものとが存在し、これらの光の強度の差は正及び負の値のものが各波長で異なって存在する。本実施形態では、これらの差の絶対値の和、或いは各差の2乗値の和を算出した値を「スペクトル差の和」として、ウエハ14を処理する工程が開始された時刻以降の各サンプリング時刻において当該スペクトル差の和を算出する。スペクトル差の和は、スペクトルの特徴データとなり得る。
【0103】
図12に示すように、プラズマ12を用いたウエハ14を処理する工程が開始された直後のサンプリング時刻で算出されたスペクトル差の和の値は小さく、時間の経過に伴って徐々に増大した後、急激に増大する。さらに、その後の時刻において増加の割合が徐々に低下して、所定の値に漸近していく。本実施形態では、上記スペクトル差の和の値が急激に増大した時刻が検出され、エッチングが開始された時刻として見做される。このようなスペクトル差及びスペクトル差の和の算出と、エッチングの進行が開始された時刻の検出は、膜厚・深さ判定部21、あるいは比較部31で行われる。
【0104】
図12(a)に示す例では、プラズマ処理装置10の膜厚・深さ判定部21は、各サンプリング時刻において閾値50を用い、スペクトル差の和が閾値50を超えたことが検出されたサンプリング時刻をエッチング処理が開始された時刻Tiとして判定する。
【0105】
このような閾値は、処理対象の膜層の材料や処理の条件に応じて変動するものであり、プラズマ処理装置10の使用者により、予めテスト用のウエハ14を処理した際に得られた干渉光15のスペクトルの特徴データから、エッチングの開始された時刻と見做せるスペクトル差の和の値が、適切に選択されて定められる。
【0106】
図12(b)に示す例では、各サンプリング時刻においてスペクトル差の和の時間に対する変化率(傾き)を算出し、特定の期間における変化率51の平均値を用いてエッチング処理が開始された時刻Tiが判定される。例えば、対象となる測定点の平均傾き51を含む直線を導出した後、該直線が横軸と交じわる点Tiをエッチング処理が開始された時点と判定する。これにより、エッチング開始時刻を定量的に求めることが可能である。なお、Tiを判定する方法は、平均傾き直線と横軸との交点に限定されない。
図12(a)の閾値と組み合わせて、閾値と平均傾き直線の交点としても構わない。
【0107】
以上述べたように、連続する2時刻のスペクトル誤差の和を各時刻でプロットし、閾値や平均傾きといった任意の条件で時刻Tiを設定することで、エッチング開始時刻を定量的に判定することが可能である。なお、和をとる波長範囲は、感度のある任意波長域であればどの領域でも構わない。また、スペクト誤差の和の変化を正確に把握するため、縦軸を対数スケールにしたり、プロットを平滑化したりしても構わない。
【0108】
一方、スペクトル差の和が相対的に長い期間にわたり変化する場合には、処理対象の膜層のエッチングの進行は徐々にその速度、度合いが増大するように変化すると考えられる。このような場合には、エッチング処理の開始の時刻を上記実施形態で説明した構成で検出して、残り膜厚の値とその終点の検出の判定とを、当該開始の時刻前の未処理の期間以降にシフトするのみでは対応することが困難となると考えられる。次に、このような場合に残り膜厚を精度良く検出するための変形例を示す。
【0109】
図13は、
図1に示す実施形態の変形例に係るプラズマ処理装置が検出する干渉光のスペクトル差の和の時間の経過に伴う変化を模式的に示すグラフである。本変形例では、上記のようにスペクトル差の和の値がウエハ14を処理するための工程の開始後が、相対的に長い期間で徐々に増大する場合に、複数の閾値が用いられてエッチングの処理の開始の時刻が検出される。
【0110】
すなわち、
図13に示すように、本変形例においても
図12に示した例と同様に、ウエハ14を処理する工程が開始された直後のサンプリング時刻で算出されたスペクトル差の和の値は時間の経過に伴って徐々に増大した後、急激に増大し、その後の時刻において増加の割合が徐々に低下して、所定の値に漸近していく。図に示されるグラフの値が所定の値に漸近した状態では、安定したエッチングが開始されたと考えられる。このようなスペクトル差の和が、時間に対する変化率(増加率)が低下して所定の値に漸近し始めるのは閾値50に達したサンプリング時刻からである。
【0111】
本変形例では、このような閾値50と共に、スペクトル差の和の値が増大を始めたサンプリング時刻でのスペクトル差の和の値を第2の閾値52として、2つの閾値が予め設定され、スペクトルの特徴データとして制御部23または膜厚・深さ判定部21内の記憶装置に記憶され格納されている。この第2の閾値52は、処理対象の膜層のエッチングの速度が増大して明らかにエッチングが進行し始めた際のスペクトル差の和の値であると想定される。
【0112】
本変形例では、膜厚・深さ判定部21が、エッチング差の和が閾値50に達したサンプリング時刻をエッチングが開始された時刻Tiとして判定し、さらにエッチング差の和の値が閾値52に達したサンプリング時刻をエッチングの速度が変化し始めた(変化が開始された)時刻Tjとして判定して、2つのエッチングの速度の変化点を検出する。
換言すれば、
図13に示すエッチング差の和における時間に対する変化率を曲線で近似したときに変曲点が2つ存在するといえる。かかる場合、時間的に先行する第1の変曲点の時刻Tjをエッチング開始時刻とし、また時間的に後行する第2の変曲点の時刻をTiとする。
【0113】
図14は、
図13に示す本発明の変形例に係るプラズマ処理装置の残り膜厚の検出に用いられる干渉光のデータにおけるサンプリング時刻毎の残り膜厚及び誤差の例を模式的に示すグラフである。
図14(a)は、データベース部30に格納された膜厚・スペクトルデータから得られる残り膜厚と、実際の残り膜厚との関係を示している。
図14(b)は、
図14(a)に示される2つの残り膜厚の値の間の差(膜厚誤差)を示している。
【0114】
図14において、横軸はウエハ14のエッチング処理する工程が開始された時点以降の時間、縦軸は処理対象の膜層の残り膜厚または深さ、及びデータを用いて検出される残り膜厚(深さ)の値と実際の値との間の誤差の大きさである。各符号は
図3,13で示したものと同じであるため、説明を省略する。
【0115】
図14(a)に示される実線41のように、ウエハ14を処理する工程でエッチングが開始された直後からの所定の期間において、プラズマの状態等の処理の条件が不安定となり、検出される残り膜厚も変化が大きくなってしまう場合がある。このような場合では、破線43に示すように、工程開始直後(時刻0)からサンプリング時刻Tjまでの期間は、干渉光15のスペクトルの変化が所定の閾値より小さい未処理の状態、すなわち残り膜厚が開始前のものと同じで一定である。一方、時刻Ti以降(第2の区間)はプラズマの特性が安定してバラつきが小さい範囲内の安定した速度で残り膜厚が変化(減少)する安定期間となる。さらに、本変形例では、当該安定期間と初期の未処理の期間との間の時刻Tj乃至時刻Tiの時間(第1の区間)では、上記の安定期間での残り膜厚の減少する率(速度)よりも小さい速度でエッチングが進行すると見做されて、当該小さいエッチングの速度が設定される。つまり、第2の区間のエッチング速度は、第1の区間のエッチング速度よりも大きい。
【0116】
本変形例では、このようにプラズマの条件が初期の状態から安定化してウエハ14のエッチング処理の速度が安定する速度が変化するまでのエッチングの条件が遷移する期間で、安定した状態でのエッチング速度より小さい値のエッチング速度となると見做されたデータが用いられる。このことにより、
図8の実施形態と比較して、半導体デバイスを量産するウエハ14の処理において、遷移する期間が相対的に長い場合でも、検出される処理対象の膜層の残り膜厚は、
図14(b)の実線42に示されるように、実際の残り膜厚との間の誤差が狭小化される。
【0117】
なお、本変形例では、用いる閾値として2つの値が予め設定されているが、2つに限定されないことは言うまでもない。また、閾値の値はウエハ14の処理対象の膜層の種類、処理室19内の圧力等の処理の条件によって異なるので、
図13に示した例に限られない。また、スペクトル差の和の時間変化に対する傾きの平均値等閾値と異なる種類の値を用いても良く、さらに2つ以上の値およびこれらに各々対応する2つ以上の時刻を検出し、残り膜厚を判定しても良い。
【0118】
以上述べたように、本変形例では、ウエハ14の処理対象の膜層を処理する工程が開始された後、処理対象の膜層のエッチングの進行が開始され、エッチングの速度が安定するまで、エッチング速度が徐々に変化する場合で、予め定めた複数のエッチング速度の閾値に対応する複数の時刻が検出される。さらに、データベース部30内に予め格納される本変形例で用いられる干渉光15のデータでは、これらの時刻で区画される複数の期間毎に、検出されるエッチング速度の範囲が設定されると共に、これら複数の期間のエッチング速度の範囲の上下限値は、時間の経過一様に増加するように、時間の経過に伴う残り膜厚の変化が設定される。このことにより、実際の量産用のウエハ14を処理する工程で残り膜厚の実際の値との差を低減して、残り膜厚あるいは深さの検出や目標の膜厚への到達の判定が高い精度で実現される。
【0119】
図15を用いて、上記実施形態または変形例に係るプラズマ処理装置10が受光器16で受光された干渉光15の信号を処理する動作を説明する。
図15は、
図1に示す実施形態に係るプラズマ処理装置の信号処理部の構成を模式的に示すブロック図である。
【0120】
図15において、受光器16で受光された干渉光15を示す信号は、検出部17に光ファイバを通して伝送され、予め定められた複数の波長毎の強度が検出されこれをスペクトルとして示す信号(スペクトル信号)S1として、信号処理部20に伝送される。
【0121】
スペクトル信号S1は光量変動補正部60に導入され、信号に含まれているプラズマ12からの光の強度の変動や処理室19内から受光器16を介した光の伝送経路での光学的な透過率の経時的な変化等の光量の変動を示す成分を低減する補正が施され、信号S2となる。信号S2は第1デジタルフィルタ61を通して平滑化処理され、プラズマの発光の強度の揺らぎや電気ノイズに起因した高周波ノイズ成分が低減されて信号S3となる。
【0122】
信号S3は、含まれるDCオフセット成分を低減するために、微分器62に導入されて微分処理された信号S4となる。信号S4は第2デジタルフィルタ63を通して平滑化の処理が施され、微分器62の処理によって生じたノイズ成分が低減された信号S5となる。得られた信号S5は、信号処理スペクトルとして膜厚・深さ判定部21に伝送される。
【0123】
次に、上記信号処理部20おける第1デジタルフィルタ61、第2デジタルフィルタ63におけるフィルタリングと微分器62における微分との処理について説明する。本例の第1デジタルフィルタ61では、例えば2次バタワース型のローパスフィルタが用いられている。第1デジタルフィルタ61に伝送された信号S2は、内部の2次バタワース型のローパスフィルタにより次式(1)により求められる信号S3に変換される。
S3(i)= b1*S2(i)+ b2*S2(i-1)+ b3*S2(i-2)- [a2*S2(i-1)+ a3*S2(i-2)] (1)
【0124】
ここで、本例の第1デジタルフィルタ61のローパスフィルタは、時間軸方向(時間の変化に対して)ではなく、波長軸(周波数)方向について(周波数の変化に対して)処理することを特徴とする。上記式のSk(i)は所定の信号の波長iの信号のデータを示し、係数bkとakは信号のサンプリング周波数(1/サンプリング間隔)とローパスフィルタに設定するカットオフ周波数から導出されるローパスフィルタ係数である。
【0125】
このようなフィルタリングの処理は、2つ前のデータが正しい値であるときに正しい計算結果を出力できるものの、時間方向にフィルタリングの処理を行う場合にt=0秒(sec)、つまりプラズマ12が形成されてウエハ14の処理対象の膜層を処理する工程が開始された直後では、データがないため、信号S3の値は精度が損なわれる。
【0126】
一方、波長方向にフィルタリング処理する場合は、検出する周波数(波長)の範囲(帯域)の上下限各々の2点を除けば全波長でプラズマ12が形成され、ウエハ14の処理が開始された直後から高い精度で安定して処理を行うことができる。
【0127】
微分器62では、信号S3に対して従来知られたデータ処理の方法、例えばS-G(Savitzky-Golay)法が用いられて、信号の平滑化が行われる。S-G法は、平滑化の対象とするデータと前後または高低方向の近傍の複数のデータとを多項式曲線として近似して得られた多項式を用いてデータを平滑化するものである。さらに、当該多項式の係数を用いて微分値を算出し出力することができる。一例として、信号S3について、各データとその前後2つずつのデータ計5個の値を用いてS-G法による平滑化および微分値の算出をした信号を信号S4として出力すると、信号S4は次式(2)により求められる。
S4(i)= c(-2)*S3(i-2)+ c(-1)*S3(i-1)+ c(0)*S3(i)+ c(1)*S3(i+1)+ c(2)*S3(i+2) (2)
【0128】
ここで、1次微分は、上記の通り時間軸方向ではなく波長軸方向に微分処理することを特徴とする。上記式において、Sk(i)は信号の所定の波長iの値を示し、係数c(k)は任意の次数の微分における多項式次数と窓の数から決定される重み係数である。上記微分器62は、干渉光15のスペクトルを示す信号のうち検出の対象となる任意の1つの周波数(波長)の値とその前後各々2つの周波数の値を示すデータを用いて算出した微分値を結果として出力する。
【0129】
時間軸方向に微分する場合には、平滑化対象のデータに対応するサンプリング時刻より後のサンプリング時刻の2つのデータを使用するため、サンプリング間隔2つ分だけ経過するまで、対象のデータの平滑化の処理を行うことができず、遅延が発生する。このため、第1デジタルフィルタ61におけるフィルタリングの処理と同様に、プラズマ12が形成されて対象の膜層の処理の工程が開始された時刻(時刻0)の直後は、この時刻より前のデータは存在せず平滑化あるいは微分の処理を行うことができない。
【0130】
一方、波長軸方向に平滑化あるいは微分の処理をする場合は、原則として過去のサンプリング時刻のデータは当該処理に必要とされず、複数の波長の範囲の上下限を除いて、上記工程の開始された時刻0から高い精度で処理を行うことができる。第2デジタルフィルタ63のフィルタリング処理の流れは、第1デジタルフィルタ61と同様のものとなるため、説明を省略する。
【0131】
このように、上記実施形態または変形例では、検出された干渉光15のスペクトル信号S1に対して、信号処理部20において波長方向にフィルタリング処理や平滑化あるいは微分処理を行うことで、プラズマ12を形成してウエハ14表面の処理対象の膜層の処理を開始した直後から、ノイズの除去や微分処理が高い精度で安定して行われ、S/N比が向上する。このため、出力された信号S5が伝送された膜厚・深さ判定部21における残り膜厚の検出の精度が向上する。
【0132】
なお、フィルタリングの処理は、上記のようなバタワース型のローパスフィルタに限らず、他のローパスフィルタが用いられても良い。また、微分器62における信号の処理は、上記のような対象のもの及び前後のものも含めた5点のデータを用いたS-G法による平滑化および1次微分を算出する構成に限らず、2次微分や高次微分が用いられても良く、さらに点数も5個には限定されない。また、平滑化の方法としてS-G法以外の技術が用いられていても良い。
【0133】
また、信号処理の順番や回数は
図15に示した構成に限定されず、処理の順番を入れ替えても良く、求められる信号の品質に応じて選択された回数によって信号処理部20の構成は
図15のものと異なって良い。また、処理を開始する対象スペクトルの干渉成分を取り出すため、例えば予めシリコン基板やバックグラウンドのスペクトル測定し、その相対比を用いても構わない。
【0134】
また、上記の例は、ウエハ14の対象の膜層を処理する高低が開始されて直後だけでなく、エッチングが進行していない初期の期間や対象の膜のエッチングの進行が開始された時刻(時刻Ti)以降の工程の期間中において、得られた干渉光15のスペクトルを示す信号を周波数(波長軸)方向について信号処理する構成を有している。この場合、膜厚・深さ判定部21の比較部31で残り膜厚、深さを検出するために比較されるデータベース部30に予め格納された膜厚・スペクトルデータは、任意のサンプリング時刻の干渉光15の複数の周波数(波長)の光の強度が周波数方向について微分されて得られた値のパターンが、対象膜の残り膜厚の複数の値と対応付けられて記憶されたものである。
【0135】
一方で、信号処理部20では、ウエハ14を処理する工程が開始されてエッチングの進行が検出されるまでの初期の期間は、検出された干渉光15のスペクトルについて周波数方向に信号が処理され、エッチング処理が開始された時刻Ti以降の処理の期間中は、時間軸方向に信号が処理される構成であっても良い。或いは、工程の開始直後および初期の期間中は、検出された干渉光15のスペクトルが時間軸方向と周波数(波長軸)方向の各々について並行して処理され、各々で得られた結果としての信号が膜厚・深さ判定部21対して出力されても良い。この場合、膜厚・深さ判定部21の比較部31で残り膜厚、深さを検出するために比較されるデータベース部30に予め格納された膜厚・スペクトルデータは、任意のサンプリング時刻の干渉光15の複数の波長の光の強度が時間軸方向について微分されて得られた値の(波長をパラメータとする)パターンが、対象膜の残り膜厚の複数の値と対応付けられて記憶されたものとなる。
【0136】
以上の実施形態あるいは変形例では、説明した構成を備えることにより、データベース部30内に予め記憶され格納された膜厚・スペクトルデータにおいて、複数のサンプリング時刻の干渉光15のパターンと残り膜厚との対応付けの精度が向上する。このため、当該データを用いて量産用のウエハ14の処理中の干渉光15から得られたスペクトルから残り膜厚を検出する精度が向上する。
【0137】
また、目標の残り膜厚の値を精度良く取得することが可能となるため、従来必要であった、検出用のデータから算出された残り膜厚と実際の残り膜厚との差を校正する工程を行う必要がなくなり、結果としてウエハ14を処理するコストが低減される。また、ウエハ14の処理のためプラズマ12が形成されて当該処理の工程が開始された直後から初期の期間で残り膜厚或いはその変化を高い精度で検出することができる。このため、処理対象の膜層のエッチング量が所定の閾値を超えて進行が開始された時刻を検出して、上記初期の期間もエッチングが進行することを想定して残り膜厚を検出する従来の技術に対してエッチング量、深さを高い精度で検出することができる。
【0138】
また、搬入された未処理のウエハ14の処理対象の膜層の残り膜厚等の初期の状態を検出でき、例えば検出された干渉光15のスペクトルの特徴データと、データベース部30内の膜厚・スペクトルデータとの乖離が大きいことが比較部31または制御部23で判定された場合には、プラズマ処理装置10の使用者または管理システムに報知あるいは警告する、さらにはウエハ14を処理する工程を停止することができる。
【0139】
なお、上記の実施形態あるいは変形例において示された装置の構成やウエハ14の処理の条件、干渉光15を検出する条件等は一例であって、これら以外の構成・条件に対しても本発明は適用可能であることは明らかである。また、上記の例は、ウエハ14の処理対象の膜層の残り膜厚を検出する例であるが、半導体デバイスの回路の構造のラインアンドスペース形状の溝深さやホール形状のホール深さ等にも適用できることは言うまでもない。
【0140】
上記説明した実施形態或いは変形例では、処理室19内部に形成されたプラズマ12から放射された光がウエハ14表面の膜構造を構成する膜層の表面あるいは上下に積層された2つの膜層の境界面を含む高さの位置の異なる複数の表面で反射されて形成された干渉光が真空容器11の上部に配置された受光器16で干渉光15として受光される構成が備えられている。
【0141】
一方、近年では半導体デバイスの集積度の向上に伴って、回路のパターンの溝の幅や穴径が小さくなりウエハ14表面のエッチングが施される膜層の処理室19またはプラズマ12に曝される面積が減少して、処理のために形成されるプラズマ12の発光の強度も低減する傾向にある。このため、プラズマ12が発光源として用いられるこれらの例では、プラズマ12の発光の強度が全体的に小さくなることにより、干渉光15に含まれるプラズマ12の変動やノイズの成分の割合が相対的に大きくなり、すなわち干渉光15のスペクトルのS/N比が悪くなり、干渉光15を用いた残り膜厚、深さの検出の精度に悪影響が及ぶおそれが大きくなる。
【0142】
図16を参照して、上記の課題に対して、プラズマ12の発光の強度が小さい場合でも干渉光15のスペクトルのS/N比の悪化を抑制して安定して精度の高い検出ができるプラズマ処理装置の例を説明する。
図16は、
図1に示す実施形態の変形例に係るプラズマ処理装置の構成の概略を模式的に示す縦断面図である。
【0143】
本例のプラズマ処理装置160と
図1に示す実施形態のプラズマ処理装置10との差異は、プラズマ処理装置160には、真空容器11上部に光源部70を備えて、処理室19の上方の外部から内部に配置された試料台13上面に配置されたウエハ14の表面に光を照射する構成を備えている点にある。
図1に示された実施形態と同じ符号が付されている要素は、当該実施形態と同じ構成、機能を有するもので、必要のない限り以下では説明を省略する。
【0144】
本変形例の光源部70は、光源として例えばLEDやキセノンランプ、ハロゲンランプ等のランプを有して、当該光源として膜厚・深さ判定部21における残り膜厚または深さを検出する上で、必要な範囲の波長及び光量の光をウエハ14表面に照射できる構成を備えている。光源部70のランプから発光され放射された光は、光源部70の接続された光ファイバ等の透光性を有した材料で構成された光伝達用の経路を伝達され、真空容器11の上部に取り付けられ処理室19の内部に下端部が面した照射レンズ71からウエハ14の所定の範囲に向けて照射光72として照射される。
【0145】
照射光72は、プラズマ12から発された光とともにウエハ14の表面の膜構造の複数の面で反射されて干渉光15となって受光器16で受光され、その上方に配置されて連結された光ファイバ等の光伝達用の経路を介して検出部17に伝送される。検出部17および信号処理部20、膜厚・深さ判定部21、表示部22および制御部23の構成および機能、動作は
図1に示した実施形態と同等である。
【0146】
ここで、光源部70から放射されウエハ14に照射される照射光72の光の強度は、プラズマ12の発光のものよりも十分強いことが好ましい。プラズマ12の発光は、処理の条件によってはプラズマ12が形成された直後に不安定となり、大きな強度の変動が生じる場合がある。すると、これがエッチングの進行が開始される時刻Tiより前の初期の未処理の期間中のサンプリング時刻において、干渉光15のスペクトルの変化として検出されてしまい、エッチングの進行の開始された時刻を精度良く検出することが妨げられてしまう。
【0147】
一方、本変形例では、十分な強度の照射光72を放射できる光源部70を用いて、プラズマ12のものよりも大きい光量の外部光がウエハ14の処理対象の膜層を処理する工程の期間中に照射される。このことで、干渉光15の強度は、当該照射光による部分が支配的となり、プラズマ12の発光または強度の変動が複数の波長の干渉光15の強度の変動に与える影響を軽減し、これを用いた残り膜厚、深さの検出に悪影響を及ぼすことが抑制される。
【0148】
図17を用いて、
図16に示したプラズマ処理装置160において干渉光15のスペクトルのS/Nの悪化を抑制する動作の例を説明する。
図17は、
図16に示す変形例に係るプラズマ処理装置の動作の流れを模式的に示すタイムチャートである。特に
図17では、プラズマ12の発光と光源部70からの照射光72と受光器16により受光される干渉光15の光の量との時間の経過に伴う増減をグラフとして実線で示している。
【0149】
本変形例において、プラズマ処理装置160の構成は
図16と同じものである。一方、プラズマ12の形成および光源部70からの照射光72の照射と、受光器16での干渉光15の受光とについて、これらと信号を送受信する制御部23からの指令信号による動作が異なる。
【0150】
本変形例では、プラズマ12が形成される時間t=0から所定のON(オン)の期間とこれに続くOFF(オフ)の期間とが切り替えられ、プラズマ12の形成とこれによる発光が所定の周期で繰り返されて、処理対象の膜層をエッチング処理する工程が行われる。さらに、光源部70では照射光72の照射が時刻0以前に開始され処理対処の膜層のエッチング処理の終点に到達したことが膜厚・深さ判定部21または制御部23で検出されるまで発光が連続して行われる。
【0151】
一方、受光器16は、周期的に繰り返されるプラズマ12の発光のオン期間とオフ期間とは反対に、すなわちプラズマ12のOFF期間で干渉光15を受光し(受光器16がON)、プラズマ12のONの期間では受光しない(受光器16がOFF)ように調節される。
【0152】
このような動作を行うことで、プラズマ12の発光がないかその光量が小さい状態の期間で、照射光72による干渉光15が受光器16で受光される。受光器16で受光されるプラズマ12からの光量がゼロか十分に小さいので、プラズマ12に起因するノイズの成分が低減され、結果として安定した残り膜厚または深さの検出および終点の到達の判定を行うことが可能となる。
【0153】
なお、
図17に示すタイムチャートは、一例にすぎず、その他のON/OFFの制御を行うことができる。何れの場合でも、プラズマONのときに受光器16はOFFとなり、プラズマ12がOFFの際に照射光72と受光器16がONの状態が実現できることが望ましい。
【0154】
なお、上記説明した例では、1枚のウエハ14表面の処理対象の膜層に対して連続的に処理を行う場合の残り膜厚や深さの検出する構成が記載されているが、他の処理の工程にも上記の構成を適用することが可能である。例えば、複数の工程を1サイクルとして繰り返しエッチングするサイクルエッチング工程や、複数のエッチング処理を行うマルチステップ工程に対しても、同様の処理で、安定した膜厚追従を行うことが可能である。
【0155】
本発明によれば、真空容器内部の処理室内に配置された処理対象を、処理室内に形成したプラズマを用いてエッチング処理するプラズマ処理装置は、エッチング処理中の所定の複数の時刻に処理室内からの光を受光する受光器と、受光器の出力から検出した予め定められた複数の波長の光スペクトルデータと、エッチング処理前後の膜厚量と、光スペクトルデータと膜厚量を用いて、処理対象のエッチング量を判定する判定器とを少なくとも備え、判定器は、光スペクトルデータのスペクトル変化からエッチング開始時刻を判定し、光スペクトルデータに対応する膜厚量を導出し、処理対象のエッチング量を判定することができる。
【0156】
また本発明によれば、プラズマ処理装置の判定器は、光スペクトルデータのうち連続する2時刻の光スペクトルの差分からエッチング開始時刻を判定することができる。
【0157】
また本発明によれば、プラズマ処理装置の判定器は、光スペクトルの差分の所定の波長帯域の和を用いて、エッチング開始時刻を判定することができる。
【0158】
また本発明によれば、プラズマ処理装置の判定器は、スペクトルの差分の和の時間変化からエッチング速度の変化を導出して、エッチング速度変化時刻を判定することができる。
【0159】
また本発明によれば、プラズマ処理装置の判定器は、エッチング開始時刻およびそれ以前の光スペクトルにエッチング処理前の膜厚を割り当て、エッチング終了時刻の光スペクトルにエッチング処理後の膜厚を割り当て、その間の光スペクトルはエッチング時間に対する線形補間にて膜厚を割り当てることができる。
【0160】
また本発明によれば、プラズマ処理装置の光スペクトルデータは、受光器で検出した後に、波長方向に所定の信号処理を行うことができる。
【0161】
なお、述べてきた実施形態は、本発明の実施形態の一部の例にすぎず、本発明の実施形態は上記に限られるものではない。
【0162】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。例えば、上記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0163】
10・・・プラズマ処理装置
11・・・真空容器
12・・・プラズマ
13・・・試料台
14・・・ウエハ
15・・・干渉光
16・・・受光器
17・・・検出部
19・・・処理室
20・・・信号処理部
21・・・膜厚・深さ判定部(判定器)
22・・・表示部
23・・・制御部
30・・・データベース部
31・・・比較部
60・・・光量変動補正部
61・・・第1デジタルフィルタ
62・・・微分器
63・・・第2デジタルフィルタ