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  • 特許-アフラトキシン低減方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-27
(45)【発行日】2023-01-11
(54)【発明の名称】アフラトキシン低減方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 5/20 20160101AFI20221228BHJP
   A23L 25/00 20160101ALI20221228BHJP
【FI】
A23L5/20
A23L25/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020210987
(22)【出願日】2020-12-21
(62)【分割の表示】P 2018033731の分割
【原出願日】2018-02-27
(65)【公開番号】P2021040664
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2020-12-24
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】518068534
【氏名又は名称】株式会社タバタホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100144749
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 正英
(74)【代理人】
【識別番号】100076369
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 正治
(72)【発明者】
【氏名】田畑 寿之
(72)【発明者】
【氏名】秋元 翔行
【審査官】福間 信子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-146527(JP,A)
【文献】Food Control, 2014, vol.42, p.290-295
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
FSTA/AGRICOLA/CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナッツ類に発生したアフラトキシンB1及びアフラトキシンG1を低減するアフラトキシンの低減方法であって、
超高圧処理装置内の温度20℃~100℃の圧媒中にアフラトキシンB1及びアフラトキシンG1を含有するナッツ類を入れ、
前記圧媒中に入れられた、アフラトキシンB1及びアフラトキシンG1を含有するナッツ類に100MPa以上の圧力をかけることによって、当該ナッツ類に含有されるアフラトキシンB1及びアフラトキシンG1を低減する、
ことを特徴とするアフラトキシン低減方法。
【請求項2】
請求項1記載のアフラトキシン低減方法において、
圧媒の温度が50℃~100℃である、
ことを特徴とするアフラトキシン低減方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載のアフラトキシン低減方法において、
圧媒の温度が90℃~100℃である、
ことを特徴とするアフラトキシン低減方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のアフラトキシン低減方法において、
圧媒中に入れるアフラトキシンB1及びアフラトキシンG1を含有するナッツ類が、真空パックされたパック詰めナッツである、
ことを特徴とするアフラトキシン低減方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のアフラトキシン低減方法において、
ナッツ類にかける圧力が600MPa~900MPaである、
ことを特徴とするアフラトキシン低減方法。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のアフラトキシン低減方法において、
加圧処理後のナッツ類を焙煎する、
ことを特徴とするアフラトキシン低減方法。
【請求項7】
請求項6記載のアフラトキシン低減方法において、
加圧処理後のナッツ類を140℃~160℃で焙煎する、
ことを特徴とするアフラトキシン低減方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、穀類、落花生、ナッツ類、とうもろこし、乾燥果実等(以下「ナッツ類」と総称する)に発生するカビ毒(アフラトキシン)の低減方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ピーナッツ等の各種ナッツ類からアフラトキシンが検出されることがある。アフラトキシンとはカビ毒(マイコトキシン)の一種であり、アスペルギルス(Aspergillus)属などのカビから生成される。アフラトキシンはB1、B2、G1、G2を始めとする十数種の関連物質からなる。アフラトキシンは、その高い毒性から食品中の総アフラトキシン含有量(アフラトキシンB1、B2、G1及びG2の総和)が10μg/kgを超えないことという規制が設けられている。また、アフラトキシンは熱などの処理に対し安定性があるため、普通の調理や加工では除去が難しく、検出された場合は廃棄処分されることが多い。原因菌であるアスペルギルス属などのカビは土壌中に多く存在しており、穀類、落花生、ナッツ類、とうもろこし、乾燥果実でアフラトキシンの汚染例が報告されており生産者を悩ませている。
【0003】
従来、莢付ピーナッツへのアフラトキシンの発生を防止する手法として、莢付きピーナッツを高圧釜内で圧力約186kg/cm、温度約110℃以下の蒸気にて加熱加温処理した後、当該莢付きピーナッツを急速凍結する方法が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特公平3-25149号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記特許文献1記載の加工方法は、アフラトキシンの発生を防止する方法であって、発生したアフラトキシンを低減、除去する方法ではない。現状では、発生したアフラトキシンを低減、除去する実用的な方法については見出されていない。
【0006】
本発明の解決課題は、ナッツ類に発生したアフラトキシンの値を低減できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のアフラトキシン低減方法は、ナッツ類に発生したアフラトキシンB1及びアフラトキシンG1を低減するアフラトキシンの低減方法であって、超高圧処理装置内の温度20℃~100℃の圧媒中にアフラトキシンB1及びアフラトキシンG1を含有するナッツ類を入れ、当該圧媒中に入れられた、アフラトキシンB1及びアフラトキシンG1を含有するナッツ類に100MPa以上の圧力をかけることによって、当該ナッツ類に含有されるアフラトキシンB1及びアフラトキシンG1を低減するようにしたものである。
【発明の効果】
【0008】
アフラトキシンB1及びアフラトキシンG1を含有するナッツ類に100MPa以上の圧力をかけることによって、ナッツ類に含有されるアフラトキシンB1及びアフラトキシンG1の分子構造に変化を与えることでその値を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】超高圧処理装置の一例を示す概要図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(実施形態)
本発明のアフラトキシン低減方法(以下、単に「低減方法」という)の一例を、図面を参照して説明する。ここでは、ナッツ類がピーナッツの場合を一例として説明する。この実施形態の低減方法は、ピーナッツを超高圧処理装置によって超高圧処理(加圧処理)し、超高圧処理後のピーナッツを焙煎する方法である。
【0011】
ここでいう超高圧処理とは、製品の加工に100MPa(1000気圧)以上の圧力を利用する技術をいう。食品の分野では、殺菌効果を目的として利用されることが多い。超高圧処理は、熱処理と比較して栄養素の破壊や有害物質の生成、エネルギーの消費が少ないことに加え、容器内全ての部位で均一な処理が可能であるため、食品の加工に適しているといわれている。超高圧処理は、殺菌効果以外にもタンパク質など有機成分の分子構造を物理的に破壊し、変性させる効果があるといわれており、タンパク質変性を利用した食品の開発にも利用されている。
【0012】
本発明の低減方法では、超高圧処理が可能な各種超高圧処理装置を使用する。一例として図1に示す超高圧処理装置は、容器1と容器1内の圧媒Wを押圧するピストン2を備えたものである。ピストン2が下がると圧媒に圧力がかかり、その圧力が圧媒からピーナッツへと伝わるように構成されている。この超高圧処理装置には加温手段(図示しない)が設けられ、圧媒を加温することができる。
【0013】
本発明の低減方法では、加工対象であるピーナッツを用意する。この実施形態では、脱穀して乾燥したピーナッツを用いているが、脱穀してあれば、洗浄や乾燥等の処理(事前処理)を行っていないものを用いることもできる。加工対象であるピーナッツはプラスチック製の袋(パック)に入れ、真空パックする(以下、真空パックされたピーナッツを「パック詰めナッツ」という)。パックに入れるピーナッツの数量は、パックの大きさや超高圧処理装置の容量に応じて適宜決定すればよい。ピーナッツの真空パックには既存の脱気式真空包装機を用いることができる。ナッツ類はパック詰めせずに超高圧処理をすることもできる。
【0014】
超高圧処理装置内に所定量の圧媒(例えば、不凍液)を投入し、所定温度まで加温する。超高圧処理時の圧媒の温度は20℃~100℃程度、より具体的には90℃~100℃程度が好ましい。処理温度が低い場合(20℃程度の場合)、圧媒として水を用いることもできる。圧媒は超高圧処理装置で加温するのではなく、超高圧処理装置外で所定温度に加温したものを投入してもよい。所定温度の圧媒中にパック詰めナッツを投入したのち、900MPaの圧力をかけて、パック内のピーナッツを超高圧処理する。圧力は100MPa以上、好ましくは600MPa~900MPa程度とすることができる。また、加圧時間は10分~40分程度、より具体的には20分~30分程度とすることができる。ただし、これら数値は一例であり、これ以外の数値とすることを排斥するものではない。
【0015】
超高圧処理を行ったのち、当該超高圧処理後のピーナッツをパックから取出し、焙煎温度140℃~160℃程度、焙煎時間10分~15分程度の範囲で焙煎を行う。ただし、これら数値は一例であり、これ以外の数値とすることを排斥するものではない。焙煎は常圧下で行う。焙煎には既存の焙煎装置を用いることができる。
【0016】
なお、本発明の低減方法は、超高圧処理を行うだけでもアフラトキシンが低減されるため、焙煎は省略することもできる。
【0017】
本件発明者は本発明の低減方法の効果を検証するため、以下の実験を行った。この実験を行った動機は、アフラトキシンをはじめとする毒素の多くは低分子、ペプチド、タンパク質からなることに着目し、超高圧処理のタンパク質の構造を変化させ、変性させる効果によって、ピーナッツに付着したアフラトキシンの構造に変化を与え、値を低減させることで、これまで廃棄処分となっていたピーナッツを利用できるようにならないかを検討することにある。以下に示す各実験では米国で脱穀及び乾燥が行われたのち、日本国に輸入されたピーナッツを使用した。なお、輸入されたピーナッツは日本国内において不良品の選別を行った。
【0018】
実験を行うに当たり、前記選別後のピーナッツ25gを検査センターに送り、汚染処理(ピーナッツにアフラトキシンを加える処理)を依頼した。汚染処理は、アフラトキシン標準混合溶液(実験1ではB1、B2、G1、G2各アフラトキシン5μg/kg、総アフラトキシン20μg/kgに濃度調整したもの、実験2~4では、B1、B2、G1、G2各アフラトキシン10μg/kg、総アフラトキシン40μg/kgに濃度調整したもの)125ng/mlを2mlかけてよく振り混ぜ、その後一晩放置乾燥することにより行った。その後、汚染処理をしたピーナッツを前記検査センターより受け取り、協力会社へ送付して同協力会社の卓上真空包装機にて真空パックして、超高圧処理を行った。超高圧処理後のアフラトキシンの測定は、前記検査センターに依頼した。
【0019】
(実験1:アフラトキシン汚染ピーナッツの作成)
高圧処理を行う汚染ピーナッツは直接アフラトキシンを加えることで作成した。具体的には、ピーナッツ25gにアフラトキシン標準混合溶液(B1、B2、G1、G2)125ng/mlを2mlまんべんなく振り掛け、一晩放置乾燥させた。ここでいうアフラトキシン標準混合溶液は、関連物質B1、B2、G1、G2を各5μg/kg、総アフラトキシン20μg/kgに調整したものである。このサンプルの実際のアフラトキシン量を分析したところ、次の結果が得られた。
【0020】
【表1】

上記表1より、実測値としては、添加した濃度の80~90%の値となることがわかった。この濃度では、超高圧処理後の数値の変化がわかりづらい可能性があるため、超高圧処理を行う際には、各アフラトキシン10μg/kg、総アフラトキシン40μg/kgの濃度でテストすることとした。
【0021】
(実験2:超高圧処理条件の検証1)
前記実験1より、各アフラトキシン10μg/kg、総アフラトキシン40μg/kgの濃度に調整したピーナッツを以下の条件で超高圧処理し、アフラトキシンの測定を行った。
【0022】
【表2】
【0023】
前記表2中、(2)の条件でアフラトキシンの数値が低くなっていることから、90℃の条件下で超高圧処理を行うことでアフラトキシンが低減される可能性が示唆された。次回のテストでは90℃の条件下でのテストを中心に行うこととした。
【0024】
(実験3:高圧処理条件の検証2)
実験2の結果を受けて、90℃の条件下でより高い圧力での処理を行った。
【0025】
【表3】
【0026】
前記表3中、(1)は実験2において効果があった条件と同じ条件であり、今回もアフラトキシンの数値が低くなっていた。(1)の条件より圧力を高めた(2)~(4)は、(1)よりさらにアフラトキシンの数値が低くなっており、低減の効果が確認できた。今回のテストではアフラトキシンB1とG1で数値が低くなっている傾向が見られた。次回のテストでは今回効果があった(3)の条件で超高圧処理を行ったあと、焙煎を行うことで、アフラトキシンの数値がどう変化するか検証することとした。
【0027】
(実験4:超高圧処理後に焙煎を行った際の低減効果の検証)
実験3の結果を受けて、処理条件:圧力900MPa、処理温度90℃、処理時間20分での超高圧処理を行った後、以下の条件で焙煎を行った。
【0028】
【表4】
【0029】
前記表4より、超高圧処理後に焙煎を行うことで、さらにアフラトキシンの数値が低くなることが確認できた。また、今回もアフラトキシンB1、G1に効果がある傾向が見られた。
【0030】
(まとめ)
今回の実験で、超高圧処理(900MPa、90℃)や焙煎処理(140~160度、15分)を行うことで、アフラトキシンB1、G1を添加量の1/3~1/5程度の数値まで減らすことができた。アフラトキシン類ではアフラトキシンB1が最も毒性が高く、ピーナッツで汚染が多いと言われている。そのアフラトキシンB1に対し、超高圧処理が有効な低減手段である可能性があることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の低減方法は、アフラトキシンを低減する方法として、アフラトキシンが発生する又はアフラトキシンを含有する各種食品の加工に利用することができる。
【符号の説明】
【0032】
1 容器
2 ピストン
W 圧媒(不凍液や水、お湯)
図1