(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-10
(45)【発行日】2023-01-18
(54)【発明の名称】4-ヒドロキシアンチピリンの定量方法、並びに生体成分測定キットの製造方法及び生体成分測定キット
(51)【国際特許分類】
G01N 30/88 20060101AFI20230111BHJP
B01J 20/287 20060101ALI20230111BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20230111BHJP
C12Q 1/30 20060101ALN20230111BHJP
【FI】
G01N30/88 H
B01J20/287
G01N33/50 E
C12Q1/30
(21)【出願番号】P 2018091296
(22)【出願日】2018-05-10
【審査請求日】2021-04-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】西村 研吾
(72)【発明者】
【氏名】梶谷 香代子
(72)【発明者】
【氏名】舩山 ますみ
【審査官】大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-242245(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106243041(CN,A)
【文献】特開2013-108872(JP,A)
【文献】特開2017-193514(JP,A)
【文献】米国特許第04436717(US,A)
【文献】MIYAGI, N. et al.,Simultaneous determination of aminopyrine and its metabolites in rat plasma by high-performance liquid chromatography,JOURNAL OF CHROMATOGRAPHY,1986年,Vol.375,pp.91-99
【文献】クレアチニン測定用 「セロテック」CRE-CL 添付文書,2017年08月,http://serotec-labo.com/img/CRE/CRE-CL/CRE-CLtempu.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/281 - 20/292
G01N 30/00 - 30/96
G01N 33/48 - 30/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体成分に酸化酵素を作用させ生成した過酸化水素が、ペルオキシダーゼの共存下、4-アミノアンチピリンと水素供与体を酸化縮合することにより生じた反応液の呈色を比色定量する生体成分測定キットの製造方法であって、以下の工程:
(1)前記生体成分測定キットの製造に用いられる4-アミノアンチピリン原体乃至は4-アミノアンチピリンを含有する試薬中に含まれる4-ヒドロキシアンチピリンをHPLC法により定量する工程であって、前記HPLC法の検出感度が0.1μg/ml以下である、工程
(2)前記反応液中の4-ヒドロキシアンチピリンの濃度が1.5μg/ml以下となるように、前記生体成分測定キットに含まれる4-アミノアンチピリンを含有する試薬中の4-ヒドロキシアンチピリンの濃度を調整する工程
を包含することを特徴とする、生体成分測定キットの製造方法。
【請求項2】
前記HPLC法が多孔質シリカベースの逆相カラムを用いたHPLC法であることを特徴とする請求項1に記載の生体成分測定キットの製造方法。
【請求項3】
前記生体成分がクレアチニン又は糖化ヘモグロビンであることを特徴とする請求項1又は2に記載の生体成分測定キットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、臨床診断において、生体成分を測定するための組成物および該組成物を用いて生体成分の分析を行う方法等に関する。さらに詳しくは、生体成分に酸化酵素を作用させ生成した過酸化水素がペルオキシダーゼの共存下4-アミノアンチピリンと水素供与体を酸化縮合することにより生じた反応液の呈色を比色定量して測定するための組成物および該組成物を用いて生体成分の分析を行う方法に利用される定量方法などに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、臨床診断においては、酵素法による生体成分の測定が行われており、特に酸化酵素-ペルオキシダーゼ-酸化還元発色試薬(以下、発色剤とも表記する。)系による方法、すなわち検体中の測定対象物質を酵素反応させて過酸化水素を発生させ、これをペルオキシダーゼの存在下、発色剤と反応させて比色定量する方法が広く行われている。(非特許文献1)
【0003】
該酸化還元発色試薬系としては、例えば水素供与体とカップラーを用いた方法があげられる。代表例としては、水素供与体とカップラーとをペルオキシダーゼの存在下に過酸化水素によって酸化縮合させて色素を形成させるトリンダー(Trinder)法があげられる。本方法で用いるカップラーとしては例えば4-アミノアンチピリン(以下、4AAとも表記する)が知られている。
【0004】
また、従来から薬物の生体内での代謝物として血液中や尿中の4-アミノアンチピリンや4-ヒドロキシアンチピリンなどを逆相カラムを用いたHPLC法で分析・定量する方法について報告されている。(非特許文献2及び3)
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】BUNSEKI KAGAKU Vol.45, No.2, pp.111-124 (1996)
【文献】JOURNAL OF CHROMATOGRAPHY Vol.375, pp.91-99 (1986)
【文献】ANALYST, JANUARY Vol.107, pp.61-70 (1982)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、生体成分測定に関して、事前に生体成分の測定感度を低下する夾雑物の存在や量を確認することにより、一つは生体成分測定キットを製造する際に測定感度が低下した生体成分測定キットの製造を防止し、二つは生体成分を測定する際に認識なく測定感度が低下することにより測定ミスや測定誤差を生じることを防止することにある。
【0007】
また、近年、一部の生体成分において高感度の測定が求められており、三つとして生体成分の含有量が極微量であっても安定した測定結果が得られる測定キットや測定方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、4-アミノアンチピリンおよび水素供与体を用いた酵素-ペルオキシダーゼ-発色剤系の生体成分測定試薬を調製し、それを生体成分測定に用いるにあたり、原因不明の測定感度の低下を経験した。
【0009】
測定感度の低下の程度は、測定のために調製した試薬のロットによりばらつきがあったため、本発明者は、測定キットの試薬組成について種々検討した。その結果、意外なことに、4-アミノアンチピリン中に極微量の4-ヒドロキシアンチピリン(以下、4HAとも表記する。)という物質が存在することを見出した。4-ヒドロキシアンチピリンが試薬中に存在した場合、構造上4-ヒドロキシアンチピリンは水素供与体とカップリング反応しないが、過酸化水素存在下、4-ヒドロキシアンチピリンとペルオキシダーゼが反応し、過酸化水素が消費されると考えられるため、その結果、検体中の測定対象物質に酵素を反応させて発生した過酸化水素が4-ヒドロキシアンチピリンに消費されることとなり、本来の4-アミノアンチピリン-水素供与体の反応で発色する発色量が減り、感度が低下すると考えられた。そして、試薬中の4-ヒドロキシアンチピリン濃度を一定以下にすることで、設計された測定感度レベルから低下すること無く良好な生体成分の測定結果が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下の構成からなる。
【0011】
(項1)
生体成分に酸化酵素を作用させ生成した過酸化水素が、ペルオキシダーゼの共存下、4-アミノアンチピリンと水素供与体を酸化縮合することにより生じた反応液の呈色を比色定量する生体成分測定キットに用いられる4-アミノアンチピリン原体乃至は4-アミノアンチピリンを含有する試薬中の4-ヒドロキシアンチピリンを定量する方法であって、4-ヒドロキシアンチピリンの定量をHPLC法により行い、その検出感度が0.1μg/ml以下であることを特徴とする4-ヒドロキシアンチピリンの定量方法。
【0012】
(項2)
前記HPLC法が多孔質シリカベースの逆相カラムを用いたHPLC法であることを特徴とする項1に記載の4-ヒドロキシアンチピリンの定量方法。
【0013】
(項3)
前記生体成分がクレアチニン又は糖化ヘモグロビンのいずれかであることを特徴とする項1又は2に記載の4-ヒドロキシアンチピリンの定量方法。
【0014】
(項4)
前記酸化還元発色試薬がトリンダー試薬であることを特徴とする項1乃至は3のいずれかに記載の4-ヒドロキシアンチピリンの定量方法。
【0015】
(項5)
生体成分に酸化酵素を作用させ生成した過酸化水素が、ペルオキシダーゼの共存下、4-アミノアンチピリンと水素供与体を酸化縮合することにより生じた反応液の呈色を比色定量する生体成分測定キットの製造方法であって、以下の工程:
(1)前記生体成分測定キットの製造に用いられる4-アミノアンチピリン原体乃至は4-アミノアンチピリンを含有する試薬中に含まれる4-ヒドロキシアンチピリンを定量する工程
(2)前記反応液中の4-ヒドロキシアンチピリンの濃度が1.5μg/ml以下となるように、前記生体成分測定キットに含まれる4-アミノアンチピリンを含有する試薬中の4ヒドロキシアンチピリンの濃度を調整する工程
を包含することを特徴とする、生体成分測定キットの製造方法。
【0016】
(項6)
前記4-ヒドロキシアンチピリンを定量する工程において、4-ヒドロキシアンチピリンの定量をHPLC法により行うことを特徴とする項5に記載の生体成分測定キットの製造方法。
【0017】
(項7)
前記HPLC法が多孔質シリカベースの逆相カラムを用いたHPLC法であることを特徴とする項6に記載の生体成分測定キットの製造方法。
【0018】
(項8)
前記生体成分がクレアチニン又は糖化ヘモグロビンのいずれかであることを特徴とする項5乃至は7のいずれかに記載の生体成分測定キットの製造方法。
【0019】
(項9)
前記酸化還元発色試薬がトリンダー試薬であることを特徴とする項5乃至8のいずれかに記載の生体成分測定キットの製造方法。
【0020】
(項10)
項5乃至9のいずれかに記載の生体成分測定キットの製造方法を用いて製造したことを特徴とする生体成分測定キット。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、酸化酵素-ペルオキシダーゼ-発色剤系による酵素法での生体成分測定において、試薬製造ロットごとに感度が設計されたレベルから低下せずに生体成分測定試薬を得ることが可能となり、該試薬を用いて良好な測定が可能となった。
また、生体成分の含有量が極微量であるなど高感度を要する生体成分の測定においても安定した測定が可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】4-アミノアンチピリンと4-ヒドロキシアンチピリンの化学構造式を示す図である。
【
図2】4-アミノアンチピリンを分析した場合のHPLCフラクションを示す図である。
【
図3】4-ヒドロキシアンチピリンのHPLC法による定量方法の検出感度を示す図である。
【
図4】4-ヒドロキシアンチピリンのHPLC法による定量方法の定量精度を示す図である。
【
図5】反応液中の4-ヒドロキシアンチピリン濃度と試料測定感度(mABS)との関係と試料測定感度(mABS))を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(生体成分)
本発明の生体成分測定に用いられる生体成分としては、例えば、AST(GOT)、ALT(GPT)、LDH(乳酸脱水素酵素)とアイソザイム、ALP(アルカリ性フォスファターゼ)とアイソザイム、CK(クレアチンキナーゼ)とアイソザイム、アミラーゼ(Amy)とアイソザイム、リパーゼ、γ-GTP(γ-グルタミルトランスペプチダーゼ)、コリンエステラーゼ(ChE)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、クロール(Cl)、カルシウム(Ca)、リン(P)〔無機リン(IP)〕、鉄(Fe)、マグネシウム(Mg)、総蛋白(TP)、血清蛋白分画(PF)、尿素窒素(BUN)、クレアチニン(CRE)、尿酸(UA)、ビリルビン(Bil)、アンモニア、コレステロール、HDLコレステロール(HDL-C、高密度リポタンパクコレステロールともいう)、LDLコレステロール(LDL-C、低密度リポタンパクコレステロールともいう)、中性脂肪(トリグリセリド)(TG)、コレステロール(CHO)、BTR(BTR、総分岐鎖アミノ酸/チロシン比)、チロシン測定試薬(TYR)、血糖(BS、GLU)、1,5-アンヒドロ-D-グルシトール(1,5-AG)、糖化アルブミン(GA)、糖化ヘモグロビン(HbA1c)などが挙げられる。
これらの生体成分の中でも、クレアチニン(CRE)、糖化ヘモグロビン(HbA1c)は、高感度な測定を必要とするために特に好適に用いられる。
【0024】
(検体)
本発明の生体成分測定に用いられる生体成分を含有する検体としては、例えば、血液(特に、血清や血漿など)、尿、腹水、髄液などの人の体液や、飲料、食品などの人が摂取するものなどが挙げられる。
【0025】
(生体成分測定方法)
本発明の生体成分測定方法は、以下の(1)~(3)の工程を含むものであれば特に限定されるものではない。
(1)生体成分に酸化酵素を作用させ、過酸化水素を発生させる工程、
(2)工程(1)で発生させた過酸化水素が、ペルオキシダーゼを共存させることによりペルオキシダーゼが作用することにより、4-アミノアンチピリンと水素供与体を酸化縮合することにより反応液を呈色させる工程、
(3)工程(2)で呈色した反応産物を比色定量する工程。
【0026】
本発明の生体成分測定方法は、酵素法による生体成分測定方法であって、特に酸化酵素-ペルオキシダーゼ-発色剤系による方法であり、すなわち検体中の生体成分を酵素反応させることにより生体成分の量に応じた過酸化水素を発生させ、これをペルオキシダーゼの存在下で発色剤と反応させて生じた発色を比色定量することを測定原理とするものである。
この原理を用いる生体成分測定方法は既に当該技術分野において確立されている。よって、その知見を本発明に適用して、各種試料中の生体成分の量または濃度を測定することができ、その態様は特に制限されるものではない。
【0027】
以下、本発明の生体成分測定方法について、尿酸(UA)、クレアチニン(CRE)、トリグリセライド(TG)、糖化ヘモグロビン(HbA1c)を例として、生体成分測定方法の具体的な態様を説明する。
【0028】
尿酸(UA)を測定する場合は、尿酸(UA)を基質とするウリカーゼ(酸化酵素)の反応により生成した過酸化水素をペルオキシダーゼ-発色剤系により定量することができる。
【0029】
クレアチニン(CRE)を測定する場合は、クレアチニン(CRE)を基質とするクレアチニンアミジノヒドロラーゼの反応においては過酸化水素を直接生じないので、クレアチニンアミジノヒドロラーゼの反応で生じたクレアチンを予め試薬に添加したクレアチンアミドヒドロラーゼと反応させてサルコシンを生じさせ、さらに、サルコシンを予め試薬に添加したサルコシンオキシダーゼ(酸化酵素)を用いて過酸化水素を生じさせる、いわゆる共役反応を設計することにより、ペルオキシダーゼ-発色剤系によるクレアチニン(CRE)濃度の定量が可能になる
【0030】
トリグリセライド(TG)を測定する場合は、トリグリセライド(TG)を基質とするリポプロテインリパーゼ、および、共役酵素としてグリセロールキナーゼ、グリセロール3リン酸オキシダーゼ(酸化酵素)を用いて過酸化水素を生じさせることにより、ペルオキシダーゼ-発色剤系によるトリグリセライド(TG)濃度の定量が可能になる。
【0031】
糖化ヘモグロビン(HbA1c)を測定する場合は、糖化ヘモグロビンを基質とする糖化ヘモグロビンオキシダーゼ(例えば、フルクトシルアミノ酸オキシダーゼ)の反応により生成した過酸化水素をペルオキシダーゼ-発色剤系において定量することができる。
【0032】
このように、測定対象を直接酸化して過酸化水素を発生させる反応を触媒する適当な酵素がなくても、過酸化水素を発生することができる酸化酵素の基質に測定対象を変化させうる反応を触媒する酵素(何段階かの酵素反応を繋げてもよい。)と、前記酸化酵素とを組み合わせた共役反応を適宜設計することにより、上記以外の生体成分の濃度又は量を測定することも可能である。
【0033】
(生体成分測定キット)
本発明の生体成分測定キットは、以下の(a)~(d)の要件を満たすものであれば特に限定されるものではない。
(a)生体成分に作用させることにより過酸化水素を発生させることができる酸化酵素を含有する。
(b)ペルオキシダーゼを含有する。
(c)ペルオキシダーゼの存在下で過酸化水素と反応して呈色する酸化還元発色試薬を含有する。
(d)酸化還元発色試薬のカップラーとして4-アミノアンチピリンを含有する。
【0034】
本発明の生体成分測定キットを用いて生体成分を測定する場合、汎用の自動分析機(例えば、日立7180形自動分析機)を用いることができる。本発明の生体成分測定キットは、このような自動分析機に適用できるよう構成されたものであってもよい。その態様は特に限定されず、例えば、液状試薬で構成されたキット、凍結乾燥などの手段により製造された乾燥試薬と溶解液の組み合わせで構成されたキット、適当な担体に酵素などを担持させた形態のいわゆるドライシステムなどと呼ばれるキットやセンサを用いる形態のキットなど種々の形態が例示できる。
【0035】
本発明の生体成分測定キットの構成としては、試薬が1つで構成されたキット、また試薬が分包されて2乃至3以上で構成されたキットなどが挙げられる。
【0036】
以下、試薬を2つに分包した液状試薬(以下、2試薬系の液状試薬とも記載する)で構成されたキットを例に説明する。
【0037】
この形態の試薬を用いて自動分析機で分析する方法では、試料にまず1種類目の試薬(以下、第一試薬またはR1とも記載する。)を添加して一定時間反応させ、次いで2種類目の試薬(以下、第二試薬またはR2とも記載する)をさらに添加して反応させ、この間の吸光度の変化を測定することにより目的成分を定量することができる。
【0038】
本発明の生体成分測定試薬には、緩衝液成分を含有させることが好ましい。また、本発明の生体成分測定試薬において、アスコルビン酸オキシダーゼ、防腐剤、塩類、酵素安定化剤、色原体安定化剤などを反応に影響を及ぼさない範囲で添加してもよい。
【0039】
本発明の生体成分測定試薬に含有させることができる緩衝液成分としては、トリス緩衝液、リン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、炭酸緩衝液、GOOD緩衝液などが挙げられる。その使用量や設定pH、添加の形態などについては特に限定されない。これらはいずれも、市販品などを入手することができる。
【0040】
GOOD緩衝液としては、N-(2-アセトアミド)-2-アミノエタンスルホン酸(ACES)、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-2-アミノエタンスルホン酸(BES)、N-シクロヘキシル-2-アミノエタンスルホン酸(CHES)、2-〔4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル〕エタンスルホン酸(HEPES)、2-モルホリノエタンスルホン酸(MES)、ピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)(PIPES)、N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-2-アミノメタンスルホン酸(TES)、N-シクロヘキシル-3-アミノプロパンスルホン酸(CAPS)、N-シクロヘキシル-2-ヒドロキシ-3-アミノプロパンスルホン酸(CAPSO)、3-〔N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノ〕-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸(DIPSO)、3-〔4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル〕プロパンスルホン酸(EPPS)、2-ヒドロキシ-3-〔4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル〕プロパンスルホン酸(HEPPSO)、3-モルホリノプロパンスルホン酸(MOPS)、2-ヒドロキシ-3-モルホリノプロパンスルホン酸(MOPSO)、ピペラジン-1,4-ビス(2-ヒドロキシ-3-プロパンスルホン酸)(POPSO)、N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-3-アミノプロパンスルホン酸(TAPSO)、N-(2-アセトアミド)イミノニ酢酸(ADA)、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)グリシン(Bicine)、N-〔トリス(ヒドロキシメチル)メチル〕グリシン(Tricine)、などが例示される。
【0041】
本発明の生体成分測定試薬において、アスコルビン酸オキシダーゼ、防腐剤、塩類、酵素安定化剤、色原体安定化剤などの使用量や添加の形態などについては特に限定されない。これらはいずれも、市販品などを入手することができる。
【0042】
防腐剤としては、プロクリン150、プロクリン200、プロクリン300、プロクリン950、アジ化物、キレート剤、抗生物質、抗菌剤などが挙げられる。
【0043】
キレート剤としては、エチレンジアミン四酢酸およびその塩等が挙げられる。
【0044】
抗生物質としては、ゲンタマイシン、カナマイシン、クロラムフェニコール等が挙げられる。
【0045】
抗菌剤としては、メチルイソチアゾリノン、イミダゾリジニルウレア等が挙げられる。
【0046】
塩類としては塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化アルミニウム等が挙げられる。
【0047】
酵素安定化剤としては、シュークロース、トレハロース、シクロデキストリン、グルコン酸塩、アミノ酸類等が挙げられる。
【0048】
色原体安定化剤としては、エチレンジアミン四酢酸およびその塩等のキレート剤、シクロデキストリン等が挙げられる。
【0049】
(酸化酵素)
本発明の生体成分測定方法に用いられる酸化酵素は、基質から過酸化水素を発生させることができるものであれば、目的となる測定対象に応じて制限なく用いることができる。具体例としては、上述のとおり、ウリカーゼ、サルコシンオキシダーゼ、グリセロール3リン酸オキシダーゼなどを用いることができる。市販品としては、UAO-211(東洋紡製)、SAO-351(東洋紡製)、G3O-311(東洋紡製)等が好適に用いられる。その使用量や添加の形態などについては特に限定されない。
【0050】
(ペルオキシダーゼ)
本発明の生体成分測定方法に用いられるペルオキシダーゼとしては、過酸化水素と酸化還元系発色試薬との反応を触媒する酵素であれば、いかなる種類の酵素を用いてもよく、例えば植物由来、細菌由来、担子菌由来のペルオキシダーゼが挙げられる。これらの中でも、純度、入手の容易性、価格等の理由から、西洋ワサビ、イネ、大豆由来のペルオキシダーゼが好ましく、西洋ワサビ由来のペルオキシダーゼがより好ましい。市販品としては、PEO-131(東洋紡製)、PEO-301(東洋紡製)、PEO-302(東洋紡製)等が好適に用いられる。その使用量や添加の形態などについては特に限定されない。
【0051】
ペルオキシダーゼ活性は、以下の方法で定義する。
蒸留水14mL、5%(W/V)ピロガロール水溶液2mL、0.147M 過酸化水素水1mL及び100mM リン酸緩衝液(pH6.0)2mLを順次混合した後、20℃にて5分間予備温調し、サンプル溶液1mLを加え、酵素反応を開始する。
20秒間反応を行った後、2N 硫酸水溶液1mLを加えることにより反応を停止し、生成したプルプロガリンをエーテル15mLにて5回抽出する。
抽出液を合わせた後、全量100mLとし、波長420nmにおける吸光度を測定する(ΔODtest)。
一方、盲検は蒸留水14mL、5% ピロガロール水溶液2mL、0.147M 過酸化水素水1mL及び100mM リン酸緩衝液(pH6.0)2mLを順次混合した後、2N 硫酸水溶液1mLを加えて混和し、次いでサンプル溶液1mLを加えて調製する。
この液につき、上記と同様にエーテル抽出を行って吸光度を測定する(ΔODblank)。
ΔODtest及びΔODblankの吸光度の差より生成するプルプロガリン量を算出し、ペルオキシダーゼ活性を算出する。
上記条件で20秒間に1.0mgのプルプロガリンを生成する酵素量を1プルプロガリン単位(U)とする。計算式は、以下に示す通りである。
ペルオキシダーゼ活性(U/mL)
={ΔOD(ODtest-ODblank)×希釈倍率}/{0.117×1(mL))
=ΔOD×8.547×希釈倍率
ペルオキシダーゼ活性(U/mg)=ペルオキシダーゼ活性(U/mL)×1/C
0.117 : 1mg% プルプロガリンエーテル溶液の420nmにおける吸光度
C : 溶解時の酵素濃度(c mg/mL)
(1プロプルガリン単位は13.5国際単位(o-dianisidineを基質とし、25℃の反応条件下)に相当する。)
【0052】
なお、上記測定において、サンプル溶液は、予め氷冷した0.1Mリン酸緩衝液pH6.0で溶解し、同緩衝液で3.0~6.0プルプロガリン単位(U)/mLになるよう希釈して測定に供することが好ましい。
【0053】
(酸化還元発色試薬)
本発明の生体成分測定方法に用いられる酸化還元発色試薬としては、過酸化水素と反応して呈色するものであれば、いかなる種類の色素を用いてもよく、例えば水素供与体とカップラーの組合せが挙げられる。その使用量や添加の形態などについては特に限定されない。これらはいずれも、市販品などを入手することができる。
【0054】
水素供与体とカップラーを用いた代表例は、水素供与体とカップラーとをペルオキシダーゼの存在下に過酸化水素によって酸化縮合させて色素を形成させるトリンダー(Trinder)法である。
【0055】
(水素供与体)
水素供与体は、水素を供与できる性質を有するものであれば、本発明の効果を奏する限り、特に限定されない。本発明の生体成分測定法においては、トリンダー法などに用いる水素供与体として、フェノール、フェノール誘導体、アニリン誘導体、ナフトール、ナフトール誘導体、ナフチルアミン、ナフチルアミン誘導体などが用いられる。このような水素供与体は、酸化発色試薬等とも呼ばれている。
【0056】
たとえば、N-エチル-N-スルホプロピル-3-メトキシアニリン、N-エチル-N-スルホプロピルアニリン、N-エチル-N-スルホプロピル-3,5-ジメトキシアニリン、N-スルホプロピル-3,5-ジメトキシアニリン、N-エチル-N-スルホプロピル-3,5-ジメチルアニリン、N-エチル-N-スルホプロピル-3-メチルアニリン、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3-メトキシアニリン、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)アニリン、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3,5-ジメトキシアニリン、N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3,5-ジメトキシアニリン、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3,5-ジメチルアニリン、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3-メトキシアニリン、N-スルホプロピルアニリン、N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-2,5-ジメチルアニリン、N-エチル-N-(3-メチルフェニル)-N’-サクシニルエチレンジアミン、N-エチル-N-(3-メチルフェニル)-N’-アセチルエチレンジアミン等が挙げられる。
【0057】
(カップラー)
これら水素供与体はカップラーと組合せて用いることができる。
【0058】
本発明の生体成分測定に用いられるカップラーとしては、4-アミノアンチピリン(4AA)、アミノアンチピリン誘導体等のアミノアンチピリン系化合物;バニリンジアミンスルホン酸等のバニリンジアミンスルホン酸系化合物;メチルベンズチアゾリノンヒドラゾン(MBTH)、スルホン化メチルベンズチアゾリノンヒドラゾン(SMBTH)等のメチルベンズチアゾリノンヒドラゾン系化合物などが用いられる。アミノアンチピリン系化合物は夾雑物として4-ヒドロキシアンチピリンを含み得ることが想定される。
【0059】
(4-ヒドロキシアンチピリン)
4-ヒドロキシアンチピリンは、4-アミノアンチピリンの4位のアミノ基が水酸基に変換された構造であり、4-アミノアンチピリンの製造工程で生成混入した副産物と考えられる。
【0060】
4-アミノアンチピリンと4-ヒドロキシアンチピリンの化学構造式を
図1に示す。
【0061】
しかし、混入量が極僅かであっても、本発明の生体成分測定法での発色反応において、4-ヒドロキシアンチピリンは過酸化水素を消費し、呈色反応に多大な影響を及ぼすことを本発明者は見出した。
【0062】
(4-ヒドロキシアンチピリンの定量に用いる試料調製)
本発明の4-ヒドロキシアンチピリンの定量に用いる試料としては、生体成分測定キットに用いられる4-アミノアンチピン原体乃至は4-アミノアンチピリンを含有する試薬が挙げられる。本明細書において試薬とは、二種以上の試薬を混ぜた試薬組成物の状態を含む。
本発明で用いられる4-アミノアンチピリン原体とは、本発明の生体成分測定キットを構成する試薬の中で4-アミノアンチピリンを含有する試薬を製造する際に用いる4-アミノアンチピリンの原液・原末をいう。
【0063】
本発明で用いられる生体成分測定キットとしては、前述した通り、液状試薬で構成されたキット、凍結乾燥などの手段により製造された乾燥試薬と溶解液の組み合わせで構成されたキット、適当な担体に酵素などを担持させた形態のいわゆるドライシステムなどと呼ばれるキットやセンサを用いる形態のキットなど種々の形態が例示されるが、本発明で用いられる4-アミノアンチピン原体乃至は4-アミノアンチピリンを含有する試薬は、キットの処方通りに生体成分測定を行う際に通常用いられる状態に処方した溶液状態とし、さらに水溶液との親和性がよく且つ4-ヒドロキシアンチピリンの溶解性に優れた溶媒により希釈して4-ヒドロキシアンチピリンの定量に供する。
希釈倍率は、調製した測定試料の安定性やHPLCの測定感度に影響を与えないよう4/3~5倍程度が好ましく、より好ましくは2倍程度とする。
【0064】
本発明で用いられる4-アミノアンチピリンの定量に用いる試料調製用の希釈溶媒としては特に限定はなく、低分子量のアルコールやHPLC法で用いられる移動相溶媒などが用いられるが、特にメタノールやエタノールは水溶液との親和性や4-ヒドロキシアンチピリンの溶解性がよく好適に用いられる。
【0065】
4-ヒドロキシアンチピリンを定量する際は、測定に先立ち適宜、除蛋白操作をしてもよい。除蛋白操作の方法は限定されないが、例えば限外ろ過にて除蛋白する方法が挙げられる。具体的には、Amicon Ultra 30Kフィルター(MILLIPORE社)を用いて、遠心加速度2900gで20分程度遠心し、限外ろ過することで除蛋白することが可能である。
【0066】
(4-ヒドロキシアンチピリン検出感度)
本発明の4-ヒドロキシアンチピリンの定量方法における4-ヒドロキシアンチピリンの検出感度は0.1μg/ml以下が好ましく、より好ましくは0.05μg/ml以下、さらに好ましくは0.03μg/ml以下である。
【0067】
後述する通り、本発明の生体成分測定における反応液中の4-ヒドロキシアンチピリンの許容濃度については、1.5μg/ml以下が好ましく、より好ましくは0.9μg/ml以下であり、さらに好ましくは0.6μg/ml以下、特に好ましくは0.3μg/ml以下であり、HPLC法による定量時に数倍程度に希釈することを勘案すれば、4-ヒドロキシアンチピリンの検出や定量を行うためには、4-ヒドロキシアンチピリンの検出感度は0.1μg/ml以下であることが好ましく、より高感度な生体成分測定が求められる場合には、0.05μg/ml以下であればより好ましく、0.03μg/ml以下であればさらに好ましい。
【0068】
(4-ヒドロキシアンチピリンの定量方法)
本発明の4-ヒドロキシアンチピリンの定量方法としては、高速液体クロマトグラフ法(以下、HPLC法ともいう)が好適に用いられる。
【0069】
高速液体クロマトグラフィーを用いる場合、その分離の物理化学的原理は特に限定されない。例えば、分配(順相・逆相)、吸着、分子排斥、イオン交換などの諸原理が挙げられる。
【0070】
高速液体クロマトグフィーを用いる場合、一般的な逆相カラムクロマトグラフィーが好適に用いられる。逆相カラムクロマトグラフィーの担体は特に限定されないが、例えばシリカゲルやポリマー系などの担体が好適に用いられ、中でも多孔質シリカゲルがより好適に用いられる。シリカゲルを担体として使用する場合はエンドキャップ処理の有無は特に制限はない。
【0071】
高速液体クロマトグラフィーの装置は、低圧、中圧、高圧のいずれのシステムであっても条件を目的に合わせて適正に調整することにより使用することができる。
【0072】
高速液体クロマトグラフィー担体に結合するリガンドの種類も特に限定されない。リガンドは汎用されているオクタデシル基(ODS)の他、フェニル基、オクチル基も条件を適正化することで選択することが出来る。リガンドの結合は、モノメリックでもポリメリックでも良い。いずれの充填剤であっても分離条件を適正化することで使用可能である。
【0073】
高速液体クロマトグラフィーの移動相は水と、メタノールまたはアセトニトリルのような水溶性の溶剤を使用すれば良く、シリカゲルのシラノール基とのイオン的相互作用を回避するため常法に従い移動相のpHを酸性側に調整してもよく、また、イオンペア試薬を微量添加してもよい。
【0074】
移動相の流速は、使用するシステムの能力によって最適化すればよい。また、リニアグラジエントではなく、ステップワイズで溶出させ分離しても良い。
【0075】
(4-ヒドロキシアンチピリンの反応液中の許容濃度)
本発明の生体成分測定における4-ヒドロキシアンチピリンの反応液中の許容濃度は、1.5μg/ml以下が好ましく、より好ましくは0.9μg/ml以下であり、さらに好ましくは0.6μg/ml以下、特に好ましくは0.3μg/ml以下である。
【0076】
以下、測定対象の生体成分の一例をクレアチニンとして、4-ヒドロキシアンチピリンの生体成分測定の感度低下に及ぼす影響と4-ヒドロキシアンチピリンの反応液中の許容濃度について説明する。
【0077】
近年、eGFRの算出には小数点下二桁までのクレアチニンの測定精度が求められており、最少検出感度としてはクレアチニン濃度で0.03mg/dL程度が要求されている。
【0078】
一方、実施例5などの事例で、クレアチニン試薬のブランクの変動はσ=0.045~0.114mABS程度であり、一般的に体外診断薬の最小検出感度とされる2.6σ(99.5%正規分布)は0.117~0.296mABS程度と算出される。
従って、2.6σの最大値の0.296mABS、つまり約0.3mABS以上の吸光度があればシグナルとして検出可能であり、クレアチニンの存否判断やクレアチニンの定量が可能になると考えられる。
【0079】
つまり、クレアチニン濃度が0.03mg/dLの時の最少検出感度として約0.3mABSが必要とされることになり、これはクレアチニン濃度が5mg/dLの時に置き換えると検出感度は約50mABSに相当する。
【0080】
実施例4では、5mg/dLのクレアチニン水溶液を用いて、各種濃度の4-ヒドロキシアンチピリンを添加した測定試薬を調整し、クレアチニンの測定感度を測定し、結果を
図5に示した。
【0081】
図5より、検出感度が50mABSの時の4-ヒドロキシアンチピリンの濃度は約1.5μg/mlと読み取れる。
【0082】
以上より、本発明の生体成分測定における4-ヒドロキシアンチピリンの反応液中の許容濃度は、1.5μg/ml以下が好ましいことが分かる。
なお、より高感度な測定を必要とする場合など、本発明の生体成分測定における4-ヒドロキシアンチピリンの反応液中の許容濃度は、より好ましくは0.9μg/ml以下であり、さらに好ましくは0.6μg/ml以下、特に好ましくは0.3μg/ml以下とした。
【0083】
本発明の生体成分測定キットの製造方法において、4-アミノアンチピリン原体乃至は試薬中に含まれる4-ヒドロキシアンチピリンを定量する工程で用いられる4-ヒドロキシアンチピリンの定量方法は前述した通りである。
【0084】
本発明の生体成分測定キットの製造方法において、反応液中の4-ヒドロキシアンチピリンの濃度が1.5μg/ml以下となるように、前記生体成分測定キットに含まれる4-アミノアンチピリンを含有する試薬中の4-ヒドロキシアンチピリンの濃度を調整するのが好ましい。
【0085】
本発明の生体成分測定キットの製造方法において、4-アミノアンチピリンを含有する試薬中の4-ヒドロキシアンチピリンの濃度を調整する方法としては、高い濃度の4-ヒドロキシアンチピリンを含有する4-アミノアンチピリン原体の使用を回避することや、低い濃度の4-ヒドロキシアンチピリンを含有する4-アミノアンチピリン原体と混合することにより反応液中の4-ヒドロキシアンチピリンの濃度を許容濃度以下となるように調整する方法などが挙げられる。
【0086】
また、4-ヒドロキシアンチピリンが微温下(30~40℃)にある水溶液中で分解されやすい性質をもっていることを勘案し測定キットを製造する際に4-アミノアンチピリンを含有する試薬やそれらの中間体を水溶液の状態で微温下に置き一定期間経過させ経時的に4-ヒドロキシアンチピリンの濃度を減少させる方法や、4-ヒドロキシアンチピリンを酸化処理することや、4-ヒドロキシアンチピリンを分解可能な組成物を添加することにより、4-ヒドロキシアンチピリンの濃度を調整する方法などが挙げられる。
【実施例】
【0087】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0088】
(実施例1)4-アミノアンチピリン原体の不純物の確認
生体成分測定時の試薬感度(反応液の発色強度:mABS)の低下の度合いは4-アミノアンチピリン原体のロット差に起因することを見出したため、4-アミノアンチピリン原体中に極微量に含まれる不純物の含有量がロットごとに異なると推測し、HPLC法により4-アミノアンチピリン原体中の不純物の検出を行った。
【0089】
各ロットの4-アミノアンチピリン原体をメタノールで希釈し、4-アミノアンチピリン濃度が0.6g/Lとなるように調整した。
これらを被検液として、下記HPLC条件で前記4-ヒドロキシアンチピリンの不純物の検出を行った。
【0090】
(HPLC分析条件)
(1)カラム Imtakt Cadenza CD-C18 2.0×150mm
(2)移動相 A:0.1%ギ酸、B:メタノール
(3)グラジエント条件
0min(A95%、B5%)-(この間リニアグラジエント)-15min(A2%、B98%)-25min(A2%、B98%)
(4)流速 0.2mL/min
(5)カラム温度 40℃
(6)試料注入量 5μL
(7)検出波長 UV250nm
【0091】
ロット差の検討に使用した4-アミノアンチピリン原体中の4-アミノアンチピリンの純度はJIS-K8048にて98.0%以上のものを使用した。
【0092】
4-アミノアンチピリン原体の一つのロットを分析した場合のHPLCフラクションを
図2に示す。グラフの横軸の溶出時間7~8分のピークが4-アミノアンチピリンのピークである。4-アミノアンチピリンのピーク以外に3種類の不純物を確認した。
【0093】
(実施例2)4-アミノアンチピリン原体中の4-ヒドロキシアンチピリンの同定
実施例1の
図2で見られた3種類の不純物(a、b、c)について各ロットの含有量を検討したところ、不純物bのみがロットごとに含有量が大きく異なることが分かった。
そこで、これら3種類の不純物について質量分析法(MSスペクトル法)にて分子量および構造を解析した。
【0094】
その結果、不純物bは4-ヒドロキシアンチピリンと同定された。
【0095】
4-ヒドロキシアンチピリンの標準品として4-ヒドロキシアンチピリン(シグマ社)を用いた。実施例1と同条件でHPLCを実施したところ、4-ヒドロキシアンチピリン(シグマ社)と不純物bのフラクションピークの溶出時間の値は一致した。
【0096】
(4-ヒドロキシアンチピリン標準品)
4-ヒドロキシアンチピリン(4-Hydroxyantipyrine)シグマ社
Cas.NO.1672-63-5、
製品番号109428-5G、純度99%
【0097】
(実施例3)4-ヒドロキシアンチピリンの定量方法の検出感度と定量精度
4-ヒドロキシアンチピリンの定量方法の検出感度を測定した。
【0098】
4-ヒドロキシアンチピリン(シグマ社)をメタノールで希釈し、4-ヒドロキシアンチピリン濃度が0.1μg/ml、0.05μg/ml、0.02μg/mlとなるように調整した。
これらを被検液として、下記HPLC分析条件で分析した。
【0099】
(HPLC分析条件)
(1)カラム Waters BEH-C18 2.1×150mm
(2)移動相 A:0.1%ギ酸、B:アセトニトリル
(3)グラジエント条件
0min(A98%、B2%)-(この間リニアグラジエント)-25min(A82%、B18%)-26min(A2%、B98%)-30min(A2%、B98%)
(4)流速 0.2mL/min
(5)カラム温度 40℃
(6)試料注入量 5μL
(7)検出波長 UV250nm
【0100】
4-ヒドロキシアンチピリンの濃度が0.02μg/mlのチャートを
図3に示す。
【0101】
4-ヒドロキシアンチピリンの濃度が0.02μg/mlのピーク高さは18mm、ピーク以外の信号の最大値と最小値の振れ幅は12mmと測定され、ピーク半値幅法(ピーク前後のベースラインのうち、ピーク半値幅の10倍~20倍の時間幅においてピーク以外の信号の最大値と最小値の振れ幅を求め、その1/2をノイズとする、ダイオネクス テクニカル リビュー TR015YS-0083 日本ダイオネクス株式会社)により、ノイズ高さは6mmと測定された。
以上の結果より、S/Nを3とした場合、6mm×3=18mm、つまり4-ヒドロキシアンチピリン濃度として0.02μg/mlが検出感度と求められた。
また、4-ヒドロキシアンチピリン濃度が0.1μg/ml、0.05μg/mlのチャートでも同様の傾向を確認することができた。
【0102】
各濃度の4-ヒドロキシアンチピリンの希釈液を測定試料として、フラクションピークの面積を測定し、4-ヒドロキシアンチピリンの濃度とフラクションピークの面積との相関関係を評価した。
【0103】
結果を
図4に示す。
図4に示されるように高い相関性の傾向が確認された。
【0104】
(実施例4)4-ヒドロキシアンチピリン濃度(反応液中濃度)とクレアチニン測定感度の関係
下記のクレアチニン測定試薬の第2試薬に、4HAを試薬中終濃度で0.13~8.75μg/mlとなるように添加し各々の測定試薬を調製した。
【0105】
比較対照として、市販の4-アミノアンチピリン原体を精製し、4-ヒドロキシアンチピリンを含まない4-アミノアンチピリンを製造し、用いた。
【0106】
試料として、5mg/dLクレアチニン水溶液を用いた。
【0107】
[試薬の調製]
下記組成からなるクレアチニン測定試薬をそれぞれ調製した。
第一試薬
PIPES-NaOH 50mM pH7.4
アスコルビン酸オキシダーゼ(東洋紡製ASO-311) 3U/mL
ザルコシンオキシダーゼ(東洋紡製SAO-351) 10U/mL
クレアチンアミジノヒドロラーゼ(東洋紡製CRH-229) 40U/mL
カタラーゼ(東洋紡製CAO-509) 130U/mL
N-エチル-N-(3-スルホプロピル)-3-メトキシアニリン 0.14g/L
第二試薬
PIPES-NaOH 50mM pH7.4
クレアチニンアミドヒドロラーゼ(東洋紡製CNH-311) 400U/mL
ペルオキシダーゼ(東洋紡製PEO-302) 10U/mL
4-アミノアンチピリン 0.6g/L
【0108】
[測定法]
日立7180形自動分析機を用いた。試料2.7μLに第一試薬 120μL添加し37℃にて5分間インキュベーションし第一反応とした。その後第二試薬を40μL添加し5分間インキュベーションし第二反応とした。第一反応および第二反応の吸光度を液量補正した各吸光度の差をとる2ポイントエンド法で546nmにおける吸光度(主波長)および800nmにおける吸光度(副波長)を測定した。主波長から副波長を引いた吸光度を算出して求めた。
【0109】
なお、本測定条件での反応液中の4-ヒドロキシアンチピリンの濃度は、0.03~2.14μg/mlとなる。
【0110】
結果を表1および
図5に示す。
4-ヒドロキシアンチピリンの反応液中濃度が高くなるにしたがって、試料測定感度が低下することを確認した。
反応液中の4-ヒドロキシアンチピリン濃度としては、1.5μg/ml以下であることが好ましく、0.9μg/ml以下であればより好ましく、0.6μg/ml以下であればさらに好ましく、0.3μg/ml以下であれば特に好ましい結果であった。
【0111】
【0112】
(実施例5)ロット間差
異なるロットの4-アミノアンチピリン原体を用いて、10種類のロット(S1~S10)のクレアチニン測定試薬キットを製造し、各ロット毎に、反応液中の4-ヒドロキシアンチピリン濃度(μg/ml)と試薬測定感度(mABS)を測定した。
反応液中の4-ヒドロキシアンチピリン濃度(μg/ml)の測定は実施例3と実質的に同じ条件で行い、4-ヒドロキシアンチピリンの定量前にAmicon Ultra 30Kフィルター(MILLIPORE社)を用いて除蛋白処理を行った。試薬測定感度(mABS)の測定は実施例4と同じ条件で行った。
【0113】
対照品として、市販の4-アミノアンチピリンを精製した4-ヒドロキシアンチピリンを含有しない4-アミノアンチピリンを用いてクレアチニン測定試薬キットを製造し、上記と同様に測定した。
【0114】
結果を表2に示す。
【0115】
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明は、臨床診断における生体成分の測定方法、並びに、該測定方法に用いる測定キットやキットを構成する試薬や組成物に適用できる。