(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-27
(45)【発行日】2023-01-11
(54)【発明の名称】水栓装置
(51)【国際特許分類】
E03C 1/042 20060101AFI20221228BHJP
【FI】
E03C1/042 F
E03C1/042 B
E03C1/042 E
(21)【出願番号】P 2018193790
(22)【出願日】2018-10-12
【審査請求日】2021-09-13
(73)【特許権者】
【識別番号】592243553
【氏名又は名称】株式会社タカギ
(74)【代理人】
【識別番号】100114959
【氏名又は名称】山▲崎▼ 徹也
(72)【発明者】
【氏名】芳川 敏康
【審査官】油原 博
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-202109(JP,A)
【文献】特開2014-177807(JP,A)
【文献】特開平09-013450(JP,A)
【文献】特開2015-190209(JP,A)
【文献】特開2007-262760(JP,A)
【文献】特開2019-210634(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E03C 1/04-1/06
F16K 11/00-11/24
F16K 27/00-27/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水道管の開閉・遮断を行うハンドルが備えられた水栓本体と、
先端に吐水口を有するスパウトと、
前記スパウトが接続される筒状の腕部を有し、前記水栓本体を覆いつつ前記水栓本体と相対回転するスパウトホルダと、
前記腕部の内部に設けられ、前記スパウトホルダおよび前記水栓本体に当接して前記スパウトの振り角を規制する規制部材と、を備
えており、
前記スパウトの内部に収納する他物を保持するよう前記腕部に挿入固定される筒状のインサート部材を有し、前記規制部材が、前記水栓本体と前記スパウトホルダと前記インサート部材とで位置保持される水栓装置。
【請求項2】
前記スパウトホルダまたは前記インサート部材に前記規制部材の仮固定部が設けてある
請求項1に記載の水栓装置。
【請求項3】
前記仮固定部が前記インサート部材に設けられ、前記規制部材を仮固定した前記インサート部材を前記腕部に挿入する際に、前記規制部材を設置位置に導く案内部が前記腕部の内面に設けられている
請求項2に記載の水栓装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水栓本体とスパウトとの間に規制部材を設けてスパウトの振り角を調節する水栓装置に関する。
【背景技術】
【0002】
このような水栓装置としては、例えば以下の特許文献1に示す技術がある。
【0003】
この特許文献1に記された水栓装置は、先端部に吐水口を有する吐水管(スパウト)の基端部が、スパウトの支持部に回転可能に外嵌支持される。支持部の外周面にはスパウトの回転方向に離隔して一対の当り部が設けられている。一方、スパウト基端部にはストッパが設けられ、スパウトの回転時にはストッパが当り部に当接してスパウトの回転が規制される。
【0004】
支持部の外周面には、径方向に沿って深さの異なる複数対の当り部が形成されている。周方向中央側の一対の当り部は、径方向の深さが深く、回転角度が狭く形成されている。これに対し、周方向外側の一対の当り部は、径方向の深さが浅く回転角度が広く形成されている。
【0005】
一方、ストッパは、スパウト基端部に対して回転中心側への突出量が変更可能である。例えば、ストッパの突出量を短くすることで、回転角度の広い一対の当り部と当接可能であり、スパウトの回転角度が広く設定される。ストッパの突出量を長く設定した場合には、中央側の当り部と当接してスパウトの回転角度が狭く設定される。
【0006】
本構成であれば、設置現場においてスパウト基端部の外面からストッパの突出量を調節するだけで、スパウトを含む水栓装置を分解することなく、スパウトの回転範囲を調節することができる。
【0007】
従って水栓装置の分解・組立てに際して、水栓装置が元の適正状態とならずに設置され、或いは、シール部材が損傷するなどの問題が解消されるとのことである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1の水栓装置では、ストッパをネジで構成してあり、ストッパの突出量を短く設定する場合には、ネジの頭部がスパウト基端部から突出したままとなって外観が損なわれる。スパウトの回転時に、突出したストッパが周囲の他物に干渉するおそれもある。
【0010】
また、ネジの突出量を決定する際には突出量の管理が煩雑であるし、ストッパを中心側に突出調節する際に、スパウトの回転位置によってはネジの先端がスパウト支持部の表面や、スパウト基端部の内部で摺動する部材に干渉してこれらに傷が付くおそれもある。
【0011】
さらに、製品意匠を形成するスパウト基端部の表面に穴をあけてネジを固定するため、意匠性が損なわれ、外部から洗剤・水等の汚れが浸入するおそれがある。ネジの緩み止め剤を塗布する場合などにはスパウト基端部の外面がさらに汚される場合もある。
【0012】
このように従来の水栓装置では、スパウトの振り角を規制する構造については更なる改善の余地があり、意匠性を損なわず効率的にスパウトの振り角を設定できる水栓装置の提供が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(特徴構成)
本発明に係る水栓装置の特徴構成は、
水道管の開閉・遮断を行うハンドルが備えられた水栓本体と、
先端に吐水口を有するスパウトと、
前記スパウトが接続される筒状の腕部を有し、前記水栓本体を覆いつつ前記水栓本体と相対回転するスパウトホルダと、
前記腕部の内部に設けられ、前記スパウトホルダおよび前記水栓本体に当接して前記スパウトの振り角を規制する規制部材と、を備えており、
前記スパウトの内部に収納する他物を保持するよう前記腕部に挿入固定される筒状のインサート部材を有し、前記規制部材が、前記水栓本体と前記スパウトホルダと前記インサート部材とで位置保持される点にある。
【0014】
(効果)
本構成のごとく、規制部材をスパウトホルダの腕部の内部に設けることで、スパウトの取り付けに先立って規制部材の取付け・交換作業が可能となり、設置現場での振り角の調整が容易となる。
【0015】
また、規制部材は、スパウトを支持する腕部に設けられるから、スパウトに極めて近い位置で振り角の規制が行われる。よって、スパウトの動きが規制部材によって規制される際の捩じり感が生じ難く、スパウトの操作感覚が向上する。
【0016】
さらに、規制部材はスパウトホルダの内部に備えられるから、規制部材が外部に露出することがなく、規制部材の取り付けに際してスパウトホルダの外面が損傷することもなく意匠性に優れた水栓装置を得ることができる。
【0017】
(削除)
【0018】
(効果)
本構成では、水栓本体およびスパウトホルダ、インサート部材により形成された所定形状の空間に規制部材が位置保持される。この空間は、インサート部材が腕部に挿入されることで形成されるから、規制部材は、インサート部材の挿入に先立ち、あるいは同時に腕部の内部に搬入される。本構成であれば、従来技術のように規制部材をスパウトホルダ等に予めネジ固定する等の作業は不要となる。よって、水栓装置の取り付け現場においてスパウトの振り角を変更する場合に、規制部材の設置・交換が容易であり、水栓装置の取付作業がより効率化される。
【0019】
(特徴構成)
本発明に係る水栓装置にあっては、前記スパウトホルダまたは前記インサート部材に前記規制部材の仮固定部が設けてあると好都合である。
【0020】
(効果)
このような仮固定部を設けて、規制部材をスパウトホルダまたはインサート部材と一時的に一体化することで、インサート部材を腕部に挿入する際には規制部材を保持する手間が解消される。よって、現場作業において、規制部材の設置・交換作業がさらに容易になる。
【0021】
(特徴構成)
本発明に係る水栓装置にあっては、前記仮固定部が前記インサート部材に設けられ、前記規制部材を仮固定した前記インサート部材を前記腕部に挿入する際に、前記規制部材を設置位置に導く案内部が前記腕部の内面に設けられていると好都合である。
【0022】
(効果)
仮固定部をインサート部材に設けることで、インサート部材に対する規制部材の仮固定作業を腕部の外で行うことができ、規制部材およびインサート部材の挿入取付作業が極めて容易となる。
【0023】
また、インサート部材および規制部材を腕部に対する一度の挿入作業で挿入することができ、例えば、規制部材とインサート部材とを別に挿入する場合に比べて挿入作業がさらに簡略化される。
【0024】
そのうえ本構成では、腕部の内面には規制部材を所期の位置に導く案内部が形成されているため、規制部材の設置位置が腕部の奥部であるにも拘わらず規制部材を所定の位置に確実に設置することができ、水栓装置の設置作業がより効率的なものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図2】インサート部材および規制部材の詳細を示す斜視図
【発明を実施するための形態】
【0026】
〔概要〕
本発明の水栓装置は、台所の流し台などに対する水栓装置の設置作業において、スパウトの振り角を設定する規制部材の取付け・交換作業を容易に行えるものである。以下、本発明に係る水栓装置の実施形態につき図面を参照しながら説明する。
【0027】
〔第1実施形態〕
(全体概要)
本実施形態に係る水栓装置Mの外観を
図1に示す。この水栓装置Mは、流し台に固定され、水道管などと接続される水栓本体Pを有する。水栓本体Pの端部には、水道管の開閉・遮断を行うハンドル1が連接されている。当該ハンドル1と流し台の間の領域には、水栓本体Pを覆う筒状のスパウトホルダHが取り付けられる。スパウトホルダHは、水栓本体Pに対し、水栓本体Pの延出方向に沿う回転軸芯Xの周りに相対回転する。
【0028】
スパウトホルダHには、回転軸芯Xに交差する方向に延出し、先端に吐水口4を有するスパウトSが接続される。スパウトSの内部には浄水カートリッジが収納される。また、本実施形態のスパウトSは、フレキシブルホース3(以下、単に「ホース3」と称する)が接続されており、スパウトホルダHから取り外しが可能である。そのために、スパウトホルダHの一部には、スパウトSを固定できるようスパウトSの延出方向に沿った筒状の腕部Haが一体形成されている。
【0029】
(インサート部材)
腕部Haの内部には、スパウトSの端部から突出したホース3のガイドとなるインサート部材Bが固定される。
図2に示すように、インサート部材Bは、腕部Haに挿入され、内部にはホース3が挿通されるため円筒状に構成されている。
【0030】
インサート部材Bは、第1部材B1と第2部材B2とで構成される。インサート部材Bの内面には、出し入れされるホース3の外面が当接するガイド面17が形成されている。このガイド面17の内径は、ホース3の外径よりも僅かだけ大きく形成してあり、ホース3の外面を伝う水が流し台の内部に進入することなども防止している。
【0031】
図2に示すように、第1部材B1と第2部材B2とを結合させた状態では、円環状のホース規制部23が形成される。ホース3を引き出す際には、ホース3の所定位置に設けた大径のストッパ(図外)がホース規制部23に当接して、ホース3の引き出し長さが決定される。
【0032】
水栓装置Mの設置に際しては、このようなストッパが取り付けられたホース3をインサート部材Bに挿通させる必要がある。そこで、
図2に示すように、インサート部材Bを第1部材B1と第2部材B2とで構成し、ちょうどガイド面17の位置で第1部材B1と第2部材B2とに分割してある。
【0033】
第1部材B1は、円筒状の部位に、半円筒状の部位が延設してある。この半円筒状の部位の表面には、後述する規制部材Aの第1当接面f1が当接する第1受面faが形成してある。
【0034】
また、
図2に示すように、円筒状の部位のうち、第1受面faと反対側には、舌片状の係止部18が設けられている。係止部18の外面には、係止凸部19が形成されており、
図3に示すように、腕部Haの対応箇所に設けた係止凹部12に係入して、インサート部材Bが腕部Haから抜け出るのを防止する。
【0035】
図3に示すように、腕部Haの下方に位置する壁部には、仮にスパウトSを伝って流下してきた水をスパウトホルダHの外部に排出する水抜穴13が形成されている。例えば、吐水口4から吐出された水の一部がスパウトSの表面を介してホース3に至った場合、当該水がスパウトホルダHの内部に進入し、さらに水栓本体Pの外表面を伝って流し台の内部に漏れ出る可能性がある。それを防止するために、腕部Haを形成する壁部のうち鉛直下方の位置に少なくとも一つの水抜穴13を設けておくとよい。
【0036】
図5に示すように、スパウトSの端部には、外面が円錐面に形成された挿入部9が形成され、インサート部材Bには、この挿入部9を受ける円錐面状の受部16が形成されている。
【0037】
図5に示すように、挿入部9は、スパウトSの延出方向に対して所定の角度だけ下方に傾斜している。ここでは、傾斜角度αを5度に設定している。スパウトSは受部16の内部で回転可能であるが、挿入部9を傾斜させていると、スパウトSの先端は、挿入部9の軸芯の周りに形成される円状の軌跡の何れかの場所に位置することになる。その場合、スパウトSの先端が最も低い位置に設定されると、それ以降はスパウトSが挿入部9の軸芯の周りに回転しようとするモーメントが生じず安定姿勢となる。この状態では、吐水口4は下方を向く。このように傾斜角度αを持たせることで、スパウトSの挿入姿勢が最適なものとなり易い。
【0038】
また、本実施形態のスパウトSには、ホース3が接続されている。挿入部9が上記の如く傾斜していると、ホース3の延出方向がスパウトSの長手方向に対して下方に設定される。ホース3は腕部Haの内部で曲げられ、鉛直下向きに延出することとなるが、上記傾斜角度αを有する結果、当該曲がり角度が緩和される。よって、ホース3の出し入れに際して、腕部Haの曲がり位置に生じるホース3の摩擦抵抗が低減され、引き出し操作が円滑になる。さらに、曲がり角度が少なくなる結果、ホース3の経年劣化が防止され、耐久性を高めることができる。
【0039】
尚、本実施形態のスパウトSおよびインサート部材Bでは、挿入部9の表面のうち、周方向に沿った少なくとも一箇所に、受部16との相対回転位置を規定する凸条部10を形成してある。凸条部10は、スパウトSの挿入方向に沿って延出している。一方の受部16には、凸条部10が係合する溝状の凹条部11を形成してある。これら凸条部10および凹条部11が係合することで、スパウトSの吐水口4を常に下方を向いた状態に安定設定することができる。
【0040】
(規制部材)
腕部Haの内部には、スパウトホルダHおよび水栓本体Pに当接してスパウトSの振り角βを規制する規制部材Aが備えられる。規制部材Aの外観を
図2に示す。規制部材Aは、インサート部材BをスパウトホルダHに接続する前にスパウトホルダHの内部に取り付ける。
【0041】
規制部材AをスパウトホルダHの腕部Haの内部に設けることで、インサート部材Bの取り付けに先立って規制部材Aの取付け・交換作業が可能となり、設置現場でのスパウトSの振り角βの調整が容易となる。
【0042】
また、規制部材Aは、スパウトSを支持する腕部Haに設けられるから、スパウトSに極めて近い位置で振り角βの規制が行われる。よって、スパウトSの動きが規制部材Aによって規制される際の捩じり感が生じ難く、スパウトSの操作感覚が向上する。
【0043】
規制部材Aは、腕部Haの内面とインサート部材Bと水栓本体Pとに当接可能であり、これら三つの部材によって形成された空間に位置保持される。つまり、規制部材Aは、何れかの部材に固定されているものではなく、三つの部材の夫々に当接しているだけである。よって、規制部材Aを何れかの部材に固定する手間が省略でき、規制部材Aの保持機構を簡便に構成することができる。
【0044】
この空間は、インサート部材Bが腕部Haに挿入されることで形成されるから、規制部材Aは、インサート部材Bの挿入に先立ってあるいは同時に腕部Haの内部に搬入される。本構成であれば、従来技術のように、規制部材AをスパウトホルダH等に予めネジ固定する等の作業は不要となる。よって、水栓装置Mの取り付け現場においてスパウトSの振り角βを変更する場合に、規制部材Aの設置・交換が容易であり、水栓装置Mの取付作業がより効率化される。
【0045】
(インサート部材への仮固定)
本実施形態では、
図2および
図3に示すように、インサート部材Bには、規制部材Aを仮固定する仮固定部Baを設けてある。これにより、規制部材Aを腕部Haの内部に挿入するに際し、規制部材Aの設置を容易にする。
【0046】
仮固定部Baは、第2部材B2を第1部材B1に外挿して形成される。仮固定部Baとしては孔部Bbが形成されるが、第1部材B1の表面のうち第1受面faの端部に孔部Bbの一部を形成する切欠部20が形成される。この切欠部20のうち対向する二つの面と、これら二つの面の間に位置する第1部材B1の表面が孔部Bbの三つの面を構成する。一方の第2部材B2には、切欠部20を覆う覆い部21が形成されており、当該覆い部21の裏面が孔部Bbの一部となる。
【0047】
尚、当該覆い部21の外面は、インサート部材Bの挿入方向に延出した突条形状であり、腕部Haの所定の位置に挿入される際には、後述の、規制部材Aの案内凸部15が通過するよう腕部Haの内面に形成された案内部14としての案内溝14aに係合可能である。これにより、腕部Haに対するインサート部材Bのガタ付きが、前述の係止凸部19と協働して防止される。
【0048】
第2部材B2には、規制部材Aを所期の位置に配置した際に規制部材Aの第2当接面f2が当接するインサート側第2受面fb1が切欠き形成してある。また、当該インサート側第2受面fb1の開口側端部には、腕部Haへの挿入時にスライド移動する規制部材Aが円滑にインサート側第2受面fb1に進入できるよう面取部22が形成してある。
【0049】
規制部材Aは、規制部A1とアーム部A2とを有する。規制部A1は、インサート部材BおよびスパウトホルダH、水栓本体Pの夫々に当接する部位である。アーム部A2は規制部A1から延出し、インサート部材Bに設けた仮固定部Baに挿入される。
【0050】
図2乃至
図4に示すように、規制部A1は、第1当接面f1乃至第4当接面f4を有する。即ち、後述するインサート部材Bの第1部材B1の表面に当接する第1当接面f1と、インサート部材Bのインサート側第2受面fb1およびスパウトホルダHの内面に設けたホルダ側第2受面fb2に当接する第2当接面f2と、後述する水栓本体Pの第3受面fc(
図4)に対して回転軸芯Xの径方向に当接する第3当接面f3と、水栓本体Pの振り溝部5の端部に形成した第4受面fdに当接する第4当接面f4とを有する。また、規制部A1の上面には、スパウトホルダHの内面に設けた案内溝14aに係合する案内凸部15が形成されている。
【0051】
図2に示すように、アーム部A2は、規制部A1から延出し、弾力性を有する。アーム部A2の先端は例えば二股形状であり、インサート部材Bに仮固定部Baとして設けた孔部Bbに挿入する際に互いが近付くように曲がり変形する。二つの先端には夫々外向きに第1張出部Aaが形成されている。この第1張出部Aaは、規制部材Aをインサート部材Bから引き抜こうとするとき孔部Bbの縁部に当接して、アーム部A2が容易に抜け出ないようにする。
【0052】
また、アーム部A2のうち、先端から所定距離の位置には、第1張出部Aaと同じ方向に突出する二つの第2張出部Abが形成されている。これは、インサート部材Bおよび規制部材Aを腕部Haに挿入させる際に、規制部A1を確実に設置場所まで移動させるものである。つまり、インサート部材Bを保持して規制部材Aを腕部Haに挿入するとき、規制部A1は案内溝14aなどに当接して抵抗を受けることがある。アーム部A2は、孔部Bbに対してスライド可能であるから、上記抵抗が大きい場合には、アーム部A2が孔部Bbの奥にスライドして、規制部A1が腕部Haの所定の位置まで押し込まれない不都合が生じ得る。
【0053】
そこで、第2張出部Abを設けておくことで、孔部Bbの縁部に当接して抵抗力を発揮し、インサート部材Bに対する規制部材Aの位置決めを行いつつ、規制部A1を所定の設置位置まで移動させることができる。アーム部A2のうち第2張出部Abに対応する箇所には、第2張出部Abが互いに近付く方向に変形できるよう二つの長孔部Acを設けてある。
【0054】
このような仮固定部Baを設けて、規制部材Aをインサート部材Bと一時的に一体化することで、インサート部材Bを腕部Haに挿入する際には規制部材Aを保持する手間が解消されるうえ、両者を一度の挿入作業で配置することができる。よって、現場作業において、規制部材Aの設置・交換作業がさらに容易になる。また、インサート部材Bに対する規制部材Aの仮固定作業を腕部Haの外で行うことができ、規制部材Aおよびインサート部材Bの挿入取り付け作業が極めて容易となる。
【0055】
(インサート部の取付態様)
図2に示すように規制部材Aを仮固定したインサート部材Bを腕部Haに装着する手順を
図3に示す。
図3(a)は、規制部材Aをインサート部材Bに仮固定した状態を示す。アーム部A2の第1張出部Aaと第2張出部Abとがインサート部材Bの孔部Bbを挟む状態にする。
【0056】
図3(b)は、規制部材Aの規制部A1を腕部Haの中に挿入し、規制部A1の上部にある案内凸部15を腕部Haに設けた案内溝14aに押し付けつつインサート部材Bを押し込んでいる状態である。このとき規制部材Aのアーム部A2は曲がり変形し、インサート部材Bの位置に拘わらず、規制部A1は案内溝14aに適度な付勢力で押し付けられる。案内溝14aにより、規制部A1は水栓本体Pの所期の位置に確実に案内される。
【0057】
このような案内溝14aが形成されている結果、規制部材Aの設置位置が腕部Haの奥部であるにも拘わらず、規制部材Aを所定の位置に確実に設置することができ、水栓装置Mの設置作業がより効率的なものとなる。
【0058】
図3(c)は、規制部A1が水栓本体Pに当接した状態を示す。この状態では、インサート部材Bを押し込むにつれてアーム部A2が孔部Bbに対してスライドする。規制部A1の下面である第1当接面f1が、インサート部材Bの進入に伴って第1受面faに乗り上げる状態となり、規制部A1を腕部Haのホルダ側第2受面fb2および水栓本体Pの振り溝部5の下縁に形成してある傾斜面6に確実に当接させる。
【0059】
傾斜面6に当接して奥への押込みが停止した規制部A1は、図中の上方に案内される。つまり、仮に案内凸部15と案内溝14aとの係合が浅く、規制部A1が所期の位置よりも下方にあるときでも、傾斜面6に沿って予定の位置に持ち上げられる。また、このような規制部A1の動きが円滑に行われるよう、
図3(c)に示すように、傾斜面6の延長方向と、腕部Haの内面のうち奥側位置に該当する領域の接線方向とが下方に広がり角度γを持つように構成されている。
【0060】
図3(d)は、規制部A1が予定の位置に配置された状態を示す。規制部A1が水栓本体Pの第3受面fcに当接した後は、規制部材Aの位置はそこで保持され、インサート部材Bだけが腕部Haの奥に挿入される。よって、この場合には、二つの第2張出部Abは、互いが近付くように変形して孔部Bbを通り抜けることとなる。このとき、インサート部材Bを操作している作業者は、第2張出部Abが孔部Bbを通り過ぎた際の感触を得ることができ、規制部材Aが所定の位置に設置されたことを認識できる。
【0061】
規制部A1は、インサート部材Bの第1受面faおよびインサート側第2受面fb1と、腕部Haのホルダ側第2受面fb2、さらに、水栓本体Pに形成された振り溝部5の第3受面fcと、によって位置保持される。また、
図4に示すように、スパウトSが降り範囲の端部まで移動した際には、規制部A1の第4当接面f4が、振り溝部5の端部に形成した第4受面fdに当接して振り角βが規制される。尚、
図2乃至
図4に示す規制部材Aは、規制部A1のうち対向する第2当接面f2どうしの長さを適切に設定することで、スパウトSの振り角βを120度に設定してある。
【0062】
図4に示すように、振り溝部5は、規制部A1が120度の範囲に亘って摺動できるよう両端部に第4受面fdを形成してある。第4受面fdは、耐久性を高めるべく金属で構成してあり、第4受面fdの下端部から上方の領域は金属製の部材で構成してある。一方、振り溝部5の下縁は、樹脂材料で形成してあり、特に周方向に沿った中央位置には、挿入された規制部A1が下方から上方に向けて変位できるよう、振り溝のない規制部通路7を設けてある。さらに、振り溝部5の下縁と規制部通路7との交差位置には、振り溝部5に沿って規制部A1が往復摺動する際に規制部A1が干渉しないよう面取部8を形成してある。
【0063】
(各部材の材質)
本実施形態で用いる各部材は、例えば以下の材料で構成することができる。規制部材Aは、強度・耐久性・摺動性が必要なため、寸法安定性の良い材料が良い。例えば、ポリフェニレンサルファイド(PPS)やポリアセタール(POM)、さらにはガラス入りのPOMが好ましい。特に、寸法安定性と加工性、耐摩耗(摺動性)に優れている点ではガラス入りのPOMが好ましい。
【0064】
インサート部材Bとしては、高剛性かつ摺動性が必要であり、さらに、強度・耐熱性・耐久性の観点から、PPSやPOM、さらにはナイロンが好ましい。特に、寸法安定性と加工性、耐摩耗(摺動性)に優れているという点ではPOMが最適である。
【0065】
水栓本体Pの第4受面fdなどを構成する部材としては高剛性が必要なため、金属製が好ましい。強度・耐熱性・耐久性の観点から、黄銅・ステンレス・鉄が好ましい。特に、耐食性と加工性に優れているという観点から黄銅が最適である。
【0066】
〔第2実施形態〕
図6(a)に示す規制部材Aは、第4当接面f4どうしの間隔を広く形成し、振り角βを80度に設定したものである。第4当接面f4の形状の他は、
図2に示したものと同じである。
【0067】
本構成であれば、水栓装置Mの設置の際に、インサート部材Bに仮固定する規制部材Aを取り換えるだけでよく、取付現場におけるスパウトSの振り角調整を効率的に行うことができる。
【0068】
さらに、
図6(b)には、規制部材Aの他の実施形態を示す。この規制部材Aは、アーム部A2を有しておらず、二つの第2当接面f2の少なくとも何れか一方にゴム部材などの弾性部材24を設けてある。これにより、規制部材Aを腕部Haの内部に挿入すると共にホルダ側第2受面fb2に押し込み、弾性部材24の摩擦力で腕部Haに仮固定する。
【0069】
本構成であれば、規制部材Aをインサート部材Bとは別に取り付ける手間は生じるものの、インサート部材Bの構成および規制部材Aの構成を簡略化することができる。
【0070】
尚、規制部材AをスパウトホルダHやインサート部材Bに仮固定する方法としては、両面テープを用いるものや、接着剤あるいは磁力を用いるものでもよく、適宜の構成を採用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の水栓装置は、回動可能なスパウトホルダで水栓本体を覆い、スパウトホルダと水栓本体との間に規制部材を設けてスパウトの振り角度を設定する水栓装置に広く適用可能である。
【符号の説明】
【0072】
1 ハンドル
4 吐水口
14 案内部
A 規制部材
B インサート部材
Ba 仮固定部
H スパウトホルダ
Ha 腕部
M 水栓装置
P 水栓本体
S スパウト