(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-06
(45)【発行日】2023-01-17
(54)【発明の名称】ポリエステル異形断面部分融着仮撚加工糸
(51)【国際特許分類】
D02G 3/34 20060101AFI20230110BHJP
D02G 3/22 20060101ALI20230110BHJP
D01F 6/00 20060101ALI20230110BHJP
D01F 6/92 20060101ALI20230110BHJP
D02G 1/02 20060101ALI20230110BHJP
【FI】
D02G3/34
D02G3/22
D01F6/00 A
D01F6/92 301M
D02G1/02 Z
(21)【出願番号】P 2018204011
(22)【出願日】2018-10-30
【審査請求日】2021-07-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大西 弘晃
(72)【発明者】
【氏名】加藤 泰崇
(72)【発明者】
【氏名】吉原 潤一郎
【審査官】長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開昭56-063035(JP,A)
【文献】特開昭61-225338(JP,A)
【文献】特開平11-050335(JP,A)
【文献】特開平04-041727(JP,A)
【文献】実開平05-054575(JP,U)
【文献】特開昭58-041922(JP,A)
【文献】特開2013-181250(JP,A)
【文献】特開2014-189915(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F1/00-6/96
9/00-9/04
D02G1/00-3/48
D02J1/00-13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単繊維の横断面が3~6個の凸部を有する断面形状からなり、オーバー解撚部の糸条平均外径を未解撚部の糸条平均外径で割ることで得られる外径比が1.40~2.15
、未解撚部の空隙率が20~90%であることを特徴とするポリエステル異形断面部分融着仮撚加工糸。
【請求項2】
オーバー解撚部の単糸間融着率が0~14%である請求項1記載のポリエステル異形断面部分融着仮撚加工糸。
【請求項3】
繊維に含有する酸化チタンの濃度が0.2~5.0質量%である請求項1
または2記載のポリエステル異形断面部分融着仮撚加工糸。
【請求項4】
平均未解撚比率が8.0~25.0%であり、平均未解撚長が1.0~5.5mmである請求項1~
3いずれかに記載のポリエステル異形断面部分融着仮撚加工糸。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸水性、防透け性に優れ、かつシボ感が強く、従来の部分融着仮撚り加工糸と比べシャリ感を低減したポリエステル異形断面部分融着仮撚加工糸に関する。
【背景技術】
【0002】
合成繊維は機械的特性を持ち、耐久性やハンドリング容易性といった様々な優れた特性を有していることから、一般衣料用分野に広く使用されている。その中で、天然調生地向けとして、ハリ・コシ感やシャリ感、ドライ感を持たせるために、合成繊維マルチフィラメントを部分的に融着させた仮撚り加工糸が多数開発されている。また、融着部に由来するドライ感や清涼感から、肌に触れる生地への展開が期待されている。特に春夏向け素材については汗の吸収と速乾性が必要とされているが、多くの融着仮撚り加工糸は水の通過性が悪く吸水性が低いという欠点があった。
【0003】
そこで、特許文献1においては、生地表面のソフト化、吸水性向上を目的に2段階延伸を実施している。すなわち1段階目で斑延伸を行い、2段階目で太部のみを融着仮撚りすることで、未解撚部を短くし、比率を少なくさせる方法を提案している。この提案において、未解撚部に空隙が生じ、空隙により吸水性が向上することが確認された。
【0004】
また、特許文献2においては、色彩に奥行きを与え独特な風合いの発現に加え、吸水性向上することを期待し異形断面化を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-25189号公報
【文献】特開2013-181250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、前記提案の特許文献1記載の技術は未解撚部とオーバー解撚部の外径比が小さく、フラットな表面感を特徴としており、目付けの軽い生地にした際に、隙間が多く、防透け性に課題があった。さらに、特許文献1、2ともに未解撚部とオーバー解撚部の外径比が小さく糸条長手方向の凹凸が小さいため、織編み生地にした際にシボ感が低い。そのため、融着部が肌に触れやすく、肌触りが硬く、シャリ感の残る形態となる。
【0007】
そこで、本発明の目的は生地にした際に高い吸水性を持ち、防透け性に優れ、強いシボ感を持つことで生地にした際にソフトな肌触りを可能としたポリエステル異形断面部分融着仮撚加工糸を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のポリエステル異形断面部分融着仮撚加工糸は、単繊維の横断面が3~6個の凸部を有する断面形状からなり、オーバー解撚部の糸条平均外径を未解撚部の糸条平均外径で割ることで得られる外径比が1.40~2.15、未解撚部の空隙率が20~90%であることを特徴とする。
【0009】
本発明のポリエステル異形断面部分融着仮撚加工糸において、オーバー解撚部の単糸間融着率が0~14%であることがより好ましい。
【0011】
また、本発明のポリエステル異形断面部分融着仮撚加工糸において、含有する酸化チタン濃度が0.2~5.0質量%であることが好ましい。
【0012】
さらには、本発明のポリエステル異形断面部分融着仮撚加工糸において、平均未解撚比率が8.0~25.0%であり、平均未解撚長が1.0~5.5mmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、生地にした際に高い吸水性、防透け性を持ち、強いシボ感をもつ、表面の肌触りがソフトな織編み物を得ることができる。従来の部分融着仮撚加工糸では、外径比が小さく、生地にした際の防透け性が低く、シボ感がなく、肌触りが硬くなることが課題だった。しかし、本発明のポリエステル異形断面部分融着仮撚加工糸によれば、異形断面とすることでかさ高効果によりオーバー解撚部の外径を大きくできる。さらに、低融着にすることでオーバー解撚部の融着部を減らし外径比を大きくした。このような繊維形態により、生地にした際の防透け性に優れ、シボ感が強くなり、嵩高いオーバー解撚部が肌に触れるため、ソフトな肌触りとなる加工糸を提供することができる。さらに、異形断面化に伴い吸水性が向上し、外径比を大きくせしめたことにより糸条長手方向の水分拡散性が向上し、従来以上の吸水機能が高い加工糸が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明のポリエステル異形断面部分融着仮撚加工糸を得るに好適な仮撚加工工程の一例である。
【
図2】本発明におけるポリエステル異形断面部分融着仮撚加工糸の未延伸糸断面の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のポリエステル異形断面部分融着仮撚加工糸は、撚り方向の撚りを有する未解撚部と反対方向の撚りを有するオーバー解撚部とが交互に糸条長手方向に存在している。
【0016】
本発明のポリエステル異形断面部分融着仮撚加工糸は、単繊維の横断面に3~6個の凸部を有する断面形状である。横断面が3個以上の凸部を有することで、複数の凸部間に凹部が形成され、単糸間あるいは単糸内に細かな空隙が発生し、毛細管現象の効果増大に伴い、吸水性が高くなる。また、光の散乱効果が増大し、防透け性が高くなる。さらに、単糸横断面の外径が大きくなることで、嵩高効果が生まれ、オーバー解撚部の糸条平均外径が大きくなり、生地にした際に目が詰まるため、防透け性が高くなる。一方で、凸部が6個以下の場合、仮撚りした際に単糸の全凹部に他の単糸の凸部が入り単糸内融着が発生しないことから、単糸断面形状が保たれ、嵩高効果が生まれ、吸水性、防透け性、シボ感が強くなるため好ましい。また、融着時の凸部の絡み合いが少なく、解撚時や追延伸による未解撚部空隙の生成が容易となる。かかる範囲とすることにより、生地にした際に高い吸水性、防透け性、強いシボ感をもち、表面の肌触りがソフトな織編物が得られる。より好ましくは、4~5個である。ここで凸部とは、単繊維の横断面において、隣接する凹部の最深点を結ぶ直線と、隣接する2つの最深点を横断面に沿って結んだ線の距離が短い側とで囲まれている断面部分のことである。
【0017】
本発明のポリエステル異形断面部分融着仮撚加工糸は、オーバー解撚部の糸条平均外径を未解撚部の糸条平均外径で割ることで得られる外径比(以下、外径比と示す)が1.40~2.15である。外径比が1.40以上であれば、糸条長手方向の凹凸が増えることで、生地にした際、生地表面の凹凸が増え、シボ感が強くなる。また、外径が大きいため目が詰まりやすく防透け性に優れ、融着していないオーバー解撚部分が肌に触れる確率が上がるため、表面肌触りがソフトな生地となる。また、未解撚部に水が留まることなく、オーバー解撚部へ拡散が促進され、吸水効果が向上する。一方で外径比が2.15以下とすることで、オーバー解撚部における毛細管現象の効果が期待できるため、吸水性が向上する。
かかる範囲とすることにより、生地にした際に高い吸水性に加え防透け性、強いシボ感をもち表面の肌触りがソフトな織編み物が得られる。より好ましくは、1.60~2.00である。
【0018】
本発明のポリエステル異形断面部分融着仮撚加工糸は、オーバー解撚部の単糸間融着率が0~14%であることが好ましい。単糸間融着率を14%以下とすることで、オーバー解撚部の異形断面による嵩高効果に加え、生地にした際の表面のソフトな肌触りを発現することができる。より好ましくは、0~9%である。
【0019】
本発明のポリエステル異形断面部分融着仮撚加工糸は、未解撚部断面の最小包含円内で糸が占めていない空間を空隙とし、未解撚部断面の空隙率は20~90%であることが好ましい。空隙率が20%以上であれば断続的に存在する未解撚部において吸水は阻害されず、前述した異形断面、外径比との相乗効果により、繊維全体として吸水性が格段に向上する。一方で空隙率が90%以下の場合、未解撚部内の毛細管現象効果が期待でき、吸水性が向上するため好ましい。より好ましくは、30~75%である。
【0020】
本発明のポリエステル異形断面部分融着仮撚加工糸は、酸化チタン粒子を0.2~5.0質量%の割合で含有していることが好ましい。0.2質量%以上で生地にした際に目視で十分な防透け性が発現する。酸化チタン量が多いほど防透け性は向上するが、5.0質量%を超えると、防透け性に大差は無くなる。また、5.0質量%以下の場合、製糸性や製造工程においてガイド、ローラーの摩耗性等トラブルが発生しないため、好ましい。より好ましくは1.0~3.5質量%である。
【0021】
本発明のポリエステル異形断面部分融着仮撚加工糸は、平均未解撚比率が8.0~25.0%であることが好ましい。平均未解撚比率が8.0%以上の場合、未解撚部の毛細管現象とオーバー解撚部の拡散性効果により吸水性が向上する。一方で25.0%以下の場合、拡散性が高くなり、吸水性が向上する上、オーバー解撚部の嵩高効果が期待でき、防透け性が向上するため好ましい。また、生地にした際に未解撚部に触れる可能性が低くなり、ソフトな肌触りとなる。より好ましくは、8.0~20.0%である。
【0022】
本発明のポリエステル異形断面部分融着仮撚加工糸は、平均未解撚長が1.0~5.5mmであることが好ましい。平均未解撚長が1.0mm以上の場合、毛細管現象の効果が期待できる。一方で、5.5mm以下の場合、未解撚部が短く、生地にした際に防透け性が高く、肌触りがソフトになる。また、拡散性が向上し、吸水性が向上するため好ましい。より好ましくは、1.0~4.0mmである。
【0023】
次に本発明のポリエステル異形断面部分融着仮撚加工糸の製造方法を記載する。
【0024】
本発明に用いる原料ポリマーはポリエステルであり、特に機械的性質と布帛風合いの観点から、ポリエチレンテレフタレートが好適に使用できる。
【0025】
これらは常法により溶融紡糸を行うことで、部分配向未延伸糸(マルチフィラメント)を得ることができる。すなわち、部分配向未延伸糸は、原料ポリマーを好ましくは275~300℃の温度で溶融し、紡糸口金から吐出し、糸条を形成させ、冷却風を吹き付けることによって糸条を冷却して、収束した後、油剤と交絡を付与し、巻取ったパッケージとすることができる。部分配向未延伸糸は、一般的に紡糸速度2000~4000m/分程度の速度条件で紡糸、巻取られ、ポリマー分子鎖の配向が進んでいる部分とそうでない部分が混在した状態ではなく、糸条長手方向で均一な分子鎖の配向状態である。
【0026】
部分配向未延伸糸は、紡糸速度2500~3000m/分の範囲で紡糸することが好ましい。紡糸速度を2500m/分以上とすることで、単糸間融着が強すぎず、軽く融着した未解撚部をもつ糸を得ることができる。紡糸速度が3000m/分以下とすることで、単糸間の融着が発生しやすくなる。
【0027】
部分配向未延伸糸は、横断面において凹部と凸部がそれぞれ同数あり、凸部異形度が0.5~5.0であることが好ましい。凸部異形度を0.5以上とすることで、単糸間の融着が発生しやすくなる。一方で、凸部異形度が5.0以下の場合、仮撚り加工時に毛羽や断面潰れ、単糸内融着が発生せず、吸水性を損なうことなく加工できる。凸部異形度について、実施例の評価方法にて記載する。
【0028】
次いで、部分配向未延伸糸を延伸仮撚り加工することにより、本発明のポリエステル異形断面部分融着仮撚加工糸を得ることができる。通常、延伸仮撚り加工は、マルチフィラメント部分配向未延伸糸を延伸しながら、仮撚りを施す加工方法であり、糸条は加熱されながら加撚され、その後解撚されて嵩高な風合いとなる。
【0029】
本発明のポリエステル異形断面部分融着仮撚加工糸は、マルチフィラメントを延伸仮撚り加工する際に、仮撚りヒーター温度をポリマー融点近傍の温度にて加工することにより、加撚時に加熱により単糸間で軽い融着が発現し未解撚部となる。また、単糸間の融着が弱い部分のみ解撚時に融着が解かれ、オーバー解撚部となる。さらに、仮撚り後に追延伸することで、さらに単糸間融着を破壊し、未解撚部の空隙率を向上させ、オーバー解撚部の単糸間融着率を0~14%にすることができ、本発明のポリエステル異形断面融着仮撚加工糸を得ることができる。
【0030】
具体的な製造方法の一例として、仮撚りヒーター(第1ヒーター、
図1-1)温度は、ポリエチレンテレフタレートポリマーの融着性の観点から、225~235℃であることが好ましい。仮撚り加工は回転型フリクションディスク(
図1-2)に糸条を接触させ実施する。ディスクの回転数は3800~4600rpmであることが好ましい。かかるディスク回転数にすることで、未解撚長を1.0~5.5mmに制御可能となる。仮撚り後に第2ヒーター(
図1-3)を用いて糸条のトルクを除去し、巻き取り前に追延伸(
図1-4,5間)を実施することで、未解撚部、未解撚部の空隙の向上を可能としている。
【0031】
延伸仮撚りの倍率は1.30~1.50倍で実施し、追延伸の倍率は1.05~1.20倍の範囲で実施することが好ましい。かかる延伸条件とすることにより、外径比を1.40~2.15に制御可能となる。
【実施例】
【0032】
次に、実施例により本発明のポリエステル異形断面部分融着仮撚加工糸について、詳細に説明する。実施例と比較例中に使用した各測定値と評価は、次の測定法により求めた。
【0033】
<糸条外径比>
未解撚部およびオーバー解撚部の平均外径測定は、東レエンジニアリング株式会社製のFPD-500を用いて、測定速度3.0m/分で、測定長6.0mで、断面部分の糸密度が高く糸の外径が小さい未解撚部と、密度が低く糸の外径が大きいオーバー解撚部とを、光センサーにて判別させることで測定した。平均外径は、測定長6.0m間にある未解撚部、オーバー解撚部の外径を測定したそれぞれの平均値であり、以下の式にて外径比を算出した。
外径比=オーバー解撚部平均外径/未解撚部平均外径 。
【0034】
<オーバー解撚部の単糸間融着率>
パラフィン、ステアリン酸、エチルセルロースからなる包埋剤を融解し、ポリエステル延伸仮撚加工糸を導入後室温放置により固化させ、包埋剤中のオーバー解撚部を切断したものをCCDカメラにて撮影して視察した。単繊維間で接している部分の境目が消えている場合融着しているとし、全単繊維のうち、隣り合う単繊維と融着している箇所がある単繊維の個数を数えて、オーバー解撚部の融着率を以下の式にて算出した。この計測をランダムに選択した10個のオーバー解撚部で実施し、平均値を融着率とした。
オーバー解撚部の融着率(%)=融着した単繊維数/全単繊維数×100 。
【0035】
<未解撚部の空隙率>
上記記載の未解撚部平均外径より半径を算出し、未解撚部断面の最小包含円断面積を未解撚部断面積として算出した。さらに空隙率0%での未解撚部断面積を以下の式1にて算出し、空隙率を以下の式2にて算出した。密度を1.35g/cm2として、空隙率を計算した。
空隙率0%での未解撚部断面積(cm2)=(総繊度(dtex)/1.35)/10000・・・式1
未解撚部の空隙率(%)={(未解撚部断面積/空隙率0%での未解撚部断面積)-1}×100・・・式2 。
【0036】
<酸化チタン含有量>
本発明の加工糸5gをサンプリングし、磁製ルツボに入れ、電気炉を用いて1000℃で灰化し、灼熱残分を無機粒子として質量%で表し酸化チタンの含有量とした。
【0037】
<未解撚部の平均長さおよび未解撚比率>
未解撚部の平均長さおよび未解撚比率の測定は、東レエンジニアリング株式会社製のFPD-500を用いて、測定速度3.0m/分で、測定長6.0mで、断面部分の糸密度が高く糸の外径が小さい未解撚部と、密度が低く糸の外径が大きいオーバー解撚部とを、光センサーにて判別させることで測定した。未解撚部の平均長さは、測定長6.0m間にある未解撚の長さを測定した平均値であり、未解撚比率は、測定長6.0m間にある糸の長手方向に未解撚部の占める割合である。
【0038】
<凸部異形度>
パラフィン、ステアリン酸、エチルセルロースからなる包埋剤を融解し、ポリエステル部分配向未延伸糸を導入後室温放置により固化させ、包埋剤中の未延伸糸を切断したものをCCDカメラにて撮影して視察した。
図2のように、単糸断面において隣接する凹部の最深点間距離aと凸部頂点より直線aに垂直に引いた垂線の距離bとを求め、以下の式より算出した。この計算を3つの単糸断面サンプルを用い、全ての凸部の平均値を凸部異形度とした。
凸部異形度 = b/a 。
【0039】
<繊維の吸水高さ>
評価する加工糸の筒編み(目付け80~90g/m2)を作成し、精錬を行い、JIS-L-1907:2010バイレック法を参考にした測定方法にて実施した。この試験を10点のサンプルを用いて測定し、その平均値を算出し、75mm以上を吸水性に良好とした。
【0040】
<防透け度>
SUGA株式会社製SMカラーコンピューターを用いて、試料(筒編み地に中央部に穴が開いた型紙を通し、筒編の目付を80~90g/m2とした)の光が透過する中央部に、試料を挟む形で白板を添えて試料の中央部を測定したときのL*値をLw1、黒板を添えたときのL*値をLbとした。また、試料を取り付けずに測定した白板のみのL*値をLw、黒板のみのL*値をLbとし、防透け度を次式から算出した。結果において、75%以上を防透け性について良好とした。
防透け度(%)=100-{(Lw1-Lb1)/(Lw-Lb)}×100 。
【0041】
<シボ感、ソフト感の評価>
融着延伸仮撚加工糸を使用した織物を作製し、シボ感、ソフト感について、10人のパネラーに10点満点で採点してもらい以下の4段階で評価し、○以上を合格とした。
○○:10人のパネラーの平均値が9点以上
○ :10人のパネラーの平均値が7点以上9点未満
△ :10人のパネラーの平均値が5点以上7点未満
× :10人のパネラーの平均値が5点未満 。
【0042】
(実施例1)
孔形状がX型断面且つ紡糸された未延伸糸横断面の凸部異形度が1.7となるように設計された紡糸口金を使用し、紡糸速度2700m/分で溶融紡糸して繊度140dtexの酸化チタン量2.2質量%のポリエチレンテレフタレート部分配向未延伸糸を得た。仮撚加工において、接触型加熱体(第1ヒーター)、25℃の接触型冷却装置、フリクションディスクの仮撚装置、さらに2つのローラー(3rdFR,4thFR)を用いて、第1ヒーター温度を230℃、延伸倍率を1.45倍、追延伸倍率(3rdFR,4thFR間)を1.12倍とした条件にて延伸仮撚を実施し、ポリエステル異形断面融着仮撚加工糸を得た。吸水高さ90mm、防透け度90%と吸水性、防透け性が良好だった。また、得られた加工糸で製作した織物は、シボ感・ソフト感が良好だった。結果を表1に示す。
【0043】
(実施例2)
紡糸口金の孔形状について凸部を3個持つY型断面とすること以外は実施例1と同様に実施した。得られた加工糸で製作した織物は、シボ感・ソフト感が良好だった。結果を表1に示す。
【0044】
(実施例3)
紡糸口金の孔形状について凸部を6個持つ*型断面とすること以外は実施例1と同様に実施した。得られた加工糸で製作した織物は、シボ感・ソフト感が良好だった。結果を表1に示す。
【0045】
(実施例4)
酸化チタン濃度を1.2質量%とすること以外は実施例1と同様に実施した。得られた加工糸で製作した織物は、シボ感・ソフト感が良好だった。結果を表1に示す。
【0046】
(実施例5)
酸化チタン濃度を4.5質量%とすること以外は実施例1と同様に実施した。得られた加工糸で製作した織物は、シボ感・ソフト感が良好だった。結果を表1に示す。
【0047】
(実施例6)
紡速を3000m/分,延伸倍率を1.42倍、1HT温度を225℃、追延伸倍率を1,20倍とすること以外は実施例1と同様に実施した。得られた加工糸で製作した織物は、シボ感・ソフト感が良好だった。結果を表1に示す。
【0048】
(実施例7)
紡速を2500m/分,延伸倍率を1.47倍、1HT温度を235℃、追延伸倍率を1,05倍とすること以外は実施例1と同様に実施した。得られた加工糸で製作した織物は、シボ感・ソフト感が良好だった。結果を表1に示す。
【0049】
(実施例8)
1HT温度を235℃、追延伸倍率を1,05倍、単糸横断面の凸部異形度を0.7とすること以外は実施例1と同様に実施した。得られた加工糸で製作した織物は、シボ感・ソフト感が良好だった。結果を表2に示す。
【0050】
(実施例9)
1HT温度を225℃、追延伸倍率を1,20倍、単糸横断面の凸部異形度を4.8とすること以外は実施例1と同様に実施した。得られた加工糸で製作した織物は、シボ感・ソフト感が良好だった。結果を表2に示す。
【0051】
(実施例10)
1HT温度を225℃、追延伸倍率を1,20倍、ディスク回転数を4000rpmとすること以外は実施例1と同様に実施した。得られた加工糸で製作した織物は、シボ感・ソフト感が良好だった。結果を表2に示す。
【0052】
(実施例11)
1HT温度を235℃、追延伸倍率を1,05倍、ディスク回転数を4500rpmとすること以外は実施例1と同様に実施した。得られた加工糸で製作した織物は、シボ感・ソフト感が良好だった。結果を表2に示す。
【0053】
(実施例12)
1HT温度を225℃、追延伸倍率を1,20倍とすること以外は実施例1と同様に実施した。得られた加工糸で製作した織物は、シボ感・ソフト感が良好だった。結果を表2に示す。
【0054】
(実施例13)
1HT温度を235℃、追延伸倍率を1,05倍とすること以外は実施例1と同様に実施した。得られた加工糸で製作した織物は、シボ感・ソフト感が良好だった。結果を表2に示す。
【0055】
(実施例14)
酸化チタン濃度を0.1質量%とすること以外は実施例1と同様に実施した。得られた加工糸で製作した織物は、シボ感・ソフト感が良好だった。結果を表3に示す。
【0056】
(実施例15)
1HT温度を235℃、追延伸倍率を1,05倍、紡糸速度を2500m/分とすること以外は実施例1と同様に実施した。得られた加工糸で製作した織物は、シボ感・ソフト感が良好だった。結果を表3に示す。
【0057】
(実施例16)
延伸倍率を1.42倍、1HT温度を235℃、追延伸倍率を1,05倍、凸部異形度を0.4とすること以外は実施例1と同様に実施した。得られた加工糸で製作した織物は、シボ感・ソフト感が良好だった。結果を表3に示す。
【0058】
(実施例17)
1HT温度を225℃、追延伸倍率を1,20倍、紡糸速度3000m/分とすること以外は実施例1と同様に実施した。得られた加工糸で製作した織物は、シボ感・ソフト感が良好だった。結果を表3に示す。
【0059】
(実施例18)
1HT温度を225℃、追延伸倍率を1,20倍、ディスク回転数を3900rpmとすること以外は実施例1と同様に実施した。得られた加工糸で製作した織物は、シボ感・ソフト感が良好だった。結果を表3に示す。
【0060】
【0061】
【0062】
【0063】
(比較例1)
紡糸口金の孔形状について凸部の無い丸断面とすること以外は実施例1と同様に実施した。結果、得られた加工糸は未解撚部が生成しなかった。吸水高さ15mm、防透け度80%と、防透け性は良好だったが、吸水性に劣っていた。また、得られた加工糸で製作した織物は、ソフト感は良好だったがシボ感は無かった。結果を表4に示す。
【0064】
(比較例2)
紡糸口金の孔形状について凸部が8個ある8葉断面とすること以外は実施例1と同様に実施した。結果、得られた加工糸は単糸内で融着が発生し、吸水性が劣っていた。得られた加工糸で製作した織物は、ソフト感は良好だったがシボ感は無かった。結果を表4に示す。
【0065】
(比較例3)
追延伸倍率を1.00倍とすること以外は実施例1と同様に実施した。得られた加工糸は外径比が小さく、製作した織物は、シボ感・ソフト感は良好だったが、吸水性は低かった。結果を表4に示す。
【0066】
(比較例4)
追延伸倍率を1.25倍とすること以外は実施例1と同様に実施した。得られた加工糸は外径比、未解撚部空隙率が大きく、製作した織物は、シボ感・ソフト感は良好だった。結果を表4に示す。
【0067】
(比較例5)
アウトドロー延伸を延伸倍率1.30倍で実施し、インドロー延伸倍率を1.12倍とすること、追延伸倍率を1.00倍とすること以外は実施例1と同様に仮撚り加工を行った。得られた加工糸で製作した織物は、ソフト感は良好だがシボ感は無かった。結果を表4に示す。
【0068】
(比較例6)
使用するポリマーをカチオン可染可能な共重合ポリマーとすること以外は実施例1と同様に仮撚り加工を行った。得られた加工糸で製作した織物は、シボ感・ソフト感は無かった。結果を表4に示す。
【0069】
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明によれば、吸水性、防透け性に優れ、かつシボ感が強く、従来の部分融着仮撚り加工糸と比べシャリ感を低減したポリエステル異形断面融着仮撚加工糸が得られるので、スポーツ衣料や春夏衣料用織編物に好適に使用できる。