IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ DOWAメタルテック株式会社の特許一覧

特許7202213金属-セラミックス接合基板およびその製造方法
<>
  • 特許-金属-セラミックス接合基板およびその製造方法 図1A
  • 特許-金属-セラミックス接合基板およびその製造方法 図1B
  • 特許-金属-セラミックス接合基板およびその製造方法 図2A
  • 特許-金属-セラミックス接合基板およびその製造方法 図2B
  • 特許-金属-セラミックス接合基板およびその製造方法 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-27
(45)【発行日】2023-01-11
(54)【発明の名称】金属-セラミックス接合基板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H05K 3/38 20060101AFI20221228BHJP
   H01L 23/13 20060101ALI20221228BHJP
   H01L 23/36 20060101ALI20221228BHJP
   C04B 37/02 20060101ALI20221228BHJP
   C04B 41/88 20060101ALI20221228BHJP
【FI】
H05K3/38 D
H01L23/12 C
H01L23/36 C
C04B37/02 C
C04B41/88 C
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019030743
(22)【出願日】2019-02-22
(65)【公開番号】P2020136581
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2021-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】506365131
【氏名又は名称】DOWAメタルテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107548
【弁理士】
【氏名又は名称】大川 浩一
(72)【発明者】
【氏名】小山内 英世
【審査官】小林 大介
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-276035(JP,A)
【文献】特開2011-014671(JP,A)
【文献】特開2004-115337(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 3/38
H01L 23/12-23/15
H01L 23/36
C04B 37/02
C04B 41/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳型内にセラミックス基板を配置し、鋳型を炉内に入れ、炉内の酸素濃度を25ppm以下、露点を-45℃以下まで低下させ、セラミックス基板の一方の面に接触するようにアルミニウムの溶湯を注湯した後に溶湯を冷却して固化させることにより、アルミニウム板をセラミックス基板の一方の面に形成してそのアルミニウム板をセラミックス基板に直接接合させることを特徴とする、金属-セラミックス接合基板の製造方法。
【請求項2】
前記アルミニウム板が回路パターン用アルミニウム板であることを特徴とする、請求項1に記載の金属-セラミックス接合基板の製造方法。
【請求項3】
前記鋳型内の前記セラミックス基板の一方の面に接触するように前記アルミニウムの溶湯を注湯する際に、前記鋳型内の前記セラミックス基板の他方の面に接触するように前記アルミニウムの溶湯を注湯し、アルミニウムベース板を前記セラミックス基板の他方の面に形成して前記セラミックス基板に直接接合させることを特徴とする、請求項1または2に記載の金属-セラミックス接合基板の製造方法。
【請求項4】
前記セラミックス基板が窒化アルミニウム基板であり、前記アルミニウムが純度99.9質量%以上のアルミニウムであることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載の金属-セラミックス接合基板の製造方法。
【請求項5】
前記注湯と前記冷却を加圧しながら行うことを特徴とする、請求項1乃至4のいずれかに記載の金属-セラミックス接合基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属-セラミックス接合基板およびその製造方法に関し、特に、窒化アルミニウム基板にアルミニウム板が接合した金属-セラミックス接合基板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気自動車、電車、工作機械などの大電流を制御するために使用されているパワーモジュールでは、金属ベース板の一方の面に金属-セラミックス絶縁基板が半田付けにより固定され、この金属-セラミックス絶縁基板上に半導体チップが半田付けにより固定されている。また、金属ベース板の他方の面(裏面)には、ねじ止めなどにより熱伝導グリースを介して金属製の放熱フィンや冷却ジャケットが取り付けられている。
【0003】
この金属-セラミックス絶縁基板への金属ベース板や半導体チップの半田付けは加熱により行われるため、半田付けの際に接合部材間の熱膨張係数の差により金属ベース板の反りが生じ易い。また、半導体チップから発生した熱は、金属-セラミックス絶縁基板と半田とベース板を介して放熱フィンや冷却ジャケットにより空気や冷却水に逃がされるため、半田付けの際に金属ベース板の反りが生じると、放熱フィンや冷却ジャケットを金属ベース板に取り付けたときのクリアランスが大きくなり、放熱性が極端に低下する。さらに、半田自体の熱伝導率が低いため、大電流を流すパワーモジュールでは、より高い放熱性が求められている。
【0004】
これらの問題を解決するため、金属ベース板と金属-セラミックス絶縁基板との間を半田付けすることなく、窒化アルミニウム基板などのセラミックス基板にアルミニウム板を直接接合した金属-セラミックス接合基板が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2001-144224号公報(段落番号0016-0017)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1の金属-セラミックス接合基板では、アルミニウム板とセラミックス基板との間のピール強度が30kg/cm程度であり、近年では、さらに高い接合強度の金属-セラミックス接合基板が望まれている。
【0007】
したがって、本発明は、このような従来の問題点に鑑み、セラミックス基板に直接接合したアルミニウム板の接合強度が従来よりも高い金属-セラミックス接合基板およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、鋳型内にセラミックス基板を配置し、鋳型を炉内に入れ、炉内の酸素濃度を25ppm以下、露点を-45℃以下まで低下させ、セラミックス基板の一方の面に接触するようにアルミニウムの溶湯を注湯した後に溶湯を冷却して固化させることにより、アルミニウム板をセラミックス基板の一方の面に形成してそのアルミニウム板をセラミックス基板に直接接合させることにより、セラミックス基板に直接接合したアルミニウム板の接合強度が従来よりも高い金属-セラミックス接合基板を製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明による金属-セラミックス接合基板の製造方法は、鋳型内にセラミックス基板を配置し、鋳型を炉内に入れ、炉内の酸素濃度を25ppm以下、露点を-45℃以下まで低下させ、セラミックス基板の一方の面に接触するようにアルミニウムの溶湯を注湯した後に溶湯を冷却して固化させることにより、アルミニウム板をセラミックス基板の一方の面に形成してそのアルミニウム板をセラミックス基板に直接接合させることを特徴とする。
【0010】
この金属-セラミックス接合基板の製造方法において、アルミニウム板が回路パターン用アルミニウム板であるのが好ましい。また、鋳型内のセラミックス基板の一方の面に接触するようにアルミニウム溶湯を注湯する際に、鋳型内のセラミックス基板の他方の面に接触するようにアルミニウム溶湯を注湯し、アルミニウムベース板をセラミックス基板の他方の面に形成してセラミックス基板に直接接合させるのが好ましい。また、セラミックス基板が窒化アルミニウム基板であり、アルミニウムが純度99.9質量%以上のアルミニウムであるのが好ましい。さらに、注湯と冷却を加圧しながら行うのが好ましい。
【0011】
また、本発明による金属-セラミックス接合基板は、セラミック基板の一方の面にアルミニウムからなるアルミニウム板が直接接合し、このアルミニウム板とセラミックス基板との接合界面に形成された酸化物層の最大厚さが4nm以下であり、アルミニウム板とセラミックス基板との間の接合強度が330N/cm以上であることを特徴とする。
【0012】
この金属-セラミックス接合基板において、アルミニウム板が回路パターン用アルミニウム板であるのが好ましい。また、セラミックス基板の他方の面にアルミニウムからなるアルミニウムベース板が直接接合し、このアルミニウムベース板とセラミックス基板との接合界面に形成された酸化物層の最大厚さが4nm以下であり、アルミニウムベース板とセラミックス基板との間の接合強度が330N/cm以上であるのが好ましい。また、酸化物層の最大厚さが3nm以下であり、接合強度が350N/cm以上であるのが好ましい。さらに、セラミックス基板が窒化アルミニウム基板であり、アルミニウムが純度99.9質量%以上のアルミニウムであるのが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、セラミックス基板に直接接合したアルミニウム板の接合強度が従来よりも高い金属-セラミックス接合基板を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1A】本発明による金属-セラミックス接合基板の実施の形態の平面図である。
図1B図1Aの金属-セラミックス接合基板のIB-IB線断面図である。
図2A図1Aの金属-セラミックス接合基板を製造するために使用する鋳型の断面図である。
図2B図2Aの鋳型の下側鋳型部材の平面図である。
図3図1Aの金属-セラミックス接合基板の製造に使用する装置を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明による金属-セラミックス接合基板の製造方法の実施の形態では、鋳型内に(好ましくは窒化アルミニウム、アルミナ、窒化珪素などからなる)セラミックス基板を配置し、鋳型を炉内に入れ、炉内の酸素濃度を25ppm以下(好ましくは15ppm以下)、露点を-45℃以下(好ましくは-48℃以下)まで低下させ、セラミックス基板の表面に接触するように(好ましくは純度99.9質量%以上、さらに好ましくは純度99.99質量%以上の)アルミニウムの溶湯を(好ましくは酸化皮膜を取り除きながら窒素ガスなどにより5~15kPa程度で加圧して)流し込んだ後、(好ましくは鋳型内に窒素ガスなどを吹き込んで鋳型内の溶湯を5~15kPa程度で加圧したまま)溶湯を冷却して固化(凝固)させることにより、アルミニウムからなる回路パターン用金属板をセラミックス基板の一方の面に形成してその回路パターン用金属板の一方の面をセラミックス基板に直接接合させるとともに、アルミニウムからなる金属ベース板をセラミックス基板の他方の面に形成してセラミックス基板に直接接合させる。
【0016】
また、本発明による金属-セラミックス接合基板の実施の形態は、図1A図1Bに示すように、平面形状が略矩形の窒化アルミニウムからなるセラミック基板10の一方の面に平面形状が略矩形の(好ましくは純度99.9質量%以上、さらに好ましくは純度99.99質量%以上の)アルミニウムからなる1以上(図示した実施の形態では1つ)の回路パターン用金属板(回路パターン用アルミニウム板)14が直接接合するとともに、セラミック基板10の他方の面(裏面)に平面形状が略矩形の(好ましくは純度99.9質量%以上、さらに好ましくは純度99.99質量%以上の)アルミニウムからなる金属ベース板(アルミニウムベース板)12が直接接合し、セラミックス基板10と回路パターン用金属板14の接合界面およびセラミックス基板10と金属ベース板12の接合界面に形成された(図示しない)酸化物層の最大厚さが4nm以下(好ましくは3nm以下)であり、セラミックス基板10と回路パターン用金属板14との間(またはセラミックス基板10と金属ベース板12との間)の接合強度が330N/cm以上(好ましくは350N/cm以上)である。
【0017】
この金属-セラミックス接合基板の実施の形態は、例えば、図2A図2Bに示すような鋳型20を使用して、上述した金属-セラミックス接合基板の製造方法の実施の形態により製造することができる。
【0018】
図2Aに示すように、鋳型20は、(多孔質の)カーボンまたは多孔質金属などの(溶湯不透過の)通気性材料からなり、それぞれ平面形状が略矩形の下側鋳型部材22と上側鋳型部材24とから構成されている。図2Aおよび図2Bに示すように、下側鋳型部材22の上面には、金属ベース板12を形成するための(金属ベース板形成用)凹部(金属ベース板形成部)22aが形成されている。この金属ベース板形成部22aの底面の略中央部には、セラミックス基板10と略等しい形状および大きさの1つまたは複数(図示した実施の形態では1つを示す)の凹部(セラミックス基板収容部)22bが形成されている。このセラミックス基板収容部22bの底面には、回路パターン用金属板を形成するための1以上(図示した実施の形態では1つ)の(回路パターン形成用)凹部(回路パターン用金属板形成部)22cが形成されている。なお、上側鋳型部材24には、(図示しない)注湯ノズルから下側鋳型部材22の金属ベース板形成部22a内に溶湯を注湯するための(図示しない)注湯口が形成されているとともに、下側鋳型部材22には、金属ベース板形成部22aと回路パターン用金属板形成部22cとの間に延びる(図示しない)溶湯流路が形成されて、セラミックス基板10をセラミックス基板収容部22b内に載置したときにも金属ベース板形成部22aと回路パターン用金属板形成部22cとの間が連通するようになっている。
【0019】
このような鋳型20を使用して図1A図1Bに示す実施の形態の金属-セラミックス接合基板を製造するためには、下側鋳型部材22のセラミックス基板収容部22b内にセラミックス基板10を配置し、上側鋳型部材24を下側鋳型部材22に被せた後、鋳型を炉内に入れ、炉内の酸素濃度を25ppm以下(好ましくは15ppm以下、さらに好ましくは10ppm以下)、露点を-45℃以下(好ましくは-48℃以下、さらに好ましくは-50℃以下)まで低下させ、セラミックス基板の表面に接触するようにアルミニウム溶湯を流し込んだ後、このアルミニウム溶湯を冷却して固化(凝固)させればよい。
【0020】
このような金属-セラミックス接合基板は、例えば、図3に示す金属-セラミックス接合基板の製造装置により製造することができる。
【0021】
図3に示す金属-セラミックス接合基板の製造装置は、セラミックス基板に金属部材を接合する接合炉であり、(図示しない)前置換部と、予熱部200と、注湯部300と、加圧冷却部400と、冷却部500と、(図示しない)後置換部と、搬送路600を備えている。なお、この金属-セラミックス接合基板の製造装置は、注湯口32を取り囲むように坩堝34が設けられた鋳型20を使用して金属-セラミックス接合基板を製造するようになっている。
【0022】
予熱部200、注湯部300、加圧冷却部400および冷却部500は、それぞれ外部の大気雰囲気と異なる雰囲気を維持(予熱部200、注湯部300および加圧冷却部400は、さらに外部温度と異なる温度を維持)することができる処理部であり、互いに略水平方向に隣接して配置されている。また、予熱部200、注湯部300、加圧冷却部400および冷却部500の内壁は、(図示しない)通気性の断熱材で覆われている。この断熱材として、繊維系や発砲プラスチック系などの断熱材を使用することができる。また、予熱部200、注湯部300、加圧冷却部400および冷却部500の上下の壁部には、上下の内壁の断熱材まで延びる(図示しない)ガス導入ノズルが設けられ、上下の壁部の外部から(窒素ガスやアルゴンガスなどの不活性ガスまたは還元性ガスなどの)ガスが上下の壁面の断熱材に供給され、この断熱材に供給されたガスが予熱部200、注湯部300、加圧冷却部400および冷却部500の内部に導入されることができるようになっている。このように内壁を断熱材で覆うとともに上下の内壁の断熱材を介してガスを導入することにより、露点を-45℃以下(好ましくは-48℃以下)まで低下させることができる。
【0023】
図中最も左側に配置された予熱部200の左側には、(図示しない)前置換部が予熱部200と略水平方向に隣接して配置され、この前置換部の図中左側の壁部には(図示しない)鋳型投入口が形成されている。図中最も右側に配置された冷却部500の右側には、(図示しない)後置換部が冷却部500と略水平方向に隣接して配置され、この後置換部の図中右側の側壁には(図示しない)鋳型取り出し口が形成されている。これらの前置換部内と後置換部内では、ロータリーポンプによる真空引きと、内部の空気の窒素ガスやアルゴンガスなどの不活性ガスまたは還元性ガスへの置換(パージ)を繰り返し、外部から接合炉内に入る酸素を減少させることができるようになっている。
【0024】
また、(図示しない)前置換部と予熱部200の間の隔壁と、予熱部200と注湯部300の間の隔壁と、注湯部300と加圧冷却部400の間の隔壁と、加圧冷却部400と冷却部500の間の隔壁と、冷却部500と(図示しない)後置換部との間の隔壁には、それぞれ(図示しない)シャッター付の連通口が形成されている。また、予熱部200の上側の壁部の前置換部側と、冷却部500の上側の壁部の後処理側には、それぞれ(開度を調整可能な)排気口が形成されており、外部との差圧をモニターして、予熱部200内の圧力が注湯部300内の圧力より低く、冷却部500内の圧力が加圧冷却部400内の圧力より低くなるように、開度を調整することができる。
【0025】
搬送路600は、これらの鋳型投入口、連通口および鋳型取り出し口を通過して略水平方向に延びており、鋳型20を鋳型投入口から(図示しない)前置換部、予熱部200、注湯部300、加圧冷却部400、冷却部500および(図示しない)後置換部内に順次搬送して鋳型取り出し口から取り出すことができるようになっている。
【0026】
予熱部200は、セラミックス基板10が内部に設置された後に固体のアルミニウムが坩堝34内に導入されてピストン318が坩堝34に嵌合した鋳型20を外部から導入して、内部の空気を窒素ガスやアルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気または還元性ガス雰囲気に置換した後、内部に設置されたヒータ202によって鋳型20を加熱して坩堝34内の固体の金属を溶解させ、得られた溶湯312の温度を維持するようになっている。
【0027】
注湯部300は、予熱部200から導入された鋳型20内にアルミニウム溶湯を注入するようになっている。この注湯部300には、鋳型20の温度を維持するためのヒータ302と、鋳型20内に溶湯312を注入するための注湯装置310が設置されている。注湯装置310は、坩堝34内の溶湯312を鋳型20内に注湯するためのピストン318と、このピストン318を駆動するためのピストン駆動装置320とを備えている。搬送された鋳型20の坩堝34内のピストン318が注湯装置310の真下に到達したときに、ピストン駆動装置320によってピストン318が下方に移動して、坩堝34内の溶湯312が鋳型20内に注湯されるようになっている。
【0028】
加圧冷却部400は、注湯部300から導入された鋳型20内の溶湯を加圧しながら鋳型を冷却して溶湯を固化させるようになっている。この加圧冷却部400には、鋳型20内の注湯口32付近の温度を維持するためのヒータ402と、鋳型20の注湯口32から鋳型20内の溶湯312を加圧するための加圧装置410と、鋳型20の注湯口32から離れた部分を上下から冷却するための冷却装置430が設置されている。加圧装置410は、搬送された鋳型20の坩堝34内のピストン318が加圧装置410の真下に到達したときにピストン318を下方に移動させて鋳型20内の溶湯312を加圧するためのピストン駆動装置420を備えている。また、冷却装置430は、鋳型20の注湯口32から離れた部分の上側部分に接近または当接してその部分を冷却する上側冷却ブロック432と、鋳型20の注湯口32から離れた部分の下側部分に接近または当接してその部分を冷却する下側冷却ブロック434と、上側冷却ブロック432および下側冷却ブロック434をそれぞれ上下方向に移動させるための冷却ブロック駆動装置436および438とを備えている。
【0029】
この加圧冷却部400では、鋳型20を冷却する際に、鋳型20の一部を冷却して鋳型20内に高温側と低温側を形成するとともに、鋳型20に注湯された溶湯312を高温側から低温側に向けて加圧しながら鋳型20を冷却することによって、溶湯312を固化させるようになっている。このように、冷却時に溶湯312を高温側から低温側に向けて加圧、すなわち、凝固の進行と反対方向に加圧することにより、低温側で凝固した金属が収縮する部分に、高温側の未凝固の溶湯が円滑に補給されて、最終的に引け巣のない金属-セラミックス接合基板を得ることができる。また、鋳型20内の注湯口32側の部分が高温側になり且つ注湯口32と反対側の部分が注湯口32側の部分よりも低温側になるように冷却すれば、金属-セラミックス接合基板を製造するための鋳型20や製造装置の構造を簡略化することができる。
【0030】
冷却部500は、加圧冷却部400において内部の溶湯312が固化した鋳型20を導入して全体的に冷却するようになっている。この冷却部500には、鋳型20を上下から冷却するための冷却装置530が設置されている。冷却装置530は、鋳型20の上側部分に接近または当接してその部分を冷却する上側冷却ブロック532と、鋳型20の下側部分に接近または当接してその部分を冷却する下側冷却ブロック534と、上側冷却ブロック532および下側冷却ブロック534をそれぞれ上下方向に移動させて鋳型20に接近または当接させるための冷却ブロック駆動装置536および538とを備えている。
【実施例
【0031】
以下、本発明による金属-セラミックス接合基板およびその製造方法の実施例について詳細に説明する。
【0032】
[実施例1]
下側鋳型部材の上面に、平面形状が略矩形の70mm×70mm×5mmの大きさのベース板を形成するための(金属ベース板形成用)凹部(金属ベース板形成部)が形成され、このベース板形成部の底面の略中央部に、平面形状が略矩形の50mm×50mm×0.6mmの大きさのセラミックス基板を収容するための凹部(セラミックス基板収容部)が形成され、このセラミックス基板収容部の底面の略中央部に、平面形状が略矩形の48mm×48mm×0.6mmの大きさの回路パターン用金属板を形成するための(回路パターン形成用)凹部(回路パターン用金属板形成部)が形成され、金属ベース板形成部と回路パターン用金属板形成部との間に延びる溶湯流路が形成された(図2A図2Bに示す鋳型20と同様の形状の)カーボン製の鋳型を用意した。
【0033】
この鋳型の下側鋳型部材のセラミックス基板収容部内に平面形状が略矩形の50mm×50mm×0.6mmの大きさの窒化アルミニウム基板(株式会社トクヤマ製の多結晶窒化アルミニウム基板(シェイパルSH-30))を収容し、上側鋳型部材を被せて密閉した後、鋳型を(図3に示す)接合炉内に入れ、(予熱部200と冷却部500の上下の内壁の断熱材にそれぞれ5L/分の流量で窒素ガスを供給するとともに注湯部300と加圧冷却部400の上下の内壁の断熱材にそれぞれ15L/分の流量で窒素ガスを導入することにより)炉内を窒素雰囲気にして(注湯部300内の)酸素濃度を2ppm、露点を-60℃まで低下させ、ヒーターの温度制御により鋳型を730℃まで加熱した。なお、接合炉内の酸素濃度と露点は、それぞれジルコニア式酸素濃度計(東レエンジニアリング株式会社製のLD-300、SA25NW)と露点計(ヴァイサラ社製のDRYCAP露点変換器DMT152)により測定した。また、予め計量した純度99.9質量%(3N)のアルミニウムの溶湯を740℃まで加熱し、この溶湯を、狭隘部を有するノズルを介して酸化皮膜を取り除きながら、窒素ガスにより10kPaで加圧して、注湯口から鋳型内に流し込んだ。このようにアルミニウム溶湯を流し込んだ後、ガス加圧ノズルから注湯口に窒素ガスを吹き込んで鋳型内のアルミニウム溶湯を10kPaで加圧したまま冷却して凝固させることにより、窒化アルミニウム基板の一方の面に回路パターン用アルミニウム板が直接接合するとともに、他方の面にアルミニウムベース板が直接接合した金属-セラミックス接合基板を得た。なお、本実施例では、前置換部と後置換部において、ロータリーポンプによる真空引きと、窒素ガスパージを繰り返して、外部から接合炉内に入る酸素を減少させた。
【0034】
このようにして得られた金属-セラミックス接合基板を鋳型から取り出し、ダイヤモンドカッターを使用して、金属-セラミックス接合基板の長手方向(または幅方向)中央部において厚さ方向に切断し、窒化アルミニウム基板とアルミニウムベース板の接合界面と、窒化アルミニウム基板と回路パターン用アルミニウム板の接合界面を観察することができるように、その断面を樹脂に埋めた後、その表面を回転研磨機で研磨した。この断面を走査透過電子顕微鏡(STEM)・エネルギー分散型X線分析(EDS)装置により観察(STEM-EDS分析)し、明視野STEM像により、接合界面に生成された酸化物層の最大厚さを測定したところ、1nmであった。
【0035】
また、本実施例と同様の方法で得られた金属-セラミックス接合基板を鋳型から取り出し、48mm×48mm×0.6mmの大きさの回路パターン用アルミニウム板の長手方向(または幅方向)中央部に10mm×48mm×0.6mmの大きさの回路パターン用アルミニウム板が残るように、金属-セラミックス接合基板をマスキングし、塩化鉄溶液で回路パターン用アルミニウム板の不要部分をエッチングした後、回路パターン用アルミニウム板と窒化アルミニウム基板との間の接合強度(ピール強度)を測定したところ、350N/cm以上であり、十分に強い接合強度であった。
【0036】
[実施例2]
純度99.9質量%(3N)のアルミニウムに代えて純度99.99質量%(4N)のアルミニウムを使用した以外は、実施例1と同様の方法により、金属-セラミックス接合基板を作製し、STEM-EDS分析と接合強度(ピール強度)の測定を行った。その結果、接合界面に生成された酸化物層の最大厚さは1nmであった。また、接合強度(ピール強度)は350N/cm以上であり、十分に強い接合強度であった。
【0037】
[実施例3]
露点を-50℃にした以外は、実施例1と同様の方法により、金属-セラミックス接合基板を作製し、STEM-EDS分析と接合強度(ピール強度)の測定を行った。その結果、接合界面に生成された酸化物層の最大厚さは1nmであった。また、接合強度(ピール強度)は350N/cm以上であり、十分に強い接合強度であった。
【0038】
[実施例4]
図3に示す)予熱部200と冷却部500の開度を調整可能な排気口を閉じたままにし、(注湯部300内の)酸素濃度を4ppmにした以外は、実施例1と同様の方法により、金属-セラミックス接合基板を作製し、STEM-EDS分析と接合強度(ピール強度)の測定を行った。その結果、接合界面に生成された酸化物層の最大厚さは2nmであった。また、接合強度(ピール強度)は350N/cmであり、十分に強い接合強度であった。
【0039】
[実施例5]
図3に示す)予熱部200と冷却部500の開度を調整可能な排気口を閉じたままにし、予熱部200と冷却部500内に導入する窒素ガスの流量を10L/分にし、(注湯部300内の)酸素濃度を10ppmにし、露点を-50℃にした以外は、実施例1と同様の方法により、金属-セラミックス接合基板を作製し、STEM-EDS分析と接合強度(ピール強度)の測定を行った。その結果、接合界面に生成された酸化物層の最大厚さは3nmであった。また、接合強度(ピール強度)は350N/cmであり、十分に強い接合強度であった。
【0040】
[比較例1]
前置換部と後置換部において真空引きと窒素ガスパージを行わず、(注湯部300内の)酸素濃度を40ppm、露点を-60℃にした以外は、実施例5と同様の方法により、金属-セラミックス接合基板を作製し、STEM-EDS分析と接合強度(ピール強度)の測定を行った。その結果、接合界面に生成された酸化物層の最大厚さは5nmであった。また、接合強度(ピール強度)は300N/cmであり、接合強度は十分でなかった。
【0041】
[比較例2]
予熱部200、注湯部300、加圧冷却部400および冷却部500の上下の内壁の断熱材を介してガスを導入するガス導入ノズルに代えて、予熱部200、注湯部300、加圧冷却部400および冷却部500の上下の内壁の熱材を貫通するガス導入ノズルを設けて、予熱部200、注湯部300、加圧冷却部400および冷却部500内に直接ガスを導入することにより、露点を-40℃にした以外は、実施例1と同様の方法により、金属-セラミックス接合基板を作製し、STEM-EDS分析と接合強度(ピール強度)の測定を行った。その結果、接合界面に生成された酸化物層の最大厚さは10nmであった。また、接合強度(ピール強度)は280N/cmであり、接合強度は十分でなかった。
【符号の説明】
【0042】
10 セラミックス基板
12 金属ベース板
14 回路パターン用金属板
20 鋳型
22 下側鋳型部材
22a 金属ベース板形成用凹部(金属ベース板形成部)
22b セラミックス基板収容部
22c 回路パターン形成用凹部(回路パターン用金属板形成部)
24 上側鋳型部材
32 注湯口
34 坩堝
200 予熱部
202、302、402 ヒータ
300 注湯部
310 注湯装置
312 溶湯
314 溶湯溜め
316 シリンダ
316a 注湯入口
316b 注湯出口
318 ピストン
320 ピストン駆動装置
400 加圧冷却部
432 上側冷却ブロック
434 下側冷却ブロック
436、438 冷却ブロック駆動装置
500 冷却部
530 冷却装置
532 上側冷却ブロック
534 下側冷却ブロック
536、538 冷却ブロック駆動装置
600 搬送路
図1A
図1B
図2A
図2B
図3