(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-06
(45)【発行日】2023-01-17
(54)【発明の名称】可染性ポリオレフィン繊維およびそれからなる繊維構造体
(51)【国際特許分類】
D01F 6/46 20060101AFI20230110BHJP
D01F 8/06 20060101ALI20230110BHJP
D01F 8/14 20060101ALI20230110BHJP
D03D 15/292 20210101ALI20230110BHJP
D04B 1/16 20060101ALI20230110BHJP
【FI】
D01F6/46 C
D01F8/06
D01F8/14 Z
D03D15/292
D04B1/16
(21)【出願番号】P 2019508284
(86)(22)【出願日】2019-01-10
(86)【国際出願番号】 JP2019000459
(87)【国際公開番号】W WO2019142718
(87)【国際公開日】2019-07-25
【審査請求日】2021-10-13
(31)【優先権主張番号】P 2018006473
(32)【優先日】2018-01-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鹿野 秀和
(72)【発明者】
【氏名】長尾 優志
(72)【発明者】
【氏名】望月 克彦
【審査官】松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/154665(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2004-0085726(KR,A)
【文献】特開2014-047441(JP,A)
【文献】特開2007-308830(JP,A)
【文献】特開2009-41124(JP,A)
【文献】特開2001-11729(JP,A)
【文献】特開平5-247721(JP,A)
【文献】特開昭57-161120(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F1/00-9/04
D03D1/00-27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン(A)が海成分、ポリエステル(B)が島成分である海島構造からなるポリマーアロイ繊維であって、伸度が10~80%であり、ラマン分光法により求めた可染性ポリオレフィン繊維中のポリエステル(B)の配向パラメータが1.1~10.0である可染性ポリオレフィン繊維。
【請求項2】
ラマン分光法により求めた可染性ポリオレフィン繊維中のポリエステル(B)の結晶化度が1~40%である請求項1に記載の可染性ポリオレフィン繊維。
【請求項3】
ポリエステル(B)の主たる構成成分が、ジカルボン酸成分(B1)とジオール成分(B2)であり、ジカルボン酸成分(B1)が脂肪族ジカルボン酸(B1-1)、脂環族ジカルボン酸(B1-2)、芳香族ジカルボン酸(B1-3)から選択される少なくとも1つのジカルボン酸成分(B1)である請求項1または2に記載の可染性ポリオレフィン繊維。
【請求項4】
前記ジオール成分(B2)が、脂肪族ジオール(B2-1)、脂環族ジオール(B2-2)、芳香族ジオール(B2-3)から選択される少なくとも1つのジオール成分(B2)である請求項3に記載の可染性ポリオレフィン繊維。
【請求項5】
ポリエステル(B)の主たる構成成分が、脂肪族オキシカルボン酸、脂環族オキシカルボン酸、芳香族オキシカルボン酸から選択されるいずれか1種である請求項1または2に記載の可染性ポリオレフィン繊維。
【請求項6】
ポリエステル(B)が共重合ポリエステルである請求項1~5のいずれか一項に記載の可染性ポリオレフィン繊維。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の可染性ポリオレフィン繊維を少なくとも一部に用いる繊維構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可染性ポリオレフィン繊維に関する。より詳しくは、軽量性に優れるポリオレフィン繊維に鮮やかで深みのある発色性が付与されており、染色堅牢度や均染性にも優れ、繊維構造体として好適に採用できる可染性ポリオレフィン繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン系繊維の一種であるポリエチレン繊維やポリプロピレン繊維は、軽量性や耐薬品性に優れるものの、極性官能基を有さないため染色することが困難であるという欠点を有している。そのため、衣料用途には適さず、現状ではタイルカーペット、家庭用敷物、自動車用マットなどのインテリア用途や、ロープ、養生ネット、ろ過布、細幅テープ、組紐、椅子張りなどの資材用途などの限られた用途において利用されている。
【0003】
ポリオレフィン系繊維の簡便な染色方法として、顔料の添加が挙げられる。しかし、顔料では染料のような鮮明な発色性や淡い色合いを安定して発現させることが難しく、また、顔料を用いた場合には繊維が硬くなる傾向があり、柔軟性が損なわれるという欠点があった。
【0004】
顔料に代わる染色方法として、ポリオレフィン系繊維の表面改質が提案されている。例えば、特許文献1では、オゾン処理や紫外線照射によるビニル化合物のグラフト共重合によって、ポリオレフィン系繊維の表面改質を行い、染色性の改善を試みている。
【0005】
また、染色性の低いポリオレフィンに対して、染色可能なポリマーを複合化する技術が提案されている。例えば、特許文献2では、染色可能なポリマーとしてポリエステルまたはポリアミドをポリオレフィンへブレンドした可染性ポリオレフィン繊維が提案されている。
【0006】
さらに、特許文献3、特許文献4では、ポリオレフィンへブレンドする染色可能なポリマーを非晶性とすることで、発色性の向上を試みている。具体的には、特許文献3ではシクロヘキサンジメタノールを共重合した共重合ポリエステル、特許文献4ではイソフタル酸とシクロヘキサンジメタノールを共重合した共重合ポリエステルを染色可能な非晶性ポリマーとして、ポリオレフィンへブレンドした可染性ポリオレフィン繊維が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平7-90783号公報
【文献】特開平4-209824号公報
【文献】特表2008-533315号公報
【文献】特表2001-522947号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1記載の方法では、オゾン処理や紫外線照射に長時間を要するため、生産性が低く、工業化への障壁が高いものであった。
【0009】
また、特許文献2の方法では、染色可能なポリマーによりポリオレフィン繊維に発色性を付与することはできるものの、染色可能なポリマーが結晶性のため、発色性は不十分であり、鮮やかさや深みに欠けるものであった。
【0010】
特許文献3、特許文献4の方法では、染色可能なポリマーを非晶性にすることにより、ポリオレフィン繊維の発色性の改善が見られた。しかしながら、ポリオレフィン繊維中の染色可能なポリマーの分子配向を制御していないため、分子配向が高い場合には染料の染着が不十分となり、鮮やかさや深みが未だ不十分という問題点や、分子配向が低い場合には染色後の還元洗浄やソーピング、使用時の摩擦や洗濯による染料の脱落があり、均染性や染色堅牢度に劣るという問題点を有していた。
【0011】
本発明の課題は、上記従来技術の問題点を解決し、軽量性に優れるポリオレフィン繊維に鮮やかで深みのある発色性を付与し、繊維構造体として好適に採用できる可染性ポリオレフィン繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の本発明の課題は、ポリオレフィン(A)が海成分、ポリエステル(B)が島成分である海島構造からなるポリマーアロイ繊維であって、伸度が10~80%であり、ラマン分光法により求めた可染性ポリオレフィン繊維中のポリエステル(B)の配向パラメータが1.1~10.0である可染性ポリオレフィン繊維によって解決することができる。
【0013】
また、ラマン分光法により求めた可染性ポリオレフィン繊維中のポリエステル(B)の結晶化度が1~40%であることが好ましい。
【0014】
前記ポリエステル(B)の主たる構成成分は、ジカルボン酸成分(B1)とジオール成分(B2)であり、脂肪族ジカルボン酸(B1-1)、脂環族ジカルボン酸(B1-2)、芳香族ジカルボン酸(B1-3)から選択される少なくとも1つのジカルボン酸成分(B1)と、脂肪族ジオール(B2-1)、脂環族ジオール(B2-2)、芳香族ジオール(B2-3)から選択される少なくとも1つのジオール成分(B2)であることが好ましい。また、前記ポリエステル(B)の主たる構成成分は、脂肪族オキシカルボン酸、脂環族オキシカルボン酸、芳香族オキシカルボン酸から選択されるいずれか1種であることも好適に採用できる。さらには、ポリエステル(B)が共重合ポリエステルであることが好ましい。
【0015】
また、上記の可染性ポリオレフィン繊維を少なくとも一部に用いる繊維構造体に好適に採用できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、軽量性に優れるポリオレフィン繊維に鮮やかで深みのある発色性が付与されており、染色堅牢度や均染性にも優れた可染性ポリオレフィン繊維を提供することができる。本発明により得られる可染性ポリオレフィン繊維は、繊維構造体とすることで、従来のポリオレフィン系繊維が使用されているインテリア用途や資材用途に加えて、衣料用途ならびに軽量性や発色性が要求される幅広い用途において好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の可染性ポリオレフィン繊維は、ポリオレフィン(A)が海成分、ポリエステル(B)が島成分である海島構造からなるポリマーアロイ繊維であって、伸度が10~80%であり、ラマン分光法により求めた可染性ポリオレフィン繊維中のポリエステル(B)の配向パラメータが1.1~10.0である。
【0018】
海成分であるポリオレフィン(A)の中に、ポリエステル(B)を染色可能なポリマーとして島に配置することで、ポリオレフィン(A)に発色性を付与することができる。また、染色可能なポリマーを芯鞘複合繊維の芯に配置した場合や、海島複合繊維の島に配置した場合と異なり、ポリマーアロイ繊維では、島成分の染色可能なポリマーが繊維表面に露出しているため、より発色性の高い繊維を得ることができ、さらには、島成分へ透過した光による発色効率が向上し、鮮やかで深みのある発色を実現することができる。
【0019】
本発明者らは、ポリオレフィン繊維において従来の課題であった鮮やかで深みのある発色性の付与や、染色堅牢度や均染性の向上について鋭意検討した結果、詳細は後述するが、ポリエステル(B)の共重合成分の種類や共重合率、海成分のポリオレフィン(A)と島成分のポリエステル(B)との溶融粘度比、可染性ポリオレフィン繊維の伸度等により、可染性ポリオレフィン繊維中の染色可能なポリエステル(B)の分子配向を特定の範囲に制御することで、ポリオレフィン繊維に鮮やかで深みのある発色性を付与することに成功するとともに、染色堅牢度や均染性に優れる可染性ポリオレフィン繊維を得ることを可能にした。
【0020】
本発明におけるポリマーアロイ繊維とは、島成分が不連続に分散して存在する繊維のことである。ここで、島成分が不連続とは、島成分が繊維長手方向に適度な長さを有して存在しており、その長さは数十nm~数十万nmであり、同一単糸内の任意の間隔において、繊維軸に対して垂直な断面、すなわち繊維横断面における海島構造の形状が異なる状態である。本発明における島成分の不連続性は、実施例記載の方法で確認することができる。島成分が不連続に分散して存在する場合、島成分は紡錘形であるため、染色した場合には、島成分へ透過した光による発色効率が向上し、鮮明性が向上し、深みのある発色が得られる。以上より、本発明におけるポリマーアロイ繊維は、1つの島が繊維軸方向に連続かつ同一形状に形成される芯鞘複合繊維や、複数の島が繊維軸方向に連続かつ同一形状に形成される海島複合繊維とは本質的に異なるものである。かかるポリマーアロイ繊維は、例えば、溶融紡糸が完結する以前の任意の段階において、ポリオレフィン(A)、ポリエステル(B)を混練して形成したポリマーアロイ組成物から成形することで得ることができる。
【0021】
本発明におけるポリオレフィン(A)としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン-1、ポリメチルペンテンなどが挙げられるが、これらに限定されない。なかでも、ポリプロピレンは成形加工性が良好であり、力学特性に優れるため好ましく、ポリメチルペンテンは融点が高く、耐熱性に優れるとともに、ポリオレフィンの中で最も低比重であり、軽量性に優れるため好ましい。衣料用途においては、ポリプロピレンが特に好適に採用できる。
【0022】
本発明においてポリオレフィン(A)は、単独重合体であっても、他のα-オレフィンとの共重合体であってもよい。他のα-オレフィン(以下、単にα-オレフィンと称する場合もある)は、1種または2種以上を共重合してもよい。
【0023】
α-オレフィンの炭素数は2~20であることが好ましく、α-オレフィンの分子鎖は直鎖状でも分岐鎖状でもよい。α-オレフィンの具体例として、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセン、3-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、3-エチル-1-ペンテン、3-エチル-1-ヘキセンなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0024】
α-オレフィンの共重合率は20mol%以下であることが好ましい。α-オレフィンの共重合率が20mol%以下であれば、力学特性や耐熱性が良好な可染性ポリオレフィン繊維が得られるため好ましい。α-オレフィンの共重合率は15mol%以下であることがより好ましく、10mol%以下であることが更に好ましい。
【0025】
本発明におけるポリエステル(B)の主たる構成成分は、ジカルボン酸成分(B1)とジオール成分(B2)であり、脂肪族ジカルボン酸(B1-1)、脂環族ジカルボン酸(B1-2)、芳香族ジカルボン酸(B1-3)から選択される少なくとも1つのジカルボン酸成分(B1)であることが好ましく、脂肪族ジオール(B2-1)、脂環族ジオール(B2-2)、芳香族ジオール(B2-3)から選択される少なくとも1つのジオール成分(B2)であることが好ましい。もしくは、本発明のポリエステル(B)の主たる構成成分は、脂肪族オキシカルボン酸、脂環族オキシカルボン酸、芳香族オキシカルボン酸から選択されるいずれか1種であることが好ましい。
【0026】
本発明における脂肪族ジカルボン酸(B1-1)の具体例として、マロン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、イタコン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,11-ウンデカンジカルボン酸、1,12-ドデカンジカルボン酸、1,14-テトラデカンジカルボン酸、1,18-オクタデカンジカルボン酸、ダイマー酸など、脂環族ジカルボン酸(B1-2)の具体例として、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、デカリン-2,6-ジカルボン酸など、芳香族ジカルボン酸(B1-3)の具体例として、テレフタル酸、フタル酸、イソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,2’-ビフェニルジカルボン酸、3,3’-ビフェニルジカルボン酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸などが挙げられるが、これらに限定されない。また、脂肪族ジオール(B2-1)の具体例として、エチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ネオペンチルグリコールなど、脂環族ジオール(B2-2)の具体例として、1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、スピログリコール、イソソルビドなど、芳香族ジオール(B2-3)の具体例として、カテコール、ナフタレンジオール、ビスフェノールなどが挙げられるが、これらに限定されない。さらに、脂肪族オキシカルボン酸の具体例として、乳酸、グリコール酸、α-オキシイソ酪酸、β-オキシイソ酪酸、オキシピバル酸など、芳香族オキシカルボン酸の具体例として、サリチル酸、m-オキシ安息香酸、p-オキシ安息香酸、マンデル酸、アトロラクチン酸などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0027】
本発明のポリエステル(B)の具体例として、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリヘキサメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンアジペート、ポリプロピレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンサクシネート、ポリプロピレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンセバケート、ポリプロピレンセバケート、ポリブチレンセバケート、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0028】
本発明においてポリエステル(B)は、共重合ポリエステルであることが好ましい。共重合成分の種類や共重合成分の共重合率によって、後述する可染性ポリオレフィン繊維中におけるポリエステル(B)の分子配向や結晶化度を制御することができ、発色性や染色堅牢度に優れた繊維ならびに繊維構造体を得ることができるため好ましい。共重合成分の具体例として、上記に示した脂肪族ジカルボン酸(B1-1)、脂環族ジカルボン酸(B1-2)、芳香族ジカルボン酸(B1-3)、脂肪族ジオール(B2-1)、脂環族ジオール(B2-2)、芳香族ジオール(B2-3)、脂肪族オキシカルボン酸、脂環族オキシカルボン酸、芳香族オキシカルボン酸などが挙げられるが、これらに限定されない。これらの共重合成分は1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。また、共重合成分の共重合率は、特に制限がなく、得られる可染性ポリオレフィン繊維の発色性や染色堅牢度に応じて適宜選択することができる。
【0029】
本発明の可染性ポリオレフィン繊維は、ポリオレフィン(A)、ポリエステル(B)の合計100重量部に対し、ポリエステル(B)を3.0~30.0重量部含有することが好ましい。ポリエステル(B)の含有量が3.0重量部以上であれば、染色可能なポリエステル(B)が、ポリオレフィン(A)に散在しており、鮮やかで深みのある発色性が付与された繊維ならびに繊維構造体を得ることができるため好ましい。また、溶融紡糸時に島成分のポリエステル(B)にかかる紡糸応力が高くなり過ぎず、可染性ポリオレフィン繊維中において染色可能なポリエステル(B)の分子配向が抑制されているため、染料が十分に染着し、発色性に優れた繊維ならびに繊維構造体を得ることができるため好ましい。ポリエステル(B)の含有量は、4.0重量部以上であることがより好ましく、5.0重量部以上であることが更に好ましい。一方、ポリエステル(B)の含有量が30.0重量部以下であれば、溶融紡糸時に島成分のポリエステル(B)にかかる紡糸応力が低下するものの、可染性ポリオレフィン繊維中において染色可能なポリエステル(B)の分子配向が低くなり過ぎないため、可染性ポリオレフィン繊維を染色後の還元洗浄やソーピングにおいて、ポリエステル(B)からの染料の脱落が抑制されており、発色性や均染性に優れた繊維ならびに繊維構造体を得ることができるため好ましい。また、使用時の摩擦や洗濯においても染料の脱落が抑制されており、染色堅牢度に優れた繊維ならびに繊維構造体を得ることができるため好ましい。ポリエステル(B)の含有量は、27.0重量部以下であることがより好ましく、25.0重量部以下であることが更に好ましく、20.0重量部以下であることが特に好ましい。
【0030】
本発明では、海成分であるポリオレフィン(A)の溶融粘度(ηA)と、島成分であるポリエステル(B)の溶融粘度(ηB)との溶融粘度比(ηB/ηA)が0.2~5.0であることが好ましい。本発明における溶融粘度比(ηB/ηA)とは、実施例記載の方法で測定される値を指す。ポリマーアロイ型紡糸のように、異なるポリマーを溶融紡糸によって複合化する場合、溶融紡糸時に海成分、島成分それぞれにかかる紡糸応力は、海成分と島成分の溶融粘度比に応じて変化するため、海成分、島成分それぞれのポリマーの分子配向もまた、海成分と島成分の溶融粘度比に応じて変化する。本発明の可染性ポリオレフィン繊維は、可染性ポリオレフィン繊維の島成分であり、染色可能なポリエステル(B)の分子配向の高低に応じて、可染性ポリオレフィン繊維の発色性や染色堅牢度を制御することができるため、本発明において海成分と島成分の溶融粘度比は重要である。ηB/ηAが0.2以上であれば、溶融紡糸時に島成分のポリエステル(B)にかかる紡糸応力が低下するものの、可染性ポリオレフィン繊維中において染色可能なポリエステル(B)の分子配向が低くなり過ぎないため、可染性ポリオレフィン繊維を染色後の還元洗浄やソーピングにおいて、ポリエステル(B)からの染料の脱落が抑制されており、発色性や均染性に優れた繊維ならびに繊維構造体を得ることができるため好ましい。また、使用時の摩擦や洗濯においても染料の脱落が抑制されており、染色堅牢度に優れた繊維ならびに繊維構造体を得ることができるため好ましい。ηB/ηAは0.3以上であることがより好ましく、0.5以上であることが更に好ましく、0.7以上であることが特に好ましい。一方、ηB/ηAが5.0以下であれば、溶融紡糸時に島成分のポリエステル(B)にかかる紡糸応力が高くなり過ぎず、可染性ポリオレフィン繊維中において染色可能なポリエステル(B)の分子配向が抑制されているため、染料が十分に染着し、発色性に優れた繊維ならびに繊維構造体を得ることができるため好ましい。ηB/ηAは3.3以下であることがより好ましく、2.0以下であることが更に好ましく、1.4以下であることが特に好ましい。
【0031】
本発明においては、上記のとおり、ポリエステル(B)の共重合成分の種類や共重合成分の共重合率によって、後述する可染性ポリオレフィン繊維中におけるポリエステル(B)の分子配向や結晶化度を制御することができる。そのため、ポリエステル(B)の共重合成分の種類や共重合成分の共重合率に応じて、海成分であるポリオレフィン(A)の溶融粘度(ηA)と、島成分であるポリエステル(B)の溶融粘度(ηB)との溶融粘度比(ηB/ηA)の好ましい範囲が変化する。例えば、ポリエチレンテレフタレートの場合、0.2~0.9であることが好ましく、0.3~0.8であることがより好ましく、0.4~0.7であることが更に好ましく、0.5~0.6であることが特に好ましい。また、イソフタル酸(IPA)を30mol%共重合したポリエチレンテレフタレートの場合、ηB/ηAは、0.2~5.0であることが好ましく、0.3~3.3であることがより好ましく、0.5~2.0であることが更に好ましく、0.7~1.4であることが特に好ましい。
【0032】
本発明の可染性ポリオレフィン繊維は、副次的添加物を加えて種々の改質が行われたものであってもよい。副次的添加剤の具体例として、相溶化剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、蛍光増白剤、離型剤、抗菌剤、核形成剤、熱安定剤、帯電防止剤、着色防止剤、調整剤、艶消し剤、消泡剤、防腐剤、ゲル化剤、ラテックス、フィラー、インク、着色料、染料、顔料、香料などが挙げられるが、これらに限定されない。これらの副次的添加物は1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
本発明の可染性ポリオレフィン繊維は、ラマン分光法により求めた可染性ポリオレフィン繊維中のポリエステル(B)の配向パラメータが1.1~10.0である。本発明におけるラマン分光法により求めた可染性ポリオレフィン繊維中のポリエステル(B)の配向パラメータとは、実施例記載の方法で測定される値を指す。配向パラメータとは、ポリマーの分子配向の指標であり、値が大きいほど、分子配向が高いことを表す。可染性ポリオレフィン繊維中のポリエステル(B)の配向パラメータが1.1以上であれば、可染性ポリオレフィン繊維中において染色可能なポリエステル(B)の分子配向が低くなり過ぎないため、可染性ポリオレフィン繊維を染色後の還元洗浄やソーピングにおいて、ポリエステル(B)からの染料の脱落が抑制されており、発色性や均染性に優れた繊維ならびに繊維構造体を得ることができる。また、使用時の摩擦や洗濯においても染料の脱落が抑制されており、染色堅牢度に優れた繊維ならびに繊維構造体を得ることができる。可染性ポリオレフィン繊維中のポリエステル(B)の配向パラメータは1.5以上であることがより好ましく、2.0以上であることが更に好ましく、2.5以上であることが特に好ましい。一方、可染性ポリオレフィン繊維中のポリエステル(B)の配向パラメータが10.0以下であれば、可染性ポリオレフィン繊維中において染色可能なポリエステル(B)の分子配向が抑制されているため、染料が十分に染着し、発色性に優れた繊維ならびに繊維構造体を得ることができる。可染性ポリオレフィン繊維中のポリエステル(B)の配向パラメータは9.0以下であることがより好ましく、8.0以下であることが更に好ましく、7.0以下であることが特に好ましい。
【0034】
本発明の可染性ポリオレフィン繊維は、ラマン分光法により求めた可染性ポリオレフィン繊維中のポリエステル(B)の結晶化度が1~40%であることが好ましい。本発明におけるラマン分光法により求めた可染性ポリオレフィン繊維中のポリエステル(B)の結晶化度とは、実施例記載の方法で測定される値を指す。可染性ポリオレフィン繊維中のポリエステル(B)の結晶化度が1%以上であれば、可染性ポリオレフィン繊維を染色後の還元洗浄やソーピングにおいて、ポリエステル(B)からの染料の脱落が抑制されており、発色性や均染性に優れた繊維ならびに繊維構造体を得ることができるため好ましい。また、使用時の摩擦や洗濯においても染料の脱落が抑制されており、染色堅牢度に優れた繊維ならびに繊維構造体を得ることができるため好ましい。可染性ポリオレフィン繊維中のポリエステル(B)の結晶化度は5%以上であることがより好ましく、10%以上であることが更に好ましく、15%以上であることが特に好ましい。一方、可染性ポリオレフィン繊維中のポリエステル(B)の結晶化度が40%以下であれば、可染性ポリオレフィン繊維中において染色可能なポリエステル(B)の非晶部分へ染料が十分に染着し、発色性に優れた繊維ならびに繊維構造体を得ることができるため好ましい。可染性ポリオレフィン繊維中のポリエステル(B)の結晶化度は35%以下であることがより好ましく、33%以下であることが更に好ましく、30%以下であることが特に好ましい。
【0035】
本発明の可染性ポリオレフィン繊維のマルチフィラメントとしての繊度は、特に制限がなく、用途や要求特性に応じて適宜選択することができるが、10~3000dtexであることが好ましい。本発明における繊度とは、実施例記載の方法で測定される値を指す。可染性ポリオレフィン繊維の繊度が10dtex以上であれば、糸切れが少なく、工程通過性が良好であることに加え、使用時に毛羽の発生が少なく、耐久性に優れるため好ましい。可染性ポリオレフィン繊維の繊度は、30dtex以上であることがより好ましく、50dtex以上であることが更に好ましい。一方、可染性ポリオレフィン繊維の繊度が3000dtex以下であれば、繊維ならびに繊維構造体の柔軟性を損なうことがないため好ましい。可染性ポリオレフィン繊維の繊度は、2500dtex以下であることがより好ましく、2000dtex以下であることが更に好ましい。
【0036】
本発明の可染性ポリオレフィン繊維の単糸繊度は、特に制限がなく、用途や要求特性に応じて適宜選択することができるが、0.5~20dtexであることが好ましい。本発明における単糸繊度とは、実施例記載の方法で測定される繊度を単糸数で除した値を指す。可染性ポリオレフィン繊維の単糸繊度が0.5dtex以上であれば、糸切れが少なく、工程通過性が良好であることに加え、使用時に毛羽の発生が少なく、耐久性に優れるため好ましい。また、溶融紡糸時に島成分のポリエステル(B)にかかる紡糸応力が高くなり過ぎず、可染性ポリオレフィン繊維中において染色可能なポリエステル(B)の分子配向が抑制されているため、染料が十分に染着し、発色性に優れた繊維ならびに繊維構造体を得ることができるため好ましい。可染性ポリオレフィン繊維の単糸繊度は、0.6dtex以上であることがより好ましく、0.8dtex以上であることが更に好ましい。一方、可染性ポリオレフィン繊維の単糸繊度が20dtex以下であれば、繊維ならびに繊維構造体の柔軟性を損なうことがないため好ましい。可染性ポリオレフィン繊維の単糸繊度は、15dtex以下であることがより好ましく、12dtex以下であることが更に好ましい。
【0037】
本発明の可染性ポリオレフィン繊維を構成するフィラメント数は、特に制限がなく、用途や要求特性に応じて適宜選択することができるが、3~250本であることが好ましい。可染性ポリオレフィン繊維のフィラメント数が3本以上であれば、繊維ならびに繊維構造体の柔軟性を損なうことがないため好ましい。可染性ポリオレフィン繊維のフィラメント数は、10本以上であることがより好ましく、15本以上であることが更に好ましく、20本以上であることが特に好ましい。一方、可染性ポリオレフィン繊維のフィラメント数が250本以下であれば、溶融紡糸時に島成分のポリエステル(B)にかかる紡糸応力が高くなり過ぎず、可染性ポリオレフィン繊維中において染色可能なポリエステル(B)の分子配向が抑制されているため、染料が十分に染着し、発色性に優れた繊維ならびに繊維構造体を得ることができるため好ましい。可染性ポリオレフィン繊維のフィラメント数は、200本以下であることがより好ましく、150本以下であることが更に好ましく、100本以下であることが特に好ましい。
【0038】
本発明の可染性ポリオレフィン繊維の強度は、特に制限がなく、用途や要求特性に応じて適宜選択することができるが、力学特性の観点から1.0~6.0cN/dtexであることが好ましい。本発明における強度とは、実施例記載の方法で測定される値を指す。可染性ポリオレフィン繊維の強度が1.0cN/dtex以上であれば、使用時に毛羽の発生が少なく、耐久性に優れるため好ましい。可染性ポリオレフィン繊維の強度は1.5cN/dtex以上であることがより好ましく、2.0cN/dtex以上であることが更に好ましい。一方、可染性ポリオレフィン繊維の強度が6.0cN/dtex以下であれば、繊維ならびに繊維構造体の柔軟性を損なうことがないため好ましい。
【0039】
本発明の可染性ポリオレフィン繊維の伸度は、10~80%であることが好ましい。本発明における伸度とは、実施例記載の方法で測定される値を指す。可染性ポリオレフィン繊維の伸度が10%以上であれば、可染性ポリオレフィン繊維中において染色可能なポリエステル(B)の分子配向が抑制されているため、染料が十分に染着し、発色性に優れた繊維ならびに繊維構造体を得ることができる傾向にある。また、繊維ならびに繊維構造体の耐摩耗性が良好となり、使用時に毛羽の発生が少なく、耐久性が良好となる。可染性ポリオレフィン繊維の伸度は15%以上であることがより好ましく、20%以上であることが更に好ましく、25%以上であることが特に好ましい。一方、可染性ポリオレフィン繊維の伸度が80%以下であれば、可染性ポリオレフィン繊維中において染色可能なポリエステル(B)の分子配向が低くなり過ぎないため、可染性ポリオレフィン繊維を染色後の還元洗浄やソーピングにおいて、ポリエステル(B)からの染料の脱落が抑制されており、発色性や均染性に優れた繊維ならびに繊維構造体を得ることができる傾向にある。また、使用時の摩擦や洗濯においても染料の脱落が抑制されており、染色堅牢度に優れた繊維ならびに繊維構造体を得ることができる傾向にある。可染性ポリオレフィン繊維の伸度は70%以下であることがより好ましく、65%以下であることが更に好ましく、60%以下であることが特に好ましい。
【0040】
本発明の可染性ポリオレフィン繊維は、繊維の断面形状に関して特に制限がなく、用途や要求特性に応じて適宜選択することができ、真円状の円形断面であってもよく、非円形断面であってもよい。非円形断面の具体例として、多葉形、多角形、扁平形、楕円形、C字形、H字形、S字形、T字形、W字形、X字形、Y字形、田字形、井桁形、中空形などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0041】
本発明の可染性ポリオレフィン繊維は、繊維の形態に関して特に制限がなく、モノフィラメント、マルチフィラメント、ステープルなどのいずれの形態であってもよい。
【0042】
本発明の可染性ポリオレフィン繊維は、一般の繊維と同様に仮撚や撚糸などの加工が可能であり、製織や製編についても一般の繊維と同様に扱うことができる。
【0043】
本発明の可染性ポリオレフィン繊維からなる繊維構造体の形態は、特に制限がなく、公知の方法に従い、織物、編物、パイル布帛、不織布や紡績糸、詰め綿などにすることができる。また、本発明の可染性ポリオレフィン繊維からなる繊維構造体は、いかなる織組織または編組織であってもよく、平織、綾織、朱子織あるいはこれらの変化織や、経編、緯編、丸編、レース編あるいはこれらの変化編などが好適に採用できる。
【0044】
本発明の可染性ポリオレフィン繊維は、繊維構造体にする際に交織や交編などによって他の繊維と組み合わせてもよいし、他の繊維との混繊糸とした後に繊維構造体としてもよい。
【0045】
次に、本発明の可染性ポリオレフィン繊維の製造方法を以下に示す。
【0046】
本発明の可染性ポリオレフィン繊維の製造方法として、公知の溶融紡糸方法、延伸方法、仮撚加工方法を採用することができる。
【0047】
本発明では、溶融紡糸を行う前にポリオレフィン(A)、ポリエステル(B)を乾燥させ、含水率を0.3重量%以下としておくことが好ましい。含水率が0.3重量%以下であれば、溶融紡糸の際に水分によって発泡することがなく、安定して紡糸を行うことが可能となるため好ましい。また、紡糸時の加水分解を抑制することができ、得られる可染性ポリオレフィン繊維の力学特性の低下や色調の悪化が抑制されるため好ましい。含水率は0.2重量%以下であることがより好ましく、0.1重量%以下であることが更に好ましい。
【0048】
ポリマーアロイ型紡糸を行う場合には、紡糸口金から吐出して繊維糸条とする方法として、以下に示す例が挙げられるが、これらに限定されない。第一の例として、ポリオレフィン(A)、ポリエステル(B)をエクストルーダーなどで事前に溶融混練して複合化したチップを必要に応じて乾燥した後、乾燥したチップを溶融紡糸機へ供給して溶融し、計量ポンプで計量する。その後、紡糸ブロックにおいて加温した紡糸パックへ導入して、紡糸パック内で溶融ポリマーを濾過した後、紡糸口金から吐出して繊維糸条とする方法が挙げられる。第二の例として、必要に応じてチップを乾燥し、チップの状態でポリオレフィン(A)、ポリエステル(B)を混合した後、混合したチップを溶融紡糸機へ供給して溶融し、計量ポンプで計量する。その後、紡糸ブロックにおいて加温した紡糸パックへ導入して、紡糸パック内で溶融ポリマーを濾過した後、紡糸口金から吐出して繊維糸条とする方法が挙げられる。
【0049】
紡糸口金から吐出された繊維糸条は、冷却装置によって冷却固化し、第1ゴデットローラーで引き取り、第2ゴデットローラーを介してワインダーで巻き取り、巻取糸とする。なお、製糸操業性、生産性、繊維の力学特性を向上させるために、必要に応じて紡糸口金下部に2~50cmの長さの加熱筒や保温筒を設置してもよい。また、給油装置を用いて繊維糸条へ給油してもよく、交絡装置を用いて繊維糸条へ交絡を付与してもよい。
【0050】
溶融紡糸における紡糸温度は、ポリオレフィン(A)、ポリエステル(B)の融点や耐熱性などに応じて適宜選択することができるが、220~320℃であることが好ましい。紡糸温度が220℃以上であれば、紡糸口金より吐出された繊維糸条の伸長粘度が十分に低下するため吐出が安定し、さらには、紡糸張力が過度に高くならず、糸切れを抑制することができるため好ましい。紡糸温度は230℃以上であることがより好ましく、240℃以上であることが更に好ましい。一方、紡糸温度が320℃以下であれば、紡糸時の熱分解を抑制することができ、得られる可染性ポリオレフィン繊維の力学特性の低下や着色を抑制できるため好ましい。紡糸温度は300℃以下であることがより好ましく、280℃以下であることが更に好ましい。
【0051】
溶融紡糸における紡糸速度は、ポリオレフィン(A)とポリエステル(B)との複合比率、紡糸温度などに応じて適宜選択することができるが、500~6000m/分であることが好ましい。紡糸速度が500m/分以上であれば、走行糸条が安定し、糸切れを抑制することができるため好ましい。二工程法の場合の紡糸速度は1000m/分以上であることがより好ましく、1500m/分以上であることが更に好ましい。一方、紡糸速度が6000m/分以下であれば、溶融紡糸時に島成分のポリエステル(B)にかかる紡糸応力が高くなり過ぎず、可染性ポリオレフィン繊維中において染色可能なポリエステル(B)の分子配向が抑制されているため、染料が十分に染着し、発色性に優れた繊維ならびに繊維構造体を得ることができるため好ましい。二工程法の場合の紡糸速度は4500m/分以下であることがより好ましく、4000m/分以下であることが更に好ましい。また、一旦巻き取ることなく紡糸と延伸を同時に行う一工程法の場合の紡糸速度は、低速ローラーを500~5000m/分、高速ローラーを2000~6000m/分とすることが好ましい。低速ローラーおよび高速ローラーが上記の範囲内であれば、走行糸条が安定するとともに、糸切れを抑制することができ、安定した紡糸を行うことができるため好ましい。一工程法の場合の紡糸速度は低速ローラーを1000~4500m/分、高速ローラーを2500~5500m/分とすることがより好ましく、低速ローラーを1500~4000m/分、高速ローラーを3000~5000m/分とすることが更に好ましい。
【0052】
一工程法または二工程法により延伸を行う場合には、一段延伸法または二段以上の多段延伸法のいずれの方法によってもよい。延伸における加熱方法としては、走行糸条を直接的あるいは間接的に加熱できる装置であれば、特に限定されない。加熱方法の具体例として、加熱ローラー、熱ピン、熱板、温水、熱水などの液体浴、熱空、スチームなどの気体浴、レーザーなどが挙げられるが、これらに限定されない。これらの加熱方法は単独で使用してもよく、複数を併用してもよい。加熱方法としては、加熱温度の制御、走行糸条への均一な加熱、装置が複雑にならない観点から、加熱ローラーとの接触、熱ピンとの接触、熱板との接触、液体浴への浸漬を好適に採用できる。
【0053】
延伸を行う場合の延伸温度は、ポリオレフィン(A)、ポリエステル(B)の融点や、延伸後の繊維の強度、伸度などに応じて適宜選択することができるが、20~150℃であることが好ましい。延伸温度が20℃以上であれば、延伸に供給される糸条の予熱が充分に行われ、延伸時の熱変形が均一となり、毛羽や繊度斑の発生を抑制することができ、繊維長手方向の均一性に優れ、均染性に優れる高品位の繊維ならびに繊維構造体を得ることができるため好ましい。延伸温度は30℃以上であることがより好ましく、40℃以上であることが更に好ましい。一方、延伸温度が150℃以下であれば、加熱ローラーとの接触に伴う繊維同士の融着や熱分解を抑制することができ、工程通過性や品位が良好であるため好ましい。また、延伸ローラーに対する繊維の滑り性が良好となるため、糸切れが抑制され、安定した延伸を行うことができるため好ましい。延伸温度は145℃以下であることがより好ましく、140℃以下であることが更に好ましい。また、必要に応じて60~150℃の熱セットを行ってもよい。
【0054】
延伸を行う場合の延伸倍率は、延伸前の繊維の伸度や、延伸後の繊維の強度や伸度などに応じて適宜選択することができるが、1.02~7.0倍であることが好ましい。延伸倍率が1.02倍以上であれば、延伸によって繊維の強度や伸度などの力学特性を向上させることができるため好ましい。また、可染性ポリオレフィン繊維中において染色可能なポリエステル(B)の分子配向が低くなり過ぎないため、可染性ポリオレフィン繊維を染色後の還元洗浄やソーピングにおいて、ポリエステル(B)からの染料の脱落が抑制されており、発色性や均染性に優れた繊維ならびに繊維構造体を得ることができるため好ましい。また、使用時の摩擦や洗濯においても染料の脱落が抑制されており、染色堅牢度に優れた繊維ならびに繊維構造体を得ることができるため好ましい。延伸倍率は、1.2倍以上であることがより好ましく、1.5倍以上であることが更に好ましい。一方、延伸倍率が7.0倍以下であれば、延伸時の糸切れが抑制され、安定した延伸を行うことができるため好ましい。また、可染性ポリオレフィン繊維中において染色可能なポリエステル(B)の分子配向が抑制されているため、染料が十分に染着し、発色性に優れた繊維ならびに繊維構造体を得ることができるため好ましい。延伸倍率は6.0倍以下であることがより好ましく、5.0倍以下であることが更に好ましい。
【0055】
延伸を行う場合の延伸速度は、延伸方法が一工程法または二工程法のいずれであるかなどに応じて適宜選択することができる。一工程法の場合には、上記紡糸速度の高速ローラーの速度が延伸速度に相当する。二工程法により延伸を行う場合の延伸速度は、30~1000m/分であることが好ましい。延伸速度が30m/分以上であれば、走行糸条が安定し、糸切れが抑制できるため好ましい。二工程法により延伸を行う場合の延伸速度は50m/分以上であることがより好ましく、100m/分以上であることが更に好ましい。一方、延伸速度が1000m/分以下であれば、延伸時の糸切れが抑制され、安定した延伸を行うことができるため好ましい。二工程法により延伸を行う場合の延伸速度は900m/分以下であることがより好ましく、800m/分以下であることが更に好ましい。
【0056】
仮撚加工を行う場合には、1段ヒーターのみ使用する、いわゆるウーリー加工以外に、1段ヒーターと2段ヒーターの両方を使用する、いわゆるブレリア加工を適宜選択することができる。
【0057】
仮撚加工に用いる装置として、ここではFR(フィードローラー)、1DR(1ドローローラー)ヒーター、冷却板、仮撚装置、2DR(2ドローローラー)、3DR(3ドローローラー)、交絡ノズル、4DR(4ドローローラー)、ワインダーを備えた仮撚加工装置を例示する。
【0058】
FR-1DR間の加工倍率は、仮撚加工に用いる繊維の伸度や、仮撚加工後の繊維の伸度に応じて適宜選択できるが、1.0~2.0倍であることが好ましい。
【0059】
ヒーターの加熱方法は、接触式、非接触式のいずれであってもよい。ヒーター温度は、ポリオレフィン(A)、ポリエステル(B)の融点や、仮撚加工後の繊維の強度、伸度などに応じて適宜選択することができるが、接触式の場合のヒーター温度は90℃以上、非接触式の場合のヒーター温度は150℃以上であることが好ましい。接触式の場合のヒーター温度が90℃以上、または非接触式の場合のヒーター温度が150℃以上であれば、仮撚加工に供給される糸条の予熱が充分に行われ、延伸に伴う熱変形が均一となり、毛羽や繊度斑の発生を抑制することができ、繊維長手方向の均一性に優れ、均染性に優れる高品位の繊維ならびに繊維構造体を得ることができるため好ましい。接触式の場合のヒーター温度は100℃以上であることがより好ましく、110℃以上であることが更に好ましい。非接触式の場合のヒーター温度は200℃以上であることがより好ましく、250℃以上であることが更に好ましい。ヒーター温度の上限は、仮撚加工に用いる未延伸糸または延伸糸がヒーター内で融着しない温度であればよい。
【0060】
仮撚装置は、摩擦仮撚型が好ましく、フリクションディスク型、ベルトニップ型などが挙げられるが、これらに限定されない。なかでも、フリクションディスク型が好ましく、ディスクの材質を全てセラミックスで構成することで、長時間操業した場合においても、安定して仮撚加工することができるため好ましい。2DR-3DR間および3DR-4DR間の倍率は、仮撚加工後の繊維の強度や伸度などに応じて適宜選択できるが、0.9~1.0倍であることが好ましい。3DR-4DR間では、仮撚加工後の繊維の工程通過性を向上させるため、交絡ノズルによる交絡付与、もしくは給油ガイドによる追油を行ってもよい。
【0061】
仮撚加工を行う場合の加工速度は、適宜選択することができるが、200~1000m/分であることが好ましい。加工速度が200m/分以上であれば、走行糸条が安定し、糸切れが抑制できるため好ましい。加工速度は300m/分以上であることがより好ましく、400m/分以上であることが更に好ましい。一方、加工速度が1000m/分以下であれば、仮撚加工時の糸切れが抑制され、安定した仮撚加工を行うことができるため好ましい。加工速度は900m/分以下であることがより好ましく、800m/分以下であることが更に好ましい。
【0062】
本発明では、必要に応じて、繊維または繊維構造体のいずれかの状態において染色してもよい。本発明では、染料として分散染料またはカチオン染料を好適に採用することができる。本発明の可染性ポリオレフィン繊維を構成するポリオレフィン(A)は染料によってほとんど染色されることはないが、ポリエステル(B)は染色可能であるため、鮮やかで深みのある発色性を有する繊維ならびに繊維構造体を得ることが可能である。
【0063】
本発明における染色方法は、特に制限がなく、公知の方法に従い、チーズ染色機、液流染色機、ドラム染色機、ビーム染色機、ジッガー、高圧ジッガーなどを好適に採用することができる。
【0064】
本発明では、染料濃度や染色温度に関して特に制限がなく、公知の方法を好適に採用できる。また、必要に応じて、染色加工前に精練を行ってもよく、染色加工後に還元洗浄を行ってもよい。
【0065】
本発明の可染性ポリオレフィン繊維、およびそれからなる繊維構造体は、軽量性に優れるポリオレフィン繊維に鮮やかで深みのある発色性が付与されており、染色堅牢度や均染性にも優れる。そのため、従来のポリオレフィン系繊維が使用されている用途に加えて、衣料用途ならびに軽量性や発色性が要求される用途への展開が可能である。従来のポリオレフィン系繊維が使用されている用途として、タイルカーペット、家庭用敷物、自動車用マットなどのインテリア用途、ふとん用詰め綿、枕の充填材などの寝具、ロープ、養生ネット、ろ過布、細幅テープ、組紐、椅子張りなどの資材用途などが挙げられるが、これらに限定されない。さらに、本発明によって拡張される用途として、婦人服、紳士服、裏地、下着、ダウン、ベスト、インナー、アウターなどの一般衣料、ウインドブレーカー、アウトドアウェア、スキーウェア、ゴルフウェア、水着などのスポーツ衣料、ふとん用側地、ふとんカバー、毛布、毛布用側地、毛布カバー、枕カバー、シーツなどの寝具、テーブルクロス、カーテンなどのインテリア、ベルト、かばん、縫糸、寝袋、テントなどの資材などの用途が挙げられるが、これらに限定されない。
【実施例】
【0066】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明する。なお、実施例中の各特性値は、以下の方法で求めた。
【0067】
A.複合比率
可染性ポリオレフィン繊維の原料として用いたポリオレフィン(A)、ポリエステル(B)の合計を100重量部とし、複合比率としてA/B[重量部]を算出した。
【0068】
B.溶融粘度比
事前に真空乾燥したポリオレフィン(A)およびポリエステル(B)について、東洋精機製キャピログラフ1Bにて、孔径1.0mm、孔長10mmのキャピラリーを使用して窒素雰囲気下で5分間滞留させた後に測定を行った。なお、測定温度は後述する実施例中の紡糸温度と同様とし、剪断速度1216sec-1での見掛け粘度(Pa・s)を溶融粘度(Pa・s)とした。測定は1試料につき3回行い、その平均値を溶融粘度とした。ポリオレフィン(A)、ポリエステル(B)の溶融粘度をそれぞれηA、ηBとし、下記式を用いて溶融粘度比を算出した。
溶融粘度比(ηB/ηA)=ηB/ηA 。
【0069】
C.繊度
温度20℃、湿度65%RHの環境下において、INTEC製電動検尺機を用いて、実施例によって得られた繊維100mをかせ取りした。得られたかせの重量を測定し、下記式を用いて繊度(dtex)を算出した。なお、測定は1試料につき5回行い、その平均値を繊度とした。
繊度(dtex)=繊維100mの重量(g)×100 。
【0070】
D.強度、伸度
強度および伸度は、実施例によって得られた繊維を試料とし、JIS L1013:2010(化学繊維フィラメント糸試験方法)8.5.1に準じて算出した。温度20℃、湿度65%RHの環境下において、オリエンテック社製テンシロンUTM-III-100型を用いて、初期試料長20cm、引張速度20cm/分の条件で引張試験を行った。最大荷重を示す点の応力(cN)を繊度(dtex)で除して強度(cN/dtex)を算出し、最大荷重を示す点の伸び(L1)と初期試料長(L0)を用いて下記式によって伸度(%)を算出した。なお、測定は1試料につき10回行い、その平均値を強度および伸度とした。
伸度(%)={(L1-L0)/L0}×100 。
【0071】
E.島成分の不連続性
実施例によって得られた繊維をエポキシ樹脂で包埋した後、LKB製ウルトラミクロトームLKB-2088を用いてエポキシ樹脂ごと、繊維軸に対して垂直方向に繊維を切断し、厚さ約100nmの超薄切片を得た。得られた超薄切片を固体の四酸化ルテニウムの気相中に常温で約4時間保持して染色した後、染色された面をウルトラミクロトームで切断し、四酸化ルテニウムで染色された超薄切片を作製した。染色された超薄切片について、日立製透過型電子顕微鏡(TEM)H-7100FA型を用いて、加速電圧100kVの条件で繊維軸に対して垂直な断面、すなわち繊維横断面を観察し、繊維横断面の顕微鏡写真を撮影した。観察は300倍、500倍、1000倍、3000倍、5000倍、10000倍、30000倍、50000倍の各倍率で行い、顕微鏡写真を撮影する際には100個以上の島成分が観察できる最も低い倍率を選択した。
【0072】
島成分の不連続性については、同一単糸内において単糸直径の少なくとも10000倍以上の任意の間隔で、繊維横断面の顕微鏡写真を5枚撮影し、それぞれの繊維横断面における島成分の数および海島構造の形状が異なる場合、島成分が不連続であるとし、島成分が不連続である場合を「A」、島成分が不連続でない場合を「C」とした。
【0073】
F.配向パラメータ
実施例によって得られた繊維を試料とし、下記条件にて測定を行い、偏光方向が繊維軸と一致する場合を平行条件、直行する場合を垂直条件として、それぞれの偏光ラマンスペクトルを得た。ポリエステル(B)のC=C伸縮振動に帰属される1615cm-1付近のラマンバンドが存在する場合には、平行条件におけるラマンバンド強度をI1615平行、垂直条件におけるラマンバンド強度をI1615垂直とし、下記式を用いて配向パラメータを算出した。ポリエステル(B)のC=C伸縮振動に帰属される1615cm-1付近のラマンバンドが存在しない場合には、ポリエステル(B)のC=O伸縮振動に帰属される1730cm-1付近のラマンバンドにおいて、平行条件におけるラマンバンド強度をI1730平行、垂直条件におけるラマンバンド強度をI1730垂直とし、下記式を用いて配向パラメータを算出した。なお、測定は1試料につき5回行い、その平均値を配向パラメータとした。
【0074】
配向パラメータ=I1615平行/I1615垂直、または配向パラメータ=I1730平行/I1730垂直
装置 :RENISHAW製inVia
測定モード :顕微ラマン
対物レンズ :×20
ビーム径 :5μm
光源 :YAG 2nd 532nm Line
レーザーパワー:100mW
回折格子 :Single -3000gr/mm
スリット :65μm
検出器 :CCD 1024×256pixels 。
【0075】
G.結晶化度
上記Fにおいて、繊維軸に平行に偏光したレーザー光を入射し、散乱光には検光子を入れずに測定した以外は同様に測定を行い、偏光ラマンスペクトルを得た。ポリエステル(B)のC=O伸縮振動に帰属される1730cm-1付近のラマンバンドの半値全幅をΔν1730とし、下記式を用いて結晶化度を算出した。下記式における換算密度ρは、種々のPET試料の半値幅から経験的に導出されたものである。なお、測定は1試料につき5回行い、その平均値を結晶化度とした。
換算密度ρ(g/cm3)=(305-Δν1730)/209
結晶化度(%)=100×(ρ-1.335)/(1.455-1.335) 。
【0076】
H.L*値(仕上げセット後):鮮明性、ΔE(工程での色落ち)
実施例によって得られた繊維を試料とし、英光産業製丸編機NCR-BL(釜径3インチ半(8.9cm)、27ゲージ)を用いて筒編み約2gを作製した後、炭酸ナトリウム1.5g/L、明成化学工業製界面活性剤グランアップUS-20 0.5g/Lを含む水溶液中、80℃で20分間精練後、流水で30分水洗し、60℃の熱風乾燥機内で60分間乾燥した。精練後の筒編みを135℃で1分間乾熱セットし、乾熱セット後の筒編みに対して、分散染料として日本化薬製Kayalon Polyester Blue UT-YAを1.3重量%加え、pHを5.0に調整した染色液中、浴比1:100、130℃で45分間染色後、流水で30分水洗し、60℃の熱風乾燥機内で60分間乾燥した。染色後の筒編みを、水酸化ナトリウム2g/L、亜ジチオン酸ナトリウム2g/L、明成化学工業製界面活性剤グランアップUS-20 0.5g/Lを含む水溶液中、浴比1:100、80℃で20分間還元洗浄後、流水で30分水洗し、60℃の熱風乾燥機内で60分間乾燥した。還元洗浄後の筒編みを135℃で1分間乾熱セットし、仕上げセットを行った。
【0077】
なお、ポリエステル(B)としてカチオン可染性ポリエステルを用いた場合には、上記乾熱セット後の筒編みに対して、カチオン染料として日本化薬製Kayacryl Blue 2RL-EDを1.3重量%加え、pHを4.0に調整した染色液中、浴比1:100、120℃で40分間染色後、流水で30分水洗し、60℃の熱風乾燥機内で60分間乾燥した。染色後の筒編みを、明成化学工業製界面活性剤ラッコールPSK 2.0g/Lを含む水溶液中、浴比1:100、80℃で20分間ソーピング後、流水で30分水洗し、60℃の熱風乾燥機内で60分間乾燥した。ソーピング後の筒編みを135℃で1分間乾熱セットし、仕上げセットを行った。
【0078】
上記染色後の筒編み、および仕上げセット後の筒編みを試料とし、ミノルタ製分光測色計CM-3700d型を用いてD65光源、視野角度10°、光学条件をSCE(正反射光除去法)として、色調(L*値、a*値、b*値)を測定した。なお、測定は1試料につき3回行い、その平均値を採用した。また、色調測定結果を基に、下記式を用いてΔEを算出した。
ΔL*=L*(仕上げセット後)-L*(染色後)
Δa*=a*(仕上げセット後)-a*(染色後)
Δb*=b*(仕上げセット後)-b*(染色後)
ΔE={(ΔL*)2+(Δa*)2+(Δb*)2}0.5 。
【0079】
I.発色性
上記Hで作製した仕上げセット後の筒編みについて、5年以上の品位判定の経験を有する検査員5名の合議によって、S、A、B、Cの4段階で発色性を評価した。評価は、Sが最も良く、A、Bの順に悪くなり、Cが最も劣ることを示す。
S:鮮やかで深みのある発色が十分ある
A:鮮やかで深みのある発色が概ね十分ある
B:鮮やかで深みのある発色がほとんどない
C:鮮やかで深みのある発色がない。
【0080】
J.均染性
上記Hで作製した仕上げセット後の筒編みについて、5年以上の品位判定の経験を有する検査員5名の合議によって、S、A、B、Cの4段階で均染性を評価した。評価は、Sが最も良く、A、Bの順に悪くなり、Cが最も劣ることを示す。
S:非常に均一に染色されており、全く染め斑が認められない
A:ほぼ均一に染色されており、ほとんど染め斑が認められない
B:ほとんど均一に染色されておらず、うっすらと染め斑が認められる
C:均一に染色されておらず、はっきりと染め斑が認められる。
【0081】
K.摩擦堅牢度(汚染)
摩擦堅牢度の評価は、JIS L0849:2013(摩擦に対する染色堅ろう度試験方法)9.2
摩擦試験機II形(学振形)法の乾燥試験に準じて行った。上記Hで作製した仕上げセット後の筒編みを試料として、大栄科学精機製学振型摩擦試験機RT-200を用いて、JIS L0803:2011に規定の白綿布(綿3-1号)で試料へ摩擦処理を施した後、白綿布の汚染の度合いをJIS L0805:2005に規定の汚染用グレースケールを用いて級判定することによって、摩擦堅牢度(汚染)を評価した。
【0082】
L.洗濯堅牢度(変退色、液汚染)
洗濯堅牢度の評価は、JIS L0844:2011(洗濯に対する染色堅ろう度試験方法)A-2号に準じて行った。上記Hで作製した仕上げセット後の筒編みを試料として、大栄科学製作所製ラウンダメーターを用いて、JIS L0803:2011に規定の添付白綿布(綿3-1号、ナイロン7-1号)とともに試料を洗濯処理した後、試料の変退色の度合いをJIS L0804:2004に規定の変退色用グレースケールを用いて級判定することによって、洗濯堅牢度(変退色)を評価した。また、洗濯処理後の洗液の汚染の度合いをJIS L0805:2005に規定の汚染用グレースケールを用いて級判定することによって、洗濯堅牢度(液汚染)を評価した。
【0083】
M.色泣き(汚染)
色泣きの評価は、大丸法に準じて行った。上記Hで作製した仕上げセット後の筒編みを裁断して2.5cm×3.0cmとした試験片を、2.5cm×20cmに裁断したJIS L0803:2011に規定の白綿布(綿3-1号)へ縫い付けた。続いて、0.05%非イオン界面活性剤水溶液の入ったビーカーへ試験片2.0cmを垂直に浸漬し、室温で2時間静置した。その後、ビーカーを取り除き、そのままの状態で自然乾燥し、白綿布の汚染の度合いをJIS L0805:2005に規定の汚染用グレースケールを用いて級判定することによって、色泣き(汚染)を評価した。
【0084】
[実施例1]
ポリプロピレン(PP)(日本ポリプロ製ノバテックMA2)を90重量部、ジカルボン酸成分としてイソフタル酸(IPA)を30mol%共重合したポリエチレンテレフタレートを10重量部添加して、二軸エクストルーダーを用いて混練温度280℃で混練を行った。二軸エクストルーダーより吐出されたストランドを水冷した後、ペレタイザーにて5mm長程度にカットして、ペレットを得た。得られたペレットを150℃で12時間真空乾燥した後、エクストルーダー型溶融紡糸機へ供給して溶融させ、紡糸温度285℃、吐出量32.5g/分で紡糸口金(吐出孔径0.18mm、吐出孔長0.23mm、孔数48、丸孔)から吐出させて紡出糸条を得た。この紡出糸条を風温20℃、風速25m/分の冷却風で冷却し、給油装置で油剤を付与して収束させ、1250m/分で回転する第1ゴデットローラーで引き取った後、1250m/分で回転する第2ゴデットローラーを介して、1250m/分で回転するワインダーで巻き取って、260dtex-48fの未延伸糸を得た。得られた未延伸糸を第1ホットローラー温度30℃、第2ホットローラー温度30℃、第3ホットローラー温度130℃の条件で2段延伸とし、総延伸倍率3.1倍の条件で延伸し、84dtex-48fの延伸糸を得た。得られた繊維の繊維特性および布帛特性の評価結果を表1に示す。
【0085】
[実施例2~7]、[比較例1、2]
実施例1において、ポリオレフィン(A)の溶融粘度(ηA)とポリエステル(B)の溶融粘度(ηB)との溶融粘度比(ηB/ηA)を表1に示すとおり変更した以外は、実施例1と同様に延伸糸を作製した。得られた繊維の繊維特性および布帛特性の評価結果を表1に示す。
【0086】
比較例1ではポリオレフィン(A)に対するポリエステル(B)の溶融粘度が高いため、得られた繊維は繊維中のポリエステル(B)の配向パラメータが大きく、すなわちポリエステル(B)の分子配向が高いものであった。そのため、染料を十分に染着できず、発色性に劣るものであった。比較例2では、ポリオレフィン(A)に対するポリエステル(B)の溶融粘度が低いため、得られた繊維は繊維中のポリエステル(B)の配向パラメータが小さく、すなわちポリエステル(B)の分子配向が低いものであった。そのため、発色性に優れるものの、染色後の還元洗浄による染料の脱落や、摩擦や洗濯による染料の脱落が顕著であり、染色堅牢度と均染性に劣るものであった。
【0087】
[実施例8~10]、[比較例3]
実施例4において、ポリエステル(B)におけるイソフタル酸の共重合率を表2に示すとおり変更した以外は、実施例4と同様に延伸糸を作製した。得られた繊維の繊維特性および布帛特性の評価結果を表2に示す。
【0088】
比較例3ではポリエステル(B)におけるイソフタル酸の共重合率が低く、溶融紡糸時に島成分のポリエステル(B)が分子配向しやすいため、得られた繊維は繊維中のポリエステル(B)の配向パラメータが大きく、すなわちポリエステル(B)の分子配向が高いものであった。そのため、染料を十分に染着できず、発色性に劣るものであった。
【0089】
[実施例11~13]、[比較例4]
実施例4において、ポリオレフィン(A)とポリエステル(B)の複合比率を表2に示すとおり変更した以外は、実施例4と同様に延伸糸を作製した。得られた繊維の繊維特性および布帛特性の評価結果を表2に示す。
【0090】
比較例4では、ポリエステル(B)の複合比率が低く、溶融紡糸時に島成分のポリエステル(B)にかかる紡糸応力が高いため、得られた繊維は繊維中のポリエステル(B)の配向パラメータが大きく、すなわちポリエステル(B)の分子配向が高いものであった。そのため、染料を十分に染着できず、発色性に劣るものであった。
【0091】
[実施例14~19]、[比較例5、6]
実施例4において、総延伸倍率を実施例14では3.7倍、実施例15では3.5倍、実施例16では3.4倍、実施例17では2.6倍、実施例18では2.5倍、実施例19では2.4倍、比較例5では2.0倍、比較例6では3.9倍に変更した以外は、実施例4と同様に延伸糸を作製した。得られた繊維の繊維特性および布帛特性の評価結果を表3に示す。
【0092】
比較例5では、総延伸倍率が低いため、得られた繊維は繊維中のポリエステル(B)の配向パラメータが小さく、すなわちポリエステル(B)の分子配向が低いものであった。そのため、発色性に優れるものの、染色後の還元洗浄による染料の脱落や、摩擦や洗濯による染料の脱落が顕著であり、染色堅牢度と均染性に劣るものであった。比較例6では、総延伸倍率が高いため、得られた繊維は繊維中のポリエステル(B)の配向パラメータが大きく、すなわちポリエステル(B)の分子配向が高いものであった。そのため、染料を十分に染着できず、発色性に劣るものであった。
【0093】
[実施例20、21]
実施例4において、第1ゴデットローラー、第2ゴデットローラーおよびワインダーの速度を実施例20では2000m/分、実施例21では3000m/分に変更した以外は、実施例4と同様に延伸糸を作製した。得られた繊維の繊維特性および布帛特性の評価結果を表4に示す。
【0094】
[実施例22]
実施例4において、紡出糸条を風温20℃、風速25m/分の冷却風で冷却し、給油装置で油剤を付与して収束させ、温度を30℃として1000m/分で回転する第1加熱ローラーで引き取った後、温度を130℃として3100m/分で回転する第2加熱ローラーで延伸(延伸倍率3.1倍)を行い、2980m/分で回転する第3ゴデットローラーおよび第4ゴデットローラーを介して、2910m/分で回転するワインダーで巻き取って、84dtex-48fの延伸糸を得た。得られた繊維の繊維特性および布帛特性の評価結果を表4に示す。
【0095】
[実施例23~25]
実施例4、21、22で得られた延伸糸を用いて、下記条件で仮撚加工して仮撚加工糸を作製した。FR(フィードローラー)、1DR(1ドローローラー)、ヒーター、冷却板、仮撚装置、2DR(2ドローローラー)、3DR(3ドローローラー)、交絡ノズル、4DR(4ドローローラー)、ワインダーを備えた延伸仮撚加工装置を用いて、FR速度:350m/分、FR-1DR間の加工倍率:1.05倍、熱板型の接触式ヒーター(長さ110mm):145℃、冷却板長さ:65mm、フリクションディスク型摩擦仮撚装置、2DR-3DR間倍率:1.0倍、3DR-4DR間倍率:0.98倍、3DR-4DR間において交絡ノズルによる交絡付与、4DR-ワインダー倍率:0.94倍で仮撚加工し、仮撚加工糸を得た。得られた繊維の繊維特性および布帛特性の評価結果を表4に示す。
【0096】
[実施例26~28]
実施例4において、実施例26では紡糸口金の孔数を24、実施例27では紡糸口金の孔数を96、実施例28では吐出量を51.1g/分、紡糸口金の孔数を144に変更した以外は、実施例4と同様に延伸糸を作製した。得られた繊維の繊維特性および布帛特性の評価結果を表4に示す。
【0097】
[実施例29~34]
実施例4において、ポリエステル(B)として、実施例29ではジカルボン酸成分としてフタル酸を30mol%共重合したポリエチレンテレフタレート、実施例30ではジカルボン酸成分として5-スルホイソフタル酸ナトリウム(SSIA)を1.5mol%共重合したポリエチレンテレフタレート、実施例31ではジカルボン酸成分としてアジピン酸を15mol%共重合したポリエチレンテレフタレート、実施例32ではジオール成分としてジエチレングリコール(DEG)を5重量%共重合したポリエチレンテレフタレート、実施例33ではジオール成分としてネオペンチルグリコール(NPG)を10重量%共重合したポリエチレンテレフタレート、実施例34ではジオール成分としてポリエチレングリコール(PEG)(三洋化成工業製PEG1000、数平均分子量1000g/mol)を10重量%共重合したポリエチレンテレフタレートを用いた以外は、実施例4と同様に延伸糸を作製した。得られた繊維の繊維特性および布帛特性の評価結果を表5に示す。
【0098】
[実施例35、36]、[比較例7]
実施例4において、ポリエステル(B)としてポリエチレンテレフタレート(PET)を用い、ポリオレフィン(A)の溶融粘度(ηA)とポリエステル(B)の溶融粘度(ηB)との溶融粘度比(ηB/ηA)を表6に示すとおり変更した以外は、実施例4と同様に延伸糸を作製した。得られた繊維の繊維特性および布帛特性の評価結果を表6に示す。
【0099】
比較例7では、ポリエステル(B)において共重合成分を共重合していないため、溶融紡糸時に島成分のポリエステル(B)が分子配向しやすいことに加えて、ポリオレフィン(A)に対するポリエステル(B)の溶融粘度が高いため、得られた繊維は繊維中のポリエステル(B)の配向パラメータが大きく、すなわちポリエステル(B)の分子配向が高いものであった。そのため、染料を十分に染着できず、発色性に劣るものであった。
【0100】
[実施例37、38]、[比較例8]
実施例4において、ポリエステル(B)としてポリブチレンテレフタレート(PBT)を用い、ポリオレフィン(A)の溶融粘度(ηA)とポリエステル(B)の溶融粘度(ηB)との溶融粘度比(ηB/ηA)を表6に示すとおり変更した以外は、実施例4と同様に延伸糸を作製した。得られた繊維の繊維特性および布帛特性の評価結果を表6に示す。
【0101】
比較例8では、ポリエステル(B)において共重合成分を共重合していないため、溶融紡糸時に島成分のポリエステル(B)が分子配向しやすいことに加えて、ポリオレフィン(A)に対するポリエステル(B)の溶融粘度が高いため、得られた繊維は繊維中のポリエステル(B)の配向パラメータが大きく、すなわちポリエステル(B)の分子配向が高いものであった。そのため、染料を十分に染着できず、発色性に劣るものであった。
【0102】
[実施例39、40]、[比較例9]
実施例4において、ポリエステル(B)としてポリ乳酸(PLA)を用い、ポリオレフィン(A)の溶融粘度(ηA)とポリエステル(B)の溶融粘度(ηB)との溶融粘度比(ηB/ηA)を表6に示すとおり変更した以外は、実施例4と同様に延伸糸を作製した。得られた繊維の繊維特性および布帛特性の評価結果を表6に示す。
【0103】
比較例9では、ポリエステル(B)において共重合成分を共重合していないため、溶融紡糸時に島成分のポリエステル(B)が分子配向しやすいことに加えて、ポリオレフィン(A)に対するポリエステル(B)の溶融粘度が高いため、得られた繊維は繊維中のポリエステル(B)の配向パラメータが大きく、すなわちポリエステル(B)の分子配向が高いものであった。そのため、染料を十分に染着できず、発色性に劣るものであった。
【0104】
[実施例41~46]
実施例4において、ポリエステル(B)として、実施例41ではイソフタル酸(IPA)を30mol%共重合したポリプロピレンテレフタレート(PPT)、実施例42ではイソフタル酸(IPA)を30mol%共重合したポリブチレンテレフタレート(PBT)、実施例43ではイソフタル酸(IPA)を30mol%共重合したポリエチレンナフタレート(PEN)、実施例44ではイソフタル酸(IPA)を30mol%共重合したポリ乳酸(PLA)、実施例45ではイソフタル酸(IPA)を30mol%共重合したポリグリコール酸(PGA)、実施例46ではイソフタル酸(IPA)を30mol%共重合したポリカプロラクトン(PCL)に変更した以外は、実施例4と同様に延伸糸を作製した。得られた繊維の繊維特性および布帛特性の評価結果を表7に示す。
【0105】
[実施例47~49]
実施例4、30、31において、ポリオレフィン(A)をポリプロピレンからポリメチルペンテン(PMP)(三井化学製DX820)に変更した以外は、実施例4、30、31と同様に延伸糸を作製した。得られた繊維の繊維特性および布帛特性の評価結果を表7に示す。
【0106】
【0107】
【0108】
【0109】
【0110】
【0111】
【0112】
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明の可染性ポリオレフィン繊維は、軽量性に優れるポリオレフィン繊維に鮮やかで深みのある発色性が付与されており、染色堅牢度や均染性にも優れるものであり、繊維構造体として好適に用いることができる。