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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-05
(45)【発行日】2023-01-16
(54)【発明の名称】露光方法および露光装置
(51)【国際特許分類】
   G03F 7/20 20060101AFI20230106BHJP
【FI】
G03F7/20 502
G03F7/20 521
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019018450
(22)【出願日】2019-02-05
(65)【公開番号】P2020126140
(43)【公開日】2020-08-20
【審査請求日】2021-09-10
(73)【特許権者】
【識別番号】318010018
【氏名又は名称】キオクシア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】濱崎 正和
【審査官】植木 隆和
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-260281(JP,A)
【文献】特開平10-233358(JP,A)
【文献】特開2009-032747(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027
G03F 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つのショット領域内で、合わせずれデータの各座標での合わせずれ量の符号を反転させたずれ補正波形を生成し、当該ずれ補正波形から各座標の合わせずれの度合いを示すずれ指標を算出し、算出されたずれ指標が大きくなる程小さい幅となるようにスキャン方向のスリット幅を変更した補正プロットを生成し、
前記補正プロットの前記スリット幅に応じて各座標で所望の露光量が得られる、フォトマスクを載置するフォトマスクステージと被加工物が載置されるステージとの間の相対的な露光スキャン速度を設定し、
前記補正プロットと前記露光スキャン速度とにしたがって、露光スリットの前記スリット幅と、前記フォトマスクステージおよび前記ステージと、を制御しながら露光処理を実行する露光方法。
【請求項2】
前記補正プロットの生成は、
前記合わせずれデータを取得し、
前記合わせずれデータに対応する前記ずれ補正波形を生成し、
前記ずれ補正波形の各座標における前記ずれ指標を算出し、
前記ずれ指標と前記スリット幅との関係を規定したスリット幅設定情報を取得して、スリット幅条件を設定し、
前記スリット幅条件を参照して、各座標での前記ずれ指標に対応する前記スリット幅を設定した前記補正プロットを生成することを含む請求項1に記載の露光方法。
【請求項3】
前記補正プロットの生成は、
前記補正プロットと前記ずれ補正波形との差が許容範囲内であるかを判定することをさらに含み、
前記露光スキャン速度の設定では、前記差が許容範囲内である場合に前記露光スキャン速度が設定される請求項2に記載の露光方法。
【請求項4】
前記スリット幅設定情報は、前記ずれ指標の絶対値が小さいほど前記スリット幅が大きくなるように、前記ずれ指標に対して複数の前記スリット幅が対応付けられ、
前記補正プロットの生成は、
前記差が許容範囲内でない場合に、前記スリット幅設定情報から、現在設定されている前記スリット幅のつぎに大きいスリット幅を前記スリット幅条件に再設定し、
その後に前記補正プロットの生成を実行することをさらに含む請求項3に記載の露光方法。
【請求項5】
光源と、フォトマスクを載置し、前記フォトマスクの載置面に平行な方向に移動可能なフォトマスクステージと、前記光源からの光を前記フォトマスクに照射する照明光学系と、被加工物を載置し、前記被加工物の載置面に平行な方向に移動可能なステージと、前記フォトマスクを通過した光を前記ステージ上の前記被加工物に投影する投影光学系と、前記照明光学系からの光の照射量を調整し、スリット幅を変更可能な露光スリットと、を備える露光処理部と、
前記露光処理部を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記被加工物のショット領域の露光処理中に、前記被加工物における合わせずれデータの各座標での合わせずれ量の符号を反転させたずれ補正波形を生成し、当該ずれ補正波形から各座標の合わせずれの度合いを示すずれ指標を算出し、算出されたずれ指標が大きくなる程小さい幅となるようにスキャン方向の前記露光スリットのスリット幅を変更し、前記フォトマスクステージと前記ステージとの間の相対的な露光スキャン速度を変更する露光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、露光方法および露光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
露光処理では、照明光は、露光スリットを通り、露光パターンを規定する露光マスクへと入射され、露光マスクおよび感光性基板を同期して露光スキャンすることで感光性基板上にパターニングが行われる。
【0003】
しかしながら、従来技術では、1つのショット領域の露光処理中では、露光スリットの幅(以下、スリット幅という)は固定されている。そのため、露光合わせずれが存在する場合には、露光スキャン速度は下がるがスリット幅を1つのショット領域前に狭めて、露光合わせずれの補正を細かく行うか、あるいは露光スキャン速度を重視して、露光合わせずれの精度を落としていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-129102号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の一つの実施形態は、露光合わせずれが存在する場合に、露光スキャン速度の低下を抑えながら、露光合わせずれの精度を高めることができる露光方法および露光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一つの実施形態によれば、まず、1つのショット領域内で、合わせずれデータの各座標での合わせずれ量の符号を反転させたずれ補正波形を生成し、当該ずれ補正波形から各座標の合わせずれの度合いを示すずれ指標を算出し、算出されたずれ指標が大きくなる程小さい幅となるようにスキャン方向のスリット幅を変更した補正プロットを生成する。ついで、前記補正プロットの前記スリット幅に応じて各座標で所望の露光量が得られる、フォトマスクを載置するフォトマスクステージと被加工物が載置されるステージとの間の相対的な露光スキャン速度を設定する。そして、前記補正プロットと前記露光スキャン速度とにしたがって、露光スリットの前記スリット幅と、前記フォトマスクステージおよび前記ステージと、を制御しながら露光処理を実行する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、実施形態による露光装置の概略構成を示す図である。
図2図2は、実施形態による露光スリットの構成の一例を示す上面図である。
図3図3は、合わせずれデータの一例を示す図である。
図4図4は、ずれ補正波形の一例を示す図である。
図5図5は、スリット幅設定情報の一例を示す図である。
図6図6は、補正プロットの一例を示す図である。
図7図7は、スリット幅とずれ追従性と露光スキャン速度との関係を示す図である。
図8図8は、実施形態による露光方法の手順の一例を示すフローチャートである。
図9図9は、露光スリットの構成の他の例を示す図である。
図10図10は、露光装置における遮光方法の一例を示す図である。
図11図11は、制御部のハードウェア構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に添付図面を参照して、実施形態にかかる露光方法および露光装置を詳細に説明する。なお、この実施形態により本発明が限定されるものではない。
【0009】
図1は、実施形態による露光装置の概略構成を示す図である。露光装置1は、露光処理部10と、制御部20と、を備える。露光処理部10は、光源11と、ウェハステージ12と、フォトマスクステージ13と、を有する。光源11として、たとえばArFエキシマレーザ光を出力するレーザ光源などが用いられる。ウェハステージ12は、被加工物である半導体基板(ウェハ)40を載置する。フォトマスクステージ13は、光源11とウェハステージ12との間に設けられ、フォトマスク55を載置する。
【0010】
また、露光処理部10は、照明光学系14と、投影光学系15と、を備える。照明光学系14は、光源11からの光をフォトマスク55に照射する。投影光学系15は、フォトマスク55を通過した光を半導体基板40上に投影する。
【0011】
さらに、露光処理部10は、ウェハステージ駆動機構16と、フォトマスクステージ駆動機構17と、露光スリット18と、有する。ウェハステージ駆動機構16は、ウェハステージ12を半導体基板40の載置面に平行な方向に移動させる。フォトマスクステージ駆動機構17は、フォトマスクステージ13をフォトマスク55の載置面に平行な方向に移動させる。
【0012】
露光スリット18は、半導体基板40に入射する光の範囲(露光領域)を規定するためにフォトマスクステージ13の光源11側に設けられる。図2は、実施形態による露光スリットの構成の一例を示す上面図である。露光スリット18は、角筒状のスリット本体部181と、2つの矩形状の遮光部182と、を有する。遮光部182は、スリット本体部181の開口部183の長辺181aに沿って配置され、図示しない駆動機構によって短辺181bの延在方向に移動可能に構成されている。これによって、短辺181b方向に配置された2つの遮光部182間の距離であるスリット幅Wを変更することができる。なお、図2で、光の入射方向は紙面に垂直な方向となる。
【0013】
制御部20は、露光処理部10を制御する。制御部20は、合わせずれデータ取得部21と、ずれ補正波形生成部22と、ずれ指標算出部23と、露光スリット設定情報記憶部24と、スリット幅設定部25と、補正プロット生成部26と、補正プロット判定部27と、露光スキャン速度設定部28と、露光制御部29と、を有する。
【0014】
合わせずれデータ取得部21は、露光対象の半導体基板40のショット領域の合わせずれデータを取得する。合わせずれデータは、過去に露光処理を行った結果得られる半導体基板40の上層と下層との間の合わせずれの結果である実計測データでもよいし、照明条件、半導体基板40に形成するパターン、露光処理部10の収差などを加味したシミュレーションによって得られるシミュレーション結果でもよい。図3は、合わせずれデータの一例を示す図である。この図で、横軸は、露光対象のショット領域における露光スキャン方向の位置を示し、縦軸は、合わせずれ量を示している。この例では、ショット領域の露光スキャン方向の両端部ほど合わせずれが大きく、中央付近では合わせずれ量は略0となっているものとする。
【0015】
ずれ補正波形生成部22は、合わせずれデータから露光処理によって合わせずれを補正するために必要なずれ補正波形を生成する。ずれ補正波形は、合わせずれデータの各座標での合わせずれ量の符号を反転させたものである。図4は、ずれ補正波形の一例を示す図である。この図で、横軸は、露光対象のショット領域における露光スキャン方向の位置を示し、縦軸は、補正量を示している。図4は、図3を横軸に対して反転させたものである。
【0016】
ずれ指標算出部23は、ずれ補正波形から、各座標での合わせずれの度合いを示すずれ指標を算出する。ずれ指標として、各座標での補正量、あるいは各座標でのずれ補正波形の傾きなどが例示される。ずれ補正波形の傾きは、ずれ補正波形を微分することによって算出される。
【0017】
露光スリット設定情報記憶部24は、スリット幅を変化させて露光する際の、スリット幅と所定の露光量となる露光スキャン速度と、を設定する際に用いられる露光スリット設定情報を記憶する。露光スリット設定情報は、ずれ指標に対して所定の精度以上で補正することが可能なスリット幅を対応付けたスリット幅設定情報を含む。
【0018】
スリット幅設定情報は、例えば、ずれ指標の範囲に対してスリット幅を対応付けたものである。また、ずれ指標の範囲に対応付けられるスリット幅は複数設けられる。複数設けられるスリット幅は、値が大きいものから小さいものへと順にスリット幅設定部25によって選択される。図5は、スリット幅設定情報の一例を示す図である。この例では、露光処理中に2つのスリット幅で露光する場合を示している。ずれ指標の絶対値がA以下である場合には、スリット幅はBとされ、ずれ指標の絶対値がA以上である場合には、スリット幅はC1,C2,C3,・・・(C1>C2>C3>・・・)とされる。なお、ずれ指標の絶対値がAである場合には、どちらのスリット幅を選択してもよい。
【0019】
また、スリット幅は、露光スリット18が装置的に可動可能な範囲で設定される。さらに、スリット幅は、平均化効果(保証規格)に影響を与えない範囲で設定される。例えば、投影光学系15のレンズの表面に細かい段差が存在する場合に、スリット幅が広い場合にはこの段差部分に光が照射されても、光の照射範囲で平均化されるので、段差部分による影響は小さくなる。しかし、スリット幅が狭い場合には、この段差部分に光が照射されてしまうと、平均化されず、段差部分による影響が大きくなってしまう。そのため、このような段差部分が存在する場合でも、その影響が平均化される範囲でスリット幅が設定される。
【0020】
露光スリット設定情報は、スリット幅に対して所定の露光量を得るための露光スキャン速度を規定した露光スキャン速度設定情報を含む。ショット領域を露光している間は、各位置での光の照射量は所定量でなければならない。そのため、各位置に照射される光が所定量となる露光スキャン速度を、スリット幅ごとに予め定めておく。これを規定したものが、露光スキャン速度設定情報である。
【0021】
スリット幅設定部25は、補正プロットを生成するにあたって、露光スリット設定情報記憶部24からスリット幅設定情報を取得し、スリット幅条件を設定する。例えば図5のスリット幅設定情報では、ずれ指標の絶対値がA以下の場合のスリット幅はBで固定であるが、A以上の場合のスリット幅は、C1,C2,C3,・・・と複数存在する。そこで、スリット幅設定部25は、最初の補正プロットの生成時には、ずれ指標の絶対値がA以下の場合はスリット幅がBであり、A以上の場合はスリット幅が最も大きいC1であるスリット幅条件を設定する。
【0022】
また、スリット幅設定部25は、補正プロット判定部27で補正プロットとずれ補正波形との差分が許容範囲でないと判定された場合に、ずれ指標の絶対値がA以上の場合のスリット幅として、現在設定されているスリット幅のつぎに大きいスリット幅を選択したスリット幅条件を再設定する。例えば、現在、ずれ指標の絶対値がA以上の場合のスリット幅としてC1が設定されている場合には、C2が設定される。
【0023】
補正プロット生成部26は、設定されたスリット幅条件を参照して、座標ごとにずれ指標に対応するスリット幅を設定した補正プロットを生成する。図6は、補正プロットの一例を示す図である。図6で、横軸は露光スキャン方向の位置を示し、縦軸は補正量を示している。また、図6では、図4のずれ補正波形に重ねて露光スリット18を配置した場合を示している。この図に示されるように、補正量が少ない領域R2では、大きいスリット幅Bが設定され、補正量が大きくなる領域R1,R3では、小さいスリット幅C1が設定された補正プロットが生成される。
【0024】
補正プロット判定部27は、ずれ補正波形と補正プロットとの差が許容範囲内であるかを判定する。許容範囲は、例えば補正プロットに対応する条件で露光スリット18を変化させて露光処理を行ったときの合わせずれ量が所望の精度以上となる範囲とされる。ずれ補正波形と補正プロットとの差が許容範囲内であるか否かは、例えば、相関係数Rの2乗である決定係数を用いて判定することができる。なお、許容範囲は、スペックの範囲としてもよい。補正プロット判定部27は、差が許容範囲内でない場合には、スリット幅設定部25にその旨を通知する。
【0025】
露光スキャン速度設定部28は、ずれ補正波形と補正プロットとの差が許容範囲内である場合に、各座標に設定されたスリット幅ごとに所望の露光量が得られる露光スキャン速度を設定する。露光スキャン速度設定部28は、露光スリット設定情報記憶部24中の露光スキャン速度設定情報を参照して、スリット幅に対応する露光スキャン速度を取得することができる。なお、露光スキャン速度は、計算によって求めてもよい。例えば、露光スキャン速度は、次式(1)によって求められる。
露光スキャン速度=基準露光スキャン速度×設定スリット幅/基準スリット幅 ・・・(1)
【0026】
図7は、スリット幅とずれ追従性と露光スキャン速度との関係を示す図である。露光スリット18の幅単位で合わせずれに対する補正が行われる。そのため、スリット幅が広い場合には、例えば図6の領域R1,R3のような位置でのずれ追従性が低くなるが、露光スキャン速度は高くすることが可能である。一方、スリット幅が狭い場合には、例えば図6の領域R1,R3のような位置でのずれ追従性が高くなるが、露光スキャン速度は低下してしまう。
【0027】
従来では、1つのショット領域では、露光スリット18の幅は固定されていた。例えばショット領域の露光スキャン方向の全体にわたって合わせずれがそれほど発生していない場合には、幅の広い露光スリット18を使用して露光スキャン速度を高めることができる。また、合わせずれが発生している場合には、幅の狭い露光スリット18を使用してずれ追従性を高めることができる。しかし、この場合には、幅の広い露光スリット18を使用した場合に比して、露光スキャン速度が低下してしまう。
【0028】
一方、本実施形態では、図6に示されるように、1つのショット領域内で、ずれ指標の大きさに応じてスリット幅を変えるようにした。これによって、ずれが許容範囲内の領域では、幅の広い露光スリット18で露光を行って露光スキャン速度を高め、ずれが許容範囲を超える領域では、幅の狭い露光スリット18で露光を行ってずれ追従性を高めることができる。また、幅の狭い露光スリット18で露光を行うのは、ずれが許容範囲を超える領域であるので、ショット領域の全体を幅の狭い露光スリット18で露光を行う場合に比して、露光処理に要する時間を短くすることが可能となる。
【0029】
露光制御部29は、生成された補正プロットと設定された露光スキャン速度とを用いて、露光処理部10を制御する。例えば、露光制御部29は、光源11と、ウェハステージ駆動機構16、フォトマスクステージ駆動機構17および露光スリット18を制御する。
【0030】
つぎに、このような構成の露光装置における露光方法について説明する。図8は、実施形態による露光方法の手順の一例を示すフローチャートである。まず、制御部20の合わせずれデータ取得部21は、露光するショット領域に関する合わせずれデータを取得する(ステップS11)。合わせずれデータ取得部21は、例えば、図3に示される合わせずれデータを取得する。合わせずれデータは、実際に計測されたデータでもよいし、シミュレーションで得られた結果でもよい。
【0031】
ついで、ずれ補正波形生成部22は、合わせずれデータに対するずれ補正波形を生成する(ステップS12)。ずれ補正波形は、合わせずれデータの各座標の値の符号を反転させたものとすることができる。ずれ補正波形生成部22は、例えば、図4に示されるずれ補正波形を生成する。
【0032】
その後、ずれ指標算出部23は、ずれ補正波形の各座標におけるずれ指標を算出する(ステップS13)。ずれ指標として、ずれ補正波形の各座標での絶対値でもよいし、傾きの絶対値でもよい。
【0033】
ついで、スリット幅設定部25は、露光スリット設定情報記憶部24中からスリット幅設定情報を取得し、スリット幅条件を設定する(ステップS14)。例えば、図5で、ずれ指標の絶対値がA以下の場合には、スリット幅をBとし、A以上の場合にはスリット幅をC1とするようにスリット幅条件を設定する。
【0034】
その後、補正プロット生成部26は、スリット幅条件を参照して、各座標について、算出したずれ指標に対応するスリット幅を設定した補正プロットを生成する(ステップS15)。例えば、図6に示されるように、ずれ補正波形から得られるずれ指標に応じて、領域R2ではスリット幅Bを設定し、領域R1,R3ではスリット幅C1を設定する。
【0035】
その後、補正プロット判定部27は、ステップS15で生成した補正プロットとステップS12で生成したずれ補正波形との差が許容範囲内であるかを判定する(ステップS16)。例えば、両者の差が所望の精度以上を達成することができる範囲であるかを判定する。例えば、この判定は、決定係数を用いて行われる。
【0036】
補正プロットとずれ補正波形との差が許容範囲外である場合(ステップS16でNoの場合)には、スリット幅設定部25は、スリット幅設定情報から、現在のスリット幅のつぎに大きいスリット幅を選択し、スリット幅条件に設定する(ステップS17)。その後、ステップS15に処理が戻る。補正プロットとずれ補正波形の差が許容範囲内となるまで、ステップS15~S17の処理が繰り返し実行される。例えば、図6では、領域R1,R3のスリット幅がC1となっているが、スリット幅がC2,C3と順に小さくなるように補正プロットが生成される。
【0037】
一方、補正プロットとずれ補正波形との差が許容範囲内である場合(ステップS16でYesの場合)には、露光スキャン速度設定部28は、露光スキャン速度設定情報にしたがって、スリット幅に応じて各座標に所望の露光量が得られる露光スキャン速度を設定する(ステップS18)。具体的には、スリット幅が狭い座標位置では、スリット幅が広い座標位置に比較して露光スキャン速度が高く設定される。
【0038】
そして、露光制御部29は、補正プロットおよび露光スキャン速度にしたがって、露光スリット18、ウェハステージ駆動機構16およびフォトマスクステージ駆動機構17を制御し、露光処理を行う(ステップS19)。以上で、処理が終了する。
【0039】
図2では、露光スリット18の遮光部182は、矩形状を有していたが、実施形態がこれに限定されるものではない。図9は、露光スリットの構成の他の例を示す図である。図9(a)では、遮光部182が、チェーン182aと、チェーン182aに設けられる板状部材182bと、で構成される。チェーン182aは、スリット本体部181の長辺181aの延在方向に沿って回転可能な構成を有する。例えば、上記した例で、スリット幅がより広いBが選択される場合には、チェーン182aの回転によって、板状部材182bが設けられていない位置がスリット本体部181の内部に位置するように配置される。また、スリット幅がより狭いC1が選択される場合には、図9(a)に示されるように、チェーン182aの回転によって、板状部材182bが設けられている位置がスリット本体部181の内部に位置するように配置される。
【0040】
図9(b)に示されるように、遮光部182が、スリット本体部181の短辺181bの方向に延在する複数の短冊状部材182cによって構成されてもよい。各短冊状部材182cは、図示しない駆動機構によってスリット本体部181の短辺181bの延在方向に移動可能に構成される。このようにすることで、スリット本体部181の長辺181a方向に沿った位置に応じて細かく露光量の調整を行うことが可能になる。
【0041】
また、図2および図9では、露光スリット18に遮光部182を設ける場合を説明したが、他の方法によって露光量を調整してもよい。図10は、露光装置における遮光方法の一例を示す図である。露光処理部10には、通常、マスキングブレード19が露光スリット18のフォトマスクステージ13側に設けられる。このマスキングブレード19で半導体基板40に照射される領域を制限してもよい。
【0042】
なお、上記した例では、図5に示されるように、2つのスリット幅で補正プロットを生成する場合を説明したが、3つ以上のスリット幅で補正プロットを生成してもよい。この場合には、スリット幅設定情報は、複数のスリット幅に対して、ずれ指標の絶対値の範囲が規定されることになる。
【0043】
図11は、制御部のハードウェア構成の一例を示す図である。制御部20は、CPU(Central Processing Unit)311と、ROM(Read Only Memory)312と、主記憶装置であるRAM(Random Access Memory)313と、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)またはCD(Compact Disc)ドライブ装置などの外部記憶装置314と、液晶表示装置などの表示装置315と、キーボードおよびマウスなどの入力装置316と、を備えており、これらがバスライン317を介して接続された、通常のコンピュータを利用したハードウェア構成となっている。
【0044】
本実施形態の制御部20で実行されるプログラムは、図8に示される方法を実行するものであり、インストール可能な形式または実行可能な形式のファイルでCD-ROM、フレキシブルディスク(FD)、CD-R、DVD(Digital Versatile Disk)等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録されて提供される。
【0045】
また、本実施形態の制御部20で実行されるプログラムを、インターネット等のネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせることにより提供するように構成してもよい。また、本実施形態の制御部20で実行されるプログラムをインターネット等のネットワーク経由で提供または配布するように構成してもよい。
【0046】
また、本実施形態のプログラムを、ROM等に予め組み込んで提供するように構成してもよい。
【0047】
第1の実施形態では、ショット領域についての合わせずれデータを補正するずれ補正波形から各座標におけるずれ指標を算出し、ずれ指標に応じてスリット幅を設定した補正プロットを生成する。そして、補正プロットの各座標位置でのスリット幅にしたがって露光処理時の露光スキャン速度を設定する。これによって、合わせずれが存在するショット領域を露光する際に、合わせずれ量の大きい位置では、スリット幅を狭くしてずれ追従性が高められ、合わせずれ量の小さい位置では、スリット幅を広くして露光スキャン速度が高められる。その結果、露光処理において、露光スキャン速度の劣化を抑えながら、合わせずれを補正して、所望の合わせずれ精度を達成することができる。
【0048】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0049】
[付記]
[付記1]
ショット領域の合わせずれに対応してスリット幅を変更した補正プロットを生成し、
前記補正プロットの前記スリット幅に応じて各座標で所望の露光量が得られる、フォトマスクを載置するフォトマスクステージと被加工物が載置されるステージとの間の相対的な露光スキャン速度を設定し、
前記補正プロットと前記露光スキャン速度とにしたがって、露光スリットの前記スリット幅と、前記フォトマスクステージおよび前記ステージと、を制御しながら露光処理を実行する露光方法。
[付記2]
前記補正プロットの生成は、
合わせずれデータを取得し、
前記合わせずれデータに対応するずれ補正波形を生成し、
前記ずれ補正波形の各座標におけるずれ指標を算出し、
前記ずれ指標と前記スリット幅との関係を規定したスリット幅設定情報を取得して、スリット幅条件を設定し、
前記スリット幅条件を参照して、各座標での前記ずれ指標に対応する前記スリット幅を設定した前記補正プロットを生成することを含む付記1に記載の露光方法。
[付記3]
前記補正プロットの生成は、
前記補正プロットと前記ずれ補正波形との差が許容範囲内であるかを判定することをさらに含み、
前記露光スキャン速度の設定では、前記差が許容範囲内である場合に前記露光スキャン速度が設定される付記2に記載の露光方法。
[付記4]
前記スリット幅設定情報は、前記ずれ指標の絶対値が小さいほど前記スリット幅が大きくなるように、前記ずれ指標に対して複数の前記スリット幅が対応付けられ、
前記補正プロットの生成は、
前記差が許容範囲内でない場合に、前記スリット幅設定情報から、現在設定されている前記スリット幅のつぎに大きいスリット幅を前記スリット幅条件に再設定し、
その後に前記補正プロットの生成を実行することをさらに含む付記3に記載の露光方法。
[付記5]
前記スリット幅設定情報は、前記ずれ指標を複数の範囲に分割し、それぞれの前記範囲に対してスリット幅が設定される付記2に記載の露光方法。
[付記6]
前記スリット幅は、装置的に設定可能な範囲である付記2に記載の露光方法。
[付記7]
前記合わせずれデータは、露光位置のずれを実際に計測したデータ、あるいはシミュレーションによって得られたデータである付記2に記載の露光方法。
[付記8]
光源と、フォトマスクを載置し、前記フォトマスクの載置面に平行な方向に移動可能なフォトマスクステージと、前記光源からの光を前記フォトマスクに照射する照明光学系と、被加工物を載置し、前記被加工物の載置面に平行な方向に移動可能なステージと、前記フォトマスクを通過した光を前記ステージ上の前記被加工物に投影する投影光学系と、前記照明光学系からの光の照射量を調整し、スリット幅を変更可能な露光スリットと、を備える露光処理部と、
前記露光処理部を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記被加工物のショット領域の露光処理中に、前記被加工物の合わせずれ量に対応して前記露光スリットのスリット幅と、前記フォトマスクステージと前記ステージとの間の相対的な露光スキャン速度と、を変更する露光装置。
【符号の説明】
【0050】
1 露光装置、10 露光処理部、11 光源、12 ウェハステージ、13 フォトマスクステージ、14 照明光学系、15 投影光学系、16 ウェハステージ駆動機構、17 フォトマスクステージ駆動機構、18 露光スリット、19 マスキングブレード、20 制御部、21 合わせずれデータ取得部、22 ずれ補正波形生成部、23 ずれ指標算出部、24 露光スリット設定情報記憶部、25 スリット幅設定部、26 補正プロット生成部、27 補正プロット判定部、28 露光スキャン速度設定部、29 露光制御部、40 半導体基板、55 フォトマスク、181 スリット本体部、182 遮光部、182a チェーン、182b 板状部材、182c 短冊状部材、183 開口部。
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