(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-05
(45)【発行日】2023-01-16
(54)【発明の名称】イオンミリング装置及びそれを用いたミリング加工方法
(51)【国際特許分類】
H01J 37/30 20060101AFI20230106BHJP
G01N 1/28 20060101ALI20230106BHJP
H01J 37/20 20060101ALI20230106BHJP
H01J 37/244 20060101ALI20230106BHJP
【FI】
H01J37/30 Z
G01N1/28 G
H01J37/20 A
H01J37/244
(21)【出願番号】P 2021541782
(86)(22)【出願日】2019-08-23
(86)【国際出願番号】 JP2019033147
(87)【国際公開番号】W WO2021038650
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2022-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】鴨志田 斉
(72)【発明者】
【氏名】高須 久幸
(72)【発明者】
【氏名】上野 敦史
(72)【発明者】
【氏名】会田 翔太
(72)【発明者】
【氏名】中村 恵
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/145371(WO,A1)
【文献】特開2012-156077(JP,A)
【文献】特開2004-014988(JP,A)
【文献】特開2005-191328(JP,A)
【文献】特開2016-212956(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/00-37/36
G01N 1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を載置し、試料載置面に第1の絶縁材が設けられた試料ステージと、
前記試料に向けて非集束のイオンビームを放出するイオン源と、
前記イオンビームを遮蔽し、前記試料載置面と対向する面に第2の絶縁材が設けられた遮蔽板と、
前記試料ステージに、前記イオンビームのイオンビーム中心と直交するように設定されるスイング軸を中心としたスイング動作と、前記イオンビーム中心を含み前記スイング軸と垂直に交わる平面と前記試料ステージの前記試料載置面との交線に沿ったスライド動作とを行わせるステージコントローラと、
第1モード動作と第2モード動作とを繰り返して前記試料をミリング加工する制御装置とを有し、
前記試料は、前記遮蔽板の前記第2の絶縁材に接し、かつ前記遮蔽板から前記スイング軸の方向に突出するように配置され、
前記制御装置は、前記第1モード動作において、前記試料ステージに前記スイング動作を行わせ、前記イオン源に前記イオンビームを放出させて前記試料をミリングし、前記第2モード動作において、前記試料ステージに前記スライド動作を行わせ、前記イオン源に前記イオンビームを放出させて前記第1モード動作において前記試料に再付着したスパッタ粒子を除去するイオンミリング装置。
【請求項3】
請求項1において、
前記制御装置は、前記第1モード動作及び前記第2モード動作において前記イオンビームのイオンビーム電流を異なる値に設定するイオンミリング装置。
【請求項4】
請求項1において、
前記制御装置は、前記第1モード動作を実行する時間と前記第2モード動作を実行する時間とを設定するイオンミリング装置。
【請求項5】
請求項1において、
前記試料に前記イオンビームが照射されることにより弾き飛ばされたスパッタ粒子の量を測定するセンサを有するイオンミリング装置。
【請求項6】
請求項5において、
前記制御装置は、前記センサの出力に基づき前記第2モード動作を開始する条件と前記第2モード動作を実行する時間とを設定するイオンミリング装置。
【請求項7】
請求項6において、
前記センサは、水晶振動子と前記水晶振動子を発振させて発振信号を出力する発振回路とを有し、
前記制御装置は、前記ミリング加工によりスパッタ粒子が前記水晶振動子上に堆積することによる前記発振信号の周波数の変化から、前記水晶振動子上に堆積したスパッタ粒子の質量を測定し、前記試料にスパッタ粒子が堆積することによって形成されるリデポジション膜の膜厚を推定するイオンミリング装置。
【請求項8】
請求項7において、
前記第2モード動作を開始する条件は、推定された前記リデポジション膜の膜厚または前記発振信号の周波数の変化量によって定められるイオンミリング装置。
【請求項9】
試料を載置する試料ステージと、
前記試料に向けて非集束のイオンビームを放出するイオン源と、
前記試料ステージに、前記イオンビームのイオンビーム中心と直交するように設定されるスイング軸を中心としたスイング動作と、前記イオンビーム中心を含み前記スイング軸と垂直に交わる平面と前記試料ステージの試料載置面との交線に沿ったスライド動作とを行わせるステージコントローラと、
第1モード動作と第2モード動作とを繰り返して前記試料をミリング加工する制御装置と、
前記試料に前記イオンビームが照射されることにより弾き飛ばされたスパッタ粒子の量を測定するセンサとを有し、
前記試料は、前記イオンビームを遮蔽する遮蔽板から前記スイング軸の方向に突出するように配置され、
前記制御装置は、前記第1モード動作において、前記試料ステージに前記スイング動作を行わせ、前記イオン源に前記イオンビームを放出させて前記試料をミリングし、前記第2モード動作において、前記試料ステージに前記スライド動作を行わせ、前記イオン源に前記イオンビームを放出させて前記第1モード動作において前記試料に再付着したスパッタ粒子を除去し、前記センサの出力に基づき、前記試料の前記ミリング加工の終了を判定するイオンミリング装置。
【請求項10】
非集束のイオンビームを放出するイオン源と、試料載置面に第1の絶縁材が設けられた試料ステージと、前記イオンビームを遮蔽し、前記試料載置面と対向する面に第2の絶縁材が設けられた遮蔽板と、前記試料ステージに、前記イオンビームのイオンビーム中心と直交するように設定されるスイング軸を中心としたスイング動作と、前記イオンビーム中心を含み前記スイング軸と垂直に交わる平面と前記試料ステージの前記試料載置面との交線に沿ったスライド動作とを行わせるステージコントローラとを有するイオンミリング装置を用いて、前記遮蔽板の前記第2の絶縁材に接し、かつ前記試料ステージ上に前記遮蔽板から前記スイング軸の方向に突出するように配置された全固体電池をミリング加工するミリング加工方法であって、
第2モード動作の条件を設定し、
設定された前記第2モード動作の条件にしたがって、第1モード動作と前記第2モード動作とを繰り返して、前記全固体電池をミリング加工し、
前記第1モード動作において、前記試料ステージに前記スイング動作を行わせ、前記イオン源に前記イオンビームを放出させて前記全固体電池をミリングし、前記第2モード動作において、前記試料ステージに前記スライド動作を行わせ、前記イオン源に前記イオンビームを放出させて前記第1モード動作において前記全固体電池に再付着したスパッタ粒子を除去するミリング加工方法。
【請求項11】
請求項10において、
前記第2モード動作の条件として、前記第2モード動作の開始条件と前記第2モード動作の動作条件とを含むミリング加工方法。
【請求項12】
請求項11において、
前記第2モード動作の動作条件は、前記イオン源の加速電圧及び放電電圧を含むミリング加工方法。
【請求項13】
請求項11において、
前記第2モード動作の開始条件は、前記第1モード動作の継続時間により設定されるミリング加工方法。
【請求項14】
請求項11において、
前記イオンミリング装置は、前記全固体電池に前記イオンビームが照射されることにより弾き飛ばされたスパッタ粒子の量を測定するセンサを備えており、
前記第2モード動作の開始条件は、前記センサの出力に基づき設定されるミリング加工方法。
【請求項15】
請求項14において、
前記センサの出力に基づき、前記全固体電池の前記ミリング加工の終了を判定するミリング加工方法。
【請求項16】
試料を載置する試料ステージと、
前記試料に向けて非集束のイオンビームを放出するイオン源と、
前記試料をミリング加工する制御装置と、
水晶振動子と前記水晶振動子を発振させて発振信号を出力する発振回路とを備えるセンサとを有し、
前記制御装置は、前記ミリング加工によりスパッタ粒子が前記水晶振動子上に堆積することによる前記発振信号の周波数の変化から、前記水晶振動子上に堆積したスパッタ粒子の質量を測定するイオンミリング装置。
【請求項17】
請求項16において、
前記制御装置は、前記イオンビームのイオンビーム電流の異なる第1モード動作及び第2モード動作で前記試料をミリング加工し、
前記制御装置は、前記センサの出力に基づき前記第2モード動作を開始する条件と前記第2モード動作を実行する時間とを設定するイオンミリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオンミリング装置、及びイオンミリング装置を用いたミリング加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イオンミリング装置は、試料(例えば、金属、半導体、ガラス、セラミックなど)の表面あるいは断面に、数kVに加速させた非集束のイオンビーム(Arイオンなど)を照射し、スパッタリング現象により無応力で試料表面の原子を弾き飛ばすことにより、平滑な加工面を得ることができる。これは、走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)や透過電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)に代表される電子顕微鏡により、試料の表面あるいは断面を観察するための平滑加工を行うために優れた特性である。
【0003】
イオンミリング装置は真空雰囲気中で試料にイオンビームを照射して加工を行うため、イオンビームを発生させるイオン源、試料、試料を保持する試料ホルダ、試料ホルダを設置する試料ステージは、真空排気できる試料室内に設置される。試料室を真空排気後に、イオン源から試料にイオンビームを照射すると、試料、その他の構造物(例えば、試料ホルダ、試料ステージ)のイオンビーム照射面より弾き飛ばされた(スパッタリングされた)微小粒子が、試料のイオンビーム照射面の近傍に付着する。これをリデポジションという。
【0004】
特許文献1には、イオンビームの軸の法線方向成分を含む方向に試料を保持する試料保持部をスライド移動させるスライド移動機構を有するイオンミリング装置が開示される。特許文献1のイオンミリング装置は、スライド移動機構により、試料の複数点に対してミリング加工を行うことが可能である(多点ミリング)。この場合、第1の加工面のミリング加工後に第2の加工面のミリング加工を実施すると、第1の加工面に微小粒子が付着するおそれがある。このため、多点ミリングにおいては、第1の加工面と第2の加工面との間の移動を複数回行い、第2の加工面のミリング加工の後、少なくとも1回は第1の加工面に対するミリング加工を行うこととして、複数の加工面へのリデポジションを抑制することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
現在、二次電池として広く普及しているリチウムイオン電池では電解質に有機電解液を用いているのに対して、全固体電池では、電解質として無機固体電解質を用いる。このため、液漏れや発火の危険性がなく安全性や信頼性が高い、サイクル寿命が優れている、さらにバルク型全固体電池では電極材に電極活物質を導入することにより電池容量を高めることができるといった特徴から、全固体電池の開発が活発化している。一方で、全固体電池ではリチウムイオンの伝導経路が流動性のない固体電解質であるため、電極材、電解質個別の物性のみならず、電極活物質-電解質固体界面を含めた物性の検討が不可欠である。正極材-固体電解質-負極材の構造を有する全固体電池の断面を露出させ、その断面を例えば、電子顕微鏡や走査プローブ顕微鏡を用いて観察することで、界面を含めた構造評価、物性評価が可能となる。
【0007】
しかしながら、全固体電池をイオンミリング装置によって断面加工を行う場合、イオンビーム照射面から弾き飛ばされる微小粒子(スパッタ粒子)には、導電性を有する正極材、負極材由来の粒子、試料ホルダ等の金属部品由来の粒子といった導電性を有する微小粒子が多量に含まれる。イオンビーム照射時間の経過に伴い、リデポジションにより微小粒子の付着量は増大し、微小粒子(これを「リデポジション粒子」あるいは「リデポ粒子」という)が堆積して膜状となる(これを「リデポジション膜」あるいは「リデポ膜」と呼ぶ)。リデポ膜には導電性を有する微小粒子が多量に含まれることから、リデポ膜がある程度の膜厚をもつようになると、リデポ膜も導電性膜となり、断面加工を行っている全固体電池の正極材と負極材とを電気的に接続する、すなわち短絡(ショート)させる。電極間のショートが発生してしまうと、全固体電池の状態は本来観察したい状態とは変わってしまい、構造評価や物性評価ができなくなる。
【0008】
このため、全固体電池をイオンミリング装置によって断面加工を行う場合には、リデポ膜による短絡(ショート)の発生を抑制する必要がある。特許文献1は、加工面へのリデポジションを抑制することについては開示されているものの、加工面以外へのリデポジションを抑制することについては記載されていない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一実施の形態であるイオンミリング装置は、試料を載置する試料ステージと、試料に向けて非集束のイオンビームを放出するイオン源と、試料ステージに、イオンビームのイオンビーム中心と直交するように設定されるスイング軸を中心としたスイング動作と、イオンビーム中心を含みスイング軸と垂直に交わる平面と試料ステージの試料載置面との交線に沿ったスライド動作とを行わせるステージコントローラと、第1モード動作と第2モード動作とを繰り返して試料をミリング加工する制御装置とを有し、試料は、イオンビームを遮蔽する遮蔽板からスイング軸の方向に突出するように配置され、制御装置は、第1モード動作において、試料ステージにスイング動作を行わせ、イオン源にイオンビームを放出させて試料をミリングし、第2モード動作において、試料ステージにスライド動作を行わせ、イオン源にイオンビームを放出させて第1モード動作において試料に再付着したスパッタ粒子を除去する。
【0010】
本発明の他の実施の形態であるミリング加工方法は、非集束のイオンビームを放出するイオン源と、試料ステージと、試料ステージに、イオンビームのイオンビーム中心と直交するように設定されるスイング軸を中心としたスイング動作と、イオンビーム中心を含みスイング軸と垂直に交わる平面と試料ステージの試料載置面との交線に沿ったスライド動作とを行わせるステージコントローラとを有するイオンミリング装置を用いて、試料ステージ上にイオンビームを遮蔽する遮蔽板からスイング軸の方向に突出するように配置された全固体電池をミリング加工するミリング加工方法であって、第2モード動作の条件を設定し、設定された第2モード動作の条件にしたがって、第1モード動作と第2モード動作とを繰り返して、全固体電池をミリング加工し、第1モード動作において、試料ステージにスイング動作を行わせ、イオン源にイオンビームを放出させて全固体電池をミリングし、第2モード動作において、試料ステージにスライド動作を行わせ、イオン源にイオンビームを放出させて第1モード動作において全固体電池に再付着したスパッタ粒子を除去する。
【発明の効果】
【0011】
リデポジション膜による短絡の発生を抑制して、全固体電池の断面ミリングが可能なイオンミリング装置を提供する。
【0012】
その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図7B】ミリング加工中のイオンビーム照射状態を説明する図である。
【
図9】実施例2のイオンミリング装置の概要である。
【
図10B】水晶振動子上にリデポジション膜が形成される様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の新規な特徴と効果について図面を使用して説明する。ただし、本実施の形態は本発明を実現するための一例に過ぎず、本発明の技術的範囲を限定するものではない。また、各図において共通の構成については同一の参照番号が付されている。
【0015】
図1は、イオンミリング装置の主要部を示した図(模式図)である。試料室9には、イオン源1、加工対象である試料8を載置する試料ステージ5が設けられている。試料室9には排気装置10が設けられ、試料8の加工時には試料室9内を真空雰囲気に保持する。また、イオン源1からのイオンビーム4を一部遮蔽して試料8の断面ミリングを行うため、試料8の上面(ここでは、イオン源1に対向する面をいう)には遮蔽板(マスク)7が載置されている。
【0016】
イオン源1からのイオンビーム4は、イオンビーム中心B0を中心にガウス分布状に広がった状態で、試料ステージ5の試料載置面に載置された試料8に照射される。イオン源1としては例えば、ぺニング放電方式のイオン源を用いることができる。高電圧電源3より放電電圧が印加されることにより、イオン源1内部のアノード-カソード間にペニング放電が生じる。ペニング放電により発生した電子はガス供給装置2から供給されるガス(例えば、Arガス)と衝突して陽イオン(Arイオン)を発生させる。発生した陽イオンは、高電圧電源3より印加される加速電圧により加速され、イオンビーム4としてイオン源1の外部に放出される。ぺニング放電方式のイオン源は、2分割されたカソードとアノードとにより形成されるプラズマ生成室に磁場を与える永久磁石などの磁場発生部を有し、この磁場により、ペニング放電により発生した電子の軌道は曲げられ、旋回運動を行うようになる。電子の旋回運動により電子軌道が長くなり、放電効率を向上させることができるため、イオン源をコンパクトに実現できる利点がある。なお、図では、Z軸をイオンビーム中心B0と一致させ、Z軸に垂直な平面をXY平面として定義している。
【0017】
図1には、試料ステージ5の試料載置面がイオンビーム中心B
0と垂直になっている状態を示しているが、試料ステージ5はステージコントローラ6により制御され、イオンビーム4の試料8への照射状態を変化させることができる。ステージコントローラ6は、試料ステージ5にスイング動作とスライド動作とを実行可能に構成されている。
【0018】
試料ステージ5は、試料8の上面において、Z方向に延在するイオンビーム中心B0と直交し、X方向に延在するスイング軸S0を有している。試料ステージ5は、ステージコントローラ6の制御により、スイング軸S0を中心に、Y+方向及びY-方向のそれぞれに所定角度θ分の回転動作を行う(スイング動作)ことができる。Y+方向の回転角度とY-方向の回転角度とが異なっていてもよい。また、試料ステージ5の試料載置面は、ステージコントローラ6の制御により、Y+方向及びY-方向のそれぞれに所定距離分の移動動作を行う(スライド動作)ことができる。このスライド動作は、試料ステージ5の試料載置面がイオンビーム中心B0と垂直になっていない状態であっても可能である。この場合は、試料載置面とYZ平面との交線に沿った方向にスライド動作を行う。
【0019】
イオンミリング装置は制御装置50を備え、制御装置50が、イオンミリング装置の各機構を制御することにより、試料8のミリング加工を行う。また、制御装置50には、イオンミリング装置の条件設定等を行うための入力キーなどを含む入力部51、条件設定等を行うためのGUIやミリング加工中の装置の動作状態を表示する表示部52が接続されている。入力部51と表示部52とはタッチパネルにより一体構成とされてもよい。
【0020】
以下に、試料8として全固体電池に対し、断面ミリングを行う場合の課題を説明する。
図2に、
図1に示したイオンミリング装置により、全固体電池20に対して断面ミリングを行う様子を示している。全固体電池20は、固体電解質22を正極材21と負極材23とで挟み込んだ構造を有する。本構造をさらに多層に積層した構造を有していてもよい。一般に、遮蔽板7及び試料ステージ5の試料載置面は金属であるため、全固体電池20がショートするのを防止するため、遮蔽板7の下面(ここでは、試料ステージ5の試料載置面に対向する面をいう)には絶縁材24が、試料ステージ5の試料載置面には絶縁材25が設けられている。絶縁材24及び絶縁材25は、樹脂層あるいは酸化金属コーティング層(アルマイトなど)として形成することができる。
【0021】
図3は、
図2とは紙面に対するXY方向の向きを変えて全固体電池20と遮蔽板7との位置関係を示したものである。
図3に示されるように、全固体電池20は遮蔽板7からX方向にわずかに突出するように配置されている。全固体電池20の遮蔽板7から突出した部分だけにイオンビーム4が照射されることにより、全固体電池20の断面を露出させることができる(断面ミリング)。イオンビーム4の照射中、スイング軸S
0を中心軸として試料ステージ5のスイング動作を行わせることにより、イオンビーム4による加工面(ミリング領域)14を平滑化することができる(
図2参照)。
【0022】
上述のように、ミリング加工中にはリデポジションが発生する。その様子を
図4に示す。イオンビーム照射面より弾き飛ばされたスパッタ粒子は、ミリング領域(加工面)14近傍に堆積していく。弾き飛ばされたスパッタ粒子がミリング領域14内に再付着したとしても、イオンビームの照射により再度弾き飛ばされ、ミリング領域14内に堆積することはない。一方、ミリング領域14近傍に付着したスパッタ粒子は、加工時間が経過するにつれて堆積していくことになる。その様子を
図5に示す。
【0023】
図5は、
図4に示したA-A線に沿った断面(
図3と同じ向き)におけるスパッタ粒子の堆積状況を示している。上段が時刻T
aにおけるスパッタ粒子の堆積状況、中段が時刻T
bにおけるスパッタ粒子の堆積状況、下段が時刻T
cにおけるスパッタ粒子の堆積状況(T
a<T
b<T
c)である。このようにスパッタ粒子は加工時間が経過するにつれて堆積し、膜状になる。この様子を
図6に示す。
【0024】
図6は、堆積したスパッタ粒子について、時刻T
a、時刻T
b、時刻T
cにおける表面像と断面像とを示す。時刻T
aでは、表面像に示されるようにスパッタ粒子は島状に堆積し、この段階では全固体電池20の短絡は生じない。これに対して、時刻T
bでは島状に堆積したスパッタ粒子がさらなるスパッタ粒子の堆積により連結して膜状となり、リデポ膜31を形成する。さらに、時刻T
cではより厚みを増したリデポ膜32が形成される(断面像を参照)。リデポ膜は数nmのリデポ粒子が堆積したもので、遮蔽板由来のスパッタ粒子、正極材由来のスパッタ粒子が多量に含まれ、これらはいずれも導電性を有するため、リデポ膜もある程度の膜厚となったところで導電性を有することになる。このようなリデポ膜の形成は、ミリング加工途中に加工対象である全固体電池20に短絡を生じさせてしまう。したがって、形成されたリデポ膜によって全固体電池20に短絡が生じる前に、堆積したスパッタ粒子を除去する必要がある。
【実施例1】
【0025】
実施例1では、全固体電池のミリング加工中、周期的にミリング領域14近傍に対してイオンビーム4を照射することによって、スパッタ粒子の堆積によるリデポ膜の形成を抑制する。
図7Aに、全固体電池の断面ミリング中にステージコントローラ6が実行するステージ制御のタイムチャート(模式図)の例を示す。波形40が試料ステージ5のスライド動作波形であり、波形41が試料ステージ5のスイング動作波形である。横軸には時間をとっている。
【0026】
説明を単純化するため、ミリング開始時(t=0)において、
図1に示すようにイオンビーム中心B
0は試料ステージ5の試料載置面の中心位置で垂直に交わっているものとし、その交点を原点として説明する。試料ステージ5は、試料
載置面とYZ平面との交線に沿った方向に原点から+方向にY
max(「+Y
max」と表記する)まで、-方向にY
min(「-Y
min」と表記する)までスライド動作を行う。また、試料ステージ5の試料載置面の法線とZ軸とのなす角をθとすると、試料ステージ5は、スイング軸S
0を中心にZ方向からY+方向にθ
max(「+θ
max」と表記する)まで、Z方向
からY-方向にθ
min(「-θ
min」と表記する)までスイング動作を行う。
【0027】
(1)時刻0~T
1(第1モード動作)の試料ステージ動作
時刻0~T
1(時間t
1)においては、通常の断面ミリング動作が行われる。この期間においては、試料ステージ5のスライド動作は行わず、加工面を平滑化するためのスイング動作を行う。このときのイオンビームの照射状態を
図7Bの上段に示す。ミリング領域14にイオンビームが照射され、全固体電池20の断面が露出される。
【0028】
(2)時刻T
1~T
3(第2モード動作)の試料ステージ動作
時刻T
1~T
3(時間t
2)においては、リデポ粒子の除去動作が行われる。この期間は、試料ステージ5のスイング動作は停止し、時刻0~T
1の断面ミリング動作に伴うリデポジションにより全固体電池20に再付着したスパッタ粒子を、イオンビームによって弾き飛ばす。
図7Aのタイムチャートにおいて、時刻T
1では、イオンビーム中心B
0が試料ステージ5の試料載置面と垂直になる位置関係に戻っているので、試料ステージ5はY方向に沿ってスライド動作を行う。
【0029】
時刻T
1~T
2においては、試料ステージ5はY+方向に0から+Y
maxまでスライド動作を行い、続いてY-方向に+Y
maxから0までスライド動作を行う。このときのイオンビームの照射状態を
図7Bの中段に示す。これにより、ミリング領域14近傍に堆積したスパッタ粒子43が除去される。なお、この除去の程度は、堆積したスパッタ粒子が導電性のあるリデポ膜に成長するのを阻止できる程度でよい。
【0030】
時刻T
2~T
3においては、試料ステージ5はY-方向に0から
-Y
min
までスライド動作を行い、続いてY+方向に-Y
minから0までスライド動作を行う。このときのイオンビームの照射状態を
図7Bの下段に示す。これにより、ミリング領域14近傍に堆積したスパッタ粒子44が除去される。なお、この除去の程度も、堆積したスパッタ粒子が導電性のあるリデポ膜に成長するのを阻止できる程度でよい。
【0031】
以降、所望の加工面が得られるまで、時間t1の断面ミリング動作(第1モード動作)と時間t2のスパッタ粒子除去動作(第2モード動作)とを繰り返し実行する。
【0032】
図8に制御装置50が、表示部52に表示するスパッタ粒子除去動作条件を設定するGUI画面100を示す。GUI画面100は、全固体電池のような、ミリング途中に加工面(ミリング領域)周辺に堆積するスパッタ粒子の除去動作を必要とする試料を加工するとき、その条件設定のため表示する。
図8に示すリデポジション除去設定画面100は、第2モード動作の開始条件設定画面101と動作条件設定画面111とを含む。
【0033】
開始条件設定画面101は、実施例1に係る時間制御と後述する実施例2に係る堆積厚制御とのいずれかを選択可能とされている。時間制御を選択する場合には、加工(第1モード動作)を行う継続時間102として時間t
1(
図7Aを参照)を指定する。
【0034】
動作条件設定画面111は、スパッタ粒子の除去動作を行う場合のイオンビーム条件112と除去時間113として時間t
2(
図7Aを参照)を指定する。リデポ粒子は、周囲の粒子との結合が弱いため、比較的エネルギーの低いイオンビームであっても弾き飛ばすことが可能である。このため、過剰なイオンビーム電流を有するイオンビームの照射による試料の加熱を避けるため、ミリング動作(第1モード動作)とスパッタ粒子の除去動作(第2モード動作)とでイオンビーム電流を変えることができるようにしている。イオンビーム条件112に代えて、あるいはさらにイオンビーム条件112に加えて、試料ステージ5のスライド動作速度を制御可能にしてもよい。これらの条件を適切に設定することにより、処理のスループットと試料(全固体電池)への熱負荷とのバランスをとりつつ、スパッタ粒子の除去を行うことができる。なお、第1モード動作におけるイオンビーム条件については、試料のミリング加工条件の設定時に設定される。
【0035】
なお、
図7Aに示したステージ制御は一例であって、これに限定されるものではない。例えば、ミリング領域は試料の中央部である必要はなく、任意の位置を選択して加工することができる。この場合は、スパッタ粒子の除去動作期間において、任意のミリング位置から例えば、Y+方向に+Y
maxまでスライド動作をし、その後Y-方向に-Y
minまでスライド動作をし、再度Y+方向に当該ミリング位置までスライド動作するようにすればよい。また、スライド動作を行う範囲は、
図7Aではイオンミリング装置のハードウェアが許容する全範囲としたが、スライド動作させる範囲を限定して設定できるようにしてもよい。スライド動作も一定速度でなく、ミリング位置近傍においてはより低速にスライドし、ミリング位置から離れる程高速にスライドするようにしてもよい。また、スライド動作を行うときに、イオンビーム中心B
0が試料ステージ5の試料載置面と垂直になる位置関係に戻っていなくてもよい。すなわち、試料ステージ5の試料載置面の法線とZ軸とが不一致の状態でスライド動作をさせてもよいし、さらにスイング動作を継続したまま、スライド動作を行っても構わない。
【実施例2】
【0036】
実施例2では、全固体電池のミリング加工に起因するスパッタ粒子の堆積状況をモニタし、スパッタ粒子の堆積が所定の厚みに達したことを検知したタイミングで、ミリング領域14近傍に対してイオンビーム4を照射することによって、スパッタ粒子の堆積によるリデポ膜の形成を抑制する。
【0037】
図9に、ミリング加工に起因するスパッタ粒子の堆積厚をモニタするリデポジションセンサを設けたイオンミリング装置の概要を示す。リデポジションセンサ60は、試料8のミリング領域の近傍に配置される。
図10Aにリデポジションセンサ60の構成例を示す。
【0038】
リデポジションセンサ60は、水晶振動子61と発振回路62とを有し、発振回路62は、水晶振動子61を発振させて発振信号Oを出力する。水晶振動子61は試料室9に露出されており、イオンミリング装置によるミリング加工によって、水晶振動子61上にはミリング加工に起因するスパッタ粒子が堆積する。この様子を
図10Bに示す。時刻T
dに水晶振動子61上にリデポ膜65が形成されており、ミリング加工が継続されることにより、時刻T
eではリデポ膜65上にスパッタ粒子がさらに堆積し、膜厚の増大したリデポ膜66が形成されている。水晶振動子61の発振周波数は、その上に堆積したリデポ膜の質量に応じて変化するため、時刻T
dにおける発振信号Oの周波数f
dは、時刻T
eにおいてはf
eに変化する。制御装置50は、発振信号Oの周波数の変化から水晶振動子61上に堆積したスパッタ粒子の質量変化を検出し、膜厚(質量膜厚)変化量(すなわち、リデポ膜66の膜厚とリデポ膜65の膜厚との差)に換算する。リデポジションセンサ60は、試料のミリング領域の近傍に堆積されるスパッタ粒子を直接測定するわけではないが、簡易にスパッタ粒子の堆積状況を推定できる利点がある。
【0039】
実施例2におけるスパッタ粒子の除去動作は、除去動作(第2モード動作)開始のトリガが、試料のリデポジションのモニタ結果による点を除けば、実施例1と同様であるので、重複する説明は省略する。実施例2に係る堆積厚制御を実施する場合、開始条件設定画面101(
図8を参照)において、スパッタ粒子の除去動作を開始させるセンシング条件103を設定する。この例では、開始条件をリデポジションセンサ60により検知した膜厚と発振信号Oの周波数変化量とにより設定可能とされている。開始条件としていずれか一方を設定してもよく、両方を設定してもよい。検知膜厚と周波数変化量の両方を開始条件として設定した場合には、いずれか一方の条件が満たされたタイミングでスパッタ粒子の除去動作(第2モード動作)を開始するものとする。
【0040】
なお、リデポジションセンサが
図10Aに示したような質量測定法による膜厚検知を行う場合には、センサが検出しているのは質量の変化であり、同じ質量であってもミリング加工の対象とする試料の材料によって膜厚は異なるため、膜厚換算のためのパラメータを設定する必要がある。膜厚算出のためのパラメータを設定するGUI画面200を
図11に示す。試料組成設定画面201は、試料の比重を直接設定する試料比重設定部202と試料のタイプを選択する試料タイプ選択部203とを有している。制御装置50は、試料タイプ選択部203において選択可能な試料の比重のデフォルト値をあらかじめ記憶しておく。試料タイプ選択部203において特定の試料が選択された場合には、あらかじめ記憶された比重のデフォルト値を用いて膜厚換算を行う。
【0041】
図12にイオンミリング装置がミリング動作中に表示部52に表示するGUI画面300を示す。加工条件表示画面301には、ミリング動作時(第1モード動作時)の加速電圧、放電電圧と残りミリング時間が表示される。センシング画面302には、リデポジションセンサ60が検知している検知膜厚と周波数変化量とが表示されている。
【0042】
ミリング動作(第1モード動作)開始時に、センシング画面302の値は0にリセットされ、加工中の検知膜厚と周波数変化量とはリアルタイムに更新される。開始条件設定画面101(
図8を参照)で設定したスパッタ粒子除去開始条件に達すると、スパッタ粒子の除去動作(第2モード動作)を実行する。第2モード動作終了時に、センシング画面302の値は0にリセットされる。ミリング動作(第1モード動作)が再開されると、再び加工中の検知膜厚と周波数変化量とはリアルタイムに更新される。なお、センシング画面302には、リデポジション除去実行ボタン303が設けられている。リデポジション除去実行ボタン303により、操作者は任意のタイミングでスパッタ粒子の除去動作(第2モード動作)を実行することができる。
【0043】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、実施例のある例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えたり、他の実施例の構成を加えたりすることも可能である。
【0044】
例えば、本実施例のイオンミリング装置は試料ステージにスライド機構を備えているため、複数個所のミリング加工が可能となっている(多点ミリング)。この場合、最初に加工対象とする複数の箇所について、ミリング条件(第1モード動作条件)とスパッタ粒子除去動作条件(第2モード動作条件)とをそれぞれ設定しておけるようにしておけば便利である。
図13に制御装置50が、表示部52に表示する複数個所のミリング条件を設定するGUI画面400を示す。操作者は、ミリングボタン401により加工位置ごとのミリング条件を設定し、ミリング条件設定後、リデポジション除去ボタン402により当該位置でのスパッタ粒子除去条件を設定する。これを加工箇所ごとに繰り返す。図では、第1の加工箇所に対するミリング条件411、リデポジション除去条件412、第2の加工箇所に対するミリング条件413、リデポジション除去条件414が設定された例を示している。
【0045】
また、実施例2ではイオンミリング装置は、リデポジションセンサ60が推定したリデポジションの量から、ミリング加工の進行状況を推定することも可能である。
図14はイオンミリング装置がミリング加工中に表示部52に表示するGUI画面300bである。GUI画面300bでは、リデポジションセンサ60のセンシングから推定したミリング加工の状況を表示する。この例では、加工状況表示画面312に試料のミリング加工条件設定時に設定した目標加工深度と、リデポジションセンサ60のセンシングから推定した推定加工深度とを表示している。自動停止設定部313が設定されている場合には、推定加工深度が目標加工深度の値に達した段階で、ミリング加工を終了する。
【符号の説明】
【0046】
1:イオン源、2:ガス供給装置、3:高電圧電源、4:イオンビーム、5:試料ステージ、6:ステージコントローラ、7:遮蔽板、8:試料、9:試料室、10:排気装置、14:ミリング領域(加工面)、20:全固体電池、21:正極材、22:固体電解質、23:負極材、24,25:絶縁材、31,32:リデポジション膜、40,41:波形、43,44:スパッタ粒子、50:制御装置、51:入力部、52:表示部、60:リデポジションセンサ、61:水晶振動子、62:発振回路、65,66:リデポジション膜、100,200,300,300b,400:GUI画面、101:開始条件設定画面、111:動作条件設定画面、201:試料組成設定画面、301:加工条件表示画面、302:センシング画面、312:加工状況表示画面。