(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-06
(45)【発行日】2023-01-17
(54)【発明の名称】クロスフローろ過用中空糸膜モジュールおよびその運転方法
(51)【国際特許分類】
B01D 63/02 20060101AFI20230110BHJP
B01D 69/00 20060101ALI20230110BHJP
B01D 69/02 20060101ALI20230110BHJP
C02F 1/44 20230101ALI20230110BHJP
【FI】
B01D63/02
B01D69/00
B01D69/02
C02F1/44 A
(21)【出願番号】P 2021539380
(86)(22)【出願日】2021-06-30
(86)【国際出願番号】 JP2021024727
(87)【国際公開番号】W WO2022004780
(87)【国際公開日】2022-01-06
【審査請求日】2022-03-23
(31)【優先権主張番号】P 2020112493
(32)【優先日】2020-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 憲太郎
(72)【発明者】
【氏名】小崎 陽一郎
(72)【発明者】
【氏名】金森 智子
(72)【発明者】
【氏名】小林 敦
【審査官】高橋 成典
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/115769(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/209150(WO,A1)
【文献】特開2018-051483(JP,A)
【文献】特開2019-166474(JP,A)
【文献】特開2006-205127(JP,A)
【文献】特開2005-349379(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 61/00 - 71/82
C02F 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロスフローろ過用中空糸膜モジュールを用いて、ろ過流束J(m/d)と、クロスフロー線速度v(m/s)が以下の要件を満たすようにクロスフローろ過を行う、中空糸膜モジュールの運転方法
であって、
0.5≦J≦2.0
1.0≦v≦1.8
濁度が20NTU以上であり、かつTOC濃度が1000mg/L以上の原液に対して、クロスフローろ過を行い、
前記クロスフローろ過用中空糸膜モジュールは、少なくとも原液導入口と、原液導出口と、ろ過液導出口とを有する容器に、複数の中空糸膜が充填されており、
前記複数の中空糸膜は、前記原液導入口側の端部は封止され、前記ろ過液導出口側の端部は開口しており、少なくとも前記ろ過液導出口側の端部は接着剤により固定されたポッティング部を有し、
前記容器内の、前記原液導入口と前記原液導出口が接続する原液側空間と、前記ろ過液導出口が接続するろ過液側空間とが、前記複数の中空糸膜と前記ポッティング部によって分離されており、前記原液側空間が前記中空糸膜の外表面と接しており、
前記原液導入口の断面積S
f
と前記容器内の流路面積S
p
との比S
f
/S
p
が0.35以上であり、
前記中空糸膜の純水透過性能K(m
3
/m
2
/hr/50kPa)と、前記中空糸膜の内径D
i
(μm)が、3.0≦K≦20.0、350≦D
i
≦600を満たし、
ろ過液の濁度が10NTU以下であり、かつTOC濃度が1000mg/L以上である、中空糸膜モジュールの運転方法。
【請求項2】
粘度が2mPa・s以上の原液に対してクロスフローろ過を行う、請求項
1に記載の中空糸膜モジュールの運転方法。
【請求項3】
前記クロスフローろ過用中空糸膜モジュールは、前記原液と接触する前記中空糸膜の軸方向長さL(m)が、0.5≦L≦2.0である、請求項1または2に記載の中空糸膜モジュールの運転方法。
【請求項4】
前記クロスフローろ過用中空糸膜モジュールは、前記中空糸膜の外径D
o
(μm)、充填率M(%)及び内径D
i
(μm)が下記式(2)の関係を満たす、請求項1~3のいずれか1項に記載の中空糸膜モジュールの運転方法。
0.33×D
o
-10×M+420≦D
i
≦0.33×D
o
-10×M+550・・・(2)
【請求項5】
前記充填率M(%)が、25≦M≦45である、請求項4に記載の中空糸膜モジュールの運転方法。
【請求項6】
前記外径D
o
(μm)が、850≦D
o
≦1500である、請求項4又は5に記載の中空糸膜モジュールの運転方法。
【請求項7】
前記内径D
i
(μm)に対する前記中空糸膜の膜厚D
t
(μm)の比D
t
/D
i
が、0.40≦D
t
/D
i
≦0.65である、請求項1~3のいずれか1項に記載の中空糸膜モジュールの運転方法。
【請求項8】
前記中空糸膜の強力が250gf/本以上である、請求項1~7のいずれか1項に記載の中空糸膜モジュールの運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロスフローろ過用中空糸膜モジュールおよびその運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
分離膜を用いた膜ろ過は、飲料水製造、浄水処理若しくは排水処理等の水処理分野、微生物や培養細胞の培養を伴う発酵分野、又は、食品工業分野等、様々な方面で利用されている。中でも中空糸膜モジュールを用いた膜ろ過は、処理水量の大きさ、洗浄の容易さ等から、多くの分野で用いられている。
【0003】
食品工業分野においては、水処理分野の原液と比較して原液の濁度が高い場合が多く、水処理分野で採用されることの多い全量ろ過運転では、中空糸膜の閉塞、いわゆるファウリングが急速に進行する。そのため、本用途では、ファウリングをより抑制可能な、クロスフローろ過運転が行われる。クロスフローろ過運転とは、中空糸膜表面に平行な原液の流れを常に作用させ、その内の一部をろ過するという方法である。この方法では、中空糸膜表面に平行な流れの作用により中空糸膜表面への濁質蓄積を予防しながら運転できるため、ファウリングを大幅に低減することが可能となる。
【0004】
一般的に外圧ろ過用中空糸膜モジュールのろ過運転では、中空糸内部の通液抵抗の影響で中空糸内部に圧力損失が生じるため、中空糸膜の軸方向で膜間差圧に差が生じる。また、クロスフローろ過運転では中空糸膜内部の通液抵抗に加えて中空糸膜外部にも原液流れによる圧力損失が生じる。この圧力損失により、中空糸膜モジュールの原液入口側の膜間差圧が大きくなり、ろ過液出口側の膜間差圧は小さくなる傾向にある。つまり、中空糸膜の軸方向での膜間差圧差が大きくなる。さらに、運転条件によっては中空糸膜のろ過液出口付近において原液側の圧力よりもろ過液側の圧力が大きくなるという逆転現象が生じ、ろ過液が逆流するケースもある。ろ過液出口付近で逆流する分を補うため、中空糸膜の原液入口部付近では過剰な量をろ過することとなる。その結果として、中空糸膜の軸方向でろ過流束に差が生じることとなる。このような状態で運転した場合、ろ過流束が早い箇所ではファウリングの進行が早くなり、膜モジュール全体として、ファウリングの進行が速くなる。
【0005】
ファウリングが一定状態に達すると薬液により洗浄してファウリングを解消するが、ファウリングが早く進むことにより薬液洗浄頻度が高くなるという問題がある。全量ろ過運転では中空糸膜内部の圧力損失が支配的であるが、クロスフローろ過運転では中空糸膜内部の通液抵抗に加えて中空糸膜外部にも原液流れによる圧力損失が生じる。このため、運転条件によっては中空糸膜のろ過液出口付近において原液側の圧力よりもろ過液側の圧力が大きくなるという逆転現象が生じ、ろ過液が逆流する。ろ過液出口付近で逆流する分を補うため、中空糸膜の原液導入部付近では過剰な原液量をろ過することとなってしまう。クロスフローろ過運転では、以上のように原液流れによる中空糸膜表面の濁質蓄積予防はあるものの、原液側の圧力損失が大きくなることで原液入口部のファウリングが早くなるという現象も生じており、結果として、モジュール全体のファウリングが進行するという問題があった。
【0006】
特許文献1では、ろ過流束が大きくなる開口端側の透水性を低くし、ろ過流束が小さくなる封止端側の透水性を高くした膜モジュールとする方法が開示されており、膜間差圧差を小さくすることに成功している。特許文献2では中空糸膜の軸方向で外径、内径、膜圧を変えることで、膜間差圧差を抑制する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】日本国特開平04-11927号公報
【文献】日本国特開平07-96152号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
これらの方法は膜の性能を軸方向で制御する必要があるが、このような膜を製造することには、製膜工程が複雑化、煩雑化することとなり、現実的ではない。そのため、汎用的な軸方向に性能が均質な中空糸膜において、ろ過液出口付近での逆流を抑制する技術が望まれていた。
【0009】
そこで本発明は、クロスフロー流れに伴う原液側の圧力損失によって生じる、中空糸膜の膜間差圧差の増大ならびにろ過液出口付近のろ過液逆流を抑制し、膜ファウリングの進行を低減することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明は、以下のクロスフローろ過用中空糸膜モジュールおよびその運転方法を提供する。
<1>少なくとも原液導入口と、原液導出口と、ろ過液導出口とを有する容器に、複数の中空糸膜が充填されたクロスフローろ過用中空糸膜モジュールであって、前記複数の中空糸膜は、前記原液導入口側の端部は封止され、前記ろ過液導出口側の端部は開口しており、少なくとも前記ろ過液導出口側の端部は接着剤により固定されたポッティング部を有し、前記容器内の、前記原液導入口と前記原液導出口が接続する原液側空間と、前記ろ過液導出口が接続するろ過液側空間とが、前記複数の中空糸膜と前記ポッティング部によって分離されており、前記原液側空間が前記中空糸膜の外表面と接しており、前記中空糸膜の純水透過性能K(m3/m2/hr/50kPa)と、前記中空糸膜の内径Di(μm)が以下の要件を満たす、クロスフローろ過用中空糸膜モジュール。
2.0≦K≦20.0
350≦Di≦600
<2>原液と接触する前記中空糸膜の軸方向長さL(m)が、0.5≦L≦2.0である、前記<1>に記載のクロスフローろ過用中空糸膜モジュール。
<3>前記中空糸膜の外径Do(μm)、充填率M(%)及び内径Di(μm)が下記式(2)の関係を満たす、前記<1>または<2>に記載のクロスフローろ過用中空糸膜モジュール。
0.33×Do-10×M+420≦Di≦0.33×Do-10×M+550 ・・・(2)
<4>前記充填率M(%)が以下の要件を満たす、前記<3>に記載のクロスフローろ過用中空糸膜モジュール。
25≦M≦45
<5>前記外径Do(μm)が以下の要件を満たす、前記<3>又は<4>に記載のクロスフローろ過用中空糸膜モジュール。
850≦Do≦1500
<6>前記内径Di(μm)に対する前記中空糸膜の膜厚Dt(μm)の比Dt/Diが以下の要件を満たす、前記<1>または<2>に記載のクロスフローろ過用中空糸膜モジュール。
0.40≦Dt/Di≦0.65
<7>前記中空糸膜の強力が250gf/本以上である、前記<1>~<6>のいずれか1つに記載のクロスフローろ過用中空糸膜モジュール。
<8>前記原液導入口の断面積Sfと前記容器内の流路面積Spとの比Sf/Spが0.35以上である、前記<1>~<7>のいずれか1つに記載のクロスフローろ過用中空糸膜モジュール。
<9>前記<1>~<8>のいずれか1つに記載のクロスフローろ過用中空糸膜モジュールを用いて、ろ過流束J(m/d)と、クロスフロー線速度v(m/s)が以下の要件を満たすようにクロスフローろ過を行う、中空糸膜モジュールの運転方法。
0.5≦J≦2.0
1.0≦v≦1.8
<10>濁度が20NTU以上であり、かつTOC濃度が1000mg/L以上の原液に対して、クロスフローろ過を行う、前記<9>に記載の中空糸膜モジュールの運転方法。
<11>ろ過液の濁度が10NTU以下であり、かつTOC濃度が1000mg/L以上である、前記<10>に記載の中空糸膜モジュールの運転方法。
<12>粘度が2mPa・s以上の原液に対してクロスフローろ過を行う、前記<9>~<11>のいずれか1つに記載の中空糸膜モジュールの運転方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、クロスフローろ過運転時のろ過液出口付近での逆流を抑制しつつ、中空糸膜軸方向の膜間差圧差を小さくし、ファウリングの進行を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の中空糸膜モジュールの一形態を示す、概略図である。
【
図2】
図2は、全量ろ過運転が適用される膜ろ過ユニットの一形態を示す、概略フロー図である。
【
図3】
図3は、クロスフローろ過が適用される膜ろ過ユニットの一形態を示す、概略フロー図である。
【
図4】
図4は、クロスフローろ過が適用される膜ろ過ユニットの別の一形態を示す、概略フロー図である。
【
図5】
図5は、中空糸膜モジュール内の圧力分布をシミュレーションするためのモデルを示す、概略図である。
【
図6】
図6は、シミュレーションを検証するための膜ろ過ユニットの一形態を示す、概略フロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
尚、本明細書において、「質量」は「重量」と同義である。
【0014】
図1は、本発明のクロスフローろ過用中空糸膜モジュール(以下、中空糸膜モジュールともいう。)の一形態を示す概略図である。以下、本明細書において、「上」、「下」等の方向は、図面に示す状態に基づいており、便宜的なものであって、
図1において、ろ過液導出口3側を上方向、原液導入口2側を下方向として説明する。
【0015】
本発明のクロスフローろ過用中空糸膜モジュール10は、原液導入口2と、ろ過液導出口3と、原液導出口4と、を有する容器1に、中空糸膜5が充填されている。中空糸膜5は、その両端部が第1ポッティング部8、第2ポッティング部9に包埋されており、第1ポッティング部8、第2ポッティング部9は容器1に固定されている。第1ポッティング部8に包埋された中空糸膜5の下端部は封止されている。また、第1ポッティング部8は原液導入口2から導入された原液を通液するための複数の貫通孔を備えている。一方第2ポッティング部9に包埋された中空糸膜5の上端部は開口された状態で包埋されている。
【0016】
原液導入口2、ろ過液導出口3及び原液導出口4は、容器1と配管(不図示)を接続する円筒形のノズルであり、同じく円筒形の容器1に開口した状態で固定されている。原液導入口2は容器1の下端部に接続し、ろ過液導出口3は上端部に接続される。原液導出口4は容器1の側面に接続され、第2ポッティング部9付近に備えられる。これらの素材は樹脂製、金属製いずれも使用することができる。
【0017】
容器1に充填される中空糸膜5は、液体の分離機能を備える、高分子からなる中空の糸状の膜である。中空糸膜5は、容器1の軸方向と、中空糸膜5の軸方向が平行になるように充填される。軸方向とは、容器1の長さ方向及び中空糸膜5の長さ方向のことである。
【0018】
複数の中空糸膜が接着剤により固定された第1ポッティング部8と第2ポッティング部9とは、束ねられた中空糸同士の間隙が、いわゆる接着剤である、ポッティング樹脂を主成分とするポッティング剤で充填された部位をいう。ポッティング部は、中空糸膜束の端部に形成されることが好ましい。
【0019】
ポッティング剤の主成分となるポッティング樹脂としては、中空糸膜との接着性、耐熱性及び化学的耐久性に優れる、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂又はシリコーン樹脂が好ましい。またポッティング剤は、例えば、ポッティング樹脂以外にシリカ、タルク、マイカ、クレー、炭酸カルシウム、ガラス又はゴム等の添加材を含んでいても構わない。
【0020】
第1ポッティング部8は中空糸膜5の原液導入口側端部に形成される。中空糸膜5の原液導入口側端部は封止されている。封止されるとは、中空糸膜5の内部を流れる液が、封止された端部からは導出されない状態のことである。第1ポッティング部8は容器1に固定されるが、原液導入口2から導入される原液を通液するための複数の貫通孔を有しており、貫通孔を通じて原液が中空糸膜5に導入される。貫通孔の形状、数に指定はなく、通液する原液流量に応じて、抵抗や流れムラの発生を抑えるべく適宜設けられる。
【0021】
第1ポッティング部8は、原液流れによって第1ポッティング部8が浮上しないよう位置固定されていればよく、容器1に接着固定したり、取り外しが可能なカートリッジ構造としてもよい。位置固定の方法は特に指定はなく、容器1と第1ポッティング部8間を位置固定する構造や、第2ポッティング部9と第1ポッティング部8間を位置固定する構造など適宜選定できる。
【0022】
また第1ポッティング部8は、中空糸膜5の原液導入口側端部が封止されていれば必須ではなく、中空糸膜束同士をポッティング剤で固定するいわゆる固定端ではなく、ポッティング剤で固定されない自由端としてもよい。自由端とは、中空糸膜同士がポッティング剤で固定されておらず、自由に可動できる状態である。この場合、中空糸膜5の原液導入口側端部を封止する方法としては、ポッティング剤を中空糸膜5の中空部に注入して封止する方法や、端部を熱で溶着して封止する方法などが適用できる。
【0023】
次に第2ポッティング部9は、中空糸膜5のろ過液導出口側端部に形成され、中空糸膜5のろ過液導出口側端部を開口した状態で固定する。開口した状態とは、中空糸膜の内部を流れる液が開口した端部から導出される状態のことである。
【0024】
第2ポッティング部9は容器1に固定されているが、原液とろ過液を液密に分離できるのであれば、第2ポッティング部9と容器1を接着固定したり、いわゆるカートリッジタイプのように中空糸膜を着脱できる構造としてもよい。カートリッジタイプの場合には、第2ポッティング部9と容器1を、Oリングなどを介して接続してもよい。
【0025】
以上の構造を備えた中空糸膜モジュールにおいては、容器1の内部は、中空糸膜5と第2ポッティング部9によって、原液が充填される原液側空間6と、ろ過液が充填されるろ過液側空間7に分離されており、原液側空間6は中空糸膜5の外表面が接する空間、ろ過液側空間7は中空糸膜5の内表面が接する空間となっている。
【0026】
本発明は、原液導入口2及び原液導出口4は原液側空間6に、ろ過液導出口3はろ過液側空間7に接続しているいわゆる外圧型中空糸膜モジュールに適用される発明となる。別の中空糸膜モジュールの形態として内圧型中空糸膜モジュールが挙げられるが、本発明は内圧型中空糸膜モジュールには適用されない。
【0027】
次に、
図1に示す中空糸膜モジュールを用いた運転方法について
図2及び
図3を用いて説明する。
【0028】
図2は全量ろ過運転が適用される膜ろ過ユニットのフロー図である。原液タンク12より供給ポンプ14にて原液が容器1に供給される。原液導入口2より容器1内に導入された原液は、
図1に示した第1ポッティング部8の貫通孔を通り、原液側空間6を中空糸膜5の軸方向に平行な流れで送液される。その後、原液導出口4より容器1から導出される。導出した原液は系外に排出してもよいし、原液タンク12に返送してもよい。原液側空間6が原液で満たされた後、供給ポンプ14を稼働させた状態で、濃縮液弁21を閉として、ろ過液弁22を開とすることで原液が加圧され、原液が中空糸膜5を透過してろ過液側空間7へと移行する。その後中空糸膜5の内部を通り、第2ポッティング部9の開口した端面を通じて、ろ過液導出口より導出される。導出されたろ過液はろ過液タンク13に送液される。
【0029】
このような運転方法を全量ろ過運転と呼ぶ。全量ろ過運転では、ろ過液流量計32で観測されるろ過流量が一定となるように運転される場合が多い。このとき、原液導入圧力計41で観測される原液導入圧力P1とろ過液導出圧力計43で観測されるろ過液導出圧力P3との差を膜間差圧と呼び、膜間差圧が所定圧力に到達するまで、運転が継続される。
【0030】
全量ろ過運転では、原液側空間6の流れが遅いため原液側空間6での圧力損失が非常に小さい。中空糸膜内部については、細い流路をろ過液が流れるため、通液抵抗による圧力損失が生じているが、原液側の圧力損失が小さいことから、中空糸膜軸方向の膜間差圧差は比較的小さい。
【0031】
一方
図3は、クロスフローろ過運転が適用される膜ろ過ユニットのフロー図である。全量ろ過運転と同じように、原液タンク12より供給ポンプ14にて原液が容器1に供給される。原液導入口2より容器1内に導入された原液は、
図1に示した第1ポッティング部8の貫通孔を通り、原液側空間6を中空糸膜5の軸方向に平行な流れで送液される。その後、原液導出口4より容器1から導出される。
【0032】
クロスフローろ過運転は、ろ過流量の10~30倍程度の流量で循環することにより、流れのせん断効果で、膜表面に原液由来の膜閉塞成分が蓄積することを防止でき、安定したろ過が可能になる運転方法である。特に膜表面に蓄積する閉塞成分が多い原液をろ過するのに適した運転方法である。
【0033】
クロスフローろ過運転においても、ろ過液流量計32で観測されるろ過流量が一定となるように運転される場合が多い。さらに、濃縮液流量計31で観測される濃縮液循環流量についても一定となるように運転される。クロスフローろ過運転では、原液導入圧力計41と原液導出圧力計42で観測される原液導入圧力P1と原液導出圧力P2の平均値と、ろ過液導出圧力計43で観測されるろ過液導出圧力P3との差を膜間差圧と呼び、膜間差圧が所定圧力に到達するまで、運転が継続される。
【0034】
図4は、クロスフローろ過運転が適用される膜ろ過ユニットの別の一様態のフロー図である。クロスフローろ過運転では循環する液量が多く、ポンプ動力が全量ろ過と比較して多くなる。そこで、流量が小さく揚程が大きな供給ポンプ14と、流量が大きく揚程が小さい循環ポンプ15を組み合わせ、循環流量を少なくする運転方法も採用される。この場合、原液導出口4から導出した原液の一部または全量を、供給ポンプ14と循環ポンプ15の間の配管に返送して循環利用するのが好適である。原液側空間6が原液で満たされた後、供給ポンプ14を稼働させた状態で、濃縮液弁21を絞り、ろ過液弁22を開とすることで原液が加圧され、原液が中空糸膜を透過してろ過液側空間7へと移行する。その後中空糸膜内部を通り、第2ポッティング部9の開口した端面を通じて、ろ過液導出口3より導出される。導出されたろ過液はろ過液タンク13に送液される。
【0035】
クロスフローろ過運転では原液側空間6での流れが早いため、原液側空間6での圧力損失が非常に大きくなる。中空糸膜内部についても同様に圧力損失が生じているが、一般的に原液側の圧力損失が大きいため、中空糸膜の軸方向の膜間差圧差は全量ろ過運転と比較すると大きくなる。原液側の圧力損失が大きいことで、中空糸膜5のろ過液導出口3側では、原液の圧力よりろ過液の圧力が相対的に高くなるという逆転現象が生じてしまい、ろ過された液が逆流するという問題を引き起こす。逆流したろ過液量を補うため、中空糸膜5の原液導入口2側では過剰な液量をろ過していることとなるため、膜ファウリングを促進する要因となっていた。
【0036】
この問題に対し、鋭意検討の結果、容器1に充填された中空糸膜5の純水透過性能K、及び中空糸膜5の内径Diを所定の範囲内に制御することで、クロスフローろ過運転時のろ過液導出口3側の膜間差圧が逆転することを抑制しつつ、中空糸膜軸方向の膜間差圧差を抑制できることを見出し、本中空糸膜モジュールの発明に至った。
【0037】
本発明で用いる中空糸膜の純水透過性能K(m3/m2/hr/50kPa)は、2.0≦K≦20.0、すなわち2.0m3/m2/hr/50kPa以上で20.0m3/m2/hr/50kPa以下の範囲である。純水透過性能Kが2.0m3/m2/hr/50kPa(以後、m/hrと表記する。)より小さい場合、対象とする原液のろ過性が低くなることがある。一方、純水透過性能Kが20.0m/hrより高い場合では、膜の孔径が大きくなるため、除去すべき成分の阻止率が悪化し、膜としての性能を発現しないことがある。純水透過性能Kは、2.5~15.0m/hrであるのが好ましく、3.0~10.0m/hrがより好ましい。
【0038】
このような中空糸膜モジュールにおいて、中空糸膜の内径Di(μm)を350≦Di≦600、すなわち350μm以上600μm以下の範囲とすることで、クロスフローろ過運転時の原液側の圧力損失とろ過液側の圧力損失差を小さくすることができ、ろ過液導出口側での逆流を抑制し、ファウリングの進行を低減できることを見出した。内径Diを600μmより大きくした場合には、中空糸膜5の原液導入口2側の膜間差圧が大きくなり、ファウリングの進行が速くなることがある。内径Diが350μmより小さい場合には中空部の圧力損失が高くなることがあるため、内径が大きい場合とは反対に中空糸膜5のろ過液導出口3側の膜間差圧が高くなる。そのため、結果的に中空糸膜5の軸方向の膜間差圧差が大きくなり、ファウリングの進行が速くなる。中空糸膜の内径については、400μm以上550μm以下とすることがさらに好ましい。この範囲に制御することで、ろ過液の逆流を抑制しながら中空糸膜の軸方向の膜間差圧差を抑制でき、ファウリングの低減に効果的である。
【0039】
以下に中空糸膜の純水透過性能K、内径Diについてその測定方法を述べる。
【0040】
純水透過性能Kは中空糸膜3本からなる、中空糸膜の軸方向長さが0.1mのミニチュアモジュールを作製して測定する。温度25℃、ろ過差圧18.6kPaの条件下に、逆浸透膜ろ過水の外圧全量ろ過を10分間行い、透過量(m3)を求める。その透過量(m3)を下記式(1)に基づいて、単位時間(h)および有効膜面積(m2)あたりの値に換算し、さらに(50/18.6)倍することにより、圧力50kPaにおける値に換算することで純水透過性能Kを求める。有効膜面積は、本発明においては中空糸膜5の外表面のうち、実施にろ過に使用される部分の面積である。
K=透過量(m3)/ろ過時間(hr)/有効膜面積(m2)×(50/18.6) ・・・(1)
【0041】
中空糸膜の内径Di(μm)は、中空糸膜を片刃などで軸方向に垂直な面で切断し、断面を顕微鏡などの方法で観察して内円の直径を測定する。内円が扁平している場合には、内円のうち、最も直径が長い部分の長さ(長径)と、最も直径が短い部分の長さ(短径)を測定し、両者を平均して内径Diとしてよい。好ましくは容器1に充填される複数の中空糸膜5から膜を任意に切り取り、10本以上の中空糸膜の内径を平均した値を用いるのがよい。
【0042】
純水透過性能Kは使用前の中空糸膜で測定することが好ましいが、使用により閉塞した中空糸膜の場合には、薬液洗浄などにより純水透過性能Kを初期比90%以上に回復させた膜で測定してもよい。
【0043】
次に、本発明のクロスフローろ過用中空糸膜モジュールにおいて、中空糸膜5の軸方向長さL(m)は0.5≦L≦2.0、すなわち0.5m以上2.0m以下の範囲であることが好ましい。中空糸膜5の軸方向長さLが0.5m未満では中空糸膜モジュール1つあたりの膜面積が小さくなり、ろ過ユニットに導入する中空糸膜モジュール本数が増加するため、設備費や運転動力が高くなることがある。一方、中空糸膜5の軸方向長さLが2.0mを超えると、原液側とろ過液側の圧力損失が大きくなるため、中空糸膜の軸方向での膜間差圧差がさらに大きくなることがある。中空糸膜5の軸方向長さLは、好ましくは0.7m~1.5m、さらに好ましくは0.8~1.2mである。
【0044】
軸方向長さLとは中空糸膜5が容器1に充填された状態で、実際にろ過に使用される部分、すなわち、中空糸膜5の外表面が原液と接する部分の、容器1に平行な向きの長さとなる。
図1においては、中空糸膜5のうち、第1ポッティング部8の第2ポッティング部側端面から、第2ポッティング部9の第1ポッティング部側端面までの中空糸膜の長さとなる。第1ポッティング部8や第2ポッティング部9に包埋された中空糸膜の長さはここでは考慮しない。
【0045】
中空糸膜5がいわゆるU字型で充填され、第2ポッティング部9のみに両端部が開口した状態で包埋された中空糸膜モジュールの場合には、軸方向長さLは、実際にろ過に使用される中空糸膜の長さの半分、すなわち、中空糸膜の外表面が原液と接する部分の糸の長さの半分となる。
【0046】
第1ポッティング部8がなく、中空糸膜5の原液導入口側端部が自由端である場合には、自由端の内、接着剤や熱による封止処理が施されていない部分から、第2ポッティング部9の原液導入口側端面までの長さとなる。
【0047】
また中空糸膜5が捲縮、もしくはよじれている場合においても、軸方向長さLは、中空糸膜のうち実際にろ過に使用される部分、すなわち、中空糸膜の外表面が原液と接する部分の、容器1に平行な向きの長さとして測定してよい。以上のように、本願は中空部の圧力損失を中空糸膜5の内径Diや軸方向長さL、純水透過性能Kを所定の範囲に制御し、原液側の圧力損失との差を均質化して、中空糸膜5の軸方向の膜間差圧差を小さくする技術である。内圧型の中空糸膜モジュールでは中空糸膜の外表面と接する空間がろ過液側となるため、本願の構成では効果を発現しない。そのため、外圧型の中空糸膜モジュールに適用される技術となる。
【0048】
次に、本発明のクロスフローろ過用中空糸膜モジュールにおいては、中空糸膜の外径Do(μm)、充填率M(%)及び内径Di(μm)が下記式(2)の関係を満たすことが好ましい。
0.33×Do-10×M+420≦Di≦0.33×Do-10×M+550 ・・・(2)
【0049】
中空糸膜の充填率Mが同じである中空糸膜モジュールにおいては、中空糸膜の外径Doが小さいほど原液が接触する膜面積が大きくなるため、クロスフロー流れで生じる圧力損失が増大する。本発明者らは、圧力損失が大きいほど、中空糸膜5の軸方向の原液側の圧力差が大きくなるが、中空糸膜の内径Diを小さくすることにより、中空糸膜5のろ過液側の通液抵抗を増大させることで原液側とろ過液側の膜間差圧差を抑制できることを見出した。
【0050】
また外径Doが同じ中空糸膜5を用いた場合、充填率Mが高いほど原液が接触する膜面積が大きくなるため、クロスフロー流れで生じる圧力損失が増大する。圧力損失が大きいほど、中空糸膜5の軸方向の原液側の圧力差が大きくなるが、中空糸膜の内径Diを小さくすることにより、中空糸膜5のろ過液側の通液抵抗を増大させることで原液側とろ過液側の膜間差圧差を抑制できることを見出した。
【0051】
このように、中空糸膜の内径Diは、その外径Doと充填率Mに応じて適切な範囲となるよう設計することが重要である。本発明においては、一般的なクロスフローろ過運転の条件下において、中空糸膜5の内部の通液抵抗と原液側の通液抵抗との差を抑制することが可能となり、逆流を抑制しつつ、中空糸膜5の軸方向の膜間差圧差を抑制できることを見出した。なお、一般的なクロスフローろ過の条件下とは、ろ過流束J(m/d)が0.5~2.0m/dと、クロスフロー線速度v(m/s)が0.5~2.0m/sの条件で運転されることである。ただし原液粘度により、適切な運転条件は変化するため、この限りではない。
【0052】
充填率M(%)は、容器1の中央部分を軸方向に垂直な面でカットした際の容器1の断面積S1と、中空糸膜5の専有面積S2の比であり、下記式(3)で計算される。
【0053】
【0054】
容器1の中央部分を軸方向に垂直な面でカットした際に、容器1と中空糸膜5以外の部材が存在する場合には、容器1の断面積S1は当該部材の断面積を差し引いた形で計算される。すなわち当該部材の断面積がS1’である場合、充填率Mは下記式(4)で計算される。
【0055】
【0056】
充填率M(%)は、25≦M≦45、すなわち25%以上45%以下の範囲であるのが好ましい。充填率Mを25%~45%に制御することで、モジュール当たりの膜面積を確保しつつ、原液側の通液抵抗を低減することができる。充填率Mは、好ましくは28~42%であり、さらに好ましくは30~40%である。
【0057】
中空糸膜の外径Doの測定方法は、内径Diの測定方法と同様であり、中空糸膜を片刃などで軸方向に垂直な面で切断し、断面を顕微鏡などの方法で観察して外円の直径を測定する。外径Do(μm)は、850≦Do≦1500、すなわち850μm以上1500μm以下の範囲であるのが好ましい。外径Doを850μm~1500μmに制御することで、モジュール当たりの膜面積を確保しつつ、原液側の圧力損失を低減できるため、好ましい。
【0058】
中空糸膜5の材料となる高分子としては、例えば、ポリエチレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-アクリル酸エチル共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、アイオノマー、ポリプロピレン若しくはポリ-4-メチルペンテン-1等のオレフィン系ポリマー、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオライド、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体若しくはテトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体等のフッ素含有ポリマー、酢酸セルロース等のセルロース系ポリマー、ポリ塩化ビニル、アクリロニトリル系ポリマー、シリコーン系ポリマー、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリカーボネート又はポリビニルアルコール系ポリマーが挙げられる。得られる中空糸膜の耐熱性、物理的強度及び化学的耐久性を高めるため、フッ素樹脂系高分子、ポリエーテルスルホン又はポリスルホンが好ましいが、膜にかかる負荷の大きいクロスフローろ過用中空糸膜モジュールにおいては、強度に優れるフッ素樹脂系高分子が好ましい。
【0059】
クロスフローろ過では高濁質原液を取り扱う場合が多く、孔径が小さい場合には膜の閉塞が早く進むことから、中空糸膜の分画粒子径φは0.1μm以上とすることが好ましい。分画粒子径φは、0.3μm以上がより好ましく、0.5μm以上がさらに好ましい。一方、分画粒子径φが2.0μmを超えると、阻止すべき成分の除去率が低下することがあるため、分画粒子径φは2.0μm以下にすることが好ましく、さらに好ましくは1.5μm以下である。
【0060】
分画粒子径φは以下の方法で測定することができる。純水透過性能Kを測定するのに使用したミニチュアモジュールと同様のミニチュアモジュールを用意する。そしてポリスチレンラテックス粒子など、サイズが均一な粒子を所定濃度分散させて原液を用意し、ミニチュアモジュールでろ過した際の原液とろ過液の粒子濃度を測定する。これを種々の粒子径のポリスチレンラテックス粒子を用いて測定し、粒子の除去率が90%となる粒子径を分画粒子径φとする。
【0061】
この際のろ過は、粒子による膜閉塞を抑制するためにクロスフローろ過で行うことが好ましく、ろ過流束が0.5~5m/d、クロスフロー線速度が0.5~5m/sの範囲内で行うことが好ましい。
【0062】
以下に本発明の中空糸膜モジュールの製造方法について説明する。
【0063】
(中空糸膜の製造方法)
本発明における中空糸膜の製造方法について、一例としてフッ素樹脂系高分子を用いた中空糸膜の製造方法を示す。フッ素樹脂系高分子を用いた中空糸膜の製法としては、熱誘起相分離法や非溶媒誘起相分離法など種々の製法を用いることができる。以下、熱誘起相分離法を用いた製造方法を示す。
【0064】
フッ素樹脂系高分子を、フッ素樹脂系高分子の貧溶媒または良溶媒に、結晶化温度以上の比較的高温で溶解することで、フッ素樹脂系高分子溶液(つまり、フッ素樹脂系高分子を含有する製膜原液)を調製する。
【0065】
製膜原液中の高分子濃度が高いと、高い強度を有する多孔質中空糸膜が得られる。一方で、高分子濃度が低いと、多孔質中空糸膜の空隙率が大きくなり、純水透過性能Kが向上する。このため、フッ素樹脂系高分子の濃度は、20重量%以上60重量%以下であることが好ましく、30重量%以上50重量%以下であることがより好ましい。
【0066】
本明細書において、貧溶媒とは、フッ素樹脂系高分子を60℃以下の低温では、5重量%以上溶解させることができないが、60℃以上かつフッ素樹脂系高分子の融点以下(例えば、高分子がフッ化ビニリデンホモポリマー単独で構成される場合は178℃程度)の高温領域で5重量%以上溶解させることができる溶媒である。良溶媒とは、60℃未満の低温領域でもフッ素樹脂系高分子を5重量%以上溶解させることができる溶媒であり、非溶媒とは、フッ素樹脂系高分子の融点または溶媒の沸点まで、フッ素樹脂系高分子を溶解も膨潤もさせない溶媒と定義する。
【0067】
ここで、フッ素樹脂系高分子の貧溶媒としてはシクロヘキサノン、イソホロン、γ-ブチロラクトン、メチルイソアミルケトン、プロピレンカーボネート、ジメチルスルホキシド等およびそれらの混合溶媒が挙げられる。良溶媒としては、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、メチルエチルケトン、アセトン、テトラヒドロフラン、テトラメチル尿素、リン酸トリメチル等およびそれらの混合溶媒が挙げられる。非溶媒としては、水、ヘキサン、ペンタン、ベンゼン、トルエン、メタノール、エタノール、四塩化炭素、o-ジクロルベンゼン、トリクロルエチレン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、低分子量のポリエチレングリコール等の脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、脂肪族多価アルコール、芳香族多価アルコール、塩素化炭化水素、またはその他の塩素化有機液体およびそれらの混合溶媒などが挙げられる。
【0068】
中空糸の形成工程においては、温度変化により相分離を誘起する熱誘起相分離法を利用して、フッ素樹脂系高分子を含有する製膜原液から、中空糸を得る。熱誘起相分離法には、主に2種類の相分離機構が利用される。一つは高温時に均一に溶解した高分子溶液が、降温時に溶液の溶解能力低下が原因で高分子濃厚相と高分子希薄相に分離し、その後構造が結晶化により固定される液-液相分離法である。もう一つは高温時に均一に溶解した高分子溶液が、降温時に高分子の結晶化が起こり高分子固体相と溶媒相に相分離する固-液相分離法である。
【0069】
前者の方法では主に三次元網目構造が、後者の方法では主に球状組織で構成された球状構造が形成される。本発明の中空糸膜の製造には特に指定はないが、強度が求められるクロスフローろ過用の中空糸膜としては、後者の相分離機構が好ましく利用される。よって、固-液相分離が誘起される高分子濃度および溶媒が選択される。
【0070】
具体的な方法としては、上述の製膜原液を多孔質中空糸膜紡糸用の二重管式口金の外側の管から吐出しつつ、中空部形成液体を二重管式口金の内側の管から吐出する。こうして吐出された製膜原液を冷却浴中で冷却固化することで、多孔質な中空糸膜を得る。
【0071】
次に、口金から吐出されたフッ素樹脂系高分子溶液を冷却する冷却浴について説明する。冷却浴には、濃度が50~95重量%の貧溶媒あるいは良溶媒と、濃度が5~50重量%の非溶媒からなる混合液体を用いることが好ましい。さらに貧溶媒としては高分子溶液と同じ貧溶媒を用いることが好ましく採用される。また、中空部形成液体には、冷却浴同様、濃度が50~95重量%の貧溶媒あるいは良溶媒と、濃度が5~50重量%の非溶媒からなる混合液体を用いることが好ましい。さらに貧溶媒としては高分子溶液と同じ貧溶媒を用いることが好ましく採用される。以上の方法で得られるフッ素樹脂系高分子からなる中空糸膜を延伸させてもよい。延伸倍率や延伸温度は、所望の孔径、寸法、純水透過性能によって適宜選定される。
【0072】
本発明の中空糸膜モジュールに充填される中空糸膜を得る場合、中空糸膜の内外径は主に二重管式口金の口金径や、製膜原液および中空部形成液体の吐出量を調整することで制御可能である。すなわち、内外径の大きな中空糸膜は、径の大きな二重管式口金を使用する、もしくは製膜原液ならびに中空部形成液体の吐出量を増加させることで得られる。また延伸倍率、延伸温度を変化させることでも寸法を調整可能である。
【0073】
純水透過性能Kは、主に得られる膜の孔径や厚みと関係する。孔径については、凝固条件や延伸条件を調整するなどで制御でき、例えば、ギヤーポンプ内の原料液温度を高くする、もしくは原料液の高分子濃度を下げると孔径は大きくなる。厚みは前記の通り二重管式口金の口金径や、製膜原液および中空部形成液体の吐出量を調整することで制御可能であり、例えば製膜原液の吐出量を低減することで薄膜化する。このように適切な製膜条件に制御することで、純水透過性能Kを本発明の範囲に収めることが可能である。
【0074】
また、本発明の中空糸膜モジュールの別の一様体として、中空糸膜の内径Di(μm)に対する膜厚Dt(μm)の比Dt/Diが0.40≦Dt/Di≦0.65、すなわち0.40以上0.65以下の範囲であるのが好ましい。
ここで、膜厚Dt(μm)は、中空糸膜の外径Do(μm)と内径Di(μm)より、下記式(5)により算出される。
Dt=(Do-Di)/2 ・・・(5)
【0075】
すなわち、内径Diに対して膜厚Dtが小さい場合には、膜面積を増やそうと充填率を上げていくと原液側の圧力損失が上昇するため、膜面積を十分に確保できない。一方、内径Diに対して膜厚Dtが大きい場合には、充填率を上げても膜面積の増加は小さい。内径Diに対して膜厚Dtが0.40以上0.65以下の範囲にあることで、十分な膜面積を確保しつつ、原液側の圧力損失の上昇を抑え、中空糸膜の軸方向の膜間差圧差を抑制できる。比Dt/Diは、0.43~0.62であるのがより好ましく、0.45~0.60がさらに好ましい。
【0076】
次に、本発明で用いる中空糸膜5は、強力が250gf/本以上であることが好ましい。外圧式クロスフローろ過では、一例として
図1に示すように、中空糸膜モジュール1の原液導入口2から原液を中空糸膜モジュール1に導入した後、原液導出口4から導出するが、原液導出口4から導出される際に原液の流れが90°転回することとなる。そのため、原液導出口4付近では中空糸膜5に対して中空糸膜5の長さ方向に垂直なせん断力が付与される。
【0077】
本発明においては、中空糸膜5の強力が250gf/本以上あることで、本願が想定するクロスフロー流速により生じるせん断に対し、糸切れや膜損傷などを抑制できることを見出した。
【0078】
強力とは、引っ張り試験機などにより中空糸膜5を軸方向に伸張させていき、破断した時点で付与していた荷重(gf)である。中空糸膜5の強力は、好ましくは400gf/本以上であり、さらに好ましくは600gf/本以上である。
強力の測定方法は、特に限定されるものではないが、例えば、引っ張り試験機を用い、測定長さ50mmの試料を引っ張り速度50mm/分で引っ張り試験を、試料を変えて5回以上行い、破断強度の平均値と破断伸度の平均値を求めることで測定することができる。
【0079】
(中空糸膜モジュールの作製)
中空糸膜モジュールの種類は、容器1と中空糸膜5を接着剤で固定する容器一体型モジュールと、容器1と中空糸膜5は接着剤で固定されず、中空糸膜5が容器1から着脱可能なカートリッジ型モジュールに分けられる。
【0080】
容器一体型モジュールにおいては、複数の中空糸膜5を容器1に挿入し、中空糸膜5の端部と容器1を接着剤で固定する。カートリッジ型モジュールにおいては、中空糸膜を専用の治具などに挿入して接着剤で膜同士を接着し、容器1とは固定しない。
【0081】
どちらの方法においても、中空糸膜5を固定用の治具や容器、またはその両方に挿入し、接着剤を流し込んで固定する。中空糸膜同士の間隙に接着剤を充填する方法としては、例えば、遠心力を利用してポッティング剤を浸透させる遠心ポッティング法、又は、接着剤を自然流動により浸透させる静置ポッティング法が挙げられる。また接着剤を注型用の型に注入し、中空糸膜同士の間隙に充填させても構わない。
【0082】
接着剤で固定された中空糸膜端部を開口させる場合には、接着剤を流し込んだ際に接着剤が中空糸膜中空部に流入しないよう中空糸膜5の端部をあらかじめ封止しておき、接着剤で固定する。封止の方法としては中空部のみに接着剤を注入する方法や熱、溶媒による溶着などが挙げられる。端部を封止した中空糸膜5を接着剤で固定した後、封止部より他端側を、中空糸膜5の断面方向にカットすることで開口させることが可能である。中空糸膜端部を封止せず接着剤で固定すれば、接着剤が中空糸膜5の中空部に流入するため、当該端部は封止される。
【0083】
本発明においては、中空糸膜5の両端を接着剤で固定する方法を採用してもよいが、中空糸膜5の原液導入口側端部については、接着剤で固定しない自由端としてもよい。
【0084】
また容器1に接続する原液導入口2について、本発明のクロスフローろ過用の中空糸膜モジュールとする場合には、原液導入口2の断面積Sfと容器1内の流路面積Spとの比Sf/Spが0.35以上であることが好ましい。
【0085】
原液導入口2の断面積Sfは、原液導入口2を原液の流れに対して垂直な面で切り取った場合の、流路部分の面積であり、原液導入口2の形状が円であればその内円の面積である。
【0086】
容器1内の流路面積Spは、容器1の中央部分を軸方向に垂直な面でカットした際の、容器1の断面積S1から中空糸膜5の専有面積S2を差し引いた面積である。容器1の中央部分とは、容器1の軸方向において第1ポッティング部8と第2ポッティング部9の中央部分である。
【0087】
容器1の断面積S1は、容器1を中空糸膜5の軸方向に垂直な断面で切断した際の空間部分の断面積である。容器1が円筒形の場合には、断面形状は円となるため、内円の断面積が容器1の断面積となる。
【0088】
中空糸膜5の専有面積S2は、中空糸膜5の断面形状が真円と仮定し、外径Doより計算される円の面積に、容器1に充填した中空糸膜本数Nを掛け合わせた値である。U字型の場合には、中空糸膜本数は2倍として計算される。
【0089】
クロスフローろ過では容器1内を流れる原液量が全量ろ過と比較し多くなるため、比Sf/Spが0.35以上であることが好ましい。比Sf/Spが0.35以上である場合は、原液導入口2にて生じる圧力損失が小さくなるため、ポンプ動力を低減できる。比Sf/Spを好ましくは0.5以上、さらに好ましくは0.7以上とすることで、発生する圧力損失を低減することができる。
【0090】
また原液導出口4の断面積Scについても、容器1内の流路面積Spに対する原液導出口4の断面積Scの比Sc/Spが0.35以上となることが好ましい。原液導出口4の断面積Scは、原液導出口4を原液の流れに対して垂直な面で切り取った場合の、流路部分の面積であり、原液導出口4の形状が円であればその内円の面積である。比Sc/Spが0.35以上である場合には、原液導出口4において生じる圧力損失が小さくなるため、ポンプ動力を低減できる。比Sc/Spは、好ましくは0.5以上、さらに好ましくは0.7以上である。
【0091】
また容器1の内径が小さい場合には、流路面積Spに対する原液が接触する境界面の長さが大きくなるため摩擦抵抗が大きくなり、原液側の圧力損失が大きくなる。原液側の圧力損失を抑制する点で、容器1の内径は50mm以上が好ましく、80mm以上が好ましく、100mm以上がさらに好ましい。
【0092】
(中空糸膜モジュールの運転方法)
次に、本発明の中空糸膜モジュールの運転方法について、
図3及び
図4を用いて詳細に説明する。
【0093】
クロスフローろ過運転では、
図3に示すように原液タンク12から供給ポンプ14で原液を容器1に送液し、原液側空間6(
図1参照)を原液で満たす。原液導出口4より導出された原液は、原液タンク12に返送され、循環する。この状態でろ過液弁22を開とすることで原液がろ過され、ろ過液タンク13に送液される。
【0094】
ろ過流量はろ過液流量計32が所定流量となるようろ過液弁22を制御して調整する。循環流量は濃縮液流量計31が所定流量となるよう供給ポンプ14の回転数を制御して調整する。
【0095】
一方
図4に示すろ過ユニットでは、原液は供給ポンプ14と循環ポンプ15により供給され、濃縮液の一部または全ては供給ポンプ14と循環ポンプ15の間に返送され、循環する運転方法である。ろ過流量は、ろ過液流量計32が所定の値となるよう供給ポンプ14で制御され、循環流量は濃縮液流量計31が所定の値となるよう循環ポンプ15で制御される。
【0096】
この時、循環流量V(m3/hr)とろ過流量Q(m3/hr)は、以下に示すクロスフロー線速度v(m/s)とろ過流束J(m/d)の設定値に基づき決定される。
【0097】
クロスフロー線速度vは、循環流量を容器1内の流路面積Spで除した値であり、下記式(6)にて計算される。
【0098】
【0099】
ろ過流束Jは、ろ過流量Qを中空糸膜5の有効膜面積A(m2)で除した値であり、下記式(7)及び式(8)にて計算される。ここで、Doは中空糸膜の外径(μm)であり、Lは中空糸膜の軸方向長さ(m)であり、Nは中空糸膜モジュールに挿入される中空糸膜5の本数である。
【0100】
【0101】
本発明のクロスフローろ過用中空糸膜モジュールにおいては、ろ過流束J(m/d)とクロスフロー線速度v(m/s)が以下の要件を満たすようにクロスフローろ過を行う。
0.5≦J≦2.0
1.0≦v≦1.8
【0102】
ろ過流束Jを0.5m/d~2.0m/dの範囲に制御することで、所望のろ過流量を確保しながらも、ファウリングの進行を抑制した運転が可能である。また、クロスフロー線速度vを1.0m/s~1.8m/sに制御することで、膜表面の汚れを掻き取る十分なせん断力を与えながら、原液側の圧力損失を抑えることで、中空糸膜5の軸方向の膜間差圧差を低減できる。ろ過流束Jは、0.8~1.8m/dであるのが好ましく、1.0~1.5m/dがより好ましい。また、クロスフロー線速度vは、1.2~1.7m/sであるのが好ましく、1.4~1.6m/sがより好ましい。
【0103】
(中空糸膜モジュールの圧力分布シミュレーション)
また、これらの効果を検証すべく、中空糸膜モジュール内の圧力分布をシミュレーションすることで、実験で検討できない範囲を検討した。
【0104】
図5にシミュレーションのためのモデル概要を示す。
図5の(a)に1本の中空糸膜5と、原液ならびにろ過液の流れを示している。
図5中、原液は網掛けされた矢印により、ろ過液は白抜きの矢印により示されている。中空糸膜5の原液導入口側端部をn=0、ろ過液導出口側端部の位置をn=kとする。中空糸膜5の原液導入口側端部は封止、ろ過液導出口側端部は開口しており、ろ過液はすべてろ過液導出口側端部より導出される。ここで中空糸膜5を軸方向にΔlずつメッシュ化した際の、微小区間nにおける液の流れを
図5の(b)に示す。nは0以上の整数であり、kは1以上の自然数である。微小区間nにおいては、微小区間n-1より導出されるろ過液と、微小区間nにおいて膜によりろ過されたろ過液とが合流する。その結果、微小区間nより導出されるろ過液流量Q
i,nとしては、微小区間n-1より導出されるろ過液量をQ
i,n-1、微小区間nにおいて膜によりろ過されたろ過液量をQ
p,nとすると、下記式(9)のようになる。なお、Q
i,-1は存在せず、Q
i,0=Q
p,0である。kは50以上が好ましく、100以上がより好ましい。また、原液導入口側端部から微小区間nまでの膜長をl
nとする。l
0=0であり、l
k=Lである。
【0105】
【0106】
微小区間nにおけるろ過液流量Qp,nは、微小区間nにおける原液側圧力Po,nとろ過液側圧力Pi,n、膜面積An、膜ろ過抵抗Rn、ならびにろ過を行う温度における原液粘度μより、下記式(10)~(12)より計算される。Rnは、ミニチュアモジュールにて純水透過性能Kを測定した際のろ過流束J(=透過量(m3)/ろ過時間(hr)/有効膜面積(m2))、膜間差圧ΔPm及び粘度μより計算され、ろ過開始初期は中空糸膜5の軸方向で一様であるとする。
【0107】
【0108】
微小区間nにおける原液側圧力Po,nについては、原液導入圧力Po,0と、クロスフロー流れにより生じる圧力損失ΔP0×lnを考慮し、下記式(13)より計算される。実際には原液の一部が膜によってろ過されるため、循環流量としては中空糸膜5の軸方向で変化することになるが、循環流量に対してろ過される流量が小さいために無視できる。そのため、本モデルではクロスフロー流れにより生じる、軸方向の単位長さ当たりの圧力損失ΔPoは位置によらず一定として計算する。
【0109】
【0110】
単位長さ当たりの圧力損失ΔPoについては、原液側の流路構造が複雑であるため、中空糸膜5の外径Doや中空糸膜5の本数Nなどから、原液側流路を円管に置き換えた場合の相当直径Deを計算し、下記式(14)~(16)にて圧力損失ΔPoを計算する。なおρは原液密度、Dcは容器1の内円の直径、τは原液側流路の形状補正係数である。
【0111】
【0112】
微小区間nにおけるろ過液側圧力Pi,nについては、中空糸膜5の内部を流れる際の圧力損失より計算される。ここでは中空糸膜5の内部を流れるろ過液のレイノルズ数Rei,nを算出し、微小区間nからろ過液導出口側端部までの圧力損失を積分して算出する。ここでは内部を流れる流れが層流であるとした場合の計算方法を下記式(17)~(18)に示す。
【0113】
【0114】
ここでは便宜上Pi,k=0とし、中空糸膜5より得られるろ過液流量Qi,kが下記式(19)を満たすようPo,0を調整することで、中空糸膜5の原液側、ろ過液側の圧力分布が計算される。なお、Jtは設定したろ過流束を示す。
【0115】
【0116】
このように計算して得られる圧力分布より、微小区間nにおける原液側圧力Po,nとPi,nの差が、その区間での膜間差圧ΔPm,nである。本発明においては、所定の条件にて運転した際に、n=kにおいてΔPm,k>0となることが好ましい中空糸膜モジュール構造である。ΔPm,kがゼロより小さい場合には、一旦中空糸膜5を透過したろ過液が原液側に逆流することになり、ろ過の効率が悪化する。すなわち一定のろ過液量を得るために、過剰な量をろ過することになる。
【0117】
さらに好ましくは、ΔPm,k/ΔPm,0が0.1~5.0の範囲となるよう中空糸膜モジュールの寸法、充填率、運転条件などを制御することである。ΔPm,0やΔPm,kのどちらかが高い場合には、中空糸膜5の原液導入口側端部もしくはろ過液導出口側端部の負荷が高くなってしまい、通常よりも閉塞が早く進むこととなる。特に好ましくは、ΔPm,k/ΔPm,0を0.5~2.0に制御することである。
【0118】
中空糸膜モジュール内の圧力分布はろ過を継続するに従って変化していくが、運転開始初期にΔPm,k>0となっていることが好ましい。中空糸膜モジュールの設計においてはろ過開始初期にΔPm,k>0となるよう中空糸膜5の寸法、性能、中空糸膜モジュールへの装填本数、運転条件を決定するのが好ましい。
【0119】
本発明におけるクロスフローろ過用中空糸膜モジュールの運転においては、種々の原液に適用することができるが、速いクロスフロー線速度で運転する必要がある原液に特に好適である。
【0120】
このような原液として、濁度が20NTU以上でかつ全有機炭素(TOC)濃度が1000mg/L以上であることが好ましい。このような原液をろ過する際に、クロスフロー線速度が遅い場合にはクロスフロー流れによる中空糸膜表面の洗浄が不十分となる。その結果、中空糸膜の閉塞の進行が速くなるため、速いクロスフロー線速度で運転することが求められる。濁度は、50NTU以上であることが好ましく、100NTU以上であることが好ましい。またTOC濃度は、5000mg/L以上であることが好ましく、10000mg/L以上であることが好ましい。なお、TOCについては、後述するように膜を透過する成分で構成される原液であることが好ましいことから、TOC濃度の上限は特に限定されないが、濁度についてはモジュール内に濁質成分が蓄積することで運転性が悪化するため、100000NTU以下が好ましい。
【0121】
濁度の測定方法としては、値がNTU(Nephelometric Turbidity Unit)単位として測定されるのであれば特に制限はなく、種々の測定装置を使用して測定が可能である。一例として、上水試験方法に記載の要件を満たす装置が挙げられる。
【0122】
また、TOC濃度の測定方法としては、全炭素(TC)から無機炭素(IC)を差し引いて算出するTC-IC法や、サンプルに酸を加えて曝気し、曝気後の液の全炭素を測定することでTOC濃度を算出するNPOC法などを用いて測定することができる。原液に揮発性有機炭素を多く含む場合にはTC-IC法を用いて測定するのが好ましい。
【0123】
さらにこのような原液をろ過した際に、ろ過液の濁度が10NTU以下かつTOC濃度が1000mg/L以上となることが好ましい。すなわち、原液中のTOCを構成する成分が膜によって阻止される成分ではなく、膜を透過する成分も含まれる原液に本願の運転方法を適用することが好ましい。膜を透過する成分は膜表面や膜内部に付着、蓄積して中空糸膜の閉塞を進行させるが、過大なろ過流束が流れた場合には膜内部の閉塞が進行しやすい。本願の中空糸膜モジュールを用いることで、軸方向の膜間差圧差を抑制して運転可能であるため、特に中空糸膜5の原液導入口側端部に過大なろ過流束が流れることを抑制でき、閉塞の進行を遅らせることが可能となる。
【0124】
また、原液の粘度についても、ろ過運転中の粘度が2mPa・s以上である原液に適用することが好ましい。原液の粘度が高い場合、原液側の圧力損失も粘度に応じて高くなるため、中空糸膜5の軸方向の膜間差圧差が生じやすくなる。本願の中空糸膜モジュールを用いることで、高粘度の原液においても軸方向の膜間差圧差を抑制して運転することが可能である。
【0125】
粘度の測定方法については特に限定されないが、せん断速度によって粘度が変化する原液については、ろ過運転中のせん断粘度を測定することが好ましい。具体的には、ろ過運転中のせん断速度における粘度を測定することが好ましく、レオメータ―を用いて、ろ過運転中の温度、せん断速度を付与した際のせん断粘度を測定することができる。せん断速度は、ろ過運転する際のクロスフロー線速度vを2倍にした値(2v)を、原液側流路の相当直径Deから算出される半径(=De/2)で除することで算出できる。
【0126】
濁度や粘度については、温度によってその値が変化するため、実際にろ過時の温度における濁度や粘度を測定することが好ましい。
【実施例】
【0127】
以下に具体的な実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。なお、本発明に関する各種パラメータは上記の方法を用いて測定した。
【0128】
まずは、上記式(9)~(19)に示したシミュレーションが実際の中空糸膜モジュールの圧力分布をどの程度正確に予測できるか検証した。
【0129】
(参考例1)
検証には、長さが1m程度のミニチュアモジュールを使用した。容器1としては内径が8mmのフッ素チューブを使用し、中空糸膜5としては外径1190μm、内径720μm、純水透過性能3.2m/hrの中空糸膜を使用し、15本を軸方向長さLが1.1mとなるように、両端を開口した状態でポッティングした。このときの充填率Mは32%であった。
図6に示すように、原液導入口2と原液導出口4はチューブの側面に接続しており、原液導入口2より導入された原液が容器1内を中空糸膜5の軸方向に平行な方向に流れ、原液導出口4より導出される。このとき、原液導入圧力計41により測定される圧力を原液導入圧力P
o,0とし、原液導出圧力計42により測定される圧力を原液導出圧力P
o,kとした。
【0130】
一方ろ過液側については、開口した両端のそれぞれに圧力計が接続しており、ろ過液タンク13に接続する配管に備えられた、ろ過液導出圧力計43により測定される圧力をろ過液導出圧力P
i,kとし、他端側のろ過液導入圧力計44により測定される圧力をろ過液導入圧力P
i,0とした。
本願の中空糸膜モジュール10においては、
図1に示すように、中空糸膜5のろ過液導出口側端部は開口しており、原液導入口側端部は封止される。そのため、式(18)に示すP
i,nのうち、n=0の位置であるろ過液導入圧力P
i,0を実測できない。そのため、本シミュレーションの検証用として、両端が開口したミニチュアモジュールを作製し、P
i,0を測定した。なお、P
i,0を測定するろ過液導入圧力計44が接続する空間は封止されており、ろ過液はろ過液導入圧力計44側には導出しないことから、ミニチュアモジュールの圧力分布と中空糸膜モジュール10の圧力分布は同等の分布を示す。
【0131】
本ミニチュアモジュールを用い、ろ過試験を行った。原液には微生物発酵液の模擬液を使用した。この微生物発酵液の模擬液粘度は2.4mPa・sであった。
【0132】
調製した微生物発酵液を供給ポンプ14でミニチュアモジュールに供給し、クロスフローろ過を行った。このときの運転条件はろ過流束0.9m/d、クロスフロー線速度1.5m/sであった。本運転条件でろ過を開始し、ろ過開始直後の各圧力を測定してΔPm,0、ΔPm,kを算出した。
【0133】
さらに式(9)~(19)を用い、シミュレーションからもΔPm,0、ΔPm,kを算出した。シミュレーションにはミニチュアモジュールの製作に使用した中空糸膜5の各種パラメータを入力した。またろ過液導出圧力Po,kについては、ミニチュアモジュールの試験から得られた測定値を使用して計算した。またΔlは10mm、原液側流路の形状補正係数τは1.5とした。
【0134】
測定値とシミュレーション値を比較した結果、表1に示すようにΔPm,0はやや差はあるが、同等の値を示し、ΔPm,kについては両者とも負の値となっており、逆ろ過が生じる現象を再現できた。
【0135】
(参考例2)
外径760μm、内径540μm、純水透過性能10.4m/hrの中空糸膜5を13本用いて、容器1に内径が6mmのフッ素チューブを使用し、ミニチュアモジュールを作製した以外は参考例1に記載の方法と同様の方法でΔPm,0、ΔPm,kを測定、比較した。このときの充填率Mは23%であった。その結果、表1に示すようにΔPm,0はやや差はあるが、同等の値を示し、ΔPm,kについては両者とも正の値となっており、内径を細くすることで逆ろ過を抑制できる現象を再現できた。
【0136】
参考例1,2より、本シミュレーションは中空糸膜モジュールの圧力分布を再現できていることが確認できたことから、実機サイズの中空糸膜モジュールでは実験的にデータが得ることが難しい中空糸膜5の軸方向の膜間差圧差について、シミュレーションによる圧力分布の結果を示すこととした。
【0137】
【0138】
(実施例1)
図1に記載の外圧型中空糸膜モジュールを製作し、微生物発酵液の模擬液に対するろ過性を評価した。
【0139】
本中空糸膜モジュールに使用した中空糸膜は以下の方法で製造した。まず始めに、重量平均分子量41.7万のフッ化ビニリデンホモポリマー(株式会社クレハ製KF1300、重量平均分子量:41.7万、数平均分子量:22.1万)39重量%とγ-ブチロラクトン61重量%を150℃で溶解し、原料液としてのポリマー溶液を得た。
【0140】
得られたポリマー溶液の加圧および吐出には、二重管式口金と、その口金につながれた配管と、その配管上に配置された2つのギヤーポンプとを備える装置を用いた。ギヤーポンプ間の配管内で、上記原料液を、2.5MPaに加圧しながら、100~103℃で15秒間滞留させた。その後、二重管式口金の内側の管からγ-ブチロラクトン85重量%水溶液を吐出しながら、外側の管から原料液を吐出した。γ-ブチロラクトン85重量%水溶液からなる温度5℃の冷却浴中に原料液を20秒間滞留させ、固化させ中空糸膜5を得た。ついで、95℃の水中にて、上記で得られた中空糸膜を1.5倍に延伸した。得られた中空糸膜の純水透過性能Kは4.5m/hr、内径Diは580μm、外径Doは1160μm、強力は560gf/本であった。強力は引っ張り試験機(TENSILON(登録商標)/RTM-100、東洋ボールドウィン株式会社製)を用い、測定長さ50mmの試料を、25℃の雰囲気中で引っ張り速度50mm/分で、試料を変えて5回以上試験し、平均値を算出した。
【0141】
得られた中空糸膜5を長さ1.2mにカットし、30質量%グリセリン水溶液に1時間浸漬後、風乾した。その後シリコーン接着剤(東レ・ダウコーニング社製、SH850A/B、2剤を質量比が50:50となるように混合したもの)で中空糸膜のろ過液導出口側端部を目止めした。
【0142】
その後、
図1に示すように容器1(内径97.6mm、長さ1100mm)に前述の中空糸膜5を、目止めしたろ過液導出口側端部がろ過液導出口3側にくるように充填した。容器1の側面のろ過液導出口3側には原液導出口4が備えられている。
【0143】
続いて、容器1の原液導入口2側に第1ポッティング部形成治具を、ろ過液導出口3側に第2ポッティング部形成治具を取り付けた。第1ポッティング部形成治具には、原液を原液側空間6に導入するための貫通孔を開口させるため、直径7mm、長さ100mmのピンを、中空糸膜5の軸方向と同方向に挿入した。
【0144】
ポッティング剤として、ビスフェノールF型エポキシ樹脂(ハンツマン社製、LST868-R14)と脂肪族アミン系硬化剤(ハンツマン社製、LST868-H14)を質量比が100:30となるように混合し、合計800g(片端当たり400g)をポッティング剤投入器に入れた。
【0145】
続いて遠心成型機を回転させ、ポッティング剤を両端の第1ポッティング部形成治具および第2ポッティング部形成治具に充填して第1ポッティング部8および第2ポッティング部9を成形し、ポッティング剤を硬化させた。遠心成型機内の温度は35℃、回転数は300rpm、遠心時間は5時間とした。
【0146】
硬化後、第1ポッティング部形成治具、第2ポッティング部形成治具及びピンを抜き取り、室温で24時間硬化させた後、第2ポッティング部9の端部をチップソー式回転刃でカットし、中空糸膜5のろ過液導出口側端面を開口させた。
【0147】
続いて容器1に原液導入口2を備えた下部キャップと、ろ過液導出口3を備えた上部キャップを取り付け、中空糸膜モジュールとした。このとき、中空糸膜の軸方向長さLは1.0m、充填率Mは34%、膜面積は8.7m2であった。このとき、内径Diは下記式(2)の関係を満たしていなかった。また、原液導入口2の内径は59mmであり、原液導入口2の断面積Sfと容器1内の流路面積Spとの比Sf/Spは0.55であった。
0.33×Do-10×M+420≦Di≦0.33×Do-10×M+550 ・・・(2)
【0148】
得られた中空糸膜モジュールを用い、微生物発酵液の模擬液を使用してろ過を行った。微生物発酵液の模擬液は、蒸留水にペプトンを1wt%、デンプンを2wt%含むよう事前に調整し、原液とした。このときの模擬液粘度は2.4mPa・sであった。
【0149】
ろ過試験には、
図3に示したろ過ユニットを使用した。原液タンク12の容積は200Lであり、供給ポンプ14を稼働させて原液を中空糸膜モジュールに導入し、一部をろ過してろ過液タンク13にろ過液を送液した。ろ過されなかった原液は、原液導出口4から原液タンク12に全て還流した。ろ過を継続するに従い原液タンク12の微生物発酵液模擬液が減少していくため、不足した原液をつぎ足しながら運転を行った。
【0150】
ろ過流束Jが1.0m/d、クロスフロー線速度vが1.5m/sとなるよう調整し、膜間差圧が150kPaに上昇するまでろ過を行った。その結果、表2に示すように膜間差圧が150kPaに到達するまでに得られたろ過液量は0.17m3/m2であった。原液濁度は250NTUであったのに対し、ろ過液濁度は5.4NTUと低い結果であった。
【0151】
また、実際のろ過試験と並行して、シミュレーションによるモジュール内圧力分布の計算を行った。計算方法は参考例1に記載の方法と同様の方法で行った。その結果、ろ過液導出口側端部の膜間差圧ΔPm,kは0.03kPa、原液導入口側端部の膜間差圧ΔPm,0との比であるΔPm,k/ΔPm,0は0.005であった。シミュレーションの結果からはろ過液の逆流は発生していないと考えられたが、中空糸膜5の軸方向での膜間差圧差はやや大きいと算出された。
【0152】
(実施例2)
ギヤーポンプ間の配管内で原料液温度、口金での原料液ならびに中空部形成液体の吐出量を調整し、中空糸膜5の純水透過性能Kを4.3m/hr、内径Diを550μm、外径Doを1080μm、強力を480gf/本とした以外は、実施例1と同様の方法で製膜した。また中空糸膜モジュールについては、実施例1と同様の方法で製作した。このとき、充填率Mは33%であり、内径Diは式(2)の関係を満たしていた。この結果、膜面積は9.4m2となった。
【0153】
ろ過試験についても実施例1と同様の方法で実施し、膜間差圧が150kPaに上昇するまでろ過試験を行った。その結果、表2に示すように得られたろ過液量は0.21m3/m2であった。
【0154】
また、実施例1と同様の方法でシミュレーションによるモジュール内圧力分布の計算を行った。その結果、ろ過液導出口側端部の膜間差圧ΔPm,kは0.7kPa、原液導入口側端部の膜間差圧ΔPm,0との比であるΔPm,k/ΔPm,0は0.10であった。シミュレーションの結果からはろ過液の逆流は発生していないと考えられ、中空糸膜5の軸方向での膜間差圧差は小さいと算出された。
【0155】
(実施例3)
ギヤーポンプ間の配管内で原料液温度、口金での原料液ならびに中空部形成液体の吐出量を調整し、中空糸膜5の純水透過性能Kを4.6m/hr、内径Diを500μm、外径Doを850μm、強力を260gf/本とした以外は、実施例1と同様の方法で製膜した。また中空糸膜モジュールについては、実施例1と同様の方法で製作した。このとき、充填率Mは29%であり、内径Diは式(2)の関係を満たしていた。この結果、膜面積は10.2m2となった。
【0156】
ろ過試験についても実施例1と同様の方法で実施し、膜間差圧が150kPaに上昇するまでろ過試験を行った。その結果、表2に示すように、得られたろ過液量は0.21m3/m2であった。
【0157】
また、実施例1と同様の方法でシミュレーションによるモジュール内圧力分布の計算を行った。その結果、ろ過液導出口側端部の膜間差圧ΔPm,kは0.9kPa、原液導入口側端部の膜間差圧ΔPm,0との比であるΔPm,k/ΔPm,0は0.14であった。シミュレーションの結果からはろ過液の逆流は発生していないと考えられ、中空糸膜5の軸方向での膜間差圧差は小さいと算出された。
【0158】
(実施例4)
ギヤーポンプ間の配管内で原料液温度、口金での原料液ならびに中空部形成液体の吐出量を調整し、中空糸膜5の純水透過性能Kを4.2m/hr、内径Diを450μm、外径Doを950μm、強力を390gf/本とした以外は、実施例1と同様の方法で製膜した。また中空糸膜モジュールについては、実施例1と同様の方法で製作した。このとき、充填率Mは31%であり、内径Diは式(2)の関係を満たしていた。この結果、膜面積は9.8m2となった。
【0159】
ろ過試験についても実施例1と同様の方法で実施し、膜間差圧が150kPaに上昇するまでろ過試験を行った。その結果、表2に示すように得られたろ過液量は0.22m3/m2であった。
【0160】
また、実施例1と同様の方法でシミュレーションによるモジュール内圧力分布の計算を行った。その結果、ろ過液導出口側端部の膜間差圧ΔPm,kは5.0kPa、原液導入口側端部の膜間差圧ΔPm,0との比であるΔPm,k/ΔPm,0は1.01であった。シミュレーションの結果からはろ過液の逆流は発生していないと考えられ、中空糸膜5の軸方向での膜間差圧差は小さいと算出された。
【0161】
(実施例5)
ギヤーポンプ間の配管内で原料液温度、口金での原料液ならびに中空部形成液体の吐出量を調整し、中空糸膜5の純水透過性能Kを3.9m/hr、内径Diを380μm、外径Doを880μm、強力を380gf/本とした以外は、実施例1と同様の方法で製膜した。また中空糸膜モジュールについては、実施例1と同様の方法で製作した。このとき、充填率Mは30%であり、内径Diは式(2)の関係を満たしていなかった。この結果、膜面積は10.2m2となった。
【0162】
ろ過試験についても実施例1と同様の方法で実施し、膜間差圧が150kPaに上昇するまでろ過試験を行った。その結果、得られたろ過液量は0.19m3/m2であった。
【0163】
また、実施例1と同様の方法でシミュレーションによるモジュール内圧力分布の計算を行った。その結果、ろ過液導出口側端部の膜間差圧ΔPm,kは9.8kPa、原液導入口側端部の膜間差圧ΔPm,0との比であるΔPm,k/ΔPm,0は2.4であった。シミュレーションの結果からはろ過液の逆流は発生していないと考えられたが、中空糸膜5の軸方向での膜間差圧差はやや大きいと推定された。
【0164】
【0165】
(実施例6)
ギヤーポンプ間の配管内で原料液温度、口金での原料液ならびに中空部形成液体の吐出量を調整し、中空糸膜5の純水透過性能Kを3.2m/hr、内径Diを550μm、外径Doを1070μm、強力を500gf/本とした以外は、実施例1と同様の方法で製膜した。また中空糸膜モジュールについては、実施例1と同様の方法で製作した。このとき、充填率Mは33%であり、内径Diは式(2)の関係を満たしていなかった。この結果、膜面積は9.1m2となった。
【0166】
ろ過試験についても実施例1と同様の方法で実施し、膜間差圧が150kPaに上昇するまでろ過試験を行った。その結果、表3に示すように、得られたろ過液量は0.17m3/m2であった。
【0167】
また、実施例1と同様の方法でシミュレーションによるモジュール内圧力分布の計算を行った。その結果、ろ過液導出口側端部の膜間差圧ΔPm,kは0.6kPa、原液導入口側端部の膜間差圧ΔPm,0との比であるΔPm,k/ΔPm,0は0.08であった。シミュレーションの結果からはろ過液の逆流は発生していないと考えられたが、中空糸膜5の軸方向での膜間差圧差はやや大きいと推定された。
【0168】
(実施例7)
ギヤーポンプ間の配管内で原料液温度、口金での原料液ならびに中空部形成液体の吐出量を調整し、中空糸膜5の純水透過性能Kを2.5m/hr、内径Diを560μm、外径Doを1080μm、強力を650gf/本とした以外は、実施例1と同様の方法で製膜した。また中空糸膜モジュールについては、実施例1と同様の方法で製作した。このとき、充填率Mは33%であり、内径Diは式(2)の関係を満たしていなかった。この結果、膜面積は9.4m2となった。
【0169】
ろ過試験についても実施例1と同様の方法で実施し、膜間差圧が150kPaに上昇するまでろ過試験を行った。その結果、表3に示すように、得られたろ過液量は0.16m3/m2であった。
【0170】
また、実施例1と同様の方法でシミュレーションによるモジュール内圧力分布の計算を行った。その結果、ろ過液導出口側端部の膜間差圧ΔPm,kは0.4kPa、原液導入口側端部の膜間差圧ΔPm,0との比であるΔPm,k/ΔPm,0は0.05であった。シミュレーションの結果からはろ過液の逆流は発生していないと考えられたが、中空糸膜5の軸方向での膜間差圧差はやや大きいと推定された。
【0171】
(実施例8)
ギヤーポンプ間の配管内で原料液温度、口金での原料液ならびに中空部形成液体の吐出量を調整し、中空糸膜5の純水透過性能Kを2.0m/hr、内径Diを550μm、外径Doを1050μm、強力を800gf/本とした以外は、実施例1と同様の方法で製膜した。また中空糸膜モジュールについては、実施例1と同様の方法で製作した。このとき、充填率Mは33%であり、内径Diは式(2)の関係を満たしていなかった。この結果、膜面積は9.2m2となった。
【0172】
ろ過試験についても実施例1と同様の方法で実施し、膜間差圧が150kPaに上昇するまでろ過試験を行った。その結果、表3に示すように、得られたろ過液量は0.15m3/m2であった。
【0173】
また、実施例1と同様の方法でシミュレーションによるモジュール内圧力分布の計算を行った。その結果、ろ過液導出口側端部の膜間差圧ΔPm,kは0.6kPa、原液導入口側端部の膜間差圧ΔPm,0との比であるΔPm,k/ΔPm,0は0.06であった。シミュレーションの結果からはろ過液の逆流は発生していないと考えられたが、中空糸膜5の軸方向での膜間差圧差はやや大きいと推定された。
【0174】
(実施例9)
実施例2で製作した中空糸膜モジュールを用いてろ過試験を行った。ろ過試験はクロスフロー線速度vを1.0m/sとなるよう調整した以外は、実施例1と同様の方法で実施した。その結果、表3に示すように得られたろ過液量は0.17m3/m2であった。
【0175】
また、実施例1と同様の方法でシミュレーションによるモジュール内圧力分布の計算を行った。その結果、ろ過液導出口側端部の膜間差圧ΔPm,kは2.8kPa、原液導入口側端部の膜間差圧ΔPm,0との比であるΔPm,k/ΔPm,0は0.63であった。シミュレーションの結果からはろ過液の逆流は発生していないと考えられ、中空糸膜5の軸方向での膜間差圧差は小さいと推定された。
【0176】
(実施例10)
実施例2で製作した中空糸膜モジュールを用いてろ過試験を行った。ろ過試験はクロスフロー線速度vを1.0m/s、ろ過流束を1.2m/dとなるよう調整した以外は、実施例1と同様の方法で実施した。その結果、表3に示すように得られたろ過液量は0.22m3/m2であった。
【0177】
また、実施例1と同様の方法でシミュレーションによるモジュール内圧力分布の計算を行った。その結果、ろ過液導出口側端部の膜間差圧ΔPm,kは1.2kPa、原液導入口側端部の膜間差圧ΔPm,0との比であるΔPm,k/ΔPm,0は0.17であった。シミュレーションの結果からはろ過液の逆流は発生していないと考えられ、中空糸膜5の軸方向での膜間差圧差は小さいと推定された。
【0178】
【0179】
(比較例1)
ギヤーポンプ間の配管内で原料液温度、口金での原料液ならびに中空部形成液体の吐出量を調整し、中空糸膜5の純水透過性能Kは5.0m/hr、内径Diを700μm、外径Doは1140μm、強力を440gf/本とした以外は、実施例1と同様の方法で製膜した。また中空糸膜モジュールについては、実施例1と同様の方法で製作した。このとき、充填率Mは35%であり、内径Diは式(2)の関係を満たしていなかった。この結果、膜面積は9.1m2となった。
【0180】
ろ過試験についても実施例1と同様の方法で実施し、膜間差圧が150kPaに上昇するまでろ過試験を行った。その結果、表4に示すように得られたろ過液量は0.13m3/m2であった。
【0181】
また、実施例1と同様の方法でシミュレーションによるモジュール内圧力分布の計算を行った。その結果、ろ過液導出口側端部の膜間差圧ΔPm,kは-5.7kPa、原液導入口側端部の膜間差圧ΔPm,0との比であるΔPm,k/ΔPm,0は-0.6であった。シミュレーションの結果からはろ過液の逆流は発生していたと考えられ、中空糸膜5の軸方向での膜間差圧差も大きいと推定された。
【0182】
(比較例2)
ギヤーポンプ間の配管内で原料液温度、口金での原料液ならびに中空部形成液体の吐出量を調整し、中空糸膜5の純水透過性能Kを4.1m/hr、内径Diを630μm、外径Doを1130μm、強力を480gf/本とした以外は、実施例1と同様の方法で製膜した。また中空糸膜モジュールについては、実施例1と同様の方法で製作した。このとき、充填率Mは35%であり、内径Diは式(2)の関係を満たしていなかった。この結果、膜面積は9.3m2となった。
【0183】
ろ過試験についても実施例1と同様の方法で実施し、膜間差圧が150kPaに上昇するまでろ過試験を行った。その結果、表4に示すように得られたろ過液量は0.14m3/m2であった。
【0184】
また、実施例1と同様の方法でシミュレーションによるモジュール内圧力分布の計算を行った。その結果、ろ過液導出口側端部の膜間差圧ΔPm,kは-3.4kPa、原液導入口側端部の膜間差圧ΔPm,0との比であるΔPm,k/ΔPm,0は-0.4であった。シミュレーションの結果からはろ過液の逆流は発生していたと考えられ、中空糸膜5の軸方向での膜間差圧差も大きいと推定された。
【0185】
(比較例3)
ギヤーポンプ間の配管内で原料液温度、口金での原料液ならびに中空部形成液体の吐出量を調整し、中空糸膜5の純水透過性能Kを3.6m/hr、内径Diを330μm、外径Doを830μm、強力を320gf/本とした以外は、実施例1と同様の方法で製膜した。また中空糸膜モジュールについては、実施例1と同様の方法で製作した。このとき、充填率Mは28%であり、内径Diは式(2)の関係を満たしていなかった。この結果、膜面積は10.1m2となった。
【0186】
ろ過試験についても実施例1と同様の方法で実施し、膜間差圧が150kPaに上昇するまでろ過試験を行った。その結果、表4に示すように得られたろ過液量は0.14m3/m2であった。
【0187】
また、実施例1と同様の方法でシミュレーションによるモジュール内圧力分布の計算を行った。その結果、ろ過液導出口側端部の膜間差圧ΔPm,kは15.6kPa、原液導入口側端部の膜間差圧ΔPm,0との比であるΔPm,k/ΔPm,0は5.2であった。シミュレーションの結果からはろ過液の逆流は発生していなかったと考えられるが、中空糸膜5の軸方向での膜間差圧差も大きいと推定された。
【0188】
(比較例4)
実施例2で製作した中空糸膜モジュールを用いてろ過試験を行った。ろ過試験はクロスフロー線速度vを2.0m/sとなるよう調整した以外は、実施例1と同様の方法で実施した。その結果、表4に示すように得られたろ過液量は0.11m3/m2であった。
【0189】
また、実施例1と同様の方法でシミュレーションによるモジュール内圧力分布の計算を行った。その結果、ろ過液導出口側端部の膜間差圧ΔPm,kは-1.4kPa、原液導入口側端部の膜間差圧ΔPm,0との比であるΔPm,k/ΔPm,0は-0.2であった。シミュレーションの結果からはろ過液の逆流は発生していたと考えられ、中空糸膜5の軸方向での膜間差圧差も大きいと推定された。クロスフロー線速度が速いため、原液側の圧力差が大きくなったことが要因と考えられた。
【0190】
(比較例5)
実施例2で製作した中空糸膜モジュールを用いてろ過試験を行った。ろ過試験はクロスフロー線速度vを0.8m/sとなるよう調整した以外は、実施例1と同様の方法で実施した。その結果、表4に示すように得られたろ過液量は0.07m3/m2であった。
【0191】
また、実施例1と同様の方法でシミュレーションによるモジュール内圧力分布の計算を行った。その結果、ろ過液導出口側端部の膜間差圧ΔPm,kは3.7kPa、原液導入口側端部の膜間差圧ΔPm,0との比であるΔPm,k/ΔPm,0は1.1であった。シミュレーションの結果からはろ過液の逆流は発生しておらず、中空糸膜5の軸方向での膜間差圧差も小さいと推定されたが、クロスフロー線速度が小さいために膜表面の洗浄効果が小さくなり、ファウリングの進行が速くなったと考えられた。
【0192】
【0193】
(比較例6)
ギヤーポンプ間の配管内で原料液温度、口金での原料液ならびに中空部形成液体の吐出量を調整し、中空糸膜5の純水透過性能Kは1.5m/hr、内径Diを540μm、外径Doは1070μm、強力を990gf/本とした以外は、実施例1と同様の方法で製膜した。また中空糸膜モジュールについては、実施例1と同様の方法で製作した。このとき、充填率Mは33%であり、内径Diは式(2)の関係を満たしていなかった。この結果、膜面積は9.4m2となった。
【0194】
ろ過試験についても実施例1と同様の方法で実施し、膜間差圧が150kPaに上昇するまでろ過試験を行った。その結果、表5に示すように得られたろ過液量は0.09m3/m2であった。
【0195】
また、実施例1と同様の方法でシミュレーションによるモジュール内圧力分布の計算を行った。その結果、ろ過液導出口側端部の膜間差圧ΔPm,kは2.2kPa、原液導入口側端部の膜間差圧ΔPm,0との比であるΔPm,k/ΔPm,0は0.19であった。シミュレーションの結果からはろ過液の逆流は発生していないと考えられ、中空糸膜5の軸方向での膜間差圧差も小さいと推定されたが、透水性が低いことから中空糸膜のファウリングの進行が速く、得られたろ過液量は少ない結果となった。
【0196】
(比較例7)
ギヤーポンプ間の配管内で原料液温度、口金での原料液ならびに中空部形成液体の吐出量を調整し、中空糸膜5の純水透過性能Kは21.0m/hr、内径Diを590μm、外径Doは1040μm、強力を170gf/本とした以外は、実施例1と同様の方法で製膜した。また中空糸膜モジュールについては、実施例1と同様の方法で製作した。このとき、充填率Mは33%であり、内径Diは式(2)の関係を満たしていなかった。この結果、膜面積は9.4m2となった。
【0197】
ろ過試験についても実施例1と同様の方法で実施し、膜間差圧が150kPaに上昇するまでろ過試験を行った。その結果、表5に示すように得られたろ過液量は0.30m3/m2超であった。
【0198】
また、実施例1と同様の方法でシミュレーションによるモジュール内圧力分布の計算を行った。その結果、ろ過液導出口側端部の膜間差圧ΔPm,kは-0.9kPa、原液導入口側端部の膜間差圧ΔPm,0との比であるΔPm,k/ΔPm,0は0.25であった。シミュレーションの結果からはろ過液の逆流は発生していると考えられ、中空糸膜5の軸方向での膜間差圧差も小さいと推定されたが、透水性が高いことから原液中の濁質成分の漏洩が確認された。原液濁度は250NTUであったのに対し、ろ過液濁度は15NTUと高い結果であった。そのため、阻止性能は不十分であった。また、運転終了後に内部確認したところ、中空糸膜5が折れている箇所が見られた。強力が低いために、クロスフロー流れにより折れたと考えられた。
【0199】
【0200】
(比較例8)
実施例1で製作した中空糸膜モジュールを用い、クロスフローろ過運転ではなく全量ろ過運転を行った場合の、モジュール内圧力分布をシミュレーションにより計算した。計算方法は、クロスフロー線速度をゼロとした以外は、参考例1に記載の方法と同様の方法で行った。
【0201】
シミュレーションの結果、表6に示すように、中空糸膜5のろ過液導出口側端部の膜間差圧ΔPm,kは6.5kPa、原液導入口側端部の膜間差圧ΔPm,0との比であるΔPm,k/ΔPm,0は108.9であった。全量ろ過であるため、シミュレーションの結果からもろ過液の逆流は発生していないが、中空糸膜5の軸方向での膜間差圧差は大きいと算出された。
【0202】
(比較例9)
実施例3で製作した中空糸膜モジュールを用い、クロスフローろ過運転ではなく全量ろ過運転を行った場合の、モジュール内圧力分布をシミュレーションにより計算した。計算方法は、クロスフロー線速度をゼロとした以外は、参考例1に記載の方法と同様の方法で行った。
【0203】
シミュレーションの結果、表6に示すように、中空糸膜5のろ過液導出口側端部の膜間差圧ΔPm,kは7.4kPa、原液導入口側端部の膜間差圧ΔPm,0との比であるΔPm,k/ΔPm,0は264.2であった。全量ろ過であるため、シミュレーションの結果からもろ過液の逆流は発生していないが、中空糸膜5の軸方向での膜間差圧差は大きいと算出され、比較例8よりも悪化した。
【0204】
(比較例10)
実施例5で製作した中空糸膜モジュールを用い、クロスフローろ過運転ではなく全量ろ過運転を行った場合の、モジュール内圧力分布をシミュレーションにより計算した。計算方法は、クロスフロー線速度をゼロとした以外は、参考例1に記載の方法と同様の方法で行った。
【0205】
シミュレーションの結果、表6に示すように、中空糸膜5のろ過液導出口側端部の膜間差圧ΔPm,kは13.9kPa、原液導入口側端部の膜間差圧ΔPm,0との比であるΔPm,k/ΔPm,0は13010.8であった。全量ろ過であるため、シミュレーションの結果からもろ過液の逆流は発生していないが、中空糸膜5の軸方向での膜間差圧差は大きいと算出され、比較例9よりも悪化する傾向が確認できた。
【0206】
【0207】
以上の結果より、全量ろ過運転では内径を小さくするほど軸方向の膜間差圧差が拡大し、ろ過性が悪化すると予測されたのに対し、クロスフローろ過運転では内径を適切に制御することで軸方向の膜間差圧差を抑制でき、ファウリングの進行を抑制することでろ過量を増大させる効果を確認できた。
【0208】
本発明を特定の態様を用いて詳細に説明したが、本発明の意図と範囲を離れることなく様々な変更および変形が可能であることは、当業者にとって明らかである。なお、本出願は2020年6月30日付で出願された日本特許出願(特願2020-112493)に基づいており、その全体が引用により援用される。
【産業上の利用可能性】
【0209】
本発明のクロスフローろ過用中空糸膜モジュールおよびその運転方法は、飲料水製造、浄水処理若しくは排水処理等の水処理分野、微生物や培養細胞の培養を伴う発酵分野、食品工業分野等における原液の膜ろ過に、好ましく適用される。
【符号の説明】
【0210】
1 容器
2 原液導入口
3 ろ過液導出口
4 原液導出口
5 中空糸膜
6 原液側空間
7 ろ過液側空間
8 第1ポッティング部
9 第2ポッティング部
10 クロスフローろ過用中空糸膜モジュール
12 原液タンク
13 ろ過液タンク
14 供給ポンプ
15 循環ポンプ
21 濃縮液弁
22 ろ過液弁
31 濃縮液流量計
32 ろ過液流量計
41 原液導入圧力計
42 原液導出圧力計
43 ろ過液導出圧力計
44 ろ過液導入圧力計